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特開2024-54060電気化学的エネルギー貯蔵デバイス用の、ナノダイヤモンドで強化されたナノファイバーセパレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054060
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】電気化学的エネルギー貯蔵デバイス用の、ナノダイヤモンドで強化されたナノファイバーセパレーター
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20240409BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240409BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240409BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240409BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240409BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240409BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240409BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20240409BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240409BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240409BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/414
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M50/491
H01M50/489
H01M50/426
H01M10/052
D04H1/728
H01G11/52
H01G11/84
H01M50/434
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/403 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】44
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055158
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】63/413070
(32)【優先日】2022-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月13日に、下記アドレスのウェブサイトにおいて発表した。 https://ecs.confex.com/ecs/242/meetingapp.cgi/Paper/165376 また、令和4年10月12日に、アメリカ電気化学会主催の242nd ECS Meetingにて公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】505477235
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】ナーラ アシュレイ
(72)【発明者】
【氏名】フゥ ウェンビン
(72)【発明者】
【氏名】ターチェニック コスティアント
(72)【発明者】
【氏名】グレブ ユーシン
(72)【発明者】
【氏名】久米 篤史
【テーマコード(参考)】
4L047
5E078
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4L047AA18
4L047AA26
4L047AA29
4L047AB02
4L047AB08
4L047CC14
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA09
5E078CA12
5H021CC01
5H021EE02
5H021EE10
5H021EE21
5H021HH01
5H021HH03
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM09
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ04
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA19
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】改良されたセパレーター材料および電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示は、負極および正極を電気的に分離する多孔質セパレーターメンブレンと、負極、正極、および多孔質セパレーターメンブレンにおける細孔を充填し、かつ負極と正極をイオンを介して接続する電解質とを有するLiイオン電池、ポリマーおよびナノダイヤモンド(ND)を有する多孔質セパレーターメンブレン、ならびにそれを使用する方法および生成する方法を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、
正極と、
前記負極および前記正極を電気的に分離する多孔質セパレーターメンブレンと、
前記負極、前記正極、および前記多孔質セパレーターメンブレンにおける細孔を充填し、且つ前記負極と前記正極とをイオンを介して接続する電解質とを備え、
前記多孔質セパレーターメンブレンはポリマーおよびナノダイヤモンド(ND)を含む、Liイオン電池。
【請求項2】
前記ポリマーはナノファイバーの形態である請求項1に記載のLiイオン電池。
【請求項3】
前記ナノファイバーは200~990nmの範囲の平均径を有する、請求項2に記載のLiイオン電池。
【請求項4】
前記NDは粉末の形態で前記ナノファイバー中に分散している請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項5】
前記正極は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、およびリン酸鉄リチウム(LFP)からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項6】
前記多孔質セパレーターメンブレンは40~90体積%の範囲の多孔度を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項7】
前記多孔質セパレーターメンブレンの厚さは1~40ミクロンの範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項8】
前記ポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)(HFP)、およびポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)コポリマーからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項9】
前記NDは、ポリプロピレングリコール(PPG)鎖を含む表面修飾基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項10】
前記表面修飾基は前記PPG鎖を含むシランカップリング剤に由来する構造を有する、請求項9に記載のLiイオン電池。
【請求項11】
前記NDは下記式(1)で示される構造を有する、請求項10に記載のLiイオン電池。
-Si-PPG-CH3 (1)
[式(1)中、Siから左に延びる結合手はNDに直接的または間接的に結合する]
【請求項12】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は0.1~40質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載のLiイオン電池。
【請求項13】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は0.1~1質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載のLiイオン電池。
【請求項14】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は1~5質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載のLiイオン電池。
【請求項15】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は5~10質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載のLiイオン電池。
【請求項16】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は10~20質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項17】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は20~40質量%の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載のLiイオン電池。
【請求項18】
ポリマーおよびナノダイヤモンド(ND)を含むナノファイバーを備え、前記NDは前記ナノファイバー中に均一に分散している、多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項19】
前記ナノファイバーが200~990nmの範囲の平均径を有する、請求項18に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項20】
40~90体積%の範囲の多孔度を有する、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項21】
前記多孔質セパレーターメンブレンの厚さは1~40ミクロンの範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項22】
前記ポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)(HFP)、およびポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)コポリマーからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項23】
前記NDは、ポリプロピレングリコール(PPG)鎖を含む表面修飾基を有する、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項24】
前記表面修飾基は前記PPG鎖を含むシランカップリング剤に由来する構造を有する、請求項23に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項25】
前記シランカップリング剤は下記式(1)で示される構造を有する、請求項24に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
-Si-PPG-CH3 (1)
[式(1)中、Siから左に延びる結合手はNDに直接的または間接的に結合する]
【請求項26】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は0.1~40質量%の範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項27】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は0.1~1質量%の範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項28】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は1~5質量%の範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項29】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は5~10質量%の範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項30】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は10~20質量%の範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項31】
前記多孔質セパレーターメンブレン中の前記NDの質量百分率は20~40質量%の範囲内である、請求項18または19に記載の多孔質セパレーターメンブレン。
【請求項32】
NMP溶媒中でナノダイヤモンド(ND)およびポリマーを混合することにより混合ポリマーゲルを調製する工程であり、前記工程において、ポリプロピレングリコール(PPG)およびシランカップリング剤を共にボールミルを用いてNDを表面修飾して表面修飾基を有するNDを提供し、前記NDをポリマーゲル中に均一に分散させる工程と、
前記混合ポリマーゲルを電界紡糸してナノファイバーを生成する工程とを備える、多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項33】
前記NDは前記ナノファイバー中に均一に分散している、請求項32に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項34】
前記ナノファイバーは200~990nmの範囲の平均径を有する、請求項33に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項35】
前記多孔質セパレーターメンブレンは40~90体積%の範囲の多孔度を有する、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項36】
前記多孔質セパレーターメンブレンの厚さは1~40ミクロンの範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項37】
前記多孔質セパレーターメンブレンは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)(HFP)、およびポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)コポリマーからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項38】
前記シランカップリング剤は下記式(2)で表される構造を有する、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
3-Si-PPG-CH3 (2)
[式(2)中、Rは、同一または異なってアルコキシ基を示す]
【請求項39】
前記多孔質セパレーターメンブレン中のNDの質量百分率は0.1~40質量%の範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項40】
前記多孔質セパレーターメンブレン中のNDの質量百分率は0.1~1質量%の範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項41】
前記多孔質セパレーターメンブレン中のNDの質量百分率は1~5質量%の範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項42】
前記多孔質セパレーターメンブレン中のNDの質量百分率は5~10質量%の範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項43】
前記多孔質セパレーターメンブレン中のNDの質量百分率は10~20質量%の範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【請求項44】
前記多孔質セパレーターメンブレン中のNDの質量百分率は20~40質量%の範囲内である、請求項32~34のいずれか1項に記載の多孔質セパレーターメンブレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、エネルギー貯蔵デバイス、ならびに、例えば電池技術、およびスーパーキャパシタ技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
その比較的高いエネルギー密度、比較的高い特定のエネルギー、比較的高い特定の出力、比較的高速な充電、軽量性、ならびに長寿命およびサイクル寿命の潜在性等の影響もあり、進化した再充電可能電池および電気化学キャパシタは、電子デバイス、電気自動車、グリッド貯蔵および他の重要な用途の広い範囲において望まれている。
【0003】
しかし、電気化学的エネルギー貯蔵技術の工業的普及が高まっているにも関わらず、特に、低エミッションまたはゼロエミッション、ハイブリッド電気自動車または完全な電気自動車、家電、エネルギー効率のよい貨物船および機関車、航空宇宙用途、および送電網における潜在用途用の電池および電気化学キャパシタのさらなる開発が求められている。さらなる改良は、再充電可能な金属および金属イオン電池(例えば再充電可能なLi金属およびLiイオン電池、再充電可能なNa金属およびNaイオン電池、再充電可能なMg金属およびMgイオン電池、再充電可能なK金属およびKイオン電池、再充電可能なCa金属およびCaイオン電池等)等の各種再充電可能電池に望まれている。下記エネルギー貯蔵デバイスも同様に、さらなる改良による利益を享受することがある。ほんの数例を挙げると、再充電可能なハロゲンイオン電池(例えばFイオンおよびClイオン電池等)、再充電可能な水性電池(例えば、中性のpHまたは酸性または苛性電解質を有する再充電可能電池)、電気化学キャパシタ(例えば、スーパーキャパシタまたは二重層キャパシタ)、ハイブリッドデバイス、再充電可能なポリマー電解質電池およびスーパーキャパシタ、再充電可能なポリマーゲル電解質電池およびスーパーキャパシタがある。
【0004】
再充電可能電池(例えば、LiおよびLiイオン電池)の多くの種類において、セパレーターメンブレンは通常、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)等のポリオレフィンから作製される(例えば特許文献1参照)。そのようなセパレーターは一般に、低い多孔度、低い湿潤性および低速なイオン伝導性という問題を有し、火事等の潜在的に悲惨な結果を引き起こす可能性がある熱誘発反応に対してうまく対処できない傾向がある。また、ポリエチレンフィルムあるいはポリプロピレンフィルムには、耐熱性に劣るだけでなく、必要とされる強度を保って薄膜化することに限界があり、制限された電池サイズを考慮すると、蓄電能力の大幅な向上は期待できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-203160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、改良されたセパレーター材料および電池の製造方法の必要性が未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付の図面は、本発明の実施形態の説明を補助するために提示され、また、実施形態の説明のために専ら提供されるものであり、それらを限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本明細書に記載されている構成要素、材料、方法、および他の技術、またはそれらの組み合わせを各種実施形態に従って適用することができる(例えば、Liイオン)電池の例を図示している。
図2】項目aからbは、ナノダイヤモンド(ND)含有ナノファイバーセパレーターの合成の好適な製造方法の例およびLiまたはLiイオン電池における従来の(例えば、PPベースの)セパレーターに対して考えられるセパレーターの利点を図示している。
図3】項目aからbは、図示されている割合のNDを組み込んでいる場合、および組み込んでいない場合の好適なポリマーのX線回折(XRD)およびフーリエ変換赤外分光法(FTIR)パターンの例を図示している。
図4】項目aからfは、図示されている1重量%および5重量%のND含有ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)セパレーターの走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)画像の例を図示している。
図5】項目aからdは、各種セパレーターメンブレンの例の熱安定性に関する試験例を図示しており、50℃から175℃(各温度で20分維持した)の各種温度に加熱した際の形状維持、示差走査熱量計(DSC)、10日間に至るまで130℃まで曝露した際のセパレーターメンブレンの形状維持、好適な条件下でのホットプレス後のND含有PVDF-HFPメンブレンの応力-ひずみプロットを示している。
図6】項目aからdは、純粋なPVDF-HFP(0重量%ND)、PVDF-HFP@1%ND(1重量%ND)およびPVDF-HFP@5%ND(5重量%ND)セパレーターメンブレンのDSCサイクルの例を図示しており、ならびに、不規則なポリマー鎖を形成するため、どのように半結晶性ポリマーがNDにより潜在的に破壊され得るかを示すグラフ表示を提供し、さらに核磁気共鳴(NMR)分光法により算出される、NDを各種質量割合で有する、図示されている電解質の充填されたPVDF-HFPメンブレンのLi+拡散係数を示す。
図7】項目aからdは、インターカレーション型リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)正極、Li金属負極および数個のセパレーター(市販Celgard 2400およびPVDF-HFP@5%NDセパレーター)を含むセルの電気化学的性能特性の例、例えば電位範囲2.8から4.4Vにおけるサイクル性能、サイクルの異なる段階での電圧プロファイル、より長期間のサイクル性能、および、2.8から4.2Vの間でC/3でのセルの電圧プロファイルを図示している。エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC)中の1M LiPF6はこれらの図示されているセル中の電解質として使用された。
図8】項目aからfは、サイクル後のPVDF-HFP@5%NDセパレーターおよび工業用PPセパレーターを有するセル由来のLi負極の上面および断面のSEM画像の例を図示している。
図9】ホットプレス前およびホットプレス後のPVDF-HFP@5%NDメンブレンのFTIRの例を図示している。
図10】130℃で250時間保存中の、市販メンブレンおよびNDベースのメンブレンの面積減少例を図示している。
図11】25℃および40℃での各種ND濃度を有するメンブレンサンプルの1H、7Liおよび19Fの拡散係数の例を図示している。
図12】市販セパレーターおよびPVDF-HFP@5%NDセパレーターを使用したセルの電圧ヒステリシスの例を図示している。
図13】走査速度が0.2mV/sでのPVDF-HFP@5%NDセパレーターを有するセルのサイクリックボルタンメトリー(CV)カーブの例、ならびに、レートがC/2での長期間のサイクルの前および後のセルのナイキストプロットの例を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の態様は、本発明の特定の実施形態に関する後述の記載および関連の図面に開示されている。用語「本発明の実施形態」は、本発明の全ての実施形態が、検討された特徴、利点、プロセス、または動作モードを含むことを要求するものではなく、別の実施形態は、本発明の範囲を逸脱せずに考案することができる。加えて、本発明の公知の要素は他の関連性の高い詳細を不明瞭にしないために、詳細に記載されていない場合や、省略されている場合がある。
【0010】
後述の記載が、簡便性および利便性のため、ならびにLi技術の現在の人気のため、LiおよびLiイオン電池の背景におけるある一例を説明し得る一方で、各種態様は他の再充電可能電池および一次電池(例えばNaイオン、Mgイオン、Kイオン、Caイオンおよび他の金属イオン電池、OH-イオンを有するアルカリ電池、混合イオン電池等)、ならびに電気化学キャパシタ(スーパーキャパシタまたは擬似キャパシタと通称される場合がある)またはハイブリッドデバイス(例えば、電池様の一つの電極および電気化学キャパシタ様のもう一つの電極を有するもの)に適用可能であり得ることは当然に理解される。
【0011】
また、後述の記載が特定のインターカレーション型活物質に属する電極活物質のある一例を説明し得る一方で、いわゆる変換型活物質または合金型活物質、いわゆる擬似容量を有する活物質、いわゆる二重層キャパシタ型活物質、ならびに混合型活物質(または活物質の構成要素)に適用可能であり得ることは当然に理解される。各種態様は、一つ以上のメカニズム(例えば、多くの他の組み合わせの中でも、セルの動作中にインターカレーションおよび変換型電気化学反応の両方を発現する活物質、またはインターカレーションおよび擬似容量の両方を発現する活物質、またはインターカレーションおよび二重層キャパシタの両方を発現する活物質)により電荷を貯蔵し得る。
【0012】
また、後述の記載が電気化学セル(電池または電気化学キャパシタ)の構成要素として、液体有機電解質のある一例を説明し得る一方で、各種態様は各種他の液体有機電解質、水性電解質、イオン性塩電解質、溶融塩電解質、ポリマー電解質、ゲル電解質、複合体電解質、およびその他に適用可能であり得ることは当然に理解される。
【0013】
電池(例えばLiイオン電池)の動作中、インターカレーション型活物質は、そのようなインターカレーション化合物の結晶性構造または不規則構造または完全アモルファス構造に存在する介在位置(例えばナノスケールまたはサブナノスケールの空隙)への/からのLiイオンの挿入(インターカレーション)および脱離(デインターカレーション)により作用する。このインターカレーション/デインターカレーションプロセスはLiでない原子(またはイオン)(例えば、遷移金属イオン)の酸化状態の変化を伴う。化学結合は通常、上記プロセス中では壊れたり再形成したりしない。Liイオンは活物質の内部/外部へ拡散する。
【0014】
電池(例えばLiイオン電池)の動作中、変換材料は一つの結晶構造からもう一つの結晶構造に変化(変換)する(従って「変換」型と呼ばれている)。(例えば、Liイオン)電池の動作中、Liイオンはリチウム合金を形成する合金型材料に挿入される(従って「合金」型と呼ばれている)。場合により、「合金」型電極材料(一般に金属および半金属)は「変換」型電極材料のサブ分類であるとされることもある。また、「合金」型電極材料は、少数の(例えば0.1から50重量%)添加剤として変換材料(例えば酸化物、水素化物、窒化物、リン化物等)の他の種類や、合金材料の機械的安定性または電気化学的安定性を高めるのを助け得る、または、脱リチウム状態(これらはインターカレーション型材料であってもよい)においてそれらの電気伝導性を高める比較的活性の低い材料(合金材料重量比容量が顕著に低い0.01%から30%で発現し得るもの)も含んでもよい。Liイオンと合金材料または変換材料との間の電気化学反応プロセスは、いくつかの元の化学結合の破壊および新たな化学結合の形成を伴う。理想的なケースでは、プロセスは幾分可逆的であり、電池動作中の活物質(またはLi)にはほんのわずかの損失しか(または全く)発生しない(例えば、好ましくは電池のライフタイムの間に30%以下)。
【0015】
後述の記載が金属イオン電池の背景におけるある一例を説明し得る一方で、本開示の各種態様の利益を享受し得る他の変換型電極は、アルカリ電池、金属水素化物電池、鉛酸電池等の広い範囲の水性電池において使用される各種化学物質を含む。これらには、限定されないが、ほんの数例を挙げると、各種金属(例えば鉄、亜鉛、カドミウム、鉛、インジウム等)、金属酸化物、金属水酸化物、金属オキシ水酸化物、および金属水素化物が含まれる。
【0016】
後述の記載が、炭素ベースのナノ粒子の背景におけるセラミックナノ粒子のある一例を説明し得る一方で、各種態様は、いくつかの具体例を挙げるだけでも、酸化物ベースまたは酸化物を含有するナノ粒子、窒化物ベースまたは窒化物を含有するナノ粒子、炭化物ベースまたは炭化物を含有するナノ粒子、フッ化物ベースまたはフッ化物を含有するナノ粒子等の他のセラミックナノ粒子の種類に適用可能であり得ることは当然に理解される。
【0017】
本明細書で使用される用語「about(約)」は、例えば、長さ、誤差の度合い、寸法、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流速、および圧力等の値、ならびにそれらの範囲等の変更を意味し、例えば、化合物、組成物、濃縮物を作るための通常の測定手順および取り扱い手順または使用形態を通じて、これらの手順における意図しない誤差を通じて、本方法を実施するのに使用する製造、原料、または出発材料または成分の純度における相違を通じて、および同様の条件を通じて発生し得る数値の振れ幅を表している。用語「about(約)」はまた、例えば、特定の初期濃度または混合物を有する組成物、構成物、またはセルカルチャーのエージングに起因して異なる量、および特定の初期濃度または混合物を有する組成物または構成物の混合または加工により異なる量を包含する。用語「about(約)」で修飾されているかを問わず、本明細書に添付の特許請求の範囲は、これらの量と同等の量を含む。用語「about(約)」は言及された参照値と同様の数値範囲をさらに表し得る。ある実施形態において、用語「about(約)」は、言及された参照値の10、9、8、7、6、5、4、3、2、1パーセント以下の範囲内を満たす数値範囲を表す。
【0018】
図1は、本明細書に記載されている構成要素、材料、方法、および他の手法、またはそれらの組み合わせを各種実施形態に従って適用可能な金属イオン(例えば、Liイオン)電池の例を図示している。円筒状の電池は図示を目的としてここに示されているが、プリズム電池またはパウチ(ラミネート型)電池を含む他種類の構成も、所望に応じて使用することができる。電池例100は、負極102、正極103、負極102と正極103の間に配置され負極102および正極103を電気的に分離するセパレーター104、セパレーター104に含浸した電解質(非表示)、電池ケース105、および電池ケース105を封止している封止材106を含む。上記電解質は、負極102、正極103、およびセパレーター104における細孔を充填し、且つ負極102と正極103とをイオンを介して接続する。
【0019】
液体電解質および固体電解質はいずれも本明細書の形態に使用することができる。この種類のLiベースの電池またはNaベースの電池用の従来の電解質は、通常、有機溶媒(カーボネートの混合物等)の混合物中に単一のLi塩またはNa塩(例えばLiイオン電池ではLiPF6、Naイオン電池ではNaPF6やNaClO4塩)で構成されている。他に利用できる一般的な有機溶媒としては、これらには限定されないが、ニトリル、スルホン、スルホキシド、リンベースの溶媒、ケイ素ベースの溶媒、エーテル、およびその他が含まれる。上記溶媒は変性させた(例えば、スルホン化またはフッ素化した)ものであってもよい。電解質はまた、イオン液体(いくつかの形態では、中性イオン液体、他の形態では、酸性および塩基性のイオン液体)も含んでいてもよい。電解質は、各種塩(例えば、再充電可能なLiおよびLiイオン電池用の数種のLi塩の混合物またはLiおよびLiでない塩の混合物)の混合物も含んでいてもよい。
【0020】
Liイオン電池の電解質で利用されている最も一般的な塩としては、例えばLiPF6が挙げられるが、あまり一般的ではないが好適な塩としては、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C242、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiBF2(C24))、各種リチウムイミド(例えばSO2FN-(Li+)SO2F、CF3SO2-(Li+)SO2CF3、CF3CF2SO2-(Li+)SO2CF3、CF3CF2SO2-(Li+)SO2CF2CF3、CF3SO2-(Li+)SO2CF2OCF3、CF3OCF2SO2-(Li+)SO2CF2OCF3、C65SO2-(Li+)SO2CF3、C65SO2-(Li+)SO265、またはCF3SO2-(Li+)SO2PhCF3、およびその他)、およびその他が挙げられる。いくつかの形態では、一つ以上のLi塩を電解質に有利に使用することができる。
【0021】
Liイオンおよびリチウム金属電池(LIB)の利点に関わらず、多くの安全上の懸念が依然残り、それらの広い範囲での適用を阻害し得る。電池の不活性構成要素であるセパレーター104は、直接的にレドックス事象に関与しないが、電池の負極と正極とを物理的に分離し、短絡を防止し、また液体電解質のリザーバとして、および電極間のLiイオン輸送ルートとして作用する。一般的に、セパレーターは電池の出力特性、ライフスパン、および最も重要とされている安全性を決定づけるのに重要な役割を果たす。従来の市販セパレーターは通常、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)等の熱可塑性ポリオレフィンで作られており、それらは大スケールで作製できるが、低い多孔度、熱安定性の不足(内部短絡を誘発し得る高温での過剰な収縮)、および高いうねりの悪影響を受ける傾向にあり、高エネルギー密度を有するセルの早期故障を引き起こす可能性がある。さらに長時間LIBをサイクルさせると、熱を引き金とした発熱の「熱暴走」反応がセル内における大きな過電圧により起き得る。これらの反応はセル中で温度の全体的な上昇をもたらす可能性があり、それは場合によっては(幸運にも稀にしか発生しない)爆発および火事をもたらすセパレーターの収縮、固体電解質界面(SEI)の破壊、そして最終的に短絡を引き起こす可能性があり、それはPEおよびPPセパレーターの比較的一般的な欠点である。Liイオンの容易な伝導によりまず過電圧を最小限にし、熱暴走の場合に熱を逃がすためのより優れた特徴(すなわち、熱的に安定で、高温での収縮を防止することができる)で補助されたセパレーターは短絡の可能性を減らし、サイクル寿命を改良し、安全性を担保することが強く望まれている。さらに、薄く、多孔性でイオン伝導性のあるセパレーターは、高エネルギー密度電極の利益を享受するために、次世代Li電池に要求されている。
【0022】
ポリマー-ナノ粒子複合体は、LIBのセパレーター用の候補として過去20年間、興味の中心とされてきた。ポリマーマトリックス(例えば、ポリ(ビニルアルコール)およびアラミド)に埋め込まれた無機または有機のナノ粒子は、複合体の機械特性、熱特性、および構造特性を改良させる傾向にある。しかし依然、短いサイクル寿命、大きなヒステリシス、および複雑な加工方法等の欠点が、報告されている複合体セパレーターの課題として未だ残っており、それらの化学的側面および工学的側面においてさらなる刷新が求められている。
【0023】
ナノダイヤモンド(ND)は高い表面積対体積比、例えば約3nmから約60nmの範囲内で調整可能な径、および表面機能付与、高弾性率、および並外れた熱伝導性を特徴とする炭素ナノ粒子の比較的調査されていないクラスであり得る。NDは、液体電解質に対する、リチウムデンドライトの成長を抑制するための添加剤として使用することができ、NDの薄膜はLi金属負極の界面を保護し得る。本開示のいくつかの実施形態は、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)および/または他のポリマーを含むナノファイバーが組み込まれたNDをベースとした、機能化された複合体セパレーター(多孔質セパレーターメンブレン。以下、「ND含有セパレーターメンブレン」や、単に「セパレーター」と称する場合がある)を提供する。ナノファイバーは、セルロースナノファイバーなどの充填材として使用される。さらなる実施形態では、ナノファイバーは、約20nmから約990nm、いくつかの形態では約20nmから約100nm、他の形態では、約100nmから約200nm、他の形態では、約200nmから約990nmの範囲の平均径を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されているセパレーターメンブレン中のナノファイバーは、約3、5、8、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、または310nmから約100、200、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、500、600、700、800、900、または990nmの平均径を有し得る。本明細書に記載されている例示的なNDに関する追加の詳細はUS2022/0064007にも開示されており、参照によってその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0024】
さらに、PVDF-HFPナノファイバーに加え、他の好適なポリマーまたはポリマーマトリックスには、これらには限定されないが、PVDFおよびそのコポリマー、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリウレタン(PU)、ポリ(ウレタンアクリレート)(PUA)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、ポリスチレン(PS)、またはポリ(スチレン-co-ブタジエン)(SBR)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ-メチル-メタクリレート(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(l-ラクチド)(PLLA)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ナイロン、アラミドおよびその変形体、セルロース、キトサン、キチンおよびそれらの誘導体等のバイオポリマーが含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されているナノファイバーは1つまたは複数の異なるポリマーを含んでいてもよい。
【0025】
さらに、ナノファイバーに加え、微細ファイバー(例えば、およそ1ミクロン超および好ましくはおよそ10ミクロン未満の径を有するもの)を、例えば上記セパレーターの機械特性を改良するために、いくつかの形態において使用することができる。
【0026】
上記多孔質セパレーターメンブレンにおいて、上記ポリマーはナノファイバーの形態であることが好ましい。また、NDは粉末の形態で上記ナノファイバー中に分散(特に、均一に分散)していることが好ましい。上記ポリマーは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン)(HFP)、およびポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)コポリマーからなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0027】
ND含有ナノファイバーベースのセパレーターの魅力的な特性をさらに確認するため、高電圧インターカレーション型LiNi0.8Mn0.1Co0.12(NMC811)正極を使用してLIBにおけるこれらのセパレーターの電気化学特性を調査した。他のインターカレーション型正極材料(例えば、層状リチウムニッケルまたはマンガン酸化物ベースの正極の他の種類、例えば、ほんの数例を挙げると、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)の各種他の種類、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、これらに限定されないが高電圧スピネル等の各種リチウムマンガン酸化物(LMO)またはリチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)および他のカンラン石ベースの正極)をいくつかの形態において使用できる。さらに、変換型正極材料および変換型負極材料も同様に利用することができる。これらのセルにおけるこれらのセパレーターの優れた性能が観測されている。
【0028】
図2は、ND含有セパレーターメンブレン製作の具体例およびいくつかのそれらの利点を示している。一つの具体例では、ND含有セパレーターメンブレンは電界紡糸(エレクトロスピニング法)により作製されている。上記NDは、ポリプロピレングリコール(PPG)鎖を含む表面修飾基を有するND(具体的には、例えばND-Si-PPG-CH3)であり、ポリプロピレングリコール(PPG)およびシランカップリング剤と共にボールミルを用いて表面修飾を行い、その後N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に分散させて均一な分散液を形成して得た。すなわち、上記NDは、PPG鎖を含むシランカップリング剤に由来する構造を有する表面修飾基を有する。上記NDは例えば下記式(1)で示される構造を有する。また、上記PPG鎖を含むシランカップリング剤は下記式(2)で示される構造を有する。なお、式(1)および(2)において、メチル基およびケイ素原子にそれぞれ結合するPPG中の原子は酸素原子である。
-Si-PPG-CH3 (1)
[式(1)中、Siから左に延びる結合手はNDに直接的または間接的に結合する]
3-Si-PPG-CH3 (2)
[式(2)中、Rは、同一または異なってアルコキシ基を示す]
【0029】
上記表面修飾基は、PPG鎖に限定されず、PPG以外の例えばポリエチレングリコール鎖等の他のポリ(オキシアルキレン)鎖を有する基、ポリグリセリン鎖を有する基等、有機鎖を含む修飾基(特に、立体障害が大きい嵩高い修飾基)が分散性に優れ好ましい。上記表面修飾基は末端に一価の有機基(例えば後述の式(3)におけるR1)を有することが好ましい。例えば、上記ポリ(オキシアルキレン)鎖を有する基はポリ(オキシアルキレン)鎖の末端が一価の有機基に封止された構造が挙げられる。
【0030】
上記有機鎖を含む修飾基としては下記式(3)で表される基が挙げられる。
-X-R1 (3)
[式(3)中、Xは連結基を示し、Xから左に伸びる結合手はNDに結合する。R1は、一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【0031】
上記式(3)中、Xは、連結基を示し、例えば、アミノ基(-NRa-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-C(=O)O-)、ホスフィン酸基(-PH(=O)O-)、ホスフォン酸基(-P(-OH)(=O)O-)、リン酸エステル(-O-P(=O)(OH)-O-)、スルフィド結合(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)-NRa-)、ウレタン結合(-RaH-C(=O)-O-)、イミド結合(-C(=O)-NRa-C(=O)-)、チオカルボニル基(-C(=S)-)、シロキサン結合(-Si-O-)、硫酸エステル基(-O-S(=O)2-O-)、スルホニル基(-S(=O)2-O-)、スルホン基(-S(=O)2-)、スルホキシド(-S(=O)-)、これらの2以上が結合した基などが挙げられる。非対称な二価の基においては、ND側およびR側に対する二価の基の方向は特に制限しない。また、上記Raは、水素原子または一価の有機基を示す。上記Raにおける一価の有機基としては、上記R1における一価の有機基として例示および説明されたものが挙げられる。
【0032】
上記R1における一価の有機基としては、例えば、置換または無置換の炭化水素基(一価の炭化水素基)、置換または無置換の複素環式基(一価の複素環式基)、上記一価の炭化水素基および/または上記一価の複素環式基が2以上結合した基などが挙げられる。上記結合した基は、直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。上記連結基としては、例えば、アミノ基、エーテル結合、エステル結合、ホスフィン酸基、スルフィド結合、カルボニル基、有機基置換アミド基、有機基置換ウレタン結合、有機基置換イミド結合、チオカルボニル基、シロキサン結合、これらの2以上が結合した基などが挙げられる。
【0033】
他の好適な表面修飾基は、これらに限定されないが、-COOH(カルボン酸)、-NH3(アミノ基)、-H(水素)、-OH(水酸基)、-ODA(オクタデシルアミン)、塩化アシル、または-F(フッ素)を含む。電界紡糸用のポリマーゲルを調製するため、DMAcおよびアセトンの混合物中にPVDF-HFPを溶解させることにより、混合溶媒中のPVDF-HFPおよびNDを調製した。ポリマーマトリックス(またはポリマー構成要素)中のND分散性の均一性を改良するために、チップ超音波処理を実施した。NDは、ポリマーマトリックスの表面上に付着している場合がある。得られたND/PVDF-HFP/N-メチル-2-ピロリドン(NMP)混合ゲルを高電圧で(この例では16kVで)アルミニウム箔上に電界紡糸し、NDが挿入されたPVDF-HFPナノファイバーの自立型不織布メンブレンを形成した。上記プロセスの好適なバリエーションのため、メンブレンを、電極の一つの表面上、またはベースのセパレーター膜の表面上に直接的に被覆することができた。今後の試験および使用のため、その後メンブレンを乾燥させ、高温プレスした。比較として、PVDF-HFP、PVDF-HFP@1%ND、およびPVDF-HFP@5%NDで表される、ND質量割合が0%、1%、および5%(ポリマーに対するNDの重量%)であるメンブレンを作製した。一般的に、PPまたはPE等の熱可塑性ポリオレフィンから作られる市販セパレーターは、近傍の正極粒子を破壊し得る鋭利なデンドライト形成に起因して、低出力特性および容量減退をもたらす低い多孔度、低い耐熱性および低速なイオン輸送の悪影響を受ける可能性がある。これらのセパレーターとは対照的に、ND含有ナノファイバーメンブレンは、ナノファイバーネットワークが、電解質の取り込みおよびLi輸送を容易とし得る、より高い多孔度およびより高速なイオンの分離拡散を可能とし得ることから、これらの困難を克服することができる。NDは、鋭利なデンドライトを形成させることなく、Li負極表面上に、Liの均一な被覆/剥離をもたらすことができる。その上、NDの硬度および熱安定性は、より広範な温度範囲内でセルが作動することを可能とする機械的安定性および熱安定性を改良することもできる。
【0034】
ND含有ナノファイバーメンブレン(またはポリマー)中におけるNDの好適な割合(質量百分率)は、所望のセパレーターメンブレンの特徴、例えば径、多孔度、強度、展延性、および/または熱安定性に応じて、約0.1重量%から約40重量%、いくつかの形態では、約0.1から約1重量%に及ぶものであってよく、他の形態では、約1から約5重量%、他の形態では、約5から約10重量%、他の形態では、約10から約20重量%、さらに他の形態では、約20から約40重量%に及ぶものであってよい。いくつかの実施形態では、割合は約0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、または20重量%から約5、10、15、20、25、30、35、または40重量%であってもよい。
【0035】
ND含有ポリマーファイバー(またはナノファイバー)セパレーターまたはセパレーター層の好適な厚さは、約1ミクロンから約40ミクロン、いくつかの形態では、約1ミクロンから約5ミクロン、他の形態では、約5ミクロンから約10ミクロン、他の形態では、約10から約20ミクロン、さらに他の形態では、約20から約40ミクロンに及ぶものであってもよい。いくつかの実施形態では、厚さは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11ミクロンから約10、15、20、25、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40ミクロンであってもよい。
【0036】
ND含有ポリマーファイバー(またはナノファイバー)セパレーターまたはセパレーター層の好適な多孔度は、密度測定または水銀ポロシメトリーまたは他の好適な手法から推測される場合、約40体積%から約90体積%に及ぶものであってもよい。
【0037】
図3は、NDで機能化されたサンプル(1重量%および5重量%の両方)のX線回折(XRD)パターンの具体例を示し、純粋なPVDF-HFPと同様であり、NDの導入は固体状態におけるポリマーのパッキングを顕著に変化させなかったことを示唆している。しかし、適用されたND濃度は、それらの特徴的な回折ピークを観察するにはあまりに低かった。メンブレンにおけるそれらの化学結合の特徴をさらに特定するため、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を実施した。PVDF-HFP(0重量%ND)および1重量%および5重量%のNDを有する複合体のFTIRスペクトルにおいて、-CF伸縮(1400cm-1)、非対称-CF2伸縮(1172cm-1)、CF3面外伸縮/変角(1072cm-1)のバンド、およびPVDF-HFPのγ相結晶性構造に由来する838、871、および1168cm-1における特徴的バンドが観測される。得られたFT-IRスペクトルは、純粋なPVDF-HFPのものと本質的に同一であり、メンブレン製作プロセスは非破壊的性質であることを示唆している。ホットプレス後、PVDFのα相に対応する613、761、795、および974cm-1における4つの伸縮位置が観測された。これは、上記で観測されたような、ホットプレス後のγからαへの間の相転移、ならびに共溶媒としてのアセトン由来の影響を示唆している可能性がある。
【0038】
図4は、径が約0.5μmである均一なファイバーから構成された不織布、多孔質メンブレンが作製されたが、NDは検出できなかったことを明らかにする電子顕微鏡画像(SEM)の具体例を示している。ファイバー中のNDおよびそれらの分散を観察しやすくするため、透過型電子顕微鏡検査(TEM)を実施した。TEM画像は、個々のNDが比較的均一にまだらに分散されており、ポリマーマトリックスに沿って凝集したND領域も存在することを示している。初期の分散液における化学的性質およびND表面(例えば、それらの表面修飾基)およびそれらの濃度のいずれも、ポリマー-ND複合体製作中のそれらの凝集において重要な役割を担う。繊維化プロセスは、径が7から40nmの範囲内であるND/それらのクラスターをもたらし、それは高解像度TEMを通じて確認することができる。比較的小さい(3から5nm)または比較的大きい(40から200nm)分散した個々のNDまたはNDクラスターは、いくつかの形態では依然好適であり得る。結晶領域は並列なパターンにより表されるポリマーファイバー中に存在し、並列線間距離は、NDの面間距離と同様である~0.204nmと算出された。NDが凝集しない複合体を形成することは困難であるが、エネルギー集約型の方法を用いて達成することができた。ポリマーマトリックス中のNDの均一な分散は、NDの表面修飾、超音波混合、および電界紡糸プロセスを経由することで達成することもできる。このように、ND分散はポリマーへの熱特性、機械特性、および電気化学特性の付与を可能とし得る。ここで留意すべきは、電界紡糸に加え、他の好適な手法としては、スプレー法、エレクトロスプレー法、電気泳動堆積法、スラリーキャスト法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、相反転法、乾式法、湿式法、メルトブロー法、メルトスピニング法、またはフォーススピニング法が挙げられるが、これらには限定されない。
【0039】
図5はメンブレンの例の熱安定性検討例を図示している。各種メンブレンを50℃から175℃に加熱し、各温度で20分間維持し、それらの熱収縮を確認した。市販品(Celgard 2400PP)および純粋なPVDF-HFPはいずれも比較的低い寸法安定性を発現し、それらはそれぞれ125℃および75℃の低い温度で収縮し始めた。NDの添加は、約100℃で収縮が始まったことから、熱特性を改良させた。PVDF-HFP@5%NDメンブレンは、PVDF-HFP@1%NDよりもはるかに良好な熱安定性を示した。製造されたメンブレンの熱特性を調査するために熱重量分析(TGA)および示差走査熱量計(DSC)が採用された。TGAにより、サンプル中のND濃度に関係なく、これらのメンブレン材料が150℃まで安定であることが明らかとなった。両サンプルの分解温度(Td)は、標準PPセパレーター(130℃)の分解温度よりもはるかに高く、プロセス中ならびに電気化学セル中のこれらのメンブレンのより強い耐熱性を示唆している。DSCデータにより、複合体メンブレンにおけるND濃度の上昇は、ポリマーにより高い融点(Tm)をもたらしたことが明らかになった。確かに、5重量%ND含有セパレーターの最も高いTmは156℃を示し、130℃で長時間寸法的に安定であった。これは130℃で10日間ポリマーメンブレンを加熱することにより観測され、面積は一定の間隔において算出された。5重量%NDを有するメンブレンは、125℃で事実上収縮することなく、顕著に強化された寸法安定性を有した。これに対して、工業用PPセパレーターは高温に耐えることができず、それらは約120℃で収縮し始めた。開発された5重量%ND-PVDF-HFP複合体メンブレンは、高温でのセパレーターの熱収縮により引き起こされる短絡に起因するセル不良を排除するとみられるため、長期間のLIBサイクル用のPPセパレーターのよりよい代替物として役立ち得る。さらに、向上したTmおよびNDの導入によるTmは熱加工の適用性を拡げ得る。例えば、揮発性物質を除くためのこれらのメンブレンの乾燥を高温で実施できる。PVDF-HFP@5%NDの熱特性および機械特性が、PVDF-HFP@1%NDまたは純粋なPVDF-HFPのいずれかにより作られたものに比べて優れていたため、さらなる電気化学試験において、PVDF-HFP@5%NDのメンブレンを使用した。Gurley値は、メンブレンのうねりおよび多孔度の理解を提供する。高いうねり(低い多孔度)を有するメンブレンは高エネルギー密度LIBに望ましいのに対し、過剰な多孔度は、メンブレンを簡単に貫通し得る電着Liデンドライト(特にLi金属負極の場合)により引き起こされる短絡に起因してセルの早期故障も引き起こす可能性がある。従って、多孔度とうねりとの間のトレードオフは通常避けることができず、通常、新たに開発されたメンブレンの最適化を通じて達成される。合成されたままのメンブレンは、ほんの4秒の著しく低いGurley値により非常に高い通気性を示した。このように、本発明者らは、メンブレンをホットプレスすることで層間スタッキングを改良し、かつ通気性を低減した。各種メンブレンの使用により得られた電気化学データを比較できるように、異なる時間量でホットプレスすることによるメンブレンの緻密化による最適化を通じて、Gurley値が同様になるようにした(420秒)。特定のセル構造に応じて、NDを含む複合体ポリマーセパレーターメンブレンのGurley値の好適な範囲は、約10秒から約1000秒、いくつかの形態では、約10秒から約100秒、他の形態では、約100秒から約500秒、さらに他の形態では、約500秒から約1000秒に及び得る。いくつかの実施形態では、Gurley値は約10、50、60、70、80、90、または100秒から約200、300、400、500、600、700、800、900、または1000秒であり得る。あまりに小さな値は望ましくない内部短絡をもたらす可能性があるが、一方であまりに高い値は電池セルのレート性能を不要に低い値に低減し得る。この具体例において、PVDF-HFP@5%NDメンブレンは、加圧および加熱下でのPVDF-HFP@1%NDと比較した際のメンブレンの多孔度を変化させるのに長時間を要した。引張試験に基づき、メンブレンの引張強度は、ND濃度の上昇と共に上昇する傾向にあり、PVDF-HFP@5%NDおよび@1%NDサンプルの値はそれぞれ25MPaおよび18MPaとなる。機械強度におけるこの相違は、はるかに強いポリマー-ND間相互作用に起因すると考えられ、それはポリマー鎖のパッキングにおける破壊を克服し得る。
【0040】
図6は、ND濃度の上昇に伴う結晶性挙動の変化を観察するため、25℃から175℃における温度範囲においてメンブレン上で実施したDSCサイクル例を図示している。複合体中のPVDF-HFPの結晶性(Xc)は、下記方程式(1)で示される通りに、サンプルの融解エンタルピー(ΔH_f、融解曲線下の面積)を100%結晶性の純粋なPVDF-HFPの融解エンタルピー(ΔH_f)で割ることで推定した。
Xc=(ΔH_f)/(ΔH_f^(o))×100% (1)
【0041】
純粋なPVDF-HFPナノファイバーの結晶性は29%であり、それは5重量%ND-PVDF-HFP複合体では12%に低減したことが分かった。これはポリマー鎖のパッキングがNDの存在により破壊されたことを明らかに示唆している。露出度の高い表面を有するNDは、ポリマー鎖と相互作用し、全体的にアモルファス性のより高いポリマーネットワークをもたらす。この設計された微細構造は、ポリマー表面にわたるLiイオンの容易な伝導に有利であるため、それから作られたメンブレンのLiイオン伝導性を改良し得る。さらに、提供され、使用されたNDは負に帯電した-Si-PPG表面修飾基を有しており、Liイオンとのルイス酸-塩基型相互作用を介してLiイオン伝導性を改良するのに有利である。これは7LiNMRパルスフィールドグラジエント(PFG)実験で得られたデータと一致しており、これは複合体メンブレン中のNDの濃度の上昇と共にLiイオン拡散性(DLi)が向上したことを示唆している。25℃で、5重量%NDサンプルのDLiは1.12×10-102-1であり、これは純粋なPVDF-HFP(8.69×10-112-1)および1%ND(9.08×10-112-1)よりもはるかに高く、また、Liイオン輸率もPEベースのセパレーターのLiイオン輸率よりも高い。
【0042】
図7は、正極(~10mgcm-2)として市販の中程度の負荷を有するLiNi0.8Mn0.1Co0.12(NMC811)、負極(または参照電極)としてLi箔、および古典的な電解質として大半の公報において使用される、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC)中の1M LiPF6を用いたコインセル(2032型)で評価した各種セパレーターの電気化学特性例を図示している。高い比熱容量および高いエネルギー密度を得るために、組み立てられたセルをC/3のレートで、2.8Vから4.4V(vsLi/Li+)の電圧範囲内でまずサイクルさせた。図6の項目aから見られるように、PVDF-HFP@5%NDセパレーターを有するセルは、従来のセパレーター(Celgard 2400)をベースとしたものに比べ、より安定な性能およびより高いクーロン効率(CE)を示した。初期比熱容量は210mAhg-1(二サイクル目で安定)に達し、50サイクル後に204mAhg-1(~97%)で維持され、一方でCelgardベースのセルは190から171mAhg-1へ容量が急速に減退した。NDベースのセパレーターの安定な性能は、異なる充電/放電サイクルでのそれらの電圧プロファイルにより確認することができる。平坦な特徴はサイクル時のように安定であり、セパレーターが電気化学的に安定であり、いかなる副反応をも引き起こさなかったことを意味していた。その上、PVDF-HFP@5%NDセパレーターは、NCM811正極の電圧ヒステリシスの低減を促進させることができ、高エネルギー効率で良好な可逆性をもたらす。NMC811の存在下でのメンブレンの電気化学的安定性をさらに調べるため、本発明者らは、C/2でより低いカットオフ電圧である4.2V(vsLi/Li+)でセルをサイクルさせた。ND機能化されたセパレーターを有するセルは、サイクル後、149mAhg-1と高い容量維持率、また、99.4%と高いCEを有し、依然よりよい性能を示した。安定な性能は、各種サイクルにおけるそれらの電圧プロファイルに反映され得る。その上、0.2mV/sのレートでのサイクリックボルタンメトリー(CV)スキャンは、このメンブレンはセル中で安定であることも示唆し得る。NCM811の通常のレドックスピークに加え、セパレーターの分解またはセパレーターの存在における不要なレドックス事象のいずれかに起因するいかなる副反応を示唆する可能性のある余分なピークは存在しなかった。サイクル前およびサイクル後にセルのナイキストプロットに基づき、電気化学インピーダンスを評価したところ、NDで機能化されたセパレーターを有するセルは、サイクル後に小さな半サイクルも示した。それはその電荷移動抵抗の小さな変化を反映している。
【0043】
いくつかの実施形態では、好適なLiイオン電池セルは、約~3mgcm-2から約50mgcm-2、いくつかの形態では、約3から約10mgcm-2、他の形態では、約10から約20mgcm-2、他の形態では、約20から約30mgcm-2、および他の形態では、約30から約50mgcm-2の範囲の正極の面積質量負荷(例えば、集電箔の片側に)を好ましく含み得る。いくつかの実施形態では、正極の面積質量負荷は約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20mgcm-2から約20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、または50mgcm-2であり得る。あまりに小さい質量負荷は電池の重量比容量および体積比容量を不要に低減する可能性があり、一方であまりに大きい質量負荷は電池の充電レートおよびサイクル寿命を不要に低減する可能性がある。
【0044】
好適なLiイオン電池セルは、約0.5mAhcm-2から約10mAhcm-2、いくつかの形態では、約0.5から約2.5mAhcm-2、他の形態では、約2.5から約4mAhcm-2、他の形態では、約4から6mAhcm-2、および他の形態では、約6から約10mAhcm-2の範囲内である面積容量負荷(例えば、集電箔の片側に)を有する正極を好ましく含むことができることも当然に理解される。いくつかの実施形態では、面積容量負荷は0.5、1、1.5、2、2.5、3、4、または5mAhcm-2から約5、6、7、8、9、または10mAhcm-2であってもよい。あまりに小さい容量負荷は電池の重量比容量および体積比容量を不要に低減する可能性があり、一方であまりに大きい容量負荷は電池の充電レートおよびサイクル寿命を不要に低減する可能性がある。
【0045】
いくつかの実施形態では、Liイオン電池の質量負荷は約150mAh/gから約2000mAh/gに及び得る活物質の重量比容量に依存する。Liイオン電池の面積容量負荷である約0.5mAhcm-2から約10mAhcm-2の範囲は、約0.25mg/cm-2から約7mg/cm-2に及ぶLiイオン電池の質量負荷と対応し得る。
【0046】
図8は、Li金属負極およびセパレーターの機能性における変化に対する追加の洞察を示すために、サイクル後の各種セパレーターを有するセルの選択された事後分析の例を図示している。サイクル後(2.8から4.2VvsLi/Li+)のNDで機能化されたナノファイバー(PVDF-HFP@5%ND)およびCelgard 2400 PPセパレーターを有する各種セルからLi箔のSEMを取得した。SEM画像の上面図において、PVDF-HFP@5%NDセパレーターを有するセル由来のLi箔は、大きなデンドライトを伴う不均一なLi析出を経たPPセパレーターを有するセル由来のものよりも顕著に平滑であった。断面SEM画像は、ND含有セパレーターを有するセルの、多孔質構造を有する~366umの非常に厚いデンドライト表面層(例えば、混合された固体電解質界面(SEI)およびナノ構造を有するLi金属)が全てのセルの負極表面上に形成されたことを示している。しかし、PVDF-HFP@5%NDセパレーターを有するものは、表面層が非常に均一かつ多孔性であり、その構造はさらなる被覆/剥離プロセスのためにイオンがより簡単に浸入する/内部の緻密なLiから脱離することを可能とし得る。これに対して、PPセパレーターを有するものには、乏しいパッキング層(および厚さが若干大きい~380um)をもたらし得るLiの均一でない析出/剥離、役目を終えた大きなLi粒子およびクラックが観察された。これらの結果は、本発明者らのNDで機能化されたナノファイバーメンブレンが負極としてLi金属を有する場合であっても、LIBにおけるセパレーターとして有望であることを示した。
【0047】
図9は、ホットプレス前およびホットプレス後のPVDF-HFP@5%NDメンブレンのFTIRの例を図示している。
【0048】
図10は、130℃で250時間保存中の、工業用メンブレンおよびNDベースのメンブレンの面積減少例を図示している。
【0049】
図11は、25℃および40℃での各種ND濃度を有するメンブレンサンプルの1H、7Liおよび19Fの拡散係数の例を図示している。
【0050】
図12は、市販セパレーターおよびPVDF-HFP@5%NDセパレーターを用いたセルの電圧ヒステリシスの例を図示している。
【0051】
図13は、走査速度が0.2mV/sでのPVDF-HFP@5%NDセパレーターを有するセルのサイクリックボルタンメトリー(CV)カーブの例、ならびに、レートがC/2での長期間のサイクルの前および後のセルのナイキストプロットの例を図示している。
【0052】
上記に開示されている具体例において、下記手順は合成および特性評価で使用された。ND分散液(1重量%)を、0.017gのND-Si-PPG(株式会社ダイセル)、2.41gのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、Sigma-Aldrich、純度≧99.5%)、および6.52gのアセトン(Sigma-Aldrich、純度≧99.8%)を混合することにより調製した。5重量%のND分散液を、0.11gのND-Si-PPG、2.41gのDMAc、および6.52gのアセトンを混合することにより調製した。分散液を30分300rpmの速度で30分間撹拌し、各溶液に1.64gのPVDF-HFP(Sigma-Aldrich 平均Mw~455,000)を加えた。次の混合物を均一でかつ粘性のあるゲルとするために、50℃で24時間撹拌した。分散液をさらに改良するために、混合されたゲルに電界紡糸前に1分間チップ超音波処理を実施した(Misonix S-4000、1Wで実施)。電界紡糸はシリンジ中で各サンプルにつき3mLの分散液を使用して実施し、次いでシリンジポンプ上に固定して回転ドラムを用いて150rpmでスラリーを0.5mL/時間の速度で押出した。シリンジの先と回転ドラムとの間の距離および加速電圧は16cmおよび16kVであった。電界紡糸後、多孔度を低減するために、次のメンブレンをアルミニウムシートから分離し、半分に折り、110℃で2時間、30MPaの圧力下でプレス(Across International, Swingpress)を使用してホットプレスした。次の検討のため、その後メンブレンを80℃で24時間乾燥させた。電界紡糸後のメンブレン構造の画像を撮影するために、Hitachi SU8230を使用した。単独ポリマー複合体ファイバーおよびND平面距離は透過型電子顕微鏡(Tecnai G2 F30 TEM)を使用することにより測定した。熱重量分析(TGA)は、TA instrument TGA(TA Q600)を使用し、5℃/分で室温から400℃に熱を上昇させて実施した。ND濃度に対するサンプルの結晶性(%)を算定するために、示差走査熱量計(DSC, TA instruments Q200)を使用した。サンプルの温度を室温から160℃に上昇させ、10℃/分で室温に冷却し戻した。サイクル間で一貫した結果が得られることを確かめるために試験を4回実施した。ゼロバックグラウンドホルダー上にサンプルを配置することにより、Panalytical XPert PRO Alpha-1 XRD装置でX線回折を実施した。セパレーターの応力/ひずみ挙動の特性評価を行うため、ASTM D882標準に沿って、25Nフォースゲージを使用し、Mark-10 ESM303テストスタンドで引張試験を実施した。Gurley値は、Gurley Precision Instrumentの(TROY)を使用して、0.02MPaの圧力下で100mLの空気を所定の面積(19.6cm2)で流通させるために確保された時間を計測することにより得られた。グローブボックス内のアルゴン環境において(H2O<0.1ppm)、正極としてNMC811を、セパレーターとして乾燥したメンブレン、参照/カウンター電極としてLi金属、および電解質としてEC/DEC(1:1、v/v%)中の1M LiPF6を70μL使用して、2032型コインセルを組み立てた。0.1mV/sのサイクルレート、ステップ幅1mVでGamryポテンショスタットを使用してサイクリックボルタンメトリー(CV)を実施した。Arbinのシステムを使用して、メンブレンのサイクル安定性を異なるCレートで試験した(1C=190mAhg-1)。イオン伝導性を算出するため、1MHzから0.1Hzの周波数範囲において室温で電気化学インピーダンス分光法(EIS)を実施した。パルスフィールドグラジエント(PFG)NMR実験用のサンプル調製は過去に報告されているものと非常に類似している。ポリマー複合体を真空オーブンで80℃で24時間徹底的に乾燥させた。その後、ポリマー複合体を4mmディスクに積み重ね、5mm径NMRプローブ中にロードした。1M LiPF6-EC/DEC溶液をNMRチューブ中に滴下し、メンブレンを完全に浸漬させた。25℃および40℃で、異なる核(DLi、DH、およびDF)での拡散係数を測定するため、Bruker AVIIIHD-500 NMR装置を使用した。7Liは116.8MHzで、19Fは282.7MHzで、および1Hは300.5MHzで核種を調査するため、パルスフィールドグラジエントスピンエコーNMR法を使用した。
【0053】
本明細書は、いかなる当業者も本発明の実施形態を創作し、使用できるように提供される。しかし、これらの実施形態に対する各種変更は、当業者らには既に明らかであるように、本発明は、本明細書に開示される特定の組成、プロセス段階、および材料に限定されないことは当然に理解され得る。すなわち、本明細書において定義される一般原則は、本発明の趣旨または範囲を逸脱せずに、他の実施形態に対しても適用することが可能である。
図1
図2
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図5
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