(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053903
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ワッシャ及びワッシャの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 43/00 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
F16B43/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160408
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】591171677
【氏名又は名称】株式会社メイドー
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 政孝
【テーマコード(参考)】
3J034
【Fターム(参考)】
3J034AA13
3J034CA03
(57)【要約】
【課題】座面圧が座面の内周側に偏って生じることを抑制することができるワッシャ及びワッシャの製造方法を提供する。
【解決手段】ワッシャ10は、車両の締結部に用いられるものであって、座面13に複数の応力分散部15を有しており、それら応力分散部15は凹状をなしているものとすることができ、ワッシャ10を製造するワッシャの製造方法は、座面13にプレス型を圧接させて応力分散部15を凹条に形成するプレス工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の締結部に用いられるワッシャであって、
座面に複数の応力分散部を有していることを特徴とするワッシャ。
【請求項2】
前記応力分散部は、凹状をなしている請求項1に記載のワッシャ。
【請求項3】
前記応力分散部は、前記座面の中央よりも外周縁寄りに配置されている請求項1又は2に記載のワッシャ。
【請求項4】
平面視の形状が円形又は正多角形である請求項1又は2に記載のワッシャ。
【請求項5】
複数の前記応力分散部は、前記ワッシャの外周縁又は内周縁と並行に配置されている請求項4に記載のワッシャ。
【請求項6】
複数の前記応力分散部は、隣接するもの同士の角度間隔が12度以上90度以下である請求項5に記載のワッシャ。
【請求項7】
複数の前記応力分散部は、等間隔おきに配置されている請求項6に記載のワッシャ。
【請求項8】
板厚が2mm以上8mm以下である請求項1又は2に記載のワッシャ。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のワッシャを製造するワッシャの製造方法であって、
座面にプレス型を圧接させて前記応力分散部を凹状に形成するプレス工程を備えることを特徴とするワッシャの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、特には、操縦安定性に関わる懸架装置や操舵装置などを構成する部品の取り付けに使用されるワッシャとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト、ナット等の締結部品は、対象部品を締付けることで軸力(締結力)を発生させ、その軸力を、対象部品との接触面となる座面で受ける(支える)ことにより、部品を固定する。締結部品に振動などの外力が加わったり、締結部品の軸力に多大な力を要したりする場合、締結部品の座面と接触された対象部品の接触面には、多大な荷重(軸力)が加わることで、陥没等の塑性変形が生じる。このような塑性変形が対象部品の接触面に生じると、締結部品は、座面で軸力を十分に受ける(支える)ことができなくなり、軸力低下(ゆるみ)を発生させる。
通常、上述のような軸力低下を防止するために、ワッシャが、ボルトやナットと対象部品との間に介装されて使用される。つまり、ワッシャは、その座面と対象部品の接触面との間に生じる座面圧を、塑性変形等が起こらない程度の大きさに抑えることで、軸力低下(ゆるみ)の発生を抑制することができる。
上述した締結部品とワッシャは、種々の自動車部品の取り付けに用いられており、特に懸架装置や操舵装置などを構成する自動車部品の取り付けに用いられるものは、車両の操縦安定性に大きな影響を及ぼす。このため、懸架装置や操舵装置などの自動車部品の取り付けに用いられるワッシャに関して、車両の操縦安定性を向上させる技術の提案が為されている。こうした技術として、ワッシャの厚みの増加が挙げられるが、この場合、車両の操縦安定性は向上するものの、厚みを増したワッシャの重量が嵩むことで車両重量が増加してしまい、近時の自動車に要求される環境配慮等に基づく軽量化や省燃費化の観点で、望ましいものではない。そして、特許文献1には、ワッシャの厚みを増加することなく車両の操縦安定性を向上させる技術として、ワッシャの内径側及び外径側の座面圧を確保する目的で座面に設けられた環状の溝により、座面が内側当接面と外側当接面の二つに区分されたワッシャが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、通常のワッシャについて、座面に生じる座面圧の測定等を行ったところ、座面圧が座面の内周縁部にのみ集中的に偏って生じていることが分かった(
図6の比較例1を参照)。さらに、本発明者等は、特許文献1に開示のワッシャと同様の、座面に環状の溝が設けられたワッシャについても座面圧の測定等を行った。その結果、座面圧は、環状の溝によって区分された座面の内側当接面と外側当接面のうち、外側当接面には僅かしか生じておらず、内側当接面に偏って生じていることが分かった(
図6の比較例2を参照)。これらの結果から、従来のワッシャは、座面圧が座面の内周側に偏って生じており、軸力低下(ゆるみ)を十分に抑制することができていないことが分かった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、座面圧が座面の内周側に偏って生じることを抑制することができるワッシャ及びワッシャの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下に示される。
請求項1に記載の発明は、車両の締結部に用いられるワッシャであって、
座面に複数の応力分散部を有していることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記応力分散部は、凹状をなしていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記応力分散部は、前記座面の中央よりも外周縁寄りに配置されていることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、平面視の形状が円形又は正多角形であることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、複数の前記応力分散部は、前記ワッシャの外周縁又は内周縁と並行に配置されていることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、複数の前記応力分散部は、隣接するもの同士の角度間隔が12度以上90度以下であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、複数の前記応力分散部は、等間隔おきに配置されていることを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、板厚が2mm以上8mm以下であることを要旨とする。
請求項9に記載のワッシャの製造方法は、請求項1又は2に記載のワッシャを製造するワッシャの製造方法であって、
座面にプレス型を圧接させて前記応力分散部を凹状に形成するプレス工程を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、座面圧が座面の内周側に偏って生じることを抑制することができるワッシャ及びワッシャの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】本発明のワッシャを示す(a)は平面図、(b)は1B-1B線の左側を側面図とし右側を断面図とする片側断面図、(c)は底面図である。
【
図2】本発明のワッシャの使用状態を示す断面図である。
【
図3】本発明のワッシャの使用例を示す一部を拡大した斜視図である。
【
図4】比較例1のワッシャを示す(a)は左側を側面図とし右側を断面図とする片側断面図、(b)は底面図である。
【
図5】比較例2のワッシャを示す(a)は左側を側面図とし右側を断面図とする片側断面図、(b)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は、例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
本発明のワッシャは、車両の締結部に用いられるワッシャ10であって、
座面13に複数の応力分散部15を有していることを特徴とする(
図1(c)参照)。
図1(a)~(c)に示すように、ワッシャ10は、平板状をなしており、ワッシャ10を厚さ方向に貫通して設けられた孔部11を有している。この孔部11には、ワッシャ10の使用時に、締結部材であるボルトの軸部22が挿通される。
【0011】
ワッシャ10の材料は、特に限定されず、例えば、金属や、合金や、合成樹脂等を挙げることができる。
金属は、例えば、鉄、アルミニウム、銅等を挙げることができる。
合金は、ステンレス鋼、ケイ素鋼等の鉄合金、黄銅、青銅等の銅合金、ジュラルミン等のアルミ合金、インコネル、パーマロイ等のニッケル合金、マグネシウム合金、チタン合金などを挙げることができる。
合成樹脂は、ナイロン6、ナイロン66、アラミド等のポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などのエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素(ユリア)樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0012】
ワッシャ10の平面視の形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形や、正方形、正三角形、正六角形、正八角形等の正多角形、長方形、ひし形、六角形、三角形等の多角形を挙げることができる。これらの中でも、円形、正多角形は、締結部材であるボルトやナット等とともに使用する際の使いやすさの観点から、有用である。
通常、ワッシャ10の平面視における形状は、例えば、
図1(a)に示されるような、中心Axを有する円形とすることができる。
なお、「円形」の記載に関し、円形には、真円形のみに限らず、例えば、長径に対する短径の比(短径/長径)が0.9以上1未満の略円形が含まれるものとする。
ワッシャ10は、表面12の外周縁部において、角部を面取りして形成された面取部14を有している。
【0013】
ワッシャ10は、車両の締結部において、締結部材によって車両部品30を締結する場合に、締結部材であるボルト20の頭部21と車両部品30との間に介在され、頭部21と車両部品30に挟まれるようにして用いることができる(
図2参照)。
ワッシャ10は、車両部品30の締結に用いられた状態で、表面12をボルト20の頭部21と接触させており、裏面を座面13として、その座面13を車両部品30と接触させている。
ここで、「座面」とは、締結部材であるボルト及びナットの軸力を受ける(支える)面を示し、通常は、軸力を好適に支えるべく、締結対象である対象部品と接触する接触面が「座面」となる。ワッシャ10は、締結部材と対象部品との間に介在されて用いられており、この場合、ワッシャ10の裏面が対象部品と接触して軸力を支えることから、「座面」は、ワッシャ10の裏面となる。
【0014】
ワッシャ10の寸法に関して、内径D
in(mm)と外径D
out(mm)は、ワッシャ10とともに用いられる締結部材であるボルト等の寸法に応じたものとすることができ、特に限定されない(
図1(a)参照)。
すなわち、締結部材であるボルトについて、軸部の径は、JIS B1180:2014によって規定されており、ワッシャ10の内径D
in(mm)と外径D
out(mm)は、そのボルトの軸部の径に応じて設定することができる。
【0015】
具体的に、ワッシャ10の内径Dinは、1mm以上64mm以下(1≦Din≦64)とすることができ、好ましくは3mm以上36mm以下(3≦Din≦36)、より好ましくは5mm以上24mm以下(5≦Din≦24)、さらに好ましくは8mm以上14mm以下(8≦Din≦14)とすることができる。
ワッシャ10の外径Doutは、2.5mm以上115mm以下(2.5≦Dout≦115)とすることができ、好ましくは6mm以上68mm以下(6≦Dout≦68)、より好ましくは10mm以上48mm以下(10≦Dout≦48)、さらに好ましくは15.5mm以上30mm以下(15.5≦Dout≦30)とすることができる。
【0016】
ワッシャ10の寸法に関して、板厚T
1(mm)は、その値に応じて、座面圧と車両重量に影響を及ぼすことができる(
図1(b)参照)。つまり、ワッシャ10の板厚T
1の増減は、ワッシャ10のたわみ性を変化させることでボルト等の軸力を座面13で受ける(支える)場合の座面圧に影響を及ぼし、また、ワッシャ10の重量を変化させることで車両重量に影響を及ぼす。
具体的に、ワッシャ10の板厚T
1は、2mm以上8mm以下(2≦T
1≦8)とすることができる。ワッシャ10の板厚T
1は、好ましくは2.5mm以上7mm以下(2.5≦T
1≦7)、より好ましくは3mm以上5mm以下(3≦T
1≦5)、さらに好ましくは3.5mm以上4.5mm以下(3.5≦T
1≦4.5)とすることができる。ワッシャ10の板厚T
1が上述の範囲の場合、座面圧が座面13の内周側に偏って生じることを好適に抑制することができ、さらに車両重量の軽減を図ることができる。
【0017】
ワッシャ10は、座面13に複数の応力分散部15を有している。応力分散部15は、座面圧が座面13の内周側に偏ることを抑制する目的で設けられたものであって、座面13が締結部材であるボルト等の軸力を受ける(支える)場合に、その応力として座面13に生じる座面圧を、座面13の外周側へ寄るように、分散させることができる。
応力分散部15の形状は、特に限定されないが、凹状をなすものとすることができる。具体的に、応力分散部15の形状は、断面形状で山状、半円状、四角状、ドーム状、V字状、U字状などとすることができ、平面視(底面視)形状で、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、星形、十文字形などとすることができる。これら形状の中でも、断面形状でドーム状、平面視(底面視)形状で円形は、形成が容易かつ確実であり、応力分散部15の形状として有用である(
図1(b),(c)参照)。
【0018】
座面13上における複数の応力分散部15の配置は、特に限定されないが、複数の応力分散部15は、ワッシャ10の外周縁又は内周縁と並行に配置することができる。
ワッシャ10の平面視の形状が円形の場合、複数の応力分散部15は、例えば、
図1(c)に2点鎖線で示すように、ワッシャ10の外周縁及び/又は内周縁と並行して伸びる仮想円Vcの周上に位置するように配置することができる。具体的には、各応力分散部15の中心が、仮想円Vcの周上に位置するような配置とすることができる。
仮想円Vcは、その中心がワッシャ10の中心Axと同じであって、直径をD
depとする円形とすることができる。仮想円Vcの直径D
depは、ワッシャ10の内径D
inを超えて外径D
out未満(D
in<D
dep<D
out)であれば、特に限定されない。
【0019】
ワッシャ10の平面視の形状が、正方形、正六角形、正八角形、正十二角形等の正多角形の場合、複数の応力分散部15は、内周縁と並行して伸びる上述のような仮想円Vcの周上に位置するような配置とすることができる。
あるいは、複数の応力分散部15は、ワッシャ10の外周縁と並行して伸びる正方形状、正六角形状、正八角形状、正十二角形状等の正多角形状をなす仮想線上に位置するような配置とすることができる。
なお、ワッシャ10の平面視の形状が正多角形の場合、複数の応力分散部15は、内周縁と並行して伸びる仮想円Vcの周上に位置するような配置とすることが好ましい。即ち、座面圧は、ボルトの軸部22が挿通された孔部11の周縁である座面13の内周縁に偏ろうとするため、その内周縁と並行して伸びる仮想円の周上に複数の応力分散部15を配置することで、座面圧を座面13の外周側へ好適に寄せることができる。
【0020】
複数の応力分散部15は、座面13上において、座面13の中央よりも外周縁寄りに配置することができる。この場合、ワッシャ10が車両部品30の締結に用いられた状態で、座面13に生じる座面圧を座面13の内周側から外周側へ好適に寄せることができる。
複数の応力分散部15を座面13の中央よりも外周縁寄りに配置する場合に関して、具体例を挙げると、応力分散部15が周上に配置される仮想円Vcの直径Ddepについて、その下限値を所定の値に定めることで達成することができる。
【0021】
仮想円Vcの直径Ddepは、ワッシャ10の内径Dinと外径Doutを用い、係数をαとして、計算式:Ddep=α×(Dout-Din)+Dinから求めることができる。
上述の計算式において、応力分散部15は、係数αが0.5の場合(α=0.5)に、ワッシャ10の径方向で座面13の中央に配置される。よって、係数αを、0.5を超える値(α>0.5)とした場合、応力分散部15は、ワッシャ10の径方向で座面13の中央よりも外周縁寄りに配置することができる。
そして、応力分散部15の配置をワッシャ10の径方向で座面13の中央よりも外周縁寄りとする場合には、応力分散部15が周上に配置される仮想円Vcの直径Ddepの下限値を、0.5×(Dout-Din)+Dinを超える値〔Ddep>0.5×(Dout-Din)+Din〕とすることで、達成することができる。
【0022】
上述の計算式について、係数αは、下限値を、好ましくは0.55以上(α≧0.55)、より好ましくは0.65以上(α≧0.65)、さらに好ましくは0.7以上(α≧0.7)とすることができる。
なお、上述の計算式について、係数αの上限値は、1未満とすることができるが、これは、係数αを1とした場合に、仮想円Vcの直径Ddepとワッシャ10の外径Doutとが等しくなる(Ddep=Dout)ためである。また、係数αの上限値は、好ましくは0.95以下(α≦0.95)、より好ましくは0.85以下(α≦0.85)、さらに好ましくは0.8以下(α≦0.8)とすることができる。
【0023】
具体的に、応力分散部15が周上に配置される仮想円Vcの直径Ddepは、上述の計算式や下限値を考慮して、2.1mm以上103mm以下(2.1≦Ddep≦103)とすることができる。
直径Ddepは、好ましくは5.2mm以上60mm以下(5.2≦Ddep≦60)、より好ましくは8.7mm以上42mm以下(8.7≦Ddep≦42)、さらに好ましくは13.6mm以上26mm以下(13.6≦Ddep≦26)とすることができる。
【0024】
複数の応力分散部15は、隣接するもの同士の角度間隔As(度)について、特に限定されないが、12度以上90度以下(12≦As≦90)とすることができる(
図1(c)参照)。角度間隔Asは、好ましくは15度以上72度以下(15≦As≦72)、より好ましくは18度以上40度以下(18≦As≦40)、さらに好ましくは24度以上36度以下(24≦As≦36)とすることができる。
複数の応力分散部15は、隣接するもの同士の角度間隔Asに関し、各応力分散部15についてそれぞれ異なる値とすることができ、あるいは、全ての応力分散部15について等しい値とすることができる。
【0025】
複数の応力分散部15は、隣接するもの同士の角度間隔Asに関し、全ての応力分散部15について等しい値とすることにより、等間隔おきに配置することができる。この場合、座面13に生じる座面圧が、座面13の任意の部位に偏ることを好適に抑制することができる。
複数の応力分散部15は、座面13上に設けられる個数について、上述の角度間隔Asに応じて調整することができ、特に限定されないが、通常、4個以上30個以下とすることができる。応力分散部15の個数は、好ましくは5個以上24個以下、より好ましくは9個以上20個以下、さらに好ましくは10個以上18個以下とすることができる。
【0026】
応力分散部15は、座面13からの深さT
A(mm)について、特に限定されないが、0.1mm以上1mm以下(0.1≦T
A≦1)とすることができる(
図1(b)参照)。深さT
Aは、好ましくは0.2mm以上0.9mm以下(0.2≦T
A≦0.9)、より好ましくは0.3mm以上0.8mm以下(0.3≦T
A≦0.8)、さらに好ましくは0.4mm以上0.7mm以下(0.4≦T
A≦0.7)とすることができる。
応力分散部15は、平面視(底面視)における直径D
A(mm)について、特に限定されないが、0.3mm以上2mm以下(0.3≦D
A≦2)とすることができる(
図1(c)参照)。直径D
Aは、好ましくは0.5mm以上1.8mm以下(0.5≦D
A≦1.8)、より好ましくは0.7mm以上1.5mm以下(0.7≦D
A≦1.5)、さらに好ましくは0.9mm以上1.2mm以下(0.9≦D
A≦1.2)とすることができる。
応力分散部15の深さT
A及び直径D
Aが上述の範囲の場合、応力分散部15が形成されることによるワッシャ10の強度、剛性等の低下を抑制することができる。
【0027】
ワッシャ10は、例えばメッキ、塗装、樹脂コーティング等の表面処理を施すことにより、座面13を被覆する被膜を備えることができる。この被膜は、応力分散部15の一部又は全部を埋めることができる。
また、ワッシャ10は、応力分散部15の内部に充填材等を充填することができる。この充填材としては、例えば、ワッシャ10の材料に使用された金属又は合金よりも軟質の金属又は合金、あるいは、合成樹脂、エラストマー、ゴム等を挙げることができる。
上述の表面処理による被膜や、充填材等の充填により、応力分散部15の全部を埋める場合には、座面13を被覆する被膜の表面又は座面13を平坦状とすることができる。
【0028】
上述したワッシャ10において、応力分散部15の形成方法は、特に限定されず、例えば、プレス型を用いた冷間プレスや熱間プレス等のプレス加工、ドリル、カッタ等を用いた旋盤加工などを挙げることができる。これらの中でもプレス加工は、短時間かつ大量に応力分散部15を形成することができるため、特に有用である。
即ち、本発明のワッシャを製造するワッシャの製造方法は、座面13にプレス型を圧接させて複数の応力分散部15を形成するプレス工程を備えることを特徴とする。
また、応力分散部15は、その形状について、プレス加工で形成する場合、使用するプレス型に応じて、自在に選択することができる。
【0029】
上述のワッシャ10は、車両の締結部に用いられるものである。この車両の締結部は、車両を構成する車両部品を、締結部材であるボルトやナットを用い、車両部品同士を締結する、車両部品を車両のボディに締結する等して設けることができる。
車両部品は、締結部材によって締結されるものであれば、特に限定されないが、例えば、車両を懸架する懸架装置、車両を操舵する操舵装置、車両を駆動する駆動装置、車両を制動する制動装置、車両の搭乗者を保護する安全装置等の各種装置を構成する部品を挙げることができる。これらの中でも、懸架装置を構成するサスペンションアームやショックアブソーバ等の車両部品や、操舵装置を構成するステアリングシャフトやナックルアームやタイロッド等の車両部品に関して、それら車両部品による締結部は、車両の操縦安定性に及ぼす影響が大きいため、本発明のワッシャ10が用いられる締結部として有用である。
【0030】
車両の締結部としては、以下を例示することができる。
図3は、車両部品として懸架装置であるトーションビーム式のリアサスペンションを示す斜視図である。なお、
図3には、リアサスペンションの右側の一部のみを拡大して示すものとし、残りは省略する。
リアサスペンション30Aは、左右一対のサスペンションアーム31と、それらサスペンションアーム31の間に架設された中間ビーム32と、を備えている。サスペンションアーム31と中間ビーム32とは、互いに溶接されて、一体化されている。
【0031】
サスペンションアーム31の前端部には、ジョイント33が設けられている。サスペンションアーム31は、ジョイント33を介することで、図示しない車両のボディに対して取り付けることができる。
サスペンションアーム31の後端部には、ブラケット34が設けられている。サスペンションアーム31には、ブラケット34を介することで、図中に2点鎖線で示したショックアブソーバ35を取り付けることができる。
【0032】
リアサスペンション30Aには、車両の締結部として、第1の締結部と、第2の締結部の2つが設けられる。
第1の締結部は、サスペンションアーム31を、締結部材であるボルト20と上述したワッシャ10とを用い、車両のボディ(図示略)に締結して設けることができる。
第2の締結部は、ショックアブソーバ35を、締結部材であるボルト20と上述したワッシャ10とを用い、ブラケット34に締結して設けることができる。
【0033】
上述した第1の締結部や第2の締結部等といった車両の締結部において、ワッシャ10は、
図2に示すように、ボルト20の頭部21と、サスペンションアームのジョイントやブラケット、車両のボディ等といった車両部品30との間に介在されて、その座面13を車両部品30の表面と接触させている。
ボルト20は、軸部22が車両部品30に螺入されて、締め付けられることにより、車両部品30を締結するための軸力を発生させており、その軸力は、ボルト20の頭部21と接触したワッシャ10の座面13で受けられて、支えられている。
【0034】
ワッシャ10がボルト20の軸力を座面13で受ける際、その座面13には、座面圧が生じる。
ワッシャ10は、座面13に複数の応力分散部15を有している。応力分散部15は凹状をなしており、座面13の応力分散部15が設けられた部位では部分的に座面強度が低下すると考えられ、そのため、応力である座面圧は、座面13の内周縁部から、応力分散部15が設けられた座面13の外周側へと分散されると考察される。
そして、ワッシャ10は、複数の応力分散部15を備えることにより、座面圧が座面13の内周側に偏って生じることを抑制することができ、軸力低下(ゆるみ)を防止することができる。さらに、ワッシャ10は、複数の応力分散部15を備えることにより、座面圧が座面13の外周側へ寄るように生じて座面13の略全体に分布されるため、座面圧を座面13の全体で受けて支えることができ、締結剛性の向上を図ることができる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[試料の諸元]
(実施例1)
プレス加工によってワッシャ10の座面13に複数の応力分散部15を設けて、
図1(a)~(c)に示した形状とし、実施例1の試料とした。
ワッシャ10の寸法は、内径D
in:10.5mm、外径D
out:18mm、板厚T
1:4mmとした。
応力分散部15の寸法は、深さT
A:0.5mm、直径D
A:1mmとした。
複数の応力分散部15は、隣接するもの同士の角度間隔As:30度とし、それぞれの中心が、直径D
dep:19mmの仮想円Vcの周上に等間隔に配置されるように、合計で12個設けた。
(実施例2)
複数の応力分散部15について、隣接するもの同士の角度間隔As:60度とし、合計で6個設けた他は、実施例1と同様にして、実施例2の試料を得た。
【0037】
(実施例3)
複数の応力分散部15について、隣接するもの同士の角度間隔As:36度とし、合計で10個設けた他は、実施例1と同様にして、実施例3の試料を得た。
(実施例4)
複数の応力分散部15について、隣接するもの同士の角度間隔As:20度とし、合計で18個設けた他は、実施例1と同様にして、実施例4の試料を得た。
(実施例5)
複数の応力分散部15について、隣接するもの同士の角度間隔As:15度とし、合計で24個設けた他は、実施例1と同様にして、実施例5の試料を得た。
【0038】
(比較例1)
ワッシャ40の座面43を平坦面として、
図4(a),(b)に示した形状とし、比較例1の試料とした。
ワッシャ40の寸法は、実施例1と同じ寸法とした。
(比較例2)
旋盤加工によってワッシャ50の座面53に溝部55を環状に設けて、
図5(a),(b)に示した形状とし、比較例2の試料とした。
ワッシャ50の寸法は、実施例1と同じ寸法とした。
溝部55は、溝幅を1mmとし、その溝幅の中央が直径:19mmの仮想円Vcの周上に配置されるように設けた。
【0039】
[座面圧の分布解析]
(測定方法)
締結部材として、サイズがM10×1.25のボルトと、サイズがM10の雌ネジ穴が設けられたテストピースとを用意し、実施例1-5及び比較例1,2の各試料を、締付け軸力:39kNで、テストピースにボルトを用いて締結した。
テストピースに締結された各試料について、解析プログラム(アプライドデザイン社、製品名;Q FORM)を用い、座面上における座面圧の分布を観測し、それぞれの写真を撮影した。
その結果である観測写真を、実施例1及び比較例1,2については
図6に示し、実施例2-5については
図7に示す。
【0040】
(考察)
図6,7に示した観測写真について、座面上で色が濃くなっている個所は、その個所に座面圧が集中して偏っていることを示している。
図6に示すように、実施例1の観測写真は、座面上で明確に色が濃くなっている個所が、内周縁のごく僅かな一部、複数の応力分散部に囲まれた内縁部、各応力分散部の周囲、及び、外周縁部であり、他は色の濃さが均等であった。この結果から、実施例1は、座面圧の分布が、座面の内周側にのみ偏ることなく、外周側へ寄っており、座面圧が座面の内周側のみならず外周側にも生じていることが分かった。
図6に示すように、比較例1の観測写真は、座面上において、内周縁部の全周で明確に色が濃くなっており、そこから外周縁部までの範囲は淡く色づく程度に色薄くなり、外周縁部で若干濃くなるものの、内周縁部とは比較にならない程に色薄くなっている。この結果から、比較例1は、座面圧の分布が、座面の内周縁部に偏って集中しており、座面圧が座面の内周側にのみ偏って生じていることが分かった。
図6に示すように、比較例2の観測写真は、座面上で明確に色が濃くなっている個所が、座面の内周縁から溝部までの範囲、溝部の外縁部、及び、外周縁部であった。この結果から、比較例2は、座面圧の分布が、座面の内周縁から溝部までの範囲に偏っており、座面圧が座面の内周側に偏って生じていることが分かった。
【0041】
図7に示すように、実施例2,3の観測写真は、座面上で色が濃くなっている個所が、各応力分散部の周囲であった。この結果から、実施例2,3は、座面圧の分布が、座面の略全体で均等であり、座面圧が座面の略全体で均等に生じていることが分かった。
図7に示すように、実施例4,5の観測写真は、座面上で色が濃くなっている個所が、複数の応力分散部に囲まれた内縁部であった。この結果から、実施例4,5は、座面圧の分布が、座面の外周側となる応力分散部が設けられた位置に寄っており、座面圧が座面の外周側に生じていることが分かった。
なお、実施例1-4と、実施例5とを比較すると、応力分散部の個数が最も多い実施例5は、座面上で複数の応力分散部に囲まれた内縁部が明確に色濃くなっており、座面圧が却って座面の外周側に偏って生じているとも考えられる。従って、実施例1-5の結果から、応力分散部の個数が増すに従い、座面圧は座面の外周側に寄りやすくなるが、座面圧が座面の内周側と外周側の何れにも偏らないようにする場合、応力分散部の個数は10個以上18個以下が望ましいと考えられる。
【0042】
[操縦安定性評価試験]
(試験方法)
自動車の懸架装置であるトーションビーム式のリアサスペンションにおいて、
図3に示すように、サスペンションアーム31を車両のボディに締結する第1締結部と、サスペンションアーム31にショックアブソーバ35を締結する第2締結部とに、実施例1と比較例1のワッシャを利用した。
テストドライバーが、上述の自動車をテストコースで周回させ、自動車の操縦安定性に関する以下の1~3の項目について、評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
1.操作感
走行時におけるステアリングの操作感について、実施例1と比較例1とを比較し、優れている方は「○」、劣る方は「×」として評価した。
2.剛性感
走行時におけるリアサスペンションの剛性感について、実施例1と比較例1とを比較し、剛性感がある方は「○」、剛性感が無い方は「×」として評価した。
3.乗り味
走行時における、車体のがたつき、揺れ、振動などといった余分な動きについて、実施例1と比較例1とを比較し、余分な動きが無い方は「○」、余分な動きが有る方は「×」として評価した。
【0044】
【0045】
表1の結果から、実施例1は比較例1と比べ、操作感、剛性感及び乗り味が向上しており、操縦安定性が向上していることが示された。
操作感、剛性感及び乗り味の向上について、実施例1のワッシャは、複数の応力分散部を備えることにより、締結剛性が向上しており、その結果、走行時の負荷による軸力低下(ゆるみ)が発生せずに、操作感、剛性感及び乗り味が良好なまま保たれたと考えられる。