(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054090
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】示差走査熱量計の較正方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
G01N25/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023171361
(22)【出願日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】22199672
(32)【優先日】2022-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599082218
【氏名又は名称】メトラー-トレド ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】Im Langacher, 8606 Greifensee, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【弁理士】
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ハエッター
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040CA02
2G040CB03
2G040CB16
2G040DA02
2G040DA12
2G040EA02
2G040EB05
2G040GA04
2G040HA18
(57)【要約】
【課題】示差走査熱量計の較正方法を提供する。
【解決手段】示差走査熱量計は、温度制御された熱源とセンサ装置(9)とを含む。センサ装置(9)は、試料側および基準側のパン支持領域(4r)と、試料側および基準側の測定領域と、試料側および基準側の測定領域(5r)を横切って流れる熱の差を表す差動熱流信号(U)を出力するように動作可能な1つまたは複数の測定領域センサと、試料側および基準側の局所ヒータ装置(3r)と、を含む。試料パンおよび基準パンは、それぞれの試料側のパン支持領域および基準側のパン支持領域に配置される。パンを囲む容積は測定ガスで満たされる。示差走査熱量計の第2の較正係数C
Eを決定する方法は、所望の温度の第1の定常状態を作り出すステップを含む。第1の定常状態に達したら、それぞれの局所ヒータ装置を使用してパン支持領域(S)のうちの1つに加熱電力を印加し、差動熱流信号Uと差動加熱電力との比に基づいて第2の較正係数を決定するステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計の第2の較正係数CEを決定する方法であって、
前記示差走査熱量計は、
a.温度制御された熱源、好ましくは炉(1)と、
b.センサ装置(9)と、を含み、前記センサ装置(9)は、
i.試料パン(2s)および基準パン(2r)の底部領域をそれぞれ熱伝導性接触で受けるように適合された、試料側および基準側のパン支持領域(4r)と、
ii.前記試料側および前記基準側のパン支持領域(4r)をそれぞれ取り囲む試料側および基準側の測定領域であって、
・試料側および基準側の測定領域(5r)を横切って流れる熱の差を表す差動熱流信号(U)を出力するように動作可能な試料側および基準側の測定領域センサ、および/または
・前記試料側の測定領域を横切って流れる前記熱を表す試料側の熱流信号(US)を出力するように動作可能な試料側の測定領域センサおよび、前記基準側の測定領域を横切って流れる前記熱を表す基準側の熱流信号(UR)を出力するように動作可能な基準側の測定領域センサ、
を含む、試料側および基準側の測定領域と、
iii.前記試料側および前記基準側のパン支持領域(4r)にそれぞれ加熱電力を印加するように適合された試料側および基準側の局所ヒータ装置(3r)と、
を含み、
c.所望のパンのタイプの試料パンが前記試料側のパン支持領域に配置され、同じ所望のパンのタイプの基準パンが前記基準側のパン支持領域上に配置され、前記試料パンおよび前記基準パンを取り囲む容積が所望の測定ガスで満たされ、
前記方法は、
a.前記熱源を使用することによって所望の温度の第1の定常状態を作り出すステップと、
b.前記第1の定常状態に到達したら、第2の定常状態に到達するように、それぞれの前記局所ヒータ装置を使用することにより、前記試料側のパン支持領域(S)または前記基準側のパン支持領域(R)のいずれかに加熱電力を印加するステップと、
c.
i.直接測定されるか、または前記試料側の熱流信号と前記基準側の熱流信号との間の差U=US-URとして決定される、前記差動熱流信号U、および、
ii.前記第2の定常状態の間、前記試料側に印加される加熱電力と前記基準側に印加される加熱電力との間の差である差動加熱電力、
の比に基づいて、前記第2の較正係数を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
a.前記試料側および前記基準側の局所ヒータ装置(3r)は電気ヒータ装置であり、
b.前記試料側および前記基準側にそれぞれ印加される前記加熱電力は、それぞれの前記電気ヒータ装置の2つの端子間の電圧および電流の測定によって決定され、
c.それぞれの前記電気ヒータ装置の電気抵抗RS、RRは、好ましくは、前記2つの測定値の比であると評価され、好ましくは、前記第1の定常状態の温度とともに記憶される、請求項1に記載の示差走査熱量計の第2の較正係数CEを決定する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法にしたがって第2の較正係数CEを決定するのに適した自己較正型示差走査熱量計であって、
a.温度制御された熱源、好ましくは炉(1)と、
b.センサ装置(9)とを含み、前記センサ装置(9)は、
i.試料パン(2s)および基準パン(2r)の底部領域をそれぞれ熱伝導性接触で受けるように適合された、試料側および基準側のパン支持領域(4r)と、
ii.前記試料側および前記基準側のパン支持領域(4r)をそれぞれ取り囲む試料側および基準側の測定領域であって、
・試料側および基準側の測定領域(5r)を横切って流れる熱の差を表す差動熱流信号(U)を出力するように動作可能な試料側および基準側の測定領域センサ、および/または
・前記試料側の測定領域を横切って流れる前記熱を表す試料側の熱流信号(US)を出力するように動作可能な試料側の測定領域センサおよび、前記基準側の測定領域を横切って流れる前記熱を表す基準側の熱流信号(UR)を出力するように動作可能な基準側の測定領域センサ、
を含む、試料側および基準側の測定領域と、
iii.前記試料側および前記基準側のパン支持領域(4r)にそれぞれ加熱電力を印加するように適合された試料側および基準側の局所ヒータ装置(3r)と、
を含み、
前記自己較正型示差走査熱量計はさらに、
c.前記差動熱流信号、ならびに/または前記試料側および前記基準側の熱流信号ならびに、前記差動加熱電力および/または前記試料側と前記基準側とにそれぞれ印加された前記加熱電力を示す信号、好ましくは、それぞれの前記電気ヒータ装置の前記端子間の電圧および電流と、を受け取ることができる、データ評価ユニット(10)、を含む、自己較正型示差走査熱量計において、
d.前記データ評価ユニットが、
i.請求項1または2に記載の第2の較正係数CEを決定する方法を実行し、
ii.好ましくは、決定された第2の較正係数CEを、特に好ましくは、前記第1の定常状態の前記パンのタイプ、前記測定ガス、および前記所望の温度を記述するデータとともに記憶する、
ための命令のセットを有するメモリを含み、
e.前記データ評価ユニット(10)は、好ましくは、さらに、
i.前記パンのタイプに依存する変換係数Fにアクセスする、またはそれを受け取り、
ii.前記差動熱流信号、および/または前記試料側および前記基準側の熱流信号、および/または前記差動加熱電力および/または前記試料側および前記基準側にそれぞれ印加された前記加熱電力を示す信号、に基づいて、前記変換係数Fおよび/または前記第2較正係数CEと組み合わせて、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する、
ように装備されることを特徴とする、自己較正型示差走査熱量計。
【請求項4】
前記データ評価ユニット(10)は、前記パンのタイプ、前記測定ガス、および温度に依存する第1のデフォルト較正係数CHdにアクセスすることができ、前記データ評価ユニットは、好ましくは、さらに、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を、直接測定されるかまたは前記試料側の熱流信号と前記基準側の熱流信号との差U=US-URであると決定される前記差動熱流信号と、前記第1のデフォルト較正係数との比であると評価するように装備される、請求項3に記載の自己較正型示差走査熱量計。
【請求項5】
示差走査熱量計を用いて、好ましくは請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計を用いて、前記変換係数Fを決定する方法であって、
a.請求項1または2に記載の前記第2の較正係数CEを決定する方法を、前記第1の所望の温度で実行するステップであって、前記パンは、前記第1の所望の温度とは異なる遷移温度で発熱遷移または吸熱遷移を起こすことが知られている較正試料を含む、ステップと、
b.前記試料側または前記基準側の局所ヒータ装置が熱を加えない間に、前記遷移温度が達成され、前記試料の遷移が起こるように前記熱源を制御するステップと、
c.前記較正試料の遷移の間、前記差動熱流信号Uを積分し、この結果を前記較正試料の遷移の理論エンタルピーと比較するステップであって、この比較は、好ましくは、前記比率を計算することによって行われ、第1の較正係数CHとして保存される、ステップと、
d.前記第1の較正係数と前記第2の較正係数との比(CH/CE)を前記変換係数Fとして、好ましくはこの測定に使用された前記パンのタイプとともに保存するステップと、
を含む、方法。
【請求項6】
示差走査熱量計、好ましくは請求項4に記載の自己較正型示差走査熱量計を用いて前記変換係数Fを決定する方法であって、
a.請求項1または2に記載の第2の較正係数CEを決定する方法を第3の温度で実行するステップと、
b.前記パンのタイプ、前記測定ガス、および好ましくは前記第3の温度について、前記第1のデフォルト較正係数CHdにアクセスするステップと、
c.前記第1のデフォルト較正係数と前記第2の較正係数との比(CHd/CE)を、前記変換係数Fとして、好ましくはこの測定に使用された前記パンのタイプとともに保存するステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
示差走査熱量計、好ましくは、所与のパンのタイプ、温度制御された熱源としての所与の炉、および試料側のパン支持領域を使用する、請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計で使用される、前記試料側のパン支持領域の前記炉に配置される前記パンのタイプの前記変換係数Fを決定する方法であって、
a.前記ガスの熱伝導率を1と仮定して、前記試料側のパン支持領域に配置された前記所与のパンのタイプのパンと前記炉との間の熱抵抗である幾何学的係数gLを、好ましくはコンピュータシミュレーションによって推定するステップと、
b.前記幾何学的係数gと前記パンのタイプの底の半径rとに基づいて前記変換係数Fの値を推定するステップと、
を含む、方法。
【請求項8】
示差走査熱量計、好ましくは請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計を用いて、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
a.前記試料をあるパンのタイプの前記試料パンに置き、前記試料パンを前記試料側のパン支持領域に置き、同じパンのタイプの空の基準パンを前記基準側のパン支持領域に置くステップと、
b.前記温度制御された熱源を、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップと、
c.前記試料側または前記基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間、前記差動熱流信号を測定または決定するステップと、
d.前記差動熱流信号U、前記変換係数F、および前記第2の較正係数CEを用いて、前記試料への前記熱流または前記試料からの前記熱流を推定するステップであって、前記変換係数Fは前記パンのタイプによって選択され、前記第2の較正係数CEは前記パンのタイプ、前記測定ガス、および前記測定の温度によって選択される、ステップと、
を含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の示差走査熱量計を用いて、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
前記第2の較正係数CEは、CEの決定から請求項8に記載の熱流の評価までの間に、前記試料パンまたは前記基準パンを取り外すことなく、請求項1または2にしたがって決定される、方法。
【請求項10】
示差走査熱量計、好ましくは請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計を用いて、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
評価ステップと、同じパンのタイプおよび同じ測定ガスを用いて両方とも実施される、少なくとも1つの較正ステップおよび測定ステップと、を含み、
a.前記較正ステップは、
i.ある遷移温度で発熱遷移または吸熱遷移を起こすことが知られている較正試料を含む前記試料パンを前記試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを前記基準側のパン支持領域に置くステップと、
ii.前記遷移温度が達成され、前記試料側または前記基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間に前記試料の遷移が起こるように、前記熱源を制御するステップと、
iii.前記較正試料の遷移の間、前記差動熱流信号Uを積分し、この結果を前記較正試料の遷移の理論エンタルピーと比較するステップであって、この比較は、好ましくは、第1の較正係数CHとして保存される、ステップと、
を含み、
b.前記測定ステップは、
i.対象物質の試料を含む前記試料パンを前記試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを前記基準側のパン支持領域に置くステップと、
ii.前記温度制御された熱源を、前記試料側または前記基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップと、
iii.前記差動熱流信号を観察するステップと、
を含み、
c.前記評価ステップは、
i.前記差動熱流信号と、好ましくは第1の較正係数CHとして保存される前記較正ステップの前記比較結果と、から、対象物質の前記試料への熱流または前記試料からの熱流を推定するステップ、
を含み、
d.好ましくは複数の較正ステップが存在し、各較正ステップは異なる遷移温度で実施され、前記遷移温度は好ましくは前記測定ステップの前記温度プログラムによってカバーされる温度範囲内にあるように選択される、方法。
【請求項11】
示差走査熱量計、好ましくは請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計を用いて、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
a.前記試料をあるパンのタイプの前記試料パンに置き、前記試料パンを前記試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを前記基準側のパン支持領域に置くステップと、
b.前記温度制御された熱源を、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップと、
c.前記差動熱流信号の絶対値が最小になるように、前記試料側および前記基準側の局所ヒータ装置を制御するステップと、
d.好ましくは前記試料側および前記基準側の局所ヒータ装置の前記加熱電力から、前記差動熱流信号Uと同様に、前記差動加熱電力Pelを測定または決定するステップと、
e.前記差動熱流信号U、前記差動加熱電力Pel、前記変換係数F、および前記前記第2の較正係数CEを用いて、前記試料への熱流または前記試料からの熱流を推定するステップであって、前記変換係数Fは前記パンのタイプによって選択され、前記第2の較正係数CEは前記パンのタイプ、前記測定ガス、および前記測定の温度によって選択される、ステップと、
を含む、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
a.前記差動加熱電力Pelは、前記差動熱流信号Uの絶対値を最小化するように、ゲインkpを有する比例制御装置によって制御され、
b.好ましくは、前記ゲインは、ゲイン定数kと前記デフォルト第1の較正係数CHdとの比に依存し、前記ゲイン定数kは、前記測定の所望の時間分解能に応じて選択され、前記デフォルト第1の較正係数CHdは、温度、前記パンのタイプ、および前記測定ガスに応じて選択される、方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
前記第2の較正係数CEは、CEの決定から請求項11または12に記載の熱流の評価までの間に、前記試料パンまたは前記基準パンを取り外すことなく、請求項1または2にしたがって決定される、方法。
【請求項14】
示差走査熱量計、好ましくは請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計を用いて、前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法であって、
a.同じパンのタイプおよび同じ測定ガスを用いて両方とも実施される、少なくとも1つの較正ステップおよび測定ステップと、前記較正ステップおよび前記測定ステップの後に実施される評価ステップと、を含み、
b.前記較正ステップは、
i.ある遷移温度で発熱遷移または吸熱遷移を起こすことが知られている較正試料を含む前記試料パンを前記試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを前記基準側のパン支持領域に置くステップと、
ii.好ましくは、請求項1または2に記載の方法によって、または与えられた条件に対する前記第2の較正係数CEの以前に記憶された値にアクセスすることによって、第2のデフォルト較正係数CEdを決定するステップと、
iii.前記局所ヒータが制御されて前記差動熱流信号が最小化されている間に、前記遷移温度が達成され、前記試料の遷移が起こるように前記熱源を制御するステップと、
iv.前記試料の遷移中に、前記差動熱流信号Uと同様に、前記差動加熱電力Pelを測定または決定するステップと、
v.前記試料の遷移の時間にわたって、
・前記差動熱流信号Uと、
・前記第2のデフォルト較正係数CEdと前記差動加熱電力Pelとの積(PelCEd)と、の間の差(U-PelCEd)を積分するステップと、
vi.この積分値を前記較正試料の遷移の理論エンタルピーと比較するステップであって、この比較値は、好ましくは、前記積分で使用される前記デフォルト第2の較正係数CEdとともに第1の較正係数CHとして保存される、ステップと、
を含み、
c.前記測定ステップは、
i.対象物質の試料を含む前記試料パンを前記試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを前記基準側のパン支持領域に置くステップと、
ii.前記温度制御された熱源を、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップと、
iii.前記差動熱流信号の絶対値が最小になるように、前記試料側および前記基準側の局所ヒータ装置を制御するステップと、
iv.前記差動熱流信号Uと同様に、前記差動加熱電力Pelを測定または決定するステップと、
を含み、
d.前記評価ステップは、
i.前記差動加熱電力Pel、前記差動熱流信号U、前記デフォルト第2の較正係数CEd、および前記較正ステップの前記比較結果、好ましくは前記第1の較正係数CHを用いて、前記試料PSへの熱流または試料PSからの熱流を推定するステップ、
を含む、方法。
【請求項15】
a.前記変換係数Fは、前記パンのタイプ、および好ましくは前記温度制御された熱源の温度に応じて選択され、
b.一方、前記測定ガスは、好ましくは、前記パンのタイプのパン、前記測定ガス、および好ましくは前記温度制御された熱源の温度を用いて決定された第2の較正係数CEを選択することによって考慮される、請求項8、9、11から13のいずれか一項に記載の測定ガスで囲まれたパンのタイプの前記試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法。
【請求項16】
a.前記センサ装置が、同じ温度制御された熱源に囲まれた容積に配置され、
b.好ましくは、単一の検出ユニットが前記センサ装置を含む、
請求項3または4に記載の自己較正型示差走査熱量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、示差走査熱量計の較正方法に関する。特に、基準物質を用いた測定を必要とすることなく、所与の較正を所望の測定ガスおよび温度に適合させることを可能にする第2の較正係数を決定する方法に関する。さらに、本発明は、示差走査熱量計の内部の形状を特徴付け、基準物質を用いた測定を行わずに、またはごくわずかしか基準物質を用いた測定を行わずに、示差走査熱量計の測定値を較正するために第2の較正係数とともに使用できる変換係数を決定する方法に関する。最後に、本発明は、本発明による方法のうちの少なくとも1つを用いる自己較正型示差走査熱量計に関する。
【0002】
示差走査熱量計は、試料の温度に反応して、試料への熱流または試料からの熱流を測定する。これにより、試料の相変化を検出し、特徴付けることができる。
【0003】
測定中、試料はパンに置かれる。パンおよび内部の試料は、温度制御された熱源(通常は炉)と熱的に接触している。パンは通常、センサ装置の一部であるパン支持領域上に配置される。そうでなければ、パンを取り囲む容積は測定ガスで満たされている。センサ装置は、測定領域と、測定領域を通って流れる熱流を示す信号を出力する測定領域センサと、を含む。
【0004】
測定ガスは、その化学的性質、または測定の温度における密度や圧力によってそれぞれ特徴付けられる。測定ガスは、周囲と同じ圧力の空気であることもあれば、圧力または密度がより低いかより高いかによって、および/または化学的性質が異なることによって、この条件と異なることもある。
【0005】
較正は、センサ装置の出力と試料によって生成される正または負の熱流との間の関係を確立するために必要である。
【0006】
明らかに、試料によって生成される、または必要とされる熱の一部は、パン支持領域を経由する経路を迂回し、パンを囲む測定ガスを通って流れる。パンの支持領域を通る熱流経路と測定ガスを通る熱流経路の有効性の比率は、センサ装置とその取付けの他に、大部分はパンおよび測定ガスの選択に依存し、部分的には測定の温度に依存する。したがって、較正は少なくともこれらの要因を考慮に入れるべきである。
【背景技術】
【0007】
先行技術では、示差走査熱量計は較正試料を用いて較正される。異なる温度で既知の遷移特性を持つ基準物質を、測定に必要なタイプのパンに置き、測定ガスに囲まれた状態で測定する。較正係数は、先行技術のセンサ装置の読み取り値と、試料によって生成される正または負の熱流の既知の値との比較によって決定される。
【0008】
この方法には少なくとも2つの欠点がある。一方では、較正測定が可能な温度は、基準物質の相遷移に限定される。他方では、このような較正は時間がかかり、パンのタイプおよび測定ガスごとに繰り返す必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、少なくとも第2の較正係数CEを使用する較正関数を適用することにより、これらの課題を克服することを可能にする。第2の較正係数CEは、基準物質の代わりに電気ヒータの助けを用いて決定される。これにより、手元の較正試料に依存することなく、あらゆる温度、およびあらゆる測定ガスで第2の較正係数CEを決定することができる。そして、この第2の較正係数CEは、較正を、選択した測定条件に適合させるために使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
示差走査熱量計は、温度制御された熱源とセンサ装置とを含む。
センサ装置は、試料側のパン支持領域および基準側のパン支持領域と、試料側の測定領域および基準側の測定領域と、試料側の局所ヒータ装置および基準側の局所ヒータ装置と、を含む。局所ヒータ装置は、好ましくは電気ヒータ装置である。
温度制御された熱源は、好ましくは炉である。
【0011】
試料側のパン支持領域は、試料パンの底部領域を熱伝導性接触で受けるように適合される。
基準側のパン支持領域は、基準パンの底部領域を熱伝導性接触で受けるように適合される。
試料側の測定領域は、試料側のパン支持領域を取り囲む。基準側の測定領域は、基準側のパン支持領域を取り囲む。
【0012】
一実施形態において、試料側の測定領域センサおよび基準側の測定領域センサは、試料側の測定領域を横切って流れる熱と基準側の測定領域を横切って流れる熱との間の差を表す差動熱流信号(U)を出力するように動作可能である。
【0013】
一実施形態では、試料側の測定領域センサおよび基準側の測定領域センサは、試料側の測定領域を横切って流れる熱を表す試料側の熱流信号(US)および基準側の測定領域を横切って流れる熱を表す基準側の熱流信号(UR)を出力するように動作可能である。
【0014】
試料側の局所ヒータ装置は、試料側のパン支持領域に加熱電力を印加するように適合される。
基準側の局所ヒータ装置は、基準側のパン支持領域に加熱電力を印加するように適合される。
【0015】
所望のパンのタイプの試料パンが試料側のパン支持領域に配置され、同じ所望のパンのタイプの基準パンが基準側のパン支持領域上に配置される。試料パンおよび基準パンを取り囲む容積が所望の測定ガスで満たされる。
【0016】
示差走査熱量計を用いて第2の較正係数CEを決定する方法は、
・熱源を使用することによって所望の温度の第1の定常状態を作り出すステップと、
・第1の定常状態に到達したら、第2の定常状態に到達するように、それぞれの局所ヒータ装置を使用することにより、試料側のパン支持領域または基準側のパン支持領域のいずれかに加熱電力を印加するステップと、
・ ○差動熱流信号Uと、
○差動加熱電力と、
の比に基づいて、第2の較正係数を決定するステップと、
を含む。
【0017】
差動熱流信号Uは、示差走査熱量計の一実施形態では、試料側および基準側の測定領域センサの直接の出力である。この実施形態では、差動熱流信号Uは直接測定される。示差走査熱量計の他の実施形態では、示差熱流信号Uは、試料側の熱流信号USおよび基準側の熱流信号URから、2つの値の差:U=US-URとして決定される。
【0018】
差動加熱電力は、第2の定常状態の間、試料側に印加される加熱電力と基準側に印加される加熱電力との間の差である。
【0019】
好ましくは、試料側の測定領域および基準側の測定領域は、試料側の測定領域を横切って流れる熱と基準側の測定領域を横切って流れる熱との差を表す差動熱流信号(U)として差動熱電電圧信号を出力するように動作可能な熱電装置の形態の試料側および基準側の測定領域センサを含む。
【0020】
好ましくは、試料側の測定領域は、熱電装置の形態の試料側の測定領域センサを含み、基準側の測定領域は、熱電装置の形態の基準側の測定領域センサを含む。熱電装置は、試料側の測定領域を横切って流れる熱を表す試料側の熱流信号(US)として試料側の熱電電圧信号、および基準側の測定領域を横切って流れる熱を表す基準側の熱流信号(UR)として基準側の熱電電圧信号を出力するように動作可能である。
【0021】
一実施形態では、試料側および基準側の測定領域センサは、試料側のパン支持領域の温度と基準側のパン支持領域の温度とを比較する熱電装置によって実現される。これは、好ましくは、試料側のパン支持領域および基準側のパン支持領域の直下に第1および第2の金属のワイヤ間の電気接合が配置される熱電装置によって行われる。熱電装置は、試料側の測定領域を横切って流れる熱と基準側の測定領域を横切って流れる熱との差を表す差動熱流信号(U)として差動熱電電圧信号を出力するように動作可能である。
【0022】
一実施形態では、試料側の測定領域センサは、試料側のパン支持領域の温度を測定する温度計、好ましくは熱電装置である。この実施形態の基準側の測定領域センサも基準側のパン支持領域の温度を測定する温度計、好ましくは熱電装置である。温度計は、試料側の測定領域を横切って流れる熱を表す試料側の熱流信号(US)、および基準側の測定領域を横切って流れる熱を表す基準側の熱流信号(UR)を出力するように動作可能である。
【0023】
センサ装置は、単一の検出ユニットとして実現することもできるし、検出ユニットの集合とすることもできる。センサ装置が検出ユニットの集合として実現される場合、センサ装置は好ましくは第1の検出ユニットと第2の検出ユニットとを含む。それにより、第1の検出ユニットは、好ましくは試料側に関連する部品を含み、一方、第2の検出ユニットは基準側に関連する部品を含む。検出ユニットの集合として実現されるセンサ装置の別の実施形態では、局所ヒータは第1の検出ユニット上に配置され、一方、パン支持領域および測定領域は第2の検出ユニット上に配置される。測定領域センサは、第1または第2の検出ユニットに含まれるか、または第3の検出ユニットに属することができる。
【0024】
第1の定常状態は、好ましくは、第2の較正係数CEが決定される温度を決定する。
第2の定常状態の間、局所ヒータ装置のうちの少なくとも1つがオンにされ、既知の量の熱をシステムに供給する。局所ヒータ装置によって生成された熱は、部分的に、それぞれの局所ヒータ装置を取り囲む測定領域を通り、部分的に、それぞれの局所ヒータ装置がその熱を提供することができるパン支持領域上に位置するパンに流れる。測定領域を通る熱流は、試料側および基準側の熱流信号または差動熱流信号を生成する。
【0025】
したがって、測定に基づく差動熱流信号と、局所ヒータによって生成される既知の熱流と、の比は、
・全熱流抵抗に対する測定領域を通る熱流抵抗、または
・全熱流抵抗に対する、パンとパン支持との間の接触部および測定ガスを通る熱流抵抗、
に関する情報を含む。
【0026】
この状況は、
図2を参照しながら示し、説明するモデルによって記述することができる。
一実施形態では、第2の較正係数は、Uを差動熱流信号、P
elを差動加熱電力として、以下のように記述することができる。
【数1】
【0027】
後の測定結果は、この結果を用いて以下のように較正することができる。
【数2】
【0028】
ここで、PSは試料への熱流または試料からの熱流、Uは差動熱流信号、Pelは試料の測定中に検出された差動加熱電力である。Fは、測定の形状に依存する変換係数であり、例えば表の形態でユーザに提供することができる。変換係数Fの適切な値を導出するためのさらなる選択肢を以下に説明する。CEは第2の較正係数であり、センサ装置の局所ヒータを用いて本発明による方法で決定された。
【0029】
この較正は、局所ヒータを使用する測定モードにも、局所ヒータを使用しない測定モードにも使用することができる。この後者の場合、差動加熱電力はゼロである:Pel=0。
【0030】
好ましい実施形態では、試料側および基準側の局所ヒータ装置は電気ヒータ装置として実現される。この実施形態では、試料側および基準側にそれぞれ印加される加熱電力は、それぞれの電気ヒータ装置の2つの端子間の電圧および電流の測定によって決定される。
【0031】
好ましくは、それぞれの電気ヒータ装置の電気抵抗RS、RRは、測定された電圧と測定された電流との比であると評価され、この値は、第1の定常状態の温度とともに記憶される。RSは試料側の電気ヒータ装置の電気抵抗である。RRは基準側の電気ヒータ装置の電気抵抗である。
【0032】
ヒータは時間とともに老朽化するため、電圧と電流の両方を同時に測定して電気抵抗を決定することで、較正方法が電圧または電流のいずれかの測定を含み、加熱電力を決定するために所与の抵抗値を使用する代替ソリューションと比較して精度が向上する。電気抵抗値を保存することは、老化作用、損傷、基準側と試料側との間の非対称性を検出するのに有効である。
【0033】
本発明による自己較正型示差走査熱量計は、上述の方法にしたがって第2の較正係数CEを決定するのに適している。自己較正型示差走査熱量計は、この方法に使用するのに適した示差走査熱量計の特徴に加えて、データ評価ユニットを含む。
【0034】
データ評価ユニットは、差動熱流信号、ならびに/または試料側および基準側の熱流信号ならびに、差動加熱電力および/または試料側と基準側とにそれぞれ印加される加熱電力を示す信号を受け取ることができる、好ましい実施形態において、データ評価ユニットは、試料側および基準側にそれぞれ印加される加熱電力を示す信号として、両方の電気ヒータ装置のそれぞれの端子間の電圧および電流を受け取ることができる。
【0035】
さらに、データ評価ユニットは、命令のセットを有するメモリを含む。命令のセットは、第2の較正係数CEを決定する方法を実行する命令を含む。
【0036】
好ましくは、命令のセットは、決定された第2の較正係数CEを記憶する命令を含む。特に好ましくは、決定された第2の較正係数CEは、それぞれの命令が実行されると、パンのタイプ、測定ガス、および第1または第2の定常状態の所望の温度を記述するデータとともに記憶される。
【0037】
パンのタイプは、通常、パンの材質および大きさによって決定される。パンのタイプは、その形状およびさらなる特性においても異なることがある。
【0038】
好ましくは、データ評価ユニットは、第2の較正係数CEと組み合わせて、差動熱流信号、ならびに/または試料側および基準側の熱流信号、ならびに/または試料側および基準側にそれぞれ印加される加熱電力を示す信号、に基づいて、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価するように装備されている。
【0039】
さらなる実施形態において、データ評価ユニットは、パンのタイプ、および好ましくは第1または第2の定常状態の温度に依存する変換係数Fにアクセスする、または変換係数Fを受け取るように装備されている。
【0040】
好ましくは、データ評価ユニットは、差動熱流信号、ならびに/または試料側および基準側の熱流信号、ならびに/または試料側および基準側にそれぞれ印加される加熱電力を示す信号、に基づいて、変換係数Fおよび/または第2較正係数CEと組み合わせて、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価するように装備されている。
【0041】
自己較正型示差走査熱量計は、未較正の生データにアクセスし、ユーザ自身または外部のコンピュータで計算することなく、第2の較正係数を使用してユーザに利益を得させることができる。
【0042】
ほとんどの場合、CEは時間の経過とともにゆっくりとしか変化せず、ほとんどの場合、パンのタイプ、測定ガス、および温度の選択に依存する。したがって、決定されたCE値を保存することで、較正測定の回数を減らし、それによって総較正時間を短縮することが可能になる。保存されたデータに、パンのタイプ、測定ガス、および温度に関する情報も含まれている場合、ユーザは、たとえ前回の測定から測定条件が変更されていたとしても、所望の測定条件に対する保存された第2の較正係数CEにアクセスし、およびそれを使用するように、自己較正型示差走査熱量計を選択および/または自己較正型示差走査熱量計に指示することができる。測定条件は、この場合、パンのタイプ、測定ガス、および温度を含む。ユーザおよび/または自己較正型示差走査熱量計のメモリに記憶された指示は、測定条件における許容誤差を指定することができる。許容誤差とは、所望の測定条件が、当該CE値が決定された測定条件と間隔によって指定される範囲において異なっていても、記憶されたCE値が所望の測定条件に対して使用するのに適していると考えられる間隔である。
【0043】
変換係数Fは、パンのタイプに対する調整の依存性を記述するために導入することができる。係数Fは、個々のセンサ装置自体から独立するように選択することができる。
【0044】
これによって、利用可能なパンのタイプに対する変換係数Fの値のセットをユーザに提供すること、または変換係数Fをそれが関係するパンとともに提供することができる。変換係数Fは、同じタイプの異なるセンサ装置、および同じタイプと形状の異なる示差走査熱量計で使用することができる。
【0045】
所望のパンのタイプに対する変換係数Fにアクセスする、または変換係数Fを受け取ることができるデータ評価ユニットは、較正測定の必要性をさらに減らすことができる。少なくとも、差動熱流信号Uが存在しないように、試料によって生成された熱流が局所ヒータ装置によって生成された熱流によって平衡される測定モードでは、変換係数Fのみが、試料への熱流または試料からの熱流の所望の値を評価するために必要である。
【0046】
試料に起因する所望の熱流の評価については、
図2を参照して詳細に説明する。
第2の較正係数C
Eは、測定が開始される前に本発明による方法によって決定することができ、変換係数Fはユーザに提供することができるから、好ましくは、試料への熱流は、第2の較正係数C
Eと変換係数Fとを用いて決定される。
【0047】
自己較正型示差走査熱量計の好ましい実施形態では、データ評価ユニットは、パンのタイプ、測定ガス、および温度に依存する第1のデフォルト較正係数CHdにアクセスすることができる。
【0048】
自己較正型示差走査熱量計のこの好ましい実施形態のデータ評価ユニットは、好ましくは、さらに、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を、直接測定されるか、または試料側の熱流信号と基準側の熱流信号との差U=US-URであると決定されるかのいずれかである差動熱流信号と、第1のデフォルト較正係数と、の比であると評価するように装備される。
【0049】
式で書くと、この評価はPS=U/CHdとなる。ここでPSは試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を示す。
【0050】
この測定の間、試料側の局所ヒータ装置も基準側の局所ヒータ装置も、試料側と基準側のパン支持領域にそれぞれ加熱電力を印加しない。
【0051】
これにより、適切な較正を行う時間がない場合でも、ユーザは測定を行うことができる。さらに、第2の較正係数の決定が、例えば、局所ヒータ装置の技術的な問題または計算のタイプミスのために起こり得る間違った結果を返したという印象をユーザが持った場合、ユーザに測定のクロスチェックを行う可能性を提供する。
【0052】
好ましくは、第1のデフォルト較正係数CHdは、いかなる局所加熱もない状態で、差動熱流信号(U)として測定された差動熱流を、基準物質によって生成された既知の熱流PSと比較することによって決定される第1の較正係数である。
【0053】
好ましくは、所望の測定条件における第1のデフォルト較正係数CHdは、異なる測定条件において、いかなる局所加熱もない状態で、差動熱流信号(U)として測定された差動熱流を、基準物質によって生成された既知の熱流PSと比較することによって決定される第1の較正係数のセットを用いた内挿および/または外挿によって決定される。
【0054】
変換係数Fを決定する方法には、一般的な示差走査熱量計を適用することができる。しかし、本発明による自己較正型示差走査熱量計を用いて方法を実施する方が、ユーザにとってより快適である。
【0055】
示差走査熱量計を用いて変換係数Fを決定する方法の第1の実施形態は、好ましくは自己較正型示差走査熱量計を用いて実行される以下のステップを含む。
・第2の較正係数CEを決定する方法を、第1の所望の温度で実行するステップであって、パンは、第1の所望の温度とは異なる遷移温度で発熱遷移または吸熱遷移を起こすことが知られている較正試料を含む、ステップ。
・試料側の局所ヒータ装置または基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間に、遷移温度が達成され、試料の遷移が起こるように熱源を制御するステップ。
・較正試料の遷移の間、差動熱流信号Uを積分し、この結果を較正試料の遷移の理論エンタルピーと比較するステップであって、この比較は、好ましくは、比率を計算することによって行われ、第1の較正係数CHとして保存される、ステップ。
・第1の較正係数と第2の較正係数との比(CH/CE)を変換係数Fとして、好ましくはこの測定に使用されたパンのタイプとともに保存するステップ。
【0056】
差動熱流信号Uは、直接測定することもできるし、試料側の熱流信号の測定値と基準側の熱流信号の測定値との差U=US-URを計算することによって決定することもできる。
【0057】
上で説明したように、第2の較正係数CEは、較正のためにパン支持領域を加熱する局所ヒータ装置によって生成される既知の熱流を使用し、第1の較正係数CHは、較正のためにパン支持領域に配置されたパン内の較正試料の既知の遷移を使用する。両方の較正係数を組み合わせることにより、パンとその周囲との間の熱抵抗を特徴付ける変換係数Fを決定することができる。
【0058】
さらなる実施形態では、第1の所望温度は遷移温度に等しく、CEは、試料側の試料パンに配置された較正試料の遷移が起こった後に、基準側の局所ヒータ装置および基準パンを使用することによって決定される。特に、基準側のパン支持領域に印加される加熱電力が、その遷移中に試料によって生成される加熱電力に類似している場合、これにより、第1および第2の較正係数CEおよびCHならびに係数Fを、さらにより類似した温度で決定することができる。
【0059】
一般的な示差走査熱量計を用いて、好ましくは自己較正型示差走査熱量計を用いて、変換係数Fを決定する方法の第2の実施形態は、以下のステップ、
・第2の較正係数CEを決定する方法を第3の温度で実行するステップと、
・パンのタイプ、測定ガス、および好ましくは第3の温度について、第1のデフォルト較正係数CHdにアクセスするステップと、
・第1のデフォルト較正係数と第2の較正係数との比(CHd/CE)を、変換係数Fとして、好ましくはこの測定に使用されたパンのタイプとともに保存するステップと、
を含む。
この方法のステップは、好ましくは、自己較正型示差走査熱量計で実行される。
【0060】
これにより、較正試料なしで変換係数Fを決定することができる。この方法は、利用可能なF値がないパンのタイプについて測定を行うべきである場合に使用することができる。この方法が一般的な示差走査熱量計で使用される場合、第1のデフォルト較正係数にアクセスするステップは、データベースアクセス、またはユーザによる外部コンピュータプログラムの使用を含み得る。
【0061】
所与のパンのタイプ、温度制御された熱源としての所与の炉、および試料側のパン支持領域を使用する示差走査熱量計によって使用される、試料側のパン支持領域の所与の炉に配置されるこのパンのタイプの変換係数Fを決定する方法の第3の実施形態は、
・ガスの熱伝導率を1と仮定して、試料側のパン支持領域に配置された所与のパンのタイプのパンと炉との間の熱抵抗である幾何学的係数gLを、好ましくはコンピュータシミュレーションによって推定するステップと、
・幾何学的係数gLと上記のパンのタイプの底の半径rとに基づいて変換係数Fの値を推定するステップと、
を含む。
【0062】
好ましくは、この方法は、このパンのタイプ、温度制御された熱源としての炉、および試料側のパン支持領域を使用する自己較正型示差走査熱量計の変換係数Fを決定するために使用される。
【0063】
好ましくは、パンとパン支持領域との間の領域の高さdも、この実施形態による変換係数Fの値を推定するために使用される。
好ましくは、パンと炉との間の熱抵抗R
Lは、熱伝導率λを有する測定ガスによって、
【数3】
のように決定される。g
L=R
Lλはパンと炉との間の測定ガスの有効厚さを記述する幾何学的係数である。
【0064】
パンとパン支持領域との間の熱抵抗も測定ガスによって決定され、半径rのパン底と、通常数ミクロン、好ましくは10から30μmの間、最も好ましくは15から17.5μmの間の高さdを有する円柱と近似することができる。
【数4】
【0065】
変換係数Fは、第1の較正係数と第2の較正係数との比C
H/C
Eである。第1の較正係数C
Hは、パン内部の既知の熱源またはシンクで決定される。第2の較正係数C
Eは、既知の熱源がパンの下にあるパン支持領域を加熱している状態で決定される。以下に説明するように、
図2のモデルによれば、Fは熱抵抗の比を表す。
【0066】
【数5】
これらの抵抗について上述の式を用いると、熱伝導率の値は相殺され、
【数6】
を用いた
【数7】
のように、Fは幾何学的要因のみに依存することになる。
【0067】
したがって、パンと炉との間の測定ガスの有効厚さ(実質的にgL)を推定することにより、変換係数Fを決定することができる。gLを決定するために、熱抵抗は、例えば、計算に使用する単位において熱伝導率λ=1と仮定して、コンピュータシミュレーションで計算することができる。また、熱伝導率を別の値にしてそのようなシミュレーションを行い、結果をこの値で割ることも可能である。
【0068】
この方法によって、測定する必要なく、ユーザが、未知の係数Fを持つパンの較正を推定することができる。
【0069】
変換係数Fのこのような推定値は、上で説明した方法によって決定された第2の較正係数CEと組み合わせることができる。これにより、較正試料が全く不要になる。好ましくは、この第3の実施形態は、較正試料の助けを借りて導出された適切な値がないパン用のF値を提供するために使用される。
【0070】
示差走査熱量計、好ましくは自己較正型示差走査熱量計を用いて、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法は、好ましくは以下のステップを含む。
・試料をあるパンのタイプの試料パンに置き、試料パンを試料側のパン支持領域に置き、同じパンのタイプの空の基準パンを基準側のパン支持領域に置くステップ。
・温度制御された熱源を、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップ。
・試料側または基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間、差動熱流信号を測定または決定するステップ。
・差動熱流信号U、変換係数F、および第2の較正係数CEを用いて、試料への熱流または試料からの熱流を推定するステップであって、変換係数Fはパンのタイプによって選択され、第2の較正係数CEはパンのタイプ、測定ガス、および測定の温度によって選択される、ステップ。
【0071】
好ましくは、試料および基準パンを取り囲む容積中の測定ガスの化学的性質および/または条件は、所望の値に適合される。
【0072】
【0073】
この熱流の推定値は、第2の較正係数CEが局所ヒータ装置を使用し、変換係数Fが表、他のデータソース、またはコンピュータシミュレーションおよび/または理論計算から導出できるため、較正試料を必要とせずに高精度で導出することができる。
【0074】
示差走査熱量計を用いて試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法の好ましい実施形態では、第2の較正係数CEは、本発明による、CEの決定から試料への熱流または試料からの熱流の評価までの間に、試料パンまたは基準パンを取り外すことなく、第2の較正係数CEを決定する方法を用いて決定される。
【0075】
これは、パン支持領域とその上に位置するパンとの間の接触が、較正に使用される第2の較正係数CEの決定と測定とで同じであるという利点を有する。これにより、較正の品質が向上する。
【0076】
試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価するさらなる方法では、示差走査熱量計、好ましくは自己較正型示差走査熱量計が使用される。この方法は、評価ステップと、少なくとも1つの較正ステップと、測定ステップとを含む。少なくとも1つの較正ステップおよび測定ステップは、同じパンのタイプと同じ測定ガスを用いて両方とも実施される。
較正ステップは以下のステップを含む。
【0077】
・較正試料を含む試料パンを試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを基準側のパン支持領域に置くステップ。較正試料は、ある遷移温度で発熱遷移または吸熱遷移を起こすことが知られている。
・上記遷移温度が達成され、試料側または基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間に較正試料の遷移が起こるように、熱源を制御するステップ。
・較正試料の遷移の間、差動熱流信号Uを積分し、この結果を較正試料の遷移の理論エンタルピーと比較するステップであって、この比較は、好ましくは、第1の較正係数CHとして保存される、ステップ。
測定ステップは以下のステップを含む。
【0078】
・対象物質の試料を含む試料パンを試料側のパン支持領域に置き、同じタイプの空の基準パンを基準側のパン支持領域に置くステップ。
・温度制御された熱源を、試料側または基準側の局所ヒータ装置により熱が加えられていない間、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップ。
・差動熱流信号を観察するステップ。
【0079】
評価ステップは以下のステップを含む。
・差動熱流信号と、好ましくは第1の較正係数CHとして保存される較正ステップの比較結果と、から、対象物質の試料への熱流または試料からの熱流を推定するステップ。
【0080】
好ましくは、複数の較正ステップがある。この場合、各較正ステップは、異なる遷移温度で実施され、遷移温度は、好ましくは、測定ステップの温度プログラムによってカバーされる温度範囲内にあるように選択される。
【0081】
好ましくは、試料および基準パンを囲む容積中の測定ガスの化学的性質および/または条件は、所望の値に適合される。
【0082】
好ましくは、熱流を評価する方法のこの実施形態は、第2の較正係数CEを決定する方法が、複数の較正ステップにおいてCHを決定するために使用された遷移温度に等しい温度で実行される、さらなる較正ステップを含む。好ましくは、異なる温度における比CH/CEの計算から得られたF値は、データ評価ユニットがアクセス可能なメモリに追加される。
【0083】
示差走査熱量計、好ましくは自己較正型示差走査熱量計を使用して、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価するさらなる方法は、以下のステップを含む。
・試料をあるパンのタイプの試料パンに置き、試料パンを試料側のパン支持領域に置き、同じパンのタイプの空の基準パンを基準側のパン支持領域に置くステップ。
・温度制御された熱源を、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップ。
・差動熱流信号の絶対値が最小になるように、試料側および基準側の局所ヒータ装置を制御するステップ。
・好ましくは試料側および基準側の局所ヒータ装置の加熱電力から、差動熱流信号Uと同様に、差動加熱電力Pelを測定または決定するステップ。
・差動熱流信号U、差動加熱電力Pel、変換係数F、および第2の較正係数CEを用いて、試料への熱流または試料からの熱流を推定するステップであって、変換係数Fおよび第2の較正係数CEはパンのタイプ、測定ガス、および測定の温度によって選択される、ステップ。
【0084】
好ましくは、試料および基準パンを取り囲む容積中の測定ガスの化学的性質および/または条件は、所望の値に適合される。
【0085】
図2を参照して説明したように、試料への熱流または試料からの熱流は、第2の較正係数C
Eと変換係数Fの値とを用いて、測定値UおよびP
elから以下のように計算することができる。
【数9】
【0086】
この場合、差動熱流信号であるUは最小化される。理想的なケースでは、これはU=0となり、変換係数Fのみが結果を導き出すために必要となる。しかし、制御が遅くなると、関連する差動熱流信号Uが発生するため、結果の評価において第2の較正係数CEを考慮する必要が生じる可能性がある。
【0087】
上で説明したように、変換係数Fは測定セットアップの幾何学的特性であり、その場での測定に使用されるセンサ装置とは無関係である。したがって、この方法により決定された熱流は、熱流が決定された機器からさらにより独立したものとなる。
【0088】
差動加熱電力Pelは、正の値または負の値を有し得る。試料が熱を生成する場合、熱は試料側で生成され、それを補うために基準側の局所ヒータ装置が制御される。一方、試料が遷移のために熱を必要とする場合、試料側の局所ヒータ装置は、このヒートシンクを補うために熱を生成し始めるように制御される。
【0089】
熱流を評価するさらなる方法の好ましい実施形態では、差動加熱電力Pelは、差動熱流信号Uの絶対値を最小化するように、ゲインkpを有する比例制御装置によって制御される。
【0090】
差動加熱電力P
elが、試料側の値から基準側の値を引いた値、すなわちP
el=P
el,S-P
el,rとなるように選択され、Uが差動熱流信号である場合、比例制御装置は、
【数10】
または
【数11】
を用いてP
el=-k
pP
DSCとなるように、試料側または基準側のヒータのいずれかを適合させる。比例制御装置のこの選択により、特定の有用なタイムスケールでUを最小化することができる。それでもなお、差動熱流信号が0から大きく異なる時間帯に行われた測定値を使用することができるため、短いタイムスケールに最適化された制御よりも、所望の値への連続的なアプローチの方が望ましい。
【0091】
好ましくは、ゲインはゲイン定数kとデフォルト第1の較正係数CHdとの比に依存し、ゲイン定数kの値は測定の所望の時間分解能に応じて選択され、デフォルト第1の較正係数CHdの値は温度、パンのタイプ、および測定ガスに応じて選択される。
【0092】
このように選択されたゲインにより、ユーザは異なる測定条件でも同じ所望の時間分解能で作業することができる。測定条件とは、例えば温度、パンのタイプ、および測定ガスである。
【0093】
特に好ましくは、試料側および基準側の局所ヒータ装置の加熱電力は、電気ヒータ装置の形態で局所ヒータ装置に供給される電圧および/または電流を制御することによって制御される。それによって、第2の較正係数CEを決定するための方法の好ましい実施形態によって決定される電気ヒータ装置の電気抵抗RS、RRが考慮される。
【0094】
この方法は、異なる温度における電気抵抗を決定することを可能にするので、その結果は、所望の差動加熱電力(Pel)を達成するために必要な電圧または電流を決定するために特に有用である。
【0095】
試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価するさらなる方法の好ましい実施形態では、第2の較正係数CEは、CEの決定から試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流の評価までの間に、試料パンまたは基準パンを取り外すことなく、第2の較正係数CEを決定する方法によって決定される。
【0096】
局所ヒータ装置が電気ヒータ装置である場合、それらの電気抵抗RS、RRは、好ましくは、第2の較正係数CEの決定中に決定される。
【0097】
この実施形態を使用することにより、結果を改善することができるパンの実際の配置を考慮することができる。
【0098】
示差走査熱量計、好ましくは自己較正型示差走査熱量計を使用して、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法のさらなる実施形態は、少なくとも1つの較正ステップと測定ステップと含む。少なくとも1つの較正ステップおよび測定ステップは、同じパンのタイプと同じ測定ガスを使用して両方とも実施される。評価ステップは、較正ステップおよび測定ステップの後に実施される。
【0099】
較正ステップは以下のステップを含む。
・較正試料を含む試料パンを試料側のパン支持領域に置くステップ。較正試料は、ある遷移温度で発熱遷移または吸熱遷移を起こすことが知られている。同じタイプの空の基準パンを基準側のパン支持領域に置く。
・好ましくは、第2の較正係数CEを決定する方法によって、または、所与の条件に対する第2の較正係数CEの以前に保存された値にアクセスすることによって、第2のデフォルト較正係数CEdを決定するステップ。
・電気ヒータが制御されて差動熱流信号が最小化されている間に、遷移温度が達成され、較正試料の遷移が起こるように熱源を制御するステップ。
・試料の遷移中に、差動熱流信号Uと同様に、試料側および基準側の局所ヒータ装置の差動加熱電力Pelを測定または決定するステップ。
・試料の遷移の時間にわたって、
○差動熱流信号Uと、
○第2のデフォルト較正係数CEdと差動加熱電力Pelとの積と、
の間の差(U-PelCEd)を積分するステップ。
・この積分値を較正試料の遷移の理論エンタルピーと比較するステップであって、この比較値は、好ましくは、積分で使用されるデフォルト第2の較正係数CEdとともに第1の較正係数CHとして保存される、ステップ。
・好ましくは、差動熱流信号と、第2のデフォルト較正係数と差動加熱電力との積と、の間の差の積分と、較正試料の遷移の理論エンタルピーとの間の比較は、それらの商を計算するなどの数学的演算によって行われる。
【0100】
測定ステップは以下のステップを含む。
・対象物質の試料を含む試料パンを試料側のパン支持領域に置き、同じパンのタイプの空の基準パンを基準側のパン支持領域に置くステップ。
・温度制御された熱源を、所望の温度プログラムにしたがうように制御するステップ。
・差動熱流信号の絶対値が最小になるように、試料側および基準側の局所ヒータ装置を制御するステップ。
・差動熱流信号Uと同様に、差動加熱電力Pelを測定または決定するステップ。
【0101】
評価ステップは以下のステップを含む。
・差動加熱電力Pel、差動熱流信号U、デフォルト第2の較正係数CEd、および較正ステップの比較結果、好ましくは第1の較正係数CHを用いて、試料への熱流または試料からの熱流を推定するステップ。
【0102】
この場合、試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流は、以下のように計算することができる。
【数12】
【0103】
好ましい実施形態では、測定ガスに囲まれたあるパンのタイプの試料パン内の試料への熱流または試料からの熱流を評価する方法において、変換係数Fは、上記パンのタイプ、および好ましくは温度制御された熱源の温度に応じて選択される。測定ガスとその特性は、好ましくは、上記パンのタイプのパン、測定ガス、および好ましくは温度制御された熱源の温度で決定された第2の較正係数CEを選択することによって考慮される。
【0104】
測定ガスの選択およびその密度または圧力などの特性は、その熱伝導率を決定する。Fを決定する理論的方法の説明でわかるように、ガスの熱伝導率は両方の項:試料支持領域とパンとの間の熱抵抗Rk、およびパンと温度制御された熱源との間の熱抵抗RLで発生する。Fにはこれら2つの抵抗の比のみが現れるため、測定ガスの熱伝導率は相殺され、熱伝導率が測定ガス中の支配的な熱伝達プロセスである限り、Fは手元の測定ガスに依存しない。
【0105】
CEを決定する方法は非常に速く、特定の試料を必要とせず、パンのタイプおよび好ましくは温度に応じてFを選択する一方、CEが測定ガスの影響を考慮することができるため、測定ガスおよびその条件を決定するために追加のセンサまたは追加のユーザ入力は必要ない。測定は、単に、その後の測定結果の評価に次いで使用されるCEの決定から開始することができる。
【0106】
自己較正型示差走査熱量計の好ましい実施形態では、センサ装置は、同じ温度制御された熱源に囲まれた容積内に配置される。好ましくは、単一の検出ユニットがセンサ装置を含む。
【0107】
このような自己較正型示差走査熱量計は、第2の較正係数CEを決定する方法に使用するのに適している。この配置により、試料側と基準側との間の対称性を確保することが特に容易になる。
【0108】
別の実施形態では、試料側のパン支持領域、試料側の測定領域、および試料側の局所ヒータ装置は、第1の検出ユニットの一部である。基準側のパン支持領域、基準側の測定領域、および基準側の局所ヒータ装置は、第2の検出ユニットの一部である。センサ装置は、この実施形態では、第1および第2の検出ユニットを含む。
【0109】
好ましい実施形態では、本実施形態の第1および第2の検出ユニットは、同じ温度制御された熱源に囲まれた容積に配置される。
【0110】
別の好ましい実施形態では、第1の検出ユニットは、第1の温度制御された熱源に囲まれた第1の容積に配置され、第2の検出ユニットは、第2の温度制御された熱源に囲まれた第2の容積に配置される。第1の温度制御された熱源および第2の温度制御された熱源は、好ましくは、それらの温度が同じになるように接続される。
【0111】
自己較正型示差走査熱量計の好ましい実施形態では、単一の、第1および/または第2の検出ユニットは、パン支持領域とは反対側の表面で温度制御された熱源に接触するように配置される。この配置により、温度制御された熱源とそれぞれの検出ユニットとの間の熱的接触が保証される一方で、温度制御された熱源に変更を加えることなく検出ユニットを交換することができる。
【0112】
別の好ましい実施形態では、単一の、第1および/または第2の検出ユニットは、その縁が温度制御された熱源に接触するように配置される一方で、パン支持領域とは反対側の表面は、温度制御された熱源に囲まれた容積に露出される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【
図1】自己較正型示差走査熱量計の極めて概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0114】
図1の図は、水平に延びるパン支持領域4rに垂直な方向に延びる平面における、自己較正型示差走査熱量計の極めて概略的な部分断面図である。温度制御された熱源の一例として、その温度T
Fが所与の温度プログラムにしたがって制御される熱源を形成する炉1が示され、センサ装置を囲む容積を囲む矩形として現れる。センサ装置は、試料側Sと、試料側Sのパン2s内の試料7の存在によってのみ異なる基準側Rと、を含む。自己較正型示差走査熱量計は、さらにデータ評価ユニット10を含む。
【0115】
図が混雑するのを避けるため、ほとんどの参照符号はセンサ装置の基準側でのみ示されているが、それぞれの構造は試料側にも存在する。同様に、熱流は試料側で図示されているが、基準側にも同様に適用される。
【0116】
センサ装置9は、試料側および基準側のパン支持領域4rを含み、試料側および基準側の測定領域は、それぞれのパン支持領域4rを取り囲む測定領域5rを横切る熱流6mを表す少なくとも1つの熱電電圧信号を出力するように動作可能な熱電装置を含む。センサ装置9は、電気ヒータ装置3rの形態の試料側および基準側の局所ヒータ装置をさらに含む。
【0117】
分析される物質である試料7を受け入れるように適合されたパン2s、2rは、センサ装置9の一部である熱伝導性パン支持領域4rによって支持される。センサ装置9は炉1と熱的に接触している。測定領域5rは、炉1とセンサ装置9との間の機械的接触が測定領域5rの一端によってのみ確立され、測定領域5rの他端は電気ヒータ装置3rおよびパン支持領域4rと熱的に接触している領域となるように配置される。
【0118】
測定領域5rによって形成された熱伝導性部材は、これによって炉1とパン支持領域4rとの間に熱流路6mを確立する。この熱流路6mは、以下では測定熱流路6mと呼ばれ、その特性は添え字「m」で示される。
【0119】
測定領域5に描かれた円は、パン位置の周りを蛇行する熱電装置の旋回領域に位置する熱電接合を象徴している。この構成により、熱電装置はそこを横切って流れる測定熱流6mを表す熱電電圧信号を生成する。この熱電電圧信号は熱流信号の一実施形態である。熱電装置は、測定領域センサの一実施形態である。
【0120】
電気ヒータ装置3rは、それぞれのパン支持領域4rの下に配置されている。直線矢印は、電気ヒータ装置3rの領域からそれぞれのパン2r、2sに向かう熱流を象徴する。この熱流路6kは、以下では接触熱流路6kと呼ばれ、その特性は添え字「k」で示される。
【0121】
測定熱流6mおよび接触熱流6kの他に、それぞれのパン2s、2rは、センサ装置9とパン2と炉1との間の容積を満たす測定ガス8を介して炉1と熱的に接触している。この熱流路6lも直線矢印で示されている。これは、以下ではガス熱流路6lと呼ばれ、その特性は添え字「l」で示される。
【0122】
典型的な示差走査熱量計では、全体的な装置は、試料側と基準側の両方にあり、それぞれのパン支持領域4rに垂直な中心軸に関して軸対称であるため、試料側および基準側のパン支持領域4rの両方が円形の外周を持ち、それぞれの熱電装置は、熱電接合の内側同心円と熱電接合の外側同心円との間を蛇行し、それによって、それぞれのパン支持領域を取り囲む投影リング状に現れる試料側の測定領域5rと基準側の測定領域5rとを形成する。
【0123】
熱量計の試料側部分と基準側部分のそれぞれは、
図2に示す回路図のようにモデル化することができる。このモデルは、電気系と熱系との間のアナロジーを用いている。温度差は電圧としてモデル化され、熱流は電流としてモデル化される。熱抵抗は電気抵抗としてモデル化され、熱容量は電気容量としてモデル化される。加熱電力を生成するヒータは電流源としてモデル化される。温度制御された熱源は、電気回路におけるグラウンドと同様の機能を持つ。
【0124】
自己較正型示差走査熱量計の異なる部分の表現は、それぞれの部分のダッシュ付き参照番号で示されている。
【0125】
この回路図において、TFは炉1’の温度を示し、TTは試料/基準パン2’の温度を示す。Tmはパン支持領域4’の温度を示す。炉1’とパン支持領域4’との間の測定熱流6m’は測定抵抗Rmを通り、炉温度レベルTfとパン支持領域温度レベルTmとの間の温度差によって駆動される。これに並列に、測定領域5rの熱容量Cmが接続される。
【0126】
熱接触抵抗Rkは、温度Tmのパン支持領域とパン温度TTのパンとの間の接触熱流を特徴付ける。この熱接触抵抗Rkは、パン支持領域とその上に堆積したパンとの間の避けられない隙間によって支配される。接触抵抗Rkを通るのは接触熱流路6k’である。
【0127】
ガス抵抗RLは、炉温度Tfの炉1’とパン温度TTのパンとの間のガス熱流路6l’を特徴付ける。ガス抵抗RLは、熱量計の形状と測定ガス8’に依存する。ガス抵抗RLに並列に接続されるのは、試料/基準パン2’の熱容量CTである。
【0128】
P*
elは、試料/基準位置に供給される熱の流れ、または電気ヒータ装置3’を通電することによって生じる加熱電力を表す。PSは、試料パン2s内で受けた試料7’による熱流を象徴する。P*
DSCは、測定抵抗Rmを通して測定熱流6m’を測定する。
【0129】
それぞれの測定領域、または両方の測定領域によって、好ましくは熱電装置によってそれぞれ生成される熱流信号Us、Urまたは差動熱流信号U=Us-Urは、生の測定結果の1つであり、試料7’の所望の特性を決定するための基礎である。別の生の測定結果は、電気ヒータ装置3’を通電することによって生成される熱流P*
elとすることができる。
【0130】
図2に示すモデルは、試料側と基準側の両方に使用できる。両者の違いは、基準側には試料がないために、基準側ではP
*
S=0であるのに対し、試料側ではP
*
S=P
Sであるという事実のみである。
【0131】
以下では、Pel,sおよびPel,rは、それぞれ基準側における試料での電気ヒータ装置3’を通電することによって生成される加熱電力を指し、すなわち基準側ではP*
el=Pel,rであり、試料側ではP*
el=Pel,sである。以下において、Pelは、電気ヒータ装置を通電することによって生成される差動加熱電力を示すべきであり、すなわち、Pel=Pel,s-Pel,rである。
【0132】
以下において、PDSCsおよびPDSCrは、それぞれ基準側における試料での熱流を表し、すなわち基準側ではP*
DSC=PDSCrであり、試料側ではP*
DSC=PDSCsである。以下において、PDSCは差動熱流を表し、すなわち、PDSC=PDSCs-PDSCrである。
【0133】
以下の式
【数13】
【数14】
は、この熱回路モデルにおける熱収支を記述する。定常状態では、炉と試料側のパン支持領域の温度T
TおよびT
mとの時間微分はそれぞれゼロである。さらに、オームの法則によれば、
T
m-T
F=P
*
DSCR
m (3)
となる。上記の式(1)から(3)を組み合わせると、
【数15】
になる。
【0134】
本発明の一実施形態では、試料側および基準側の電気ヒータ装置は、差動測定熱流を最小化するように制御される。この制御が完璧であれば、P
DSC=P
DSC,s-P
DSC,r=0となる。基準側には試料がないため、いかなる熱も発生させることができず、したがって基準側ではP
*
S=0となる。これらの関係から、式(4)は、電気ヒータ装置の差動加熱電力P
el(P
el=P
el,s-P
el,r)を使用して表すことができる。
【数16】
【0135】
本発明の別の実施形態では、試料側の電気ヒータ装置も基準側の電気ヒータ装置も通電されない。この場合、P
*
el=P
el,s=P
el,r=0となる。基準側には試料がないため、いかなる熱も発生させることができず、したがって基準側ではP
*
S=0となる。これらの関係から、式(4)は差動熱流(P
DSC=P
DSC,s-P
DSC,r)を使用して表すことができる。
【数17】
【0136】
本発明のさらなる実施形態では、試料側および基準側の電気ヒータ装置は通電されるが、測定領域を通る差動熱流を無視できるほど小さくするのに十分ではない。このような場合、式(4)は以下のようになる。
【数18】
【0137】
最後に、試料によって生成される熱がない(試料側と基準側の両方でP
*
S=0)が、基準側または試料側のいずれかで局所加熱装置によってのみ生成される加熱電力がある場合、式(7)から以下の関係が得られる。
【数19】
【0138】
しかし、式(5)から式(7)を評価するためには、一方では異なる熱抵抗項を記述し、他方では測定または決定された差動熱流信号Uを差動熱流PDSCにリンクさせるための較正係数が必要である。
【0139】
第1の較正係数は、試料として、ある確立された基準物質の遷移を測定している間に検出された差動熱流信号Uと、所与の測定条件におけるこの確立された基準物質の既知の熱流値P
Sと、の比として記述することができる。この測定中、電気ヒータ装置は使用されない。この第1の較正係数は
【数20】
となるように定義される。
【0140】
同様に、第2の較正係数は、電気ヒータ装置で、ある既知の差動熱流P
elを生成しながら測定された差動熱流信号Uと、この既知の差動熱流P
elと、の比として記述することができる。この測定中、試料によって熱は生成されない。この第2の較正係数は
【数21】
となるように定義される。
【0141】
局所ヒータによる加熱電力がない場合の状況を記述する式(6)の数学的関係を適用することにより、第1の較正係数C
Hはしたがって以下のように表すことができる。
【数22】
ここで、測定された差動熱流信号、例えば熱電電圧信号と熱流との間の変換係数は、
【数23】
である。
【0142】
試料による加熱電力がない場合の状況を記述する式(8)の数学的関係を適用することにより、第2の較正係数C
Eはしたがって以下のように表すことができる。
【数24】
式(11)および式(12)は、第1および第2の較正係数が、測定領域の熱抵抗R
mによって、および変換係数αによって特徴付けられる測定領域およびセンサ装置の詳細に依存することを示している。
【0143】
しかし、2つの較正係数の比Fは、測定領域およびセンサ装置に依存せず、接触抵抗R
kとガス抵抗R
Lとの比のみで決められ、またそれに依存する。
【数25】
【0144】
このようにセンサ装置から独立することで、ある所与のタイプの示差走査熱量計1台で、起こりうる測定条件のセットに対して係数Fを決定することができ、同じタイプの他の装置、または同じ装置でセンサ装置を交換した後のデータを再利用することができる。
【0145】
接触抵抗は、パンとパン支持領域との間の薄いガス層の抵抗によって支配され、このガスはガス抵抗の原因となる測定ガスであるため、測定ガスの比熱伝導率は、分率Rk/RLを相殺し、Fは近似的に炉内のパンの形状を記述する数値とみなすことができる。これによって、例えばコンピュータシミュレーションによってFを理論的に計算することができる。
【0146】
さらに、このように観察されたようにセンサ装置から独立することで、同じタイプのパンを使用した異なる測定でも同じF値を使用することができる。異なる温度および異なる測定ガスに較正を適応させるために、センサ装置の片側に電気ヒータ装置を使用することにより、第2の較正係数CEを決定することができる。
【0147】
CHとは対照的に、CEを決定するには基準物質を必要としない。そのため、CEは基本的にあらゆる所望の温度で求めることができるが、CHを決定することができる温度は既知の基準物質の遷移温度に限定される。Fは温度にほぼ依存しないため、CEとFとを用いることで、CHを直接測定できない温度に対するCH値を補間することができる。
【0148】
試料への熱流または試料からの熱流を評価するために、第1および第2の変換係数と調整係数Fを用いて、式(7)、式(11)および式(13)を組み合わせると、
【数26】
のようになる。
【0149】
これは、C
EおよびFの知識のみを必要とするように書き直すことができる。
【数27】
【0150】
ユーザは、測定中に電気ヒータ装置を使用するか、差動熱流信号Uの絶対値を最小化するように制御された電気ヒータ装置を使用するか、または電気ヒータ装置を全く使用しないかを選択することができる。この選択により、UまたはPelは0に設定されるか、または測定され考慮される必要がある場合がある。好ましい実施形態では、Fはパンのタイプに基づいて選択され、CEは試料の測定前または測定後に決定される。これにより、測定が行われる、または行われるべき温度、ならびに測定ガスおよび測定中のその条件に正確に適応することができる。
【0151】
本実施例では、較正係数の計算および定義を読みやすい形式の数式を用いて説明した。自己較正型示差走査熱量計におけるFの使用およびCEの決定の実施において、計算は、例えば、測定された熱流信号Uから測定熱流PDSCを計算し、試料への熱流または試料からの熱流を決定するためにUの代わりにこれらのPDSC値を使用するなどの中間結果を提供することによって変化することがある。さらに、本発明を実現するために、第1および第2の較正係数の、ならびに/またはFの逆数を使用することができる。微分量の符号の選択にはさらなるバリエーションが可能である。したがって、第2の較正係数は、好ましくは、局所ヒータ装置の使用によってパン支持領域に差動加熱電力を印加し、この値を測定された差動熱流信号Uと比較することによって決定される任意の較正係数である。さらに、変換係数Fは、好ましくは、熱接触抵抗と熱ガス抵抗との比を特徴付ける任意の係数である。
【符号の説明】
【0152】
1 炉
2 パン(s:試料、r:基準)
3 電気ヒータ装置(s:試料、r:基準)
4 パン支持領域(s:試料、r:基準)
5 熱電接合を有する測定領域
6 熱流路
6m 測定熱流路
6k 接触熱流路
6l ガス熱流路
7 試料
8 測定ガス
9 センサ装置
10 データ評価ユニット
【外国語明細書】