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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054312
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】卵巣がんの処置のための併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4196 20060101AFI20240409BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240409BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240409BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K31/4196
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 121
G01N33/50 P
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019509
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2022053212の分割
【原出願日】2017-02-28
(31)【優先権主張番号】62/301,225
(32)【優先日】2016-02-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504151848
【氏名又は名称】シンタ ファーマシューティカルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド プロイア
(57)【要約】
【課題】卵巣がんの処置のための併用療法を提供すること。
【解決手段】本発明は、(i)有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および(ii)有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップを含む、相同組換え(HR)の欠損を有する卵巣がんを有する患者を処置する方法に関する。当該技術分野において、卵巣がん、特に上皮性卵巣がんを効果的および確実に処置することができる新規療法に対する必要性が依然として存在している。本発明はこのおよび他のこのような必要性に対処する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相同組換え欠損(HRD)スコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣がんを処置するためのガネテスピブおよびDNA損傷または修復阻害剤を含む併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣がんは女性の間でがんの約3%を占める。それは卵巣で発症する。卵巣は3種の主要な種類の細胞から構成される。各々の種類の細胞は異なる種類の腫瘍に発達し得る:
・ 上皮性腫瘍は卵巣の外面を覆う細胞層に由来する。約90パーセントの卵巣腫瘍が上皮性細胞腫瘍である。
・ 胚細胞腫瘍は卵(卵子)を産生する細胞から開始する。
・ 間質性腫瘍は卵巣を一体に保持し、女性ホルモンのエストロゲンおよびプロゲステロンを産生する構造組織細胞から開始する。
【0003】
当該技術分野において、卵巣がん、特に上皮性卵巣がんを効果的および確実に処置することができる新規療法に対する必要性が依然として存在している。本発明はこのおよび他のこのような必要性に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態は、(i)有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および(ii)有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップを含む、相同組換え(HR)の欠損を有する卵巣がんを有する患者を処置する方法である。一実施形態では、相同組換え(HR)の欠損を有する卵巣がんを有する患者は、40より大きい、好ましくは42より大きい相同組換え欠損(HRD)スコアを有する。
【0005】
本発明の別の実施形態は、(i)有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および(ii)有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップを含む、能力のある(proficient)相同組換え(HR)を有する卵巣がんを有する患者を処置する方法である。
【0006】
本発明はまた、
a)患者の卵巣がんをスクリーニングし、がんがHR欠損であるか、またはHRの能力があるかどうかを評価するステップ、
b)卵巣がんがHR欠損である場合、有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップ
を含む、卵巣がんを有する患者を処置する方法も対象とする。
【0007】
上記方法の一実施形態では、がんがHRの能力がある場合、ガネテスピブでもその薬学的に許容される塩でもない抗がん療法により患者を処置する。
【0008】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修飾阻害剤が、PARP阻害剤、プラチン、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、ならびにWEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRを含むDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤からなる群から選択される、方法を提供する。
【0009】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、卵巣
がんが、BRCA復帰、BRCAのメチル化反転、N末端BRCAミスセンス変異または機能タンパク質を生じるBRCAにおける他の変異、薬物輸送体の発現、安定性および機能についてHSP90に依存するBRCA変異タンパク質、サイクリンE1の増幅、または線維形成性間質を有する、方法を提供する。
【0010】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、卵巣がんが上皮性卵巣がんである、方法を提供する。
【0011】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がPARP阻害剤であり、PARP阻害剤が、ニラパリブ、イニパリブ、タラゾパリブ、オラパリブ、ルカパリブ、ベリパリブまたはCEP-9722である、方法を提供する。
【0012】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がトポイソメラーゼI阻害剤であり、トポイソメラーゼI阻害剤が、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシンまたはラメラリンDである、方法を提供する。
【0013】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がトポイソメラーゼII阻害剤であり、トポイソメラーゼII阻害剤が、エトポシド(VP-16)、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロン、アムサクリン、エリプチシン、アウリントリカルボン酸、HU-331、ICRF-187、ICRF-193またはミチンドミドである、方法を提供する。
【0014】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がプラチンであり、プラチンが、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、ネダプラチン、トリプラチンまたはリポプラチンである、方法を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がWEE1阻害剤であり、WEE1阻害剤がAZD-1775である、方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がCHK1および/または2阻害剤であり、CHK1および/または2阻害剤が、AZD7762、LY2603618、MK-8776、CHIR-124またはPF-477736である、方法を提供する。
【0017】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がCDK1および/または2阻害剤であり、CDK1および/または2阻害剤が、ロソビチン(rosovitine)、SNS-032、ディナシクリブ、フラボピリドル(flavopiridol)、AT7519、プルバラノールA、RO-3306、SU9516、XL413、NU6027、P276-00、AZD5438、PHA-793887、JNJ-7706621、BMS-265246、ミルシクリブ(milciclib)
、MK-8776またはR547である、方法を提供する。
【0018】
一実施形態では、本発明は以前の実施形態のいずれか1つに記載の方法であって、DNA損傷または修復阻害剤がATMおよび/またはATR阻害剤であり、ATMおよび/またはATR阻害剤が、ダクトリシブ、KU-55933、KU-60019、VE-821、ウォルトマンニン、AZD6738、CP-466722、トリン2、ETP-46
464、CGK733、AZ20、VE-822、シサンドリンBまたはリン酸クロロキンである、方法を提供する。
【0019】
一実施形態では、本発明は、DNA損傷または修復阻害剤と組み合わせて患者を処置するための医薬を製造するためのガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩の使用であって、患者は、(i)相同組換え(HR)の欠損を有する卵巣がん、(ii)能力のある相同組換え(HR)を有する卵巣がん、または(iii)上皮性卵巣がんを有する、使用を提供する。特定の実施形態では、DNA損傷または修復阻害剤は、PARP阻害剤、プラチン、トポイソメラーゼIおよび/またはII阻害剤、ならびにWEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRを含むDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤からなる群から選択される。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、PARP阻害剤、プラチン、トポイソメラーゼIおよび/またはII阻害剤、ならびにWEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRを含むDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤からなる群から選択されるDNA損傷または修復阻害剤と組み合わせて、卵巣がんの処置を必要とする患者における卵巣がんの処置に使用するためのガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩を提供する。特定の実施形態では、卵巣がんは相同組換え(HR)の欠損を有する。別の特定の実施形態では、卵巣がんは能力のある相同組換え(HR)を有する。さらに別の特定の実施形態では、卵巣がんはPARP阻害剤耐性卵巣がんである。なおさらに別の特定の実施形態では、卵巣がんは上皮性卵巣がんである。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
(i)有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および(ii)有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップを含む、相同組換え(HR)の欠損を有する卵巣がんを有する患者を処置する方法。
(項目2)
相同組換え(HR)の欠損を有する卵巣がんを有する前記患者が、40より大きい、好ましくは42より大きい相同組換え欠損(HRD)スコアを有する、項目1に記載の方法。
(項目3)
(i)有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および(ii)有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップを含む、能力のある(proficient)相同組換え(HR)を有する卵巣がんを有する患者を処置する方法。
(項目4)
a)患者の卵巣がんをスクリーニングし、がんがHR欠損であるか、またはHRの能力があるかどうかを評価するステップ、
b)前記卵巣がんがHR欠損である場合、有効量のガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩、および有効量のDNA損傷または修復阻害剤を患者に投与するステップ
を含む、卵巣がんを有する患者を処置する方法。
(項目5)
前記がんがHRの能力がある場合、ガネテスピブまたはその薬学的に許容される塩以外の抗がん療法により前記患者を処置する、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記DNA損傷または修飾阻害剤が、PARP阻害剤、プラチン、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、ならびにWEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRを含むDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤からなる群から選択される、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記卵巣がんが、BRCA復帰、BRCAのメチル化反転、N末端BRCAミスセンス
変異または機能タンパク質を生じるBRCAにおける他の変異、薬物輸送体の発現、安定性および機能についてHSP90に依存するBRCA変異タンパク質、サイクリンE1の増幅、または線維形成性間質を有する、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記卵巣がんが上皮性卵巣がんである、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記DNA損傷または修復阻害剤がPARP阻害剤であり、前記PARP阻害剤が、ニラパリブ、イニパリブ、タラゾパリブ、オラパリブ、ルカパリブ、ベリパリブまたはCEP-9722である、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記DNA損傷または修復阻害剤がトポイソメラーゼI阻害剤であり、前記トポイソメラーゼI阻害剤が、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシンまたはラメラリンDである、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記DNA損傷または修復阻害剤がトポイソメラーゼII阻害剤であり、前記トポイソメラーゼII阻害剤が、エトポシド(VP-16)、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロン、アムサクリン、エリプチシン、アウリントリカルボン酸、HU-331、ICRF-187、ICRF-193またはミチンドミドである、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記DNA損傷または修復阻害剤がプラチンであり、前記プラチンが、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、ネダプラチン、トリプラチンまたはリポプラチンである、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記DNA損傷または修復阻害剤がWEE1阻害剤であり、前記WEE1阻害剤がAZD-1775である、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記DNA損傷または修復阻害剤がCHK1および/または2阻害剤であり、前記CHK1および/または2阻害剤が、AZD7762、LY2603618、MK-8776、CHIR-124またはPF-477736である、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記DNA損傷または修復阻害剤がCDK1および/または2阻害剤であり、前記CDK1および/または2阻害剤が、ロソビチン、SNS-032、ディナシクリブ、フラボピリドル、AT7519、プルバラノールA、RO-3306、SU9516、XL413、NU6027、P276-00、AZD5438、PHA-793887、JNJ-7706621、BMS-265246、ミルシクリブ、MK-8776またはR547である、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記DNA損傷または修復阻害剤がATMおよび/またはATR阻害剤であり、前記ATMおよび/またはATR阻害剤が、ダクトリシブ、KU-55933、KU-60019、VE-821、ウォルトマンニン、AZD6738、CP-466722、トリン2、ETP-46464、CGK733、AZ20、VE-822、シサンドリンBまたはリン酸クロロキンである、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
相同組換えはDNA切断を修復するために使用される遺伝子組換えの種類である。BRCA1およびBRCA2は相同組換えのプロセスにおける重要なタンパク質として周知であり、ATM、ATR、p53、CHEK2、BARD1、RAD51を含む多くの他のタンパク質が修復プロセスに関与することが示されている。相同組換えの欠損はヒトにお
けるがんの形成と強く関連している。正常なBRCA1またはBRCA2活性を喪失しており、それ故、相同組換え欠損とみなされるがん細胞は、修復失敗を回避するために修復経路の他の部分に非常に依存している。
【0022】
相同組換えの欠損は、限定されないが、BRCA復帰、BRCAのメチル化反転、N末端BRCAミスセンス変異または機能タンパク質を生じるBRCAにおける他の変異、薬物輸送体の発現、安定性および機能についてHSP90に依存するBRCA変異タンパク質、サイクリンE1の増幅、および線維形成性間質を含む、正常なBRCA1またはBRCA2活性を喪失することによって引き起こされ得る。
【0023】
相同組換え欠損(HRD)を有する卵巣がんは、白金およびPARP阻害剤などの、DNA損傷剤による療法から利益を得ることが示されている。相同組換え欠損はHRDスコアによって評価され、決定され得る。HRDスコアは異なる種類の腫瘍ゲノム再編成を反映する3つの成分から算出される。3つの個々の成分は:1)腫瘍ゲノムにおける中間サイズ(>15Mbおよび<染色体全体)の領域であるヘテロ接合性の消失(LOH);2)DNAの隣接セグメントにおける少なくとも10Mbの染色体切断(転座、逆位または欠失)である大規模な状態遷移(LST);および3)サブテロメアにまで及ぶが、動原体を超えないアレル不均衡を有する領域の数として定義されるテロメアアレル不均衡(TAI)である。HRDスコアは、0~100のスケールでのLOH、TAIおよびLST測定値の重み付けされていない合計であり、それらは以下の式によって算出され得る。
HRD-モデル=0.11×HRD-LOH+0.25×HRD-TAI+0.12×HRD-LST
【0024】
HRDスコアを算出する方法に関する詳細な説明は、Timmsら、Breast Cancer Research(2014年)16巻:475頁に見出すことができ、その全内容は参照により本明
細書に組み込まれる。全体の手順は実施例のセクションに記載されている。
【0025】
HRDスコアが40より大きく、好ましくは42より大きい場合、患者は相同組換えの欠損を有するとみなされる。逆に、HRDスコアが40未満である場合、患者は相同組換えの能力を有するとみなされる。
【0026】
アンサマイシンクラスのHSP90阻害剤と関係していない第二世代のHSP90阻害剤であるガネテスピブは、シャペロンである多数のDNA修復タンパク質を損なうことによって部分的に相同組換えの欠損(または能力)を有する卵巣がんにおいてPARP阻害剤または他のDNA損傷治療の活性を増強すると考えられる。
【0027】
ガネテスピブ(3-(2,4-ジヒドロキシ-5-イソプロピル-フェニル)-4-(1-メチル-インドール(indol)-5-イル)-5-ヒドロキシ-[1,2,4]トリ
アゾール)は以下の構造式:
【化1】
によって表される。ガネテスピブについての合成調製物は米国特許第7,825,148号に提供されており、その全教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0028】
DNA損傷または修復阻害剤は、DNA損傷を引き起こす薬剤を指す。それは、DNA修復プロセスに関与する重要な調節タンパク質のいくつかを標的としている。哺乳動物細胞におけるDNA修復プロセスは、核DNAを攻撃することが公知である過剰のDNA損傷剤から細胞を保護する多経路機構である。大多数の現在の抗がん療法は、アポトーシス/細胞死を引き起こす、DNA障害を生じるこの能力に依存する。このようなDNA損傷を修復する細胞の自然な能力は、これらの既存の抗腫瘍剤に対する耐性の主な原因である。したがって、これらの修復機構をモジュレートすることによって、抗癌剤に対する、より大きな殺傷効果を発生させることは論理的であるように思われる。
【0029】
DNA損傷または修復阻害剤には、限定されないが、PARP阻害剤、プラチン、トポイソメラーゼIおよび/またはII阻害剤、ならびにWEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRを含むDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤が含まれる。
【0030】
PARP阻害剤
PARPは、DNA損傷を検出し、DNA一本鎖切断(SSB)に結合し、DNA修復タンパク質を動員し、修復プロセスを駆動することができるタンパク質のファミリーである。ヒトにおけるタンパク質のPARPファミリーには、PARP1およびPARP2が含まれる。
【0031】
小分子薬(すなわち、PARP阻害剤)を用いてPARP活性を阻害することによって、未修復のSSBは、修復のために相同組換え(HR)を必要とする、より有害な二本鎖切断(DSB)を引き起こし得る。したがって、PARPを阻害する薬物により、このように多数の二本鎖切断が形成する。BRCA1、BRCA2またはPALB2変異を有する腫瘍において、これらの二本鎖切断は効率的に修復することができず、腫瘍細胞の死を引き起こす。しかし、正常細胞はがん細胞と同じくらいの頻度でそれらのDNAを複製しない。また、正常細胞は、あらゆる変異BRCA1またはBRCA2を欠失しているので、依然として相同修復作用を有しており、これによりそれらの細胞はPARPの阻害に対して生存することができる。
【0032】
本発明に使用され得るPARP阻害剤には、限定されないが、ニラパリブ、イニパリブ、タラゾパリブ、オラパリブ、ルカパリブ、ベリパリブおよびCEP-9722が含まれる。
【0033】
プラチン
プラチンは、がんを治療するための化学療法剤である白金系抗新生物薬を指す。プラチンは白金の配位錯体である。白金系抗新生物薬は、単一付加物、鎖間架橋、鎖内架橋またはDNAタンパク質架橋としてDNAの架橋を引き起こす。大部分は、それらはグアニンの隣接するN-7位に作用し、1,2鎖内架橋を形成する。得られた架橋はがん細胞におけるDNA修復および/またはDNA合成を阻害する。プラチンの例には、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、ネダプラチン、トリプラチンおよびリポプラチンが含まれる。
【0034】
トポイソメラーゼ阻害剤
トポイソメラーゼ阻害剤は、トポイソメラーゼIおよびIIを含むトポイソメラーゼ酵素の作用を妨げるように設計された薬剤である。トポイソメラーゼは、正常な細胞周期の間にDNA鎖のホスホジエステル骨格の切断および再結合を触媒することによってDNA構造の変化を制御する酵素である。
【0035】
ヒトDNAトポイソメラーゼI(Top1)は、複製および転写の間にDNA超らせん形成を弛緩する必須酵素である。Top1は、二重らせん軸周囲の切断鎖の回転を可能にするDNA一本鎖切断を生じる。Top1はまた、切断鎖を再ライゲーションして無傷の二重鎖(duplex)DNAを再構築する。切断複合体として公知であるTop1-DNA中間体は、通常の状況下で一過性であり、低レベルである。しかしながら、カンプトテシンなどのTop1阻害剤による処理は、切断可能な複合体を安定化し、DNA再ライゲーションを阻止し、致命的なDNA鎖切断を誘導する。がん細胞はこれらのDNA障害の発生に対して選択的に感受性である。本発明に使用され得るトポイソメラーゼI阻害剤には、限定されないが、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシンまたはラメラリンDが含まれる。
【0036】
II型トポイソメラーゼは、DNAのもつれおよび超らせんを処理するためにDNAヘリックスの両方の鎖を同時に切断する。それらは、I型トポイソメラーゼとは異なり、ATPの加水分解を使用する。このプロセスにおいて、これらの酵素は環状DNAのリンキング数を±2だけ変化させる。本発明に使用され得るトポイソメラーゼII阻害剤には、限定されないが、エトポシド(VP-16)、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロン、アムサクリン、エリプチシン、アウリントリカルボン酸、HU-331、ICRF-187、ICRF-193およびミチンドミドが含まれる。
【0037】
DNAチェックポイントタンパク質の阻害剤
DNA損傷後、細胞周期チェックポイントが活性化される。チェックポイント活性化により、細胞周期が中断され、分裂し続ける前に損傷を修復するための時間が細胞に与えられる。DNA損傷チェックポイントはDNA合成G1/SおよびG2/M期に発生する。S内チェックポイントもまた、存在する。チェックポイント活性化は、2つのマスターキナーゼである、ATM(毛細血管拡張性運動失調症変異)およびATR(毛細血管拡張性運動失調症およびRAD3関連タンパク質)によって制御される。ATMはDNA二本鎖切断およびクロマチン構造の破壊に応答するのに対して、ATRは停止した複製フォークに主に応答する。
【0038】
ATM-ATRカスケードはDNA損傷警告の数分以内に活性化される。ATMおよびATRの両方は、直接的にまたはチェックポイントキナーゼ2(CHK2)の事前の活性化によって転写因子p53をリン酸化し、活性化することができる。p53によって誘導される遺伝子の中には、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)阻害剤p21(CDKN1AおよびCIP1としても公知である)があり、その活性により、損傷細胞がDNA合成(S)期に入ることが阻止される。また、第1のギャップ(G1)期からS期まで既に移行した損傷細胞は、細胞質におけるその隔離を誘導するシグナルを提供する、二重特異性ホスファターゼCDC25Cをリン酸化する、別のATM-ATRエフェクターであるCHK1の活性化によって停止され得る。CDC25CはCDK1から2つの阻害的リン酸を除去するのに関与しているため、その不活性化により、細胞が有糸分裂(M)期に入ることが阻止される。G1、SまたはG2期における細胞周期停止は、DNA完全性が回復されるまで維持される。障害が修復不能である場合、プログラム細胞死がATM-ATRシグナル経路によって誘導される。ATM-CHK2経路は主にG1チェックポイントを調節するのに対して、ATR-CHK1経路は主にSおよびG2チェックポイントを調節するが、これらの経路間にクロストークが存在する。しかしながら、大部分のヒトがんにおいて、G1におけるDNA損傷チェックポイントの機能は、p53または網膜芽細胞腫タンパク質(RB1)をコードする遺伝子における変異のために損なわれる。電離放射線およびDNAターゲティング薬などのDNA損傷剤によるこれらの腫瘍細胞の処理の結果、SまたはG2チェックポイントによって媒介される停止が生じる。Lapennaら、「Cell cycle kinases as therapeutic targets for cancer」 Nature Reviews Drug Discovery、2009年(8巻)、547~566頁を参照のこと。
【0039】
要約すると、DNA損傷チェックポイントは、G1、G2および中期における細胞周期の進行を遮断し、DNAが損傷したときのS期の進行速度を遅延させるシグナル伝達経路である。それは細胞周期の中断を引き起こし、分裂し続ける前に損傷を修復するための時間が細胞に与えられる。
【0040】
本発明に使用され得るDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤には、限定されないが、WEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRが含まれる。
【0041】
WEE1阻害剤には、限定されないが、AZD-1775が含まれる。
【0042】
CHK1および/または2阻害剤には、限定されないが、AZD7762、LY2603618、MK-8776、CHIR-124およびPF-477736が含まれる。
【0043】
CDK1および/または2阻害剤には、限定されないが、ロソビチン、SNS-032、ディナシクリブ、フラボピリドル、AT7519、プルバラノールA、RO-3306、SU9516、XL413、NU6027、P276-00、AZD5438、PHA-793887、JNJ-7706621、BMS-265246、ミルシクリブ、MK-8776およびR547が含まれる。
【0044】
ATMおよび/またはATR阻害剤には、限定されないが、ダクトリシブ、KU-55933、KU-60019、VE-821、ウォルトマンニン、AZD6738、CP-466722、トリン2、ETP-46464、CGK733、AZ20、VE-822、シサンドリンBおよびリン酸クロロキンが含まれる。
【0045】
他の療法と同様に、進行疾患におけるPARP阻害剤に対する耐性はほとんど不可避である。タンパク質の機能性、例えば、BRCA欠失が与える欠陥に起因して事前に欠損している相同組換えの機能性を回復させるBRCAプロモーターまたは遺伝子における変異を含む、PARP阻害剤耐性についてのいくつかの機構が記載されている。Fojoら、「Mechanisms of Resistance to PARP Inhibitors - Three and Counting」 Cancer Discovery、2013年(3巻)20~23頁を参照のこと。HSP90を阻害することは、この耐性の機構に対抗するか、または再発性もしくは難治性疾患を処置するために有用なストラテジーであり得る。
【0046】
したがって、本発明はまた、PARP阻害剤耐性卵巣がんを有する患者を処置する方法も対象とする。PARP阻害剤耐性卵巣がんは、BRCA復帰、BRCAのメチル化反転、N末端BRCAミスセンス変異または機能タンパク質を生じるBRCAにおける他の変異、薬物輸送体の発現、安定性および機能についてHSP90に依存するBRCA変異タンパク質、サイクリンE1の増幅、または線維形成性間質を有する。一実施形態では、PARP阻害剤耐性卵巣がんはHR欠損PARPi耐性上皮性卵巣がんである。
【0047】
本明細書に使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、例えば、ガネテスピブにおける塩基性基(例えば、インドリル窒素)および薬学的に許容される酸から形成される塩、すなわち酸付加塩である。例示的な酸付加塩には、限定されないが、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ベシル酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩(glucaronate)、サッカラート、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン
酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、およびパモ酸塩(すなわち、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))の塩が含まれる。「薬学的に許容される塩」という用語はまた、ガネテスピブにおける酸性官能基(例えば、フェノール基)および薬学的に許容される塩基から調製される塩を指す。適切な塩基には、限定されないが、ナトリウム、カリウム、およびリチウムなどのアルカリ金属の水酸化物およびアルコキシドが含まれる。「薬学的に許容される」とは、ヒトにおける使用に適していることを意味する。
【0048】
「有効量」は、単独でまたは組み合わせて、卵巣がんの重症度、症状もしくは進行を低減させるかもしくは改善し、卵巣がんの進展を低減させ、卵巣がんの退行を引き起こすか、または許容されない副作用を引き起こさずに卵巣がんに関連する症状の再発もしくは進行の可能性を低減させるのに十分である、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)、DNA損傷または修復阻害剤(PARP阻害剤、プラチン、トポイソメラーゼIおよび/またはII阻害剤、ならびにWEE1、CHK1、CHK2、CDK1、CDK2、ATMおよびATRを含むDNAチェックポイントタンパク質の阻害剤からなる群から選択される)の量を指す。患者に投与されるガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)、およびDNA損傷または修復阻害剤の正確な量は、投与様式、卵巣がんの種類および重症度ならびに全体的な健康、年齢、性別、体重および薬物耐性などの患者の特徴に依存する。当業者は、これらおよび他の要因に応じて適切な投薬量を決定することができる。適切な投薬量は、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)、DNA損傷または修復阻害剤について公知であり、上記の要因に応じて当業者によって調整することができる。
【0049】
開示された方法において、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)は、米国特許第7,825,148号に記載されているように任意の適切な医薬製剤の任意の適切なルートによって投与される。一実施形態では、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)は、末梢静脈アクセスを介して静脈内注射で投与される。一実施形態では、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)は15分~3時間の時間にわたって投与される。あるいは、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)は、30分~2時間の時間にわたって投与される。あるいは、ガネテスピブ(またはその薬学的に許容される塩)は1時間にわたって投与される。好ましくは、DNA損傷または修復阻害剤はまた、注射によっても投与される。
【0050】
本発明は、本発明の非限定的な実施形態を例示することを意図する、以下の例示的な実施例を参照することによって、より完全に理解することができる。
【実施例0051】
(実施例1)
DNAを、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍組織から抽出し、ヒトゲノムにわたって分布している一ヌクレオチド多型部位用のプローブ、ならびにBRCA1およびBRCA2を含むDNA修復に関与する遺伝子をターゲティングするプローブを保有するカスタムAgilent SureSelect捕捉パネルとハイブリダイズするライブラリーを作製するために使用する。捕捉および濃縮したDNAを、Illumina
HiSeq 2500シークエンサーにより配列決定する。SNP位置をカバーする配列を使用してアレル不均衡プロファイルを生成する。HRDスコア(0~100の整数値)の決定を含む、ゲノム不安定性の尺度を、アレル不均衡プロファイルおよびASCNによるヘテロ接合性の消失の決定を使用して算出する。
【0052】
ゲノムDNA(gDNA)を、SureSelect XT捕捉法のために使用する。簡潔に述べると、gDNAを、ピークサイズが150から200の間のヌクレオチドにな
るようにCovaris E220で剪断する。SureSelectビオチン化RNAライブラリーベイト(library bait)を用いた摂氏65度での一晩のハイブリダイゼー
ションの前にアダプターライゲーションライブラリー(adapter-ligated library)の増幅を行う。個々のアダプターライゲーションライブラリーとRNAライブラリーベイトとの間のハイブリダイゼーション後、プールしたバーコード化した試料をIllumina
HiSeq2500シークエンサー(Illumina、San Diego、CA)に流すことができるようにインデックスタグを増幅によって加える。
【0053】
個々のライブラリーを、所望のシークエンシングカバレッジおよびシークエンシングランの種類、例えば、Rapid RunモードおよびHigh Outputモードに応じてプールする。通常、6つの個々の試料を、Rapid Runモードを行ったシークエンシングランのために一緒にプールし、12個の試料を、High Outputモードを行ったシークエンシングランのために一緒にプールする。個々の試料ライブラリーを、各々のインデックスタグを付けた試料が、プール中に等モル量で存在するように組み合わせる。ほとんどの目的のために、プールを、各々のライブラリーが10nMの最終濃度になるように作製する。ここから、標準的なIllumina Sequencingプロトコールに従って、RapidおよびHigh Outputフローセルにロードするためにプールしたライブラリーを変性し、7pMに希釈する。
【0054】
BRCA1およびBRCA2変異スクリーニング
HiSeq2500で生成した配列リードを、偽バリアントコールを生成する可能性がある低品質の塩基を除去するために開始および終了の両方でトリムする。配列トリミングは概ねBWAプログラムのトリミングアルゴリズム(BurrowsおよびWheeler、1994年;LiおよびDurbin、2009年)に従って実施する。より詳細については、http://solexaqa.sourceforge.net/を参照のこと。Phred値20を配列の開始時のトリミングのための閾値として使用し、30を終了時のトリミングのための閾値として使用する。これらの閾値は実験により導き出す。配列品質はリードの終わりに向かって低下することが予想されるので、本発明者らは配列の終了における、より高い閾値を使用する。
【0055】
各リードに関して、Burrow Wheeler Transformアルゴリズム(BurrowsおよびWheeler、1994年)のインハウス実装を実行し、これは各リードについての一致エクソンを決定するために本発明者らのデータベース内の全てのエクソンの検索を実施する。
【0056】
バリアントをコールするために、各リードをエクソンの予想される野性型配列と並べる。このアラインメントはJAligner(http://jaligner.sourceforge.net/)によって実施されるペアワイズアラインメントである。あらゆる相違はバリアントを表す。全ての特定されたバリアントの頻度を算出するために試料についての全てのリードからのバリアントコールをコンパイルする。
【0057】
大きな再配列検出
大きな再編成検出に関して、各塩基に逆マッピングされたリード回数Nを、全ての遺伝子およびSNP位置にわたって逆マッピングされたリードの総数を使用して正規化する(Nnorm)。試料の大きなセットにおける正規化リードカウント中央値Nmedを各塩基について決定する。Ncent=Nnorm/Nmedと定義される、中心化した正規化リードカウントを、1つまたは複数のエクソンを包含する大きな再配列を検出するために検査する。BRCA1およびBRCA2の両方のエクソン11(最大のエクソン)についての中心化した正規化リードカウントのCVを決定する。CVが0.09未満である場合、全ての検出した再配列をコールする。CVが0.9~0.12の間である場合、2つまたはそれよりも多いエクソンを包含する唯一の再配列をコールする。値が0.12を超
える場合、試料は、コールできないとして拒否される。
【0058】
SNP分析
配列リードをマッピングするためのSNP配列データベースを、SNP位置周囲の400bpフランクを有するSNPの全ゲノム(バージョン19)配列から切断することによって作製する。組み合わせた配列をBWT検索のためにインデックスを付け、配列の各100塩基セグメントについて3またはそれ未満のミスマッチを有するコピー数をカウントすることによって反復性を確認する。ゲノム内の複数発生するSNPプローブを分析から除外する。
【0059】
SNP配列データベースへの配列リードのマッピングを、BWTアルゴリズムを実装する専用プログラムによって実施する。各配列リードは、それが7またはそれ未満のミスマッチを有するデータベース配列と一致する場合、マッピングされたとみなす。
【0060】
SNP位置と重複する配列リードを使用してSNPアレルをカウントする。同じクローンのフォワードおよびリバースの両方のリードがSNP位置と重複し、同じアレルを生成する場合、唯一のカウントをこのクローンに適用する。フォワードおよびリバースのリードが異なるアレルを生成したクローンはシークエンシングエラーとみなし、カウントしない。SNP位置と重複しないフォワードおよびリバースの両方のリードを有するクローンは、SNP位置と重複するリードを有するクローンとは別にカウントする。
【0061】
得られたリードカウントを、Abkevichら、2012年に記載されているアルゴリズムを使用して各SNP位置においてアレル特異的コピー数(ASCN)を再構築するために使用する。
【0062】
ASCN再構築の品質
ASCN再構築の品質を評価するために、品質測定法であるKS品質を導入する。具体的には、各試料について、全てのSNPを2つの2つの群に分け、第1の群はアレル不均衡を有する全てのSNPを含み、第2の群は2つの親アレルの等しいコピー数を有する全てのSNPを含む。各SNPにおけるアレル量dは以下のように変換される:d<0.5である場合、dtr=dであり、その他の場合、dtr=1-dである。KS品質は以下のように定義される
KS品質=sqrt(N/(N+N))max|F(dtr)-F(dtr)|
式中、NおよびNは2つの群におけるSNPの数であり、F(dtr)およびF(dtr)は2つの群における変換されたアレル量の経験分布であり、最大は0から0.5の間の変換された量の値を取る。本質的に、KS品質は均衡および不均衡アレルを有するSNPの間の変換された量がどれだけ異なる分布であるかを測定する方法である。KS品質の特定の定義はKolmogorov-Smirnov統計に基づく。高品質ASCN再構築は高いKS品質を生じると予想される。約100個の試料の目視検査により、KS品質についてのカットオフ値12.7が確立されている。このカットオフ未満のKS品質を有するASCN再構築(reconstrauction)は失敗とみなされる。失敗について2つ
の主な理由が存在する:(1)配列データにおける高いノイズレベルおよび(2)試料中の低い腫瘍含有量。
【0063】
HRD-LOH、HRD-TAIおよびHRD-LSTスコアの算出
HRD-LOHスコアは、15Mbより長いが、染色体全体よりも短いLOH領域の数と定義される(Abkevichら、2012年)。HRD-LOHスコアは609個の卵巣腫瘍におけるBRCA1、BRCA2およびRAD51C欠損に関連することが示されている(Abkevichら、2012年)。
【0064】
HRD-TAIスコアは、サブテロメアの1つにまで及ぶが、動原体を超えないアレル不均衡を有する領域の数と定義される(Birkbakら、2012年)。領域は、それがある
特定の最小数のSNP(平均で約1.8Mb)を包含する場合のみカウントする。本発明者らは、609個の卵巣腫瘍の3つのデータセットにおけるBRCA1、BRCA2およびRAD51C欠損とのHRD-TAIスコアの関連について試験し(データは示さず)、HRD-TAI領域のサイズについてのカットオフが11Mbに増加した場合、より顕著になる関連性を見出した。したがって、改変されたHRD-TAImスコアは、(a)サブテロメアの1つにまで及ぶ、(b)動原体を超えない、かつ(c)11Mbより長い、アレル不均衡を有する領域の数と定義される。
【0065】
HRD-LSTスコアは、3Mbより短い領域をフィルターにかけて除去した後の10Mbより長い領域の間の切断点の数である(Popovaら、2012年)。HRD-LSTスコアについての異なるカットオフを、BRCA1/2無傷および欠損試料を分離するために「近二倍体(near-diploid)」および「近四倍体(near-tetraploid)」腫瘍について
導入する。本発明者らは、609個の卵巣腫瘍の3つのデータセットにおけるBRCA1、BRCA2およびRAD51C欠損とのHRD-LSTスコアの関連性について試験した(データは示さず)。本発明者らはまた、HRD-LSTスコアは無傷および欠損試料内の両方で倍数性と共に増加することを観察した。倍数性特異的カットオフを使用する代わりに、HRD-LSTスコアを、それを倍数性によって調整することによって修正する:
LSTm=LST-kP
式中、Pは倍数性であり、kは定数である。欠損を結果として、ならびにHRD-LSTおよびPを予測因子として用いた多変量ロジスティック回帰分析に基づいて、無傷と欠損試料との間の最適な分離がk=15.5で提供された。
【0066】
統計分析
全ての分析を、Rバージョン3.0.2(R Core Team、2013年)を使用して行
う。全ての報告したp値は両側である。この研究において利用される統計手段には、Spearmanの順位相関係数、Kruskal-Wallis一元配置分散分析、およびロジスティック回帰が含まれる。
【0067】
ロジスティック回帰モデリングに関して、HRDスコアおよび診断時の年齢が数値変数としてコードされる。乳がんステージおよびサブタイプはカテゴリー変数としてコードされる。等級は数値およびカテゴリー変数の両方として分析されるが、特に断りのない限り、カテゴリーである。
【0068】
無変量ロジスティック回帰モデルについて報告されたp値は部分尤度比に基づく。多変量p値は、縮小モデル(評価される予測因子を除いた全ての予測因子、および評価される予測因子に関与する任意の相互作用項を含む)に対する完全モデル(全ての関連予測因子を含む)からの逸脱の変化についての部分尤度比に基づく。RDスコアについてのオッズ比を四分位範囲ごとに報告する。