IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トーヨーエイテック株式会社の特許一覧

特開2024-53919内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法
<>
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図1
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図2
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図3
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図4
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図5
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図6
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図7
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図8
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図9
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図10
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図11
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図12
  • 特開-内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053919
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20240409BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
F04C2/10 311A
F04C15/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160436
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 優夢
(72)【発明者】
【氏名】久保木 浩之
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC13
3H041CC15
3H041DD06
3H041DD38
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC14
3H044CC18
3H044DD05
3H044DD28
(57)【要約】
【課題】インナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉防止と、オイル漏れの抑制を両立させる。
【解決手段】インナーロータ2及びアウターロータ3をそれぞれ理想中心位置に配置する準備工程と、下死点においてアウターロータと噛み合い、アウターロータとインナーロータとが第1接触点11を有するまで、インナーロータを回転させるインナーロータ回転工程S2と、第1接触点においてインナーロータを固定した状態で、アウターロータをインナーロータの回転方向と同じ方向へ回転させるアウターロータ回転工程S3と、を含み、アウターロータ回転工程において、アウターロータ3の外周面3bがケーシング4の内周面4aと接触するまでの間に、アウターロータとインナーロータとが第2接触点を有するか否かを評価の指標とする。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n枚の外歯を有するインナーロータと、
前記外歯に外周側から噛み合うn+1枚の内歯を有するアウターロータと、
前記アウターロータとの間にボディクリアランスを有し、前記アウターロータの外周を覆うケーシングと、を備え、
前記インナーロータ及び前記アウターロータが噛み合って回転する際に、前記インナーロータ及び前記アウターロータの歯面間に形成される複数の閉じ込み部の容積変化によって流体を吸入又は吐出して流体を搬送する内接形ギヤポンプにおいて、
前記インナーロータ及び前記アウターロータをそれぞれ理想中心位置に配置する準備工程と、
下死点において前記アウターロータと噛み合い、該アウターロータと前記インナーロータとが第1接触点を有するまで、前記インナーロータを回転させるインナーロータ回転工程と、
前記第1接触点において前記インナーロータを固定した状態で、前記アウターロータを前記インナーロータの回転方向と同じ方向へ回転させるアウターロータ回転工程と、を含み、
前記アウターロータ回転工程において、前記アウターロータの外周面が前記ケーシングの内周面と接触するまでの間に、前記アウターロータと前記インナーロータとが第2接触点を有するか否かを評価の指標とする、内接形ギヤポンプの歯形評価方法。
【請求項2】
前記アウターロータ回転工程において、
前記アウターロータと前記インナーロータとが第2接触点を有しない場合に、前記アウターロータ及び前記インナーロータの歯形を合格と判定し、
前記アウターロータと前記インナーロータとが第2接触点を有する場合に、前記アウターロータ及び前記インナーロータの歯形を不合格と判定する、請求項1に記載の内接形ギヤポンプの歯形評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載の内接形ギヤポンプの歯形評価方法において、不合格と判定された前記インナーロータの歯形形成方法であって、
前記インナーロータの歯先の方向を、前記アウターロータの歯底の方向へ一致させ、前記インナーロータ及び前記アウターロータを噛み合わせる噛み合わせ工程と、
底部と該底部の両側に位置する湾曲部により形成される前記アウターロータの歯底において、該湾曲部の曲率半径を仮想的に拡大させ、前記インナーロータの歯先よりも内側へ食い込む仮想湾曲部を設定するアウターロータ設定工程と、
前記インナーロータの歯先の、前記仮想湾曲部よりも外側にはみ出した部分を削り取るインナーロータ修正工程と、を含む、内接形ギヤポンプの歯形形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の動力機構には、オイルによって潤滑部位を潤滑させるためのポンプが設けられる。例えば、内接形ギヤポンプは、インナーロータの外歯と、アウターロータの内歯とが噛み合いながら回転する際に、その間に形成される複数の閉じ込み部の容積変化によってポンプ動作を行うことにより、オイルの吸入と吐出を行う。
【0003】
このような内接形ギヤポンプでは、インナーロータの歯面とアウターロータの歯面との間に所定の歯間隙間が設けられるようにインナーロータ及びアウターロータの歯形が設計される。しかしながら、実際のポンプ稼働時には、歯形の寸法精度によってインナーロータとアウターロータの歯間隙間が設計時の数値から外れ、インナーロータとアウターロータが噛み合い部以外にも接触点を有してしまい、滑らかに回転しないことがあり、駆動トルクが増大する。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1では、アウターロータとの噛み合い部以外の箇所でアウターロータとの間に歯間隙間を確保できるよう、インナーロータの歯面を歯間隙間相当分インナーロータ中心に対して外側に大きくオフセットさせることを繰り返して、アウターロータの歯形を設計することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5561287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インナーロータとアウターロータの歯間隙間を可能な限り狭くすれば、オイルの漏れを防ぐことが可能である。しかしながら、歯間隙間を狭く設計しすぎると上記のような干渉が起こり易く、駆動トルクが増大する。一方、歯間隙間を広く設計しすぎると上記のような干渉は起こり難いが漏れが増加してしまうおそれがある。特許文献1では、加工誤差が生じた場合にも、インナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉を防げるように、インナーロータのインナーロータ回転角の各位置におけるオフセット量をロータに許容される加工誤差よりも大きく設定する。特許文献1のような歯形形成方法では、歯間隙間が必要以上に拡大されることで漏れの増加が懸念され、かつ、2点接触を回避できないおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉を防止し、駆動トルクの増加を防ぐことと、歯間隙間を可能な限り狭くして漏れの増加を抑制することを両立させた内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、アウターロータの外周面とケーシングの内周面との間のボディクリアランスを考慮することで、歯間隙間を必要以上に拡大させることなくインナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉を防ぐものとした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
n枚の外歯を有するインナーロータと、
前記外歯に外周側から噛み合うn+1枚の内歯を有するアウターロータと、
前記アウターロータとの間にボディクリアランスを有し、前記アウターロータの外周を覆うケーシングと、を備え、
前記インナーロータ及び前記アウターロータが噛み合って回転する際に、前記インナーロータ及び前記アウターロータの歯面間に形成される複数の閉じ込み部の容積変化によって流体を吸入又は吐出して流体を搬送する内接形ギヤポンプにおいて、
前記インナーロータ及び前記アウターロータをそれぞれ理想中心位置に配置する準備工程と、
下死点において前記アウターロータと噛み合い、該アウターロータと前記インナーロータとが第1接触点を有するまで、前記インナーロータを回転させるインナーロータ回転工程と、
前記第1接触点において前記インナーロータを固定した状態で、前記アウターロータを前記インナーロータの回転方向と同じ方向へ回転させるアウターロータ回転工程と、を含み、
前記アウターロータ回転工程において、前記アウターロータの外周面が前記ケーシングの内周面と接触するまでの間に、前記アウターロータと前記インナーロータとが第2接触点を有するか否かを評価の指標とする。
【0010】
上記の構成によると、実際のポンプ稼働時にアウターロータが移動してケーシングの内周面と干渉することを考慮して、歯間隙間を必要以上に拡大させることなくインナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉を防ぐような歯形か否かを評価できる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明の前記アウターロータ回転工程において、
前記アウターロータと前記インナーロータとが第2接触点を有しない場合に、前記アウターロータ及び前記インナーロータの歯形を合格と判定し、
前記アウターロータと前記インナーロータとが第2接触点を有する場合に、前記アウターロータ及び前記インナーロータの歯形を不合格と判定する。
【0012】
上記の構成によると、歯間隙間を必要以上に拡大させることなくインナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉を防ぐような歯形であるかの合否を容易に判定することが可能である。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、不合格と判定された前記インナーロータの歯形形成方法であって、
前記インナーロータの歯先の方向を、前記アウターロータの歯底の方向へ一致させ、前記インナーロータ及び前記アウターロータを噛み合わせる噛み合わせ工程と、
底部と該底部の両側に位置する湾曲部により形成される前記アウターロータの歯底において、該湾曲部の曲率半径を仮想的に拡大させ、前記インナーロータの歯先よりも内側へ食い込む仮想湾曲部を設定するアウターロータ設定工程と、
前記インナーロータの歯先の、前記仮想湾曲部よりも外側にはみ出した部分を削り取るインナーロータ修正工程と、を含む。
【0014】
インナーロータの歯面の形状は、歯先円と歯底円とが連なるように設計されるが、この歯先円と歯底円との繋ぎ目部分が角張っている場合にアウターロータとの干渉に影響すると考えられる。上記の構成によると、インナーロータの歯形をアウターロータの歯底の隅Rの形状に基づいて修正することで、歯先円と歯底円との繋ぎ目部分が滑らかに形成され、インナーロータとアウターロータとの歯間隙間を必要以上に拡大させない。これにより、インナーロータとアウターロータとの干渉を防いで駆動トルクの増加を抑制することと、オイルの漏れの防止を両立させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本開示の技術により、インナーロータとアウターロータの噛み合い部以外の位置での干渉を防いで駆動トルクの増加を抑制することと、漏れの増加を防ぐことを両立させた内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る内接形ギヤポンプを示す概略図である。
図2】インナーロータの作成方法を説明する概略図である。
図3】アウターロータの作成方法を説明する概略図である。
図4】アウターロータの作成方法を説明する一部拡大図である。
図5】インナーロータ及びアウターロータが第1接触点を有する状態を示す概略図である。
図6】アウターロータがケーシングの内周面に接触した状態を示す概略図である。
図7】インナーロータの歯形修正方法を説明する概略図である。
図8】インナーロータの歯形修正方法を説明する一部拡大図である。
図9】インナーロータの歯形修正方法を説明する一部拡大図である。
図10】インナーロータの歯形修正方法を説明する一部拡大図である。
図11】内接形ギヤポンプの歯形評価方法及び歯形形成方法のフローチャートである。
図12】インナーロータの歯形修正後の歯形のRサイズを説明する概略図である。
図13】オイル漏れに影響する範囲を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
[ギヤポンプの構成]
図1は、本発明の実施形態に係るギヤポンプを示す概略図である。図1に示すように、このギヤポンプは、内接型のギヤポンプ1であり、インナーロータ2、アウターロータ3及びケーシング4を備える。ギヤポンプ1は、インナーロータ2及びアウターロータ3が噛み合って回転する際に、インナーロータ2及びアウターロータ3の歯面間に形成される複数の閉じ込み部5の容積変化によって流体を吸入又は吐出してオイル等の流体を搬送する。
【0019】
インナーロータ2は、外周面にn枚の外歯2aを有し、中央部にポンプシャフト(図示省略)が挿通される。外歯2aは、周方向に連続して形成され、アウターロータ3の内歯3aと噛み合う。インナーロータ2の外歯2aは、アウターロータ3の内歯3aよりも1枚少なく形成されている。本実施形態では、インナーロータ2には6枚の外歯2aが形成されている。
【0020】
アウターロータ3は、内周面にn+1枚の内歯3aを有する。本実施形態では、アウターロータ3には7枚の外歯2aが形成されている。内歯3aは、周方向に連続して形成され、インナーロータ2の外歯2aに外周側から噛み合う。アウターロータ3は、インナーロータ2に対して偏心するように配置される。アウターロータ3は、インナーロータ2の回転に従動して回転する。
【0021】
ケーシング4は、アウターロータ3の外周を覆う。ケーシング4は断面円形のロータ収容空間を備え、そのロータ収容空間にアウターロータ3及びインナーロータ2を収容している。ギヤポンプ1は、ロータ収容空間を形成する内周面4aとアウターロータの外周面3bとの間に所定のボディクリアランス6を有する。
【0022】
[インナーロータの作成方法]
図2は、インナーロータの作成方法を説明する概略図である。図2に示すように、本実施形態のインナーロータ2は、トロコイド曲線20をベースにした一般的な作成方法で作成される。すなわち、まずベースとなるトロコイド曲線20を作成する。
【0023】
パラメータA,B,eを下記のように定義したとき、下記パラメータと角度の媒介変数θにより、トロコイド曲線の座標(x,y)は下記式(1)により表される。
A:インナーロータの中心点を中心とする固定円(基礎円)の直径である。
B:基礎円周上を転がる円(転円)の直径である。
e:転円が転がった時の転円の中心からeだけ離れた点の軌跡によりトロコイド曲線が描かれる。アウターロータの偏心量に相当する。
【0024】
【数1】
【0025】
上記式(1)によって得られたトロコイド曲線20上の点を中心とする軌跡円21群の包絡線により、インナーロータ2の歯形曲線が設計される。
【0026】
トロコイド曲線20上の点を中心とする軌跡円21の直径をCとしたとき、包絡線の座標(X,Y)は下記式(2)及び(3)で表され、式(2),(3)のうち、(X+Y)の値の小さい方を取った(X,Y)をインナーロータ2の歯形曲線とする。なお、式(2),(3)中のパラメータKは式(4)で表される。
【0027】
【数2】
【0028】
[アウターロータの作成方法]
図3は、アウターロータの作成方法を説明する概略図である。図3に示すように、本実施形態のアウターロータ3は、トロコイド曲線20をベースに作成されたインナーロータ2に対するアウターロータ3の作成方法として一般的な方法で作成される。すなわち、まずアウターロータ3の歯底に沿う歯底円31を作成する。歯底円の直径Dは上記パラメータA~C及びeを用いた下記式(5)で表される。下記式(5)において、γ1は、インナーロータ2とアウターロータ3との歯形の間に歯間隙間を設けるために設定される調整寸法である。このパラメータDを用いて、下記式(6)で表される歯底円31を作成する。
【0029】
D=A+B+4e-C+γ1 ・・・(5)
+Y=(D/2) ・・・(6)
次にアウターロータ3の歯先に沿う歯先円32を作成する。歯先円32のパラメータPCDは、上記パラメータA及びBと、インナーロータ2とアウターロータ3との歯面の間に歯間隙間を設けるために設定される調整寸法γ2を用いて、PCD=A+B+γ2と定義される。このようなPCDを用いて、アウターロータ3の歯先円32は下記式(7)で表される。下記式(7)において、Cはアウターロータ3の歯先円32の直径であり、上記軌跡円21の直径と同じである。
【0030】
【数3】
【0031】
アウターロータ3は、上記式(6)で表される歯底円31及び上記式(7)で表される歯先円32を繋ぎ合わせて作成される。以上のように作成されたアウターロータ3の歯形は、歯底円31と歯先円32との繋ぎ目が角張った形状であるため、繋ぎ目をR形状にする必要がある。
【0032】
図4は、アウターロータの作成方法を説明する概略図であって、一部を拡大した図である。アウターロータ3の歯底円31と歯先円32との繋ぎ目は、歯先円32の外接する円であり、かつ、歯底円31に内接する円である補正円33に沿うR形状に形成される。
【0033】
[歯形評価方法]
上記のように形成したインナーロータ2及びアウターロータ3の歯形は、実際に噛み合わせて回転させた際に、インナーロータ2とアウターロータ3の噛み合い部以外の位置で干渉しないか検査することが好ましい。
【0034】
インナーロータ2及びアウターロータ3の歯形の評価方法について、図5から図10及び図11のフローチャートを用いて説明する。
【0035】
まず、準備工程S1として、インナーロータ2及びアウターロータ3をそれぞれ理想中心位置に配置する。理想中心位置とは、インナーロータ2の回転中心とインナーロータ2に固定された回転軸の回転中心とが一致するとともに、アウターロータ3の回転中心とアウターロータ3が収容されるロータ収容空間の中心とが一致する状態であり、理論偏心位置とも呼ばれる。
【0036】
次に、インナーロータ回転工程S2として、図5に示すように、下死点においてインナーロータ2がアウターロータ3と噛み合い、アウターロータ3とインナーロータ2とが第1接触点11を有するまで、アウターロータ3を固定した状態でインナーロータ2を図5中の矢印の方向へ回転させる。なお図5中、点線の丸印で示した部分には、アウターロータ3とインナーロータ2との間に所定の歯間隙間10が存在している。
【0037】
次に、アウターロータ回転工程S3として、図6に示すように、第1接触点11においてインナーロータ2を固定した状態で、アウターロータ3をインナーロータ2の回転方向と同じ方向(図6中矢印の方向)へ回転させる。
【0038】
アウターロータ回転工程S3において、アウターロータ3の外周面3bがケーシング4の内周面4aと接触するまでの間に、アウターロータ3とインナーロータ2とが第2接触点を有するか否かを評価の指標とすることができる。例えば、図6中星印の位置で、アウターロータ3の外周面3bがケーシング4の内周面4aと接触する。
【0039】
歯形の評価は、具体的には、判定工程S4において、アウターロータ3とインナーロータ2とが第2接触点を有しない場合に、アウターロータ3及びインナーロータ2の歯形を合格と判定して、評価を終了する。また、判定工程S4において、アウターロータ3とインナーロータ2とが第2接触点を有する場合に、アウターロータ3及びインナーロータ2の歯形を不合格と判定して、インナーロータ2の歯形の修正を行う。
【0040】
[インナーロータの歯形修正]
判定工程S4において不合格と判定された場合、インナーロータ2の歯形を修正する。まず、噛み合わせ工程S5として、図7に示すように、インナーロータ2の歯先2bの方向を、仮想上のアウターロータ7の歯底7aの方向へ一致させ、インナーロータ2及び仮想上のアウターロータ7が共通する対称線Lを有するように噛み合わせる。
【0041】
図8は、図7のX部を拡大させた図であり、インナーロータ2の歯先円と歯底円との繋ぎ目部分2cを拡大した図である。アウターロータ7の歯底7aは、歯底円に接する底部70と、底部70の両側に位置する湾曲部71により形成される。湾曲部71は、歯底円と歯先円との繋ぎ目部分であり、アウターロータ7の形成時に角張った形状を滑らかに形成した部分である。アウターロータ設定工程S6として、図8に示すように、アウターロータ7の歯底7aにおいて、湾曲部71の曲率半径を仮想的に拡大させ、インナーロータ2の歯先よりも内側へ食い込む仮想湾曲部72を設定する。
【0042】
図9は、図8と同様に図7のX部を拡大させた図である。図9は、インナーロータ2の歯先円と歯底円との繋ぎ目部分2cと、アウターロータ7の仮想湾曲部72を示す。図9に示すように、インナーロータ2の歯先円と歯底円との繋ぎ目部分2cは、角張っている。この角張った繋ぎ目部分2cは、仮想湾曲部72よりも外周側にはみ出している。
【0043】
次のインナーロータ修正工程S7では、図10に示すように、インナーロータ2の歯先の、仮想湾曲部72よりも外側にはみ出した繋ぎ目部分2cを削り取り、この繋ぎ目部分2cを仮想湾曲部72に沿った修正繋ぎ目部分2dとする。
【0044】
上記のように形成したインナーロータ2とアウターロータ3を用いて、準備工程S1、インナーロータ回転工程S2及びアウターロータ回転工程S3の順に、再度歯形の評価を実施する。
【0045】
再度の判定工程S4において、アウターロータ3とインナーロータ2とが第2接触点を有しない場合は、アウターロータ3及びインナーロータ2の歯形を合格と判定して、評価を終了する。判定工程S4において、アウターロータ3とインナーロータ2とが第2接触点を有する場合は、アウターロータ3及びインナーロータ2の歯形を不合格と判定して、再度、噛み合わせ工程S5、アウターロータ設定工程S6及びインナーロータ修正工程S7の順にインナーロータ2の歯形の修正を行い、判定工程S4において、アウターロータ3とインナーロータ2とが第2接触点を有しなくなるまで繰り返す。
【0046】
図12に示すように、このように修正したインナーロータ2の歯形のRサイズは、パラメータΔb,Δt,R1及びR2を下記のように定義したとき、下記式(8)により表され、例えば、本実施形態においてはα=0.0036である。
Δb:ケーシング4の内周面4aとアウターロータ3の外周面3bとの隙間(ボディクリアランス6)である。
Δt:インナーロータ2の歯面とアウターロータ3の歯面との隙間(歯間隙間10)である。
R1:アウターロータ3の外径である。
R2:歯間隙間10が生じる位置を結ぶ円(ピッチ円8)の直径である。
【0047】
【数4】
【0048】
以上説明したように、本実施形態の内接形ギヤポンプの歯形評価方法は、実際のポンプ稼働時にアウターロータ3が移動してその外周面3bがケーシング4の内周面4aと干渉することを考慮して、歯間隙間を必要以上に拡大させることなくインナーロータ2とアウターロータ3の噛み合い部以外の位置での干渉を防ぐような歯形か否かを評価できる。
【0049】
インナーロータ2とアウターロータ3との歯間隙間が広すぎると、図13に斜線で示すように、閉じ込み部5の周方向両側においてオイル漏れに影響が出でしまうが、本実施形態の内接形ギヤポンプの歯形形成方法は、インナーロータ2の歯形をアウターロータ3の歯底の隅Rの形状に基づいて修正することで、歯先円と歯底円との繋ぎ目部分が滑らかに形成され、インナーロータ2とアウターロータ3との歯間隙間を必要以上に拡大させない。このような方法により、インナーロータ2とアウターロータ3との噛み合い部以外の位置での干渉を防いで駆動トルクの増加を防ぐことと、オイル漏れの増加を抑制することを両立させることができる。
【0050】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0051】
1 ギヤポンプ
2 インナーロータ
2a 外歯
3 アウターロータ
3a 外歯
3b 外周面
4 ケーシング
4a 内周面
5 閉じ込み部
6 ボディクリアランス
7 仮想上のアウターロータ
7a 歯底
10 歯間隙間
11 第1接触点
70 底部
71 湾曲部
72 仮想湾曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13