(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054155
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】非管腔領域用インプラント
(51)【国際特許分類】
A61L 31/02 20060101AFI20240409BHJP
C22C 23/04 20060101ALI20240409BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240409BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20240409BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240409BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240409BHJP
C22C 1/02 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
A61L31/02
C22C23/04
C23C28/00 Z
A61L31/12
A61L31/10
A61L31/14 500
C22C1/02 503L
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009048
(22)【出願日】2024-01-24
(62)【分割の表示】P 2021509605の分割
【原出願日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2019062874
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020001520
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】307028884
【氏名又は名称】株式会社 日本医療機器技研
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 修蔵
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】和田 晃
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐食性が改善された非管腔領域用インプラント及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1)所定の形状を有するマグネシウム合金表面がフッ化処理されてフッ化処理層を形成し、前記フッ化処理層上にパリレン層が形成された、前記マグネシウム合金表面に(a)フッ化マグネシウム層と、(b)パリレン層と、を有する非管腔領域用インプラント。(2)(a)任意の形状を有するマグネシウム合金表面をフッ化処理して、フッ化マグネシウム層を形成し、しかる後、(b)前記フッ化マグネシウム層上にパラキシリレン樹脂を蒸着してパリレン層を形成する、非管腔領域用インプラントの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を有するマグネシウム合金からなるコア構造体を有する生体吸収性インプラントにおいて、
前記コア構造体上に形成された、前記マグネシウム合金表面がフッ化処理されて形成されたフッ化マグネシウム層を主成分とする第1防食層と、前記フッ化マグネシウム層上に形成されたパリレンからなる第2防食層と、を備えた非管腔領域用インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記マグネシウム合金は、質量%で、0.95~2.00%のZn、0.05%以上0.30%未満のZr、0.05~0.20%のMnを含有し、残部がMgおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が1.0~3.0μm、標準偏差が0.7μm以下の粒径分布を有するマグネシウム合金である非管腔領域用インプラント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記マグネシウム合金が、ホイール状、プレート状、ロッド状、パイプ状、バンド状、ワイヤー状、リング状又は上記の形状の1または複数を組み合わせた形状を有する非管腔領域用インプラント。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記非管腔領域用インプラントの用途が、整形外科用、口腔外科用、形成外科用、または脳外科用である非管腔領域用インプラント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記非管腔領域用インプラントが、(1)クリップ、ステープラー、ワイヤー、縫い合せ針などの縫合器具用、または(2)骨ピン、骨ネジ、スーチャーアンカーなどの骨接合部材用に用いられる非管腔領域用インプラント。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記フッ化マグネシウム層の層厚が、0.5~1.5μmである非管腔領域用インプラント。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記パリレン層は、パリレンN(下記化学式1)、パリレンC(下記化学式2)、パリレンM(下記化学式3)、パリレンF(下記化学式4)、パリレンD(下記化学式5)またはパリレンHT(下記化学式6)から形成されている、非管腔領域用インプラント。
【化1】
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記パリレン層の層厚が、0.05~1μmである非管腔領域用インプラント。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記パリレン層の一部の表面には、生分解性ポリマー、タンパク質およびリン酸カルシウム層からなるグループから選ばれる生体材料からなる生体材料層が形成されている、非管腔領域用インプラント。
【請求項10】
(1)任意の形状を有するマグネシウム合金表面をフッ化処理して、前記マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層を形成し、しかる後、(2)前記フッ化マグネシウム層上にパラキシリレン樹脂を蒸着コートしてパリレン層を形成し、前記マグネシウム合金表面に(1)フッ化マグネシウム層と、(2)前記フッ化マグネシウム層上のパリレン層と、を有する非管腔領域用インプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2019年3月28日に出願した特願2019-062874および2020年1月8日に出願した特願2020-001520の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部となすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生分解性マグネシウム合金表面を腐食抑制層で被覆することにより、該マグネシウム合金表面を改質したマグネシウム合金からなる非管腔領域用インプラントに関する。
本発明に係る非管腔領域用インプラントは、整形外科、口腔外科、形成外科または脳外科のインプラント等として用いられる。
【背景技術】
【0003】
現代医療技術において、インプラントは、支持物として外科的目的のために、組織または骨の付着または固定のために広範囲に適用されている。ところが、施術を受けた人体に残っているインプラントは、人体において多様な合併症を誘発することになるので、施術後のインプラントは、目的を達成した後に、追加の施術を通じて除去しなければならないという煩わしさがある。
インプラントの金属を生分解性材料で作製しようとする多くの研究が行われており、その結果、ポリマー系材料、セラミック系材料、および金属系材料等の多様な材料からなる生分解性(biodegradable)材料が提案されてきている。
【0004】
これを受け、強度、加工性、延性と共に生分解性を備えた金属材料の開発が渇望されており、マグネシウム、鉄およびタングステン等が生分解性材料として提案されているが、この中で、特にマグネシウムが最も適合した生分解性材料として注目されているところ、最近では、骨の接着のための固定ネジ等の一部にマグネシウム合金が使用されはじめている。
【0005】
一方、生分解性材料の生体内分解速度は、組織の再生速度と比例して進行しなければならないが、マグネシウム合金は、分解速度があまりにも速くて、損傷した組織が復旧する前に安定性を失うと、医療機器本来の機能をまともに遂行できなくなり、一方、分解速度があまりにも遅ければ、合併症のような問題をひき起こすことになる。したがって、生分解性マグネシウムの分解速度の制御は、生分解性マグネシウムを用いた医療用機器の設計において、必須的に考慮しなければならない要素に該当する。このため、生分解性マグネシウム合金の表面処理として、マグネシウム合金表面をフッ化水素酸水溶液で処理(フッ化処理)する試みがなされている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記先行文献に記載されたマグネシウム合金表面をフッ化マグネシウムで処理して、マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層を形成するだけでは、マグネシウム合金表面の分解速度を十分に制御するには不十分であることに気が付いた。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層を形成し、さらに、該フッ化マグネシウム層上に、フッ化マグネシウム層で被覆されたマグネシウム合金の分解速度を抑制する腐食抑制層を形成して、かかる腐食抑制層により被覆されたマグネシウム合金からなる非管腔領域用インプラントを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討の結果、マグネシウム合金表面をフッ化処理して、マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層(第1層)を形成し、さらに、該フッ化マグネシウム層上に、パリレン層(第2層)を形成することにより、マグネシウム合金表面の分解速度を十分に制御して、実用的な非管腔領域用インプラントを形成することができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明は、以下の態様で構成される。
[態様1]
所定の形状を有するマグネシウム合金からなるコア構造体を有する非管腔領域用生体吸収性インプラントにおいて、
前記コア構造体上に形成された、前記マグネシウム合金表面がフッ化処理されて形成されたフッ化マグネシウム層を主成分とする第1防食層と、
前記フッ化マグネシウム層上に形成されたパリレンからなる第2防食層と、を備えた非管腔領域用インプラント。
前記マグネシウム合金を用いて、マグネシウム合金表面をフッ化処理してフッ化処理層を形成し、さらに、前記フッ化処理層上にパリレン層を形成することにより、マグネシウムの生分解速度をインプラントとして好適な範囲に制御することができる。
本発明において、非管腔領域とは、生体管腔(血管、リンパ管、尿管等)ではない領域をいう。
フッ化処理層およびパリレン層は、それぞれマグネシウム合金表面全域に形成することが好ましい。
【0010】
[態様2]
態様1に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、 前記マグネシウム合金は、質量%で、0.95~2.00%のZn、0.05%以上0.30%未満のZr、0.05~0.20%のMnを含有し、残部がMgおよび不可避的不純物からなり、
平均結晶粒径が1.0~3.0μm、標準偏差が0.7μm以下の粒径分布を有するマグネシウム合金である非管腔領域用インプラント。
非管腔領域用インプラントは、人体の治療用に用いられ、人体体内に一定期間留置される場合があるので、人体に対する安全性の観点から、上記構成のマグネシウム合金が好ましい。なかでも、上記マグネシウム合金は、不可避的不純物の総量が30ppm以下であり、希土類元素およびアルミニウムを含有しないものであることが好ましい。
上記のマグネシウム合金は、JIS Z2241によって測定される破断伸びが15~50%となるものであってもよい。破断伸びは、30%を超えることが好ましい。
上記マグネシウム合金は、JIS Z2241によって測定される引張強度が250~300MPa、耐力が145~220MPaとなるものであってもよい。
上記マグネシウム合金は、粒径500nm以上の析出物を含有しないことが好ましく、粒径100nm以上の析出物を含有しないことがさらに好ましい。
【0011】
[態様3]
態様1または態様2に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、
前記マグネシウム合金は、ホイール状、プレート状、ロッド状、パイプ状、バンド状、ワイヤー状、リング状又は上記の形状の1または複数を組み合わせた形状を有する非管腔領域用インプラント。
非管腔領域用インプラントして、用途によって選択された形状を有するマグネシウム合金が用いられる。
【0012】
[態様4]
態様1~3のいずれか一態様に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、前記非管腔領域用インプラントの用途が、整形外科用、口腔外科用、形成外科用または脳外科用である非管腔領域用インプラント。
【0013】
[態様5]
態様1~4のいずれか一態様に記載の非管腔領域用インプラントが、クリップ、ステープラー、ワイヤー、縫い合せ針などの縫合具用インプラント、骨ピン、骨ネジ、スーチャーアンカーなどの骨接合部材用インプラントに用いられる非管腔領域用インプラント。
【0014】
[態様6]
態様1~5のいずれか一態様に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、前記フッ化マグネシウム層の層厚が、0.5~1.5μmである非管腔領域用インプラント。
態様6において、マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層を形成することは、マグネシウム合金の分解速度を低下する点で効果的であるが、1.5μmを超えるフッ化マグネシウム層を形成することは困難であり、0.5~1.5μmの範囲内で適宜選択することが好ましい。
【0015】
[態様7]
態様1~6のいずれか一態様に記載の非管腔領域用インプラントにおいて、前記パリレン層を構成するパリレンは、パリレンN(下記化学式1)、パリレンC(下記化学式2)、パリレンM(下記化学式3)、パリレンF(下記化学式4)、パリレンD(下記化学式5)またはパリレンHT(下記化学式6)から形成されている非管腔領域用インプラント。
【化1】
【0016】
[態様8]
態様1~7のいずれか一態様において、
前記パリレン層の層厚が、0.05~1μmである非管腔領域用インプラント。
本態様では、パリレン層は、フッ化マグネシウム層上に形成されるため、薄い層で効果的にマグネシウム合金の分解速度を制御することが可能である。
【0017】
[態様9]
態様1~8のいずれか一態様において、
前記パリレン層の少なくとも一部の表面には、生分解性ポリマー、タンパク質およびリン酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の生体材料からなる生体材料層が形為政されている非管腔領域用インプラント。
【0018】
〔態様10〕
(1)任意の形状を有するマグネシウム合金表面をフッ化処理して、前記マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層を形成し、しかる後、(2)前記フッ化マグネシウム層上にポリパラキシリレン樹脂を蒸着コートしてパリレン層を形成し、前記マグネシウム合金表面に(1)フッ化マグネシウム層と;(2)前記フッ化マグネシウム層上のパリレン層と、を有する非管腔領域用インプラントを製造する方法。
マグネシウム合金の形状は、上記のようにホイール状、プレート状、ロッド状、パイプ状、バンド状、ワイヤー状、リング状又は上記の形状の1または複数を組み合わせた形状を有しており、マグネシウム合金の用途によって種々の形状であってよい。種々の形状のマグネシウム合金をフッ化水素酸水溶液中に浸漬してフッ化処理を行い、その後、マグネシウム合金のフッ化処理層上にパリレン層を形成して、本発明に係る非管腔領域用インプラントを製造することができる。
【0019】
なお、請求の範囲および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明第1の態様において、マグネシウム合金表面上にフッ化マグネシウム層を形成した後、フッ化マグネシウム層上にパリレン層を形成することにより得られた非管腔領域用インプラントには、耐食性が与えられ、所定期間、機械的強度の維持が可能である。
フッ化マグネシウム層上にさらにパリレン層を形成することにより、種々の用途に対して、十分な耐食性を有する非管腔領域用インプラントが提供される。
フッ化マグネシウム層は、生分解されて体内に吸収されるが、パリレン層は体内に吸収されない。フッ化マグネシウム層上にパリレン層を形成することにより、パリレン層を薄層にすることができ、その結果、パリレン層の残存による体内に与える影響を小さくすることが可能である。
下記で示す比較例1及び2のように、パリレン単独ではフッ化マグネシウムよりもマグネシウム合金の溶出を抑制することはできないが、意外なことにフッ化マグネシウム層とパリレン層を組み合わせることにより、フッ化マグネシウム単独の場合の場合よりも耐食性を向上できる。すなわち、パリレン層からなる第2防食層で第1防食層をカバーすることにより、第1防食層の耐食性をより長く維持できるとの相乗効果が得られる。
【0021】
本発明第2の態様において、マグネシウム合金は、レアメタルおよびアルミニウムを含有しないため人体に対する安全性の点で優れている。マグネシウム合金は、ほぼ全固溶型の単相からなる合金、または前記合金中に、ナノメータ大のZrを含む微粒の析出物が分散した組織を有する。このマグネシウム合金は、粒径が微細かつ均一であることから、変形性(延性、伸び)にすぐれ、破壊起点となる粗粒の析出物をともなわないことから、引張強度、耐力等の機械的特性にもすぐれる。
前記マグネシウム合金は、不可避不純物としてのFe、Ni、Co、Cuの含有量が、それぞれ10ppm未満であることが好ましい。上記マグネシウム合金は、不可避不純物としてのCoを含有しないものであることがより好ましい。
上記のマグネシウム合金から構成された非管腔領域用インプラントは、変形特性に優れているとともに、生分解特性が適切に制御される。
【0022】
本発明第3の態様において、種々の形状のマグネシウム合金の表面に対して形成された第1層および第2層は変形追随性を有しているため、種々の用途に用いられることができる。
【0023】
本発明第4および第5の態様において、本発明に係る非管腔領域用インプラントは、種々の治療用途に用いられ、最終的には、マグネシウム合金そのものは分解吸収され生体組織と一体化され、パリレン層は薄層のため、生体内組織内に密着埋没される。
【0024】
本発明第6の態様において、フッ化マグネシウム層の厚みは、厚みが大きいほど耐食性は向上するが、フッ化マグネシウム層の変形追随性とのバランスを考慮される必要がある。
【0025】
本発明第7および8の態様において、フッ化マグネシウム層上にパリレン層を形成したマグネシウム合金は、フッ化マグネシウム層のみを形成したマグネシウム合金に比して、マグネシウムの分解速度抑制効果をより高める効果を有する。なかでも、パリレンCにより形成されたパリレン層が、変形追従性の点で好ましい。パリレン層の厚みは、0.05~1μmの範囲内で選択されるが、パリレン層は生体内に残留するため最低限に抑えることが好ましい。
【0026】
本発明第9の態様では、前記パリレン層の少なくとも一部の表面には、生体材料層(生分解性ポリマー層、たんぱく質層、リン酸カルシウム層など)が形成されていることが好ましい。生体材料層は、マグネシウム合金製品の生体の所定箇所への送達性の向上、パリレン層に対する外部応力からの保護、生体組織に対する生体適合性・機能性の向上、薬剤(消炎剤、鎮静剤、骨粗しよう症治療薬、リムス系薬剤など)の担持などの役割を担う。
生分解性ポリマー層は、前記パリレン層側の内層と接触する生体側の外層の2層から構成されてもよく、薬剤をいずれの層に含有させてもよい。
【0027】
本発明第10の態様により、種々の形状のマグネシウム合金表面に、フッ化マグネシウム層(第1層)を形成し、さらにその上に、パリレン層(第2層)を形成し、第1層と第2層を備えた、非管腔領域用インプラントを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲は添付の請求の範囲を定めるために利用されるべきではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
【
図1】本発明に係る非管腔領域用インプラントの構成要素を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る非管腔領域用インプラントの一例を示す実施例で用いられたサンプル形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(非管腔領域用インプラント)
本発明の非管腔領域用インプラント(Mg合金)の一例は、
図1に示すように、所定形状を有するマグネシウム合金aと、前記マグネシウム合金a表面をフッ化処理することにより形成されたフッ化マグネシウム(MgF
2)層(第1層)b[表面は、表面のMgが酸化されることにより形成されるMg(OH)
2等を含んで親水性を呈する]と、前記フッ化マグネシウム層b上に形成されたパリレン層(第2層)cと、を有する。
前記構成の技術的要素として、生分解性を有するとともに用途に応じた適応性を有するマグネシウム合金組成を選定する要素と、選定された合金組成を有するマグネシウム合金の腐食を制御するために、マグネシウム合金表面にMgF
2を主成分とするフッ化マグネシウム層を形成する要素と、前記フッ化マグネシウム合金層の表面にパリレンからなるカーボンコート層(第2層)を形成する要素とを有する。
【0030】
(マグネシウム合金)
本発明で用いられるマグネシウム合金としては、AZシリーズ(Mg-Al-Zn)(AZ31、AZ61、AZ91など)、AMシリーズ(Mg-Al-Mn)、AEシリーズ(Mg-Al-RE)、EZシリーズ(Mg-RE-Zn)、ZKシリーズ(Mg-Zn-Zr)、WEシリーズ(Mg-RE-Zr)、AXまたはAXJシリーズ(Mg-Al-Ca)などが挙げられるが、なかでも、人体に対する為害性のあるアルミニウム、レアメタルを含有しない、90質量%以上のマグネシウムを含み、Zn,ZrおよびMnを副成分として含有するマグネシウム合金が挙げられる。 本発明で用いられるマグネシウム合金は、90質量%以上のマグネシウム(Mg)を主成分、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)およびマンガン(Mn)を副成分として含有し、かつ、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、ランタン(La)の内の少なくとも1種のレアアースおよびアルミニウム(Al)を含有していなく、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)および銅(Cu)からなるグループから選ばれる不可避的不純物の含有量が30ppm以下であるマグネシウム合金から構成されるのが好ましい。かかる構成を有することにより、生体安全性および機械的特性が確保される。
生体安全性および機械的特性を向上させる上で、Mgの含有量が93質量%以上であればより相応しく、95質量%以上であればさらに相応しい。
Sc、Y,Dy,Sm,Ce,Gd,Laの内の少なくとも1種のレアアースおよびAlを含有しないことにより、好ましくはすべてのレアアースおよびAlを含有しないことにより、人体に対する為害性を防ぐことができる。
【0031】
本発明において好ましいマグネシウム合金は、質量%で、0.95~2.00%のZn、0.05%以上0.30%未満のZr、0.05~0.20%のMnを含有し、残部がMgおよび不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が1.0~3.0μm、標準偏差が0.7μm以下の粒径分布を有するマグネシウム合金が好ましい。
本発明では、マグネシウム合金の組成を上記範囲に制御することにより、塑性加工性が向上すること、合金の粒径微細化・均一化によって破断伸びなどの特性が向上するなどのメリットが認められる。
【0032】
上記構成のマグネシウム合金は、破壊の起点となる、粗粒の析出物の形成が回避されるため、変形時や変形後の破壊の可能性を抑制することができる。なお合金の結晶粒径微細化のために添加されるZrは析出物を形成する場合があるが、通常ナノメータサイズ(100nm未満のサイズ)で母相中に分散しており、合金の変形や腐食への影響はほとんど無視することができる。
【0033】
亜鉛(Zn):質量%で0.95%以上、2.00%以下
Znは、Mgと固溶し、合金の強度、伸びを向上するために添加される。Znの添加量が0.95%未満では所望の効果が得られない。Znの含有量が2.00%を超えると、固溶限界を超えて、Znに富む析出物が形成され、耐食性を低下させるため好ましくない。そのため、Znの含有量は、0.95%以上、2.00%以下とした。Znの含有量は2.00%未満であってもよい。
【0034】
ジルコニウム(Zr):質量%で0.05%以上、0.30%未満
ZrはMgとはほとんど固溶せず、微細な析出物を形成し、合金の結晶粒径の粗大化を防止する効果がある。Zrの添加量が0.05%未満では、添加の効果は得られない。添加量が0.30%以上となると、析出物の量が多くなり、粒径微細化の効果が低下する。また、析出物の偏析している箇所が腐食や破壊の起点となる。そのため、Zrの含有量は、0.05%以上、0.30%未満とした。Zrの含有量は、0.10%以上、0.30%未満であってもよい。
【0035】
マンガン(Mn):質量%で0.05%以上、0.20%以下
Mnは、合金の微細化、および耐食性向上の上で効果がある。Mnの含有量が0.05%未満では、所望の効果が得られない。Mnの含有量が0.20%を超えると、塑性加工性が低下する。そのため、Mnの含有量は、0.05%以上、0.20%以下とした。好ましいMn含有量は0.10%以上、0.20%以下である。
【0036】
(不可避不純物)
マグネシウム合金においては、不可避不純物の含有量も制御されることが好ましい。Fe、Ni、Co、Cuは、マグネシウム合金の腐食を促進するため、それぞれの含有量は、10ppm未満とすることが好ましく、5ppm以下とすることがさらに好ましく、実質的含有しないことが好ましい。不可避不純物の総量は、30ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがさらに好ましい。また、希土類元素およびアルミニウムは実質的に含まれないことが好ましい。ここで、合金中の含有量が1ppm未満であれば、実質的に含有しないとみなす。不可避不純物の含有量は、例えば、ICP発光分光分析により、確認できる。
【0037】
(マグネシウム合金の製造)
上記マグネシウム合金は、通常のマグネシウム合金の製法に従い、Mg、Zn、Zr、Mnの地金もしくは合金を坩堝に投入し、温度650~800℃で溶解、鋳造することによって製造することができる。必要に応じ、鋳造後に溶体化熱処理を行ってもよい。希土類(およびアルミニウム)は、地金には含まれない。また高純度の地金を用いることにより、不純物中のFe、Ni、Co、Cu量は抑制できる。不純物中のFe、Ni、Coについては、溶湯化した段階で脱鉄処理により除去してもよい。かつ/あるいは、蒸留製錬した地金を用いてもよい。
【0038】
(金属組織及び機械的特性)
マグネシウム合金は、上述の組成及び製造方法の制御により、粒径分布で見た場合に、平均結晶粒径が1.0~3.0μm、例えば、1.0~2.0μm、標準偏差が0.7μm以下、例えば0.5~0.7の微細かつ均一な組織を有するものとすることができる。標準偏差は0.65μm以下であることが好ましい。Zrを含む細粒の析出物は、粒径500nm未満、好ましくは100nm未満とすることができる。Zr析出物をのぞく母相は、Mg-Zn-Mn三元系合金の全固溶体であることが好ましい。
合金は、JIS Z2241による測定で、引張強度230~380MPa、例えば250~300MPa、耐力145~220MPa、破断伸び15~50%、例えば25~40%の機械的特性を有する。ここで、引張強度は280MPaを超えることが好ましい。破断伸びは30%を越えることが好ましい。
【0039】
(マグネシウム合金の形状)
前記マグネシウム合金は、ホイール状、プレート状、ロッド状、パイプ状、バンド状、ワイヤー状、リング状又は上記の形状の1または複数を組み合わせた形状を有していてもよく、マグネシウム合金の用途によって選択された形状のマグネシウム合金を用いて、上記の第1層と第2層が形成される。
【0040】
(フッ化マグネシウム層の形成)
所定形状を有するマグネシウム合金表面にフッ化処理を行う。フッ化処理の条件は、MgF2層を形成することができる限り、特に限定されないが、例えば、フッ化水素酸水溶液などの処理液中にマグネシウム合金を浸漬して行うことができる。浸漬に際しては、例えば、50~200ppm、好ましくは80~150ppmで振盪を行うのが好ましい。その後、MgF2層が形成されたマグネシウム合金を取り出し、洗浄液(例えば、アセトン水溶液)で十分洗浄する。洗浄は、例えば超音波洗浄を行い、洗浄後、マグネシウム合金を乾燥させる場合、減圧下50~60℃において24時間以上乾燥させる方法が用いられるのが好ましい。
【0041】
(フッ化マグネシウム層の構成)
フッ化マグネシウム層は、フッ化マグネシウムを主成分として構成される。例えば、90%以上含まれるMgF2を主成分として構成されてもよい。さらに、副成分として、MgOならびにMg(OH)2のような酸化物ならびに水酸化物を含有していてもよい。なお、フッ化マグネシウム層は、マグネシウム以外の上記の目的の医療用具を構成する金属の酸化物ならびに水酸化物を含有してもよい。
【0042】
(フッ化マグネシウム層の層厚)
フッ化マグネシウム層の層厚は、防食性を発揮する上で0.5μm以上であることが相応しく、変形追従性を発揮する上で3μm以下であることが相応しい。
【0043】
(パリレン層の形成)
本発明において、第1防食層上にパリレンからなる、厚さが0.05~1μm、好ましくは、0.08~0.8μmの薄い第2防食層を形成することにより、生体吸収性を阻害することなく、マグネシウム合金の耐食性を大幅に向上することができる。厚さが薄すぎると、防食効果が不十分となる傾向にあり、厚すぎると生体吸収性を阻害する傾向となる。
パリレンは、パラキシリレンまたはその誘導体の総称であり、芳香族環に官能基のないパリレンN[下記(1)式]、その芳香族環水素の1つが塩素に置換されたパリレンC[下記(2)式]、その芳香族環水素の1つがメチル基に置換されたパリレンM[下記(3)式]、パリレンMのメチレン基の一方が、フッ素化されたパリレンF[下記(4)式]、パリレンNの芳香族環の2,5位の水素が塩素に置換されたパリレンD[下記(5)式]、パリレンNの両方のメチレン基がフッ素化されたパリレンHT[下記(6)式]などを例示することができる。これらのパリレンは市販されており、たとえばパリレンN,パリレンCは、ともに第三化成株式会社から入手することができる。
【化2】
【0044】
(パリレン層の層厚)
本発明において、フッ化マグネシウム層上に、厚さが0.05~1μmの薄いパリレン層を形成することにより、生分解性を阻害することなく、Mg合金の耐食性を大幅に向上することができる。厚さが薄すぎると、防食効果が不十分となる傾向にあり、厚すぎると生分解性を阻害する傾向となる。
【0045】
(生体材料層)
本発明において、パリレン層の表面全域あるいは一部に、生分解性ポリマー、タンパク質、リン酸カルシウムなどの生体材料層が形成されてもよい。生分解性ポリマーとしては、ポリエステル等が挙げられ、例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ-D,L-乳酸(PDLLA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸-ε-カプロラクトン(PLCL)、ポリグリコール酸-ε-カプロラクトン(PGCL)、ポリ-p-ジオキサノン、ポリグリコール酸-トリメチレンカーボネート、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸などを挙げることができる。タンパク質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブロインなどを挙げることができる。リン酸カルシウムとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、βリン酸三カルシウム、リン酸オクタカルシウムなどを挙げることができる。
【0046】
(薬剤)
本発明の非管腔領域用インプラントが用いられる治療目的によっては、生体材料層に医薬が含有されることができる。
【0047】
(医療用途)
得られた非管腔領域用インプラントは、整形外科インプラント用合金、口腔外科インプラント用合金、形成外科インプラント用合金、または脳外科インプラント用合金として、患者治療に活用される。具体例としては、クリップ、ステープラー、ワイヤー、縫い合せ針などの縫合具用、骨ピン、骨ネジ、スーチャーアンカーなどの骨接合部材用の合金などが挙げられる。
【実施例0048】
(マグネシウム合金の製造例1および2)
Mg、Zn、Mn、Zrの高純度地金を材料として準備した。これらをそれぞれ表1に記載の成分濃度となるように秤量して坩堝に投入し、730℃で溶融し、撹拌したメルトを鋳造し、鋳塊とし、主成分の配合割合を本発明の範囲内とした製造例1、製造例2のマグネシウム合金を得た。使用した原料には、希土類元素やアルミニウムは、不可避的不純物としても含まれていない。マグネシウム地金には、不純物Cu濃度の低い、純度99.99%のものを用い、また溶湯から鉄、ニッケルを除去するための脱鉄処理を炉内で行った。このようにして得られた試料について、ICP発光分光分析計(AGILENT製、AGILENT 720 ICP-OES)を使用し、不純物濃度を測定した。製造例1と製造例2の成分を表1に示す。Fe、Ni、Cuの濃度はいずれも8ppm以下(Ni,Cuについては3ppm以下)で、Alおよび希土類元素は検出されず、Coも検出限界以下であった。不純物濃度の総量は11~12ppmである。
【0049】
【0050】
[機械的特性の測定]
上記の製造例の各合金について、熱間押出し加工にて丸棒材を作製し、JISZ2241に従い引張強度、耐力、および破断伸びを測定した。その結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
(Mg合金の製造例3)
Mg、Zn、Mn、Zrの高純度地金を材料として準備した。これらをそれぞれ下記に記載の成分濃度になるように秤量して坩堝に投入し、730℃に溶融攪拌し、得られた溶融物を鋳造し、鋳塊とした。使用した原料には、希土類元素やアルミニウムは、不可避不純物としても含まれていない。
マグネシウム地金には、不純物Cu濃度の低い、純度99.9%のものを用い、また溶湯から鉄、ニッケルを除去するための脱鉄処理を炉内で行った。
得られた鋳塊は、ICP発光分光分析計(AGILENT社製、AGILENT 720 ICP-OES)を使用し、不純物濃度を測定した。
得られた鋳塊の成分濃度(質量%)は以下のとおりであり、アルミニウムとレアアースは含まれていない。
Mg 残部、Zn 1.5%、Mn 0.4%、Zr 0.4%、
上記鋳塊には、不可避不純物としてFe、Ni、CoおよびCuが下記濃度で含まれていた。
Fe 5ppm、Ni 5ppm、Co ND(検出限界以下)、Cu 1ppm
【0053】
(マグネシウム・プレートの製造)
製造例3のマグネシウム合金鋳塊を、
図2に示す形状(厚さ:1mm)(
図2に示されているディメンションは、mmである)に加工して、マグネシウム合金基材Aとした。
また、製造例3のマグネシウム合金鋳塊をディスク形状(直径50mm×厚さ1mm)に加工してマグネシウム合金基材Bとした。
【0054】
(マグネシウム合金基材の電解研磨)
得られたマグネシウム合金基材の表面に付着した酸化物を酸性溶液で除去した。続いて、電解液中に陽極側として浸漬させ、陰極側である金属板との間に直流電源を介して接続した後、電圧を印加することによって陽極のマグネシウム合金基材を鏡面研磨して平滑表面を得た。電圧印加中における粘液層の安定化を図るため、電解液を攪拌しながら、温度が一定となるように制御した。また、陰極における気泡の発生を抑制するため、電圧の印加と切断を適宜繰り返した。尚、陰極から遊離した気泡がマグネシウム合金基材に付着すると、表面精度不良の原因となる。
得られた鏡面性状マグネシウム合金基材を用いて、下記の実施例および比較例に示すサンプルを作製した。
【0055】
(重量残存率および引張強度残存率評価方法)
得られたサンプルを、血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)に浸漬した後、37℃・5%CO2雰囲気下、100rpmで浸漬・振盪した。浸漬28日後、抽出したサンプルをクロム酸で超音波洗浄し、水酸化マグネシウム等の腐食生成物を完全に除去し、浸漬前後の重量残存率を評価した(n=5)。
一方、得られたサンプルを、同様に浸漬・振盪して28日後、抽出したサンプルを洗浄および腐食生成物を除去し、引張り試験機にチャッキングしてクロスヘッド速度5mm/minにて引張り試験し、浸漬前後の引張強度残存率を評価した(n=5)。
【0056】
〔実施例1〕
鏡面性状マグネシウム合金基材Aを、27Mフッ化水素酸水溶液中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に抽出したサンプルを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、フッ化マグネシウム層(厚み1μm)が形成されたサンプルを得た。このサンプルにCVD法により厚み500nmのパリレンC層を形成し、フッ化マグネシウム層上にパリレン層を有するサンプルを得た。
【0057】
〔実施例2〕
実施例1と同様の方法で得られたサンプルを、1%ポリ乳酸をTHFに溶解した1%溶液に3分間浸漬した。溶液から取り出したサンプルを、減圧下60℃において24時間乾燥し、フッ化マグネシウム層、パリレン層、ポリ乳酸層を、この順序で有するサンプルを得た。
【0058】
〔比較例1〕
鏡面性状マグネシウム合金基材Aを、27Mフッ化水素酸水溶液中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に抽出したサンプルを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、フッ化マグネシウム層(厚み1μm)が形成されたサンプルを得た。
【0059】
〔比較例2〕
鏡面性状マグネシウム合金基材A(未フッ化処理)にCVD法により厚み500nmのパリレンC層を形成したサンプルを得た。
【0060】
〔比較例3〕
比較例2と同様の方法で得られたサンプルを、1%ポリ乳酸をTHFに溶解した1%溶液に3分間浸漬した。溶液から取り出したサンプルを、減圧下60℃において24時間乾燥し、パリレン層上にポリ乳酸層を有するサンプルを得た。
【0061】
上記サンプルについて、重量残存率を測定した結果を表3に、引張強度残存率を測定した結果を表4に示す。なお、浸漬前のサンプルの重量は、0.36±0.1gであり、浸漬前の引張強度は、310±10MPaであった。
【0062】
【0063】
【0064】
本発明に係るサンプル(実施例1および実施例2)は、パリレン層を有しないサンプル(比較例1)およびフッ化マグネシウム層を有しないサンプル(比較例2および比較例3)に比べて、重量ならびに引張強度の低下率が有意に小さく、フッ化マグネシウム層とパリレン層との二層構造によって優れた腐食防止効果が得られることが示唆された。
【0065】
(マウス皮下埋植による炎症性評価方法)
優れた防食性を有するサンプルは、生体組織内において、腐食に起因する炎症反応を抑制することができる。従って、組織の炎症性を評価することにより、サンプルの防食性を把握することができる。
得られたテストサンプルを、マウスの背中皮下(2個/1匹)に埋植した後、60日目に組織の炎症性を下記4段階でスコア評価した(n=5)。
【表5】
【0066】
〔実施例3〕
鏡面性状マグネシウム合金基材Bを、27Mフッ化水素酸水溶液中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に抽出したサンプルを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、フッ化マグネシウム層(厚み1μm)が形成されたサンプルを得た。このサンプルにCVD法により厚み500nmのパリレンC層を形成し、フッ化マグネシウム層上にパリレン層を有するサンプルを得た。
【0067】
〔実施例4〕
実施例3と同様の方法で得られたサンプルを、1%ポリ乳酸をTHFに溶解した1%溶液に3分間浸漬した。溶液から取り出したサンプルを、減圧下60℃において24時間乾燥し、フッ化マグネシウム層およびパリレン層上にポリ乳酸層を有するサンプルを得た。
【0068】
〔比較例4〕
鏡面性状マグネシウム合金基材Bを、27Mフッ化水素酸水溶液中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に溶液から取り出したサンプルを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、フッ化マグネシウム層(厚み1μm)が形成されたサンプルを得た。
【0069】
〔比較例5〕
鏡面性状マグネシウム合金基材B(未フッ化処理)にCVD法により厚み500nmのパリレンC層を形成したサンプルを得た。
【0070】
〔比較例6〕
比較例5と同様の方法で得られたサンプルを、1%ポリ乳酸をTHFに溶解した1%溶液に3分間浸漬した。溶液から取り出したサンプルを、減圧下60℃において24時間乾燥し、パリレン層上にポリ乳酸層を有するサンプルを得た。
【0071】
実施例3~4および比較例4~6で得られたサンプルの炎症性評価結果を表5に示した。
【表6】
【0072】
本発明に係るサンプル(実施例3および実施例4)は、パリレン層を有しないサンプル(比較例4)およびフッ化マグネシウム層を有しないサンプル(比較例5および比較例6)に比べて、組織の炎症スコアが有意に小さく、フッ化マグネシウム層とパリレン層との二層構造によって優れた腐食防止効果が得られることが示唆された。
本発明は、マグネシウム合金構造体の加速的な腐食に伴う機械的強度の低下を遅延させるのに有効なフッ化マグネシウム層およびフッ化マグネシウム層上に形成されたパリレン層を有する非管腔領域用インプラントを提供することにより、医療技術発展に貢献するので、産業上の利用可能性が極めて大きい。
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書及び図面を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から発明の範囲内のものと解釈される。