(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054035
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】キャビネットにテンションが付与されたスピーカー
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
H04R1/02 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160606
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】597047989
【氏名又は名称】株式会社埼王住研
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】長山 長慎
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AD32
5D017AD34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】キャビネットへのテンションの掛け方を工夫することで、キャビネットからの音の発生を効果的に行うスピーカーを提供する。
【解決手段】スピーカー1は、電気信号に応じて振動する振動板110を含むスピーカーユニット100と、スピーカーユニット100を搭載するキャビネット200と、を含む。キャビネット200は、前後方向(第1方向)に対向する前面板20F及び後面板20B(第1の2面)と、第1の2面の間に配置されて第1の2面を外方に押圧する第1のテンションボルト230と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号に応じて振動する振動板を含むスピーカーユニットと、
前記スピーカーユニットを搭載するキャビネットと、
を含み、
前記キャビネットは、
第1方向に対向する第1の2面と、
前記第1の2面の間に配置されて前記第1の2面を外方に押圧する第1のテンションボルトと、
を含む、
スピーカー。
【請求項2】
請求項1に記載のスピーカーであって、
前記キャビネットは、前記第1方向と異なる第2方向に対向する第2の2面と、前記第1方向及び前記第2方向のいずれとも異なる第3方向に対向する第3の2面と、をさらに含み、
前記第1の2面のうちの1つの面が、前記第2の2面には直接固定されることなく、前記第3の2面に対して固定されている、
スピーカー。
【請求項3】
請求項2に記載のスピーカーであって、
前記第1の2面のうちの前記1つの面と前記第3の2面との固定は、前記1つの面と前記第3の2面との組み継ぎによる接合部に前記第2方向に配置された第1の固定ボルトを用いて行われる、
スピーカー。
【請求項4】
請求項2に記載のスピーカーであって、
前記キャビネットは、
前記第2の2面の間に配置されて前記第2の2面を外方に押圧する第2のテンションボルトをさらに含み、
前記第2の2面が、前記第1の2面には直接固定されることなく、前記第3の2面に対して固定されている、
スピーカー。
【請求項5】
請求項4に記載のスピーカーであって、
前記第2の2面と前記第3の2面との固定は、前記第2の2面と前記第3の2面との組み継ぎによる接合部に前記第1方向に配置された第2の固定ボルトを用いて行われる、
スピーカー。
【請求項6】
請求項1に記載のスピーカーであって、
前記第1の2面のうちの1つの面に形成された貫通孔に前記キャビネットの内側から差し込まれるフランジ付きナットと、
前記キャビネットの外側に位置するワッシャーと、
前記フランジ付きナットのフランジ、前記1つの面、及び前記ワッシャーを貫通する貫通ボルトと、
前記貫通ボルトに掛けられて、前記フランジ、前記1つの面、及び前記ワッシャーを締め付ける締め付けナットと、
をさらに含み、
前記第1のテンションボルトは、前記フランジ付きナットにねじ込まれた状態で前記フランジ付きナットに対して回転することにより前記第1の2面を外方に押圧する、
スピーカー。
【請求項7】
請求項1に記載のスピーカーであって、
前記第1のテンションボルトに配置され、前記第1のテンションボルトを移動させてテンションを緩めるときに前記テンションが最小となる位置を示すブレーキナット
をさらに含む、
スピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビネットにテンションが付与されたスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
トランペットは金属製であるのに対し、クラリネットは主に木製である。楽器の素材や構造が変われば、楽器から出る音も変わる。同様に、ギターやバイオリンなどの弦楽器、木琴やドラムなどの打楽器にも、それぞれ適した素材や構造があり、素材や構造が変われば別の音になる。
【0003】
スピーカー(オーディオスピーカー)は、それらの楽器とは素材や構造が異なるだけでなく、電気信号に応じて振動板を振動させるものであるから、音を発生させる仕組みが楽器とは異なる。従って、スピーカーが楽器とまったく同じ音を再現することは不可能である。しかし、スピーカーの音を楽器の音に限りなく近づけていくことはできる。愛好家はより高音質を得られるスピーカーを探し求め、スピーカーの製作者はそれぞれ長年にわたり工夫を重ねている。ハイエンドモデルとして販売されているスピーカーの中には1台1万米ドル以上、さらには10万米ドルに近い値段が付けられているものまである。良い音を求める者にとって、本当に良い音にはそれだけの価値がある。
【0004】
下記の特許文献1には、6枚のジュラルミン製のパネルから構成されたキャビネットとスピーカーユニットとから構成されたスピーカーが記載されている。特許文献1によれば、対向する上下、左右、前後のパネルをそれぞれ貫通ネジ棒にて互いに引っ張り合わせてテンションを掛けることで、内部伝播速度が速く立ち上がりのよい音が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が行った実験によれば、キャビネットの対向するパネルを内側に引っ張り合わせても、満足のできる音声が得られなかった。パネルを内側に引っ張り合わせた場合は、音波がキャビネットの内部に定在波として留まってしまい、時間差で発生した音波が混ざったような音がキャビネットの外部に出てくる現象が、特に音量が大きいときに発生した。
【0007】
本発明は、キャビネットへのテンションの掛け方を工夫することで、キャビネットからの音の発生を効果的に行い得るようなスピーカーを作成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの観点に係るスピーカーは、
電気信号に応じて振動する振動板を含むスピーカーユニットと、
前記スピーカーユニットを搭載するキャビネットと、
を含み、
前記キャビネットは、
第1方向に対向する第1の2面と、
前記第1の2面の間に配置されて前記第1の2面を外方に押圧する第1のテンションボルトと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るスピーカー1の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1にIIA-IIB線及びIIC-IID線で示される切断箇所でのスピーカー1の断面図である。
【
図3】
図3は、
図1にIIIA-IIIBで示される切断箇所でのスピーカー1の断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示されるスピーカーユニット100の内部の構成を示す。
【
図5】
図5は、
図1に示されるキャビネット200を右後方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に説明される実施形態は、本発明の一例を示すものであって、本発明の内容を限定するものではない。また、実施形態で説明される構成及び動作の全てが本発明の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
図1~
図3は、本発明の実施形態に係るスピーカー1の断面図である。
図1に、
図2の切断箇所がIIA-IIB線及びIIC-IID線で示され、
図3の切断箇所がIIIA-IIIB線で示されている。スピーカー1は、スピーカーユニット100と、キャビネット200と、を含む。スピーカーユニット100は、キャビネット200に搭載されている。
【0012】
1.スピーカーユニット100
図4は、
図1に示されるスピーカーユニット100の内部の構成を示す。スピーカーユニット100は、フレーム101と、永久磁石102と、鉄心103と、振動板110と、ボイスコイル111と、コーンエッジ112と、ダンパー113と、を含むダイナミック型のスピーカーユニットである。
【0013】
フレーム101は、キャビネット200に固定されてスピーカーユニット100の全体を支持する。永久磁石102及び鉄心103はフレーム101との位置関係が変化しないようにフレーム101に直接又は間接に固定されている。永久磁石102は円環状の磁石である。鉄心103は永久磁石102の一方の極に接する平板部104と、平板部104に接続されて永久磁石102の環内を貫通する柱状部105と、を含む。この構成により、永久磁石102により発生する第1の磁束が柱状部105に集中する。
【0014】
振動板110は、円錐型の紙である。ボイスコイル111は、振動板110の中央部に固定され、鉄心103の柱状部105と間隔をあけて柱状部105の周りに巻かれた導電線を含む。振動板110はコーンエッジ112を介してフレーム101に接続されている。ボイスコイル111はダンパー113を介してフレーム101に接続されている。コーンエッジ112及びダンパー113は振動板110及びボイスコイル111がフレーム101に対して往復動することを許容する。
【0015】
ボイスコイル111の導電線に電気信号を含む電流を流すことにより、ボイスコイル111の内側に第2の磁束が発生する。第2の磁束は、電流の変化に応じて変化する。第1の磁束と第2の磁束との作用により、鉄心103とボイスコイル111との間に時間によって変化する磁気力が発生し、ボイスコイル111が往復動する。ボイスコイル111が往復動するとともに振動板110が振動し、音声が発生する。
【0016】
2.キャビネット200
図1~
図3を再び参照する。また
図5は、
図1に示されるキャビネット200を右後方から見た斜視図である。キャビネット200は、上面板20T、底面板20U、右側面板20R、左側面板20L、後面板20B、及び前面板20Fを含み、おおむね直方体の形状を有する。上面板20Tと底面板20Uとが向き合う方向を上下方向とする。右側面板20Rと左側面板20Lとが向き合う方向を左右方向とする。後面板20Bと前面板20Fとが向き合う方向を前後方向とする。ここでは上面板20T、底面板20U、右側面板20R、左側面板20L、後面板20B、及び前面板20Fがいずれもほぼ平面状である場合について説明するが、これらの板のうちの1つ又は2つ以上が曲面状であってもよい。また、これらの板の材質は木である場合について説明するが、その他の材質であってもよい。
【0017】
上面板20Tは、右側面板20R、左側面板20L、及び後面板20Bとそれぞれ組み継ぎで接合され、それぞれの接合部に固定ボルト21TR、21TL、及び21TBが挿入されている。組み継ぎとは、2枚の板の接合端をそれぞれ相補的な櫛歯形状に加工し、一方の櫛歯を他方の櫛歯の間に差し込んでこれらの板を接合する方式である。底面板20Uも同様に、右側面板20R、左側面板20L、及び後面板20Bとそれぞれ組み継ぎで接合され、それぞれの接合部に固定ボルト21UR、21UL、及び21UBが挿入されている。右側面板20R及び左側面板20Lと、後面板20Bとは直接固定されない。
図5には、固定ボルト21TR、21TL、21TB、21UR、21UL、及び21UBにそれぞれ対応するボルト穴22TR、22TL、22TB、22UR、22UL、及び22UBも示されている。
【0018】
キャビネット200は、右側面板20Rと左側面板20Lとの間に、中板201及びストレス板202をさらに含む。中板201及びストレス板202の各々は、右側面板20R及び左側面板20Lのキャビネット200内面に前後方向に形成された溝に差し込まれることで、上下方向に移動しないように支持されている。
【0019】
前面板20Fは、中板201の下面と、底面板20U、右側面板20R、及び左側面板20Lのキャビネット200内面と、に形成された溝に差し込まれることで、前後方向に移動しないように固定されている。
【0020】
キャビネット200は、中板201、上面板20T、右側面板20R、及び左側面板20Lで囲まれた空間に、バッフル板203をさらに含む。バッフル板203の中央には大きな貫通孔が形成されており、この貫通孔にスピーカーユニット100が挿入された状態でバッフル板203の前面にスピーカーユニット100のフレーム101が固定されている。バッフル板203及びスピーカーユニット100は、中板201の上面と、上面板20T、右側面板20R、及び左側面板20Lのキャビネット200内面と、に形成された溝に差し込まれることで、前後方向に移動しないように固定されている。これにより、キャビネット200は振動板110の前面側を外気に接触させ、後面側の空間を閉じるようにスピーカーユニット100を搭載する。
【0021】
中板201、上面板20T、右側面板20R、及び左側面板20Lで囲まれたキャビネット200の開口は、バッフル板203及びスピーカーユニット100によって塞がれる。後面板20Bには小さな貫通孔が形成されるが、その貫通孔はスピーカーユニット100のボイスコイル111に電気信号を流すための導電線120を貫通させることによってほぼ塞がれる。また後述のように前面板20F、左側面板20L、及び上面板20Tにも貫通孔が形成されるが、それらの貫通孔はそれぞれボルトによって塞がれる。そこで、キャビネット200は、次に説明する吸気弁220を介して空気が出入りすることがある他は、ほぼ密閉状態となっている。
【0022】
3.吸気弁220
吸気弁220は、貫通孔221と、弁体224と、規制部材225と、を含む。貫通孔221は、底面板20Uに形成されている。貫通孔221は、最小径を有する部分222と、最小径を有する部分222から上に向かって漏斗状に拡大した径を有する拡大部223と、を含む。
【0023】
弁体224は、球形の発泡樹脂であり、貫通孔221の最小径より大きい直径を有する。弁体224は最小径を有する部分222の上に置かれ、貫通孔221を塞ぐことができる。このときの弁体224の位置を第1位置とする。拡大部223は、弁体224の少なくとも一部を収容し、重力に引っ張られた弁体224を第1位置に導く。キャビネット200の外側から最小径を有する部分222を介して弁体224にかかる第1の圧力よりも、キャビネット200の内側から弁体224にかかる第2の圧力が小さい場合(負圧)、この圧力の差に起因して、弁体224には重力と反対方向の押圧力がかかる。押圧力が弁体224にかかる重力を超えたとき、吸気弁220は開弁する。
【0024】
規制部材225は、1本の細棒で構成され、この細棒の両端はそれぞれ右側面板20Rと左側面板20Lとに形成された差し込み穴に挿入されて固定されている。規制部材225は弁体224よりも上に位置し、弁体224が弁体224にかかる重力に抗して第1位置からずれた第2位置に移動することを許容するが、第2位置より上方には移動させないようになっている。第1位置にある弁体224は
図1に実線の円で示され、第2位置にある弁体224は
図1に一点鎖線の円で示されている。
【0025】
弁体224の直径は、10mm以上60mm以下であり、さらに望ましくは15mm以上30mm以下である。弁体224の質量は、50mg以上500mg以下であり、さらに望ましくは100mg以上400mg以下である。第1位置と第2位置との距離は、0.5mm以上2.5mm以下であり、さらに望ましくは1.0mm以上1.5mm以下である。
【0026】
第1位置と第2位置との距離が短く制限されることで、吸気弁220の開弁時の開口面積は小さいものとなり得る。しかし、スピーカーユニット100の振動板110が電気信号に応じて前方へ移動するとき、吸気弁220からの空気の流入を可能とすることで、振動板110が力強く前方へ移動することができる。これにより、本来の力強さを損なうことなく音声を出力できる。
【0027】
また、負圧時以外は吸気弁220を閉状態とし、密閉型スピーカーとして動作させることができる。特に、第1位置と第2位置との距離が短く制限されているので、弁体224が第2位置から第1位置に戻る動作が迅速に行われる。
【0028】
但し、密閉型スピーカーとは言っても、完全な密閉ではない。吸気弁220からキャビネット200内部に空気が流入した後、直ちに同量の空気がキャビネット200外部に排出されるわけではないが、やがて排出される。
【0029】
例えば、弁体224が第1位置にあるときに、拡大部223と弁体224との非常に小さい隙間から少しずつ空気が排出されることがあってもよい。
【0030】
あるいは、吸気弁220以外にキャビネット200の内外を接続する小さな空気流路があってもよく、そのような空気流路から少しずつ空気が排出されることがあってもよい。
【0031】
吸気弁220は1つである場合に限られず、同様の吸気弁220が複数設けられてもよい(
図2参照)。複数の吸気弁220のうちのいくつかは、共通の規制部材225を含んでもよい。複数の吸気弁220に含まれる貫通孔221のうちのいくつかは、他の貫通孔221と異なる最小径を有してもよい。複数の吸気弁220に含まれる弁体224のうちのいくつかは、他の弁体224と異なる大きさ又は質量を有してもよいし、第1位置と第2位置との距離が異なっていてもよい。また、複数の吸気弁220の開弁圧力が同じであったとしても、吸気弁220が設けられる場所によって、例えば振動板110からの距離によって、振動板110の振動の影響の受けやすさが異なる場合があり得る。このように複数の吸気弁220の特性にばらつきを持たせることにより、負圧が大きいときは流量を大きくする一方、負圧があっても小さいときは開弁する吸気弁220の数を小さくして密閉型に近いスピーカー1とすることができる。
【0032】
4.第1及び第2のテンションボルト230及び240
4-1.第1のテンションボルト230
前面板20Fと後面板20Bとの間に配置され、前面板20Fと後面板20Bとを外方に押圧する第1のテンションボルト230について説明する。
【0033】
前面板20Fに形成された貫通孔に、キャビネット200の内側からフランジ付きナット231が差し込まれて前面板20Fに固定される。前面板20Fに対するフランジ付きナット231の固定は、フランジ付きナット231のフランジを貫通して前面板20Fにねじ込まれるネジによってもよいが、本発明者が試作して第1のテンションボルト230による大きなテンションを掛けたところ、フランジ付きナット231と前面板20Fとの間に隙間が生じてネジが外れてしまうことがあった。そこで、フランジ付きナット231のフランジと、キャビネット200の外側に配置したワッシャー232と、で前面板20Fを挟み、これらを貫通する貫通ボルト234に締め付けナット235を掛けて締め付けることが望ましい。
【0034】
第1のテンションボルト230は、フランジ付きナット231にねじ込まれることで前面板20Fに支持される。第1のテンションボルト230は、前方の端部に六角穴236が形成されており、この六角穴236に六角レンチを差し込んで回転させることで、フランジ付きナット231に対する第1のテンションボルト230の前後方向の位置を調整することができる。第1のテンションボルト230の後方の端部は半球状の形状を有し、第1のテンションボルト230をフランジ付きナット231に対して後方に移動させたときに、後述の金属鉢250及びストレス板202を介して後面板20Bを後方に押圧する。第1のテンションボルト230が後面板20Bを後方に押圧すると、反作用で第1のテンションボルト230が前面板20Fを前方に押圧する。
【0035】
第1のテンションボルト230には、2つの六角ナットで構成されるブレーキナット233が掛けられている。ブレーキナット233は、第1のテンションボルト230をフランジ付きナット231に対して前方に移動させてテンションを緩めるときの第1のテンションボルト230の限界位置を示す。ここでいう限界位置とは、第1のテンションボルト230によって後面板20Bに与えられるテンションが最小となり、テンションがそれ以上緩くはならない位置をいう。ブレーキナット233がフランジ付きナット231に当たると、それ以上は第1のテンションボルト230が前方に移動できなくなる。仮に第1のテンションボルト230を限界位置より前方に移動させても、第1のテンションボルト230の後方の端部が金属鉢250から離れてしまい、テンションがそれ以上緩くはならない。
【0036】
第1のテンションボルト230によってテンションが与えられる後面板20Bは、右側面板20R及び左側面板20Lに対して直接固定されるのではなく、上面板20T及び底面板20Uに対して組み継ぎ及びボルトを用いて固定されている。従って、第1のテンションボルト230によって後面板20Bにテンションをかけたときに、後面板20Bは左右方向の軸周りに、板ばねのように撓むことができる。このため、テンションの調整しろを大きくとることができる。
【0037】
4-2.第2のテンションボルト240
右側面板20Rと左側面板20Lとの間に配置され、右側面板20Rと左側面板20Lとを外方に押圧する第2のテンションボルト240について説明する。
【0038】
左側面板20Lに形成された貫通孔に、キャビネット200の内側からフランジ付きナット241が差し込まれている。さらに、フランジ付きナット241のフランジとワッシャー242とで左側面板20Lを挟み、これらを貫通する貫通ボルト244を締め付けナット245で締め付けることでフランジ付きナット241が左側面板20Lに固定される。
【0039】
フランジ付きナット241に、第2のテンションボルト240がねじ込まれている。第2のテンションボルト240は、左方の端部に六角穴246が形成されている。第2のテンションボルト240の右方の端部は半球状の形状を有し、第2のテンションボルト240をフランジ付きナット241に対して右方に移動させたときに、第2のテンションボルト240は右側面板20Rと左側面板20Lとを外方に押圧できる。
【0040】
第2のテンションボルト240には、2つの六角ナットで構成されるブレーキナット243が掛けられている。
【0041】
第2のテンションボルト240によってテンションが与えられる右側面板20R及び左側面板20Lは、前面板20F及び後面板20Bに対して直接固定されるのではなく、上面板20T及び底面板20Uに対して組み継ぎ及びボルトを用いて固定されている。従って、第2のテンションボルト240によって右側面板20R及び左側面板20Lにテンションをかけたときに、右側面板20R及び左側面板20Lは前後方向の軸周りに、板ばねのように撓むことができる。このため、テンションの調整しろを大きくとることができる。他の点については、第2のテンションボルト240は第1のテンションボルト230と同様である。
【0042】
5.金属鉢250及び260
キャビネット200の内部であってストレス板202と第1のテンションボルト230との間に、金属鉢250が配置されている。金属鉢250は半球状、カップ状、ボウル状、その他の凸面と凹面とを有する回転体の形状を有しており、その凸面のうちの回転対称軸上の箇所がストレス板202の前方の端部に固定されている。ビス252が、金属鉢250の凹面側から金属鉢250を貫通してストレス板202にねじ込まれてもよい。また、金属鉢250の凹面のうちの回転対称軸上の箇所が第1のテンションボルト230の後方の端部によって押圧されている。これにより、金属鉢250は、ストレス板202と第1のテンションボルト230との間に挟まれた状態で固定されている。
【0043】
金属鉢250には前面板20Fの振動が第1のテンションボルト230を介して伝達されるほか、右側面板20R及び左側面板20Lの振動がストレス板202を介して伝達される。また、金属鉢250には後面板20Bの振動もストレス板202を介して伝達される。
【0044】
キャビネット200の内部であって中板201の上に、金属鉢250と異なる固有振動数を有する金属鉢260が配置されている。金属鉢260は半球状、カップ状、ボウル状、その他の凸面と凹面とを有する回転体の形状を有しており、その凸面のうちの回転対称軸上の箇所が中板201の上面に接し、凹面のうちの回転対称軸上の箇所が上面板20Tにねじ込まれて貫通した固定ビス261に押圧されている。これにより、金属鉢260は、中板201と固定ビス261との間に挟まれた状態で固定されている。
【0045】
金属鉢260には右側面板20R及び左側面板20Lの振動が中板201を介して伝達されるほか、上面板20Tの振動が固定ビス261を介して伝達される。他の点については、金属鉢260は金属鉢250と同様である。
【0046】
6.作用
(1)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
電気信号に応じて振動する振動板110を含むスピーカーユニット100と、
スピーカーユニット100を搭載するキャビネット200と、
を含む。
キャビネット200は、
前後方向(第1方向)に対向する前面板20F及び後面板20B(第1の2面)と、
第1の2面の間に配置されて第1の2面を外方に押圧する第1のテンションボルト230と、
を含む。
これによれば、第1の2面を互いに引っ張り合わせるのではなく、第1の2面をキャビネット200の内側から外方に押圧することで、第1の2面の振動が外方に向けて広く拡散し、音声が響き渡る効果が得られる。なお実施形態においては密閉型のスピーカー1について説明したが、本発明は密閉型のスピーカーに限定されない。例えば、バスレフ型のスピーカーでも同様の効果を奏し得る。
【0047】
(2)本発明の実施形態によるスピーカー1において、
キャビネット200は、第1方向と異なる左右方向(第2方向)に対向する右側面板20R及び左側面板20L(第2の2面)と、第1方向及び第2方向のいずれとも異なる上下方向(第3方向)に対向する上面板20T及び底面板20U(第3の2面)と、をさらに含み、
前面板20F及び後面板20B(第1の2面)のうちの後面板20B(1つの面)が、右側面板20R及び左側面板20L(第2の2面)には直接固定されることなく、上面板20T及び底面板20U(第3の2面)に対して固定されている。
これによれば、第1の2面のうちの1つの面が、第2の2面には直接固定されていないため、左右方向(第2方向)の軸周りに撓むことができ、テンションの調整しろを大きくとることができる。
【0048】
(3)本発明の実施形態によるスピーカー1において、
前面板20F及び後面板20B(第1の2面)のうちの後面板20B(1つの面)と上面板20T及び底面板20U(第3の2面)との固定は、上記1つの面と第3の2面との組み継ぎによる接合部に左右方向(第2方向)に配置された固定ボルト21TB及び21UB(第1の固定ボルト)を用いて行われる。
これによれば、組み継ぎによる接合を行うことで1本の固定ボルトを2枚の板に通すことができ、1本の固定ボルトを2枚の板に通すことでそれらの板を強固に接合することができる。
【0049】
(4)本発明の実施形態によるスピーカー1において、
キャビネット200は、
右側面板20R及び左側面板20L(第2の2面)の間に配置されて第2の2面を外方に押圧する第2のテンションボルト240をさらに含み、
第2の2面が、前面板20F及び後面板20B(第1の2面)には直接固定されることなく、上面板20T及び底面板20U(第3の2面)に対して固定されている。
これによれば、第2のテンションボルト240を含むことで、第1の2面だけでなく第2の2面にもテンションをかけることができる。そして、第2の2面が、第1の2面には直接固定されていないため、前後方向(第1方向)の軸周りに撓むことができ、テンションの調整しろを大きくとることができる。
【0050】
(5)本発明の実施形態によるスピーカー1において、
右側面板20R及び左側面板20L(第2の2面)と上面板20T及び底面板20U(第3の2面)との固定は、第2の2面と第3の2面との組み継ぎによる接合部に前後方向(第1方向)に配置された固定ボルト21TR、21TL、21UR、及び21UL(第2の固定ボルト)を用いて行われる。
これによれば、第2の固定ボルトを用いることで第2の2面を第3の2面に固定することができる。
【0051】
(6)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
前面板20F及び後面板20B(第1の2面)のうちの前面板20F(1つの面)に形成された貫通孔にキャビネット200の内側から差し込まれるフランジ付きナット231と、
キャビネット200の外側に位置するワッシャー232と、
フランジ付きナット231のフランジ、上記1つの面、及びワッシャー232を貫通する貫通ボルト234と、
貫通ボルト234に掛けられて、フランジ、上記1つの面、及びワッシャー232を締め付ける締め付けナット235と、
をさらに含み、
第1のテンションボルト230は、フランジ付きナット231にねじ込まれた状態でフランジ付きナット231に対して回転することにより第1の2面を外方に押圧する。
これによれば、第1のテンションボルト230により第1の2面に大きなテンションを掛けた場合でも、フランジ付きナット231が前面板20Fから外れてしまうことを抑制し得る。
【0052】
(7)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
第1のテンションボルト230に配置され、第1のテンションボルト230を移動させてテンションを緩めるときにテンションが最小となる位置を示すブレーキナット233
をさらに含む、
これによれば、テンションが最小となる位置がブレーキナット233でわかるので、テンションの調整を容易に行うことができる。