(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053896
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】円形鋼管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/32 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
E04C3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160388
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 規矩夫
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FB09
(57)【要約】
【課題】座屈現象を防止した円形鋼管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】円形鋼管10は、固定端としての基礎101上に柱エンドプレート102を介して設けられ、柱エンドプレート102はアンカボルト103によって基礎101に固定される。固定端に接続されるべき円形鋼管10の下部端部は山折り部11a、谷折り部11bの繰返構造つまり蛇腹構造11をなしている。蛇腹構造11は円形鋼管10の他の部分に比較して相対的に剛性が小さくなるので、変形が蛇腹構造11のみに集約する。この結果、疑似的なピン柱脚となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定端に固定されるべき端部に蛇腹構造を具備する円形鋼管。
【請求項2】
前記蛇腹構造は少なくとも2つの山折り部を有する請求項1に記載の円形鋼管。
【請求項3】
前記円形鋼管の管径/周方向板厚比は60以下とする請求項1に記載の円形鋼管。
【請求項4】
前記蛇腹構造の長さは前記円形鋼管の管径より小さい請求項1に記載の円形鋼管。
【請求項5】
請求項1に記載の円形鋼管の製造方法であって、
前記円形鋼管を準備するための工程と、
前記円形鋼管を鉛直方向に立設し、前記円形鋼管に上下方向から圧縮力を水平方向に均等に印加するための工程と、
前記円形鋼管の前記端部に前記蛇腹構造が形成された後に前記圧縮力の均等印加を停止するための工程と
を具備する円形鋼管の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の円形鋼管の製造方法であって、
前記円形鋼管を準備するための工程と、
前記蛇腹構造を準備するための工程と、
前記蛇腹構造を前記円形鋼管の前記端部に溶接接合するための工程と
を具備する円形鋼管の製造方法。
【請求項7】
第1、第2の固定端に固定されるべき第1、第2の端部に蛇腹構造を具備する円形鋼管。
【請求項8】
前記各第1、第2の蛇腹構造は少なくとも2つの山折り部を有する請求項1に記載の円形鋼管。
【請求項9】
前記円形鋼管の管径/周方向板厚比は60以下とする請求項1に記載の円形鋼管。
【請求項10】
前記各第1、第2の蛇腹構造の長さは前記円形鋼管の管径より小さい請求項1に記載の円形鋼管。
【請求項11】
請求項7に記載の円形鋼管の製造方法であって、
前記円形鋼管を準備するための工程と、
前記円形鋼管の外壁に前記第1、第2の蛇腹構造を構成しない部分に拘束部材を設けるための工程と、
前記拘束部材を設けた前記円形鋼管を鉛直方向に立設し、前記円形鋼管に圧縮力を上下方向から水平方向に均等に印加するための工程と、
前記円形鋼管の前記第1、第2の端部に前記第1、第2の蛇腹構造が形成された後に前記圧縮力の均等印加を停止するための工程と、
前記圧縮力の均等印加停止後に前記拘束部材を除去するための工程と
を具備する円形鋼管の製造方法。
【請求項12】
請求項7に記載の円形鋼管の製造方法であって、
前記円形鋼管を準備するための工程と、
前記第1、第2の蛇腹構造を準備するための工程と、
前記第1、第2の蛇腹構造を前記円形鋼管の前記各第1、第2の端部に溶接接合するための工程と
を具備する円形鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は座屈現象を防止した円形鋼管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円形鋼管は鋼製煙突、橋梁主塔、風力発電タワー、海洋構造物、建築構造物、片端ピン柱、両端ピン柱等に用いられる。
【0003】
図6は従来の円形鋼管を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【0004】
図6に示すように、従来の円形鋼管100は長さLを有し、固定端としての基礎101上に柱エンドプレート102を介して設けられ、この場合、柱エンドプレート102はアンカボルト103によって基礎101に固定される。また、周方向板厚tは高さ方向で一定であり、管径Dは一様である。尚、周方向板厚tは高さ方向にテーパを付けて徐々に小さくするものもあり、また、管径Dも高さ方向にテーパを付けて徐々に小さくするものもある。
【0005】
図7は全体が大きい剛性を有する
図6の円形鋼管100の部材角θ(=δ/L、但しδ:変位)-曲げモーメントM(=QL、但しQ:せん断力)特性を示す。
図6に示すごとく、傾きK
0は大きく、小さい部材角θに対して大きな曲げモーメントMが発生することが分る。尚、Xは座屈現象を示す。
【0006】
図8は
図6の円形鋼管100の動作を説明するための図であって、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【0007】
図8に示すごとく、地震時に水平方向荷重を受けると、外力としての大きな曲げモーメントMによって下部端部に大きな圧縮力C及び大きな引張力Tが発生し、大きな反力モーメントが発生する。この場合、円形鋼管100の下部端部の一方側が大きな圧縮力Cにより面外方向にはらみ出すような局部的変形つまり局部座屈Xが発生し、早期に耐力が著しく低下して最悪は倒壊する。他方、円形鋼管100の下部端部の他方側に大きな引張力Tが作用し、引張力Tによる引抜力によって柱エンドプレート102及びアンカボルト103が引抜かれることがある。
【0008】
円形鋼管100の局部座屈及び早期の耐力低下を防止するために、従来、円形鋼管100の下部端部の周囲を三角形状の背面支持部材で固定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のごとく、円形鋼管100の下部端部の周囲に三角形状の背面支持部材を溶接接合又はボルト接合で固定すると、円形鋼管100の製造コストが上昇するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明に係る円形鋼管は、固定端に固定されるべき端部に蛇腹構造を具備するものである。
【0011】
また、本発明に係る円形鋼管の製造方法は、円形鋼管を準備するための工程と、円形鋼管を鉛直方向に立設し、円形鋼管に上下方向から圧縮力を水平方向に均等に印加するための工程と、円形鋼管の端部に蛇腹構造が形成された後に圧縮力の均等印加を停止するための工程とを具備するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蛇腹構造を設けることによって固定端としての端部に三角形状の背面支持部材を設ける必要がなくなるので、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る円形鋼管の第1の実施の形態を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【
図2】
図1の円形鋼管の部材角-曲げモーメント特性を示すグラフである。
【
図3】
図1の円形鋼管の動作を説明するための図であって、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【
図5】本発明に係る円形鋼管の第2の実施の形態を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【
図6】従来の円形鋼管を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【
図7】
図6の円形鋼管の部材角-曲げモーメント特性を示すグラフである。
【
図8】
図6の円形鋼管の動作を説明するための図であって、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明に係る円形鋼管の第1の実施の形態を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
【0015】
図1に示すように、円形鋼管10も長さLを有し、固定端としての基礎101上に柱エンドプレート102を介して設けられ、この場合、柱エンドプレート102はアンカボルト103によって基礎101に固定される。また、周方向板厚tは高さ方向で一定であり、管径Dは一様である。尚、周方向板厚tは高さ方向にテーパを付けて徐々に小さくしてもよく、また、管径Dも高さ方向にテーパを付けて徐々に小さくしてもよい。
【0016】
さらに、固定端に接続されるべき円形鋼管10の下部端部は山折り部11a、谷折り部11bの繰返構造つまり蛇腹構造11をなしている。蛇腹構造11は円形鋼管10の他の部分に比較して相対的に剛性が小さくなるので、変形が蛇腹構造11のみに集約する。この結果、疑似的なピン柱脚となる。これにより、局部座屈を発生することなく、耐力低下の少ない安定的な変形が可能となる。また、下部端部の反力モーメントが小さくなると共に、円形鋼管10の全体の剛性も低下するので、円形鋼管10が設けられた建物自体の固有周期を大きくでき、これにより、建物の耐震性が向上する。ここで、剛性が小さい蛇腹構造11はベローズ又は伸縮環とも呼ばれ、剛性が小さい弾性部材、スプリングと異なり、伸縮による断面積がほとんど変化しないことに特徴がある。
【0017】
尚、疑似的なピン柱脚を実現する方法として、機械的なピン機構を設けたり、断面の小さい部材を意図的に配置することも考えられる。しかし、この場合には、その部分において断面欠損となり、軸力に対する抵抗能力及びせん断力に対する抵抗能力が低下するので、好ましくない。
【0018】
図2は全体が小さい剛性を有する
図1の円形鋼管10の部材角θ(=δ/L、但しδ:変位)-曲げモーメントM(=QL、但しQ:せん断力)特性を示す。
図2に示すごとく、傾きK(<K
0)は小さく、小さい部材角θに対して小さい曲げモーメントMが発生することが分る。この場合、座屈現象Xはない。
【0019】
図3は
図1の円形鋼管10の動作を説明するための図であって、(A)は上面図、(B)は断面図である。
【0020】
図3に示すごとく、地震時に水平方向荷重を受けると、小さな曲げモーメントMによって固定端としての下部端部に小さい圧縮力C及び小さい引張力Tが発生し、従って、小さな反力モーメントが発生する。この場合、円形鋼管10の下部端部の一方側の蛇腹構造11が小さな圧縮力Cにより面外方向にはらみ出すような変形をするが、局部座屈Xが発生せず、耐力の低下もほとんどない。他方、円形鋼管100の下部端部の他方側の蛇腹構造11に小さな引張力Tが作用するが、引張力Tによる引抜力は小さく柱エンドプレート102及びアンカボルト103が引抜かれることはほとんどない。
【0021】
尚、地震時の鉛直方向荷重を受けた場合には、円形鋼管10全体に引張力が発生するが、この引張力は蛇腹構造11によって軽減し、やはり引抜力も軽減するので、柱エンドプレート102及びアンカボルト103の引抜きを防止できる。また、円形鋼管10全体に圧縮力も発生するが、この場合には、蛇腹構造11が存在しない従来の円形鋼管100と同等の圧縮力を負担する。
【0022】
図1の円形鋼管10の製造方法は次のごとく行われる。すなわち、蛇腹構造11がない円形鋼管10を鉛直方向に立設し、上下方向より圧縮力を水平方向に均等に印加する。このとき、円形鋼管10の下部端部の最下端から蛇腹構造11の山折り部11aが順番に形成される。たとえば山折り部11aの数が2になったときに上述の圧縮力の均等印加を停止する。この場合、山折り部11aが形成され易いように、円形鋼管10の管径D/周方向板厚t比(D/t)は好ましくは60以下とする。また、蛇腹構造11の安定な形状を確保するために、蛇腹構造11の長さは円形鋼管10の管径Dより小さい値とする。このように、円形鋼管10の蛇腹構造11の形成は容易であることを本願発明者は見出した。
【0023】
図4は上述の製造方法によって得られた
図1の円形鋼管10を示す写真である。
【0024】
図4に示すように、蛇腹構造11は山折り部11a、谷折り部11b、山折り部11aによって構成されているが、他の数の山折り部11a、谷折り部11bとすることもできる。但し、山折り部11aの数は2以上であり、谷折り部11bの数は山折り部11aの数より-1である。
【0025】
図1の円形鋼管10のさらに他の製造方法は、蛇腹構造11を予め製造しておき、円形鋼管10の端部に溶接接合によって蛇腹構造11を接続することである。但し、上述の製造方法に比較して製造コストは高くなる。
【0026】
図5は本発明に係る円形鋼管の第2の実施の形態を示す正面図である。たとえば、
図5の円形鋼管20は両端ピン柱として作用する。
【0027】
図5においては、円形鋼管20の上部端部も固定端とし、基礎111、柱エンドプレート112及びアンカボルト113に固定されている。この場合、上部端部にも大きな曲げモーメントが発生する。このため、上部端部にも蛇腹構造11と同一の蛇腹構造12を設ける。
【0028】
図5の円形鋼管20の製造方法は次のごとく行われる。すなわち、予め蛇腹構造がない円形鋼管20の蛇腹構造11、12を構成する部分を除いた中央部分の外壁に2つ割にした状態の拘束部材(図示せず)を巻いておく。次いで、円形鋼管20を鉛直方向に立設し、上下方向より圧縮力を水平方向に均等に印加する。上部端部、下部端部に谷折り部11b、12bが形成されたときに上述の圧縮力の均等印加を停止する。この場合も、谷折り部11b、12bが形成し易いように、円形鋼管20の管径D/周方向板厚t比(D/t)は好ましくは60以下とする。また、蛇腹構造11、12の安定な形状を確保するために、蛇腹構造11、12の長さは円形鋼管20の管径Dより小さい値とする。
【0029】
図5の円形鋼管20のさらに他の製造方法は、蛇腹構造11、12を予め製造しておき、円形鋼管20の上部端部、下部端部に溶接接合によって蛇腹構造11、12を接続することである。
【0030】
尚、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲内のいかなる変更にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る円形鋼管は建築土木用の外、産業機械、家具等にも利用できる。
【符号の説明】
【0032】
10、20、100:円形鋼管
11、12:蛇腹構造
11a、12a:山折り部
11b、12b:谷折り部
101、111:基礎
102、112:柱エンドプレート
103、113:アンカボルト