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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053930
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】メタン合成装置制御方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/12 20060101AFI20240409BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C07C1/12
C07C9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160459
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 俊之輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】今成 岳人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 慶
(72)【発明者】
【氏名】内 尚泰
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充里
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AB44
4H006AC11
4H006BE20
4H006BE41
(57)【要約】
【課題】第二反応炉における炭素析出を抑制する
【解決手段】メタン合成装置制御方法は、二酸化炭素と水素を用いてメタン合成反応を生じさせる第一反応炉と、第一反応炉で生成された第一反応生成物から水を凝縮して除去する第一水凝縮器と、第一水凝縮器で得られた第一水除去物を用いてメタン合成反応を生じさせる第二反応炉と、第二反応炉で生成された第二反応生成物から水を凝縮して除去する第二水凝縮器と、を有するメタン合成装置に対し、第二反応炉の反応炉温度の上昇が想定される場合又は上昇した場合に、第一水凝縮器の水凝縮温度を、第二反応炉での炭素析出を抑制する炭素析出抑制水温まで上昇させる水温上昇工程を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素を用いてメタン合成反応を生じさせる第一反応炉と、
前記第一反応炉で生成された第一反応生成物から水を凝縮して除去する第一水凝縮器と、
前記第一水凝縮器で得られた第一水除去物を用いてメタン合成反応を生じさせる第二反応炉と、
前記第二反応炉で生成された第二反応生成物から水を凝縮して除去する第二水凝縮器と、
を有するメタン合成装置に対し、
前記第二反応炉の反応炉温度の上昇が想定される場合又は上昇した場合に、前記第一水凝縮器の水凝縮温度を、前記第二反応炉での炭素析出を抑制する炭素析出抑制水温まで上昇させる水温上昇工程、を有するメタン合成装置制御方法。
【請求項2】
前記水温上昇工程において前記水凝縮温度を前記炭素析出抑制水温まで上昇させた後、前記第二反応炉の反応炉温度が降下又は安定した場合に、前記水凝縮温度を前記炭素析出抑制水温未満に降下させる水温降下工程、を有する請求項1に記載のメタン合成装置制御方法。
【請求項3】
前記炭素析出抑制水温が時間的に一定温度である請求項1又は請求項2に記載のメタン合成装置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、メタン合成装置を制御するためのメタン合成装置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1反応器と第2反応器とを有するメタン製造装置が記載されている。このメタン製造装置では、第1反応器において、供給源から供給された二酸化炭素と水素とを含む原料ガスを用いて、メタン化反応を生じさせる。また、第2反応器では、第1反応器で生成されたメタンを含む反応混合ガスを用いて、メタン化反応を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-142807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際のメタン合成装置では、下流側の反応炉(第二反応炉)において、炭素が析出することがあり、炭素析出によってメタン合成反応に影響を及ぼすおそれがある。しかしながら、第二反応炉において、炭素析出を抑制することが可能なメタン合成装置制御方法は提案されていない。
【0005】
本開示の技術では、上記事実を考慮し、第二反応炉における炭素析出を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様のメタン合成装置制御方法では、二酸化炭素と水素を用いてメタン合成反応を生じさせる第一反応炉と、前記第一反応炉で生成された第一反応生成物から水を凝縮して除去する第一水凝縮器と、前記第一水凝縮器で得られた第一水除去物を用いてメタン合成反応を生じさせる第二反応炉と、前記第二反応炉で生成された第二反応生成物から水を凝縮して除去する第二水凝縮器と、を有するメタン合成装置に対し、前記第二反応炉の反応炉温度の上昇が想定される場合又は上昇した場合に、前記第一水凝縮器の水凝縮温度を、前記第二反応炉での炭素析出を抑制する炭素析出抑制水温まで上昇させる水温上昇工程、を有する。
【0007】
第一態様のメタン合成装置制御方法では、第一反応炉と第二反応炉の2つの反応炉を有するメタン合成装置を対象としている。メタン合成反応を複数段階で行うので、メタン合成反応を1段階で行う構成と比較して、第二水凝縮器で得られる第二水除去物のメタン変換率を必要に応じて高くすることが可能となる。
【0008】
ここで、第二反応炉の反応炉温度が上昇した場合に、水凝縮温度が一定であると、第二反応炉での炭素が析出することがある。しかし、このメタン合成装置制御方法では、第二反応炉の反応炉温度の上昇が想定される場合又は上昇した場合に行う水温上昇工程を有している。水温上昇工程においては、第一水凝縮器の水凝縮温度を、第二反応炉での炭素析出を抑制する炭素析出抑制水温まで上昇させる。これにより、第二反応炉での炭素析出を抑制することができる。
【0009】
第二態様のメタン合成装置制御方法では、第一態様のメタン合成装置制御方法において、前記水温上昇工程において前記水凝縮温度を前記炭素析出抑制水温まで上昇させた後、前記第二反応炉の反応炉温度が降下又は安定した場合に、前記水凝縮温度を前記炭素析出抑制水温未満に降下させる水温降下工程、を有する。
【0010】
第二態様のメタン合成装置制御方法では、水温上昇工程において水凝縮温度を炭素析出抑制水温まで上昇させた後、第二反応炉の反応炉温度が降下又は安定した場合には、第二反応炉での炭素析出の可能性は低くなる。この状態で水温降下工程を行い、第一水凝縮器の水凝縮温度を炭素析出抑制水温未満に降下させるので、第二反応炉で合成されるメタン濃度の低下を抑制できる。
【0011】
第三態様のメタン合成装置制御方法では、第一又は第二態様のメタン合成装置制御方法において、前記炭素析出抑制水温が時間的に一定温度である。
【0012】
このように、炭素析出抑制水温を時間的に一定とすることで、第一水凝縮器の水凝縮温度の管理及び調整が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本願では、第二反応炉における炭素析出を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は第一実施形態のメタン合成装置を示す構成図である。
図2図2は第一実施形態のメタン合成装置の制御装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
図3図3はメタン合成装置のメタネーション反応炉における水凝縮温度と炭素析出温度との関係の一例を示すグラフである。
図4図4は第一実施形態のメタン合成装置における水凝縮温度調整処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は第一実施形態のメタン合成装置における水凝縮温度調整処理の一例を示すフローチャートである。
図6図6はメタン合成装置のメタネーション反応炉における出口ガス流量とガスの想定圧力との関係の一例を示すグラフである。
図7図7はメタン合成装置のメタネーション反応炉における出口ガス流量とメタネーション反応炉の想定最高温度との関係の一例を示すグラフである。
図8図8はメタン合成装置のメタネーション反応炉の圧力と水凝縮温度との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本願の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1には、第一実施形態のメタン合成装置制御方法を適用する一例としてのメタン合成装置12が示されている。
【0017】
メタン合成装置12は、水分解装置14及びメタネーション装置16を有している。さらに、メタネーション装置16は、第一メタネーション反応炉18、第一水凝縮器20、第二メタネーション反応炉22及び第二水凝縮器24を有している。
【0018】
水分解装置14では、以下の式(1)に示すように、水分解反応により、水を水素と酸素とに分解する。
O→H+(1/2)O ΔH=285.8kJ/mol(標準状態:25℃、1atm) (1)
この水分解反応は、分解される水1molあたり285.8kJのエネルギー供給が必要であり、このエネルギーは通常は電気エネルギーとして供給される。なお、供給するエネルギーのうち、一部は熱エネルギーとしての供給が可能である。水分解装置14では、電源装置64により電気エネルギーが、また、加熱装置26により熱エネルギーが、それぞれ加えられるようになっている。水分解装置14は、このように電気エネルギーにより水を分解する装置であり、水電解装置の一例でもある。
【0019】
水分解装置14で生成された水素は、メタネーション装置16の第一メタネーション反応炉18に送られる。第一メタネーション反応炉18は、本開示の技術の第一反応炉の一例である。
【0020】
第一メタネーション反応炉18では、内部に触媒を有しており、以下の式(2)に示すように、メタン合成反応によりメタンと水とが生成される。第一メタネーション反応炉18により生成されたメタン及び水は、本願の開示の技術に係る第一反応生成物の一例である。
4H+CO→CH+2HO ΔH=-165kJ/mol(標準状態:25℃、1atm) (2)
このメタン合成反応は、生成されるメタン1molあたり165kJの発熱反応であり、投入された熱エネルギーの一部が外部に放出される。たとえば、放出される熱エネルギーの一部又は全部を水分解装置14に作用させて、水分解反応に用いてもよい。
【0021】
水分解装置14から水素を第一メタネーション反応炉18に送る配管には、水素ガス流量センサ58Aが設けられている。水素ガス流量センサ58Aでは、第一メタネーション反応炉18に投入される水素ガスの量が検出される。検出された水素ガスの流量は、制御装置38に送信される。
【0022】
また、二酸化炭素は、たとえば図示しないボンベやタンク等から第一メタネーション反応炉18に送られる。二酸化炭素を第一メタネーション反応炉18に送る配管には、二酸化炭素ガス流量センサ58Bが設けられている。二酸化炭素ガス流量センサ58Bでは、第一メタネーション反応炉18に投入される二酸化炭素の量が検出される。検出された水素ガスの流量は、制御装置38に送信される。
【0023】
第一メタネーション反応炉18は、熱交換器あるいはヒーター及びクーラー等の温度調整装置28により触媒の温度が調整されるようになっている。以下では、第一メタネーション反応炉18の触媒の温度を、「メタネーション温度M1」とする。
【0024】
第一メタネーション反応炉18で生成された第一反応生成物は、配管を通じて第一水凝縮器20に送られる。
【0025】
第一水凝縮器20は、第一反応生成物から、水分を凝縮する。生成された液相の水は、第一水凝縮器20の外部に排出されてもよいし、水分解装置14へ供給されてもよい。なお、第一水凝縮器20には、熱源30から所定の温度に調整された冷媒が供給され、水の凝縮に必要な冷熱が供給されるようになっている。以下では、第一水凝縮器20の冷媒の温度を「水凝縮温度N1」とする。
【0026】
このように水が除去された状態の第一反応生成物は、本開示の技術に係る第一水除去物の一例である。第一水除去物は、第二メタネーション反応炉22に送られる。第二メタネーション反応炉22は、本開示の技術の第二反応炉の一例である。
【0027】
さらに、第一水凝縮器20と第二メタネーション反応炉22とを接続する配管には、第二メタネーション反応炉22における第一反応生成物の入口側にガス圧力センサ60が設けられている。ガス圧力センサ60は、第二メタネーション反応炉22の入口において、第二メタネーション反応炉22に供給される気体の圧力を検出可能である。検出結果は、制御装置38に送信される。
【0028】
第二メタネーション反応炉22では、第一メタネーション反応炉18と同様に内部に触媒を有しており、式(2)に示したメタン合成反応により、メタンと水とが生成される。第二メタネーション反応炉22により生成されたメタン及び水は、本開示の技術に係る第二反応生成物の一例である。
【0029】
第二メタネーション反応炉22におけるメタン合成反応も1molあたり165kJの発熱反応であり、投入された熱エネルギーの一部が外部に放出される。たとえば、放出される熱エネルギーの一部又は全部を水分解装置14に作用させて、水分解反応に用いてもよい。
【0030】
第二メタネーション反応炉22は、熱交換器あるいはヒーター及びクーラー等の温度調整装置32により触媒の温度が調整されるようになっている。以下では、第二メタネーション反応炉22の触媒の温度を、「メタネーション温度M2」とする。
【0031】
ここで、第一メタネーション反応炉18と第二メタネーション反応炉22との間に配置された第一水凝縮器20により、第一反応生成物は水分の一部が除去された状態の第一水除去物として第二メタネーション反応炉22に送られている。したがって、第一反応生成物から水分を除去しない構成と比較して、第二メタネーション反応炉22におけるメタンへの転換率が高くなっている。第二メタネーション反応炉22により生成されたメタン及び水は、本開示の技術に係る第二反応生成物の一例である。
【0032】
第二メタネーション反応炉22で生成されたメタン及び水を含む第二反応生成物は、配管を通じて第二水凝縮器24に送られる。この配管には、第二メタネーション反応炉22における第二反応生成物の出口側にガス流量センサ62が設けられている。ガス流量センサ62は、第二メタネーション反応炉22からのガスの出口において、第二反応生成物の流量(単位時間あたりに流れるガスの体積)を検出可能である。ガス流量センサ62によって検出された第二反応生成物の流量のデータは、制御装置38に送信される。以下では、ガス流量センサ62によって検出されたガスの量を「出口ガス流量」とする。
【0033】
第二水凝縮器24は、第二反応生成物から、水分を凝縮する。生成された液相の水は、第二水凝縮器24の外部に排出されてもよいし、水分解装置14へ供給されてもよい。第二水凝縮器24では、メタネーション装置16における生成物である合成メタンが得られる。なお、第一水凝縮器20と同様に、第二水凝縮器24にも熱源34から所定の温度に調整された冷媒が供給され、水の凝縮に必要な冷熱が熱交換等により供給されるようになっている。以下では、第二水凝縮器24の冷媒の温度を「水凝縮温度N2」とする。
【0034】
第二水凝縮器24により、第二反応生成物は水が除去された状態で、合成メタンとして生成されている。したがって、第二反応生成物から水を除去しない構成と比較して、メタネーション装置16で生成される合成メタンの濃度が高くなっている。
【0035】
第二水凝縮器24には、排出配管が接続されている。排出配管には、第二水凝縮器24の出口側に、ガス流量センサ36が設けられている。ガス流量センサ36は、第二水凝縮器24からのガスの出口において、第二反応生成物の流量(単位時間あたりに流れるガスの体積)を検出可能である。
【0036】
ガス流量センサ36によって検出された第二反応生成物の流量のデータは、制御装置38に送信される。
【0037】
制御装置38では、ガス流量センサ62により得られた第二反応生成物の流量の情報、及びこれ以外の各種の情報を基に、加熱装置26、温度調整装置28、32、熱源30、34等を制御する。
【0038】
図2には、制御装置38のハードウエア構成がブロック図として示されている。
【0039】
制御装置38は、コンピュータ40を有する。コンピュータ40は、プロセッサ42、メモリ44、ストレージ46、入力装置48、出力装置50、記憶媒体読取装置52及び通信I/F(Interface)54を有する。これらの各要素は、バス56を介して相互に通信可能に接続されている。
【0040】
ストレージ46には、後述する水凝縮温度調整処理を実行するための水凝縮温度調整プログラム58が格納されている。プロセッサ42は、各種のプログラムを実行したり、各要素を制御したりすることが可能である。具体的には、プロセッサ42は、ストレージ46からプログラムを読み出し、メモリ44を作業領域としてプログラムを実行する。すなわち、プロセッサ42は、ストレージ46に格納されているプログラムに従って、各要素の制御及び各種の演算処理を行う。
【0041】
メモリ44には、作業領域として、一時的にプログラム及び各種のデータを記憶可能である。
【0042】
ストレージ46は、たとえば、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disc Drive)、及びSDD(Solid State Drive)等であり、各種プログラム及び各種データが格納される。このプログラムには、上記した水凝縮温度調整プログラム等のアプリケーションプログラムだけでなく、オペレーティングシステムも含まれる。
【0043】
入力装置48は、コンピュータ40に対し各種の入力を行うための装置である。入力装置48としては、操作スイッチや操作ボタン等が含まれる他、パーソナルコンピュータ等に使用されるキーボードやマウス等のポインティングデバイス等を含んでいてもよい。
【0044】
出力装置50は、コンピュータ40からの各種の情報を出力するための装置であり、たとえば、ディスプレイや表示ランプ、スピーカー等が含まれる。出力装置50としてタッチパネルディスプレイを用いることも可能であり、この場合には、タッチパネルディスプレイが入力装置48としても機能する。
【0045】
記憶媒体読取装置52は、各種の記憶媒体に記憶されたデータの読み込み、及び、記憶媒体に対するデータの書き込みを行う装置である。記憶媒体としては、たとえば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等を挙げることができる。
【0046】
通信I/F54は、他の機器と通信するためのインターフェースである。通信のためには、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI(Fiber Distributed Data Interface)等の規格が用いられる。
【0047】
本実施形態では、通信I/F54は、加熱装置26、温度調整装置28、32、熱源30、34、ガス圧力センサ60及びガス流量センサ36、62、電源装置64のそれぞれと通信することにより、これら装置の制御及び各種状態の取得が可能である。この通信は、無線であってもよいし、有線であってもよい。
【0048】
さらに、ストレージ46には、メタネーション温度に応じた水凝縮温度と炭素析出温度との関係(図3参照)のデータが格納されている。
【0049】
次に、本実施形態のメタン合成装置制御方法について説明する。
【0050】
上記したように、第一メタネーション反応炉18におけるメタネーション温度をM1、第二メタネーション反応炉22におけるメタネーション温度をM2とする。「メタネーション温度」とは、それぞれのメタネーション反応炉における触媒の温度である。メタネーション温度M1とメタネーション温度M2とは異なる値であってもよい。本実施形態では、M1及びM2のいずれも可変であり、以下ではM1=M2としている。また、以下では、メタネーション温度M1及びM2を区別しない場合は、単に「メタネーション温度M」と表記することがある。
【0051】
さらに、第一水凝縮器20における水凝縮温度をN1、第二水凝縮器24における水凝縮温度をN2とする。「水凝縮温度」とは、それぞれの水凝縮装置における冷媒の温度である。本実施形態では、水凝縮温度N1は可変とし、水凝縮温度N2は25℃に維持している。以下では、水凝縮温度N1を単に「水凝縮温度N」と表記することがある。
【0052】
ここで、図3には、第二メタネーション反応炉22におけるメタネーション温度M2が500℃、400℃及び300℃の各場合について、水凝縮温度N1と炭素析出温度との関係が示されている。メタネーション温度M2が500℃、400℃及び300℃のいずれの場合においても、水凝縮温度N1が上昇するにしたがって、炭素析出温度は上昇している。この炭素析出温度は、第二メタネーション反応炉22におけるメタネーション温度M2との関係において、第二メタネーション反応炉22で炭素析出が生じる境界の温度である。したがって、メタネーション温度M2が、炭素析出温度を超えている場合に、炭素析出する可能性が高い。そして、水凝縮温度N1を高くすることで炭素析出温度が高くなり、第二メタネーション反応炉22で炭素析出を抑制できることが分かる。
【0053】
なお、炭素析出温度は、メタネーション温度M2が高いほうが、全般的に高い。しかしながら、メタネーション温度M2が低温の場合、たとえば400℃以下の場合には、炭素析出反応の反応速度が遅くなる。すなわち、炭素析出反応の進行が鈍くなるため、炭素析出が生じる可能性は低くなる。これに対し、メタネーション温度M2がたとえば400℃超の場合には、400℃以下の場合と比較して、炭素析出反応の反応速度が速いので、炭素析出が生じる可能性は高い。また、実際の炭素の析出は、第二メタネーション反応炉22における触媒の種類に関係なく発生する。
【0054】
本開示のメタン合成装置制御方法では、以下に示すように、メタネーション温度M2が高い場合に、水凝縮温度N1を上昇させる水温上昇工程を行う。この水温上昇工程により、水凝縮温度N1を第二メタネーション反応炉22において炭素析出を抑制する温度(炭素析出抑制温度)まで上昇させる。
【0055】
図4及び図5には、本開示のメタン合成装置制御方法における具体的な水凝縮温度調整処理の一例がフローチャートにて示されている。この水凝縮温度調整処理は、水温上昇工程を含んでいる。そして、水温上昇工程を実行することで水凝縮温度N1を、第二メタネーション反応炉22の炭素析出を抑制するように上昇させる。
【0056】
具体的な水凝縮温度調整処理では、制御装置38は、ステップS102において、温度調整装置32を制御し、第二メタネーション反応炉22の昇温を行う。
【0057】
制御装置38は、ステップS104において、メタネーション温度M2がメタネーション反応の開始温度に達しているか否かを判断する。この判断が否定された場合は、ステップS102に戻り、引き続き第二メタネーション反応炉22を昇温させる。
【0058】
制御装置38は、ステップS104の判断が肯定された場合は、ステップS106において、メタネーション装置16に、水素ガス及び二酸化炭素ガスが供給されているか否かを判断する。この判断が否定された場合は、ステップS108に移行し、肯定された場合は、ステップS132へ移行する。
【0059】
制御装置38は、ステップS108において、定格条件から、想定温度M2’及び想定圧力P2’を推定する。定格条件とは、第二メタネーション反応炉22に導入される水素流量と二酸化炭素流量、第一水凝縮器20の水凝縮温度N1、を含み、さらに、これらの各条件の下で第二メタネーション反応炉22から排出されると推定される出口ガス流量を含む。後述するように、出口ガス流量の推定にあたっては、たとえば予め得ておいた試験結果やシミュレーションによる試算結果が用いられる。したがって、実際には、制御装置38は第二メタネーション反応炉22に水素ガス及び二酸化炭素ガスが導入されていない状態であっても、出口ガス流量を推定できる。あるいは、出口ガス流量があらかじめ設定されている場合は、この出口ガス流量となるように、第二メタネーション反応炉22に導入される水素流量、二酸化炭素流量、及び第一水凝縮器20の水凝縮温度N1を制御装置38が推定する構成でもよい。なお、想定温度M2’及び想定圧力P2’を推定するにあたっては、推定時点での第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2を用いる。そして、想定温度M2’とは、これらの所定の定格条件の下で、メタネーション温度M2がどのような値をとるか、という点で想定される第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度である。想定圧力P2’とは、同じくこれらの所定の定格条件の下で想定される第二メタネーション反応炉22の入口側の圧力である。
【0060】
図6には、出口ガス流量と圧力P1との関係の一例が示されており、図7には、出口ガス流量と想定最高温度との関係の一例が示されている。図6における圧力P1は、上記した定格条件の下で、出口ガス流量から想定される第二メタネーション反応炉22の入口側の圧力である。この図6のグラフに基づいて、想定圧力P2’を推定できる。また、図7における想定最高温度とは、上記した定格条件の下で、出口ガス流量から想定されるメタネーション温度M2の最高の温度である。この図7のグラフに基づいて、第二メタネーション反応炉22の想定温度2’を推定できる。一例として、出口ガス流量が20Nm/hである場合、これらの図6及び図7から、想定圧力P2’=0.2MPa、想定温度M2’=500℃であると推定できる。
【0061】
なお、図6及び図7に示す関係は、たとえば、メタネーション装置16においてあらかじめ試験を行っておいた結果である。ただし、このような試験結果に代えて、シミュレーションによって試算した結果であってもよい。
【0062】
次に制御装置38は、ステップS108で得た想定圧力P2’及び想定温度M2’から、ステップS110において設定水凝縮温度N1’を特定する。
【0063】
図8には、メタネーション反応炉の温度が500℃の場合及び300℃の場合について、メタネーション反応炉の圧力と水凝縮温度との関係の一例が示されている。この水凝縮温度は、メタネーション反応炉において、炭素析出を抑制することが可能な温度の閾値である。たとえば本実施形態では、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度が上記した想定温度M2’になっている場合を想定しているが、この場合、図8から、炭素析出を抑制できる水凝縮温度を知ることができる。実際には、ここでは想定温度M2’ =500℃であると推定しているので、図8のグラフにおけるメタネーション温度M2=500℃のラインを見ればよい。さらに、想定圧力P2’=0.2MPaと推定しているので、メタネーション反応炉の圧力が0.2MPaの場合に、水凝縮温度が86℃であると特定できる。すなわち、ここで得られた水凝縮温度86℃は、本実施形態において、第二メタネーション反応炉22における炭素析出が生じる閾値の温度であり、「炭素析出抑制水温」の一例である。
【0064】
次に、制御装置38は、ステップS112において、第一水凝縮器20の水凝縮温度N1を、上記のステップS110で得た設定水凝縮温度N1’である86℃に上昇させる(水温上昇工程)。なお、第一水凝縮器20の水凝縮温度N1は、設定水凝縮温度N1’を超えていてもよいが、設定水凝縮温度N1’であれば、第二メタネーション反応炉22での炭素析出を抑制することは可能であるため、第一水凝縮器20の水凝縮温度N1を過度に高くする必要はない。また、このように炭素析出抑制水温の一例である設定水凝縮温度N1’が設定されると、この設定水凝縮温度N1’は時間的に一定に維持される。
【0065】
さらに、制御装置38は、ステップS114において、メタネーション装置16に導入する水素ガス流量及び二酸化炭素ガスの流量を再設定し、実際にメタネーション装置16に導入する。上記のように第一水凝縮器20の水凝縮温度N1が設定水凝縮温度N1’=86℃に設定されると、この値に基づいてメタン合成装置12の出口ガス流量があらたに算出できる。したがって、この出口ガス流量が実現されるように、式(2)に基づいて、水素ガス流量及び二酸化炭素ガスの流量を再設定する。導入する水素ガス及び二酸化炭素の体積比率は、水素:二酸化炭素=4:1である。
【0066】
これにより、第二メタネーション反応炉22における炭素析出を抑制しつつ、この設定水凝縮温度N1’から決まる所定の水素ガスの流量及び二酸化炭素ガスの流量で、メタネーション装置16を運転できる。
【0067】
そして、制御装置38は、ステップS116において、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2が、定格温度になっているか否かを判断する。この段階における定格温度は、ステップS108で得た想定温度M2’と異なる値である。たとえば、ステップS106では想定温度M2’=500℃であったが、ステップS116では、定格温度=400℃あるいはそれ以下としてもよい。メタネーション温度M2が、定格温度になっている場合は、メタネーション温度M2が降下した場合の一例である。ステップS116の判断には、このようにメタネーション温度M2が降下した場合の他に、メタネーション温度M2が一定の温度範囲内で安定している場合も含む。
【0068】
このように、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2を低くすると、炭素析出開始温度が低くなる。しかし、メタネーション温度M2が低いと、炭素析出反応の反応速度が遅くなる(反応の進行が鈍くなる)ため、炭素析出が生じる可能性は低くなる。すなわち、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2として定格温度を維持しつつ、炭素析出を抑制することが可能である。
【0069】
ステップS116の判断が否定された場合、制御装置38は、ステップS118において、温度調整装置32を制御し、メタネーション温度M2が定格温度となるように調整する。
【0070】
ステップS116の判断が肯定された場合は、制御装置38は、ステップS120において、熱源30を制御し、水凝縮温度N1を定格条件の温度となるように降下させる(水温降下工程)。この場合の水凝縮温度N1は、炭素析出抑制水温未満の温度であり、たとえば25℃である。このように水凝縮温度N1を低くしても、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2が低くなっている(たとえば上記した定格温度である400℃である)条件では、炭素析出を抑制できる。
【0071】
以上が、ステップS106の判断が否定された場合に実行される処理である。これに対し、ステップS106の判断が肯定された場合には、図5に示すステップS132に移行する。
【0072】
制御装置38は、ステップS132において、メタネーション装置16に導入される水素ガス及び二酸化炭素ガスの流量に変動があるか否かを判断する。この判断においては、たとえば、水素ガス流量センサ58A及び二酸化炭素ガス流量センサ58Bから送信される水素ガス流量及び二酸化炭素ガス流量の時間変化を用いることで、変動があったか否かを判断可能である。あるいは、水素ガス流量の時間変動であれば、水分解装置14のモニター信号を制御装置38で受信し、モニター信号の変化から検出することが可能である。また、二酸化炭素ガス流量の時間変化であれば、二酸化炭素ガスの貯蔵装置における圧力センサのモニター信号を制御装置38で受信し、モニター信号の変化から検出することが可能である。
【0073】
また、ステップS132における判断においては、メタネーション装置16に導入される水素ガス又は二酸化炭素ガスの流量変動を、上記とは別の手段により推定してもよい。たとえば、水分解装置14に投入される電力に時間変動が生じると、水分解装置14で生成される水素ガスの量が変動する。特に、水分解装置14が、再生エネルギー発電システムからの電力により運転される構成では、電力需要の大小に応じて水分解装置14への供給電力の時間変動が分かっている場合がある。この場合には、水分解装置14への供給電力の変動から、メタネーション装置16に導入される水素ガスの流量変動を推定できる。また、たとえば、水分解装置14及びメタネーション装置16への各種の入力信号等から、メタネーション装置16に導入される水素ガス及び二酸化炭素ガスの流量変化を、変化前あるいは変化途中の状態で推定するようにしてもよい。
【0074】
ステップS132の判断が否定された場合、すなわち、メタネーション装置16に導入される水素ガス及び二酸化炭素ガスの流量に変動がなかった場合は、ステップS134に移行する。
【0075】
制御装置38は、ステップS134では、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2が、定格温度になっているか否かを判断する。この判断が肯定された場合は、ステップS104(図4参照)に戻る。この判断が否定された場合には、制御装置38は、ステップS136において、温度調整装置32を制御し、メタネーション温度M2が定格温度となるように調整する。そして、ステップS134に戻る。
【0076】
これに対し、ステップS132の判断が肯定された場合は、制御装置38は、ステップS138において、メタネーション装置16に導入される水素ガス流量の変動量、二酸化炭素ガス流量の変動量及び出口流量から、想定圧力P2’及び想定温度M2’を推定する。
【0077】
その後、制御装置38は、ステップS110(図4参照)に移行する。すなわち、制御装置38は、ステップS138で得た想定圧力P2’及び想定温度M2’から、ステップS110において適切な設定水凝縮温度N1’を特定する。第一水凝縮器20の水凝縮温度N1を、この設定水凝縮温度N1’に設定することで、第二メタネーション反応炉22における炭素析出を抑止しつつ、メタン合成装置12を運転することが可能である。
【0078】
以上説明したように、本開示の技術に係るメタン合成装置制御方法では、第二メタネーション反応炉22におけるメタネーション温度M2が上昇した場合に、第一水凝縮器20の水凝縮温度N1を上昇させている。具体的には、水凝縮温度N1は、第二メタネーション反応炉22において、炭素の析出を抑制する温度である設定水凝縮温度N1’である。このため、第二メタネーション反応炉22において、炭素の析出を抑制しつつ、メタン合成装置12を運転することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、水凝縮温度N1を設定水凝縮温度N1’に上昇させた後、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2が安定した場合には、水温降下工程を行う。水温降下工程では、設定水凝縮温度N1’未満に低下させている。このため、第二メタネーション反応炉22において生成される合成メタンの濃度、すなわち、メタン合成装置12で合成できるメタン濃度の低下を抑制できる。
【0080】
特に、上記実施形態では、水温降下工程を行う場合には、第二メタネーション反応炉22のメタネーション温度M2を、炭素析出の可能性が低い温度(上記の例では400℃)まで低下させている。したがって、水温降下工程によって水凝縮温度N1を降下させた場合であっても、第二メタネーション反応炉22において、炭素の析出を抑制することができる。
【0081】
設定水凝縮温度N1’は、一定である必要はないが、上記実施形態では時間的に一定の水温としている。これにより、設定水凝縮温度N1’の設定及び管理が容易となる。
【符号の説明】
【0082】
12 メタン合成装置
14 水分解装置
16 メタネーション装置
18 第一メタネーション反応炉
20 第一水凝縮器
22 第二メタネーション反応炉
24 第二水凝縮器
26 加熱装置
28 温度調整装置
30 熱源
32 温度調整装置
34 熱源
36 ガス流量センサ
38 制御装置
64 電源装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8