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  • 特開-複合材、複合材の製造方法および端子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053901
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】複合材、複合材の製造方法および端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20240409BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20240409BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240409BHJP
   C25D 5/18 20060101ALI20240409BHJP
   C25D 3/46 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C25D15/02 J
C25D21/12 K
C25D7/00 H
C25D5/18
C25D3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160401
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】平山 愛梨
(72)【発明者】
【氏名】土井 龍大
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】小谷 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕貴
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA24
4K023BA06
4K023BA22
4K023CB04
4K023CB05
4K023CB07
4K023CB11
4K023CB21
4K024AA10
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA02
(57)【要約】
【課題】銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜(AgC層)からの銀の脱落が抑制された複合材を提供すること。
【解決手段】炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nmを超えて70nm以下であり、前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)が2.0μm以下である、複合材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nmを超えて70nm以下であり、
前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)が2.0μm以下である、複合材。
【請求項2】
前記素材がCu又はCu合金で構成されている、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記複合皮膜の表面のビッカース硬度が90以上である、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項4】
前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが50~66nmである、請求項1または2に記載の複合材。
【請求項5】
前記素材と前記複合皮膜との間にCu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層が形成されている、請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項6】
炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、
前記銀めっき液が下記一般式(I)で表される化合物Aを含有し、
前記電気めっきとしてパルスめっきを実施する、複合材の製造方法:
【化1】
(一般式(I)において、mは1~5の整数であり、
Raは、カルボキシル基であり、
Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rcは、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【請求項7】
前記パルスめっきにおいて、前記素材上に銀を析出させて炭素粒子を含む銀マトリクスを形成させる複合皮膜析出工程と、当該複合皮膜の銀マトリクスの一部を溶解させる複合皮膜溶解工程とを交互に繰り返し、当該パルスめっきにおいて下記条件を採用する、請求項6に記載の複合材の製造方法:
前記複合皮膜析出工程;電流密度1.5~5.0A/dmで電流を印加する。
前記複合皮膜溶解工程;電流密度-12~-2.5A/dmで電流を印加する。
前記複合皮膜析出工程及び複合皮膜溶解工程の交互の繰り返しを300~10000回行う。
前記複合皮膜析出工程で電流を印加する時間Tpと前記複合皮膜溶解工程で電流を印加する時間Tdとの比(Tp/Td)を2~8とする。
【請求項8】
前記銀めっき液中の炭素粒子の濃度が10g/L以上150g/L以下である、請求項6又は7に記載の複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の複合材がその構成材料として用いられた、電気接点用の端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材上に所定の複合皮膜が形成されてなる複合材およびその製造方法等に関し、特に、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として使用される複合材およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料として、摺動過程における加熱による銅(Cu)や銅合金などの導体素材の酸化を防止するために、導体素材に銀めっきを施した銀(Ag)めっき材が使用されている。
【0003】
しかし、銀めっきは、軟質で摩耗し易く、一般に摩擦係数が高いため、摺動により剥離し易いという問題がある。この問題を解消するため、耐磨耗性、潤滑性などに優れた黒鉛やカーボンブラックなどの炭素粒子のうち、黒鉛粒子を銀マトリクス中に分散させた複合材の皮膜を電気めっきにより導体素材上に形成して耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
また出願人は、耐摩耗性に優れた複合材を提供することを目的とする研究を行って、特定の成分を含有する銀めっき液を使用して電気めっきを実施することにより、銀の結晶子サイズが小さく、それゆえ硬度が高くて、耐摩耗性に優れた複合皮膜(AgC層)を有する複合材に想到し、特許文献3として開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-7445号公報
【特許文献2】特開2007-16250号公報
【特許文献3】WO2021/261066号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、特許文献3に開示された複合材(の複合皮膜)は、耐摩耗性に優れている。
しかしながら、本発明者らのさらなる検討によると、特許文献3に開示された技術では、前記複合皮膜の表面の平滑性が十分ではなく、例えば当該複合材を鋳型を用いて端子の形状に曲げ加工した場合、複合皮膜の表面のうち凸形状部分が鋳型と強く接触し、この部分に応力が集中して、この部分が脱落し得ることがわかってきた。このようなことが起こると、複合材のユーザーの使用時(曲げ加工時など)に、脱落した銀がコンタミ(汚染源)として設備を汚染する可能性もある。
【0007】
本発明は上述の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜(AgC層)からの銀の脱落が抑制された複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した。その結果、特許文献3と同様の特定のめっき液を用いて、パルスめっきにより複合皮膜を形成することによって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制された複合材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nmを超えて70nm以下であり、前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)が2.0μm以下である、複合材。
【0010】
[2]前記素材がCu又はCu合金で構成されている、[1]に記載の複合材。
【0011】
[3]前記複合皮膜の表面のビッカース硬度が90以上である、[1]または[2]に記載の複合材。
【0012】
[4]前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが50~66nmである、[1]~[3]のいずれかに記載の複合材。
【0013】
[5]前記素材と前記複合皮膜との間にCu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層が形成されている、[1]~[4]のいずれかに記載の複合材。
【0014】
[6]炭素粒子を含む銀めっき液中で電気めっきを行うことにより、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜を素材上に形成する、複合材の製造方法であって、前記銀めっき液が下記一般式(I)で表される化合物Aを含有し、前記電気めっきとしてパルスめっきを実施する、複合材の製造方法:
【化1】
(一般式(I)において、mは1~5の整数であり、
Raは、カルボキシル基であり、
Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、
Rcは、水素又は任意の置換基であり、
mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、
mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよく、
Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。)。
【0015】
[7]前記パルスめっきにおいて、前記素材上に銀を析出させて炭素粒子を含む銀マトリクスを形成させる複合皮膜析出工程と、当該複合皮膜の銀マトリクスの一部を溶解させる複合皮膜溶解工程とを交互に繰り返し、当該パルスめっきにおいて下記条件を採用する、[6]に記載の複合材の製造方法:
前記複合皮膜析出工程;電流密度1.5~5.0A/dmで電流を印加する。
前記複合皮膜溶解工程;電流密度-12~-2.5A/dmで電流を印加する。
前記複合皮膜析出工程及び複合皮膜溶解工程の交互の繰り返しを300~10000回行う。
前記複合皮膜析出工程で電流を印加する時間Tpと前記複合皮膜溶解工程で電流を印加する時間Tdとの比(Tp/Td)を2~8とする。
【0016】
[8]前記銀めっき液中の炭素粒子の濃度が10g/L以上150g/L以下である、[6]又は[7]に記載の複合材の製造方法。
【0017】
[9][1]~[5]のいずれかに記載の複合材がその構成材料として用いられた、電気接点用の端子。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜が素材上に形成された複合材であって、耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制された複合材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例における、曲げ加工時の銀の脱落評価試験を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[1.複合材の製造方法]
本発明の複合材の製造方法では、炭素粒子及び特定の化合物を含む銀めっき液中で、電気めっきとしてパルスめっきを行うことにより、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜を素材上に形成する。以下、この複合材の製造方法の各構成について説明する。
【0021】
<<1-1.素材>>
その上に複合皮膜を形成する素材の構成材料としては、銀めっき可能であり、スイッチやコネクタなどの摺動接点部品などの材料に求められる導電性を有するものが好適であり、更にコストの観点から、構成材料としてCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性や強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、P(リン)、Ni(ニッケル)、Sn(スズ)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Be(ベリリウム)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Ag(銀)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は、好ましくは99.95質量%以下である)。
【0022】
素材は後述する通り、好ましくは(複合皮膜が形成された複合材として)端子の用途に用いられるが、素材自体がそういった用途の形状をしている場合もあるし、素材は平らな形状(平板形状など)で、複合材となった後に用途の形状に成形される場合もある。本発明の効果が奏される観点から、素材は平らな形状であることが好ましい。この場合、長い平板形状の素材をまとめて(連続的に)電気めっきを行うことができるので複合材の生産性に優れる。また、素材の算術平均粗さRa(μm)が大きいと、その上に形成される複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)も大きくなり得るので、素材のRaが小さいこと、具体的には0.5μm以下であることが好ましい。素材のRaは好ましくは0.05~0.2μmである。
【0023】
<<1-2.下地層の形成>>
本発明の複合材の製造方法では、素材に対して下地層を形成して、その下地層に対して後述する電気めっきを施してもよい。下地層は、素材の銅がめっき表面に拡散して酸化し、複合材の導電性が劣化することを防止する目的や、複合皮膜の密着性改善の目的で形成される。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。なお下地層は、Cu、Ni、Sn、Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層であってもよく、下地層の形成は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、その一部でもよい。
【0024】
下地層の形成方法は特に限定されず、前記の構成金属のイオンを含むめっき液を用いて、公知の方法により、電気めっきしたり、目的とする合金層を構成する各金属からなる層を順に積層形成した後リフロー(熱処理)することで、形成することができる。なお前記めっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0025】
<<1-3.Agストライクめっき>>
素材上に複合皮膜を形成する前に、Agストライクめっきにより非常に薄い中間層を形成して、素材と複合皮膜との密着性を高めることが好ましい。なお、下地層を素材上に形成する場合は、下地層上にAgストライクめっきを行って下地層と複合皮膜との密着性を高めることが好ましい。Agストライクめっきの実施方法としては、本発明の効果を損なわない限り、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。Agストライクめっきに使用するめっき液は、廃水処理コストの点からシアン化合物を実質的に含まないことが好ましい。
【0026】
<<1-4.電気めっき(パルスめっき)>>
本発明の複合材の製造方法では、特定の銀めっき液中で、以上説明した素材に対して、必要に応じて下地層の形成及び/又はAgストライクめっきによる中間層の形成を経た後、電気めっきとしてのパルスめっきを行うことで、素材上に、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜を形成する。
【0027】
<1-4-1.銀めっき液>
銀めっき液は、銀イオン、特定の化合物A及び炭素粒子を含有する。
【0028】
(1-4-1-1.銀イオン)
銀めっき液は銀イオンを含む。この銀めっき液中の銀の濃度は、複合皮膜の形成速度の観点や、複合皮膜の外観ムラ抑制の観点から5~150g/Lであることが好ましく、10~120g/Lであることがさらに好ましく、20~100g/Lであることが最も好ましい。
【0029】
(1-4-1-2.化合物A)
次に、化合物Aは、下記一般式(I)で表される。
【化2】
【0030】
一般式(I)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH-CH-O-、-CH-CH-CH-O-、(-CH-CH-O-)が挙げられる(nは2以上の整数である)。
【0031】
化合物Aは、析出した銀の表面に吸着して銀の結晶が成長することを抑えることで、電気めっきにより形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを小さくするものと考えられる。これにより、硬度に優れ、それゆえ耐摩耗性に優れた複合材が得られる。
【0032】
また上記一般式(I)において、mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rcについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
【0033】
銀めっき液中の化合物Aの濃度は、複合皮膜の外観ムラ抑制や、形成される複合皮膜における銀の結晶子サイズを適切に制御する観点から2~250g/Lであることが好ましく、3~200g/Lであることがより好ましい。
【0034】
(1-4-1-3.炭素粒子)
銀めっき液は炭素粒子を含有する。銀めっき液が炭素粒子を含んでいると、電気めっきにより素材上へ複合皮膜(銀めっき膜)が形成される際に、銀マトリクス中に炭素粒子が巻き込まれる。複合皮膜が炭素粒子を含むと、複合材の耐摩耗性が高まる。このような機能の発揮の観点から、炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましい。炭素粒子の、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)は、銀めっき膜への巻き込みやすさの観点から0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。更に、炭素粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。なお、銀マトリクス中に炭素粒子が巻き込まれるとは、炭素粒子が完全に銀マトリクス中に埋もれた状態になる場合に加え、炭素粒子の一部のみが銀マトリクス中に含まれ、炭素粒子の一部が銀マトリクス外に露出した状態になる場合も含む。
【0035】
また、銀めっき液中の炭素粒子の量は、銀めっき液を使用して複合皮膜を素材上に形成して得られる複合材の耐摩耗性の観点と、複合皮膜中に導入できる炭素粒子の量には限度があることから、10~150g/Lであることが好ましく、15~120g/Lであることがさらに好ましく、30~100g/Lであることが最も好ましい。
【0036】
また、この炭素粒子をめっき液に投入する前に酸化処理することにより、炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去することが好ましい。このような親油性有機物として、アルカンやアルケンなどの脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素が含まれる。炭素粒子の酸化処理として、湿式酸化処理の他、Oガスなどによる乾式酸化処理を使用することができるが、量産性の観点から湿式酸化処理を使用することが好ましく、湿式酸化処理によって表面積が大きい炭素粒子を均一に処理することができる。湿式酸化処理の方法としては、炭素粒子を水中に懸濁させた後に適量の酸化剤を添加する方法などを使用することができる。酸化剤としては、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用することができる。炭素粒子に付着している親油性有機物は、添加された酸化剤により酸化されて水に溶けやすい形態になり、炭素粒子の表面から適宜除去されると考えられる。また、この湿式酸化処理を行った後、ろ過を行い、さらに炭素粒子を水洗することにより、炭素粒子の表面から親油性有機物を除去する効果をさらに高めることができる。炭素粒子の酸化処理により、炭素粒子の表面から脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素などの親油性有機物を除去することができ、300℃加熱ガスによる分析によれば、酸化処理後の炭素粒子を300℃で加熱して発生したガス中には、アルカンやアルケンなどの親油性脂肪族炭化水素や、アルキルベンゼンなどの親油性芳香族炭化水素が殆ど含まれていない。酸化処理後の炭素粒子中に脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が若干含まれていても、炭素粒子を本発明で使用する銀めっき液中に均一に分散させることができるが、炭素粒子中に分子量160以上の炭化水素が含まれず且つ炭素粒子中の分子量160未満の炭化水素の300℃加熱発生ガス強度(パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析強度)が5,000,000以下になることが好ましい。
【0037】
(1-4-1-4.錯化剤)
本発明で使用する銀めっき液は、好ましくは錯化剤を含有する。錯化剤は銀めっき液中の銀イオンを錯体化して、そのイオンとしての安定性を高める。この作用により、銀のめっき液を構成する溶媒への溶解度が高まる。
【0038】
錯化剤は、前記の機能を有するものを広く使用することができるが、形成される錯体の安定性の観点からスルホン酸基を有する化合物が好ましい。スルホン酸基を有する化合物としては、炭素数1~12のアルキルスルホン酸、炭素数1~12のアルカノールスルホン酸及びヒドロキシアリールスルホン酸が挙げられる。これらの化合物の具体例としては、メタンスルホン酸、2-プロパノールスルホン酸及びフェノールスルホン酸が挙げられる。
【0039】
銀めっき液中の錯化剤の量は、銀イオンの安定化の観点から、30~200g/Lであることが好ましく、50~120g/Lであることがより好ましい。
【0040】
(1-4-1-5.他の添加剤)
他の添加剤として、例えば本発明に使用する銀めっき液は、光沢剤、硬化剤、電導度塩を含有してもよい。前記硬化剤としては、硫化炭素化合物(例えば二硫化炭素)、無機硫黄化合物(例えばチオ硫酸ナトリウム)、有機化合物(スルホン酸塩)、セレン化合物、テルル化合物、周期律表4Bまたは5B族金属等が挙げられる。前記電導度塩としては水酸化カリウム等が挙げられる。
【0041】
(1-4-1-6.溶媒)
銀めっき液を構成する溶媒は、主に水である。水は、(錯体化した)銀イオンの溶解性、めっき液が含むその他の成分の溶解性に優れることや、環境への負荷が小さいことから好ましい。また、溶媒として、水とアルコールの混合溶媒を使用してもよい。
【0042】
<1-4-2.パルスめっきの条件>
本発明では、以上説明した銀めっき液を用いた電気めっきとして、パルスめっきを実施する。本発明で実施するパルスめっきは、周期的に(交互に)印加する電流の符号を入れ替えてめっきを実施することである。このようなパルスめっきによりめっき膜の形成(炭素粒子を巻き込みながらの金属銀の析出)と溶解が交互に繰り返され、凹凸の少ない、平滑な複合皮膜が形成される。また、化合物Aの機能により、複合皮膜における銀の結晶子サイズは小さく抑えられている。
【0043】
特許文献3に開示された技術では複合皮膜の表面の平滑性が十分ではない理由について発明者が検討したところ、以下のように考えられた。銀めっき液が特許文献3のように所定の添加剤(安息香酸系の化合物)を含んでいると、当該添加剤が炭素粒子に吸着した状態でめっきが進行すると考えられる。形成されつつある複合皮膜の表面には、銀マトリクス中に巻き込まれたが一部が露出した炭素粒子が存在しているが、この炭素粒子には前記添加剤が吸着しており、その炭素粒子の露出しておりかつ添加剤が吸着した部分にAgが析出し、それが成長していくと考えられる。通常であれば、Agは形成されつつある銀マトリクスであるAg上に析出するが、前記炭素粒子に吸着した前記添加剤が、Ag析出の起点となると考えられる。
【0044】
このようにしてAgの析出が進んでいくと、炭素粒子上に析出したAgから成長していった部分が凸部分となる、すなわち表面に凹凸が多く平滑でない複合皮膜が形成されると考えられる。本発明におけるパルスめっきにおける、炭素粒子を含む銀マトリクスが形成されている間(これを複合皮膜析出工程と呼ぶこととする)においても、銀めっき液は特許文献3と同じく所定の安息香酸系化合物を含んでいるので、上記と同様のことが起こると考えられる。しかしパルスめっきのマイナスの電流により銀マトリクスの一部を溶解する工程(これを複合皮膜溶解工程と呼ぶこととする)により、前記の凸部分の形成の起点となる、炭素粒子上に析出したAgと、素材上にAgが析出して成長して形成されている銀マトリクスの双方が溶解される。また、炭素粒子上に析出したAgの成長と、銀マトリクスの成長とでは、後者の方が早いと考えられる。このような複合皮膜溶解工程と複合皮膜析出工程を交互に繰り返すことにより、本発明では平滑な表面の複合皮膜が形成されると考えられる。以下、本発明におけるパルスめっきの実施の形態について詳細に説明する。
【0045】
(1-4-2-1.カソードとアノード)
電気めっきする対象である素材がカソードである。溶解して銀イオンを提供する、例えば銀電極板がアノードである。
【0046】
(1-4-2-2.電流密度)
銀めっき液(めっき浴)にカソード及びアノードを浸漬し、電流を印加して銀めっきを実施する。ここでのめっき電流について、複合皮膜析出工程の際には電流の符号をプラスとし、複合皮膜溶解工程の際には電流の符号をマイナスとする。
【0047】
電流密度は、複合皮膜析出工程においては、複合皮膜の形成速度の観点及び複合皮膜の外観のムラ抑制の観点から、1.5~5.0A/dmが好ましく、2.0~4.0A/dmがより好ましい。複合皮膜溶解工程においては、パルスめっき全体での複合皮膜の生産性及び形成される複合皮膜の平滑性の観点から、電流密度は-12~-2.5A/dmであることが好ましく、-11~-6A/dmであることがより好ましい。
【0048】
平滑な複合皮膜を形成する観点及び複合皮膜の生産性の観点から、複合皮膜溶解工程時の電流密度Edと複合皮膜形成工程時の電流密度Efの比(Ed/Ef)の絶対値は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1.5~7であり、特に好ましくは2~5である。パルスめっきにおける前記の両工程の交互の繰り返しのステップごとに、前記比(Ed/Ef)を前記の範囲内で変動させてもよい。
【0049】
(1-4-2-3.パルスの波形、析出工程及び溶解工程の交互の繰り返し回数並びに両工程の時間配分)
パルスめっきを行う際の波形に特に制限はなく、例えば正弦波や矩形波を採用することができる。交互に行う複合皮膜析出工程と複合皮膜溶解工程の繰り返し回数は、形成しようとする複合皮膜の厚さや両工程それぞれの1回あたりの時間の比率等に応じて適宜調整可能であるが、例えば300~10000回とすることができる(複合皮膜析出工程と溶解工程の交互の繰り返しを一回とした場合に、その繰り返しが300~10000回行われる、という意味である)。繰り返し回数は800~6000回が好ましい。
【0050】
また各複合皮膜析出工程で電流を印加する時間Tpと各複合皮膜溶解工程で電流を印加する時間Tdとの比(Tp/Td)は、複合皮膜の生産性及び複合皮膜の平滑性の両立の観点から、2~8であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。なお、複合皮膜の形成のために前記の両工程が交互に繰り返し実施されるが、繰り返しのステップ(複合皮膜析出工程と複合皮膜溶解工程1回ずつで1ステップとする)ごとに前記比(Tp/Td)を、前記の範囲内で変動させてもよい。
【0051】
さらに、前記時間Tpは0.2~2秒であることが好ましく、0.4~1.2秒であることがより好ましい。前記時間Tdは0.05~1秒であることが好ましく、0.1~0.4秒であることがより好ましい。時間Tp及び時間Tdについても、複合皮膜析出工程と溶解工程の交互の繰り返しのステップごとに、前記の範囲で変動させてもよい。
【0052】
(1-4-2-4.温度・撹拌・めっき対象部位)
パルスめっきを行う際のめっき浴(銀めっき液)の温度(めっき温度)は、めっきの生産効率および液の過度な蒸発を防ぐ観点から15~50℃であることが好ましく、20~45℃であることがより好ましい。この際のめっき浴の撹拌の速度は、均一なめっきの実施の観点から、200~550rpmであることが好ましく、350~500rpmであることがより好ましい。まためっきする対象部位は、製造される複合材の用途に応じて、素材の表層全体でもよいし、素材の表層の一部でもよい。
【0053】
<<1-5.複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>
以上説明した電気めっき(パルスめっき)により、素材上に複合皮膜が形成される。この複合皮膜表面には、銀マトリクスに巻き込まれて(埋まって)おり脱落しにくい炭素粒子と、巻き込まれたというよりも表面に付着しており、脱落しやすい炭素粒子が存在している。後者は複合材の曲げ加工時などに設備を汚染しうる。そこでこのような炭素粒子を洗浄して除去することが好ましい。洗浄方法の一つは、複合皮膜の表面を超音波洗浄する処理である。超音波洗浄は、20~100kHzで1~300秒間行われるのが好ましい。また別の洗浄方法としては電解洗浄処理が挙げられる。この場合、電解洗浄が1~30A/dmで10~300秒間行われるのが好ましい。
【0054】
[2.複合材]
以下、本発明の複合材の実施の形態について説明する。当該複合材は、炭素粒子を含有する銀層からなる複合皮膜が素材上に形成されてなる複合材であって、前記複合皮膜の銀の結晶子サイズが40nmを超えて70nm以下であり、前記複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)が2.0μmである。この複合材は、例えば本発明の複合材の製造方法により製造することができる。以下、この複合材の各構成について説明する。
【0055】
<<2-1.素材>>
前記素材は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した素材と同様である。すなわち素材の構成材料としてはCu(銅)及びCu合金が好適であり、前記Cu合金としては、導電性と強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、P(リン)、Ni(ニッケル)、Sn(スズ)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Be(ベリリウム)、Pb(鉛)、Te(テルル)、Ag(銀)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。
【0056】
<<2-2.下地層>>
素材と複合皮膜の間に、種々の目的で下地層が形成されていてもよい。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。例えば素材中の銅が複合皮膜表面に拡散して導電性が劣化することを防止する目的では、Niからなる下地層を形成することが好ましい。素材が黄銅などの亜鉛を含む銅合金で、素材中の亜鉛が複合皮膜表面に拡散することを防止する目的では、Cuからなる下地層を形成することが好ましい。複合皮膜の素材への密着性改善の目的では、Agからなる下地層を形成することが好ましい。下地層の厚さは特に限定されないが、その機能発揮とコストの観点から、0.1~2μmであることが好ましく、0.2~1.5μmであることがより好ましい。また、電気・電子部品の端子にはCu下地やNi下地を含むSnめっきまたはリフローSnめっきを施した(素材側からCu下地、Ni下地、Sn下地の積層構造の)材料が使用されることが多く、本発明においてもこのような積層構造の下地層を形成してもよい。したがって本発明において、複合皮膜の下地にCu、Ni、Sn、Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層があってもよく、また例えば素材の電気接点部に本発明で規定する複合皮膜を形成し(下地層は形成してもしなくてもよい)、電線加締め部にリフローSnめっき下地層を形成する(複合皮膜は形成しない)など、場所によって異なる層を形成してもよい。
【0057】
<<2-3.複合皮膜>>
素材上に形成された複合皮膜は、炭素粒子を含有する銀層で構成される。この銀層においては、銀からなるマトリクス中に炭素粒子が(好ましくは略均等に)分散している。なお複合皮膜を形成する前にAgストライクめっきを行っている場合は、素材(又は後述する下地層)と複合皮膜の間にこのストライクめっきによる中間層が存在するが、非常に薄くて複合皮膜と区別できない場合も多い。また複合皮膜は素材の表層全体の上に形成されていてもよいし、表層の一部上に形成されていてもよい。
【0058】
<2-3-1.結晶子サイズ及びビッカース硬度>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜における銀の結晶子サイズは、40nmを超えて70nm以下と比較的小さい。このように結晶子サイズが小さいことで、ホール・ペッチの関係(一般に、金属材料は結晶粒が小さいほど強度が増す)から複合皮膜の硬度が高い。硬度が高いことで複合皮膜が削れにくくなり複合材の耐摩耗性が高くなる。なお、特許文献3に開示された複合材の複合皮膜に比べると若干硬度が低い場合があるが、本発明の複合材の複合皮膜も、実用上問題ない耐摩耗性を備えている。結晶子サイズが小さすぎると、複合皮膜の硬度が高く耐摩耗性は優れるものの、結晶粒界が多いことで、加熱された場合には母材からのCuなどの構成金属の複合皮膜内部への拡散が起こりやすく、導電性が低下してしまう(信頼性に劣る)。この理由から本発明の複合材において、複合皮膜における銀の結晶子サイズを、40nmを超える大きさに設定した。耐摩耗性及び前記の信頼性の両立の観点から、結晶子サイズは好ましくは45~68nmであり、より好ましくは50~66nmである。
【0059】
なお本発明において銀の結晶子サイズとしては、結晶面による偏りを減らすため銀の(111)面と(222)面の結晶子サイズを平均した(足して2で除した)値を採用する。結晶子サイズの更に詳細な測定方法については、実施例で説明する。
【0060】
以上のように複合皮膜は結晶子サイズが小さいため硬度が高く、具体的には、そのビッカース硬度Hvは好ましく90以上であり、より好ましくは100~180である。ビッカース硬度Hvの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0061】
<2-3-2.算術平均粗さRa>
本発明の複合材の複合皮膜の算術平均粗さRa(μm)は2.0μm以下である。このように表面が平滑な複合皮膜を備える本発明の複合材においては、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が効果的に抑制されている。このような平滑な表面の複合皮膜を備え、かつ銀の結晶子サイズが小さく耐摩耗性に優れた複合材は、例えば本発明の複合材の製造方法により製造可能である。
【0062】
曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落抑制の観点から、複合皮膜の算術平均粗さRaは好ましくは1.5μm以下である。算術平均粗さRaが非常に小さい複合皮膜の製造は現実的に困難であることもあわせると、前記Raはより好ましくは0.2~1.2μmである。
【0063】
また、複合材の複合皮膜が厚いほど、その算術平均粗さRaは大きくなることがわかってきおり、本発明者が検討したところ、算術平均粗さRa(μm)を複合皮膜の厚さの0.5乗(μm0.5)で除した値が、複合皮膜の厚さによる算術平均粗さRaの上昇をよく校正できること(Raへの複合皮膜の厚さの影響を排除した調整指標としやすいこと)がわかってきた。本発明の複合材の、算術平均粗さRa(μm)を複合皮膜の厚さの0.5乗(μm0.5)で除した値は、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落抑制の観点と、算術平均粗さRaが非常に小さい複合皮膜の製造は困難であることから、好ましくは0.05~0.5(μm0.5)であり、より好ましくは0.1~0.3(μm0.5)である。
【0064】
<2-3-3.炭素粒子>
前記炭素粒子は、本発明の複合材の製造方法について上記で説明した炭素粒子と同様である。すなわち炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましく、その形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合皮膜表面を平滑にすることで複合材の耐摩耗性を高められることから、鱗片形状であることが好ましい。
【0065】
また炭素粒子の平均一次粒子径は、複合材の耐摩耗性の観点から、0.2~15μmであることが好ましく、0.4~10μmであることがより好ましい。なお平均一次粒子径とは、粒子の長径の平均値であり、長径とは、複合材の複合皮膜中の炭素粒子を適切な観察倍率で観察した画像(平面)における、粒子内(粒子の外周線上の二点間)にひくことのできる最も長さの長い線分の長さとする。また長径は、50個以上の粒子について求めるものとする。
【0066】
<2-3-4.複合皮膜の組成及び炭素粒子の面積率>
本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜は上記の通り炭素粒子を含有しており、複合皮膜中の炭素の含有量は、複合材の耐摩耗性及び導電性の観点から、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは1.5~40質量%であり、更に好ましくは2~35質量%である。また本発明の複合材の実施の形態における複合皮膜の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなる。
【0067】
また、炭素粒子を含んでいる複合皮膜の表面における炭素粒子が占める割合(面積率)は、耐摩耗性の指標になり、耐摩耗性の観点からある程度以上の割合が必要である。一方、当該割合が高すぎると導電性の点で問題がある。これら耐摩耗性と導電性のバランスの観点から、前記面積率は5面積%以上80面積%以下であり、好ましくは8面積%以上60面積%以下であり、より好ましくは10面積%以上50面積%以下であり、さらに好ましくは22面積%以上40面積%以下である。本発明の複合材の製造方法の説明にて説明した通り、複合皮膜の表面には、付着しているだけで脱落しやすい炭素粒子が存在している場合がある。この場合には、<<1-5.複合皮膜表面の炭素粒子の一部除去処理>>の項にて説明したのと同様の超音波洗浄処理を施してから複合皮膜表面の炭素粒子の面積率を求めるものとする。前記面積率の測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0068】
<2-3-5.複合皮膜の厚さ>
複合皮膜の厚さは特に制限されないが、耐摩耗性や導電性の点で、最低限の厚さがあることが好ましい。また厚さが大きすぎても複合皮膜の効果は飽和し、原料コストが高まる。以上の観点から、複合皮膜の厚さは0.5μm以上45μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上25μm以下であることが更に好ましい。複合皮膜の厚さの測定方法の詳細については、実施例で説明する。
【0069】
<<2-4.曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落>>
以上説明した通り、本発明の複合材の実施の形態は複合皮膜表面の算術平均粗さRaが2.0μm以下と小さく、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が抑制されている。具体的には、後述する実施例における曲げ加工時の銀の脱落評価試験にて、ピーリングを行ったカーボンテープについてエネルギー分散型X線分析装置を用いてEDS分析を行ったとき、検出された元素の合計を100質量%としたとき、Agの割合は好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは4質量%以下である。なお前記Agの割合を0にすることは困難であり、通常0.2質量%以上である。
【0070】
[3.端子]
本発明の複合材の実施の形態は耐摩耗性に優れるとともに、曲げ加工時の複合皮膜からの銀の脱落が少ないので、電気接点用の端子、特にスイッチやコネクタなどの、その使用において摺動がなされる電気接点部品における端子(曲げ加工により製造される)の構成材料として好適である。
【実施例0071】
以下、本発明による複合材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
[実施例1]
<炭素粒子の準備 酸化処理>
炭素粒子として平均粒径4.8μmの鱗片形状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製のPAG-3000)80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合液を攪拌しながら50℃に昇温させた。なお前記平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300(LOW-WET MT3000II Mode))を用いて測定した、体積基準の累積値が50%の粒径である。次に、この混合液に酸化剤として0.1モル/Lのペルオキソ二硫酸カリウム(270g/mol)水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌することで酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行ない、得られた固形物に対して水洗を行った。水洗は、水洗後のろ液の電導度が10μS/cm以下になるまで繰り返した。
【0072】
この酸化処理の前後の炭素粒子について、パージ・アンド・トラップ・ガスクロマトグラフ質量分析装置(加熱脱着装置として日本分析工業株式会社製のJHS-100およびガスクロマトグラフ質量分析計として株式会社島津製作所製のGCMS QP-5050Aを組み合わせた装置)を使用して、300℃加熱発生ガスの分析を行ったところ、上記の酸化処理により、炭素粒子に付着していた(ノナン、デカン、3-メチル-2-ヘプテンなどの)親油性脂肪族炭化水素や、(キシレンなどの)親油性芳香族炭化水素が除去されているのがわかった。
【0073】
<Agストライクめっき>
縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材を用意した。この板材はDOWAメタルテック株式会社製のNB-109EHであり、1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金の板材である。また、この板材の表面の後述する方法で測定した算術平均粗さRaは0.1μmであった。
【0074】
この板材を素材として、当該素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を酸化イリジウムコーティングした)酸化イリジウムメッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてメタンスルホン酸を含むスルホン酸系銀ストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-ST、シアン化合物を実質的に含まない。銀濃度3g/L、メタンスルホン酸濃度42g/L)中において、液温25℃、電流密度5A/dmで120秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った。なお銀ストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
【0075】
<AgCめっき>
錯化剤としてメタンスルホン酸を含む、銀濃度30g/L、メタンスルホン酸濃度60g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(I)に該当する化合物Aを4.2g/Lの濃度で含み、溶媒は主に水である))に、上記の酸化処理および吸着処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、濃度50g/Lの炭素粒子と濃度30g/Lの銀と濃度60g/Lのメタンスルホン酸を含む炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を用意した。この銀めっき液は、実質的にSb及びシアン化合物を含まない。
【0076】
次に、上記のAgストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃でパルスリバースめっき(電流密度3.0A/dm・0.8秒間の複合皮膜析出工程と電流密度-9.0A/dm・0.2秒間の複合皮膜溶解工程を1ステップとし、4000ステップ繰り返した)を行い、銀層中に炭素粒子を含有する複合皮膜(AgCめっき皮膜)が素材上に形成されてなる複合材を得た。なお前記パルスリバースめっきの実施には、株式会社ノイズ研究所製のバイポーラ電源装置BP4610を使用し、パルス波形は矩形(波形の立ち上がり及び立下り時間は約4μs)だった。
【0077】
<超音波洗浄処理>
得られた複合材の複合皮膜表面に対して、超音波洗浄器(AS ONE製のVS-100III出力100W、槽内寸法:縦140mm×横240mm×深さ100mm)を使用して、液媒体を水として28kHzで4分の超音波洗浄処理を実施して、実施例1に係る複合材を得た。
【0078】
以上の複合材の製造条件等を、後述する実施例2・3及び比較例1~3の製造条件等とともに、下記表1にまとめた。
【表1】
【0079】
得られた実施例1に係る複合材について、以下の評価を行った。
【0080】
<複合皮膜の厚さ>
この複合皮膜(の縦5.0cm、横5.0cmの面における中央部分の直径0.2mmの円形の範囲)の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT9450)で測定したところ、21.2μmであった。なお蛍光X線膜厚計では(炭素粒子の)C原子の検出は困難でAg原子を検出して厚さを求めているが、本発明ではこれにより求まる厚さを複合皮膜の厚さとみなす。
【0081】
<複合皮膜表面のビッカース硬度Hv>
複合皮膜表面のビッカース硬度Hvは、微小硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM221)を使用して、荷重0.01Nを複合材の平らな部分に15秒間加えて、JIS Z2244に従って測定し、3回の測定の平均値を採用した。結果、ビッカース硬度Hvは124だった。
【0082】
後述する実施例2・3及び比較例3については複合皮膜の厚さが薄く上記方法での硬度測定が不可能なため、ビッカース硬度の測定は行わなかった。後述する比較例1・2については、これらも複合皮膜の厚さが薄いが、ビッカース硬度測定用に、比較例1・2それぞれからめっき時間のみを変更して複合材を作製した(比較例1・2ともにめっき時間を1200秒とした)。得られた、複合皮膜の厚さが約20μmの複合材について、上記方法でビッカース硬度を測定した。
【0083】
<複合皮膜表面の炭素粒子の面積率>
卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のTM4000 Plus)を使用して加速電圧5kVで1000倍に拡大して複合皮膜の表面を観察した反射電子組成(COMPO)像(1視野)をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化し、複合皮膜表面において炭素が占める面積率を算出した。具体的には、全ピクセルのうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を二値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Xに対する炭素粒子の部分のピクセル数Yの比Y/Xを、表面の炭素粒子の面積率(%)として算出した。炭素粒子の面積率は33%だった。
【0084】
<複合皮膜の銀の結晶子サイズ>
複合皮膜の表面について、JISH7805:2005に準拠し、X線回析装置(株式会社リガク製のRINT-2000)を用いてX線回折測定(Cu Kα線管球、管電圧:30kV、管電流:10mA、ステップ幅:0.01°、走査範囲:2θ=0°~155°、スキャンスピード:5°/分、測定時間:約31分、(111)面のピーク:2θ=38.5~39.3°、(222)面のピーク:2θ=81.9~82.8°)を行った。検出された銀の(111)面、(222)面のピークから、X線解析ソフトウェア(株式会社リガク製のPDXL)を用いて半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を求め、Scherrerの式から銀のそれぞれの結晶面における結晶子サイズを計算した。結晶面による偏りを減らすため銀の(111)面と(222)面の結晶子サイズを平均した値を、銀の結晶子サイズとした。結晶子サイズは63.3nmだった。
【0085】
なお、Scherrerの式は以下の通りである。
D=K・λ/(β・cosθ)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数、0.9とした
λ:X線の波長、CuKα線なので1.54Å
β:半値全幅(FWHM)(rad)
θ:測定角度(deg)
【0086】
<複合皮膜の算術平均粗さRa>
上記複合皮膜の表面をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製のVKX-110)により倍率1000倍で撮影した画像について、解析アプリケーション(株式会社キーエンス製のVK-HIXAバージョン3.8.0.0)により、JIS B0601(2001年)に基づいて(複合皮膜の観察面全体における)表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さRaを算出したところ、1.00μmであった。また、上記算術平均粗さRa(μm)を複合皮膜の厚さの0.5乗(μm0.5)で除した値を算出したところ、0.22(μm0.5)であった。
【0087】
<複合皮膜の組成>
電子顕微鏡である卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のTM4000 Plus)を用いて加速電圧15kVで1000倍に拡大して複合皮膜を観察し、この観察領域(1視野)において、上記卓上顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のAztecOne)を用いてEDX分析を行い検出された元素を複合皮膜の組成とした。その結果、AgおよびC以外の元素検出は無く、複合皮膜が実質的にAgおよびCから形成されていることが分かった。
【0088】
<耐摩耗性の評価>
実施例1で得られた複合材から横2.0cm×縦3.0cmの大きさの平板状試験片を切り出した。
【0089】
一方、この平板状試験片(プレート)に対して摺動させる凸形状の圧子として、以下のものを用意した。
実施例1で素材として使用した銅合金板材を内径1.0mmにてプレス加工(いわゆるインデント加工)した。この加工品を素材として、実施例1の場合と同様の銀ストライクめっきを実施した。なお銀ストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
【0090】
次に、Agストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして、10質量%のシアン化銀ナトリウムと30質量%のシアン化ナトリウムと50mL/LのニッシンブライトN(光沢剤、6質量%の三酸化二アンチモンを含む)(日進化成株式会社製)を含むAg-Sb合金めっき液(シアン浴)中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度15℃で電気めっき(電流密度1.2A/dm・37.5分間)を行った。その結果、2質量%のSbを含有し、ビッカース硬度(Hv)が180、厚さ20μmのAgSbめっき層を形成したインデント付き試験片を得た。
【0091】
このインデント付き試験片を、以下の摺動摩耗試験における凸形状の圧子として使用した。
摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製 CRS-G2050-DWA)により、上記平板状試験片に、前記インデント付き試験片の凸部があたるようにして、インデント付き試験片を一定の加重(5N)で平板状試験片に押し当てながら、往復摺動動作(摺動距離10mm(つまり1往復で20mm)、摺動速度10mm/s)を継続して、インデント付き試験片及び平板状試験片の摩耗状態を確認する摩耗試験を行うことにより、耐摩耗性の評価を行った。その結果、20000回の往復摺動動作後に、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-1000)によりインデント付き試験片(圧子)及び平板状試験片(プレート)の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察したところ、いずれについても(茶色の)素材(銅合金板材)が露出していないことが確認され、実施例1の複合材は耐摩耗性に優れていることがわかった。
【0092】
<曲げ加工時の銀の脱落評価試験>
得られた複合材から長手方向がTD(圧延方向に対して垂直な方向)で幅方向がLD(圧延方向)になるように幅10mmの曲げ加工試験片を切り出し、曲げ加工試験片についてLDを曲げ軸(BadWay曲げ(B.W.曲げ))にして、JIS H3130に準拠した90°W曲げ試験を曲げ半径R=0.2mmで行った。
【0093】
当該90°W曲げ試験を、図1を参照しながら説明する。図1は上型治具JUPと下型治具JDOWNとに挟まれて、山部Mと谷部Vとが生まれた試験片Tを示す模式的な断面図である。なお上型治具JUPと下型治具JDOWNとで試験片Tを挟んで折り曲げた際、折れ曲がった試験片Tに対して上下の治具によりさらに荷重をかけることのないよう、上下の治具にかかる荷重をモニターした。
【0094】
この試験後における試験片Tの上型治具JUPと接触した面FUPに対して、カーボンテープC(日新EM株式会社製 SEM用カーボン両面テープ7322:巾12mm)を使用して、当該テープを貼り付けそして手動で鉛直上向き方向に引っ張って剥がすピーリングを行った。なおカーボンテープCが、試験片Tの幅方向両側で1mmずつはみ出るように貼り付けた。
【0095】
前記ピーリング後のカーボンテープCにおける、試験片Tの上型治具JUPと接触した面FUPにおいて、試験片Tの谷部Vとなる曲げ加工部に対応する幅方向中央位置を起点に、山部Mとなる曲げ加工部に対応する幅方向中央位置に向かって長手方向2mm進んだ位置について、電子顕微鏡である卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製のTM4000 Plus)を用いて加速電圧15kVで100倍に拡大して観察を行った。
【0096】
そして、このカーボンテープCにおける観察箇所領域(1視野)において、上記卓上顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析装置(オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のAztecOne)を用いてEDS分析を行った。結果、Ag、Cが検出され、Agの量は3.80質量%だった。
【0097】
以上の複合材の評価結果を、後述する実施例2・3及び比較例1~3の評価結果とともに、下記表2にまとめた。
【表2】
【0098】
[実施例2]
パルスリバースめっきの複合皮膜析出工程と複合皮膜溶解工程のステップの繰り返し回数を2000回とした以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る複合材を作製した。得られた複合材について、実施例1と同様に各種の評価を行った。
【0099】
[実施例3]
パルスリバースめっきの複合皮膜析出工程と複合皮膜溶解工程のステップの繰り返し回数を1000回とした以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る複合材を作製した。得られた複合材について、実施例1と同様に各種の評価を行った。
【0100】
[比較例1]
パルスリバースめっきの代わりに以下の通常の電気めっきを実施した以外は実施例1と同様にして比較例1に係る複合材を作製し、これについて実施例1と同様に各種の評価を行った。
【0101】
実施例1と同様に素材に対してAgストライクめっきを実施した。Agストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、実施例1で使用したのと同様の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中において、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで600秒間電気めっきを行い、比較例1に係る複合材を得た。
【0102】
比較例1に係る複合材は複合皮膜の銀の結晶子サイズが小さく、ビッカース硬度が高くて耐摩耗性に優れていたが、複合皮膜表面の算術平均粗さRaが大きく、曲げ加工時の銀の脱落が非常に多かった。
【0103】
[比較例2]
電流を印加する時間を300秒とし、銀めっき液として、メタンスルホン酸を100g/Lの濃度で含む銀濃度30g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-PL(一般式(1)に該当する化合物Aを含まず、溶媒は水))に対して、実施例1と同様の酸化処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して得られた炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用し、また、めっき時間を300秒とした以外は比較例1と同様にして、複合材を作製した。
【0104】
得られた比較例2に係る複合材について、実施例1と同様に各種の評価を行った。その結果、前記複合材の複合皮膜の銀の結晶子サイズが大きく、ビッカース硬度が低くて耐摩耗性に劣っていた。一方曲げ加工時の銀の脱落は少なかった。
【0105】
[比較例3]
銀めっき液として、比較例2で使用したのと同様の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を使用し、パルスリバースめっきの複合皮膜析出工程と複合皮膜溶解工程のステップの繰り返し回数を2000回とした以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る複合材を作製した。
【0106】
この複合材について実施例1と同様に各種の評価を行った。その結果、前記複合材の銀の結晶子サイズが大きく、耐摩耗性に劣っていた。一方曲げ加工時の銀の脱落は少なかった。
【符号の説明】
【0107】
T 試験片
C カーボンテープ
M 山部
V 谷部
UP 上型治具と接触した面
UP 上型治具
DOWN 下型治具
図1