(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054410
(43)【公開日】2024-04-16
(54)【発明の名称】抗IGF-1受容体ヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240409BHJP
C07K 16/22 20060101ALI20240409BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240409BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240409BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240409BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240409BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240409BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240409BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240409BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240409BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240409BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240409BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240409BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240409BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240409BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20240409BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240409BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240409BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240409BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240409BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240409BHJP
A61P 5/16 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/22
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P21/00
A61P19/08
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K48/00
A61K35/12
A61P1/12
A61P25/00
A61P17/06
A61P9/10 101
A61P9/10
A61P37/02
A61P21/04
A61P5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】34
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028737
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2022528850の分割
【原出願日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020096344
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】松川 博昭
(72)【発明者】
【氏名】江口 広志
(72)【発明者】
【氏名】並木 直子
(72)【発明者】
【氏名】田野倉 章
(57)【要約】
【課題】既報の抗IGF-1受容体マウス抗体IGF11-16(特許文献1)と同等以上の特異性、及び、結合親和性又は活性を有する、抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体、又はそれらの作製方法を提供する。
【解決手段】マウス親抗体IGF11-16に由来する重鎖及び軽鎖のCDRと、ヒト抗体に由来する重鎖及び軽鎖の各FRとを含むと共に、少なくとも1つのCDRが、マウス親抗体の対応するCDRに対して、少なくとも1箇所のアミノ酸残基の置換を含む、抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス親抗体IGF11-16に由来する重鎖及び軽鎖の各相補性決定領域(CDR)と、ヒト抗体に由来する重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域(FR)とを含むと共に、少なくとも1つのCDRが、マウス親抗体IGF11-16の対応するCDRに対して、少なくとも1箇所のアミノ酸残基の置換を含む、抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項2】
重鎖可変領域のフレームワーク領域1(FR-H1)の25位のアミノ酸残基がプロリンである、請求項1に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項3】
重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列として、配列番号1のアミノ酸配列、又は、配列番号1の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列として、配列番号3若しくは配列番号5のアミノ酸配列、又は、配列番号3若しくは配列番号5の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列として、配列番号7のアミノ酸配列、又は、配列番号7の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列として、配列番号9のアミノ酸配列、又は、配列番号9の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列として、配列番号11のアミノ酸配列、又は、配列番号11の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列として、配列番号13のアミノ酸配列、又は、配列番号13の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列
を含む、請求項1又は2に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項4】
重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列として、配列番号1と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列として、配列番号3又は配列番号5と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列として、配列番号7と75%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列として、配列番号9と81%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列として、配列番号11と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列として、配列番号13と77%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、請求項1又は2に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項5】
重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列として、配列番号1の3位のTrpが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該3位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号1と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列として、
配列番号3の1位のGlu及び3位のAsnが各々維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されると共に、6位のAsnが維持され、又は、Ser若しくはGlnに置換されたアミノ酸配列であって、当該1位、3位、及び6位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号3と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列、或いは、
配列番号5の1位のGlu及び3位のAsnが各々維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されると共に、6位のSerが維持され、又は、Asn若しくはGlnに置換されたアミノ酸配列であって、当該1位、3位、及び6位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号5と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列として、配列番号7の4位のArgが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該4位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号7と75%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列として、配列番号9の9位のTrpが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該9位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号9と81%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列として、配列番号11の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号11と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列として、配列番号13の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号13と77%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、請求項1又は2に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項6】
配列番号71のアミノ酸配列を有するヒトIGF-1受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する、請求項1~5の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項7】
重鎖可変領域として、配列番号43、47、49、53、55、若しくは59のアミノ酸配列、配列番号43、47、49、53、55、若しくは59のアミノ酸配列において1若しくは数箇所のアミノ酸残基が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、又は、配列番号43、47、49、53、55、若しくは59と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域として、配列番号65、67、若しくは69のアミノ酸配列、配列番号65、67、若しくは69のアミノ酸配列において1若しくは数箇所のアミノ酸残基が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、又は、配列番号65、67、若しくは69と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項8】
重鎖及び/又は軽鎖の定常領域として、ヒト免疫グロブリンの何れかのクラスの重鎖及び/又は軽鎖の定常領域を含む、請求項1~7の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項9】
重鎖定常領域が、ヒトIgG4クラスの重鎖定常領域又はその1~10箇所のアミノ酸が置換された定常領域である、請求項1~8の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項10】
重鎖定常領域が、ヒトIgG1クラスの重鎖定常領域又はその1~10箇所のアミノ酸が置換された定常領域である、請求項1~8の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項11】
IGF-1受容体に対して平衡解離定数(KD)1×10-7M以下の親和性で結合する、請求項1~10の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項12】
IGF-1受容体シグナル活性化能を有する、請求項1~11の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項13】
筋芽細胞増殖試験において、増殖活性を有する、請求項1~12の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項14】
BIACOREによる組換え可溶性IGF-1受容体への結合性試験において、マウス親抗体IGF11-16と同等以上の結合親和性を有する、請求項1~13の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項15】
正常哺乳動物において、低血糖症状を誘導せず、筋量増加作用を誘導しうる、請求項1~14の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項16】
下垂体摘出モデル動物において、低血糖症状を誘導せず、成長板軟骨伸長作用を誘導しうる、請求項1~15の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項17】
脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において当該脊椎動物に投与された場合に、当該脊椎動物の血糖値を低下させない、請求項1~16の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項18】
脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する有効用量に対して10倍以上の血中曝露量においても、当該脊椎動物の血糖値を低下させない、請求項1~16の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項19】
IGF-1受容体シグナル活性化抑制能を有する、請求項1~18の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項20】
筋芽細胞増殖試験において、IGF-1受容体を活性化しうるリガンドであるIGF-1、IGF-2、及びインスリンの少なくとも一つの増殖活性を抑制する、請求項1~18の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項21】
がん細胞増殖試験において、細胞増殖を抑制する活性を有する、請求項1~20の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項22】
抗IGF-I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、1)~4)の少なくとも一つの特徴を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗IGF-I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
1)IGF-I受容体活性化リガンドによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する。
2)脊椎動物におけるIGF-I受容体活性化リガンドに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する。
3)IGF-I受容体活性化リガンドによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みに影響しない。
4)脊椎動物におけるIGF-I受容体活性化リガンドに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する用量において、当該脊椎動物の血糖値を変動させない。
【請求項23】
担癌モデル動物において、血糖値に影響を与えることなく、がん細胞増殖抑制作用を誘導しうる、請求項1~22の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項24】
担癌モデル動物において、がん細胞増殖抑制作用を誘導しうる有効用量に対して10倍以上の血中曝露量においても、当該モデル動物の血糖値に影響を与えない、請求項23に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
【請求項25】
請求項1~24の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体をコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項26】
請求項25に記載の核酸分子を少なくとも一つ含むクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項27】
請求項26に記載のベクターが宿主細胞に導入された組換え体細胞。
【請求項28】
請求項1~24の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体を製造する方法であって、請求項27に記載の組換え体細胞を培養し、前記組換え体細胞から産生される当該抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体を精製する工程を含む方法。
【請求項29】
請求項1~24の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体、請求項25に記載の核酸分子、請求項26に記載のベクター、或いは請求項27に記載の組換え体細胞を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項30】
筋萎縮性疾患又は低身長症の治療に用いられる、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
筋萎縮性疾患が、廃用性筋萎縮、サルコペニア、又はカヘキシアである、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
低身長症が、ラロン型低身長症又は成長ホルモン抵抗性低身長症である、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項33】
IGF-1受容体に関連した疾患の治療に用いられる、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項34】
IGF-I受容体に関連した疾患が、肝臓がん、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー-モリソン症候群、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺疾患、橋本甲状腺炎、甲状腺眼症、甲状腺機能亢進症ならびにベーチェット病からなる群より選択される疾患である、請求項33に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗IGF-1受容体ヒト化抗体に関する。具体的には、IGF-1受容体に特異的に結合する抗IGF-1受容体ヒト化抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
1.IGF-1
IGF-1は、インスリン様成長因子であり、下垂体から分泌される成長ホルモン(GH)によるGH受容体の活性化を介して、主に肝臓から分泌され、IGF-1受容体に作用することにより、各種臓器で種々の生理機能を発現する。このことからIGF-1は、種々の疾患への治療が期待される。IGF-1は、プロインスリンのアミノ酸配列と比較して、約40%と高い相同性を有することから、インスリン受容体にも結合して、インスリン様の作用を発現することがある。また、IGF-1受容体は、インスリン受容体のアミノ酸配列と比較して、約60%と高い相同性を有することから、両受容体はヘテロ二量体を形成することによっても、生理作用を発揮する。なお、インスリンは、インスリン受容体に作用することにより、強力な血糖低下作用を発現することから、血糖降下薬として治療に用いられている。
【0003】
2.IGF-1受容体
IGF-1受容体はα鎖及びβ鎖で構成され、L1、CR、L2、Fn1、Fn2、及びFn3の6つの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む膜貫通タンパク質である。IGF-1受容体の細胞内ドメインは、チロシンキナーゼを有する。細胞外ドメインは、IGF-1がIGF-1受容体に結合した時の当該受容体の立体構造の変化に伴う、細胞内のチロシンキナーゼの活性化に関与する。IGF-1受容体は、ホモ二量体複合体(ホモ型)を形成して、IGF-1が結合すると、受容体キナーゼを活性化することにより信号を送る。また、インスリン受容体とのヘテロ二量体複合体(ヘテロ型)を形成して、インスリン又はIGF-1が結合すると、受容体キナーゼを活性化することにより信号を送る。
【0004】
3.IGF-1の生理作用
IGF-1は、身長や体重増加等の成長促進作用、及び、糖代謝促進や血糖低下作用等のインスリン様代謝作用が明らかにされている。ヒト組換えIGF-1であるメカセルミンは、インスリン受容体異常症の高血糖、高インスリン血症、黒色表皮腫及び多毛といった症状を改善することが認められている。また、成長ホルモン抵抗性低身長症の成長障害を改善することが認められている(非特許文献1)。
【0005】
4.IGF-1の成長促進作用
IGF-1は、成長促進の主要な因子である(非特許文献2、非特許文献3)。実際に、ヒト組換えIGF-1であるメカセルミンは、低身長症の治療薬として臨床で用いられている。また、IGF-1はヒト軟骨細胞のDNA合成能を亢進させることが知られている。また、IGF-1の投与は、下垂体摘出ラットの体重を増加させ、大腿骨骨長を伸長させる。
【0006】
5.IGF-1の筋肉量増加作用
IGF-1を介した細胞増殖活性の亢進は、IGF-1受容体の持続的な活性化が必要である。IGF-1受容体を過剰発現させた動物では筋肉量が増加している。また、IGF-1/IGFBP3の持続投与は、大腿骨近位部骨折患者の握力を亢進させ、介助なしでの座位からの立ち上がり能力を改善させる。高齢のヒト及びマウスの筋肉中のIGF-1濃度は、若齢と比較して低下することが知られているが、IGF-1を筋組織特異的に強制発現させた高齢のマウスでは、野生型マウスと比較して、筋肉量が改善した(非特許文献4)。
【0007】
6.筋肉量を増加させる先行品
グレリン受容体の作動薬であるアナモレリンは、廃用性筋萎縮症であるカケキシアの臨床試験において、除脂肪量を増加させた。一方、副作用として、吐き気及び血糖値の上昇が認められる。ミオスタチンは、アクチビン受容体II(ActRII)に作用して、Akt/mTORを阻害する、骨格筋形成の負の制御因子である。抗ミオスタチン抗体であるLY2495655は、全人工股関節置換術を実施した患者及び高齢者の筋肉量を増加させる。また、抗ActRII抗体であるビマグルマブは、神経筋疾患患者の筋肉量を増加させる。しかし、骨格筋の形成を促進させ、治療のために使用できる薬は現在のところ存在しない。
【0008】
7.IGF-1の血糖低下作用
IGF-1のインスリン様作用として、血糖低下作用が知られている。IGF-1は、ラット筋肉由来細胞においてグルコース取込み作用を亢進させる。また、IGF-1の投与は、ラットの血糖値を低下させる。IGF-1による血糖低下作用は、臨床上の副作用として低血糖症状を惹起させることが報告されている。更に、IGF-1は、ヒトへの投与により低血糖症状を起こすことから、治療開始時は、低用量から順次適当量を投与し、投与後の血糖値等を含む各種臨床所見の観察が必要となる。
【0009】
IGF-1は、Aktのリン酸化の亢進などを介して血糖低下作用を発現する。Aktの活性型変異体は、3T3-L1細胞のグルコース取込みを亢進させる。一方、Akt2を欠損させたマウスは、血糖値が上昇した。また、ラット筋肉由来細胞においてAkt阻害剤は、インスリン刺激によるグルコース取込みを阻害する。更に、IGF-1は、血糖低下作用に関与するインスリン受容体を活性化させることが知られている。これらのことから、IGF-1による血糖低下作用には、Aktの過剰な活性化及びインスリン受容体の活性化が関与することが考えられる。
【0010】
8.IGF-1の短い血中半減期
IGF-1の血中半減期は、短いため治療では頻回投与が必要となる。実際に、ヒト組換えIGF-1であるメカセルミンは、血中半減期が約11時間から16時間であり、低身長症の治療では1日1回から2回の投与が必要である。血中のIGF-1の約70から80%はIGFBP3と結合している。IGF-1の遊離体が生理活性を示す。IGFBP3との結合は、IGF-1の血中半減期を約10時間から16時間に維持している。IGF-1とIGFBP3の配合剤であるIPLEXは、血中半減期が約21時間から26時間とIGF-1と比較して長く、1日1回の投与を可能にした薬剤である。しかし、IPLEXは市場から撤退している。IGF-1の動態を改善させたPEG化IGF-1も開発が試みられたが、治療に用いられている薬剤は存在しない。
【0011】
9.IGF-1の作用により期待される治療効果
IGF-1は多種の臓器に作用し、その生理機能は多岐にわたることが知られている。例えば、IGF-1は、中枢神経系において、IGF-1受容体の活性化を介して、ミトコンドリアの保護及び抗酸化作用による神経保護作用があることが報告されている。IGF-1は、傷害後の神経突起の形成を促進させる。また、IGF-1は、肝硬変の治療に有用であると考えられている。肝硬変は、肝障害又は慢性肝疾患から病態進展したものであり、肝臓の線維化を伴う疾患である。肝硬変モデル動物において、IGF-1の投与は、肝臓の線維化を抑制した。更に、IGF-1は、腎臓の発達、機能にも関与することが知られている。腎臓のメサンギウム細胞において、IGF-1は、糖毒性による酸化ストレス及びアポトーシスに対して保護作用がある。IGF-1は、腎症の治療薬として期待される。
【0012】
IGF-1の投与により改善が期待される病態には、サルコペニア、廃用性筋萎縮症、カケキシア、低身長症、ラロン症、肝硬変、肝線維化、老化、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、神経疾患、脳卒中、脊髄損傷、心血管保護、糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、腎症、骨粗しょう症、嚢胞性線維症、創傷治癒、筋強直性ジストロフィー、エイズ筋減弱症、HIVに伴う脂肪再分布症候群、火傷、クローン病、ウェルナー症候群、X連鎖性複合免疫不全症、難聴、神経性無食欲症及び未熟児網膜症がある。このように、IGF-1は、その多彩な生理作用から、種々の疾患の治療薬として期待される。しかし、副作用である血糖低下作用、及び短い半減期による複数回の投与が臨床で用いるための課題である。
【0013】
10.抗IGF-1受容体アゴニスト抗体
抗体製剤は、一般的に半減期が長く、月に1回から2回の投与で有効性を示す。抗IGF-1受容体アゴニスト抗体は、インビトロ(in vitro)における短時間処理での受容体活性化作用がいくつか報告されている。例えば、抗体3B7及び抗体2D1は、インビトロにおいて5時間培養した組換えIGF-1受容体発現細胞のDNA合成を促進した(非特許文献5)。また、がん細胞株の増殖抑制活性を有する抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体11A1、11A4、11A11、及び24-57は、インビトロにおいて極めて微弱であるがIGF-1受容体のチロシンのリン酸化を亢進した(非特許文献6)。また、抗体16-13、17-69、24-57、24-60、及び24-31は、インビトロにおいて短時間における細胞のDNA合成、及びグルコース取込みの亢進作用を有することが示されており、これらの抗体は血糖低下作用を有する可能性がある(非特許文献7)。
【0014】
しかしながら、IGF-1受容体チロシンリン酸化は、がん細胞増殖抑制作用を有するαIR-3などの抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体でも観察されており、アゴニスト作用の指標にはならない(非特許文献5、6、8)。また、チミジンあるいはBrdUの取り込みなどDNA合成を指標とした細胞増殖アッセイにおいても、がん細胞増殖抑制作用を有する抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体でもチミジン取り込みが観察されており(非特許文献5~8)、細胞増殖活性を有するアゴニスト抗体の指標とは成り得ない。さらに、24時間以内の短時間の評価であり、数日間の培養における細胞増殖促進に関するIGF-1受容体アゴニスト抗体の報告は無かった(非特許文献5~8)。ましてや、インビボ(in vivo)においてIGF-1受容体に対するアゴニスト活性を示した抗体の報告は無かった。また、IGF-1が血糖降下作用と細胞増殖作用の両方を発揮することから、抗IGF-1受容体アゴニスト抗体を治療薬としてヒトへ投与するためには、血糖低下作用を回避することが必要であるが、これまでそのような抗IGF-1受容体アゴニスト抗体の報告は無かった。また、抗体は分子量が大きく、組織移行性が低いことが知られており脳内移行性は0.1%程度、筋肉組織移行性は2%程度である。そのため、抗体の移行性が低い組織で作用を発揮するためには、極めて低濃度域(pMオーダー)で十分な薬理活性を示す抗体が必要となる。しかしながら、そのような極めて低濃度で作用し得る抗IGF-1受容体アゴニスト抗体の報告はこれまで無かった。
【0015】
斯かる背景の下、本発明者等は、インビトロにおいて極めて低濃度で筋芽細胞増殖作用を発揮し、斯かる濃度で分化骨格筋細胞の糖取り込みを誘導しない抗IGF-1受容体モノクローナルマウス抗体IGF11-16を作製することに成功している。更に、得られた該モノクローナルマウス抗体が、インビボにおいて低血糖症状を起こすことなく筋量増加作用及び成長板伸長作用を誘導することを確認している(特許文献1)。
【0016】
11.抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体
IGF-1受容体に結合する抗体は、IGF-1とIGF-1受容体との結合を阻害するアンタゴニスト作用を利用して、悪性腫瘍等の治療への応用が試みられている。しかしながら、既存の抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体は単独治療において高血糖等の副作用が多いだけでなく(非特許文献9)、他の抗癌剤との併用により高血糖の発現率が上昇することから(非特許文献10)、治療への適用は限定的なものになるものと考えられている。近年、甲状腺機能亢進症における眼症への適応でテプロツムマブ(Teprotumumab)が承認された(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】ヒト ソマトメジンC「製剤ソマゾン(登録商標)注射用10mg」医薬品インタビューフォーム、2015年5月改訂、第5版
【非特許文献2】Abuzzahab, M.J., et al., IGF-I receptor mutations resulting in intrauterine and postnatal growth retardation. N Engl J Med, 2003. 349(23): p. 2211-22.
【非特許文献3】Woods, K.A., et al., Intrauterine growth retardation and postnatal growth failure associated with deletion of the insulin-like growth factor I gene. N Engl J Med, 1996. 335(18): p. 1363-7.
【非特許文献4】Musaro, A., et al., Localized Igf-1 transgene expression sustains hypertrophy and regeneration in senescent skeletal muscle, Nature Genetics, 2001, Vol.27, No.2, pp.195-200
【非特許文献5】Xiong, L., et al., Growth-stimulatory monoclonal antibodies against human insulin-like growth factor I receptor. Proc Natl Acad Sci U S A, 1992. 89(12): p. 5356-60.
【非特許文献6】Runnels, H.A., et al., Human monoclonal antibodies to the insulin-like growth factor 1 receptor inhibit receptor activation and tumor growth in preclinical studies. Adv Ther, 2010. 27(7): p. 458-75.
【非特許文献7】Soos, M.A., et al., A panel of monoclonal antibodies for the type I insulin-like growth factor receptor. Epitope mapping, effects on ligand binding, and biological activity. J Biol Chem, 1992. 267(18): p. 12955-63.
【非特許文献8】Kato, H., et al., Role of tyrosine kinase activity in signal transduction by the insulin-like growth factor-I (IGF-I) receptor. Characterization of kinase-deficient IGF-I receptors and the action of an IGF-I-mimetic antibody (alpha IR-3). J Biol Chem, 1993. 268(4): p. 2655-61.
【非特許文献9】Atzori, F., et al., A Phase I Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Study of Dalotuzumab (MK-0646), an Anti-Insulin-like Growth Factor-1 Receptor Monoclonal Antibody, in Patients with Advanced Solid Tumors. Clin Cancer Res., 2011.17(19):p.6304-12.
【非特許文献10】de Bono J.S., et al., Phase II randomized study of figitumumab plus docetaxel and docetaxel alone with crossover for metastaticcastration-resistant prostate cancer. Clin Cancer Res., 2014.20(7):p.1925-34.
【非特許文献11】Markham. A, Teprotumumab: First Approval. Drugs, 2020. 80(5): p.509-512.
【非特許文献12】Riechman, L., Clark, M., Waldmann, H., Winter, G.: Reshaping human antibodies for therapy. Nature, 1988. 332:p.323-327.
【非特許文献13】Kabat et al., The Journal of Immunology, 1991, Vol.147, No.5, pp.1709-1719
【非特許文献14】Al-Lazikani et al., Journal of Molecular Biology, 1997, Vol.273, No.4, pp.927-948
【非特許文献15】Abhinandan, K.R. et al., Molecular Immunology, 2008, Vol.45, pp.3832-3839
【非特許文献16】Jian, Y. et al., Nucleic Acids Research, 2013, Vol.41, W34-W40
【非特許文献17】Yamada, T. et al., Therapeutic monoclonal antibodies. Keio Journal of Medicine, 2011, Vol.60, No.2, pp37-46
【非特許文献18】Burks, E. A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1997, Vol.94, No.2, pp.412-417
【非特許文献19】Dumet, C., et al., MAbs, 2019, Vol.11, No.8, pp1341-1350
【非特許文献20】Saunders, K. O., Frontiers in Immunology, 2019, Vol.10, Article 1296
【非特許文献21】Walle et al., Expert Opin. Biol. Ther., 2007, Vol.7, No.3, pp.405-418
【非特許文献22】Silva, J-P., et al., The Journal of Biological Chemistry, 2015, Vol.290, No.9, pp.5462-5469
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、既報の抗IGF-1受容体マウス抗体IGF11-16(特許文献1)と同等以上の特異性、及び、結合親和性又は活性を有する、抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体、又はそれらの作製方法を提供することを、その目的の一つとする。
【0020】
本発明の具体的な目的としては、これらに限定される訳ではないが、例えば、既報の抗IGF-1受容体マウス抗体IGF11-16(特許文献1)と同等以上の特異性、及び、結合親和性又は活性を有するヒト化抗体を取得するための、(1)ヒトフレームワークのデザインに必須なアミノ酸の提供、(2)抗原結合部位であるCDR配列(本発明ではKabat法により同定)において活性維持に必須なアミノ酸部位の提供、(3)免疫原性低下のためのアミノ酸置換の提供、及び、(4)脱アミド化リスク回避のためのアミノ酸置換の提供、等が挙げられる。
【0021】
本発明を利用・応用することにより、例えば、ヒトIGF-1受容体を介して、低血糖症状を誘導すること無く、筋肉量を増加させることが可能な、抗IGF-1受容体ヒト化抗体を得ることができる。これにより、例えばサルコペニア、廃用性筋萎縮、又はカケキシアなどの、IGF-1受容体シグナルに関連する病態又は疾患を改善又は治療することを目的としてヒトへ投与し得る、抗IGF-1受容体ヒト化抗体を得ることができる。また、ヒトへ投与し得る、低免疫原性や物性安定性を確保したヒト化抗体の提供が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]マウス親抗体IGF11-16に由来する重鎖及び軽鎖の各相補性決定領域(CDR)と、ヒト抗体に由来する重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域(FR)とを含むと共に、少なくとも1つのCDRが、マウス親抗体IGF11-16の対応するCDRに対して、少なくとも1箇所のアミノ酸残基の置換を含む、抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[2]重鎖可変領域のフレームワーク領域1(FR-H1)の25位のアミノ酸残基がプロリンである、項[1]に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[3]重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列として、配列番号1のアミノ酸配列、又は、配列番号1の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列として、配列番号3若しくは配列番号5のアミノ酸配列、又は、配列番号3若しくは配列番号5の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列として、配列番号7のアミノ酸配列、又は、配列番号7の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列として、配列番号9のアミノ酸配列、又は、配列番号9の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列として、配列番号11のアミノ酸配列、又は、配列番号11の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列として、配列番号13のアミノ酸配列、又は、配列番号13の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列
を含む、項[1]又は[2]に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[4]重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列として、配列番号1と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列として、配列番号3又は配列番号5と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列として、配列番号7と75%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列として、配列番号9と81%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列として、配列番号11と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列として、配列番号13と77%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、項[1]又は[2]に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[5]重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列として、配列番号1の3位のTrpが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該3位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号1と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列として、
配列番号3の1位のGlu及び3位のAsnが各々維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されると共に、6位のAsnが維持され、又は、Ser若しくはGlnに置換されたアミノ酸配列であって、当該1位、3位、及び6位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号3と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列、或いは、
配列番号5の1位のGlu及び3位のAsnが各々維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されると共に、6位のSerが維持され、又は、Asn若しくはGlnに置換されたアミノ酸配列であって、当該1位、3位、及び6位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号5と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列として、配列番号7の4位のArgが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該4位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号7と75%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列として、配列番号9の9位のTrpが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該9位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号9と81%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列として、配列番号11の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号11と85%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列として、配列番号13の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号13と77%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、項[1]又は[2]に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[6]配列番号71のアミノ酸配列を有するヒトIGF-1受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する、請求項1~5の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[7]重鎖可変領域として、配列番号43、47、49、53、55、若しくは59のアミノ酸配列、配列番号43、47、49、53、55、若しくは59のアミノ酸配列において1若しくは数箇所のアミノ酸残基が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、又は、配列番号43、47、49、53、55、若しくは59と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び、
軽鎖可変領域として、配列番号65、67、若しくは69のアミノ酸配列、配列番号65、67、若しくは69のアミノ酸配列において1若しくは数箇所のアミノ酸残基が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列、又は、配列番号65、67、若しくは69と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列
を含む、項[1]~[6]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[8]重鎖及び/又は軽鎖の定常領域として、ヒト免疫グロブリンの何れかのクラスの重鎖及び/又は軽鎖の定常領域を含む、項[1]~[7]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[9]重鎖定常領域が、ヒトIgG4クラスの重鎖定常領域又はその1~10箇所のアミノ酸が置換された定常領域である、項[1]~[8]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[10]重鎖定常領域が、ヒトIgG1クラスの重鎖定常領域又はその1~10箇所のアミノ酸が置換された定常領域である、項[1]~[8]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[11]IGF-1受容体に対して平衡解離定数(KD)1×10-7M以下の親和性で結合する、項[1]~[10]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[12]IGF-1受容体シグナル活性化能を有する、項[1]~[11]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[13]筋芽細胞増殖試験において、増殖活性を有する、項[1]~[12]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[14]BIACOREによる組換え可溶性IGF-1受容体への結合性試験において、マウス親抗体IGF11-16と同等以上の結合親和性を有する、項[1]~[13]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[15]正常哺乳動物において、低血糖症状を誘導せず、筋量増加作用を誘導しうる、項[1]~[14]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[16]下垂体摘出モデル動物において、低血糖症状を誘導せず、成長板軟骨伸長作用を誘導しうる、項[1]~[15]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[17]脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において当該脊椎動物に投与された場合に、当該脊椎動物の血糖値を低下させない、項[1]~[16]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[18]脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する有効用量に対して10倍以上の血中曝露量においても、当該脊椎動物の血糖値を低下させない、項[1]~[16]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[19]IGF-1受容体シグナル活性化抑制能を有する、項[1]~[18]の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[20]筋芽細胞増殖試験において、IGF-1受容体を活性化しうるリガンドであるIGF-1、IGF-2、及びインスリンの少なくとも一つの増殖活性を抑制する、項[1]~[18]の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[21]がん細胞増殖試験において、細胞増殖を抑制する活性を有する、項[1]~[20]の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[22]抗IGF-I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体が、1)~4)の少なくとも一つの特徴を有する、項[1]~[21]のいずれか一項に記載の抗IGF-I受容体抗体もしくはその断片、又はそれらの誘導体。
1)IGF-I受容体活性化リガンドによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する。
2)脊椎動物におけるIGF-I受容体活性化リガンドに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する。
3)IGF-I受容体活性化リガンドによる脊椎動物由来細胞の増殖を阻害する用量において、分化筋細胞でのグルコース取込みに影響しない。
4)脊椎動物におけるIGF-I受容体活性化リガンドに起因する細胞増殖性疾患における細胞増殖を抑制する用量において、当該脊椎動物の血糖値を変動させない。
[23]担癌モデル動物において、血糖値に影響を与えることなく、がん細胞増殖抑制作用を誘導しうる、項[1]~[22]の何れか一項に記載のヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[24]担癌モデル動物において、がん細胞増殖抑制作用を誘導しうる有効用量に対して10倍以上の血中曝露量においても、当該モデル動物の血糖値に影響を与えない、項[23]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体。
[25]項[1]~[24]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体をコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子。
[26]項[25]に記載の核酸分子を少なくとも一つ含むクローニングベクター又は発現ベクター。
[27]項[26]に記載のベクターが宿主細胞に導入された組換え体細胞。
[28]項[1]~[24]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体を製造する方法であって、項[27]に記載の組換え体細胞を培養し、前記組換え体細胞から産生される当該抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体を精製する工程を含む方法。
[29]項[1]~[24]の何れか一項に記載の抗IGF-1受容体ヒト化抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体、項[25]に記載の核酸分子、項[26]に記載のベクター、或いは項[27]に記載の組換え体細胞を有効成分として含む、医薬組成物。
[30]筋萎縮性疾患又は低身長症の治療に用いられる、項[29]に記載の医薬組成物。
[31]筋萎縮性疾患が、廃用性筋萎縮、サルコペニア、又はカヘキシアである、項[30]に記載の医薬組成物。
[32]低身長症が、ラロン型低身長症又は成長ホルモン抵抗性低身長症である、項[28]に記載の医薬組成物。
[33]IGF-1受容体に関連した疾患の治療に用いられる、項[29]に記載の医薬組成物。
[34]IGF-I受容体に関連した疾患が、肝臓がん、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー-モリソン症候群、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺疾患、橋本甲状腺炎、甲状腺眼症、甲状腺機能亢進症ならびにベーチェット病からなる群より選択される疾患である、項[33]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明の抗体若しくはその断片、又はそれらの誘導体は、ヒトIGF-1受容体に結合することで、ヒトIGF-1受容体を介して作用する疾患の治療又は予防に使用しうる、抗IGF-1受容体ヒト化抗体を得ることができる。また、ヒトへ投与し得る、低免疫原性や物性安定性を確保したヒト化抗体の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】
図1A~Fは、本発明の各種ヒト化抗体が有するヒト筋芽細胞増殖活性を、マウス親抗体IGF11-16との比較で示すグラフである。
【0025】
【
図2】
図2は、各動物種のIGF-1Rを発現するHEK293T細胞を用いたELISAにより測定された、各動物種のIGF-1Rに対する本発明のヒト化抗体hIGF13_PS及びhIGF25_PSの反応性を、ヒトマウスキメラ抗体IGF11-16との比較で示すグラフである。
【0026】
【
図3A】
図3Aは、本発明のヒト化抗体hIGF13_PSをモルモットに投与した場合における血糖値の推移を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、本発明のヒト化抗体hIGF25_PSをモルモットに投与した場合における血糖値の推移を示すグラフである。
【0027】
【
図4】
図4は、本発明のヒト化抗体hIGF13_PS及びhIGF25_PSをモルモットに投与した場合における血中濃度の推移を、マウス親抗体IGF11-16投与時との比較で示すグラフである。
【0028】
【
図5】
図5は、本発明のヒト化抗体hIGF13_PSを正常モルモットに静脈内単回投与した場合における2週間後の長趾伸筋質量の変化を、IGF-1の皮下持続投与及びマウス親抗体IGF11-16の静脈内単回投与との比較で示すグラフである。
【0029】
【
図6】
図6は、本発明のヒト化抗体hIGF13_PSを下垂体摘出モルモットに静脈内単回投与した場合における2週間後の脛骨近位部の骨端線厚の変化を、IGF-1の皮下持続投与及びGH製剤の皮下持続投与との比較で示すグラフである。
【0030】
【
図7】
図7は、本発明のヒト化抗体hIGF13_PSをカニクイザルに投与した場合における血糖値の推移を、IGF-1投与時との比較で示すグラフである。
【0031】
【
図8】
図8は、本発明のヒト化抗体hIGF13_PSをカニクイザルに投与した場合における血中濃度の推移を示すグラフである。
【0032】
【
図9】
図9は、HepG2細胞増殖に対してマウス親抗体IGF11-16が及ぼす濃度依存的な作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されない。なお、本明細書において引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許公報を含む全ての文献は、あらゆる目的において、その全体が援用により本明細書に組み込まれる。
【0034】
なお、本明細書において、濃度を示す「M」は、モル濃度を示す「mol/L」と同義の単位である。
【0035】
本発明は、IGF-1受容体に特異的に結合する、抗IGF-1受容体ヒト化抗体である。本発明の抗体は、ヒトIGF-1受容体を介して、低血糖症状を誘導すること無く、筋肉量を増加させる作用を有する。これにより、サルコペニア、廃用性筋萎縮、カケキシアなどのIGF-1受容体シグナル関与の病態又は疾患を改善又は治療することが可能である。また、本発明の抗体は、低免疫原性及び物性安定性を確保したヒト化抗体である。
【0036】
[IGF]
本開示において「IGF」とは、インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor)のことをいい、IGF-1とIGF-2が存在する。IGF-1及びIGF-2は、後述のIGF-1受容体(インスリン様成長因子-I受容体:Insulin-like Growth Factor-I Receptor)に結合して、細胞内に細胞分裂や代謝のシグナルを入れるアゴニスト活性を有する生体内のリガンドである。IGF-1及びIGF-2は、IGF-1受容体と構造的に類似性のあるインスリン受容体(INSR)にも弱く交差的に結合することが知られている。本明細書では、生理的機能等がよりよく知られているIGF-1を主に扱うが、IGF-1受容体とリガンドとの結合を介する作用や疾患等の検討を行う場合には、IGF-1とIGF-2の両者の作用を含めて記載することがある。
【0037】
IGF-1はソマトメジンCとも呼ばれ、70アミノ酸からなる単一ポリペプチドのホルモンである。ヒトのIGF-1の配列は、NCBI Reference Sequence番号:NP_000609、又は、EMBL-EBIのUniProtKB-アクセッション番号P05019等を参照して入手できる。成熟型ヒトIGF-1のアミノ酸配列を配列番号83に、対応する核酸塩基配列の一例を配列番号84にそれぞれ示す。この70アミノ酸からなる配列は、多くの種で保存されている。本発明においては、「IGF-1」とのみ記載された場合は、特に断りがない限り、ホルモン活性を有するIGF-1タンパク質のことを意味する。
【0038】
IGF-1は、肝臓細胞をはじめ生体内の種々の細胞で産生されていて、血液やその他の体液中にも存在する。従って、天然型のIGF-1は動物の体液や、動物から分離した初代培養細胞や株化細胞等を培養した培養物から精製して得ることができる。また、IGF-1は成長ホルモンによって細胞での産生が誘導されるため、成長ホルモンが投与された動物の体液や、動物から分離した初代培養細胞や株化細胞等を成長ホルモン存在下で培養した培養物からもIGF-1を精製することで得られる。また、別の方法として、IGF-1のアミノ酸配列をコードする核酸分子を発現ベクターに組み込んで大腸菌等の原核生物や酵母、昆虫細胞又は哺乳類由来の培養細胞等の真核細胞の宿主に導入した組換え体細胞や、IGF-1遺伝子を導入したトランスジェニック動物やトランスジェニック植物等を用いて、IGF-1を製造することも可能である。更に、ヒトIGF-1は研究用試薬(Enzo Life Sciences, catalog: ADI-908-059-0100; Abnova, catalog: P3452等)、医薬品(ソマゾン(登録商標)、メカセルミン、INCRELEX(登録商標)等)として入手することも可能である。用いるIGF-1のインビボ及びインビトロでの活性は、World Health OrganizationのNational Institute for Biological Standards and Control(NIBSC)のNIBSC code:91/554のIGF-1標準物質での活性を1国際ユニット/マイクログラムとして比較することで、その比活性を評価することができる。本発明におけるIGF-1は、当該NIBSC code:91/554のIGF-1と同等の比活性を有するものとして扱うものとする。
【0039】
[IGF-1受容体]
本開示において「IGF-1受容体」又は「IGF-1R」とは、インスリン様成長因子-I受容体(Insulin-like Growth Factor-I Receptor)のことをいう。本明細書において「IGF-1受容体」は、特に断りがない限り、IGF-1受容体タンパク質を意味する。IGF-1受容体はα鎖とβ鎖からなるサブユニットが2つ会合した構造のタンパク質である。配列番号71に示したヒトIGF-1受容体のアミノ酸配列においては、そのアミノ酸配列のうち、31位から735位のアミノ酸配列からなる部分がα鎖に相当し、β鎖は740位以降の配列に相当する。IGF-1受容体のα鎖はIGF-1の結合部分を有し、β鎖は膜貫通型の構造であり、細胞内へのシグナルを伝える働きをする。IGF-1受容体のα鎖は、L1、CR、L2、FnIII-1及びFnIII-2a/ID/FnIII-2bのドメインに分かれる。配列番号71に示したヒトIGF-1受容体のアミノ酸配列においては、31位から179位の部分がL1ドメイン、180位から328位の部分がCRドメイン、329位から491位の部分がL2ドメイン、492位から607位の部分がFnIII-1ドメイン及び608位から735位までがFnIII-2a/ID/FnIII-2bドメインに相当する。ヒトのIGF-1受容体のアミノ酸配列は、EMBL-EBIのUniProtKB-アクセッション番号P08069等から参照することが可能であるが、配列表の配列番号71にも示す。
【0040】
IGF-1受容体は生体内の組織や細胞の広い範囲で発現していることが知られており、IGF-1による細胞増殖の誘導や細胞内シグナルの活性化等の刺激を受ける。特に筋芽細胞はIGF-1のIGF-1受容体を介する作用を、細胞増殖活性を指標として評価に用いることが可能である。このことから筋芽細胞は、IGF-1受容体に結合する抗体の作用を解析する上で有用である。また、ヒトやその他の脊椎動物のIGF-1受容体のアミノ酸配列をコードする核酸分子を発現ベクターに組み込んで、昆虫細胞又は哺乳類由来の培養細胞等の真核細胞の宿主に導入した組換え体細胞において、その細胞膜上に導入された核酸がコードするIGF-1受容体を発現させることで、ヒトやその他の脊椎動物のIGF-1受容体を発現した細胞を人工的に製造することが可能である。当該IGF-1受容体発現細胞は抗体の結合性の解析や細胞内へのシグナルの伝達等の検討に用いることができる。
【0041】
[マウス親抗体IGF11-16]
マウス親抗体IGF11-16は、特許文献1に開示されている。IGF11-16のCDR-H1のアミノ酸配列は配列番号85、CDR-H2のアミノ酸配列は配列番号86、CDR-H3のアミノ酸配列は配列番号87、CDR-L1のアミノ酸配列は配列番号88、CDR-L2のアミノ酸配列は配列番号89、CDR-L3のアミノ酸配列は配列番号90、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号39(対応する核酸塩基配列の一例を配列番号40)、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号41(対応する核酸塩基配列の一例を配列番号42)に示す。IGF11-16の軽鎖の全長アミノ酸配列を配列番号91(対応する核酸塩基配列の一例を配列番号92)に、重鎖の全長アミノ酸配列を配列番号93(対応する核酸塩基配列の一例を配列番号94)に示す。IGF11-16の表現を含む抗体は、全てこのマウス親抗体IGF11-16を意味する。
【0042】
[抗IGF-1受容体ヒト化抗体]
本発明の一側面によれば、新規な抗IGF-1受容体ヒト化抗体が提供される(これを以下適宜「本発明の抗体」と称する。)。
本開示において「抗体」とは、ジスルフィド結合により相互結合された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VHと略される)及び重鎖定常領域を含み、重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。軽鎖の定常領域にはλ鎖及びκ鎖と呼ばれる2種類が存在する。重鎖の定常領域にはγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖及びε鎖が存在し、その重鎖の違いによって、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEという抗体のアイソタイプが存在する。VH及びVLは、更にフレームワーク領域(FR)と称される、より保存されている4つの領域(FR-1(FR1)、FR-2(FR2)、FR-3(FR3)、FR-4(FR4))と、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の3つの領域(CDR-1(CDR1)、CDR-2(CDR2)、CDR-3(CDR3))に細分される。VHは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、FR-1(FR-H1)、CDR-1(CDR-H1)、FR-2(FR-H2)、CDR-2(CDR-H2)、FR-3(FR-H3)、CDR-3(CDR-H3)、FR-4(FR-H4)の順番で配列された3つのCDR及び4つのFRを含む。VLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、FR-1(FR-L1)、CDR-1(CDR-L1)、FR-2(FR-L2)、CDR-2(CDR-L2)、FR-3(FR-L3)、CDR-3(CDR-L3)、FR-4(FR-L4)の順番で配列された3つのCDR及び4つのFRを含む。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。
【0043】
本発明の抗体は、抗体の断片及び/又は誘導体であってもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2、Fab、Fv等が挙げられる。抗体の誘導体としては、定常領域部分に人工的にアミノ酸変異を導入した抗体、定常領域のドメインの構成を改変した抗体、1分子あたり2つ以上のFcを持つ形の抗体、重鎖のみ又は軽鎖のみで構成される抗体、糖鎖改変抗体、二重特異性抗体、抗体又は抗体の断片化合物や抗体以外のタンパク質と結合させた抗体コンジュゲート、抗体酵素、ナノボディ、タンデムscFv、二重特異性タンデムscFv、ダイアボディ(Diabody)、VHH等が挙げられる。なお、本発明において単に「抗体」という場合には、別途明記しない限り、抗体の断片及び/又は誘導体も含むものとする。
【0044】
また、モノクローナル抗体とは、古典的には単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体分子をいうが、特定のアミノ酸配列からなるVHとVLの組み合わせを含む単一種類の抗体分子のことをいう。モノクローナル抗体は、その抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子配列を有する核酸分子を得ることも可能であり、そのような核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。また、H鎖、L鎖、それらの可変領域やCDR配列等の遺伝子情報を用いて抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことや、マウス等の動物の抗体からヒト型抗体に改変することによって治療剤に用いるために適した構造の抗体を作製することは、この分野での当業者にはよく知られた技術である。また、抗原を感作する動物として、ヒト抗体遺伝子が導入された非ヒト-トランスジェニック動物を用いることによって、ヒトモノクローナル抗体を取得することも可能である。それ以外にも、動物への感作を必要としない方法として、ヒト抗体の抗原結合領域又はその一部を発現するファージライブラリー(ヒト抗体ファージディスプレイ)を用いて、対応する抗原と特異的に結合する抗体や特定のアミノ酸配列からなるファージクローンを取得し、その情報からヒト抗体を作製する技術も当業者であれば適宜行うことができる(例えば非特許文献17等を参照)。また、ヒト以外の動物に投与する抗体をデザインする場合には、ヒト化の技術と同様に、適宜CDRや可変領域のアミノ酸配列情報を用いて、当業者であればデザインすることが可能である。
【0045】
一態様によれば、本発明の抗体は、マウス親抗体IGF11-16に由来する重鎖及び軽鎖の各相補性決定領域(CDR)と、ヒト抗体に由来する重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域(FR)とを含むと共に、少なくとも1つのCDRが、マウス親抗体IGF11-16の対応するCDRに対して、少なくとも1箇所のアミノ酸残基の置換を含む、抗IGF-1受容体ヒト化抗体である。
【0046】
具体的に、本態様において、重鎖及び軽鎖の各相補性決定領域(CDR)は、それぞれマウス親抗体IGF11-16の対応するCDRに由来する。ここで、マウス親抗体「IGF11-16」とは、前述のように、本発明者等が以前作製した抗IGF-1受容体モノクローナルマウス抗体である(特許文献1)。また、本開示において、マウス親抗体のCDRに「由来する」とは、本態様の抗体の各CDRのアミノ酸配列が、マウス親抗体IGF11-16の対応するCDRのアミノ酸配列と、通常75%以上、中でも80%以上、又は85%以上、更には90%以上の相同性(好ましくは同一性)を有すること、及び/又は、通常4アミノ酸残基以下、中でも3アミノ酸残基以下、更には2アミノ酸残基以下の違いを除いて相同(好ましくは同一)であることを意味する(非特許文献18)。但し、本態様の抗体は、その少なくとも1つのCDRが、マウス親抗体IGF11-16の対応するCDRに対して、少なくとも1箇所のアミノ酸残基の置換を含むことを要件とする。また、重鎖CDR-2(CDR-H2)のアミノ酸配列については、マウス親抗体IGF11-16のCDR-H2のアミノ酸配列、或いは、後述するマウス親抗体IGF11-16から誘導されたヒト化抗体hIGF13_PSのCDR-H2の何れかと、通常75%以上、中でも80%以上、又は85%以上、更には90%以上の相同性(好ましくは同一性)を有すること、及び/又は、通常4アミノ酸残基以下、中でも3アミノ酸残基以下、更には2アミノ酸残基以下の違いを除いて相同(好ましくは同一)であればよいものとする。
【0047】
また、重鎖及び軽鎖の各フレームワーク領域(FR)は、それぞれヒトの各クラスの免疫グロブリンの対応するFRに由来する。本開示において、ヒトの免疫グロブリンのFRに「由来する」とは、本態様の抗体の各FRのアミノ酸配列が、ヒトの免疫グロブリンの対応するFRのアミノ酸配列と、通常80%以上、中でも85%以上、更には90%以上の相同性(好ましくは同一性)を有すること、及び/又は、通常4アミノ酸残基以下、中でも3アミノ酸残基以下、更には2アミノ酸残基以下の違いを除いて相同(好ましくは同一)であることを意味する。ヒト免疫グロブリンのフレームワークは、公共のデータベースから入手可能であり、マウス免疫グロブリンのフレームワークと相同性の高いフレームワークを選び出すことができる。なお、相同性を有するアミノ酸配列の同定には、例えばIgBLASTを使用することができる(非特許文献16)。
【0048】
ここで、重鎖FR1の25位のアミノ酸残基は、プロリンであることが好ましい。マウス親抗体IGF11-16の重鎖FR1とヒト化抗体の重鎖FR1との間には幾つか異なるアミノ酸残基が存在するが、実施例3に後述するように、本発明者等の検討によれば、ヒト化抗体ではセリンである重鎖FR1の25位のアミノ酸残基を、マウス親抗体IGF11-16と同様にプロリンに置換することで、マウス親抗体IGF11-16と同等以上の活性(同等の程度として活性比が±20%以内)を発揮できるので好ましい。
【0049】
上記の相同性を有する重鎖及び軽鎖の取得方法としては、例えば、本発明のヒト化抗体に由来する重鎖及び軽鎖の配列を鋳型として、抗体の進化工学的な手法を用いることが出来る。具体的にはCDRへの部位特異的変異導入法やランダム変異導入法、chainシャフリング、CDR walkingなどの手法が用いられる。
【0050】
「ランダム変異導入法(random mutagenesis)」は、特定の遺伝子DNAに対してランダムな変異を導入し、変異体を作製する方法である。PCR法による変異導入法では、DNA増幅時に、複製の厳密度の低い条件を選択して、塩基の変異を導入する(error-prone PCR)。PCR法で増幅されるDNAの全域に対して任意の部位に変異が導入される。また、DNAシャッフリング法では、対象遺伝子をまずばらばらに切断後、PCR法で同様に変異を導入することができる。さらにDNA合成の際に特定の合成ステップにおいていくつかの塩基を混合することで意図した領域や部位特異的にランダム変異導入することも可能である。
【0051】
「Chain シャフリング(chain shuffling)」は、抗体可変領域のVHあるいはVL遺伝子の一方を固定化し、他方をV遺伝子ライブラリーと結合させたライブラリーを構築、ファージ上に発現させ、もとの抗原に対する特異性が高い抗体可変領域の組み合わせをスクリーニングする方法である。ナイーブ/非免疫ライブラリーなどから得られた抗体のin vitro 親和性成熟では第一に選択される方法である。
【0052】
「CDR walking」は、VH及びVL遺伝子の各CDRに対してランダム変異を導入し、その変異体の集団から選択条件を調節することにより結合の強い抗体を選択し、その選択されたCDRを組み合わせて非常に高い結合力をもつクローンを得る方法である。一般的には、CDR3のみにランダム変異を導入して検討することが多い。
【0053】
このように、一旦活性を有するヒト化親抗体を取得すれば、それを鋳型として活性を保持した新たなヒト化抗体への改変の方法論はほぼ確立されており、CROなどで委託可能である。
【0054】
一態様によれば、本発明の抗体は、各CDR配列として、特定のアミノ酸配列を有することが好ましい。具体的には以下のとおりである。なお、本発明においてアミノ酸配列の「同一性」(identity)とは、一致するアミノ酸残基の割合を意味し、「相同性」(similarity)とは、一致又は類似するアミノ酸残基の割合を意味する。相同性及び同一性は、例えばBLAST法(NCBIのPBLASTのデフォルト条件)により決定することができる。また、ここで「類似するアミノ酸残基」とは、同様の化学的特質(例えば、電荷又は疎水性)を持つ側鎖を有するアミノ酸残基を意味する。類似するアミノ酸残基としては、例えば以下のグループが挙げられる。例えば、以下のグループに従えば、アラニンを類似のアミノ酸残基に置換する場合は、バリン、ロイシン、イソロイシン又はメチオニン残基に置換することを意味する。
【0055】
(1)脂肪族側鎖を有するアミノ酸残基:アラニン(Ala又はA)、バリン(Val又はV)、ロイシン(Leu又はL)、イソロイシン(Ile又はI)及びメチオニン(Met又はM)残基。
(2)脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸残基:セリン(Ser又はS)及びトレオニン(Thr又はT)残基。
(3)アミド含有側鎖を有するアミノ酸残基:アスパラギン(Asn又はN)及びグルタミン(Gln又はQ)残基。
(4)芳香族側鎖を有するアミノ酸残基:フェニルアラニン(Phe又はF)、チロシン(Tyr又はY)、トリプトファン(Trp又はW)及びヒスチジン(His又はH)残基。
(5)塩基性側鎖を有するアミノ酸残基:リシン(LysまたK)、アルギニン(Arg又はR)及びヒスチジン(His又はH)残基。
(6)酸性側鎖を有するアミノ酸残基:アスパラギン酸(Asp又はD)及びグルタミン酸(Glu又はE)残基。
(7)硫黄含有側鎖を有するアミノ酸基:システイン(Cys又はC)、及びメチオニン(Met又はM)残基。
【0056】
重鎖可変領域のCDR-1(CDR-H1)配列としては、配列番号1のアミノ酸配列、又は、配列番号1の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列が好ましい。或いは、CDR-H1配列は、配列番号1と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有することが好ましい。中でも、CDR-H1配列としては、配列番号1の3位のTrpが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該3位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号1と80%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。配列番号1のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を配列番号2に示す。
【0057】
重鎖可変領域のCDR-2(CDR-H2)配列としては、配列番号3若しくは配列番号5のアミノ酸配列、又は、配列番号3若しくは配列番号5の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列が好ましい。或いは、CDR-H2配列は、配列番号3又は配列番号5と82%以上の相同性(好ましくは同一性)を有することが好ましい。中でも、CDR-H2配列としては、配列番号3の1位のGlu及び3位のAsnが各々維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されると共に、6位のAsnが維持され、又は、Ser若しくはGlnに置換されたアミノ酸配列であって、当該1位、3位、及び6位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号3と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。或いは、CDR-H2配列としては、配列番号5の1位のGlu及び3位のAsnが各々維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されると共に、6位のSerが維持され、又は、Asn若しくはGlnに置換されたアミノ酸配列であって、当該1位、3位、及び6位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所、2箇所、若しくは3箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号5と82%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。配列番号3と5のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、それぞれ配列番号4と6に示す。
【0058】
重鎖可変領域のCDR-3(CDR-H3)配列としては、配列番号7のアミノ酸配列、又は、配列番号7の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列が好ましい。或いは、CDR-H3配列は、配列番号7と75%以上の相同性(好ましくは同一性)を有することが好ましい。中でも、CDR-H3配列としては、配列番号7の4位のArgが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該4位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号7と75%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。配列番号7のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、配列番号8に示す。
【0059】
軽鎖可変領域のCDR-1(CDR-L1)配列としては、配列番号9のアミノ酸配列、又は、配列番号9の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列が好ましい。或いは、CDR-L1配列は、配列番号9と81%以上の相同性(好ましくは同一性)を有することが好ましい。中でも、CDR-L1配列としては、配列番号9の9位のTrpが維持され、又は、類似のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列であって、当該9位のアミノ酸残基以外の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換され、又は、配列番号9と81%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。配列番号9のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、配列番号10に示す。
【0060】
軽鎖可変領域のCDR-2(CDR-L2)配列としては、配列番号11のアミノ酸配列、又は、配列番号11の何れか1箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列が好ましい。或いは、CDR-L2配列は、配列番号11と85%以上の相同性(好ましくは同一性)を有することが好ましい。配列番号11のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、配列番号12に示す。
【0061】
軽鎖可変領域のCDR-3(CDR-L3)配列としては、配列番号13のアミノ酸配列、又は、配列番号13の何れか1箇所若しくは2箇所のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列が好ましい。或いは、CDR-L3配列は、配列番号13と77%以上の相同性(好ましくは同一性)を有することが好ましい。配列番号13のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、配列番号14に示す。
【0062】
特に、本発明の抗体は、以下のCDR配列の組み合わせを有することが好ましい。即ち、CDR-H1配列として、配列番号1のアミノ酸配列、CDR-H2配列として、配列番号3又は配列番号5のアミノ酸配列、CDR-H3配列として、配列番号7のアミノ酸配列、CDR-L1配列として、配列番号9のアミノ酸配列、CDR-L2配列として、配列番号11のアミノ酸配列、及びCDR-L3配列として、配列番号13のアミノ酸配列の組み合わせを有することが好ましい。
【0063】
なお、抗体におけるCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、又はCDR-L3の各配列を同定する方法としては、例えばKabat法(非特許文献13)やChothia法(非特許文献14)、或いはこれらの方法を更に改良した方法(非特許文献15)などが挙げられる。これらの方法は、この領域の当業者にとっては技術常識であるが、たとえばDr. Andrew C.R. Martin‘s Groupのインターネットホームページ(http://www.bioinf.org.uk/abs/)から概要を知ることも可能である。
【0064】
さらに、実施例4で示すように、アラニンスキャンを行うことにより、CDRのアミノ酸配列の中で結合活性に重要な部位を同定することが出来る。その結果から、後述の表7及び表8に示すアミノ酸残基が極めて重要であることが明らかとなっている。少なくともこの部位のアミノ酸残基は、類似の性質を有するアミノ酸以外のアミノ酸に置換すると、結合性低下につながると考えられる。逆に、同様の性質を有するアミノ酸への置換により、親和性の向上を達成しうる可能性もある。一方で、アラニン置換したCDR領域54部位のうち、44部位はアラニン置換後も80%以上の結合活性を示した。このことから、これらの部位におけるアミノ酸置換は、結合活性に大きな影響を与えないことが示唆される。このように、CDR領域のアミノ酸配列を検索して結合に関与する部位を同定することにより、結合性を保持したまま免疫原性を低下させたり、物性を改善したり、結合性を向上させたりすることが可能である。
【0065】
本発明の抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域として、特定のアミノ酸配列を有することが好ましい。具体的には以下のとおりである。なお、本開示において「1箇所若しくは数箇所」とは、特に断り書き無い限り、1箇所、2箇所、3箇所、4箇所、5箇所、6箇所、7箇所、8箇所、9箇所、又は10箇所の何れかを指すものとする。
【0066】
本発明の抗体は、重鎖可変領域として、配列番号47のアミノ酸配列、又は、配列番号47のアミノ酸配列において1若しくは数箇所のアミノ酸残基が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列を有することが好ましい。或いは、重鎖可変領域として、配列番号47と90%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、重鎖可変領域として、VH13_PN(配列番号43)、VH13_PS(配列番号47)、VH23_PN(配列番号49)、VH23_PS(配列番号53)、VH25_PN(配列番号55)、又はVH25_PS(配列番号59)のアミノ酸配列を有することが好ましい。配列番号43、47,49,53,55,及び59のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、それぞれ配列番号44、48,50,54,56,及び60に示す。
【0067】
本発明の抗体は、軽鎖可変領域として、配列番号67のアミノ酸配列、又は、配列番号67のアミノ酸配列において1若しくは数箇所のアミノ酸残基が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有することが好ましい。或いは、軽鎖可変領域として、配列番号67と90%以上の相同性(好ましくは同一性)を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。中でも、軽鎖可変領域として、VL13(配列番号61)、VL14(配列番号63)、VL22(配列番号65)、VL23(配列番号67)、又はVL24(配列番号69)のアミノ酸配列を有することが好ましい。より好ましくはVL22(配列番号65)、VL23(配列番号67)、又はVL24(配列番号69)のアミノ酸配列である。配列番号61、63、65、67,及び69のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、それぞれ配列番号62、64、66、68、及び70に示す。
【0068】
中でも、本発明の抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域として、それぞれ上述した何れかのアミノ酸配列を有することが好ましい。特に好ましい本発明の抗体としては、重鎖可変領域としてVH13_PS(配列番号47)のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域としてVL23(配列番号67)のアミノ酸配列を有する抗体(以下「hIGF13_PS」という場合がある。)、又は、重鎖可変領域としてVH25_PS(配列番号59)のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域としてVL23(配列番号67)のアミノ酸配列を有する抗体(以下「hIGF25_PS」という場合がある。)である。
【0069】
本発明の抗体の重鎖及び軽鎖の各各定常領域のアミノ酸配列は、例えばヒトのIgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDの各クラスのアミノ酸配列、並びにそれらの変異体のアミノ酸配列から選択することが可能である。一態様によれば、本発明の抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列は、ヒトIgG4クラスの重鎖定常領域のアミノ酸配列、又はその1~10か所のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列であることが好ましい(非特許文献19、20)。一態様によれば、本発明の抗体の重鎖定常領域のアミノ酸配列は、ヒトIgG1クラスの重鎖定常領域のアミノ酸配列、又はその1~10か所のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列であることが好ましい(非特許文献19、20)。
【0070】
本発明の抗体は、ヒトIGF-1受容体と抗原抗体反応を生じる抗体である。本開示において「抗原抗体反応」とは、IGF-1受容体に対して、抗体が平衡解離定数(KD)1×10-7M以下の親和性で結合することをいう。本発明の抗体は、IGF-1受容体に対して、通常1×10-7M以下、中でも1×10-8M以下、更には1×10-9M以下のKDで結合することが好ましい。最も好ましくは1×10-10M以下である。
【0071】
本発明の抗体は、配列番号71のアミノ酸配列を有するヒトIGF-1受容体の細胞外ドメインに特異的に結合することが好ましい。本開示において、抗体が抗原に対して「特異性」を有するとは、抗体とその抗原との間に高い抗原抗体反応が起こることをいう。特に、本開示において「IGF-1受容体特異的抗体」とは、IGF-1受容体を発現させた細胞と有意に抗原抗体反応を示す濃度において、IGF-1受容体の高次構造と高い類似性を有するINSRに対する抗原抗体反応性が100分の1以下である抗体をいう。
【0072】
抗原抗体反応の測定は、当業者であれば固相又は液相の系での結合測定を適宜選択して行うことが可能である。そのような方法としては、酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)、表面プラズモン共鳴法(surface plasmon resonance:SPR)、蛍光共鳴エネルギー移動法(fluorescence resonance energy transfer:FRET)、発光共鳴エネルギー移動法(luminescence resonance energy transfer:LRET)等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。また、そのような抗原抗体結合を測定する際に、抗体及び/又は抗原を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて抗原抗体反応を検出することも可能である。
【0073】
一態様によれば、本発明の抗体は、マウス親抗体IGF11-16と同等以上のIGF-1受容体シグナル活性化能を有することが好ましい。本開示において、IGF-1受容体シグナル活性化能が「同等」とは、EC50値が2倍以内、及び/又は、Emax値が±20%以内であることを意味する。
【0074】
一態様によれば、本発明の抗体は、マウス親抗体IGF11-16と同等以上の増殖活性を有することが好ましい。本開示において、増殖活性が「同等」とは、筋芽細胞増殖試験において、EC50値が10倍以内、Emax値が90%以上であることを意味する。
【0075】
一態様によれば、本発明の抗体は、組換え可溶性IGF-1受容体への結合親和性が、マウス親抗体IGF11-16と同等以上であることが好ましい。本開示において、組換え可溶性IGF-1受容体への結合親和性が「同等」とは、BIACOREによる組換え可溶性IGF-1受容体への結合親和性解析において、マウス親抗体IGF11-16と比較した場合に、KD値が3分の1以上から3倍以内の範囲であることを意味する。
【0076】
一態様によれば、本発明の抗体は、血中半減期が長く、動物への単回投与により筋肉量増加作用を示すことが好ましい。実際に、本発明者等の検討によれば、本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体は、後述の実施例に示すように、モルモット又はカニクイザルへ単回投与したところ、IGF-1を持続投与したときと同程度の筋肉量増加作用を示した。
【0077】
一態様によれば、本発明の抗体は、正常哺乳動物において、低血糖症状を誘導せず、筋量増加作用を誘導しうることが好ましい。一態様によれば、本発明の抗体は、下垂体摘出モデル動物において、低血糖症状を誘導せず、成長板軟骨伸長作用を誘導しうることが好ましい。本開示において「血糖症状」とは、ヒトの場合、低血糖に伴って生じる冷や汗、動悸、意識障害、痙攣、手足の震えなどの症状を意味する。サルなどの脊椎動物においては自発運動の減少が初期症状として現れ、症状が強いと動きがほとんど無くなり、さらに血糖値が低下すると意識障害が起こり、死に至る。
【0078】
IGF-1を脊椎動物に対して、筋肉量増加作用を示すような用量で投与すると、著しい血糖低下作用を奏し、通常は低血糖症状を誘導してしまう。しかし、一態様によれば、本発明の抗体は、脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量、より好ましくはその用量より10倍以上高い用量で、脊椎動物に投与した場合でさえも、当該脊椎動物の血糖値を低下させる作用を有さない。また、一態様によれば、本発明の抗体は、脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する有効用量に対して10倍以上の血中曝露量となるように脊椎動物に投与した場合でさえも、当該脊椎動物の血糖値を低下させる作用を有さない。実際に、本発明者等の検討によれば、本発明の抗体は、後述の実施例に示すように、モルモット及びカニクイザルにおいて10mg/kgの用量で投与しても、低血糖症状を誘導しなかった。
【0079】
以上のことから、本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体は、IGF-1で期待される、廃用性筋萎縮及び低身長症等のIGF-1受容体が関連する種々の疾患の治療薬又は予防薬となる可能性を有し、IGF-1の問題点である、血糖低下作用を克服し、血中半減期を長期化することが可能である。
【0080】
本発明の抗体は、IGF-1受容体の細胞外ドメインに結合することにより、IGF-1受容体が二量体を形成したホモ型の受容体、或いはIGF-1受容体とINSRが二量体を形成したヘテロ型の受容体を活性化させると考えられる。
【0081】
[免疫原性評価]
抗医薬品抗体(Anti-Drug Antibody:ADA)は、治療用抗体の効果及び薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性及び薬効はADAの産生によって制限され得る。多くの要因が治療用抗体の免疫原性に影響を及ぼすが、治療用タンパク質中に存在するエフェクターT細胞エピトープの重要性が多数報告されている。T細胞エピトープを予測するためのin silicoツールとしては、Epibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、及びEpiMatrix(EpiVax)等が開発されている。これらのin silicoツールを用いることで、各アミノ酸配列中のT細胞エピトープの存在を予測することができ(非特許文献21)、潜在的免疫原性の評価が可能になる。本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体に関しては、Epibase(Lonza)を用いて、潜在的免疫原性を評価した。
【0082】
[脱アミド化リスク]
タンパク質を構成するアミノ酸配列のうち、脱アミド化が起こりやすいアミノ酸配列として、NG、NT、NS、及びNNが挙げられる。これらの配列を有するとアスパラギンの脱アミド化が起こり、アスパラギン酸へと変化する。このことにより、抗体の活性が低下してしまう恐れがあると共に、品質が均一でなくなる。このことから製造工程や保管において品質を保つために、脱アミド化リスクのあるアミノ酸を別のアミノ酸へ置換することによって活性低下を防ぎ均一性を保持することが可能である。本発明の抗体においては、マウス親抗体IGF11-16の重鎖CDR-2(CDR-H2)領域にNS配列(重鎖55位及び56位)が存在したため、重鎖55位のアスパラギン(N)が脱アミド化してアスパラギン酸(D)へ変換されるリスクを考慮して、当該アスパラギン(N)をセリン(S)に置換した。
【0083】
[物性安定性評価]
抗体の活性が長期に安定に保持されることを保証するために、温度を上昇させたり、pHを変化させたりすることで物性安定性の解析を行う。本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体においては、本抗体のPBS溶液を使用して、温度を37℃に設定し1ヶ月間インキュベーションした試料を使用して、純度が95%以上であること及び凝集物が生じないことを確認することで、物性安定性を確認した。
【0084】
[抗IGF-1受容体ヒト化抗体のエピトープ]
一態様によれば、本発明の抗体は、IGF-1受容体のCRドメインをエピトープとする。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトIGF-1受容体のアミノ酸配列(配列番号71)のうち、アミノ酸番号308から319に相当するアミノ酸配列(ProSerGlyPheIleArgAsnGlySerGlnSerMet)を有するペプチドを含むエピトープ又はその近傍に結合する。本発明の抗体は、IGF-1受容体のCRドメインに結合することにより、IGF-1受容体が二量体を形成したホモ型の受容体、或いはIGF-1受容体とINSRが二量体を形成したヘテロ型の受容体を活性化させると考えられる。
【0085】
[抗IGF-1受容体ヒト化アゴニスト抗体]
本発明のアゴニスト抗体は、ヒトIgGクラス又はその変異体であることが好ましく、ヒトIgG4サブクラス若しくはその変異体、又は、ヒトIgG1サブクラス若しくはその変異体であることが好ましい。1つの例では、安定化IgG4定常領域は、Kabatの系により、ヒンジ領域の位置241においてプロリンを含む(非特許文献22)。この位置は、EU付番方式(非特許文献13)により、ヒンジ領域の位置228に対応する。ヒトIgG4では、この残基は一般的にセリンであり、セリンのプロリンへの置換で安定化を誘導することができる。1つの例では、IgG1の定常領域にN297A変異を組み入れてFc受容体への結合及び/又は補体を固定する能力をできるだけ抑えることができる。また、別の態様では、定常領域にアミノ酸置換を導入することでFcRnへの結合を調節し、血中半減期を長くすることも出来る。しかし、定常領域のアミノ酸置換はこれらの例示に限定されるものではない。
【0086】
本発明のアゴニスト抗体は、IGF-1受容体に特異的に強力に結合し、インビトロで極めて低濃度から筋芽細胞増殖の亢進作用を有する。
【0087】
本発明のアゴニスト抗体は、動物へ単回投与した場合に、IGF-1を持続投与したときの筋肉量増加作用と、同程度の筋量増加作用を示す。また、本発明のアゴニスト抗体は、血中半減期が長く、動物への単回投与で筋肉量増加作用を示し得る。本発明では、実際に、モルモット又はカニクイザルへ単回投与した場合に、IGF-1を持続投与したときの筋肉量増加作用と、同程度の筋量増加作用を示した。
【0088】
更に、本発明のアゴニスト抗体は、筋肉量増加作用を示す用量において、血糖低下作用を有さないという特徴を有する。IGF-1は、筋肉量増加作用を示す用量で投与した場合、著しい血糖低下作用を有する。しかし、本発明のアゴニスト抗体は、脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する用量において、当該脊椎動物の血糖値を低下させる作用を有さない。好ましくは、本発明のアゴニスト抗体は、脊椎動物の筋肉量及び/又は体長の増加を誘導する有効用量の10倍以上の血中曝露量となるように投与した場合でさえも、脊椎動物の血糖値を低下させる作用を有さない。本発明では、実際に、モルモット又はカニクイザルにおいて、本発明のアゴニスト抗体を筋肉量の増加を誘導する有効用量の10倍以上の血中曝露量となるように投与した場合でさえも、血糖低下及び低血糖症状は観察されなかった。
【0089】
以上のことから、本発明のアゴニスト抗体は、サルコペニア、廃用性筋萎縮、カケキシア及び低身長症等のIGF-1受容体が関連する種々の疾患の治療薬又は予防薬となる可能性を有し、IGF-1の問題点である、血糖低下作用を克服し、血中半減期を長期化することが可能である。
【0090】
[抗IGF-1受容体ヒト化アンタゴニスト抗体]
本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体は、その極めて高い結合性及び特異性を有する可変領域の性質を利用して、優れた活性と特異性を有する抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体とすることができる。その際の態様としては、IgGの他にFabやFv、scFv、VHHのような形で使用することが考えられるが、これに限定されるものでは無い。
【0091】
このようにして作製された抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体は、例えばがん細胞株におけるIGF-1依存性の細胞増殖活性を抑制することを指標に評価することができる。このようにして選択された抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体は、抗ガン剤や異状な細胞増殖を伴う疾患や病態の改善及び治療薬として期待される。
【0092】
さらに他の抗原又はエピトープを認識する様々な抗体と直接又はリンカーなどを介して融合させることによって二重特異性抗体や多重特異性抗体を構築することもできる。その際の態様としては、IgGの他にFabやFv、scFv、VHHのような形で使用することが考えられるが、これに限定されるものでは無い。
【0093】
このようにして作製された抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体を含有した二重特異性抗体や多重特異性抗体は、例えばがん細胞株におけるIGF-1依存性の細胞増殖活性を抑制することを指標に評価することができる。このようにして選択された抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体を含有した二重特異性抗体や多重特異性抗体は、抗ガン剤や異状な細胞増殖を伴う疾患や病態の改善及び治療薬として期待される。
【0094】
本発明の抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体は、IGF-I受容体シグナルが活性化されることで病態が誘導される疾患の治療薬として期待される。IGF-I受容体を活性化し得るリガンドとしては、IGF-1、IGF-2、Insulinなどが主に挙げられるが、IGF-1受容体とヘテロ2量体形成したRTK(受容体型チロシンキナーゼ)のリガンド(EGFなどが挙げられる)やクロストークする他の受容体のリガンド(TSHなどが挙げられる)なども含まれる。本発明の抗体は、これらのリガンドによって活性化されたIGF-1受容体シグナルを抑制する作用(アロステリックアンタゴニスト作用を有する。つまり、本発明の抗体は、IGF-1受容体に結合することで、過剰に誘導されるIGF-1受容体シグナル活性を抑制し、IGF-1受容体が異常に活性化されることで誘導される疾患の治療又は予防に使用しうる。シグナル活性化抑制能はマウス親抗体IGF11-16と同等以上有することが好ましい。シグナル活性化抑制能が「マウス抗体IGF11-16と同等」とは、筋芽細胞増殖においてIGF-1、IGF-2、又はInsulin等のIGF-I受容体を活性化し得るリガンドが誘導し得る最大細胞増殖活性を通常10%以上、好ましくは25%以上、特に好ましくは35%以上抑制する活性を意味する。
【0095】
IGF-1受容体が異常に活性化されることで誘導される疾患の具体例としては、肝臓がん、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー-モリソン症候群、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺疾患、橋本甲状腺炎、甲状腺眼症、甲状腺機能亢進症及びベーチェット病などが挙げられる。
これらの作用は、担癌モデル動物等を用いて確認することができる。
【0096】
[局所送達ツールとしての抗IGF-1受容体ヒト化抗体]
本発明の抗IGF-1受容体抗体の極めて高い結合性と特異性を利用してIGF-1受容体発現細胞や発現組織などへ薬剤や抗体の局所デリバリーが可能である。その際の本発明の抗IGF-1受容体抗体の態様としては、IgGの他にFabやFv、scFv、VHHのような形で使用することが考えられるが、これに限定されるものでは無い。本発明の抗IGF-1受容体抗体と薬剤が連結された抗体薬物複合体の利用によって、薬剤が局所へ送達されることで、より低用量で特異的に薬効を発揮させることが出来、副作用の低減にもつながる。
【0097】
このようにして作製された本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体を送達ツールとして連結した薬剤又は抗体は、例えば、薬剤がアポトーシス誘導剤の場合は、IGF-1受容体発現がん細胞株におけるアポトーシスを誘導することを指標に評価することができる。このようにして選択された抗IGF-1受容体抗体を連結した薬剤又は抗体は、抗ガン剤や異状な細胞増殖を伴う疾患や病態の改善及び治療薬として期待される。
【0098】
さらに、放射能や蛍光化合物などでラベルした本発明の抗IGF-1受容体抗体を使用して、IGF-1受容体を発現するがん細胞を検出することも可能である。このような診断技術を使用することで抗IGF-1受容体アンタゴニスト抗体による治療を効率的に行うことが出来る。
【0099】
[競合結合]
本発明の抗IGF-1受容体抗体と、IGF-1受容体に対して競合結合する抗体も、本発明の範囲に含まれる。本発明において「競合結合」とは、複数種のモノクローナル抗体が抗原と共存する際に、一方の抗体の抗原への結合が、他方の抗体の抗原への結合により阻害される現象を意味する。一般的には、一定量(濃度)のモノクローナル抗体に対して、別のモノクローナル抗体の量(濃度)を変えて加えていった場合に、前者の一定量のモノクローナル抗体の抗原への結合量が低下する添加量(濃度)を測定することによって測定可能である。その阻害の程度は、IC50又はKiという値で表すことができる。
【0100】
本発明の抗IGF-1受容体抗体と競合結合するモノクローナル抗体とは、本発明の抗IGF-1受容体抗体を10nMで用いて抗原抗体結合を検出した際に、IC50が通常1000nM以下、中でも100nM以下、更には10nM以下の抗体をいう。競合結合の測定を行う場合、用いる抗体の一部又は全部を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて検出することでその測定を行うことも可能である。
【0101】
[交差反応]
本発明の抗体は、他の脊椎動物のIGF-1受容体に対して交差反応を有する。交差反応とは、その抗体が抗原抗体反応をするIGF-1受容体の動物種(例えばヒト)とは異なる他の動物種のIGF-1受容体にして抗体が結合性を示すことをいう。本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体はヒト以外にモルモット、サル、ウサギなどのIGF-1受容体と交差反応性を示す。一方、マウス及びラットのIGF-1受容体には交差反応性を示さない。
【0102】
また、本発明の抗体と交差反応しない動物の種を用いて、その細胞や動物を遺伝子工学的に改変させることにより、本発明の抗体が交差反応するIGF-1受容体を発現する細胞や動物を作製することも可能である。
【0103】
[結合親和性評価]
本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体は、マウス親抗体IGF11-16(特許文献1)と同等以上のレベルの極めて強い結合親和性を有している。その結合親和性の評価は、たとえば、組換えIGF-1受容体の細胞外領域を抗原として使用し、SPR(表面プラズモン共鳴)解析によって行うことが出来る。実施例においては、BIACOREを使用して反応温度を40℃に上げて、抗原固定量を低く抑えることで1価の結合親和性を解析しているが、この方法に限定されるものではなく、強い結合親和性を定量的に評価し得る解析方法であれば良い。
【0104】
[IGF-1受容体シグナル評価]
本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体は、IGF-1受容体シグナル活性化を1次評価系として使用することで、マウス親抗体IGF11-16(特許文献1)と同等以上のレベルのヒト化抗体を選択することにより得られたものである。
【0105】
IGF-1受容体シグナル活性化の評価は、市販のPathHunter(登録商標)IGF1R Functional Assay(DiscoverX社製)を使用した。本システムでは、IGF-1受容体シグナル直下のリン酸化を酵素活性として評価することができ、基質として化学発光物質を使用し、発光強度でシグナル強度を測定する。
【0106】
具体的には、IGF-1受容体及びIGF-1受容体の細胞内のチロシンキナーゼと結合するSH2ドメインを持つアダプタープロテインSHC1-Enzyme Acceptor(EA)融合タンパク質を、HEK293細胞内に強制発現させた細胞株を用いた。この細胞株は、IGF-1受容体へのリガンド結合によって受容体の二量体化が起こり、続いて受容体がリン酸化されることにより、SH2ドメインを持つアダプタープロテインがリクルートされ、受容体シグナル伝達複合体が形成され、空間的に隣接したチロシンキナーゼとEAの結合が促され、活性型β-ガラクトシダーゼが再構成される。このβ-ガラクトシダーゼ活性による加水分解された基質の化学発光シグナルのレベルを測定することにより、受容体型チロシンキナーゼに対する薬剤の作用を同定することが可能である。
【0107】
マウス親抗体IGF11-16と同等以上のシグナル誘導活性を有するヒト化抗体バリアントを選択したのち、二次評価のヒト筋芽細胞増殖評価を行った。IGF-1受容体シグナルを評価する方法は、この方法に限定されるものではなく、IGF-1受容体チロシンリン酸化を直接又は間接的に且つ定量的に検出し得る系であれば良い。
【0108】
[脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性、筋肉量増加の誘導活性]
本発明のヒト化抗体の2次評価系としてヒト筋芽細胞増殖評価を行い、マウス親抗体IGF11-16(特許文献1)と同等の濃度域で同等以上のアゴニスト活性を有するヒト化抗体を絞り込んだ。そのようにして選択された本発明のヒト化抗体はインビボ(in vivo)において血糖低下作用を示さず、筋量増加作用を有することが確認された。すなわち、一態様における本発明の抗IGF-1受容体ヒト化抗体は、脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を有する。
【0109】
なお、本開示において「脊椎動物由来細胞」とは、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に由来する細胞であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類に由来する細胞であり、更により好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ラット、又はマウスに由来する細胞である。これらの種に由来する細胞で、IGF-1受容体を発現し、当該IGF-1受容体に本発明の抗体が交差反応する細胞であれば、本発明の抗体によって細胞増殖が誘導されうる。また、本発明の抗体と交差反応性がある種のIGF-1受容体を発現されるように改変された細胞や動物、又は当該改変動物に由来する細胞も、本開示における「脊椎動物由来細胞」に含まれる。
【0110】
脊椎動物由来細胞のインビトロにおける増殖誘導活性を調べるための細胞としては、初代培養細胞、株化細胞、又はそれらの細胞の形質転換体細胞等を用いることが可能である。
【0111】
本開示において「初代培養細胞」とは、生物の臓器や組織から分離された細胞で、通常はある程度の継代数での継代培養が可能であるものをいう。脊椎動物由来の初代培養細胞は、脊椎動物の臓器や組織から酵素処理、物理的方法による分散又はexplant法等の手法で得ることができる。また、脊椎動物から得られた臓器や組織、又はそれらの断片を用いることも可能である。それらの当該初代細胞を調製する臓器や組織としては、好ましくは甲状腺、副甲状腺や副腎等の内分泌組織、虫垂、扁桃腺、リンパ節や脾臓等の免疫組織、気管や肺等の呼吸器、胃、十二指腸、小腸や大腸等の消化器、腎臓や膀胱等の泌尿器、輸精管、睾丸や前立腺等の雄性生殖器、乳房や卵管等の雌性生殖器、心筋や骨格筋等の筋組織等が挙げられ、より好ましくは肝臓、腎臓若しくは消化器又は筋組織等であり、更により好ましくは筋組織である。本発明の抗体の増殖誘導活性を調べるために用いられる当該初代培養細胞としては、IGF-1受容体を発現し、そのIGF-1受容体と結合するIGF-1によって増殖が誘導される細胞が用いられる。その代表としては、筋組織から分離された初代培養細胞である骨格筋筋芽細胞等が使われる。ヒトや動物由来の初代培養細胞としては、分譲や市販されているものを入手して使用することも可能である。ヒト初代培養細胞は、例えばATCC(登録商標)、ECACC、Lonza、Gibco(登録商標)、Cell Applications、ScienCell research laboratories、PromoCell等の機関や会社から入手できる。
【0112】
脊椎動物由来の細胞における本発明の抗体による細胞の増殖誘導活性を調べる方法としては、細胞数計測、DNA合成量の測定、代謝酵素活性の変化量の測定等が挙げられる。細胞数計測の方法は、血球算定盤を用いた方法やコールターカウンター等の細胞数計測装置を用いた方法があり、DNA合成量を測定する方法としては、[3H]-チミジンや5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)の取込みによる測定方法、代謝酵素活性の変化量をみる方法としては、MTT法、XTT法やWST法等の比色定量法があるが、当業者であれば適宜その他の方法等でも実施することができる。
【0113】
細胞の増殖誘導活性は、試験に用いる培養細胞に対して、本発明の抗体を反応させた場合の方が、当該抗体を反応させていない場合よりも細胞の増殖が上昇していることで判定できる。この場合、当該誘導活性の対照として、同条件で本来のIGF-1受容体のリガンドであるIGF-1を反応させた測定を行うと、その活性の評価に便利である。試験を行う培養細胞に対して、本発明の抗体及びIGF-1をそれぞれの濃度を変化させて反応させたときに、最大の増殖誘導活性の50%を示すときの濃度をEC50値として示す。ヒト骨格筋筋芽細胞を用いて増殖誘導活性を評価した場合、好ましくは本発明の抗体の細胞増殖誘導活性はIGF-1と同等以上のEC50値であり、より好ましくは本発明の抗体のEC50値はIGF-1の1/10以下であり、更に好ましくは1/20以下であり、更により好ましくは本発明の抗体のEC50値はIGF-1の1/50以下である。また、ヒト骨格筋筋芽細胞を用いて増殖誘導活性を評価した場合、本発明の抗体のEC50値は、好ましくは0.5nM以下であり、より好ましくは0.3nM以下であり、更に好ましくは0.1nM以下である。
【0114】
インビボにおける増殖誘導活性を調べる方法としては、脊椎動物に本発明の抗体を投与して、投与された個体全体、又は投与された個体における臓器又は組織の質量、大きさ、細胞数等の変化を計測するか、当該脊椎動物細胞を移植された動物を用いて、当該移植を受けた個体において当該移植された脊椎動物細胞を含む移植片の質量、大きさ、細胞数等の変化を計測することで調べることができる。個体全体での計測では、体重、体長、四肢周囲長等の測定や、インピーダンス法による体組成測定、クレアチニン、身長係数等が用いられる。個体での臓器や組織、又は移植片の計測については、ヒト以外の動物では直接目的の臓器、組織又は移植片を回収し、質量、大きさや含まれる細胞数の算定等が行われる。また、非侵襲的に個体の臓器、組織又は移植片を計測する方法としては、DXA(Dual-energy X-ray absorptiometry)法に代表されるX線撮影像やCT、MRIによる画像解析、同位元素や蛍光物質によるトレーサーを用いた造影法等が用いられる。対象となる組織が骨格筋である場合には、筋力の変化等が指標となる。その他、当業者であれば適宜その他の方法を用いることで、本発明の抗体の脊椎動物由来細胞のインビボにおける増殖誘導活性に対する作用を調べることができる。本発明の抗体のインビボにおける脊椎動物由来細胞の増殖誘導活性を調べるためには、本発明の抗体を投与した個体と、本発明の抗体以外の抗体又は別の対照物質を投与された個体との間で、上に示した方法等での計測等を行った結果を比較することで評価することができる。
【0115】
抗体の血中動態に関して、後述の実施例14において、本発明の抗体の設計の基となったマウス抗体IGF11-16抗体(特許文献1)と本発明の抗体であるhIGF13_PS及びhIGF25_PS抗体のモルモット血中動態を比較しているが、IGF11-16と比較して血中動態が改善していることが示された。
【0116】
本発明の抗体のインビボでの効果の1つとして、筋肉量及び/又は体長の増大効果が挙げられる。IGF-1は骨格筋において上述の筋芽細胞の増殖や分化に作用するほか、筋線維を太くする作用もあり、そのような総合的な作用として筋肉量を増大させる効果があると考えられている。本発明の抗体もIGF-1と同様に動物に投与することによって、当該動物の筋肉量を増大させる効果を有する。
【0117】
本発明の抗体による筋肉量の増大効果を計測する方法としては、個体全体での計測では、体重、体長、四肢周囲長等の測定や、インピーダンス法による体組成測定、クレアチニン、身長係数等が用いられ、また、DXA(Dual-energy X-ray absorptiometry)法に代表されるX線撮影像やCT、MRIによる画像解析、同位元素や蛍光物質によるトレーサーを用いた造影法等の方法が用いられるほか、筋力の変化等も指標になる。また、ヒト以外の動物では直接筋肉を採取してその質量や大きさを計測する方法等も可能である。
【0118】
筋肉量の増加の効果は、本発明の抗体を投与された個体と当該抗体を投与されなかった個体での筋肉量の増加を比較すること、又は、一つの個体で本発明の抗体を投与する前と投与した後での筋肉量の比較を行うことで評価することができる。筋肉量の増加の効果は、本発明の抗体が投与により筋肉量の増加の差が見られれば、その効果を知ることができる。IGF-1は骨の成長にも関与し、体長(ヒトの場合は身長)を増大させる働きもある。したがって、本発明の抗体も、動物に投与することによって体長を増大させる効果を有する。本発明の抗体による体長増大の効果は、個体の体重、体長、四肢周囲長等の測定によって計測することが可能である。
【0119】
[動物での血糖値に対する作用]
一態様によれば、本発明の抗体は、脊椎動物での血糖値に影響を及ぼさないという特徴を有する。IGF-1は、IGF-1受容体へのアゴニスト作用の一部として、血糖値の低下作用を起こすことが知られている。しかし、抗IGF-1受容体アゴニスト抗体として機能する本発明のアゴニスト抗体は、動物に非経口的に投与した場合に筋肉量の増加を誘導する有効用量の更に10倍以上の血中曝露量でも、血糖値を変動させないという特徴を示す。
【0120】
本発明の抗体が有する、脊椎動物における血糖低下を誘導しない作用に関して、例えばインビトロで評価することもできる。脊椎動物由来細胞のインビトロにおける細胞内へのグルコース取込みに影響を及ぼさないという特徴を調べるための細胞としては、初代培養細胞、株化細胞、又はそれらの細胞の形質転換体細胞等を用いることが可能である。
【0121】
脊椎動物由来の細胞における本発明の抗体によるグルコース取込みに及ぼす影響を調べる方法としては、細胞内グルコース濃度の測定、グルコース類縁トレーサー物質の細胞内取込み量の測定、グルコーストランスポーターの変化の測定等が挙げられる。グルコース濃度の測定方法は、酵素法等の吸光度測定法があり、グルコース類縁トレーサー物質の細胞内取込み量を測定する方法としては、例えば[3H]-2’-デオキシグルコースの取込み量の測定、グルコーストランスポーターの変化をみる方法としては、細胞免疫染色法、ウエスタンブロット等があるが、当業者であれば適宜その他の方法等でも実施することができる。細胞内へのグルコース取込みに及ぼす影響は、試験に用いる培養細胞に対して、本発明の抗体を反応させた場合の細胞内へのグルコース取込みが、当該抗体を反応させていない場合と同程度であることで判定できる。この場合、当該誘導活性の対照として、同条件で本来のIGF-1受容体のリガンドであるIGF-1を反応させた測定を行うと、その活性の評価に便利である。
【0122】
脊椎動物由来細胞のインビボにおけるグルコース取込みを調べる方法としては、当該脊椎動物に本発明の抗体を投与して、投与された個体における臓器又は組織中のグルコース含量等の変化を計測することで調べることができる。個体全体での計測では、血糖値等の測定や、糖化蛋白質を指標としたヘモグロビンA1C等が用いられる。個体での臓器や組織中のグルコース取込み量等の測定においては、ヒト以外の動物においては直接目的の臓器又は組織を回収し、グルコース含量又はトレーサーの算定等が行われる。また、非侵襲的に個体の臓器又は組織中のグルコース取込みを測定する方法としては、X線撮影像やCT、MRIによる画像解析、同位元素や蛍光物質によるトレーサーを用いた造影法等が用いられる。対象となる組織が骨格筋である場合には、グルコースクランプ等も指標となる。その他、当業者であれば適宜その他の方法を用いることで、本発明の抗体の脊椎動物由来細胞のインビボにおけるグルコース取込みに及ぼす影響を調べることができる。
【0123】
また、本発明の抗体は、脊椎動物に投与された場合、当該脊椎動物の筋肉量の増加を誘導する有効用量に対して、同一用量、好ましくは10倍以上の用量においても、当該脊椎動物の血糖値を変動させないことを特徴とする。本発明の抗体の脊椎動物での血糖値の変化を調べるための動物としては、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に属する動物であり、より好ましくは哺乳類又は鳥類に属する動物であり、更により好ましくは、ヒト、サル、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ラット、又はマウスである。また、本発明の抗体と交差反応性がある種のIGF-1受容体を発現されるように改変された動物も、本発明の抗体の脊椎動物での血糖値の変化を調べるための動物に含まれる。血糖値の測定は、観血的方法としては比色法や電極法等が用いられ、検出のための酵素にはグルコースオキシダーゼ法(GOD法)、グルコースデヒドロゲナーゼ法(GDH法)等があり、非観血的方法としては光学的測定法等があるが、当業者であれば適宜その他の方法も選択することができる。血糖値はヒトの場合、空腹時血糖値の正常域は、100mg/dL~109mg/dLである。血糖値に対する薬剤投与による有害事象は(有害事象共通用語規準v4.0)、血糖値が77mg/dL~55mg/dLの範囲より低値となる場合は低血糖、109mg/dL~160mg/dLの範囲より高値となる場合は高血糖と定義されている。薬剤投与による血糖値に及ぼす影響がないとは、薬剤投与後の血糖値が55mg/dLより上で160mg/dL未満の範囲内となること、より好ましくは77mg/dLより上で109mg/dL未満の範囲内となることである。但し、血糖値は投与する動物によって正常値やその変動の幅が異なり、またヒトであっても投与時の血糖値が必ずしも正常値の範囲であるとは限らないことから、本開示において脊椎動物の血糖値を変動させないとは、本発明の抗体を投与された脊椎動物の血糖値が溶媒投与コントロール群と比較して、好ましくは30%以内、より好ましくは20%以内、更により好ましくは10%以内の変化であることをいう。
【0124】
[抗IGF-1受容体ヒト化抗体の製法]
本発明の抗体は、IGF-1受容体に対するマウスモノクローナル抗体IGF11-16(特許文献1)をヒト化することにより取得できる。ヒト以外の動物種から得られたモノクローナル抗体を使用してそのCDR領域をCDRグラフティングによってヒトフレームワークに置き換えることをヒト化という(非特許文献12)。さらに3次元構造解析により、立体構造を維持しながら、ヒトへの免疫原性(T細胞抗原性)を低下させるためのアミノ酸置換や、脱アミド化や酸化などの翻訳後修飾リスクを回避するためのアミノ酸置換を導入することで、活性を維持しつつ製造性や臨床での安全性を確保したヒト化抗体を作製する。
【0125】
活性を維持するために、(1)どんなヒトフレームワークのデザインが必要なのか、及び、(2)CDR配列中のどのアミノ酸が重要なのか、に関する情報を得ることはヒト化において非常に重要である。そのようなヒト化抗体の取得方法の例は、後述の実施例1から9に記載されており、それによって得られたヒト化抗体としては、重鎖可変領域としてVH13_PN(配列番号43)、VH13_PS(配列番号47)、VH23_PN(配列番号49)、VH23_PS(配列番号53)、VH25_PN(配列番号55)、又はVH25_PS(配列番号59)を有すると共に、軽鎖可変領域としてVL13(配列番号61)、VL14(配列番号63)、VL22(配列番号65)、VL23(配列番号67)、又はVL24(配列番号69)を有するヒト化抗体が挙げられる。軽鎖可変領域として、より好ましくは、VL22(配列番号65)、VL23(配列番号67)、又はVL24(配列番号69)を有する。しかし、本発明の抗体は、それらに限定されるものではない。
【0126】
得られた抗IGF-1受容体ヒト化抗体について、その抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする塩基配列を有する核酸分子を得ることも可能であり、そのような核酸分子を用いて遺伝子工学的に抗体を作製することも可能である。当該抗体の遺伝子情報におけるH鎖、L鎖、若しくはそれらの可変領域について、CDR配列等の情報を参考にして、抗体の結合性や特異性の向上のための改変等を行うことができる。
【0127】
本発明の抗体を製造する方法としては、それぞれ取得したい抗体のタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子を導入された哺乳細胞、昆虫細胞、及び大腸菌などを培養し、得られた培養上清から常法によって抗体を精製して取得することができる。その具体的な方法としては、これに限定されるものではないが、以下のような方法が例示される。
【0128】
まず、H鎖可変領域をコードする核酸分子に、H鎖シグナルペプチドをコードする核酸分子と、H鎖定常領域をコードする核酸分子とを結合させて作製する。L鎖可変領域をコードする核酸分子に、L鎖シグナルペプチドをコードする核酸分子と、L鎖定常領域をコードする核酸分とを結合させて作製する。
【0129】
これらのH鎖遺伝子とL鎖遺伝子を、選択した宿主細胞で発現するのに適したベクター、例えばクローニングベクター又は発現用ベクターに組込む。ここで、H鎖遺伝子及びL鎖遺伝子は、両方の遺伝子が発現する形であれば、一つのベクターに組み込まれてもよく、また、それぞれ別のベクターに組み込まれてもよい。
【0130】
次に、H鎖遺伝子とL鎖遺伝子が組み込まれたベクターは、宿主細胞に導入される。宿主細胞としては、例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、若しくは植物細胞等の真核細胞、又は細菌細胞が挙げられる。宿主細胞に遺伝子を導入する方法としては、リン酸カルシウムやリポフェクション法などの化学的方法、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法などの物理的方法又はウイルスやファージなどでの感染による方法などから適宜選択することができる。H鎖遺伝子及びL鎖遺伝子が導入された宿主細胞は、選択をかけることなく培養に用いることもできるし、薬剤耐性や栄養要求性などの性質を用いて遺伝子が導入された組換え体細胞を選択的に濃縮することや、更に遺伝子が導入された単一の宿主細胞から樹立されたクローンの組換え体細胞を培養に用いることも可能である。
【0131】
H鎖遺伝子及びL鎖遺伝子が導入された宿主細胞は、適切な培地と培養条件で培養される。ここで、宿主細胞内で発現したH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子の産物は、通常は抗体タンパク質として培地中に分泌され、当該培地を回収することで産生された抗体タンパク質を得ることができる。但し、遺伝子と宿主との組み合わせにより、必要がある場合には宿主細胞を破壊して細胞内に蓄積した抗体タンパク質を回収すること、原核細胞の場合にはペリプラズム画分から抗体タンパク質を回収することも選択できる。回収された抗体タンパク質を含む培地等の試料から抗体を精製する方法としては、塩沈法、透析や限外濾過法等による濃縮や溶媒の交換、プロテインA、プロテインG又は抗原等が固定化された担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーなどが一般に用いられるが、その他、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィーやサイズ排除クロマトグラフィー等の方法も適宜用いて精製することが可能である。これらの手順に用いられる各種の手法は、何れも当業者には周知である。
【0132】
ここで、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子について、望む形質を導入するための遺伝子改変を行ったり、免疫グロブリンの重鎖及び/又は軽鎖の可変領域又はCDR領域の構造情報を用いたりすることにより、抗体キメラタンパク質、低分子抗体、スキャフォールド抗体等を作製することは、当業者であれば公知の技術を用いて実施可能である。また、抗体の性能の向上や副作用の回避を目的に、抗体の定常領域の構造に改変を入れることや、糖鎖の部分での改変を行うことも、当業者によく知られた技術によって適宜行うことができる。
【0133】
[抗IGF-1受容体ヒト化抗体を含有する薬]
本発明の抗体は、IGF-1に関連した状態又はIGF-1受容体への作用に起因する疾患の治療薬又は予防薬又は診断薬として利用可能である。以降、治療薬・予防薬又は診断薬を総称して「薬」又は「薬剤」と記載する。
【0134】
具体的には、IGF-1に関連した状態又は抗IGF-1受容体アゴニスト抗体での治療又は予防の対象となる疾患としては、筋萎縮性疾患(例えば廃用性筋萎縮、サルコペニア、カケキシア等)、低身長症(例えばラロン型低身長症、成長ホルモン抵抗性低身長症等)、肝硬変、肝線維化、糖尿病性腎症、慢性腎不全、老化、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、神経疾患、脳卒中、脊髄損傷、心血管保護、糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、腎症、骨粗しょう症、嚢胞性線維症、創傷治癒、筋強直性ジストロフィー、エイズ筋減弱症、HIVに伴う脂肪再分布症候群、火傷、クローン病、ウェルナー症候群、X連鎖性複合免疫不全症、難聴、神経性無食欲症及び未熟児網膜症、ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、シルバー・ラッセル症候群、特発性低身長、肥満、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、低筋肉量、心筋虚血、低骨密度などがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0135】
特に、本発明の抗体は、筋萎縮性疾患(例えば廃用性筋萎縮、サルコペニア、カヘキシア等)及び/又は低身長症(例えばラロン型低身長症、成長ホルモン抵抗性低身長症等)の治療薬又は予防薬としての使用が好ましい。また、本発明の抗体は投与によって血糖値の変動を生じさせない点において優れている。本抗IGF-1受容体抗体の一部又は全てを構成成分として融合又は連結した抗体薬や抗体薬物複合体又は診断薬での治療又は予防又は診断の対象となる疾患としては、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、小児がん、先端巨大症、卵巣がん、膵臓がん、良性前立腺肥大症、乳がん、前立腺がん、骨がん、肺がん、結腸直腸がん、頚部がん、滑膜肉腫、膀胱がん、胃がん、ウィルムス腫瘍、転移性カルチノイド及び血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍に関連する下痢、ビポーマ、ウェルナー-モリソン症候群、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、腎臓がん、腎細胞がん、移行上皮がん、ユーイング肉腫、白血病、急性リンパ芽球性白血病、脳腫瘍、膠芽腫、非膠芽腫性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、未分化神経外胚葉性腫瘍、髄芽腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳室上衣腫、脈絡叢乳頭腫、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、不適切な微小血管増殖、糖尿病性網膜症、グレーヴズ病、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺疾患、橋本甲状腺炎、甲状腺眼症、甲状腺機能亢進症、及びベーチェット病が挙げられる。
【0136】
本発明の抗体を含有する薬は、本発明の抗体の他に、医薬的に許容される担体及び/又はその他の添加剤を含有する、医薬組成物の形態として製剤化してもよい。医薬的に許容される担体及び/又はその他の添加剤を用いての製剤は、例えばUniversity of the Sciences in Philadelphia, “Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th EDITION”, Lippincott Williams & Wilkins, 2000に記載の方法で実施することが可能である。
【0137】
このような薬剤の一つの形態としては、無菌の水性液又は油性液に溶解、懸濁、又は乳化することによって調製された液剤或いは凍結乾燥剤として供される。このような溶剤又は溶解液として、水性液としては注射用蒸留水、生理食塩水等が挙げられ、それに加えて浸透圧調節剤(例えば、D-グルコース、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)が添加される場合、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50)等が併用される場合もある。また、溶剤又は溶解液としては油性液が用いられる場合もあり、当該油性液の例としてはゴマ油、大豆油等があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等が併用される場合もある。このような製剤においては、適宜、緩衝剤(例えば、リン酸塩類緩衝剤、酢酸塩類緩衝剤)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びそれらの塩等)、着色剤(例えば、銅クロロフィル、β-カロチン、赤色2号、青色1号等)、防腐剤(例えばパラオキシ安息香酸エステル、フェノール、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等)、増粘剤(例えばヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそれらの塩等)、安定化剤(例えばヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール等)、矯臭剤(例えばメントール、柑橘香料等)の添加剤が用いられる場合がある。
【0138】
別の形態として、粘膜適応用薬剤もあげられる。この製剤においては、粘膜への吸着性、滞留性等を付与することを主な目的として、添加剤として粘着剤、粘着増強剤、粘稠剤、粘稠化剤等(例えば、ムチン、カンテン、ゼラチン、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ローカストビンガム、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアゴム、キトサン、プルラン、ワキシースターチ、スクラルフェート、セルロース、及びその誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、又はその塩、ポリグリセリン脂肪酸エステル等)が含有される場合もある。しかしながら、生体に供与される治療剤又は予防剤の形態及び溶剤や添加剤はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば適宜選択できる。
【0139】
本発明の抗体を含有する薬は、本発明の抗体の他に、既存の他の薬物(活性成分)を含んでいてもよい。また、抗体薬物複合体や二重特異性抗体・多重特異性抗体のように他の薬剤などと融合又は連結されていても良い。また、本発明の抗体を含む薬を、既存の他の薬物と組み合わせ、キットの形態としてもよい。抗IGF-1受容体アゴニスト抗体と組み合わせる活性成分として、成長ホルモン又はそのアナログ、インスリン又はそのアナログ、IGF-2又はそのアナログ、抗ミオスタチン抗体、ミオスタチンアンタゴニスト、抗アクチビンIIB型受容体抗体、アクチビンIIB受容体アンタゴニスト、可溶性アクチビンIIB型受容体又はそのアナログ、グレリン又はそのアナログ、フォリスタチン又はそのアナログ、ベータ2アゴニスト、及び選択的アンドロゲン受容体モジュレーターが挙げられる。
【0140】
また、本抗IGF-1受容体抗体を構成成分として含む抗体薬や抗体薬物複合体の調製において、本抗IGF-1受容体抗体と組み合わされる活性成分、或いは本抗IGF-1受容体抗体と共に含有される活性成分としては、コルチコステロイド、制吐薬、オンダンセトロン塩酸、グラニセトロン塩酸、メトクロプラミド(metoclopramide)、ドンペリドン、ハロペリドール、シクリジン、ロラゼパム、プロクロルペラジン、デキサメタゾン、レボメプロマジン、トロピセトロン、癌ワクチン、GM-CSF阻害薬、GM-CSF DNAワクチン、細胞に基づくワクチン、樹状細胞ワクチン、組換えウイルスワクチン、熱ショックタンパク質(HSP)ワクチン、同種腫瘍ワクチン、自己腫瘍ワクチン、鎮痛薬、イブプロフェン、ナプロキセン、トリサリチル酸コリンマグネシウム、オキシコドン塩酸、抗血管形成薬、抗血栓薬、抗PD-1抗体、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、抗PD-L1抗体、アテゾリズマブ、抗CTLA4抗体、イピリムマブ、抗CD20抗体、リツキシマブ、抗HER2抗体、トラスツズマブ、抗CCR4抗体、モガムリズマブ、抗VEGF抗体、ベバシズマブ、抗VEGF受容体抗体、可溶性VEGF受容体断片、抗TWEAK抗体、抗TWEAK受容体抗体、可溶性TWEAK受容体断片、AMG 706、AMG 386、抗増殖薬、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害薬、αvβ3阻害薬、αvβ5阻害薬、p53阻害薬、Kit受容体阻害薬、ret受容体阻害薬、PDGFR阻害薬、成長ホルモン分泌阻害薬、アンジオポエチン阻害薬、腫瘍浸潤マクロファージ阻害薬、c-fms阻害薬、抗c-fms抗体、CSF-1阻害薬、抗CSF-1抗体、可溶性c-fms断片、ペグビソマント、ゲムシタビン、パニツムマブ、イリノテカン、及びSN-38が挙げられる。配合される本発明の抗体以外の薬物の用量としては、通常の治療に用いられる用量で行うことができるが、状況に応じて増減することも可能である。
【0141】
本発明における薬剤は、症状の改善を目的として、非経口的に投与することができる。非経口投与の場合には、例えば経鼻剤とすることができ、液剤、縣濁剤、固形製剤等を選択できる。また別の非経口投与の形態としては、注射剤とすることができ、注射剤としては、皮下注射剤、静脈注射剤、点滴注射剤、筋肉注射剤、脳室内注射剤又は腹腔内注射剤等を選択することができる。またその他の非経口投与に用いる製剤としては、坐剤、舌下剤、経皮剤、経鼻剤以外の経粘膜投与剤等も挙げられる。更に、ステントや血管内栓塞剤に含有若しくは塗布する態様で、血管内局所投与することもできる。
【0142】
本発明における治療剤又は予防剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間、又は当該医薬組成物に含有される活性成分の種類等により異なるが、通常成人1人あたり、1回につき主剤を0.1mgから1gの範囲で、好ましくは0.5mgから100mgの範囲で、1週から4週間に1回、若しくは1か月から2か月に1回投与することができる。しかし、投与量及び投与回数は種々の条件により変動するため、前記投与量及び回数よりも少ない量及び回数で充分な場合もあり、また前記の範囲を超える投与量及び投与回数が必要な場合もある。
【実施例0143】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0144】
[実施例1]マウス抗体IGF11-16のヒト化抗体のデザイン:
・ヒトフレームワークの選定
Kohlerら(Nature, (1975), Vol.256, pp.495-497)のハイブリドーマ法により作製し得られたIGF-1受容体に対するマウスモノクローナル抗体IGF11-16(特許文献1)の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)中の相補性決定領域(CDR)アミノ酸を、鋳型ヒト抗体に移植した。移植先となる鋳型ヒト抗体としては、マウス抗体IGF11-16(マウス親抗体)のVH及びVLのアミノ酸配列(それぞれ配列番号39及び配列番号41)に対して、それらと相同性の高いアミノ酸配列を持つヒト抗体の生殖細胞系列(germline)の中から、重鎖配列としてVH-1-46(配列番号95)及びVH-1-e(配列番号96)、重鎖J-セグメントとしてJH4(配列番号97)、軽鎖配列としてVK1-L5(配列番号98)及びVK1-A20(配列番号99)、軽鎖J-セグメントとしてJK2(配列番号100)を選択し、これらを以下の表1に示すように組み合わせた2通りのヒト化抗体フレームワークを用いた。
【0145】
【0146】
・CDR領域のグラフティング及びFRアミノ酸置換
上記の鋳型ヒト抗体VH及びVLのFRに、マウス抗体IGF11-16のVH及びVLから必要なアミノ酸配列を移植してヒト化抗体を作製した。
【0147】
具体的には、VHについては、前述の鋳型ヒト抗体VHのCDRアミノ酸配列及びFRアミノ酸の数カ所をマウス抗体IGF11-16のVH中の対応するアミノ酸配列で置換し、マウス抗体IGF11-16をヒト化したVHのアミノ酸配列をデザインし、更にそれらのアミノ酸をコードするDNAの塩基配列をデザインした。
【0148】
VLについては、前述の鋳型ヒト抗体VLのCDRアミノ酸配列及びFRアミノ酸の数カ所をマウス抗体IGF11-16のVL中のアミノ酸配列に置換し、マウス抗体IGF11-16をヒト化したVLのアミノ酸配列をデザインし、更にそれらのアミノ酸をコードするDNAの塩基配列をデザインした。
【0149】
デザインしたヒト化抗体の重鎖及び軽鎖の構成を下記表2に示す。
なお、本実施例の記載及び図面中において、デザインされたヒト化抗体重鎖可変領域と重鎖定常領域とを連結して構成されるヒト化重鎖、デザインされたヒト化抗体軽鎖可変領域と軽鎖定常領域とを連結して構成されるヒト化軽鎖、更にはそれらのヒト化重鎖とヒト化軽鎖とを組み合わせて構成される完全ヒト化抗体を、使用した重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域の名称により略称する場合がある。例えば、
図1A中の“VL22/VH13_PS”とは、VL22を軽鎖可変領域とし、これにヒトκ鎖定常領域を連結した軽鎖と、VH13_PSを重鎖可変領域とし、これにIgG4S228P重鎖定常領域を連結した重鎖とを組み合わせて構成されるヒト化抗体を指す。 また、配列番号15、17、19、21、23、25及び27のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、それぞれ配列番号16、18、20、22、24、26及び28に示す。
【0150】
【0151】
[実施例2]ヒト化抗体の調製:
デザインしたヒト化抗体の重鎖可変領域と、ヒトIgG4サブクラスを安定化した変異体であるヒトIgG4S228P変異体の重鎖定常領域をコードするDNAをそれぞれ合成し、pcDNA3.4系発現ベクターに組み込み連結し、ヒト化抗体重鎖を発現するプラスミドとした。
【0152】
デザインしたヒト化抗体の軽鎖可変領域については、κ鎖定常領域を連結したヒト化抗体軽鎖領域をコードするDNAを合成し、pcDNA3.4系発現ベクターに組み込み、ヒト化抗体軽鎖を発現するプラスミドとした。
【0153】
これらのヒト化抗体重鎖発現プラスミドとヒト化抗体軽鎖発現プラスミドを混合して、ExpiCHO(登録商標) Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞に導入することにより、各種抗体を発現させた。この際、FW1_VH1を組込んだ重鎖発現プラスミドとFW1_VL1を組込んだ軽鎖発現プラスミドとを組み合わせて発現させたヒト化抗体をFW1_var1抗体、FW2_VH1を組込んだ重鎖発現プラスミドとFW2_VL2を組込んだ軽鎖発現プラスミドとを組み合わせて発現させたヒト化抗体をFW2_var2抗体と、それぞれ命名した。FW1_var9、FW1_var10、及びFW1_var14に関しても、同様に実施及び命名した。ヒト化抗体は、ヒト化抗体重鎖及びヒト化抗体軽鎖発現プラスミドを導入した細胞の培養上清を、プロテインAカラムを用いてアフィニティー精製することにより取得した。
以降のヒト化抗体の調製に関しては、上述の方法に準じて行った。
【0154】
[実施例3]PathHunter
(登録商標)
によるIGF-1受容体活性化作用:
デザインされたヒト化抗体のIGF-1受容体に対する活性化作用を検出するために、PathHunter(登録商標)IGF1R Functional Assay(DiscoverX)を用いて、以下の手順によりIGF-1受容体シグナルの活性化を測定した。
【0155】
IGF-1受容体を発現させた細胞を、ポリ-D-リジンコート又はコラーゲン-Iコートされた96ウェルプレート(Black/clear又はWhite/clear)に、90μL/ウェル(2×104cells/ウェル又は5×103cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO2の条件でインキュベートした。翌日、各濃度の薬剤を10μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO2の条件でインキュベートした。その翌日、培養上清を30μLで取り、15μLの基質溶液を添加して、60分間反応させ、ルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナル(RLU)を測定した。12.5nM抗体添加による蛍光強度から抗体0.1nM添加時の値をバックグラウンドとして差し引いた値を活性化強度とし、マウス親抗体IGF11-16の値を1としてヒト化抗体の相対値を算出した。
【0156】
結果を表3に示す。この結果からヒト化抗体(FW1_var1、var9、var10、var14、及びFW2_var2)のIGF-1受容体活性化能が、マウス親抗体IGF11-16と比較して20%を超えて減弱していることがわかった。
【0157】
【0158】
そこで、ヒト化抗体の抗原結合領域であるCDR領域に関して、マウスと異なる配列部分である重鎖CDR2領域のA61、Q62、Q65、及びG66をそれぞれN61、E62、K65、及びS66にアミノ酸置換しマウス親抗体と同一にしたアミノ酸置換ヒト化抗体(FW1_var10_NEKS、FW1_var14_NEKS)を作製し、比較対象としてマウス親抗体IGF11-16、FW1_var1を使用して、前述と同様にIGF-1受容体活性化能を比較した。
【0159】
結果を表4に示す。その結果、活性強度の回復は観察されなかった。
【表4】
【0160】
以上の結果から、CDR領域のアミノ酸配列をマウス親抗体IGF11-16のCDRと同一のアミノ酸配列に戻しても、その活性強度はマウス親抗体IGF11-16と同等のレベル(活性強度比が±20%以内)に回復しなかった。よって、CDRではなく、FR(フレーム領域)が活性低下に影響していることが推察された。
【0161】
そこで、FR1、FR2、及びFR3をそれぞれマウスのFRに置換したヒト化抗体を作製した。作製したヒト化抗体のマウスFR置換体を表5に示す。これらの置換体のIGF-1受容体シグナル活性化を前述の通りPathHunter(登録商標)の系によって評価した。マウス親抗体IGF11-16の可変領域とヒトIgG4(S228P)の定常領域を融合させたヒトキメラIGF11-16抗体(Chimera)を陽性対照として、抗体濃度16.7nMにおけるシグナル強度を前述同様に比較した。結果を表5に示す。また、配列番号29、31、33、35、及び37のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、それぞれ配列番号30、32、34、36、及び38に示す。
【0162】
【0163】
以上の結果から、シグナル強度がヒトキメラIGF11-16と同等(値が±20%以内)である置換体は、FW1_var9_mFR-H1であり、マウス重鎖FR1がヒト化抗体の活性保持に重要であることが判った。
【0164】
そこで、次にマウス重鎖FR1の中で活性を保持するために必要なアミノ酸を同定した。マウス親抗体IGF11-16とヒト化抗体の重鎖FR1のアミノ酸の違いは7か所存在したため、1か所ずつマウス親抗体のアミノ酸へ置換した。作製したマウスFR1アミノ酸置換ヒト化抗体を表6に示す。これらのヒト化抗体マウスFR1アミノ酸置換体についてPathHunter(登録商標)の系でIGF-1受容体活性化シグナル強度を測定し、抗体濃度16.7nMにおけるシグナル強度をマウス親抗体IGF11-16と比較した。その結果、25位のセリンをプロリンに置換したヒト化抗体のみがマウス親抗体IGF11-16と同等(活性比が±20%以内)であった。結果を表6に示す。
【0165】
【0166】
以上の結果から、重鎖FR1領域の25位のプロリンが活性保持に重要であることが判った。以降のヒト化抗体の重鎖は全て25位のP(プロリン、Pro)置換体を使用した。
【0167】
[実施例4]アラニン置換による活性維持に重要なCDR領域アミノ酸同定:
CDR領域において、活性を保持するために必要なアミノ酸を同定する目的で、マウス親抗体IGF11-16においてそれぞれのアミノ酸をアラニン置換し、その置換体のシグナル活性化能をEC50値とEmax値で比較し、結合活性を抗原ELISAで評価した。マウス親抗体IGF11-16と比較してEC50値:2倍以内、Emax値:±20%以内を同等の活性と定義した。
【0168】
IGF-1受容体シグナル活性化能は、実施例3で記載したPathHunter(登録商標)の系で評価した。EC50値及びEmaxは、解析ソフトGraphPad Prismを使用して算出した。結合活性に関しては、組換えIGF-1受容体細胞外領域を抗原として固定した抗原ELISAで測定した。具体的には、ヒトリコンビナントIGF-1R(R&D社製)をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で0.5μg/mLに調製した。固層化プレートに調製したヒトリコンビナントIGF-1R溶液を50μL/wellで添加した。4℃で一晩反応させ、3%BSA/PBS(0.02%アジ化ナトリウム含有)に置換した。ELISAに使用するまで4℃で保存した。固層化プレートに被験物質溶液(5nM濃度の抗体溶液)を50μL/wellで添加した。室温で1時間反応させたのち、洗浄液(PBST(0.05% Tween20を含有するリン酸緩衝生理食塩水))にて2回洗浄した。アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG抗体(3%BSA/PBSにて2000倍希釈した)を50μL/wellで添加した。室温で45分間反応させ、洗浄液にて3回洗浄したのち、基質(pNPP(パラニトロフェニルリン酸))を添加して反応を開始させた。室温で1時間反応させたのちに、405及び550nmの吸光度を測定し、吸光度405nm-吸光度550nmの差の値を算出した。この値を結合活性として解析を行った。
【0169】
作製したIGF11-16抗体CDR置換体とシグナル活性化及び結合活性の測定結果を表7及び表8に示す。得られた結果から、CDR領域において、アラニン置換することで結合活性が約1~2割に低下したアミノ酸部分、すなわちCDR-L1の位置32のトリプトファン、CDR-H1の位置33のトリプトファン、CDR-H2の位置50のグルタミン酸、CDR-H2の位置52のアスパラギン及びCDR-H3の位置102のアルギニンの5つのアミノ酸が活性保持に極めて重要であることが同定された。また、CDR-H1の位置35のヒスチジン、CDR-H2の位置54のセリン、CDR-H2の位置55のアスパラギン、CDR-H2の位置56のセリン、CDR-H2の位置59のアスパラギン、及び、CDR-H2の位置64のフェニルアラニンはAla置換により活性が低下したことから活性保持に寄与していると考えられる。
一方、アラニン置換したCDR領域におけるアミノ酸残基54部位のうち、44部位はアラニン置換後も80%以上の結合活性を示した。
【0170】
【0171】
【0172】
[実施例5]ヒト化重鎖可変領域のデザイン:
実施例3の結果から重鎖の25位のプロリンが活性維持に重要なことが判明したため、重鎖の25位をPとして、ヒト化重鎖可変領域FW1_VH1及びFW2_VH1を基本骨格としてデザインを行った。FW1_VH1のFR1を基本としてアミノ酸置換体を検討したため、FW2-VH1のFR1部分はFW1_FR1と同一にするため、S16Aのアミノ酸置換を行った。また、免疫原性低減のためのアミノ酸置換導入は、Epibase(登録商標)(Lonza社)の免疫原性スコア解析結果に基づいて実施した。デザインされた重鎖可変領域リストを以下の表9に示す。
【0173】
【0174】
[実施例6]ヒト化軽鎖可変領域のデザイン:
ヒト化軽鎖可変領域に関しては、FW1_VL1及びFW2_VL2を基本骨格としてデザインを行った。免疫原性スコア低下のためのアミノ酸置換導入は、Epibase(登録商標)(Lonza社)の解析結果に基づいて実施した。デザインされた軽鎖可変領域リストを表に示す。
【0175】
【0176】
[実施例7]脱アミド化リスクアミノ酸置換体によるヒト化抗体デザイン:
ヒト化抗体を製造する際に脱アミド化が起こると品質管理が困難となる。そのため、事前に脱アミド化リスクのあるアミノ酸は、活性に影響のない別のアミノ酸へ置換することが必要である。一般的に脱アミド化リスクのある配列としてNG、NT、NS、及びNNが挙げられる。本ヒト化抗体の重鎖のCDR-H2領域においてNS配列が存在する。故に、55位のアスパラギン(N)が脱アミド化してアスパラギン酸(D)へ変換されるリスクを考慮してアミノ酸置換を行った。置換した重鎖のリストを表11に示す。また、配列番号45、51、及び57のアミノ酸配列に対応する核酸塩基配列の一例を、それぞれ配列番号46、52、及び58に示す。
【0177】
【0178】
[実施例8]ヒト化抗体のIGF-1受容体シグナル活性化作用による選択:
ヒト化抗体をIGF-1受容体の活性化作用に基づいて評価し、マウス親抗体IGF11-16と同等の活性を有するヒト化抗体を選択した。
【0179】
抗IGF-1受容体アゴニスト抗体のIGF-1受容体に対する活性化作用を検出するために、PathHunter(登録商標)IGF1R Functional Assay(DiscoverX)を用いてIGF-1受容体シグナルの活性化を測定した。
【0180】
IGF-1受容体を発現させた細胞を、ポリ-D-リジンコート又はコラーゲン-Iコートされた96ウェルプレート(Black/clear又はWhite/clear)に、90μL/ウェル(2×104cells/ウェル又は5×103cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO2の条件でインキュベートした。翌日、各濃度の薬剤を10μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO2の条件でインキュベートした。その翌日、培養上清を30μLで取り、15μLの基質溶液を添加して、60分間反応させ、ルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナル(RLU)を測定した。
【0181】
測定の結果、マウス親抗体IGF11-16と同等(マウス親抗体IGF11-16と比較してEC50値:2倍以内、Emax値:±20%以内)の活性を確認したヒト化抗体を表12に示す。
【0182】
【0183】
[実施例9]ヒト化抗体のヒト筋芽細胞増殖活性による選択:
ヒト化抗体をヒト筋芽細胞増殖活性に基づいて評価し、マウス親抗体IGF11-16と同等の活性を有するヒト化抗体を選択した。
【0184】
抗IGF-1受容体ヒト化抗体のヒト筋芽細胞に対する増殖活性を検討するため、ヒト筋芽細胞に薬剤を添加して、4日後の細胞内のATP量を測定した。
【0185】
正常ヒト骨格筋筋芽細胞(Human Skeletal Muscle Myoblast Cells、HSMM、Lonza)を、SkBM-2(Lonza、CC-3246)に1%BSAを含む培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen type I coated)に、0.1mL/ウェル(2×103cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO2の条件でインキュベートした。細胞播種の翌日に各種薬剤を25μL/ウェルで添加し、37℃、5%CO2の条件で4日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して測定した。4日間インキュベートした96ウェルプレートを、培養液が50μL/ウェルとなるように上清を除き、30分以上室温にて静置した。CellTiter-Glo(登録商標)試薬を50μL/ウェルで添加して10分以上反応させた後に、ルミノメーター(Tristar、ベルトールド)にて発光シグナルを測定した。
【0186】
その結果、マウス親抗体IGF11-16と同等(マウス親抗体IGF11-16と比較して、EC
50値:10倍以内、E
max:90%以上)の活性を確認したヒト化抗体を表13に示す。また、測定結果のグラフを
図1A~Fに示す。
【0187】
【0188】
[実施例10]免疫原性評価:
ヒト化抗体の免疫原性を解析するために、LonzaのEpibase(登録商標)in Silicoを使用し、免疫原性スコアを算出した。LonzaのEpibase(登録商標)in Silicoプラットフォームは、既に実験的に決定された10-merのペプチドとHLA class II受容体の結合親和性とともにHLA class II受容体の構造特性を使用して、抗体に含まれるアミノ酸配列中に存在するT細胞の活性化に必要な条件である潜在的なペプチド/HLA結合を予測し、免疫原性スコアとして算出する免疫原性予測方法である。85種類のHLAクラスIIアロタイプ(43種のDRB1、8種のDRB3/4/5、22種のDQ、12種のDP)における評価をすることで、全人口の99%以上をカバーすることができる。免疫原性スコアは、アロタイプの結合親和性に加えて出現頻度などを加味してスコア化された。
【0189】
結果を表14及び表15に示す。同様に評価したマウス親抗体IGF11-16及びマウス・ヒトキメラ抗体(マウス親抗体IGF11-16の可変領域とヒトIgG4(S228P)の定常領域を有する抗体)の免疫原性スコアと比較して、ヒト化抗体の免疫原性が低いことが判った。
【0190】
【0191】
【0192】
[実施例11]哺乳動物IGF-1受容体に対する結合活性評価:
ヒト(配列番号71)、カニクイザル(配列番号73)、ウサギ(配列番号75)、モルモット(配列番号77)、ラット(配列番号79)及びマウス(配列番号81)のIGF-1受容体に対する抗IGF-1受容体アゴニスト抗体の結合活性を検討するために、各種IGF-1受容体を発現させた細胞を用いてCell-based ELISAを実施した。
【0193】
HEK293T細胞にリポフェクション法によりヒト(配列番号72)、カニクイザル(配列番号74)、ウサギ(配列番号76)、モルモット(配列番号78)、ラット(配列番号80)及びマウス(配列番号82)のIGF-1受容体遺伝子を組込んだpEF1発現ベクター(Thermo fisher)を導入した。リポフェクション後に一晩以上培養させたHEK293T細胞を4×104cells/ウェルで96ウェルプレート(ポリ-D-リジンコート)に添加して、10%緩衝ホルマリン(Mildform(登録商標)10NM、Wako)を用いて固定し、3%BSAを含有したリン酸緩衝液にてブロッキングしたものをELISAに使用した。
【0194】
ELISAは、1%BSA/1%FBS/PBSにて5nMに調製された各ヒト化抗体溶液を各ウェルに100μL添加して37℃にて約1時間反応させた。洗浄液にて3回洗浄した。1%BSA/1%FBS/PBSにて各濃度に調製された抗ヒトIgG抗体HRPコンジュゲート溶液を各ウェルに100μL添加して37℃にて約1時間反応させ、洗浄液にて3回洗浄した。各ウェルに基質(TMB)を100μL添加して反応を開始させた。約30分後に各ウェルに100μLの1M硫酸を添加して450及び650nmの吸光度を測定し、吸光度450nm-吸光度650nmの差の値を算出した。IGF-1受容体遺伝子を導入していないHEK293T細胞(Mock)に対する吸光度450-650nmの差の値の値と比較することで、結合活性を解析した。
【0195】
図2にヒト、モルモット、カニクイザル、及びウサギの各IGF-Rに対する反応性の結果を示す。その結果、ヒト化抗体hIGF13_PS及びhIGF25_PSは、ヒト、モルモット、カニクイザル及びウサギのIGF-1受容体を発現させた細胞では、Mock細胞と比較して、結合活性を2倍程度上昇させ、ヒトマウスキメラ抗体IGF11-16と同等の反応性であった。一方、ラット及びマウスのIGF-1受容体を発現させた細胞に対する結合活性は、Mock細胞と同程度であった。これらのことから、ヒト化抗体hIGF13_PS及びhIGF25_PSは、ヒト、モルモット、カニクイザル及びウサギのIGF-1受容体には結合するが、ラット及びマウスのIGF-1受容体には結合しないことが判った。
【0196】
[実施例12]表面プラズモン共鳴法によるIGF-1受容体に対する結合親和性:
薬剤のIGF-1受容体に対する結合特性(結合速度及び解離速度)を検討するために、表面プラズモン共鳴(SPR)法により測定した。
【0197】
測定システムはBIACORE T200システムを使用した。センサーチップCM3(BR-1005-36、GE)の全フローセルに、抗ヒスチジンタグモノクローナル抗体を、Amine Coupling Kit(BR-1000-50、GE)及びHis Capture Kit(28-9950-56、GE)で、約3000RU固定し、使用した。ランニングバッファーはHBS-EP+(BR-1006-69、GE)を使用した。リガンドは、リコンビナントヒトIGF-1受容体ヒスチジンタグ(305-GR-050、R&D SYSTEMS、以下IGF-1R-His)を測定システムに捕捉し使用した。アナライトは、各濃度の薬剤を使用した。リガンド陰性対照にIGF-1R-Hisを捕捉していないフローセルを使用した。薬剤陰性対照は、PBS(PBS pH7.4(1x)、#10010049、Gibco)を使用した。
【0198】
測定システムの測定温度を40℃に設定とした。フローセル(2及び4)の抗ヒスチジンタグモノクローナル抗体にIGF-1R-His(<2×10-8M)を100RU以下となるように反応させた。流速30μL/分とし、10nMの精製マウスIgG2a、κ、アイソタイプCtrl、Clone:MG2a-53(401502、BioLegend、以下ctrl IgG2a)を1分間反応させ、HBS-EP+を10分以上流した。アナライトをHBS-EP+で段階希釈し(0.5~8×10-10M)、全フローセルに反応させた。
【0199】
測定条件シングルサイクルカイネティクス法を使用した。各濃度のアナライトを600秒ずつ反応させ結合曲線を得た後、HBS-EP+を1200秒反応させ解離曲線を得た。反応終了後、再生用バッファー1(0.2%SDS)、再生用バッファー2(100mM Tris-HCl(pH8.5)、1M NaCl、15mM MgCl2)及び再生用バッファー3(10mM グリシン-HCl(pH1.5))を各1分間反応させ、測定システムのIGF-1R-Hisを除去し洗浄した。Biacore T200 Evaluation software(ver2.0)を使用して、1:1 BindingのModelで解析し、解離速度定数(ka、1/Ms)、結合速度定数(kd、1/s)及び解離定数(KD、M)を算出した。結果を表16に示す。
【0200】
【0201】
hIGF13_PS及びhIGF25_PSのヒトIGF-1受容体に対するKD値は、E-10以下であり、抗IGF-1受容体アゴニストヒト化抗体の最も好ましいクライテリアを満たしていることがわかった。
【0202】
[実施例13]インビボ血糖低下作用(モルモットにおける血糖低下作用):
抗IGF-1受容体アゴニスト抗体のインビボでの血糖低下作用の有無を確認するために、モルモットにhIGF13_PS及びhIGF25_PSを単回投与して、継時的に血糖値を測定して、血糖低下作用の有無を検討した。血糖低下作用とは、血糖値を50mg/dL以下に低下させる、又は低血糖症状を起こす作用とする。
【0203】
モルモットを12時間絶食させ、各ヒト化抗体:hIGF13_PS及びhIGF25_PSを、10mg/kgで単回静脈内投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させた。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与1、2、4、8、24、48、72、及び144時間後に採血して、グルテストセンサー(三和化学研究所)を使用して血糖値を測定した。結果を
図3A、Bに示す。
【0204】
各ヒト化抗体は、溶媒のみを投与した溶媒対照群と比較して、血糖値に有意な差を認めず、投与後の血糖値は何れも50mg/dL以上であった。このことから、各ヒト化抗体は、IGF-1のような顕著な血糖低下作用を有さず、血糖値に影響を及ぼさないことから、IGF-1の副作用である低血糖を克服する薬剤としての可能性が示された。
【0205】
[実施例14]ヒト化抗体のモルモットにおける血中動態:
モルモットを12時間絶食させ、ヒト化抗体hIGF13_PS及びhIGF25_PS又はIGF11-16(マウス親抗体)を、1及び10mg/kgで単回静脈内投与した。モルモットは、投与24時間後まで絶食させ、24時間後に再給餌した。覚醒状態のモルモットを、投与前(0時間)、投与2、4、8、24、48、72、96、120、及び144時間後に採血して、血漿中のヒト化抗体濃度をELISAにより測定した。
【0206】
具体的には、リコンビナントIGF-1R(R&D社製)を使用して、抗原ELISAにて測定を行った。定量化する際の検量線は、モルモットに投与した濃度既知の抗体を、モルモット血漿で段階希釈して標準物質とした。標準物質と血漿は10倍から1000倍希釈して測定を実施した。
【0207】
リコンビナントIGF-1Rの0.5μg/mLのPBS溶液を96ウェルプレート(MaxiSorp(NUNC))に添加して終夜、4℃で固定した。さらに3%BSA/PBSにてブロッキングを行い、リコンビナントIGF-1R固定プレートを作製した。一方、抗体を投与しないモルモット血漿を使用して、投与した抗体を段階希釈して標準物質とした。血漿及び標準物質を10倍希釈して50μL/ウェルでリコンビナントIGF-1R固定プレートに添加した。室温で1時間30分反応を行い、その後、PBS-T(PBS、0.025%Tween20)にて洗浄操作を行った。その後、アルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Southern Biotechnology Associates社、Cat#2087-04)を3%BSA/PBSにて2000倍希釈した溶液を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。その後、PBS-Tで洗浄操作を行い、発色基質としてpNpp(WAKO社、Cat#149-02342)を100μL/ウェルで添加して室温で1時間インキュベーションした。その後、プレートリーダーにて405nm及び550nmの吸光度を測定し、吸光度405nm-550nmの差の値を求めた。標準物質とした抗体濃度で検量線を描き、血漿中の抗体濃度を算出した。
【0208】
結果を
図4に示す。血漿中のヒト化抗体濃度は投与用量に依存して上昇し、低用量群でも投与144時間目迄の血漿中ヒト化抗体濃度は、投与24時間後と比較して約50%以上を維持していた。ヒト化抗体の血中動態はマウス親抗体IGF11-16と比較して持続性に優れていることが示された。
【0209】
[実施例15]正常モルモットにおけるヒト化抗体の筋肉量増加作用:
正常モルモットにhIGF13_PSを静脈内へ単回投与して、2週間後の筋質量を測定し、IGF-1の持続投与及びマウス親抗体IGF11-16の静脈内投与した時の筋量増加作用と比較した。
【0210】
hIGF13_PS及びマウス親抗体IGF11-16を、正常モルモットの静脈内に0.1mg/kgで単回投与した。陽性対照としてヒトIGF-I(メカセルミン)を、浸透圧ポンプ(アルゼット)を使用して皮下に埋め込み、1mg/kg/dayとなるように持続投与した。コントロールとしては、溶媒のみを静脈内投与した。薬剤投与の2週間後、モルモットを麻酔下で放血致死させ、長趾伸筋を摘出し筋質量を測定した。
【0211】
その結果を
図5に示す。hIGF13_PSを0.1mg/kg静脈内投与した群は、溶媒のみを処置したコントロール群と比較して有意に筋肉量を増加させた。また、その薬効は、ヒトIGF-Iを1mg/kg/dayで持続投与した群やマウス親抗体IGF11-16を静脈内投与した薬効強度と同程度であった。
【0212】
以上の結果から、hIGF13_PSは、単回投与によりヒトIGF-1の2週間持続投与と同等の薬効を期待し得ることが示された。
【0213】
[実施例16]ヒト化抗体の下垂体摘出モルモットにおける成長板軟骨伸長作用:
hIGF13_PSの成長板軟骨増殖作用評価としてモルモット下垂体摘出(HPX)モデルを用いて脛骨近位部の骨端線厚(Epiphyseal line thicknes)を評価した。モルモット下垂体摘出(HPX)モデルは、下垂体摘出によって成長ホルモンの産生が抑制されるため、低IGF-1状態となる。
【0214】
hIGF13_PSを0.3mg/kg及び1.0mg/kgで下垂体摘出モルモットへ単回皮下投与し、2週間後の右下肢を採材した。脛骨近位部の成長板軟骨の組織標本を作製し、トルイジンブルーにより成長板軟骨の厚さ(骨端線厚)を測定した。陽性対照としてIGF-1(メカセルミン)製剤を1mg/kg/dayで浸透圧ポンプにより皮下持続投与すると共に、GH(ソマトロピン)製剤を1mg/kg/dayで1日1回皮下投与を行った。
【0215】
その結果を
図6に示す。IGF-1製剤投与群及びGH製剤投与群では骨端線厚の増加が認められ、これらはHPXにより低下した血中IGF-1の補充、又はHPXにより失われたGHの補充によるものと考えられた。hIGF13_PS抗体群では、下垂体摘出(HPX)個体の血中IGF-1濃度を上昇させること無く、用量依存的に骨端線厚を厚くすることが示された。
【0216】
以上のことより、hIGF13_PS抗体は、下垂体摘出(HPX)処理によるIGF-1濃度低下に伴う骨端線の閉塞を、IGF-1Rを介したシグナルの活性化により回復させる作用があることが示された。
【0217】
[実施例17]ヒト化抗体のカニクイザルにおける血糖低下作用:
抗IGF-1受容体アゴニスト抗体のカニクイザルにおける血糖低下作用の有無を確認するために、カニクイザルにhIGF13_PSを単回投与して、継時的に血糖値を測定して、IGF-1(1mg/kg)の単回投与時の血糖低下作用と比較した。血糖低下作用とは、溶媒投与群と比較して50%未満に低下させる、又は低血糖症状を起こす作用とする。
【0218】
カニクイザルに、ヒト化抗体を、10mg/kgで単回静脈内又は皮下投与した。投与前(0時間)、投与後5分、30分、1、2、4、8、及び24時間後に採血して、メディセーフフィット(テルモ株式会社)を使用して血糖値を測定した。
【0219】
結果を
図7に示す。各ヒト化抗体は、溶媒のみを投与した溶媒対照群と比較して、血糖値に差を認めず、投与後の血糖値は何れも溶媒対照群と同等レベルであった。一方、IGF-1投与群は2時間後低血糖となり、低血糖症状を示したため、グルコースを投与して回復させた。
【0220】
[実施例18]ヒト化抗体のカニクイザルにおける血中動態:
ヒト化抗体hIGF13_PSを、1及び10mg/kgでカニクイザルへ単回静脈内又は皮下投与した。投与前(0時間)、投与2、4、8、24、48、72、及び144時間後に採血して、血漿中のヒト化抗体濃度をELISAにより測定した。
【0221】
具体的には、リコンビナントIGF-1R(R&D社製、Cat#305-GR-050)を使用して抗原ELISAにて測定を行った。定量化する際の検量線は、サルに投与した濃度既知の抗体をサル血漿で段階希釈して標準物質とした。標準物質と血漿は10倍から1000倍希釈して測定を実施した。
【0222】
リコンビナントIGF-1Rの0.5μg/mLのPBS溶液を96ウェルプレート(MaxiSorp(NUNC))に添加して終夜、4℃で固定した。さらに3%BSA/PBSにてブロッキングを行い、リコンビナントIGF-1R固定プレートを作製した。一方、抗体を投与しないサル血漿を使用して、投与した抗体を段階希釈して標準物質とした。血漿及び標準物質を10倍希釈して50μL/ウェルでリコンビナントIGF-1R固定プレートに添加した。室温で1時間30分反応を行い、その後、PBS-T(PBS、0.025%Tween20)にて洗浄操作を行った。その後、アルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(H+L)ポリクローナル抗体(Southern Biotechnology Associates社、Cat#2087-04)を3%BSA/PBSにて2000倍希釈した溶液を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。その後、PBS-Tで洗浄操作を行い、発色基質としてpNpp(WAKO社、Cat#149-02342)を100μL/ウェルで添加して室温で1時間インキュベーションした。その後、プレートリーダーにて405nm及び550nmの吸光度を測定し、吸光度405nm-550nmの差の値を算出した。標準物質とした抗体濃度で検量線を描き、血漿中の抗体濃度を算出した。
【0223】
結果を
図8に示す。本結果から、hIGF13_PSのカニクイザルにおける血中動態が良好であることが確認された。
【0224】
[実施例19]ヒト化抗体のカニクイザルにおける筋肉量増加作用:
カニクイザル2個体に対して、hIGF13_PSを1mg/kgで静脈内投与を実施した。投与前と投与後3~4週間後においてDXA(Dual Energy X-ray Absorptiometry)法によって筋肉量を測定した。
【0225】
具体的には、測定対象のサルに対して、塩酸ケタミン(Arevipharma GmbH、50mg/mL、0.2mL/kg)及び塩酸メデトミジン水溶液(ドミトール、Orion Corporation、1mg/mL、0.08mL/kg)の筋肉内投与(臀部)による全身麻酔を行い、二重エネルギーX線吸収測定装置(Discovery-A、HOLOGIC社)を用いて、脂肪量(Fat Mass、g)、非脂肪量(Lean Body Mass、g)、骨量(Bone Mineral Content(BMC)、g)の計測を行い、非脂肪量を筋肉量として解析した。左右腕部(上肢)のBMC(骨塩量)及びLean+BMC(g)を測定し、筋肉量(g)を算出し、投与前の筋肉量と比較した。
【0226】
その結果、2匹共に、投与前と比較して筋量増加を示し、上肢の筋肉増加率は、投与前と比較してそれぞれ7.4%、10.9%であった。この結果からhIGF13_PSの筋肉増加作用が確認された。
【0227】
さらに、カニクイザル2個体に対して、hIGF13_PSを10mg/kgで皮下投与を実施した。投与前と投与後3~4週間後においてDXA(Dual Energy X-ray Absorptiometry)法によって筋肉量を測定した。
【0228】
具体的には、測定対象のサルに対して、塩酸ケタミン(Arevipharma GmbH、50mg/mL、0.2mL/kg)及び塩酸メデトミジン水溶液(ドミトール、Orion Corporation、1mg/mL、0.08mL/kg)の筋肉内投与(臀部)による全身麻酔を行い、二重エネルギーX線吸収測定装置(Discovery-A、HOLOGIC社)を用いて、脂肪量(Fat Mass、g)、非脂肪量(Lean Body Mass、g)、骨量(Bone Mineral Content(BMC)、g)の計測を行い、非脂肪量を筋肉量として解析した。左右下肢のBMC(骨塩量)及びLean+BMC(g)を測定し、筋肉量(g)を算出し、投与前の筋肉量と比較した。
【0229】
その結果、2匹共に、投与前と比較して筋量増加を示し、下肢の筋肉増加率は、投与前と比較してそれぞれ3.3%、12.7%であった。この結果からhIGF13_PSの筋肉増加作用が確認された
【0230】
[実施例20]HepG2細胞増殖に対するIGF11-16の作用
マウス親抗体IGF11-16がHepG2細胞増殖に対して及ぼす濃度依存的な作用を細胞生存アッセイにより評価した。
【0231】
HepG2細胞株をDMEM(Gibco,11995)にFBSを1%添加した培地で懸濁し、コラーゲン-Iコート96ウェルプレート(Corning,356650)に0.25×10
4cells/ウェルで播種した。翌日にBSA/PBS,IGF-1(メカセルミン)、コントロールマウスIgG1抗体(mIgG1)、IGF11-16抗体、及びシクツムマブ(Cixutumumab;IGF-1受容体アンタゴニスト抗体)を、50nMから1/10公比で希釈して添加した。2日後、細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter-Glo
(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega,G7571)を使用して、マルチ検出モードマイクロプレートリーダー(SPARK、TECAN)にて発光シグナルを測定した。コントロールマウスIgG1抗体(mIgG1)の各濃度ポイントの値を100%として、% of Controlを算出し、グラフとして表示した(
図9)。
【0232】
その結果、マウス親抗体IGF11-16がHepG2細胞増殖に対して抑制作用を示すことが観察された。この結果から、IGF11-16が少なくともある種のがん細胞に対してはアンタゴニストの作用を示しうると考えられた。
【0233】
[実施例21]IGF-1によるヒト乳がん細胞株(MCF7)の増殖活性に対するIGF11-16の作用
IGF-1によるヒト乳がん細胞株(MCF7)増殖活性に対するIGF11-16の作用を評価するため、50nM IGF11-16を共存させた条件下でhIGF-1(メカセルミン)の濃度依存的な増殖活性を、添加2日後の細胞内のATP量によって測定した。
【0234】
ヒト乳がん細胞株(MCF7)を、10%FBS含有DMEM/F12培地で培養した。翌日、10%FBS含有DMEM/F12培地を使用して、96ウェルプレート(Collagen-type I coated)に、0.1mL/ウェル(2.5×103cells/ウェル)で播種し、37℃、5%CO2の条件でインキュベートした。細胞播種の翌日に、1%BSA含有DMEM/F12培地に培地交換して、37℃、5%CO2の条件で約8時間インキュベートした。その後、0.1%BSA/PBSまたはIGF11-16抗体を50nM添加後、50nMから1/10公比で希釈したIGF-1を添加し、37℃、5%CO2の条件で2日間インキュベートした。細胞増殖の指標として細胞内のATP量を、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega,G7571)を使用して、マルチ検出モードマイクロプレートリーダー(SPARK、TECAN)にて発光シグナルを測定した。 それぞれの濃度のIGF-1添加群の0.1%BSA/PBS添加群の平均値を100%として、50nM IGF11-16添加における変化を% of Controlを算出することで表した。結果を表17に示した。
【0235】
【0236】
その結果、マウス親抗体IGF11-16がIGF-1によるヒト乳がん細胞株(MCF7)の最大活性を低減させる抑制作用を有することが示された。この結果からIGF11-16がアロステリックアンタゴニストの作用を有すると考えられた。
本発明は、脊椎動物のIGF-1受容体に特異的に結合し、IGF-1受容体を介して筋肉量を増加させつつ、血糖値を低下させない抗IGF-1受容体ヒト化抗体を提供することができるため、IGF-1受容体に関連する疾患の治療、予防、又は診断に利用可能である。また、本発明は、IGF-1受容体の過剰なシグナルを抑制することにより、細胞の異常増殖あるいは活性化が関係する疾患の治療、予防、又は診断にも利用可能であり、その産業上の価値は極めて高い。