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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054360
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】バレル研磨用研磨石
(51)【国際特許分類】
   B24B 31/14 20060101AFI20240409BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20240409BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240409BHJP
   B24D 3/30 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
B24B31/14
B24D3/00 330E
C09K3/14 550C
B24D3/30
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021928
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2019088189の分割
【原出願日】2019-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田崎 京佑
(57)【要約】
【課題】高い光沢仕上げ性能と良好な研磨力を有するバレル研磨用研磨石を提供する。
【解決手段】砥粒11と合成樹脂製の結合材12とを有するバレル研磨用研磨石10であって、砥粒11のメジアン径は0.1μm~5.0μmであり、砥粒11の新モース硬度は13以上であり、砥粒11の含有率は15wt%~50wt%である。砥粒11のメジアン径を0.1μm~5.0μmとすることにより、光沢仕上げの性能が高まる。砥粒11の新モース硬度を13以上とすることにより、高い研磨力が得られる。砥粒11の含有率を15wt%~50wt%とすることにより、高い研磨力が得られるとともに、光沢仕上げ性能が高まる。よって、高い光沢仕上げ性能と良好な研磨力を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星回転するバレル槽にワークとともに投入して前記ワークを研磨するバレル研磨用研磨石であって、
砥粒と、合成樹脂製の結合材と、を有し、
前記バレル槽を用いて前記ワークを研磨したときにおける、前記ワークの光沢度を前記バレル研磨用研磨石の摩耗率で除することによって定義された光沢効率が2000以上であることを特徴とするバレル研磨用研磨石。
【請求項2】
前記光沢度が696.2以上、且つ前記摩耗率が0.26以下であることを特徴とする請求項1に記載のバレル研磨用研磨石。
【請求項3】
前記光沢度が948.5以上、且つ前記摩耗率が0.37以下であることを特徴とする請求項1に記載のバレル研磨用研磨石。
【請求項4】
前記砥粒のメジアン径が0.8μm~3.0μmであることを特徴とする請求項1に記載のバレル研磨用研磨石。
【請求項5】
前記砥粒の含有率が15wt%~35wt%であることを特徴とする請求項1に記載のバレル研磨用研磨石。
【請求項6】
最大外形寸法が3mm~8mmであることを特徴とする請求項1に記載のバレル研磨用研磨石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル研磨用研磨石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークに対して研磨と光沢仕上げを施すバレル研磨技術が開示されている。バレル研磨を行う際には、一定数量のワークと一定量の研磨石をバレル研磨機のバレル槽に投入し、バレル槽に回転や振動を与えることにより、研磨石をワークに接触させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3841784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、研磨力を高めることと光沢度を高めることは背反する関係にあり、研磨力を優先する場合と光沢度を優先する場合とで、研磨石を使い分けることが行われている。例えば、研磨工程において、高い研磨力を発揮する切削用又は重切削用メディアを用いてワークを研磨し、その後の光沢仕上げの工程において、光沢用セラミックメディアによりワークに光沢を出すようになっている。しかし、このような2種類の研磨石を使い分けることは、工程数が増えるので好ましくない。
【0005】
また、バレル槽を遊星回転させて研磨を行う遠心バレル研磨においては、研磨石とワークに大きな遠心力が作用するので、高い研磨力が得られるものの、十分な光沢が出ないことがある。
【0006】
第1の発明は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、高い光沢仕上げ性能と良好な研磨力を有するバレル研磨用研磨石を提供することを目的とする。
【0007】
第2の発明は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、高い研磨力を発揮するだけでなく良好な光沢仕上げを実現できる遠心バレル研磨方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、
炭化ケイ素からなる砥粒と不飽和ポリエステルからなる結合材とを有するバレル研磨用研磨石を製造する方法であって、
液体状態の前記不飽和ポリエステルからなる前記結合材に対して、メジアン径が0.1μm~5.0μmであり且つ新モース硬度が13以上である前記砥粒を混合することによって粘性材料を得る工程と、
前記粘性材料を注型用型の上面の成形用凹部に流し込んで硬化させることによって、前記砥粒の含有率が15wt%~50wt%の含有率であり、且つ平面部と前記平面部から遠ざかるほど先細りとなる先細り部とを有する形状の前記バレル研磨用研磨石を成形する工程と、
前記注型用型を上下反転させることによって、成形済みの前記バレル研磨用研磨石を脱型する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、
遊星回転するバレル槽に、第1の発明の製造方法によって製造した前記バレル研磨用研磨石を投入して研磨することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
砥粒のメジアン径を0.1μm~5.0μmとすることにより、光沢仕上げの性能が高まる。砥粒の新モース硬度を13以上とすることにより、高い研磨力が得られる。砥粒の含有率を15wt%~50wt%とすることにより、高い研磨力が得られるとともに、光沢仕上げ性能が高まる。したがって、第1の発明の製造方法によって製造したバレル研磨用研磨石は、高い研磨力を発揮するだけでなく良好な光沢仕上げを実現することができる。炭化ケイ素は、新モース硬度が13以上の砥粒の中でも比較的安価に調達できるので、原料コストを低減することができる。バレル研磨工程では、バレル研磨用研磨石が、ワークとの間の高い相対運動差によって摩擦熱を帯びるのであるが、結合材を熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル製としたので、バレル研磨用研磨石の変形が抑制され、バレル研磨用研磨石の摩耗も抑制される。また、バレル研磨用研磨石の欠損や割れの発生を低減できる。不飽和ポリエステルは、注型成形において熱硬化する際の成形収縮が小さいので、高い寸法精度が得られる。圧縮成形、射出成形、トランスファ成形によってバレル研磨用研磨石を製造する場合は、成形機や金型が砥粒によって摩耗することが懸念される。これに対し、注型成形の場合は、成形材料中の砥粒が注型用型に強く押し付けられたり強く擦られたりすることがない。しかも、成形物が平面部と先細り部を有する形状をなしていれば、成形物を注型用型から脱型させる際の摩擦抵抗が小さい。したがって、バレル研磨用研磨石の外面が平面部と先細り部を有する形状であれば、砥粒による注型用型の摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~9のバレル研磨用研磨石の斜視図である。
図2】バレル研磨用研磨石を成形する工程をあらわす断面図である。
図3】遠心バレル研磨機の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前記砥粒のメジアン径が0.8μm~3.0μmであってもよい。この構成によれば、より高い光沢仕上げ性能を得ることができる。また、砥粒のメジアン径が0.8μmより小さい場合に比べると、砥粒の原料コストを抑えることができる。
【0013】
本発明は、前記砥粒の含有率が15wt%~35wt%であってもよい。砥粒の含有率が大きくなるほど、研磨力が高くなる一方で、光沢仕上げ性能が低下する傾向にあるが、砥粒の含有率が35wt%以下であれば、研磨力と光沢仕上げ性能の両方を、バランス良く高めることができる。
【0014】
本発明は、最大外形寸法が3mm~8mmであってもよい。バレル研磨用研磨石の最大外形寸法が3mmよりも小さくなると、注型成形工程において所定の形状に成形することが難しく、生産効率が低下する。バレル研磨用研磨石の最大外形寸法が8mmよりも大きくなると、光沢仕上げ性能が低下する。したがって、バレル研磨用研磨石の最大外形寸法を3mm~8mmとすることにより、生産効率を低下させることなく、高い光沢仕上げ性能を得ることができる。
【0015】
<実施例1>
以下、本発明を具体化したバレル研磨用研磨石10の実施例1~9と、実施例1~9の優位性を実証するための比較例1~4及び比較例A~Dを説明する。実施例1~9、比較例1~4及び比較例A~Dのバレル研磨用研磨石10(以下、「研磨石10」という)は、図1に示すように、複数の砥粒11を結合材12により一体化させたものである。研磨石10は、図2に示すように、上面に成形用凹部21が形成された注型用型20を用いた注型成形法により製造される。製造に際しては、液体状態の結合材12に砥粒11を混合した粘性材料13を、成形用凹部21に流し込む。流し込んだ粘性材料13が硬化した後は、注型用型20を上下反転させて成形済みの研磨石10を脱型する。
【0016】
研磨石10の形状は、全体として円錐形をなす。詳細には、研磨石10の外面は、底面を構成する円形の平面部14と、平面部14から遠ざかるほど外径が次第に小さくなる形状の先細り部15とを有する。先細り部15の先端部は半球状の曲面部16となっている。粘性材料13を成形用凹部21に流し込んだ状態では、粘性材料13の上面が平坦となり、この平坦な上面が平面部14となる。成形用凹部21の内面は、先細り部15と曲面部16を成形する。このような先細り形状としたことにより、研磨石10の脱型が容易となっている。
【0017】
実施例1~9、比較例1~4及び比較例A~Dの各研磨石10は、砥粒11の材料と砥粒11のメジアン径と砥粒11含有率のうち少なくとも1つが、他の研磨石10と相違している。尚、結合材12は、実施例1~9、比較例1~4及び比較例A~Dの各研磨石10において共通の材料であり、不飽和ポリエステル(熱硬化性樹脂)が用いられている。即ち、これらの研磨石10は、液体状態の不飽和ポリエステル(結合材12)に砥粒11を混入させた粘性材料13、注型用型20の成形用凹部21に流し込むことによって製造されたものである。
【0018】
本願の発明者は、実施例1~9、比較例1~4及び比較例A~Dの研磨石10を用いて遠心バレル研磨を行い、各研磨石10の研磨効率と光沢度を評価した。遠心バレル研磨の条件は、全ての研磨石10において共通である。遠心バレル研磨機30として、チップトン社製のHS-R30Xを用いた。バレル槽33の容量は7.5Lである。遠心バレル研磨機30は、図3に示すように、軸線を水平方向に向けた公転軸31を中心として回転駆動されるターレット32と、ターレット32の偏心位置に取り付けられた4つのバレル槽33とを備えている。バレル槽33は、ターレット32に対し公転軸31と平行な自転軸34を中心として相対駆動されることにより、遊星回転するようになっている。
【0019】
遠心バレル研磨に際しては、静止状態のバレル槽33に、50vol%の研磨石10を投入し、研磨石10群の上面(マス面)より10mm高い位置まで1.9Lの水を投入した。次に、外径が28mmで厚さが8mmの円盤形をなすSUS304製の1個のワーク(テストピース)を、バレル槽33に投入し、遠心バレル機を起動して30分間研磨を行った。このときのバレル槽33の回転数(公転速度と自転速度)は、190rpmである。また、自転速度と公転速度の比(自公転比)は、-1である。上記条件で遠心バレル研磨を行った結果を、表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1における各項目について説明する。研磨量は、ワークの研磨前と研磨後の重量差である。摩耗率は、研磨前の研磨石10の重量に対する研磨後の研磨石10の摩耗量の比率である。研磨効率は、研磨量を磨耗率で除した値である。研磨効率評価は、研磨効率が15以上の研磨石10を「○(良好)」と評価し、研磨効率が15未満の研磨石10を「×(不良)」と評価した。
【0022】
光沢度は、日本電色工業製光沢計VG7000を用いて測定した値である。光沢度評価については、光沢度が500以下の研磨石10を「×(不良)」と評価し、光沢度が700以上の研磨石10を「○(良好)」と評価し、光沢度が500~700の研磨石10を「△(普通)」と評価した。光沢効率は、光沢度を摩耗率で除した値である。光沢効率評価については、光沢効率2000以上の研磨石10を「○(良好)」と評価し、光沢効率が2000未満の研磨石10を「△(普通)」と評価した。
【0023】
総合評価は、研磨効率評価と光沢度評価と光沢効率評価の3つの評価に基づいた評価である。3つの評価のうち少なくとも1つの評価が「×(不良)」である研磨石10は、総合評価を「×(不良)」とした。3評価のいずれにも「×(不良)」がなく、「○」の評価数よりも「△」の評価数が多い研磨石10は、総合評価を「△(普通)」とした。3評価のいずれにも「×(不良)」がなく、「△」の評価数よりも「○」の評価数が多い研磨石10は、総合評価を「○(良好)」とした。研磨効率評価と光沢度評価と光沢効率評価の3評価の全てにおいて「○(良好)」と評価された研磨石10は、総合評価において「◎(最良)」と評価した。
【0024】
表1に示す実施例1~9の研磨石10は、砥粒11が炭化ケイ素であり、砥粒11のメジアン径が1.6μm~4.1μm(0.1μm~5.0μmの範囲内)であり、砥粒含有率が20wt%~40wt%(15wt%~50wt%の範囲内)である。この実施例1~9の研磨石10は、研磨効率評価と光沢度評価の何れにおいても「△(普通)」以上の結果が得られた。実施例1~9のうち砥粒11のメジアン径が1.6μm~2.5μm(0.8μm~3.0μmの範囲内)である実施例4~9は、特に光沢度評価において「○(良好)」の結果が得られた。さらに、実施例4~9のうち砥粒含有率が20wt%~30wt%(15wt%~35wt%の範囲内)である実施例4,5,7,8は、特に光沢効率評価において「○(良好)」の結果が得られた為、研磨力と光沢仕上げ性能のバランスが最も良い。
【0025】
砥粒11の材料が炭化ケイ素であり、砥粒含有率が10wt%(15wt%より低い値)である比較例A,C,Dは、研磨効率評価が「×(不良)」であった。砥粒11の材料が炭化ケイ素であり、砥粒含有率が55wt%(50wt%よりも高い値)である比較例Bの研磨石10は、研磨効率評価と光沢度評価がいずれも「×(不良)」であった。これにより、研磨効率と光沢度を優先する場合、砥粒含有率は15wt%~50wt%が好適であるとの知見が得られた。
【0026】
砥粒含有率が20wt%~30wt%である実施例1,2,4,5の研磨石10と比較例1~4の研磨石10とを比較した場合、砥粒11の材料が炭化ケイ素(新モース硬度が13)である実施例1,2,4,5の研磨石10は、研磨効率評価が「○(良好)」であった。これに対し、砥粒11の材料がアルミナ(新モース硬度が12)である比較例1~4の研磨石10は、研磨効率評価が「×(不良)」であった。これにより、砥粒11の新モース硬度は13若しくは13以上が好適であるとの知見が得られた。
【0027】
また、新モース硬度が13より低いアルミナを砥粒11の材料とした比較例1,2では、新モース硬度が13より高い炭化ケイ素を砥粒11の材料とした実施例1,2よりも研磨力(研磨量)が低下している。したがって、砥粒11の新モース硬度を13以上とすることにより、高い研磨力が得られる。しかも、炭化ケイ素は、新モース硬度が13以上の砥粒11の中でも比較的安価に調達できるので、原料コストを低減することができる。
【0028】
砥粒11の材料が炭化ケイ素である実施例1~9の研磨石10においては、砥粒11のメジアン径が大きくなるほど光沢度が低下する傾向がある為、メジアン径が5.0μmを超えると光沢度がさらに低下することは自明である。また、砥粒11のメジアン径が0.1μm未満の研磨石10は、砥粒11の原料コストが高いだけでなく、以下の理由により研磨石10の製造が困難である。即ち、メジアン径が0.1μm未満の砥粒11と、液体状態の結合材12とを混合して得られた粘性材料13は、粘性が高くなる。そのため、粘性材料13を注型用型20に注入したときに成形不良を生じ易くなる。このことから、光沢度、原料コスト、成形性を優先する場合、砥粒11のメジアン径は0.1μm~5.0μmが好適であるとの知見が得られる。
【0029】
また、砥粒11の材料が炭化ケイ素である実施例1~9の研磨石10において、砥粒11のメジアン径が4.1μmである実施例1~3の研磨石10は、光沢度評価が「△(普通)」であった。砥粒11のメジアン径が2.5μmである実施例4~6の研磨石10は、光沢度評価が「○(良好)」であった。砥粒11のメジアン径が1.6μmである実施例7~9の研磨石10も、光沢度評価が「○(良好)」であった。砥粒11のメジアン径が0.8μm未満の研磨石10は、上述のように原料コストが高く、製造が困難である。これにより、光沢度、原料コスト、成形性を優先する場合、砥粒11のメジアン径は0.8μm~2.5μm(0.8μm~3.0μmの範囲内)が、より好適であるとの知見が得られた。
【0030】
また、砥粒11の材料が炭化ケイ素であり、砥粒11のメジアン径が1.6μm~2.5μm(0.8μm~3.0μmの範囲内)である実施例4~9において、砥粒含有率が20wt%~30wt%である実施例4,5,7,8の研磨石10は、総合評価が「◎(最良)」であった。砥粒含有率が40wt%である実施例6,9の研磨石10は、総合評価が「○(良好)」であった。砥粒11の含有率が大きくなるほど、研磨力が高くなる一方で、光沢仕上げ性能が低下する傾向にあるが、砥粒11の含有率が20wt%~30wt%(35wt%以下)であれば、研磨力と光沢仕上げ性能の両方を、バランス良く高めることができる。これにより、研磨力と光沢仕上げ性能を優先する場合は、砥粒11のメジアン径が1.6μm~2.5μm(0.8μm~3.0μmの範囲内)であり、且つ砥粒含有率が20wt%~30wt%(15wt%~35wt%の範囲内)であることが、総合的に好適であるとの知見が得られた。
【0031】
実施例1~9のバレル研磨用研磨石10は、砥粒11と合成樹脂製の結合材12とを有し、高い光沢仕上げ性能と良好な研磨力を有する。即ち、バレル研磨用研磨石10は、砥粒11のメジアン径が1.6μm~4.1μm(0.1μm~5.0μmの範囲内)であり、砥粒11の新モース硬度が13以上であり、砥粒11の含有率が20wt%~40wt%(15wt%~50wt%の範囲内)である。
【0032】
本願の発明者は、実施例1~9のものとはメジアン径又は砥粒含有率の異なる複数種類の研磨石10を用いて、実施例1~9の研磨石10と同じ条件で遠心バレル研磨を実行した(表1への記載は省略する)。この遠心バレル研磨の結果と、実施例1~9、比較例A~D及び比較例1~4の遠心バレル研磨、以下の知見を得た。即ち、砥粒11のメジアン径が5.0μm以下であれば、高い光沢性能が得られるが、砥粒11のメジアン径が5.0μmより大きくなると、光沢仕上げ性能が低下する。したがって、砥粒11のメジアン径を0.1μm~5.0μmとすることにより、光沢仕上げの性能が高まる。また、砥粒11のメジアン径が0.1μmより小さくなると、上述したように、砥粒11の材料コストが高くなるだけでなく、製造工程において液体状態の結合材12と砥粒11を混合した粘性材料13の粘性が高くなる為、粘性材料13を注型用型20に注入したときに成形不良を生じ易くなる。
【0033】
砥粒11の含有率が50wt%より多くなると、磨耗率が上昇するだけでなく、光沢仕上げ性能が低下する。しかも、砥粒11の含有率が50wt%より多くなると、製造工程において液体状態の結合材12と砥粒11を混合した粘性材料13の粘性が高くなる為、粘性材料13を注型用型20に注入したときに成形不良を生じ易くなる。砥粒11の含有率が15wt%よりも少なくなると、研磨力が低下する。したがって、砥粒11の含有率を15wt%~50wt%とすることにより、高い研磨力が得られるとともに、光沢仕上げ性能が高まる。
【0034】
バレル研磨工程では、研磨石10が、ワークとの間の高い相対運動差によって摩擦熱を帯びる。熱可塑性樹脂からなる研磨石は、高温になると変形したり欠損したり割れたりするおそれがあるため、その対策として、実施例1~9の研磨石10は、結合材12の材料を熱硬化性樹脂とした。これにより、研磨石10の変形が抑制され、研磨石10の摩耗を抑制することもできる。また、研磨石10が欠損したり割れたりすることが低減される。しかも、熱硬化性樹脂として不飽和ポリエステルを用いた。不飽和ポリエステルは、注型成形において熱硬化する際の成形収縮が小さいので、寸法精度の高い研磨石10を製造することができる。
【0035】
実施例1~9の研磨石10の外面は、平面部14と、平面部14とは反対側に向かって先細りとなる先細り部15とを有する形状である。圧縮成形、射出成形、トランスファ成形で研磨石を製造する場合は、成形機や金型が砥粒によって摩耗することが懸念される。これに対し、注型用型20を用いた注型成形によって研磨石10を成形する場合は、粘性材料13(成形材料)中の砥粒11が注型用型20に強く押し付けられたり強く擦られたりすることがない。しかも、研磨石10(成形物)の外面が平面部14と先細り部15を有する形状をなしていれば、研磨石10を注型用型20から脱型させる際の摩擦抵抗が小さい。本実施例1~9の研磨石10の外面は平面部14と先細り部15を有する形状なので、砥粒11による注型用型20の摩耗を抑制することができる。
【0036】
研磨石10の最大外形寸法が3mmよりも小さくなると、注型成形工程において所定の形状に成形することが難しく、生産効率が低下する。研磨石10の最大外形寸法が8mmよりも大きくなると、光沢仕上げ性能が低下する。この点に鑑み、実施例1~9の研磨石10は、最大外形寸法を3mm~8mmとしている。これにより、生産効率を低下させることなく、高い光沢仕上げ性能を得ることができる。
【0037】
また、バレル槽33を遊星回転させる遠心バレル研磨機30は、ワークと研磨石10に作用する遠心力が大きいので、高い研磨力を発揮することができるのであるが、その反面、十分な光沢が得られないことがある。この点に鑑み、実施例1~9の研磨石10は、砥粒11のメジアン径を0.1μm~5.0μmの範囲内とし、砥粒11の新モース硬度を13以上とし、砥粒11の含有率を15wt%~50wt%の範囲内としている。かかる研磨石10を用いて行う遠心バレル研磨方法によれば、高い研磨力を発揮するだけでなく、良好な光沢仕上げを実現することができる。
【0038】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
バレル研磨用研磨石は、新モース硬度が13以上の砥粒の他に、新モース硬度が13より低い砥粒を含んでいてもよい。
砥粒は、炭化ケイ素に限らず、シリカ、アルミナ、ジルコニア、立方晶窒化ホウ素(CBN)、ダイヤモンド等であってもよい。
結合材は、不飽和ポリエステル以外の熱硬化性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂以外の合成樹脂でもよい。
バレル研磨用研磨石の外面は、平面部と先細り部を有する形状に限らず、平面部を有しない形状や、先細り部を有しない形状であってもよい。
バレル研磨用研磨石の最大外形寸法は、3mmより小さい寸法でもよく、8mmより大きい寸法でもよい。
バレル研磨用研磨石の成形方法は、液体状態の結合材と砥粒を混合した粘性材料を注型用型に注入する注型成形に限らず、押出成形、圧縮成形(プレス)、射出成形、トランスファ成形を用いてもよい。
砥粒の含有率は、15wt%~40wt%としてもよい。この場合も、砥粒のメジアン径が0.1μm~5.0μm、若しくは0.8μm~3.0μm、好ましくは1.5μm~2.5μmであれば、研磨力と光沢仕上げ性能の両方をバランス良く高めることができる。
砥粒のメジアン径は、1.5μm~2.5μmとしてもよい。この場合も、砥粒の含有率が15wt%~50wt%、若しくは15wt%~40wt%、好ましくは15wt%~35wt%、更に好ましくは20wt%~30wt%であれば、研磨力と光沢仕上げ性能の両方をバランス良く高めることができる。
バレル研磨用研磨石の外面形状は、円錐形に限らず、角錐形、砲弾形、銃弾形、半球形、円錐台形、角錐台形等の平面部を有する形状であってもよい。また、平面部を有しない形状であってもよい。
本実施例1~9の研磨石は、遠心バレル研磨機及び遠心バレル研磨方法に限らず、回転バレル研磨機、渦流バレル研磨機、振動バレル研磨機、ジャイロ研磨機等やこれらの研磨機を用いた研磨方法にも使用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…バレル研磨用研磨石
11…砥粒
12…結合材
13…粘性材料
14…平面部
15…先細り部
16…曲面部
20…注型用型
21…成形用凹部
30…遠心バレル研磨機
31…公転軸
32…ターレット
33…バレル槽
34…自転軸
図1
図2
図3