(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054340
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】癌の治療に用いるための細胞傷害誘導治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240409BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240409BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240409BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240409BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20240409BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240409BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240409BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240409BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240409BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240409BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K39/395 T ZNA
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/337
A61K31/7068
A61K33/24
A61P35/00
A61P37/04
C07K16/30
C12N15/13
C07K16/46
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020823
(22)【出願日】2024-02-15
(62)【分割の表示】P 2022089392の分割
【原出願日】2017-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2016050095
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】木下 恭子
(72)【発明者】
【氏名】川合 由美子
(72)【発明者】
【氏名】恒成 利明
(72)【発明者】
【氏名】石黒 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 美香
(72)【発明者】
【氏名】佐野 祐治
(57)【要約】
【課題】産生効率の高い分子型である多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む、癌の治療に用いるための細胞障害誘導治療剤の提供。
【解決手段】グリピカン3に結合する抗体可変領域を含むドメインと、T細胞受容体複合体に結合する抗体可変領域を含むドメインに、両抗原に対する親和性を向上させることが可能な共通L鎖を含む、高い産生効率を有し、かつ強い抗腫瘍活性及び安全性と優れた薬物動態を持つ二重特異性抗体を有効成分とする抗癌剤、及び、シスプラチン、パクリタキセル等の他の抗癌剤と併用した医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む、以下の (1)~(5) のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含有し、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、ゲムシタビン、シタラビン、テガフール、テガフール・ウラシル、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、およびネダプラチンから選択される一以上の化学療法剤と併用するための医薬組成物:
(1) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(2) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(3) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(4) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(5) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体。
【請求項2】
以下のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含む、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、ゲムシタビン、シタラビン、テガフール、テガフール・ウラシル、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、およびネダプラチンから選択される一以上の化学療法剤と併用するための医薬組成物:
(1) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号211に記載のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号142に記載のアミノ酸配列であり、及び、共通L鎖の可変領域が配列番号223に記載のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(2) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号211に記載のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号144に記載のアミノ酸配列であり、及び、共通L鎖の可変領域が配列番号223に記載のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(3) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号206に記載のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号144に記載のアミノ酸配列であり、及び、共通L鎖の可変領域が配列番号223に記載のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(4) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号206に記載のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号142に記載のアミノ酸配列であり、及び、共通L鎖の可変領域が配列番号223に記載のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(5) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号206に記載のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖の可変領域が配列番号168に記載のアミノ酸配列であり、及び、共通L鎖の可変領域が配列番号223に記載のアミノ酸配列である、二重特異性抗体。
【請求項3】
以下のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含む、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、ゲムシタビン、シタラビン、テガフール、テガフール・ウラシル、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、およびネダプラチンから選択される一以上の化学療法剤と併用するための医薬組成物:
(1) グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号386に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号398に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(2) グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号386に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号399に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(3) グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号399に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(4) グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号398に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(5) グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号402に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
【請求項4】
前記CD3がCD3εである、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記化学療法剤がカペシタビンである、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記化学療法剤がパクリタキセルである、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記化学療法剤がシスプラチンである、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記二重特異性抗体がFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメインを含む、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記「Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域」が、対照とする抗原結合分子に比較して50%以下の結合活性であるFc領域である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記「Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域」が、EUナンバリングに従って特定される220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位のいずれかのアミノ酸残基が置換されているFc領域である、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多重特異性抗原結合分子およびその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用が少ないことから医薬品として注目されている(非特許文献1および非特許文献2)。抗体は、抗原に結合する作用、アゴニスト作用やアンタゴニスト作用だけでなく、ADCC(Antibody Dependent Cytotoxicity:抗体依存性傷害活性), ADCP(Antibody Dependent Cell Phagocytosis:抗体依存性細胞食作用), CDC(Complement-Dependent Cytotoxicity: 補体依存性細胞傷害活性)といったエフェクター細胞による細胞傷害活性(エフェクター機能とも言う)を誘導し、癌細胞に対する抗腫瘍効果を発揮することが知られている(非特許文献3)。抗体のFc領域がNK細胞やマクロファージなどのエフェクター細胞上に存在するFcレセプターに結合することにより、抗体が結合した標的の癌細胞に対してこれらのエフェクター細胞が発揮する細胞傷害がADCCである。抗体の構造中に存在する補体結合部位には補体複合体が結合する。抗体が結合した細胞の細胞膜上に当該複合体中に存在する補体成分が孔を形成することにより、水やイオンの細胞内への流入が促進され細胞が破壊されることによる細胞傷害がCDCである。これまでに優れた抗腫瘍効果を示す複数の治療用抗体が、癌治療を目的とする医薬品として開発されており(非特許文献4)、既存の治療用抗体には優れた作用が認められるものの、こうした抗体の投与によって得られる治療成績はまだ満足できるものではない。
【0003】
抗体がADCC, ADCP, CDCを発現するためには、抗体のFc領域と、NK細胞やマクロファージ等のエフェクター細胞に存在する抗体レセプター(FcγR)および各種補体成分が結合することが必須である。ヒトでは、FcγRのタンパク質ファミリーとして、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIbのアイソフォームが報告されており、それぞれのアロタイプも報告されている(非特許文献5)。これらのアイソフォームのうち、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIIaは細胞内ドメインにITAM (Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motif) と呼ばれるドメインを持ち、活性化シグナルを伝達する。一方で、FcγRIIbのみが細胞内ドメインにITIM (Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motif) と呼ばれるドメインを持ち、抑制シグナルを伝達する。いずれのFcγRも、免疫複合体などによってクロスリンクされることで、シグナルを伝達することが知られている(非特許文献6)。実際に、抗体ががん細胞にエフェクター機能を発揮するときは、がん細胞膜上に複数個結合している抗体のFc領域でエフェクター細胞膜上のFcγRがクラスターとなり、エフェクター細胞で活性化シグナルが伝達される。その結果、殺細胞効果が発揮されるが、このときFcγRのクロスリンクはがん細胞近傍に存在するエフェクター細胞に限られることから、免疫の活性化はがん細胞局所でのみ起こることが示されている。(非特許文献7)
【0004】
天然型の免疫グロブリンは、可変領域で抗原と結合し、定常領域でFcγR、FcRn、FcαR、FcεRといったレセプターや補体と結合する。IgGのFc領域で相互作用する結合分子のひとつであるFcRnは、抗体の重鎖それぞれに1分子ずつ結合するため、IgG型の抗体1分子に対して2分子のFcRnが結合することが報告されている。しかし、FcRn等とは異なり、FcγRは抗体のヒンジ領域およびCH2ドメインで相互作用し、IgG型の抗体1分子に対して1分子のみ結合する(非特許文献8)。また、通常の天然型のIgG型の抗体は、その可変領域(Fab)により1つエピトープを認識して結合することから、1つの抗原にしか結合することが出来ない。一方で、がんや炎症においては多種類のタンパク質が関与することが知られており、タンパク質同士がクロストークしていることがある。たとえば免疫疾患では、いくつかの炎症性サイトカイン(TNF, IL1やIL6)が関与していることが知られている(非特許文献9)。またがんにおいて薬剤耐性を獲得するメカニズムのひとつとして、他のレセプターが活性化することが知られている(非特許文献10)。このような場合、1つのエピトープを認識する通常の抗体では、複数のタンパク質を阻害することが出来ない。
【0005】
複数のターゲットを阻害する分子として、1分子で2種類以上の抗原と結合する抗体(Bispecific抗体、二重特異性抗体)が研究されている。天然型のIgG型の抗体を改良することにより、異なる2つの抗原(第1の抗原と第2の抗原)への結合活性を付与することが可能である(非特許文献11)。そのため、2種類以上の抗原を1つの分子で中和する作用だけでなく、細胞傷害活性をもつ細胞とがん細胞をクロスリンクすることで抗腫瘍活性を高める作用がある。これまでにBispecific抗体の分子形として、抗体のN末端やC末端に抗原結合部位を付加した分子(DVD-IgやscFv-IgG)や抗体の2つのFab領域が異なる配列を有する分子(共通L鎖Bispecific抗体およびハイブリッドハイブリドーマ)、ひとつのFab領域が2つの抗原を認識する分子(Two-in-one IgG)、CH3領域のループ部位を新たな抗原結合部位とした分子(Fcab)が報告されている(非特許文献12および非特許文献13)。いずれのBispecific抗体もFc領域でFcγRと相互作用することから、抗体のエフェクター機能は保存されている。したがって、Bispecific抗体が認識するいずれの抗原に対しても、FcγRと同時に結合し、抗原を発現している細胞に対してADCC活性を示す。
【0006】
Bispecific抗体が認識する抗原がいずれもがんに特異的に発現している抗原であれば、いずれの抗原に結合してもがん細胞に対して細胞傷害活性を示すため、一つの抗原を認識する通常の抗体医薬品よりも効率的な抗腫瘍効果が期待できる。しかし、Bispecific抗体が認識する抗原のうちいずれか一つの抗原でも正常組織に発現している場合や免疫細胞に発現する細胞である場合、FcγRとのクロスリンクによって正常組織の傷害やサイトカインの放出が起こる(非特許文献14)。その結果、強い副作用を誘導してしまう。
【0007】
Bispecific抗体の一つとして、T細胞をエフェクター細胞として動員する細胞傷害をその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体であるT細胞リダイレクティング抗体(T cell-redirecting抗体)が1980年代から知られている(非特許文献15、16、17)。NK細胞やマクロファージをエフェクター細胞として動員するADCCをその抗腫瘍効果のメカニズムとする抗体とは異なり、T細胞リダイレクティング抗体は、T細胞上のT細胞レセプター(TCR)複合体の構成サブユニットのいずれかに対する抗体、特にCD3 epsilon鎖に結合する抗体と、標的である癌細胞上の抗原に結合する抗体を含むbi-specific抗体である。T細胞リダイレクティング抗体がCD3 epsilon鎖と癌抗原に同時に結合することにより、T細胞が癌細胞に接近する。その結果、T細胞の持つ細胞傷害作用により癌細胞に対する抗腫瘍効果が発揮されると考えられている。
【0008】
T細胞リダイレクティング抗体の一つとして知られているCatumaxomabは、2つのFabでそれぞれ癌抗原(EpCAM)とT細胞に発現しているCD3ε鎖に結合する。Catumaxomabは癌抗原とCD3εが同時に結合することによって、T細胞による細胞傷害活性を誘導し、がん抗原とFcγRが同時に結合することによってNK細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞による細胞傷害活性を誘導する。2つの細胞傷害活性を利用することによりCatumaxomabは腹腔内投与によって悪性腹水症で高い治療効果が示されており、欧州で承認されている(非特許文献18)。さらにCatumaxomab投与によって癌細胞に対して反応する抗体が出現した例が報告され、獲得免疫が誘導されることが明らかになった(非特許文献19)。この結果からT細胞による細胞傷害活性と共に、FcγRを介したNK細胞やマクロファージなどの細胞による作用の両者を持つ抗体(特にtrifunctional抗体と呼ぶ)は強い抗腫瘍効果と獲得免疫誘導が期待できるため注目されている。
【0009】
しかし、trifunctional抗体はがん抗原が存在しない場合でも、CD3εとFcγRが同時に結合するため、がん細胞が存在しない環境でもCD3εを発現しているT細胞とFcγRを発現している細胞がクロスリンクされ、各種サイトカインが大量に産生される。このようながん抗原非依存的な各種サイトカインの産生誘導により、trifunctional抗体の投与は現状、腹腔内に限定されており(非特許文献20)、重篤なサイトカインストーム様の副作用により全身投与は極めて困難である。実際、非小細胞肺癌患者に対するcatumaxomabの全身投与による第一相臨床試験においては、5μg/bodyという極めて低い用量が最大許容投与量であり、それ以上の用量の投与により様々な重篤な副作用が起こることが報告されている(非特許文献21)。
このように、従来技術のBispecific抗体では、一つ目の抗原であるがん抗原(EpCAM)と二つ目の抗原であるCD3εの両方の抗原がFcγRと同時に結合し得るため、FcγRと2つ目の抗原のCD3εの同時結合によるこのような副作用を回避することは分子構造的に不可能である。
【0010】
一方、BiTE(bispecific T-cell engager)はcatumaxomabとは異なりFcγ受容体に対する結合部位を持たないため、癌抗原非依存的にT細胞とNK細胞やマクロファージなどに発現する受容体が架橋されることはない。そのため、catumaxomabが投与された場合に観察された癌抗原非依存的なサイトカインの誘導は起こらないことが示されている。しかしながら、BiTEはFc領域を欠く低分子量型の改変抗体分子であるために、治療用抗体として通常用いられるIgG型の抗体に比較して、患者に投与されたBiTEの血中半減期は著しく短いという問題点が存在する。実際、生体に投与されたBiTEの血中半減期は数時間程度であることが示されており(非特許文献22,23)、blinatumomabの臨床試験においてはミニポンプを用いた持続静脈内投与によりblinatumomabの投与が行なわれている。こうした投与は患者にとって著しく利便性の悪い投与法であるばかりでなく、機器の故障などによる医療事故のリスクも潜在し、望ましい治療法であるとはいえない。
【0011】
近年、FcγRに対する結合活性を低減させたFc領域を用いることで、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たなポリペプチド会合体が提供されている(特許文献1)。
一方、従来技術の二重特異性抗体を発現させる場合、2種類のH鎖と2種類のL鎖を発現させるため、その組合せとしては10種類の組合せが考えられる。そのうち目的の結合特異性を有する組合せは1種類である。そのため、目的の二重特異性抗体を取得するためには、10種類の抗体から1種類の目的の抗体を精製する必要があり、極めて効率が悪く、また困難である。
この問題を解決する方法として、IgGのH鎖のCH3領域にアミノ酸置換を施すことにより、異種のH鎖の組合せ、例えば、抗原Aに対するH鎖と抗原Bに対するH鎖を優先的に分泌させる方法が報告されている(特許文献2、3、4、5、6、7及び非特許文献24、25)。これらには、"knob;突起"と"hole;空隙"という物理的な障害を利用した方法や、電荷的な反発を利用した方法が報告されている。
さらに効率よく目的分子を得るために、アミノ酸配列が同一であるにもかかわらず、2つの異なる抗原に結合することが可能なL鎖を用いる方法が報告されている(特許文献8、9)。しかしながら、共通L鎖を用いることによって、抗原に対するaffinityが大きく低下する可能性があり、抗原へのaffinityが維持された共通L鎖を見出すことは困難である。
【0012】
BiTEはBlinatumomabが急性リンパ芽球性白血病(ALL)で承認されており、さらに非ホジキンリンパ腫(NHL), 慢性リンパ球性白血病(CLL)などの血液癌を対象とした臨床試験も行われている。同じくCD33に対するBiTEであるAMG330も急性骨髄性白血病(AML)を対象とした臨床試験を開始している。固形癌を対象としたBiTEの開発も進んでいる。CEAに対するBiTEであるAMG211, EpCAMに対するBiTEであるAMG110, PSMAに対するBiTEであるAMG212などの臨床試験が進行中である。しかしながら、固形癌に対するBiTEの反応性は現時点では証明されていない(非特許文献26)。
【0013】
近年、CTLA-4, PD-1, PD-L1などのimmune checkpoint分子を標的とする阻害剤を代表とする免疫治療薬の薬効が臨床で証明されている。しかしながら、これらの薬剤が全ての患者に対して有効というわけではなく更なる薬効の増強が求められている。免疫療法同士の併用に関しては、メラノーマにおいてNivlolumab, Ipilimumabの併用がipilimumab単剤と比較して薬効の増強が認められている(非特許文献27)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2012/073985
【特許文献2】WO96/27011
【特許文献3】WO2006/106905
【特許文献4】WO2007/147901
【特許文献5】WO2009/089004
【特許文献6】WO2010/129304
【特許文献7】WO2013/065708
【特許文献8】WO98/050431
【特許文献9】WO2006/109592
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073-1078
【非特許文献2】Eur J Pharm Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396
【非特許文献3】Drug Des Devel Ther (2009) 3, 7-16
【非特許文献4】Clin Cancer Res. (2010) 16 (1), 11-20
【非特許文献5】Immunol. Lett. (2002) 82, 57-65
【非特許文献6】Nat. Rev. Immunol. (2008) 8, 34-47
【非特許文献7】Ann. Rev. Immunol. (1988). 6. 251-81
【非特許文献8】J. Bio. Chem., (20001) 276, 16469-16477
【非特許文献9】Nat. Biotech., (2011) 28, 502-10
【非特許文献10】Endocr Relat Cancer (2006) 13, 45-51
【非特許文献11】MAbs. (2012) Mar 1, 4(2)
【非特許文献12】Nat. Rev. (2010) 10, 301-316
【非特許文献13】Peds (2010), 23(4), 289-297
【非特許文献14】J. Immunol. (1999) Aug 1, 163(3), 1246-52
【非特許文献15】Nature (1985) 314 (6012), 628-31
【非特許文献16】Int J Cancer (1988) 41 (4), 609-15.
【非特許文献17】Proc Natl Acad Sci USA (1986) 83 (5), 1453-7
【非特許文献18】Cancer Treat Rev. (2010) Oct 36(6), 458-67
【非特許文献19】Future Oncol. (2012) Jan 8(1), 73-85
【非特許文献20】Cancer Immunol Immunother. (2007) 56(9), 1397-406
【非特許文献21】Cancer Immunol Immunother. (2007) 56 (10), 1637-44
【非特許文献22】Cancer Immunol Immunother. (2006) 55(5), 503-14
【非特許文献23】Cancer Immunol Immunother. (2009) 58(1), 95-109
【非特許文献24】Protein Engineering. (1996) vol.9, p.617-621
【非特許文献25】Nature Biotechnology. (1998) vol.16, p.677-681
【非特許文献26】Immunological Reviews. (2016) vol.270, p.193-208
【非特許文献27】N Eng J Med (2015) vol.373, p.23-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記の情況に鑑みてなされたものであり、T細胞を標的癌細胞に近接せしめT細胞によるグリピカン3発現細胞を含む標的癌組織に対する細胞傷害活性を通じて癌を治療することが可能であり、かつ、産生効率の高い分子型である多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む抗がん剤を提供することを目的とする。また本発明は、前記多重特異性抗原結合分子と他の薬剤とを用いた併用療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、グリピカン3に結合する抗体可変領域を含むドメインと、T細胞受容体複合体に結合する抗体可変領域を含むドメインに、両抗原に対する親和性を向上させることが可能な共通L鎖を見出し、これにより産生効率の高い分子型としつつ、更に、BiTE等のT細胞リダイレクティング抗体が持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たな多重特異性抗原結合分子を見出した。さらに、共通L鎖を有する多重特異性抗原結合分子がグリピカン3発現癌細胞を標的として細胞傷害をもたらすことを見出した。本発明者らは、かかる発見に基づいて、本発明に係る多重特異性抗原結合分子がグリピカン3発現癌細胞を含む癌組織を傷害することを明らかにした。本発明者らは該多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む抗癌剤、該多重特異性抗原結合分子と他の抗癌剤を併用することで癌を治療又は予防する方法、併用療法に用いるための、多重特異性抗原結合分子、抗癌剤、または多重特異性抗体と抗癌剤を組み合わせてなる医薬組成物を見出した。
【0018】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
〔1〕 グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
〔2〕 グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号402に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤。
〔3〕 前記癌が、グリピカン3陽性の癌である、〔1〕又は〔2〕に記載の抗癌剤。
〔4〕 前記グリピカン3陽性の癌が、1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数が100以上の癌である、〔3〕に記載の抗癌剤。
〔5〕 前記癌が、胃癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸癌、腎臓癌、皮膚癌、筋腫瘍、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱癌、甲状腺癌、神経鞘腫、副腎癌、肛門癌、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎癌、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰癌、胸腺腫、及び小児癌からなる群より選ばれるいずれかの癌である、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔6〕 免疫チェックポイント阻害剤による処置に対して不応性の癌を有する患者を治療するための、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔7〕 グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効性成分として含む、他の抗癌剤と併用するための医薬組成物。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
〔8〕 グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号402に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体を有効成分として含む、他の抗癌剤と併用するための医薬組成物。
〔9〕 前記二重特異性抗体が、前記他の抗癌剤と同時に投与されることを特徴とする、〔7〕又は〔8〕に記載の医薬組成物。
〔10〕 前記二重特異性抗体が、前記他の抗癌剤の投与前または投与後に投与されることを特徴とする、〔7〕又は〔8〕に記載の医薬組成物。
〔11〕 前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、〔7〕から〔10〕のいずれかに記載の医薬組成物。
〔12〕 前記化学療法剤が、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、又はプラチナ製剤である〔11〕に記載の医薬組成物。
〔13〕 前記T細胞活性化アゴニスト剤が、TNFRSFのアゴニスト抗体である〔11〕に記載の医薬組成物。
〔14〕 前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD1抗体、PDL1抗体、TIM3抗体又はLAG3抗体である〔11〕に記載の医薬組成物。
〔15〕 前記血管新生阻害剤が、VEGFR2抗体である〔11〕に記載の医薬組成物。
〔16〕 〔7〕から〔15〕のいずれかに記載の医薬組成物を含む、細胞傷害誘導剤、細胞増殖抑制剤、細胞増殖阻害剤、免疫応答活性化剤、癌治療剤または癌予防剤。
〔17〕CDR1、CDR2及びCDR3が、Kabatナンバリングに基づくCDR1、CDR2及びCDR3領域である、〔1〕に記載の抗癌剤。
【0019】
さらに、以下の発明も提供される。
〔2-1〕下記のドメイン;
(1)グリピカン3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、
(2)T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、及び、
(3)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、
を含み、(1)の可変領域と(2)の可変領域に含まれるL鎖可変領域が共通のアミノ酸配列である多重特異性抗原結合分子であって、細胞傷害活性が、グリピカン3結合ドメインが配列番号47及び48からなり、T細胞受容体複合体結合ドメインが配列番号49および50からなる二重特異性抗体(GPC3_ERY22_rCE115)と比較して、同等又はそれ以上である、多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む、抗癌剤。
〔2-2〕細胞傷害活性がT細胞依存的細胞傷害活性である、〔2-1〕に記載の抗癌剤。
〔2-3〕T細胞受容体複合体結合活性がT細胞受容体に対する結合活性である、〔2-1〕又は〔2-2〕に記載の抗癌剤。
〔2-4〕T細胞受容体複合体結合活性がCD3ε鎖に対する結合活性である、〔2-1〕から〔2-3〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔2-5〕〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域が、下記(a1)~(a5)から選ばれるいずれかのH鎖CDR1、CDR2及びCDR3の組合せを含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(a1) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:40に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(a2) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:197に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(a3) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(a4) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(a5) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
〔2-6〕〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域が、下記(b1)~(b15)から選ばれるいずれかのH鎖CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列の組合せを含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(b1) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:52に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b2) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b3) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:122に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b4) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:128に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b5) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:129に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b6) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:132に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b7) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b8) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b9) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:164に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b10) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b11) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:421に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b12) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:424に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b13) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:426に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b14) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:429に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(b15) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:430に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
〔2-7〕〔2-1〕の(1)及び(2)に記載の抗体可変領域が、下記(c1)~(c19)から選ばれるいずれかのH鎖 CDR1、CDR2及びCDR3の組合せを含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(c1) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:40に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:52に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c2) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:40に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:421に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c3) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:40に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:426に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c4) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:40に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:429に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c5) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:40に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:430に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c6) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:197に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:128に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c7) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c8) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c9) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:164に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c10) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c11) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c12) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c13) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:164に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c14) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c15) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c16) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:122に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c17) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:129に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c18) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:132に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(c19) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:424に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
〔2-8〕CDR1、CDR2及びCDR3が、Kabatナンバリングに基づくCDR1、CDR2及びCDR3領域である、〔2-5〕から〔2-7〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔2-9〕〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域が、下記(a1)~(a5)から選ばれるいずれかのH鎖可変領域を含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(a1) H鎖可変領域が、配列番号:40に記載のアミノ酸配列である
(a2) H鎖可変領域が、配列番号:197に記載のアミノ酸配列である
(a3) H鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列である
(a4) H鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列である
(a5) H鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列である
〔2-10〕〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域が、下記(b1)~(b15)から選ばれるいずれかのH鎖可変領域を含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(b1) H鎖可変領域が、配列番号:52に記載のアミノ酸配列である
(b2) H鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列である
(b3) H鎖可変領域が、配列番号:122に記載のアミノ酸配列である
(b4) H鎖可変領域が、配列番号:128に記載のアミノ酸配列である
(b5) H鎖可変領域が、配列番号:129に記載のアミノ酸配列である
(b6) H鎖可変領域が、配列番号:132に記載のアミノ酸配列である
(b7) H鎖可変領域が、配列番号:142に記載のアミノ酸配列である
(b8) H鎖可変領域が、配列番号:144に記載のアミノ酸配列である
(b9) H鎖可変領域が、配列番号:164に記載のアミノ酸配列である
(b10) H鎖可変領域が、配列番号:168に記載のアミノ酸配列である
(b11) H鎖可変領域が、配列番号:421に記載のアミノ酸配列である
(b12) H鎖可変領域が、配列番号:424に記載のアミノ酸配列である
(b13) H鎖可変領域が、配列番号:426に記載のアミノ酸配列である
(b14) H鎖可変領域が、配列番号:429に記載のアミノ酸配列である
(b15) H鎖可変領域が、配列番号:430に記載のアミノ酸配列である
〔2-11〕〔2-1〕の(1)及び(2)に記載の抗体可変領域が、下記(c1)~(c19)から選らばれるいずれかのH鎖可変領域の組合せを含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(c1) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:40に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:52に記載のアミノ酸配列である、
(c2) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:40に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:421に記載のアミノ酸配列である、
(c3) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:40に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:426に記載のアミノ酸配列である、
(c4) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:40に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:429に記載のアミノ酸配列である、
(c5) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:40に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:430に記載のアミノ酸配列である、
(c6) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:197に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:128に記載のアミノ酸配列である、
(c7) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:142に記載のアミノ酸配列である、
(c8) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:144に記載のアミノ酸配列である、
(c9) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:164に記載のアミノ酸配列である、
(c10) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:168に記載のアミノ酸配列である、
(c11) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:142に記載のアミノ酸配列である、
(c12) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:144に記載のアミノ酸配列である、
(c13) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:164に記載のアミノ酸配列である、
(c14) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:168に記載のアミノ酸配列である、
(c15) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列である、
(c16) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:122に記載のアミノ酸配列である、
(c17) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:129に記載のアミノ酸配列である、
(c18) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:132に記載のアミノ酸配列である、
(c19) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:424に記載のアミノ酸配列である
〔2-12〕〔2-1〕に記載の共通L鎖が、下記(d1)~(d11)から選ばれるいずれかのCDR1、CDR2及びCDR3の組合せを含む共通L鎖、又は、これと機能的に同等の共通L鎖である、〔2-1〕から〔2-11〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(d1) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d2) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d3) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:299に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d4) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:301に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d5) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:302に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d6) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:304に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d7) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:306に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d8) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:307に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d9) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:309に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d10) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:310に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
(d11) CDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:319に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
〔2-13〕〔2-1〕に記載のL鎖可変領域が、下記(d1)~(d11)から選ばれるいずれかのL鎖アミノ酸配列の可変領域である、〔2-1〕から〔2-11〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(d1) 配列番号:53に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d2) 配列番号:223に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d3) 配列番号:299に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d4) 配列番号:301に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d5) 配列番号:302に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d6) 配列番号:304に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d7) 配列番号:306に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d8) 配列番号:307に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d9) 配列番号:309に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d10) 配列番号:310に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
(d11) 配列番号:319に記載のアミノ酸配列からなるL鎖
〔2-14〕〔2-1〕の(1)及び(2)に記載の抗体可変領域、並びに、共通L鎖可変領域が、下記(e1)~(e25)から選ばれるいずれかのH鎖 CDR1、CDR2及びCDR3、並びに、L鎖CDR1、CDR2及びCDR3の組合せを含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(e1) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:197に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:128に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e2) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:197に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:128に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:299に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e3) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:197に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:128に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:310に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e4) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:197に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:128に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:319に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e5) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e6) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e7) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:164に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e8) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e9) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e10) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:299に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e11) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e12) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:164に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e13) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e14) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e15) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:299に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e16) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:301に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e17) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:302に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e18) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:304に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e19) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:306に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e20) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:307に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e21) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:103に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:309に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e22) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:122に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e23) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:129に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e24) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:132に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である、
(e25) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:215に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:424に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3が、配列番号:53に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と同一である
〔2-15〕〔2-1〕の(1)及び(2)に記載の抗体可変領域、並びに、共通L鎖可変領域が、下記(f1)~(f26)から選らばれるいずれかの可変領域の組合せを含む抗体可変領域、又は、これと機能的に同等の抗体可変領域である、〔2-1〕から〔2-4〕のいずれかに記載の抗癌剤。
(f1) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:197に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:128に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:53に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f2) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:197に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:128に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:299に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f3) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:197に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:128に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:310に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f4) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:197に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:128に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:319に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f5) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:142に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f6) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:144に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f7) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:164に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f8) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:206に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:168に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f9) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:142に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f10) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:142に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:299に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f11) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:144に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f12) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:164に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f13) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:211に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:168に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:223に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f14) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:53に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f15) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:299に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f16) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:301に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f17) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:302に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f18) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:304に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f19) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:306に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f20) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:307に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f21) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:103に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:309に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f22) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:122に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:53に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f23) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:129に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:53に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f24) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:132に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:53に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である、
(f25) 〔2-1〕の(1)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:215に記載のアミノ酸配列と同一であり、〔2-1〕の(2)に記載の抗体可変領域に含まれるH鎖可変領域が、配列番号:424に記載のアミノ酸配列と同一であり、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号:53に含まれる可変領域のアミノ酸配列と同一である
(f26) (f1)~(f25) のいずれかに記載の多重特異性抗原結合分子が結合するグリピカン3及びT細胞受容体複合体上のエピトープとそれぞれ重複するエピトープに結合する多重特異性抗原結合分子であって、共通L鎖を有する
〔2-16〕〔2-1〕の(3)に記載のFc領域が、配列番号:23~26(IgG1~IgG4)に記載のFc領域を構成するアミノ酸のいずれかのアミノ酸が変異しているFc領域である、〔2-1〕から〔2-15〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔2-17〕〔2-1〕の(3)に記載のFc領域が、EUナンバリングに従って特定される下記のアミノ酸;
220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、
から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸が変異しているFc領域である、〔2-16〕に記載の抗癌剤。
〔2-18〕〔2-1〕の(3)に記載のFc領域が、EUナンバリングに従って特定される下記のアミノ酸;
234位のアミノ酸がArg、235位のアミノ酸がAla又はArg、239位のアミノ酸がLys、297位のアミノ酸がAla、
から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸を有するFc領域である、〔2-16〕記載の抗癌剤。
〔2-19〕〔2-1〕の(3)に記載のFc領域が、さらに、ヘテロ2量体からなるFc領域の形成を促進するためのアミノ酸変異を有する、〔2-16〕から〔2-18〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔2-20〕ヘテロ2量体からなるFc領域が、下記(g1)又は(g2)のアミノ酸配列の組合せである、〔2-19〕に記載の抗癌剤。
(g1) 配列番号:57に記載のアミノ酸配列を有する定常領域のFc領域と同一のアミノ酸配列と、配列番号:58に記載のアミノ酸配列を有する定常領域のFc領域と同一のアミノ酸配列の組合せ
(g2) 配列番号:60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域のFc領域と同一のアミノ酸配列と、配列番号:61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域のFc領域と同一のアミノ酸配列の組合せ
〔2-21〕多重特異性抗原結合分子が二重特異性抗体である、〔2-1〕から〔2-20〕のいずれかに記載の抗癌剤。
〔2-22〕以下の(h1)~(h25)いずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤:
(h1) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号424に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h2) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h3) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号299に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h4) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号301に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h5) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号302に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h6) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号304に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h7) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号306に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h8) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号307に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h9) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号103に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号309に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h10) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号122に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h11) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号129に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h12) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号215に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号132に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h13) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号197に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号128に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号299に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h14) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号197に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号128に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号310に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h15) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号197に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号128に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号319に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h16) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号197に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号128に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号53に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h17) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号211に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号142に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号299に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h18) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号211に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号142に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h19) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号211に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号144に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h20) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号206に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号144に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h21) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号206に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号142に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h22) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号206に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号164に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h23) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号206に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号168に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h24) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号211に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号164に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体、
(h25) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号211に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号61に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、及び、T細胞受容体複合体に対する結合活性を有し、配列番号168に記載のアミノ酸配列を有する抗体H鎖可変領域と配列番号60又は62に記載のアミノ酸配列を有する定常領域からなる抗体H鎖、並びに、配列番号223に記載のアミノ酸配列を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体
【0020】
また本発明は、下記のドメイン;
(3-1)グリピカン3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、及び、
(3-2)T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、
を含み、(3-1)の可変領域と(3-2)の可変領域に含まれるL鎖可変領域が共通のアミノ酸配列である多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む、抗癌剤に関する。また本発明は、(3-1)のドメイン、すなわち、該多重特異性抗原結合分子に含まれる、グリピカン3結合活性を有する抗体の重鎖および/または軽鎖の可変領域を含むドメインを有効成分として含む、抗癌剤に関する。また本発明は、(3-2)のドメイン、すなわち、該多重特異性抗原結合分子に含まれる、T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを有効成分として含む、抗癌剤に関する。(3-1)および(3-2)のドメインの詳細は、上記の〔2-1〕~〔2-22〕に記載にしたものであってよい。該多重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体であってもよい。また該多重特異性抗原結合分子は、Fc領域を含むドメインをさらに含んでいてもよく、該Fc領域はFcγ受容体に対する結合活性が低下していてもよい。Fc領域を含むドメインの詳細は、例えば上記〔2-1〕~〔2-22〕に記載にしたものであってよい。また本発明は、該多重特異性抗原結合分子および薬学的に許容される担体を含む抗癌剤に関する。該抗癌剤は細胞傷害を誘導するものであってよく、また、該細胞傷害はT細胞依存的細胞傷害であってよく、該多重特異性抗原結合分子が必要な患者に投与するためのものであってよい。
また本発明は、上記〔2-14〕の(e1)~(e25) のいずれかに記載の多重特異性抗原結合分子が結合するグリピカン3及びT細胞受容体複合体上のエピトープとそれぞれ重複および/または競合するエピトープに結合する多重特異性抗原結合分子、および上記〔2-15〕の(f1)~(f25) のいずれかに記載の多重特異性抗原結合分子が結合するグリピカン3及びT細胞受容体複合体上のエピトープとそれぞれ重複および/または競合するエピトープに結合する多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む、抗癌剤も提供する。
また上記〔2-20〕(g1)および(g2)においては、2つのFc領域のうち、前者のFc領域がグリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖に含まれ、後者のFc領域がT細胞受容体複合体に対する結合活性を有する抗体H鎖に含まれていてもよく、前者のFc領域がT細胞受容体複合体に対する結合活性を有する抗体H鎖に含まれ、後者のFc領域がグリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖に含まれていてもよい。
また本発明は、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体が結合するグリピカン3及びT細胞受容体複合体上のエピトープとそれぞれ重複および/または競合するエピトープに結合する二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤も提供する。
【0021】
さらに、以下の発明も提供される。
[4-1]他の抗癌剤を有効成分として含む医薬組成物であって、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特性抗体、と併用するための医薬組成物。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-2] 前記他の抗癌剤が、前記二重特性抗体と同時に投与されることを特徴とする、[4-1]に記載の医薬組成物。
[4-3] 前記他の抗癌剤が、前記二重特性抗体の投与前または投与後に投与されることを特徴とする、[4-1]に記載の医薬組成物。
[4-4] 以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、および、他の抗癌剤を組み合わせてなる、癌を治療または予防するための医薬組成物。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-5] 前記医薬組成物が配合剤であることを特徴とする、[4-4]に記載の医薬組成物。
[4-6] 前記二重特異性抗体と前記他の抗癌剤が別々に投与されることを特徴とする、[4-4]に記載の医薬組成物。
[4-7] 前記二重特性抗体と前記他の抗癌剤が同時または順次に投与されることを特徴とする、[4-6]に記載の医薬組成物。
[4-8] 前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、[4-1]~[4-7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[4-9] 胃癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸癌、腎臓癌、皮膚癌、筋腫瘍、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱癌、甲状腺癌、神経鞘腫、副腎癌、肛門癌、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎癌、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰癌、胸腺腫、及び小児癌からなる群より選ばれるいずれかの癌を治療または予防するための医薬組成物である[4-1]~[4-8]のいずれかに記載の医薬組成物。
[4-10] [4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物を含む、細胞傷害誘導剤、細胞増殖抑制剤、細胞増殖阻害剤、免疫応答活性化剤、癌治療剤または癌予防剤。
【0022】
さらに、以下の発明も提供される。
[4-11] 以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、および、他の抗癌剤との組み合わせ。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-12] 前記二重特異性抗体が、前記他の抗癌剤と同時に投与されることを特徴とする、[4-11]に記載の組み合わせ。
[4-13] 前記二重特性抗体が前記他の抗癌剤の投与前または投与後に投与されることを特徴とする、[4-11]に記載の組み合わせ。
[4-14] 前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、[4-11]~[4-13]のいずれかに記載の組み合わせ。
[4-15] 胃癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸癌、腎臓癌、皮膚癌、筋腫瘍、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱癌、甲状腺癌、神経鞘腫、副腎癌、肛門癌、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎癌、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰癌、胸腺腫、及び小児癌からなる群より選ばれるいずれかの癌を治療または予防するための、[4-11]~[4-14]のいずれかに記載の組み合わせ。
[4-16] [4-11]~[4-15]のいずれかに記載の組み合わせを含む、細胞傷害誘導剤、細胞増殖抑制剤、細胞増殖阻害剤、免疫応答活性化剤、癌治療剤または癌予防剤。
【0023】
さらに、以下の発明も提供される。
[4-17] 有効量の、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、および有効量の他の抗癌剤を投与することを含む、個体における、細胞傷害を誘導する、細胞増殖を抑制する、細胞増殖を阻害する、免疫応答を活性化する、癌を治療する、または癌を予防する方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-18] 個体に、有効量の他の抗癌剤を投与することを含む、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体と併用して、個体における、細胞傷害を誘導する、細胞増殖を抑制する、細胞増殖を阻害する、免疫応答を活性化する、癌を治療する、または癌を予防する方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-19] 個体に、有効量の、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、を投与することを含む、他の抗癌剤と併用して、個体における、細胞傷害を誘導する、細胞増殖を抑制する、細胞増殖を阻害する、免疫応答を活性化する、癌を治療する、または癌を予防する方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-20] 個体に、有効量の他の抗癌剤を投与することを含む、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体による、個体における、細胞傷害誘導、細胞増殖抑制、細胞増殖阻害、免疫応答活性化、癌の治療、または癌の予防の効果を増強させる方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-21] 個体に、有効量の以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特性抗体、を投与することを含む、他の抗癌剤による、個体における、細胞傷害誘導、細胞増殖抑制、細胞増殖阻害、免疫応答活性化、癌の治療、または癌の予防の効果を増強させる方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-22] 前記二重特異性抗体と前記他の抗癌剤が別々に投与されることを特徴とする、[4-17]~[4-21]のいずれかに記載の方法。
[4-23] 前記二重特異性抗体と前記他の抗癌剤が同時または順次に投与されることを特徴とする、[4-17]~[4-22]のいずれかにのいずれかに記載の方法。
[4-24] 前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、[4-17]~[4-23]のいずれかに記載の方法。
[4-25] 前記癌が、胃癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸癌、腎臓癌、皮膚癌、筋腫瘍、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱癌、甲状腺癌、神経鞘腫、副腎癌、肛門癌、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎癌、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰癌、 胸腺腫、及び小児癌からなる群より選ばれるいずれかの癌である、[4-17]~[4-24]のいずれかに記載の方法。
【0024】
さらに、以下の発明も提供される。
[4-26] (A)以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体を含む医薬組成物、
(B)容器、および
(C)個体における癌を治療または予防するために、前記二重特異性抗体と少なくとも一種の他の抗癌剤を組み合わせて個体に投与することを示す指示書またはラベル、
を含むキット。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-27] (A)他の抗癌剤、
(B)容器、および
(C)個体における癌を治療または予防するために、前記他の抗癌剤と、少なくとも一種の、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体を含む医薬組成物、を組み合わせて個体に投与することを示す指示書またはラベル、
を含むキット。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-28] (A)以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特性抗体を含む医薬組成物、
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
(B)容器、および
(C)他の抗癌剤、
を含むキット。
[4-29] 前記二重特異性抗体が、前記他の抗癌剤と同時に投与されることを特徴とする、[4-26]~[4-28]のいずれかに記載のキット。
[4-30] 前記二重特異性抗体が前記他の抗癌剤の投与前または投与後に投与されることを特徴とする、[4-26]~[4-28]のいずれかに記載のキット。
[4-31] 前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、[4-26]~[4-30]のいずれかに記載のキット。
[4-32] 前記癌が、胃癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸癌、腎臓癌、皮膚癌、筋腫瘍、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱癌、甲状腺癌、神経鞘腫、副腎癌、肛門癌、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎癌、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰癌、胸腺腫、及び小児癌からなる群より選ばれるいずれかの癌である、[4-26]~[4-31]のいずれかに記載のキット。
【0025】
さらに、以下の発明も提供される。
[4-33] 癌細胞を、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、および他の抗癌剤と接触させることにより、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に傷害を引き起こす方法、または、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織の増殖を抑制する方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-34] 癌細胞を、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、および他の抗癌剤と接触させることにより、当該二重特異性抗体および他の抗癌剤が、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に傷害を引き起こし、または、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織の増殖を抑制するかを確認する方法。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む二重特異性抗体であって、グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
[4-35] 前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、[4-33]又は[4-34]に記載の方法。
[4-36] 前記癌細胞が、胃癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、卵巣癌、乳癌、結腸癌、腎臓癌、皮膚癌、筋腫瘍、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、胆管癌、メルケル細胞癌、膀胱癌、甲状腺癌、神経鞘腫、副腎癌、肛門癌、中枢神経系腫瘍、神経内分泌組織腫瘍、陰茎癌、胸膜腫瘍、唾液腺腫瘍、外陰癌、胸腺腫、及び小児癌からなる群より選ばれるいずれかの癌細胞である、[4-33]~[4-35]のいずれかに記載の方法。
【0026】
さらに、以下の発明も提供される。
[5-1] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体におけるCD3ε鎖の発現を上昇及び/又は維持するための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-2] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体におけるT細胞集団を増加させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-3] 前記T細胞集団が、活性化T細胞集団である、[5-2]に記載の医薬組成物。
[5-4] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体におけるサイトカイン、及び/又はケモカインの発現を上昇させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-5] 前記サイトカイン、及び/又はケモカインが、IFNγ、IL2、IL6、IL7、IL8、IL10、IL17A、TNF、CXCL9、及びCXCL10からなる群より選択される1以上のサイトカイン、及び/又はケモカインである、[5-4]に記載の医薬組成物。
[5-6] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体における細胞死に関わる遺伝子の発現を上昇させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-7] 前記細胞死に関わる遺伝子が、TNFSF10、FAS、FASL、caspase8、及びcaspase7からなる群より選択される1以上の遺伝子である、[5-6]に記載の医薬組成物。
[5-8] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体における細胞周期の亢進に関わる遺伝子を阻害するための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-9] 前記細胞周期の亢進に関わる遺伝子が、PCNA、CCNA2、及びCDK4からなる群より選択される1以上の遺伝子である、[5-8]に記載の医薬組成物。
[5-10] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体における細胞周期の抑制に関わる遺伝子の発現を上昇させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-11] 前記細胞周期の抑制に関わる遺伝子が、p21である、[5-10]に記載の医薬組成物。
[5-12] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体における白血球マーカーを上昇させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-13] 前記白血球マーカーがCD45である、[5-12]に記載の医薬組成物。
[5-14] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体におけるT細胞マーカー及び/又はT細胞活性化マーカーを上昇させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-15] 前記T細胞マーカー及び/又はT細胞活性化マーカーが、CD3、CD4、 CD8a、GZB、PRF1、及びIFNγからなる群より選択される1以上のT細胞マーカー及び/又はT細胞活性化マーカーである、[5-14]に記載の医薬組成物。
[5-16] 〔7〕(a)~(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体、又は他の抗癌剤の単独投与と比較して、個体における免疫チェックポイント遺伝子の発現を上昇させるための、〔7〕~〔12〕、[4-1]~[4-9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5-17] 前記免疫チェックポイント遺伝子が、PD-L1、PD-1、TIM3、LAG3、及びCTLA4からなる群より選択される1以上の遺伝子である、[5-16]に記載の医薬組成物。
【0027】
なお上記[4-1]~[4-36]の各項において「他の抗癌剤」とは、当該抗癌剤が、各項に記載の二重特異性抗体とは異なる物を有効成分とする抗癌剤であることを意味している。すなわち「他の抗癌剤」とある場合、これらの各項の発明は、当該抗癌剤が当該二重特異性抗体とは異なる物を有効成分とする抗癌剤であることを特定しているに過ぎず、当該二重特異性抗体が抗癌剤として用いられるものに限定されるものではない。例えば[4-1]~[4-36]の各項の発明に「他の抗癌剤」と記載されていても、当該発明には、当該他の抗癌剤以外の抗癌剤を用いない態様も包含され、その場合、当該二重特異性抗体は、例えば当該他の抗癌剤の増強剤、併用剤、または添加剤などとして用いる態様が包含される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によって、産生効率が高い分子型としつつ、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たな多重特異性抗原結合分子が提供された。本発明の多重特異性抗原結合分子を有効成分として含む抗癌剤、当該多重特異性抗原結合分子と他の抗癌剤との併用療法はグリピカン3発現癌細胞を含む癌組織を標的として細胞傷害をもたらし、様々な癌を治療又は予防することができる。患者にとっても、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いという、望ましい治療ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1-1】さまざまな癌種由来の細胞株を標的細胞とした場合における抗体38の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図1-2】さまざまな癌種由来の細胞株を標的細胞とした場合における抗体38の細胞傷害活性を示すグラフである(
図1-1から続く)。
【
図1-3】さまざまな癌種由来の細胞株を標的細胞とした場合における抗体38の細胞傷害活性を示すグラフである(
図1-2から続く)。
【
図2】ヒトT細胞移植モデルにおける、さまざまな癌種由来のゼノグラフト腫瘍に対する抗体38の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図3】ヒトT細胞移植モデルにおける、PC-10ゼノグラフト腫瘍に対する抗体39, 40の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図4】ヒトT細胞移植モデルにおける、SK-HEP-1/hGPC3 (SK-pca31a) ゼノグラフト腫瘍に対する抗体30, 31, 32, 33の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図5】ヒト化NOGマウスモデルにおける、PC-10ゼノグラフト腫瘍に対する抗体38の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図6】ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルにおける、LLC1/hGPC3シンジェニック腫瘍に対する抗体38および抗ヒトGPC3抗体、抗マウスCTLA-4 抗体、抗マウスPD-1抗体、抗マウスPD-L1 抗体の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図7】ヒトT細胞移植モデルにおける、MKN45ゼノグラフト腫瘍に対する抗体およびcapecitabine, cisplatin, paclitaxelの単剤および併用による抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図8】ヒトT細胞移植モデルにおける、NCI-H446ゼノグラフト腫瘍に対する抗体およびcisplatin, paclitaxelの単剤および併用による抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図9】ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルにおける、Hepa1-6/hGPC3シンジェニック腫瘍に対する抗体38および抗マウスTIM-3抗体、抗マウスLAG-3抗体, 抗マウスCD137抗体あるいは抗マウスVEGFR2抗体の単剤および併用による抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図10】ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルにおける、LLC1/hGPC3シンジェニック腫瘍に対する抗体38および抗マウスCD137抗体の単剤および併用による抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図11】ヒトCD3ε遺伝子改変マウスモデルにおける、Hepa1-6/hGPC3シンジェニック腫瘍に対する抗体38および抗マウスPD-1抗体、抗マウスPD-L1 抗体の単剤および併用による抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図12】a:ERY22の模式図、b:ERY27の模式図、を示す図である。
【
図13】NCI-H446を標的細胞とした場合におけるGPC3_ERY22_rCE115とGPC3_ERY27_hCE115の細胞傷害活性を示すグラフである。黒菱(◆)はGPC3_ERY22_rCE115、黒三角(▲)はGPC3_ERY27_hCE115の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【
図14】PC-10を標的細胞とした場合におけるGPC3_ERY22_rCE115とGPC3_ERY27_hCE115の細胞傷害活性を示すグラフである。黒菱(◆)はGPC3_ERY22_rCE115、黒三角(▲)はGPC3_ERY27_hCE115の細胞傷害活性をそれぞれ表す。
【
図15】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図16】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図17】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図18】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図19】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図20】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体の細胞傷害活性を示すグラフである。
【
図21】PC-10を標的細胞とした場合における最適化抗体のin vivo抗腫瘍効果を示す図である。
【
図22】NCI-H446を標的細胞とした場合における最適化抗体のin vivo抗腫瘍効果を示す図である。
【
図23】IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のFc領域を構成するアミノ酸残基と、kabatのEUナンバリング(本明細書においてEU INDEXとも呼ばれる)との関係を表す図である。
【
図24-1】重鎖可変領域配列とKabat等の各種ナンバリングを示す図である。
【
図24-2】重鎖可変領域配列とKabat等の各種ナンバリングを示す図である。
【
図25】軽鎖可変領域配列とKabat等の各種ナンバリングを示す図である。
【
図26A】
図26Aは、マウスCd3ε、Cd3δおよびCd3γ遺伝子を含むゲノムDNAの構造(1)と、当該遺伝子領域の全域を含むバクテリア人工染色体(BAC)クローンを改変することにより構築したマウスCd3遺伝子改変ベクター(2)、上述のベクターによってloxP配列およびRox配列を標的位置に挿入したゲノムDNAの構造(3)、さらに組換え酵素CreおよびDreの作用によるCd3ε、Cd3δおよびCd3γ遺伝子の欠損アレルの構造(4)を示すものである。
【
図26B】
図26Bは、ヒトCD3ε、CD3δおよびCD3γ遺伝子を含むBACクローン(a)、およびそのBACクローンを改変するための5’改変カセット(b)および3’改変カセット(c)、および、それらを用いた改変により構築したヒトCD3遺伝子領域導入ベクター(d)の構造を示す。
【
図27】
図27は、マウスCd3遺伝子改変ES細胞の樹立のための解析したPCRの代表例を示す。
【
図28A】
図28は、マウスCd3遺伝子改変ES細胞に、Cre発現ベクターおよびDre発現ベクターとともに、ヒトCD3遺伝子領域導入ベクターを導入し、得られたES細胞クローンの遺伝子型を解析したPCRの代表例を示す。
図28AはマウスCd3遺伝子領域の欠損を検出するPCR結果の代表例を示す。
【
図28B】
図28Bは、ヒトCD3遺伝子領域の導入を検出するPCR結果の代表例を示す。
【
図29】
図29は、樹立した各ラインのヒトCD3遺伝子置換マウス、Cd3遺伝子欠損マウス、野生型およびヒトCD3ε遺伝子導入マウスから採取した胸腺の代表的なマクロ写真である。各遺伝子型とも12-13週齢の雄より摘出した胸腺である。
【
図30】
図30は、樹立した各ラインのヒトCD3遺伝子置換マウス、Cd3遺伝子欠損マウス、野生型およびヒトCD3ε遺伝子導入マウスから採取した脾臓および胸腺の組織重量を測定した結果を示している。体重あたりの組織重量比を算出し、個体毎に得られた値を黒点にてプロット、平均値をカラムにて表す。
【
図31】
図31は、樹立した各ラインのヒトCD3遺伝子置換マウス、Cd3遺伝子欠損マウス、野生型マウスおよびヒトCD3ε遺伝子導入(hCD3ε Tg)マウスにおける各ヒトCD3分子および各マウスCd3の遺伝子発現をRT-PCRによって検討した結果を示す。樹立したヒトCD3遺伝子置換マウスのラインのうちライン番号1C3および8I12においてhCD3ε、hCD3δおよびhCD3γに特異的なシグナルが検出された。ライン番号3B1および2A4には検出されなかった。
【
図32】
図32は、樹立した各ラインのヒトCD3遺伝子置換マウス(1C3、8I12および4HH3)の胸腺(A)および脾臓(B)について実施したCD3の組織免疫染色の代表例を示す。いずれの組織においても、野生型マウスと同様にT細胞ゾーンにのみ染色が認められた。また、Cd3遺伝子欠損マウスでは染色が認められておらず、ヒトCD3遺伝子置換マウスにおける染色は導入したヒトCD3遺伝子の発現によるものであることが示された。
【
図33】
図33は、樹立した各ラインのヒトCD3置換マウスの脾臓における成熟T細胞の存在比率をFACSにて解析した代表的な結果を示す。
【
図34】
図34は、樹立した各ラインのヒトCD3置換マウスへのニワトリ卵白アルブミン(Ovoalbumin,OVA)を免疫した際のOVA特異的IgG1およびIgEの血清中濃度を測定した結果を示す。個体毎のOVA特異的な血清中IgG1およびIgE濃度を棒グラフで示す。棒グラフの下の数字は個体番号を示す。
【
図35-1】Paclitaxelと抗体38との併用における腫瘍組織における網羅的RNA解析の結果を示す。
【
図35-2】Paclitaxelと抗体38との併用における腫瘍組織における網羅的RNA解析の結果を示す(
図35-1から続く)。
【
図35-3】Paclitaxelと抗体38との併用における腫瘍組織における網羅的RNA解析の結果を示す(
図35-2から続く)。
【
図35-4】Capecitabineと抗体38との併用における腫瘍組織における網羅的RNA解析の結果を示す。
【
図35-5】Capecitabineと抗体38との併用における腫瘍組織における網羅的RNA解析の結果を示す(
図35-4から続く)。
【
図35-6】Capecitabineと抗体38との併用における腫瘍組織における網羅的RNA解析の結果を示す(
図35-5から続く)。
【
図36-1】Paclitaxelと抗体38との併用における腫瘍組織におけるTumor infiltrating lymphocyte(TIL)解析の結果を示す。
【
図36-2】Cisplatinと抗体38との併用における腫瘍組織におけるTumor infiltrating lymphocyte(TIL)解析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の定義は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
【0031】
抗体
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。
【0032】
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。以下に、GPIアンカー型受容体ファミリーに属する、グリピカン3(以下、GPC3ともいう)(Int J Cancer. (2003) 103 (4), 455-65)に結合する抗体(抗GPC3抗体)を作製する方法が例示される。T細胞受容体複合体に結合する抗体も下記の例示に準じて適宜作製され得る。
【0033】
抗GPC3抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗GPC3抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。
【0034】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、GPC3タンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗GPC3抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
【0035】
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、RefSeq登録番号NM_001164617.1(配列番号:1)にそのヌクレオチド配列が開示されたGPC3遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用されるRefSeq登録番号NP_001158089.1(配列番号:2)で表されるGPC3タンパク質が取得され得る。すなわち、GPC3をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のヒトGPC3タンパク質が公知の方法で精製される。培養上清中から可溶型のGPC3を取得するためには、例えば、配列番号:2で表されるGPC3ポリペプチド配列のうち、GPC3が細胞膜上に係留されるために用いられるGPIアンカー配列に相当する疎水性領域を構成する564-580アミノ酸を欠失したタンパク質が配列番号:2で表されるGPC3タンパク質の代わりに発現される。また、精製した天然のGPC3タンパク質もまた同様に感作抗原として使用され得る。
【0036】
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製GPC3タンパク質が使用できる。GPC3の部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、該部分ペプチドはヒトGPC3のアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、GPC3遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてGPC3タンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるGPC3ペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。好ましい領域は配列番号:2のアミノ酸配列において524~563番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され、より好ましくは537~563番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。また、好ましくは配列番号:2のアミノ酸配列において550~663番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列が含まれない領域のアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。また好ましくは、配列番号:2のアミノ酸配列において544~553番目に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され、より好ましくは546~551番目に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択される。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8~50、好ましくは10~30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
【0037】
また、GPC3タンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。感作抗原として用いられるGPC3の取得方法及びそれを用いた免疫方法は、WO2003/000883、WO2004/022754、WO2006/006693等にも具体的に記載されている。
【0038】
該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
【0039】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
【0040】
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。蛋白質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
-GPC3のような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
-免疫抗原を精製する必要が無い
【0041】
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、GPC3タンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。GPC3をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。さらに、GPC3を認識する抗体の作製は国際公開WO2003/104453に記載された方法を用いても作製され得る。
【0042】
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるGPC3に結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
【0043】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0044】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0045】
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
【0046】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
【0047】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
【0048】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
【0049】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
【0050】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
【0051】
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、GPC3に結合するモノクローナル抗体は、細胞表面に発現したGPC3に結合することができる。このようなモノクローナル抗体は、たとえば、FACS(fluorescence activated cell sorting)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を測定することを可能にするシステムである。
【0052】
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずGPC3を発現する細胞を調製する。スクリーニングのための好ましい細胞は、GPC3を強制発現させた哺乳動物細胞である。宿主細胞として使用した形質転換されていない哺乳動物細胞を対照として用いることによって、細胞表面のGPC3に対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、宿主細胞に結合せず、GPC3強制発現細胞に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、GPC3モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが取得され得る。
【0053】
あるいは固定化したGPC3発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルにGPC3発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
【0054】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
【0055】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
【0056】
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
【0057】
たとえば、抗GPC3抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗GPC3抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
-グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
-AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
【0058】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5’-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
【0059】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
【0060】
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5’-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5’-RACE cDNAライブラリーが得られる。5’-RACE cDNAライブラリーの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
【0061】
得られた5’-RACE cDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
【0062】
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5’ RACE cDNAライブラリー作製キットに付属するプライマーが利用される。
【0063】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、GPC3に対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえばGPC3に対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のGPC3への結合は、特異的であることがさらに好ましい。GPC3に結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をGPC3発現細胞に接触させる工程、
(2)GPC3発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)GPC3発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
【0064】
抗体とGPC3発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とGPC3発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにGPC3発現細胞の固定標本が適宜利用され得る。
【0065】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリーとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
【0066】
目的とする抗GPC3抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗GPC3抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス-ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト-ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5’側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0067】
抗GPC3モノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される参考実施例ではシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:3)を有するペプチドが使用されているが、これ以外にも適したシグナル配列が付加される。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗GPC3抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
【0068】
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開WO 94/11523を参照のこと)。
【0069】
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗体可変領域を含むドメインを単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞:CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Veroなど
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0070】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0071】
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
-酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
-糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属
【0072】
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli)、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
【0073】
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
【0074】
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子における抗体可変領域を含むドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来のドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
【0075】
本明細書において記載される抗原結合分子における抗体可変領域を含むドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
【0076】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0077】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0078】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400、国際公開WO1996/002576参照)。
【0079】
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856)。
【0080】
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0081】
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0082】
グリピカン3(GPC3)結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン
本明細書において「グリピカン3(GPC3)結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン」とは、上記GPC3 タンパク質又はその部分ペプチドの一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成る抗体の部分をいう。抗体可変領域を含むドメインは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、抗体可変領域を含むドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした抗体可変領域を含むドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0083】
T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン
本明細書において、「T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン」とは、T細胞受容体複合体の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成るT細胞受容体複合体抗体の部分をいう。T細胞受容体複合体は、T細胞受容体自身でもよいし、T細胞受容体とともにT細胞受容体複合体を構成するアダプター分子でもよい。アダプターとして好適なものはCD3である。
【0084】
T細胞受容体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン
本明細書において、「T細胞受容体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン」とは、T細胞受容体の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んでなるT細胞受容体抗体の部分をいう。
本発明のドメインが結合するT細胞受容体の部分としては、可変領域でもよいし、定常領域でもよいが、好ましくは定常領域に存在するエピトープである。定常領域の配列として、例えばRefSeq登録番号CAA26636.1のT細胞受容体α鎖(配列番号:4)、RefSeq登録番号C25777のT細胞受容体β鎖(配列番号:5)、RefSeq登録番号A26659のT細胞受容体γ1鎖(配列番号:6)、RefSeq登録番号AAB63312.1のT細胞受容体γ2鎖(配列番号:7)、RefSeq登録番号AAA61033.1のT細胞受容体δ鎖(配列番号:8)の配列を挙げることができる。
【0085】
CD3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン
本明細書において「CD3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン」とは、CD3の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成るCD3抗体の部分をいう。好ましくは、当該ドメインは抗CD3抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗CD3抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む。こうしたドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0086】
本発明に係るCD3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインは、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖配列に存在するエピトープであればいずれのエピトープに結合するものであり得る。本発明において、好ましくはヒトCD3複合体のε鎖の細胞外領域に存在するエピトープに結合する抗CD3抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗CD3抗体の重鎖可変領域(VH)とを含むドメインが好適に用いられる。こうしたドメインとしては、参考実施例に記載の抗CD3抗体の軽鎖可変領域(VL)と抗CD3抗体の重鎖可変領域(VH)の他に、OKT3抗体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4914-4917)や種々の公知のCD3抗体の軽鎖可変領域(VL)とCD3抗体の重鎖可変領域(VH)とを含むCD3結合ドメインが好適に用いられる。また、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖を前記の方法によって所望の動物に免疫することによって取得された所望の性質を有する抗CD3抗体を起源とする抗体可変領域を含むドメインが適宜使用され得る。CD3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインの起源となる抗CD3抗体は前記のとおり適宜ヒト化された抗体やヒト抗体が適宜用いられる。CD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖の構造は、そのポリヌクレオチド配列が、配列番号:9(NM_000073.2)、10(NM_000732.4)及び11(NM_000733.3)に、そのポリペプチド配列が、配列番号:12(NP_000064.1)、13(NP_000723.1)及び14(NP_000724.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。
【0087】
本発明の抗原結合分子における抗体可変領域を含むドメインは、同一のエピトープに結合することができる。ここで同一のエピトープは、配列番号:2あるいは配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。あるいは本発明の抗原結合分子における抗体可変領域を含むドメインは、互いに異なるエピトープに結合することができる。ここで異なるエピトープは、配列番号:2あるいは配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。
【0088】
特異的
特異的とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態をいう。また、抗体可変領域を含むドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗体可変領域を含むドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗体可変領域を含むドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
【0089】
エピトープ
抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示される抗原結合分子中の抗体可変領域を含むドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗原結合分子中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
【0090】
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8~約10個、6~20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
【0091】
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されたエピトープの単一の規定成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを規定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体構造エピトープは、直線状エピトープに対して増大した数のアミノ酸を包含するかもしれない。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
【0092】
下記にGPC3に対して結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを有する被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法が例示されるが、T細胞受容体複合体に対して結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを有する被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
【0093】
例えば、GPC3に対して結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを含む被験抗原結合分子が、GPC3分子中に存在する線状エピトープを認識することは、たとえば次のようにして確認することができる。上記の目的のためにGPC3の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、GPC3のcDNA中の、細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドと、GPC3に対して結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを有する被験抗原結合分子との結合活性が評価される。たとえば、固定化された線状ペプチドを抗原とするELISAによって、当該ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が評価され得る。あるいは、GPC3発現細胞に対する当該抗原結合分子の結合における、線状ペプチドによる阻害のレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が明らかにされ得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が明らかにされ得る。
【0094】
また、GPC3に対して結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを有する被験抗原結合分子が立体構造エピトープを認識することは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、GPC3を発現する細胞が調製される。GPC3に対して結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを有する被験抗原結合分子がGPC3発現細胞に接触した際に当該細胞に強く結合する一方で、当該抗原結合分子が固定化されたGPC3の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドに対して実質的に結合しないとき等が挙げられる。ここで、実質的に結合しないとは、ヒトGPC3発現細胞に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。
【0095】
GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のGPC3発現細胞に対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ち、GPC3発現細胞を抗原とするELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価され得る。
【0096】
ELISAフォーマットにおいて、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のGPC3発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、GPC3発現細胞を固定化したELISAプレートに被験抗原結合分子を加え、細胞に結合した被験抗原結合分子が、被験抗原結合分子を認識する酵素標識抗体を利用して検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗原結合分子の希釈系列を作成し、GPC3発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、GPC3発現細胞に対する被験抗原結合分子の結合活性が比較され得る。
【0097】
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子の結合は、フローサイトメーターによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
【0098】
例えば、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、GPC3を発現する細胞と反応させた被験抗原結合分子を認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験抗原結合分子を適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該会合体が所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(BD社)により蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験抗原結合分子の結合量によって表される被験抗原結合分子の結合活性が測定され得る。
【0099】
GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、ある抗原結合分子とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認され得る。抗原結合分子間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
【0100】
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたGPC3タンパク質が、候補となる競合抗原結合分子の存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験抗原結合分子が添加される。ウェル中のGPC3タンパク質に結合した被験抗原結合分子の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補となる競合抗原結合分子の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合抗原結合分子の親和性が大きくなればなる程、被験抗原結合分子のGPC3タンパク質をコートしたウェルへの結合活性は低下する。
【0101】
GPC3タンパク質を介してウェルに結合した被験抗原結合分子の量は、予め抗原結合分子を標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識された抗原結合分子は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。抗原結合分子は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
【0102】
候補の競合抗原結合分子の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合抗原結合分子が、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20-50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験抗原結合分子は競合抗原結合分子と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合する抗原結合分子である。
【0103】
GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入したペプチドに対する両者の抗原結合分子の結合活性を比較することによって評価され得る。
【0104】
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて変異を導入した線状のペプチドに対する被験抗原結合分子及び対照抗原結合分子の結合活性を比較することによって測定され得る。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検抗原結合分子と対照抗原結合分子を流下させた後に溶出液中に溶出される抗原結合分子を定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は公知である。
【0105】
また、同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、次の方法で評価され得る。まず、GPC3を発現する細胞とエピトープに変異が導入されたGPC3を発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が添加される。次いで、適宜緩衝液で洗浄された細胞懸濁液に対して、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子を認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(BD社)によって測定される。被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の濃度は好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の結合活性を測定することができる。
【0106】
本方法において、例えば「変異GPC3発現細胞に実質的に結合しない」ことは、以下の方法によって判断することができる。まず、変異GPC3を発現する細胞に対して結合した被験抗原結合分子と対照抗原結合分子を、標識抗体で染色する。次いで細胞の蛍光強度を検出する。蛍光検出にフローサイトメトリーとしてFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。抗原結合分子存在下および非存在下でのGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の計算式に基づいて算出することにより、抗原結合分子の結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
【0107】
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(抗原結合分子存在下)/Geo-Mean(抗原結合分子非存在下)
【0108】
解析によって得られる被験抗原結合分子の変異GPC3発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異GPC3分子ΔGeo-Mean値)を、被験抗原結合分子のGPC3発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異GPC3発現細胞及びGPC3発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験抗原結合分子の濃度は互いに同一又は実質的に同一の濃度で調整されることが特に好ましい。予めGPC3中のエピトープを認識していることが確認された抗原結合分子が、対照抗原結合分子として利用される。
【0109】
被験抗原結合分子の変異GPC3発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験抗原結合分子のGPC3発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、「変異GPC3発現細胞に実質的に結合しない」ものとする。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める計算式は、CELL QUEST Software User’s Guide(BD biosciences社)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同視し得る程度であれば、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子のエピトープは同一であると評価され得る。
【0110】
Fv(variable fragment)
本明細書において、「Fv(variable fragment)」という用語は、抗体の軽鎖可変領域(VL(light chain variable region))と抗体の重鎖可変領域(VH(heavy chain variable region))とのペアからなる抗体由来の抗原結合ドメインの最小単位を意味する。1988年にSkerraとPluckthunは、バクテリアのシグナル配列の下流に抗体の遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性を保持した状態で大腸菌のペリプラズム画分から調製されることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvは、抗原に対する結合を有する態様でVHとVLが会合していた。
【0111】
本明細書において、Fvとしては、例えば以下の抗原結合分子;
二価のscFvのうち一価のscFvがCD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片を介してFc領域を構成する一つのポリペプチドに、他方の一価のscFvがCD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片を介してFc領域を構成する他方の一つのポリペプチドに連結された二価の抗原結合ドメインが二価のscFvである(1)二価の抗原結合ドメイン、(2)IgG1、IgG2a、IgG3又はIgG4のFc領域を構成するアミノ酸のうちFcγ受容体に対する結合活性を有しないFc領域を含むドメイン、及び、(3)少なくとも一価のCD3結合ドメイン、
を含む抗原結合分子等において軽鎖Fv断片及び重鎖Fv断片が、抗原であるCD3に対する結合を有する態様で会合しCD3結合ドメインを構成する一組のFvも好適に含まれる。
【0112】
scFv、単鎖抗体、またはsc(Fv)2
本明細書において、「scFv」、「単鎖抗体」、または「sc(Fv)2」という用語は、単一のポリペプチド鎖内に、重鎖および軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域を欠いている抗体断片を意味する。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造を形成するのを可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, 113巻, Rosenburg、及び、Moore編, Springer-Verlag, New York, 269~315(1994)においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際特許出願公開WO1988/001649および米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照。特定の態様において、単鎖抗体はまた、二重特異性であるか、かつ/またはヒト化され得る。
【0113】
scFvはFvを構成するVHとVLとがペプチドリンカーによって連結された抗原結合ドメインである(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチドリンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
【0114】
sc(Fv)2は二つのVLと二つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を構成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この二つのVHとVLは異なるモノクローナル抗体から由来することもあり得る。例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような同一抗原中に存在する二種類のエピトープを認識する二重特異性(bispecific sc(Fv)2)も好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって作製され得る。例えば、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで結ぶことによって作製され得る。
【0115】
本明細書におけるsc(Fv)2を構成する抗原結合ドメインの構成としては、二つのVH及び二つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が挙げられるが、二つのVHと2つのVLの順序は特に上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような、順序の構成も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
【0116】
sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されており、当業者であればこれらの記載に基づいて、本明細書で開示される抗原結合分子の作製のために適宜所望のsc(Fv)2を作製することが可能である。
【0117】
また本発明の抗原結合分子は、PEG等のキャリアー高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。また糖鎖付加配列を挿入し、糖鎖が所望の効果を得ることを目的として好適に付加され得る。
【0118】
抗体の可変領域を結合するリンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996参照)に開示されるリンカー等を用いることができるが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、全て同じ長さのペプチドリンカーを用いてもよいし、異なる長さのペプチドリンカーを用いてもよい。
【0119】
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:15)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:16)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:17)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:18)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:19)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:20)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:21)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:22)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:17))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:18))n
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0120】
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ-EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ-DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
【0121】
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となるが、全て同じリンカーを用いてもよいし、異なるリンカーを用いてもよい。
【0122】
Fab、F(ab’)2、またはFab’
「Fab」は、一本の軽鎖、ならびに一本の重鎖のCH1領域および可変領域から構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とのジスルフィド結合を形成できない。
【0123】
「F(ab’)2」及び「Fab’」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)をタンパク質分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。例えば、IgGをパパインで処理することにより、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びVH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントが製造され得る。これら2つの相同な抗体フラグメントはそれぞれFab'といわれる。
【0124】
「F(ab’)2」は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が2つの重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む二本の重鎖を含む。本明細書において開示される抗原結合分子を構成するF(ab’)2は、所望の抗原結合ドメインを有する全長モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させて除去することにより、好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にF(ab’)2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0125】
Fc領域
本明細書において開示される抗原結合分子を構成するFc領域はモノクローナル抗体等の抗体をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、断片をプロテインAカラム、あるいはプロテインGカラムに吸着させた後に、適切な溶出バッファー等により溶出させることにより好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することによりモノクローナル抗体等の抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0126】
本明細書に記載される抗原結合分子にはIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域を構成するアミノ酸のうちFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域が含まれる。
【0127】
抗体のアイソタイプは、定常領域の構造によって決定される。IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の各アイソタイプの定常領域は、それぞれ、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4と呼ばれている。ヒトCγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4のFc領域を構成するポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号:23、24、25、26に例示される。各アミノ酸配列を構成するアミノ酸残基と、kabatのEUナンバリング(本明細書においてEU INDEXとも呼ばれる)との関係は
図23に示されている。
【0128】
Fc領域は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が2つの重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメイン間の定常領域の一部分を含む二本の重鎖を含むF(ab’)2を除いた領域のことをいう。本明細書において開示される抗原結合分子を構成するFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインAカラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にF(ab’)2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0129】
Fcγ受容体
Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得る受容体をいい、実質的にFcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγ受容体の好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16)及び/又はFcγRIIIB(CD16)が挙げられる。FcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:27(NM_000566.3)及び28(NP_000557.1)に、FcγRIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:29(BC020823.1)及び30(AAH20823.1)に、FcγRIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:31(BC146678.1)及び32(AAI46679.1)に、FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:33(BC033678.1)及び34(AAH33678.1)に、及びFcγRIIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:35(BC128562.1)及び36(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。Fcγ受容体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0130】
また、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体のFc領域に結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する、任意の生物に由来する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を誘起する。Fcリガンドには、Fc受容体、FcγR、FcαR、FcεR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカスのプロテインA、スタフィロコッカスのタンパク質GおよびウイルスのFcγRが含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、FcγRに相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,(2002)Immunological Reviews 190, 123-136)も含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未発見の分子も含まれ得る。
【0131】
Fcγ受容体に対する結合活性
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及び/又はFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下していることは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0132】
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルが検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
【0133】
例えば、ドナービーズにビオチン標識された抗原結合分子が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγ受容体が結合される。競合する変異Fc領域を有する抗原結合分子の非存在下では、野生型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγ受容体とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない変異Fc領域を有する抗原結合分子は、野生型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγ受容体間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等の抗原結合分子をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。Fcγ受容体をGSTでタグ化する方法としては、Fcγ受容体をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウェアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
【0134】
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
【0135】
本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とする抗原結合分子の競合活性に比較して被検抗原結合分子の競合活性が、50%以下、好ましくは45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、15%以下、特に好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。
【0136】
対照とする抗原結合分子としては、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:37(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、38(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、25(RefSeq登録番号CAA27268.1のN末にA付加)、39(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域の変異体を有する抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプの抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該変異体が有する変異によるFcγ受容体への結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγ受容体に対する結合活性が低下していることが検証されたFc領域の変異体を有する抗原結合分子が適宜作製される。
【0137】
このような変異体の例としては、EUナンバリングに従って特定されるアミノ酸である231A-238Sの欠失(WO 2009/011941)、C226S, C229S, P238S, (C220S)(J.Rheumatol (2007) 34, 11)、C226S, C229S(Hum.Antibod.Hybridomas (1990) 1(1), 47-54)、C226S, C229S, E233P, L234V, L235A(Blood (2007) 109, 1185-1192)等の変異体が公知である。
【0138】
すなわち、特定のアイソタイプの抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位が置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。Fc領域の起源である抗体のアイソタイプとしては特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体を起源とするFc領域が適宜利用され得るが、IgG1抗体を起源とするFc領域が好適に利用される。
【0139】
例えば、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(a)L234F、L235E、P331S、
(b)C226S、C229S、P238S、
(c)C226S、C229S、
(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235A
(e)L234A、L235A又はL235R、N297A
(f)L235A又はL235R、S239K、N297A
が施されているFc領域、又は、231位から238位のアミノ酸配列が欠失したFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
【0140】
また、IgG2抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(g)H268Q、V309L、A330S、P331S
(h)V234A
(i)G237A
(j)V234A、G237A
(k)A235E、G237A
(l)V234A、A235E、G237A
が施されているFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
【0141】
また、IgG3抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(m)F241A
(n)D265A
(o)V264A
が施されているFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
【0142】
また、IgG4抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(p)L235A、G237A、E318A
(q)L235E
(r)F234A、L235A
が施されているFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
【0143】
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;233位、234位、235位、236位、237位、327位、330位、331位が、対応するIgG2またはIgG4においてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されているFc領域を有する抗原結合分子が挙げられる。
【0144】
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸;234位、235位、297位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、234位、235位、297位のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有する抗原結合分子が特に好ましい。
【0145】
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;265位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、265位のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有する抗原結合分子が特に好ましい。
【0146】
多重特異性抗原結合分子
本発明の「多重特異性抗原結合分子」の好ましい態様の1つとして、多重特異性抗体を挙げることができる。多重特異性抗体のFc領域として、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を用いる場合、多重特異性抗体を起源とするFc領域も適宜使用される。本発明の多重特異性抗体としては、特に二重特異性抗体が好ましい。ここで、二重特異性抗体とは、二つの異なる特異性を有する抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al.Nature (1983) 305, 537-540)。
【0147】
また、IgG型の二重特異性抗体は目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計四種の遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させることによって分泌される。しかし、これらの方法で産生されるIgGのH鎖とL鎖の組合せは理論上10通りにもなる。10種類のIgGから目的の組み合わせのH鎖L鎖からなるIgGを精製することは困難である。さらに目的の組み合わせのものの分泌量も理論上著しく低下するため、大きな培養規模が必要になり、製造上のコストはさらに増大する。
【0148】
そのため、本発明の多重特異性抗原結合分子には、目的の組合せのH鎖間及びL鎖H鎖間の会合を促進するための技術を適用することができる。
例えば、多重特異性抗体の会合化には、抗体H鎖の第二の定常領域(CH2)又はH鎖の第三の定常領域(CH3)の界面に電荷的な反発を導入して目的としないH鎖同士の会合を抑制する技術を適用することができる(WO2006/106905)。
CH2又はCH3の界面に電荷的な反発を導入して意図しないH鎖同士の会合を抑制させる技術において、H鎖の他の定常領域の界面で接触するアミノ酸残基としては、例えばCH3領域におけるEUナンバリング356番目の残基、EUナンバリング439番目の残基、EUナンバリング357番目の残基、EUナンバリング370番目の残基、EUナンバリング399番目の残基、EUナンバリング409番目の残基に相対する領域を挙げることができる。
より具体的には、例えば、2種のH鎖CH3領域を含む抗体においては、第1のH鎖CH3領域における以下の(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組から選択される1組ないし3組のアミノ酸残基が同種の電荷を有する抗体とすることができる; (1)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング356位および439位のアミノ酸残基、(2)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング357位および370位のアミノ酸残基、(3)H鎖CH3領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング399位および409位のアミノ酸残基。
更に、上記第1のH鎖CH3領域とは異なる第2のH鎖CH3領域における前記(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組から選択されるアミノ酸残基の組であって、前記第1のH鎖CH3領域において同種の電荷を有する前記(1)~(3)に示すアミノ酸残基の組に対応する1組ないし3組のアミノ酸残基が、前記第1のH鎖CH3領域における対応するアミノ酸残基とは反対の電荷を有する抗体とすることができる。
上記(1)~(3)に記載のそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者であれば、所望のH鎖CH3領域またはH鎖定常領域について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)~(3)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0149】
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の(a)または(b)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい;
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
上記抗体において、「同種の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記(a)または(b)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のなかの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記(a)または(b)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有する場合に、残りのアミノ酸残基が異なる群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。
好ましい態様において上記抗体は、第1のH鎖CH3領域と第2のH鎖CH3領域がジスルフィド結合により架橋されていてもよい。
【0150】
本発明において改変に供するアミノ酸残基としては、上述した抗体の可変領域または抗体の定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、ポリペプチド変異体または異種多量体について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を見出すことができ、会合を制御するように、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0151】
また、本発明の多重特異性抗体の会合化には更に他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖のFc領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob; 突起)に置換し、もう一方のH鎖の相対するFc領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole; 空隙)に置換することによって、突起が空隙内に配置され得るようにすることで、効率的にFc領域を有する異なるアミノ酸を有するポリペプチド同士の会合化を起こすことができる(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681、US20130336973)。
【0152】
これに加えて、本発明の多重特異性抗体の形成には更に他の公知技術を用いることもできる。抗体の一方のH鎖のCH3の一部をその部分に対応するIgA由来の配列にし、もう一方のH鎖のCH3の相補的な部分にその部分に対応するIgA由来の配列を導入したstrand-exchange engineered domain CH3を用いることで、異なる配列を有するポリペプチドの会合化をCH3の相補的な会合化によって効率的に引き起こすことができる (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を使っても効率的に目的の多重特異性抗体の形成させることができる。
【0153】
他にも多重特異性抗体の形成には、WO2011/028952やWO2014/018572やNat Biotechnol. 2014 Feb;32(2):191-8.に記載の抗体のCH1とCLの会合化、VH、VLの会合化を利用した抗体作製技術、WO2008/119353やWO2011/131746に記載の別々に調製したモノクローナル抗体同士を使用して二重特異性抗体を作製する技術(Fab Arm Exchange)、WO2012/058768やWO2013/063702に記載の抗体重鎖のCH3間の会合を制御する技術、WO2012/023053に記載の二種類の軽鎖と一種類の重鎖とから構成される二重特異性抗体を作製する技術、Christophら(Nature Biotechnology Vol. 31, p 753-758 (2013))に記載の1本のH鎖と1本のL鎖からなる抗体の片鎖をそれぞれ発現する2つのバクテリア細胞株を利用した二重特異性抗体を作製する技術等を用いることもできる。
【0154】
多重特異性抗体の形成の一態様としては、上述したように、二種類のモノクローナル抗体を還元剤存在下で混合し、コアヒンジのdisulfide結合を開裂させたのちに、再会合させてヘテロ二量化した二重特異性抗体を得る方法が挙げられるが(Fab Arm Exchange)、CH3領域の相互作用界面に静電相互作用(WO2006/106905)を導入することにより、再会合時にさらに効率的にヘテロ二量化を誘起することができる(WO2015/046467)。天然型IgGを用いたFAEでは再会合がランダムに起こるため理論上50%の効率でしか二重特異性抗体が得られないが、当該方法では高収率で二重特異性抗体を製造することができる。
【0155】
また、効率的に目的の多重特異性抗体を形成させることができない場合であっても、産生された抗体の中から目的の多重特異性抗体を分離、精製することによっても、本発明の多重特異性抗体を得ることが可能である。例えば、2種類のH鎖の可変領域にアミノ酸置換を導入し等電点(pI)の差を付与することで、2種類のホモ体と目的のヘテロ抗体をイオン交換クロマトグラフィーで精製可能にする方法が報告されている(WO2007114325)。また、ヘテロ体を精製する方法として、これまでに、プロテインAに結合するマウスIgG2aのH鎖とプロテインAに結合しないラットIgG2bのH鎖からなるヘテロ二量化抗体をプロテインAを用いて精製する方法が報告されている(WO98050431、WO95033844)。更に、IgGとProteinAの結合部位であるEUナンバリング435番目および436番目のアミノ酸残基を、Tyr、HisなどのProteinAへの結合力の異なるアミノ酸に置換したH鎖を用いる、或いは、参考実施例9に記載の方法に従って取得されたProteinAへの結合力の異なるH鎖を用いることで、各H鎖とProtein Aとの相互作用を変化させ、Protein Aカラムを用いることで、ヘテロ二量化抗体のみを効率的に精製することもできる。
【0156】
また、異なる複数のH鎖に結合能を与え得る共通のL鎖を取得し、多重特異性抗体の共通L鎖として用いてもよい。このような共通L鎖と異なる複数のH鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い多重特異性IgGの発現が可能となる(Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)。共通H鎖を選択する際に、任意の異なるH鎖に対応し高い結合能を示す共通L鎖を選択する方法も利用することができる(WO2004/065611)。
【0157】
また、本発明のFc領域として、Fc領域のC末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域が適宜使用され得る。より具体的には、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4を起源とするFc領域を構成する二つのポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される446位のグリシン、及び447位のリジンが欠失したFc領域が提供される。
【0158】
これらの技術を複数、例えば2個以上組合せて用いることもできる。また、これらの技術は、会合させたい2つのH鎖に適宜別々に適用させることもできる。さらに、これらの技術は、上述のFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域に組み合わせて用いることもできる。なお、本発明の抗原結合分子は、上記改変が加えられたものをベースにして、同一のアミノ酸配列を有する抗原結合分子を別途作製したものであってもよい。
【0159】
本発明における非限定の一態様として、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む、以下の(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤を提供する。
(a) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(b) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である、二重特異性抗体、
(c) グリピカン3に対する結合活性を有し、配列番号385に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有し、配列番号402に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体H鎖、及び、配列番号410に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体。
上記(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体において、それぞれに規定されている、重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖全長、並びに軽鎖全長のアミノ酸配列同一性は、少なくとも75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%以上が好ましく、さらには、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上がより好ましい。
本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となった重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として計算することができる。
【0160】
上記(a)から(c)のいずれかに記載の二重特異性抗体において、重鎖及び軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖全長、並びに軽鎖全長のアミノ酸配列は、グリピカン3又はCD3に対する結合活性を有する限り、該アミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。該アミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されているアミノ酸配列を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いて、グリピカン3、又はCD3に対する結合活性を有する抗体のアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号402に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域と機能的に同等な変異体を調製することができる。ここで、本発明において「機能的に同等」とは、抗原に対する結合親和性が同等である、或いは、多重特異性抗原結合分子として用いられた場合に、グリピカン3が発現している細胞又は当該細胞を含む組織に対する細胞傷害活性が同等であることを意味する。結合親和性および細胞傷害活性は、本明細書の記載に基づいて測定することができるが、詳細は後述する。
【0161】
改変するアミノ酸の個数に制限はないが、例えば、40個以内、30個以内、20個以内、好ましくは18個以内、16個以内、15個以内、12個以内、10個以内、9個以内、8個以内、7個以内、6個以内、5個以内、4個以内、3個以内、または2個以内であってよい。
【0162】
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science (1984) 224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982)79:6409-13)。
【0163】
また、CDR領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖全長領域、又は軽鎖全長領域のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されており、グリピカン3又はCD3に対する結合活性を有するアミノ酸配列は、該CDR領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖全長領域、又は軽鎖全長領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸から得ることも可能である。CDR領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖全長領域、又は軽鎖全長領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するための、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M 尿素、0.4% SDS、0.5 x SSC、37℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4% SDS、0.1 x SSCの条件、42℃を用いれば、より相同性の高い核酸の単離を期待することができる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件は、例えば0.5xSSC(1xSSCは0.15 M NaCL、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)、および0.1% SDS、60℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、および0.1% SDS、60℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、および0.1% SDS、62℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、および0.1% SDS、65℃における洗浄、より好ましくは 0.1xSSC、および0.1% SDS、65℃における洗浄である。洗浄時間や回数は適宜調節してよいが、例えば20分を3回実施してよい。単離した核酸の配列の決定は、後述の公知の方法によって行うことが可能である。単離された核酸の相同性は、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0164】
上記ハイブリダイゼーション技術を利用する方法にかえて、CDR領域、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖全長領域、又は軽鎖全長領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、該領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離することも可能である。
【0165】
塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information) の BLAST (Basic Local Alignment Search Tool) のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0166】
本発明における非限定の一態様として、実施例および参考実施例に記載のサンプル番号38抗体(表17)の2つのH鎖及び共通L鎖を有する二重特異性抗体を有効成分として含む抗癌剤が提供される。また本発明における非限定の一態様として、サンプル番号38抗体の2つのH鎖及び共通L鎖の可変領域を含み、グリピカン3およびCD3に対する結合活性を有する二重特異性抗体を有効成分として含む抗癌剤が提供される。また本発明における非限定の一態様として、サンプル番号38抗体の2つのH鎖及び共通L鎖に含まれる各CDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列を含み、グリピカン3およびCD3に対する結合活性を有する二重特異性抗体を有効成分として含む抗癌剤が提供される。
【0167】
本発明における非限定の一態様として、グリピカン3に対する結合活性を有する配列番号385に記載の抗体H鎖、CD3に対する結合活性を有する配列番号402に記載の抗体H鎖、及び、配列番号410に記載の抗体の共通L鎖を有する、二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤を提供する。
【0168】
本発明の非限定の一態様として、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤を提供する。
【0169】
抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列は当業者に公知の方法で同定することができ、その方法は特に制限はない。例えばKabat、Chothia、またはContactなどの当業者に周知のナンバリングに基づくCDR1、CDR2及びCDR3領域であってよく、その他の基準に基づくCDR1、CDR2及びCDR3領域であってもよい。本発明の非限定の一態様として、配列番号206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域としては、それぞれ31-35番目(配列番号456)、50-66番目(配列番号457)、及び99-104番目(配列番号458)のアミノ酸配列の領域(Kabatのナンバリング)、あるいは、それぞれ26-32番目(配列番号459)、52-57番目(配列番号460)、及び97-104番目(配列番号461)のアミノ酸配列の領域(Chothiaのナンバリング)、あるいは、それぞれ30-35番目(配列番号462)、47-59番目(配列番号463)、及び97-103番目(配列番号464)のアミノ酸配列の領域(Contactのナンバリング)を挙げることができるが、他の基準に基づくCDR領域であってもよい。
【0170】
本発明の非限定の一態様として、配列番号168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域としては、それぞれ31-35番目(配列番号465)、50-68番目(配列番号466)、及び101-111番目(配列番号467)のアミノ酸配列の領域(Kabatのナンバリング)、あるいは、それぞれ26-32番目(配列番号468)、52-59番目(配列番号469)、及び99-111番目(配列番号470)のアミノ酸配列の領域(Chothiaのナンバリング)、あるいは、それぞれ30-35番目(配列番号471)、47-61番目(配列番号472)、及び99-110番目(配列番号473)のアミノ酸配列の領域(Contactのナンバリング)を挙げることができるが、他の基準に基づくCDR領域であってもよい。
【0171】
本発明の非限定の一態様として、配列番号223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域としては、それぞれ24-39番目(配列番号474)、55-61番目(配列番号475)、及び94-102番目(配列番号476)のアミノ酸配列の領域(KabatのナンバリングおよびChothiaのナンバリング)、あるいは、それぞれ35-41番目(配列番号477)、51-56番目(配列番号478)、及び94-101番目(配列番号479)のアミノ酸配列の領域(Contactのナンバリング)を挙げることができるが、他の基準に基づくCDR領域であってもよい(
図24-1、24-2、および25参照)。
【0172】
本発明の非限定の一態様として、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号206に記載のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域が、配列番号168に記載のアミノ酸配列であり、及び、共通L鎖の抗体可変領域が、配列番号223に記載のアミノ酸配列である、二重特異性抗体を有効成分として含む、抗癌剤を提供する。
【0173】
本発明に係る抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる多重特異性抗原結合分子は前記の、
(1)グリピカン3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、
(2)T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、及び、
(3)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、
を含むものであればよく、その構造は限定されない。
本発明において、上記の各ドメインはペプチド結合で直接連結することができる。例えば、(1)及び(2)の抗体可変領域を含むドメインとしてF(ab')2を用い、(3)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメインとしてこれらのFc領域を用いた場合に(1)及び(2)に記載された抗体可変領域を含むドメインと(3)に記載されたFc領域を含むドメインとをペプチド結合で連結したときは、連結されたポリペプチドは抗体の構造を形成する。そのような抗体を作製するためには前述のハイブリドーマの培養液から精製する他、当該抗体を構成するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが安定に保持された所望の宿主細胞の培養液から当該抗体を精製することもできる。
【0174】
本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる好ましいグリピカン3結合活性を有する抗体可変領域に含まれる抗体H鎖可変領域としては、例えば、表1に記載の抗体H鎖可変領域、或いは、CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列が表1に記載の抗体H鎖可変領域の有するCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列と同一のCDR配列を有する抗体H鎖可変領域、或いは、当該可変領域と機能的に同等の抗体H鎖可変領域が挙げられる。
【0175】
【0176】
また、本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる好ましいT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域としては、T細胞受容体に対する結合活性を有する抗体可変領域が挙げられる。T細胞受容体の中でもCD3が好ましく、特にCD3εが好ましい。そのような抗体可変領域に含まれる抗体H鎖可変領域としては、例えば、表2に記載の抗体H鎖可変領域、或いは、CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列が表2に記載の抗体H鎖可変領域の有するCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列と同一のCDR配列を有する抗体H鎖可変領域、或いは、当該可変領域と機能的に同等の抗体H鎖可変領域が挙げられる。
【0177】
【0178】
抗体H鎖アミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のCDR領域と、kabatナンバリングとの関係については
図24(
図24-1及び24-2)に例示される。
本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれるグリピカン3結合活性を有する抗体可変領域とT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域に含まれる抗体L鎖可変領域は、グリピカン3に対して結合活性を有するH鎖とT細胞受容体複合体に対して結合活性を有するH鎖の両方に結合能を与え得る共通のL鎖を取得し、これを多重特異性抗原結合分子の共通L鎖可変領域として用いることが好ましい。
本発明で用いられる共通のL鎖可変領域としては、表3に記載のL鎖可変領域、又は、CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列が表3に記載の抗体L鎖可変領域の有するCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列と同一のCDR配列を有する抗体L鎖可変領域、又は、当該可変領域と機能的に同等の抗体L可変領域が挙げられる。
【0179】
【0180】
抗体L鎖アミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のCDR領域と、kabatナンバリングとの関係については
図25に例示される。
【0181】
ここで、本発明において「機能的に同等」とは、抗原に対する結合親和性が同等である、或いは、多重特異性抗原結合分子として用いられた場合に、グリピカン3が発現している細胞又は当該細胞を含む組織に対する細胞傷害活性が同等であることを意味する。結合親和性および細胞傷害活性は、本明細書の記載に基づいて測定することができる。細胞傷害活性を測定する細胞は、GPC3が発現している所望の細胞又は当該細胞を含む所望の組織を用いてよいが、例えばGPC3を発現するヒトがん細胞株であるPC-10またはNCI-H446を用いることができる。また抗体定常領域においては、Fcγ受容体に対する結合活性の低下が同等であることでもよい。
【0182】
例えば、本願明細書に記載された抗体H鎖可変領域(元となるH鎖可変領域)と機能的に同等な抗体H鎖可変領域は、その元となるH鎖の対として本願明細書に記載されている抗体L鎖可変領域と組み合わせた場合、結合親和性が同等である、或いは、多重特異性抗原結合分子として用いられた場合に、グリピカン3が発現している細胞又は当該細胞を含む組織に対する細胞傷害活性が同等であることを意味する。また本願明細書に記載された抗体L鎖可変領域(元となるL鎖可変領域)と機能的に同等な抗体L鎖可変領域は、その元となるL鎖の対として本願明細書に記載されている抗体H鎖可変領域と組み合わせた場合、結合親和性が同等である、或いは、多重特異性抗原結合分子として用いられた場合に、グリピカン3が発現している細胞又は当該細胞を含む組織に対する細胞傷害活性が同等であることを意味する。
【0183】
また、「同等」とは、必ずしも同程度の活性である必要がなく、活性が増強されていてもよい。具体的には、抗原に対する結合親和性の場合は、対照となる抗体可変領域の結合親和性(親KD値)と比較した値(KD値/親KD値)が1.5以下の場合を挙げることができる。KD値/親KD値の値は、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.2以下、1.1以下、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、または0.5以下である。下限に制限はないが、例えば10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、または10-6 であってよい。具体的には、本発明においてKD値/親KD値の値は、10-6~1.5x10-0 が好ましく、より好ましくは10-6~10-1、より好ましくは10-6~10-2、より好ましくは10-6~10-3 である。細胞傷害活性の場合は、対照となる多重特異性抗原結合分子の細胞増殖抑制率(親細胞増殖抑制率)と比較した値(細胞増殖抑制率/親細胞増殖抑制率)が0.7以上の場合を挙げることができる。添加する多重特異性抗原結合分子の濃度は適宜決定されるが、好ましくは、例えば0.01nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、または1nM、好ましくは0.05nMまたは0.1nMで測定する。細胞増殖抑制率/親細胞増殖抑制率の値は、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.5以上、2以上、3以上、5以上、10以上、または20以上である。上限に制限はないが、例えば10、102、103、104、105、または106 であってよい。
【0184】
また細胞傷害活性の場合は、元の多重特異性抗原結合分子の細胞に対する50%増殖抑制濃度(親細胞50%増殖抑制濃度)と比較した値(細胞50%増殖抑制濃度/親細胞50%増殖抑制濃度)が1.5以下の場合を挙げることができる。50%増殖抑制濃度とは、多重特異性抗原結合分子を添加しない場合に比べ、細胞増殖率を半減させるのに必要な多重特異性抗原結合分子の濃度のことである。「細胞50%増殖抑制濃度/親細胞50%増殖抑制濃度」の値は、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.2以下、1.1以下、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、または0.5以下である。下限に制限はないが、例えば10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、または10-6 であってよい。具体的には 10-6~1.5x10-0 が好ましく、より好ましくは10-6~10-1、より好ましくは10-6~10-2、より好ましくは10-6~10-3 である。
【0185】
また、GPC3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインについては、GPC3(例えばヒトGPC3)に対するKD値は、例えば 5x10-9 M 以下であってよく、好ましくは 4x10-9M以下、例えば 3x10-9M以下、2x10-9M以下、1x10-9M以下、8x10-10M以下、5x10-10M以下、4x10-10M以下、3x10-10M以下、2x10-10M以下、1x10-10M以下、8x10-11M以下、5x10-11M以下、4x10-11M以下、3x10-11M以下、2x10-11M以下、1x10-11M以下、8x10-12M以下、5x10-12M以下、4x10-12M以下、3x10-12M以下、2x10-12M以下、1x10-12M以下、8x10-13M以下、5x10-13M以下、4x10-13M以下、3x10-13M以下、2x10-13M以下、または1x10-13M以下であってよい。
【0186】
また、T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインについては、ヒトT細胞受容体複合体、例えばヒトT細胞受容体、より具体的には例えばヒトCD3ε鎖に対するKD値は、例えば 2x10-7 M 以下であってよく、好ましくは1.5x10-7 M 以下、例えば 1.4x10-7M以下、1.3x10-7M以下、1.2x10-7M以下、1x10-7M以下、3x10-8M以下、2x10-8M以下、1x10-8M以下、8x10-9M以下、5x10-9M以下、4x10-9M以下、3x10-9M以下、2x10-9M以下、1x10-9M以下、8x10-10M以下、5x10-10M以下、4x10-10M以下、3x10-10M以下、2x10-10M以下、1x10-10M以下、8x10-11M以下、5x10-11M以下、4x10-11M以下、3x10-11M以下、2x10-11M以下、1x10-11M以下、8x10-12M以下、5x10-12M以下、4x10-12M以下、3x10-12M以下、2x10-12M以下、または1x10-12M以下である。
【0187】
本発明の多重特異性抗原結合分子は、好ましくは、ヒトGPC3およびヒトT細胞受容体複合体(例えばヒトCD3ε鎖)に対するKD値は、それぞれ5x10-9 M以下および 2x10-7 M以下であり、より好ましくは、それぞれ1x10-9 M以下および 5x10-8 M以下である。
【0188】
本発明において「機能的に同等」の抗体可変領域とは、上述の条件を満たす抗体H鎖可変領域及び/又は抗体L鎖可変領域であれば特に限定されない。そのような抗体可変領域として、例えば、上述の表1~3に記載の可変領域のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸(例えば1、2、3、4、5または10アミノ酸)が置換、欠失、付加及び/又は挿入されていてもよい。アミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いてアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、上述の機能を有する抗体可変領域と機能的に同等な可変領域を調製することができる。
【0189】
アミノ酸残基を改変する場合には、前述の通りアミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。このようなアミノ酸改変を含む本発明の可変領域は、改変前の可変領域のCDR配列、FR配列又は可変領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップを導入した後、元となったH鎖可変領域又はL鎖可変領域のアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。アミノ酸配列の同一性は、後述の方法により決定することができる。
【0190】
また、「機能的に同等の抗体可変領域」には、例えば、上述の表1~3に記載の可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸から得ることも可能である。可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するための、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、前述の通り6 M尿素、0.4% SDS、0.5 x SSC、37℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6 M尿素、0.4% SDS、0.1 x SSC、42℃の条件を用いれば、より相同性の高い核酸の単離を期待することができる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件は、前述の通り例えば0.5xSSC(1xSSCは0.15 M NaCL、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)、および0.1% SDS、60℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、および0.1% SDS、60℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、および0.1% SDS、62℃における洗浄、より好ましくは 0.2xSSC、および0.1% SDS、65℃における洗浄、より好ましくは 0.1xSSC、および0.1% SDS、65℃における洗浄である。単離した核酸の配列の決定は、後述の公知の方法によって行うことが可能である。単離された核酸の相同性は、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
上記ハイブリダイゼーション技術を利用する方法にかえて、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離することも可能である。
【0191】
塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、前述の通りKarlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information)の BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0192】
本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる多重特異性抗原結合分子に含まれるグリピカン3結合活性を有する抗体可変領域とT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域の組合せは、上述の活性を有する限り特に限定されないが、本発明においては、多重特異性抗原結合分子の細胞傷害活性が、参考実施例3に記載の二重特異性抗体GPC3_ERY22_rCE115と同等又はそれ以上である抗原結合分子が好ましい。ここで、「同等」とは、上述の通り、必ずしも同程度の活性である必要がなく、活性が増強されていてもよい。GPC3_ERY22_rCE115と比較して同等とは、GPC3_ERY22_rCE115の細胞増殖抑制率(細胞増殖抑制率(GPC3_ERY22_rCE115))と比較した値(細胞増殖抑制率/細胞増殖抑制率(GPC3_ERY22_rCE115))が0.7以上、好ましくは0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.5以上、2以上、3以上、5以上、10以上、または20以上の場合を挙げることができる。上限に制限はないが、例えば10、102、103、104、105、または106 であってよい。添加する多重特異性抗原結合分子の濃度は適宜決定されるが、好ましくは、例えば0.01nM、0.05nM、0.1nM、0.5nM、または1nM、好ましくは0.05nMまたは0.1nMで測定する。
【0193】
また、GPC3_ERY22_rCE115の細胞に対する50%増殖抑制濃度(50%増殖抑制濃度(GPC3_ERY22_rCE115))と比較した値(細胞50%増殖抑制濃度/細胞50%増殖抑制濃度(GPC3_ERY22_rCE115))が1.5以下の場合を挙げることができる。「細胞50%増殖抑制濃度/細胞50%増殖抑制濃度(GPC3_ERY22_rCE115)」の値は、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.2以下、1.1以下、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、または0.5以下である。下限に制限はないが、例えば10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、または10-6 であってよい。具体的には 10-6~1.5x10-0 が好ましく、より好ましくは10-6~10-1、より好ましくは10-6~10-2、より好ましくは10-6~10-3 である。
また、ヒトGPC3およびヒトT細胞受容体複合体(例えばヒトCD3ε鎖)に対する好ましい具体的なKD値についても、上記に示した通りである。また、細胞は、GPC3が発現している所望の細胞又は当該細胞を含む所望の組織を用いてよいが、例えばGPC3を発現するヒトがん細胞株であるPC-10またはNCI-H446を用いることができる。
【0194】
そのようなグリピカン3結合活性を有する抗体可変領域とT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域の組合せとしては、例えば、表4に記載の抗体H鎖可変領域の組合せ、或いは、CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列が表4に記載の抗体H鎖可変領域の有するCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列と同一のCDR配列を有する抗体H鎖可変領域の組合せ、或いは、当該可変領域と機能的に同等の抗体H鎖可変領域の組合せが挙げられる。ここで「機能的に同等」とは、上述に記載の通りである。
【0195】
【0196】
そのようなグリピカン3結合活性を有する抗体可変領域とT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域の組合せに対して、好ましい共通L鎖としては、例えば、L0000、 L0011、L0201、L0203、L0204、L0206、L0208、L0209、L0211、L0212、L0222、或いは、共通L鎖のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列が、これら共通L鎖のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列と同一のCDR配列を有する共通L鎖を挙げることができる。具体的な組合せとしては、例えば、表5に記載の抗体H鎖可変領域及び共通L鎖の組合せ、或いは、CDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列が表5に記載の抗体可変領域及び共通L鎖の有するCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列と同一のCDR配列を有する抗体可変領域の組合せ、或いは、当該可変領域と機能的に同等の抗体H鎖可変領域及び共通L鎖の組合せが挙げられる。ここで「機能的に同等」とは、上述に記載の通りである。
【0197】
【0198】
本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる多重特異性抗原結合分子に含まれるFc領域は、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である限り特に制限されないが、本発明の好ましいFc領域としては、例えば、E22HhのFc領域部分とE22HkのFc領域部分の組合せ、E2702GsKscのFc領域部分とE2704sEpscのFc領域部分の組合せ、E2702sKscのFc領域部分とE2704sEpscのFc領域部分の組合せを挙げることができる。
【0199】
本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる好ましい多重特異性抗原結合分子としては、グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域と、CD3εに対する結合活性を有する抗体可変領域を有する二重特異性抗体が挙げられる。より好ましくは、二重特異性抗体であるGPC3_ERY22_rCE115と比較して、細胞傷害活性が同等又はそれ以上であることが好ましい。そのような二重特異性抗体としては、例えば、表17に記載のH鎖およびL鎖を有する二重特異性抗体、又は、当該抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合し、上述のFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を有する二重特異性抗体を挙げることができる。
【0200】
ここで、ある抗体が他の抗体と重複するエピトープを認識するか否かは、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競合結合アッセイによって評価することができ、その手段として酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))などが挙げられる。抗原に結合した該抗体の量は、重複するエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、重複するエピトープに対する被検抗体の量や親和性が大きくなるほど、該抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした該抗体と評価すべき抗体を同時に添加し、標識を利用して結合している該抗体を検出する。抗原に結合した該抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放射標識、酵素標識などが挙げられる。
例えば、GPC3またはCD3εを固相化したビーズに蛍光標識した該抗体と、非標識の該抗体あるいは被検抗体を同時に添加し、標識された該抗体を蛍光微量測定技術によって検出する。
【0201】
ここでいう「重複するエピトープに結合する抗体」とは、標識該抗体に対して、非標識の該抗体の結合により結合量を50%低下させる濃度(IC50)に対して、被検抗体が非標識該抗体のIC50の通常、100倍、好ましくは80倍、さらに好ましくは50倍、さらに好ましくは30倍、より好ましくは10倍高い濃度で少なくとも50%、標識該抗体の結合量を低下させることができる抗体である。
上述の抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体の抗原結合部位を有する多重特異性抗原結合分子は、優れた細胞傷害活性を得ることが可能である。
【0202】
本発明の多重特異性抗原結合分子は前記組換え抗体の製造方法と同じ手法により作製される。
【0203】
併用療法及び医薬組成物
本発明における非限定の一態様において、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体と他の抗癌剤の有効量を投与することを含む、細胞を傷害する、細胞増殖を抑制する、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に対する免疫を活性化する、癌を治療する、または癌を予防する方法を提供する。いくつかの実施態様において、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体または他の抗癌剤の単独療法と比較して、細胞を傷害する、細胞増殖を抑制する、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に対する免疫を活性化する、癌を治療する、または癌を予防する効果が高い。別の実施態様において、本発明の併用療法は、細胞を傷害する、細胞増殖を抑制する、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に対する免疫を活性化する、癌を治療する、または癌を予防する相乗効果または相加効果を有する。
【0204】
いくつかの実施態様において、本発明における「有効量」は、個体における疾患を治療または予防するために有効な上述した二重特異性抗体および/または他の抗癌剤の用量を意味する。前記疾患は特に限定されないが、好ましくは癌である。
【0205】
いくつかの実施態様において、本発明における「治療」は、本発明の併用療法によって、個体の癌細胞数が減少すること、癌細胞の増殖が抑制されること、腫瘍のサイズが減少すること、末梢器官への癌細胞の浸潤を抑制すること、癌細胞の転移を抑制すること、または癌に起因する様々な症状が改善されることを意味する。また、いくつかの実施態様において、本発明における「予防」は、減少した癌細胞が再度増殖することによる癌細胞数の増加を防止すること、増殖が抑制された癌細胞の再増殖を防止すること、減少した腫瘍のサイズが再度増大することを防止すること、を意味する。
【0206】
いくつかの実施態様において、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体を使用することにより、他の抗癌剤による癌の治療または予防に際して、当該他の抗癌剤の治療または予防効果を増強する方法を提供する。別の実施態様において、本発明の併用療法は、他の抗癌剤を使用することにより、上述した二重特異性抗体による癌の治療に際して、当該二重特異性抗体の治療または予防効果を増強する方法を提供する。ここで、治療または予防効果の増強とは、例えば、治療の奏功率が上昇すること、治療のために投与される抗癌剤の量が低減すること、および/または、抗癌剤による治療期間が短くなることをいうが、これらに限定されない。別の実施態様においては、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体および他の抗癌剤の有効量を投与することを含む、個体において無増悪生存期間を増加させる方法を提供する。
【0207】
いくつかの実施態様において、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体と他の抗癌剤の投与を含む。該二重特異性抗体と他の抗癌剤は、当技術分野で公知の任意の適切な方法で投与することができる。例えば、該二重特異性抗体及び他の抗癌剤を、並行して(すなわち同時に)または連続して(すなわち異なる時点で)投与することができる。いくつかの実施態様において、該二重特異性抗体及び他の抗癌剤を連続して(すなわち異なる時点で)投与する場合、該二重特異性抗体と他の抗癌剤の投与間隔は特に限定されず、投与経路や剤型等の要因が考慮されて設定され得る。例えば、0時間~168時間であり、好ましくは0時間~72時間であり、また好ましくは0~24時間であり、さらに好ましくは0時間~12時間であるが、これらに限定されない。
【0208】
いくつかの実施態様では、上述した二重特異性抗体と他の抗癌剤は同時投与される。いくつかの実施態様では、該二重特異性抗体は間欠的に(すなわち断続的に)投与される。いくつかの実施態様では、該二重特異性抗体は、他の抗癌剤の投与前に投与される。いくつかの実施形態では、該二重特異性抗体は、他の抗癌剤の投与後に投与される。
【0209】
いくつかの実施態様では、他の抗癌剤は間欠的に(すなわち断続的に)投与される。いくつかの実施態様では、他の抗癌剤は、該二重特異性抗体の投与前に投与される。いくつかの実施態様では、他の抗癌剤は、該二重特異性抗体の投与後に投与される。
【0210】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の二重特異性抗体、および公知または本明細書に記載の抗癌剤が、上記二重特性抗体と他の抗癌剤の併用療法に使用され得る。
【0211】
いくつかの実施態様においては、上述した二重特異性抗体および他の抗癌剤の併用療法に加えて、さらに追加療法を行うことができる。いくつかの実施態様において、本発明の併用療法に追加する療法には、追加の該二重特異性抗体および/または他の抗癌剤の投与を含んでもよい。
【0212】
本発明の非限定の一態様として、本発明は、上述した二重特異性抗体、他の抗癌剤、または該二重特異性抗体と他の抗癌剤を組み合わせてなる、細胞傷害誘導剤、細胞増殖抑制剤(細胞増殖阻害剤)、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に対する免疫応答活性化剤、癌治療剤または癌予防剤(以下、医薬組成物等)を提供する。いくつかの実施態様において、本発明の医薬組成物等は、本発明の併用療法に用いられ得る。いくつかの実施態様において、本発明の医薬組成物等は、上述した二重特異性抗体と他の抗癌剤が併用されることにより、これらの単独療法と比較して、細胞を傷害する、細胞増殖を抑制する、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に対する免疫を活性化する、または癌を治療もしくは予防する効果が高い。別の実施態様において、本発明の医薬組成物は、上述した二重特異性抗体と他の抗癌剤が併用されることにより、細胞を傷害する、細胞増殖を抑制する、癌細胞もしくは癌細胞を含む腫瘍組織に対する免疫を活性化する、または癌を治療もしくは予防する相乗効果または相加効果を有する。
【0213】
いくつかの実施態様において、本発明における「二重特異性抗体と他の抗癌剤を組み合わせてなる」医薬組成物等とは、上述した二重特異性抗体および他の抗癌剤を、疾患の治療または予防において同時に、別々に、または、順次に投与するために組み合わせた医薬組成物等を意味する。例えば、本発明の医薬組成物等は、二重特異性抗体および他の抗癌剤が共に含有される配合剤の形で提供することができる。また、例えば、本発明の医薬組成物等は、二重特異性抗体を含有する薬剤と他の抗癌剤を含有する薬剤とが別々に提供され、これらの薬剤が、同時に、または順次に使用されてもよい。前記疾患は特に限定されないが、好ましくは癌である。
【0214】
いくつかの実施態様において、本発明は、上述した二重特異性抗体を有効成分として含む、他の抗癌剤と併用するための医薬組成物等を提供する。
いくつかの実施態様において、本発明は、他の抗癌剤を有効成分として含む、上述した二重特異性抗体と併用するための医薬組成物等を提供する。
【0215】
いくつかの実施態様において、本発明は、上述した二重特異性抗体を他の抗癌剤と組み合わせることにより、他の抗癌剤による癌の治療に際して、当該他の抗癌剤の治療効果を増強するための医薬組成物等を提供する。
いくつかの実施態様において、本発明は、他の抗癌剤を上述した二重特異性抗体と組み合わせることにより、二重特性抗体による癌の治療に際して、当該二重特異性抗体の治療効果を増強するための医薬組成物等を提供する。
【0216】
いくつかの実施態様において、本発明は、上述した二重特異性抗体および/またはその他抗癌剤を有効成分として含む医薬組成物等を製造するための該二重特異性抗体および/またはその他の抗癌剤の使用を提供する。
【0217】
なお、本発明において、上述した二重特異性抗体および/またはその他の抗癌剤を有効成分として含むとは、該二重特異性抗体および/またはその他の抗癌剤を主要な活性成分として含むという意味であって、該二重特異性抗体および/またはその他の抗癌剤の含有率を制限するものではない。
【0218】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の二重特異性抗体および公知または本明細書に記載の他の抗癌剤が、上記医薬組成物等に使用され得る。
【0219】
本発明における非限定の一態様において、前記他の抗癌剤としては、ナイトロジェンマスタードアナログ(Nitrogen mustard analogues)、スルホン酸アルキル(Alkyl sulfonates)、エチレンイミン(Ethylene imines)、ニトロソウレア(Nitrosoureas)、エポキシ化合物(Epoxides)、その他アルキル化剤、葉酸アナログ(Folic acid analogues)、プリンアナログ(Purine analogues)、ピリミジンアナログ(Pyrimidine analogues)、その他代謝拮抗剤、ビンカアルカロイド若しくはそのアナログ(Vinca alkaloids or analogues)、ポドフィロトキシン誘導体(Podophyllotoxin derivatives)、カンプトテシンアナログ(Camptothecan analogs)、コルヒチン誘導体(Colchicine derivatives)、タキサン(Taxanes)、その他植物アルカロイド若しくは天然物質、アクチノマイシン(Actinomycines)、アントラサイクリン若しくはその関連物質(Anthracyclines or related substances)、その他細胞傷害性抗生物質、プラチナ製剤(Platinum compounds)、メチルヒドラジン(Methylhydrazines)、キナーゼ阻害剤(Kinase inhibitors)、血管新生阻害剤、ホルモン剤、DNA修飾酵素阻害剤、免疫賦活剤、プロテオソーム阻害剤、酵素(Enzymes)、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(Histone Deacetylase Inhibitors)、DNA修飾酵素阻害剤、サイトカイン製剤、レチノイド(Retinoids)、免疫チェックポイント阻害剤、Indoleamine 2,3-Dioxygenase(IDO)阻害剤、co-stimulatory分子活性化剤、ナチュラルキラー細胞活性化剤、モノクローナル抗体、その他分子標的薬、またはそれ以外の抗癌剤が挙げられるが、これらに限定されることはない。非限定の一態様として、本発明における他の抗がん剤の例としては、WO2015/174439やWO2015/156268に記載されている抗体等を挙げることができるが、これに限定されることはない。
【0220】
いくつかの実施態様において、本発明における「免疫チェックポイント」とは、免疫担当細胞(T細胞を含む)上に発現し、リガンドと結合することによって、当該免疫担当細胞に対し免疫応答を阻害するシグナルを伝達する分子をいう。免疫チェックポイントおよびそのリガンドには、例えば、PD-1、CTLA-4、TIM3、LAG3、PD-L1、PD-L2, BTNL2, B7-H3, B7-H4, CD48, CD80, 2B4, BTLA, CD160, CD60, CD86, またはVISTA等の分子が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、本発明における「免疫チェックポイント阻害剤」とは、免疫チェックポイントとそのリガンドとの結合を阻害することにより、当該免疫チェックポイントによるシグナル伝達を阻害する薬剤をいう。
【0221】
本発明の非限定の一態様として、前記他の抗癌剤が、化学療法剤、T細胞活性化アゴニスト剤、免疫チェックポイント阻害剤、又は血管新生阻害剤である、医薬組成物が提供される。
【0222】
本発明における非限定の一態様として、化学療法剤としては、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、又はプラチナ製剤が挙げられるが、これらに限定されることはない。代謝拮抗剤の好適な例として、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、ゲムシタビン、シタラビン、 テガフール、テガフール・ウラシル、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサートが挙げられるが、これに限定されることはない。特に好ましい代謝拮抗剤の例としては、カペシタビンが挙げられる。植物アルカロイドの好適な例として、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチンが挙げられるが、これに限定されることはない。特に好ましい植物アルカロイドの例としては、パクリタキセルが挙げられる。プラチナ製剤の好適な例として、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチンが挙げられるが、これに限定されることはない。特に好ましいプラチナ製剤の例として、シスプラチンが挙げられる。
【0223】
本発明における非限定の一態様として、T細胞活性化アゴニスト剤としては、TNF受容体スーパーファミリー(TNFRSF)のアゴニスト抗体、あるいはco-stimulatory分子のアゴニスト抗体が挙げられるが、これらに限定されることはない。「TNF受容体スーパーファミリーのアゴニスト抗体」の標的分子としては、TNF受容体スーパーファミリーを発現する細胞(例えば、T細胞やNK細胞など)を活性化する因子である限り特に制限されないが、好ましくは、「TNFスーパーファミリー」又は「TNF受容体スーパーファミリー」に属する因子である。「TNFスーパーファミリー」又は「TNF受容体スーパーファミリー」に属する因子としては、様々な免疫細胞の活性化に寄与する、3量体構造を有するリガンドと当該リガンドが結合する3量体構造のレセプターが知られている(Nat. Rev. Immunol., 2012, 12, 339-51)。TNFスーパーファミリー又はTNF受容体スーパーファミリーに属する因子としては、例えば、CD137、CD137L、CD40、CD40L、OX40、OX40L、CD27、CD70、HVEM、LIGHT、RANK、RANKL、CD30、CD153、GITR、GITRL, TNFRSF25, TL1Aが挙げられる。好ましい因子としては、例えばCD137が挙げられる。例えば、CD137アゴニスト抗体の例としては、Urelumab(CAS登録番号:934823-49-1)、PF-05082566や種々の公知のCD137アゴニスト抗体を挙げることができる。
【0224】
co-stimulatory分子に属する因子としては、TMIGD2, HHLA2, ICOS, ICOSligand, CD28, CD80, CD86などが挙げられる。OX40アゴニスト抗体の例としては、MOXR0916、MEDI6469、MEDI0562、MEDI6383、PF-04518600、GSK-3174998や種々の公知のOX40アゴニスト抗体を挙げることができる。CD40アゴニスト抗体の例としては、RG-7876、ADC-1013、SEA-CD40、APX005M、Dacetuzumabや種々の公知のCD40アゴニスト抗体を挙げることができる。GITRアゴニスト抗体の例としては、AMG228、AMK-1248、MK-4166、BMS-986156、TRX518や種々の公知のGITRアゴニスト抗体を挙げることができる。CD27アゴニスト抗体の例としては、Varlilumab(CAS登録番号:1393344-72-3)や種々の公知のCD27アゴニスト抗体を挙げることができる。
【0225】
本発明における非限定の一態様として、免疫チェックポイント阻害剤の好適な例としては、PD1抗体、PDL1抗体、CTLA-4抗体、TIM3抗体又はLAG3抗体が挙げられるが、これに限定されることはない。例えば、PD-1抗体の例としては、Pembrolizumab(CAS登録番号:1374853-91-4)、Nivolumab(CAS登録番号:946414-94-4)、MEDI0680、PDR001、BGB-A317、REGN2810、SHR-1210、PF-06801591や種々の公知のPD1抗体を挙げることができる。PD-L1抗体の例としては、Atezolizumab(CAS登録番号:1380723-44-3)、Avelumab(CAS登録番号:1537032-82-8)、Durvalumab(CAS登録番号:1428935-60-7)、MDX-1105や種々の公知のPD-L1抗体を挙げることができる。CTLA-4抗体の例としては、Ipilimumab(CAS登録番号:477202-00-9), Tremelimumab(CAS登録番号:745013-59-6)や種々の公知のCTLA-4抗体を挙げることができる。TIM3抗体の例としては、MBG452や種々の公知のTIM3抗体を挙げることができる。LAG3抗体の例としては、BMS-986016、LAG525や種々の公知のLAG3抗体を挙げることができる。
【0226】
本発明における非限定の一態様として、血管新生阻害剤の好適な例としては、VEGFR2抗体を挙げることができるが、これに限定されることはない。例えば、血管新生阻害剤の例としては、ベバシズマブ、ソラフェニブ、エベロリムス、テムシロリムスや種々の公知の血管新生阻害剤を挙げることができる。
【0227】
いくつかの実施態様において、本発明における他の抗がん剤は、本発明の二重特異性抗体と併用した場合に、当該他の抗癌剤の治療もしくは予防効果が増強されるもの、または当該二重特異性抗体の治療もしくは予防効果が増強されるものであればいずれも使用することができ、特に限定されない。
【0228】
本発明における非限定の一態様として、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体と、少なくとも1つの他の治療薬、免疫調節薬、がん治療ワクチン、養子T細胞療法、Treg除去などを含んでもよいが、これらに限定されない。好適ながん治療ワクチンとしては、全腫瘍細胞ワクチン、腫瘍抗原ワクチン、ベクターベースのワクチン、腫瘍溶解性ウイルスワクチンおよび樹状細胞ワクチンが挙げられるが、これらに限定されない。上述した療法の他に、外科的手術、放射線療法等を併用する集学的治療が行われてもよい。
【0229】
本発明における非限定の一態様として、本発明の併用療法は、上述した二重特異性抗体と、抗腫瘍免疫応答増強薬としてサイトカインを使用したサイトカイン療法と併せて行われてもよく、このような療法としては、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-27、GM-CSF、IFNα(インターフェロン-α)、IFNα-2b、IFNβ、IFNγなどのサイトカインが挙げられるが、これらに限定されない。
【0230】
本発明における非限定の一態様として、上述の医薬組成物を含む、細胞傷害誘導剤、細胞増殖抑制剤、細胞増殖阻害剤、免疫応答活性化剤、癌治療剤または癌予防剤を提供する。
【0231】
いくつかの実施態様において、上述した二重特異性抗体及び/又は他の抗癌剤を投与する「個体」は、ヒト又は非ヒト哺乳動物、例えばウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、又はネコを含む哺乳動物を意味する。好ましくは、個体はヒトである。個体には患者(ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む)が含まれる。いくつかの実施態様において、当該個体は、癌細胞又は癌細胞を含む腫瘍組織を有する患者である。本発明における抗癌剤、又は併用療法の対象となる癌細胞又は癌細胞を含む腫瘍組織は、グリピカン3が発現している限りは、特に限定されない。本発明における好ましいグリピカン3発現細胞、すなわちグリピカン3陽性の細胞は、癌細胞である。より好ましい癌種として、例えば、胃癌(Gastric)、頭頸部癌(H&N)、食道癌(Esophageal)、肺癌(Lung)、肝臓癌(Liver)、卵巣癌(Ovary)、乳癌(Breast)、結腸癌(Colon)、腎臓癌(Kidney)、皮膚癌(Skin)、筋腫瘍(Muscle)、膵臓癌(Pancreas)、前立腺癌(Prostate)、精巣癌(Testis)、子宮癌(Uterine)、胆管癌(Cholangiocarcinoma)、メルケル細胞癌(Merkel cell)、膀胱癌(Bladder)、甲状腺癌(Thyroid)、神経鞘腫(schwannoma)、副腎癌(Adrenal gland)、肛門癌(Anus)、中枢神経系腫瘍(Central nervous system)、神経内分泌組織腫瘍(Neuroendocrine tissues)、陰茎癌(Penis)、胸膜腫瘍(Pleura)、唾液腺腫瘍(Salivary gland)、外陰癌(Vulva)、胸腺腫(thymoma)、小児癌(ウィルムス腫瘍(Wilms tumor)、神経芽細胞腫(neuroblastoma)、肉腫(Sarcoma)、肝芽腫(hepatoblastome)、胚細胞腫瘍(germ cell tumor))が挙げられるが、これに限定されることはない。さらに好ましい癌種としては、胃癌(Gastric)、頭頸部癌(H&N)、食道癌(Esophageal)、肺癌(Lung)、肝臓癌(Liver)、卵巣癌(Ovary)、乳癌(Breast)、結腸癌(Colon)、腎臓癌(Kidney)、皮膚癌(Skin)、筋腫瘍(Muscle)、膵臓癌(Pancreas)、前立腺癌(Prostate)、精巣癌(Testis)、子宮癌(Uterine)が挙げられるが、これに限定されることはない。(Tumori. (2012) 98, 478-484; Tumor Biol. (2015) 36, 4671-4679; Am J Clin Pathol (2008) 130, 224-230; Adv Anat Pathol (2014) 21, 450-460; Med Oncol (2012) 29, 663-669; Clinical Cancer Research (2004) 10, 6612-6621; Appl Immunohistochem Mol Morphol (2009) 17, 40-46; Eur J Pediatr Surg (2015) 25, 138-144; J Clin Pathol (2011) 64, 587-591; Am J Surg Pathol (2006) 30, 1570-1575; Oncology (2007) 73, 389-394; Diagnostic Pathoogy (2010) 64, 1-6; Diagnostic Pathoogy (2015) 34, 1-6; Am J Clin Pathol (2008) 129, 899-906; Virchows Arch (2015) 466, 67-76)
【0232】
いくつかの実施形態において、患者は、上述した二重特異性抗体と他の抗癌剤の併用療法より前に、該二重特性抗体および/または何らかの抗癌剤治療を受けたことがある患者である。いくつかの実施形態において、患者は、標準療法を受けることが出来ない、又は標準療法が有効でない患者である。いくつかの実施態様において、患者が有する癌は初期または末期である。
【0233】
なお、本明細書に記載の「癌」は、卵巣癌、胃癌等の上皮性の悪性腫瘍のみならず、慢性リンパ性白血病やホジキンリンパ腫等の造血器がんを含む非上皮性の悪性腫瘍も意味するものとし、本明細書において、「がん(cancer)」、「癌(carcinoma)」、「腫瘍(tumor)」、「新生物(neoplasm)」等の用語は互いに区別されず、相互に交換可能である。
【0234】
さらには、いくつかの実施形態において、本発明における抗癌剤、又は医薬組成物(併用療法)の対象となる癌種としては、1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数が100以上の癌種が好ましく、1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数が200以上、300以上、400以上、500以上、600以上、700以上、800以上、900以上、1000以上、1200以上、1400以上、1600以上、1800以上、2000以上の癌種がより好ましく、1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数が3000以上、4000以上、5000以上、6000以上、7000以上、8000以上、9000以上、10000以上、20000以上、30000以上、40000以上、50000以上の癌種がさらに好ましい。
【0235】
1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数を測定する手法は、本明細書に記載された方法のほか、当業者公知の手法を用いて適宜測定することが可能であるが、例えば、細胞表面上のGPC3のantibody binding capacity (ABC)をQIFIKIT (DAKO)を用いてフローサイメトリーにより算出することもできる。本発明の抗癌剤又は、医薬組成物が投与される対象であるか否かを決定するために、対象の候補から単離された組織標品における、1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数が決定され得る。当該標品において、1細胞あたりの細胞表面上のグリピカン3抗原数が上述した基準を満たす場合は、当該標品が由来する対象が本発明における抗癌剤、又は医薬組成物(併用療法)が投与される対象となり得る。
【0236】
本発明における非限定の一態様として、本発明の抗癌剤は、免疫チェックポイント阻害剤による処置に対して不応性の癌を有する患者を治療するために用いられることができる。例えば、グリピカン3陽性の癌を有する患者であって、免疫チェックポイント阻害剤の投与により所望の薬効が認められなかった患者に対して、本発明の抗癌剤による治療をすることができる。言い換えると、免疫チェックポイント阻害剤による療法既治療のグリピカン3陽性の癌に対して、本発明の抗癌剤による治療をすることができる。
【0237】
本発明における非限定の一態様として、本発明の医薬組成物(併用療法)は、免疫チェックポイント阻害剤による処置に対して不応性の癌を有する患者を治療するために用いられることができる。例えば、GPC陽性の癌を有する患者であって、免疫チェックポイント阻害剤の投与により所望の薬効が認められなかった患者に対して、本発明の医薬組成物(併用療法)による治療をすることができる。言い換えると、免疫チェックポイント阻害剤による療法既治療のグリピカン3陽性の癌に対して、本発明の医薬組成物(併用療法)による治療をすることができる。該医薬組成物に含まれる他の抗癌剤の好適な例としては、免疫チェックポイント阻害剤を挙げることができるが、これに限定されることはない。
【0238】
本発明における非限定の一態様として、本発明の医薬組成物(併用療法)は、本発明の抗癌剤による処置に対して不応性の癌を有する患者を治療するために用いられることができる。例えば、GPC陽性の癌を有する患者であって、本発明の抗癌剤を投与後に該抗癌剤に対して耐性となった患者、又は本発明の抗癌剤の投与により所望の薬効が認められなかった患者に対して、本発明の医薬組成物(併用療法)による治療をすることができる。言い換えると、本発明の抗癌剤療法既治療のグリピカン3陽性の癌に対して、本発明の医薬組成物(併用療法)による治療をすることができる。該医薬組成物に含まれる他の抗癌剤の好適な例としては、免疫チェックポイント阻害剤を挙げることができるが、これに限定されることはない。
グリピカン3陽性の癌(グリピカン3の発現が確認された癌)に関しては、免疫組織染色法やフローサイトメトリー法等の当業者公知の方法により当業者が適宜検査し、グリピカン3陽性であると判断することが可能である。
【0239】
別の観点においては、本発明は、(1)グリピカン3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、(2)T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、及び(3)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、を含む多重特異性抗原結合分子を有効成分として含有する抗癌剤を提供する。
【0240】
本発明において、「(1)グリピカン3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、(2)T細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン、及び、(3)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、を含む多重特異性抗原結合分子を有効成分として含有する」とは、当該抗原結合分子を主要な活性成分として含むという意味であり、当該抗原結合分子の含有率を制限するものではない。
【0241】
また、必要に応じ本発明の多重特異性抗原結合分子はマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入され、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とされ得る("Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、当該方法は本発明の多重特異性抗原結合分子に適用され得る(J.Biomed.Mater.Res. (1981) 15, 267-277、Chemtech. (1982) 12, 98-105、米国特許第3773719号、欧州特許公開公報EP58481号・EP133988号、Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
【0242】
本発明の医薬組成物、あるいは抗癌剤は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。例えば注射投与によって本発明の医薬組成物、あるいは抗癌剤が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001 mg/bodyから100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択され得る。当該投与量は、例えば医薬組成物に有効成分として含まれる本発明の多重特異性抗原結合分子の量としてであってよい。しかしながら、本発明の医薬組成物、あるいは抗癌剤はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0243】
本発明の医薬組成物、あるいは抗癌剤は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。更にこれらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
【0244】
また、非限定の一態様において、本発明は、グリピカン3抗原を発現する細胞と当該抗原に結合する本発明の多重特異性抗原結合分子及び他の抗癌剤とを接触させることにより当該抗原の発現細胞、又は、当該発現細胞を含む腫瘍組織に傷害を引き起こす方法、或いは、該細胞又は腫瘍組織の増殖を抑制する方法を提供する。当該抗原に結合する多重特異性抗原結合分子は、本発明の抗癌剤に含有される当該抗原に結合する本発明の抗原結合分子として上述したとおりである。当該抗原に結合する本発明の多重特異性抗原結合分子が結合する細胞は、当該抗原が発現している細胞であれば特に限定されない。
【0245】
本発明において「接触」は、例えば、試験管内で培養しているGPC3抗原発現細胞の培養液に、当該抗原に結合する本発明の多重特異性抗原結合分子及び他の抗癌剤を添加することにより行われる。この場合において、添加される抗原結合分子及び/又は他の抗癌剤の形状としては、溶液又は凍結乾燥等により得られる固体等の形状が適宜使用され得る。水溶液として添加される場合にあっては純粋に本発明の多重特異性抗原結合分子のみを含有する水溶液であり得るし、例えば上記記載の界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液でもあり得る。添加する濃度は特に限定されないが、培養液中の最終濃度として、好ましくは1 pg/mlから1 g/mlの範囲であり、より好ましくは1 ng/mlから1 mg/mlであり、更に好ましくは1μg/mlから1 mg/mlが好適に使用され得る。
【0246】
また本発明において「接触」は更に、別の態様では、GPC3抗原の発現細胞を体内に移植した非ヒト動物や、内在的に当該抗原を発現する細胞を有する動物に投与することによっても行われる。投与方法は経口、非経口投与のいずれかによって実施できる。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。例えば注射投与によって本発明の医薬組成物、あるいは抗癌剤が全身または局部的に投与できる。また、被験動物の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。水溶液として投与される場合にあっては純粋に本発明の多重特異性抗原結合分子のみを含有する水溶液であってもよいし、例えば上記記載の界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液であってもよい。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。当該投与量は、例えば医薬組成物に有効成分として含まれる本発明の多重特異性抗原結合分子の量としてであってよい。しかしながら、本発明の多重特異性抗原結合分子の投与量はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0247】
本発明の多重特異性抗原結合分子及び他の抗癌剤の接触によって当該抗原結合分子を構成するグリピカン3結合活性を有する抗体可変領域を有するドメインが結合するグリピカン3抗原を発現する細胞に引き起こされた細胞傷害を評価又は測定する方法として、以下の方法が好適に使用される。試験管内において該細胞傷害活性を評価又は測定する方法としては、細胞傷害性T細胞活性などの測定法を挙げることができる。本発明の多重特異性抗原結合分子がT細胞性傷害活性を有するか否か、公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter 7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993)等)。活性の測定に際しては、グリピカン3とは異なる抗原であって試験に使用する細胞が発現していない抗原に結合する抗原結合分子を、本発明の多重特異性抗原結合分子と同様に対照として使用して、本発明の多重特異性抗原結合分子が対照として使用された抗原結合分子よりも強い細胞傷害活性を示すことにより活性が判定され得る。
【0248】
また、生体内で細胞傷害活性を評価又は測定するために、例えばグリピカン3抗原を発現する細胞を、非ヒト被験動物の皮内又は皮下に移植後、当日又は翌日から毎日又は数日間隔で被験抗原結合分子及び/又は他の抗癌剤を静脈又は腹腔内に投与される。腫瘍の大きさを経日的に測定することにより当該腫瘍の大きさの変化の差異が細胞傷害活性と規定され得る。試験管内での評価と同様に対照となる抗原結合分子が投与され、本発明の抗原結合分子の投与群における腫瘍の大きさが対照抗原結合分子の投与群における腫瘍の大きさよりも有意に小さいことが細胞傷害活性を有すると判定され得る。
【0249】
グリピカン3抗原を発現する細胞の増殖に対する抑制効果を評価又は測定する方法としては、アイソトープラベルしたthymidineの細胞へ取込み測定やMTT法が好適に用いられる。また、生体内で細胞増殖抑制活性を評価又は測定する方法として、上記記載の生体内において細胞傷害活性を評価又は測定する方法と同じ方法を好適に用いることができる。
【0250】
キット
いくつかの実施態様において、本発明は、(1)上述した二重特異性抗体、(2)容器、(3)個体におけるがんを治療するために前記二重特異性抗体と少なくとも一種の抗癌剤とを組み合わせて被験者に投与することを示す指示書またはラベル、を含むキットを提供する。別の実施態様において、本発明は、(1)他の抗癌剤、(2)容器、(3)個体における癌を治療するために前記他の抗癌剤と少なくとも一種の上述した二重特異性抗体とを組み合わせて個体に投与することを示す指示書またはラベル、を含むキットを提供する。
【0251】
別の実施態様において、本発明は、(1)上述した二重特異性抗体、(2)他の抗癌剤、(3)容器、(4)個体における癌を治療するために前記二重特異性抗体と前記他の抗癌剤とを組み合わせて個体に投与することを示す指示書またはラベル、を含むキットを提供する。
【0252】
いくつかの実施形態において、キットは、さらに医薬的に許容され得る担体を含む。キットは更に、好ましくは別の追加容器中に保存されている滅菌希釈剤を含み得る。キットは、さらに、癌を治療または予防するための併用療法に関する指示書を含み得る。
【0253】
いくつかの実施態様において、「指示書」は、医薬品の使用に関する適応症、使用法、用量、投与、禁忌および/または警告についての情報を含み得る、医薬品の市販の箱の中に通常入っている指示書を指す。
【0254】
なお当該キットは、本発明の二重特異性抗体と、他の抗癌剤とを組み合わせて用いる用途のみに用いられるキットであってもよいが、本発明の二重特異性抗体と、他の抗癌剤とを組み合わせて用いる用途に用いられる限り、その他の用途にも用いられるキットであってもよい。例えば本発明のキットの指示書またはラベルには、組み合わせて個体に投与することが示されている限り、それ以外の態様、例えば当該二重特異性抗体または当該他の抗癌剤を、単独で用いることについて示されていてもよい。
【0255】
また本発明は、本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる多重特異性抗原結合分子のGPC3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを含む、GPC3結合活性を有する分子に関する。また本発明は、該分子に含まれるH鎖およびL鎖のそれぞれ3つのCDR(合計6つのCDR)を含むそれぞれH鎖およびL鎖の抗体可変領域を含み、GPC3結合活性を有する分子に関する。また本発明は、本発明の抗癌剤、又は医薬組成物に含まれる多重特異性抗原結合分子のT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメインを含む、T細胞受容体複合体結合活性を有する分子に関する。また本発明は、該分子に含まれるH鎖およびL鎖のそれぞれ3つのCDR(合計6つのCDR)を含むそれぞれH鎖およびL鎖の抗体可変領域を含み、T細胞受容体複合体結合活性を有する分子に関する。これらの分子は、抗体であってもよく、抗体の抗原結合断片を含むポリペプチドであってもよい。また本発明は、これらの分子と重複または競合するエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドに関する。抗体の抗原結合断片を含むポリペプチドとしては、scFv、単鎖抗体(single chain antibody)、Fv、scFv2(single chain Fv 2)、FabおよびF(ab')2等が好適に挙げられる。またこれらの分子は、多重特異性(二重特異性)でなくてもよく、GPC3またはT細胞受容体複合体(例えばCD3ε鎖)のどちらかにしか結合しなくてもよい。
【0256】
これらの分子には、本願明細書の参考実施例において具体的に例示されている多重特異性抗原結合分子のGPC3結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン(GPC3結合活性を有するH鎖可変領域および共通L鎖可変領域を含む)を含む分子や、本願明細書の参考実施例において例示されている多重特異性抗原結合分子のT細胞受容体複合体結合活性を有する抗体可変領域を含むドメイン(T細胞受容体複合体結合活性を有するH鎖可変領域および共通L鎖可変領域を含む)を含む分子が含まれる他、それらの分子に含まれるH鎖およびL鎖のそれぞれ3つのCDR(合計6つのCDR)を含み、同じ抗原蛋白質(GPC3またはT細胞受容体複合体)に結合する活性を有する分子が含まれる。
【0257】
これらの分子は、本発明の多重特異性抗原結合分子とCDRが共通することから、本発明の多重特異性抗原結合分子と重複するエピトープに結合することが期待される。従って、これらの分子は、本発明の多重特異性抗原結合分子と共存させることにより、本発明の多重特異性抗原結合分子と競合させることができる。これにより、例えば本発明の多重特異性抗原結合分子の活性(抗原結合活性や、細胞傷害活性、抗腫瘍活性等)を抑制するための調節剤として使用することができる。また、あらかじめこの分子を標的蛋白質(GPC3またはT細胞受容体複合体)に結合させておき、本発明の多重特異性抗原結合分子が添加されたときに競合により遊離してくる分子を検出することにより、本発明の多重特異性抗原結合分子が標的蛋白質に結合したことを検出するための検出剤として有用である。このとき、これらの分子は、適宜、蛍光物質等で標識してもよい。あるいはこれらの分子は、本発明の多重特異性抗原結合分子と重複するエピトープに結合する新たな抗体をスクリーニングするためにも有用である。上述の通り、あらかじめこの分子を標的蛋白質(GPC3またはT細胞受容体複合体)に結合させておき、被験抗体を添加することで、結合していた分子が遊離してくれば、その被験抗体は、本発明の多重特異性抗原結合分子と重複するエピトープに対する抗体の候補となる。これにより、新たな多重特異性抗原結合分子を効率的にスクリーニングすることが可能となる。
【0258】
これらの分子におけるH鎖可変領域およびL鎖可変領域のCDRの具体的な組み合わせは、本発明の多重特異性抗原結合分子の各CDRの組み合わせとして本明細書に例示したものをそのまま使用することができる。これらの分子の抗原親和性(KD値)は、好ましくは本発明の多重特異性抗原結合分子のKD値として本明細書に例示した値であることが好ましいが、それに限定されない。
【0259】
「一つの(a)」および「一つの(an)」という不定冠詞は、本発明において、一つのまたは二つ以上の(すなわち少なくとも一つの)その不定冠詞の文法上の対象をいう。例えば「一つの(a)要素」は、一つの要素または二つ以上の要素を意味する。
【0260】
本明細書に記載の1又は複数の態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。
【0261】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例0262】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
【0263】
〔実施例1〕 ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のT cell-dependent cellular cytotoxicity (TDCC)活性
各被験抗体について、以下の方法に従ってTDCC活性を測定した。ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のTDCC活性を以下のように測定した。
【0264】
(1)ヒトPBMC溶液の調製
5000単位/5mlのヘパリン溶液が予め500μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人より末梢血50 mlを採取した。PBSを用いて2倍に希釈された当該末梢血を4等分し、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(GE Healthcare)に加えた。当該末梢血が分注された分離管に1000 gの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作をした後、単核球画分層を分取した。10%FBSを含むRPMI-1640(SIGMA)(以下10%FBS/RPMI-1640と称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞を洗浄した後、当該細胞を各標的細胞の培養液中にその細胞密度が2 x 106 細胞/ mlとなるように懸濁した。当該細胞懸濁液をエフェクター細胞として以後の実験に供した。
【0265】
(2)LDH遊離試験(TDCC活性)
TDCC活性をLDHリリース法(LDH Cytotoxicity Detection Kit: TAKARA)にて評価した。まず、各標的細胞の培養液で終濃度の4倍に希釈した各濃度(0.000004、0.00004、0.0004、0.004、0.04、0.4、4、40μg/ml)の抗体溶液を96ウェルU底プレートの各ウェル中に50μlずつ添加した。次に、各標的細胞の培養液で2 x 105細胞/mlに調製した標的細胞を50μlずつ播種し(1 x 104細胞/ウェル)室温にて15分間静置した。各ウェル中に(1)で調製した各標的細胞の培養液中で調製したヒトPBMC溶液各100μl(2 x 105細胞/ウェル)を加えた当該プレートを、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で約24時間静置した後に、遠心操作した。当該プレートの各ウェル中の100μlの培養上清を96ウェル平底プレートに移した。catalyst溶液を1 mlのH2Oに溶解し、dye溶液と1:45で混合した。catalyst溶液およびdye溶液の混合溶液を100μl/ウェルで培養上清を移した96ウェル平底プレートに分注し、15-30分、室温で静置した。490-492nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。対照波長は600-620nmとして、490-492nmの吸光度から引いた。培養液のみのウェル(ブランク)の平均値を引いた値を以下の式に当てはめた。
下式:
Cytotoxicty (TDCC) (%) = ((A-B)-C))×100 / (D-C)
に基づいて細胞傷害活性を求めた。
ここでAは標的細胞、エフェクター細胞、抗体の混合の吸光度、Bはエフェクター細胞の吸光度、Cは標的細胞の吸光度、Dは標的細胞にTriton X-100を添加した吸光度とする。
【0266】
その結果、抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体(参考実施例3の表17に記載されているサンプル番号38抗体)においては明らかなTDCCが認められた(
図1)。
【0267】
〔実施例2〕 各細胞株における細胞表面上のGPC3の発現量の測定
各細胞株について、細胞表面上のGPC3のantibody binding capacity (ABC)をQIFIKIT (DAKO)を用いてフローサイメトリーにより算出した。
【0268】
各細胞株5 x 105細胞を0.5% BSAが添加されたCellWASH (BD Bioscience) (以下FACS/PBSと称する。)で洗浄後、終濃度20μg/mLのマウス型抗ヒトGPC抗体あるいはコントロール抗体を含む50μLの溶液に調製し、氷上で30分間静置した。細胞をFACS/PBSで洗浄後、FITCで標識したヤギ抗マウスIgG抗体をFACS/PBSで50倍に希釈した溶液を50μL添加し、氷上で30分間静置した。細胞をFACS/PBSで洗浄後、フローサイトメトリーで解析した。ABCはQIFI KITの説明書に記載された方法で算出した。
【0269】
各細胞株における細胞表面上のGPC3 ABCは計算され、表6に示されている。
【表6】
【0270】
〔実施例3〕 in vivo薬効の評価(抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体(参考実施例3の表17に記載のサンプル番号30, 31, 32, 33, 38抗体の単剤の薬効評価試験、及びサンプル番号39、40抗体の単剤の薬効評価試験)
実施例1で記載されたin vitroのアッセイで細胞傷害活性が認められた株のうちのいくつか、およびin vivo継代した株について担癌モデルを用いたin vivo薬効についても評価した。
【0271】
In vivoの薬効評価においては、NOD scid/T細胞移入モデル、ヒト化NOGマウスモデル、あるいはヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルと称される方法を用いた。NOD scid/T細胞移入モデルを用いた試験は、下記のように行われた。in vitroのアッセイで細胞傷害活性が認められた株のうちいくつか、およびin vivo継代した細胞株はNOD scidマウスに移植された。腫瘍の形成が確認されたNOD scidマウスに、ヒトPBMCをin vitroで培養することにより増殖させたT細胞が移入された。当該マウスに対して抗体38および抗体30、31、32、33二重特異性抗体を投与することによる治療が行なわれた。ヒト化NOGマウスモデルを用いた試験は、下記のように行われた。臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞はNOGマウスに尾静脈注射により移植された。ヒト化NOGマウスと呼ばれる当該マウスにおいてヒトT 細胞は恒常的に供給される。PC-10細胞株はヒト化NOGマウスに移植された。PC-10腫瘍の形成が確認されたヒト化NOGマウスに対して抗体38を投与することによる治療が行なわれた。ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルを用いた試験は、下記のように行われた。マウス由来の細胞株にヒトGPC3を強制発現させた細胞は、参考実施例10に従って作製したヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルに移植された。腫瘍の形成が確認されたヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスに対して抗体38を投与することによる治療が行なわれた。
【0272】
NOD scid/T細胞移入モデルにおける、抗体38および抗体30、31、32、33二重特異性抗体の薬効評価試験は下記のように行われた。健常人より採取した血液から分離されたPBMC及びT cell activation/ expansion kit/ humanを用いてT細胞の拡大培養が行なわれた。ヒトがん細胞株 (MKN74, FU-97, SNU-1, SCC152, KYSE70, PC-10, HuH-7, TOV-21G, RMG-1, SK-pca31a(SK-HEP-1/hGPC3))と、マトリゲル基底膜マトリックスが混和され、NOD scidマウス(日本クレア)の皮下に移植された。In vivo継代株(STM-03)は約2mm角の腫瘍組織片としてNOD scidマウス(日本クレア)の皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日に抗アシアロGM1抗体(和光純薬)が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後、腫瘍が明確に生着した段階で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた後、再度抗アシアロGM1抗体が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。その翌日に前記拡大培養によって得られたT細胞が1.5~3×107細胞/匹で腹腔内に移植された。T細胞移植約2~5時間後に、抗体38 は1 mg/kg (MKN74, FU-97, SNU-1, SCC152, KYSE70, PC-10, HuH-7, TOV-21G, RMG-1, STM-03) で尾静脈内投与された。投与は1回のみ行われた。抗体30、31、32、33二重特異性抗体は5 mg/kg (SK-pca31a)で尾静脈内投与された。投与は1回のみ行われた。
【0273】
抗体39, 40二重特異性抗体は1 mg/kg (PC-10)で尾静脈内投与された。投与は1回のみ行われた。実験に用いられた抗体39及び抗体40は、それぞれ定常領域の配列は異なるが、CD3結合可変領域、GPC3結合可変領域、及び、L鎖共通可変領域において同一のアミノ酸配列を有する抗体であり、当業者公知の方法で作製された(CD3結合可変領域:配列番号433、GPC結合可変領域:配列番号434、L鎖共通可変領域:配列番号435)。
【0274】
その結果、抗体38二重特異性抗体においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図2)。
その結果、抗体39, 40二重特異性抗体においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図3)。
その結果、抗体30、31、32、33二重特異性抗体においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図4)。
【0275】
ヒト化NOGマウスモデルにおける、抗体38の薬効評価試験は下記のように行われた。NOGマウス(インビボサイエンス、♀)は2.5 GyのX線を照射された。翌日、臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞1 ×105細胞がNOGマウスに尾静脈注射により移植された。16週間後、PC-10ヒトがん細胞と、マトリゲル基底膜マトリックスが混和され、ヒト化NOGマウスの皮下に移植された。移植の日をday 0とした。 腫瘍が明確に生着した段階で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた。抗体38は0.008, 0.04, 0.2, 1 mg/kgで尾静脈内投与された。抗体38の投与は1回のみ行われた。
【0276】
その結果、抗体38投与群においては溶媒投与群に比較して用量依存的な明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図5)。
【0277】
ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルを用いた試験における、抗体38の薬効評価試験は下記のように行われた。マウス癌細胞株にヒトGPC3を高発現させた、LLC1/hGPC3がん細胞はヒトCD3εδγ遺伝子改変マウス(中外製薬、♀)の皮下に移植された。移植の日をday 0とした。 Day11で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた。抗体38は5 mg/kgで尾静脈内投与された。抗体38の投与は2回 (day11、およびday14)行われた。対照として使用された薬剤、抗ヒトGPC3抗体(WO2006/006693、クローン名:GC33)、抗マウスCTLA-4 抗体(BioXCell社、Catalog#BE0032), 抗マウスPD-1抗体(BioXCell社、Catalog#BE0146)および抗マウスPD-L1 抗体(BioXCell社、Catalog#BE0101)は25 mg/kgで尾静脈内投与された。抗ヒトGPC3抗体、抗マウスCTLA-4 抗体, 抗マウスPD-1抗体および抗マウスPD-L1 抗体の投与は2回 (day11、およびday14)行われた。
【0278】
その結果、抗体38においては溶媒投与群および抗ヒトGPC3抗体、抗マウスCTLA-4抗体、抗マウスPD-1抗体、抗マウスPD-L1抗体に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図6)。
【0279】
〔実施例4〕 in vivo薬効の評価(抗体38と他剤との併用による薬効評価試験)
抗体38と他剤との併用による担癌モデルを用いたin vivo薬効評価試験を行った。併用によるIn vivoの薬効評価においては、実施例3に記載されているNOD scid/T細胞移入モデル、実施例3に記載されているヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデル、あるいはヒトCD3ε遺伝子改変マウスモデルで評価した。NOD scid/T細胞移入モデルを用いた併用試験は、下記のように行われた。MKN45あるいはNCI-H446細胞株はNOD scidマウスに移植された。明確な腫瘍の形成が確認されたNOD scidマウスに、ヒトPBMCをin vitroで培養することにより増殖させたT細胞が移入された。当該マウスに対して抗体38とcapecitabine, cisplatinあるいはpaclitaxelを併用投与することによる治療が行なわれた。ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルを用いた併用試験は、下記のように行われた。マウス由来の細胞株にヒトGPC3を強制発現させた、LLC1/hGPC3がん細胞、あるいはHepa1-6/hGPC3細胞はヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスに移植された。明確な腫瘍の形成が確認されたヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスに対して抗体38と抗マウスTIM-3抗体(BioXCell社、Catalog#BE0115)、抗マウスLAG-3抗体(BioXCell社、Catalog#BE0174)、抗マウスCD137抗体(BioXCell社、Catalog#BE0169)、抗マウスVEGFR2 抗体(BioXCell社、Catalog#BP0060)を併用投与することによる治療が行なわれた。ヒトCD3ε遺伝子改変マウスモデル併用試験は、下記のように行われた。マウス由来の細胞株にヒトGPC3を強制発現させた、Hepa1-6/hGPC3がん細胞はヒトCD3ε遺伝子改変マウスに移植された。明確な腫瘍の形成が確認されたヒトCD3ε遺伝子改変マウスに対して抗体38と抗マウスPD-1抗体(BioXCell社、Catalog#BE0146)、抗マウスPD-L1(BioXCell社、Catalog#BE0101) 抗体を併用投与することによる治療が行なわれた。
【0280】
NOD scid/T細胞移入モデルを用いた、抗体38と他剤との薬効評価試験は下記のように行われた。健常人より採取した血液から分離されたPBMC及びT cell activation/ expansion kit/ humanを用いてT細胞の拡大培養が行なわれた。ヒトがん細胞株 (MKN45, NCI-H446)と、マトリゲル基底膜マトリックスが混和され、NOD scidマウス(日本クレア)の皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日に抗アシアロGM1抗体が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後、明確な腫瘍の形成が確認された段階で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた後、再度抗アシアロGM1抗体が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。その翌日に前記拡大培養によって得られたT細胞が3×107細胞/匹で腹腔内に移植された。T細胞移植約2~5時間後に、抗体38を投与した。Capecitabine, cisplatinあるいはpaclitaxelは表7に示す、用量、投与レジメンで抗体38と併用投与された。
【0281】
【0282】
その結果、抗体38および併用薬剤を投与した併用群においては抗体38あるいは併用薬単剤群に比較して抗腫瘍作用の増強が認められた(
図7、
図8)。
【0283】
Paclitaxel、cisplatinあるいはcapecitabineと抗体38を投与した後の腫瘍サンプルよりRNAを抽出しnCounterを用いて網羅的RNA解析、Tumor infiltrating lymphocyte(TIL)解析、病理解析を以下のように行った。
【0284】
腫瘍サンプルの作製は以下のように行った。ヒト化NOGマウスモデルモデルにおいて、抗体38と化学療法剤と併用した腫瘍サンプルの作製は下記のように行われた。NOGマウス(インビボサイエンス、♀)は2.5 GyのX線を照射された。翌日、臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞1 ×105細胞がNOGマウスに尾静脈注射により移植された。16~20週間後、ヒトがん細胞株 (MKN45, NCI-H446)と、マトリゲル基底膜マトリックスが混和され、ヒト化NOGマウスの皮下に移植された。移植の日をday 0とした。
腫瘍が生着した段階で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた。抗体38および併用薬剤は表21に記載されている用量、レジメンで投与された。表21に記載されているタイミングでマウスは安楽死処置され、腫瘍は切り出され、Tumor infiltrating lymphocyte (TIL)、病理解析あるいはRNA解析用に保存された。
【0285】
【0286】
RNA解析は以下のように行った。上記の腫瘍サンプルよりRNAを抽出(miRNeasy Mini Kit:QIAGEN)し、RNA濃度を測定(NanoDrop: Thermo Fisher Scientific)した。100 ngのRNAをnCounter PanCancer Pathway PanelおよびPanCancer Immune Profiling Panel (NanoStrng)を用いて網羅的なRNA(ヒト)発現解析を行った。ノーマライズはパネルに含まれているハウスキーピング遺伝子で行った。解析ソフトはnSolver (NanoStrng)を使用した。
【0287】
その結果、抗体38とpaclitaxel, capecitabineいずれの化学療法剤との併用において抗体38および化学療法剤単剤投与群と比較して、免疫細胞マーカー、ケモカイン、サイトカイン、細胞死に関係する遺伝子、細胞周期制御に関わる遺伝子の発現が上昇し、細胞周期の進行に関わる遺伝子の発現が抑制された(
図35-1~6)。
【0288】
TIL解析は以下のように行った。表21に記載されているNCI-H446を移植したマウスにおいて抗体38投与6日目のマウスより摘出した腫瘍組織を,gentleMACSTM Octo Dissociator,を用いた酵素処理により,細胞に分離した。この細胞をCD45, CD3, CD4, CD8, GZMB抗体で標識し、BD LSRFortessa X-20を用いて、TIL中における各画分の陽性率を調べた。
【0289】
その結果、抗体38とpaclitaxel, cisplatinいずれの化学療法剤との併用において抗体38および化学療法剤単剤投与群と比較して、T細胞マーカー、活性化T細胞マーカー、細胞傷害活性に関わるタンパク、を発現する細胞集団が増加していた(
図36-1および2)。
【0290】
腫瘍組織の組織学的解析については、抗体38とpaclitaxelを投与したマウスの6日後の腫瘍サンプルを10%中性緩衝ホルマリン液で固定後、常法に従い、HE染色標本を作製し、光学顕微鏡を用いて、病理組織学的評価を実施した。
【0291】
その結果、抗体38により腫瘍辺縁部および周辺部に認められた免疫細胞の浸潤は、抗体38とpaclitaxelとの併用ではその浸潤範囲が広がっていた。
【0292】
ヒトCD3εδγ遺伝子改変マウスモデルを用いた抗体38と他剤との薬効評価試験は下記のように行われた。マウス癌細胞株にヒトGPC3を高発現させた、Hepa1-6/hGPC3あるいはLLC1/hGPC3がん細胞株はヒトCD3εδγ遺伝子改変マウス(中外製薬)の皮下に移植された。移植の日をday 0とした。明確な腫瘍の形成が確認された段階で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた。抗体38と抗マウスTIM-3抗体、抗マウスLAG-3抗体, 抗マウスCD137抗体あるいは抗マウスVEGFR2抗体を併用投与することによる治療が行なわれた。抗体38と併用に使用した、各薬剤の用量は表8に示す。
【0293】
【0294】
その結果、抗体38および併用薬剤を投与した併用群においては抗体38あるいは併用薬単剤群に比較して抗腫瘍作用の増強が認められた(
図9、
図10)。
【0295】
ヒトCD3ε遺伝子改変マウスモデルを用いた、抗体38と他剤との薬効評価試験は下記のように行われた。マウス癌細胞株にヒトGPC3を高発現させた、Hepa1-6/hGPC3がん細胞株はヒトCD3ε遺伝子改変マウス(中外製薬)の皮下に移植された。移植の日をday 0とした。 Day15で、腫瘍サイズおよび体重に応じて群分けが行なわれた。抗体38と抗マウスPD-1抗体、抗マウスPD-L1 抗体を併用投与することによる治療が行なわれた。抗体38と併用に使用した、各薬剤の用量は表9に示す。
【0296】
【0297】
その結果、抗体38および併用薬剤を投与した併用群においては抗体38あるいは併用薬単剤群に比較して抗腫瘍作用の増強が認められた(
図11)。
【0298】
〔参考実施例〕
〔参考実施例1〕GPC3_ERY22_rCE115の作製と細胞傷害活性の測定
(1-1)GPC3_ERY22_rCE115の作製
癌抗原(GPC3)に対するIgGを基本骨格とし、片方のFabをCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた形の分子が作製された。この際、基本骨格とするIgGのFcとしては、FcgR(Fcγ受容体)への結合性が減弱されたサイレント型Fcが用いられた。GPC3に対する結合ドメインとして、抗GPC3抗体H0000(配列番号:40)/GL4(配列番号:41)が用いられた。またCD3に対する結合ドメインとして、抗CD3抗体rCE115H/rCE115L(配列番号:42 / 配列番号:43)が用いられた。
抗体H鎖定常領域として、IgG1のC末端のGly及びLysを除去したG1dを使用し、それをH0000/GL4及びrCE115H/rCE115Lと組み合わせて使用した。なお、抗体H鎖定常領域の名称をH1とした場合、可変領域にH0000を持つ抗体のH鎖に対応する配列はH0000-H1のように示した。ここで、アミノ酸の改変を示す場合には、D356Kのように示した。最初のアルファベット(D356KのDに該当)は、改変前のアミノ酸残基を一文字表記で示した場合のアルファベットを意味し、それに続く数字(D356Kの356に該当)はその改変箇所のEUナンバリングを意味し、最後のアルファベット(D356KのKに該当)は改変後のアミノ酸残基を一文字表記で示した場合のアルファベットを意味する。IgG1のC末端のGlyおよびLysを除去したG1dh(配列番号:44)、G1dhにL234A/L235A/Y349C/T366Wの変異を導入したERY22_Hk(配列番号:45)、G1dhにL234A/L235A/D356C/T366S/L368A/Y407Vの変異を導入したERY22_Hh(配列番号:46)を参考実施例5の方法にしたがって調製した。それぞれのH鎖に導入したL234AおよびL235Aの変異は、FcgR(Fcγ受容体)への結合性を減弱するため、またY349C/T366W 及びD356C/T366S/L368A/Y407V の変異は、2つのH鎖からなるヘテロ二量化抗体を産生する際に、各H鎖のヘテロ体を効率的に形成させるために導入した。
【0299】
GPC3に対するFabのVHドメインとVLドメインを置き換えたヘテロ二量化抗体GPC3_ERY22_rCE115(
図12a)が参考実施例5に従って作製された。
すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、GL4-ERY22_Hk(配列番号:47)、H0000-ERY22_L(配列番号:48)、rCE115H-ERY22_Hh(配列番号:49)、rCE115L-k0(配列番号:50)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0300】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
目的分子:GPC3_ERY22_rCE115
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド: GL4-ERY22_Hk、H0000-ERY22_L、rCE115H-ERY22_Hh、rCE115L-k0
【0301】
(1-2)GPC3_ERY22_rCE115の精製
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0302】
(1-3)ヒト末梢血単核球を用いたGPC3_ERY22_rCE115の細胞傷害活性の測定
GPC3_ERY22_rCE115についてin vitroの細胞傷害活性が調べられた。
(1-3-1)ヒト末梢血単核球(PBMC)溶液の調製
1,000単位/mLのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク社)をあらかじめ100μL注入した注射器を用い、健常人ボランティア(成人)より末梢血50 mLが採取された。PBS(-)で2倍希釈した後に4等分された末梢血が、15 mLのFicoll-Paque PLUSをあらかじめ注入して遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Cat. No. 227290、Greiner bio-one社)に加えられた。当該分離管の遠心分離(2,150 rpm、10分間、室温)の後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA社、以下10%FBS/D-MEM)で1回単核球画分の細胞が洗浄された後、当該細胞は10%FBS/D-MEMを用いてその細胞密度が4×106 /mLに調製された。このように調製された細胞溶液がヒトPBMC溶液として以後の試験に用いられた。
【0303】
(1-3-2)細胞傷害活性の測定
細胞傷害活性はxCELLigenceリアルタイムセルアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた細胞増殖抑制率で評価された。標的細胞にはヒトGPC3を発現しているNCI-H446ヒトがん細胞株もしくはPC-10ヒトがん細胞株が用いられた。NCI-H446もしくはPC-10をディッシュから剥離し、1×104 cells/wellとなるようにE-Plate 96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)プレートに100μL/wellで播き、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを用いて生細胞の測定が開始された。翌日xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーからプレートを取り出し、当該プレートに各濃度(0.004、0.04、0.4、4、40 nM)に調製した各抗体50μLが添加された。室温にて15分間反応させた後に(1-2)で調製されたヒトPBMC溶液50μL(2×105 cells/well)が加えられ、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーに当該プレートを再セットすることによって、生細胞の測定が開始された。反応は5%炭酸ガス、37℃条件下にて行われ、ヒトPBMC添加72時間後のCell Index値から、下式により細胞増殖抑制率(%)が求められた。なお計算に用いたCell Index値は、抗体添加直前のCell Index値が1となるようにノーマライズした後の数値が用いられた。
【0304】
細胞増殖抑制率(%)=(A-B)×100/(A-1)
【0305】
Aは抗体を添加していないウェルにおけるCell Index値の平均値(標的細胞とヒトPBMCのみ)、Bは各ウェルにおけるCell Index値の平均値を示す。試験はtriplicateにて行なわれた。
【0306】
ヒト血液より調製したPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell)をエフェクター細胞として、GPC3_ERY22_rCE115の細胞傷害活性を測定したところ、極めて強い活性が認められた(
図13)。
【0307】
〔参考実施例2〕 抗CD3抗体rCE115のH鎖のヒト化、及び共通L鎖化
(2-1)rCE115ヒト化H鎖可変領域hCE115HAのデザイン
抗CD3抗体rCE115のH鎖可変領域(配列番号:42)のヒト化が実施された。CDR、FRの決定はKabatの定義(Kabatナンバリング)に従った。
【0308】
初めに、データベース上のヒト抗体可変領域配列とrCE115ラット可変領域配列を比較することによって、ヒトFR配列が選択された。データベースとして、IMGT Database(http://www.imgt.org/)およびNCBI GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)が利用された。rCE115可変領域のH鎖のCDR配列を、選択したヒトFR配列と連結することによって、ヒト化H鎖可変領域配列がデザインされた。これが、ヒト化H鎖可変領域配列hCE115HL(配列番号:51)とされた。
【0309】
選択されたヒトH鎖FR3の配列において、Kabatナンバリングで表される93番のアミノ酸残基はAlaであるが、rCE115可変領域配列のアミノ酸残基はArgである。ラットおよびヒトのgermline配列のデータベースIMGT Database(http://www.imgt.org/)から、該当部位にArgが含まれている配列は少ない事が確認された。また、Kabatナンバリングで表される94番のアミノ酸残基はupper coreを形成して抗体構造の安定化に寄与することが報告されている(Ewertら(Methods. 2004 Oct;34(2):184-99))。これらの情報から、H鎖FR3のKabat 93番、94番のアミノ酸残基がrCE115可変領域配列に存在する残基で置換されたヒト化H鎖可変領域配列が新たにデザインされた。 これが、ヒト化H鎖可変領域配列hCE115HA(配列番号:52)とされた。
【0310】
(2-2)抗CD3抗体rCE115と抗GPC3抗体の共通L鎖L0000のデザイン
抗CD3抗体rCE115のL鎖可変領域rCE115L(配列番号:43)と抗GPC3抗体のL鎖可変領域GL4(配列番号:41)のFR/CDRシャッフリングが実施された。
【0311】
L鎖FR配列として、GL4のFR配列が選択された。L鎖CDR2はrCE115LとGL4で同じであった。L鎖CDR1はGL4、L鎖CDR3はrCE115LのCDR配列からそれぞれ選択された。さらに、選択されたL鎖CDR3のKabat 94番のアミノ酸残基AspをGL4に存在する残基Valで置換されたL鎖CDR3が新たにデザインされた。
【0312】
上記で選択したFRとCDRを連結することによって、ヒト化L鎖可変領域配列がデザインされた。これが、ヒト化L鎖可変領域配列L0000(配列番号:53)とされた。
【0313】
(2-3)ヒトGPC3に対する親和性の評価
L鎖可変領域として、GL4(配列番号:41)とL0000(配列番号:53)を用いた時のヒトGPC3に対する結合活性を評価した。分子型は、knobs-into-holeによってヘテロ化したヒトIgG1のFc領域に1つのFabを持つ1-arm抗体で実施した。抗GPC3抗体のH鎖可変領域はH0000(配列番号:40)を用いた。
【0314】
抗GPC3抗体の抗原に対する親和性と結合速度定数を、BiacoreTM-T200(GEヘルスケア・ジャパン)による表面プラズモン共鳴アッセイのmulti-cycle kinetics法によって測定した。ランニングバッファーには HBS-EP+ (GEヘルスケア・ジャパン)を用い、アミンカップリングキット(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、Protein A/GをCM5チップ(カルボキシメチルデキストラン被覆チップ)に共有結合させた。各抗GPC3抗体はProtein A/G に約 100 RU 捕捉するように調製した。アナライトとして用いたヒトGPC3は HBS-EP+ を用いて8, 16, 32, 64, 128 nMに調製した。測定はまず抗体溶液をProtein A/G に捕捉させ、さらに流速30μL/minにてヒトGPC3溶液を3 minインジェクションすることで反応させ、その後 HBS-EP+ に切り替え15 min解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 mM Gly-HCl, pH1.5で洗浄し、センサーチップを再生した。濃度0の測定は同様に抗体溶液をProtein A/G に捕捉させ、HBS-EP+を3 minインジェクションすることで反応させ、その後 HBS-EP+ に切り替え15 min解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 mM Gly-HCl, pH 1.5で洗浄し、センサーチップを再生した。得られたセンサーグラムから、Biacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T200 Evaluation Software Version 1.0 を用いて速度論的な解析を行い、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および速度定数比を算出した。結果を表10に示した。
【0315】
【0316】
(2-4)ヒトCD3に対する親和性の評価
H鎖可変領域としてhCE115HA(配列番号:52)、L鎖可変領域としてL0000(配列番号:53)を用いた時のヒトCD3に対する結合活性を評価した。分子型は、knobs-into-holeによってヘテロ化したヒトIgG1のFc領域に1つのFabを持つ1-arm抗体で実施した。
【0317】
抗CD3抗体の抗原に対する親和性と結合速度定数を、BiacoreTM-T200(GEヘルスケア・ジャパン)による表面プラズモン共鳴アッセイのsingle-cycle kinetics法によって測定した。ランニングバッファーには HBS-EP+ (GEヘルスケア・ジャパン)を用い、アミンカップリングキット(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、ヒトCD3をCM4チップ(カルボキシメチルデキストラン被覆チップ)に共有結合させた。アナライトとして用いた抗CD3抗体は HBS-EP+ を用いて5, 20μg/mLに調製した。測定はまず流速20μL/minにて、5, 20μg/mLの抗CD3抗体溶液を 各3 minずつ連続してインジェクションすることで反応させ、その後 HBS-EP+ に切り替え3 min解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 mM Gly-HCl, pH 1.5で洗浄し、センサーチップを再生した。濃度0の測定は、HBS-EP+を各3 minずつ2回連続してインジェクションすることで反応させ、その後 HBS-EP+ に切り替え3 min解離相を測定した。解離相の測定終了後、10 mM Gly-HCl, pH 1.5で洗浄し、センサーチップを再生した。得られたセンサーグラムから、Biacore 専用のデータ解析ソフトウェアである Biacore T200 Evaluation Software Version 1.0 を用いて速度論的な解析を行い、結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および速度定数比を算出した。結果を表11に示した。
【0318】
【0319】
(2-5)GPC3_ERY27_hCE115の作製
癌抗原(GPC3)に対するIgG4を基本骨格とし、片方のFabのH鎖可変領域をCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換え、L鎖は両方のFabで共通にした形のERY27分子(
図12b)が作製された。この際、基本骨格とするIgG4のFcとしては、FcgR(Fcγ受容体)への結合性が減弱されたサイレント型Fcが用いられた。GPC3に対する結合ドメインのH鎖可変領域はH0000(配列番号:40)、CD3に対する結合ドメインのH鎖可変領域はhCE115HA(配列番号:52)が用いられた。また、L鎖可変領域はL0000(配列番号:53)を用いた。それぞれのH鎖に導入したD356KおよびK439Eの変異は、2つのH鎖からなるヘテロ二量化抗体を産生する際に、各H鎖のヘテロ体を効率的に形成させるために導入した(WO2006/106905)。H435RはProtein Aへの結合を妨げる改変であり、ヘテロ体とホモ体を効率よく分離するために導入した(WO/2011/078332)。
【0320】
公知の方法により、H0000-ERY27_HK(配列番号:54)、hCE115HA-ERY27_HE(配列番号:55)、L0000-k0(配列番号:56)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0321】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0322】
目的分子:GPC3_ERY27_hCE115
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド: H0000-ERY27_HK、hCE115HA-ERY27_HE、L0000-k0
【0323】
(2-6)GPC3_ERY27_hCE115の精製
参考実施例1-2に記載の方法で各目的分子が精製された。
【0324】
(2-7)ヒト末梢血単核球を用いた細胞傷害活性の測定
(2-7-1)ヒト末梢血単核球(PBMC:Peripheral Blood Mononuclear Cell)溶液の調製
参考実施例1-3-1に記載の方法で調製された。
【0325】
(2-7-2)細胞傷害活性の測定
参考実施例1-3-2に記載の方法で測定された。
【0326】
ヒト血液より調製したPBMCをエフェクター細胞として、GPC3_ERY27_hCE115の細胞傷害活性を測定したところ、rCE115のH鎖のヒト化、及び共通L鎖化によって活性の低下が認められた(
図13)。
【0327】
〔参考実施例3〕各種性質の改善を目的としたヒト化二重特異性抗体改変体の作製と評価
参考実施例2で得られたヒト化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体GPC3_ERY27_hCE115(配列番号54、55、56)のT細胞依存的細胞傷害活性はGPC3_ERY22_rCE115(配列番号47、48、49、50)のT細胞依存的細胞傷害活性よりも低い。これはヒト化およびL鎖共通化によりGPC3およびCD3ε鎖への親和性が減弱した事が原因と考えられた。独立した配列を持つGPC3およびCD3ε鎖抗原について、共通抗体L鎖を用いて両抗原に対する親和性を向上させ、T細胞依存的細胞傷害活性を増強させたヒト化二重特異性抗体の報告はこれまでにない。よって、GPC3_ERY22_rCE115と同等あるいはそれ以上の薬効を示すヒト化抗体二重特異性を取得する事は困難と考えられた。
【0328】
このような状況の中、本出願者らは当業者公知の方法、つまりヒトGPC3およびヒトCD3ε鎖両抗原に対する抗体遺伝子のアミノ酸残基の網羅的置換体を作製し各種スクリーニング評価を実施する事により、ヒトGPC3およびヒトCD3ε鎖に対する親和性が改変されたヒト化二重特異性改変抗体を作製した。また、同様の手法により、物理化学的性質が改変されたヒト化二重特異性改変抗体を作製した。さらに、親和性および物理化学的性質を変化させるための効果的なアミノ酸残基置換を組み合わせることでヒト化前のGPC3_ERY22_rCE115のT細胞依存的細胞傷害活性と同等あるいはそれ以上のTDCC活性を持つ最適化二重特異性抗体を作製した。
【0329】
ヒト化二重特異性抗体の最適化における点変異導入、抗体発現精製、抗原親和性測定、T細胞依存的細胞傷害活性測定は参考実施例1、2と同様の手法で実施した。CDR、FRの決定はKabatの定義(Kabatナンバリング)に従った。
【0330】
なお、目的に応じて、抗体H鎖定常領域として次のものを使用した(番号はEUナンバリング)。ヒトIgG1についてL234A/L235A/N297A/D356C/T366S/L368A/Y407V/G446欠損/K447欠損変異を導入したE22Hh(配列番号57)、ヒトIgG1についてL234A/L235A/N297A/Y349C/T366W/G446欠損/K447欠損変異および118の直前にSer-Ser挿入変異を導入したE22Hk(配列番号58)、ヒトIgG1についてD356C/T366S/L368A/Y407V/G446欠損/K447欠損変異を導入したG1dh、ヒトIgG1について118-215欠損変異およびC220S/Y349C/T366W/H435R変異を導入したnone-Hi-Kn010G3、ヒトIgG4についてL235R/S239K/N297A/E356K/R409K/H435R/L445P/G446欠損/K447欠損変異を導入したE2702GsKsc(配列番号60)、ヒトIgG4についてK196Q/L235R/S239K/N297A/R409K/K439E/L445P/G446欠損/K447欠損変異を導入したE2704sEpsc(配列番号61)、ヒトIgG4についてL235R/S239K/N297A/E356K/R409K/L445P/G446欠損/K447欠損変異を導入したE2702sKsc(配列番号62)を使用した。また、抗体L鎖定常領域として、ヒトκ鎖のk0(配列番号63)、ヒトκ鎖についてR108A/T109S変異を導入したE22L(配列番号432)を使用した。
【0331】
EUナンバリング356番目のAspをCysに置換する変異、およびEUナンバリング366番目のTheをSerに置換する変異、およびEUナンバリング368番目のLeuをAlaに置換する変異、およびEUナンバリング407番目のTyrをValに置換する変異、およびEUナンバリング349番目のTyrをCysに置換する変異、およびEUナンバリング366番目のThrをTrpに置換する変異、および118番目の直前にSer-Serを挿入する変異はヘテロ抗体を産生する際に各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためのものである。同様に、EUナンバリング356番目のGluをLysに置換する変異およびEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異もヘテロ抗体を産生する際に各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるためのものである。これらにより、二重特異性抗体の生成効率改善が期待される。
【0332】
EUナンバリング234番目のLeuをAlaに置換する変異、およびEUナンバリング235番目のLeuをAlaまたはArgに置換する変異、およびEUナンバリング239番目のSerをLysに置換する変異、およびEUナンバリング297番目のAsnをAlaに置換する変異は、Fcγ受容体および補体(C1q)に対する親和性を減弱させるための変異である。これにより、FabによるCD3結合とFcによるFcγ受容体あるいは補体との架橋を抑制し、非特異的なエフェクター作用増強に伴うサイトカインリリースシンドロームを回避することが期待される。
【0333】
EUナンバリング118-215番目の欠損変異を導入したH鎖は、全長配列を持つH鎖と組み合わせることでFabが1つだけの抗体(一価抗体)を作製する事が可能となり、アフィニティー評価に有用である。
【0334】
EUナンバリング409番目のArgをLysに置換する変異、およびEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異は、それぞれヒトIgG1、およびヒトIgG3の性質に近づける事を目的とした変異である。
【0335】
(3-1)点変異によるヒト化抗CD3抗体の親和性改変
はじめに、参考実施例2で作製されたヒト化抗ヒトCD3ε鎖抗体配列hCE115HA-ERY27_HE(配列番号:55)について、FR1, FR2, FR3, CDR1, CDR2, CDR3に点変異を導入し改変抗体を調製した。次に、これらの改変抗体の可溶性ヒトCD3ε鎖に対する親和性を測定した。親和性向上効果のある部位を組み合わせることで、表12に示す親和性を持つ改変抗体を得た。
【0336】
【0337】
(3-2)ヒト化抗GPC3抗体の親和性改変
はじめに、参考実施例2で作製された抗ヒトGPC3二重特異性抗体配列H0000-ERY27_HK(配列番号:54)について、CDR1, CDR2, CDR3に点変異を導入し改変抗体を調製した。次に、これらの改変抗体の可溶性ヒトGPC3に対する親和性を測定した。親和性向上効果のある部位を組み合わせることで、表13に示す親和性を持つ改変抗体を得た。
【0338】
【0339】
(3-3) 点変異によるpI改変
二重特異性抗体の商用生産では高度な精製が必要である。イオン交換クロマトグラフィーを用いる場合、分子の等電点(pI)を改変することが有効であると報告されている(PLoS One. 2013;8(2):e57479)。このため、参考実施例2で作製されたヒト化抗ヒトGPC3抗体配列H0000-ERY27_HK(配列番号:54)について、CDR1, CDR2, CDR3にpI改変を考慮した点変異を導入し改変抗体を調製した。次に、これらの改変抗体の可溶性ヒトGPC3に対する親和性を測定した。
その結果、ヒトGPC3に対する親和性を維持しつつ、pIを低下させることが可能なアミノ酸改変として、Kabatナンバリングによる19位、43位、53位、61位のアミノ酸が見出された。
ヒトGPC3に対する親和性が維持され、かつpI低下効果のある部位を組み合わせることで、表14に示す親和性およびpIを持つ抗体を得た。
【0340】
【0341】
(3-4)点変異による細胞外マトリックス結合能改変
細胞外マトリックス(ECM)等への非特異的結合は薬物動態に影響する可能性が報告されている(MAbs. 2012 Nov-Dec;4(6):753-60)。このため、本参考実施例で得た改変抗体についてECMに対する結合能を参考実施例8に記載した方法で実施した。この結果、ヒト化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体GPC3_ERY27_hCE115(配列番号54、55、56)ではECM結合能が高い事が確認された。このため、参考実施例3-1、3-2、3-3で検討したヒト化抗ヒトCD3ε鎖抗体配列hCE115HA-ERY27_HE(配列番号:55)に対する任意の点変異を用いてECM結合能が低減される組み合わせを検討した。その結果、Kabatナンバリングによる11位、16位、52a位、53位、98位および100位のアミノ酸がCD3εに対する親和性を維持しつつ、ECM結合能低下に影響することを見出し、ヒト化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体GPC3_ERY27_hCE115改変抗体よりもECM結合能が低減された抗体を得た(表15)。
【0342】
【0343】
(3-5)点変異によるSuReTM ligandに対する結合能改変
抗体の可変領域配列(VH3)に依存してProtein Aに結合する例が知られている(J Biomol Tech. 2011 Jul;22(2):50-2)。ヒト化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体のProtein A精製において、抗CD3抗体ホモ抗体を除去することはCD3を介した非特異的反応を抑制する上で重要である。このため、抗CD3抗体ホモ抗体のProtein A結合を抑制することが望ましいと考えられた。商用生産においてはSuReTM ligandの使用が想定されることから、ヒト化抗CD3抗体H鎖改変体TR01H082-E2702GsKscおよびTR01H084-E2702GsKsc(配列番号398および399)のCDR2にSuReTM ligand結合を考慮した点変異を導入し改変抗体を調製した。これらの改変抗体のSuReTM ligandに対する結合能は参考実施例9に記載した方法で実施した。この結果、Kabatナンバリングによる19位、57位、59位のアミノ酸がCD3εに対する親和性を維持しつつ、SureTM ligandに対する結合能に影響することを見出し、TR01H082-E2702GsKsc/L0011-k0(配列番号398および410)、およびTR01H084-E2702GsKsc/L0011-k0(配列番号399および410)と比較してSuReTM ligandに対する結合能が低減された抗体を得た(表16)。
【0344】
【0345】
(3-6)各種性質が改善される点変異の組み合わせによる最適化二重特異性抗体の作製
参考実施例3-1から3-5に記載した各種性質が改善される点変異を組み合わせることで、最適化された改変抗体を作製することができる。このような改変抗体の例として、表17に記載の抗体を作製し、参考実施例1と同様の方法を用いて、T細胞依存性細胞傷害(TDCC)活性評価に供した。その結果を
図15~20に記載した。この結果、ヒト化前のGPC3_ERY22_rCE115のT細胞依存的細胞傷害活性と同等あるいはそれ以上の活性を示す最適化ヒト化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体を得た。
【0346】
【0347】
参考実施例3-1~3-6から、ヒト化前のGPC3_ERY22_rCE115のT細胞依存的細胞傷害活性と同等あるいはそれ以上の活性を示す最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体の性質を維持する上で、例えば以下のアミノ酸残基が重要であることが明らかとなった。
抗ヒトCD3ε鎖抗体においては、例えば11位のLeu、16位のGly、52a位のAsp、53位のGln、72位のAla、78位のIle、98位のAla、100位のGly、102位のIleが挙げられる。抗ヒトGPC3抗体においては、例えば、19位のThr、43位のGlu、52a位のGly、53位のProあるいはGlu、55位のPro、61位のGluが挙げられる。また、共通抗体L鎖においては、例えば25位のPro、27a位のPro、27b位のPro、33位のIle、34位のGln、56位のArgまたはTrp、89位のTyrが挙げられる。(いずれもKabatナンバリングによる)
【0348】
〔参考実施例4〕in vivo薬効の評価
上述の抗体の一部について担癌モデルを用いたin vivo薬効についても評価した。
参考実施例3-6で記載されたin vitroのアッセイで細胞傷害活性が認められた表17に示したうちの代表的な抗体についてin vivoの薬効の評価が行なわれた。In vivoの薬効評価においては、腫瘍塊形成による微小環境の違いがその結果に与えうる影響を考慮し、GPC3を発現する量がほぼ同等にも関わらず当該抗体による薬効の感受性の異なる2種類のヒトがん細胞株、すなわちPC-10およびNCI-H446が用いられた。これらの細胞株がNOD scidマウスに移植され、腫瘍の形成が確認されたNOD scidマウスに、in vitroでヒトPBMCを培養することにより増殖させたT細胞が移入された。当該マウスに対して最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体を投与することによる治療が行なわれた(T細胞移入モデルと指称される)。
【0349】
すなわち、最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体のPC-10 T細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が行われた。健常人ボランティアより採取した血液から分離されたPBMC及びT cell activation/ expansion kit/ human(MACS Miltenyi biotec社)を用いてT細胞の拡大培養が行なわれた。ヒトがん細胞株PC-10 1×107細胞と、マトリゲル基底膜マトリックス(BD社)が混和され、NOD scidマウス(日本クレア、♀、6W)のそけい部皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日に抗アシアロGM1抗体(和光純薬)が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後13日から15日目に腫瘍サイズと体重に応じて群分けが行なわれた後、再度抗アシアロGM1抗体が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。その翌日に前記拡大培養によって得られたT細胞が3×107細胞/匹で腹腔内に移植された。T細胞移植約4時間後に、最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体が1 mg/kgで尾静脈内投与された。最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体の投与は1回のみ行われた。
【0350】
その結果、最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体投与群においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図21a, b)。
【0351】
最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体のNCI-H446 T細胞移入モデルによる薬効試験も同様の方法で実施した。NCI-H446に対しては、最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体は5 mg/kgで1回尾静脈内投与された。
【0352】
その結果、最適化抗ヒトCD3ε鎖および抗ヒトGPC3二重特異性抗体投与群においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図22a, b)。
【0353】
〔参考実施例5〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit (TAKARA)等を用いて当業者公知の方法で行い、発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0354】
〔参考実施例6〕ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のADCC活性
各被験抗体について、以下の方法に従ってADCC活性を測定した。
ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のADCC活性を以下のように測定した。
【0355】
(1)ヒトPBMC溶液の調製
1000単位/mlのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク)が予め200μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mlを採取した。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血を4等分し、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えた。当該末梢血が分注された分離管に2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作をした後、単核球画分層を分取した。10%FBSを含むDulbecco's Modified Eagle's Medium(SIGMA)(以下10%FBS/D-MEMと称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞を洗浄した後、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が5x106 細胞/ mlとなるように懸濁した。インキュベータ中において37℃で1時間インキュベートした後、10%FBS/D-MEMで1回細胞を洗浄し、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が2x105 細胞/ mlとなるように懸濁した。当該細胞懸濁液を標的細胞として以後の実験に供した。
【0356】
(2)クロム遊離試験(ADCC活性)
ADCC活性をクロムリリース法による特異的クロム遊離率にて評価した。まず、各濃度(0、0.004、0.04、0.4、4、40μg/ml)に調製した抗体溶液を96ウェルU底プレートの各ウェル中に50μlずつ添加した。次に、標的細胞を50μlずつ播種し(1x104細胞/ウェル)室温にて15分間静置した。各ウェル中に(1)で調製したヒトPBMC溶液各100μl(5x105細胞/ウェル)を加えた当該プレートを、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で4時間静置した後に、遠心操作した。当該プレートの各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性をガンマカウンターを用いて測定した。下式:
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
に基づいて特異的クロム遊離率を求めた。
【0357】
上式において、Aは各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。また、Bは標的細胞に100μlの2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク)および50μlの10% FBS/D-MEM培地を添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に10% FBS/D-MEM培地を150μl添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施し、各被験抗体のADCC活性が反映される前記試験における特異的クロム遊離率(%)の平均値および標準偏差を算出した。
【0358】
〔参考実施例7〕示差走査型蛍光定量法による改変抗体のTm評価
本検討では、Rotor-Gene Q(QIAGEN)を用いた示差走査型蛍光定量法を用いて改変抗体のTm(熱変性温度)を評価した。なお、本手法は、抗体の熱安定性評価法として広く知られている示差走査型熱量計を用いたTm評価と良好な相関を示すことが既に報告されている(Journal of Pharmaceutical Science 2010; 4: 1707-1720)。
【0359】
5000倍濃度のSYPROTM orange(Molecular Probes)をPBS(Sigma)により希釈後、抗体溶液と混和することにより測定サンプルを調製した。各サンプルを20μLずつ測定用チューブにセットし、240℃ /hrの昇温速度で30℃から99℃まで温度を上昇させた。昇温度に伴う蛍光変化を470 nm(励起波長)/ 555 nm(蛍光波長)において検出を行った。
データはRotor-Gene Q Series Software(QIAGEN)を用いて蛍光遷移が認められた温度を算出し、この値をTm値とした。
【0360】
〔参考実施例8〕ECM結合能測定
WO2012093704 に記載された方法に準じて実施した。具体的には、TBS(TaKaRa、#T903)でBD Matrigel(BD Biosciences、#356237)を2mg/mLに調整し、これを測定用96ウェルプレート(Meso Scale Discovery、#L15XB-3(High Bind))に5μLずつ分注した後、冷所にて一晩静置した。続いて各ウェルに150μLのECL blocking buffer(0.05% Tween20、0.5% BSA、0.01% sodium azideを含むPBS)を加え室温で2時間以上静置した。
Goat anti-human IgG(γ)(Invitrogen、#628400)をMSD SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery、#R91AN-2)の取り扱い説明書に従いルテニウム化した。これをECL dilution buffer(0.01% Tween20、0.1% BSA、0.01% sodium azideを含むPBS)を用いて終濃度2μg/mLとなるよう希釈した。また、標準抗体および被検抗体をPBS-T(0.05% Tween20、0.01% sodium azideを含むPBS)で終濃度3μg/mLとなるよう希釈した。
反応用96ウェルプレート(Thermo scientific、Nunc #145399)に、10μLのECL dilution buffer、20μLの標準抗体および被検抗体(3μg/mL)、30μLのルテニウム化抗体(2μg/mL)を順次添加し、遮光下、室温で攪拌しながら1時間反応させた。
測定用96ウェルプレートからECL blocking bufferを転倒除去し、反応用96ウェルプレートから50μLのサンプル溶液を添加し、遮光下室温で1時間静置した。この後、測定用96ウェルプレートからサンプル溶液を転倒除去し、2x T buffer(4x MSD Read Buffer T (Meso Scale Discovery) をECL dilution bufferで二倍に希釈したもの)を150μL加え直ちにECL測定を実施した。測定にはSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)を使用した。
解析は被検抗体の蛍光強度値を標準抗体の値で割り、標準抗体を1とした際の強度を算出し比較した。
【0361】
〔参考実施例9〕SuReTM ligand結合能測定
SuReTM ligandに対する結合能測定にはBiacoreTM-T200(GEヘルスケア・ジャパン)を使用した。ランニングバッファーには HBS-EP+ (GEヘルスケア・ジャパン)を用い、アミンカップリングキット(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、Mab Select SuReTM Ligand(GEヘルスケア・ジャパン)をCM5チップ(カルボキシメチルデキストラン被覆チップ)に共有結合させた。アナライトとして用いた抗体は HBS-EP+ を用いて5μg/mLに調製した。測定はまず流速10μL/minにて、5μg/mLの抗体溶液を3 minインジェクションすることで反応させ、その後 HBS-EP+ に切り替え0.5 min流した後のレスポンス (RU) を測定した。測定終了後、10 mM Gly-HCl, pH 1.5で洗浄し、センサーチップを再生した。対照フローセルにおいては、チップ上にリガンドを共有結合せずに同様の実験を行い、両者のレスポンス (RU) の差を取ることによりSuReTM ligandに対する結合能を解析した。
【0362】
本参考実施例中の配列番号と対応する配列を下の表に示す。
【表18】
【0363】
〔参考実施例10〕
ヒトCD3遺伝子置換マウスの作出
(1)マウスCd3遺伝子領域改変ベクターの構築(
図26A)
マウスCd3ε、Cd3δおよびCd3γ遺伝子が配置するゲノム領域がクローニングされている大腸菌人工染色体(BAC)クローンを用いた。このBAC上のマウスCd3εをコードする遺伝子領域の5’上流、約3.5kbの位置にloxP配列を挿入するとともに、さらに上流のゲノム領域を約3.1kb残して除去した。その際、loxP配列をネオマイシン耐性(neo)遺伝子カセットとともに導入し、Red/ETシステム(GeneBridges)を利用して相同組換にて挿入した。その際、カナマイシン添加培地にて生育できた大腸菌クローンの中から、さらにpolymerase Chain Reaction(PCR)法により増幅が正しくなされたクローンを選抜した。次いで、BAC上のCd3γ遺伝子の3’下流にloxP配列およびRox配列を配置した。すなわち、loxP配列およびRox配列を、ハイグロマイシン耐性(Hyg)遺伝子カセットとともに導入し、Red/ETシステムにより相同組換にて挿入した。その際、ハイグロマイシン添加培地にて生育できた大腸菌クローンの中から、PCR法により、loxP配列およびRox配列が期待通り、挿入できたクローンをPCR法にて選抜した。次いで、Hyg遺伝子カセットより3’下流のゲノム領域を約3.4kb残して除去した。
【0364】
(2)マウス胚性幹細胞(ES細胞)へのマウスCd3遺伝子領域改変ベクターの導入(
図26A)
マウスES細胞(C57BL/6Nマウス由来)に上記のマウスCd3遺伝子領域改変ベクターをエレクトロポレーションにより導入し、G418による選択培養後に得られた薬剤耐性クローンより、相同組み換え体をPCR法によってスクリーニングした。エレクトロポレーションに用いたマウスCd3遺伝子領域改変ベクターは、60μgをNotIで直鎖状化、またはNotI未処理による環状のベクターを、フェノール/クロロホルム抽出後、エタノール沈殿させPBSに溶解して用いた。
スクリーニングで用いたES細胞は96穴プレートで培養し、1ウェルあたり200μlのPBS溶液で2回洗浄後、以下の組成の細胞溶解緩衝液(10×LA緩衝液II(TAKARA LA Taq用)5μl;25mM MgCl
2 5μl;5% NP-40 5μl;プロティナーゼK(TAKARA,20mg/ml)2μl;蒸留水33μl)を加えて55℃2時間処理し、続いて95℃にて15分処理することで、プロティナーゼKを失活させてPCRサンプルとした。
PCR反応混合物は、サンプル1μl、10×LA緩衝液II 2.5μl、25mM MgCl
2 2.5μl、dNTP(2.5mM)4μl、プライマー(各50μM)各0.1μl、LA Taq(TAKARA)0.25μl、および蒸留水14.55μl(全25μl)とした。また、PCR条件は、94℃にて2分間の前加熱、98℃にて10秒間、68℃にて4分30秒間の増幅サイクル35サイクル、並びに68℃にて5分間の複加熱とした。
使用したプライマーは以下の通りである。プライマーは、Hyg遺伝子カセット内にHygF1474をフォワードプライマーとして配置し、g4989RをマウスCd3遺伝子改変ベクター上の3’側相同アームよりも3’下流側のマウスゲノム領域にリバースプライマーとして配置した(
図27を参照)。相同組み換えを起こしたES細胞のサンプルでは、約4kbのバンドが増幅される。HygF1474(前方)5’-TATCAGAGCTTGGTTGACGG-3’(配列番号:436);g4989R(後方)5’-ACTCGTTGTGGCTTAGAAGCAGTAACAATACC-3’(配列番号:437)。さらに、上記のプライマーセットにより、増幅シグナルの得られたクローンを用いて、別プライマーセットにより確認した。すなわち、マウスCd3遺伝子改変ベクター上の5’側相同アームよりも5’上流側のマウスゲノム領域に、e27248Fをフォワードプライマーとして配置し、Neo遺伝子カセット内にNeo0635Rをリバースプライマーとして配置した。相同組み換えを起こしたES細胞のサンプルでは、約4kbのバンドが増幅される。e27248F(前方)5’-ACTGTAATCCTAGTACTTAGGAGGCTGAGG-3’(配列番号:438);Neo0635R(後方)5’-AATCCATCTTGTTCAATGGCCGATCC-3’(配列番号:439)。
【0365】
(3)ヒトCD3遺伝子領域導入ベクターの構築(
図26B)
ヒトCD3ε、CD3δおよびCD3γ遺伝子が配置するゲノム領域がクローニングされているBACクローンを用いた。このBAC上のヒトCD3εをコードする遺伝子領域の5’上流にloxP配列を挿入した。その際、loxP配列をHyg遺伝子カセットとともに導入し、Red/ETシステム(GeneBridges)を利用して相同組換にて挿入した。その際、ハイグロマイシン添加培地にて生育できた大腸菌クローンの中から、さらにPCR法により増幅が正しくなされたクローンを選抜した。次いで、BAC上のヒトCD3γ遺伝子の3’下流に、Frt配列で両端を挟まれたピューロマイシン耐性(Puro)遺伝子および、そのさらに下流にRox配列を配置すべく、Neo遺伝子カセットとともに導入し、Red/ETシステムにより相同組換にて挿入した。その際、カナマイシン添加培地にて生育できた大腸菌クローンの中から、PCR法により、Frt配列、Puro遺伝子、Rox配列およびNeo遺伝子が期待通り、挿入できたクローンをPCR法にて選抜した。
【0366】
(4)Cd3遺伝領域改変したマウスES細胞へのヒトCD3遺伝子領域導入ベクターおよび組換え酵素発現ベクターの導入
上述の工程においてマウスCd3遺伝子領域の標的位置に正しくloxP配列およびRox配列を挿入できたES細胞クローン(1D4、5H1、6I5および3A5)に対して、ヒトCD3遺伝子領域導入ベクター、組換え酵素Cre発現ベクターおよび組換え酵素Dre発現ベクターをエレクトロポレーションにより導入し、ピューロマイシンによる選択培養の後、生育したES細胞クローンを遺伝子型解析した。
まず、CreおよびDreの作用により、マウスCd3遺伝子領域に配置したloxP配列およびRox配列間にて組換えが起こり、Cd3εからCd3γまでのゲノム領域を欠損したクローンを選別するためのPCRスクリーニングを実施した。スクリーニングで用いたES細胞は96穴プレートで培養し、1ウェルあたり200μlのPBS溶液で2回洗浄後、以下の組成の細胞溶解緩衝液(10×LA緩衝液II(TAKARA LA Taq用)5μl;25mM MgCl
2 5μl;5% NP-40 5μl;プロティナーゼK(TAKARA,20mg/ml)2μl;蒸留水33μl)を加えて55℃2時間処理し、続いて95℃にて15分処理することで、プロティナーゼKを失活させてPCRサンプルとした。
PCR反応混合物は、サンプル1μl、10×LA緩衝液II 2.5μl、25mM MgCl
2 2.5μl、dNTP(2.5mM)4μl、プライマー(各50μM)各0.1μl、LA Taq(TAKARA)0.25μl、および蒸留水14.55μl(全25μl)とした。また、PCR条件は、94℃にて2分間の前加熱、98℃にて10秒間、68℃にて4分30秒間の増幅サイクル35サイクル、並びに68℃にて5分間の複加熱とした。使用したプライマーは以下の通りである。プライマーは、マウスCd3ε遺伝子の5’側上流側のゲノム領域にe30230Fをフォワードプライマーとして配置し、マウスCd3γ遺伝子の3’下流側のゲノム領域にg1439Rをリバースプライマーとして配置した(
図28A参照)。Cd3遺伝子領域を欠損したES細胞のサンプルでは、約0.7kbのバンドが増幅される。e30230F(前方)5’-TAGCAGCCTTCAGATGAAGAGGTAGGACTC-3’(配列番号:440);g1439R(後方)5’-TTGATGTGCCACCTCACTGCTGCACTGG-3’(配列番号:441)。
マウスCd3遺伝子領域を欠損しているES細胞クローンのうち、ヒトCD3遺伝子領域の導入されているクローンを選抜するためのPCRスクリーニングを実施した。スクリーニングにはマウスCd3遺伝子領域の欠損を検出した際に用いたPCRサンプルを用いた。PCR反応混合物は、サンプル1μl、10×LA緩衝液II 2.5μl、25mM MgCl
2 2.5μl、dNTP(2.5mM)4μl、プライマー(各50μM)各0.1μl、LA Taq(TAKARA)0.25μl、および蒸留水14.55μl(全25μl)とした。また、PCR条件は、94℃にて2分間の前加熱、94℃にて30秒間、58℃にて1分間、72℃にて5分間の増幅サイクル35サイクル、並びに72℃にて5分間の複加熱とした。使用したプライマーは以下の通りである。プライマーは、ヒトCD3ε遺伝子の5’側上流側のゲノム領域にhCD3e_5arm_F2をフォワードプライマーとして配置し、ヒトCD3ε遺伝子の第2エクソン内にhCD3e_ex2_R2をリバースプライマーとして配置した(
図28B参照)。ヒトCD3遺伝子領域が導入されたES細胞のサンプルでは、約5.5kbのバンドが増幅される。hCD3e_5arm_F2(前方)5’-AACTGACAATGGGACATCAGCTGA-3’(配列番号:442);hCD3e_ex2_R2(後方)5’-ATGGGACTGTTACTTTACTAAGAT-3’(配列番号:443)。
【0367】
(5)マウスCd3遺伝子欠損かつヒトCD3遺伝子導入マウスの作出
相同組換えESクローンをトリプシン処理により浮遊させ、ES細胞培地で洗浄した。48時間間隔で5IUのウマ絨毛ゴナドトロピン(eCG)およびヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)を腹腔内投与することにより、過剰排卵処理を施したBALB/cの雌マウスを同系統の雄マウスと交配した。雌マウスのプラグが確認された日を0.5日とし、妊娠3.5日に子宮を灌流し、回収した胚盤胞期胚をホスト胚として10~15個のES細胞を注入した。注入後の胚は、偽妊娠2.5日齢のICR系の受容雌の子宮内に移植し、17日後に産仔を得た。ES細胞の胚盤胞への注入により得られた産仔の毛色での判別により、組換えES細胞(黒色)とホスト胚盤胞由来の細胞(アルビノ)の混在したキメラマウスが得られた。雄キメラマウスは性成熟後にC57BL/6N雌マウスと交配し、ノックインアレルの次世代マウスへの伝達を、次世代マウスの組織より抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR法により確認した。PCRは、上述のES細胞のスクリーニングの際に利用した方法にて実施した。その結果、ヒトCD3遺伝子領域特異的な5.5kbのシグナル、およびマウスCd3遺伝子領域欠損に特異的な0.7kbのシグナルが検出された個体が得られ、これら個体にはヒトCD3遺伝子領域アレルとともにマウスCd3遺伝子領域欠損アレルが伝達されたことが確認された。さらに、上述の遺伝子型のマウスの繁殖により、マウスCd3遺伝子領域についてホモ欠損型であり、かつヒトCD3遺伝子領域を有するマウス個体、すなわちヒトCD3遺伝子領域置換マウスを得た。なお、ヒトCD3εのみを導入したトランスジェニックマウス(以下、hCD3εTgマウス)をWangらの報告(Wang et.al. (1994) PNAS. 91:9402-9406)に従って作製し、以降の実験にて比較検討した。
【0368】
(6)ヒトCD3遺伝子置換マウスの胸腺および脾臓重量
マウス(12-14週齢、雄)より脾臓および胸腺を採取し、組織重量を測定した。
図29に示す通り、ヒトCD3置換マウスの胸腺には肉眼的な異常は認められなかった。解析には体重当たりの組織重量を算出した。各群4匹の雄マウスについて、体重、および組織重量(脾臓、胸腺)を測定しグラフに示した。体重あたりの組織重量比を算出し、個体ごとに得られた値を黒点にてプロット、平均値をカラムにて示す(
図30)。脾臓重量に関しては、Cd3遺伝子欠損マウスにて他の遺伝子型のマウスと比較して増加の傾向が認められたが、顕著な差は認められなかった。一方、胸腺重量に関しては、Cd3遺伝子欠損マウスでは野生型と比較して3分の1程度までの低下が認められた。このCd3遺伝子欠損マウスにヒトCD3遺伝子を導入したヒトCD3遺伝子置換マウスでは、胸腺重量の回復が認められ、特にライン番号1C3の個体においては野生型マウスと同等の胸腺重量にまで回復が認められた。hCD3εTgマウスでは、Wangらの報告の通り、胸腺の委縮が認められた(Wang et.al. (1994) PNAS. 91:9402-9406)。
【0369】
(7)ヒトCD3遺伝子置換マウス各ラインにおけるヒトCD3およびマウスCd3の発現確認
-血球RNAを用いたRT-PCR法での確認-
血球RNAを用いてRT-PCR法によりヒトCD3ε、ヒトCD3δ、ヒトCD3γ、マウスCd3ε、マウスCd3δおよびマウスCd3γの発現を解析した。背中足静脈あるいは腹部大静脈より採取した血液より、Catrimox-14 RNA Isolation Kit(TaKaRa Bio)を用いてトータルRNAを調製した。各1μgのトータルRNAを鋳型として、SuperScript III First Strand cDNA Synthesis Kit(Invitrogen)により、Oligo dT(20)プライマーを用いて逆転写反応を行なうことによってcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型としてPCRを行なうことによって、ヒトCD3ε、ヒトCD3δ、ヒトCD3γ、マウスCd3ε、マウスCd3δおよびマウスCd3γを検出した。いずれの遺伝子発現の検出にも蛋白コーディング領域に対するプライマーを設定した。ヒトCD3εの検出は、フォワードプライマーE0333F(5’-AAGAAATGGGTGGTATTACACAGACACC-3’(配列番号:444))およびリバースプライマーE0912R(5’-TGGGCCAGCGGGAGGCAGTGTTCTCCAGAGG-3’(配列番号:445))の組合せを使用して実施した。ヒトCD3δの検出は、フォワードプライマーD0092F(5’-TAGTTCGGTGACCTGGCTTTATCTACTGG-3’(配列番号:446))およびリバースプライマーD0685R(5’-ATGGCTGCTTCTAGAAGCCACCAGTCTCAGG-3’(配列番号:447))の組合せを使用して実施した。ヒトCD3γの検出は、フォワードプライマーG0048F(5’-TGCTCCACGCTTTTGCCGGAGGACAG-3’(配列番号:448))およびリバースプライマーG0666R(5’-TAGGAGGAGAACACCTGGACTACTC-3’(配列番号:449))の組合せを使用して実施した。一方、マウスCd3εの検出は、フォワードプライマーe0065F(5’-AGCATTCTGAGAGGATGCGGTGGAACAC-3’(配列番号:450))およびリバースプライマーe0699R(5’-TGCTCGGAGGGCTGGATCTGGGTCCACAG-3’(配列番号:451))の組合せを使用して実施した。マウスCd3δの検出は、フォワードプライマーd055F(5’-TCATCCTGTGGCTTGCCTCTATTTGTTGC-3’(配列番号:452))およびリバースプライマーd651R(5’-TTGCTATGGCACTTTGAGAAACCTCCATC-3’(配列番号:453))の組合せを使用して実施した。マウスCd3γの検出は、フォワードプライマーg080F(5’-AATACTTCTACTGGAGAAGCAAAGAG-3’(配列番号:454))およびリバースプライマーg316R(5’-TAGTTGCATTTAGAGGACTTATTATGC-3’(配列番号:455))の組合せを使用して実施した。
PCR反応液の組成は、サンプル1μl、10×Ex緩衝液 2.5μl、dNTP(2.5mM)2μl、プライマー(各50μM)各0.1μl、Ex Taq(TAKARA)0.25μl、および蒸留水19.05μl(全25μl)とした。また、PCR条件は、ヒトCD3δ、ヒトCD3γ、マウスCd3δおよびマウスCd3γに関しては、94℃にて2分間の前加熱、94℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の増幅サイクル35サイクル、並びに72℃にて5分間の複加熱とした。ヒトCD3εおよびマウスCd3εに関しては、94℃にて2分間の前加熱、94℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の増幅サイクル40サイクル、並びに72℃にて5分間の複加熱とした。ヒトCD3ε、ヒトCD3δおよびヒトCD3γの増幅産物は、それぞれ580bp、594bpおよび620bp、マウスCd3ε、マウスCd3δおよびマウスCd3γの増幅産物は635bp、597bpおよび237bpに検出されるようPCRプライマーを設計した。
Cd3遺伝子欠損マウスではマウスの各Cd3分子由来のPCRシグナルは検出されなかった。このCd3遺伝子欠損マウスに対して、ヒトCD3遺伝子領域が導入されたヒトCD3遺伝子置換マウスのライン(ライン番号:1C3,3B1,8I12および2A4)のうち、ライン1C3および8I12に由来するサンプルではヒトCD3ε、ヒトCD3δおよびヒトCD3γのみが検出され、マウスCd3ε、マウスCd3δおよびマウスCd3γはいずれも検出されなかった(
図31)。野生型マウス由来のサンプルからはヒトCD3ε、ヒトCD3δおよびヒトCD3γは検出されず、マウスCd3ε、マウスCd3δおよびマウスCd3γが検出された(
図31)。この結果より、デザイン通りにマウスCd3ε、Cd3δおよびCd3γの代わりにヒトCD3ε、CD3δおよびCD3γが発現するマウスが得られたことが確認された。なお、
図31中のライン4HH3は、マウスCd3アレルが野生型で、ヒトCD3遺伝子が導入されている個体にて解析しており、ヒトの各CD3分子とマウスの各Cd3分子の両方が検出されているが、その後、Cd3欠損マウスとの繁殖により、マウスCd3アレルの欠損したヒトCD3遺伝子の発現ラインとして樹立した。
【0370】
-組織免疫染色法による解析-
抗CD3抗体を一次抗体として用い、その組織分布を検討した。Cd3欠損マウスではいずれの組織においてもCD3の染色は認められなかったが、Cd3欠損マウスにヒトCD3遺伝子を導入したヒトCD3置換マウスでは、野生型マウスと同等のCD3特異的な染色が認められた。すなわち、胸腺(
図32A)および脾臓(
図32B)のT細胞ゾーンにおいて特異的な染色が認められた。いずれの組織においても、野生型マウスと同様にT細胞ゾーンにのみ染色が認められた。また、Cd3遺伝子欠損マウスでは染色が認められておらず、ヒトCD3遺伝子置換マウスにおける染色は導入したヒトCD3遺伝子の発現によるものであることが示された。さらに、主要臓器のおけるCD3の検出は野生型と同様であり、異所性の染色は認められなかった(表19)。
【0371】
【0372】
(8)ヒトCD3遺伝子置換マウスにおける成熟T細胞の存在比率の評価
脾臓細胞を用いたFACS解析を実施した。マウス(12-14週齢、雄)より脾臓を採取し、70μmメッシュを用いて細胞を単離した。溶血剤(SIGMA社製)を添加して赤血球を溶解した。Fc Blocking溶液にてブロッキング後、2×106個の細胞に対して、FITC標識抗マウスCd3抗体、FITC標識抗ヒトCD3抗体、APC標識抗マウスCd4抗体、PE標識抗マウスCd8抗体を用い、各陽性細胞数をフローサイトメーターにて解析した。Cd3遺伝子欠損マウスにおいては、ほぼ完全に欠損していた成熟T細胞、すなわちCd4およびCd8単一陽性細胞が、ヒトCD3遺伝子置換マウスにおいては野生型と同等の比率にて存在していることが示された。
【0373】
成熟T細胞の存在比率
【表20】
脾臓細胞あたりの、各マーカー陽性細胞の発現比率(単位%)を表に示した。ヒトCD3s置換マウス#4HH3を除く各実験群は4個体の平均を示し、ライン#4HH3については2個体の発現比率を示した。(括弧内は標準偏差を示す)
ND, not detected.
【0374】
[参考実施例11]ヒトCD3遺伝子置換マウスの免疫機能評価
(1)外来抗原感作に対する特異的抗体産生能の検討
外来抗原に対して特異的な抗体を産生するためには、樹状細胞等、抗原提示細胞の表面に主要組織適合性抗原(Major Histcompatibility Complex,MHC)とともに提示された抗原ペプチドに結合できる機能的なヘルパーT細胞が存在し、抗体産生細胞に適切な抗体をさせるための指令を出す機能を保有していなければならない。上述のヒトCD3遺伝子置換マウスが、正常な機能を持つヘルパーT細胞を持ち、外来抗原の感作に対して特異的抗体を産生することができるかどうかを検討した。感作抗原としては、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)をフロイント・アジュバンドとともに感作した。OVAの感作は4週間間隔にて2回行った。すなわち、1匹当たり100μgのOVAを、1回目は完全フロイント・アジュバンドを用いて背部皮下に感作し、その4週間後に不完全フロイント・アジュバンドを用いて同様に背部皮下に感作した。ヒトCD3遺伝子置換マウスとしては、由来する改変ES細胞クローンの異なる2ライン(ライン番号1C3および8I12)を設定し、ヒトCD3ε過剰発現マウスと比較した。さらに、対照として、野生型マウスおよびCd3遺伝子欠損マウスを設定して同様の抗原感作を行った。
2回目の感作の1週間後に、イソフルラン吸入麻酔下にて開腹し、腹部大静脈より全採血および放血することによって安楽死処置を施した。採取した血液より血清を分離し、OVA特異的IgG1およびOVA特異的IgEの濃度を測定した(
図34)。
その結果、マウスCd3欠損マウスの血清中からはOVA特異的抗体は、IgG1タイプもIgEタイプのいずれも検出されなかったのに対し、ヒトCD3遺伝子置換マウスは2ラインともOVA特異的IgG1およびIgEが検出され、そのレベルは野生型マウスと同等であった。この結果により、ヒトCD3遺伝子置換マウスは、外来抗原の感作に対して正常な抗体産生能を有していることが示された。
本発明によって、BiTEが持つ強い抗腫瘍活性と、癌抗原非依存的にサイトカインストームなどを誘導しないという安全性上の優れた性質が維持され、かつ長い血中半減期を持つ新たな多重特異性抗原結合分子を含む抗癌剤および他の抗癌剤と併用するための医薬組成物が提供された。本発明の抗原結合分子を有効成分として含む抗癌剤および医薬組成物は、グリピカン3発現細胞、当該細胞を含む腫瘍組織を標的として細胞傷害を誘導することができる。本発明の多重特異性抗原結合分子が患者に投与された場合、安全性が高いばかりでなく、身体的負担が少なく利便性も高いという、望ましい治療ができるようになる。
グリピカン3に対する結合活性を有する抗体可変領域、及び、CD3に対する結合活性を有する抗体可変領域を含む、以下の (1)~(5) のいずれかに記載の二重特異性抗体を有効成分として含有し、Pembrolizumab、Nivolumab、MEDI0680、PDR001、BGB-A317、REGN2810、SHR-1210、PF-06801591、Atezolizumab、Avelumab、Durvalumab、MDX-1105、Ipilimumab、Tremelimumab、MBG452、BMS-986016、およびLAG525から選択される一以上の免疫チェックポイント阻害剤と併用するための医薬組成物:
(1) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(2) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:211に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(3) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:144に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(4) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:142に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体、
(5) グリピカン3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:206に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、CD3に対する結合活性を有する抗体H鎖可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:168に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列であり、共通L鎖の抗体可変領域に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3はそれぞれ、配列番号:223に含まれるCDR1、CDR2及びCDR3領域のアミノ酸配列である、二重特異性抗体。
前記「Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域」が、EUナンバリングに従って特定される220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位のいずれかのアミノ酸残基が置換されているFc領域である、請求項6に記載の医薬組成物。