(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053987
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240409BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240409BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01L29/78 619A
H01L29/78 618B
H01L21/265 Y
H01L21/265 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160543
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 創
(72)【発明者】
【氏名】津吹 将志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊成
(72)【発明者】
【氏名】花田 明紘
(72)【発明者】
【氏名】田丸 尊也
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110AA14
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5F110QQ11
(57)【要約】
【課題】チャネル領域への水素の侵入を防止する水素トラップ領域を含む半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体装置は、酸化物絶縁層、酸化物半導体層、ゲート電極、ゲート絶縁層、及び第1絶縁層を含む。前記ゲート電極と重なる第1領域における前記ゲート絶縁層の厚さは200nm以上である。前記第1領域において、前記ゲート電極は前記第1絶縁層と接し、前記ゲート電極と重ならず、前記酸化物半導体層と重なる第2領域において、前記酸化物半導体層は前記第1絶縁層と接する。前記第2領域における前記酸化物半導体層に含まれる不純物の量は、前記第1領域における前記酸化物半導体層に含まれる前記不純物の量より多く、前記ゲート電極及び前記酸化物半導体層と重ならない前記第3領域における前記酸化物絶縁層に含まれる前記不純物の量は、前記第2領域における前記酸化物絶縁層に含まれる前記不純物の量より多い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物絶縁層と、
前記酸化物絶縁層の上の酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上のゲート電極と、
前記酸化物半導体層と前記ゲート電極との間のゲート絶縁層と、
前記酸化物半導体層及び前記ゲート電極を覆う第1絶縁層と、を含み、
前記ゲート電極と重なる第1領域と、
前記ゲート電極と重ならず、前記酸化物半導体層と重なる第2領域と、
前記ゲート電極及び前記酸化物半導体層と重ならない第3領域と、に区分され、
前記第1領域における前記ゲート絶縁層の厚さは200nm以上であり、
前記第1領域において、前記ゲート電極は前記第1絶縁層と接し、
前記第2領域において、前記酸化物半導体層は前記第1絶縁層と接し、
前記第2領域における前記酸化物半導体層に含まれる不純物の量は、前記第1領域における前記酸化物半導体層に含まれる前記不純物の量より多く、
前記第3領域における前記酸化物絶縁層に含まれる前記不純物の量は、前記第2領域における前記酸化物絶縁層に含まれる前記不純物の量より多い、半導体装置。
【請求項2】
前記第1絶縁層は窒化物絶縁層である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第3領域において、前記酸化物絶縁層及び前記第1絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記酸化物絶縁層の中に存在する、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2領域において、前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記第1絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記酸化物半導体層の中に存在する、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2領域において、前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記第1絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記酸化物絶縁層の中、又は、前記酸化物絶縁層と前記酸化物半導体層との界面付近に存在する、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1絶縁層の上の第2絶縁層をさらに含み、
前記第1絶縁層は、酸化物であり、
前記第2絶縁層は、窒化物である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第3領域において、
前記不純物は、前記酸化物絶縁層及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記酸化物絶縁層、前記第1絶縁層、及び前記第2絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記酸化物絶縁層の中に存在する、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1領域において、
前記不純物は、前記ゲート電極及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記ゲート電極及び前記第1絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記ゲート電極の中に存在する、請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第2領域において、
前記不純物は、前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、前記第1絶縁層、及び前記第2絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記酸化物半導体層の中に存在する、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第2領域において、
前記不純物は、前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、前記第1絶縁層、及び前記第2絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルのピークは、前記第1絶縁層の中、又は、前記酸化物半導体層と前記第1絶縁層との界面付近に存在する、請求項8に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第3領域において、
前記不純物は、前記酸化物絶縁層及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記酸化物絶縁層、前記第1絶縁層、及び前記第2絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルは、第1ピーク及び第2ピークを含み、
前記第1ピークは、前記酸化物絶縁層の中に存在し、
前記第2ピークは、前記第1絶縁層の中に存在する、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第1領域において、
前記不純物は、前記ゲート電極及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記ゲート電極及び前記第1絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルは、第3ピーク及び第4ピークを含み、
前記第3ピークは、前記ゲート電極の中に存在し、
前記第4ピークは、前記第1絶縁層の中に存在する、請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第2領域において、
前記不純物は、前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記第1絶縁層に含まれ、
前記酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、前記第1絶縁層、及び前記第2絶縁層の膜厚方向における前記不純物のプロファイルは、第5ピーク及び第6ピークを含み、
前記第5ピークは、前記酸化物半導体層の中に存在し、
前記第6ピークは、前記第1絶縁層の中に存在する、請求項12に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記第3領域において、前記第1絶縁層は前記酸化物絶縁層と接している、請求項1乃至13のいずれか一に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記第1絶縁層の厚さは50nm以上である、請求項6、11、12及び13のいずれか一に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記第1絶縁層の厚さは100nm以上である、請求項6、11、12及び13のいずれか一に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記第1絶縁層の厚さは150nm未満である、請求項6乃至10のいずれか一に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記第1絶縁層の厚さは50nm以上である、請求項17に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記第1絶縁層の厚さは100nm以上である、請求項17に記載の半導体装置。
【請求項20】
第1酸化物絶縁層を形成し、
前記第1酸化物絶縁層の上に酸化物半導体層を形成し、
前記第1酸化物絶縁層の上に前記酸化物半導体層のパターンを形成することで、前記第1酸化物絶縁層を露出し、
前記酸化物半導体層の上にゲート絶縁層を形成し、
前記ゲート絶縁層の上にゲート電極を形成し、
前記酸化物半導体層の上に前記ゲート絶縁層及び前記ゲート電極のパターンを形成することで、前記酸化物半導体層及び前記第1酸化物絶縁層を露出し、
露出した前記酸化物半導体層及び前記第1酸化物絶縁層に不純物を注入し、
前記第1酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記ゲート電極の各々の上に第2酸化物絶縁層を形成し、
前記第2酸化物絶縁層に不純物を注入し、
前記第2酸化物絶縁層の上に窒化物絶縁層を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項21】
第1酸化物絶縁層を形成し、
前記第1酸化物絶縁層の上に酸化物半導体層を形成し、
前記第1酸化物絶縁層の上に前記酸化物半導体層のパターンを形成することで、前記第1酸化物絶縁層を露出し、
前記酸化物半導体層の上にゲート絶縁層を形成し、
前記ゲート絶縁層の上にゲート電極を形成し、
前記酸化物半導体層の上に前記ゲート絶縁層及び前記ゲート電極のパターンを形成することで、前記酸化物半導体層及び前記第1酸化物絶縁層を露出し、
前記第1酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記ゲート電極の各々の上に、膜中の水素含有量が1×1021cm-3以下である第2酸化物絶縁層を形成し、
前記酸化物半導体層、前記第1酸化物絶縁層、及び前記第2酸化物絶縁層に不純物を注入し、
前記第2酸化物絶縁層の上に窒化物絶縁層を形成する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、酸化物半導体をチャネルとして用いる半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アモルファスシリコン、低温ポリシリコン、及び単結晶シリコンなどのシリコン半導体に替わり、酸化物半導体をチャネルとして用いる半導体装置の開発が進められている(例えば、特許文献1~特許文献6参照)。このような酸化物半導体を含む半導体装置は、アモルファスシリコンを含む薄膜トランジスタと同様に、単純な構造かつ低温プロセスで形成することができる。また、酸化物半導体を含む半導体装置は、アモルファスシリコンを含む半導体装置より高い電界効果移動度を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-141338号公報
【特許文献2】特開2014-099601号公報
【特許文献3】特開2021-153196号公報
【特許文献4】特開2018-006730号公報
【特許文献5】特開2016-184771号公報
【特許文献6】特開2021-108405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物半導体では、酸素欠陥に水素が結合されるとキャリアが生成される。このメカニズムを利用し、半導体装置において、酸化物半導体層に酸素欠陥を形成し、形成された酸素欠陥に水素を供給することによって、低抵抗な領域であるソース領域及びドレイン領域を形成することができる。一方で、酸化物半導体層のチャネル領域に水素が拡散すると、半導体装置のチャネルとして機能が低下する。具体的には、水素がチャネル領域に拡散することによって、半導体装置の電気特性における閾値電圧が変化するため、閾値電圧のばらつきが増大し、半導体装置の製造歩留まりが低下する。そのため、酸化物半導体層と接する絶縁層として、水素をトラップすることができる過剰酸素を含む酸化物層を用いることで、チャネル領域への水素の侵入が抑制される。
【0005】
しかしながら、過剰酸素を含む酸化物層は、電子トラップとして機能するため、このような酸化物層を含む半導体装置において、信頼性が著しく低下する。したがって、信頼性が低下することを抑制し、酸化物半導体層のソース領域及びドレイン領域に水素を供給し、酸化物半導体層のチャネル領域に水素が侵入することを抑制することができる半導体装置が望まれている。
【0006】
本発明の一実施形態は、上記問題に鑑み、チャネル領域への水素の侵入を防止する水素トラップ領域を含む半導体装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る半導体装置は、酸化物絶縁層と、前記酸化物絶縁層の上の酸化物半導体層と、前記酸化物半導体層の上のゲート電極と、前記酸化物半導体層と前記ゲート電極との間のゲート絶縁層と、前記酸化物半導体層及び前記ゲート電極を覆う第1絶縁層と、を含む。前記酸化物絶縁層及び前記酸化物半導体層は、前記ゲート電極と重なる第1領域と、前記ゲート電極と重ならず、前記酸化物半導体層と重なる第2領域と、前記ゲート電極及び前記酸化物半導体層と重ならない第3領域と、に区分される。前記第1領域における前記ゲート絶縁層の厚さは200nm以上である。前記第1領域において、前記ゲート電極は前記第1絶縁層と接し、前記第2領域において、前記酸化物半導体層は前記第1絶縁層と接する。前記第2領域における前記酸化物半導体層に含まれる不純物の量は、前記第1領域における前記酸化物半導体層に含まれる前記不純物の量より多く、前記第3領域における前記酸化物絶縁層に含まれる前記不純物の量は、前記第2領域における前記酸化物絶縁層に含まれる前記不純物の量より多い。
【0008】
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1酸化物絶縁層を形成し、前記第1酸化物絶縁層の上に酸化物半導体層を形成し、前記第1酸化物絶縁層の上に前記酸化物半導体層のパターンを形成することで、前記第1酸化物絶縁層を露出し、前記酸化物半導体層の上にゲート絶縁層を形成し、前記ゲート絶縁層の上にゲート電極を形成し、前記酸化物半導体層の上に前記ゲート絶縁層及び前記ゲート電極のパターンを形成することで、前記酸化物半導体層及び前記第1酸化物絶縁層を露出し、露出した前記酸化物半導体層及び前記第1酸化物絶縁層に不純物を注入し、前記第1酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記ゲート電極の各々の上に第2酸化物絶縁層を形成し、前記第2酸化物絶縁層に不純物を注入し、前記第2酸化物絶縁層の上に窒化物絶縁層を形成する。
【0009】
本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1酸化物絶縁層を形成し、前記第1酸化物絶縁層の上に酸化物半導体層を形成し、前記第1酸化物絶縁層の上に前記酸化物半導体層のパターンを形成することで、前記第1酸化物絶縁層を露出し、前記酸化物半導体層の上にゲート絶縁層を形成し、前記ゲート絶縁層の上にゲート電極を形成し、前記酸化物半導体層の上に前記ゲート絶縁層及び前記ゲート電極のパターンを形成することで、前記酸化物半導体層及び前記第1酸化物絶縁層を露出し、前記第1酸化物絶縁層、前記酸化物半導体層、及び前記ゲート電極の各々の上に、膜中の水素含有量が1×1020cm-3以下である第2酸化物絶縁層を形成し、前記酸化物半導体層、前記第1酸化物絶縁層、及び前記第2酸化物絶縁層に不純物を注入し、前記第2酸化物絶縁層の上に窒化物絶縁層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体装置の概要を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る半導体装置の概要を示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第1領域~第3領域における不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すシーケンス図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第2領域及び第3領域における水素のトラップ機能を説明する模式的な断面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第2領域及び第3領域における水素のトラップ機能を説明する模式的な断面図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る半導体装置において、水素トラップによる効果を説明する模式的な断面図及び半導体装置の電気特性を示す図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る半導体装置の概要を示す断面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第1領域~第3領域における不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
【
図20】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すシーケンス図である。
【
図21】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図22】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図23】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図24】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。
【
図25】本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第1領域~第3領域における不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
【
図26】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すシーケンス図である。
【
図27】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【
図28】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の開示はあくまで一例にすぎない。当業者が、発明の主旨を保ちつつ、実施形態の構成を適宜変更することによって容易に想到し得る構成は、当然に本発明の範囲に含有される。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合がある。しかし、図示された形状はあくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0012】
本発明の各実施の形態において、基板から酸化物半導体層に向かう方向を上又は上方という。逆に、酸化物半導体層から基板に向かう方向を下又は下方という。このように、説明の便宜上、上方又は下方という語句を用いて説明するが、例えば、基板と酸化物半導体層との上下関係が図示と逆になるように配置されてもよい。以下の説明で、例えば基板上の酸化物半導体層という表現は、上記のように基板と酸化物半導体層との上下関係を説明しているに過ぎず、基板と酸化物半導体層との間に他の部材が配置されていてもよい。上方又は下方は、複数の層が積層された構造における積層順を意味するものであり、トランジスタの上方の画素電極と表現する場合、平面視において、トランジスタと画素電極とが重ならない位置関係であってもよい。一方、トランジスタの鉛直上方の画素電極と表現する場合は、平面視において、トランジスタと画素電極とが重なる位置関係を意味する。
【0013】
本明細書において、「膜」という用語と、「層」という用語とは、場合により、互いに入れ替えることができる。
【0014】
「表示装置」とは、電気光学層を用いて映像を表示する構造体を指す。例えば、表示装置という用語は、電気光学層を含む表示パネルを指す場合もあり、又は表示セルに対して他の光学部材(例えば、偏光部材、バックライト、タッチパネル等)を装着した構造体を指す場合もある。「電気光学層」には、技術的な矛盾が生じない限り、液晶層、エレクトロルミネセンス(EL)層、エレクトロクロミック(EC)層、電気泳動層が含まれ得る。したがって、後述する実施形態について、表示装置として、液晶層を含む液晶表示装置、及び有機EL層を含む有機EL表示装置を例示して説明するが、本実施形態における構造は、上述した他の電気光学層を含む表示装置へ適用することができる。
【0015】
本明細書において「αはA、B又はCを含む」、「αはA、B及びCのいずれかを含む」、「αはA、B及びCからなる群から選択される一つを含む」、といった表現は、特に明示が無い限り、αがA~Cの複数の組み合わせを含む場合を排除しない。さらに、これらの表現は、αが他の要素を含む場合も排除しない。
【0016】
なお、以下の各実施形態は、技術的な矛盾を生じない限り、互いに組み合わせることができる。
【0017】
[1.第1実施形態]
図1~
図16を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置について説明する。以下に示す実施形態の半導体装置は、表示装置に用いられるトランジスタの他に、例えば、マイクロプロセッサ(Micro-Processing Unit:MPU)などの集積回路(Integrated Circuit:IC)、又はメモリ回路に用いられてもよい。
【0018】
[1-1.半導体装置10の構成]
図1及び
図2を用いて、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の概要を示す断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の概要を示す平面図である。
【0019】
図1に示すように、半導体装置10は基板100の上方に設けられている。半導体装置10は、遮光層105、窒化物絶縁層110、酸化物絶縁層120、酸化物半導体層140、ゲート絶縁層150、ゲート電極160、絶縁層170、180、ソース電極201、及びドレイン電極203を含む。ソース電極201及びドレイン電極203を特に区別しない場合、これらを併せてソース・ドレイン電極200という場合がある。
【0020】
遮光層105は基板100の上に設けられている。窒化物絶縁層110及び酸化物絶縁層120は基板100及び遮光層105の上に設けられている。窒化物絶縁層110は、遮光層105の上面及び端部を覆う。酸化物半導体層140は酸化物絶縁層120の上に設けられている。酸化物半導体層140はパターニングされている。酸化物絶縁層120の一部は、酸化物半導体層140の端部を越えて酸化物半導体層140のパターンより外側に延びている。
【0021】
本実施形態では、酸化物絶縁層120と酸化物半導体層140とが接した構成が例示されているが、この構成に限定されない。例えば、酸化物絶縁層120と酸化物半導体層140との間に金属酸化物層が設けられてもよい。例えば、当該金属酸化物層として、アルミニウムを主成分とする金属酸化物が用いられてもよい。具体的には、当該金属酸化物層として、酸化アルミニウムが用いられてもよい。
【0022】
ゲート電極160は、酸化物半導体層140の上方において、酸化物半導体層140に対向している。ゲート絶縁層150は、酸化物半導体層140とゲート電極160との間に設けられている。ゲート絶縁層150は酸化物半導体層140に接している。酸化物半導体層140の主面のうち、ゲート絶縁層150に接する面を上面141という。酸化物半導体層140の主面のうち、酸化物絶縁層120に接する面を下面142という。上面141と下面142との間の面を側面143という。
【0023】
ゲート絶縁層150のパターン端部は、ゲート電極160のパターン端部とほぼ一致している。つまり、平面視で、ゲート絶縁層150のパターンはゲート電極160のパターンと略一致する。
【0024】
絶縁層170はゲート絶縁層150及びゲート電極160の上に設けられている。絶縁層170は、ゲート電極160を覆う。絶縁層170を「第1絶縁層」という場合がある。絶縁層180は絶縁層170の上に設けられている。絶縁層170、180には、酸化物半導体層140に達する開口171、173が設けられている。ソース電極201は開口171の内部に設けられている。ソース電極201は開口171の底部で酸化物半導体層140に接している。ドレイン電極203は開口173の内部に設けられている。ドレイン電極203は開口173の底部で酸化物半導体層140に接している。
【0025】
遮光層105は、酸化物半導体層140に対して基板100側から入射する光を遮蔽する機能を備える。窒化物絶縁層110は、基板100から酸化物半導体層140に向かって拡散する不純物を遮蔽するバリア膜としての機能を備える。遮光層105が、半導体装置10のボトムゲートとしての機能を備えてもよい。この場合、窒化物絶縁層110及び酸化物絶縁層120は、ボトムゲートに対するゲート絶縁層としての機能を備える。
【0026】
半導体装置10の動作は、主にゲート電極160に供給される電圧によって制御される。遮光層105が、ボトムゲートとしての機能を備える場合、遮光層105には補助的な電圧が供給される。ただし、遮光層105にゲート電極160と同様の電圧が供給されてもよい。一方、遮光層105が単に遮光膜として用いられる場合、遮光層105に特定の電圧が供給されず、遮光層105の電位がフローティングであってもよい。又は、遮光層105は絶縁体であってもよい。
【0027】
半導体装置10は、ゲート電極160及び酸化物半導体層140の各々のパターンを基準として、第1領域A1、第2領域A2、及び第3領域A3に区分される。第1領域A1は、平面視でゲート電極160と重なる領域である。第2領域A2は、平面視でゲート電極160とは重ならず、酸化物半導体層140と重なる領域である。第3領域A3は、平面視でゲート電極160及び酸化物半導体層140の両方と重ならない領域である。
【0028】
上記の構成を換言すると、第1領域A1において、酸化物半導体層140はゲート絶縁層150によって覆われている。一方、第2領域A2において、酸化物半導体層140の上にゲート絶縁層150は設けられていないため、酸化物半導体層140はゲート絶縁層150から露出されている。したがって、第2領域A2において、酸化物半導体層140は絶縁層170と接している。同様に、第3領域A3において、酸化物絶縁層120は絶縁層170と接している。第1領域A1において、ゲート電極160は絶縁層170と接している。
【0029】
第1領域A1におけるゲート絶縁層150の厚さは、200nm以上である。第1領域A1におけるゲート絶縁層150の厚さは、250nm以上、又は300nm以上であってもよい。
【0030】
酸化物半導体層140は、ゲート電極160のパターンを基準として、ソース領域S、ドレイン領域D、及びチャネル領域CHに区分される。ソース領域S及びドレイン領域Dは、第2領域A2に対応する領域である。チャネル領域CHは、第1領域A1に対応する領域である。平面視で、チャネル領域CHにおける端部は、ゲート電極160の端部と一致している。チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140は、半導体の性質を有する。ソース領域S及びドレイン領域Dにおける各々の酸化物半導体層140は、導体の性質を有する。つまり、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140のキャリア濃度は、チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140のキャリア濃度より高い。ソース電極201及びドレイン電極203は、それぞれ、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140と接しており、酸化物半導体層140と電気的に接続されている。酸化物半導体層140は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0031】
本実施形態では、半導体装置10として、ゲート電極160が酸化物半導体層140の上方に設けられたトップゲート型トランジスタが用いられた構成を例示するが、この構成に限定されない。例えば、上記のように、半導体装置10は、ゲート電極160に加えて遮光層105がゲートとして機能する、デュアルゲート型トランジスタであってもよい。又は、半導体装置10は、主に遮光層105がゲートとして機能する、ボトムゲート型トランジスタであってもよい。上記の構成はあくまで一実施形態に過ぎず、本発明は上記の構成に限定されない。
【0032】
図2に示すD1方向において、遮光層105の幅はゲート電極160の幅より大きい。D1方向は、ソース電極201とドレイン電極203とを結ぶ方向であり、半導体装置10のチャネル長Lを示す方向である。具体的には、酸化物半導体層140とゲート電極160とが重なる領域(チャネル領域CH)におけるD1方向の長さがチャネル長Lであり、当該チャネル領域CHにおけるD2方向の幅がチャネル幅Wである。遮光層105及びゲート電極160はD2方向に延在している。
【0033】
図2では、平面視において、ソース・ドレイン電極200が遮光層105及びゲート電極160と重ならない構成が例示されているが、この構成に限定されない。例えば、平面視において、ソース・ドレイン電極200が遮光層105及びゲート電極160の少なくともいずれか一方と重なっていてもよい。上記の構成はあくまで一実施形態に過ぎず、本発明は上記の構成に限定されない。
【0034】
[1-2.半導体装置10の各部材の材質]
基板100として、ガラス基板、石英基板、及びサファイア基板など、透光性を有する剛性基板が用いられる。基板100が可撓性を備える必要がある場合、基板100として、ポリイミド基板、アクリル基板、シロキサン基板、フッ素樹脂基板など、樹脂を含む基板が用いられる。基板100として樹脂を含む基板が用いられる場合、基板100の耐熱性を向上させるために、上記の樹脂に不純物が導入されてもよい。特に、半導体装置10がトップエミッション型のディスプレイである場合、基板100が透明である必要はないため、基板100の透明度を悪化させる不純物が用いられてもよい。表示装置ではない集積回路に半導体装置10が用いられる場合は、基板100としてシリコン基板、炭化シリコン基板、化合物半導体基板などの半導体基板、又は、ステンレス基板などの導電性基板など、透光性を備えない基板が用いられる。
【0035】
遮光層105、ゲート電極160、及びソース・ドレイン電極200として、一般的な金属材料が用いられる。例えば、これらの部材として、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、銀(Ag)、銅(Cu)、及びこれらの合金又は化合物が用いられる。遮光層105、ゲート電極160、及びソース・ドレイン電極200として、上記の材料が単層で用いられてもよく積層で用いられてもよい。遮光層105として、導電性が不要である場合には、上記の金属材料以外の材料が用いられてもよい。例えば、遮光層105として、例えば黒色樹脂などのブラックマトリクスが用いられてもよい。遮光層105は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。例えば、遮光層105は、赤色カラーフィルタ、緑色カラーフィルタ、及び青色カラーフィルタの積層構造であってもよい。
【0036】
窒化物絶縁層110、酸化物絶縁層120、及び絶縁層170、180として、一般的な絶縁性材料が用いられる。例えば、酸化物絶縁層120及び絶縁層180として、酸化シリコン(SiOx)、酸化窒化シリコン(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)などの無機絶縁層が用いられる。窒化物絶縁層110及び絶縁層170として、窒化シリコン(SiNx)、窒化酸化シリコン(SiNxOy)、窒化アルミニウム(AlNx)、窒化酸化アルミニウム(AlNxOy)などの無機絶縁層が用いられる。ただし、絶縁層170として、酸化シリコン(SiOx)、酸化窒化シリコン(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)などの無機絶縁層が用いられてもよい。絶縁層180として、窒化シリコン(SiNx)、窒化酸化シリコン(SiNxOy)、窒化アルミニウム(AlNx)、窒化酸化アルミニウム(AlNxOy)などの無機絶縁層が用いられてもよい。
【0037】
ゲート絶縁層150として、上記の絶縁層のうち酸素を含む絶縁層が用いられる。例えば、ゲート絶縁層150として、酸化シリコン(SiOx)、酸化窒化シリコン(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)などの無機絶縁層が用いられる。
【0038】
酸化物絶縁層120として、熱処理によって酸素を放出する機能を備える絶縁層が用いられる。つまり、酸化物絶縁層120として、酸素を過剰に含む酸化物絶縁層が用いられる。酸化物絶縁層120が酸素を放出する熱処理の温度は、例えば、600℃以下、500℃以下、450℃以下、又は400℃以下である。つまり、酸化物絶縁層120は、例えば、基板100としてガラス基板が用いられた場合における半導体装置10の製造工程で行われる熱処理温度で酸素を放出する。絶縁層170、180の少なくともいずれか一方に、酸化物絶縁層120と同様に、熱処理によって酸素を放出する機能を備える絶縁層が用いられてもよい。
【0039】
ゲート絶縁層150として、欠陥が少ない絶縁層が用いられる。例えば、ゲート絶縁層150における酸素の組成比と、ゲート絶縁層150と同様の組成の絶縁層(以下、「他の絶縁層」という)における酸素の組成比と、を比較した場合、ゲート絶縁層150における酸素の組成比の方が当該他の絶縁層における酸素の組成比より当該絶縁層に対する化学量論比に近い。具体的には、ゲート絶縁層150及び絶縁層180の各々に酸化シリコン(SiOx)が用いられる場合、ゲート絶縁層150として用いられる酸化シリコンにおける酸素の組成比は、絶縁層180として用いられる酸化シリコンにおける酸素の組成比に比べて、酸化シリコンの化学量論比に近い。例えば、ゲート絶縁層150として、電子スピン共鳴法(ESR)で評価したときに欠陥が観測されない層が用いられてもよい。
【0040】
上記のSiOxNy及びAlOxNyは、酸素(O)より少ない比率(x>y)の窒素(N)を含有するシリコン化合物及びアルミニウム化合物である。SiNxOy及びAlNxOyは、窒素より少ない比率(x>y)の酸素を含有するシリコン化合物及びアルミニウム化合物である。
【0041】
酸化物半導体層140として、半導体の特性を有する金属酸化物を用いることができる。例えば、酸化物半導体層140として、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、及び酸素(O)を含む酸化物半導体を用いることができる。例えば、酸化物半導体層140として、In:Ga:Zn:O=1:1:1:4の組成比を有する酸化物半導体を用いることができる。ただし、本実施形態で使用されるIn、Ga、Zn、及びOを含む酸化物半導体は上記の組成に限定されず、上記とは異なる組成の酸化物半導体が用いられてもよい。例えば、移動度を向上させるためにInの比率が上記より大きい酸化物半導体層が用いられてもよい。一方、バンドギャップを大きくし、光照射による影響を小さくするためにGaの比率が上記より大きい酸化物半導体層が用いられてもよい。
【0042】
例えば、Inの比率が上記より大きい酸化物半導体層140として、インジウム(In)を含む2以上の金属を含む酸化物半導体が用いられてもよい。この場合、酸化物半導体層140において、全金属元素に対するインジウム元素の比率が原子比率で50%以上であってもよい。酸化物半導体層140として、インジウムに加えて、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、ジルコニア(Zr)、ランタノイドが用いられてもよい。酸化物半導体層140として、上記以外の元素が用いられてもよい。
【0043】
酸化物半導体層140として、In、Ga、Zn、及びOを含む酸化物半導体に他の元素が添加されていてもよく、例えばAl、Snなどの金属元素が添加されていてもよい。上記の酸化物半導体以外にもIn、Gaを含む酸化物半導体(IGO)、In、Znを含む酸化物半導体(IZO)、In、Sn、Znを含む酸化物半導体(ITZO)、及びIn、Wを含む酸化物半導体などが酸化物半導体層140として用いられてもよい。
【0044】
インジウム元素の比率が大きい場合、酸化物半導体層140が結晶化しやすい。上記のように、酸化物半導体層140において、全金属元素に対するインジウム元素の比率が50%以上である材料を用いることで、多結晶構造を有する酸化物半導体層140を得ることができる。インジウム以外の金属元素として、ガリウムを含むことが好ましい。ガリウムは、インジウムと同じ第13族元素に属する。そのため、酸化物半導体層140の結晶性がガリウムによって阻害されることなく、酸化物半導体層140は多結晶構造を有する。
【0045】
酸化物半導体層140の詳細な製造方法は後述するが、酸化物半導体層140は、スパッタリング法を用いて形成することができる。スパッタリング法によって形成される酸化物半導体層140の組成は、スパッタリングターゲットの組成に依存する。酸化物半導体層140が多結晶構造を有する場合であっても、スパッタリングターゲットの組成と酸化物半導体層140の組成とは略一致する。この場合、酸化物半導体層140の金属元素の組成は、スパッタリングターゲットの金属元素の組成に基づき特定することができる。
【0046】
酸化物半導体層140が多結晶構造を有する場合、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)法を用いて、酸化物半導体層の組成を特定してもよい。具体的には、XRD法によって取得された酸化物半導体層の結晶構造及び格子定数に基づき、酸化物半導体層の金属元素の組成を特定することができる。さらに、酸化物半導体層140の金属元素の組成は、蛍光X線分析又は電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)分析などを用いて特定することもできる。ただし、酸化物半導体層140に含まれる酸素元素は、スパッタリングのプロセス条件などにより変化するため、この限りではない。
【0047】
上述のように、酸化物半導体層140は、アモルファス構造を有していてもよく、多結晶構造を有していてもよい。多結晶構造を有する酸化物半導体は、Poly-OS(Poly-crystalline Oxide Semiconductor)技術を用いて作製することができる。以下では、アモルファス構造を有する酸化物半導体と区別するとき、多結晶構造を有する酸化物半導体をPoly-OSとして説明する場合がある。
【0048】
上記のように、酸化物絶縁層120と酸化物半導体層140との間に金属酸化物層が設けられる場合、当該金属酸化物層として、アルミニウムを主成分とする金属酸化物が用いられる。例えば、金属酸化物層として、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)、窒化酸化アルミニウム(AlNxOy)、窒化アルミニウム(AlNx)などの無機絶縁層が用いられる。「アルミニウムを主成分とする金属酸化物層」とは、金属酸化物層に含まれるアルミニウムの比率が、金属酸化物層全体の1%以上であることを意味する。金属酸化物層に含まれるアルミニウムの比率は、金属酸化物層全体の5%以上70%以下、10%以上60%以下、又は30%以上50%以下であってもよい。上記の比率は、質量比であってもよく、重量比であってもよい。
【0049】
[1-3.水素トラップ領域の構成]
水素トラップ領域は、酸化物絶縁層120に形成される。そこで、
図3及び
図4を参照して、酸化物絶縁層120に形成される水素トラップ領域の構成について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。具体的には、
図3は、
図1における領域Pを拡大した断面図である。
図3に示す領域Pは、ドレイン領域D近傍の領域であるが、ソース領域S近傍も領域Pと同様の構成を有する。
【0050】
酸化物絶縁層120は、第1領域A1、第2領域A2、及び第3領域A3に区分される。各領域における酸化物絶縁層120は、それぞれ酸化物絶縁層120-1、120-2、120-3と表記される。酸化物絶縁層120-1、120-2は酸化物半導体層140と接する。酸化物絶縁層120-3は絶縁層170と接する。
【0051】
詳細は後述するが、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140は、ゲート電極160をマスクとした不純物のイオン注入によって形成される。不純物として、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、又は窒素(N)などが用いられる。イオン注入によって、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140には酸素欠陥が生成される。生成された酸素欠陥に水素がトラップされることによって、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140は低抵抗化する。窒化シリコン層は酸化シリコン層に比べて水素を多く含ため、例えば、絶縁層170として窒化シリコンが用いられることで、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140を低抵抗化することができる。
【0052】
詳細は後述するが、ゲート絶縁層150がエッチングによって除去され、第2領域A2における酸化物半導体層140及び第3領域A3における酸化物絶縁層120が露出された状態でイオン注入が行われる。第2領域A2において、イオン注入された不純物は、酸化物半導体層140を介して酸化物絶縁層120に到達する。同様に、第3領域A3において、イオン注入された不純物は、露出された酸化物絶縁層120に導入される。したがって、第2領域A2及び第3領域A3における酸化物絶縁層120にダングリングボンド欠陥DBが生成される。
【0053】
第1領域A1ではゲート電極160をマスクとして不純物のイオン注入が行われる。したがって、第1領域A1において、ゲート絶縁層150及び酸化物絶縁層120-1には不純物が注入されず、これらの絶縁層にはダングリングボンド欠陥DBは生成されない。一方、上述のように、酸化物絶縁層120-2、120-3には、ダングリングボンド欠陥DBが生成される。例えば、酸化物絶縁層120として酸化シリコンが用いられるとき、酸化物絶縁層120-2、120-3には、シリコンのダングリングボンド欠陥DBが形成される。
【0054】
酸化物絶縁層120に形成されたダングリングボンド欠陥DBは、水素をトラップする。つまり、半導体装置10において、酸化物絶縁層120-2、120-3が、水素トラップ領域として機能する。したがって、例えば絶縁層170の成膜時に絶縁層170から拡散した水素が酸化物絶縁層120-2、120-3中のダングリングボンド欠陥DBにトラップされるため、水素がチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に侵入することを抑制することができる。そのため、絶縁層170を成膜した後の状態において、酸化物絶縁層120-2、120-3の水素濃度は、酸化物絶縁層120-1の水素濃度より高い。
【0055】
上記のダングリングボンド欠陥DBはイオン注入によって形成されるため、酸化物絶縁層120-2、120-3は、イオン注入によって導入された不純物を含む。酸化物絶縁層120-2、120-3に形成されるダングリングボンド欠陥DBの量の分布は、これらに含まれる不純物の濃度プロファイルに対応する。つまり、イオン注入によって得られる不純物のプロファイルを調整することで、ダングリングボンド欠陥DBの位置及び量を調整することができる。
【0056】
詳細は後述するが、水素がチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に侵入することに起因して、半導体装置10の電気特性に異常が発生することを抑制するためには、酸化物絶縁層120にダングリングボンド欠陥DBを形成することが効果的である。したがって、酸化物絶縁層120に到達するように不純物を注入する必要がある。
【0057】
例えば、ゲート絶縁層として高電圧に対する耐性が要求される半導体装置の場合、ゲート絶縁層150の厚さが200nm以上であることが要求される。一方、イオン注入によって不純物を酸化物絶縁層120に到達させる場合、イオン注入装置の加速電圧による制限があるため、イオン注入によって不純物が通過する絶縁層の厚さが150nm未満であることが要求される。詳細は後述するが、これらの要求を満たすために、本実施形態では、第2領域A2における酸化物半導体層140の上、及び第3領域A3における酸化物絶縁層120の上のゲート絶縁層150が除去された状態で、不純物のイオン注入が行われる。
【0058】
図4は、本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第1領域A1~第3領域A3における不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
図4に示す3つの濃度プロファイルの各々の縦軸は単位体積当たりの不純物の濃度(Concentration [/cm3])を示し、横軸は深さ方向における層の名称を示す。横軸における「UC」は酸化物絶縁層120及び窒化物絶縁層110に対応する。「OS」は酸化物半導体層140に対応する。「GI」はゲート絶縁層150に対応する。「GL」はゲート電極160に対応する。「PAS」は絶縁層170に対応する。
【0059】
図4に示すように、第1領域A1では、不純物の濃度プロファイルはゲート電極160(GL)中にピークを有している。したがって、第1領域A1における深さ方向において、ゲート電極160の所定の位置に含まれる不純物の量は、ゲート絶縁層150の所定の位置に含まれる不純物の量、酸化物半導体層140の所定の位置に含まれる不純物の量、及び酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量の各々より多い。上記の「深さ方向」は、各層の厚さ方向を意味する。金属材料は、イオン注入によって導入される不純物に対して、高い阻止能を備える。ゲート電極160として金属材料が用いられる場合、不純物は、ゲート電極160によって阻止され、ゲート絶縁層150(GI)に到達しない。したがって、第1領域A1におけるゲート絶縁層150及び酸化物絶縁層120には不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBは形成されない。ただし、半導体装置10の電気特性に影響がない範囲であれば、不純物がゲート絶縁層150に到達していてもよい。
【0060】
第2領域A2では、不純物の濃度プロファイルは酸化物半導体層140(OS)中にピークを有している。したがって、第2領域A2における深さ方向において、酸化物半導体層140の所定の位置に含まれる不純物の量は、酸化物絶縁層120の所定の位置に含まれる不純物の量より多い。不純物の導入の目的は、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140の低抵抗化なので、上記のような濃度プロファイルとなるようにイオン注入の条件が設定される。第2領域A2における酸化物半導体層140に含まれる不純物の量は、第1領域A1における酸化物半導体層140に含まれる不純物の量より多い。同様に、第2領域A2における酸化物絶縁層120(UC)に含まれる不純物の量は、第1領域A1における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量より多い。
【0061】
上記のように、第2領域A2において、酸化物絶縁層120にも不純物が導入される。したがって、酸化物絶縁層120-2に、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される(
図3参照)。
【0062】
第3領域A3では、不純物の濃度プロファイルは酸化物絶縁層120中にピークを有している。第3領域A3には、酸化物絶縁層120の上に酸化物半導体層140が設けられていない。その結果、第2領域A2で酸化物半導体層140中に濃度プロファイルのピークが存在する代わりに、第3領域A3では酸化物絶縁層120中に濃度プロファイルのピークが存在する。つまり、第3領域A3における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量は、第1領域A1における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量より多く、第2領域A2における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量より多い。
【0063】
上記のような不純物の濃度プロファイルによって、酸化物絶縁層120-3に、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される(
図3参照)。上記のように、第3領域A3では酸化物絶縁層120中に濃度プロファイルのピークが存在するため、第3領域A3における酸化物絶縁層120に存在するダングリングボンド欠陥DBの量は、第2領域A2における酸化物絶縁層120に存在するダングリングボンド欠陥DBの量より多い。したがって、第3領域A3における酸化物絶縁層120は、第2領域A2における酸化物絶縁層120より多くの水素をトラップすることができる。
【0064】
本実施形態において、第3領域A3における深さ方向において、酸化物絶縁層120中の所定の位置に含まれる不純物の量は、1×1016/cm3以上、1×1017/cm3以上、又は1×1018/cm3以上である。当該所定の位置は、濃度プロファイルのピークの位置であってもよく、酸化物絶縁層120と絶縁層170との界面に相当する位置であってもよい。又は、当該所定の位置は、当該界面に相当する位置から酸化物絶縁層120の方向に所定の深さ移動した位置であってもよい。
【0065】
本実施形態では、第3領域A3における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量が、第2領域A2における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量より多い構成が例示されているが、この構成に限定されない。同様に、本実施形態では、第3領域A3における不純物の濃度プロファイルのピークが酸化物絶縁層120中に存在する構成が例示されているが、この構成に限定されない。例えば、第3領域A3の深さ方向において、酸化物絶縁層120の最上面(酸化物絶縁層120と絶縁層170との界面に相当する面)における不純物の濃度が最も高くてもよい。
【0066】
図2を参照すると、チャネル領域CHが第1領域A1に相当し、ソース領域S及びドレイン領域Dが第2領域A2に相当し、チャネル領域CH、ソース領域S、及びドレイン領域D以外の領域が第3領域A3に相当する。つまり、チャネル領域CHは、第2領域A2によって挟まれており、第3領域A3によって囲まれている。したがって、例えば絶縁層170の成膜時に絶縁層170から拡散した水素は、チャネル領域CHの周囲に位置する第2領域A2及び第3領域A3に設けられた酸化物絶縁層120に形成されたダングリングボンド欠陥DBによってトラップされる。その結果、当該水素がチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に侵入することを抑制することができる。
【0067】
[1-4.半導体装置10の製造方法]
図5~
図13を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の製造方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すシーケンス図である。
図6~
図13は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【0068】
図5及び
図6に示すように、基板100の上に遮光層105が形成され、遮光層105の上に窒化物絶縁層110及び酸化物絶縁層120が形成される(
図5のステップS1001の「絶縁層/遮光層形成」)。窒化物絶縁層110として、例えば、窒化シリコンが形成される。酸化物絶縁層120として、例えば、酸化シリコンが形成される。窒化物絶縁層110及び酸化物絶縁層120はCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜される。例えば、窒化物絶縁層110の厚さは、50nm以上500nm以下、又は150nm以上300nm以下である。酸化物絶縁層120の厚さは、50nm以上500nm以下、又は150nm以上300nm以下である。
【0069】
窒化物絶縁層110として窒化シリコンが用いられることで、窒化物絶縁層110は、例えば基板100側から酸化物半導体層140に向かって拡散する不純物をブロックすることができる。例えば、酸化物絶縁層120として用いられる酸化シリコンは、熱処理によって酸素を放出する物性の酸化シリコンである。
【0070】
図5及び
図7に示すように、酸化物絶縁層120の上に酸化物半導体層140を形成する(
図5のステップS1002の「OS成膜」)。酸化物半導体層140は、スパッタリング法又は原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)によって成膜される。
【0071】
酸化物絶縁層120と酸化物半導体層140との間に、アルミニウムを主成分とする金属酸化物層が設けられる場合、当該金属酸化物層も、上記と同様にスパッタリング法又は原子層堆積法によって成膜される。
【0072】
酸化物半導体層140の厚さは、例えば、10nm以上100nm以下、15nm以上70nm以下、又は20nm以上40nm以下である。本実施形態では、酸化物半導体層140の厚さは30nmである。後述する熱処理(OSアニール)前の酸化物半導体層140はアモルファスである。
【0073】
後述するOSアニールによって、酸化物半導体層140を結晶化する場合、成膜後かつOSアニール前の酸化物半導体層140はアモルファス(酸化物半導体の結晶成分が少ない状態)であることが好ましい。つまり、酸化物半導体層140の成膜条件は、成膜直後の酸化物半導体層140ができるだけ結晶化しない条件であることが好ましい。例えば、スパッタリング法によって酸化物半導体層140が成膜される場合、被成膜対象物(基板100及びその上に形成された構造物)の温度を制御しながら酸化物半導体層140が成膜される。
【0074】
スパッタリング法によって被成膜対象物に対して成膜を行うと、プラズマ中で発生したイオン及びスパッタリングターゲットによって反跳した原子が被成膜対象物に衝突するため、成膜処理に伴い被成膜対象物の温度が上昇する。成膜処理中の被成膜対象物の温度が上昇すると、成膜直後の状態で酸化物半導体層140に微結晶が含まれ、その後のOSアニールによる結晶化が阻害される場合がある。上記のように被成膜対象物の温度を制御するために、例えば、被成膜対象物を冷却しながら成膜を行うことができる。例えば、被成膜対象物の被成膜面の温度(以下、「成膜温度」という。)が100℃以下、70℃以下、50℃以下、又は30℃以下になるように、被成膜対象物を当該被成膜面の反対側の面から冷却することができる。上記のように、被成膜対象物を冷却しながら酸化物半導体層140の成膜を行うことで、成膜直後の状態で結晶成分が少ない酸化物半導体層140を成膜することができる。酸化物半導体層140の成膜条件における酸素分圧は、2%以上20%以下、3%以上15%以下、又は3%以上10%以下である。
【0075】
図5及び
図8に示すように、酸化物半導体層140のパターンを形成する(
図5のステップS1003の「OSパターン形成」)。図示しないが、酸化物半導体層140の上にレジストマスクを形成し、当該レジストマスクを用いて酸化物半導体層140をエッチングする。酸化物半導体層140のエッチングとして、ウェットエッチングが用いられてもよく、ドライエッチングが用いられてもよい。ウェットエッチングとして、酸性のエッチャントを用いてエッチングを行うことができる。エッチャントとして、例えば、シュウ酸、PAN、硫酸、過酸化水素水、又はフッ酸を用いることができる。ステップS1003における酸化物半導体層140はアモルファスであるため、ウェットエッチングにより酸化物半導体層140を容易に所定の形状にパターニングすることができる。
【0076】
酸化物半導体層140のパターン形成の後に酸化物半導体層140に対して熱処理(OSアニール)が行われる(
図5のステップS1004の「OSアニール」)。OSアニールでは、酸化物半導体層140が、所定の到達温度で所定の時間保持される。所定の到達温度は、300℃以上500℃以下、又は350℃以上450℃以下である。到達温度での保持時間は、15分以上120分以下、又は30分以上60分以下である。本実施形態では、このOSアニールによって、酸化物半導体層140が結晶化する。ただし、必ずしもOSアニールによって酸化物半導体層140が結晶化しなくてもよい。
【0077】
図5及び
図9に示すように、ゲート絶縁層150を成膜する(
図5のステップS1005の「GI形成」)。ゲート絶縁層150として、例えば、酸化シリコンが形成される。ゲート絶縁層150はCVD法によって形成される。例えば、ゲート絶縁層150として上記のように欠陥が少ない絶縁層を形成するために、350℃以上の成膜温度でゲート絶縁層150を成膜してもよい。ゲート絶縁層150の厚さは、例えば、200nm以上500nm以下、200nm以上400nm以下、又は250nm以上350nm以下である。ゲート絶縁層150を成膜した後に、ゲート絶縁層150の上部に酸素を打ち込む処理を行ってもよい。酸素を打ち込む処理として、ゲート絶縁層150の上に金属酸化物層をスパッタリング法によって形成する構成を行ってもよい。
【0078】
酸化物半導体層140の上にゲート絶縁層150が成膜された状態で、酸化物半導体層140へ酸素を供給するための熱処理(酸化アニール)が行われる(
図5のステップS1006の「酸化アニール」)。酸化物半導体層140が成膜されてから酸化物半導体層140の上にゲート絶縁層150が成膜されるまでの間の工程で、酸化物半導体層140の上面141及び側面143には多くの酸素欠損が発生する。上記の酸化アニールによって、酸化物絶縁層120及びゲート絶縁層150から放出された酸素が酸化物半導体層140に供給され、酸素欠損が修復される。ゲート絶縁層150に酸素を打ち込む処理を行わない場合、ゲート絶縁層150の上に、熱処理によって酸素を放出する絶縁層を形成した状態で酸化アニールが行われてもよい。
【0079】
ゲート絶縁層150から酸化物半導体層140への酸素供給量を多くするために、ゲート絶縁層150の上に、アルミニウムを主成分とする金属酸化物層がスパッタリング法によって形成され、その状態で酸化アニールが行われてもよい。この金属酸化物層として、ガスに対するバリア性が高い酸化アルミニウムが用いられることで、酸化アニール時にゲート絶縁層150に打ち込まれた酸素が外方拡散することを抑制することができる。上記の金属酸化物層の形成及び酸化アニールによって、ゲート絶縁層150に打ち込まれた酸素が効率良く酸化物半導体層140に供給される。
【0080】
図5及び
図10に示すように、ゲート電極160を成膜し、ゲート電極160及びゲート絶縁層150を一括でエッチングする(
図5のステップS1007の「GE形成+GIエッチング」)。ゲート電極160は、スパッタリング法又は原子層堆積法によって成膜される。ゲート電極160及びゲート絶縁層150は、フォトリソグラフィー工程を経てパターニングされる。ゲート電極160及びゲート絶縁層150は同一工程(同一条件)でエッチングされてもよく、それぞれが異なる工程(異なる条件)でエッチングされてもよい。つまり、ゲート絶縁層150のエッチングは、ゲート電極160に対するエッチング工程におけるオーバーエッチングによって実施されてもよく、ゲート電極160のエッチングの後に、ゲート電極160をマスクとしてゲート電極160に対するエッチングとは異なるエッチングによって実施されてもよい。
【0081】
図11に示すように、ゲート電極160及びゲート絶縁層150がパターニングされることによって、第2領域A2における酸化物半導体層140が露出され、第3領域A3における酸化物絶縁層120が露出される。この状態で、露出された酸化物絶縁層120及び酸化物半導体層140に不純物のイオン注入が行われる(
図5のステップS1008の「不純物 イオン注入」)。具体的には、ゲート電極160をマスクとして、露出された酸化物絶縁層120及び酸化物半導体層140に不純物が注入される。
【0082】
イオン注入によって、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、又は窒素(N)などの元素が酸化物絶縁層120及び酸化物半導体層140に注入される。ゲート電極160と重ならない第2領域A2における酸化物半導体層140では、イオン注入によって酸素欠陥が生成される。生成された酸素欠陥に水素がトラップされることにより、第2領域A2における酸化物半導体層140の抵抗が低下する。一方、ゲート電極160と重なる第1領域A1における酸化物半導体層140では、不純物が注入されないため、酸素欠陥が生成されず、第1領域A1における抵抗は低下しない。上記の工程によって、第1領域A1における酸化物半導体層140にチャネル領域CHが形成され、第2領域A2における酸化物半導体層140にソース領域S及びドレイン領域Dが形成される。
【0083】
上記イオン注入によって、第2領域A2及び第3領域A3における酸化物絶縁層120にダングリングボンド欠陥DBが生成される。ダングリングボンド欠陥DBの位置及び量は、イオン注入のプロセスパラメータ(例えば、ドーズ量、加速電圧、プラズマ電力など)を調整することで制御することができる。例えば、ドーズ量は1×1014/cm2以上、5×1014/cm2、又は1×1015/cm2以上である。例えば、加速電圧は10keV超、15keV以上、又は20keV以上である。
【0084】
図5及び
図12に示すように、ゲート絶縁層150及びゲート電極160の上に層間膜として絶縁層170、180を成膜する(
図5のステップS1009の「層間膜成膜」)。絶縁層170、180はCVD法によって成膜される。例えば、絶縁層170として窒化シリコン層が形成され、絶縁層180として酸化シリコン層が形成される。ただし、絶縁層170、180として用いられる材料は上記に限定されない。絶縁層170の厚さは、50nm以上500nm以下である。絶縁層180の厚さは、50nm以上500nm以下である。
【0085】
図5及び
図13に示すように、絶縁層170、180に開口171、173を形成する(
図5のステップS1010の「コンタクト開孔」)。開口171によってソース領域Sにおける酸化物半導体層140が露出されている。開口173によってドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140が露出されている。開口171、173によって露出された酸化物半導体層140の上及び絶縁層180の上にソース・ドレイン電極200を形成することで(
図5のステップS1011の「SD形成」)、
図1に示す半導体装置10が完成する。
【0086】
[1-5.ダングリングボンド欠陥DBにおける水素トラップ]
図4、
図5、及び
図14を参照すると、ステップS1008のイオン注入によって、第2領域A2及び第3領域A3における酸化物絶縁層120(UC)にも不純物が注入される。この不純物のイオン注入によって、第2領域A2及び第3領域A3における酸化物絶縁層120にダングリングボンド欠陥DBが生成される。つまり、酸化物絶縁層120は、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、又は窒素(N)などの不純物を含む。本実施形態の場合、上記のように、第2領域A2における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量より、第3領域A3における酸化物絶縁層120に含まれる不純物の量のほうが最も多い。上記のように不純物を導入した場合に酸化物絶縁層120に形成されるダングリングボンド欠陥DBを
図14に模式的に示す。
【0087】
絶縁層170がその上方から拡散した不純物をブロックする機能を有するためには、絶縁層170は欠陥の少ない緻密な膜であることが好ましい。そのような絶縁層170を得るためには、高温で絶縁層170を成膜する必要がある。例えば、絶縁層170として窒化シリコン層を高温で成膜した場合、当該絶縁層170には大量の水素が含まれ、成膜温度に起因して絶縁層170から酸化物絶縁層120及び酸化物半導体層140に大量の水素が拡散する。そのため、酸化物絶縁層120に水素トラップ領域が形成されていないと、酸化物絶縁層120を介して、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140だけでなく、チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140にまで水素が拡散してしまう。
【0088】
ステップS1008において、
図14に示すダングリングボンド欠陥DBが酸化物絶縁層120中に形成されている場合、
図15に示すように、絶縁層170の成膜時に絶縁層170から拡散された水素Hは上記ダングリングボンド欠陥DBによってトラップされる(「×」の上に「○」が重ねて表示されている)。したがって、ステップS1009において、成膜中又は成膜後に絶縁層170から拡散された水素Hがチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に侵入することを抑制することができる。そのため、絶縁層170として水素を大量に含む膜を用いることができるため、不純物のブロック機能が高い絶縁層170を実現することができる。さらに、ソース領域S及びドレイン領域Dにおける酸化物半導体層140を十分に低抵抗化することができる。
【0089】
本実施形態の場合、酸化物絶縁層120に形成されるダングリングボンド欠陥DBの分布に基づき、第2領域A2における酸化物絶縁層120にトラップされる水素Hの量より、第3領域A3における酸化物絶縁層120にトラップされる水素Hの量の方が多い。
【0090】
図16は、本発明の一実施形態に係る半導体装置において、水素トラップによる効果を説明する模式的な断面図及び半導体装置の電気特性を示す図である。
図16に示す電気特性は、水素トラップが形成される場所(層)が電気特性に与える影響を調査した結果を示す。
図16の(A)に示す電気特性は、酸化物絶縁層120及びゲート絶縁層150ともに水素トラップが形成されていない(相対的に少ない)場合の電気特性である。
図16の(B)に示す電気特性は、ゲート絶縁層150のみに水素トラップが形成された場合の電気特性である。
図16の(C)に示す電気特性は、酸化物絶縁層120のみに水素トラップが形成された場合の電気特性である。
【0091】
上記の水素トラップは、本実施形態のように不純物のイオン注入によって形成されているのではなく、擬似的に各絶縁層の成膜条件を調整することで形成されている。
図16の構成において、酸化物絶縁層120及びゲート絶縁層150として酸化シリコン層が用いられている。酸素を過剰に含む条件で酸化シリコン層を成膜した場合、酸化シリコン層は水素トラップを多く含むことが判っている。つまり、
図16の(B)に示す条件では、ゲート絶縁層150として酸素を過剰に含む酸化シリコン層が用いられている。
図16の(C)に示す条件では、酸化物絶縁層120として酸素を過剰に含む酸化シリコン層が用いられている。
図16の構成は、
図1の構成と同じである。
【0092】
図16の(A)に示すように、酸化物絶縁層120及びゲート絶縁層150ともに水素トラップが形成されていない場合、電気特性におけるハンプ(こぶ)が確認される。電気特性におけるハンプは、絶縁層170成膜時の水素がチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に侵入することで発生することが判っている。
図16の(B)に示すように、ゲート絶縁層150のみに水素トラップが形成された場合、電気特性におけるハンプは改善されていない。一方、
図16の(C)に示すように、酸化物絶縁層120のみに水素トラップが形成された場合、電気特性におけるハンプが低減している。これらの結果から、絶縁層170成膜時の水素がチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に侵入することを抑制するためには、酸化物絶縁層120に水素トラップを形成することが重要であることが判る。
【0093】
本実施形態では、
図2、
図4、及び
図14に示すように、チャネル領域CHを囲む第3領域A3において、酸化物絶縁層120に多くのダングリングボンド欠陥DBが形成されることで、チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140に水素が侵入することを抑制することができる。その結果、ハンプが抑制された電気特性を有する半導体装置10を得ることができる。
【0094】
[2.第2実施形態]
図17~
図23を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置について説明する。本実施形態に係る半導体装置10Aは、第1実施形態に係る半導体装置10と類似しているが、酸化物半導体層140Aと絶縁層170Aとの間に酸化物絶縁層165Aが設けられている点において、半導体装置10と相違する。以下の説明において、第1実施形態に係る半導体装置10と共通する構成については、第1実施形態に係る図面に示された符号の後にアルファベット“A”を付し、その説明を省略する場合がある。
【0095】
[2-1.半導体装置10Aの構成]
図17を用いて、本発明の一実施形態に係る半導体装置10Aの構成について説明する。
図17は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の概要を示す断面図である。半導体装置10Aの平面図は、
図2に示す平面図と同じなので説明を省略する。
【0096】
図17に示すように、半導体装置10Aは、遮光層105A、窒化物絶縁層110A、酸化物絶縁層120A、酸化物半導体層140A、ゲート絶縁層150A、ゲート電極160A、絶縁層170A、180A、及びソース・ドレイン電極200Aに加えて、酸化物絶縁層165Aを含む。酸化物絶縁層165Aを「第1絶縁層」という場合がある。この場合、絶縁層170Aを「第2絶縁層」という。上記のように、絶縁層170Aとして、窒化物絶縁層が用いられる。
【0097】
酸化物絶縁層165Aは、酸化物半導体層140A及びゲート電極160Aを覆う。つまり、酸化物絶縁層165Aは、第1領域A1においてゲート電極160Aと絶縁層170Aとの間、第2領域A2において酸化物半導体層140Aと絶縁層170Aとの間、及び第3領域A3において酸化物絶縁層120Aと絶縁層170Aとの間に設けられている。酸化物絶縁層165Aの厚さは、50nm以上、又は100nm以上である。
【0098】
[2-2.水素トラップ領域の構成]
図18は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。
図18に示すように、第1領域A1、第2領域A2、及び第3領域A3における酸化物絶縁層165Aは、それぞれ酸化物絶縁層165A-1、165A-2、165A-3と表記される。酸化物絶縁層165A-1は、ゲート電極160A及び絶縁層170Aと接している。酸化物絶縁層165A-2は、酸化物半導体層140A及び絶縁層170Aと接している。酸化物絶縁層165A-3は、酸化物絶縁層120A-3及び絶縁層170Aと接している。
【0099】
詳細は後述するが、本実施形態において、イオン注入は少なくとも2回行われる。1回目のイオン注入は、第1実施形態(
図11)と同様に、ゲート絶縁層150Aがエッチングによって除去され、第2領域A2における酸化物半導体層140A及び第3領域A3における酸化物絶縁層120Aが露出された状態で行われる。2回目のイオン注入は、1回目のイオン注入の後、酸化物絶縁層165Aが形成された状態で行われる。1回目のイオン注入によって、ダングリングボンド欠陥DBは、
図3と同様に酸化物絶縁層120Aに生成される。2回目のイオン注入によって、ダングリングボンド欠陥DBは、
図18に示すように酸化物絶縁層165Aに生成される。ただし、2回目のイオン注入によって、ダングリングボンド欠陥DBは、第2領域A2及び第3領域A3における酸化物絶縁層120Aに生成されてもよい。
【0100】
酸化物絶縁層120A及び酸化物絶縁層165Aに形成されたダングリングボンド欠陥DBは、水素をトラップする。つまり、半導体装置10Aにおいて、酸化物絶縁層120A-2、120A-3及び酸化物絶縁層165A-1、165A-2、165A-3が、水素トラップ領域として機能する。これらの絶縁層が水素トラップ領域として機能することで、例えば絶縁層170Aの成膜時に絶縁層170Aから拡散した水素は、酸化物絶縁層120A-2、120A-3及び酸化物絶縁層165A-1、165A-2、165A-3に生成されたダングリングボンド欠陥DBにトラップされる。その結果、水素がチャネル領域CHにおける酸化物半導体層140Aに侵入することを抑制することができる。そのため、絶縁層170Aを成膜した後の状態において、酸化物絶縁層120A-2、120A-3及び酸化物絶縁層165A-1、165A-2、165A-3の水素濃度は、酸化物絶縁層120A-1の水素濃度より高い。
【0101】
上記のダングリングボンド欠陥DBはイオン注入によって形成されるため、酸化物絶縁層120A-2、120A-3及び酸化物絶縁層165A-1、165A-2、165A-3は、イオン注入によって導入された不純物を含む。これらの絶縁層に形成されるダングリングボンド欠陥DBの量の分布は、これらに含まれる不純物の濃度プロファイルに対応する。つまり、イオン注入によって得られる不純物のプロファイルを調整することで、ダングリングボンド欠陥DBの位置及び量を調整することができる。
【0102】
図19は、本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第1領域A1~第3領域A3における不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
図19に示す3つの濃度プロファイルの各々の縦軸は単位体積当たりの不純物の濃度(Concentration [/cm3])を示し、横軸は深さ方向における層の名称を示す。横軸における「UC」は酸化物絶縁層120A及び窒化物絶縁層110Aに対応する。「OS」は酸化物半導体層140Aに対応する。「GI」はゲート絶縁層150Aに対応する。「GL」はゲート電極160Aに対応する。「PAS1」は酸化物絶縁層165Aに対応する。「PAS2」は絶縁層170Aに対応する。
【0103】
図19に示すように、第1領域A1では、不純物の濃度プロファイルは2つのピーク(ピークP3、P4)を有している。ピークP3は、ゲート電極160A(GL)中に存在している。ピークP4は、酸化物絶縁層165A(PAS1)中に存在している。つまり、第1領域A1において、不純物はゲート電極160A及び酸化物絶縁層165Aの両方に含まれている。したがって、ゲート電極160Aの上の酸化物絶縁層165Aには、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される。一方、第1領域A1において、不純物は絶縁層170A(PAS2)にはほとんど含まれていない。第1領域A1における深さ方向において、ゲート電極160A及び酸化物絶縁層165Aの各々の所定の位置に含まれる不純物の量は、ゲート絶縁層150Aの所定の位置に含まれる不純物の量、酸化物半導体層140Aの所定の位置に含まれる不純物の量、及び酸化物絶縁層120Aの所定の位置に含まれる不純物の量の各々より多い。
【0104】
第2領域A2では、不純物の濃度プロファイルは2つのピーク(P5、P6)を有している。ピークP5は、酸化物半導体層140A(OS)中に存在している。ピークP5に係る不純物の濃度プロファイルは酸化物絶縁層120A(UC)に拡がっている。ピークP6は、酸化物絶縁層165A(PAS1)中に存在している。つまり、第2領域A2において、不純物は、酸化物絶縁層120A、酸化物半導体層140A、及び酸化物絶縁層165Aに含まれている。一方、第2領域A2において、不純物は絶縁層170Aにはほとんど含まれていない。第2領域A2における深さ方向において、酸化物半導体層140A及び酸化物絶縁層165Aの各々の所定の位置に含まれる不純物の量は、酸化物絶縁層120Aの所定の位置に含まれる不純物の量より多い。
【0105】
上記のように、第2領域A2において、酸化物絶縁層120A及び酸化物絶縁層165Aに不純物が導入される。したがって、酸化物絶縁層120A及び酸化物絶縁層165Aに、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される。
【0106】
第3領域A3では、不純物の濃度プロファイルは2つのピーク(P1、P2)を有している。ピークP1は、酸化物絶縁層120A(UC)中に存在している。ピークP2は、酸化物絶縁層165A(PAS1)中に存在している。つまり、第3領域A3において、不純物は、酸化物絶縁層120A及び酸化物絶縁層165Aに含まれている。一方、第3領域A3において、不純物は絶縁層170Aにはほとんど含まれていない。第3領域A3には、酸化物絶縁層120Aの上に酸化物半導体層140Aが設けられていない。その結果、第2領域A2で酸化物半導体層140A中に濃度プロファイルのピークが存在する代わりに、第3領域A3では酸化物絶縁層120A中に濃度プロファイルのピークP1が存在する。つまり、第3領域A3における酸化物絶縁層120Aに含まれる不純物の量は、第1領域A1における酸化物絶縁層120Aに含まれる不純物の量より多く、第2領域A2における酸化物絶縁層120Aに含まれる不純物の量より多い。
【0107】
上記のような不純物の濃度プロファイルによって、酸化物絶縁層120A及び酸化物絶縁層165Aに、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される。上記のように、第3領域A3では酸化物絶縁層120A中に濃度プロファイルのピークP1が存在するため、第3領域A3における酸化物絶縁層120Aに存在するダングリングボンド欠陥DBの量は、第2領域A2における酸化物絶縁層120Aに存在するダングリングボンド欠陥DBの量より多い。したがって、第3領域A3における酸化物絶縁層120Aは、第2領域A2における酸化物絶縁層120Aより多くの水素をトラップすることができる。
【0108】
第1領域A1~第3領域A3において、酸化物絶縁層165A中に濃度プロファイルのピークP1、P3、P5が存在するため、これらの領域における酸化物絶縁層165Aには同程度のダングリングボンド欠陥DBが生成されている。酸化物絶縁層165Aに存在するダングリングボンド欠陥DBによって、絶縁層170Aからの水素をトラップすることができる。酸化物絶縁層165Aの厚さが50nm以上であることで、絶縁層170Aからの水素をトラップすることによる顕著な効果が得られる。酸化物絶縁層165Aの厚さが100nm以上であることで、より顕著な上記効果が得られる。
【0109】
本実施形態において、第3領域A3における深さ方向において、酸化物絶縁層120A中の所定の位置に含まれる不純物の量は、1×1016/cm3以上、1×1017/cm3以上、又は1×1018/cm3以上である。当該所定の位置は、濃度プロファイルのピークの位置であってもよく、酸化物絶縁層120Aと酸化物絶縁層165Aとの界面に相当する位置であってもよい。同様に、第3領域A3における深さ方向において、酸化物絶縁層165A中の所定の位置に含まれる不純物の量は、1×1016/cm3以上、1×1017/cm3以上、又は1×1018/cm3以上である。当該所定の位置は、濃度プロファイルのピークP1の位置であってもよく、酸化物絶縁層165Aと絶縁層170Aとの界面に相当する位置であってもよい。
【0110】
[2-3.半導体装置10Aの製造方法]
図20~
図23を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置10Aの製造方法について説明する。
図20は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すシーケンス図である。
図21~
図23は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
図20に示すステップS1001~S1008のステップは、
図5に示すステップS1001~S1008のステップ、及び、
図6~
図11と同様なので、説明を省略する。
【0111】
図11と同様に、露出された酸化物絶縁層120A及び酸化物半導体層140Aに不純物のイオン注入が行われた後に、
図21に示すように、酸化物絶縁層120A、酸化物半導体層140A、及びゲート電極160Aの上に酸化物絶縁層165Aを成膜する(
図20のステップS1020の「絶縁層形成」)。酸化物絶縁層165AはCVD法によって成膜される。例えば、酸化物絶縁層165Aとして酸化シリコン層が形成される。ただし、酸化物絶縁層165Aとして用いられる材料は上記に限定されない。酸化物絶縁層165Aの厚さは、50nm以上150nm以下である。
【0112】
図20及び
図22に示すように、酸化物絶縁層165Aに不純物のイオン注入が行われる(
図20のステップS1021の「不純物 イオン注入」)。本実施形態では、酸化物絶縁層165A中に不純物の濃度プロファイルのピークが存在するように不純物が注入される。イオン注入によって、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、又は窒素(N)などの元素が酸化物絶縁層165Aに注入される。当該イオン注入によって、第1領域A1~第3領域A3における酸化物絶縁層165Aにダングリングボンド欠陥DBが生成される。ダングリングボンド欠陥DBの位置及び量は、イオン注入のプロセスパラメータ(例えば、ドーズ量、加速電圧、プラズマ電力など)を調整することで制御することができる。例えば、ドーズ量は1×10
14/cm
2以上、5×10
14/cm
2、又は1×10
15/cm
2以上である。例えば、注入される元素がホウ素(B)である場合、加速電圧は10keV以上50keV以下である。ただし、濃度プロファイルのピークは酸化物絶縁層165A中に存在していなくてもよい。
【0113】
図20及び
図23に示すように、酸化物絶縁層165Aの上に層間膜として絶縁層170A、180Aを成膜し(
図20のステップS1009の「層間膜成膜」)、絶縁層170A、180Aに開口171A、173Aを形成する(
図20のステップS1010の「コンタクト開孔」)。開口171A、173Aによって露出された酸化物半導体層140Aの上及び絶縁層180Aの上にソース・ドレイン電極200Aを形成することで(
図20のステップS1011の「SD形成」)、
図17に示す半導体装置10Aが完成する。
【0114】
本実施形態では、
図18及び
図19に示すように、酸化物絶縁層120Aに加えて酸化物絶縁層165Aにもダングリングボンド欠陥DBが形成されることで、チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140Aに水素が侵入することを抑制することができる。その結果、ハンプが抑制された電気特性を有する半導体装置10Aを得ることができる。
【0115】
[3.第3実施形態]
図24~
図28を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置について説明する。本実施形態に係る半導体装置10Bは、第2実施形態に係る半導体装置10Aと類似しているが、イオン注入によって導入される不純物の濃度プロファイルにおいて、半導体装置10Aと相違する。以下の説明において、第2実施形態に係る半導体装置10Aと共通する構成については、第2実施形態に係る図面に示された符号の後のアルファベット“A”の代わりに“B”を付し、その説明を省略する場合がある。
【0116】
[3-1.半導体装置10Bの構成]
本実施形態における半導体装置10Bの構成は、
図17に示す半導体装置10Aの構成と同じである。ただし、半導体装置10Bにおける酸化物絶縁層165Bの膜質が、半導体装置10Aにおける酸化物絶縁層165Aの膜質と相違する。それ以外の点について、半導体装置10Bの構成は半導体装置10Aの構成と同じなので、説明を省略する。
【0117】
[3-2.水素トラップ領域の構成]
図24は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。詳細は後述するが、
図24に示す酸化物絶縁層120B及び酸化物絶縁層165Bに生成されるダングリングボンド欠陥DBは、酸化物絶縁層165Bを形成した後に、1回のイオン注入によって生成される。
【0118】
図25は、本発明の一実施形態に係る半導体装置において、第1領域A1~第3領域A3における不純物濃度のプロファイルを示すグラフである。
図25に示す3つの濃度プロファイルの各々の縦軸は単位体積当たりの不純物の濃度(Concentration [/cm3])を示し、横軸は深さ方向における層の名称を示す。横軸における「UC」は酸化物絶縁層120B及び窒化物絶縁層110Bに対応する。「OS」は酸化物半導体層140Bに対応する。「GI」はゲート絶縁層150Bに対応する。「GL」はゲート電極160Bに対応する。「PAS1」は酸化物絶縁層165Bに対応する。「PAS2」は絶縁層170Bに対応する。
【0119】
図25に示すように、第1領域A1では、不純物はゲート電極160B(GL)及び酸化物絶縁層165B(PAS1)に含まれており、当該不純物の濃度プロファイルはゲート電極160B中にピークを有している。したがって、第1領域A1における深さ方向において、ゲート電極160B及び酸化物絶縁層165Bの各々の所定の位置に含まれる不純物の量は、ゲート絶縁層150Bの所定の位置に含まれる不純物の量、酸化物半導体層140Bの所定の位置に含まれる不純物の量、及び酸化物絶縁層120Bに含まれる不純物の量の各々より多い。
【0120】
第2領域A2では、不純物は酸化物絶縁層120B(UC)、酸化物半導体層140B(OS)、及び酸化物絶縁層165Bに含まれており、当該不純物の濃度プロファイルは酸化物半導体層140B中にピークを有している。したがって、第2領域A2における深さ方向において、酸化物半導体層140Bの所定の位置に含まれる不純物の量は、酸化物絶縁層120Bの所定の位置に含まれる不純物の量より多く、酸化物絶縁層165Bの所定の位置に含まれる不純物の量より多い。
【0121】
上記のように、第2領域A2において、酸化物絶縁層120B及び酸化物絶縁層165Bに不純物が導入される。したがって、酸化物絶縁層120B及び酸化物絶縁層165Bに、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される。
【0122】
第3領域A3では、不純物は酸化物絶縁層120B及び酸化物絶縁層165Bに含まれており、当該不純物の濃度プロファイルは酸化物絶縁層120B(UC)中にピークを有している。第3領域A3には、酸化物絶縁層120Bの上に酸化物半導体層140Bが設けられていない。その結果、第2領域A2で酸化物半導体層140B中に濃度プロファイルのピークが存在する代わりに、第3領域A3では酸化物絶縁層120B中に濃度プロファイルのピークが存在する。つまり、第3領域A3における酸化物絶縁層120Bに含まれる不純物の量は、第1領域A1における酸化物絶縁層120Bに含まれる不純物の量より多く、第2領域A2における酸化物絶縁層120Bに含まれる不純物の量より多い。
【0123】
上記のような不純物の濃度プロファイルによって、酸化物絶縁層120B及び酸化物絶縁層165Bに、不純物の導入に伴うダングリングボンド欠陥DBが形成される。上記のように、第3領域A3では酸化物絶縁層120B中に濃度プロファイルのピークが存在するため、第3領域A3における酸化物絶縁層120Bに存在するダングリングボンド欠陥DBの量は、第2領域A2における酸化物絶縁層120Bに存在するダングリングボンド欠陥DBの量より多い。したがって、第3領域A3における酸化物絶縁層120Bは、第2領域A2における酸化物絶縁層120Bより多くの水素をトラップすることができる。酸化物絶縁層165Bの厚さが50nm以上であることで、絶縁層170Bからの水素をトラップすることによる顕著な効果が得られる。酸化物絶縁層165Bの厚さが100nm以上であることで、より顕著な上記効果が得られる。
【0124】
本実施形態では、上記のように、第1領域A1において不純物の濃度プロファイルはゲート電極160B中にピークを有し、第2領域A2において当該濃度プロファイルは酸化物半導体層140B中にピークを有し、第3領域A3において当該濃度プロファイルは酸化物絶縁層120B中にピークを有する構成を例示したが、この構成に限定されない。
【0125】
例えば、酸化物半導体層140Bの膜厚が相対的に薄い場合、第2領域A2において上記濃度プロファイルは酸化物絶縁層120B中、又は酸化物半導体層140Bと酸化物絶縁層120Bとの界面付近にピークを有してもよい。他方、酸化物絶縁層165Bの膜厚が相対的に厚い場合、第1領域A1~第3領域A3において上記濃度プロファイルは酸化物絶縁層165B中、又は酸化物絶縁層165Bと酸化物絶縁層165Bの下層との界面付近にピークを有してもよい。酸化物絶縁層165Bの下層は、第1領域A1におけるゲート電極160B、第2領域A2における酸化物半導体層140B、及び第3領域A3における酸化物絶縁層120Bである。
【0126】
本実施形態において、第3領域A3における深さ方向において、酸化物絶縁層120B中の所定の位置に含まれる不純物の量は、1×1016/cm3以上、1×1017/cm3以上、又は1×1018/cm3以上である。当該所定の位置は、濃度プロファイルのピークの位置であってもよく、酸化物絶縁層120Bと酸化物絶縁層165Bとの界面に相当する位置であってもよい。又は、当該所定の位置は、当該界面に相当する位置から酸化物絶縁層120Bの方向に所定の深さ移動した位置であってもよい。
【0127】
[3-3.半導体装置10Bの製造方法]
図26~
図28を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置10Bの製造方法について説明する。
図26は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すシーケンス図である。
図27~
図28は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
図26に示すステップS1001~S1007のステップは、
図5に示すステップS1001~S1007のステップ、及び、
図6~
図10と同様なので、説明を省略する。
【0128】
図10と同様に、ゲート電極160Bを成膜し、ゲート電極160B及びゲート絶縁層150Bを一括でエッチングした後に、
図27に示すように、酸化物絶縁層120B、酸化物半導体層140B、及びゲート電極160Bの上に酸化物絶縁層165Bを成膜する(
図26のステップS1020の「絶縁層形成」)。酸化物絶縁層165BはCVD法によって成膜される。例えば、酸化物絶縁層165Bとして酸化シリコン層が形成される。酸化物絶縁層165Bとして、水素含有量が相対的に少ない絶縁層が用いられる。例えば、酸化物絶縁層165Bの水素含有量は、1×10
21cm
-3以下である。
【0129】
酸化物絶縁層165Bとして酸化シリコン層が用いられる場合、一酸化二窒素(N2O)に対するシラン(SiH4)の比率が相対的に小さい条件で当該酸化シリコン層を成膜する。例えば、当該条件において、[N2O/SiH4]は30以下である。
【0130】
イオン注入によって不純物を酸化物絶縁層120Bに到達させる場合、イオン注入装置の加速電圧による制限がある。したがって、酸化物絶縁層165Bの厚さは150nm未満である。
【0131】
図26及び
図28に示すように、酸化物絶縁層165Bに不純物のイオン注入が行われる(
図26のステップS1021の「不純物 イオン注入」)。本実施形態では、酸化物絶縁層165Bの下に設けられた酸化物半導体層140B(第2領域A2)及び酸化物絶縁層120B(第3領域A3)に不純物の濃度プロファイルのピークが存在するように不純物が注入される。イオン注入によって、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、又は窒素(N)などの元素が酸化物絶縁層165Bを介して酸化物半導体層140B及び酸化物絶縁層120Bに注入される。当該イオン注入によって、第2領域A2における酸化物絶縁層120B、第3領域A3における酸化物絶縁層120B、及び第1領域A1~第3領域A3における酸化物絶縁層165Bにダングリングボンド欠陥DBが生成される。ダングリングボンド欠陥DBの位置及び量は、イオン注入のプロセスパラメータ(例えば、ドーズ量、加速電圧、プラズマ電力など)を調整することで制御することができる。例えば、ドーズ量は1×10
14/cm
2以上、5×10
14/cm
2、又は1×10
15/cm
2以上である。例えば、注入される元素がホウ素(B)である場合、加速電圧は10keV以上50keV以下である。
【0132】
上記のイオン注入の後、酸化物絶縁層165Bの上に層間膜として絶縁層170B、180Bを成膜し(
図26のステップS1009の「層間膜成膜」)、絶縁層170B、180Bに開口171B、173Bを形成する(
図26のステップS1010の「コンタクト開孔」)。開口171B、173Bによって露出された酸化物半導体層140Bの上及び絶縁層180Bの上にソース・ドレイン電極200Bを形成することで(
図26のステップS1011の「SD形成」)、
図17と同様の半導体装置10Bが完成する。
【0133】
本実施形態では、
図24及び
図25に示すように、酸化物絶縁層120Bに加えて酸化物絶縁層165Bにもダングリングボンド欠陥DBが形成されることで、チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140Bに水素が侵入することを抑制することができる。その結果、ハンプが抑制された電気特性を有する半導体装置10Bを得ることができる。さらに、本実施形態では、酸化物絶縁層165Bとして水素含有量が相対的に少ない絶縁層が用いられることで、酸化物絶縁層165Bを成膜する際に、チャネル領域CHにおける酸化物半導体層140Bへの水素の浸入を抑制することができる。さらに、1回のイオン注入工程によって、酸化物絶縁層120B及び酸化物絶縁層165Bの両方にダングリングボンド欠陥DBを形成することができる。
【0134】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除、もしくは設計変更を行ったもの、又は工程の追加、省略、もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0135】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0136】
10:半導体装置、 100:基板、 105:遮光層、 110:窒化物絶縁層、 120:酸化物絶縁層、 140:酸化物半導体層、 141:上面、 142:下面、 143:側面、 150:ゲート絶縁層、 160:ゲート電極、 165A:酸化物絶縁層、 170:絶縁層、 171:開口、 173:開口、 180:絶縁層、 200:ソース・ドレイン電極、 201:ソース電極、 203:ドレイン電極、 A1:第1領域、 A2:第2領域、 A3:第3領域、 CH:チャネル領域、 D:ドレイン領域、 DB:ダングリングボンド欠陥、 S:ソース領域