(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005401
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】切粉除去工具
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20240110BHJP
B23Q 3/155 20060101ALI20240110BHJP
B23Q 5/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B23Q11/00 N
B23Q3/155 H
B23Q5/04 520Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105566
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正彦
【テーマコード(参考)】
3C002
3C011
【Fターム(参考)】
3C002KK07
3C011BB12
3C011BB17
(57)【要約】
【課題】構造および操作が簡素にできる切粉除去工具を提供する。
【解決手段】工作機械で生じる切粉4を吸着して排出する切粉除去工具1であって、工作機械に装着可能なチャック部10と、チャック部に支持された磁心部15と、磁心部15を励磁する励磁コイル20と、励磁コイル20に電力を供給する発電部30と、を備える。チャック部10により工作機械に装着し、工作機械により磁心部15をワーク表面やテーブル表面に近接させる。この状態で、発電部30からの電力を励磁コイル20に供給することで磁心部15が磁化され、ワークなどの表面に堆積あるいは付着している切粉4を吸着できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械で生じる切粉を吸着して排出する切粉除去工具であって、
前記工作機械に装着可能なチャック部と、
前記チャック部に支持された磁心部と、
前記磁心部を励磁する励磁コイルと
前記励磁コイルに電力を供給する発電部と、を備える切粉除去工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切粉除去工具において、
前記発電部は、前記工作機械から供給される流体で駆動される切粉除去工具。
【請求項3】
請求項2に記載の切粉除去工具において、
前記流体は、前記工作機械の主軸を通して供給されるセンタースルーエアである切粉除去工具。
【請求項4】
請求項1に記載の切粉除去工具において、
前記発電部は、前記工作機械の主軸の回転により駆動される切粉除去工具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の切粉除去工具において、
前記磁心部は、軸方向にフローティング支持されている切粉除去工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械に装着する切粉除去工具に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、加工に伴って切粉が生じ、ワーク上に堆積することがある。
ワーク上の切粉を除去するために、切削液により切粉を流し落とすこと、あるいはエアを吹き付けて切粉を吹き飛ばすことがなされている。
しかし、止まり穴や狭い溝の奥など凹状の部分においては、切削液やエアを用いても切粉を十分に除去できないことがある。そして、切粉が残ったまま仕上げ加工を行うと、仕上げ面を損なう可能性がある。
これに対し、磁力により切粉を吸着して除去する切粉除去工具が提案されている。
【0003】
特許文献1には、電磁石式の切粉除去工具が記載されている。この切粉除去工具は、主軸に装着されるツールであって、ドリルを磁化するコイルを有する。そして、コイルに通電してドリルを磁化した状態で、ドリルをワークに近づけて切粉を吸着する。次に、ワークから離れた位置で通電を止めたうえ、ドリルを回転させることで切粉をドリルから除去している。
特許文献1の切粉除去工具において、ドリルを磁化する電力は、アーム、ブラシおよび一対の導電リングを経由して外部から供給される。
【0004】
特許文献2には、永久磁石とエアシリンダを用いた切粉除去工具が記載されている。この切粉除去工具は、とくにねじ孔内の切粉の除去性能を向上するものであって、工作機械に装着されるシリンダ状の本体を有し、本体先端の吸着面の裏に移動可能な永久磁石が収容されている。永久磁石が吸着面の裏側に密着した状態では、磁力が吸着面に及んで切粉を吸着可能であり、永久磁石を離隔させることで吸着面における吸着を解除可能である。
【0005】
特許文献3には、永久磁石と引掛けフックを用いた切粉除去工具が記載されている。この切粉除去工具も、吸着面の裏に永久磁石を有し、永久磁石が密着状態で吸着面に切粉を吸着し、離隔させることで吸着を解除できる。この際、永久磁石が吸着面の裏側から離れた状態でも磁力が残り、切粉の排出が十分にできないことに対処するため、テーブル上に設置された引掛けフックで物理的に切粉を排除している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-150136号公報
【特許文献2】特開2021-007987号公報
【特許文献3】特開平10-086031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の切粉除去工具においては、ドリルを磁化する電力を供給するために、アーム、ブラシおよび一対の導電リングなどの配電装置が必要であり、機器外部の張り出しが避けられない。また、摺動式の導電リングなど、構造の複雑化、保守作業の煩雑化が避けられない。
一方、特許文献2,3の切粉除去工具においては、吸着に永久磁石を用いるため、電力供給のための設備は不要である。しかし、吸着解除の操作が煩雑であるとともに、永久磁石なので吸着力を十分に解除できず、切粉の吸着および排出の動作が適切に行えないことがあった。
【0008】
本発明の目的は、構造および操作が簡素にできる切粉除去工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、工作機械で生じる切粉を吸着して排出する切粉除去工具であって、前記工作機械に装着可能なチャック部と、前記チャック部に支持された磁心部と、前記磁心部を励磁する励磁コイルと、前記励磁コイルに電力を供給する発電部と、を備える。
【0010】
このような本発明では、チャック部により工作機械に装着し、工作機械により磁心部をワーク表面やテーブル表面に近接させる。この状態で、発電部からの電力を励磁コイルに供給することで磁心部が磁化され、ワークなどの表面に堆積あるいは付着している切粉を吸着できる。あるいは、発電部からの電力で磁心部を磁化した状態で磁心部を切粉に近接させてもよい。切粉を吸着したら、工作機械により磁心部を所定の廃棄容器などに移動させ、発電部の電力供給を停止することで、吸着した切粉を排出可能である。
このように、本発明では切粉の吸着に磁心部および励磁コイルで構成される電磁石を用いるため、切粉の吸着および解除を適切かつ容易に切り替えることができる。また、励磁コイルへの電力は、工具内蔵の発電部から供給するため、外部からの電力供給が不要であり、工具外側の張り出しを防止できる。
本発明において、発電部としては、例えば工作機械から供給されるセンタースルーエアを動力とするもの、あるいは工作機械の主軸の回転を利用するものが利用できる。
【0011】
本発明の切粉除去工具において、前記発電部は、前記工作機械から供給される流体で駆動されることが好ましい。
工具に組み込まれた発電部としては、本願出願人による特開2003-170328号公報の例がある。発電部から励磁コイルへの給電の際、発電された交流電力を直流電力に変換する整流器を追加することができる。
【0012】
本発明の切粉除去工具において、前記流体は、前記工作機械の主軸を通して供給されるセンタースルーエアであることが好ましい。
このような本発明では、多くの工作機械に装備されるセンタースルーエア機能を利用して発電することができ、構造および操作の簡素化が図れる。
【0013】
本発明の切粉除去工具において、前記発電部は、前記工作機械の主軸の回転により駆動されることが好ましい。
このような本発明では、工作機械の主軸の回転を利用して発電することができ、構造および操作の簡素化が図れる。
【0014】
本発明の切粉除去工具において、前記磁心部は、軸方向にフローティング支持されていることが好ましい。
このような本発明では、磁心部がワーク表面などに接触した際の衝撃から保護することができる。
本発明において、磁心部は、ワーク表面に近接させるだけでなく、ワークに形成された穴の中に導入することがある。この際、穴の内部の切粉の堆積量がどの程度であるかは不明である。穴内に多くの切粉が堆積しているとき、穴の底付近まで鉄心を位置決めすると、堆積していた切粉を押し固めることがあるほか、工具を軸方向に移動させる工作機械のモータがオーバーロードになって機械が停止、あるいは工具を破損するなどの不都合を招くおそれもある。これに対し、磁心部が軸方向にフローティング支持されていることで、これらの不都合を解消できる。
フローティング支持にあたっては、磁心部を軸方向に移動可能に支持したうえ、端部にコイルばね等を配置し、所定の力で軸方向に押圧する構造が利用できる。また、磁心部の支持部に弾性部材を介在させることで、磁心部の傾きを許容することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構造および操作が簡素にできる切粉除去工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の切粉除去工具の第1実施形態を示す側面図。
【
図2】本発明の切粉除去工具の第2実施形態を示す側面図。
【
図3】本発明の切粉除去工具の第3実施形態を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
図1には、本発明の第1実施形態の切粉除去工具1が示されている。
図1において、切粉除去工具1は、工作機械で生じる切粉4を吸着して排出するものであり、工作機械の主軸2に装着され、工作機械のテーブル上あるいは周辺の任意位置へ移動可能である。主軸2は、主軸ヘッド3に支持されて回転Rが可能であるとともに、主軸ヘッド3からセンタースルーエアAが供給される。
【0018】
切粉除去工具1は、工作機械に装着可能なチャック部10と、チャック部10に支持された磁心部15と、磁心部15を励磁する励磁コイル20と、励磁コイル20に電力を供給する発電部30と、を備えている。
【0019】
チャック部10は、既存の工具ホルダと同様のものであり、主軸2に接続可能なテーパーシャンクを有し、回転軸に沿ってセンタースルーホール11を有する。センタースルーホール11には、主軸2を通してセンタースルーエアAが供給される。
チャック部10には、主軸2に装着される側と反対側にケース13が接続され、ケース13には支持部14が接続され、支持部14には磁心部15が支持されている。
【0020】
磁心部15は、鋼材など強磁性材料で形成された棒材である。
支持部14は、磁心部15を挿入可能な支持孔を有する。支持部14の支持孔は、磁心部15よりも僅かに大径とされ、磁心部15は支持部14に対して軸方向へ移動可能である。
支持部14の支持孔の最奥部には、コイルばね16が設置されている。
コイルばね16は、支持孔に挿入された磁心部15が支持孔の奥まで押し込まれた際に圧縮され、反発力により磁心部15を元の位置に復帰させることが可能である。
これらの支持部14の支持孔およびコイルばね16により、磁心部15は支持部14に、軸方向へ変位可能にフローティング支持されている。
【0021】
励磁コイル20は、支持部14の支持孔の周囲に設置され、配線21を介して発電部30に接続されており、発電部30から電力を供給されることで、磁心部15を励磁可能である。
【0022】
発電部30は、ケース13に収容されたエアモータ31と発電機32で構成される。
エアモータ31は、センタースルーホール11からのセンタースルーエアAで回転し、発電機32を駆動可能である。
発電機32は、エアモータ31で駆動されて電力を発生し、配線21を介して励磁コイル20を励磁可能である。
【0023】
本実施形態の切粉除去工具1においては、以下の操作により切粉4の除去を行う。
先ず、チャック部10により切粉除去工具1を工作機械の主軸2に装着し、工作機械の各軸移動機構を動作させることにより、磁心部15をワーク表面やテーブル表面に近接させる。
磁心部15をワークなどの表面に近接させた状態で、工作機械からセンタースルーエアAを供給し、発電部30からの電力を励磁コイル20に供給する。この電力により磁心部15が磁化され、ワークなどの表面に堆積あるいは付着している切粉4を吸着することができる。この際、発電部30からの電力で磁心部15を磁化しておき、この状態で磁心部15を切粉4に近接させて吸着してもよい。
切粉4を吸着したら、工作機械により磁心部15を所定の廃棄容器などに移動させ、発電部30の電力供給を停止することで磁心部15による吸着が解除され、吸着していた切粉4が排出される。
【0024】
本実施形態によれば、切粉4の吸着に磁心部15および励磁コイル20で構成される電磁石を用いるため、切粉4の吸着および解除を適切かつ容易に切り替えることができる。
また、励磁コイル20への電力は、切粉除去工具1に内蔵した発電部30から供給するため、外部からの電力供給が不要であり、切粉除去工具1の外側への張り出しを防止できる。
【0025】
〔第2実施形態〕
図2には、本発明の第2実施形態の切粉除去工具1Aが示されている。
本実施形態の切粉除去工具1Aは、基本構成が前述した第1実施形態の切粉除去工具1と同様である。このため、共通の構成については重複する説明を省略し、以下異なる部分について説明する。
【0026】
本実施形態の切粉除去工具1Aでは、第1実施形態のケース13に代えて固定ケース17を備えている。
固定ケース17は、側面に張り出したサブシャンク171を有し、サブシャンク171は主軸ヘッド3の受部5に接続可能である。従って、固定ケース17は、サブシャンク171により、主軸ヘッド3に対して回転が規制されている。
【0027】
固定ケース17には、チャック部10から延びるコア部41が導入されている。コア部41はチャック部10を介して主軸2に接続され、主軸2の回転に伴って固定ケース17に対して回転可能である。
コア部41は永久磁石で形成され、その周囲には発電コイル42が配置されている。これらのコア部41および発電コイル42により発電部40が構成されている。
【0028】
発電部40は、工作機械において主軸2を回転させることで、コア部41が回転して発電コイル42に電力を発生し、配線21を介して励磁コイル20を励磁可能である。
本実施形態において、支持部14、磁心部15、励磁コイル20ほかの構成は、前述した第1実施形態と同様である。
【0029】
本実施形態の切粉除去工具1Aにおいては、主軸2を回転させることで発電部40から電力が供給される点を除き、前述した第1実施形態と同様の操作により切粉4の除去を行うことができる。
本実施形態の切粉除去工具1Aによっても、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、センタースルーエアAを用いないため、センタースルーエアAの供給機能をもたない工作機械で使用することもできる。
【0030】
〔第3実施形態〕
図3には、本発明の第3実施形態の切粉除去工具1Bが示されている。
本実施形態の切粉除去工具1Bは、基本構成が前述した第1実施形態の切粉除去工具1と同様である。このため、共通の構成については重複する説明を省略し、以下異なる部分について説明する。
【0031】
前述した第1実施形態では、磁心部15が支持部14の支持孔に、軸方向へ変位可能にフローティング支持されていた。これに対し、本実施形態では、磁心部15が支持部14に対して傾きも可能とされている。
図3に示すように、支持部14の支持孔の内側には、エラストマ材料で形成された所定厚みのライナ18が張られている。励磁コイル20は、ライナ18の外側に配置されている。励磁コイル20への電力供給は、第1実施形態に準じたセンタースルーエアAで駆動される発電部30としてもよいし、第2実施形態に準じた主軸2の回転で駆動される発電部40としてもよい。
【0032】
本実施形態では、磁心部15の先端が軸方向と交差する方向に変位した際には、ライナ18が変形し、磁心部15の傾きを許容できる。
従って、磁心部15の軸方向の変位に加え、傾きについても許容でき、磁心部15に外力が加わった際にもその影響を緩和できる。
【0033】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
前記各実施形態では、励磁コイル20を支持部14に設置して磁心部15を囲うようにしたが、磁心部15の支持部14から露出する部分に励磁コイル20を装着するようにしてもよい。
前記第1実施形態では、発電部30の駆動をセンタースルーエアAとしたが、他の流体を用いてもよい。例えば、センタースルーホールから供給されるクーラントのような液体であってもよく、あるいは他の配管によりエアや液体を供給してもよい。
前記各実施形態では、磁心部15は単純な棒状としたが、先端を丸める、細くする、あるいは平たくする等、適宜な形状とすることができる。磁心部15のフローティング支持は必須ではなく、適宜省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は工作機械に装着する切粉除去工具に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1,1A,1B…切粉除去工具、2…主軸、3…主軸ヘッド、4…切粉、5…受部、10…チャック部、11…センタースルーホール、13…ケース、14…支持部、15…磁心部、16…コイルばね、17…固定ケース、18…ライナ、20…励磁コイル、21…配線、30…発電部、31…エアモータ、32…発電機、40…発電部、41…コア部、42…発電コイル、171…サブシャンク、A…センタースルーエア、R…回転。