IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社林原の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053948
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】大豆臭軽減のための食品用酵素組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240409BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20240409BHJP
   A23J 3/00 20060101ALI20240409BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20240409BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20240409BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20240409BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240409BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240409BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L5/00 M
A23J3/14
A23J3/00 502
A23L13/60 Z
A23L13/40
C12N9/02
A23J3/16 501
A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160488
(22)【出願日】2022-10-04
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 正俊
(72)【発明者】
【氏名】飯島 学
(72)【発明者】
【氏名】荒木 裕理
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
4B050
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LE05
4B035LG01
4B035LG15
4B035LG16
4B035LG42
4B035LG51
4B035LK19
4B035LP02
4B035LP21
4B035LP31
4B042AC01
4B042AD20
4B042AE03
4B042AG03
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK10
4B042AK20
4B042AP27
4B050CC07
4B050KK11
4B050LL02
(57)【要約】
【課題】酵素を用いて、大豆食品の食感を向上すると同時に、大豆臭を軽減する。
【解決手段】酸化酵素を含む、大豆臭軽減のための食品用酵素組成物。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化酵素を含む、大豆臭軽減のための食品用酵素組成物。
【請求項2】
酸化酵素がアスコルビン酸オキシダーゼである、請求項1に記載の食品用酵素組成物。
【請求項3】
大豆臭軽減が食品中のヘキサナール量の減少によりなされる、請求項1または2に記載の食品用酵素組成物。
【請求項4】
前記食品が植物肉である、請求項1または2に記載の食品用酵素組成物。
【請求項5】
食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、大豆臭が軽減された食品の製造方法。
【請求項6】
食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、食品の大豆臭の軽減方法。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆臭軽減のための食品用酵素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口の増加にともない、将来的な食量不足が危惧されている。動物肉よりも少ない肥料と水で栽培できる大豆は、生産時の地球環境への負荷が小さく、タンパク質を豊富に含む。そのため、大豆を植物肉として用いた食品の開発が進められている。ヴィーガンやベジタリアンの立場からも、肉に代わる食品材料として大豆を用いた食品が求められている。
【0003】
植物肉としての大豆の利用が普及するためには、大豆を用いたときでも、肉を用いたときと同様の風味や食感を達成すると同時に、大豆特有の味や臭いは軽減することが望まれる。特に、大豆臭の軽減と、肉と同様のジューシー感の再現が求められている。
【0004】
特許文献1は、食品の物性、色調、風味を改善するために、タンパク質を含む食品素材にトランスグルタミナーゼおよび酸化還元酵素を作用させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-060431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、酵素を用いて、大豆食品において食感を向上しつつ、大豆臭を軽減する方法は限られていた。本発明は、酵素を用いて、大豆食品の食感を向上すると同時に、大豆臭を軽減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸化酵素が、大豆加工食品の食感を向上し、大豆由来の臭いを軽減できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、
【0008】
酸化酵素を含む、大豆臭軽減のための食品用酵素組成物に関する。
【0009】
酸化酵素がアスコルビン酸オキシダーゼであることが好ましい。
【0010】
大豆臭軽減が食品中のヘキサナール量の減少によりなされることが好ましい。
【0011】
前記食品が植物肉であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、大豆臭が軽減された食品の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、食品の大豆臭の軽減方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の食品用酵素組成物は、大豆加工食品において、肉加工食品と同様の食感を達成しつつ、大豆に特有の臭いを軽減することができる。この食品用酵素組成物は、肉に代わる食品材料としての、大豆の利用を促進する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<<食品用酵素組成物>>
本実施形態の食品用酵素組成物は、酸化酵素を含む、大豆臭軽減のための食品用酵素組成物である。
【0016】
<酸化酵素>
酸化酵素は、食品材料を酸化する活性を持つ酵素である。酸化酵素の具体例としては、アスコルビン酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、ラクトパーオキシダーゼなどが挙げられ、これらの中でもアスコルビン酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼが好ましく、アスコルビン酸オキシダーゼがより好ましい。アスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3)は、分子状酸素を用いてアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に酸化する活性を有する酵素である。
【0017】
酸化酵素の由来は特に限定されず、植物由来、微生物由来、動物由来のものが挙げられるが、入手容易性の観点から植物由来が好ましい。植物としては、ウリ科、セリ科、アブラナ科、ヒユ科の植物が挙げられる。これらのなかでも、ウリ科の植物が好ましい。ウリ科の植物としてはカボチャ、キュウリ、スイカ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、メロンなどが挙げられ、これらの中でもカボチャ(Cucurbita sp.)が好ましい。セリ科の植物としてはニンジン、ミツバ、パセリ、セロリなどが挙げられ、アブラナ科の植物としてはキャベツなどが挙げられ、ヒユ科の植物としてはホウレンソウなどが挙げられる。また、微生物としては、細菌、菌類が挙げられ、細菌が好ましい。本発明の食品用酵素組成物は、上記酸化酵素を1種類のみ含有していてもよく、複数種類を含有していてもよい。
【0018】
酸化酵素は、由来となる植物、動物、微生物から精製されたものであってもよく、遺伝子組み換え技術を用いて大量生産し、その後精製したものを用いてもよい。また野生型の酸化酵素を用いてもよく、変異型の酸化酵素を用いてもよい。
【0019】
酸化酵素の取得方法として、酸化酵素が由来生物の細胞内に蓄積する場合には、組織および細胞を破砕し、遠心分離などによって無細胞抽出液を得る。必要に応じて、無細胞抽出液を出発材料として、塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの一般的なタンパク質精製法を適宜組み合わせて精製したものを用いてもよい。酸化酵素を微生物により細胞外に分泌生産させる場合には、培地から精製することができる。
【0020】
本発明の食品用酵素組成物中の酸化酵素の活性は、食品用酵素組成物1gあたり10~10,000ユニット(U)が好ましく、100~8,500ユニット(U)がより好ましく、1,000~3,000ユニット(U)がさらに好ましい。また、本発明の食品用酵素組成物中の酸化酵素の重量は、食品用酵素組成物中0.01~100重量%が好ましく、0.5~40重量%がより好ましい。
【0021】
酸化酵素の活性の定義は、各酵素によって異なるが、例えば、アスコルビン酸オキシダーゼの場合は、L-アスコルビン酸を基質としてpH5.6、30℃において1分間に1μmolのデヒドロアスコルビン酸を生成する活性を1Uとする。また、グルコースオキシダーゼの場合は、40℃、pH7.0の条件で1分間に1μmolのグルコースを酸化し、グルコン酸を生成する活性を1Uとする。
【0022】
<任意成分>
本発明の食品用酵素組成物は、酸化酵素以外に、本発明の効果を阻害しない程度において、食品用酵素組成物が通常含有し得る他の成分を含有していてもよい。このような成分として、賦形剤、pH調整剤、保存料、酵素、増粘多糖類、乳化剤、無機塩類、アミノ酸、溶媒などが挙げられる。これらの成分の含有量は特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0023】
賦形剤としては、例えば、デキストリン、トレハロース、米粉、小麦粉等の穀物粉が挙げられる。
【0024】
pH調整剤としては、例えば、酢酸、デヒドロ酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、およびアジピン酸、ならびにこれらの有機酸のナトリウム(Na)塩、カルシウム(Ca)塩、およびカリウム(K)塩ならびに炭酸、リン酸、およびピロリン酸、ならびにこれらの無機酸のNa塩およびK塩が挙げられる。
【0025】
保存料としては、例えば、アスコルビン酸、プロピオン酸、亜硫酸、安息香酸、ソルビン酸や、これらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム(Na)塩、カルシウム(Ca)塩、およびカリウム(K)塩、ポリアミンなどが挙げられる。その他、カテキンを用いることもできる。これらの中でも、アスコルビン酸またはその塩が好ましく、アスコルビン酸ナトリウム(ビタミンC)がより好ましい。保存料を配合する場合、その配合量は、食品用酵素組成物中0.1~15重量%が好ましく、0.2~10重量%がより好ましい。また、保存料の配合量は、食品材料全体に対し0.005~2重量%が好ましく、0.01~1.5重量%がより好ましい。保存料の配合量は、大豆由来材料(大豆タンパク質の場合は乾燥重量)100重量部に対し、0.01~30重量部が好ましく、0.02~20重量部がより好ましい。保存料を含むと、酸化酵素が保存料を酸化させ、酸化された保存料がさらに大豆臭の原因物質に作用して大豆臭を軽減する効果が期待される。
【0026】
任意成分としての酵素は、酸化酵素以外の酵素であり、例えば、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、キチナーゼ、グルカナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ラクターゼなどが挙げられる。
【0027】
増粘多糖類としては、例えば、加工澱粉、ガム類、アルギン酸、アルギン酸誘導体、ペクチン、カラギーナン、カードラン、プルラン、ゼラチン、セルロース誘導体、寒天、タマリンド、サイリウム、グルコマンナンなどが挙げられる。
【0028】
乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、サポニンなどが挙げられる。
【0029】
無機塩類としては、例えば、食塩、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、重合リン酸塩などが挙げられる。
【0030】
アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、シスチン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、アルギニンなどが挙げられる。
【0031】
溶媒としては、水、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶媒を用いる場合、酸化酵素:溶媒の重量比を2:1~1:2とすることが好ましい。
【0032】
食品用酵素組成物の形状は特に限定されず、例えば、液体状、ペースト状、粉末状、顆粒状が挙げられる。粉末状の場合、酸化酵素を水などの溶媒に溶解した後、必要に応じてデキストリンなどの賦形剤を配合し、乾燥させて粉末状としたものであってもよい。
【0033】
食品用酵素組成物が液体状またはペースト状の場合、pHは5.5~9.0であることが好ましく、5.5~6.5であることがより好ましい。
【0034】
食品用酵素組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、固体の酵素組成物を得る場合には、各成分を混合機にて混合する方法が挙げられる。混合機としては、容器回転型、容器固定型、複合型等が挙げられ、目的の活性値や量、賦型剤の種類に応じて適宜選択できる。
【0035】
<食品>
本発明の食品用酵素組成物は、どのような食品にも用いることができるが、大豆加工食品の食感を向上し、大豆由来の臭いを軽減する効果を得るために、大豆を含む食品に特に好適に使用できる。大豆を含む食品としては、従来型の大豆食品に加えて、大豆を植物肉として用いた食品が挙げられる。
【0036】
従来型の大豆食品として、みそ、豆腐、納豆、油揚げ、おから、豆乳、厚揚げ、粉状大豆タンパク質、粒状大豆タンパク質、シリアル、きな粉などが挙げられる。本発明の食品用酵素組成物をこれらの大豆食品に適用することにより、大豆臭を調節できる。
【0037】
大豆を植物肉として用いた食品として、ハンバーグ、ミートボール、餃子、ステーキ、ミートソース、牛丼、ハム、ソーセージなどが挙げられる。これらの食品において、植物肉としての大豆は、ミンチ肉、ブロック肉、スライス肉等の形態で配合することができる。
【0038】
大豆を植物肉として用いた食品は、大豆の他に、肉、油脂、エキスなどの動物性材料(畜肉由来材料)を含んでいてもよいが、大豆の配合量(含水状態での配合量)は、大豆と、動物性材料との合計量中40重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上がさらにより好ましく、95重量%以上が特に好ましく、動物性材料を含まないことが最も好ましい。本発明の食品用酵素組成物を用いると、大豆の配合量が多く動物性食品材料の配合量が少ないときでも、肉加工食品と同様の食感を達成しつつ、大豆に特有の臭いを軽減することができる。
【0039】
<食品の風味および物性>
本発明の食品用酵素組成物は、大豆臭軽減のために用いられる。大豆には、特有の青臭さがある。この大豆臭は、大豆を利用した食品の嗜好性の低下や、大豆の植物としての利用の障害となる。本発明の食品用酵素組成物を、大豆を含む食品材料に作用させることにより、製造された食品において大豆臭を軽減することができる。大豆臭の軽減は、本発明の食品用酵素組成物を利用して得られた食品について、複数のパネラーによる官能評価により判定でき、例えば、実施例に記載の方法で判定できる。
【0040】
大豆臭の原因物質の一つとして、大豆に含まれるリノール酸の酸化により生じるヘキサナールが挙げられる。本発明の食品用酵素組成物を、大豆を含む食品材料に作用させたときに、食品用酵素組成物を作用させなかったときと比較して、製造された食品中のヘキサナール量が低減していることが好ましい。食品中のヘキサナール量は、クロマトグラフィー等を用いた一般的な方法で測定することができる。
【0041】
また、吸水して膨潤した大豆は弾力に乏しいため、大豆を植物肉として用いた場合には動物由来の肉を用いたときの弾力や噛み応えを得られにくいとされている。本発明の食品用酵素組成物を、大豆を含む食品材料に作用させたときには、製造された食品の弾力が向上する。この効果を得るためには、動物性材料(畜肉由来材料)の配合量が、大豆の配合量(含水状態での配合量)との合計量中、2重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましく、20重量%以上であることがさらにより好ましい。食品の弾力は、レオメーターを用いた圧縮応力の測定により評価できる。本発明の食品用酵素組成物を、大豆を含む食品材料に作用させたときに、食品用酵素組成物を作用させなかったときと比較して、圧縮応力が1.08倍以上であることが好ましく、1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましい。
【0042】
また、大豆は動物性材料と比較して油脂成分が少ないため、大豆を植物肉として用いた場合には動物由来の肉を用いたときのジューシーな食感を得られにくい。本発明の食品用酵素組成物を、大豆を含む食品材料に作用させたときには、製造された食品のジューシー感が向上する。ジューシー感は、本発明の食品用酵素組成物を利用して得られた食品について、複数のパネラーによる官能評価により判定でき、例えば、実施例に記載の方法で判定できる。
【0043】
<<大豆臭が軽減された食品の製造方法>>
本実施形態の食品の製造方法は、食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、大豆臭が軽減された食品の製造方法である。酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程では、食品材料に本発明の酵素組成物を接触させ、酸化酵素を作用させる。食品用酵素組成物としては、前述した組成物を用いることができる。
【0044】
食品材料は、大豆臭軽減効果を得るために、大豆由来材料を含むことが好ましい。大豆由来材料としては、大豆粉、脱脂大豆、おから、大豆油、大豆タンパク質が挙げられ、その形状は粉末、顆粒、フレーク、スライス、ブロックが挙げられる。食品材料は、大豆由来材料以外に、野菜、肉、魚介、穀物などの、食品に一般的に含まれる材料を含んでいてもよい。肉としては、牛、豚、鶏由来の肉が挙げられる。
【0045】
食品材料は、さらに、賦形剤、pH調整剤、保存料、酵素、増粘多糖類、乳化剤、無機塩類、アミノ酸などを含んでいてもよい。これらの具体例としては、食品用酵素組成物の構成要素として前述したものを用いることができる。
【0046】
大豆を植物肉として用いる場合、食品材料において、大豆の配合量(含水状態での配合量)は、大豆と、動物性材料との合計量中40重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上がさらにより好ましく、95重量%以上が特に好ましく、動物性材料を含まないことが最も好ましい。
【0047】
食品材料に本発明の食品用酵素組成物を接触させ、酸化酵素を作用させる際の条件は特に限定されないが、温度条件は1~40℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。時間条件は5分~24時間が好ましく、10~240分間がより好ましい。pH条件はpH5.5~6.5が好ましい。
【0048】
また、食品中にアスコルビン酸やその塩などを配合する場合には、酸化酵素と保存料を混合してあらかじめアスコルビン酸やその塩などを酸化させたのち、さらに食品材料に接触させてもよい。この方法により、酸化されたアスコルビン酸やその塩などが大豆臭の原因物質に作用して、大豆臭を軽減する効果が期待される。酸化酵素と保存料を混合してあらかじめアスコルビン酸やその塩などを酸化させるときの温度条件は20~30℃が好ましく、室温がより好ましい。時間条件は90~150分が好ましい。pH条件はpH5.5~6.5が好ましい。
【0049】
食品材料の、酸化酵素を含む食品用酵素組成物による処理は、複数回繰り返してもよいし、食品材料を分割して混合してもよい。例えば、第1の大豆由来材料を食品用酵素組成物と混合して酸化酵素を作用させた後、第2の大豆由来材料を追加混合して酸化酵素を作用させてもよい。これにより、形態の異なる大豆由来材料に対しても十分に酸化酵素を作用させられるほか、酸化酵素の作用程度を制御することにより風味や食感を変化させることができる。
【0050】
食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理した後は、目的とする食品の一般的なレシピに従って製造することができる。例えば、本発明の食品用酵素組成物を使用してハンバーグを製造する場合、食品材料と本発明の食品用酵素組成物を混合してハンバーグ種を成形し、このハンバーグ種をフライパンやオーブンで焼成する。
【0051】
本発明の食品用酵素組成物は、製造された食品中に残存するが、体内に摂取しても健康への悪影響はない。食品用酵素組成物を摂取した場合、酵素組成物に含まれる酸化酵素は、タンパク質として体内で消化吸収される。酸化酵素を失活させる必要がある場合には、食品材料に作用させた後に80℃以上の加熱を行えばよい。
【0052】
<<食品の大豆臭の軽減方法>>
本実施形態の、食品の大豆臭の軽減方法は、食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む。酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程では、食品材料に本発明の酵素組成物を接触させ、酸化酵素を作用させる。食品用酵素組成物としては、前述した組成物を用いることができる。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0054】
(1)畜肉を含むハンバーグの製造(実施例1~6、比較例1~6)
酸化酵素(ナガセケムテックス社製ASO-D10FD、1gあたり1,200U)、塩、ビタミンC、および水を表1に記載の重量で混合し、酵素溶液を作成した。この酵素溶液と、粒状大豆タンパク質(不二製油社製ニューフジニック49)とを混合し、25℃で10分間静置することにより粒状大豆タンパク質の水戻しと酸化酵素による処理を同時に行った。
【0055】
酵素処理された大豆タンパク質を含む溶液と、表1に記載したミンチ肉をハンドミキサーに投入し、2~3分間粉砕してハンバーグ種を作製した。ハンバーグ種を100gずつ丸形に成型し、冷蔵庫で1日保存した。その後、180℃のオーブンで15分間焼成した。焼成後、室温まで冷却した後、急速冷凍し、評価時まで冷凍保管した。
【0056】
(2)畜肉を含まないハンバーグの製造(実施例7、比較例7)
表1に記載の重量で、粉状大豆タンパク質(不二製油社製フジプロFM)と水とを15分混合し、大豆カードを得た。また別に、表1に記載の割合で酵素溶液を作製した。この酵素溶液と大豆カードとを混合し、5分混合した。あらかじめ水で浸漬していた粒状大豆タンパク質を添加し、さらに5分混合した。約100gずつ丸形に成型し、180℃のオーブンで15分間焼成した。焼成後、室温まで冷却した後、急速冷凍し、評価時まで冷凍保管した。
【0057】
【表1】
【0058】
(3)ハンバーグの物性評価
焼成されたハンバーグ(厚さ約15cm)の圧縮応力をレオメーター(サン科学製、CR-100)で測定した。その結果を表1に示す。比較例1に対し、実施例1~2では圧縮応力が増大した。また、実施例1~2および3~5では、酸化酵素の添加量にともない圧縮応力がさらに増大する傾向がみられた。
【0059】
(4)ハンバーグの官能評価
焼成されたハンバーグを、パネラー7名により評価した。評価は、(A)試食前の大豆臭、(B)先味(咀嚼中に、口腔内から鼻にぬける大豆臭)、(C)後味(嚥下後、3~4秒後の口腔内から鼻にぬける大豆臭)について、下記の基準により5段階の評点を付した。
5:大豆臭を感じない
4:大豆臭をほぼ感じない
3:大豆臭が軽減されている
2:大豆臭を感じる
1:大豆臭を強く感じる
評点の平均点を計算し、表2に示した。
【0060】
焼成されたハンバーグの食感を、パネラー7名により評価した。評価は、試食中のジューシー感について、下記の基準により5段階の評点を付した。
5:ジューシー感が非常に強く感じる
4:ジューシー感を強く感じる
3:ジューシー感を感じる
2:ジューシー感が弱い
1:ジューシー感がない
評点の平均点を計算し、表2に示した。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例7では比較例7と比較して大豆臭が軽減されるとともに、試食中のジューシー感が向上していた。実施例1~6でも、実施例7と同様の大豆臭軽減効果が観察された。
【0063】
本開示(1)は酸化酵素を含む、大豆臭軽減のための食品用酵素組成物である。
【0064】
本開示(2)は酸化酵素がアスコルビン酸オキシダーゼである、本開示(1)に記載の食品用酵素組成物である。
【0065】
本開示(3)は大豆臭軽減が食品中のヘキサナール量の減少によりなされる、本開示(1)または(2)に記載の食品用酵素組成物である。
【0066】
本開示(4)は前記食品が植物肉である、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の食品用酵素組成物 である。
【0067】
本開示(5)は食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、大豆臭が軽減された食品の製造方法である。
【0068】
本開示(6)は食品材料を、酸化酵素を含む食品用酵素組成物により処理する工程を含む、食品の大豆臭の軽減方法である。