(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054432
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】アレーアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/08 20060101AFI20240410BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20240410BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20240410BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H01Q21/08
H01Q13/10
H01Q1/24 Z
H01Q1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021014348
(22)【出願日】2021-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健一
(72)【発明者】
【氏名】白根 篤史
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
5J046
5J047
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA07
5J021AB05
5J021DB03
5J021FA06
5J021FA17
5J021FA26
5J021GA02
5J021HA05
5J021HA10
5J021JA02
5J021JA08
5J045AA02
5J045AA05
5J045DA03
5J045EA08
5J045FA02
5J045FA04
5J045GA02
5J045LA01
5J045MA07
5J045NA01
5J046AA03
5J046AA07
5J046AB02
5J046AB03
5J046AB08
5J046PA07
5J046PA09
5J047AA03
5J047AB08
5J047FD01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】隣接するアンテナ素子同士を高密度に配置し100GHz以上の周波数帯の無線通信に対応可能なアレーアンテナを提供する。
【解決手段】アレーアンテナ1は、信号を送受信する送受信部4と、送受信部4に隣接して配置された1つ以上のアンテナ素子5とが形成されたアンテナ層3が2層以上に積層され、アンテナ層3の積層方向Yにおいて複数のアンテナ素子5が配列された電波放射面が形成されているアンテナ部2を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を送受信する送受信部と、前記送受信部に隣接して配置された1つ以上のアンテナ素子とが形成されたアンテナ層が2層以上に積層され、前記アンテナ層の積層方向において複数の前記アンテナ素子が配列された電波放射面が形成されているアンテナ部を備える、
アレーアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ素子は、前記アンテナ層の表面上に金属薄膜によりパターン化されて形成されている、
請求項1に記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
前記送受信部は、少なくとも前記アンテナ素子において送受信される信号の位相を調整する位相調整部を備える、
請求項1または2に記載のアレーアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナ素子は、前記アンテナ層の一面側に形成された第1アンテナ部材と他面側に形成された第2アンテナ部材とを有するビバルディアンテナである、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
前記アンテナ層は、プリント基板により形成されている、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載のアレーアンテナ。
【請求項6】
前記アンテナ部は、前記積層方向に隣接する一対の前記アンテナ層の間に設けられた絶縁層を備え、前記絶縁層の厚みにより前記積層方向に隣接する一対の前記アンテナ素子の間隔が調整されている、
請求項1から5のうちいずれか1項に記載のアレーアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナ部は、2個以上の前記アンテナ素子が形成された前記アンテナ層を有し、
前記積層方向に沿って見て前記アンテナ層において隣接する一対の前記アンテナ素子の間に、隣接する前記アンテナ層に形成された前記アンテナ素子が配置されている、
請求項1から6のうちいずれか1項に記載のアレーアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、100Ghz以上の無線通信を可能とするアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長が1~10mm、周波数が30~300GHzのミリ波帯の電波を利用した第5世代移動通信システム(5G)の通信サービスが提供されている。5Gにおいては、高速且つ大容量の通信を利用した大規模な商用サービスを提供することができる。5Gにおけるミリ波帯無線通信に比して更に高速、大容量化した第6世代移動通信システム(6G)以降の無線通信に関する研究も既に活発に行われている。
【0003】
6Gの無線通信においては、5Gの無線通信に比して高速、大容量化を実現するために、5Gで用いる周波数よりも高い周波数帯の電波の利用が期待されている。しかしながら、ミリ波帯や100GHz以上の周波数帯を用いた通信は、通信距離の確保が困難となる場合がある。これは、単一のアンテナによる通信可能な距離は、通信に用いる周波数に反比例して短くなることに起因し、通信可能な距離の低下は、搬送波周波数が高くなるほどより顕著となるからである。
【0004】
そのため、5Gの無線通信においては、数百メートル以上の通信距離を確保するために、アンテナ素子と、アンテナ素子に信号を送受信させる送受信機とをマトリクス状に配列し、アクティブに送受信を制御するアクティブ型のフェーズドアレーアンテナが用いられている。アクティブ型のフェーズドアレーアンテナによれば、アンテナ素子数の増加に伴って通信距離を伸ばすことが可能である。
【0005】
高い周波数帯であるミリ波帯や100GHz以上の周波数帯を用いた通信において、フェーズドアレイアンテナを適用する場合、送受信される電波の周波数の波長に応じて高密度にアンテナ素子と送受信機を配置する必要があり、従来200GHz以上の周波数帯では半波長ピッチでのフェーズドアレイアンテナの実現が困難であった。従来フェーズドアレーアンテナの代替として、高利得な指向性アンテナが用いられる場合もあるが、指向性アンテナは特定方向としか通信ができず、用途が限定されたものであった。従って、ミリ波帯・100GHz以上の周波数帯無線通信の実用化のために、フェーズドアレイアンテナの実現が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フェーズドアレイアンテナは、電波放射面において送受信される電波の半波長間隔でマトリクス状に配置された複数のアンテナ素子を備えている。アクティブ型のフェーズドアレイアンテナは、個々のアンテナ素子にそれぞれ隣接して接続された送受信機を有し、通信距離を伸ばすことができる。5Gで用いられる28GHz帯の電波を放射する場合、電波放射面において隣接するアンテナ素子5の間隔は、5.4mm程度である(
図16参照)。このようなフェーズドアレイアンテナは、プリント基板上に複数のアンテナ素子をマトリクス状に配置し、2×2のマトリクス状に配置された4個のアンテナ素子の中央部に送受信機のICチップを配置することで構成することができる。
【0008】
アクティブ型のフェーズドアレイアンテナを用いて300GHz帯の周波数の電波を放射する場合、電波放射面において隣接するアンテナ素子5の間隔は、0.5mm程度であり非常に高密度な配置が必要である(
図16参照)。しかしながら、送受信機のICチップは、幅が1mm程度以上必要であり、2×2のマトリクス状に配置された4個のアンテナ素子の中央部に配置する場合、隣接するアンテナ素子同士の間隔を0.5mm程度に配置することが困難となる。
【0009】
送受信機用のICチップを小型化する場合、CMOSチップにアンテナを内蔵して形成するものが存在している。しかしながら、このような一体型のCMOSチップにおいては、シリコン基板による損失が大きく、且つ、配線層が薄すぎるため、十分なアンテナ利得を確保できないという課題がある。従って、従来手法のようにプリント基板上に複数のアンテナ素子をマトリクス状に配置し、隣接するアンテナ素子の間隔を狭めて配置する場合に限界があり、100GHz以上の周波数帯でのアクティブ型のフェーズドアレイアンテナの実現が困難であるという課題があった。
【0010】
本発明は、隣接するアンテナ素子同士を高密度に配置し100GHz以上の周波数帯の無線通信に対応可能なアレーアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、信号を送受信する送受信部と、前記送受信部に隣接して配置された1つ以上のアンテナ素子とが形成されたアンテナ層が2層以上に積層され、前記アンテナ層の積層方向において複数の前記アンテナ素子が配列された電波放射面が形成されているアンテナ部を備える。
【0012】
本発明によれば、送受信部とアンテナ素子が形成されたアンテナ層を積層することにより、隣接するアンテナ層におけるアンテナ素子同士の間隔を100GHz以上の周波数帯の信号の波長に対応して狭めることができる。
【0013】
また、本発明の一態様は、前記アンテナ素子が前記アンテナ層の表面上に金属薄膜によりパターン化されて形成されていてもよい。
【0014】
本発明によれば、アンテナ素子をアンテナ層の表面上に薄膜状に形成することができ、アンテナ層の積層間隔を100GHz以上の周波数帯の信号の波長に対応して狭めることができる。
【0015】
また、本発明の一態様は、前記送受信部が少なくとも前記アンテナ素子において送受信される信号の位相を調整する位相調整部を備えていてもよい。
【0016】
本発明によれば、アレーアンテナとして機能する送受信部の構成を提供することができる。
【0017】
また、本発明の一態様は、前記アンテナ素子が前記アンテナ層の一面側に形成された第1アンテナ部材と他面側に形成された第2アンテナ部材とを有するビバルディアンテナであってもよい。
【0018】
本発明によれば、アンテナ素子をビバルディ型とすることで、アンテナ層の積層方向におけるアンテナ素子の厚さを薄く形成することができ、隣接するアンテナ層同士の間隔を100GHz以上の周波数帯の信号の波長に対応して狭めることができる。
【0019】
また、本発明の一態様は、前記アンテナ層がプリント基板により形成されていてもよい。
【0020】
本発明によれば、アンテナ層がプリント基板により形成されることにより、既存の製造方法を用いてアレーアンテナを製造することができる。
【0021】
また、本発明の一態様は、前記アンテナ部が前記積層方向に隣接する一対の前記アンテナ層の間に設けられた絶縁層を備え、前記絶縁層の厚みにより前記積層方向に隣接する一対の前記アンテナ素子の間隔が調整されていいてもよい。
【0022】
本発明によれば、隣接するアンテナ層同士の間隔を絶縁層の厚みにより一定に保持することができる。
【0023】
また、本発明の一態様は、前記アンテナ部が2個以上の前記アンテナ素子が形成された前記アンテナ層を有し、前記積層方向に沿って見て前記アンテナ層において隣接する一対の前記アンテナ素子の間に、隣接する前記アンテナ層に形成された前記アンテナ素子が配置されている。
【0024】
本発明によれば、アンテナ層において2個以上のアンテナ素子を配列する場合において、隣接する送受信部の間隔以下の間隔により複数のアンテナ素子を配列することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、隣接するアンテナ素子同士を高密度に配置し100GHz以上の周波数帯の無線通信に対応可能なアレーアンテナを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係るアレーアンテナの構成を示す斜視図である。
【
図2】送受信部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】アンテナ層が積層されたアンテナ部の構成を示す断面図である。
【
図6】アレーアンテナから放射される電磁波を概念的に示す図である。
【
図7】アレーアンテナの送受信特性を示す図である。
【
図9】変形例に係る複数のアンテナ素子を有するアンテナ層の構成を示す図である。
【
図10】変形例に係るアレーアンテナの構成を示す斜視図である。
【
図11】変形例に係るアンテナユニットの構成を示す図である。
【
図12】変形例に係るアンテナユニットの構成を示す断面図である。
【
図13】変形例に係るアンテナユニットの構成を示す断面図である。
【
図14】変形例に係るアレーアンテナの構成を概念的に示す図である。
【
図15】変形例に係るアレーアンテナの構成を概念的に示す図である。
【
図16】アンテナ素子の配列間隔と周波数との関係を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1及び
図2に示されるように、アレーアンテナ1は、アンテナ層3が2層以上に積層されたアンテナ部2を備える。アンテナ層3は、例えば、プリント基板3A上にパターン化された電子回路により形成されている。プリント基板3Aは、例えば、絶縁性及び可撓性を有する樹脂製のフィルム状材料により形成されている。プリント基板3Aは、例えば、フレキシブル液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer:LCP)を用いた液晶ポリマー基板により形成されている。液晶ポリマー基板は、フレキシブルプリント基板材料の一種であり、高周波での損失が少なく、5G向け等の用途に利用されている。プリント基板3Aは、例えば、50μmの厚さに形成され、所定の誘電率(εr=3)を有する。
【0028】
アンテナ層3は、例えば、プリント基板3Aの一面側に設けられた送受信部4と、送受信部に隣接して配置されたアンテナ素子5とを有する。アンテナ素子5は、例えば、矩形のプリント基板3Aの4辺のうち、電波放射面となる1辺側に沿って1つ形成されている。
【0029】
送受信部4は、例えば、CMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)を用いたIC(Integrated Circuit)チップにより形成されている。送受信部4は、例えば、プリント基板3Aの面方向に沿って1.7mm×2.45mm、厚さ方向に50~300μmのサイズに形成されている。送受信部4は、例えば、プリント基板3Aの一面側において、アンテナ素子5に隣接して設けられている。送受信部4は、例えば、同じ回路において送信と受信とを切り替えて利用可能な双方向回路に形成されている。
【0030】
送受信部4は、例えば、アンテナ素子5において送受信される信号の位相を調整する位相調整部4Aと、送受信信号を増幅するアンプ4Bと、送受信する信号の周波数を変調する周波数変調部4Cと、入力された信号の周波数を整数倍(例えば、4倍)して出力する回路を有する逓倍部4Dと、異なる周波数の信号を1つの信号に合成して出力する混合部4Eと、位相調整部4Aを制御して放射される電磁波のビームの方向を制御する制御部4Fとを備える。
【0031】
送受信部4の各構成要素の詳細な内容は、例えば、特許文献1を参照することができる。送受信部4は、上記の回路構成だけでなく、例えば、ダイレクトコンバージョン方式(Zero-IF)等の他の回路構成が採用されてもよい。アレーアンテナ1におい送受信部4は、少なくとも位相調整部4Aを備えていればよい。送受信部4は、アンテナ素子5に電気的に接続されている。
【0032】
アンテナ素子5は、送受信部4において生成された信号を電磁波として送信し、到来した電磁波を受信する。アンテナ素子5は、プリント基板3A(アンテナ層3)の表面上にエッチング処理等を用いて銅箔等の金属薄膜によりパターン化されて形成されている。アンテナ素子5は、例えば、プリント基板3Aの面方向に略平行な平板状のホーンアンテナに形成されている。アンテナ素子5は、対向して形成された一対の第1アンテナ部材5Aと第2アンテナ部材5Bとを有するビバルディアンテナである。
【0033】
図3に示されるように、第1アンテナ部材5Aは、プリント基板3Aの一面側に形成されている。第1アンテナ部材5Aは、プリント基板3Aの一面側を平面視して、第2アンテナ部材5Bに対向する縁側において電波放射方向となる先端方向に向かうほど幅が減少するテーパ形状に形成されている。テーパ形状は、例えば、放物線状に形成されている。第1アンテナ部材5Aの後端は、配線層を介して一面側に設けられた送受信部4に電気的に接続されている。第1アンテナ部材5Aに対向して形成された第2アンテナ部材5Bは、アンテナ層3の他面側に形成されている。
【0034】
図4に示されるように、第2アンテナ部材5Bは、アンテナ層3の他面側を平面視して、第1アンテナ部材5Aに対向する縁側において電波放射方向となる先端方向に向かうほど幅が減少するテーパ形状に形成されている。テーパ形状は、例えば、放物線状に形成されている。第2アンテナ部材5Bの後端は、プリント基板3Aを貫通した配線層を介して一面側に設けられた送受信部4に電気的に接続されている。
【0035】
アンテナ素子5において、対向して配置された第1アンテナ部材5Aと第2アンテナ部材5Bとの間に形成された空間5Sには、第1アンテナ部材5Aと第2アンテナ部材5Bとの間に電位が加えられた際に電界が発生し、発生した電界の直交方向に磁界が発生することで電磁波の放射スロットとして機能する。アンテナ素子5は、ビバルディ型の他、同様に電磁波を送受信することができるのであれば他の形状に形成されていてもよい。アンテナ素子5と送受信部4とは、損失を低減するため、なるべく接近して配置されていることが望ましい。
【0036】
上記構成により、アンテナ層3の面方向に沿って送受信部4とアンテナ素子5とが形成されている。複数のアンテナ層3は、アンテナ素子5の位置が積層方向(y方向)に揃えられて積層される。これにより、複数のアンテナ層3が積層されたアンテナ部2が構成される。アンテナ部2は、アンテナ素子5の電波放射方向(x方向)に沿って見てアンテナ層3の積層方向において複数のアンテナ素子5が配列された電波放射面が形成される。
【0037】
図5に示されるように、アンテナ部2は、例えば、4層に積層されたアンテナ層3により構成されている。上記アンテナ部2の構成は1例であり、アンテナ層3は、送受信する電波強度に応じて4層以上、4層以下に積層されていてもよい。アンテナ部2において、積層方向に隣接する一対のアンテナ層3の間には、絶縁層6が設けられている。アンテナ層3と、隣接するアンテナ層3との間には、離間する距離を調整する絶縁層6が形成されている。
【0038】
絶縁層6は、板状の絶縁体により形成されている中間層である。絶縁層6は、例えば、布状のガラス繊維のシート体を積層し、エポキシ樹脂を含侵させて熱硬化させて形成されるプリント基板である(例えば、FR4)。絶縁層6には、アンテナ素子5及び送受信部4を収容するための切欠き部6A(
図3及び
図4参照)が設けられている。切欠き部6Aが形成されていることにより、絶縁層6の誘電率がアンテナ素子5の電磁波の送受信に影響を与えることが防止される。絶縁層6において切欠き部6Aは必ずしも形成しなくてもよい。この場合、絶縁層6の誘電率を考慮してアンテナ素子5の配列パターンの設計が調整される。
【0039】
絶縁層6とプリント基板3Aとの間は、接着層(不図示)により接着されている。接着層は、例えば、融点が低いフィルム状の熱硬化性樹脂により形成されている。接着層は、プリント基板3Aと絶縁層6とを交互に積層した後、加熱することにより硬化する。接着層は、硬化時に厚みが変化するので、変化後の厚みを考慮して材料が選択される。これにより、プリント基板3Aと絶縁層6とが積層されたアンテナ部2が形成される。接着層の誘電率は、絶縁層6の誘電率と略同一となるように材料が選択される。
【0040】
アンテナ部2は、絶縁層6及び硬化後の接着層の厚みにより積層方向に隣接する一対のアンテナ素子5の間隔が調整されている。絶縁層6及び硬化後の接着層の厚さは、例えば、積層方向に配列されたアンテナ素子5の設計上の間隔に応じて選択、調整される。
【0041】
アンテナ部2において例えば、260GHz帯の周波数の電波が放射される場合、複数のアンテナ層3の積層方向において隣接するアンテナ素子5の間隔は、放射する電磁波の1/2波長分の0.7mm程度に配置される。即ち、この場合アンテナ部2において複数のアンテナ層3は、0.7mm程度の間隔において積層される。複数のアンテナ層3の積層方向の間隔は、絶縁層6の厚さにより調整される。
【0042】
実装例において、アンテナ部2の積層方向において、プリント基板3Aの厚さが50μm、送受信部4の厚さが50~300μm、第1アンテナ部材5A及び第2アンテナ部材5Bの厚さが15μmに形成されている。
【0043】
図6に示されるように、アレーアンテナ1は、複数のアンテナ素子5から放射される電磁波によりアンテナ部2の電波放射面から指向性を有するビームBを形成することができる。アレーアンテナ1は、各アンテナ層3に設けられた送受信部4において隣接するアンテナ素子5から放射される電磁波の位相を順次遅延することにより、ビームの方向を2次元平面において任意に調整することができる。アンテナ部2から送受信される信号は、例えば、QPSK(quadraphase-shift keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)等のデジタル変調波を用いることができる。アンテナ部2から送受信される信号は、他の変調方式が用いられてもよく、QAMは、16値以上であってもよい。
【0044】
以下、4個のアンテナ素子が0.7mm間隔で積層されたアレーアンテナ1の送受信に関する特性の測定結果を示す。
【0045】
図7には、横軸のIF(Intermediate Frequency:中間周波数)周波数に対する送信モードの電力、受信モードの変換ゲインが示されている。図示するように、アレーアンテナ1によれば、所定の特性が得られている。
【0046】
図8には、横軸の送信モードの電力に対する変調精度が送信のエラーベクトル振幅(Error Vector Magnitude:EVM)により示されている。エラーベクトルは、理想的な信号のIQ平面におけるシンボル位置と、送受信部4において復調された信号のシンボル位置とのずれをベクトルにより示すものである。エラーベクトル振幅は、エラーベクトルの大きさと理想的なシンボル位置のベクトルとの大きさとの比である。図示するように、アレーアンテナ1によれば、送信信号の電力の増加に従って変調精度が向上した。
【0047】
[変形例]
以下、変形例にかかるアレーアンテナについて説明する。以下の説明では、上記の構成要素と同一の構成要素については同一の名称、符号を用い重複する説明については適宜省略する。アンテナ部2は、電波の送受信強度の増加や、更なる高周波化に対応するためにアンテナ素子5を増加して構成されてもよいし、高密度化するように構成されてもよい。
【0048】
図9に示されるように、変形例に係るアンテナ層3Hには、プリント基板3A上の配列方向(z方向)においてn個(nは2以上の整数)の送受信部4と各送受信部4に対応したn個のアンテナ素子5が形成されている。本事例では、アンテナ層3Hにおいて送受信部4及びアンテナ素子5は、プリント基板3Aの配列方向にそれぞれ4個形成されている。プリント基板3Aにおいて複数のアンテナ素子5は、電波放射方向に対して直交する配列方向に列状に配列されている。アンテナ層3Hにおいてn個の送受信部4は、1個のCMOSチップにより一体に形成されていてもよい。
【0049】
図10に示されるように、変形例に係るアンテナ部2Hは、m個(mは2以上の整数)のアンテナ層3Hが積層方向(y方向)に積層されて形成されている。即ち、アンテナ部2Hは、信号を送受信する送受信部4と送受信部4に隣接して配置された1つ以上のアンテナ素子5とが形成されたアンテナ層3Hを備え、アンテナ層3Hは、2層以上に積層されている。る。本事例では、アンテナ部2Hにおいてアンテナ層3Hは、積層方向に4つ積層されている。
【0050】
アンテナ部2Hには、複数のアンテナ素子5の配列方向と複数のアンテナ層3Hの積層方向において電波放射面が形成されている。アンテナ部2Hの電波放射面には、n×m個の複数のアンテナ素子5がマトリクス状に配置されている。本事例では、4×4個のアンテナ素子5が配置されている。
【0051】
アンテナ部2Hによれば、複数のアンテナ素子5から指向性を有するビームが放射される。送受信部4において、複数のアンテナ素子5の配列方向と複数のアンテナ層3Hの積層方向において配列されている各アンテナ素子5の位相を個別に調整することにより、2次元方向だけでなく、3次元方向にビームの方向を制御するアレーアンテナを構成することができる。
【0052】
アンテナ部2Hを有するアレーアンテナを一つのアンテナユニットとして構成し、アンテナユニットを更に配列方向及び積層方向に任意の個数を配列することで、送受信のアンテナ特性を向上させたアレーアンテナを構成することができる。例えば、基地局においては、所望の電波送信強度に応じて任意の個数のアンテナユニットを配列方向及び積層方向に配置したアレーアンテナを構成することができる。スマートフォン等の移動局においては、本体部の厚み等の設計条件に応じたアンテナユニットを実装することができる。
【0053】
図11(1)に示されるように、アンテナ層3Hは、より高周波の信号の送受信に対応する場合、アンテナ素子5を小型化して形成し、隣接するアンテナ素子同士の間隔を狭めて配置してもよい。しかし、送受信部4は、アンテナ素子5に隣接されているため、送受信部4のCMOSチップの隣接する方向の幅の大きさに起因し、隣接するアンテナ素子同士の間隔を狭められる限界が存在する場合がある。
【0054】
図11(2)に示されるように、積層方向に沿って見て、アンテナ層3Hにおいて隣接する一対のアンテナ素子5の間には、隣接するアンテナ層に形成されたアンテナ素子5を配置してもよい。即ち、隣接するアンテナ層3Hをアンテナ素子5の配列方向にオフセットして配置することで、複数のアンテナ素子5の配列方向において、隣接するアンテナ素子5同士の間隔を狭めてもよい。上記構成により、更なる高周波化に対応したアレーアンテナを構成することができる。
【0055】
図12に示されるように、アレーアンテナ1Aにおいては、隣接するアンテナ層3Hの対向する面同士にアンテナ素子5を配置してもよい。上記構成のように隣接するアンテナ層3Hによりアンテナユニット3Uを構成し、平面方向に高密度に複数のアンテナ素子5が配置されたアレーアンテナを形成してもよい。更に、このアンテナユニット3Uを積層することで複数のアンテナ素子5が電波放射面において高密度に2次元に配置されたアンテナ部を形成してもよい。上記構成により、送受信部4の配置間隔Lに比して半分の間隔においてアンテナ素子5を配置することができ、更なる高周波化に対応したアレーアンテナを構成することができる。
【0056】
図13に示されるように、上述のアンテナユニット3Uの構成だけでなく、1つのプリント基板3Aにアンテナ素子5を配列し、両面側に送受信部4を設けてアンテナユニット3Uを形成してもよい。これにより、アンテナ層3Hは、複数のアンテナ素子5の配列方向において、送受信部4の配置間隔Lに比して半分の間隔においてアンテナ素子5を配置することができ、隣接するアンテナ素子5同士の間隔を狭めることができる。上記の通り両面に送受信部4が実装されたアンテナ層3Hにより、平面方向に高密度に複数のアンテナ素子5が配置されたアンテナユニット3Uを構成してもよい。
【0057】
上述したアンテナユニット3Uを複数個積層することで、複数のアンテナ素子5が電波放射面において高密度に2次元に配置されたアンテナ部を形成することができる。そして、このアンテナ部を用いて、更なる高周波化に対応したアレーアンテナを構成することができる。
【0058】
アンテナ層3Hにおいて隣接する一対のアンテナ素子5の間には、積層方向に沿って見て、隣接するアンテナ層3Hに形成されたアンテナ素子5だけでなく、隣接するアンテナ層3Hに更に隣接するアンテナ層3Hに形成されたアンテナ素子5を配置してもよい。
【0059】
図14に示されるように、積層方向(y方向)に沿って見て、アンテナ層3Hにおいて隣接する一対のアンテナ素子5の間には、積層方向に隣接する2個以上のアンテナ層3Hを利用して2個以上のアンテナ素子5を配置するようにしてもよい。上記構成により、更なる高周波化に対応したアレーアンテナを構成することができる。
【0060】
上記のように配置された隣接する2個以上のアンテナ層3Hにより1つのアンテナユニット3Uを構成し、平面方向に高密度に複数のアンテナ素子5が配置されたアレーアンテナを形成してもよい。更に、このアンテナユニット3Uを積層することで複数のアンテナ素子5が電波放射面において高密度に2次元に配置されたアンテナ部2を形成してもよい。上記のように配置されたアンテナユニット3Uは、各アンテナ層3Hが等間隔に配置されていてもよい。
【0061】
上記の変形例によれば、送受信部4のCMOSチップの大きさに起因し、隣接するアンテナ素子同士の間隔に限界が存在する場合でも、隣接するアンテナ層3Hをオフセットして配置することにより、複数のアンテナ素子5を電波放射面において高密度に配置することができる。上記の変形例に係るアレーアンテナよれば、100GHz以上の周波数帯の無線通信に対応することができる。
【0062】
図15に示されるように、アレーアンテナのアンテナ部2において複数のアンテナ素子5は、設計上の条件に応じて適宜変更されてもよく、電波放射面において格子状に配置されるだけでなく、菱形等に配置されてもよい。
【0063】
上述した実施形態のアレーアンテナによれば、1つ以上のアンテナ素子5が形成されたアンテナ層を積層することにより、隣接するアンテナ素子同士を高密度に配置し100GHz以上の周波数帯の無線通信に対応可能なアンテナ部を形成することができる。実施形態のアレーアンテナによれば、アンテナ層に1つ以上のアンテナ素子を形成し、アンテナ層を積層する簡便な構成によりアンテナ部を形成することができる。実施形態のアレーアンテナによれば、既存の半導体の製造技術を適用して安価に大量に製造できる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、上記実施形態においては、アンテナ部2においてアンテナ層3と絶縁層6とを別体に形成するものを例示しているが、アンテナ層3と絶縁層6とを多層基板として一体に形成してもよい。また、アンテナ部2において積層された複数のアンテナ層3は、多層基板として一体に形成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1、1A アレーアンテナ
2、2H アンテナ部
3、3H アンテナ層
3A プリント基板
3U アンテナユニット
4 送受信部
4A 位相調整部
4B アンプ
4C 周波数変調部
4D 逓倍部
4E 混合部
4F 制御部
5 アンテナ素子
5A 第1アンテナ部材
5B 第2アンテナ部材
5S 空間
6 絶縁層
6A 切欠き部