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特開2024-53906熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053906
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240409BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240409BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20240409BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20240409BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20240409BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240409BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C08L101/00 ZAB
C08K3/013
C08L27/12
C08L27/16
C08L33/08
C08K5/10
C08K3/08
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160411
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】大西 芳史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 寛
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA00W
4J002AC03W
4J002AC06W
4J002BD12X
4J002BD14X
4J002BD15X
4J002BG04W
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002DA076
4J002DA096
4J002DC006
4J002DE076
4J002DE096
4J002DE136
4J002DE146
4J002DF016
4J002DK006
4J002EH037
4J002EH046
4J002FD016
4J002FD206
4J002GQ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、ポンプアウトが発生せず、充分な熱対策が実現できる熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材を提供する事を目的とする。
【解決手段】(A)成分:バインダー、(B)成分:熱伝導性充填材、および(C)成分:フッ素樹脂を含有し、150℃での複素粘度が4000Pa・s以上、熱伝導率が3W/m・K以上であり、(C)成分は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して3~15重量%含有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材により達成できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:バインダー(B)成分:熱伝導性充填材、および(C)成分:フッ素樹脂を含有し、150℃での複素粘度が4000Pa・s以上、熱伝導率が3W/m・K以上であり、
(C)成分は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して3~15重量%含有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
(C)成分が、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分が、脂肪酸エステルおよびアクリル樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分は、平均粒径が1~3μm、および4~25μmのアルミニウム粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分の平均粒径1~3μmのアルミニウム粒子と平均粒径4~25μmのアルミニウム粒子の重量比が1/3~3/1であることを特徴とする請求項4に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を含有する発熱体および/または放熱体と一体化した放熱部材。







【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体モジュールは大量の熱を発生するため、放熱材料が広く使用されている。一方で更なる展開が見込まれている電気自動車や送電システムのインバータやコンバータ等で使用されるパワー半導体においては、半導体素子にシリコンが使用されているが、電力損失が大幅に低減できる、耐電圧が高い、及び高温駆動が可能な点でSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使用する動きがあり、これらの材料に対応した放熱材料が求められる。
【0003】
その中でもTIM(熱界面材料)は、半導体モジュール全体の熱対策において重要な要素となっている。シートタイプのTIMは発熱部材や冷却部材の表面の凹凸に密着できずに接触熱抵抗が大きくなる課題がある。一方、ペーストタイプのTIMは薄く塗布ができ、表面の凹凸に追従できることにより接触熱抵抗が小さくなるが、発熱部材が加熱・冷却を繰り返すことで塗布したTIMが外部に漏出してしまう現象(本現象をポンプアウトと呼ぶ)が発生する課題がある。
【0004】
そのため、常温時に固体状であるため流動性が安定しており、モジュールの発熱による相変化で液状化して密着するシートタイプとペーストタイプの欠点を解消できる材料としてフェーズチェンジタイプが提案されているが、その主原料はシリコーン系であることが多く、分解生成物の低分子シロキサンがモジュール導電不良を引き起こすという課題がある(特許文献1)。
【0005】
また、熱伝導性組成物に熱可塑性樹脂を含有している例が報告されているが、熱可塑性樹脂の軟化点が低く半導体モジュールがより高温駆動になった際のポンプアウト性に劣り、熱伝導率も低いため、充分な熱対策が実現できないという課題がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6436035号公報
【特許文献2】WO2021/182549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、ポンプアウトが発生しにくく、充分な熱対策が実現できる熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた放熱部材を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポンプアウトが発生しにくく、充分な熱対策が実現できる熱伝導性樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下の構成をなす。
【0009】
1).(A)成分:バインダー、(B)成分:熱伝導性充填材、および(C)成分:フッ素樹脂を含有し、150℃での複素粘度が4000Pa・s以上、熱伝導率が3W/m・K以上であり、(C)成分は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して3~15重量%含有することを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【0010】
2).(C)成分が、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)を含有することを特徴とする1)に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0011】
3).(A)成分が、脂肪酸エステルおよびアクリル樹脂を含有することを特徴とする1)または2)に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0012】
4).(B)成分の熱伝導性充填材は、平均粒径が1~3μm、および4~25μmのアルミニウム粒子を含有することを特徴とする1)~3)のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0013】
5).(B)成分の平均粒径1~3μmのアルミニウム粒子と平均粒径4~25μmのアルミニウム粒子の重量比が1/3~3/1であることを特徴とする4)に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0014】
6).1)~5)のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を含有する発熱体および/または放熱体と一体化した放熱部材。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明に係る熱伝導性樹脂組成物は、耐ポンプアウト性に優れ、高い熱伝導性を有するため、発熱体および/または放熱体と一体化した放熱部材に好適な放熱用樹脂組成物として用いることができる。特に、SiCなどを使用した次世代半導体モジュールの有効な熱対策が実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について以下、説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の熱伝導性樹脂組成物は、(A)成分:バインダー、(B)成分:熱伝導性充填材、および(C)成分:フッ素樹脂を含有し、150℃での複素粘度が4000Pa・s以上、熱伝導率が3W/m・K以上であり、(C)成分は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して3~15重量%含有することを特徴とする。
以下各成分について説明する。
【0017】
(A)成分:バインダー
(A)成分は、相転移材を含むことが好ましい。
相転移材を選定することで、高温時に軟化して熱界面材料の役割を付与することが可能となる。前記相転移材の融点は、40~100℃であることが好ましく、40~80℃がより好ましく、45~65℃がさらに好ましい。40℃を下回ると組成物の取り扱いが困難になり、100℃を超えると組成物を熱界面材料として使用することが困難になる場合がある。
【0018】
相転移材は、官能基を有する炭素数1~100の脂肪族炭化水素化合物であることが好ましい。脂肪族炭化水素化合物は、飽和でも不飽和であってもよく、不飽和の場合、例えば不飽和結合(炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合)は、前記官能基と直接結合しない限り、脂肪族炭化水素化合物の任意の部位に結合又は置換していてもよい。また、脂肪族炭化水素化合物は、直鎖、分岐鎖、及び環状のいずれであってもよい。
【0019】
直鎖脂肪族炭化水素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、イコサン等の直鎖アルカン等が挙げられる。
【0020】
分岐鎖脂肪族炭化水素化合物としては、2,2-ジメチル-1,3-プロパン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、3-エチルヘキサン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,3,3,3-テトラメチルブタン、2,2,5-トリメチルヘキサン等の分岐鎖アルカン等が挙げられる。
【0021】
環状脂肪族炭化水素化合物としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、シクロテトラデカン、シクロヘキサデカン、シクロヘプタデカン等;ノルボルナン、アダマンタン等のシクロアルカン等が挙げられる。
【0022】
脂肪族炭化水素化合物の炭素数は、5~99であることが好ましく、10~98であることがより好ましく、12~97であることがさらに好ましく、22~96であることがさらにより好ましく、30~95であることが特に好ましい。
【0023】
官能基は、脂肪族炭化水素化合物に結合してもよく、脂肪族炭化水素化合物の一部で置換されていてもよく、水酸基、エステル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、アミド基、スルホニル基,イミノ基、エーテル基、カルバモイル基、シアノ基等であればよい。中でも、エステル基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基が特に好ましく、エステル基、アミド基が最も好ましい。
【0024】
相転移材は、炭素数1~100の脂肪酸エステル又はアミドを含むことが特に好ましい。脂肪酸エステルは、例えば一価又は多価アルコールと脂肪酸との脱水縮合物であってもよく、上記脂肪族炭化水素化合物に1つ以上の水酸基が結合した化合物と脂肪酸との脱水縮合物であってもよい。脂肪酸エステルにおける脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれでもよい。
【0025】
飽和脂肪酸としては、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ベラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸(アラキジン酸)、ヘニコシル酸、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラドコサン酸(リグノセリン酸)、ヘキサドコサン酸(セロチン酸)、オクタドコサン酸(モンタン酸)、メリシン酸等の炭素数4~30の飽和脂肪酸が挙げられる。
【0026】
不飽和脂肪酸としては、9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、cis-9-オクタデセン酸(オレイン酸)、11-オクタデセン酸(バクセン酸)、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、9,12,15-オクタデカトリエン酸((9,12,15)-リノレン酸)、6,9,12-オクタデカトリエン酸((6,9,12)-リノレン酸)、9,11,13-オクタデカトリエン酸(エレオステアリン酸)、8,11-イコサジエン酸、5,8,11-イコサトリエン酸、5,8,11,14,-イコサテトラエン酸(アラキドン酸)、cis-15-テトラドコサン酸(ネルボン酸)等の炭素数4~30の不飽和脂肪酸が挙げられる。これらの飽和又は不飽和の脂肪酸は、単独で又は複数を合わせて使用してもよい。脂肪酸の炭素数は、好ましくは6~28、より好ましくは8~26、さらに好ましくは10~24、さらにより好ましくは12~22である。
【0027】
脂肪酸エステルは、モノエステル型脂肪酸エステル、ポリエステル型脂肪酸エステルのいずれであってもよい。モノエステル型脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ラウリン酸ラウリル、ベヘニン酸ベへニン、ミリスチン酸セチル等が挙げられる。
ポリエステル型脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0028】
中でも、脂肪酸エステルは、ポリエステル型脂肪酸エステルであることが好ましく、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルであることがより好ましく、ペンタエリスリトールに炭素数12~22の脂肪酸が脱水縮合したエステル化物であることがさらに好ましい。
脂肪酸アミドは、例えばアミン(例えばアンモニア、エチレンジアミン)と脂肪酸との脱水縮合物であればよい。脂肪酸アミドは、アミドが分子末端に存在するモノアミド、分子末端以外の部分がアミドに置換されたモノアミド又はジアミド、分子末端にメチロールアミドが結合したモノアミド等であればよい。脂肪酸アミドにおける脂肪酸は、飽和又は不飽和のいずれでもよく、脂肪酸エステルで説明した脂肪酸が挙げられる。
【0029】
モノアミドとしては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド;N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリル酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等の置換不飽和脂肪酸アミド;メチロールステアリン酸アミド等のメチロールアミド;等が挙げられる。
【0030】
ジアミドとしては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸ビスアミド;等が挙げられる。中でも不飽和脂肪酸アミドが好ましく、不飽和脂肪酸モノアミドがより好ましく、オレイン酸アミドがさらに好ましい。
【0031】
前記相転移材の種類としては、上記脂肪酸エステル、脂肪酸アミド以外に、パラフィンワックス等を挙げることができる。特に組成物に充分な耐熱性を付与できる点、及び容易に入手可能な点で、脂肪酸エステルを少なくとも1種以上含有することが好ましい。
【0032】
相転移材は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、0.1~20重量%であることが相転移時の基材との密着性を向上させて熱伝導率を向上させることができるので好ましい。より好ましくは0.2~10重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%含むことである。
【0033】
また(A)成分は、室温(23℃)で液状である液状樹脂を含むことが好ましい。液状樹脂を選定することで、無機充填剤を多量に含有させることが可能となる。前記液状樹脂の25℃における粘度は特に限定されないが、100Pa・s以下であり、90Pa・s以下がより好ましく、80Pa・s以下がさらに好ましい。100Pa・sを超えると組成物の各成分を均一に混錬することが困難になる場合がある。
【0034】
前記液状樹脂の種類としては、アクリル樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、脂肪酸エステル、多塩基酸エステル等を挙げることができる。
【0035】
アクリル樹脂は、例えば両末端に反応性基を有するものであればよく、テレケリックポリアクリレート(カネカ製、SA100S、SA110S、SA120S、SA310S)等を用いてもよい。また別のアクリル樹脂は、例えば官能基を有さないアクリル樹脂であってもよく、東亞合成株式会社製のARUFON(登録商標)シリーズのアクリル樹脂(例えば、UP-1000、UP-1010、UP-1020、UP-1021、UP-1061、UP-1080、UP-1110、UP-1170、UP-1172、UP-1190、UP-1500)等を用いてもよい。
【0036】
脂肪酸エステルは、前記相転移材として各種化合物名を例示したが、例示した化合物のうち、室温(23℃)で液状のものは、液状樹脂として好適に用いることができる。
【0037】
多塩基酸エステルは、1つ以上のカルボキシル基がエステル化された化合物であればよく、例えば置換されていてもよいグルタル酸エステル、置換されていてもよいピロメリット酸エステル、置換されていてもよいアジピン酸等を挙げることができる。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基等の炭素数1~20の直鎖アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の分岐鎖アルキル基等が挙げられる。
【0038】
特に有機溶媒で溶解した際に適切な粘度を得られる点、及び容易に入手可能な点、印刷性の点で、少なくとも1種以上のアクリル樹脂を含有することが好ましい。液状樹脂は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、好ましくは0.5~40重量%、より好ましくは1~30重量%、さらに好ましくは5~20重量%含むことである。
【0039】
上述した(A)成分の中でも、相転移材と液状樹脂の両方を含むことが好ましい。相転移材としては、飽和または不飽和の官能基を有する炭素数1~100の脂肪族炭化水素化合物であることが好ましく、脂肪酸エステルがより好ましい。また、液状樹脂としては、アクリル樹脂であることが好ましい。特に(A)成分には、脂肪酸エステルおよびアクリル樹脂を含有すること特に好ましい。
【0040】
(B)成分:熱伝導性充填材
熱伝導性充填材を含有することで、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を向上することができる。充填量を増やして熱伝導率を向上することができる傾向にあること、容易に入手可能な点で、アルミニウム粒子を含有することが好ましい。
【0041】
アルミニウム粒子以外の熱伝導性充填材も熱伝導率が3W/m・K以上とできる範囲で使用することができる。アルミニウム粒子以外の熱伝導性充填材の種類としては特に限定されないが、グラファイト、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド等の炭素化合物、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムおよび窒化ケイ素等の金属窒化物、炭化ホウ素、炭化アルミニウムおよび炭化ケイ素等の金属炭化物、アクリロニトリル系ポリマー焼成物、フラン樹脂焼成物、クレゾール樹脂焼成物、ポリ塩化ビニル焼成物、砂糖の焼成物および木炭の焼成物等の有機性ポリマー焼成物、Znフェライトとの複合フェライト、Fe-Al-Si系三元合金、銅粒子、銀粒子、ニッケル粒子等の金属粒子、結晶性シリカ等を使用することができ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。充填材の形状も特に限定されるものではなく、球状、板状(例えば鱗片状)、破砕状等を使用することができ、単独で又は2種以上組み合わせ使用することができる。球状の形状物は、熱伝導率、印刷性をバランスよく向上させることが可能である。他方、球状以外の形状物を用いると、熱伝導率をより一層高めることができる。
【0042】
また、熱伝導性充填材とバインダーとの分散性を向上させる目的で、予めシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の処理により熱伝導性充填材表面の修飾を施していても良い。
【0043】
(B)成分の配合量は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、75~95重量%とすることが好ましく、80~95重量%とすることがより好ましく、85~95重量%とすることがさらに好ましい。75重量%以上含有することでポンプアウト性向上および熱伝導率向上が見込める。
【0044】
(B)成分のアルミニウム粒子は平均粒径が1~3μmの粒子、および4~25μmの粒子を含有することが、熱伝導率を向上することができる点で好ましい。
【0045】
(B)成分の平均粒径1~3μmのアルミニウム粒子と平均粒径4~25μmのアルミニウム粒子の重量比は、1/3~3/1であることがポンプアウト性と熱伝導率を両立する上で好ましく、1/3~2/1であることがより好ましく、1/2~2/1であることがさらに好ましい。
【0046】
(C)成分:フッ素樹脂
フッ素樹脂を含有することで、熱伝導性樹脂組成物の高温時の粘性を向上することができる。前記フッ素樹脂の種類としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレンコポリマー)等を挙げることができる。
【0047】
特に半導体モジュールの発熱時に適切な粘性を得られる点で、少なくとも1種以上のPVDF(ポリビニリデンフルオライド)を含有することが好ましい。フッ素樹脂は、熱伝導性樹脂組成物100重量%に対して、3~15重量%とすることが好ましく、3~12重量%とすることがより好ましく、3~9重量%とすることがさらに好ましい。3重量%以上含有することでポンプアウト性向上が見込める。
【0048】
(D)その他成分
上記(A)~(C)成分のほかに、必要に応じて(A)成分以外の樹脂、熱老化防止剤、可塑剤、増量剤、チクソ性付与剤、接着性付与剤、脱水剤、カップリング剤、難燃剤、充填剤、溶剤等を添加することができる。
【0049】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の各成分を均一に混錬させる方法は、特に限定されない。あらかじめ室温で成分を混錬させたのち常温で攪拌混錬することも、加熱ロール、ニーダー、押出機等により溶融混錬することもできる。混錬温度としては樹脂の熱老化が起こらない温度であれば特に限定されず、120℃以下であることが好ましい。
【0050】
本発明の熱伝導性樹脂組成物をスクリーン印刷する際の有機溶媒は、印刷したのち120℃以下での乾燥時に揮発するものであれば特に限定されず、ドデカン、テトラデカン等を使用することができる。有機溶媒量としてはスクリーン印刷した際にパターン間に滲みが起こらない量であれば特に限定されず、組成物100重量%に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率(23℃)は、熱源からの熱を効率良く伝えるために3W/m・K以上である。本願発明における熱伝導率は、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製TPS2500S)により測定することができる。
【0052】
本願発明においては150℃における熱伝導性樹脂組成物の複素粘度を、150℃複素粘度と定義する。本願発明の150℃複素粘度は、4000Pa・s以上であることがポンプアウトを低減できるので好ましい。より好ましくは4500Pa・s以上、さらに好ましくは5000Pa・s以上である。複素粘度は、例えばレオメーター(ティー・エイ・インスツルメント製ARES G2)により測定することができる。
【0053】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱により相転移、軟化して基材に密着し、熱抵抗が小さくなり、充分な熱対策を実現できる点で、特に半導体モジュールの放熱部材に好適である。
【実施例0054】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
<熱伝導率測定>
本実施例に示す熱伝導率は以下に示す分析装置および測定条件で測定した。
得られた組成物(試験片の大きさ10×10×6.5mm)を、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製TPS2500S)により23℃において熱伝導率を測定した。
【0056】
<150℃複素粘度測定>
本実施例に示す複素粘度は以下に示す分析装置および測定条件で測定した。
得られた組成物を、レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント製ARES G2)により複素粘度を測定した。具体的には、組成物をパラレルプレートΦ25mm、角周波数1rad/s、歪0.1%において測定し、150℃での値を読み取った。
【0057】
(実施例1)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.2重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 9.7重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 33.7重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 15.2重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 35.4重量部
(C)成分:フッ素樹脂
PVDF(シグマアルドリッチ株式会社製 182702) 4.8重量部
上記成分を100℃にて加熱溶融させたのち混錬し、均一な組成物を得た。
【0058】
(実施例2)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.2重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 9.7重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 33.7重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 15.2重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 35.4重量部
(C)成分:フッ素樹脂
PVDF(アルケマ社製 Kynar 301F) 4.8重量部
上記成分を実施例1と同様の方法で組成物を作製した。
【0059】
(比較例1)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.2重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 10.2重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 35.4重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 15.9重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 37.2重量部
上記成分を実施例1と同様の方法で組成物を作製した。
【0060】
(比較例2)
(A)成分:バインダー
脂肪酸エステル(日油株式会社製ユニスター H-476D) 1.2重量部
アクリル樹脂(東亞合成株式会社製ARUFON UP-1172) 9.9重量部
(B)成分:熱伝導性充填材
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A02P 平均粒径2μm) 34.4重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A10P 平均粒径10μm) 15.5重量部
アルミニウム粒子(東洋アルミニウム株式会社製 TFH-A20P 平均粒径20μm) 36.1重量部
(C)成分:フッ素樹脂
PVDF(シグマアルドリッチ株式会社製 182702) 2.9重量部
上記成分を実施例1と同様の方法で組成物を作製した。
【0061】
実施例1~2および比較例1~2で製造した組成物の各種特性を測定した。結果を表1に示す。なお、150℃複素粘度が4000Pa・s以上である実施例1~2はポンプアウトも発生せず良好であったが、150℃複素粘度が4000Pa・s未満である比較例1~2はポンプアウトが発生し不良であった。
【0062】
【表1】