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特開2024-54228歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054228
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/818 20200101AFI20240409BHJP
   A61K 6/822 20200101ALI20240409BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240409BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20240409BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K6/818
A61K6/822
A61C13/083
A61C5/77
C04B35/486
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016769
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2019150009の分割
【原出願日】2019-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018155064
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018155065
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】野中 和理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
(57)【要約】
【課題】
インレー、オンレー、ベニア等の薄肉加工物における切削加工性に優れ、かつHIP処理等の特殊な焼結を必要とせず、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体および製造方法を提供する。
【解決手段】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率を、15~30%とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
ジルコニア粉末を成形する工程と、
冷間等方圧加圧法により成形する工程と、を含み、
前記冷間等方圧加圧法による成形において、負荷圧力を印加し、負荷圧力を開放する一連の工程を少なくとも2回以上含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
ジルコニア粉末は、プレス成形により成形されることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記冷間等方圧加圧法による成形において、最大負荷圧力を保持する工程をさらに含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記最大負荷圧力と開放後負荷圧力の差が少なくとも50MPa以上であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記ジルコニア粉末が固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子であり、冷間等方圧加圧法により成形する工程の後に、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子上に、イットリウム化合物を分散させる工程をさらに含むことを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記負荷圧力を印加し、最大負荷圧力を保持し、負荷圧力を開放する一連の工程を、少なくとも10回以上含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記負荷圧力を多段的に最大負荷圧力まで増加させることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記一連の工程にかかる時間が30秒~10分であることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記繰り返しのCIP処理は、途中に脱脂工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
前記脱脂工程の脱脂温度が300~800℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
800~1200℃の温度で仮焼成する工程をさらに含むことを特徴とする製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、
ジルコニア表面にイットリウム化合物を分散させる際に用いるイットリウム含有液中のイットリウム化合物の含有量が、1~60wt%であることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法に関し、より詳細には、高速焼結対応の歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法に関するする。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウム等のセラミックス材料や、アクリルレジン、ハイブリッドレジン等のレジン材料で製造された被切削体を加工することで、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0003】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。一方、完全焼結したジルコニア(以下、ジルコニア完全焼結体)は、硬度が非常に高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、完全焼結まで行わず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整したものが用いられている。
【0004】
一般的な歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、ジルコニア粉末をプレス成形等により成形した後、800~1200℃で仮焼して製造されている。
【0005】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体の特性、つまりはジルコニア完全焼結体の特性は、使用するジルコニア粉末の特性に影響を受ける。
【0006】
例えば、特許文献1には、3mol%のイットリウムを含有したジルコニア粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製し、当該ジルコニア被切削体から作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い強度を有していることから、4ユニット以上のブリッジフレーム等で臨床応用されている。しかしながら、当該焼結体は、透光性が低いため、天然歯に類似した色調再現が困難であった。
【0007】
特許文献2には、アルミナ量を低減させた3mol%のイットリウムを含有したジルコニア粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製し、当該ジルコニア被切削体から作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い強度を維持しつつ、透光性を向上させているため、4ユニット以上のロングスパンブリッジや臼歯部フルクラウン等で臨床応用されている。しかしながら、当該焼結体においても、透光性が不十分であるため、前歯部など高い審美性が求められる症例への適用は困難であった。
【0008】
特許文献3には、4~6.5mol%のイットリウムを含有したジルコニア粉末を用いて歯科切削加工用ジルコニア被切削体を作製し、当該ジルコニア被切削体から作製したジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、高い透光性を有しているため、前歯部など高い審美性が求められる症例にも用いられてきている。しかしながら、当該焼結体の透光性は、未だニケイ酸リチウム材料等よりも低いため、インレー、オンレー、ベニア等の症例への適用には不十分であった。
【0009】
特許文献4には、2~7mol%のイットリウムを含有したジルコニア粉末を用いたジルコニア完全焼結体が開示されている。当該焼結体は、陶材やニケイ酸リチウム材料等に類似した高い透光性を有しているため、前歯部のみならず、インレー、オンレー、ベニア等の症例への適用も可能である。しかしながら、当該焼結体は、熱間静水圧プレス(HIP)処理が必須であるため、一般的な技工所では作製することが困難であった。
【0010】
特許文献5には、メソ孔を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。当該ジルコニア被切削体は、高い比表面積を有しているため、金属イオンを含む着色液が浸透しやすい利点があるものの、強度が十分でないため、薄肉の加工物を切削する際にチッピングしたり、破折しやすい問題があった。さらに、当該ジルコニア被切削体から作製したジルコニア完全焼結体は、完全焼結体中に気孔が残存しやすくなるため、十分な強度や透光性を付与することが困難であった。
【0011】
また、ジルコニア製補綴装置は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体を、切削加工等により所望の形状に成形し、焼結温度以上の温度で焼成し、完全焼結させることで得られる。この焼成には数時間以上の昇温時間と、数時間の保持時間が必要とされているため、生産効率が低く、また患者が補綴装置を装着できるようになるまでに複数回の通院が必要となる。
【0012】
近年、数十分から数時間での焼成が可能なシンタリングファーネスが普及し始めている。しかしながら、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を短時間で焼結させると、透光性や強度が十分に得られないという問題があった。
【0013】
例えば特許文献6に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を、短時間焼結させた焼結体は、透光性、強度が不十分であるため、前歯部など高い審美性が求められる症例や臼歯部など高強度が求められる症例への適用は困難であった。
【0014】
特許文献7には、保持時間15分で焼結した焼結体において十分な透光性が得られる歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。しかしながら、当該焼結体も強度が不十分であり、臼歯部フルクラウン等高強度が求められる症例には不向きであった。
【0015】
特許文献8には、30分以内で焼結可能な歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。しかしながら、当該焼結体は透光性が不十分であり、前歯部など高い審美性が求められる症例には不向きであった。
【0016】
特許文献9には、30分間~90分間でジルコニア完全焼結体を得る方法が開示されている。しかしながら、当該焼結体は透光性、もしくは強度が不十分であり、前歯部など高い審美性が求められる症例や臼歯部など高強度が求められる症例への適用は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭60―235762
【特許文献2】特許第5608976
【特許文献3】WO2015―199018
【特許文献4】特許5396691
【特許文献5】特許6321644
【特許文献6】WO2015―098765
【特許文献7】WO2018―056330
【特許文献8】WO2018―029244
【特許文献9】CN107162603
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、インレー、オンレー、ベニア等の薄肉加工物における切削加工性に優れ、かつHIP処理等の特殊な焼結を必要とせず、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
本発明は、短時間の焼結においても、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体およびその製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、インレー、オンレー、ベニア等の薄肉加工物における切削加工性に優れ、かつHIP処理等の特殊な焼結を必要とせず、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体について検討した。その結果、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔構造が、薄肉加工物における切削加工性に優れ、かつジルコニア完全焼結体に高い強度と透光性を付与させるために特に重要であることを見出した。
【0021】
また本発明者らは、短時間の焼結においても、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体について検討した。その結果、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔構造が、短時間の焼結においても、ジルコニア完全焼結体に高い強度と透光性を付与させるために特に重要であることを見出した。
【0022】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率が、15~30%であることを特徴とする歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
【0023】
本発明においては、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)を含むことが好ましい。
【0024】
本発明においては、前記固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)中のイットリウム量が、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、酸化物換算で3.0~6.5mol%であることが好ましい。この場合、短時間の焼結においても、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる。
【0025】
本発明においては、前記固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)中のイットリウム量が、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、酸化物換算で3.5~4.5mol%であることが好ましい。
【0026】
本発明においては、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)をさらに含むことが好ましい。
【0027】
本発明においては、前記ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面上に分散された状態にあることが好ましい。
【0028】
本発明においては、前記ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)中のイットリウム量が、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、酸化物換算で0.1~3.0mol%であることが好ましい。
【0029】
本発明においては、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔容積が0.03~0.07cm/gであることが好ましい。
【0030】
本発明においては、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の比表面積が1~10m/gであることが好ましい。
【0031】
本発明においては、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔径が、50~200nmであることが好ましい。
【0032】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、
ジルコニア粉末を成形する工程と、
冷間等方圧加圧法により成形する工程と、を含み、
前記冷間等方圧加圧法による成形において、負荷圧力を印加し、負荷圧力を最大負荷圧力まで増加し、負荷圧力を開放する一連の工程を少なくとも2回以上含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法である。
【0033】
本発明においては、ジルコニア粉末は、プレス成形により成形されることが好ましい。
【0034】
本発明においては、前記冷間等方圧加圧法による成形において、最大負荷圧力を保持する工程をさらに含むことが好ましい。
【0035】
本発明においては、前記最大負荷圧力と開放後負荷圧力の差が少なくとも50MPa以上であることことが好ましい。
【0036】
本発明においては、冷間等方圧加圧法により成形する工程の後に、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子上に、イットリウム化合物を分散させる工程をさらに含むことが好ましい。
【0037】
本発明においては、前記負荷圧力を印加し、最大負荷圧力を保持し、負荷圧力を開放する一連の工程を、少なくとも10回以上含むことが好ましい。
【0038】
本発明における、短時間の焼結とは、好ましくは90分以下の焼結時間を意味する。
【0039】
また、本発明において、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法は、インレー、オンレー、ベニア等の薄肉加工物における切削加工性に優れ、かつHIP処理等の特殊な焼結を必要とせず、高い強度と透光性をジルコニア完全焼結体に付与させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の構成要件について具体的に説明する。
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、適切な細孔構造を有し、空孔率が15~30%であることを特徴としている。本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、インレー、オンレー、ベニア等の薄肉加工物における切削加工性に優れ、かつ常圧焼結にも関わらず、ジルコニア完全焼結体に天然歯エナメル質同様の透光性を付与することができる。
【0042】
好ましくは、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)と、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)の両方を含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体であり、前記ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面上に分散した状態にある。さらに好ましくは、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)と、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)からなる歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
【0043】
好ましくは、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子からなる歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。このような歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、短時間の焼結にも関わらず、ジルコニア完全焼結体に、従来の長時間焼結体同様の透光性と強度を付与することができる。
【0044】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、15~30%であり、より好ましくは22~27%である。本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、下記式(1)から算出したものである。
空孔率(%)=細孔容積/(細孔容積+骨格体積)×100・・・・(1)
空孔率が30%を超えるまたは15%未満の場合、場合、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の耐チッピング性が低下したり、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性を付与できないため好ましくない。
【0045】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、理論密度から算出される相対密度とは実質的に異なる。理論密度から算出される相対密度は、閉気孔を含むほか、ミクロ孔からマクロ孔までのすべての細孔を含んだ密度から算出される値である。一方、本発明における空孔率は、水銀圧入法によって測定された細孔容積に基づいて決定されるため、約5nm~250μmの直径を有する閉気孔を含まない連通孔を測定して決定されるものをいう。本発明における水銀圧入法によって測定された細孔容積に基づいて決定される空孔率は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の切削加工性や、常圧焼結で焼結したジルコニア完全焼結体への高い透光性の付与に特に重要であることを見出した。5nm未満の細孔の有無は、焼結時に気孔として残存しにくいため、ジルコニア完全焼結体に透光性を付与する際に実質的に関係はない。一方、250μmを超える細孔は、切削加工時の耐チッピング性を低下させたり、ジルコニア完全焼結体の透光性を低下させるため、実質的に含まないことが好ましい。
【0046】
本発明における、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)は、公知のジルコニア粉末から製造されるものならなんら制限なく用いられる。具体的には、本発明に用いられるジルコニア粉末は、加水分解法により作製されたものが好ましい。より詳しくは、ジルコニウム塩とイットリウム化合物を混合溶解した溶液を加熱することにより、加水分解反応を行い、生成したゾルを焼成してジルコニア粉末を得る方法である。本発明の固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記ジルコニア粉末を800~1200℃で焼成することで製造されることが好ましい。
【0047】
本発明における固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)に含まれるイットリウム量は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、酸化物換算で3.0~6.5mol%であることが好ましく3.5~4.5mol%であるとより好ましい。イットリウム量が、3.0mol%未満の場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与させることができないため好ましくない。一方、イットリウム量が、6.5mol%を越える場合、ジルコニア完全焼結の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となるため好ましくない。
【0048】
本発明におけるジルコニア粉末の一次粒子径は、1~500nmであることが好ましい。一次粒子径が1nm未満の場合、ジルコニア完全焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となるため好ましくない。一方、一次粒子径が500nm以上の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な強度を付与させることが困難となるため好ましくない。
【0049】
本発明におけるジルコニア粉末の比表面積は、1~10m/gであることが好ましい。比表面積が1m/g未満の場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与させることができないため好ましくない。一方、比表面積が10m/g以上の場合、ジルコニア完全焼結の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となるため好ましくない。
【0050】
本発明における、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)は、公知のイットリム化合物ならなんら制限なく用いられる。具体的には、本発明に用いられるイットリム化合物は、酸化イットリウムおよび/または、イットリウムのハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩(炭酸塩を含む)のいずれかからなる水溶性化合物であることが好ましい。水溶性のイットリウム化合物の具体例としては、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、硫酸イットリウム、炭酸イットリウムなどが挙げられる。
【0051】
水溶性のイットリウム化合物の中で、分解温度が低くかつ、焼成炉の汚染が少ない観点から、有機酸塩(炭酸塩を含む)のイットリウム化合物が特に好ましい。具体的には、酢酸イットリウム、炭酸イットリウム等が挙げられる。有機酸塩の分解温度は、ハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩等の無機塩と比較して、低い温度で分解する。分解温度が高い場合、焼結過程において気孔を残存させてしまうため、ジルコニア完全焼結に十分な透光性や強度を付与させることが困難となる。
【0052】
本発明におけるジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)に含まれるイットリウム量は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、酸化物換算で0.1~3.0mol%であることが好ましい。イットリウム量が、0.1mol%より低い場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与させることができないため好ましくない。一方、イットリウム量が、3.0mol%を越える場合、ジルコニア完全焼結の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となるため好ましくない。
【0053】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体において、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)と、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)の配合モル比は、(a1):(a2)=1:1~65:1が好ましく、3:1~20:1がより好ましい。前記モル比が、(a2)が1に対して、(a1)が65を上回る場合、ジルコニア完全焼結の透光性は向上するものの十分な強度を付与させることが困難となるため好ましくない。一方、前記モル比(a2)が1に対して、(a1)が1を下回る場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与させることができないため好ましくない。
【0054】
本発明におけるジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面上に分散している状態であることが好ましい。
【0055】
本発明における表面上に分散している状態とは、イットリウム化合物が、ジルコニア一次粒子の一部および/または全体に担持および/または吸着している状態のことをいう。
【0056】
本発明において、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)を、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面に分散させることが、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に高い加工性を付与させ、さらには、ジルコニア完全焼結に高い透光性と強度を付与させるために重要であることを見出した。
【0057】
これらの理由は定かではないが、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に高い加工性を付与させる理由としては、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物が、ジルコニア一次粒子同士のネック部を補強するためであると推測される。通常、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、半焼結状態にあるため、ジルコニア一次粒子同士におけるネック部の強度は低い。そのため、薄肉加工物を切削加工する際、加工時にチッピングや破折が発生していた。一方、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体における、ネック部は、イットリウム化合物によって強化された状態にあるため、薄肉加工物の切削においても良好な加工性を付与できると推測される。
【0058】
さらに、ジルコニア完全焼結体に高い透光性を付与できる理由としては、ジルコニアに固溶するイットリウム化合物をジルコニアの最表面に分散させることで、焼結過程において分散したイットリウム化合物が粒界近辺に偏析し、粒界近傍の結晶相の相転移(正方晶から立方晶)を助長するためであると推測される。また、イットリウム化合物をジルコニア粒子表面上に分散した状態は、焼結過程における閉気孔の残留量を低減させる効果をも付与し、ジルコニア完全焼結体の高い透光性と強度を両立させることができると考えられる。
【0059】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色材を含んでもよい。具体的には、黄色を付与させるための酸化鉄や、赤色を付与させるためのエルビウム等が挙げられる。また、これらの着色材に加えて、色調調整のためにコバルト、マンガン、クロムなどの元素を含有した着色材を併用しても何ら問題はない。
【0060】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、焼結助剤を含んでもよい。具体的には、焼結性向上と低温劣化の抑制を目的として、0.01~0.3wt%のアルミナを含有することが好ましい。アルミナ量が、0.01wt%より低い場合、ジルコニア完全焼結後を十分に焼結させることができず、十分な強度や透光性を付与させることができないため好ましくない。一方、アルミナ量が、0.3wt%を越える場合、ジルコニア完全焼結体の強度は向上するものの十分な透光性を付与させることが困難となるため好ましくない。
【0061】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の結晶相は、正方相および/または立方晶であることが好ましい。結晶相が、単斜相である場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与させることができないため好ましくない。
【0062】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の比表面積は、窒素吸着法によって測定されたものをいう。本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の比表面積は、1~10m/gであることが好ましい。比表面積が1m/g未満の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性を付与できなため好ましくない。一方、比表面積が10m/gを越える場合、ジルコニア完全焼結体に十分な強度を付与できないため好ましくない。
【0063】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔容積は、水銀圧入法によって測定される。水銀圧入法によって測定された細孔容積は、約5nm~250μmの直径を有する細孔を測定したものである。本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔容積は、0.03~0.07cm/gであることが好ましい。細孔容積が0.03cm/g未満の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性を付与できないため好ましくない。一方、細孔容積が0.07cm/gを越える場合、ジルコニア完全焼結体に十分な強度を付与できないため好ましくない。
【0064】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔径は、水銀圧入法によって測定される細孔容積の中央値における細孔の直径をいう。本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔径は、50~200nmであることが好ましい。細孔径が50nm未満の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性を付与できないため好ましくない。一方、細孔径が200nmを越える場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性と強度を付与できないため好ましくない。
【0065】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の骨格体積は、気相置換法によって測定される真密度から算出したものをいう。ここで、本発明における骨格体積は、骨格体積(cm/g)=1/真密度(g/cm)によって算出された値をいう。気相置換法によって算出された骨格体積は、ガスを用いるため、液相置換法で測定される値よりも微細孔を含む連通孔であることを特徴としている。本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の骨格体積は、0.16~0.17cm/gであることが好ましい。骨格体積が0.16cm/g未満の場合、十分な透光性を付与できなため好ましくない。一方、骨格体積が0.17cm/gを越える場合、ジルコニア完全焼結体に十分な強度を付与できないため好ましくない。
【0066】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体のビッカース硬度は、30~150Hv0.2であることが好ましい。ビッカース硬度が30Hv0.2未満の場合、切削加工時にチッピングや破折が生じやすくなるため好ましくない。一方、ビッカース硬度が150Hv0.2を越える場合、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなるため好ましくない。
【0067】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の曲げ強さは、25~150MPaであることが好ましい。曲げ強さが25MPa未満の場合、切削加工時にチッピングや破折が生じやすくなるため好ましくない。一方、曲げ強さが150MPaを越える場合、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなるため好ましくない。
【0068】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法であれば何ら問題なく使用できる。具体的には、ジルコニア粉末をプレス成形によって成形したものが好ましい。さらに、色調や組成の異なるジルコニア粉末を多段階的にプレス成形し、多層成形したものがより好ましい。
【0069】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、プレス成形後に、冷間静水等方圧加圧法(CIP成形・処理)により等方加圧を施したものが好ましい。
【0070】
本発明におけるCIP成形・処理の最大負荷圧力は、50MPa以上であることが好ましい。最大負荷圧力が50MPa未満の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性と強度を付与できないため好ましくない。
【0071】
本発明におけるCIP成形・処理の最大負荷圧力時の保持の有無および保持時間は、特に制限はないが、通常保持無し~150秒であることが好ましく、保持無し~60秒間であることがより好ましい。本発明における保持するとは、任意の負荷圧力を維持することである。
【0072】
本発明におけるCIP成形・処理は、負荷圧力を印加し、最大負荷圧力を保持し、負荷圧力を開放する一連の工程を少なくとも2回以上繰り返すことが好ましく、より好ましくは5回以上、最も好ましくは10回以上である。前記一連の工程を繰り返すことで、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の気孔を適切な大きさまで小さくすることが可能である。また、多段的に最大負荷圧力を増加させ、それらの負荷圧力を開放する方法であってもよい。前記一連の工程が1回以下の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性と強度を付与できないため好ましくない。
【0073】
前記一連の工程にかかる時間に特に制限はないが、通常30秒~10分であることが好ましく、3分~7分であるとより好ましい。時間が短すぎると成型体が破壊されることがあり、長すぎると生産効率が悪くなるため好ましくない。
【0074】
本発明における最大負荷圧力と開放後圧力の差は、少なくとも50MPa以上であることが好ましく、より好ましくは100MPa以上、より好ましくは200MPa以上である。開放圧力が50MPa未満の場合、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性と強度を付与できないため好ましくない。
【0075】
本発明における繰り返しのCIP処理は、途中で脱脂工程を含んでもよい。脱脂の方法に特に制限はないが、一般的な熱処理による脱脂が、特別な設備を必要とせず好ましい。脱脂温度に特に制限はないが、300~800℃が好ましい。脱脂温度が300℃以下ではバインダーが十分に除去されないことがあり、800℃以上では部分的な焼結が進行し、繰り返しのCIP処理の効果が十分に得られないことがあるため好ましくない。
【0076】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の仮焼成温度は、800~1200℃が好ましい。仮焼成温度が800℃未満の場合、ビッカース硬度および/または曲げ強さが低くなりすぎるため、切削加工時にチッピングや破折が生じやすくなるため好ましくない。一方、仮焼成温度が1200℃以上の場合、ビッカース硬度および/または曲げ強さが強くなりすぎるため、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなるため好ましくない。
【0077】
本発明における、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)は、ジルコニア粒子の表面上に分散している状態であることが好ましい。ここで本発明において分散している状態とは、粗大粒子が存在していない状態であって、好ましくは100nm以上、より好ましくは50nm以上の粒子が存在しないことが好ましい。分散している状態を確認する方法としては、TEM-EDS観察などが挙げられる。ジルコニアの表面にイットリウム化合物を分散させる方法は、例えば、水溶性のイットリウム化合物を水に溶解させたイットリウム含有溶液を、ジルコニア粉末および/または歯科切削加工用ジルコニア被切削体に噴霧および/または接触させ、その後、乾燥させる方法である。この方法により被覆されるイットリウム化合物は、ジルコニア一次粒子の表面に元素レベルで担持および/または吸着するため、焼結過程において、ジルコニア中に固溶しやすくなるため好ましい方法である。
【0078】
ジルコニア表面にイットリウム化合物を分散させる際に用いる、イットリウム含有液中のイットリウム化合物の含有量は、1~60wt%であることが好ましく、より好ましくは5~30wt%である。イットリウム化合物の含有量が、1wt%未満である場合、十分なイットリウム化合物をジルコニア粉末および/または歯科切削加工用ジルコニア被切削体に分散させることができないため好ましくない。一方、60wt%を超える場合、イットリウム化合物量が過剰となるため好ましくない。
【0079】
本発明におけるイットリウム含有液の調製方法は、特に限定されるものではなく、水溶性のイットリウム化合物を水に溶解させれば、いずれの調製方法であっても何等問題はない。
【0080】
本発明におけるイットリウム含有溶液をジルコニア粉末に噴霧および/または接触させる方法は、特に限定されるものではなく、ジルコニア一次粒子に分散されれば、いずれの調製方法であっても何等問題はない。
【0081】
本発明におけるイットリウム含有溶液をジルコニア粉末に噴霧および/または接触させた後、水を取り除くために、乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥させる方法は、特に限定されるものではなく、水を取り除くために必要な温度や時間等であれば、なんら問題はない。
【0082】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体をイットリウム含有溶液に接触させる方法としては、イットリウム含有溶液がジルコニア被切削体の間隙に侵入できるのであれば、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、イットリウム含有溶液の中に、ジルコニア被切削体の全体および/または一部を浸漬させることである。ジルコニア被切削体の全体および/または一部を浸漬させることによって、毛細管現象により、イットリウム含有溶液を内部に浸透させることができる。
【0083】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体をイットリウム含有溶液に浸漬させる具体的な方法としては、ジルコニア被切削体の全体積に対して、イットリウム含有溶液を1~100%浸漬させることが好ましく、10~100%浸漬させることがより好ましい。また、ジルコニア被切削体に対して、イットリウム含有溶液の浸漬する体積を制御することで、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の任意の部位にのみイットリウム化合物を分散させることができる。
【0084】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体をイットリウム含有溶液に浸漬させる具体的な雰囲気は、特に制限はなく、常圧雰囲気下、減圧雰囲気下、加圧雰囲気下のいずれにおいても問題はない。製造時間短縮の観点から、周囲の環境を減圧雰囲気下または、加圧雰囲気下に置くことは、イットリウム含有溶液の浸透を促すことになるので、好ましい手段である。また、減圧操作の後に常圧に戻す操作(減圧/常圧の操作)を複数回繰り返すことは、イットリウム含有溶液をジルコニア被切削体内部に浸透させる工程の時間短縮のためには有効である。
【0085】
イットリウム含有溶液を歯科切削加工用ジルコニア被切削体に浸漬させる時間は、ジルコニア被切削体の密度、ジルコニア被切削体の成形体サイズ、イットリウム含有溶液の浸透程度、浸漬方法等によって一概には決定されず、適宜、調整することができる。例えば、浸漬させる場合は、通常1~72時間であり、減圧下での浸漬の場合は、通常1分間~6時間であり、加圧下で接触させる場合は、通常1分間~6時間である。
【0086】
次に、イットリウム含有溶液が歯科切削加工用ジルコニア被切削体中に侵入した後、イットリウム含有溶液からジルコニア被切削体を取り出し、イットリウム含有溶液の乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥工程については、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧雰囲気下で乾燥することである。乾燥させる温度は、特に限定はないが、25~1200℃が好ましく、25~1100℃がより好ましい。乾燥させる時間に関しても、特に限定はないが、通常30分間~72時間である。
【0087】
このようにして、本発明の製造方法により、歯科切削加工用ジルコニア被切削体が得られる。得られた歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施される。
【0088】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を完全焼結させる方法としては、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。焼成温度は、特に限定はないが、1450~1600℃が好ましく、より好ましくは、1500~1600℃が特に好ましい。最大焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、1分間~12時間が好ましく、より好ましくは、2~4時間が特に好ましい。昇温速度は、特に限定はないが、1~400℃/minが好ましく、より好ましくは、3~100℃/hが特に好ましい。
【0089】
また、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体におけるイットリウム量が酸化物換算で3.0~6.5mol%である場合には、完全焼結させる方法として、短時間の焼結を用いることもできる。その場合、焼成温度は、特に限定はないが、1450~1600℃が好ましく、より好ましくは、1500~1600℃が特に好ましい。最大焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、1分間~1時間が好ましく、より好ましくは、2~10分間が特に好ましい。昇温速度は、特に限定はないが、5~400℃/分が好ましく、より好ましくは、50~300℃/分が特に好ましい。
【0090】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニアブランクの形状も特に制限はなく、インレー、ラミネート、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニアブランクでも用いることができる。
【実施例0091】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0092】
<実施例1~19及び比較例1~7>
[イットリウム含有溶液の調製]
表1~2にイットリウム含有溶液の組成表を示す。イットリウム含有溶液は、各種イットリウム化合物をイオン交換水に加え、80℃で加温しながら、12時間攪拌混合させて作製した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
[ジルコニア被切削体(D1)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に常圧雰囲気下で24時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(100℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D1)を作製した。
【0096】
[ジルコニア被切削体(D2)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持:無し、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1200℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(25℃、72時間)させ、ジルコニア被切削体(D2)を作製した。
【0097】
[ジルコニア被切削体(D3)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持:無し、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y2)に常圧雰囲気下で1時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(850℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D3)を作製した。
【0098】
[ジルコニア被切削体(D4)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:3分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(900℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に常圧雰囲気下で72時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(900℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D4)を作製した。
【0099】
[ジルコニア被切削体(D5)の作製]
3.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y3)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(120℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D5)を作製した。
【0100】
[ジルコニア被切削体(D6)の作製]
6.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持:無し、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y4)に常圧雰囲気下で72時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(1000℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D6)を作製した。
【0101】
[ジルコニア被切削体(D7)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:2回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(100℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D7)を作製した。
【0102】
[ジルコニア被切削体(D8)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:30回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に減圧雰囲気下で10分間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(1000℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D8)を作製した。
【0103】
[ジルコニア被切削体(D9)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:50MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:30回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に加圧雰囲気下で1時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(100℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D8)を作製した。
【0104】
[ジルコニア被切削体(D10)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y5)に常圧雰囲気下で36時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(1000℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D10)を作製した。
【0105】
[ジルコニア被切削体(D11)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y6)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(1000℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D11)を作製した。
【0106】
[ジルコニア被切削体(D12)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末:100gに対して、イットリウム含有溶液(Y1):20gを噴霧した後、常圧環境下で水分を取り除くために乾燥させた。前記乾燥したジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D12)を作製した。
【0107】
[ジルコニア被切削体(D13)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末:100gに対して、イットリウム含有溶液(Y2):20gを噴霧した後、常圧環境下で水分を取り除くために乾燥させた。前記乾燥したジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D13)を作製した。
【0108】
[ジルコニア被切削体(D14)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D14)を作製した。
【0109】
[ジルコニア被切削体(D15)の作製]
2.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持:無し、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y7)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(1000℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D15)を作製した。
【0110】
[ジルコニア被切削体(D16)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末:100gと酸化イットリウム:1gをボールミル中で混合した。前記混合したジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D16)を作製した。
【0111】
[ジルコニア被切削体(D17)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニアゾル(一次粒子径:29nm、CIKナノテック社製)を金型(φ100mm)に流し込み、溶媒を乾燥させることで成形体を得た。その後、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D17)を作製した。
【0112】
[ジルコニア被切削体(D18)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:1回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D18)を作製した。
【0113】
[ジルコニア被切削体(D19)の作製]
3.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:1回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D19)を作製した。
【0114】
[ジルコニア被切削体(D20)の作製]
6.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:1回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D20)を作製した。
【0115】
[ジルコニア被切削体(D21)の作製]
2.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:1回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y7)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(100℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D21)を作製した。
【0116】
[ジルコニア被切削体(D22)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末:100gと酸化イットリウム:1gをボールミル中で混合した。前記混合したジルコニア粉末を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:1回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D22)を作製した。
【0117】
[ジルコニア被切削体(D23)の作製]
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP成形(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:1回)を行った。その後、電気炉で仮焼(1300℃、30分間)し、仮焼成体を得た。前記仮焼成体をイットリウム含有溶液(Y1)に常圧雰囲気下で12時間浸漬させた。その後、仮焼成体をイットリウム含有溶液から取り出し、常圧環境下で水分を取り除いた後、乾燥(120℃、30分間)させ、ジルコニア被切削体(D23)を作製した。
【0118】
以下に、ジルコニア被切削体D1~D23の諸特性評価方法を示す。
【0119】
[試験体に含まれるイットリウム量の評価]
イットリウム量評価用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。蛍光X線分析装置(リガク社製)を用いて、各試験体に含まれる酸化物換算のイットリウム(酸化イットリウム)のモル分率を測定した。なお、本試験で得られたイットリウム量は、ジルコニアに固溶したイットリウムとジルコニアに固溶していないイットリウムの総量とした。
【0120】
[固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)およびジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)中のイットリウム量の算出方法]
固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)およびジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)中のイットリウム量は、酸抽出法により算出した。本発明における固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子中のイットリウムは、実質的に酸によって分解または溶解しないため、ジルコニアに対する酸化イットリウムのモル分率は変化しない。一方、本発明におけるジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)中のイットリウム化合物は、酸によって分解または溶解するため、ジルコニアに対する酸化イットリウムのモル分率が変化する。そのため、本発明では、酸により分解または溶解するイットリウムをジルコニアに固溶していないイットリウムとして算出した。
【0121】
[固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)およびジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)中のイットリウム量の測定及び算出]
各イットリウム量評価用試験体(φ14mm×1.6mm)を硝酸(15vol%)に48時間浸漬させ、未固溶のイットリウムを溶解させた。溶解させた後、蛍光X線装置(リガク社製)を用いて、各試験体中の酸化物換算のイットリウム(酸化イットリウム)のモル分率を測定した。なお、本発明では、溶解後に得られた酸化イットリウム量をジルコニアに固溶したイットリウム量とした。また、イットリウム量の評価で算出したイットリウム総量からジルコニアに固溶したイットリウム量を除算することで、ジルコニアに固溶していないイットリウム量を算出した。
【0122】
[比表面積の評価]
比表面積用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、角柱状(5mm×5mm×5mm)に切削加工して作製した。各試験体は、自動比表面積/細孔分布測定装置(カンタクローム社製)を用いて、比表面積を測定した。なお、比表面積は、脱着時のデータから多点法(P/P0=0.10~0.30)により算出した。
【0123】
[骨格体積の評価]
骨格体積用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、角柱状(5mm×5mm×5mm)に切削加工して作製した。各試験体は、乾式自動密度計(アキュピックII 1340、島津製作所社製)を用いて、真密度を測定した。本発明では、得られた真密度から以下の式(2)により骨格体積を算出した。
骨格体積(cm/g)=1/真密度(g/cm)・・・・(2)
【0124】
[細孔容積および細孔径の評価]
細孔容積用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、角柱状(5mm×5mm×5mm)に切削加工して作製した。各試験体は、全自動多機能水銀ポロシメーター(POREMASTER、カンタクローム社製)を用いて、細孔容積を測定した。なお、測定条件は、水銀表面張力:480erg/cm、接触角:140°、排出接触角:140°、圧力:0~50000psiaの条件にて行った。
【0125】
[空孔率の評価]
本発明の空孔率は、以下の式(3)より算出した。
空孔率(%)=細孔容積/(細孔容積+骨格体積)×100・・・・(3)
【0126】
[3点曲げ強さの評価]
3点曲げ強さ用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、板状(幅:4.0mm×長さ:20mm×厚さ:1.2mm)に切削加工して作製した。曲げ試験は、ISO6872に準拠して行った(スパン距離:12mm、クロスヘッドスピード:1.0mm/min)。
【0127】
[ビッカース硬さの評価]
ビッカース硬さ用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。ビッカース硬度試験は、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験-試験方法)に準拠して行った。
【0128】
[加工性の評価]
加工性の評価は、臼歯クラウンモデル(最小厚さ:0.05mm)を用いて行った。試験体は、各ジルコニア被切削体から切削加工により作製した。加工性は、目視にてチッピングの有無を確認し、チッピングが全く認められないものを優良(◎)、チッピングがわずかに認められるが臨床上問題ないものを良好(〇)、チッピングがあり臨床上問題ある可能性があるものを不良(×)とした。
【0129】
以下に、ジルコニア被切削体D1~D23から作製されるジルコニア完全焼結体の諸特性評価方法を示す。
【0130】
[3点曲げ強さの評価]
3点曲げ試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、板状(幅:4.8mm×長さ:20mm×厚さ:1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて完全焼結(焼成温度:1450~1600℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)した。その後、平面研削盤にて各試験体のサイズ(幅:4.0mm×長さ:16mm×厚さ:1.2mm)を調整した。曲げ試験は、ISO6872に準拠して行った(スパン距離:12mm、クロスヘッドスピード:1.0mm/min)。
【0131】
[透光性の評価]
透光性用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて完全焼結(焼成温度:1450~1600℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)した。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。なお、透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYw とし、試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYb とした。コントラスト比は、以下の式(4)より算出した。
コントラスト比=Yb/Yw・・・・(4)
コントラスト比は、0に近づくほど、その材料は透明であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透明である。
【0132】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体ジルコニア被切削体D1~D23の特性試験結果を表3~7に示す。

【0133】
【表3】

【0134】
【表4】

【0135】
【表5】

【0136】
【表6】

【0137】
【表7】
【0138】
〔実施例1~15〕
実施例1~15の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、15~30%であることが確認された。さらに、該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面上に、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)が分散していることが認められた。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体の加工性は、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体と比較して、チッピングや破折がなく、切削加工性に優れていることが確認できた。さらに、実施例1~15の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されたジルコニア完全焼結体は、500MPa以上の優れた曲げ強さを有しており、また透光性に関して、コントラスト比0.70未満と非常に高い透光性を示すことが認められた。
【0139】
〔実施例16〕
実施例16の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、15~30%であることが確認された。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体の加工性は、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりもチッピングや破折が少ないことが認められた。さらに、実施例16の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されたジルコニア完全焼結体は、500MPa以上の優れた曲げ強さと透光性(コントラスト比)を有していることが認められた。
【0140】
〔実施例17〕
実施例17の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、15~30%であることが確認された。さらに、該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面上に、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)が分散していることが認められた。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体の加工性は、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体と比較し、チッピングや破折がなく、切削加工性に優れていることが確認できた。さらに、実施例17の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されたジルコニア完全焼結体は、500MPa以上の優れた曲げ強さと透光性(コントラスト比)を有していることが認められた。
【0141】
〔実施例18〕
実施例18の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、15~30%であることが確認された。さらに、該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)および、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)が含まれていることが認められた。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体の加工性は、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体比較し、チッピングや破折がなく、切削加工性に優れていることが確認できた。さらに、実施例18の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されたジルコニア完全焼結体は、500MPa以上の優れた曲げ強さと透光性(コントラスト比)を有していることが認められた。
【0142】
〔実施例19〕
実施例19の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の空孔率は、15~30%であることが確認された。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体の加工性は、従来の歯科切削加工用ジルコニア被切削体よりもチッピングや破折が少ないことが認められた。さらに、実施例19の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製されたジルコニア完全焼結体は、500MPa以上の優れた曲げ強さと透光性(コントラスト比)を有していることが認められた。
【0143】
〔比較例1〕
比較例1は、5.5mol%の固溶したイットリウムを含んだ歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0144】
〔比較例2〕
比較例2は、3.0mol%の固溶したイットリウムを含んだ歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体においても、完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0145】
〔比較例3〕
比較例3は、6.0mol%の固溶したイットリウムを含んだ歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体においても、完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0146】
〔比較例4〕
比較例4は、2.0mol%の固溶したイットリウムと3.5mol%の固溶していないイットリウムを含んだ歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、空孔率が15%未満であることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。また、完全焼結後の曲げ強さが十分ではなく、コントラスト比が0.80以上であり、目視確認においても実施例1~15と比較した際に透光性が不十分であることが認められた。
【0147】
〔比較例5〕
比較例5は、4.0mol%の固溶したイットリウムと1.0mol%の固溶していないイットリウムを含んだ歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、空孔率が30%を超えることや、固溶したイットリウムを含むジルコニア粒子(a1)の表面上に、ジルコニアに固溶していないイットリウム化合物(a2)が分散していないため、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。また、コントラスト比が0.80以上であり、目視確認においても実施例1~15と比較した際に透光性が不十分であることが認められた。
【0148】
〔比較例6〕
比較例6は、5.5mol%の固溶したイットリウムと0.5mol%の固溶していないイットリウムを含んだ歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。該歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、空孔率が15%未満であるため、完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0149】
<実施例20~30、比較例7~12及び参考例1~2>
【0150】
[ジルコニア被切削体(D24)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex4:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体(D24)を作製した。
【0151】
[ジルコニア被切削体(D25)の作製]
CIP処理繰り返し回数を5回とした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体(D25)を作製し、評価を行った。
【0152】
[ジルコニア被切削体(D26)の作製]
CIP処理繰り返し回数を20回とした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体(D26)を作製し、評価を行った。
【0153】
[ジルコニア被切削体(D27)の作製]
4.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex4:東ソー社製)を金型(φ100mm)に充填し、プレス成形(面圧:50MPa)を行い成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で脱脂(500℃、30分間)した。脱脂した成形体をさらにCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、最大負荷圧力の保持時間:1分間、繰り返し回数:10回)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア被切削体を作製した。それ以外はジルコニア被切削体(D24)と同様に評価を行った。
【0154】
[ジルコニア被切削体(D28)の作製]
原料粉末に5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を用いた以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0155】
[ジルコニア被切削体(D29)の作製]
原料粉末に5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末(Zpex SMILE:東ソー社製)を用いた以外はジルコニア被切削体(D27)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0156】
[ジルコニア被切削体(D30)の作製]
CIP処理における最大負荷圧力を180MPaとした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0157】
[ジルコニア被切削体(D31)の作製]
繰り返しCIP処理における開放後負荷圧力を50MPaとした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0158】
[ジルコニア被切削体(D32)の作製]
繰り返しCIP処理における開放後負荷圧力を100MPaとした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0159】
[ジルコニア被切削体(D33)の作製]
CIP処理における保持時間を0秒とした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0160】
[ジルコニア被切削体(D34)の作製]
CIP処理における保持時間を3分とした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0161】
[ジルコニア被切削体(D35)の作製]
CIP処理繰り返し回数を1回とした以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0162】
[ジルコニア被切削体(D36)の作製]
CIP処理繰り返し回数を1回とした以外はジルコニア被切削体(D28)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0163】
[ジルコニア被切削体(D37)の作製]
完全焼結を通常焼結(焼成温度:1450℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)で行った以外はジルコニア被切削体(D36)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0164】
[ジルコニア被切削体(D38)の作製]
CIP処理における保持時間を10分間にした以外はジルコニア被切削体(D35)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0165】
[ジルコニア被切削体(D39)の作製]
原料粉末に2.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉を用いた以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0166】
[ジルコニア被切削体(D40)の作製]
完全焼結を通常焼結(焼成温度:1450℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)で行った以外はジルコニア被切削体(D39)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0167】
[ジルコニア被切削体(D41)の作製]
原料粉末に7.0mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉を用いた以外はジルコニア被切削体(D24)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0168】
[ジルコニア被切削体(D42)の作製]
完全焼結を通常焼結(焼成温度:1450℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)で行った以外はジルコニア被切削体(D41)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0169】
[ジルコニア被切削体(D43)の作製]
CIP処理における最大負荷圧力を40MPaとした以外はジルコニア被切削体(D35)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0170】
[ジルコニア被切削体(D44)の作製]
仮焼温度を1300℃とした以外はジルコニア被切削体(D35)と同様にジルコニア被切削体を作製し、評価を行った。
【0171】
ジルコニア被切削体D24~D44の比表面積の評価、骨格体積の評価、細孔容積の評価、空孔率の評価、3点曲げ強さの評価及びビッカース硬さの評価は、ジルコニア被切削体D1~D23と同様の評価方法により評価した。
【0172】
以下に、ジルコニア被切削体D24~D44から作製されるジルコニア完全焼結体の諸特性評価方法を示す。
【0173】
[3点曲げ強さの評価]
3点曲げ試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、板状(幅:4.8mm×長さ:20mm×厚さ:1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて短時間の焼結(焼成温度:1600℃、昇温速度:70℃/分、保持時間:2分間)した。また、ジルコニア被切削体D38、D41及びD42の試験体については、焼成炉にて完全焼結を通常焼結によって(焼成温度:1450~1600℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)も行った。その後、平面研削盤にて各試験体のサイズ(幅:4.0mm×長さ:16mm×厚さ:1.2mm)を調整した。曲げ試験は、ISO6872に準拠して行った(スパン距離:12mm、クロスヘッドスピード:1.0mm/min)。
【0174】
[透光性の評価]
透光性用試験体は、各ジルコニア被切削体を用いて、丸板状(φ14mm×1.6mm)に切削加工して作製した。各試験体は、焼成炉にて短時間の焼結(焼成温度:1600℃、昇温速度:70℃/分、保持時間:2分間)した。また、ジルコニア被切削体D38、D41及びD42の試験体については、焼成炉にて完全焼結を通常焼結によって(焼成温度:1450~1600℃、昇温速度:5℃/分、保持時間:2時間)も行った。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。なお、透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYw とし、試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYb とした。コントラスト比は、以下の式(5)より算出した。
コントラスト比=Yb/Yw・・・・(5)
コントラスト比は、0に近づくほど、その材料は透明であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透明である。
【0175】
【表8】

【0176】
【表9】

【0177】
【表10】

【0178】
【表11】
【0179】
〔実施例20~30〕
実施例20~30の歯科切削加工用ジルコニア被切削体D24~D34の空孔率は、15~30%であることが確認されたさらに、実施例20~30の歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製された短時間の焼結のジルコニア完全焼結体は、600MPa以上の優れた曲げ強さと透光性(コントラスト比)を有していることが認められた。また、透光性に関して、コントラスト比0.70以下と非常に高い透光性を示すことが認められた。
【0180】
〔比較例7〕
比較例7では、4.0mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を繰り返さず作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体D35を短時間焼結した。短時間の焼結による完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、細孔容積が大きく、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0181】
〔比較例8〕
比較例8では、5.5mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を繰り返さず作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体D36を短時間焼結した。短時間の焼結による完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、細孔容積が大きく、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪く、短時間の焼結による完全焼結後の強度が十分ではなかった。
【0182】
〔比較例9〕
比較例9では、5.5mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を繰り返さず作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体D37を通常焼結した。短時間の焼結による完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、細孔容積が大きく、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。。
【0183】
〔比較例10〕
比較例10では、4.0mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理における最高負荷圧力保持時間を10分とし、CIP処理を繰り返さず作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体D38を短時間焼結した。短時間の焼結による完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、細孔容積が大きく、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0184】
〔参考例1〕
参考例1では、2.5mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を10回繰り返して作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体D39を短時間焼結した。固溶したイットリウム量が少ないことから透光性(コントラスト比)が十分ではなく、目視においても実施例と比較して透光性が劣ることが認められた。
【0185】
〔実施例31〕
実施例31は、2.5mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を10回繰り返して作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体D40を通常焼結したものである。実施例20~30と同様に、600MPa以上の優れた曲げ強さを有していることが認められた。また、透光性に関して、コントラスト比0.0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であることが認められた。
【0186】
〔参考例2〕
参考例2では、7.0mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を10回繰り返して作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を短時間焼結した。固溶したイットリウム量が多いことから、十分な透光性(コントラスト比)が得られたものの、短時間焼結の実施例20~30と比較して強度が劣ることが認められた。
【0187】
〔実施例32〕
実施例32は、7.0mol%の固溶したイットリウムを含み、CIP処理を10回繰り返して作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を通常焼結したものである。実施例20~30と同様に、600MPa以上の優れた曲げ強さを有していることが認められた。また、透光性に関して、コントラスト比0.70以下と非常に高い透光性を示すことが認められた。
【0188】
〔比較例11〕
比較例11では、4.0mol%の固溶したイットリウムを含み、繰り返しCIP処理における最大負荷圧力を40MPaとし、CIP処理を10回繰り返して作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を短時間焼結した。短時間焼結による完全焼結後透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、細孔容積が大きく、空孔率が30%を超えることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。
【0189】
〔比較例12〕
比較例12では、4.0mol%の固溶したイットリウムを含み、仮焼成温度を1300℃として作成された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を短時間焼結した。短時間焼結による完全焼結後の透光性(コントラスト比)が0.80未満であり、臨床上問題なく使用可能であるものの、細孔容積が小さく、空孔率が15%を下回ることから、切削加工時の耐チッピング性が悪かった。