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▶ 池田食研株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054049
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】風味付与剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20240409BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240409BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20240409BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L27/00 C
A23L27/10 Z
A23L27/50 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022169502
(22)【出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹尻 崇人
【テーマコード(参考)】
4B039
4B047
【Fターム(参考)】
4B039LB14
4B039LC06
4B047LB03
4B047LB09
4B047LG15
4B047LG23
4B047LG37
4B047LG42
4B047LG59
4B047LG60
4B047LG64
4B047LP01
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】 本発明は、植物性原料由来である風味付与剤及びその製造方法、並びに該風味付与剤を含む飲食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 植物素材を加熱して発生させた煙を昆布エキスに通気することで、該昆布エキスを有効成分とする風味付与剤が得られることを見出し、本発明を完成した。また、該風味付与剤を使用することで、鰹節様の風味を有する液体調味料を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物素材を加熱して発生させた煙を通気した昆布エキスを有効成分とする風味付与剤。
【請求項2】
植物素材が燻製材である、請求項1記載の風味付与剤。
【請求項3】
鰹節様風味付与用である、請求項1又は2記載の風味付与剤。
【請求項4】
植物素材を加熱して発生させた煙を昆布エキスに通気することを特徴とする風味付与剤の製造方法。
【請求項5】
植物素材が燻製材である、請求項4記載の風味付与剤の製造方法。
【請求項6】
鰹節様風味付与用の風味付与剤の製造方法である、請求項4又は5記載の風味付与剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載の風味付与剤を含む、飲食品。
【請求項8】
請求項1又は2記載の風味付与剤を含む、鰹節様風味液体調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は風味付与剤及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、燻煙を利用した各種調味料が開発されており、例えば、特許文献1には、スモーク成分を魚介類エキスに吸収させて製造するエキス調味料が開示されている。一方、近年、健康維持、動物愛護、環境保全等への意識の高まりと共に、動物性原料を植物性原料に代替した植物性食品のニーズが高まっており、出汁についても、植物性原料由来でありながら、動物性原料由来のような風味を有するものが求められている。
【0003】
特許文献2には、動物性原料を含まないカツオ節様香気組成物として、トリメチルアミンまたはその塩類と燻煙香料とを、特定の割合で水の共存下で反応させることを特徴とする、カツオ節様香気組成物の製造法が開示されているが、トリメチルアミンは急性経口毒性が区分4とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-107769号公報
【特許文献2】特開昭48-035066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物性原料由来である風味付与剤及びその製造方法、並びに該風味付与剤を含む飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、植物素材を加熱して発生させた煙を昆布エキスに通気することで、該昆布エキスを有効成分とする風味付与剤が得られることを見出し、本発明を完成した。また、該風味付与剤を使用することで、鰹節様の風味を有する液体調味料を提供できる。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]の態様に関する。
[1]植物素材を加熱して発生させた煙を通気した昆布エキスを有効成分とする風味付与剤。
[2]植物素材が燻製材である、[1]記載の風味付与剤。
[3]鰹節様風味付与用である、[1]又は[2]記載の風味付与剤。
[4]植物素材を加熱して発生させた煙を昆布エキスに通気することを特徴とする風味付与剤の製造方法。
[5]植物素材が燻製材である、[4]記載の風味付与剤の製造方法。
[6]鰹節様風味付与用の風味付与剤の製造方法である、[4]又は[5]記載の風味付与剤の製造方法。
[7][1]又は[2]記載の風味付与剤を含む、飲食品。
[8][1]又は[2]記載の風味付与剤を含む、鰹節様風味液体調味料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、植物性原料由来である風味付与剤が得られ、該風味付与剤を使用することで、燻香を付与でき、鰹節様の風味を有する液体調味料を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の風味付与剤は、植物素材を加熱して発生させた煙を通気した昆布エキスを有効成分とし、植物素材を加熱して発生させた煙を昆布エキスに通気することで得られる。また、該風味付与剤を含むことで、鰹節様風味液体調味料を調製できる。
【0010】
本発明に記載の昆布エキスは、利尻昆布、日高昆布(三石昆布)、真昆布、羅臼昆布、細目昆布、長昆布(浜中昆布)等の昆布の抽出物であれば特に限定されず、2種以上の昆布を組み合わせてもよく、市販の昆布エキスを利用できる。昆布エキスは一般的な方法で得ることができ、例えば、そのままの形状の海藻、細切処理又は粉砕処理した昆布を、溶媒中で抽出することができ、溶媒は水でも、エタノールを含む溶媒でもよく、エタノール濃度5~95重量%又は10~80重量%の水溶液が例示できる。溶媒と海藻との比率は特に限定されないが、海藻1重量部に対して溶媒が0.5~100重量部が好ましく、1~50重量部がより好ましく、2~20重量部がさらに好ましい。抽出温度は、10~120℃が好ましく、15~100℃がより好ましく、20~90℃がさらに好ましい。抽出時間は、1分間~24時間が好ましく、2分間~12時間がより好ましく、5分間~5時間がさらに好ましく、10分間~2時間が特に好ましい。抽出は、常圧条件下、加圧条件下の何れでもよく、還流抽出でもよい。昆布原料と液部との分離は、不織布、フィルター等によるろ過、遠心分離等により分離し、液部を回収できる。熱水で抽出した昆布エキスとエタノール水溶液で抽出した昆布エキスとを混合した昆布エキスを使用してもよい。
【0011】
本発明に記載の加熱する植物素材は、特に限定されず、サクラ、ブナ、ナラ、オニグルミ、クヌギ、リンゴ、カエデ等の燻製剤、豆類、穀類、果物、コーヒー等から適宜選択でき、二種類以上を使用してもよいが、燻製剤が好ましい。植物素材の使用量は特に限定されないが、昆布エキス1重量部に対して、0.05~5重量部が好ましく、0.1~4重量部がより好ましく、0.2~2重量部がさらに好ましい。
【0012】
本発明において、植物素材を加熱して煙を発生させる方法としては、一般的な燻煙発生方法で行うことができ、特に限定されないが、植物素材を加熱する温度は、煙が発生する温度に適宜設定でき、100℃~2,000℃が好ましく、150℃~1,000℃がより好ましく、200℃~600℃がさらに好ましく、公知の燻煙発生装置を使用してもよい。
【0013】
発生させた煙を昆布エキスに通気する方法としては、特に限定されず、発生させた煙を、配管、ポンプ等を使用して移送し、タンク中の昆布エキスに通気すればよい。通気時間は好ましい燻香が付与できるように適宜設定できるが、例えば2分~120分間が好ましく、5分~60分間がより好ましい。
【0014】
本発明に記載の風味付与剤は、植物素材を加熱して発生させた煙を昆布エキスに通気することで得られ、燻香を有し、風味付与剤として飲食品に風味を付与することができ、鰹節様風味付与用として使用するのが好ましい。
【0015】
本発明の風味付与剤は、天然物由来で、優れた風味及び旨味を有しているため、一般的なだしと同様に各種調味料やその他の飲食品に広く利用できる。各種調味料やその他の飲食品に添加することにより、燻香等の風味を付与することで、動物性原料を加えることなく、動物性原料由来のような風味を付与することができ、例えば、しょう油、みりん、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム等を含む調味液と混合することで、鰹節様の風味を有する、鰹節様風味液体調味料を調製できる。各飲食品への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.01~30%、より好ましくは0.05~20%、さらに好ましくは0.1~10%である。
【実施例0016】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例0017】
ウッドチップ(オニグルミ)10gを300℃~425℃にて加熱して発生させた燻煙を、チューブとポンプを使用して、熱水抽出した昆布エキス(固形分40%、池田糖化工業株式会社製)120gに、2分間通気することを繰り返し、合計約12分間通気することにより、燻香が付与された実施品1の昆布エキスを得た。尚、ウッドチップは、合計60gを使用した。得られた昆布エキスは、旨味と共に燻香を有し、さらに熱水抽出した鰹節エキスにみられる様な後伸びのある香りを有しており、鰹節様の風味を有する昆布エキスだった。
【0018】
[評価試験1]
実施品1を0.5%含む液体調味料(麺つゆ(実施品))を、表1記載の割合で調製し、訓練された4名のパネラーにより、燻香、鰹節エキスにみられる様な後伸びのある香り及び麺つゆとしての総合評価について、官能評価を実施した。また、実施例1で使用した通気前の昆布エキス0.5%を使用して調製した液体調味料を比較品とし、鰹節エキスにみられる様な後伸びのある香り及び麺つゆとしての総合評価を行った。実施品1の代わりに水0.5%を使用して調製したブランクの評価を「0」とし、実施品1の代わりに鰹節エキス(Brix28%、池田糖化工業株式会社製)0.5%を使用して調製した鰹節風味の麺つゆの評価を「4」として、各液体調味料を4段階で評価し、各パネラーの数値を平均して結果を表2に示した。数値が2.0未満を「×:麺つゆとは言えない」、2.0以上3.0未満を「△:麺つゆではあるが、鰹節様風味とは言えない」、3.0以上4.0未満を「○:鰹節様風味の麺つゆとして遜色なし」、4.0を「◎:鰹節風味の麺つゆと同等以上」として、結果を表2に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
実施品1の昆布エキスを使用して調製した実施品の液体調味料は、燻香の数値は、鰹節風味の麺つゆと同じ最大値の4となったが、パネラー全員が、鰹節風味の麺つゆの燻香よりも実施品の燻香の方が強いという感想だった。通気前の昆布エキスを使用した比較品では、鰹節用の風味を付与することはできなかったが、実施品は、鰹節エキスにみられる様な後伸びのある香り及び麺つゆとしての総合評価の両方で、鰹節様風味の麺つゆとして遜色ない評価であり、実施例1に記載の方法で通気した昆布エキスを配合することで、鰹節様風味を付与できることが分かった。
【実施例0022】
熱水抽出した昆布エキスの代わりに、エタノール抽出した昆布エキス(Brix15%、40.9%(v/v)エタノール含有、池田糖化工業株式会社製)を使用する以外は、実施例1と同様に実施し、燻香が付与された実施品2の昆布エキスを得た。該昆布エキスは、旨味と共に燻香を有し、さらにアルコール抽出した鰹節エキスにみられる様な先味の強い香りを有しており、鰹節様の風味を有する昆布エキスだった。
【実施例0023】
熱水抽出した昆布エキスの代わりに、熱水抽出した昆布エキス(Brix40%)60gとエタノール60gとの混合品を使用する以外は、実施例1と同様に実施し、燻臭が付与された実施品3の昆布エキスを得た。該昆布エキスは、旨味と共に燻香とを有し、さらにアルコール抽出した鰹節エキスにみられる様な先味の強い香りを有しており、鰹節様の風味を有する昆布エキスだった。