(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053961
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】通信評価システム及び通信評価方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/06 20090101AFI20240409BHJP
H04W 36/08 20090101ALI20240409BHJP
H04W 16/20 20090101ALI20240409BHJP
H04W 16/22 20090101ALI20240409BHJP
【FI】
H04W24/06
H04W36/08
H04W16/20
H04W16/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160503
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 智
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067DD42
5K067DD43
5K067DD44
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE23
5K067JJ39
(57)【要約】
【課題】基地局と端末との通信を最適化できる通信評価システム及び通信評価方法を提供する。
【解決手段】
建物内の基地局と端末とを仮想的に構築する仮想建物内構築部と、建物内の基地局と端末の間の電波伝搬特性を算出する電波伝搬特性算出部と、電波伝搬特性算出部により算出された電波伝搬特性から、基地局と端末との間で行われる通信の受信電力を算出する受信電力算出部と、仮想的に構築した建物内の基地局と端末との通信の発生を契機として、電波伝搬特性算出部に電波伝搬特性を算出させ、算出された当該電波伝搬特性に基づいて、受信電力算出部に受信電力を算出させ、算出された受信電力に基づき、基地局と端末との間で行われる通信の状態をシミュレートする通信シミュレート部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内の基地局と端末とを仮想的に構築する仮想建物内構築部と、
前記建物内の前記基地局と前記端末の間の電波伝搬特性を算出する電波伝搬特性算出部と、
前記電波伝搬特性算出部により算出された前記電波伝搬特性から、前記基地局と前記端末との間で行われる無線通信の受信電力を算出する受信電力算出部と、
前記建物内の前記基地局と前記端末との無線通信の発生を契機として、前記電波伝搬特性算出部に前記電波伝搬特性を算出させ、算出された当該電波伝搬特性に基づいて、前記受信電力算出部に前記受信電力を算出させ、算出された前記受信電力に基づき、前記基地局と前記端末との間で行われる通信をシミュレートする通信シミュレート部と、を備える、
通信評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の通信評価システムにおいて、
前記端末と他の端末又は仮想的に構築された前記建物外の外部装置との間で行う通信を、前記通信シミュレート部が行ったシミュレート結果に基づいて評価する通信評価部をさらに備える、
通信評価システム。
【請求項3】
請求項1に記載の通信評価システムにおいて、
前記電波伝搬特性算出部は、前記建物内における前記基地局と前記端末との間で伝搬する直接波、反射波及び回折波に基づいて、前記電波伝搬特性を算出する、
通信評価システム。
【請求項4】
請求項1に記載の通信評価システムにおいて、
前記受信電力算出部は、前記電波伝搬特性算出部により算出された前記電波伝搬特性に基づき、前記基地局と前記端末の間で行われる無線通信の変調、復調、及び誤り訂正を行うことで、前記基地局と前記端末との間で行われる無線通信の前記受信電力を算出する、
通信評価システム。
【請求項5】
請求項1に記載の通信評価システムにおいて、
前記通信シミュレート部は、
前記基地局と前記端末との間で通信が発生したことを契機として、算出された前記受信電力に基づき、前記基地局と前記端末との間で行われる前記無線通信の応答速度及び転送レートが十分であるか否かを評価する、
通信評価システム。
【請求項6】
請求項5に記載の通信評価システムにおいて、
前記建物内には、複数の前記基地局と複数の前記端末とが配置され、
前記通信シミュレート部は、何れか一つの前記基地局と何れか一つの前記端末との前記無線通信の前記応答速度及び前記転送レートが十分でないと判断した場合に、当該基地局を他の前記基地局に切り換える、
通信評価システム。
【請求項7】
建物内の基地局と端末とを仮想的に構築し、
前記建物内の前記基地局と前記端末との無線通信の発生を契機として、前記基地局と前記端末の間の電波伝搬特性を算出し、
算出された前記電波伝搬特性から、前記基地局と前記端末との間で行われる前記無線通信の受信電力を算出し、
算出された前記受信電力に基づき、前記基地局と前記端末との間で行われる通信をシミュレートする、
通信評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信評価システム及び通信評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の端末と複数の基地局との間の通信において、端末と基地局との間の通信の可用性を保ちながら、これらの間の通信を最適化したいという要望がある。特許文献1には、無線基地局の通信量に基づいて、無線基地局の通信が混雑していると判断した場合は、新規に接続要求を行う無線端末に複数の基地局の何れを接続先とするかを選択させて、適切な通信量を確保させる移動体通信システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、基地局と端末との間の通信量のみに基づいて基地局と端末との間の通信を制御する。このような構成では、建屋内の設備や壁といった個々の構造物の特徴や、端末の移動といった状態の変化に起因する電波伝搬環境の変化に対応できないという問題があった。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、基地局と端末との間の電波伝搬特性を考慮してこれらの間の通信を評価することで、端末が行う通信を最適化できる通信評価システム及び通信評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、建物内の基地局と端末とを仮想的に構築する仮想建物内構築部と、建物内の基地局と端末の間の電波伝搬特性を算出する電波伝搬特性算出部と、電波伝搬特性算出部により算出された電波伝搬特性から、基地局と端末との間で行われる通信の受信電力を算出する受信電力算出部と、仮想的に構築した建物内の基地局と端末との通信の発生を契機として、電波伝搬特性算出部に電波伝搬特性を算出させ、算出された当該電波伝搬特性に基づいて、受信電力算出部に受信電力を算出させ、算出された受信電力に基づき、基地局と端末との間で行われる通信の状態をシミュレートする通信シミュレート部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、仮想的に構築した建物内における基地局と端末との間で発生する通信について、電波伝搬特性を考慮しながら無線通信の状態を評価することができる。これにより、実際の建物内における端末が行う通信において、例えば、基地局の位置や台数を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の通信評価システムの機能ブロック図である。
【
図2】通信評価システムの処理を実行するコンピュータの説明図である。
【
図3】仮想的な建物内における基地局と端末との配置を示す説明図である。
【
図4】通信評価システムの処理の流れを示すシーケンス図である。
【
図5】通信評価システムにおける具体的な評価内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態の通信評価システム1の機能ブロック図を示す。
【0011】
本実施形態の通信評価システム1は、建物内における複数の基地局と、複数の端末(移動端末)との通信を評価するものである。具体的には、通信評価システム1は、仮想的に構築した建物内の基地局と端末との通信を時系列の変化としてシミュレートし、これら基地局と端末との通信状態を評価する。これにより、実際の建物内における基地局と端末の通信において、例えば、基地局の位置や台数を最適化することができる。
【0012】
図1は、本実施形態の通信評価システム1の機能ブロック図を示す。
【0013】
通信評価システム1は、仮想建物内構築部10と、電波伝搬特性算出部20と、受信電力算出部30と、通信シミュレート部40と、通信評価部50と、を備える。
【0014】
仮想建物内構築部10は、実際の建物内に備えられる基地局及び端末を仮想的な空間として構築し、仮想的な空間に存在する基地局及び端末を提供する。
【0015】
電波伝搬特性算出部20は、仮想的に構築した建物内の基地局と端末との間の電波伝搬特性を算出する。
【0016】
受信電力算出部30は、電波伝搬特性算出部20が算出した電波伝搬特性に基づいて、仮想的に構築した建物内の基地局と端末との間で行われる無線通信の受信電力を算出する。
【0017】
通信シミュレート部40は、仮想的に構築した建物内の基地局と端末との間で行われる無線通信の状態遷移を、受信電力算出部30が算出した受信電力を参照して、シミュレートを実行する。
【0018】
通信評価部50は、通信シミュレート部40が実行したシミュレートの結果に基づき、端末が行う通信、例えば端末と端末との間の通信、又は、端末と建物外のWANやLAN等のバックホール(有線又は無線)を介した建物外の装置との間の通信を評価する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態の通信評価システム1の処理を実行するコンピュータ100の説明図である。
【0020】
通信評価システム1は、コンピュータ100上に実装される。コンピュータ100は、CPU110、記憶部120、インターフェース130及び内部バス140を含んで構成される。
【0021】
CPU110は、記憶部120に格納されたプログラムを読み込んで、これを実行する。CPU110がプログラムを実行することにより、後述する各機能を実現する。
【0022】
記憶部120はCPU110により実行されるプログラムを格納する。記憶部120は、CPU110により実行されるプログラムの一時的なワークエリアとしても利用される。記憶部120は、ROM等の不揮発性メモリや、RAM等の揮発性メモリ、又は、HDD、SSD等の固定ディスクを含んで構成される。
【0023】
インターフェース130は、ディスプレイ等の表示装置、キーボード、マウス等の入力装置を備え、管理者が入力する情報を受信し、その結果をディスプレイに表示する。また、インターフェース130は、LAN等のネットワークインターフェースを含み、他のコンピュータとの間で情報を送受信可能に構成される。
【0024】
内部バス140は、CPU110、記憶部120及びインターフェース130を相互に接続する。
【0025】
なお、本実施形態では、
図2に示すような単一のコンピュータ100がプログラムを実行することにより通信評価システム1を構成するが、これに限られない。複数のコンピュータ100がそれぞれ異なる機能を実行し、これらがネットワークインターフェースを介して相互に情報を送受信することで、複数のコンピュータ100によって通信評価システム1が構成されるようにしてもよい。
【0026】
図3は、本実施形態の通信評価システム1に構築される仮想的な建物500の一例の説明図である。
【0027】
実際の建物内には、壁や床、什器など様々な構造物及び物体が存在する。これら構造物及び物体は、それぞれ位置、固有の形状(高さ、幅、奥行き)及び、物性値(比誘電率、導電率等)を有する。通信評価システム1において、仮想建物内構築部10は、管理者によって、構造物及び物体の位置、形状及び物性値が数値として入力される。さらに、建物内に配置される基地局及び端末の位置及び種類が数値として入力される。このようにして、仮想的な建物が構築される。これらの情報は通信評価システム1に記憶される。
【0028】
構築された仮想的な建物は、電波伝搬特性算出部20が、基地局と端末との間の電波伝搬特性を算出する際に用いられる。
【0029】
図3は、仮想的な建物500に、ネットワーク機器NT1、複数の基地局AP(AP1~AP5)、複数の端末STA(STA1~STA5)、複数の什器(501~506)が配置されている例を示す。
【0030】
ネットワーク機器NT1は、ルータ又はゲートウェイとして機能し、各端末(STA1~5)同士の通信、又は、各端末STAと仮想的な建物500外のネットワーク600(LAN又はWAN)を介した外部装置700との間の通信を管理する。外部装置700は、例えば、Webサーバ、アプリケーションサーバ等のホストや、端末STAと同様の端末等により構成される。
【0031】
基地局APは、例えばIEEE802.11に準拠した無線LAN規格により端末STAと無線通信可能に構成される。
【0032】
端末STAは、基地局APと無線通信を行うことで、仮想的な建物500内の他の端末STA、又は、仮想的な建物500外の外部装置700と通信を行うように構成されている。STA1、端末STA2及び端末STA3は移動可能な端末(例えば可搬のノートパソコン又はモバイル機器)であり、端末STA4及び端末STA5は、固定端末(例えばパーソナルコンピュータやIOT機器)として構成される。
【0033】
このように構築された仮想的な建物500において、例えば、端末STA1が基地局AP5との間の無線通信を介して外部装置700と通信を行う場合を考える。この無線通信において、基地局AP5と端末STA1との間には、これらの間で直接伝搬する電波と、これらの間で壁や床、什器505及び什器506により反射、回折する電波とが伝搬する。
【0034】
これらの電波は、互いに方向や到達時間が異なるため、基地局AP5と端末STA1との間の電波の伝搬状態に影響を及ぼす。
【0035】
そこで、電波伝搬特性算出部20は、基地局APと端末STAとの2点間で伝搬する電波伝搬特性を算出する。電波伝搬特性の算出には、例えばレイトレース法が用いられる。レイトレース法とは、送信先から受信元に到達する電波の直接波、反射波、透過波、回折波を全てトレースし、これらを合成することで、電波の伝搬損失、遅延時間、出射方向、到来方向を算出するものである。
【0036】
電波伝搬特性算出部20により算出された電波伝搬特性は、受信電力算出部30に渡される。受信電力算出部30は、電波伝搬特性算出部20により算出された電波伝搬特性における電波に重畳する通信データの特性を算出する。
【0037】
より具体的には、送信元で変調されて送信された送信電波が、算出された電波伝搬特性に従って受信側で受信される。受信電力算出部30は、受信側で受信された電波の受信電力を算出するとともに、受信電波のSINR(信号に対する干渉波、雑音波の比)、復調されたデータの誤り訂正を行うことでBER(誤り率)、を算出する。このようにして、受信電力算出部30は、送信元から受信先へと送信される無線通信の受信電力及び誤り率を算出する。受信電力算出部30における算出には、例えばMATLAB(登録商標)が用いられる。
【0038】
通信シミュレート部40は、算出された受信電力及び誤り率に基づいて、送信元と受信先とで、所定の通信プロトコルに基づいた通信をシミュレートする。
【0039】
具体的な一例として、例えば、端末STAが、基地局APとの間での無線通信を介して、外部装置700との間でHTTPプロトコルに基づく通信を行う場合を説明する。まず、基地局APと端末STAとの間で無線通信の回線確立が行われる。端末STAは、所定の手続に従って外部装置700に対するHTTPプロトコルに従ったアプリケーション層におけるリクエストを生成し、それをMAC層において確立した基地局APへの無線回線を介して外部装置700に対してリクエストを送信する。外部装置700はリクエストに対する応答を行い、基地局APによって確立されている無線回線を介して、端末STAに対するリクエストに対する応答を転送する。さらに応答を受け取った端末STAが基地局APを介してリクエストを送信する。といった通信を繰り返しながら、無線通信を含む通信が行われる。
【0040】
通信シミュレート部40は、基地局APと端末STAとで行われる無線通信において、受信電力算出部30が算出した受信電力及び誤り率を適用して、統計的手法を用いて、無線通信の状態を確認する。より具体的には、通信シミュレート部40は、算出された受信電力及び誤り率を用いて、当該無線通信が、当該無線通信を介して行われる通信プロトコルに必要とされる応答速度や転送レートを満たしているかを確認する。なお、通信シミュレート部40は、受信電力算出部30が算出した受信電力のみを用いて、無線通信の状態を確認してもよい。
【0041】
通信シミュレート部40は、必要とされる転送レートやHTTPプロトコルによって提供されるアプリケーションサービスの品質(例えば動画の解像度や音声の遅延など)を満たさないと判断した場合は、通信中の基地局AP以外の基地局APがより適した無線通信を行えるかを検討する。すなわち、通信中の基地局AP以外の基地局APに対して無線通信を行った場合に、より良好な受信電力又は誤り率となるかを、電波伝搬特性算出部20及び受信電力算出部30の算出結果に基づいて検索し、より良好な基地局APへの切り換えを検討する。
【0042】
また、例えば基地局AP5と端末STA1とが無線通信を行っている場合に、端末STA1が
図3中の位置Aまで移動する場合についてもシミュレーションすることができる。通信シミュレート部40は、端末STA1が位置Aとなった場合、基地局AP5と端末STA1との間の無線通信を、電波伝搬特性算出部20及び受信電力算出部30の算出結果に基づいて、必要であればより良好な他の基地局APへの切り換えを検討する。
【0043】
図4は、本実施形態の通信評価システム1で行われる処理の流れを示すシーケンス図である。
【0044】
図4では、通信シミュレート部40が、無線通信#1、無線通信#2及び無線#3の3つの通信についてシミュレートを行う例を示す。
【0045】
通信シミュレート部40は、無線通信#1において、イベントが発生し、無線通信が開始した場合、まず電波伝搬特性算出部20に対して、無線通信#1における2点間(例えば基地局AP1と端末STA5)の電波伝搬特性を算出させる。次に通信シミュレート部40は、算出された電波伝搬特性を用いて、受信電力算出部30に、無線通信#1における2点間の受信電力及び誤り率を算出させる。通信シミュレート部40は、この算出結果を受け取り、無線通信#1の状態を確認する。
【0046】
同様に、無線通信#2において、イベントが発生し、無線通信が開始した場合は、通信シミュレート部40は、電波伝搬特性算出部20に対して、無線通信#2における2点間(例えば端末STA5と基地局AP1)の電波伝搬特性を算出させ、算出された電波伝搬特性を用いて、受信電力算出部30に、無線通信#2における2点間の受信電力及び誤り率を算出させる。通信シミュレート部40は、この算出結果を受け取り、無線通信#2の状態を確認する。
【0047】
なお、イベントとは、基地局APと端末STAとの間での無線通信の開始、無線通信の終了、通信状態の変化、電源の投入、再起動等が挙げられる。通信シミュレート部40は、このようなイベントが発生することを検出した場合に、上記したような処理を繰り返し、複数同時に発生する無線通信の状態を確認することができる。
【0048】
図5は、本実施形態の通信評価システム1における具体的なシミュレート内容を示す説明図である。
【0049】
図5に示す例は、通信シミュレート部40が無線通信#1、無線通信#2及び無線通信#3の3つの通信について、具体的に実施する例である。
【0050】
通信シミュレート部40は、無線通信#1について、基地局AP1と端末STA5との間で無線通信が開始した場合、当該無線通信を介して行われる通信プロトコル(例えば外部装置700との間のH.323に基づく映像通信)に基づいて、物理層による接続、MAC層(データリンク層)における通信の確立についてシミュレートする。また、この無線通信#1の宛先は、無線通信#2であるので、無線通信#1の確立に対する無線通信#2の確立についても同時にシミュレートする。通信シミュレート部40は、これら無線通信#1及び無線通信#2について、当該無線通信を介して行われる通信プロトコルに基づいた応答速度や転送レートが十分であるか否かを確認する。
【0051】
ここで、通信シミュレート部40は、無線通信#3が開始することをシミュレートする。無線通信#3は、基地局AP1と端末STA3との間で行われる無線通信を介した通信プロトコル(例えば外部装置700との間のVoIPに基づく音声通信)である。この通信は端末STA3が、無線通信#1及び無線通信#2と同じ基地局AP1に接続するため、通信シミュレート部40は、当該無線通信を介して行われる通信プロトコルに基づいた応答速度や転送レートが、無線通信#1及び無線通信#2との干渉により、十分でないことを確認する。通信シミュレート部40は、これに基づき、無線通信#3において、他の基地局(基地局AP3)に切り換える(ハンドオーバする)。この結果、無線通信#3が、基地局AP3と端末STA3との間で行われるように切り換えられ、当該無線通信を介して行われる通信のプロトコルに基づいた応答速度や転送レートが十分となったことを確認できる。
【0052】
なお、上記の例について、通信シミュレート部40は、当該無線通信を介して行われる通信プロトコルに基づいた応答速度や転送レートが十分でない場合に、他の基地局APへのハンドオーバを行うとしたが、これに限られず、管理者に何れの基地局APにハンドオーバするか問い合わせてもよいし、より低い転送レートで基地局AP1と端末STA3との通信を継続させてもよい。これらの取り決めは、予め管理者が、通信シミュレート部40に設定しておく。
【0053】
通信シミュレート部40による仮想的な建物内の基地局APと端末STAとの間の無線通信のシミュレート結果に基づき、通信評価部50は、基地局APと端末STAとの無線通信を介して端末STAと外部装置700との間で行われる通信についての評価を行う。通信評価部50は、通信シミュレート部40が行ったシミュレートの結果を考慮することで、端末STAと外部装置700との間で行われる通信のプロトコルに基づいた応答速度や転送レートが十分であるかを評価することができる。通信評価部50が行った評価に基づいて、実際の建物内における基地局APの位置や台数、方向や配置を予め把握することが可能になる。さらに、評価の結果、基地局APに対する通信が少ないと判断される状況では、当該基地局APの電源をオフにすることで、建物内における省電力化を行うことができる。
【0054】
以上説明した本発明の実施形態では、建物内の基地局APと端末STAとを仮想的に構築する仮想建物内構築部10と、仮想的に構築された建物内の基地局APと端末STAとの間の電波伝搬特性を算出する電波伝搬特性算出部20と、電波伝搬特性算出部20により算出された電波伝搬特性から、基地局APと端末STAとの間で行われる無線通信の受信電力を算出する受信電力算出部30と、仮想的に構築した建物内の基地局APと端末STAとの通信の発生を契機として、電波伝搬特性算出部20に電波伝搬特性を算出させ、算出された当該電波伝搬特性に基づいて受信電力算出部30に受信電力を算出させ、算出された受信電力に基づき、基地局APと端末STAとの間で行われる通信の状態遷移をシミュレートする通信シミュレート部40と、を備える。
【0055】
このような構成により、仮想的に構築した建物内における基地局APと端末STAとの間で発生する無線通信を、仮想的に構築した建物内における電波伝搬特性を考慮してシミュレートすることで、無線通信の状態を評価することができる。これにより、実際の建物内における基地局APと端末STAの無線通信において、例えば、基地局APの位置や台数を最適化することができる。
【0056】
また、本実施形態では、電波伝搬特性算出部20は、仮想的に構築した建物内における基地局APと端末STAとの間で伝搬する直接波、反射波及び回折波に基づいて、電波伝搬特性を算出するので、仮想的な建物内には位置された壁や床、構造物を考慮して、電波伝搬特性を算出することができる。
【0057】
また、本実施形態では、受信電力算出部30は、電波伝搬特性算出部20により算出された電波伝搬特性に基づき、基地局APと端末STAの間で行われる無線通信の変調、復調及び誤り訂正を行うことで、基地局APと端末STAとの間で行われる前記無線通信の受信電力を算出することができる。
【0058】
また、本実施形態では、通信シミュレート部40は、基地局APと端末STAとの間で通信が発生したことを契機として、算出された受信電力に基づき、基地局APと端末STAとの間で行われる無線通信の応答速度及び転送レートが十分であるか否かを評価するので、基地局APと端末STAとの間の無線通信が十分に行われることを確認することができる。
【0059】
また、本実施形態では、仮想的に構築した建物内に、複数の基地局APと複数の端末STAとが配置され、通信シミュレート部40は、何れか一つの基地局APと何れか一つの端末STAとの無線通信の応答速度及び転送レートが十分でないと判断した場合に、基地局APを他の基地局APに切り換えるので、基地局APと端末STAとの間の無線通信が十分でない場合の状態遷移をシミュレートすることができる。
【0060】
以上本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0061】
1 通信評価システム
10 仮想建物内構築部
20 電波伝搬特性算出部
30 受信電力算出部
40 通信シミュレート部
50 通信評価部
100 コンピュータ
700 外部装置
AP 基地局
STA 端末