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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054036
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】金属鉢を含むスピーカー
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20240409BHJP
   H04R 1/28 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H04R1/02 101F
H04R1/28 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160607
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】597047989
【氏名又は名称】株式会社埼王住研
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】長山 長慎
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AD34
5D017AD40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リンなどの金属鉢を用いて音質が向上したスピーカーを提供する。
【解決手段】スピーカー1は、電気信号に応じて振動する振動板を有するスピーカーユニット100と、スピーカーユニット100を搭載するキャビネット200と、を含む。キャビネット200の内部に、金属鉢250又は260が配置されている。あるいは、キャビネット200の内部に、固有振動数の異なる複数の金属鉢250及び260が配置されてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号に応じて振動する振動板を含むスピーカーユニットと、
前記スピーカーユニットを搭載するキャビネットと、
を含み、
前記キャビネットの内部に、金属鉢が配置されている、
スピーカー。
【請求項2】
請求項1に記載のスピーカーであって、
前記キャビネットに支持され、前記金属鉢の凹面側から前記金属鉢に接する第1部材と、
前記キャビネットに支持され、前記金属鉢の凸面側から前記金属鉢に接する第2部材と、
をさらに含み、
前記金属鉢は、前記第1部材及び前記第2部材に挟まれた状態で固定される、
スピーカー。
【請求項3】
請求項2に記載のスピーカーであって、
前記第1部材は前記キャビネットの第1の壁面に支持され、
前記第2部材は前記キャビネットの第2の壁面に支持される、
スピーカー。
【請求項4】
請求項3に記載のスピーカーであって、
前記第1部材は、前記第1の壁面にテンションを付与する第1のテンションボルトを含む、
スピーカー。
【請求項5】
請求項3に記載のスピーカーであって、
前記第2の壁面にテンションを付与する第2のテンションボルトをさらに含む、
スピーカー。
【請求項6】
電気信号に応じて振動する振動板を含むスピーカーユニットと、
前記スピーカーユニットを搭載するキャビネットと、
を含み、
前記キャビネットの内部に、固有振動数の異なる複数の金属鉢が配置されている、
スピーカー。
【請求項7】
請求項6に記載のスピーカーであって、
前記キャビネットの第1の壁面に支持され、前記複数の金属鉢のうちの第1の金属鉢の凹面側から前記第1の金属鉢に接する第1部材と、
前記キャビネットの第2の壁面に支持され、前記第1の金属鉢の凸面側から前記第1の金属鉢に接する第2部材と、
前記キャビネットの第3の壁面に支持され、前記複数の金属鉢のうちの第2の金属鉢の凹面側から前記第2の金属鉢に接する第3部材と、
前記キャビネットの第4の壁面に支持され、前記第2の金属鉢の凸面側から前記第2の金属鉢に接する第4部材と、
をさらに含み、
前記第1の金属鉢は、前記第1部材及び前記第2部材に挟まれた状態で固定され、
前記第2の金属鉢は、前記第3部材及び前記第4部材に挟まれた状態で固定される、
スピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鉢を含むスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
トランペットは金属製であるのに対し、クラリネットは主に木製である。楽器の素材や構造が変われば、楽器から出る音も変わる。同様に、ギターやバイオリンなどの弦楽器、木琴やドラムなどの打楽器にも、それぞれ適した素材や構造があり、素材や構造が変われば別の音になる。
【0003】
スピーカー(オーディオスピーカー)は、それらの楽器とは素材や構造が異なるだけでなく、電気信号に応じて振動板を振動させるものであるから、音を発生させる仕組みが楽器とは異なる。従って、スピーカーが楽器とまったく同じ音を再現することは不可能である。しかし、スピーカーの音を楽器の音に限りなく近づけていくことはできる。愛好家はより高音質を得られるスピーカーを探し求め、スピーカーの製作者はそれぞれ長年にわたり工夫を重ねている。ハイエンドモデルとして販売されているスピーカーの中には1台1万米ドル以上、さらには10万米ドルに近い値段が付けられているものまである。良い音を求める者にとって、本当に良い音にはそれだけの価値がある。
【0004】
下記の特許文献1には、切り抜きや裂け目が設けられたグラスのような開放型立体の音響共鳴器を音発生器に固定し、音発生器から出る音の機械的振動を音響共鳴器に伝達することが記載されている。特許文献1によれば、音響共鳴器は音発生器と同調して相補的音波を発生し、音発生器から生成される不協和音や音量不足を、総合的で豊かな音になるように補正するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002-531881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、音響共鳴器をどのように設置して音発生器と共鳴するかの具体的構成が明らかではない。特許文献1においては音響共鳴器に設けられた裂け目からの空気の波が共鳴することも記載されているが、裂け目がどのように作用するのか、特許文献1から伺い知ることはできない。
本発明者は、スピーカーを仏間に設置して音楽を再生したときに、なぜか音楽が重厚に鳴り響いているように感じた。仏間とは、仏教を信仰する者の住宅において仏様あるいは故人を祀るために設けられた部屋のことである。なぜ、音楽が重厚に鳴り響いているのか、音楽を聴く耳には自信のある本発明者としても最初は原因がわからず気のせいかと思われた。あるいは、単に仏間が静ひつな空間であることが、音の感じ方の異なる原因かとも思われた。しかし、念のため同じスピーカーを仏間に設置したときとそれ以外の静かな部屋に設置したときとで聞き比べてみた結果、やはり音の響き方に違いがあることを発見した。そして、その原因を探索し、その仏間に設置されていたリンという仏具に行き着いた。リンは、バチで1回叩くと甲高い澄んだ音色を発する金属鉢である。リンの近くでスピーカーを鳴らすと、雑音が抑制され、楽器をその場で演奏しているかのような生々しい音がよみがえってきた。
その後、本発明者はスピーカーの音質向上のため、具体的にどのようにリンを用いれば良いのか検討した。また、リン以外でも、金属の鉢状のものであれば同様の効果を奏し得ることを見出した。
【0007】
本発明は、リンなどの金属鉢を用いて音質が向上したスピーカーを作成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの観点に係るスピーカーは、
電気信号に応じて振動する振動板を含むスピーカーユニットと、
前記スピーカーユニットを搭載するキャビネットと、
を含み、
前記キャビネットの内部に、金属鉢が配置されている。
本発明の他の1つの観点に係るスピーカーは、
前記キャビネットの内部に、固有振動数の異なる複数の金属鉢が配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係るスピーカー1の断面図である。
図2図2は、図1にIIA-IIB線及びIIC-IID線で示される切断箇所でのスピーカー1の断面図である。
図3図3は、図1にIIIA-IIIBで示される切断箇所でのスピーカー1の断面図である。
図4図4は、図1に示されるスピーカーユニット100の内部の構成を示す。
図5図5は、図1に示されるキャビネット200を右後方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に説明される実施形態は、本発明の一例を示すものであって、本発明の内容を限定するものではない。また、実施形態で説明される構成及び動作の全てが本発明の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
図1図3は、本発明の実施形態に係るスピーカー1の断面図である。図1に、図2の切断箇所がIIA-IIB線及びIIC-IID線で示され、図3の切断箇所がIIIA-IIIB線で示されている。スピーカー1は、スピーカーユニット100と、キャビネット200と、を含む。スピーカーユニット100は、キャビネット200に搭載されている。
【0012】
1.スピーカーユニット100
図4は、図1に示されるスピーカーユニット100の内部の構成を示す。スピーカーユニット100は、フレーム101と、永久磁石102と、鉄心103と、振動板110と、ボイスコイル111と、コーンエッジ112と、ダンパー113と、を含むダイナミック型のスピーカーユニットである。
【0013】
フレーム101は、キャビネット200に固定されてスピーカーユニット100の全体を支持する。永久磁石102及び鉄心103はフレーム101との位置関係が変化しないようにフレーム101に直接又は間接に固定されている。永久磁石102は円環状の磁石である。鉄心103は永久磁石102の一方の極に接する平板部104と、平板部104に接続されて永久磁石102の環内を貫通する柱状部105と、を含む。この構成により、永久磁石102により発生する第1の磁束が柱状部105に集中する。
【0014】
振動板110は、円錐型の紙である。ボイスコイル111は、振動板110の中央部に固定され、鉄心103の柱状部105と間隔をあけて柱状部105の周りに巻かれた導電線を含む。振動板110はコーンエッジ112を介してフレーム101に接続されている。ボイスコイル111はダンパー113を介してフレーム101に接続されている。コーンエッジ112及びダンパー113は振動板110及びボイスコイル111がフレーム101に対して往復動することを許容する。
【0015】
ボイスコイル111の導電線に電気信号を含む電流を流すことにより、ボイスコイル111の内側に第2の磁束が発生する。第2の磁束は、電流の変化に応じて変化する。第1の磁束と第2の磁束との作用により、鉄心103とボイスコイル111との間に時間によって変化する磁気力が発生し、ボイスコイル111が往復動する。ボイスコイル111が往復動するとともに振動板110が振動し、音声が発生する。
【0016】
2.キャビネット200
図1図3を再び参照する。また図5は、図1に示されるキャビネット200を右後方から見た斜視図である。キャビネット200は、上面板20T、底面板20U、右側面板20R、左側面板20L、後面板20B、及び前面板20Fを含み、おおむね直方体の形状を有する。上面板20Tと底面板20Uとが向き合う方向を上下方向とする。右側面板20Rと左側面板20Lとが向き合う方向を左右方向とする。後面板20Bと前面板20Fとが向き合う方向を前後方向とする。ここでは上面板20T、底面板20U、右側面板20R、左側面板20L、後面板20B、及び前面板20Fがいずれもほぼ平面状である場合について説明するが、これらの板のうちの1つ又は2つ以上が曲面状であってもよい。また、これらの板の材質は木である場合について説明するが、その他の材質であってもよい。
【0017】
上面板20Tは、右側面板20R、左側面板20L、及び後面板20Bとそれぞれ組み継ぎで接合され、それぞれの接合部に固定ボルト21TR、21TL、及び21TBが挿入されている。組み継ぎとは、2枚の板の接合端をそれぞれ相補的な櫛歯形状に加工し、一方の櫛歯を他方の櫛歯の間に差し込んでこれらの板を接合する方式である。底面板20Uも同様に、右側面板20R、左側面板20L、及び後面板20Bとそれぞれ組み継ぎで接合され、それぞれの接合部に固定ボルト21UR、21UL、及び21UBが挿入されている。右側面板20R及び左側面板20Lと、後面板20Bとは直接固定されない。図5には、固定ボルト21TR、21TL、21TB、21UR、21UL、及び21UBにそれぞれ対応するボルト穴22TR、22TL、22TB、22UR、22UL、及び22UBも示されている。
【0018】
キャビネット200は、右側面板20Rと左側面板20Lとの間に、中板201及びストレス板202をさらに含む。中板201及びストレス板202の各々は、右側面板20R及び左側面板20Lのキャビネット200内面に前後方向に形成された溝に差し込まれることで、上下方向に移動しないように支持されている。
【0019】
前面板20Fは、中板201の下面と、底面板20U、右側面板20R、及び左側面板20Lのキャビネット200内面と、に形成された溝に差し込まれることで、前後方向に移動しないように固定されている。
【0020】
キャビネット200は、中板201、上面板20T、右側面板20R、及び左側面板20Lで囲まれた空間に、バッフル板203をさらに含む。バッフル板203の中央には大きな貫通孔が形成されており、この貫通孔にスピーカーユニット100が挿入された状態でバッフル板203の前面にスピーカーユニット100のフレーム101が固定されている。バッフル板203及びスピーカーユニット100は、中板201の上面と、上面板20T、右側面板20R、及び左側面板20Lのキャビネット200内面と、に形成された溝に差し込まれることで、前後方向に移動しないように固定されている。これにより、キャビネット200は振動板110の前面側を外気に接触させ、後面側の空間を閉じるようにスピーカーユニット100を搭載する。
【0021】
中板201、上面板20T、右側面板20R、及び左側面板20Lで囲まれたキャビネット200の開口は、バッフル板203及びスピーカーユニット100によって塞がれる。後面板20Bには小さな貫通孔が形成されるが、その貫通孔はスピーカーユニット100のボイスコイル111に電気信号を流すための導電線120を貫通させることによってほぼ塞がれる。また後述のように前面板20F、左側面板20L、及び上面板20Tにも貫通孔が形成されるが、それらの貫通孔はそれぞれボルトによって塞がれる。そこで、キャビネット200は、次に説明する吸気弁220を介して空気が出入りすることがある他は、ほぼ密閉状態となっている。
【0022】
3.吸気弁220
吸気弁220は、貫通孔221と、弁体224と、規制部材225と、を含む。貫通孔221は、底面板20Uに形成されている。貫通孔221は、最小径を有する部分222と、最小径を有する部分222から上に向かって漏斗状に拡大した径を有する拡大部223と、を含む。
【0023】
弁体224は、球形の発泡樹脂であり、貫通孔221の最小径より大きい直径を有する。弁体224は最小径を有する部分222の上に置かれ、貫通孔221を塞ぐことができる。このときの弁体224の位置を第1位置とする。拡大部223は、弁体224の少なくとも一部を収容し、重力に引っ張られた弁体224を第1位置に導く。キャビネット200の外側から最小径を有する部分222を介して弁体224にかかる第1の圧力よりも、キャビネット200の内側から弁体224にかかる第2の圧力が小さい場合(負圧)、この圧力の差に起因して、弁体224には重力と反対方向の押圧力がかかる。押圧力が弁体224にかかる重力を超えたとき、吸気弁220は開弁する。
【0024】
規制部材225は、1本の細棒で構成され、この細棒の両端はそれぞれ右側面板20Rと左側面板20Lとに形成された差し込み穴に挿入されて固定されている。規制部材225は弁体224よりも上に位置し、弁体224が弁体224にかかる重力に抗して第1位置からずれた第2位置に移動することを許容するが、第2位置より上方には移動させないようになっている。第1位置にある弁体224は図1に実線の円で示され、第2位置にある弁体224は図1に一点鎖線の円で示されている。
【0025】
弁体224の直径は、10mm以上60mm以下であり、さらに望ましくは15mm以上30mm以下である。弁体224の質量は、50mg以上500mg以下であり、さらに望ましくは100mg以上400mg以下である。第1位置と第2位置との距離は、0.5mm以上2.5mm以下であり、さらに望ましくは1.0mm以上1.5mm以下である。
【0026】
第1位置と第2位置との距離が短く制限されることで、吸気弁220の開弁時の開口面積は小さいものとなり得る。しかし、スピーカーユニット100の振動板110が電気信号に応じて前方へ移動するとき、吸気弁220からの空気の流入を可能とすることで、振動板110が力強く前方へ移動することができる。これにより、本来の力強さを損なうことなく音声を出力できる。
【0027】
また、負圧時以外は吸気弁220を閉状態とし、密閉型スピーカーとして動作させることができる。特に、第1位置と第2位置との距離が短く制限されているので、弁体224が第2位置から第1位置に戻る動作が迅速に行われる。
【0028】
但し、密閉型スピーカーとは言っても、完全な密閉ではない。吸気弁220からキャビネット200内部に空気が流入した後、直ちに同量の空気がキャビネット200外部に排出されるわけではないが、やがて排出される。
【0029】
例えば、弁体224が第1位置にあるときに、拡大部223と弁体224との非常に小さい隙間から少しずつ空気が排出されることがあってもよい。
【0030】
あるいは、吸気弁220以外にキャビネット200の内外を接続する小さな空気流路があってもよく、そのような空気流路から少しずつ空気が排出されることがあってもよい。
【0031】
吸気弁220は1つである場合に限られず、同様の吸気弁220が複数設けられてもよい(図2参照)。複数の吸気弁220のうちのいくつかは、共通の規制部材225を含んでもよい。複数の吸気弁220に含まれる貫通孔221のうちのいくつかは、他の貫通孔221と異なる最小径を有してもよい。複数の吸気弁220に含まれる弁体224のうちのいくつかは、他の弁体224と異なる大きさ又は質量を有してもよいし、第1位置と第2位置との距離が異なっていてもよい。また、複数の吸気弁220の開弁圧力が同じであったとしても、吸気弁220が設けられる場所によって、例えば振動板110からの距離によって、振動板110の振動の影響の受けやすさが異なる場合があり得る。このように複数の吸気弁220の特性にばらつきを持たせることにより、負圧が大きいときは流量を大きくする一方、負圧があっても小さいときは開弁する吸気弁220の数を小さくして密閉型に近いスピーカー1とすることができる。
【0032】
4.第1及び第2のテンションボルト230及び240
4-1.第1のテンションボルト230
前面板20Fと後面板20Bとの間に配置され、前面板20Fと後面板20Bとを外方に押圧する第1のテンションボルト230について説明する。
【0033】
前面板20Fに形成された貫通孔に、キャビネット200の内側からフランジ付きナット231が差し込まれて前面板20Fに固定される。前面板20Fに対するフランジ付きナット231の固定は、フランジ付きナット231のフランジを貫通して前面板20Fにねじ込まれるネジによってもよいが、本発明者が試作して第1のテンションボルト230による大きなテンションを掛けたところ、フランジ付きナット231と前面板20Fとの間に隙間が生じてネジが外れてしまうことがあった。そこで、フランジ付きナット231のフランジと、キャビネット200の外側に配置したワッシャー232と、で前面板20Fを挟み、これらを貫通する貫通ボルト234に締め付けナット235を掛けて締め付けることが望ましい。
【0034】
第1のテンションボルト230は、フランジ付きナット231にねじ込まれることで前面板20Fに支持される。第1のテンションボルト230は、前方の端部に六角穴236が形成されており、この六角穴236に六角レンチを差し込んで回転させることで、フランジ付きナット231に対する第1のテンションボルト230の前後方向の位置を調整することができる。第1のテンションボルト230の後方の端部は半球状の形状を有し、第1のテンションボルト230をフランジ付きナット231に対して後方に移動させたときに、後述の金属鉢250及びストレス板202を介して後面板20Bを後方に押圧する。第1のテンションボルト230が後面板20Bを後方に押圧すると、反作用で第1のテンションボルト230が前面板20Fを前方に押圧する。
【0035】
第1のテンションボルト230には、2つの六角ナットで構成されるブレーキナット233が掛けられている。ブレーキナット233は、第1のテンションボルト230をフランジ付きナット231に対して前方に移動させてテンションを緩めるときの第1のテンションボルト230の限界位置を示す。ここでいう限界位置とは、第1のテンションボルト230によって後面板20Bに与えられるテンションが最小となり、テンションがそれ以上緩くはならない位置をいう。ブレーキナット233がフランジ付きナット231に当たると、それ以上は第1のテンションボルト230が前方に移動できなくなる。仮に第1のテンションボルト230を限界位置より前方に移動させても、第1のテンションボルト230の後方の端部が金属鉢250から離れてしまい、テンションがそれ以上緩くはならない。
【0036】
第1のテンションボルト230によってテンションが与えられる後面板20Bは、右側面板20R及び左側面板20Lに対して直接固定されるのではなく、上面板20T及び底面板20Uに対して組み継ぎ及びボルトを用いて固定されている。従って、第1のテンションボルト230によって後面板20Bにテンションをかけたときに、後面板20Bは左右方向の軸周りに、板ばねのように撓むことができる。このため、テンションの調整しろを大きくとることができる。
【0037】
4-2.第2のテンションボルト240
右側面板20Rと左側面板20Lとの間に配置され、右側面板20Rと左側面板20Lとを外方に押圧する第2のテンションボルト240について説明する。
【0038】
左側面板20Lに形成された貫通孔に、キャビネット200の内側からフランジ付きナット241が差し込まれている。さらに、フランジ付きナット241のフランジとワッシャー242とで左側面板20Lを挟み、これらを貫通する貫通ボルト244を締め付けナット245で締め付けることでフランジ付きナット241が左側面板20Lに固定される。
【0039】
フランジ付きナット241に、第2のテンションボルト240がねじ込まれている。第2のテンションボルト240は、左方の端部に六角穴246が形成されている。第2のテンションボルト240の右方の端部は半球状の形状を有し、第2のテンションボルト240をフランジ付きナット241に対して右方に移動させたときに、第2のテンションボルト240は右側面板20Rと左側面板20Lとを外方に押圧できる。
【0040】
第2のテンションボルト240には、2つの六角ナットで構成されるブレーキナット243が掛けられている。
【0041】
第2のテンションボルト240によってテンションが与えられる右側面板20R及び左側面板20Lは、前面板20F及び後面板20Bに対して直接固定されるのではなく、上面板20T及び底面板20Uに対して組み継ぎ及びボルトを用いて固定されている。従って、第2のテンションボルト240によって右側面板20R及び左側面板20Lにテンションをかけたときに、右側面板20R及び左側面板20Lは前後方向の軸周りに、板ばねのように撓むことができる。このため、テンションの調整しろを大きくとることができる。他の点については、第2のテンションボルト240は第1のテンションボルト230と同様である。
【0042】
5.金属鉢250及び260
キャビネット200の内部であってストレス板202と第1のテンションボルト230との間に、金属鉢250が配置されている。金属鉢250は半球状、カップ状、ボウル状、その他の凸面と凹面とを有する回転体の形状を有しており、その凸面のうちの回転対称軸上の箇所がストレス板202の前方の端部に固定されている。ビス252が、金属鉢250の凹面側から金属鉢250を貫通してストレス板202にねじ込まれてもよい。また、金属鉢250の凹面のうちの回転対称軸上の箇所が第1のテンションボルト230の後方の端部によって押圧されている。これにより、金属鉢250は、ストレス板202と第1のテンションボルト230との間に挟まれた状態で固定されている。
【0043】
金属鉢250には前面板20Fの振動が第1のテンションボルト230を介して伝達されるほか、右側面板20R及び左側面板20Lの振動がストレス板202を介して伝達される。また、金属鉢250には後面板20Bの振動もストレス板202を介して伝達される。
【0044】
キャビネット200の内部であって中板201の上に、金属鉢250と異なる固有振動数を有する金属鉢260が配置されている。金属鉢260は半球状、カップ状、ボウル状、その他の凸面と凹面とを有する回転体の形状を有しており、その凸面のうちの回転対称軸上の箇所が中板201の上面に接し、凹面のうちの回転対称軸上の箇所が上面板20Tにねじ込まれて貫通した固定ビス261に押圧されている。これにより、金属鉢260は、中板201と固定ビス261との間に挟まれた状態で固定されている。
【0045】
金属鉢260には右側面板20R及び左側面板20Lの振動が中板201を介して伝達されるほか、上面板20Tの振動が固定ビス261を介して伝達される。他の点については、金属鉢260は金属鉢250と同様である。
【0046】
6.作用
(1)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
電気信号に応じて振動する振動板110を含むスピーカーユニット100と、
スピーカーユニット100を搭載するキャビネット200と、
を含み、キャビネット200の内部に、金属鉢250又は260が配置されている。
キャビネット200の内部に金属鉢250又は260を配置すると、キャビネット200内部で反響した音が、金属鉢250又は260に多方向から入射する。これにより、金属鉢250又は260に雑音を吸収させてキャビネット200の外部に出る雑音を効果的に抑制する一方、金属鉢250又は260を励振することで澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。なお実施形態においては密閉型のスピーカー1について説明したが、本発明は密閉型のスピーカーに限定されない。例えば、バスレフ型のスピーカーでも同様の効果を奏し得る。
【0047】
(2)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
キャビネット200に支持され、金属鉢250の凹面側から金属鉢250に接する第1のテンションボルト230(第1部材)と、
キャビネット200に支持され、金属鉢250の凸面側から金属鉢250に接するストレス板202(第2部材)と、
をさらに含み、金属鉢250は、第1部材及び第2部材に挟まれた状態で固定される。
あるいは、本発明の実施形態によるスピーカー1は、
キャビネット200に支持され、金属鉢260の凹面側から金属鉢260に接する固定ビス261(第1部材)と、
キャビネット200に支持され、金属鉢260の凸面側から金属鉢260に接する中板201(第2部材)と、
をさらに含み、金属鉢260は、第1部材及び第2部材に挟まれた状態で固定される。
これによれば、キャビネット200の振動が金属鉢250又は260の凹面側と凸面側との両方から金属鉢250又は260に伝達される。こうして金属鉢250又は260にキャビネット200の振動を効果的に伝達することで雑音を抑制し、澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。
【0048】
(3)本発明の実施形態によるスピーカー1において、
第1のテンションボルト230(第1部材)はキャビネット200の前面板20F(第1の壁面)に支持され、
ストレス板202(第2部材)はキャビネット200の右側面板20R及び左側面板20L(第2の壁面)に支持される。
あるいは、本発明の実施形態によるスピーカー1において、
固定ビス261(第1部材)はキャビネット200の上面板20T(第1の壁面)に支持され、
中板201(第2部材)はキャビネット200の右側面板20R及び左側面板20L(第2の壁面)に支持される。
これによれば、キャビネット200の第1の壁面の振動が金属鉢250又は260の凹面側から金属鉢250又は260に伝達され、第2の壁面の振動が金属鉢250又は260の凸面側から金属鉢250又は260に伝達される。こうしてさらに雑音を抑制し、澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。
【0049】
(4)本発明の実施形態によるスピーカー1において、
第1部材は、前面板20F(第1の壁面)にテンションを付与する第1のテンションボルト230を含む。
これによれば、第1のテンションボルト230によってテンションを付与された第1の壁面の振動を、第1のテンションボルト230を介して金属鉢250に伝達することにより、雑音を抑制し、澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。
【0050】
(5)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
右側面板20R及び左側面板20L(第2の壁面)にテンションを付与する第2のテンションボルト240をさらに含む。
これによれば、第2のテンションボルト240によってテンションを付与された第2の壁面の振動を金属鉢260に伝達することにより、雑音を抑制し、澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。
【0051】
(6)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
電気信号に応じて振動する振動板110を含むスピーカーユニット100と、
スピーカーユニット100を搭載するキャビネット200と、
を含み、キャビネット200の内部に、固有振動数の異なる複数の金属鉢250及び260が配置されている。
これによれば、キャビネット200の内部に固有振動数の異なる複数の金属鉢250及び260が配置されることにより、互いに異なる周波数帯において雑音を抑制し、澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。
【0052】
(7)本発明の実施形態によるスピーカー1は、
キャビネット200の前面板20F(第1の壁面)に支持され、複数の金属鉢250及び260のうちの金属鉢250(第1の金属鉢)の凹面側から第1の金属鉢に接する第1のテンションボルト230(第1部材)と、
キャビネット200の右側面板20R又は左側面板20L(第2の壁面)に支持され、第1の金属鉢の凸面側から第1の金属鉢に接するストレス板202(第2部材)と、
キャビネット200の上面板20T(第3の壁面)に支持され、複数の金属鉢250及び260のうちの金属鉢260(第2の金属鉢)の凹面側から第2の金属鉢に接する固定ビス261(第3部材)と、
キャビネット200の左側面板20L又は右側面板20R(第4の壁面)に支持され、第2の金属鉢の凸面側から第2の金属鉢に接する中板201(第4部材)と、
をさらに含む。
第1の金属鉢は、第1部材及び第2部材に挟まれた状態で固定され、
第2の金属鉢は、第3部材及び第4部材に挟まれた状態で固定される。
これによれば、キャビネット200の第1の壁面の振動が金属鉢250の凹面側から金属鉢250に伝達され、第2の壁面の振動が金属鉢250の凸面側から金属鉢250に伝達される。また、キャビネット200の第3の壁面の振動が金属鉢260の凹面側から金属鉢260に伝達され、第4の壁面の振動が金属鉢260の凸面側から金属鉢260に伝達される。こうして金属鉢250及び260にキャビネット200の振動を効果的に伝達することで雑音を抑制し、澄んだ音をキャビネット200の外部に放出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5