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特開2024-53986表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物
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  • 特開-表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物 図1
  • 特開-表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053986
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20240409BHJP
【FI】
C09D11/03
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160541
(22)【出願日】2022-10-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100131587
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 和人
(72)【発明者】
【氏名】太田 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 彰人
(72)【発明者】
【氏名】田淵 太基
(72)【発明者】
【氏名】北瀬 輝
(72)【発明者】
【氏名】北村 祐基
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 郁哉
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB12
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE04
4J039BC33
4J039BC56
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE16
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA37
4J039EA43
4J039FA02
4J039GA03
4J039GA09
(57)【要約】
【課題】フィルムに表刷り印刷するための水性インキ組成物であって、得られる印刷層の耐ブロッキング性が向上し、さらには耐熱性や耐水耐摩性が向上しうる、水性印刷インキ組成物を提供すること。
【解決手段】水性バインダー樹脂及び水性媒体を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物であって、さらに、炭素数10~20のアシル基を有する、アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩をインキ組成物中に0.3~10.0質量%含有する、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性バインダー樹脂及び水性媒体を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物であって、
さらに、炭素数10~20のアシル基を有する、アシルタウリン酸塩(式I)及び/又はアシルアミノ酸塩(式II)をインキ組成物中に0.3~10.0質量%含有する、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【化1】
(式Iにおいて、
R1は、炭素数9~19のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基を示し;
R2は、水素原子又は低級アルキル基を示し;
Mはスルホン酸に対するカウンターイオンを示す。)
【化2】
(式IIにおいて、
R3は、炭素数9~19のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基を示し;
R4は、水素原子又は低級アルキル基を示し;
R5は、水素原子又は低級アルキル基を示し、当該低級アルキル基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はスルフヒドリル基を有していてもよく;
Mはカルボン酸に対するカウンターイオンを示す。)
【請求項2】
前記アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩をインキ組成物中に0.5~10.0質量%含有する、請求項1に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【請求項3】
さらに、リン酸エステル系界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記水性バインダー樹脂が、水性アクリル系樹脂エマルジョン、水性ウレタン系樹脂エマルジョン、及び水性アクリルウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【請求項5】
さらに、架橋剤を含有する請求項1又は2に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの片面又は両面に印刷するための、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種製品(食品、菓子、生活雑貨、ペットフード等)は、各種プラスチックフィルムを使用した包装材料で包装され、製品の意匠性、経済性、内容物保護性、輸送性等を高めている。多くの包装材料には、消費者へアピールする意匠性、メッセージ性の付与を意図して、グラビア印刷やフレキソ印刷が施されている。これらの包装材料は、包装材料の基材フィルムの表面(包装したときの外側になる面)に表刷り印刷されていたり、あるいは包装材料の基材フィルムの表面に形成した印刷層に、必要に応じて接着剤やアンカー剤を塗布し、さらにラミネート加工が施されている。
【0003】
基材フィルムに表刷り印刷するための印刷インキは溶剤性インキであることが多いが、近年、環境問題から、表刷りフィルム用水性印刷インキが検討されている。例えば、1)ヒドラジン化合物とカルボジイミド化合物を含有する、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物(特許文献1参照)、2)コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンを含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物(特許文献2参照)、3)特定のアニオン界面活性剤を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物(特許文献3参照)、などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-076431号公報
【特許文献2】特開2017-190416号公報
【特許文献3】特開2020-059822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は、耐ブロッキング性の向上が考慮されていなかった。特に近年、基材フィルムの両面に印刷層を有する両面印刷フィルムもあり、このような両面印刷フィルムをロール状に巻き取ったときに、基材フィルム表面の印刷層と裏面の印刷層との耐ブロッキング性が要求されており、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物にも、より高い耐ブロッキング性が求められている。
【0006】
そこで本発明の課題は、フィルムの片面又は両面に印刷するための、表刷りフィルム用水性インキ組成物であって、得られる印刷層の耐ブロッキング性が向上し、さらには耐熱性が向上しうる、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下に示す表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物を見出した。
[1]水性バインダー樹脂及び水性媒体を含有する表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物であって、さらに、炭素数10~20のアシル基を有する、アシルタウリン酸塩(式I)及び/又はアシルアミノ酸塩(式II)をインキ組成物中に0.3~10.0質量%含有する、表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【化1】
(式Iにおいて、
R1は、炭素数9~19のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基を示し;
R2は、水素原子又は低級アルキル基を示し;
Mはスルホン酸に対するカウンターイオンを示す。)
【化2】
(式IIにおいて、
R3は、炭素数9~19のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基を示し;
R4は、水素原子又は低級アルキル基を示し;
R5は、水素原子又は低級アルキル基を示し、当該低級アルキル基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はスルフヒドリル基を有していてもよく;
Mはカルボン酸に対するカウンターイオンを示す。)
【0008】
[2]前記アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩をインキ組成物中に0.5~10.0質量%含有する、[1]に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
[3]さらに、リン酸エステル系界面活性剤を含有する、[1]または[2]に記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
[4]前記水性バインダー樹脂が、水性アクリル系樹脂エマルジョン、水性ウレタン系樹脂エマルジョン、及び水性アクリルウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれる少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
[5]さらに、架橋剤を含有する[1]~[4]のいずれかに記載の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は、フィルムの片面又は両面に印刷されることで基材フィルムに印刷層を形成することができ;当該印刷層は、耐ブロッキング性が高く、かつ優れた樹脂フィルムへの密着性、耐熱性、及び耐水耐摩擦性をバランス良く発揮しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】巻き取られた状態の表刷り印刷フィルムと、当該表刷り印刷フィルムの層断面を示す図
図2】巻き取られた状態の筒状の表刷り印刷フィルムと、当該表刷り印刷フィルムの層断面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1. 表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物]
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物(「水性印刷インキ組成物」ともいう)は、1) 水性バインダー樹脂と、2) 特定のアシル基を有するアシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩と、3) 水性媒体と、を含有し、さらに4) 他の任意成分を含んでいてもよい。特に、本発明の水性印刷インキ組成物が着色インキ組成物である場合には顔料を含むが、ニス組成物である場合には顔料を含まなくてもよい。
【0012】
[1-1. 水性バインダー樹脂]
本発明の水性印刷インキ組成物に含まれる水性バインダー樹脂は、水性樹脂エマルジョンを含有し、必要に応じて水溶性樹脂を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
[1-1-1. 水性樹脂エマルジョン]
水性印刷インキ組成物における水性樹脂エマルジョンの含有量は、顔料を含む水性印刷インキ組成物である場合には、固形分含量として5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり;一方、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下である。また、水性印刷インキ組成物における水性樹脂エマルジョンの含有量は、顔料を含まない水性印刷インキ組成物(ニス組成物)である場合には、固形分含量として10質量%以上であることが好ましくは、より好ましくは15質量%以上であり;一方、35質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下である。
【0014】
水性樹脂エマルジョンの例には、ア)水性アクリル系樹脂エマルジョン、イ)水性ウレタン系樹脂エマルジョン、ウ)水性アクリルウレタン系樹脂エマルジョンなどが含まれる。水性樹脂エマルジョンにおいて、樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば60nm~1000nmの範囲、好ましくは60nm~400nmの範囲であるが特に限定されない。樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による測定値をいう。
【0015】
[1-1-1-1. 水性アクリル系樹脂エマルジョン]
水性アクリル系樹脂エマルジョンは、水性アクリル系樹脂が粒子状に乳濁安定化した状態の樹脂液をいう。表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物における水性アクリル系樹脂エマルジョンは酸基(通常はカルボキシル基)を有しており、当該酸基の一部又は全部が、塩基性化合物(好ましくは揮発性塩基性化合物)で中和されていることが好ましい。
【0016】
水性印刷インキ組成物における水性アクリル系樹脂エマルジョンは、その酸価が10mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは20mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは30mgKOH/g以上であり;一方、180mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは100mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは90mgKOH/g以下である。酸価が10mgKOH/g以上であると、水性アクリル系樹脂エマルジョンの水性媒体への十分な分散性が得られやすい。一方、酸価が180mgKOH/g以下であると、水性印刷インキ組成物の安定性が得られやすい。
【0017】
水性アクリル系樹脂エマルジョンの酸価は、たとえば共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(「理論酸価」ともいう)とみなすことにより算出し得る。なお、市場から入手可能な水性アクリル系樹脂エマルジョンについて、そのサプライヤーが公表している酸価は理論酸価であるとは限らないが、理論酸価とみなしてもよい。
【0018】
水性印刷インキ組成物における水性アクリル系樹脂エマルジョンは、そのガラス転移温度が-30℃以上であることが好ましく、より好ましくは-25℃以上であり;一方、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。ガラス転移温度が-30℃以上であると、印刷層に十分な耐熱性、接着性が付与しやすく、150℃以下であると印刷層に柔軟性が付与され、印刷層が基材フィルムの屈曲等に追随しやすくなる。
【0019】
水性アクリル系樹脂エマルジョンのガラス転移温度は、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度であることが好ましい。
Woodの式:
1/Tg=W1/Tg+W/Tg+W/Tg+ ・・・・・・+ W/Tg
(式中、Tgは樹脂の理論ガラス転移温度;Tg~Tgは樹脂の共重合体を構成する単量体1、2、3・・・nのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度;W~Wは樹脂の単量体1、2、3・・・nのそれぞれの重合分率を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。)なお、本願明細書に記載された、市場から入手可能なアクリル系樹脂について、そのサプライヤーが公表しているガラス転移温度は、理論ガラス転移温度であるとは限らないが、理論ガラス転移温度とみなしてもよい。
【0020】
水性アクリル系樹脂エマルジョンは、(アクリル系単量体のみからなる)アクリル樹脂エマルジョンのほか、スチレン系単量体成分を含むスチレン・アクリル樹脂エマルジョン、マレイン酸単量体成分を含むアクリル・マレイン酸樹脂エマルジョン、スチレン系単量体成分及びマレイン酸単量体成分を含むスチレン・アクリル・マレイン酸樹脂エマルジョンであることが好ましい。
【0021】
水性アクリル系樹脂エマルジョンは、好ましくは、カルボキシル基を有する水溶性樹脂(X)を高分子乳化剤として、水性溶媒中で、エチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して製造される、酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)であることが好ましい。
【0022】
高分子乳化剤として用いるカルボキシル基を有する水溶性樹脂(X)は、以下の単量体成分(i)~(iii)に由来する構造単位を有する。
単量体成分(i):ラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物
単量体成分(ii):ラジカル重合性二重結合を有するケトン化合物および/またはアルデヒド化合物(但し、単量体成分(ii)は必要に応じて使用される成分である)
単量体成分(iii):単量体成分(i)および(ii)を除くラジカル重合性二重結合を有する化合物
【0023】
単量体成分(i)の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のジカルボン酸とそのモノアルキルエステル、モノヒドロキシアルキルエステル、モノアミド;無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を挙げることができる。これらのラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物の中でも、水溶性樹脂(X)の高分子乳化剤としての乳化能の点から、モノカルボン酸、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好適である。
【0024】
単量体成分(ii)のラジカル重合性二重結合を有するケトン化合物とは、分子中に少なくとも1つ以上のケト基を有するラジカル重合性化合物であって、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、ビニルアルキルケトン類等を挙げることができる。単量体成分(ii)におけるラジカル重合性二重結合を有するアルデヒド化合物とは、分子中に少なくとも1つ以上のアルド基を有するラジカル重合性化合物であって、アクロレイン、ホルミルスチロール、アルカナール(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。
【0025】
単量体成分(iii)は、例えば以下に記載する(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン系化合物又はマレイン酸誘導体でありうる。
・(メタ)アクリル酸誘導体:(メタ)アクリル酸の炭素原子数が1~18のアルキルエステル、炭素原子数が1~18のアルキルアミド、炭素原子数が2~4のヒドロキシアルキルエステル等であり;具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、ヘキシル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
・スチレン系化合物:スチレンおよびその誘導体であり;具体的には、α-メチルスチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
・マレイン酸誘導体:マレイン酸の炭素原子数が1~18のジアルキルエステル、炭素原子数が1~18のジアルキルアミド、炭素原子数が2~4のジヒドロキシアルキルエステル等であり;具体的には、ジメチルマレート、ジエチルマレート、ジブチルマレート、ジオクチルマレート、ビス-2-ヒドロキシエチルマレート、マレイン酸ジメチルアミド、マレイン酸ジエチルアミド、マレイン酸ジブチルアミド等を挙げることができる。
【0026】
水溶性樹脂(X)の好適な分子量(質量平均分子量、以下同じ)は3000以上であることが好ましく、より好適には5000以下であり;一方、100000以下であることが好ましく、より好適には30000以下である。分子量が3000以上であると、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物に耐水性や耐ブロッキング性を付与しやすくなり;一方、分子量が100000以下であると、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物が印刷に適した粘度になりやすい。
【0027】
水溶性樹脂(X)の好適な酸価は、20mgKOH/g以上であることが好ましく、一方、300mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が20mgKOH/g以上であるとアルカリ水溶液中で溶解しやすくなり;一方、300mgKOH/g以下であると、得られる樹脂エマルジョンを含む表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の耐水性が上がり、印刷適性も得やすい。水溶性樹脂(X)の酸価は、水性アクリル系樹脂エマルジョンの酸価と同様、理論酸価であることが好ましい。
【0028】
水溶性樹脂(X)は、単量体成分(i)~(iii)を含む単量体組成物を、有機溶剤中で重合開始剤の存在下、所定の温度および反応時間で反応させた後、有機溶剤を留去して製造することができる。
【0029】
水溶性樹脂(X)を得るために共重合される単量体組成物において、単量体成分(i)~(iii)の合計に対して、単量体成分(i)の割合は2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上であり;一方、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。単量体成分(i)~(iii)の合計に対して、単量体成分(ii)の割合は0質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上であり;一方、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以下である。単量体成分(i)~(iii)の合計に対して、単量体成分(iii)の割合は50~98質量%が好ましい。
【0030】
水溶性樹脂(X)を得るために共重合される単量体組成物において、単量体成分(i)の割合が2質量%以上であると、得られる水溶性樹脂(X)のアルカリ水溶液中での十分な溶解性が得られる。そのため、乳化重合の安定性、さらに重合物の分散安定性が得られ、その結果として表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の流動性もよくなる。一方、単量体成分(i)の割合が50質量%以下であると、得られる樹脂エマルジョンを含むインキ組成物の印刷適性がよくなり、印刷層の耐水性も高まる。共重合される単量体組成物において、単量体成分(ii)の割合が5質量%以下であると、得られる樹脂エマルジョンを含む表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物が経時での安定性がよくなり、増粘・固化などを防止でき、印刷適性の低下を抑制できる。
【0031】
単量体成分(i)~(iii)を含む単量体組成物を共重合させるための有機溶剤の例には、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系;低級アルコール系、グリコールおよびその誘導体等が含まれる。
【0032】
単量体成分(i)~(iii)を含む単量体組成物を共重合させるための重合開始剤の例には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、ベンゾイルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類、また、必要に応じて還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤を挙げることができる。
【0033】
酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)は、水溶性樹脂(X)を高分子乳化剤として、水性溶媒中で、エチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得ることができる。好ましくは、水溶性樹脂(X)をアルカリ水溶液中に溶解させた後、エチレン性不飽和単量体組成物と重合開始剤との混合物を滴下し、所定の温度および反応時間でエチレン性不飽和単量体を重合反応させて製造することができる。このようにして得られる樹脂エマルジョンにおいて、樹脂固形分は通常は20~60質量%である。
【0034】
得られる酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)は特に限定されないが、コアシェル型を有していてもよく、コア部がエチレン性不飽和単量体組成物の共重合体で構成され、シェル部が水溶性樹脂(X)の成分で構成されていてもよい。
【0035】
乳化重合されるエチレン性不飽和単量体組成物は、単量体成分(iv)である「ラジカル重合性二重結合を有するケトンおよび/またはアルデヒド化合物」(但し、単量体成分(iv)は必要に応じて使用される)と、単量体成分(v)である「成分(iv)を除くラジカル重合性二重結合を有する化合物」とを含む。
【0036】
単量体成分(iv)の例には、単量体成分(ii)として述べたラジカル重合性二重結合を有するケトンおよびアルデヒド化合物を挙げることができる。
【0037】
単量体成分(v)の例には、単量体成分(i)として述べたラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物;単量体成分(iii)として述べた(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン系化合物、マレイン酸誘導体;さらに、炭素原子数2~18の飽和カルボン酸のビニルエステル、具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル等を挙げることができる。単量体成分(v)の好適な例には、(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン系化合物が挙げられ;これらは、酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)の分散性を高め、得られる表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物の性能を改善する。
【0038】
乳化重合されるエチレン性不飽和単量体組成物において、単量体成分(iv)と単量体成分(v)の合計に対する、単量体成分(iv)の割合は0~30質量%の範囲であり、単量体成分(v)の割合は70~100質量%であることが好ましい。単量体成分(iv)の割合が30質量%以下であると、得られる樹脂エマルジョンを含む印刷インキ組成物の経時での安定性がよくなり、増粘・固化が防止され、印刷適性の低下を抑制できる。
【0039】
得られる酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)において、単量体成分(i)~(v)の質量の合計に対して、単量体成分(ii)と(iv)の質量の合計割合が0.5~25質量%となることが好ましい。単量体成分(ii)と単量体成分(iv)の質量の合計割合が0.5質量%以上であると、得られる樹脂エマルジョンを含む印刷インキのプラスチックフィルムに対する十分な接着性が得られやすい。
【0040】
酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)の製造において、エチレン性不飽和単量体組成物に含まれる単量体成分(iv)と(v)との合計質量に対する、水溶性樹脂(X)の質量の比率「(X)/(iv)+(v)」は、20/80~80/20、好ましくは30/70~70/30の範囲である。ここで、当該比率が20/80以上であると、得られる樹脂エマルジョンを含む印刷インキの再溶解性、流動性や保存安定性が高まりやすく、80/20以下であると印刷層の耐水性等が確保しやすい。
【0041】
酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)の製造において、水溶性樹脂(X)を溶解させるためのアルカリ水溶液は、後述するアルカリ性物質(好ましくは、揮発性塩基性化合物)を含むことが好ましい。なお、アルカリ性物質の使用量としては、水溶性樹脂(X)を完全に中和するのに必要な量に対して100~120%程度が適量であり、使用量が100%以上であると樹脂エマルジョン(Y)の十分な水親和性が得られ;一方、120%より多くしたとしても、樹脂エマルジョン(Y)の水親和性はさらに高まることはない
【0042】
酸基含有水性アクリル系樹脂エマルジョン(Y)の製造における乳化重合で使用される重合開始剤の例には、前述した水溶性樹脂(X)を製造において示した重合開始剤を挙げることができる。
【0043】
水性アクリル系樹脂は、市場からも入手可能である。市販品としては、例えば星光PMC株式会社の商品名「X-436」;アイカ工業株式会社の商品名「ウルトラゾールA-35」、「ウルトラゾールKJ-1」;BASFジャパン株式会社の商品名「ジョンクリルPDX-7356」、「ジョンクリルPDX-7696」が挙げられる。
【0044】
[1-1-1-2. 水性ウレタン系樹脂エマルジョン]
水性ウレタン系樹脂エマルジョンは、水性ウレタン系樹脂が粒子状に乳濁安定化した状態の樹脂液をいう。水性ウレタン系樹脂エマルジョンは、ポリエステル系、ポリエーテル系又はポリカーボネート系の水性ウレタン系樹脂のエマルジョンであることが好ましい。ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系とはそれぞれ、水性ウレタン系樹脂の合成の主原料が、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールである水性ウレタン系樹脂をいう。
【0045】
水性ウレタン系樹脂は酸価を有し、その酸価が10mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは20mgKOH/g以上であり;一方、60mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは50mgKOH/gである。また、水性ウレタン系樹脂の水酸基価は、1mgKOH/g以上であることが好ましく;一方、35mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは25mgKOH/g以下である。水性ウレタン系樹脂の酸価は、水性アクリル系樹脂エマルジョンの酸価と同様の手法で、理論酸価として算出されうる。
【0046】
水性ウレタン系樹脂のガラス転移温度は-90℃以上であることが好ましく、より好ましくは-80℃以上であり、さらに好ましくは-70℃以上であり;一方、140℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下である。得られる印刷層の基材密着性を高めるためである。ここで、ガラス転移温度とは示差走査熱量測定(DSC)による測定値又は動的機械測定(DMA)による測定値をいう。
【0047】
水性ウレタン系樹脂の質量平均分子量は1×10~1×10であることが好ましく、2×10~7×10であることがより好ましい。水性ウレタン系樹脂の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置として Water 2690(ウォーターズ社)、カラムとして PLgel 5μ MIXED-D(Polymer Laboratories社)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の質量平均分子量として求めることができる。
【0048】
水性ウレタン系樹脂は、例えば特開2008-1911号公報や特開2017-8292号公報に記載の方法に準じて製造することができる。水性ウレタン系樹脂は、高分子ポリオール(例えばポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオール)とポリイソシアネートとを反応させて得られるが、さらに低分子ジオール、3以上の水酸基を有する低分子化合物、ジヒドロキシ酸なども原料として反応させることが好ましい。さらに、水性ウレタン系樹脂は、ポリアミンを用いて鎖延長されていてもよい。
【0049】
水性ウレタン系樹脂を構成する高分子ポリオール(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、その他のポリオール)由来の構造単位の数平均分子量は500~7000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0050】
水性ウレタン系樹脂はポリエーテルポリオール由来の構造単位を有しうるが;当該ポリエーテルポリオールは、好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合のポリエーテルポリオール、ポリテトラメチレングリコール等でありうる。なかでも、水性ウレタン系樹脂はポリエチレングリコールに由来する構造単位を有することが好ましく、その含有量は水性ウレタン系樹脂総質量中に1~35質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましく、2~25質量% 含有することが更に好ましい。水性ウレタン系樹脂がポリエチレングリコール由来の構造単位を当該範囲で含有すると、印刷不良が生じにくくなる。
【0051】
水性ウレタン系樹脂はポリエステルポリオール由来の構造単位を有しうるが;当該ポリエステルポリオールは、低分子ジオールと二塩基酸との縮合物であることが好ましい。低分子ジオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール等の分岐構造を有する低分子ジオールが好ましい。なお、分岐構造を有する低分子ジオールとはジオールの有するアルキレン基の少なくとも一つの水素原子がアルキル基に置換された構造を有するジオールをいう。二塩基酸としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸あるいはこれらの無水物が好ましい。なかでも、二塩基酸は、アジピン酸、セバシン酸、アセライン酸、コハク酸その他の脂肪族二塩基酸であることが好ましい。
【0052】
水性ウレタン系樹脂は、ポリイソシアネート由来の構造単位を有するが;当該ポリイソシアネートは、公知のものを使用でき、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、および脂環族ジイソシアネート等が挙げられ、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環族ジイソシアネートであることが好ましい。
【0053】
芳香族ジイソシアネートとしては例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、および2,6-ジイソシアネート-ベンジルクロライド等が挙げられる。
【0054】
脂肪族ジイソシアネートとしては例えば、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
脂環族ジイソシアネートとしては例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、およびダイマー酸のカルボキシ基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
水性ウレタン系樹脂は低分子ジオール由来の構造単位を有し得るが;当該低分子ジオールの例には、上記ポリエステルポリオールを構成する低分子ジオールとして例示されたジオール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等の脂肪族環構造を有するジオールが挙げられる。
【0057】
水性ウレタン系樹脂は、3以上の水酸基を有する低分子化合物に由来する構造単位を有しうるが:3以上の水酸基を有する低分子化合物の例には、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等でありうるが、トリメチロールプロパンがより好ましい。水性ウレタン系樹脂は、樹脂全体に対して、3以上の水酸基を有する低分子化合物に由来する構成単位を0.1~0.8質量%含有することが好ましい。印刷したインキ皮膜の硬度を向上させるためである。
【0058】
水性ウレタン系樹脂は、ジヒドロキシ酸由来の構造単位を有しうるが;当該ジヒドロキシ酸は、例えば2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸;グルタミン、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類であり得るが、水性ウレタン系樹脂はジメチロールアルカン酸由来の構造単位を有することが好ましい。水性ウレタン系樹脂は、これら構造単位を単独または2種以上を組み合わせて有しうる。なお、ウレタン系樹脂の合成において、各樹脂原料に含まれるカルボキシル基は50~140℃の温和な合成反応条件下では分解することなく残存する。
【0059】
水性ウレタン系樹脂に含まれる酸基(例えば、ジメチロールアルカン酸やジヒドロキシ酸由来の構造単位の酸基)は、その一部又は全部が塩基性化合物で中和されていてもよい。ただし、中和の程度によっては樹脂の水溶性が高まり、樹脂エマルジョンが構成できなくなる(樹脂が溶解する)ため、中和の程度は樹脂エマルジョンが構成できるように調整される。中和に用いる塩基性化合物としては、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアミン化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機酸化物等が好適であり、1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
水性ウレタン系樹脂はポリアミンを用いて鎖延長されていてもよいが;当該ポリアミンは、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等のヒドロキシル基を含有する有機ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等のヒドロキシル基を含有しない有機ジアミンが挙げられる。
【0061】
水性ウレタン系樹脂は、市場からも入手可能である。市販品としては、例えばDIC株式会社の商品名「ハイドランWLS-210」; 日華化学株式会社の商品名「ネオステッカー400」、「ネオステッカー200」; 第一工業製薬株式会社の商品名「スーパーフレックス500M」; 三井化学株式会社の商品名「タケラックW-5010」、「タケラックW-6010」、「タケラックW-6110」、「タケラックWA-4000」、「タケラックW-635」、「タケラックW-5100」が挙げられる。
【0062】
[1-1-1-3. 水性アクリルウレタン系樹脂エマルジョン]
水性ウレタンアクリル系樹脂エマルジョンは、水性ウレタンアクリル系樹脂が粒子状に乳濁安定化した状態の樹脂液をいう。水性ウレタンアクリル系樹脂とは、ウレタン樹脂部とアクリル樹脂部とを含む樹脂である。ウレタン樹脂部とアクリル樹脂部とを含む樹脂とは、ウレタンユニットとアクリルユニットとの交互共重合体であってもよいし;主鎖を構成するウレタン樹脂に側鎖としてアクリル樹脂が結合してもよいし;主鎖を構成するアクリル樹脂に側鎖としてウレタン樹脂が結合していてもよい。水性アクリルウレタン系樹脂は、例えば特開平4-103614号公報、特開平10-139839号公報等に記載の方法を参照して製造することができる。
【0063】
水性アクリルウレタン系樹脂は酸基を有することが好ましく、当該酸基を中和することで水性化してもよい。つまり、水性アクリルウレタン系樹脂のアクリル樹脂部に酸基を導入してもよいし、ウレタン系樹脂部に酸基を導入してもよい。アクリル樹脂部への酸基の導入は、前述の通り、ラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または酸無水物を重合体成分とすることで可能であるが、特に限定されない。ウレタン系樹脂部への酸基の導入は、前述の通り、ジメチロールアルカン酸やジヒドロキシ酸を樹脂原料とすることで可能であるが、特に限定されない。
【0064】
水性アクリルウレタン系樹脂の酸価は5mgKOH/g以上であることが好ましく、25mgKOH/g以上であることがより好ましく、さらに好ましくは30mgKOH/g以上であり;100mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは80mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは60mgKOH/g以下である。水性アクリルウレタン系樹脂の酸価は、水性アクリル樹脂の場合と同様の手法で、理論酸価として算出されうる。
【0065】
水性アクリルウレタン系樹脂の重量平均分子量は1×10~12×10であることが好ましく、2×10~8×10であることがより好ましい。水性アクリルウレタン系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置として Water 2690(ウォーターズ社)、カラムとして PLgel 5μ MIXED-D(Polymer Laboratories社)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の質量平均分子量として求めることができる。
【0066】
水性アクリルウレタン系樹脂のウレタン樹脂部とアクリル樹脂部の質量比( ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)の範囲は90:10~30:70が好ましい。水性アクリルウレタン系樹脂におけるアクリル樹脂部が10質量%以上であると印刷層に十分な耐水性を付与しやすく、アクリル樹脂部が70質量%以下であると印刷層のプラスチック基材に対する十分な密着性を付与しやすく、また耐ブロッキング性もよくなる。
【0067】
水性アクリルウレタン系樹脂のアクリル樹脂部のガラス転移温度は-10℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上であり;一方、110℃以下であることが好ましい。アクリル樹脂部のガラス転移温度は、水性アクリル樹脂の場合と同様の手法で、Woodの式により求めた理論ガラス転移温度として算出されうる。
【0068】
水性アクリルウレタン系樹脂におけるウレタン樹脂部は、上述の水性ウレタン系樹脂と同様の原料からなる構造単位を有しうる。ウレタン樹脂部の総質量に対して、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオール由来の構造単位の質量割合が、50質量%であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0069】
一方、水性アクリルウレタン系樹脂におけるアクリル樹脂部は、アクリルモノマー由来の構造単位を有する。アクリルモノマーの例には、芳香族系アルキル基含有アクリルモノマー、直鎖または分岐アルキル基含有アクリルモノマー、脂環式アルキル基含有アクリルモノマー、フッ素化アルキル基含有アクリルモノマー、アミド基含有アクリルモノマー、ヒドロキシル基含有アクリルモノマー、ポリエチレンオキサイド基含有アクリルモノマー等が含まれる。
【0070】
芳香族系アルキル基含有アクリルモノマーの例には、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等が含まれる。
【0071】
直鎖または分岐アルキル基含有アクリルモノマーの例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0072】
脂環式アルキル基含有アクリルモノマーの例には、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等が含まれる。フッ素化アルキル基含有アクリルモノマーの例には、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0073】
アミド基含有アクリルモノマーの例には、(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等が含まれる。
【0074】
ヒドロキシル基含有アクリルモノマーの例には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等が含まれる。
【0075】
ポリエチレンオキサイド基含有アクリルモノマーの例には、ポリエチレングリコールモノアクリレート(日本油脂社、ブレンマーPE-90、200、350、350G、AE-90、200、400等)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日本油脂社、ブレンマー50PEP-300、70PEP-350等)、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(日本油脂社、ブレンマーPME-400、550、1000、4000等)等が含まれる。
【0076】
水性アクリルウレタン系樹脂のアクリル樹脂部は、アクリルモノマー以外のモノマー由来の構造単位を有することが好ましく;アクリルモノマー以外のモノマーの好ましい例には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族系モノマーが含まれる。
【0077】
水性アクリルウレタン系樹脂は、例えば、以下の手順で製造することができる:1) ポリオール、ポリイソシアネート、場合によりジメチロールアルカン酸を有機溶剤中で重合反応させてウレタン系樹脂(α)を製造し、2) 当該ウレタン系樹脂(α)を塩基性化合物で中和したのち、3)溶剤を水に置換後、アクリルモノマーを添加して、有機過酸化物をラジカル重合開始剤としてラジカル重合(特に限定されないが、グラフト重合であり得る)させてアクリル系樹脂部を形成させ、水性アクリルウレタン系樹脂(β)のエマルジョンを得ることができる。
【0078】
アクリルモノマーを、ウレタン系樹脂(α)とグラフト重合させることで、水性アクリルウレタン系樹脂(β)のエマルジョンを得ることができると考えられる。特に限定されないが、アクリルモノマーのグラフト重合は、ウレタン系樹脂(α)におけるポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールその他のポリオールに由来する構造単位に含まれるアルキレン基の水素原子の引抜反応によるラジカル重合が進むものと考えられるが、特に限定されない。
【0079】
アクリルモノマーをラジカル重合するための有機過酸化物(ラジカル重合開始剤)には、公知の有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物の例には、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が含まれる。
【0080】
アクリルモノマーの重合反応における反応温度は40~140℃であることが好ましく、反応時間は30分~10時間程度であることが好ましいが、特に限定されない。
【0081】
水性アクリルウレタン系樹脂(β)の有する酸性基は塩基性化合物で中和されて水性化されてもよい。該当する塩基性化合物としては、ウレタン系樹脂で例示したものと同じものが挙げられる。中でもアミン化合物が好ましく、アンモニアの使用が好ましい。
【0082】
水性アクリルウレタン樹脂は、市場から入手することもできる。市販品としては、例えば、大成ファインケミカル株式会社の商品名「WEM-200U」、「WEM-505C」、「WEM-3000」などが挙げられる。
【0083】
[1-1-2. 水溶性樹脂]
本発明の水性印刷インキ組成物に含まれる水溶性樹脂は、通常は水溶性アクリル樹脂である。水溶性アクリル樹脂は、顔料を分散させるために用いてもよい。したがって、水性印刷インキ組成物が顔料を含まない場合には、水溶性樹脂(水溶性アクリル樹脂)も含まない場合がある。
【0084】
水溶性アクリル樹脂を構成する単量体成分は、カルボキシル基を有する単量体と、顔料との吸着性を向上させるための疎水性基を含有する単量体と、重合可能な他の単量体と、からなる。水溶性アクリル樹脂は、それを構成するカルボキシル基を有する単量体ユニットにおけるカルボキシル基の一部又は全部が、塩基性化合物(好ましくは揮発性塩基性化合物)により中和されて、アルカリ可溶性樹脂として用いられることが好ましい。
【0085】
水溶性アクリル樹脂を構成するカルボキシル基を有する単量体の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等が含まれる。
【0086】
水溶性アクリル樹脂を構成する顔料との吸着性を向上させるための疎水性基を含有する単量体の好ましい例には、炭素数6~20の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ;なかでも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等がより好ましく;さらに、スチレン系単量体として、スチレン、α-スチレン、ビニルトルエン等を使用できる。
【0087】
水溶性アクリル樹脂を構成する重合可能な他の単量体は、水溶性アクリル樹脂の性質を損なわない範囲にて使用でき、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等を使用できる。
【0088】
水溶性アクリル樹脂を中和する(カルボキシル基を有する単量体ユニットにおけるカルボキシル基の一部又は全部を中和する)ための揮発性塩基性化合物は、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、モノエタノールアミン等が例示でき、中でもアンモニアが好ましい。性能が低下しない範囲で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ化合物、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、ジアザビシクロオクタン等の不揮発性アミン化合物も併用することが可能である。
【0089】
水溶性アクリル樹脂の酸価は、40mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは70mgKOH/g以上であり;一方、250mgKOH/g以下であることが好ましい。アルカリ可溶性樹脂の酸価が40mgKOH/g以上であると、水性印刷インキ組成物の水性溶媒への十分な溶解性が得られる。一方、酸価が250mgKOH/g以下であると、水性印刷インキ組成物の親水性が適度になり貯蔵安定性が高まり、印刷層に耐水性も付与しやすい。水溶性アクリル樹脂の酸価は、水性アクリル樹脂エマルジョンの酸価と同様、理論酸価であることが好ましい。
【0090】
[1-2. アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩]
本発明の水性印刷インキ組成物は、特定のアシル基を有するアシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩を含む。アシルタウリン酸塩は、タウリン酸(「タウリン」ともいう)(HN(R2)-CH2CH2-SO2OH)のアミノ基がアシル化され、かつタウリン酸のスルホニル基が塩とされた化合物である。アシルアミノ酸塩は、アミノ酸(HN(R4)-CH(R5)-COOH)のアミノ基がアシル化され、かつアミノ酸のカルボキシル基が塩とされた化合物である。アシル基の炭素数は10~20の範囲が好ましく、より好ましくは、炭素数は16~20である。
【0091】
[1-2-1. アシルタウリン酸塩]
本発明の水性印刷インキ組成物に含まれるアシルタウリン酸塩は、以下の(式I)で示されうる。(式I)において、R1-C(=O)-がアシル基を示し;R2は、水素原子又は低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基)を示し、Mはスルホン酸に対するカウンターイオンを示す。
【化3】
【0092】
(式I)において、アシル基を示すR1-C(=O)-の炭素数は10~20の範囲であり、つまり、R1の炭素数は9~19の範囲である。R1は、任意の炭化水素基(任意の置換基を有していてもい)であるが:直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基(飽和炭化水素基);直鎖、分岐鎖又は環状のアルケニル基(1又は複数の不飽和の炭素-炭素二重結合を有する炭化水素基);直鎖、分岐鎖又は環状のアルキニル基(1又は複数の不飽和の炭素-炭素三重結合を有する炭化水素基);または芳香族炭化水素基を示す。R1は、好ましくは、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基、又は直鎖、分岐鎖又は環状のアルケニル基であり;さらに好ましくは、直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、又は直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基である。
【0093】
(式I)におけるアシル基(R1-C(=O)-)の炭素数は10~20(つまり、R1の炭素数は9~19)であり、好ましくは16~20(つまり、R1の炭素数は15~19)である。アシル基の炭素数が10以上であると、得られる水性印刷インキ組成物による印刷層の耐ブロッキング性が高まる。
【0094】
(式I)におけるアシル基(R1-C(=O)-)の好ましい例には、デカノイル基(カプリノイル基(C10))、ウンデカノイル基(C11)、ドデカノイル基(ラウロイル基(C12))、トリデカノイル基(C13)、テトラデカノイル基(ミリストイル基C14)、ペンタデカノイル基(C15)、ヘキサデカノイル基(パルミトイル基(C16))、ヘプタデカノイル基(C17)、オクタデカノイル基(ステアロイル基(C18))、ノナデカノイル基(C19)、イコサノイル基(C20)などのアルキル基を有するアシル基;オレオイル基(C18)、リノレオイル基(C18)、リノレノイル基(C18)などのアルケニル基を有するアシル基;ココイル基(ヤシ油脂肪酸アシル基)などの複数種の脂肪酸アシル基の組み合わせ;などが含まれる。
【0095】
(式I)におけるR2は、水素原子又は低級アルキル基である。低級アルキル基の例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基などが含まれる。R2は、好ましくは水素原子又はメチル基であるが、より好ましくはメチル基である。
【0096】
(式I)におけるMは、スルホン酸に対するカウンターイオンを示し;好ましくは、アルカリイオン、アンモニウムイオン又は有機アミニウムイオン(aminium ion)である。つまり、アシルタウリン酸塩は、アルカリ塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であり得る。アルカリイオンの例に、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが含まれる。
【0097】
アシルタウリン酸塩の具体例には、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンカリウム、ラウロイルメチルタウリンアンモニウム;ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンカリウム、ミリストイルメチルタウリンアンモニウム;パルミトイルメチルタウリンナトリウム、パルミトイルメチルタウリンカリウム、パルミトイルメチルタウリンアンモニウム;ステアロイルメチルタウリンナトリウム;ココイルメチルタウリンナトリウム、ココイルメチルタウリンカリウム、ココイルメチルタウリンアンモニウム、ココイルタウリンナトリウム;オレオイルメチルタウリンナトリウムなどが含まれる。
【0098】
[1-2-2. アシルアミノ酸塩]
本発明の水性印刷インキ組成物に含まれるアシルアミノ酸塩は、以下の(式II)で示されうる。(式II)において、R3-C(=O)-がアシル基を示し;R4は、水素原子又は低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基)を示し;R5は、水素原子または低級アルキル基(ヒドロキシル基、カルボキシル基又はスルフヒドリル基を有していてもよい)を示し;Mはカルボン酸に対するカウンターイオンを示す。
【化4】
【0099】
(式II)において、アシル基を示すR3-C(=O)-の炭素数は10~20の範囲であり、つまり、R3の炭素数は9~19の範囲である。R3は、任意の炭化水素基(任意の置換基を有していてもい)であるが:直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基(飽和炭化水素基);直鎖、分岐鎖又は環状のアルケニル基(1又は複数の不飽和の炭素-炭素二重結合を有する炭化水素基);直鎖、分岐鎖又は環状のアルキニル基(1又は複数の不飽和の炭素-炭素三重結合を有する炭化水素基);または芳香族炭化水素基を示す。R3は、好ましくは、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基、又は直鎖、分岐鎖又は環状のアルケニル基であり;さらに好ましくは、直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、又は直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基である。
【0100】
(式II)におけるアシル基(R3-C(=O)-)の炭素数は10~20(つまり、R3の炭素数は9~19)であり、好ましくは16~20(つまり、R3の炭素数は15~19)である。アシル基の炭素数が10以上であると、得られる水性印刷インキ組成物による印刷層の耐ブロッキング性が高まる。
【0101】
(式II)におけるアシル基(R3-C(=O)-)の好ましい例には、デカノイル基(カプリノイル基(C10))、ウンデカノイル基(C11)、ドデカノイル基(ラウロイル基(C12))、トリデカノイル基(C13)、テトラデカノイル基(ミリストイル基C14)、ペンタデカノイル基(C15)、ヘキサデカノイル基(パルミトイル基(C16))、ヘプタデカノイル基(C17)、オクタデカノイル基(カプリロイル基(C18))、ノナデカノイル基(C19)、イコサノイル基(C20)などのアルキル基を有するアシル基;オレオイル基(C18)、リノレオイル基(C18)、リノレノイル基(C18)などのアルケニル基を有するアシル基;ココイル基(ヤシ油脂肪酸アシル基)などの複数種の脂肪酸アシル基の組み合わせ;などが含まれる。
【0102】
(式II)におけるR4は、水素原子又は低級アルキル基である。低級アルキル基の例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基などが含まれる。R4は、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0103】
(式II)におけるMは、カルボン酸に対するカウンターイオンを示し;好ましくは、アルカリイオン、アンモニウムイオン又は有機アミニウムイオンである。つまり、アシルアミノ酸塩は、アルカリ塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であり得る。アルカリイオンの例に、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが含まれる。有機アミニウムイオン(aminium ion)の例には、トリエタノールアミニウムイオンが含まれる。
【0104】
R5は、水素原子又は低級アルキル基を示す。また、R5の低級アルキル基は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、又はスルフヒドリル基(チオール基)を有していてもよい。R5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、スルフヒドリルメチル基、ヒドロキシエチル基、カルボキシエチル基などが含まれる。
【0105】
すなわち、(式II)で示されるアシルアミノ酸塩のアミノ酸(HN(R4)-CH(R5)-COOH)の例には、グリシン(R4=水素原子, R5=水素原子)、アラニン(R4=水素原子, R5=メチル基)、サルコシン(R4=メチル基, R5=水素原子)、トレオニン(R4=水素原子, R5=1-ヒドロキシエチル基)グルタミン酸(R4=水素原子, R5=カルボキシエチル基)、アスパラギン酸(R4=水素原子, R5=カルボキシメチル基)、セリン(R4=水素原子, R5=ヒドロキシメチル基)、ロイシン(R4=水素原子, R5=iso-ブチル基)、システイン(R4=水素原子, R5=スルフヒドリルメチル基)、バリン(R4=水素原子, R5=iso-プロピル基)などが含まれる。
【0106】
(式II)で示されるアシルアミノ酸塩の具体例には、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム、ラウロイルアスパラギン酸カリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルグルタミン酸トリエタノールアミン、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルサルコシンカリウム、ラウロイルサルコシントリエタノールアミン、ラウロイルトレオニンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、ラウロイルメチルアラニントリエタノールアミン;ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ミリストイルグルタミン酸カリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム、ミリストイルメチルアラニンナトリウム;パルミトイルアスパラギン酸トリエタノールアミン;ステアロイルグルタミン酸ナトリウム、ステアロイルグルタミン酸カリウム、ステアロイルロイシンの塩;ココイルアラニントリエタノールアミン、ココイルグリシンナトリウム、ココイルグリシンカリウム、ココイルグリシントリエタノールアミン、ココイルグルタミン酸ナトリウム、ココイルグルタミン酸カリウム、ココイルグルタミン酸トリエタノールアミン、ココイルサルコシンナトリウム、ココイルサルコシンカリウム、ココイルサルコシントリエタノールアミン、ココイルメチルアラニンナトリウム、ココイルメチルアラニンカリウム;オレオイルサルコシンの塩、などが含まれる。
【0107】
[1-2-3. アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩の含有量]
本発明の水性印刷インキ組成物は、炭素数10~20のアシル基を有するアシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩を、合計で0.3質量%以上含有し、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは0.7質量%以上であり、特に好ましくは1.0質量%以上であり;一方、合計で10.0質量%以下含有し、好ましくは7.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下である。炭素数10~20のアシル基を有するアシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩の合計含有量が0.3質量%以上であると、印刷層に十分な耐ブロッキング性を付与でき;一方、10.0質量%以下であると、印刷層に十分な耐水性とトラッピング性を付与でき、また、インキ組成物の消泡性も得られる。
【0108】
[1-3. 水性媒体]
本発明の水性印刷インキ組成物は、水からなる水性媒体、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒からなる水性媒体を含む。本発明の水性印刷インキ組成物において、水と混合して使用される水溶性有機溶媒の含有量は、極力少なくすることが好ましく、配合しなくてもよく;水性印刷インキ組成物に対して0~10.0質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0~5.0質量%である。10.0質量%を超えるときには乾燥不良や耐ブロッキング性が低下する。
【0109】
水性媒体として、水と混合して使用される水溶性有機溶媒としては、例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
モノアルコール類の例には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノニルアルコール、n-デカノール、またはこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が1~6のアルコールを使用できる。
【0111】
多価アルコール類の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0112】
多価アルコールの低級アルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等を使用できる。
【0113】
[1-4. 顔料]
本発明の水性印刷インキ組成物は、顔料を含んでいても、含んでいなくてもよい。つまり、水性印刷インキ組成物を着色インクとする場合には顔料を配合するが;透明のクリア印刷インキ組成物(ニス組成物)とする場合には顔料を配合しなくてもよいし、透明性を低下させない範囲で顔料を含有させてもよい。
【0114】
本発明の水性印刷インキ組成物が含みうる顔料は、印刷インキにおいて一般的に用いられている各種無機顔料及び/又は有機顔料等である。無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等の体質顔料を挙げることができる。有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。
【0115】
本発明の水性印刷インキ組成物における顔料の含有量は、前述の通り0でもよいが;着色インクとする場合には、通常は水性印刷インキ組成物の質量に対して0.5~40.0質量%の範囲が好ましい。表刷りフィルム用水性色印刷インキ組成物中の顔料の含有量が上記の範囲より少なくなると、表刷りフィルム用水性色印刷インキ組成物としての着色力が低下し、上記の範囲より多くなると、表刷りフィルム用水性印刷色インキ組成物の粘度が高くなり、印刷物が汚れやすくなる。
【0116】
[1-5. リン酸エステル系界面活性剤]
本発明の水性印刷インキ組成物は、リン酸エステル系界面活性剤を含有してもよい。リン酸エステル系界面活性剤は、好ましくは、式:RO-P(=O)(OH)2、RO-P(=O)(OH)(OM)、RO-P(=O)(OM)2で表される、リン酸エステル又はその塩であり;アルキルリン酸エステル(R=アルキル)又はその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(R=R’O-(CH2HC2O)n-, R’=アルキルやフェニルなど)又はその塩でありうる。リン酸エステルの塩とは、典型的には、アルカリ塩(ナトリウム塩やカリウム塩)、有機アミン塩(モノエタノールアミン塩)である。
【0117】
リン酸エステル系界面活性剤の具体例には、プライサーフ(登録商標、第一工業製薬)AL (ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル)、プライサーフDB-01(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル・モノエタノールアミン塩)、プライサーフA219B(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル)、プライサーフA208B(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル)、プライサーフ212C (ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)などが含まれる。
【0118】
本発明の水性印刷インキ組成物におけるリン酸エステル系界面活性剤の含有量は、好ましくは0.1質量%であり、より好ましくは0.3質量%以上であり;一方、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以下である。リン酸エステル系界面活性剤の含有量が0.1質量%以上であると、水性印刷インキ組成物で形成される印刷層の耐熱性が高まり、ヒートシール耐性が向上する。リン酸エステル系界面活性剤の含有量が1.0質量%以下であると、水性印刷インキ組成物で形成される印刷層の耐水性及びとトラッピング性が高まる。
【0119】
[1-6. 架橋剤]
本発明の水性印刷インキ組成物には、さらに架橋剤が含まれていてもよい。架橋剤は、好ましくは、水性印刷インキ組成物に含まれる水性バインダー樹脂を、形成した印刷層において架橋させることができる。架橋剤の例には、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤、ヒドラジン化合物、カルボジイミド化合物などが含まれる。
【0120】
エポキシ系硬化剤の例には、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0121】
アジリジン系硬化剤の例には、分子内に少なくとも2個以上のアジリジン基(アジリジニル基)を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-アジリジニル)ブチレート]、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-(2-メチル)アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-アジリジニル)-2-メチルプロピオネート]、ペンタエリスリトール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラ[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリス(1-(2-メチル)アジリジニル)フォスフィンオキサイド、トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1,3,5-トリアジン、エチレングリコール-ビス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ポリエチレングリコール-ビス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、プロピレングリコール-ビス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ポリプロピレングリコール-ビス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、テトラメチレングリコール-ビス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ポリテトラメチレングリコール-ビス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、N,N’-テトラメチレンビスエチレン尿素、N,N’-ヘキサメチレンビスエチレン尿素、N,N’-フェニレンビスエチレン尿素、N,N’-トルイレンビスエチレン尿素、N,N’-ジフェニル-4,4’-ビスエチレン尿素、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ビスエチレン尿素、ジフェニルメタンP.P-ビスエチレン尿素、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、ビス[1-(2-エチル)アジリジニル]ベンゼン-1,3-カルボン酸アミド等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-アジリジニル)ブチレート]、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-(2-メチル)アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパン-トリス[3-(1-アジリジニル)-2-メチルプロピオネート]、ペンタエリスリトール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール-テトラ[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]などのようなアジリジニル基を3個またはそれ以上有するポリアジリジンが好ましく使用される。また、多官能性アジリジン化合物として、アジリジニル基と反応可能な官能基を2個以上有するポリエステルおよびポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種とアジリジニル基を2個以上有するアジリジン化合物とを反応させてなる、アジリジンプレポリマーを用いてもよい。
【0122】
ヒドラジン化合物の例には、多官能性ヒドラジン系化合物を使用できる。具体的には、例えばシュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどの炭素数2~16程度(特に炭素数3~10程度)の飽和又は不飽和ジカルボン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0123】
カルボジイミド化合物の例には、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミドメチオジド、N-tert-ブチル-N’-エチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメソ-p-トルエンスルホネート、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トリルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物;カルボジイミド化触媒の存在下でポリイソシアネートの公知の縮合反応により得られるカルボジイミド化合物;ポリイソシアネート及びポリアルキレンオキサイドを原料とするカルボジイミド化合物などを用いることができる。これらのカルボジイミド化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記好ましいカルボジイミド架橋剤としては、例えば、日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトSV-02」、「カルボジライトV-10」、「カルボジライトSW-12G」、「カルボジライトE-02」、「カルボジライトE-03A」、「カルボジライトE-05」等を市販品として入手することができる。
【0124】
本発明の水性印刷インキ組成物における架橋剤の含有量は、0であってもよいが;水性バインダー樹脂の酸基の1当量に対して、0.1当量以上であることが好ましく;一方、1当量以下であることが好ましく、より好ましくは0.7当量である。0.1当量以上の架橋剤を含有すると、水性印刷インキ組成物に含まれる水性バインダー樹脂を効果的に架橋することができ、印刷層に十分な耐ブロッキング性を付与しやすい。
【0125】
[1-7. その他の成分]
本発明の水性印刷インキ組成物は、求められるインキ性能に応じて、かつ本発明による効果を阻害しない範囲で、レベリング剤、ワックス、消泡剤、粘度調整剤、静電気防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0126】
[1-8. 水性印刷インキ組成物の製造方法]
本発明の水性印刷インキ組成物は、水性バインダー樹脂、アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩、水性媒体及び必要に応じて他の成分を混合して混錬し、さらに架橋剤等の他の成分を添加混合して製造することができる。また、本発明の水性印刷インキ組成物が顔料を含む場合には、顔料、水性バインダー樹脂の一部である水溶性アクリル樹脂、顔料分散剤及び水性媒体の一部などを混合して顔料分散体を調製し、さらに水性バインダー樹脂の残部、アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩、他の成分などを添加混合して、水性印刷インキ組成物を製造することができる。
【0127】
[2. 表刷り印刷フィルム]
本発明の表刷り印刷フィルムは、例えば図1に示されるように、少なくとも、基材フィルムAと、基材フィルムAの少なくとも片面に印刷された第1の印刷層Bと、を具備し、さらに、印刷層Bが形成された基材フィルムAの反対側の面に印刷された第2の印刷層Cと、を有していてもよい(図1の印刷フィルムXは、第2の印刷層Cを有しているが、特に限定されない)。尚、印刷層Bと印刷層Cのインキ組成や厚みなどは、同一でも異なっていてもよい。
【0128】
本発明の表刷り印刷フィルムは、例えば、各種製品の包装材料として用いることができ、各種製品を包装したときに、片面印刷の場合は、印刷フィルムの外側面に印刷層Bが配置されるように構成され、両面印刷の場合は、印刷フィルムの外側面に印刷層B、内側面に印刷層Cが配置されるように構成される。
【0129】
基材フィルムAは、通常はプラスチックフィルムであり;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等のポリエステルフィルム、ナイロン、ビニロンといった各種印刷用樹脂フィルムでありうる。印刷層B及び/又は印刷層Cが形成される基材フィルムAの表面には、コロナ放電処理等の表面処理がされていることが好ましい。
【0130】
片面印刷の場合に基材フィルムAに形成された印刷層B、両面印刷の場合に基材フィルムに形成された印刷層Bは、前述の[1. 表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物]で述べた水性印刷インキ組成物を印刷して形成され;一方、両面印刷の場合の印刷層Cは、[1. 表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物]で述べた水性印刷インキ組成物を印刷して形成されてもよいし、他のインク組成物を印刷して形成してもよい。つまり、基材フィルムの片面又は両面に、上述の水性印刷インキ組成物を、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版輪転印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等の従来公知の汎用印刷法や、バーコーター、コンマコーター、スプレーコーター等の従来公知の汎用コーターを用いた塗工法などで塗布して印刷することができる。印刷層B、印刷層Cの厚みは0.5~10μmであることが好ましい。
【0131】
図1に示されるように、ロール状に巻き取られた印刷フィルムXは、印刷層Bと基材フィルムA表面(片面印刷で印刷層Cがない場合)、もしくは印刷層Bと印刷層C(両面印刷の場合)とが接触して保持されるが、本発明の水性印刷インキ組成物を片面又は両面に印刷した印刷フィルムは、印刷層の耐ブロッキング性が高いため、ブロッキングが生じにくいという効果を発揮する。
【0132】
本発明の表刷り印刷フィルムは、例えば、シュリンクフィルムとすることもできる。シュリンクフィルムとする場合には、熱収縮性を有するフィルムを基材フィルムとすればよい。シュリンクフィルムは、片面印刷フィルムであっても、片面印刷フィルムであってもよい。
【0133】
また、本発明の表刷り印刷フィルムは、図2に示されるように、筒状の包装フィルムYとすることもできる。筒状の包装フィルムYの基材フィルムA‘の外側面に印刷層B’が形成されるが、筒状の包装フィルムがロール状に巻き取られると、印刷層B’同士が接触して保持されることになる。ここで、印刷層B’は、前述の[1. 表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物]で述べた水性印刷インキ組成物を印刷して形成されるため、印刷層B’同士のブロッキングが抑制される、という効果を有する。このように、本発明の表刷り印刷フィルムが、片面印刷の場合であっても、印刷層同士のブロッキングを抑制するという効果を発揮する場合がある。
【0134】
また、本発明の表刷り印刷フィルムは、包装フィルムとして用いることができる。包装フィルムとしたときに、包装フィルムの外側面または外側面と内側面の両面に、本発明のインキ組成物を印刷して形成された印刷層が形成されているので、包装された製品を有効に保護することができる。
【実施例0135】
以下において、実施例を参照して本発明を説明するが、これら実施例の記載によって本発明が限定して解釈されてはならない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0136】
A. 各実施例及び比較例において用いた材料を以下に示す。
<顔料> ピグメントブルー15:4
<水溶性アクリル樹脂> メタクリル酸/メタクリル酸メチル/メタクリル酸ステアリル=15/75/10、アンモニア中和物、酸価98mgKOH/g、質量平均分子量11100,固形分28質量%
【0137】
<水性樹脂エマルジョン>
・スチレンアクリル樹脂エマルジョン:酸価62mgKOH/g、Tg=7℃、固形分36質量%
・アクリル樹脂エマルジョン:酸価42mgKOH/g、Tg=-24℃、固形分36質量%
・スチレンアクリル樹脂エマルジョン:酸価87mgKOH/g、Tg=117℃、固形分36質量%
・アクリルウレタン樹脂エマルジョン:酸価6mgKOH/g(WEM-200U(大成ファインケミカル社))、固形分38質量%
・ウレタン樹脂エマルジョン:Tg=-20℃(タケラックW-6110(三井化学社))固形分32質量%
【0138】
<アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩>
・ラウロイルメチルタウリン酸ナトリウム(ニッコールLMT, 日光ケミカルズ社)
・ミリストイルメチルタウリン酸ナトリウム(ニッコールMMT, 日光ケミカルズ社)
・パルミトイルメチルタウリン酸ナトリウム(ニッコールPMT, 日光ケミカルズ社)
・ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウム(ニッコールSMT, 日光ケミカルズ社)
・ステアロイルグルタミン酸ナトリウム(アミソフトHS-11P, 味の素社)
【0139】
<リン酸エステル系界面活性剤> ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル(プライサーフ AL、第一工業製薬)
<レベリング剤> サーフィノール104E、日信化学工業社、固形分50質量%
<消泡剤> TEGO Foamex 825、EVONIK社、固形分20質量%
<ワックス> ケミパールW-400、三井化学社、固形分40質量%
<架橋剤>
・エポキシ系硬化剤(デナコール614B、ナガセケムテックス社)固形分100質量%
・アジリジン系硬化剤(SU-125F、明成化学工業社)固形分20質量%
<粘度調整剤> SNシックナー601、サンノプコ社)固形分40質量%
【0140】
B. 藍色顔料分散体の調製
ピグメントブルー15:4の45質量部、上記水溶性アクリル樹脂の11質量部、顔料分散剤(ソルスパース27000)の2質量部、イソブタノールの2質量部、水の40質量部の混合物をビーズミルで混練し藍色顔料分散体を得た。
【0141】
C. 水性印刷インキ組成物の製造
表1及び2に記載の処方にしたがって、上記B.で調製した顔料分散体と、各材料とを撹拌混合することにより、水性印刷インキ組成物を得た。表1及び表2に記載の処方は、各成分について溶媒などを含めた質量割合を示しており、例えば、水性樹脂エマルジョンであるスチレンアクリル樹脂の固形分は36質量%であるから、35質量部のスチレンアクリル樹脂を含むインク組成物(実施例1など)には、12.6質量部の固形分が含まれる。なお、表1及び2において、各成分について記載した質量割合(質量%)は、各成分の固形分割合を示す。
【0142】
D. 印刷物(印刷フィルム)の製造
乳白低密度ポリエチレンフィルム(厚み55μm)の表面をコロナ放電処理して、基材フィルムを準備した。各実施例及び比較例で得られた水性印刷インキ組成物をそれぞれ、基材フィルムの片面のコロナ放電処理面(片面印刷フィルム)に、ハンドプルーファーを利用して、塗工量が約5.0g/mとなるように塗工し、乾燥させて、各印刷物を得た。
【0143】
E. 印刷物の評価
得られた印刷物について、基材密着性、耐ブロッキング性(基材フィルムのコロナ放電処理面との耐ブロッキング性、基材フィルムの未処理との耐ブロッキング性、または印刷物の印刷面同士での耐ブロッキング性)、耐水耐摩擦性、耐熱性の評価を行った。具体的な評価方法を以下に示す。
【0144】
E-1. 基材密着性の評価
印刷物の印刷面にセロハンテープ(登録商標)を貼り付け、これを急速に剥がしたときの印刷層がフィルムから剥離する度合いから、基材密着性を評価した。
(評価基準)
評価A:印刷層がフィルムから全く剥離しなかった
評価B:印刷層の面積比率として、15%未満がフィルムから剥離したが、実用に耐え得る程度であった。
評価C:印刷層の面積比率として、15%以上、50%未満がフィルムから剥離した
評価D:印刷層の面積比率として、50%以上がフィルムから剥離した
【0145】
E-2. 耐ブロッキング性の評価
「印刷物の印刷面」と「基材フィルムのコロナ放電処理面もしくは未処理面、又はもう一つの印刷物の印刷面(但し、2つの印刷物の印刷面は同一インキの印刷面である)」とを対向させて、印刷物と基材フィルム、又は印刷物と印刷物とを重ね合わせて、29.4×10Pa(2kg/cm2)の荷重下に40℃で1日間放置した。その後、印刷物から、基材フィルム又は印刷物を手で剥がし、そのときの剥離抵抗の強さと印刷層の印刷面の剥離の程度を評価することにより、耐ブロッキング性を評価した。表1及び表2における「耐ブロッキング性(コロナ放電処理面)」は、印刷物の印刷面と基材フィルムのコロナ放電処理面とを対向させたとき;「耐ブロッキング性(インキ面)」は、印刷物の印刷面と印刷物の印刷面とを対向させたとき;「耐ブロッキング性(未処理面)」は、印刷物の印刷面と基材フィルムの未処理面とを対向させたときの評価結果である。
(評価基準)
評価A:印刷層の剥離が全くなく、剥離抵抗が感じられなかった。
評価B:印刷層の剥離が全くなかったが、剥離抵抗が感じられた。
評価C:印刷層が少し剥離し、剥離抵抗が強く感じられた。
評価D:印刷層がほとんど剥離し、剥離抵抗が強く感じられた。
【0146】
E-3. 耐水耐摩擦性
印刷物の印刷面に、摩擦子に水に浸漬したカナキンを用い、学振試験機(大栄科学精機製作所)にて荷重200gで100回往復し、印刷層の脱落した度合いから耐水耐摩擦性を評価した。
(評価基準)
評価A:印刷層の脱落がなかった
評価B:印刷層が20%未満の範囲で脱落した
評価C:印刷層が20%以上50%未満の範囲で脱落した
評価D:印刷層が50%以上の範囲で脱落した
【0147】
E-4. 耐熱性の評価
印刷物の印刷面に、80~250℃の熱傾斜を有する熱板を備えたヒートシール試験機を用いて、印刷面とアルミ箔を2.0kg/cm2の圧力で、1秒間押圧した。印刷面のインキがアルミ箔に転移する最低温度から耐熱性を評価した。
(評価基準)
評価A:200℃以上
評価B:160℃以上、200℃未満
評価C:140℃以上、160℃未満
評価D:140℃未満
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
アシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩を含有しない比較例1の水性印刷インキ組成物、並びにアシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩の含有量が0.1質量%及び0.2質量%である比較例2及び3の水性印刷インキ組成物は、コロナ放電処理された基材フィルム面との耐ブロッキング性、及び印刷物の印刷面同士での耐ブロッキング性における評価がよくなかった。一方で、0.3~10質量%のアシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩を含有する各実施例の水性印刷インキ組成物では、耐ブロッキング性の評価を含めて良好な評価となっており、アシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩を一定量以上含有する水性印刷インキ組成物の印刷層は、耐ブロッキング性に優れることがわかる。
【0151】
アシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩の含有量が12.5質量%である比較例4の水性印刷インキ組成物は、耐水耐摩擦性における評価がよくなかった。一方で、0.3~10質量%のアシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩を含有する各実施例の水性印刷インキ組成物では、耐ブロッキング性の評価を含めて良好な評価となっており、アシルタウリン酸塩及びアシルアミノ酸塩を一定量以下含有する水性印刷インキ組成物の印刷層は、耐水耐摩擦性に優れることがわかる。
【0152】
各実施例では、全ての評価項目で良好な結果が得られている。とりわけ、実施例1~3及び7のうち、ラウロイルメチルタウリン酸ナトリウム、ミリストイルメチルタウリン酸ナトリウムを含有する実施例1及び2の水性印刷インキ組成物よりも、パルミトイルメチルタウリン酸ナトリウム、ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムを配合した実施例3及び7の水性印刷インキ組成物が、耐ブロッキング性の評価がより良好であった。このことから、一定以上の炭素数を有するアシル基を有し、適度な疎水性を有するアシルタウリン酸塩を含有する水性印刷インキ組成物の印刷層は、耐ブロッキング性に優れることがわかる。
【0153】
ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムを含有する実施例4~9の水性印刷インキ組成物のうち、ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムの含有量が0.3及び0.5質量%の実施例4及び5の水性印刷インキ組成物は、コロナ放電処理された基材フィルムとの耐ブロッキング性、及び印刷物の印刷面同士での耐ブロッキング性がやや劣る結果となった。一方、ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムの含有量が10.0質量%の実施例9の水性印刷インキ組成物は、耐水耐摩擦性の評価がやや劣る結果となった。このことから、アシルタウリン酸塩の含有量が一定以上であると、十分な耐ブロッキング性を有する印刷層が形成でき、アシルタウリン酸塩の含有量が一定以下であると、十分な耐水耐摩擦性を有する印刷層が形成できることがわかる。
【0154】
ワックスを含有する実施例7の水性印刷インキ組成物と、含有しない実施例10の水性印刷インキ組成物とを比較すると、実施例7の方が耐水耐摩擦性の評価がより良好であることがわかる。このことから、ワックスを含有する水性印刷インキ組成物の印刷層は、耐水耐摩擦性に優れることがわかる。
【0155】
実施例10~12のうち、架橋剤を含有しない実施例10の水性印刷インキ組成物よりも、架橋剤を含有する実施例11及び12の水性印刷インキ組成物の方が、耐水耐摩擦性の評価がよりよいことがわかる。このことから、架橋剤を含有する水性印刷インキ組成物の印刷層は、耐水耐摩擦性に優れることがわかる。
【0156】
ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムを含有する実施例7と、ステアロイルグルタミン酸ナトリウムを含有する実施例13とを比較すると、実施例7の方が耐水耐摩擦性の評価がよりよいことがわかる。この理由は特に限定されないが;ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムはアニオン性官能基が1つであるのに対して、ステアロイルグルタミン酸ナトリウムはアニオン性官能基が2つあり、ステアロイルメチルタウリン酸ナトリウムは疎水性が高い成分であるため、水への溶出が抑えられ、耐水耐摩擦性の評価がよかったと推察される。このように、適切な疎水性及び親水性を有する、アシルタウリン酸塩及び/又はアシルアミノ酸塩を配合することが好ましいことがわかる。
【0157】
実施例7及び実施例14~17のうち、実施例16の水性印刷インキ組成物は耐水耐摩擦性の評価がやや劣る結果となった。実施例16の水性印刷インキ組成物に含まれる水性樹脂エマルジョンの酸価は6mgKOH/gと、実施例7、14及び15の水性印刷インキ組成物に含まれる水性樹脂エマルジョンの酸価と比較すると低い。よって、酸価が一定以上の水性樹脂エマルジョンを含む水性印刷インキ組成物は、耐水耐摩擦性が優れた印刷層を与えると推察される。
【0158】
実施例18は、顔料分散体を含有しない水性印刷インキ組成物であって、水性クリアインキ組成物もしくは水性ニス組成物である。顔料の含有の有無にかかわらず、本願発明の効果が得られることがわかる。
【0159】
リン酸エステル系界面活性剤を含有する実施例7の水性印刷インキ組成物と、含有しない実施例19の水性印刷インキ組成物とを比較すると、実施例7の方が耐熱性の評価がよりよいことがわかる。このことから、リン酸エステル系界面活性剤を含有する水性印刷インキ組成物の印刷層は、耐熱性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の表刷りフィルム用水性印刷インキ組成物は、フィルムに印刷されることによって、耐ブロッキング性が高い印刷層を形成し、かつ耐熱性や耐水耐摩性もよい印刷層を形成することができる。したがって、フィルムを表刷りするためのインキ組成物として好適であり、とりわけ、印刷フィルムを巻き取って保存する場合のように、高い耐ブロッキング性が求められる場合に有用であり得る。
【符号の説明】
【0161】
X:ロール状に巻き取られた表刷り印刷フィルム
Y:ロール状に巻き取られた、筒状の表刷り印刷フィルム
A, A’:基材フィルム
B, B‘:第1の印刷層
C:第2の印刷層
図1
図2