(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054184
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】インクジェット用処理液、及び、インクジェット捺染装置
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20240409BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240409BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240409BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240409BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240409BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20240409BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20240409BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/00 D
C09D7/63
C09D5/02
C09D11/54
D06P5/30
D06P5/00 104
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014660
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2023548446の分割
【原出願日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2021151682
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022028912
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004303
【氏名又は名称】弁理士法人三協国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 博子
(72)【発明者】
【氏名】保母 純平
(72)【発明者】
【氏名】通山 剛
(72)【発明者】
【氏名】日置 潤
(57)【要約】 (修正有)
【課題】インク塗布に先立って塗布するインクジェット用処理液、およびそれを用いたインクジェット捺染装置を提供する。
【解決手段】水溶性カチオンポリマーと有機酸塩とを含有し、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が、処理液全体に対して、0.1重量%以上、10重量%未満である、インクジェット用処理液を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性カチオンポリマーと有機酸塩とを含有し、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が、処理液全体に対して、0.1重量%以上、10重量%未満である、インクジェット用処理液。
【請求項2】
前記有機酸塩の含有量が、処理液全体に対して、0.1~20重量%である、請求項1に記載のインクジェット用処理液。
【請求項3】
前記有機酸塩の含有量が前記水溶性カチオンポリマーの含有量より多い、請求項1または2に記載のインクジェット用処理液。
【請求項4】
前記有機酸塩の含有量が、処理液全体に対して、1~15重量%である、請求項3に記載のインクジェット用処理液。
【請求項5】
金属塩をさらに含有する、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット用処理液。
【請求項6】
前記有機酸塩の含有量が前記金属塩の含有量より多い、請求項5に記載のインクジェット用処理液。
【請求項7】
前記金属塩の含有量が処理液全体に対して0.1~5重量%であり、前記有機酸塩の含有量が処理液全体に対して1~15重量%である、請求項6に記載のインクジェット用処理液。
【請求項8】
前記有機酸塩が有機酸マグネシウム塩である、請求項1~7に記載のインクジェット用処理液。
【請求項9】
前記有機酸マグネシウム塩の含有量が処理液全体に対して、5~11重量%である、請求項8に記載のインクジェット用処理液。
【請求項10】
前記有機酸マグネシウム塩の含有量が処理液全体に対して、12~15重量%である、請求項8に記載のインクジェット用処理液。
【請求項11】
捺染用である、請求項1~10のいずれかに記載のインクジェット用処理液。
【請求項12】
捺染対象物の少なくとも画像形成領域に処理液を吐出する処理ヘッドと、
前記捺染対象物の画像形成領域にインクを吐出する記録ヘッドと、
前記捺染対象物を搬送するための載置台と、を少なくとも備え、
前記処理ヘッドから吐出される処理液が、請求項1~11のいずれかに記載のインクジェット用処理液である、インクジェット捺染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット用処理液に関する。さらには、それを用いたインクジェット捺染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式では、インク塗布に先立って、前処理液を塗布することが知られている。例えば、インク中の色材と凝集物を形成する成分として凝集剤を含有する処理液を用いる方法が報告されている。
【0003】
特許文献1には、支持体の少なくとも一方の面上に塗工層を有する記録媒体の前記塗工層を有する面側に前処理液を付与する前処理液付与工程と、前処理液付与後の記録媒体に水性インクをインクジェット法により吐出して画像を形成する画像形成工程とを含む画像形成方法であって、前記前処理液は、少なくとも水溶性カチオンポリマー、有機酸アンモニウム塩、及び水を含む前処理液であり、前記前処理液中における水溶性カチオンポリマーの含有率が10~70質量%であり、有機酸アンモニウム塩の含有率が1~40質量%である画像形成方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、凝集剤を含む処理液を記録媒体に付着させる処理液付着工程と、水系インク組成物を記録媒体に付着させるインク付着工程とを備え、前記処理液が、前記凝集剤として金属塩、カチオンポリマー、有機酸の一種又は二種以上を含む、インクジェット記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-15008号公報
【特許文献2】特開2020-104486号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の一局面に関するインクジェット用処理液は、水溶性カチオンポリマーと有機酸塩とを含有し、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が、処理液全体に対して、0.1重量%以上、10重量%未満である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本実施形態のインクジェット用処理液を使用する、インクジェット捺染装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したような特許文献1の記載の発明は、記録媒体にインク顔料を凝集させる前処理液を付与(塗布)後に乾燥した後、水性インクをインクジェット法により吐出して画像を形成する画像形成方法であり、処理液中のカチオンポリマーの濃度が非常に高くなっている(10質量%以上)。このような高濃度のカチオンポリマーを含む処理液は、処理ヘッドから吐出することができないため、インク吐出前に処理液を塗布するという工程が必要となり煩雑である。
【0009】
また、上述の特許文献2記載の処理液を使用した場合、インクの十分な凝集性が得られないおそれもある。
【0010】
また、上述した特許文献1および2記載の技術はいずれも主に普通紙などの紙媒体やフィルムシートなどの液体低吸収性記録媒体への印刷を行うためのインクジェット画像形成方法である。よって、滲みなどが抑制された良好な画像を形成することを目的としており、布等への捺染に使用されることはあまり想定されていない。捺染に使用されるインクジェット記録の場合、摩擦堅ろう性や洗濯堅ろう性の向上、さらに、捺染対象の生地のごわつきを抑え、肌触りなどの風合いを良好にすること等が求められている。
【0011】
以下、本開示に係る実施形態について具体的に説明するが、本開示は、これらに限定されるものではない。
【0012】
[インクジェット用処理液]
本開示の一実施形態に係るインクジェット用処理液(以下、単に「処理液」と称することもある)は、水溶性カチオンポリマーと有機酸塩とを含有し、前記水溶性カチオンポリマーの含有量が、処理液全体に対して、0.1重量%以上、10重量%未満である。
【0013】
本実施形態の処理液は、インクに先立って、記録対象に付着させる前処理液である。この処理液に含まれる水溶性カチオンポリマー及び有機酸塩が、その後に付着されるインクに含まれる顔料と反応凝集し、優れた発色性を担保することができる。
【0014】
前記水溶性カチオンポリマーの含有量が、処理液全体に対して、0.1重量%以上、10重量%未満であることにより、本実施形態の処理液はインクジェットヘッド部材から吐出することができるため、ロールコート法やブレードコート法等によって塗布する工程を省くことができる。すなわち、本実施形態の処理液はインクと同様にインクジェット部材が吐出可能であるため、記録対象に簡便に付着させることができる。
【0015】
また、本実施形態の処理液を捺染用に使用した場合には、上記に加えて、湿潤摩擦性および洗濯堅牢度を向上させることができ、生地の風合いも良好になるという利点がある。特に、水溶性カチオンポリマーが上記範囲で含まれていることにより、湿潤摩擦に対して強固になる。前記水溶性カチオンポリマーの含有量が10重量%以上となると、十分な湿潤摩擦堅ろう性を得ることができない。
【0016】
すなわち、本開示のインクジェット用処理液によれば、インクジェット記録において、インクジェットヘッド部材から吐出することができ、かつ、優れた発色性を得ることができる。さらに、本開示のインクジェット処理液を捺染に使用する場合、湿潤摩擦性および洗濯堅牢度を向上させることができ、生地の風合いも良好になるという優れた利点がある。
【0017】
本実施形態のインクジェット用処理液に含まれる水溶性カチオンポリマーは、水溶性であり、プラスに帯電するカチオンポリマーであれば特に限定はされないが、例えば、アンモニウム含有ポリマー、アミン含有ポリマー、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリイミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、アミノアセタール化ポリビニルアルコール、イオネンポリマー、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルベンジルホスホニウム、ポリアルキルアリルアンモニウム、ポリアミジン、ポリアミンスルホン、等のカチオンポリマーが挙げられる。これらの中でも、より優れた発色性が得られるという観点から、4級アンモニウム含有ポリマー、ジアリルジメチルアンモニウム二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドアクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン重縮合物等が特に好ましく例示される。これらは、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
本実施形態で使用するカチオン性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定はされないが、1000~10000程度であることが好ましい。前記分子量がこの範囲であれば、インクジェットヘッドからの吐出性がより良好となると考えられる。
【0019】
前記カチオン性ポリマーの含有量は、上述の通り、処理液全体に対して、0.1重量%以上、10重量%未満である。前記カチオン性ポリマーの含有量のより好ましい下限値は、0.5重量%以上であり、さらには1重量%以上である。また、より好ましい上限値は、9重量%以下であり、さらには8重量%以下である。
【0020】
本実施形態の処理液は、さらに有機酸塩を含む。有機酸塩としては、有機酸マグネシウム塩、有機酸アンモニウム塩、有機酸カルシウム塩、有機酸アルミニウム塩、有機酸ナトリウム塩、有機酸カリウム塩等が挙げられる。なお、これらの有機酸塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。本実施形態で使用される有機酸マグネシウム塩としては、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、等が挙げられる。また、本実施形態で使用される有機酸アンモニウム塩としては、特に限定はないが、水への溶解性の点から、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、蓚酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、琥珀酸アンモニウム(琥珀酸二アンモニウム)、マロン酸ジアンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム及びL-グルタミン酸アンモニウム等が好適に用いられる。
【0021】
さらに、有機酸アンモニウム塩は、発色性などの効果においては優れるものの、臭気が発生するおそれがあるため、有機酸マグネシウム塩を使用することがより好ましい。
【0022】
前記有機酸塩の含有量は、処理液全体に対して、0.1~15重量%程度であることが好ましい。有機酸塩の含有量が前記範囲であることにより、インク成分の凝集効果が高まり、発色性(画像濃度)がより高まると考えられる。前記有機酸塩の含有量のより好ましい下限値は、0.5重量%以上であり、さらには1重量%以上である。また、より好ましい上限値は、14重量%以下であり、さらには13重量%以下である。
【0023】
さらに、本実施形態の処理液において、前記有機酸塩の含有量が前記水溶性カチオンポリマーの含有量より多くなっていることがより好ましい。それにより、捺染用に用いた場合の捺染対象の生地における風合い(肌触り)が良好となると考えられる。その際、前記有機酸塩の含有量が、処理液全体に対して、1~15重量%であることが好ましく、それにより、上述の効果をより得ることができると考えられる。
【0024】
前記有機酸塩が有機酸マグネシウム塩である場合、その含有量は、処理液全体に対して5~11重量%程度であれば、洗濯堅牢性を維持しつつ、さらに前処理液のコストを抑えることができるため好ましい。一方で、前記有機酸マグネシウム塩の含有量が処理液全体に対して、12~15重量%であることも好ましい。それにより、捺染用に用いた場合の洗濯堅ろう性がより向上すると考えられる。
【0025】
本実施形態の処理液は、上記に加えて、金属塩を含んでいることが好ましい。金属塩を含むことによって、上述したような凝集効果をより得ることができ、さらに、捺染用に使用した際の洗濯堅ろう性も向上すると考えられる。
【0026】
本実施形態で使用できる金属塩は、二価以上の金属イオンとアニオンで構成される多価金属塩であることが好ましく、二価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。
【0027】
具体的な金属塩の例としては、酢酸カルシウム、酢酸アルミニウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、硝酸銅等が挙げられる。これらの金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、水溶性に優れるという観点から、酢酸カルシウム等を使用することがより好ましい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0028】
本実施形態の処理液が金属塩を含有する場合、その含有量は、処理液全体に対して、0.1~5重量%程度であることが好ましい。前記金属塩の含有量のより好ましい下限値は、0.5重量%以上であり、さらには1重量%以上である。また、より好ましい上限値は、4重量%以下であり、さらには3重量%以下である。
【0029】
また、本実施形態の処理液においては、前記金属塩の含有量より、前記有機酸塩の含有量の方が多くなっていることが好ましい。それにより、上述した洗濯堅ろう性を向上させつつ、風合いもより良好にすることができると考えられる。その際、前記金属塩の含有量が処理液全体に対して0.1~5重量%であり、前記有機酸塩の含有量が処理液全体に対して1~15重量%であることが、上述した効果がより得られるという観点から好ましい。
【0030】
本実施形態の処理液において、上述した成分以外の残部は、通常、水、あるいは、水と有機溶剤からなる水性溶媒である。
【0031】
本実施形態の処理液が含有することができる有機溶剤としては、グリコール類、アルコール類、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類、エーテル類、植物油等が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールのエーテル化合物、含窒素化合物、アルコール化合物、含硫黄化合物、炭酸プロピレン及び炭酸エチレンが挙げられる。
【0032】
多価アルコールとしては、例えば、炭素原子数5以上8以下の第1ジオール化合物、炭素原子数2以上4以下の第2ジオール化合物、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、糖アルコール(例えば、キシリトール)、及び糖類(例えば、キシロース、グルコース及びガラクトース)が挙げられる。
【0033】
第1ジオール化合物としては、例えば、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールが挙げられる。
【0034】
第2ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール及びジエチレングリコールが挙げられる。
【0035】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル及びジグリセリンのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
【0036】
含窒素化合物としては、例えば、ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン及びトリエタノールアミンが挙げられる。
【0037】
アルコール化合物としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール及びベンジルアルコールが挙げられる。
【0038】
含硫黄化合物としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0039】
上述した有機溶剤の中でも、プロピレングリコール等のグリコール類等を使用することが好ましい。
【0040】
上述したような有機溶剤は、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
本実施形態の処理液が有機溶剤を含む場合、その含有量は、処理液全体に対し、3重量%以上、50重量%以下であることが好ましい。有機溶剤を前記範囲で含有することによって、安定な吐出が可能な粘度の処理液が提供可能である、また、処理液の乾燥を防げるといった利点がある。
【0042】
さらに、本実施形態の処理液には、適正な表面張力に調整するという目的で、界面活性剤が含有されていてもよい。使用できる界面活性剤に特に限定はなく、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等が例示として挙げられる。
【0043】
本実施形態の処理液が界面活性剤を含む場合、その含有量は、処理液全体に対し、0.1重量%以上、5重量%以下であることが好ましい。界面活性剤を前記範囲で含有することによって、安定な吐出が可能な表面張力の処理液が提供可能であるといった利点がある。
【0044】
本実施形態の処理液には、本開示の効果を損なわない限り、その他の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤等が挙げられる。
【0045】
本実施形態の処理液は、特にインクジェット捺染用に好適に使用できる。多くの布種に対して印刷を可能とする顔料インクを用いる場合、顔料を生地表面に固定する必要がある。生地表面に固定できないと摩擦堅ろう性に劣るという問題がある。一方で、顔料とバインダー樹脂が生地の表面に留まらず、奥深くに浸透すると発色性に劣るだけでなく、繊維間にインクやバインダー樹脂が入り込むことで、手触りが固くなる、つまり風合が悪化するという問題もある。さらに、捺染物の場合、洗剤を混合しても印刷した画像が取れにくいこと(洗濯堅ろう性)も求められる。
【0046】
本実施形態の処理液を使用することで、前記問題を改善できる。すなわち、本実施形態の処理液によれば、捺染物の作製において、インクの優れた発色性を発現できる。さらに、湿潤摩擦性および洗濯堅牢度を向上させ、生地の風合いも良好になるという優れた利点があるため、産業利用上、非常に有用である。
【0047】
本実施形態において、前記処理液は生地に前もって塗布・乾燥(パディングドライ)する等の手間が必要なく、インクジェットシステムで生地に載せることで、生地の調整の手間を大きく削減することができるという利点もある。
【0048】
[インクジェット捺染装置]
次に、本実施形態に係るインクジェット捺染装置について説明する。
【0049】
本実施形態に係るインクジェット捺染装置10は、捺染対象物の少なくとも画像形成領域に処理液を吐出する処理ヘッド1と、前記捺染対象物の画像形成領域にインクを吐出する記録ヘッド2と、前記捺染対象物を搬送するための載置台3と、を少なくとも備え、前記処理ヘッドから吐出される処理液が、上述したインクジェット用処理液であることを特徴とする。なお、理解しやすくするために、
図1は、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数等は、適宜変更されてもよい。
図1は、本実施形態に係るインクジェット捺染装置の一例であるインクジェット捺染装置10の要部を示す側面図である。
図1に示すインクジェット捺染装置10は、フラットベッド式のインクジェット捺染装置である。
【0050】
本実施形態に係るインクジェット捺染装置10は、上述した本実施形態の処理液を用いて、捺染対象物Pを処理する。本実施形態に係る処理液が用いられるため、インクジェット捺染装置10によれば、発色性に優れ、かつ、湿潤摩擦堅ろう性、洗濯堅ろう性および風合い等に優れた捺染物を得ることができる。
【0051】
図1に示すインクジェット捺染装置10は、処理ヘッド1と、記録ヘッド2と、載置台3とを備える。記録ヘッド2は、第1記録ヘッド2a、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c、第4記録ヘッド2dを備えていてもよい。
【0052】
処理ヘッド1は、捺染対象物Pの少なくとも画像形成領域に、処理液を吐出する。ここで使用される処理液は、上述した処理液である。処理ヘッド1としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド及びサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0053】
記録ヘッド2は、捺染対象物Pの画像形成領域に、インクを吐出する。記録ヘッド2が有する、第1記録ヘッド2a、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c、及び第4記録ヘッド2dは、それぞれ、異なる色のインク(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、及びブラックインク)を吐出する。記録ヘッドの数は4つに限定されるわけではなく、記録ヘッドの数が1~3個又は5個以上であってもよい。記録ヘッド2としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド及びサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0054】
載置台3には、捺染対象物Pが載置される。捺染対象物Pにインクおよび処理液が吐出可能なように、載置台3の上方に、処理ヘッド1および記録ヘッド2が配設されている。モーター(不図示)の駆動により、載置台3は、処理ヘッド1から記録ヘッド2に向かう方向(例えば、
図1の左方向)に、水平に移動する。載置台3が水平に移動することにより、載置台3上の捺染対象物Pが搬送される。
【0055】
捺染対象物Pは、織物であってもよいし、編み物であってもよい。捺染対象物Pとしては、例えば、綿生地、絹生地、麻生地、アセテート生地、レーヨン生地、ナイロン生地、ポリウレタン生地、およびポリエステル生地が挙げられる。
【0056】
本実施形態では、捺染物の作製において、まず、捺染対象物Pを載置した載置台3が水平に移動して、処理ヘッド1と対向する位置に、捺染対象物Pが搬送される。そして、処理ヘッド1から捺染対象物Pに処理液が吐出される。処理ヘッド1は、捺染対象物Pの画像形成領域のみに処理液を吐出してもよく、捺染対象物Pの画像形成領域よりも広い領域に処理液を吐出してもよく、捺染対象物Pの全面に処理液を吐出してもよい。処理液の使用量を低減させて捺染物の触感の低下を抑制するために、処理ヘッド1は、捺染対象物Pの画像形成領域のみに処理液を吐出することが好ましい。処理ヘッド1は処理液を吐出する位置を正確にコントロールできるため、インクが吐出された領域のみに処理液を吐出することが可能となる。処理液を吐出する位置を正確にコントロールするために、処理ヘッド1と、捺染対象物Pとの間の距離は、1mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0057】
処理ヘッド1から処理液が吐出された後、捺染対象物Pを載置した載置台3が更に水平に移動して、記録ヘッド2と対向する位置に、捺染対象物Pが搬送される。そして、記録ヘッド2から、捺染対象物Pの画像形成領域に、インクが吐出される。このようにして、捺染対象物Pの画像形成領域に、インクによって画像が形成される。
【0058】
図示はしていないが、前記記録ヘッド2によりインクが吐出された後、捺染対象物Pを載置した載置台3が更に水平に移動して、別の処理ヘッドから後処理液が吐出されてもよい。後処理液とは、同様に捺染対象物Pに付着しても発色しない非発色性の処理液であって、記録ヘッド2により捺染対象物P上に印画されたインク画像の定着性や堅ろう性(擦れや削れに対する耐性)を高める機能を発現する処理液である。このような後処理液としては、シリコーン系の処理液等を用いることができる。このようにして、捺染対象物Pの画像形成領域に形成された画像上に、後処理液によって処理膜が形成される。
【0059】
後処理液が吐出された後、捺染対象物Pを載置した載置台3が更に水平に移動して、加熱部(不図示)と対向する位置に、捺染対象物Pが搬送され、加熱部が捺染対象物Pを加熱することにより、インク及び処理液が乾燥する。加熱温度は、例えば、120℃以上180℃以下である。加熱時間は、例えば、1分以上10分以下である。加熱により、インク及び処理液に含まれる揮発成分が乾燥し、捺染対象物Pへのインク及び処理液の固定が促進される。その結果、インクにより画像が形成され且つ処理液により処理された捺染対象物Pが形成される。
【0060】
なお、本実施形態の処理液は、上記インクジェット捺染装置10への使用に限定されず、例えば、以下の変形例で示すように変更可能である。例えば、インクジェット捺染装置10は、処理液を吐出する処理ヘッド1の代わりに、処理液を散布するスプレーを備えていてもよい。あるいは、処理液による処理は、処理液が貯留されている槽に捺染対象物Pを浸漬することにより実施されてもよい。また、上記インクジェット捺染装置10においては載置台3が水平に移動したが、載置台3が固定された状態で、処理ヘッド1及び記録ヘッド2が水平に移動してもよい。あるいは、捺染対象物Pの搬送方向に、載置台3が水平に移動、又は処理ヘッド1及び記録ヘッド2が水平に移動すると共に、処理ヘッド1及び記録ヘッド2が、捺染対象物Pの搬送方向と直行する方向に水平に移動してもよい。
【0061】
すなわち、処理ヘッド1及び記録ヘッド2を備えている限り、インクジェット捺染装置の様式に関わらず、本実施形態の処理液を用いることによる効果を得ることができる。
【0062】
[インク]
本実施形態の処理液と共にインクジェット記録に用いられるインク、並びに、前記捺染装置で使用されるインクは、特に限定はされないが、例えば、顔料と、水性媒体とを含有するインクを使用できる。インクは、必要に応じて、界面活性剤、ポリオール、及びバインダー樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種を更に含有してもよい。
【0063】
顔料は、例えば、水性媒体に分散して存在する分散性顔料を使用できる。画像濃度、色相、及び色の安定性に優れたインクを得る観点から、顔料のD50は、30nm以上250nm以下であることが好ましく、70nm以上160nm以下であることがより好ましい。
【0064】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0065】
顔料の含有率は、インク全体の重量に対して、1重量%以上12重量%以下であることが好ましく、1重量%以上7重量%以下であることがより好ましい。顔料の含有率が1重量%以上であることで、形成される記録物の画像濃度を向上できる。また、顔料の含有率が12重量%以下であることで、流動性の高いインクが得られる。
【0066】
特に、本実施形態のインクは、アニオン性の顔料を含有していることが好ましい。それにより、上述した処理液に含まれるカチオン性ポリマーと、アニオン性顔料が、記録対象の表面で電気的に反応凝集を起こすため、インクに含まれる結着樹脂(後述のバインダー樹脂)が記録媒体に浸透することを抑制できる。これは、記録媒体が生地である場合に特に重要であり、結着樹脂が繊維の隙間に浸透し、繊維同士を結着してしまうことを防ぐことができる。それにより、捺染対象の生地の風合い(肌触り等)を高めることができる。
【0067】
アニオン性の顔料としては、具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、フェニルスルホン酸基、フェニルカルボキシル基等のアニオン基を有するアニオン性顔料がより好ましい。
【0068】
本実施形態のインクに含有される水性媒体は、水を主成分とする媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水、又は水と極性溶媒との混合液が挙げられる。水性媒体に含有される極性溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、及びメチルエチルケトンが挙げられる。水性媒体における水の含有率は、90重量%以上であることが好ましく、100重量%であることが特に好ましい。水性媒体の含有率は、インク全体の重量に対して、5重量%以上70重量%以下であることが好ましく、40重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。
【0069】
さらに、インクが界面活性剤を含有することで、記録対象に対するインクの濡れ性が向上する。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。インクに含有される界面活性剤は、非イオン界面活性剤であることが好ましい。非イオン界面活性剤は、アセチレングリコール構造を有する界面活性剤であることが好ましく、アセチレンジオールエチレンオキサイド付加物であることがより好ましい。界面活性剤のHLB値は、3以上20以下であることが好ましく、6以上16以下であることがより好ましく、7以上10以下であることが更に好ましい。界面活性剤のHLB値は、例えば、グリフィン法により式「HLB値=20×(親水部の式量の総和)/分子量」から算出される。画像のオフセットを抑制しつつ、画像濃度を向上させるために、界面活性剤の含有率は、インク全体の重量に対して、0.1重量%以上5.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上2.0重量%以下であることがより好ましい。
【0070】
さらに、インクがポリオールを含有することで、インクの粘度が好適に調整される。インクに含有されるポリオールとしては、ジオール又はトリオールが好ましい。ジオールとしては、例えば、グリコール化合物が挙げられ、より具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ-ル、及びテトラエチレングリコールが挙げられる。トリオールとしては、例えば、グリセリンが挙げられる。
【0071】
インクがポリオールを含有する場合、インクの粘度を好適に調整するために、ポリオールの含有率は、インク全体の重量に対して、5以上60重量%以下であることが好ましく、20重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。
【0072】
本実施形態のインクに含まれるバインダー樹脂粒子は、水性媒体中に分散した状態で存在する。バインダー樹脂粒子は、捺染対象と顔料とを結合させるバインダーとして機能する。このため、インクがバインダー樹脂粒子を含有することで、顔料の定着性に優れた捺染物を得ることができる。
【0073】
バインダー樹脂粒子が含有する樹脂としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。バインダー樹脂粒子が含む樹脂としては、ウレタン樹脂が好ましい。バインダー樹脂粒子におけるウレタン樹脂の含有率は、80重量%以上であることが好ましく、100重量%であることがより好ましい。
【0074】
バインダー樹脂の含有率は、インク全体の重量に対して、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。バインダー樹脂粒子の含有率が1重量%以上であると、顔料の定着性に優れた記録対象を得ることができる。一方、バインダー樹脂粒子の含有率が20重量%以下であると、記録対象にインクを安定的に吐出できる。
【0075】
さらに本実施形態のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び防カビ剤等)を更に含有してもよい。
【0076】
本実施形態で使用するインクは、例えば、攪拌機を用いて、顔料と、水性媒体と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤、ポリオール、及びバインダー樹脂粒子)とを混合することにより製造される。混合時間は、例えば、1分以上30分以下である。
【実施例0077】
以下に、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は実施例により何ら限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
水溶性カチオンポリマーとして「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)を3重量部(固形分)、有機酸塩として酢酸アンモニウムを10重量部、さらに、非イオン性
界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業社製):1重量部、プロピレングリコール:30重量部、水:残部を混合したのち(合計100重量部)、5μmのフィルターでろ過を行い、処理液1を得た。
【0079】
(実施例2)
水溶性カチオンポリマー「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)の含有量を3重量部から9重量部に変更した以外は実施例1と同様にして処理液2を得た。
【0080】
(実施例3)
酢酸アンモニウムの含有量を10重量部から15重量部に変更した以外は実施例1と同様にして処理液3を得た。
【0081】
(実施例4)
水溶性カチオンポリマー「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)の含有量を3重量部から0.5重量部に変更した以外は実施例1と同様にして処理液4を得た。
【0082】
(実施例5)
水溶性カチオンポリマーとして「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)を3重量部(固形分)、有機酸塩として酢酸アンモニウムを15重量部、金属塩として酢酸カルシウム一水和物を3重量部、さらに、非イオン性界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業社製):1重量部、プロピレングリコール:30重量部、水:残部を混合したのち(合計100重量部)、5μmのフィルターでろ過を行い、処理液5を得た。
【0083】
(実施例6)
酢酸カルシウム一水和物の含有量を3重量部から5重量部に変更した以外は実施例5と同様にして、処理液6を得た。
【0084】
(実施例7)
酢酸カルシウム一水和物の含有量を3重量部から6重量部に変更した以外は実施例5と同様にして、処理液7を得た。
【0085】
(実施例8)
酢酸アンモニウムの含有量を10重量部から16重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、処理液8を得た。
【0086】
(実施例9)
酢酸アンモニウムを15重量部から5重量部に変更した以外は実施例5と同様にして、処理液9を得た。
【0087】
(実施例10)
酢酸アンモニウムを10重量部から9重量部に変更した以外は実施例2と同様にして、処理液10を得た。
【0088】
(実施例11)
酢酸アンモニウムを酢酸マグネシウム四水和物に変更した以外は実施例1と同様にして、処理液11を得た。
【0089】
(実施例12)
酢酸アンモニウムを酢酸マグネシウム四水和物に変更した以外は実施例2と同様にして、処理液12を得た。
【0090】
(実施例13)
酢酸アンモニウムを酢酸マグネシウム四水和物に変更した以外は実施例3と同様にして、処理液13を得た。
【0091】
(実施例14)
酢酸アンモニウムを酢酸マグネシウム四水和物に変更した以外は実施例4と同様にして、処理液14を得た。
【0092】
(比較例1)
水溶性カチオンポリマーとして「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)を10重量部(固形分)、有機酸塩として酢酸アンモニウムを10重量部、さらに、非イオン性界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業社製):1重量部、プロピレングリコール:30重量部、水:残部を混合したのち(合計100重量部)、5μmのフィルターでろ過を行い、処理液15を得た。
【0093】
(比較例2)
水溶性カチオンポリマーとして「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)を15重量部(固形分)、有機酸塩として酢酸アンモニウムを3重量部、さらに、非イオン性界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業社製):1重量部、プロピレングリコール:30重量部、水:残部を混合したのち(合計100重量部)、5μmのフィルターでろ過を行い、処理液16を得た。
【0094】
(比較例3)
酢酸アンモニウムの含有量を10重量部から3重量部に変更した以外は比較例1と同様にして処理液17を得た。
【0095】
(比較例4)
水溶性カチオンポリマーとして「PAS-A5」(ニットーボーメディカル社製)を3重量部(固形分)、さらに、非イオン性界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業社製):1重量部、プロピレングリコール:30重量部、水:残部を混合したのち(合計100重量部)、5μmのフィルターでろ過を行い、処理液18を得た。
【0096】
(比較例5)
水溶性カチオンポリマー「PAS-A5」の含有量を3重量部から9重量部に変更した以外は比較例4と同様にして処理液19を得た。
【0097】
(比較例6)
有機酸塩として酢酸アンモニウムを10重量部、さらに、非イオン性界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業社製):1重量部、プロピレングリコール:30重量部、水:残部を混合したのち(合計100重量部)、5μmのフィルターでろ過を行い、処理液20を得た。
【0098】
以上の実施例および比較例の処理液の配合を表1にまとめる。
【0099】
【0100】
(インクの調製)
顔料濃度20%のアニオン性顔料分散体「AE-2078F」(山陽色素社製)、固形分38%のウレタン分散液「スーパーフレックス470」(第一工業製薬株式会社)、非イオン性界面活性剤「サーフィノール440」(日信化学工業株式会社製)、プロピレングリコール、水を用いてインクを作製した。
【0101】
具体的なインクの配合は、顔料:4重量%、ウレタン:8重量%、プロピレングリコール:30重量%、界面活性剤:1重量%、残部:水であった。前記割合で混合したのち、5μmのフィルターでろ過を行い、インクを得た。
【0102】
(後処理液の調製)
シリコーンオイル含有率39%のシリコーンオイルのエマルジョン「POLON-MF-51」(信越化学工業社製)、プロピレングリコール、水を用いて後処理液を作製した。具体的な配合は、シリコーンオイル:10重量%、プロピレングリコール:30重量%、残部:水であった。前記割合で混合したのち、5μmのフィルターでろ過を行い、後処理液を得た。
【0103】
<印刷>
インクジェット印刷には、京セラ製KJ4Bヘッドを搬送方向に並べたフラットベッド式印刷ジグを用いた。1つ目ヘッドに前処理液、2つ目のヘッドにインク、3つ目ヘッドに後処理液を投入し、以下の条件でインクジェット印刷を行った。
使用した布:ポリエステル トロピカル
布/ヘッド距離:3mm、ヘッド温度:25℃
乾燥:150℃3分(オーブン)
【0104】
<評価試験>
(画像濃度)
蛍光分光測色計FD-5(コニカミノルタ社製)を用いて測色した。評価の基準は以下の通りとした。
画像濃度(OD)1.3以上 「〇」発色性良好
画像濃度(OD)1.3未満 「×」発色性不良
【0105】
(摩擦堅ろう性)
JIS L-0849:2013(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に記載の摩擦試験機II形(学振形)法の湿潤試験に従って、評価用捺染物に形成されたソリッド画像を、摩擦用白綿布を用いて摩擦した。JIS L-0801:2011(染色堅ろう度試験方法通則)の箇条10(染色堅ろう度の判定)に記載の「変退色の判定基準」に準拠し、摩擦後の摩擦用白綿布の着色の程度を評価した。摩擦用白綿布の着色の程度は、9段階(汚染の程度が大きい順番に、1級、1~2級、2級、2~3級、3級、3~4級、4級、4~5級、および5級)で判定した。摩擦堅ろう度は、摩擦用白綿布の着色の程度が小さい(5級に近い)ほど良好である。摩擦試験後の摩擦用白綿布の着色の程度から、下記基準に従って、湿潤摩擦堅ろう性を評価した。
湿潤摩擦堅ろう度 3級以上 「〇」 湿潤摩擦堅ろう性良好
湿潤摩擦堅ろう度 3級未満 「×」 湿潤摩擦堅ろう性不良
【0106】
(風合い)
未使用の捺染対象を経糸に沿って(長さ方向に)に二つ折りにし、折り目における下側の生地と上側の生地との間の距離(ループ高さ)を測定した。測定された未使用の捺染対象のループ高さを、捺染前のループ高さとした。次に、評価用捺染物のソリッド画像が形成された領域を、経糸に沿って(長さ方向に)に二つ折りにし、ループ高さを測定した。測定された評価用捺染物のループ高さを、捺染後のループ高さとした。式「ループ高さの変化率=100×捺染後のループ高さ/捺染前のループ高さ」に従って、捺染前後におけるループ高さの変化率(単位:%)を算出した。ループ高さの変化率が低い程、捺染後も捺染対象が硬くならずふくらまないため、捺染物の触感の低下が抑制されていることを示す。評価基準は以下の通りとした。
130%未満 「〇」風合いの変化が小さく良好
130%以上 「×」風合いが固く変化し不良
【0107】
(洗濯堅ろう性)
JIS L-0844:2011(洗濯に対する染色堅ろう度試験方法)に記載のA-2法に従って、ラウンダオメータ(洗濯試験機)を用いて、前記印刷を行った評価用捺染物を処理した。その後、すすぎ、脱水、乾燥し、評価用捺染物の変退色の程度を「変退色の判定基準」に準拠し、判定した。
評価基準は以下の通りとした。
洗濯堅ろう性(変退色) 3-4級以上 「○」 洗濯堅ろう性良好
洗濯堅ろう性(変退色) 3-4級未満 「×」 洗濯堅ろう性不良
以上の評価試験の結果を表2にまとめる。
【0108】
【0109】
(考察)
表2の結果から、本開示の処理液を用いることにより、発色性(画像濃度)が良好であり、湿潤摩擦堅ろう性、風合い、洗濯堅ろう性に優れる捺染物が得られることが確認できた。特に、金属塩をさらに含む実施例5~7および9の処理液を用いた場合、非常に優れた洗濯堅ろう性を有する捺染物が得られることもわかった。また、実施例3および8の結果から、有機酸塩の含有量が15重量%以下である方が、より湿潤摩擦堅ろう性に優れることもわかった。また、実施例2および10の結果から、有機酸塩の含有量がカチオンポリマーの含有量よりも多い方が、画像濃度が向上することも分かった。また、実施例6および9の結果から、有機酸塩の含有量が金属塩の含有量よりも多い方が、画像濃度が向上することも分かった。
【0110】
また、実施例11~14の結果から、有機酸塩として酢酸マグネシウムを用いた場合、処理液全体に対する含有量が多め(12~15重量%程度)であれば、金属塩を含まなくても、非常に洗濯堅ろう性に優れることも確認できた。
【0111】
一方、水溶性カチオンポリマーの含有量が10重量%以上となっている比較例1~3の処理液を用いた場合、十分な湿潤摩擦堅ろう性が得られないことが示された。また、有機酸塩を含まない処理液を用いた比較例4~5、及び、水溶性カチオンポリマーを含まない処理液を用いた比較例6では、画像濃度に劣る結果となった。さらに、比較例6では洗濯堅ろう性も不十分な結果であった。