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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053963
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】土壌の加温装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20240409BHJP
   A01G 9/20 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A01G13/00 Z
A01G9/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160505
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】520011821
【氏名又は名称】シー・ディー・エム・インターナショナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】入江 健一郎
【テーマコード(参考)】
2B024
2B029
【Fターム(参考)】
2B024AA10
2B024DA07
2B024DB01
2B024DB10
2B024DC10
2B029KA06
2B029SC07
2B029SD16
2B029SD18
2B029SF08
(57)【要約】
【課題】作業性が高く、土壌を効率よく加温することができる土壌の加温装置を提供すること。
【解決手段】土壌の加温装置10は、土壌に形成された畝2A~2Jに設けられ、通電により発熱する面状発熱体としての発熱シート1A~1Jを備え、発熱シート1A~1Jは可撓性を有することで、運搬作業時や敷設作業時に曲げてコンパクト化することができるので作業性が高いとともに、畝2A~2Jの上面12aの凹凸に合わせて変形することで土壌との接触面積を広く確保できるため、畝2A~2Jの内部を効率よく加温することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌を加温することが可能な土壌の加温装置であって、
土壌に形成された畝に設けられ、通電により発熱する面状発熱体を備え、
前記面状発熱体は、可撓性を有することを特徴とする土壌の加温装置。
【請求項2】
前記面状発熱体は、前記畝の周囲の地表面若しくは畔の上面よりも上方の高さ位置に敷設されることを特徴とする請求項1に記載の土壌の加温装置。
【請求項3】
前記面状発熱体は、前記畝の表面に沿って敷設されることを特徴とする請求項2に記載の土壌の加温装置。
【請求項4】
前記面状発熱体は、前記畝の上面における作物の側方位置に、長手方向に向けて敷設されていることを特徴とする請求項3に記載の土壌の加温装置。
【請求項5】
前記畝には複数の前記面状発熱体が敷設され、
複数の前記面状発熱体に対する通電制御を個別に行う通電制御手段を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の土壌の加温装置。
【請求項6】
前記通電制御手段は、前記畝が形成された室の室内温度に基づき前記面状発熱体に対する通電制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の土壌の加温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農地などの土壌を加温することにより作物の生産性を高めることが可能な土壌の加温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農地などにおいて、冬季等の低温季に農作物を栽培する場合、例えば、ビニールハウス等の栽培場の室内温度を最適化しても、地温を十分に高めることができずに十分な生産性を得ることができないことがある。
【0003】
そこで、地温を直接に高めることで生産性の向上を図ったものとして、例えば、内部にニクロム線からなる電熱ヒータを有する鋼製の箱体からなる温熱盤を土壌の畝の底部等に埋設し、電熱ヒータを発熱させて土壌を加温するとともに、加熱制御装置により最適な地温に制御できるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-223938号公報(第6頁、第1~3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の土壌の加熱装置にあっては、熱源となる温熱盤は、鋼製の箱体からなり剛性が高く重量が大きいことで、運搬時や敷設時において取扱いが不便で作業性に難があるとともに、土壌の敷設面に自然由来の凹凸や比較的大粒の砂礫があると、平坦な箱体との接触面積が減少して温熱盤から土壌への熱伝導率が低下するため、土壌を効率よく加温できないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、作業性が高く、土壌を効率よく加温することができる土壌の加温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の土壌の加温装置は、
土壌を加温することが可能な土壌の加温装置であって、
土壌に形成された畝に設けられ、通電により発熱する面状発熱体を備え、
前記面状発熱体は、可撓性を有することを特徴としている。
この特徴によれば、面状発熱体は可撓性を有することで、運搬時や敷設時に曲げてコンパクト化することができるので作業性が高いとともに、土壌の敷設面の凹凸に合わせて変形することで土壌との接触面積を広く確保できるため、土壌を効率よく加温することができる。
【0008】
前記面状発熱体は、前記畝の周囲の地表面若しくは畔の上面よりも上方の高さ位置に敷設されることを特徴としている。
この特徴によれば、畝の内部を効率よく加温することができる。
【0009】
前記面状発熱体は、前記畝の表面に沿って敷設されることを特徴としている。
この特徴によれば、面状発熱体の設置を容易に行うことができるばかりか、作物の根の生育を阻害することなく、畝の内部を加温することができる。
【0010】
前記面状発熱体は、前記畝の上面における作物の側方位置に、長手方向に向けて敷設されていることを特徴としている。
この特徴によれば、作物の邪魔にならないように面状発熱体を敷設することができる。
【0011】
前記畝には複数の前記面状発熱体が敷設され、
複数の前記面状発熱体に対する通電制御を個別に行う通電制御手段を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、複数の面状発熱体による電気代コストを抑えつつ、畝全体の地温調整を容易に行うことができる。
【0012】
前記通電制御手段は、前記畝が形成された室の室内温度に基づき前記面状発熱体に対する通電制御を行うことを特徴としている。
この特徴によれば、面状発熱体に対する通電制御の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例における土壌の加温装置が設けられた農地の一部を示す斜視図である。
図2】土壌の加温装置の構成を示す図である。
図3】発熱シートの配線態様を示す模式図である。
図4】(a)、(b)は畝の内部構造を示す断面斜視図である。
図5】畝の内部構造を示す縦断面図である。
図6】(a)~(c)は発熱シートの敷設態様を示す説明図である。
図7】本発明の変形例としての発熱シートの敷設態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る土壌の加温装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0015】
実施例に係る土壌の加温装置につき、図1図6に基づいて説明する。尚、本実施例においては、図1の左手前側及び右手奥側を左右方向とし、右手前側及び左奥側を前後方向、上下方向を上下方向として説明する。
【0016】
図1及び図2に示されるように、本発明の実施例としての土壌の加温装置10は、農地に設置された所定の栽培場としてのビニールハウスH内の土壌を加温するために設けられている。ビニールハウスH内の土壌には、左右方向に延びる複数の畝2A~2Jが、前後方向に向けて所定間隔おきに並設されており、各畝2A~2Jには、後述する面状発熱体としての発熱シート1A~1Jが設けられている。
【0017】
各畝2A~2Jの表面は、主に保温効果や防草効果を目的として、黒色のポリフィルム材からなるマルチシート4により覆われている。尚、マルチシート4は、黒色のポリフィルム材に限らず、シルバー、グリーンまたは透明なマルチシートでもよい。また、稲わら、落ち葉、紙、バークチップなど生分解性で栽培終了後に土にすき込める有機物資材によりマルチングしてもよい。尚、各畝2A~2Jの表面は必ずしもマルチシートにより覆われていなくてもよい。
【0018】
各畝2A~2Jには、可撓性を有し、通電により発熱する面状発熱体としての発熱シート1A~1Jが長手方向に沿うように設けられている。尚、複数の発熱シート1A~1Jは同じ構造であるため、以下では発熱シート1Aについてのみ説明し、その他の説明は省略する。
【0019】
図2及び図3に示されるように、発熱シート1Aは、シート状に形成されたポリイミドフィルム1b上に、複数の半導体物質と酸化化合物とを練り合わせ圧延し、テフロン(登録商標)加工したことでテープ状に成形された発熱体1aを、幅方向に一定間隔の離間域Sを設けて複数枚略平行に貼着させることにより構成され、可撓性を有している。発熱シート1Aは、平面視長方形状をなし、左右方向(長手方向)の長さ寸法L5は約167cm、前後方向(幅方向)の長さ寸法L6は約15cmとされている。
【0020】
尚、これら各寸法L5、L6は一例であり、畝の長さに規定はなく、栽培者や栽培する農作物によって異なる場合があるため、畝2A~2Jの長さ寸法に応じて発熱シート1Aの長さ寸法L5、L6を変更したり、敷設する枚数を調整することで対応可能である。
【0021】
それぞれの発熱体1aは、一定幅で且つ長手方向に延設されたテープ状(帯状)に形成されている。尚、本実施例に限られず、発熱体1aは、所定幅で短手方向に延設されたテープ状(帯状)に形成されてもよいし、あるいは幅狭の帯状すなわち略線状に形成されてもよい。さらに、ポリイミドフィルム1bと同一形状のポリイミドフィルム1dを上方から被覆することで発熱体1a、1a・・を挟持し、真空密閉若しくはプレス密封させることで略面状に形成される。
【0022】
尚、本実施例に限られず、発熱シート1Aは、発熱体1aに沿ってテープ状(帯状)に形成されてもよいし、あるいは幅狭の帯状すなわち略線状に形成されてもよい。また、発熱シート1Aは、発熱体1aをポリイミドフィルム1b、1dにて両側から挟み込むようにして形成されているが、ポリイミドフィルムに替えて、ポリエステルフィルムやシリコンラバーなどの耐熱材を用いてもよい。また、簡易防水仕様、または完全防水加工仕様とすることにより、潅水パイプに設置場所制限等を不要とすることができる。
【0023】
また、それぞれの発熱体1aの両端部には銀ろうからなる電極が接続され、この電極に接続され発熱シート1Aの一方端部から延出されるコード1cを介し交流電源が供給されることで、それぞれの発熱体1aの温度が高まり、発熱シート1Aを発熱させるようになっている。さらに、特に図示しないが、発熱体1a若しくは発熱シート1Aの適所に、当該発熱体1aの発熱温度を検知するサーミスタ若しくは熱電体等からなる検知部が設けられるとともに、この検知部に電気的に接続された配線がポリイミドフィルム1b、1dを貫通し外方に延出されるようにしてもよい。このようにすることで、発熱シート1Aの内部の発熱体1aの温度情報を外部に導出できるため、発熱体1aの発熱温度に基づく制御を行うことができる。
【0024】
通電により発熱シート1A~1Jの発熱体1a、1a・・は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換して発熱されるようになっており、当該発熱シート1A~1Jの上下両面から放熱される。尚、発熱シート1A~1Jの上面側には遮熱シート(図示略)が配設されているので、発熱シート1A~1Jの上方側に放射された熱は、遮熱シート(図示略)の全面に亘り伝熱され、その熱エネルギーの一部が遮熱シートにより下方側に向けて熱を反射させるようになっている。反射された熱は各発熱シート1A~1Jの発熱体1a、1a・・同士の間に形成されている離間域Sを通じて下方に向けて放熱されるようになっている。
【0025】
また、発熱シート1A~1Jから延出されたコード1c、1c・・は外方へ延出され、制御盤9を介して図示しない電源から交流電流の供給を受けている。制御盤9は、外部から工業用電源AC200Vの電源(図示略)により交流電流の供給を受けている。尚、商用電源を使用する場合は工業用三相200V、太陽光発電など自然エネルギーを使用する場合はAC100Vでも対応可能である。
【0026】
電源が供給された直後においては、制御盤9に設けられた通電制御手段としてのシーケンサ9a(図2参照)により初期運転が選択され、予め設定された初期運転時間M(例えば10分)、発熱シート1A~1Jの全てに連続的に通電させ、この初期運転時間において常時発熱させるようになっている。
【0027】
このように、土壌の加温装置10は、各畝2A~2Jに設けられる複数の発熱シート1A~1J(面状発熱体)と、制御盤9に設けられ、各発熱シート1A~1Jに対する通電制御を個別に行う通電制御手段としてのシーケンサ9aと、から構成される。尚、制御盤9は、例えば、10分、20分、30分のいずれかの初期運転時間を設定可能なボタン等の設定部を有していてもよい。
【0028】
次いで、上記した初期運転時間、発熱シート1A~1Jが通電された後、シーケンサ9aにより本運転が選択される。本運転は、例えば、畝2A~2Jを2グループに分けて、交互スイッチングにより発熱シート1A~1E、1F~1J、1A~1E、1F~1J・・の順に通電状態と非通電状態を繰り返す運転であり、本実施例では、通電時間として所定の通電時間T1(例えば、1秒)ずつ発熱シート1A~1Eと発熱シート1F~1Jとを交互に通電させるものである。すなわち、シーケンサ9aは、各発熱シート1A~1Jを、通電時間T1である1秒間の通電状態の後、他の発熱シートが通電状態となる非通電時間T2(1秒)を経て、次の通電状態、さらに非通電状態を繰り返す2チャンネル通電制御を実行可能である。このことから、本運転に移行すると、各発熱シートには、2秒のうちの1秒のみ通電がされることになるため、初期運転時よりも省電力で稼働させることができるようになっている。
【0029】
これにより、複数の発熱シート1A~1Jによる電気代コストを抑えつつ、畝全体の地温調整を容易に行うことができる。つまり、最大限の省エネ効率運転を主目的として高速スイッチング制御する場合は、通電開始時は全チャンネルを同時通電することで土壌温度を一様に上昇させ、土壌温度が設定目的温度に到達した時点でチャンネル別通電を開始すればよい。また、電力会社とのデマンド契約節約が主目的の場合は、デマンド料金制度を基準にスイッチング・チャンネル数を決定し、通電開始時からチャンネル別通電を開始すればよい。
【0030】
また、上述した本運転の通電時間T1及び非通電時間T2は一例であり、通電時間T1と非通電時間T2とを自由に変更することが可能であり、例えば、発熱シート1A、1B、1C・・1Jの順に通電状態となるようにしてもよい。すなわち、シーケンサ9aは、各発熱シートの通電時間T1を0.5秒とした場合、0.5秒の通電状態の後、他の発熱シートが通電状態となる非通電時間T2(0.5×9=4.5秒)を経てから次の通電状態となり、以降、通電状態と非通電状態を繰り返す10チャンネル通電制御を実行可能である。
【0031】
尚、高速スイッチングのチャンネル数は、例えば、物理的に120チャンネルまで可能だが、土壌自体の保温率や農業用マルチシートによる保温効果を考慮した上で、チャンネルにおける通電時間T1での上昇温度と、非通電時間T2での下降温度とを比較し、T1≧T2となるようにチャンネル数を決定することが好ましい。
【0032】
次に、畝2A~2Jについて説明する。尚、畝2A~2Jは同じように作られるため、以下では畝2I、2Jについてのみ説明し、その他の畝2A~2Hの説明は省略する。
【0033】
図4及び図5に示されるように、畝2I、2Jは、土を盛ることによりその周囲の地表、つまり、畝2I、2Jの長手方向の両端側の地表面5(図1参照)や、他の畝との間の畔3の上面3aより高くすることにより作られるもので、土の水捌けと通気性が向上して農作物20の根の張りがよくなり、生育が大いに促される。尚、畝2I、2Jの下部から上部にかけて土の目が細かくなっている。
【0034】
各畝2A~2Jの左右方向(長手方向)の長さ寸法L1は約5200cm(図2参照)、前後方向(幅方向)の長さ寸法L2が約90cm(図5参照)、上下方向の高さ寸法L3は約30cm(図5参照)とされている。また、各畝2A~2J間に作られる畔3の前後方向(幅方向)の長さ寸法L4は約40cm(図5参照)とされている。尚、これら各寸法L1~L4は一例であり、栽培する農作物20の種類等に応じて種々に変更可能である。
【0035】
畝2I、2Jは、長手方向に向けて略水平に均された上面12aと、上面12aから前後側に向けて下方に傾斜する傾斜面12bと、から縦断面視略台形状に形成され、上面12a及び傾斜面12bからなる表面はマルチシート4により覆われている。上面12aにおける前後方向の略中央位置には、マルチシート4に複数の孔部4aが長手方向に向けて所定間隔おきに形成され、各孔部4aに農作物20が植設されている。
【0036】
また、畝2Iの上面12aにおける農作物20の前側には、発熱シート1Iが長手方向に向けて所定間隔おきに複数(例えば、29枚)敷設されている(図2参照)。また、畝2Jの上面12aにおける農作物20の前後側には、発熱シート1J、1Jが長手方向に向けて所定間隔おきに複数(例えば、29枚)敷設されている(図2参照)。
【0037】
このように、畝2I、2Jの上面12aに発熱シート1I、1Jが長手方向に沿って列状に敷設され、これら発熱シート1I、1Jが通電状態となって発熱することにより、発熱シート1I、1Jからの熱が、図4中の黒矢印で示されるように内部に向けて供給されることで、畝2I、2Jの内部(例えば、点線で囲まれた丸い部分など)が加温されて適宜温度(例えば、5~10度)に維持されるようになっている。
【0038】
尚、畝2Iの場合、上面12aにおける農作物20の前側に発熱シート1Iが1列敷設され、畝2Jの場合、上面12aにおける農作物20の前後側に発熱シート1J、1Jが2列敷設される形態を例示したが、発熱シートを前後方向に1列、2列または3列以上敷設するかは、畝の前後寸法や、農作物20の種類に応じて決定すればよく、温度を高めたいのであれば、前後方向や長手方向に敷設する枚数を増加したり、発熱シートの前後寸法L6を長寸とすればよい。
【0039】
ここで、発熱シート1I、1Jの敷設態様を図4図6に基づいて説明する。発熱シート1I、1Jは、畝2I、2Jの上面12aにおける農作物20の前側と後側とのうち少なくとも一方に長手方向に沿って敷設していく。発熱シート1I、1Jは、シンプルなシート状で、軽量、かつ、可撓性を有していることから、運搬時や敷設時にロール状に曲げるなどしてコンパクト化することができ、取扱いが非常に容易であるため、作業者の作業性が高い。尚、各発熱シート1I、1Jから延出されるコード1cも発熱シート1I、1Jに沿って配線され、畝2I、2Jの長手方向の端部から引き回して制御盤9に接続される(図2参照)。
【0040】
また、発熱シート1I、1Jは、畝2I、2Jの上面12aに敷設したときに、上面12aの凹凸に合わせて変形して隙間が生じにくいことで、剛性が高い平板状の面状発熱体に比べて土壌との接触面積が広く確保されて外部に放熱されにくくなるため(図6(a)参照)、発熱体1aの伝道熱と輻射熱を有効に使用して土壌を効率よく加温することができる。
【0041】
次いで、発熱シート1I、1Jを長手方向に沿って敷設した後、発熱シート1I、1Jの上面1eに軽く土や砂等の被覆材13を薄層若しくは適切な層厚に掛けていく(図6(b)参照)。これにより、発熱シート1I、1Jが被覆材13の重みにより上面12aの凹凸に密接されて土壌との接触面積がより広くなり、熱伝導率が高まるとともに、発熱シート1I、1Jの位置ずれが防止される。尚、必ずしも発熱シート1I、1Jの上面1eに被覆材13を掛けなくてもよく、この場合、ビニールハウスHなどの施設内温度を高めるといった温度調整をしやすくなる。
【0042】
そして、マルチシート4により畝2I、2Jの上面12a及び傾斜面12bを覆う(図6(c)参照)。このように発熱シート1I、1Jの表面側がマルチシート4により覆われることにより、発熱シート1I、1Jからの熱が外部に放出されにくくなるため、保温効果が高まる。尚、このマルチシート4の上面に土や砂を掛けてマルチシート4を畝2I、2Jの上面12a及び傾斜面12bに密接されるようにしてもよく、このようにすることで発熱シート1I、1Jの位置ずれがより好適に防止される。さらに、必ずしもマルチシート4により畝2I、2Jの上面12a及び傾斜面12bを覆わなくてもよく、この場合、ビニールハウスHなどの施設内温度を高めるといった温度調整をしやすくなる。
【0043】
尚、発熱シート1I、1Jとマルチシート4の間に配設される被覆材13は、畝2I、2Jを構成する土や砂等と同じ材料でもよいし、あるいは畝2I、2Jを構成する土や砂等よりも断熱性の高い材料(例えば、アルミシートなど)を適用してもよく、このようにすることで、発熱シート1I、1Jの発熱効果を外部に逃がすことなく、被覆材13の上部を覆うマルチシート4と相俟って、畝2I、2J内部を効果的に加温することができる。
【0044】
以上説明したように、本発明の実施例としての土壌の加温装置10は、土壌に形成された畝2A~2Jに設けられ、通電により発熱する面状発熱体としての発熱シート1A~1Jを備え、発熱シート1A~1Jは可撓性を有する。このように、発熱シート1A~1Jは可撓性を有することで、運搬作業時や敷設作業時に曲げてコンパクト化することができるので作業性が高いとともに、土壌の敷設面、例えば、畝2A~2Jの上面12aの凹凸に合わせて変形することで土壌との接触面積を広く確保できるため、畝2A~2Jの内部を効率よく加温することができる。
【0045】
また、発熱シート1A~1Jは、畝2A~2Jの周囲の地表面5(図1参照)若しくは畔3の上面3aよりも上方の高さ位置に敷設されることで(図5参照)、畝2A~2Jの内部を効率よく加温することができる。また、地表面5や畔3の上面3aよりも上方に突出するように土を盛って形成される畝2A~2Jに発熱シート1A~1Jが設けられることで、地表面5や畔3の上面3aを掘削して発熱シート1A~1Jを敷設する必要がないので、発熱シート1A~1Jを容易に設置することが可能となる。
【0046】
また、発熱シート1A~1Jは、畝2A~2Jの表面である上面12aに沿って敷設されることで、発熱シート1A~1Jを畝2A~2Jの内部に埋めたりする必要がないので発熱シート1A~1Jの設置を容易に行うことができる。
【0047】
より詳しくは、従来技術にて説明したように発熱体を埋設する方式は、万が一の断線などの故障時の対応が大掛かりになり、埋設から掘り起こすことも必要になり、最悪の場合は栽培そのものを中断する必要が生じる可能性があるのに対し、本発明のように畝の表面に面状発熱体を敷設する方式では、万が一の断線などの故障時の対応が非常に容易で、栽培を中断することなく、故障対象品分の取り換えが可能であるため作業性が高い。
【0048】
また、埋設方式は、耕起時には一旦撤去して、耕起後に改めて設置する必要があり、それだけでも相当な労力と費用を要するのに対し、本発明のように畝の表面に面状発熱体を敷設する方式では、耕起時の一時撤去は可撓性と柔軟性の特徴を生かし、図示しないローラー等に巻き付けながら撤去することが可能で、耕起後もローラーから巻き戻すことで再設置を容易に行うことができるため作業性が高い。
【0049】
また、発熱シート1A~1Jは、畝2A~2Jの表面である上面12aに沿って敷設されることで、農作物20の根の生育を阻害することなく、畝2A~2Jの内部を加温することができる。特に、外気に近い畝2A~2Jの表面側(表層)から内部側に向けて加温されることで表面側の温度が低下しにくくなるため、保温効果が高まる。さらに、施設栽培においては、ビニールハウスHなどのハウス栽培施設内の空間温度も同時に上昇させて、植物の最適光合成温度を調整し、光合成速度を最大化することも可能となる。
【0050】
また、土を盛って畝2A~2Jを作った後、その上面12aに発熱シート1A~1Jを敷設することができる。言い換えると、発熱シート1A~1Jを畝2A~2Jの内部に埋設する必要がないので、発熱シート1A~1Jを容易に設置することができる。さらに、
【0051】
また、発熱シート1A~1Jは、畝2A~2Jの上面12aにおける農作物20の前側や後側位置に、長手方向に向けて敷設されていることで、農作物20の邪魔にならないように敷設することができる。また、農作物20を避けながら、畝2A~2Jの上面12aの長手方向に向けて複数の発熱シート1A~1Jを略連続的(または断続的)に敷設することができるため、畝の全域を略均一に加温することができる。
【0052】
また、畝2A~2Jには複数の発熱シート1A~1Jが敷設され、複数の発熱シート1A~1Jに対する通電制御を個別に行う通電制御手段としてのシーケンサ9aを備えることで、複数の発熱シート1A~1Jによる電気代コストを抑えつつ、畝2A~2J全体の地温調整を容易に行うことができる。
【0053】
また、発熱シート1A~1Jは、電熱ヒータを蓄熱体として使用する砂鉄で取り囲んだ温熱管や、蓄熱体として砂鉄を充填した合成樹脂または金属製の温熱盤や、蓄熱体として砂鉄を充填した合成樹脂または金属製の温熱壁などを有することなく、発熱体1aをポリイミドフィルム1b、1dといった耐熱材で両側から挟み込んだ構造であることで、部品点数を最小限とすることで故障発生率を最小化することができるので、作業者の作業性が高まる。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例1、2及び変形例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0055】
例えば、前記実施例では、発熱シート1A~1Jを畝2A~2Jの上面12aに敷設する形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、畝2A~2Jの表面であれば、例えば、図7に示されるように、畝2A~2Jの傾斜面12b、12bに長手方向に向けて敷設してもよい。このようにすることで、農作物20に干渉させることなく発熱シート1A~1Jを敷設することができるとともに、畝2A~2Jの深部を好適に加温することができる。
【0056】
さらに、図7において2点鎖線で示される発熱シート1Kのように、畝2A~2Jの周囲の地表面5(図1参照)若しくは畔3の上面3aよりも上方の高さ位置に設けられていれば、必ずしも畝2A~2Jの上面12aや傾斜面12b、12bなどの表面でなくてもよく、畝2A~2Jの形成途中(図示略)の表面に発熱シート1Kを載置し、この発熱シート1Kの上面1eに土や砂等の被覆材13を被覆することで畝2A~2Jを完成させてもよい。
【0057】
また、前記実施例では、シーケンサ9aは、ビニールハウスHの室内温度によらず複数の発熱シート1A~1Jに対する通電制御を個別に行う形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、制御盤9に、ビニールハウスHの室内温度を計測可能な室内温度計(図示略)を接続し、シーケンサ9aは、室内温度計(図示略)が計測したビニールハウスHの室内温度情報に基づき、各発熱シート1A~1Jに対する通電制御を行うようにしてもよい。このようにすることで、室内温度を参照しながら発熱シート1A~1Jの通電制御を行うことができるため、地温を効率よく制御することができる。
【0058】
さらに、ビニールハウスHの室外温度を計測可能な室外温度計(図示略)を接続し、シーケンサ9aは、室外温度計(図示略)が計測したビニールハウスHの室外温度情報に基づき、各発熱シート1A~1Jに対する通電制御を行うようにしてもよい。このようにすることで、室外温度を参照しながら発熱シート1A~1Jの通電制御を行うことができるため、地温を効率よく制御することができる。
【0059】
また、前記実施例では、面状発熱体は、可撓性を有するシート状の発熱シート1A~1Jにて構成されている形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィルム状の面状発熱体であってもよい。
【0060】
また、前記実施例では、面状発熱体としての発熱シート1A~1Jは、畝2A~2Jの長手方向に向けて延設される長方形状のシートから構成される形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、畝2A~2Jの上面12aにおける各農作物20の間に点在するように配設されてもよい。
【0061】
また、前記実施例では、面状発熱体としての発熱シート1A~1Jは、農作物20を栽培する畝2A~2Jに敷設された形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、農作物20以外の作物を栽培する栽培場や、個人が所有する畑などに作られた畝など、露地栽培や施設栽培の圃場における土壌に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1A~1J、1K 発熱シート(面状発熱体)
1a 発熱体
1b ポリイミドフィルム
1c コード
1d ポリイミドフィルム
1e 上面
2A~2J 畝
3 畔
3a 上面
4 マルチシート
4a 孔部
5 地表面
9 制御盤
9a シーケンサ(通電制御手段)
10 土壌の加温装置
12a 上面(畝の表面)
12b 傾斜面(畝の表面)
13 被覆材
20 農作物
H ビニールハウス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7