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特開2024-54154圧電スタックアクチュエータの製造方法、および圧電スタックアクチュエータ
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  • 特開-圧電スタックアクチュエータの製造方法、および圧電スタックアクチュエータ 図1
  • 特開-圧電スタックアクチュエータの製造方法、および圧電スタックアクチュエータ 図2
  • 特開-圧電スタックアクチュエータの製造方法、および圧電スタックアクチュエータ 図3
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  • 特開-圧電スタックアクチュエータの製造方法、および圧電スタックアクチュエータ 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054154
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】圧電スタックアクチュエータの製造方法、および圧電スタックアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/05 20230101AFI20240409BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20240409BHJP
   H10N 30/50 20230101ALI20240409BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240409BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240409BHJP
【FI】
H10N30/05
H10N30/88
H10N30/50
H10N30/853
H10N30/20
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024008783
(22)【出願日】2024-01-24
(62)【分割の表示】P 2021569593の分割
【原出願日】2020-02-10
(31)【優先権主張番号】102019201650.2
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】521353539
【氏名又は名称】ピーアイ・セラミック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】PI CERAMIC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュペーア,ケビン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】湿潤環境での使用時に耐用寿命を延ばすための圧電スタックアクチュエータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】圧電スタックアクチュエータ1の製造方法は、電気的に作動されると軸Aに沿ってたわみを生じさせるように設計されている少なくとも2つのアクチュエータ2を設けるステップと、アクチュエータ2が電気的に作動されると生じるアクチュエータのたわみが積層軸Sに沿って重なり合い、積層軸に垂直な平面E上の圧電スタックアクチュエータ1の突出範囲Pよりも小さい少なくとも1つの結合範囲K上でアクチュエータ2の力結合が行われるように、少なくとも2つのアクチュエータ2を結合してスタックアクチュエータ1を形成するステップと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電スタックアクチュエータ(1)の製造方法であって、
a. ステップA:電気的に作動されると軸(A)に沿ってたわみを生じさせるように設計されている少なくとも2つのアクチュエータ(2)を設けるステップと、
b. ステップB:前記アクチュエータ(2)が電気的に作動されると生じる前記アクチュエータの前記たわみが積層軸(S)に沿って重なり合い、前記積層軸(S)に垂直な平面(E)上の前記アクチュエータ(2)の突出範囲(P)よりも小さい少なくとも1つの結合範囲(K)上で前記アクチュエータ(2)の力結合が行われるように、前記少なくとも2つのアクチュエータ(2)を結合して前記スタックアクチュエータ(1)を形成するステップとを備える、方法。
【請求項2】
ステップAは、以下のサブステップ、すなわち、
a. サブステップA1:好ましくは単層アクチュエータとしてまたは多層アクチュエータとして前記アクチュエータ(2)を構成するための圧電セラミック層(2a)および電気的接点(2c,2e)を設け、
b. サブステップA2:好ましくは、2つの隣接する圧電セラミック層(2a)が、1つの電気的接点(2c,2e)をそれぞれ挿入した状態で、好ましくは同じ極性の極(2b,2d)を有する電極層または接触プレートを挿入した状態で互いに対向するように、前記圧電セラミック層(2a)を軸(A)に沿って積層し、
c. サブステップA3:前記電気的接点(2c,2e)を、対応する極性の電極(25,26)に接続し、異なる極性の前記電極(25,26)は、好ましくは前記アクチュエータ(2)の周囲に離間して配置され、好ましくは前記アクチュエータ(2)の直径方向に対向する側に位置し、
d. サブステップA4:前記圧電セラミック層(2a)および前記電気的接点(2c,2e)を、好ましくはセラミック絶縁材料(20)で、特に好ましくはモノリシックに焼結されたセラミック絶縁材料(20)で被覆し、前記絶縁材料(20)を用いた被覆部は特に好ましくは気密性および/または防湿性を有し、
e. サブステップA5:好ましくは以下のサブステップのうちの少なくとも1つに従って、前記アクチュエータ(2)を隣接するアクチュエータ(2)に力結合するための少なくとも1つの結合範囲(K)を形成する
のうちの少なくとも1つを備え、前記e.における前記サブステップは、
i. サブステップA5-1:前記アクチュエータ(2)の被覆部に、好ましくは絶縁材料(20)の、好ましくはセラミック絶縁材料(20)の被覆部に、少なくとも1つの結合範囲(K)を形成し、特に好ましくは、同時に前記被覆部の絶縁機能を維持し、
ii. サブステップA5-2:結合すべき2つのアクチュエータ(2)の間に配置すべき追加素子(3)に少なくとも1つの結合範囲(K)を形成し、前記追加素子(3)は好ましくは電極として形成され、
iii. サブステップA5-3:好ましくは前記結合範囲(K)が前記アクチュエータ(2)または前記追加素子(3)の一方または両方の軸方向端部をそれぞれ形成するように、前記アクチュエータ(2)または前記追加素子(3)の一方または両方の軸方向端部に前記結合範囲(K)を形成し、
iv. サブステップA5-7:前記アクチュエータ(2)の前記突出範囲(P)に関して、以下の面積比、すなわち、0.7*P≦K<P、好ましくは0.8*P≦K≦0.99*P、好ましくは0.9*P≦K≦0.95*Pが当てはまるように、前記結合範囲(K)を形成する
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップBは、以下のサブステップ、すなわち、
a. サブステップB2:2つの隣接するアクチュエータ(2)の間に、好ましくは電
極として形成される追加素子(3)を配置し、
b. サブステップB3:2つの隣接するアクチュエータ(2)の各々が直接的に能動的に接続される、または追加素子(3)を介して間接的に能動的に接続されるように、前記少なくとも2つのアクチュエータ(2)を接続し、この接続は、好ましくは、前記隣接するアクチュエータ(2)の間の、または前記隣接するアクチュエータ(2)の各々とそれらの間に配置される前記追加素子(3)との間の堅固な接着接続を好ましくは接着剤によって形成しながら行われ、特に好ましくは、前記接着剤は前記少なくとも1つの結合範囲(K)を完全に接着し、
c. サブステップB4:特に好ましくは圧電セラミック材料および/もしくは接着剤を除去することによって、ならびに/または剥離剤を塗布することによって、前記少なくとも1つの結合範囲(K)の外側で、好ましくは前記エッジ領域において、好ましくは前記結合平面内で、2つのアクチュエータ(2)同士を分離し、
d. サブステップB5:接続部(11)によって、好ましくは前記接続部(11)を前記電極(25,26)上に塗布することによって、同じ極性の前記アクチュエータ(2)の前記電極(25,26)を互いに接続する
のうちの少なくとも1つを備えることを特徴とする、前述の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
好ましくは前述の請求項のいずれか1項に記載の方法に従って製造される圧電スタックアクチュエータ(1)であって、電気的に作動されると軸(A)に沿ってたわみを生じさせるように設計されている少なくとも2つのアクチュエータ(2)を備え、前記少なくとも2つのアクチュエータ(2)は、前記アクチュエータ(2)が電気的に作動されると生じる前記アクチュエータの前記たわみが積層軸(S)に沿って重なり合うように、前記積層軸(S)に沿って積層され、前記少なくとも2つのアクチュエータ(2)は、アクチュエータ(2)と隣接するアクチュエータ(2)との力結合が行われる結合範囲(K)が、前記軸(A)に垂直な平面上の前記アクチュエータ(2)の突出範囲(P)よりも小さいように結合される、圧電スタックアクチュエータ。
【請求項5】
前記アクチュエータ(2)の各々は、以下の特徴、すなわち、
a. 前記アクチュエータは、好ましくは単層アクチュエータまたは多層アクチュエータとして、圧電セラミック層(2a)および電気的接点(2c,2e)からなり、
b. 前記圧電セラミック層(2a)は、好ましくは、2つの隣接する圧電セラミック層(2a)が、1つの電気的接点(2c,2e)をそれぞれ挿入した状態で、好ましくは同じ極性の極(2b,2d)を有する電極層または接触プレートを挿入した状態で互いに対向するように、軸(A)に沿って積層され、
c. 前記電気的接点(2c,2e)は、対応する極性の電極(25,26)に接続され、異なる極性の前記電極(25,26)は、好ましくは前記アクチュエータ(2)の周囲に離間して配置され、好ましくは前記アクチュエータ(2)の直径方向に対向する側に位置し、
d. 前記圧電セラミック層(2a)および前記電気的接点(2c,2e)は、好ましくはセラミック絶縁材料(20)で、特に好ましくはモノリシックに焼結されたセラミック絶縁材料(20)で被覆され、前記絶縁材料(20)を用いた被覆部は特に好ましくは気密性および/または防湿性を有し、
e. 前記アクチュエータは、前記積層軸Sに垂直な平面内で、実質的に円形またはほぼ円形の断面形状を有し、
f. 前記アクチュエータは、前記積層軸Sに垂直な平面内で、中実断面または中空断面を有し、
g. 円形断面を有するアクチュエータ(2)の場合、直径と高さの比はD/H≧1であり、好ましくはD/H>5であり、特に好ましくはD/H=6.4であり、
h. 矩形断面を有するアクチュエータ(2)の場合、エッジ長さと高さの比はL/H
≧1であり、好ましくはL/H>5であり、特に好ましくはL/H=6.4である
のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項4に記載の圧電スタックアクチュエータ(1)。
【請求項6】
前記結合範囲(K)は、以下の特徴、すなわち、
a. 前記少なくとも1つの結合範囲(K)は、前記アクチュエータ(2)の被覆部に、好ましくは絶縁材料(20)の、好ましくはセラミック絶縁材料(20)の被覆部に形成され、特に好ましくは、同時に前記被覆部の絶縁機能が維持され、
b. 前記少なくとも1つの結合範囲(K)は、結合すべき2つのアクチュエータ(2)の間に配置すべき追加素子(3)に形成され、前記追加素子(3)は好ましくは電極として形成され、
c. 前記少なくとも1つの結合範囲(K)は、好ましくは前記結合範囲(K)が前記アクチュエータ(2)または前記追加素子(3)の一方または両方の軸方向端部をそれぞれ形成するように、前記アクチュエータ(2)または前記追加素子(3)の一方または両方の軸方向端部にそれぞれ形成され、
d. 前記少なくとも1つの結合範囲(K)は、前記アクチュエータ(2)の前記突出範囲(P)に関して、以下の面積比、すなわち、0.1*P<K<P、好ましくは0.5*P<K<0.95*P、好ましくは0.75*P<K<0.9*Pが当てはまるように設計される
のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の圧電スタックアクチュエータ(1)。
【請求項7】
前記スタックアクチュエータ(1)は、以下の特徴、すなわち、
a. 2つの隣接するアクチュエータ(2)の間に少なくとも1つの追加素子(3)が配置され、前記追加素子(3)は好ましくは電極として形成され、
b. 少なくとも2つの隣接するアクチュエータ(2)は、直接的に能動的に接続され、または追加素子(3)を介して間接的に能動的に接続され、この接続は、好ましくは、前記隣接するアクチュエータ(2)の間の、または前記隣接するアクチュエータ(2)の各々とそれらの間に配置される前記追加素子(3)との間の、好ましくは接着剤による堅固な接着接続によって行われ、特に好ましくは、前記接着剤は前記少なくとも1つの結合範囲(K)を完全に接着し、
c. 少なくとも2つの隣接するアクチュエータ(2)は、特に好ましくは圧電セラミック材料および/もしくは接着剤を除去することによって、ならびに/または接着前に剥離剤を塗布することによって、前記少なくとも1つの結合範囲(K)を除いて、好ましくは前記エッジ領域において、好ましくは前記結合平面内で、互いに分離され、
d. 同じ極性の前記アクチュエータ(2)の前記電極(25,26)は接続部(11)によって互いに接続され、前記接続部は好ましくは前記電極(25,26)の上に塗布される
のうちの少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の圧電スタックアクチュエータ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電スタックアクチュエータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交互に配置された圧電層と電極とからなる圧電スタックアクチュエータは、たとえば米国特許第4,384,230号、米国特許第4,721,447号から公知である。
【0003】
米国特許出願第2010/0140379 A1号、米国特許出願第2006/0066178 A1号、特開2006-179525 A号公報、特開2006-216850 A号公報、特開2006-229068 A号公報、米国特許出願第2010/0139621 A1号、および米国特許第7,309,945号は、特に、一体焼結された圧電層と電極とからなるモノリシックブロックを開示している。
【0004】
国際公開第2003/105246 A2号から、モノリシックアクチュエータにおける張力の蓄積を防止するための、選択的に導入されて制御される破断領域の原理が知られている。
【0005】
本発明の出発点を示す代替の設計によれば、圧電スタックアクチュエータはアクチュエータから組み立てられ、これらのアクチュエータは、単独で、1つまたは数個の圧電セラミック層をすでに含んでおり、好ましくは機能的な多層アクチュエータとして設計されているので、個々のアクチュエータのたわみが積層方向において重なり合って合計される。交互に配置された圧電層と電気的接点とからなるモノリシックブロックとは異なり、これらのいわゆるチップスタックは接着される。というのも、300℃を超える温度ではアクチュエータの分極が失われるので、焼結が除外されるからである。接着のために、積層軸に沿った個々のアクチュエータ同士の間に接着剤があるので、アクチュエータ部分は積層結合体において互いに離間している。さらに、大型アクチュエータは、有機的な焼損の問題のために、欠陥がないモノリシックとして確実に製造することができない。さらに、接着によって、最小の製造時間で可変長のスタックの構築が促進される。
【0006】
国際公開第2006/100247 A1号は多層アクチュエータのスタック状の配置を開示しており、これらのアクチュエータは熱伝導金属層全体にわたって全体的な接着によって接続される。
【0007】
隣接する圧電層が全体的に接続されるスタックアクチュエータでは、互いに結合された圧電層が圧電層の変形時に互いを阻止するので、電気的な作動時に機械的張力が発生する。この問題はスタックの高さが増加するにつれて増大する。
【0008】
単層または多層アクチュエータの接着チップスタックとも称されるこのようなスタックアクチュエータの製造時には、制御不能なクラック形成が発生する場合がある。個々の部分を予め100%分極して機能性およびクラックについて確認していても、これは発生する。これらのクラックのないアクチュエータ(チップ)を接着して再び作動させた後は、アクチュエータ(チップ)の外側受動絶縁層にクラックが発生する。
【0009】
これらのクラックは、特に湿潤環境において、アクチュエータの抵抗率または耐用寿命に影響を及ぼす。したがって、品質管理の過程で、影響を受けた部品は通常は不合格となり、それによって目減りの原因となる。さらに、目減りをもたらすクラックは、全体で数
週間続くプロセスの終わりになって初めて発生するので、それによって製造計画に乱れが生じる。
【0010】
出荷材料検査時にクラックがないアクチュエータにおいても、クラックは特に動的運転時に、用途条件下で受動境界層に定期的に発生する。これらは、同様に信頼性または耐用寿命に影響を及ぼすので、極端な例では高度な生産工場の停止につながる場合がある。静荷重と動荷重の混合運転は、アクチュエータの耐用寿命に対して特に重要な影響を与える。交互の荷重によって受動層のクラックが促進され、次いでクラックによって、アクチュエータが自己加熱することなく、静的運転時の湿気の侵入による損傷メカニズムとして電子移動が可能になる。
【0011】
さらなる重要な運転モードは低周波数(数Hz)での作動であり、この作動では、周囲温度を介したアクチュエータの自己加熱が起こらないので、湿気がアクチュエータに直接近接して存在する場合があり、交互の荷重がクラックの形成をさらに促進する。
【0012】
このようなクラックの頻度はアクチュエータ断面が大きくなるにつれて増加することが実験によって分かっている。
【0013】
単層アクチュエータと接触プレートとが交互に積層配置されて互いに接着される高電圧アクチュエータにおいても、アクチュエータ部分のエッジ領域におけるクラック、または能動領域と受動領域との間の移行部におけるクラックが原因で短絡が生じる。多層アクチュエータとは異なり、単層アクチュエータは、圧電セラミック材料を電気的に作動させて変形を生じさせるために高電圧が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の根本的な目的は、特に湿潤環境での使用時に、上述のクラック形成を防止することにより、個々のアクチュエータからなる圧電スタックアクチュエータの耐用寿命を延ばすことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1に記載の圧電スタックアクチュエータの製造方法によって達成され、この方法は以下のステップ、すなわち、
- ステップA:電気的に作動されると軸に沿ってたわみを生じさせるように設計されている少なくとも2つのアクチュエータを設けるステップと、
- ステップB:アクチュエータが電気的に作動されると生じるアクチュエータのたわみが積層軸に沿って重なり合い、積層軸に垂直な平面上のアクチュエータの突出範囲よりも小さい少なくとも1つの結合範囲上でアクチュエータの力結合が行われるように、少なくとも2つのアクチュエータを結合してスタックアクチュエータを形成するステップとを含む。
【0016】
本発明によれば、圧電スタックアクチュエータは個々のアクチュエータ同士を結合することによって製造される。すでに機能的なこれらのアクチュエータから、個々の各アクチュエータよりも明らかに大きな積層軸に沿ったたわみを達成する圧電スタックアクチュエータを、それほど努力せずとも構成することができる。さらに、スタックアクチュエータは、モノリシックブロックとして設計されてかなりの軸方向の延在部を有するスタックアクチュエータよりも、機能的な個々のアクチュエータから実質的にさらに容易に製造することができる。
【0017】
各アクチュエータでは、膨張時に、電極がないいわゆる受動領域に引張応力が発生する
。というのも、この領域はいわゆる能動領域とは異なり、膨張しないからである。アクチュエータの高さが低く、受動領域が変形するため、個々の各アクチュエータにおいて引張応力は臨界荷重を下回る。しかしながら、隣接するアクチュエータを全体的に結合すると、受動領域の変形は不可能となる。というのも、これらの変形は結合平面に対してさまざまな方向に発生し、したがって互いを阻止するからである。この影響は、互いに接着されるアクチュエータの数が増えるにつれて、継続的に増加する。そのため、変形によって発生する張力は合計されて受動領域の強度を超える。それによって、弱い点においてクラック形成が生じる。
【0018】
冒頭で述べた目的に対する解決策は、類似的に、好ましくはエッジ領域において、隣接するアクチュエータ同士を選択的に分離することである。本発明によれば、個々のアクチュエータは、積層軸に垂直な平面上のアクチュエータの突出範囲よりも小さい結合範囲上で互いに結合される。結合範囲の平坦な膨張範囲は、アクチュエータの能動領域の平坦な膨張範囲、すなわち、積層軸に垂直な平面内のスタックアクチュエータの平坦な膨張範囲から受動領域の面積を差し引いたものに対応することが好ましい。受動領域は通常はアクチュエータのエッジに位置している。ここで使用されるアクチュエータ自体は、交互に配置された圧電セラミック層と電極/接点とを有する単層または多層パックで構成され、これらの圧電セラミック層および電極/接点は、積層軸に垂直な平面内で互いに平行に延在し、その結果、積層軸に沿ってたわみを生じさせる。電極/接点で覆われて電気的に作動される圧電セラミック層の領域は、電気的に作動されると能動的に変形するアクチュエータのいわゆる能動領域を画定する。アクチュエータが電気的に作動されると能動的には変形しないが任意に受動的に変形する圧電セラミック層の(電極のない)非作動領域は、絶縁体、絶縁層または受動領域と称される。
【0019】
結合範囲上のアクチュエータ同士の選択的な結合または分離によって、互いに結合されたアクチュエータの受動領域におけるピーク荷重が減少するので、冒頭で述べたクラック形成を効果的に防止することができ、本発明に係る方法に従って製造されるスタックアクチュエータの耐用寿命が明らかに延びる。
【0020】
有利な展開は従属請求項の主題である。
ステップAが以下のサブステップのうちの少なくとも1つを含んでいれば、有利であり得る。
【0021】
- サブステップA1:好ましくは単層アクチュエータとしてまたは多層アクチュエータとしてアクチュエータを構成するための圧電セラミック層および電気的接点を設ける。スタックアクチュエータのためのそのような構成要素は通常は安価に入手可能であり、さまざまなサイズのスタックアクチュエータを製造するために使用することができる。圧電セラミック層を電気的に作動させるための電気的接点は、電極層または内部電極とも称される。電気的接点または内部電極の平坦な延在部は、圧電セラミックミク層の平坦な延在部よりも小さいことが好ましい。そうすると、積層結合体において、圧電セラミック層のエッジ領域は電気的接点または内部電極で覆われず、電気的に作動しない。それによって、圧電セラミック層のこれらのエッジ領域は能動的には変形しないが、任意に受動的に変形し、「絶縁体」または「絶縁層」とも称されるアクチュエータの受動領域を形成する。このセラミック「絶縁体」または「絶縁層」は、湿潤環境においても、特に内部電極の効果的かつ永続的な保護を保証する。本発明に係る結合範囲上のアクチュエータの結合によって、脆く硬質であるがこの効果的なセラミックの保護層を欠陥から保護することができる。
【0022】
- サブステップA2:好ましくは、2つの隣接する圧電セラミック層が、1つの電気的接点をそれぞれ挿入した状態で、好ましくは同じ極性の極を有する電極層または接触プ
レートを挿入した状態で互いに対向するように、圧電セラミック層を軸に沿って積層する。この設計は、電気的な作動のための圧電セラミック層の接続を考慮して、特にコンパクトで有利であることが分かっている。
【0023】
- サブステップA3:電気的接点を、対応する極性の電極に接続し、異なる極性の電極は、好ましくはアクチュエータの周囲に離間して配置され、好ましくはアクチュエータの直径方向に対向する側に位置する。ここで述べた電極は、他の用語の中でも特に、側面電極または外部電極とも称される。
【0024】
- サブステップA4:圧電セラミック層および電気的接点を、好ましくはセラミック絶縁材料で被覆し、この絶縁材料を用いた被覆部は好ましくは気密性および/または防湿性を有する。この設計は、湿潤環境におけるアクチュエータの適用を特に促進する。
【0025】
- サブステップA5:好ましくは以下のサブステップのうちの少なくとも1つに従って、アクチュエータを隣接するアクチュエータに力結合するための少なくとも1つの結合範囲を形成する。
【0026】
サブステップA5-1:アクチュエータの能動領域に少なくとも1つの結合範囲を形成する。アクチュエータの能動領域は、電極が所々に組み込まれているか、または電極で覆われており、電極の電気的な作動によって能動的に変形する。そうすると、能動領域の周りのアクチュエータのエッジはいわゆる受動領域を形成し、この受動領域は、圧電セラミック層の電気的な作動によって能動的には変形しないが、能動領域の変形に受動的に追従する。受動領域では、軸に垂直な平面内のアクチュエータの延在部と比較して結合範囲が減少することによって生じる荷重減少部分が特に効果的である。というのも、荷重減少部分によって、互いに結合されたアクチュエータの絶縁体の受動的な変形が可能になるので、絶縁体の領域におけるピーク荷重が減少するからである。この特徴によれば、能動領域は結合範囲を含み、すなわち結合範囲は能動領域内に位置する。言い換えれば、結合範囲は、積層軸に垂直な平面上に突出して、電気的接点または内部電極の突出範囲内に完全に位置する。
【0027】
サブステップA5-2:結合すべき2つのアクチュエータの間に配置すべき追加素子に少なくとも1つの結合範囲を形成し、この追加素子は好ましくは電極として設計される。この設計では、軸に垂直な平面内でアクチュエータの延在部の前側が減少していない、たとえば円筒状または直方体状のアクチュエータを、追加素子を介して互いに結合することができ、この追加素子によって、互いに結合されたアクチュエータの絶縁体の受動的な変形が可能になり、したがって絶縁体の領域におけるピーク荷重が減少する。電極として設計した場合、圧電セラミック層を追加素子を介して電気的に作動させることができる。この設計は、いわゆる高電圧スタックを構築するのに特に適している。
【0028】
サブステップA5-3:好ましくは結合範囲がアクチュエータまたは追加素子の一方または両方の軸方向端部をそれぞれ形成するように、アクチュエータまたは追加素子の一方または両方の軸方向端部に結合範囲を形成する。この設計では、アクチュエータの結合が特に容易である。
【0029】
サブステップA5-4:アクチュエータまたは追加素子の隣接領域および/または周囲領域、好ましくはエッジ領域に面取り部または段差をそれぞれ形成しながら、結合範囲を形成する。これらの実施形態では、結合範囲を、たとえばアクチュエータの前側のわずかな材料除去または材料塗布によって、特に容易に作成することができる。
【0030】
サブステップA5-5:結合範囲が、積層軸に垂直な平面上に突出して、アクチュエー
タの突出範囲内に完全に位置し、好ましくはその全周囲にわたって突出範囲で囲まれるように、結合範囲を形成する。この設計では、隣接するアクチュエータの受動エッジ領域は互いに分離されているので、アクチュエータを電気的に作動させると受動エッジ領域の受動的な変形が可能になり、受動エッジ領域の領域内のピーク荷重が減少する。
【0031】
サブステップA5-6:軸に垂直に延在する平面内に結合範囲を形成する。この設計では、アクチュエータの特に単純な結合が可能である。
【0032】
サブステップA5-7:アクチュエータの突出範囲(P)に関して、以下の面積比、すなわち、0.7*P≦K<P、好ましくは0.8*P≦K≦0.99*P、好ましくは0.9*P≦K≦0.95*Pが当てはまるように、結合範囲(K)を形成する。結合範囲は理想的には、アクチュエータの電極または能動領域と同じ平坦な延在部を有しているか、またはそれよりもやや小さいので、軸に垂直な平面上に突出して電極の径方向外側に位置するアクチュエータの受動領域は、結合範囲の外側に位置している。言い換えれば、結合範囲の外側の結合平面内の分離領域は、アクチュエータの受動領域と実質的にまたは完全に同じ幅であるか、またはそれよりもやや大きい。それによって、一方では、結合範囲を介して、アクチュエータの能動領域におけるアクチュエータ同士の間の理想的な力結合を達成することができ、他方では、アクチュエータの受動エッジ領域は理想的には、圧電セラミック層の受動的な変形を可能にするために分離される。
【0033】
サブステップA5-8:軸が通るおよび/または軸に対して同軸配置される範囲として結合範囲を形成し、結合範囲は好ましくは円形または環状に形成される。この設計では、絶縁体に作用する荷重が結合範囲の全周囲にわたって特に均一に分散するので、ピーク荷重を特に効果的に減少させることができる。
【0034】
サブステップA5-9:結合範囲を接着剤から形成する。この設計では、2つのアクチュエータ同士の間の接着面は、積層軸に垂直なアクチュエータの平坦な延在部よりも小さい。
【0035】
- サブステップA6:少なくとも2つの同一のアクチュエータを設ける。この設計では、スタックアクチュエータの組み立てが特に容易である。
【0036】
しかしながら、ステップBが以下のサブステップのうちの少なくとも1つを含んでいる場合も、有用であり得る。
【0037】
- サブステップB1:好ましくは、同じ極性のアクチュエータの電極が積層軸に平行に一列に方向付けられるように、および/または隣接するアクチュエータの互いに向かい合う側が平行であるように、少なくとも2つのアクチュエータを積層軸に関して規則的なおよび/または同一の方向付けで配置する。この設計では、特に個々のアクチュエータの電極を容易に互いに接続することができるので、スタックアクチュエータの組み立ても特に容易である。
【0038】
- サブステップB2:2つの隣接するアクチュエータの間に追加素子を配置する。この実施形態では、軸に垂直な平面内のアクチュエータの平坦な延在部と比較して減少した結合範囲を別個に形成することなく、特に円筒状または直方体状の個々のアクチュエータを特に容易に互いに結合することができる。
【0039】
- サブステップB3:2つの隣接するアクチュエータの各々が直接的に能動的に接続される、または追加素子を介して間接的に能動的に接続されるように、少なくとも2つのアクチュエータを接続し、この接続は、好ましくは、隣接するアクチュエータの間の、ま
たは隣接するアクチュエータの各々とそれらの間に配置される追加素子との間の堅固な接着接続を好ましくは接着剤によって形成しながら行われ、特に好ましくは、接着剤は少なくとも1つの結合範囲を完全に接着する。この設計では、冒頭で述べた先行技術とは異なり、圧電セラミック層はたとえば焼結によって接続されてモノリシックブロックになるのではなく、むしろスタックアクチュエータは、好ましくは互いに接着される機能的な個々のアクチュエータを積層して結合することによって組み立てられる。したがって、スタックアクチュエータの圧電セラミック層はパック状に配置されており、互いに結合されたアクチュエータの間の接着剤によって軸方向に離間している。
【0040】
- サブステップB4:特に好ましくは圧電セラミック材料および/もしくは接着剤を除去することによって、ならびに/または剥離剤を塗布することによって、少なくとも1つの結合範囲の外側で、好ましくはエッジ領域において、好ましくは結合平面内で、2つのアクチュエータ同士を分離する。この実施形態によれば、アクチュエータの平坦な延在部と比較して軸に垂直な平面内で減少した結合範囲は、たとえば、圧電セラミック層における選択的な材料除去によって、または2つの隣接する圧電セラミック層同士を接続する材料における選択的な材料除去によって、アクチュエータの結合後でも作成することができる。結合範囲の外側の分離すべき領域に剥離剤を塗布することによって、残留物のない接着剤の除去が促進され得る。その後、アクチュエータの力結合が結合範囲を介してまだ行われている間、アクチュエータの受動領域の受動的な変形を可能にする軟性材料で分離領域を充填することも考えられる。
【0041】
- サブステップB5:接続部によって、好ましくは接続部を電極上に塗布することによって、同じ極性のアクチュエータの電極を互いに接続する。この接続部によって、個々のアクチュエータの側面電極を特に容易に接続することができる。原則として、1つのアクチュエータごとに1つの接触点で十分である。しかしながら、複数の接続点、または当該部分の高さ全体にわたる直線的な接続も考えられる。
【0042】
冒頭で述べた目的はまた、好ましくは方法請求項のうちの1項に記載の方法に従って製造される圧電スタックアクチュエータによって達成され、この圧電スタックアクチュエータは、電気的に作動されると軸に沿ってたわみを生じさせるように設計されている少なくとも2つのアクチュエータを含み、少なくとも2つのアクチュエータは、アクチュエータが電気的に作動されると生じるアクチュエータのたわみが積層軸に沿って重なり合うように、積層軸に沿って積層され、少なくとも2つのアクチュエータは、アクチュエータと隣接するアクチュエータとの力結合が行われる結合範囲が、軸に垂直な平面上のアクチュエータの突出範囲よりも小さいように結合される。
【0043】
アクチュエータの各々が以下の特徴のうちの少なくとも1つを含んでいれば、さらに有用であり得る。
【0044】
- アクチュエータは、好ましくは単層アクチュエータとしてまたは多層アクチュエータとして、圧電セラミック層および電気的接点からなる。
【0045】
- 圧電セラミック層は、好ましくは、2つの隣接する圧電セラミック層が、1つの電気的接点をそれぞれ挿入した状態で、好ましくは同じ極性の極を有する電極層または接触プレートを挿入した状態で互いに対向するように、軸に沿って積層される。
【0046】
- 電気的接点は、対応する極性の電極に接続され、異なる極性の電極は、好ましくはアクチュエータの周囲に離間して配置され、好ましくはアクチュエータの直径方向に対向する側に位置する。
【0047】
- 圧電セラミック層および電気的接点は、好ましくはセラミック絶縁材料で被覆され、この絶縁材料を用いた被覆部は好ましくは気密性および/または防湿性を有する。
【0048】
しかしながら、結合範囲が以下の特徴のうちの少なくとも1つを含んでいる場合も、有用であることが分かり得る。
【0049】
- 少なくとも1つの結合範囲は、アクチュエータの能動領域に形成される。
- 少なくとも1つの結合範囲は、結合すべき2つのアクチュエータの間に配置すべき追加素子に形成され、この追加素子は好ましくは電極として形成される。
【0050】
- 少なくとも1つの結合範囲は、好ましくは結合範囲がアクチュエータまたは追加素子の一方または両方の軸方向端部をそれぞれ形成するように、アクチュエータまたは追加素子の一方または両方の軸方向端部にそれぞれ形成される。
【0051】
- 少なくとも1つの結合範囲は、アクチュエータまたは追加素子の隣接領域および/または周囲領域、好ましくはエッジ領域に面取り部または段差をそれぞれ形成しながら形成される。
【0052】
- 少なくとも1つの結合範囲は、結合範囲が、積層軸に垂直な平面上に突出して、アクチュエータの突出範囲内に完全に位置し、好ましくはその全周囲にわたって突出範囲で囲まれるように、形成される。
【0053】
- 少なくとも1つの結合範囲は、軸に垂直に延在する平面内に形成される。
- 少なくとも1つの結合範囲(K)は、アクチュエータの突出範囲(P)に関して、以下の面積比、すなわち、0.7*P≦K<P、好ましくは0.8*P≦K≦0.99*P、好ましくは0.9*P≦K≦0.95*Pが当てはまるように形成される。
【0054】
- 少なくとも1つの結合範囲は、軸が通るおよび/または軸に対して同軸配置される範囲として形成され、結合範囲は好ましくは円形または環状に形成される。
【0055】
- 少なくとも1つの結合範囲は接着剤で形成される。
スタックアクチュエータが以下の特徴のうちの少なくとも1つを有している場合も、実用的であり得る。
【0056】
- 好ましくは、同じ極性のアクチュエータの電極が積層軸に平行に一列に方向付けられるように、および/または隣接するアクチュエータの互いに向かい合う側が平行であるように、少なくとも2つのアクチュエータが積層軸に関して規則的なおよび/または同一の方向付けで配置される。
【0057】
- 2つの隣接するアクチュエータの間に少なくとも1つの追加素子が配置される。
- 少なくとも2つの隣接するアクチュエータは、直接的に能動的に接続され、または追加素子を介して間接的に能動的に接続され、この接続は、好ましくは、隣接するアクチュエータの間の、または隣接するアクチュエータの各々とそれらの間に配置される追加素子との間の、好ましくは接着剤による堅固な接着接続によって行われ、特に好ましくは、接着剤は少なくとも1つの結合範囲を完全に接着する。
【0058】
- 特に好ましくは圧電セラミック材料および/もしくは接着剤を除去することによって、ならびに/または接着前に剥離剤を塗布することによって、少なくとも2つの隣接するアクチュエータは、少なくとも1つの結合範囲を除いて、好ましくはエッジ領域において、好ましくは結合平面内で、互いに分離される。
【0059】
- 同じ極性のアクチュエータの電極は、接続部によって互いに接続され、接続部は好ましくは電極上に塗布される。
【0060】
請求項、明細書、および図面に開示されている特徴の組み合わせから有利な展開が得られる。
【0061】
用語および定義
「絶縁層」および「絶縁体」という用語は、アクチュエータの受動領域を指す。これは、電極によって電気的に励起されない、したがって変形しない、圧電セラミック層または圧電セラミック材料のエッジ領域である。圧電セラミック材料のこの「絶縁層」および「絶縁体」に加えて、アクチュエータは絶縁材料の被覆部を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】圧電スタックアクチュエータを製造するための本発明に係る方法のステップの概略図であり、図(a)は、非接続状態における2つのアクチュエータおよびこれらのアクチュエータの間に挿入すべき追加素子の断面図を示し、図(b)は、追加素子を挿入した直接接続状態におけるこれら2つのアクチュエータの断面図を示す。
図2】圧電スタックアクチュエータを製造するための本発明に係る方法のステップの概略図であり、図1とは異なり、アクチュエータの上側および下側が面取りされており、アクチュエータは追加素子を挿入せずに互いに直接結合されている。
図3】軸に垂直な平面上のアクチュエータの突出範囲よりも小さい結合範囲を有するアクチュエータのさらなる実施形態の概略断面図を図(a)~(d)に示す図である。
図4】同一のアクチュエータからなる圧電スタックアクチュエータの上からの平面図であり、アクチュエータは積層軸に沿って積層されており、隣接するアクチュエータの間の結合範囲は、軸または積層軸に垂直な平面上のアクチュエータの突出範囲よりもそれぞれ小さい。
図5】圧電スタックアクチュエータを製造するための本発明に係る方法で使用されるアクチュエータを部分断面で表す斜視図である。
図6】圧電セラミックと接触プレートの形態の電気的接点(内部電極)との単層アクチュエータを有するいわゆる高電圧スタックの概略断面図であり、圧電セラミック層は、互いに対向する同じ極性の極を有する1つの接触プレートをそれぞれ挿入した状態で互いに積層されており、接触プレートは外部電極または側面電極にそれぞれ接続され、これらの電極を介して圧電セラミック層を同時に作動させることができる。
図7図5に係る複数のアクチュエータから製造されたスタックアクチュエータを部分断面で表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明の好ましい実施形態について、添付の図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【0064】
スタックアクチュエータ1の各アクチュエータ2は、圧電セラミック2aと電気的接点または電極層(内部電極)2c,2eとの単層または多層アクチュエータとして構成される。圧電セラミック層2aは、2つの隣接する圧電セラミック層2aが、同じ極性の極2b,2dを有する電極層または円板2c,2eの形態の1つの電気的接点(内部電極)をそれぞれ挿入した状態で互いに対向するように、軸Aに沿って積層される。
【0065】
電気的接点(内部電極)2c,2eは次に、対応する極性の(外部)電極(またはそれぞれ側面電極)25,26に接続され、電極25,26は、アクチュエータ2の周囲のア
クチュエータ2の直径方向に対向する側に離間して配置される。しかしながら、(外部)電極(またはそれぞれ側面電極)25,26を互いに直接近接して配置することも有利であり得る。本例では、電極層2cは内部電極として圧電セラミック層2aの正極2bに接続され、正極外部電極25(図6の右側)に接続されるのに対して、電極層2eは内部電極として圧電セラミック層2aの負極2dに接続され、負極外部電極26に接続される。
【0066】
圧電セラミック層2aおよび電気的接点または電極層(内部電極)2c,2eは、サイズが異なり、圧電セラミック層2aが電気的接点または電極層(内部電極)2c,2eを越えて軸Aに対して径方向に延在するように互いに積層されている。それによって、電気的接点または電極層(内部電極)2c,2eはそれらのエッジにおいて圧電セラミック材料で取り囲まれて、気密性および防湿性を有する「絶縁体」を作り出すことにより、湿潤環境でのアクチュエータ2の使用を可能にする。電気的接点もしくは電極層(内部電極)2c,2eで覆われてこれらによって作動可能な圧電セラミック層2aの部分、または、軸Aに垂直に方向付けられた平面上に突出して電気的接点もしくは電極層(内部電極)2c,2eの径方向内側に位置する部分は、電気的に作動されると変形するアクチュエータの能動領域(図1図3では網掛け部分として示す)を形成する。電気的接点もしくは電極層(内部電極)2c,2eで覆われておらず、したがって作動不可能な圧電セラミック層2aの部分、または、軸Aに垂直に方向付けられた平面E上に突出して電気的接点もしくは電極層(内部電極)2c,2eの径方向外側に位置する部分は、能動領域の変形に受動的に追従するアクチュエータ2の受動エッジ領域を形成する。周囲の、被覆部の直径方向に対向する側には、電気的接合を容易にするために径方向にわずかに突き出た(外部)電極(またはそれぞれ側面電極)25,26が配置される。
【0067】
部分断面斜視図として図5に表されるアクチュエータ2は、合計20個の圧電セラミック層2aを含み、10個の電気的接点(内部電極)2eが(外部)負極(またはそれぞれ側面電極)26(図5では図中左側)に接続されており、10個の電気的接点(内部電極)2cが(外部)正極25(またはそれぞれ側面電極、図5では図中右側であり、図示していない)に接続されている。
【0068】
好ましい実施形態では、モノリシックに焼結されたセラミック絶縁層20は、負極25および正極26を除いて、アクチュエータ2の周囲を取り囲んでいる。
【0069】
本例では、圧電セラミック材料の各アクチュエータ2の上側21に円形の結合範囲Kが形成される。結合範囲Kは、アクチュエータ2の軸Aと同軸の軸Aに垂直な平面E内に延在し、アクチュエータ2の隣接した周囲のエッジ領域に対して段差によって頂部が軸方向にオフセットされて配置されることにより、アクチュエータ2の軸方向の上端を形成する。
【0070】
上側の結合範囲Kの代わりにまたはこれに加えて、アクチュエータ2の下側に、対応する結合範囲Kを形成してもよい(図3a参照)。段差の代わりに、結合範囲Kは、面取り部を介して、隣接領域または周囲領域、特にエッジ領域に移行してもよい(図3b~図3d参照)。
【0071】
結合範囲Kは、本発明によれば、軸Aに垂直な平面E上のアクチュエータ2の突出範囲Pよりも小さい。この特徴の意味を図1から図4を参照しながら説明する。
【0072】
各アクチュエータ2は、電気的に作動されると、その軸Aに沿ってたわみを生じさせる。このたわみの方向は、圧電セラミック層2aが互いに積層される際に沿う軸Aに対応する。電気的に作動されると、アクチュエータ2の能動領域(図1図3では網掛けして表す)が変形する。アクチュエータ2の受動領域(図1図3では網掛け部分の外側に表す
)は能動的には変形しないが、能動領域の変形に受動的に追従する。
【0073】
本例では、結合範囲Kは、積層軸Sに垂直な平面E上に突出して、アクチュエータ2の突出範囲P内に完全に位置し、その全周囲にわたって突出範囲Pで取り囲まれている(図4参照)。
【0074】
図面を参照しながら本発明の原理を説明するために、特に、このようなアクチュエータ2からなるスタックアクチュエータ1について以下に説明する。スタックアクチュエータ1内に結合されるアクチュエータ2の数は限定されない。
【0075】
たとえば図7に示される圧電スタックアクチュエータ1は、合計6つの個々のアクチュエータ2で構成され、アクチュエータ2の各々は、各々が電気的に作動されると軸Aに沿ってたわみを生じさせるように単独で機能する。
【0076】
図7に表されるスタックアクチュエータ1では、アクチュエータ2が電気的に作動されると生じるアクチュエータのたわみが積層軸Sに沿って重なり合い、積層軸Sに垂直な平面E上のアクチュエータ2の突出範囲Pよりも小さい上側の結合範囲K上でアクチュエータ2の各々の力結合が行われるように、個々のアクチュエータ2が結合される。
【0077】
同一に設計されたアクチュエータ2(図5参照)は、結合範囲Kが上向きであり、同じ極性のアクチュエータ2の(外部/側面)電極25,26が積層軸Sに平行に一列に方向付けられるように、積層軸Sに対して同一の方向付けで配置される。隣接するアクチュエータ2の互いに向かい合う前側同士は平行である。
【0078】
図7に係る例では、2つの隣接するアクチュエータ2の各々が、堅固な接着接続を形成する接着剤によって直接的に能動的に接続され、各々が1つの結合範囲Kにおいて完全に接着される。
【0079】
同じ極性のアクチュエータ2の(外部/側面)電極25,26は接続部11によって互いに接続され、接続部11は、個々の固定点12において各アクチュエータ2の対応する電極に固定されている。
【0080】
結合範囲Kを含む結合平面内では、アクチュエータ2のエッジ領域は、結合範囲Kの外側で互いに分離されて互いに自由に可動である。その結果、圧電セラミック層2aの受動的な変形に起因するピーク荷重を、エッジ領域におけるアクチュエータ2の結合を互いを阻止することなく、減少させることができる。それによって、クラック形成が防止され、スタックアクチュエータ1の耐用寿命が大幅に延びる。
【0081】
本例では、各結合範囲Kは、それぞれ軸AまたはSに垂直に延在する平面として設計されている。結合範囲Kの範囲寸法は、軸Aに垂直な平面上のアクチュエータ2の突出範囲Pの約0.9倍または90%である。
【0082】
言い換えれば、軸Aに垂直な平面内でアクチュエータ2の平坦な延在部と比較して結合範囲Kが減少するという本発明の利点は、受動的な絶縁体エッジによって形成されたエッジ領域における隣接するアクチュエータ2が互いに選択的に分離されることと類似している。各アクチュエータ2では、膨張した場合、いわゆる受動領域に引張応力が発生する。というのも、この領域は電極2bを含んでおらず、したがって能動的に変形しないからである。アクチュエータ2の高さが低く、エッジ領域が受動的に変形するため、個々の各アクチュエータ2において引張応力は臨界荷重を下回る。アクチュエータ2をその断面積(軸Aに垂直な平面内の延在部)全体にわたって全体的に接着すると、アクチュエータの結
合がこの変形を阻止および妨害することになる。この影響は、互いに接着されるアクチュエータ2の数が増えるにつれて増加する。変形によって発生する応力は、何らかの対策が取られなければ合計されて、受動境界層の最終強度を超えることになる。本発明に係る特徴がなければ、最も弱い点においてクラック形成が起きることになる。
【0083】
高いアクチュエータ剛性を達成するために、剛性接着剤および非常に薄い接着剤用の間隙が使用されるので、接着剤層による応力緩和は通常は不十分である。それにもかかわらず、本発明の範囲内では軟性の減衰接着剤も使用され得る。
【0084】
したがって、接着は、結合範囲Kにおいてのみ行われ、結合平面内で結合範囲Kを取り囲むアクチュエータ2のエッジ領域では行われないことが好ましい。結合範囲Kは、積層軸Sに垂直な平面E内で結合すべきアクチュエータ2の平坦な延在部よりも小さく、または、それぞれ軸AもしくはSに垂直な平面E上で結合すべきアクチュエータ2の突出範囲Pよりも小さい(図4参照)。アクチュエータ2の受動領域の変形のために、アクチュエータ2の変形はそれぞれこの軸AまたはSに厳密に沿って起こるので、それに応じて、ピーク荷重が減少する可能性が生じる。
【0085】
本発明の主題を実現するために、実施形態のさまざまな変形例が考えられる。
一方では、エッジ領域に接着剤をそのまま残しておくことが可能である。技術的に見て、接着剤は硬化時に圧力下で、およびしばしば上昇温度で流れるため、これは複雑である。このため、平面内の無制限範囲上での画定された再現可能な接着はほぼ不可能である。したがって、結合範囲Kは、隣接範囲に対してオフセットされて配置されること、または制限されることが好ましい。
【0086】
したがって、剥離剤を、接着剤との接触、または少なくとも1つの接続先との少なくともその接着を防止することによって、結合範囲Kの境界を定める絶縁体エッジの領域に塗布することが好ましい。
【0087】
これに代えて、断面がさらに小さい薄い追加素子3を2つのアクチュエータ2の間にそれぞれ入れることができ、この追加素子3は隣接するアクチュエータ2への結合範囲Kを形成する(図1または図6)。たとえば、周囲の寸法がアクチュエータ2よりも小さい(少なくとも絶縁体エッジの幅に等しい量だけ小さい)金属薄膜をアクチュエータ2の間に接着することができる。そのため、絶縁体エッジは自由なままであり、単一のアクチュエータ2の場合と同様に変形し得る。
【0088】
個々のアクチュエータ2の軸方向前側に小さな段差を作成することも可能である(図3a)。この段差は絶縁体エッジとほぼ同じ幅であり、数10μmの高さである。これによって、追加の薄い追加素子3(図1または図6)を挿入した場合と同じ結果をがもたらされるが、組み立ておよび位置決めが容易になり、接合箇所の数が減る。段差は片側のみに設けてもよく(図示せず)、両側に設けてもよい(図3a)。片側設計の場合は製造労力が軽減し、両側設計の場合は片側当たりの除去が減少するので受動端部層の必要な厚みが減少する。
【0089】
段差の代わりに、面取り部またはその他の凹部を使用することもできる(図3a~図3d)。さらに、表面がアーチ形のアクチュエータ2の使用が可能である。
【0090】
高電圧アクチュエータでは、通常の場合、断面が減少した薄板がアクチュエータ部分同士の間に接着される(図6)。これは、外部電極25,26およびスタックの表面の電極に後で接触するための電極2b,2dとして作用し、また同時に、軸A、Sに垂直に方向付けられた平面内でアクチュエータ2の表面延在部と比較してアクチュエータ2同士の間
の結合範囲を減少させることによって追加素子3として作用する。しかしながら、アクチュエータ2は、アクチュエータ2を外部の影響から保護するために接着剤でコーティングされいるため、アクチュエータ2のエッジ領域における残りの間隙は接着剤で充填されている。
【0091】
このタイプのアクチュエータについての1つの解決法は、間隙を完全には充填しない保護層を塗布することである。これは、一方では、非常に薄い層を塗布すること(たとえば、蒸着、噴霧等)によって可能である。さらに、液体の代わりに膜を塗布することが可能である。
【0092】
さらなる代替案は、間隙を弾性材料で充填することである。その後、スタックを通常のように被覆することができる。
【0093】
両タイプのアクチュエータ2について、上述の解決法は、形状(円形、楕円形、矩形等)およびサイズに関して、任意の断面に適用可能である。ここで、中実断面だけではなく、たとえば中空円柱の形態の中空断面も考えられる。
【0094】
さまざまなアクチュエータ2で試験した結果、個々のチップアクチュエータの静的張力を用いる耐用寿命は通常、接着されたチップスタックの耐用寿命よりもかなり高く、場合によっては少なくとも2倍も高いことが分かった。
【0095】
本発明に係るチップの臨界領域の分離によって、接着されたスタックにおける耐用寿命に関する利点が維持される。
【0096】
積層軸Sに垂直な平面内に円形断面を有するアクチュエータ2の場合、直径Dと高さHの比を特定することができる。上述の実施形態の有利な展開では、この比はD/H≧1であり、好ましくはD/H>5であり、特に好ましくはD/H=6.4である。D/Hが<50であれば、さらに有益であり得る。
【0097】
積層軸Sに垂直な平面内に矩形断面を有するアクチュエータ2の場合、エッジ長さLと高さHの比を特定することができる。矩形断面を有するアクチュエータ2に関連する有利な展開では、この比はL/H≧1であり、好ましくはL/H>5であり、特に好ましくはL/H=6.4である。L/H<50であれば、さらに有益であり得る。
【0098】
このようなD/HおよびL/H比によって、高い剛性と同時に高いたわみを有し、さらにクラックの発生傾向が最小になるので高い信頼性を有するアクチュエータを提供することができる。
【0099】
円形断面を有するアクチュエータ2の場合、受動領域が積層軸Sから一定の径方向距離を有する(これは正方形または矩形のアクチュエータ断面には当てはまらない)ので、能動領域と受動領域との間の移行領域においてより均一な変形が起こるという点で、矩形断面を有するアクチュエータ2と比較して一般に有利である。
【符号の説明】
【0100】
参照番号のリスト
1 スタックアクチュエータ
2 アクチュエータ
2a 圧電セラミック層
2b 正極
2c 正極用の接触(プレート)または(内部)電極
2d 負極
2e 負極用の接触(プレート)または(内部)電極
3 追加素子
20 絶縁体
21 上側
22 下側
23 上側の段差/面取り部
24 下側の段差/面取り部
25 (外部/側面)電極正極
26 (外部/側面)電極負極
A 軸
D 円形断面を有するアクチュエータの直径
E 積層軸に垂直な平面
H アクチュエータの高さ
K 結合範囲
L 矩形断面を有するアクチュエータのエッジ長さ
P 軸に垂直な平面上の突出範囲
S 積層軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-02-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電スタックアクチュエータ(1)の製造方法であって、
a.ステップA:電気的に作動されると軸(A)に沿ってたわみを生じさせるように設計されている少なくとも2つのアクチュエータ(2)を設けるステップと、
b.ステップB:前記アクチュエータ(2)が電気的に作動されると生じる前記アクチュエータの前記たわみが積層軸(S)に沿って重なり合い、前記積層軸(S)に垂直な平面(E)上の前記アクチュエータ(2)の突出範囲(P)よりも小さい少なくとも1つの結合範囲(K)上で前記アクチュエータ(2)の力結合が行われるように、前記少なくとも2つのアクチュエータ(2)を結合して前記スタックアクチュエータ(1)を形成するステップとを備える、方法。
【外国語明細書】