(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054103
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】酸性ガスからの硫化水素の捕捉についての選択率及び能力を増大させる方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240409BHJP
C01B 17/16 20060101ALI20240409BHJP
C10L 3/10 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
C01B17/16 P
C10L3/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024000236
(22)【出願日】2024-01-04
(62)【分割の表示】P 2021168562の分割
【原出願日】2016-12-02
(31)【優先権主張番号】14/980,634
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523025539
【氏名又は名称】エクソンモービル テクノロジー アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(71)【出願人】
【識別番号】598159816
【氏名又は名称】バスフ
【氏名又は名称原語表記】BASF
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーラ・エス・ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・シスキン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・イングラム
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルト・ボルベルグ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・エルネスト
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CO2も含むガス混合物からH2Sを選択的に分離する方法が開示される。
【解決手段】ガス混合物の流れを、1つ以上のアミン、アルカノールアミン、ヒンダードアルカノールアミン、キャップされたアルカノールアミン、又はそれらの混合物を含む吸収剤溶液と接触させる。吸収剤溶液のH2S/CO2選択率は、好ましくは、約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して約4.0より大きく、吸収剤溶液のpHを低下させることによって達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO2も含むガス混合物からH2Sを選択的に分離する方法であって、
ガス混合物の流れを1つ以上のアミンを含む吸収剤溶液と接触させることを含み、
約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、吸収剤溶液のH2S/CO2選択率は約4.0より大きい、方法。
【請求項2】
1つ以上のアミンが、アミン、アルカノールアミン、立体障害アルカノールアミン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
立体障害アルカノールアミンが、キャップされたアルカノールアミンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アミンが、メトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アミンが、エトキシエタノール-t-ブチルアミン(EETB)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アミンが、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、吸収剤溶液のH2S/CO2選択率が約5.0より大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
CO2も含むガス混合物からH2S吸収のための吸収方法の選択率を増加させる方法であって、吸収方法が1つ以上のアミンを含む吸収剤溶液を有し、該方法が吸収剤溶液のpHを低下させることを含む、方法。
【請求項9】
pH低下工程が、吸収剤溶液を希釈することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
pH低下工程が、吸収剤溶液に酸を添加することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
酸がリン酸及び硫酸から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1つ以上のアミンが、アミン、アルカノールアミン、立体障害アルカノールアミン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
立体障害アルカノールアミンが、キャップされたアルカノールアミンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アミンがM3ETBである、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
アミンがEETBである、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
アミンがMDEAである、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
CO2も含むガス混合物からH2Sを選択的に分離する方法であって、
ガス混合物の流れをメトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)を含む吸収剤溶液と接触させることを含み、
吸収剤溶液中のM3ETB濃度は約36重量%未満である、方法。
【請求項18】
吸収剤溶液中のM3ETB濃度が25~30重量%の間である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、吸収剤溶液のH2S/CO2選択率が約5.0より大きい、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
CO2も含む原料ガス流からH2Sを選択的に吸収するためのシステムであって、
原料ガス流を水性アミン流と向流で接触させて、原料ガス流からのH2Sの少なくとも一部を含む使用済みアミン流を生成するための吸収塔、及び
再生されたアミン流及び脱着された酸性ガス流を生成するための再生塔
を備え、約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、水性アミン流のH2S/CO2選択率が約4.0より大きい、システム。
【請求項21】
約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、水性アミン流のH2S/CO2選択率が約5.0より大きい、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
水性アミン流が、約36重量%未満の濃度のメトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)を含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
水性アミン流中のM3ETB濃度が25~30重量%の間である、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
水性アミン流のpHを低下させることによってH2S/CO2の選択率を増加させる、請求項20に記載のシステム。
【請求項25】
水性アミン流中のアミン濃度を低下させることによって前記pHを低下させる、請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景)
本発明は、天然ガス及び他のガス流から酸性ガスを除去する方法に関する。特に、本発明は、水性アミン吸収剤を用いて天然ガス流から硫化水素を除去することについての選択率及び能力を増大させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素、硫化水素、硫化カルボニル等の酸性ガスを除去するために、多数の技術が利用できる。これらの方法には、例えば、化学吸収(アミン/アルカノールアミン)、物理吸収(溶解度、例えば、有機溶媒、イオン液体)、低温蒸留(ライアン・ホルムズ(Ryan Holmes)法)、及び膜システム分離が含まれる。これらの中でも、アミン分離は、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)、ジイソプロピルアミン(DIPA)、ジグリコールアミン(DGA)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)及びピペラジン(PZ)のような様々なアミン/アルカノールアミン吸収剤を用いて多数の競合方法が手元で行われている高度に開発された技術である。これらのうち、MEA、DEA、及びMDEAが最も一般的に使用されているものである。精製方法にアミンを使用する酸性ガス除去方法は、通常、ガス混合物を吸収塔中のアミンの水溶液と向流で接触させることを含む。次いで、液体アミン流は別個の塔において吸収されたガスの脱着によって再生され、再生されたアミン及び脱着されたガスが別個の流れとして塔から出る。入手可能な様々なガス精製方法は、例えば、ガス精製(Gas Purification)、第5版、Kohl及びNeilsen、Gulf出版社、1997、ISBN-13:978-0-88415-220-0に記載されている。
【0003】
CO2の除去を最小限に抑えながら、混合物からH2Sを選択的に除去するために、CO2及びH2Sの両方を含む酸性ガス混合物を処理することがしばしば必要であり又は望ましい。腐食の問題を避け、消費者に必要な発熱量を提供するためにCO2の除去が必要である場合もある一方で、選択的なH2S除去が必要であり又は望ましい場合がある。例えば、天然ガスパイプライン仕様では、H2SはCO2よりも毒性が高く、腐食性が高いため、H2S濃度にはCO2と比較してより厳しい制限が設定される。即ち、一般的なキャリアの天然ガスパイプライン仕様では、H2S含有率を通常4ppmvに制限しており、CO2には2体積%でより甘い制限が課されている。H2Sを選択的に除去することにより、より経済的な処理プラントを使用することができ、選択的H2S除去は、硫黄回収ユニットへの供給物中のH2S濃度を富ませるために望ましいことが多い。
【0004】
ヒンダードアミン吸着剤との反応速度論は、H2Sが吸着剤のアミン基とより迅速に反応して水溶液中に水硫化物塩を形成することを可能にするが、二酸化炭素は、前に吸収された水硫化物塩から硫化水素を置換し得る。何故ならば、吸収された硫黄種とCO2との平衡に達する拡張された気-液接触の条件下では、二酸化炭素は水溶液中で硫化水素よりもわずかに強い酸であるからであり(H+及びHCO3
-への最初のイオン化段階のイオン化定数は、対応する硫化水素のイオン化の場合の1×10-7と比較して、25℃で約4×10-7である)、その結果、ほぼ平衡状態下で、選択的H2S除去が問題となり、流出生成物ガス流中の過剰なH2S濃度の危険性が提示される。
【0005】
塩基性アミン法の改良は、立体障害アミンの使用を含む。例えば、米国特許第4,112,052号は、CO2及びH2Sを含む酸性ガスをほぼ完全に除去するためのヒンダードアミンの使用を記載する。.米国特許第4,405,581号、同第4,405,583号、同第4,405,585号及び同第4,471,138号には、CO2の存在下でH2Sを選択的に除去するための、高度に立体障害のあるアミン化合物の使用が開示されている。水性MDEAと比較して、高度に立体障害のあるアミンは、高いH2S充填量においてはるかに高い選択率をもたらす。これらの特許に記載されたアミンには、ターシャリー-ブチルアミン及びビス-(2-クロロエトキシ)-エタンから合成されたBTEE(ビス(ターシャリー-ブチルアミノ)-エトキシ-エタン)及びターシャリー-ブチルアミン及びクロロエトキシエトキシエタノールから合成されたEEETB(エトキシエトキシエタノール-ターシャリー-ブチルアミン)が挙げられる。米国特許第4,894,178号は、BTEE及びEEETBの混合物がCO2からのH2Sの選択的分離に特に有効であることを示す。米国特許第8,486,183号は、CO2からH2Sを分離するための選択的吸着剤としてのアルコキシ置換エーテルアミンの調製を記載する。
【0006】
ヒドロキシル基の存在は、広く使用されている水性溶媒系における吸収剤/酸性ガス反応生成物の溶解度を改善する傾向があり、そのため従来の吸収塔/再生塔ユニットを介する溶媒の循環を容易にするので、上記のようなヒドロキシル置換アミン(アルカノールアミン)を使用することが一般的である。しかし、この優先傾向は、特定の状況においてそれ自身の問題を提示する可能性がある。現在のビジネスの推進力は、隔離の前に酸性ガスを再生及び再圧縮するためのコストを削減することである。天然ガスシステムでは、酸性ガスの分離は、約4,800~15,000kPa(約700~2,200psia)、より典型的には約7,250~8,250kPa(約1050~1200psia)の圧力で起こり得る。アルカノールアミンはこれらの圧力で酸性ガスを効果的に除去する一方で、H2S除去の選択率は、液体溶媒中でのCO2の直接物理吸着及びアミン化合物上のヒドロキシル基との反応の両方によって顕著に低下することが予想できる。CO2はアミノ窒素と優先的に反応するが、より高い圧力により酸素との反応が余儀なくされ、より高い圧力下ではヒドロキシル部位での反応によって形成される重炭酸塩/ヘミ炭酸塩/炭酸塩反応生成物は、圧力の上昇に伴うH2S選択率の累進的な損失によって安定化される。この効果は、例えば、MDEA(N-メチルジエタノールアミン)で知覚することができる。例えば、水溶液中の5M MDEAは、周囲条件下で二酸化炭素を吸収しないが、窒素に水硫化物塩を形成する。しかし、おそらくヒドロキシル基のO-炭酸化のために、高いCO2圧力でH2S/CO2選択率が大幅に低下する。
【0007】
【0008】
第二級アミノエーテルであるエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(EEETB)でも同様の傾向が観察される。即ち、H2Sに対して低い親和性を有するヒドロキシル基によって相当量のCO2を吸収することができるが、低圧では、この吸収剤は、ヒンダード第二級アミン基とのより速い反応に基づいてCO2よりもH2S選択率を提供する。しかし、より高い圧力では、O-炭酸化の反応収率が増加し、ヒンダード第二級アミンによって達成されるH2S/CO2選択率が抑制される。
【0009】
【0010】
米国特許出願公開第2015/0027055号は、CO2も含み、非常に低いCO2溶解度を維持しながら高圧(10バールより大きい)で再生することができるガス混合物からH2Sを選択的に吸収することができる吸収剤系を記載する。吸収剤としては、N-(2-メトキシエチル)-N-メチル-エタノールアミン(MDEA-(OMe)、ビス-(2-メトキシエチル)-N-メチルアミン(MDEA-(OMe)2)、2-アミノ-プロプ-1-イルメチルエーテル(AP-OMe)、2-メチル-2-アミノ-プロプ-1-イルメチルエーテル(AMP-OMe)、2-N-メチルアミノ-プロプ-1-イルメチルエーテル(MAP-OMe)、2-N-メチルアミノ-2-メチル-プロプ-1-イルメチルエーテル(MAMP-OMe)、2-N-エチルアミノ-2-ジメチル-プロプ-1-イルメチルエーテル(EAMP-OMe)、2-(N,N-ジメチルアミノ)-エチルメチルエーテル(DMAE-OMe)、及びメトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)を始めとする、キャップされたアルカノールアミン、即ち、1つ以上のヒドロキシル基がキャップされ、又はエーテル基に変換されたアルカノールアミンを挙げることができる。吸収剤としては、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,4-ジメチルピラジン、1-メチルピペリジン、2-メチルピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、それらのヒドロキシアルキル、例えば、ヒドロキシエチル誘導体、及びそれらの混合物等のグアニジン、アミジン、ビグアナイド、ピペリジン、ピペラジン等を始めとする、より塩基性の立体障害のある第二級及び第三級アミンを挙げることができる。
【0011】
吸収剤におけるこれらの進歩にもかかわらず、広い範囲の充填量にわたってH2Sに対する高い選択率及び吸収能力を維持する吸収剤系が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,112,052号明細書
【特許文献2】米国特許第4,405,581号明細書
【特許文献3】米国特許第4,405,583号明細書
【特許文献4】米国特許第4,405,585号明細書
【特許文献5】米国特許第4,471,138号明細書
【特許文献6】米国特許第4,894,178号明細書
【特許文献7】米国特許第8,486,183号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2015/0027055号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ガス精製(Gas Purification)、第5版、Kohl及びNeilsen、Gulf出版社、1997、ISBN-13:978-0-88415-220-0
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(概要)
吸収剤系のpHを制御することにより、CO2も含むガス混合物からH2Sを除去するための改善された選択率を達成することが可能であることを、我々は今や見出した。本発明によれば、アミン/アルカノールアミン吸収剤系のpHを低下させる方法は、吸収の化学量論を最大にするために炭酸塩及び/又は水硫化物の形成に対して重炭酸塩を助長するために利用される。本発明の第1の態様では、アミン/アルカノールアミン吸収剤の濃度が低下され、これによりのより低いpHを有する系がもたらされる。本発明の第2の態様では、アミン/アルカノールアミン吸収剤系のpHは、系に酸を添加することによって低下される。より低いpHにより、重炭酸塩の形成が助長され、酸性ガス(H2S及びCO2)充填量が増加し、広い充填量範囲にわたってCO2よりもH2Sの選択率が増加する。本発明において有用であると判明した特定のアミンは、アミン及びアルカノールアミン、好ましくは立体障害アミン及びアルカノールアミン、最も好ましくはメトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)のようなキャップされた立体障害アミンである。
【0015】
本発明によれば、CO2も含むガス混合物からH2Sを選択的に分離する方法であって、該方法はガス混合物の流れを1つ以上のアミンを含む吸収剤溶液と接触させることを含み、約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量(モル(CO2+H2S)/モル(アミン))に対して、吸収剤溶液のH2S/CO2選択率は約4.0より大きく、好ましくは約5.0より大きい。このような方法はまた、比較的低い酸性ガス充填量(0.3[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)まで)で優れたH2S選択率を示す。
【0016】
本発明のさらなる利点は、化学的コストの削減(アミンの使用の減少に直接関係する)、循環エネルギーの減少をもたらす粘度の低下、吸収剤系の腐食性の低下、及び減少した容量のアミンの再生に必要なエネルギーの低減を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】異なる濃度のM3ETB水溶液を用いた、酸性ガス充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。
【
図2】M3ETB水溶液による処理時間の関数としてのCO
2吸収のプロットである。
【
図3】M3ETB水溶液による処理時間の関数としてのH
2S吸収のプロットである。
【
図4】表1に識別された異なるアミン溶液を用いた、総酸性ガス充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。
【
図5】アミン溶液の容量当たりの総酸性ガス充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。
【
図6】リン酸を含む及び含まない36重量%のM3ETB溶液を用いた、処理時間の関数としてのCO
2及びH
2S吸収のプロットである。
【
図7】リン酸を含む及び含まないM3ETB水溶液を用いた、総充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。
【
図8】リン酸を含む及び含まない36重量%MDEA溶液を用いた、処理時間の関数としてのCO
2及びH
2S吸収のプロットである。
【
図9】リン酸を含む及び含まないMDEA水溶液を用いた、総充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳細な説明)
酸性ガス処理の分野における従来の常識は、一般に第三級アミンが水溶液中でのCO2との反応において重炭酸塩を優先的に形成することである。立体障害のある第二級アミンもまた、CO2とのカルバメートを形成することができるが、重炭酸塩経路は、立体障害が増加するので好ましい経路になる。第三級の立体障害アミンを使用する吸収剤系では、以下に示すように重炭酸塩と炭酸塩形成との間に急速な平衡が存在することはよく知られている。
【0019】
【0020】
アミン基との1:1の化学量論のために、重炭酸塩経路は、それが酸性ガス除去方法におけるCO2の吸収及びメルカプチド塩としてのH2Sの選択率の向上を助長するのでより望ましい。しかし、水溶液中のアミンの最初の充填量の約12の高いpHでは、炭酸塩形成が助長されるが、それは酸性ガス捕捉のために2つのアミン分子を結び付け、より好ましくない0.5:1の化学量論を提供する。さらに、より高いアミン濃度では、利用可能な水がより少なく、より高いpHが促進される。
【0021】
本明細書では、ヒンダードアミン/アルカノールアミン吸収剤系のpHを制御/低減して、吸収の化学量論を最大にするために炭酸塩及び/又は水硫化物の形成に対して重炭酸塩を助長する方法を説明する。
【0022】
本発明の第1の態様では、ヒンダードアミン/アルカノールアミン吸収剤系のpHが低下する。本明細書で以下に示すように、この低下したpHにより、重炭酸塩形成が助長され、酸性ガス(H2S及びCO2)充填量が増加し、広い充填量範囲にわたってH2S/CO2の選択率が高められる。
【0023】
本発明の第2の態様では、ヒンダードアミン/アルカノールアミン吸収剤の濃度が低下し、必然的により低いpHを有する希釈アミン溶液がもたらされる。本明細書で以下に示すように、この低下したpHにより、重炭酸塩形成が助長され、酸性ガス(H2S及びCO2)充填量が増加し、広い充填量範囲にわたってH2S/CO2の選択率が高められる。
【0024】
ヒンダードアミン/アルカノールアミン吸収剤の濃度を低下させる効果は、予想外で直観に反する。伝統的に、吸収を増加させるためには吸収剤濃度を増加させるよう努力する。以下に示すように、溶液中のヒンダードアミン/アルカノールアミン吸収剤の重量パーセンテージを低下させると、形成され得る炭酸塩の量が効果的に減少し、重炭酸塩及び水硫化物として酸性ガス回収に利用できる遊離アミンの量が増加する。H2Sの吸収は速度論的により速いので、HCO3
-の形成の選択率はHCO3
-の形成より有利である。本発明のさらなる利点には、(ヒンダードアミン/アルカノールアミン使用の減少に直接関係する)化学的コストの削減、循環エネルギーの減少をもたらす粘度の低下、吸収剤系の腐食性の低下、及びより高い充填量(1:1)化学量論)を再生するのに必要とされるエネルギーの減少が挙げられるが、ヒンダードアミン/アルカノールアミンの容量の減少も挙げられる。
【実施例0025】
上記のより深い理解を提供するために、以下の非限定的な例が提供される。実施例は特定の実施態様を対象とすることができるが、それらはいかなる特定の点においても本発明を限定するものと見なすべきではない。
【0026】
以下の実験及び分析方法を実施例で使用した。方法の吸収ユニット(PAU)は、水飽和器、その中にガスをアップフローモードで供給することができる撹拌オートクレーブ、及び凝縮器を含むセミバッチシステムである。オートクレーブには圧力計とJ型熱電対が設けられる。安全破裂ディスクがオートクレーブヘッドに取り付けられる。高いワット数のセラミックファイバーヒーターを使用してオートクレーブに熱を供給する。ガス流はブルックス(Brooks)マスフローコントローラによって調整され、凝縮器の温度は冷却器によって維持される。PAUの最大使用圧力及び温度は、それぞれ1000psi(69バール)と350℃である。
【0027】
大気圧での運転中、オートクレーブの底に設置されたコール-パーマー(Cole-Parmer)pHプローブを使用して、溶液のpHをその場で監視する。このpHプローブは、それぞれ135℃及び100psiの最高温度及び圧力によって制限される。したがって、圧力下で実験を行う前に、pHプローブを除去し、オートクレーブに蓋をする。大気圧及び圧力運転の両方において、液体試料を、バイアル(大気中)又はステンレス鋼シリンダー(圧力運転)に直接収集する。
【0028】
PAU操作を制御し、実験データ(温度、圧力、撹拌速度、pH、ガス流量、及びオフガス濃度)を取得するために、カスタムLabVIEWプログラムを使用する。
【0029】
以下に記載される実験は、アミン溶液が予め充填されたオートクレーブに試験酸性ガス混合物を流すことによって実施した。酸性ガス混合物を、水飽和器を通過させて反応器の底部に供給した。同伴された液体を除去するために、オートクレーブを出るガスを凝縮器(10℃に維持)に移した。主ガス流がスクラバーを通過する間、凝縮器を出るオフガスのスリップ流を分析のためにミクロンGC(Inficon)にパイプで送った。ブレークスルーに達した後、窒素を用いて系をパージした。
【0030】
オフガスの組成を特注のマイクロGCを用いて測定した。マイクロGCは精製ガス分析装置として構成され、4つのカラム(モレキュラーシーブ、PLOT U、OV-1、PLOT Q)及び4つのTCD検出器を備える。オフガスのスリップ流を約2分毎にマイクロGCに注入した。小型の内部真空ポンプを使用して、試料をマイクロGCに移した。試料目標とマイクロGCとの間のラインフラッシュ量を10倍にするために、公称ポンプ速度は約20mL/分であった。マイクロGCに注入された実際のガスは約1μLであった。PLOT Uカラムを用いてH2S及びCO2を分離及び同定し、マイクロTCDを用いてH2S及びCO2を定量した。
【0031】
以下の表1は、実施例1のために水(MW=18g/モル;密度=1g/cm3)中で調製した各アミン溶液を識別する。
【0032】
【0033】
[実施例1-選択率の研究]
3つの異なるアミンを使用して、実施例1のアミン吸収剤溶液を調製した。N-メチルジエタノールアミン(MDEA)は、以下の構造を有する市販の従来のアミン処理吸収剤である。
【0034】
【0035】
エトキシエタノール-t-ブチルアミン(EETB)は、以下の構造を有する市販の高度に立体障害のあるアミン処理吸収剤である。
【0036】
【0037】
メトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)は、メチルキャップされた立体障害アミンである。
【0038】
【0039】
実施例1の試験条件は以下の通りである。即ち、ガス供給組成:10モル%CO2、1モル%H2S、残部N2;ガス流量:154sccm;温度:40.8℃、圧力:1バール、容量:15mL;攪拌速度:200rpm。
【0040】
図1は、異なる濃度のM3ETB水溶液を用いた、酸性ガス充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。
図2は、M3ETBの水溶液による処理時間の関数としてのCO
2吸収のプロットである。
図3は、M3ETBの水溶液による処理時間の関数としてのH
2S吸収のプロットである。
【0041】
以下の結論は、
図1~3のプロットされたデータから容易に明らかである。
図1の30重量%のM3ETB溶液の初期のより低い選択率(0.2モル/モル アミンまで)は、49.5及び35.8重量%のM3ETB溶液と比較して、より高いCO
2及びH
2Sのピックアップ(それぞれ
図2及び3)によるものである。しかし、30重量%溶液のより高い選択率(0.2モル/モル アミン超)は、49.5及び35.8重量%のM3ETB溶液と比較して、主として著しくより高いH
2Sのピックアップによるものである。H
2Sのピックアップのこの増加(
図3)は、炭酸塩形成に対する初期の重炭酸塩形成の増加に直接関係し、H
2S捕捉のためのより多くの遊離アミンをもたらす。重要なことに、
図1は、30重量%のM3ETB溶液が、49.5及び35.8重量%のM3ETB溶液と比較して、0.2~0.6の商業的に望ましい酸性ガス充填範囲に対して、H
2S/CO
2の全体的に高い選択率をもたらすことをさらに示す。
【0042】
図4は、表1に識別された異なるアミン溶液を用いた、総酸性ガス充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。これらの選択率曲線は、H
2Sに対するMDEAの選択率が一般に、より高度に立体障害のある第二級アミンEETB及びM3ETBから得られるよりも低いことを示す。これは、MDEAが第三級の、より塩基性の低いアミンであることから予想される。
図5に示すように、観察されたMDEA酸性ガス充填量は、より立体障害のあるアミンEETB及びM3ETBの充填量よりも大幅に低い。
【0043】
さらに、
図4は、36重量%の濃度のEETBに対する水中の様々なM3ETB濃度のH
2S選択率を比較することを可能にする。49.5重量%のM3ETB溶液は、EETBの36重量%溶液と比較して、より低い酸性ガス充填量(約0.3モル/モル アミンまで)に対してより高いH
2S選択率を提供する。36重量%のM3ETB溶液は、より広い範囲の酸性ガス充填量(約0.55モル/モル アミンまで)にわたりさらにより高いH
2S選択率を提供し、より低い酸性ガス充填量(約0.3モル/モル アミンまで)に対して最高のH
2S選択率を提供する。30重量%のM3ETB溶液は、より高い酸性ガス充填量(約0.65モル/モル アミンまで)までさらにより高い選択率を提供する。当業者には容易に理解できるように、これらの希釈されたM3ETB溶液の各々は、より高い酸性ガス充填量まで改善されたH
2S選択率を提供し、特定の酸性ガス除去用途に適合するように予測可能に調整することができる。
【0044】
図5は、アミン溶液の容量当たりの総酸性ガス充填量の関数としての、H
2S/CO
2の選択率のプロットである。M3ETB溶液は、MDEA及びEETBよりも、容量当たりのより高い酸性ガス充填量(約0.8モル/L 溶液)まで、H
2Sを除去するより高い能力を有する。当業者には容易に理解できるように、これは、希釈されたM3ETB溶液を使用した場合の循環速度の低下による潜在的なエネルギーの節約を表す。
【0045】
[実施例2-M3ETB pHの研究]
M3ETBを用いて2つのアミン溶液、即ち、いずれも水中において36重量%のM3ETBを含む第1の溶液、及び36重量%のM3ETBと0.5重量%のH3PO4とを含む第2の溶液を調製した。実施例2の試験条件は以下の通りである。即ち、ガス供給組成:10モル%CO2、1モル%H2S、残部N2;ガス流量:154sccm;温度:40.8℃、圧力:1バール、容量:15mL;攪拌速度:200rpm。
【0046】
リン酸がM3ETBの酸性ガス吸収挙動に及ぼす影響は、
図6及び
図7に見ることができる。
図6は、リン酸を含む及び含まない36重量%のM3ETB溶液についての処理時間の関数としてのCO
2及びH
2S吸収のプロットである。
図7は、リン酸を含む及び含まないM3ETB水溶液を用いた、総充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。リン酸の存在は、CO
2及びH
2Sガスの両方の充填量を増加させ、それにより選択率に影響を及ぼす。この結果は、実施例1の先の結論と一致して、重炭酸塩形成がより低いpHでは助長され、それにより迅速なH
2S捕捉に利用可能な溶液中の遊離アミン濃度が増加する。
【0047】
[例3-MDEA pHの研究(比較)]
MDEAを用いて2つのアミン溶液、即ち、いずれも水中において36重量%のMDEAを含む第1の溶液、及び36重量%のMDEAと0.5重量%のH3PO4とを含む第2の溶液を調製した。実施例2の試験条件は以下の通りである。即ち、ガス供給組成:10モル%CO2、1モル%H2S、残部N2;ガス流量:154sccm;温度:40.8℃、圧力:1バール、容量:15mL;攪拌速度:200rpm。
【0048】
リン酸がMDEAの酸性ガス吸収挙動に及ぼす影響は、
図8及び
図9に見ることができる。
図8は、リン酸を含む及び含まない36重量%のMDEA溶液についての処理時間の関数としてのCO
2及びH
2S吸収のプロットである。
図9は、リン酸を含む及び含まないMDEA水溶液を用いた、総充填量の関数としてのH
2S/CO
2の選択率のプロットである。CO
2-MDEA反応中に重炭酸塩が優先的に生成することが知られているため、有意な差は観察されない。それにもかかわらず、酸性化されたMDEA溶液は、重炭酸塩形成をわずかに増加させる可能性があることが観察される。特に、
図9は、高度に立体障害のあるM3ETBと反対の効果である、リン酸を含むMDEA溶液のH
2S選択率の低下を示す。
【0049】
(追加の実施形態)
本発明の特定の教示によれば、CO2も含むガス混合物からH2Sを選択的に分離する方法が開示され、該方法はガス混合物の流れを1つ以上のアミンを含む吸収剤溶液と接触させることを含む。吸収剤溶液のH2S/CO2選択率は、約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、約4.0より大きく、好ましくは5.0より大きい。1つ以上のアミンは、アミン、アルカノールアミン、立体障害アルカノールアミン、及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはメトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)、エトキシエタノール-t-ブチルアミン(EETB)又はN-メチルジエタノールアミン(MDEA)である。立体障害アルカノールアミンは、好ましくはキャップされたアミンである。
【0050】
本発明の別の実施形態は、CO2も含むガス混合物からH2S吸収のための吸収方法の選択率を増加させる方法であって、吸収方法は1つ以上のアミンを含む吸収剤溶液を有し、該方法は吸収剤溶液のpHを低下させることを含む。このpH低下工程は、吸収剤溶液を希釈することによって、又は吸収剤溶液に酸を添加することによって達成され、その酸はリン酸及び硫酸から選択される。1つ以上のアミンは、アミン、アルカノールアミン、立体障害アルカノールアミン、及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはM2ETB、EETB又はMDEAである。
【0051】
本発明のさらに別の実施形態は、CO2も含むガス混合物からH2Sを選択的に分離する方法であって、該方法はガス混合物の流れをM3ETBを含む吸収剤溶液と接触させることを含む。吸収剤溶液中のM3ETB濃度は、約36重量%未満、好ましくは25~30重量%の間である。吸収剤溶液のH2S/CO2選択率は、約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2 + H2S)/モル(アミン)]の範囲に対して、約4.0より大きく、好ましくは5.0より大きい。
【0052】
本発明のさらに別の実施形態は、CO2も含む原料ガス流からH2Sを選択的に吸収するためのシステムであり、このシステムは、原料ガス流を水性アミン流と向流で接触させて、原料ガス流からのH2Sの少なくとも一部を含む使用済みアミン流を生成するための吸収塔と、再生されたアミン流及び脱着された酸性ガス流を生成するための再生塔とを備える。水性アミン流のH2S/CO2選択率は、約0.2~約0.6の間の酸性ガス充填量[モル(CO2+H2S)/モル(アミン)]に対して、約4.0より大きく、好ましくは約5.0より大きい。水性アミン流は、好ましくは、約36重量%未満、好ましくは25~30重量%の間の濃度のメトキシエトキシエトキシエタノール-t-ブチルアミン(M3ETB)を含む。システムのH2S/CO2選択率は、水性アミン流のpHを低下させることによって,好ましくは水性アミン流中のアミン濃度を低下させることによって、上昇する。
【0053】
したがって、本発明は、上述した目的及び利点並びにその中に内在する目的及び利点を達成するためによく適合される。上に開示された特定の実施形態は、例示的なものにすぎず、本発明は、その中の教示の恩恵を受ける当業者には明らかであるが、異なるが同等の方法で修正及び実施され得る。さらに、以下の特許請求の範囲に記載されたもの以外に、本明細書に示された構成又は設計の詳細に制限を加えるものではない。したがって、上に開示された特定の例示的な実施形態は、変更又は修正されてもよく、そのような全ての変形は、本発明の範囲及び精神の範囲内であると考えられることは明らかである。他に示さない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、特性、反応条件等を表す全ての数字は、本発明によって得られることが求められる所望の特性及び測定誤差に基づく近似として理解されるべきであり、報告された有効数字の数及び通常の丸め技法を適用することによって少なくとも解釈されるべきである。下限及び上限を有する数値範囲が開示されるときはいつも、範囲内の数値が具体的に開示される。また、特許請求の範囲で使用されるような不定冠詞「a」又は「an」は、本明細書では、それが導入する要素の1つ又は複数を意味すると定義される。