(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054029
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】車体前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240409BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B62D25/20 C
B62D25/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160600
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203AA33
3D203BA06
3D203CA23
3D203CA53
3D203DB05
(57)【要約】
【課題】複数の前面衝突形態において車体前部構造で衝突エネルギーを吸収させることにより、キャビンおよび電池パックの変形を防止できる。
【解決手段】車両Vの前部の車幅方向両側において、フロントサイドフレーム100と、クロスメンバ110Aと、バンパビーム120と、を含む車体前部構造において、底面部BTがバンパビーム120に結合し、先端部200bが車両後部内側に向けて突出した三角形状リインフォース200と、リインフォース200をフロントサイドフレーム100に固定する固定ブラケット200aと、を備え、リインフォースの軸線方向SSは、フロントサイドフレーム100とクロスメンバ110Aとの結合部CNよりも車両前方側において、フロントサイドフレーム100の車幅方向外側面と交差する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部車幅方向両側において車両前後方向に延在された一対のフロントサイドフレームと、車両前方側において車幅方向に延在して前記フロントサイドフレームと結合するクロスメンバと、前記フロントサイドフレームの車両前方端に結合し、車幅方向に延在され、両端部が車両後方側に向かう屈曲部を有するバンパビームと、を含む車体前部構造において、
底面部が前記バンパビームに結合し、先端部が車両後部内側に向けて突出した三角形状のリインフォースと、
前記リインフォースを前記フロントサイドフレームに固定する固定ブラケットと、
を備え、
前記リインフォースの前記先端部は、車両上下方向にR形状が延在したD字状の形状をなし、
前記フロントサイドフレームに固定された前記リインフォースの軸線方向は、前記フロントサイドフレームと前記クロスメンバとの結合部よりも車両前方側において、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側面と交差することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームには、前記クロスメンバとの結合部の車両後方部から結合部内部に、前記フロントサイドフレームの車幅方向前部外側面から車幅方向後部内側面に凹部を有する補強部材が設置されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前面衝突においては、乗員の傷害を低減させる手段として乗員搭乗空間であるキャビンを変形させない事が有効であり、そのための様々な手段が設けられている。これらの手段のひとつとして、近年、キャビンより前方の構造体で衝突エネルギーを吸収する構造が普及している。
【0003】
一方で、車両がハイブリッド車両や電気自動車等の場合には、車両の動力源としての電池パックが、キャビン下部の床面に搭載されている場合がある。
電池パックには、車両を駆動させる電力が蓄えられており、車両の前面衝突等により電池パックに変形や断線が発生した場合には、急激な異常反応が生じる虞もある。
そのため、ハイブリッド車両や電気自動車等の場合には、電池パックを損傷させないように、キャビンを変形させない構造に対する重要度が高まってきている。
【0004】
また、車両の前面衝突においては、例えば、車両の正面全面が衝突体に衝突するフルラップ衝突、車両の正面片側が衝突体に衝突するオフセット衝突、あるいは、オフセット率が25%程度のスモールオーバラップ衝突等、複数の衝突形態を考慮する必要がある。
そのため、それぞれの衝突形態において、キャビンあるいは電池パックより前方の構造体によって、衝突エネルギーを吸収することにより、キャビンおよび電池パックを変形させない構造が求められている。
【0005】
上述の要求に対して、車両の前方に車両幅方向に延在されるバンパリインフォースメント(バンパビーム)と、車両幅方向外側に車両前後方向に沿って延在される左右一対のサイドレール(フロントサイドフレーム)と、バンパビームのフロントサイドフレームよりも車両の外側に結合されたブレース(リインフォース)とを設け、スモールオーバラップ衝突による衝突エネルギーが発生した場合には、リインフォースは、フロントサイドフレームに設けられた荷重受け部と係合し、クロスメンバを介して車両幅方向の反対側のフロントサイドフレームへ荷重を伝達させる構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術においては、リインフォースがフロントサイドフレームに設けられた荷重受け部を押すことにより、リインフォースは、スモールオーバラップ衝突により発生した衝突エネルギーをフロントサイドフレームおよびクロスメンバに伝達する構成であり、伝達方向が後方あるいは横後方に限定される。そのため、衝突エネルギーを効率よく分散伝達できていない虞があるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、複数の前面衝突形態においても、キャビンおよび電池パックの変形を防止できる車体前部構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
形態1;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、車両の前部車幅方向両側において車両前後方向に延在された一対のフロントサイドフレームと、車両前方側において車幅方向に延在して前記フロントサイドフレームと結合するクロスメンバと、前記フロントサイドフレームの車両前方端に結合し、車幅方向に延在され、両端部が車両後方側に向かう屈曲部を有するバンパビームと、を含む車体前部構造において、底面部が前記バンパビームに結合し、先端部が車両後部内側に向けて突出した三角形状のリインフォースと、前記リインフォースを前記フロントサイドフレームに固定する固定ブラケットと、を備え、前記リインフォースの前記先端部は、車両上下方向にR形状が延在したD字状の形状をなし、前記フロントサイドフレームに固定された前記リインフォースの軸線方向は、前記フロントサイドフレームと前記クロスメンバとの結合部よりも車両前方側において、前記フロントサイドフレームの車幅方向外側面と交差する車体前部構造を提案している。
【0010】
形態2;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記フロントサイドフレームには、前記クロスメンバとの結合部の車両後方部から結合部内部に、前記フロントサイドフレームの車幅方向前部外側面から車幅方向後部内側面に凹部を有する補強部材が設置されている車体前部構造を提案している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1またはそれ以上の実施形態によれば、複数の前面衝突形態においても、キャビンおよび電池パックの変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両を上方から見た概略図である。
【
図2】
図1に示された車体前部構造を、上方から見た概略図である。
【
図3】
図2に示されたTS部をモータユニットと前輪をはずした状態で上方から見た斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるフルラップ衝突時の車体前部構造の変形を上方から見た平面図であり、(a)は衝突前の平面図であり、(b)および(c)は前面衝突時の変形を時系列で示した平面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるスモールラップ衝突時の車体前部構造の変形を上方から見た平面図であり、(a)は衝突前の平面図であり、(b)および(c)は前面衝突時の変形を時系列で示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1から
図5を用いて、本実施形態に係る車体前部構造Sが適用された車両Vについて説明する。なお、図面に適宜示される矢印FRは、
図1に示す車両Vの前方(正面)を示し、矢印UPは正面視上方を示し、矢印LHは正面視左方を示している。また、以下の説明において、上下、前後、左右の方向を用いて説明するときには、特に断りのない限り、正面視での上下方向、正面視での前後方向、正面視での左右方向を示すものとする。
【0014】
<実施形態>
図1~
図3を用いて、車両Vに備えられた、本実施形態に係る車体前部構造Sの構成について説明する。
【0015】
<車両Vの構成>
車両Vは、例えば、パワーユニット部20を駆動源とした電気自動車である。なお、車両Vは、例えば、エンジンとパワーユニット部20との複数の駆動源を有するハイブリッド電気自動車であってもよい。
【0016】
図1に示すように、車両Vは車体VSの内部に、前輪10と、パワーユニット部20と、電池パック30と、トーボード40と、トルクボックス50と、サイドシル60と、車体前部構造S(
図1の一点鎖線で囲まれた斜線部)と、を含んで構成されている。
【0017】
パワーユニット部20は、前輪10を駆動する図示しないモータ、変速機、クラッチ、駆動軸等で構成された駆動装置である。パワーユニット部20は、後述するフロントサイドフレーム100およびクロスメンバ110Aおよび110Bに囲まれた空間に設置され、フロントサイドフレーム100の上面側に載置された状態で固定されている。
【0018】
電池パック30は、例えば、扁平した箱状に形成されている。電池パック30の内部には、多数の電池セルが直列に接続されており、パワーユニット部20へ供給する高電圧の出力が可能であり、車両の走行に必要な電力を蓄える。電池パック30は、後述するトルクボックス50およびサイドシル60等の頑強なフレームに囲まれた空間に設置されている。電池パック30は、例えば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)等の車両で利用される。
【0019】
トーボード40は、キャビンCAの車両前方側の車両上下方向に立ち上げられ、車両Vの前輪駆動装置とキャビンCAとを隔てる隔壁である。トーボード40は、後述するフロントサイドフレーム100の後部上側に溶接等により結合されている。
【0020】
トルクボックス50は、後述するフロントサイドフレーム100とサイドシル60との間に介在し、フロントサイドフレーム100とサイドシル60とを連結する部材である。トルクボックス50は、車両Vの底面に車幅方向に延在された骨格であり、トルクボックス50に対して、左右それぞれのフロントサイドフレーム100の一端部に溶接等により結合されている。トルクボックス50は、高剛性を有する金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。トルクボックス50は、電池パック30の前方に位置し、トルクボックス50の端部は、トルクボックス50に対して、左右それぞれのサイドシル60の一端部と溶接等により結合されている。
また、トルクボックス50の前面側および上面側には、後述するトルクボックス50に対して、左右それぞれのフロントサイドフレーム100の一端部が溶接等により結合されている。
なお、トルクボックス50よりも後方は、保護領域PAであり、保護領域PAの上方に位置するキャビンCAおよび下方に位置する電池パック30の変形を防止する領域である。
【0021】
サイドシル60は、車幅方向両側の車両側方底面に設けられている。サイドシル60は、前後方向に延在された骨格であり、高剛性を有する金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。サイドシル60は、保護領域PAの両側の底辺を構成している。
【0022】
車体前部構造Sは、トルクボックス50よりも前方の車両前部室FAの内部に構成されている。なお、車体前部構造Sの構成については後述する。
【0023】
<車体前部構造Sの構成>
本実施形態に係る車体前部構造Sについて、
図2および
図3を用いて説明する。
車体前部構造Sは、車幅方向において左右対称に構成されている。
車体前部構造Sは、
図2に示すように、フロントサイドフレーム100(フロントサイドフレーム100A、100B)と、クロスメンバ110(クロスメンバ110A、110B)と、バンパビーム120と、リインフォース200(リインフォース200A、200B)と、を含んで構成されている。
【0024】
(フロントサイドフレーム100について)
フロントサイドフレーム100は、車幅方向両側に一対となって設けられ、車両Vの前輪を駆動するパワーユニット部20の側面側に位置し、車両前後方向に延在している。フロントサイドフレーム100は、車両Vの骨格を構成し、高剛性を有する金属等により形成され略矩形閉断面形状を成している。フロントサイドフレーム100の車両前方端部は、バンパビーム120に溶接等により結合され、フロントサイドフレーム100の車両後方端部は、トルクボックス50に溶接等により結合されている。
また、
図3に示すように、フロントサイドフレーム100には、フロントサイドフレーム100とクロスメンバ110Aとの結合部CN(結合部CNA、CNB)の車両後方部から結合部内部に、補強部材HC(補強部材HCA、HCB)が配設されている。補強部材HCは、金属あるいは硬質樹脂等により形成され、フロントサイドフレーム100の内部に配設されている。補強部材HCは、フロントサイドフレーム100の車幅方向前部外側面から車幅方向後部内側面に凹部HS(凹部HSA、HSB)を有する。具体的には、補強部材HCは、クロスメンバ110Aの車両前方側面とフロントサイドフレーム100の車両外側面とが交差する線と、クロスメンバ110Aの車両後方側面とフロントサイドフレーム100の車両後部内側とが交差する線と、を結んだ円弧状の凹部HSを有している。
【0025】
(クロスメンバ110について)
図2に示すように、クロスメンバ110A、110Bは、車幅方向両側のフロントサイドフレーム100の間に延在している。クロスメンバ110Aは、フロントサイドフレーム100の車両前方側に設けられ、クロスメンバ110Bは、フロントサイドフレーム100の車両後方側に設けられている。クロスメンバ110A、110Bは、金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。クロスメンバ110A,110Bの端部は、車幅方向両側のフロントサイドフレーム100と溶接等により結合されている。
【0026】
(バンパビーム120について)
バンパビーム120は、車両前方端部車幅方向に延在し、車両前方部における骨格を構成している。バンパビーム120は、金属等により形成され、略矩形閉断面形状を成している。バンパビーム120は、車幅方向両側のフロントサイドフレーム100の車両前方端部に溶接等により結合され、フロントサイドフレーム100との結合部よりも車幅方向外側が、車両後方側に向けて屈曲している。また、バンパビーム120の中心部は、平面視で、車幅方向の中央部が車両前側へ凸となるように湾曲している。
【0027】
また、車体前部構造Sには、車幅方向両側のフロントサイドフレーム100と、パワーユニット部20の前後に設けられたクロスメンバ110Aおよび110Bと、バンパビーム120と、トルクボックス50と、サイドシル60とが結合されることにより、井桁形状を有した強固な骨格が形成されている。
【0028】
(リインフォース200について)
図3に示すように、リインフォース200は、底面部BT(底面部BTA、BTB)がバンパビーム120に溶接等により結合し、先端部200b(先端部200bA、200bB)が車両後部内側に向けて突出した略三角形状をなしている。リインフォース200は、金属等により形成され、平面視で車両前方側の底面部BTの一辺と、車両後部内側に向いた底面部BTの一辺よりも長い二辺とによって、略三角形の閉断面を成している。先端部200bは、結合部CNに向けて延在している。先端部200bは、車両上下方向にR形状が延在したD字状の形状となっている。
また、リインフォース200の車両後部内側面には、リインフォース200をフロントサイドフレーム100に固定する固定ブラケット200a(固定ブラケット200aA、200aB)が、リインフォース200と溶接等により一体化されて配設されている。固定ブラケット200aは、鋼板等により略矩形の平板状に形成されている。固定ブラケット200aは、先端部200bにおいて、車両前方側に向けて折り返されている。また、固定ブラケット200aには、車両前後方向を長手方向とし板厚方向に貫通する長孔HLが設けられている。リインフォース200は、固定ブラケット200aの長孔HLをボルト等によりフロントサイドフレーム100に固定することによって、フロントサイドフレーム100に固定される。先端部200bとフロントサイドフレーム100との間には、隙間が設けられる。また、フロントサイドフレーム100に固定されたリインフォース200の車両後部内側に向いた軸線方向SS(軸線方向SSA、SSB)は、補強部材HCよりも車両前方側において、フロントサイドフレーム100の車幅方向外側面と交差している。
【0029】
<作用・効果>
上記のように構成された本実施形態に係る車体前部構造Sは、衝突物が車両Vに前面衝突した場合には、車体前部構造Sにおいて衝突エネルギーを吸収することにより保護領域PAに設けられたキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止する。
フルラップ衝突の場合には、車幅方向両方の衝撃吸収構造が作用し、オーバーラップ衝突およびスモールオーバラップ衝突の場合には、主に衝突が発生した側の衝撃吸収構造が作用する。以下、
図4(a)~(c)を用いて、フルラップ衝突が発生した場合の作用について説明する。
【0030】
(フルラップ衝突の場合)
衝突物FBが車両Vに前面衝突する場合には、矢印Aに示す方向から衝突エネルギーが発生する。フルラップ衝突の場合には、
図4(a)に示すように、衝突物FBが車両Vの正面から衝突し、矢印Aに示す方向から衝突エネルギーが発生する。
【0031】
図4(b)に示すように、矢印Aに示す前面からの衝突エネルギーは、バンパビーム120を介して、フロントサイドフレーム100およびリインフォース200に伝達される。フロントサイドフレーム100には、矢印B(矢印BL、BR)に示す衝突エネルギーが車両前方側から後部側に向けて伝達される。そして、フロントサイドフレーム100の前方端部が衝突エネルギーにより圧壊されることにより、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100の前方端部の変形によって吸収される。
フロントサイドフレーム100の圧壊が進むと、リインフォース200には、矢印C(矢印CL、CR)の方向の衝突エネルギーが伝達される。この時、矢印B方向の衝突エネルギーと、矢印C方向の衝突エネルギーとにより、リインフォース200の固定ブラケット200aには、車両後方側に向かう衝突エネルギーが伝達される。そして、リインフォース200と固定ブラケット200aは、矢印D(矢印DL、DR)方向に示す方向に押される。リインフォース200の先端部200bは、D字状の先端形状を有しているため、フロントサイドフレーム100の車幅方向外側面を滑らかに矢印D方向に押される。そして、固定ブラケット200aは、ボルト等により固定されている長孔HLが車両後方側にスライドし断裂することによってフロントサイドフレーム100から外れ、リインフォース200は、固定軸を失うことによって衝突エネルギーの吸収には干渉しなくなる。
【0032】
さらに衝突エネルギーが大きくなると、
図4(c)に示すように、フロントサイドフレーム100の圧壊は、車両前方側のクロスメンバ110Aの位置まで進み、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100の変形によって吸収される。また、フロントサイドフレーム100に伝達される矢印Bおよび矢印E(矢印EL、ER)に示す衝突エネルギーは、パワーユニット部20の前後に設けられたクロスメンバ110Aおよび110Bとトルクボックス50とに伝達される。パワーユニット部20の車両後方側に設けられたクロスメンバ110Bには、矢印G(矢印GL、GR)に示す方向の衝突エネルギーが伝達され、クロスメンバ110Bは圧壊する。また、トルクボックス50に伝達された矢印F(矢印FL、FR)で示す衝突エネルギーは、サイドシル60に分散される。
以上のように、リインフォース200および固定ブラケット200aは、固定軸を失うことにより衝突エネルギーの吸収には干渉しなくなる。そして、衝突エネルギーは、車幅方向両側のフロントサイドフレーム100およびフロントサイドフレーム100Bと、パワーユニット部20の前後に設けられたクロスメンバ110Aおよびクロスメンバ110Bと、バンパビーム120と、トルクボックス50と、サイドシル60とが結合されて形成されている井桁形状を有した強固な骨格により、井桁形状の骨格に分散されるとともに、井桁形状の骨格の変形により吸収される。
【0033】
衝突エネルギーの入力が終了し、フロントサイドフレーム100への衝突エネルギー伝達が終了することにより、車体前部構造Sの変形による衝突エネルギーの吸収は終了する。
【0034】
(スモールラップ衝突の場合)
一方、スモールラップ衝突の場合には、
図5(a)に示すように、衝突物FBが車両Vの左右どちらかの片側に衝突し、矢印SAに示す方向から衝突エネルギーが発生する。
図5(a)~(c)においては、車両Vの正面視で左側に衝突した場合を説明する。
【0035】
図5(b)に示すように、矢印SAに示す前面からの衝突エネルギーは、バンパビーム120を介して、矢印SBおよび矢印SCに示す方向からフロントサイドフレーム100およびリインフォース200に伝達される。フロントサイドフレーム100には、矢印SBに示す衝突エネルギーが車両後方側に向けて伝達される。フロントサイドフレーム100の車両前方側が衝突エネルギーにより圧壊されることにより、衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム100の車両前方側の変形によって吸収される。
【0036】
リインフォース200には、バンパビーム120から矢印SC方向の衝突エネルギーが伝達される。リインフォース200の先端部200bには、矢印SDに示す衝突エネルギーが伝達される。矢印SDに示す方向は、リインフォース200の車両後部内側に向いた軸線方向SSと略同一方向のため、リインフォース200の先端部200bには、フロントサイドフレーム100を変形させる衝突エネルギーが伝達される。そして、リインフォース200の軸線方向SSは、補強部材HCよりも車両前方側を向いているため、リインフォース200の先端部200bは、フロントサイドフレーム100を変形させながら、フロントサイドフレーム100の内部に設けられた補強部材HCの凹部HSに乗り上げる。リインフォース200は、フロントサイドフレーム100を圧壊しながら、凹部HSにより車両後部内側に誘導される。
【0037】
さらに衝突エネルギーが大きくなると、
図5(c)に示すように、衝突が生じた側では、フロントサイドフレーム100の圧壊は、パワーユニット部20の前方に設けられたクロスメンバ110Aの位置まで進む。リインフォース200には、矢印SCに示す方向からさらに衝突エネルギーが伝達され、リインフォース200は、クロスメンバ110Aを変形させながら潜り込むことによって、クロスメンバ110Aに固定される。クロスメンバ110Aには、矢印SDに示す衝突エネルギーが伝達され、クロスメンバ110Aは、圧壊が進み変形する。また、衝突が生じた側とは反対側においても、クロスメンバ110Aを介して伝達される矢印SJに示す衝突エネルギーにより、衝突が生じた側とは反対側のフロントサイドフレーム100Bを変形させる。
また、フロントサイドフレーム100を車両後方側に伝達する矢印SGで示す衝突エネルギーは、矢印SIで示すクロスメンバ110Bに向かう方向と、矢印SHで示すトルクボックス50に向かう方向とに分散される。
以上のように、リインフォース200を介して伝達される衝突エネルギーは、車幅方向両側のフロントサイドフレーム100およびフロントサイドフレーム100Bと、パワーユニット部20の前後に設けられたクロスメンバ110Aおよびクロスメンバ110Bと、バンパビーム120と、トルクボックス50と、サイドシル60とが結合されて形成されている井桁形状を有した強固な骨格により、その骨格に分散されるとともに、井桁形状の骨格の変形により吸収される。
【0038】
衝突エネルギーの入力が終了し、フロントサイドフレーム100への衝突エネルギー伝達が終了することにより、車体前部構造Sの変形による衝突エネルギーの吸収は終了する。
【0039】
以上、本実施形態に係る車体前部構造Sは、車両Vの前部車幅方向両側において車両前後方向に延在された一対のフロントサイドフレーム100(車幅方向反対側はフロントサイドフレーム100B)と、車両前方側において車幅方向に延在してフロントサイドフレーム100とフロントサイドフレーム100Bとを結合するクロスメンバ110Aおよびクロスメンバ110Bと、フロントサイドフレーム100の車両前方側端とフロントサイドフレーム100Bの車両前方側端とを結合し、車幅方向に延在され、両端部が車両後方側に向かう屈曲部を有するバンパビームと、を含む車体前部構造において、底面部BTがバンパビーム120に結合し、先端部200bが車両後部内側に向けて突出した三角形状のリインフォース200と、リインフォース200をフロントサイドフレーム100に固定する固定ブラケット200aと、を備え、リインフォース200の先端部200bは、車両上下方向にR形状が延在したD字状の形状をなし、フロントサイドフレーム100に固定されたリインフォース200の軸線方向SSは、フロントサイドフレーム100とクロスメンバ110Aとの結合部CNよりも車両前方側において、フロントサイドフレーム100の車幅方向外側面と交差する。
フルラップ衝突の場合には、リインフォース200には、車両後方側に向かう衝突エネルギーが伝導される。リインフォース200の先端部200bは、D字状の先端形状を有しているため、フロントサイドフレーム100の車両外側を滑らかに車両後方側に押される。そして、固定ブラケット200aは、フロントサイドフレーム100から外れ、リインフォース200の先端部200bは、固定軸を失うことにより井桁形状を有した骨格による衝撃エネルギー吸収に干渉しない位置に誘導される。一方、スモールラップ衝突の場合には、リインフォース200には、リインフォース200の軸線方向SSの方向に向かうに衝突エネルギーが伝導される。リインフォース200は、フロントサイドフレーム100を変形させながらクロスメンバ110Aに潜り込み固定される。
つまり、車体前部構造Sは、フルラップ衝突の場合には、井桁形状を有した骨格による衝撃エネルギー吸収に干渉しない位置にリインフォース200を移動させ、スモールラップ衝突の場合には、リインフォース200をクロスメンバ110Aに固定させることによって、衝突形態に最適な部材に衝突エネルギーを分散させることができる。したがって、車体前部構造Sは、車両前部室FAの内部において、衝突形態に最適な部材に衝突エネルギーを分散させ、吸収することができる。
そのため、保護領域PAに存在するキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る車体前部構造Sは、フロントサイドフレーム100には、フロントサイドフレーム100とクロスメンバ110Aとの結合部CN内部において、フロントサイドフレーム100の車幅方向前部外側面から車幅方向後部内側面に向けた凹部HSを有する補強部材HCが設置されている。
スモールラップ衝突の場合には、リインフォース200の軸線方向SSは、補強部材HCよりも車両前方側を向いているため、リインフォース200の先端部200bは、フロントサイドフレーム100の内部に設けられた補強部材HCの凹部HSに乗り上げる。補強部材HCは、リインフォース200を凹部HSによってクロスメンバ110Aに誘導し、リインフォース200をクロスメンバ110Aに固定させる。
つまり、補強部材HCがリインフォース200を凹部HSによってクロスメンバ110Aに誘導し、確実にリインフォース200をクロスメンバ110Aに固定させることによって、車体前部構造Sは、衝突が生じた側とは反対側のフロントサイドフレーム100Bに衝突エネルギーを分散させることができる。したがって、車体前部構造Sは、車両前部室FAの内部において、衝突形態に最適な部材に衝突エネルギーを分散させ、吸収することができる。
そのため、保護領域PAに存在するキャビンCAおよび電池パック30の変形を防止することができる。
【0041】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1;車両
10;前輪
20;パワーユニット部
30;電池パック
40;トーボード
50;トルクボックス
60;サイドシル
100;フロントサイドフレーム
110A;クロスメンバ
110B;クロスメンバ
120;バンパビーム
200;リインフォース
200a;固定ブラケット
200b;先端部
CA;キャビン(乗員室)
FA;車両前部室
HC;補強部材
HS;凹部
PA;保護領域
S;車体前部構造
SA;衝撃吸収構造