(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005442
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 401/04 20060101AFI20240110BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C07D401/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105623
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】梶原 凌太
(72)【発明者】
【氏名】清野 淳弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄介
【テーマコード(参考)】
4C063
4H039
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC29
4C063DD12
4C063EE10
4H039CA41
4H039CA52
4H039CB20
4H039CD30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物から塩素化された含フッ素ピリミジン化合物を高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物と、塩素化剤とを下記一般式で表される触媒の存在下で反応させることを特徴とする、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法。
(式中、R
1は炭素数1~12の炭化水素基を表し、R
2~R
6は独立して、水素原子、炭素数1~12の炭化水素基、OR
7又はNR
7R
8を表し、R
1~R
6のうち隣接する任意の2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物と、塩素化剤とを下記一般式(1)で表される触媒の存在下で反応させることを特徴とする、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法。
【化1】
(上記一般式(1)において、
R
1は炭素数1~12の炭化水素基を表し、
R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12の炭化水素基、OR
7又はNR
7R
8を表し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6のうち隣接する任意の2つの基が互いに結合して環を形成していてもよく、
R
7及びR
8はそれぞれ独立して炭素数1~12の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記R1は炭素数1~10のアルキル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素ピリミジノン化合物が下記一般式(2)、(3)又は(4)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【化2】
(上記一般式(2)~(4)において、
W及びXはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-C
nF
2n+1(nは1~10の整数である)、ニトロ基、-OA
1、-SO
mA
1(mは1~3の整数である)、-SA
1、-NA
1A
2、-B(OA
1)(OA
2)、-COA
1、-COOA
1、又は-CONA
1A
2を表し、
A
1及びA
2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
前記塩素化された含フッ素ピリミジン化合物が下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【化3】
(上記一般式(5)~(7)において、
W及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-C
nF
2n+1(nは1~10の整数である)、ニトロ基、-OA
1、-SO
mA
1(mは1~3の整数である)、-SA
1、-NA
1A
2、-B(OA
1)(OA
2)、-COA
1、-COOA
1、又は-CONA
1A
2を表し、
A
1及びA
2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【請求項5】
前記塩素化剤が、塩化ホスホリル、塩化チオニル及び塩化オキサリルからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複素環式化合物及び芳香族化合物が有する芳香族性水酸基の塩素化には、塩化ホスホリル、塩化チオニル、塩化オキサリルといった塩素化剤が使用されている。しかしながら、芳香族性水酸基の塩素化反応は、触媒の不存在下では反応が円滑に進行しない場合がある。
【0003】
塩素化反応を促進する触媒として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド誘導体、テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリノン等の尿素誘導体が知られている。しかしながら、ジメチルホルムアミドは塩素化反応の触媒として優れた活性を有しているものの、反応条件によっては変異原性物質であるジメチルカルバモイルクロリドを生じることが非特許文献1に報告されており、安全性への懸念がある。一方、ジメチルホルムアミドに代わる触媒として他のアミド誘導体や尿素誘導体が使用可能であるものの、これらの化合物に共通の課題として、高極性であるため、後処理に水を使用した場合、エマルジョン化して水相との分離が困難になり、目的物を水相に損失する懸念がある。さらに、これらの化合物は一般的に高沸点であるため、蒸留による除去も困難である。
【0004】
このようなアミド誘導体及び尿素誘導体を触媒として使用した場合に起因する問題を回避するため、別系統の触媒として、アンモニウムイオンと塩化物イオンからなるイオン対化合物の使用が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1にはトリメチルアミン塩酸塩を使用した反応例、非特許文献2にはトリエチルアミン塩酸塩を使用した反応例、非特許文献3にはジエチルアニリン塩酸塩を使用した反応例がそれぞれ報告されている。また、特許文献2には第四級アンモニウムクロリドとしてベンジルトリエチルアンモニウムクロリドを使用した反応例、非特許文献4にはテトラメチルアンモニウムクロリドを使用した反応例、非特許文献5にはテトラブチルアンモニウムクロリドを使用した反応例がそれぞれ報告されている。しかしながら、これらのアンモニウム塩系イオン対化合物を触媒として使用しても触媒活性が不十分な場合がある。
【0006】
アンモニウム塩系イオン対化合物の触媒活性を高めるため、さらに第三級アミンを添加することが知られている。非特許文献6にはテトラメチルアンモニウムクロリド-ジメチルアニリン系を使用した反応例、非特許文献7にはベンジルトリエチルアンモニウムクロリド-ジイソプロピルエチルアミン系を使用した反応例、特許文献3にはテトラブチルアンモニウムクロリド-ジエチルアニリンを使用した反応例がそれぞれ報告されている。しかしながら、追加の触媒の使用は製造コストの増大を招き得る。そのため、第三級アミン等を添加せずとも高い活性を発揮する触媒の使用が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/019099号
【特許文献2】国際公開第2015/028622号
【特許文献3】国際公開第02/062123号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Organic Process & Development,1997年、1巻、182頁
【非特許文献2】Journal of Medicinal Chemistry,2002年、45巻、3865-3877頁
【非特許文献3】Chemistry Letters,2009年、38巻、174-175頁
【非特許文献4】Invest New Drugs,2012年、30巻、2035-2045頁
【非特許文献5】Chemical Communications,2015年、51巻、14123-14126頁、Supporting Information,1-33頁
【非特許文献6】Tetrahedron Letters,2017年、58巻、4166-4168頁
【非特許文献7】ChemMedChem,2008年、3巻、1893-1904頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こうした背景から、本発明者らは、アンモニウム塩系イオン対化合物を単独で触媒として使用しても十分な触媒活性を発揮できない反応系において、第三級アミン等を添加せずとも高い活性を発揮する触媒について種々検討した。その結果、イオン対化合物のカチオンを、アンモニウムからピリジニウムへと変更することで、イオン対化合物が、複素環式化合物及び芳香族化合物が有する芳香族性水酸基の塩素化反応において高い触媒活性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物から塩素化された含フッ素ピリミジン化合物を高収率で製造する方法を提供する。
【0011】
本実施形態に係る塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法では、少なくとも1つの芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物と、塩素化剤とを下記一般式(1)で表される触媒の存在下で反応させる。
【化1】
(上記一般式(1)において、
R
1は炭素数1~12の炭化水素基を表し、
R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12の炭化水素基、OR
7又はNR
7R
8を表し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6のうち隣接する任意の2つの基が互いに結合して環を形成していてもよく、
R
7及びR
8はそれぞれ独立して炭素数1~12の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物から塩素化された含フッ素ピリミジン化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法>
本実施形態において、少なくとも1つの芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物を、特定の触媒の存在下で塩素化剤と反応させる。これにより芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物の塩素化反応が起こり、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物を高収率で製造することができる。
【0014】
(触媒)
本実施形態では、下記一般式(1)で表される化合物が触媒として使用される。一般式(1)で示されるようなピリジニウムイオンと塩化物イオンとのイオン対化合物は、芳香族性水酸基の塩素化反応において高い触媒活性を示すため、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物を高い収率で得ることができる。また、第三級アミン等の付加的な触媒をさらに添加することなく、一般式(1)で示される化合物を単独で使用しても、芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物の塩素化反応が十分に促進する。その結果、芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物から、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物を高収率で製造することができ、追加の触媒の使用及び反応後に残存する触媒の回収に起因する製造コストを抑制することができる。
【0015】
【0016】
上記一般式(1)において、
R1は炭素数1~12の炭化水素基を表し、
R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12の炭化水素基、OR7又はNR7R8を表し、
R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち隣接する任意の2つの基が互いに結合して環を形成していてもよく、
R7及びR8はそれぞれ独立して炭素数1~12の炭化水素基を表す。
【0017】
上述のR1~R8において、炭素数1~12の炭化水素基は、炭素数1~12の、炭素原子および水素原子からなる炭化水素基であれば特に限定されず、鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基等を挙げることができる。鎖状炭化水素基は合計の炭素数が1~12であれば特に限定されず、直鎖状炭化水素基であっても、分岐した鎖状炭化水素基であってもよい。炭素数1~12の炭化水素基が芳香族炭化水素基である場合、芳香族炭化水素基は合計の炭素数が6~12であれば特に限定されず、置換基を有する芳香族炭化水素基であっても、置換基を有さない芳香族炭化水素基であってもよい。また、芳香族炭化水素基は、縮合多環構造を有していてもよい。炭素数1~12の炭化水素基が脂環式炭化水素基である場合、脂環式炭化水素基は合計の炭素数が3~12であれば特に限定されず、置換基を有する脂環式炭化水素基であっても、置換基を有さない脂環式炭化水素基であってもよい。また、脂環式炭化水素基は、橋かけ環構造を有していてもよい。
【0018】
鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、ter-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基;
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等のアルケニル基;
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等のアルキニル基等を挙げることができる。
【0019】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基を挙げることができる。
【0020】
脂環式炭化水素基としては、飽和又は不飽和の環状の炭化水素基が挙げられ、環状の炭化水素基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等を挙げることができる。
【0021】
芳香族炭化水素基又は脂環式炭化水素基が置換基を有する場合、置換基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、ter-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
R1は、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましい。R1がアルキル基であることにより、一般式(1)で表される化合物を容易に調製することができる。R1が炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5のアルキル基である場合、例えば、上述で挙げられた炭素数1~12の炭化水素基の中で炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5のアルキル基とすることができる。
【0023】
R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも2つは水素原子であることが好ましく、少なくとも3つは水素原子であることがより好ましく、少なくとも4つは水素原子であることがさらに好ましく、いずれも水素原子であることが特に好ましい。また、R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つが炭素数1~12の炭化水素基、OR7又はNR7R8で置換されている場合、炭素数1~12の炭化水素基又はNR7R8であることが好ましく、少なくともR3又はR4が炭素数1~12の炭化水素基又はNR7R8であることがより好ましい。
【0024】
R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つが炭素数1~12の炭化水素基である場合、例えば、上述で挙げられた炭素数1~12の炭化水素基の中で炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましい。また、R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも2つが炭素数1~12の炭化水素基である場合、R2、R3、R4、R5及びR6は互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0025】
R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つがNR7R8である場合、R7及びR8は互いに同じであっても、異なっていてもよい。R7及びR8は、例えば、上述で挙げられた炭素数1~12の炭化水素基の中で炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましい。また、R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも2つがNR7R8である場合、R2、R3、R4、R5及びR6は互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0026】
R1、R2、R3、R4、R5及びR6のうち隣接する任意の2つの基が互いに結合して環を形成する場合、炭素原子と水素原子からなる4~7員環を形成していてもよく、さらに窒素原子を含む4~7員の複素環を形成してもよい。
【0027】
(含フッ素ピリミジノン化合物)
本実施形態の製造方法における出発物質である含フッ素ピリミジノン化合物は、少なくとも1つの芳香族性水酸基を有する。このような含フッ素ピリミジノン化合物は、例えば、下記一般式(2)、(3)又は(4)で表される化合物であり、ピリミジノン骨格の酸素原子及び水酸基、さらにはピリジル骨格に任意に存在する水酸基が塩素化される。
【0028】
【0029】
上記一般式(2)~(4)において、
W及びXはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-CnF2n+1(nは1~10の整数である)、ニトロ基、-OA1、-SOmA1(mは1~3の整数である)、-SA1、-NA1A2、-B(OA1)(OA2)、-COA1、-COOA1、又は-CONA1A2を表し、
A1及びA2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【0030】
W及びXにおいて、ハロゲン原子は、F、Cl、Br又はIであり、F又はClであることが好ましい。
【0031】
W及びXにおいて、炭素数1~10の炭化水素基は、炭素原子および水素原子からなる炭化水素基であれば特に限定されず、例えば、上記R1~R8で挙げられた炭化水素基の中で炭素数が1~10の炭化水素基とすることができる。
【0032】
W及びXにおいて、-CnF2n+1は、炭素原子およびフッ素原子からなるパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。また、nは1~10の整数であり、1~3の整数であることが好ましい。
【0033】
W及びXにおいて、-OA1、-SOmA1、-SA1、COA1、-COOA1に含まれるA1は、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。A1が炭素数1~10の炭化水素基を表す場合、例えば、上記R1~R8で挙げられた炭化水素基の中で炭素数が1~10の炭化水素基とすることができる。また、mは1~3の整数であり、1であることが好ましい。
【0034】
W及びXにおいて、-NA1A2に含まれるA1及びA2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。A1及びA2は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。A1及びA2が炭素数1~10の炭化水素基を表す場合、例えば、上記R1~R8で挙げられた炭化水素基の中で炭素数が1~10の炭化水素基とすることができる。
【0035】
W及びXにおいて、-B(OA1)(OA2)に含まれるA1及びA2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。A1及びA2は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。A1及びA2が炭素数1~10の炭化水素基を表す場合、例えば、上記R1~R8で挙げられた炭化水素基の中で炭素数が1~10の炭化水素基とすることができる。
【0036】
W及びXにおいて、-CONA1A2に含まれるA1及びA2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。A1及びA2は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。A1及びA2が炭素数1~10の炭化水素基を表す場合、例えば、上記R1~R8で挙げられた炭化水素基の中で炭素数が1~10の炭化水素基とすることができる。
【0037】
(塩素化された含フッ素ピリミジン化合物)
上記一般式(2)、(3)又は(4)で表される含フッ素ピリミジノン化合物を、塩素化剤と反応させることより、下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される塩素化された含フッ素ピリミジン化合物がそれぞれ生成される。
【0038】
【0039】
上記一般式(5)~(7)において、
W及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-CnF2n+1(nは1~10の整数である)、ニトロ基、-OA1、-SOmA1(mは1~3の整数である)、-SA1、-NA1A2、-B(OA1)(OA2)、-COA1、-COOA1、又は-CONA1A2を表し、
A1及びA2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。
【0040】
上記一般式(5)~(7)において、W及びXのそれぞれは、上述した一般式(2)~(4)で表される含フッ素ピリミジノン化合物において定義したものとそれぞれ同じである。そのため、上記一般式(5)~(7)においてW及びXの定義に規定されているハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-CnF2n+1、ニトロ基、-OA1、-SOmA1、-SA1、-NA1A2、-B(OA1)(OA2)、-COA1、-COOA1及び-CONA1A2は、上述した一般式(2)~(4)で表される含フッ素ピリミジノン化合物において定義したものとそれぞれ同じである。
【0041】
上記の一般式(2)~(7)において、炭素数1~10の炭化水素基は、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。このような炭化水素基は、例えば、上述した一般式(1)で表される化合物において上記R1~R8で挙げられた炭化水素基の中で炭素数が1~10のアルキル基とすることができる。また、上記一般式(2)~(7)において、W及びXは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10の炭化水素基であることが好ましく、いずれも水素原子であることが特に好ましい。
【0042】
(塩素化剤)
塩素化は、塩化ホスホリル、塩化チオニル及び塩化オキサリルからなる群から選択されることが好ましく、塩化ホスホリルであることがより好ましい。塩素化剤と芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物との塩素化反応において、標準的には、反応温度は50~150℃であり、反応時間は0.5~30時間である。また、塩素化反応に供される塩素化剤の量は、含フッ素ピリミジノン化合物1当量に対して通常1~8当量である。塩素化剤との反応において溶媒は必ずしも必要ではないが、一般的には溶媒の存在下に行われる。使用し得る溶媒としては、アセトニトリル、プロパンニトリル、ベンゾニトリル等の有機溶媒が挙げられる。溶媒を使用する場合、使用する有機溶媒の沸点以上で加熱還流しながら塩素化反応を行ってもよい。
【0043】
以上の実施形態に基づき、本発明は以下の[1]~[5]に関するものである。
[1]
少なくとも1つの芳香族性水酸基を有する含フッ素ピリミジノン化合物と、塩素化剤とを下記一般式(1)で表される触媒の存在下で反応させることを特徴とする、塩素化された含フッ素ピリミジン化合物の製造方法。
【化5】
(上記一般式(1)において、
R
1は炭素数1~12の炭化水素基を表し、
R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12の炭化水素基、OR
7又はNR
7R
8を表し、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6のうち隣接する任意の2つの基が互いに結合して環を形成していてもよく、
R
7及びR
8はそれぞれ独立して炭素数1~12の炭化水素基を表す。)
[2]
前記R
1は炭素数1~10のアルキル基である、上記[1]に記載の製造方法。
[3]
前記含フッ素ピリミジノン化合物が下記一般式(2)、(3)又は(4)で表される化合物である、上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
【化6】
(上記一般式(2)~(4)において、
W及びXはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-C
nF
2n+1(nは1~10の整数である)、ニトロ基、-OA
1、-SO
mA
1(mは1~3の整数である)、-SA
1、-NA
1A
2、-B(OA
1)(OA
2)、-COA
1、-COOA
1、又は-CONA
1A
2を表し、
A
1及びA
2はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
[4]
前記塩素化された含フッ素ピリミジン化合物が下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される化合物である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【化7】
(上記一般式(5)~(7)において、
W及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、-C
nF
2n+1(nは1~10の整数である)、ニトロ基、-OA
1、-SO
mA
1(mは1~3の整数である)、-SA
1、-NA
1A
2、-B(OA
1)(OA
2)、-COA
1、-COOA
1、又は-CONA
1A
2を表し、
A
1及びA
2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
[5]
前記塩素化剤が、塩化ホスホリル、塩化チオニル及び塩化オキサリルからなる群から選択される、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0045】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。また、特に言及がない限り、室温とは20℃±5℃の範囲内であるとする。尚、定量的とは、生成物(塩素化された含フッ素ピリミジン化合物)の収率が95%以上であることを意味する。
【0046】
(実施例1)
<1-ブチルピリジニウムクロリドの触媒存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlと1-ブチルピリジニウムクロリド0.17g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下してさらに重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮することで、下記の構造を有する4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンを定量的に得た。
【0047】
【0048】
(比較例1)
<触媒不存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlを加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮したが、得られた4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの収率は55%であった。
【0049】
(比較例2)
<テトラブチルアンモニウムクロリドの触媒存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlとテトラブチルアンモニウムクロリド0.27g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮すると、4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの収率は76%であった。
【0050】
(実施例2)
<1-エチルピリジニウムクロリドの触媒存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlと1-エチルピリジニウムクロリド0.14g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮することで、4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンを定量的に得た。
【0051】
(実施例3)
<1-プロピルピリジニウムクロリドの触媒存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlと1-プロピルピリジニウムクロリド0.15g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮することで、4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンを定量的に得た。
【0052】
(実施例4)
<1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロリドを触媒とした4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlと1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロリド0.18g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮することで、4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンを定量的に得た。
【0053】
(実施例5)
<1-ブチル-4-メチルピリジニウムクロリドの触媒存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlと1-ブチル-4-メチルピリジニウムクロリド0.18g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮することで、4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンを定量的に得た。
【0054】
(実施例6)
<4-ジメチルアミノ-1-ネオペンチルピリジニウムクロリドの触媒存在下での4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンの製造>
6-ヒドロキシ-2-(2-ピリジル)-5-(トリフルオロメチル)-4(3H)-ピリミジノン0.5g(1.95mmol)をアセトニトリル8.0mlに溶解し、塩化ホスホリル1.8mlと4-ジメチルアミノ-1-ネオペンチルピリジニウムクロリド0.22g(0.98mmol)を加え、加熱還流条件下で6時間攪拌した。反応液を室温まで空冷後、水に滴下して重曹水で中和し、次いで酢酸エチルで抽出した。抽出した有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過した。その後、ろ液を濃縮することで、4,6-ジクロロ-2-(2-ピリジル)-5-トリフルオロメチルピリミジンを定量的に得た。