(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054441
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】光学的標的装置、計測方法及び再帰反射器の使用方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/06 20060101AFI20240410BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01C15/06 T
G01C15/00 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160622
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】日比 康貴
(72)【発明者】
【氏名】山野井 康友
(57)【要約】
【課題】本発明は、プリズム及びミラー等のような再帰反射器の設置及び撤去を計測のたびに行わずに済むことを目的とする。
【解決手段】光学的標的装置1は、トンネル99の内壁98に形成された取付孔97の内側に配置されるアクチュエーター50と、前記アクチュエーター50に連結される再帰反射器40と、を備える。前記アクチュエーター50が、前記取付孔97から前記内壁98の内側に前記再帰反射器40を出すとともに前記再帰反射器40を前記取付孔97の内側に格納するよう、前記再帰反射器40を移動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内壁に形成された取付孔の内側に配置されるアクチュエーターと、
前記アクチュエーターに連結される再帰反射器と、を備え、
前記アクチュエーターが、前記取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出すとともに前記再帰反射器を前記取付孔の内側に格納するよう、前記再帰反射器を移動させる、
光学的標的装置。
【請求項2】
前記取付孔に差し込まれるとともに前記アクチュエーターを制御する制御部を更に備え、
前記制御部が、前記制御部を遠隔操作するリモートコントローラーから展開指令を受けると、前記制御部が、前記取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出すことを前記アクチュエーターに行わせ、
前記制御部が、前記リモートコントローラーから格納指令を受けると、前記制御部が、前記再帰反射器を前記取付孔の内側に格納することを前記アクチュエーターに行わせる、
請求項1に記載の光学的標的装置。
【請求項3】
前記再帰反射器に取り付けられるキャップを更に備え、
前記再帰反射器が前記取付孔に格納された状態の際に前記キャップが前記内壁において前記取付孔を閉塞し、前記再帰反射器が前記取付孔か前記内壁の内側に出された状態において前記キャップが前記内壁から離れて前記取付孔が開放される、
請求項1又は2に記載の光学的標的装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光学的標的装置を用いて前記トンネルの内壁を計測する計測方法であって、
前記アクチュエーターにより前記取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出した後、光学的な測量機を用いて前記内壁の内側から前記再帰反射器を視準することによって前記再帰反射器の三次元的な位置を前記測量機により計測する、
計測方法。
【請求項5】
前記再帰反射器の三次元的な位置の計測後に、前記アクチュエーターにより前記再帰反射器を前記取付孔に格納する、
請求項4に記載の計測方法。
【請求項6】
光学的な測量機及び再帰反射器を用いてトンネルの内壁の計測を行う際には、前記トンネルの内壁に形成された取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出し、前記計測を行わない際には、前記再帰反射器を前記取付孔の内側に格納する、
再帰反射器の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的標的装置、計測方法及び再帰反射器の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2は、トンネルに設置されたプリズム及びミラー等のようなターゲットをトータルステーション及び3Dスキャナー等のような測量機によって視準することによってトンネルの内壁の位置を計測する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-061417号公報
【特許文献2】特開2021-188994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経時的なトンネルの内壁の変位を計測するためには、測量機及ターゲットを用いた計測を定期的、例えば毎日行う必要がある。計測のたびにターゲットの設置及び撤去を行ったのでは、労力及び手間が掛かる。ターゲットを設置したままであると、ターゲットがトンネルの工事の邪魔になってしまう上、切羽の発破時等においてターゲットが破損してしまう虞がある。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、プリズム及びミラー等のような再帰反射器の設置及び撤去を計測のたびに行わずに済むことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための本発明の第1の側面によれば、光学的標的装置が、トンネルの内壁に形成された取付孔の内側に配置されるアクチュエーターと、前記アクチュエーターに連結される再帰反射器と、を備え、前記アクチュエーターが、前記取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出すとともに前記再帰反射器を前記取付孔の内側に格納するよう、前記再帰反射器を移動させる。
【0006】
本発明の第2の側面によれば、前記光学的標的装置が、前記取付孔に差し込まれるとともに前記アクチュエーターを制御する制御部を更に備え、前記制御部が、前記制御部を遠隔操作するリモートコントローラーから展開指令を受けると、前記制御部が、前記取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出すことを前記アクチュエーターに行わせ、前記制御部が、前記リモートコントローラーから格納指令を受けると、前記制御部が、前記再帰反射器を前記取付孔の内側に格納することを前記アクチュエーターに行わせる。
【0007】
本発明の第3の側面によれば、前記光学的標的装置が、前記再帰反射器に取り付けられるキャップを更に備え、前記再帰反射器が前記取付孔に格納された状態の際に前記キャップが前記内壁において前記取付孔を閉塞し、前記再帰反射器が前記取付孔か前記内壁の内側に出された状態において前記キャップが前記内壁から離れて前記取付孔が開放される。
【0008】
本発明の第4の側面によれば、前記光学的標的装置を用いて前記トンネルの内壁を計測する計測方法において、前記アクチュエーターにより前記取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出した後、光学的な測量機を用いて前記内壁の内側から前記再帰反射器を視準することによって前記再帰反射器の三次元的な位置を前記測量機により計測する。
【0009】
本発明の第5の側面によれば、前記計測方法において、前記再帰反射器の三次元的な位置の計測後に、前記アクチュエーターにより前記再帰反射器を前記取付孔に格納する。
【0010】
本発明の第6の側面によれば、再帰反射器の使用方法において、光学的な測量機及び再帰反射器を用いてトンネルの内壁の計測を行う際には、前記トンネルの内壁に形成された取付孔から前記内壁の内側に前記再帰反射器を出し、前記計測を行わない際には、前記再帰反射器を前記取付孔の内側に格納する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、計測のたびに再帰反射器の設置及び撤去を行わずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】
図3は、光学的標的装置の内筒の一部及び電動アクチュエーターを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に開示された実施形態に限定されない。図面は例示のみのために提供されるため、本発明の範囲は図面の例示に限定されない。
【0014】
[1. 概要]
図1は、施工工事中の山岳トンネル99の断面図である。
図1の断面は、トンネル99の軸方向に対して垂直である。
【0015】
トンネル99の施工工事では、トンネル99の切羽を発破等にて掘削することによって、山岳にトンネル99を施工する。施工工事中に地山の安定性、トンネル99の安全性、支保工の有効性及び覆工の有効性等を判断するために、定期的に例えば毎日、トンネル99の内壁98の変動・変位を計測する。
【0016】
計測の際には、複数の光学的標的装置1及び測量機85を用いる。複数の光学的標的装置1がトンネル99の周方向に配列されてトンネル99の内壁98に設置されている。周方向に配列された複数の光学的標的装置1からなるセットは複数あり、複数のセットがトンネル99の軸方向に所定間隔を置いて配列されている。切羽の掘削が進行すると、追加のセットが増設される。測量機85は、トータルステーション、トランシット及び光波測距儀等のような光学的視準装置である。トンネル99の床等に測量機85をセットして、測量機85を用いて光学的標的装置1を視準することによって光学的標的装置1の三次元的な位置を計測する。つまり、測量機85から光学的標的装置1までの距離とチルト角とパン角とを測量機85によって計測し、距離、チルト角及びパン角から光学的標的装置1の三次元的な位置を測量機85によって演算して計測する。チルト角とは、測量機85の視準方向に直交する水平軸の回りのその視準方向の仰俯角をいう。パン角とは、視準方向に交差する鉛直軸回りのその視準方向の角度(方位角)をいう。視準方向とは、測量機85が投射する光線に沿う方向をいう。なお、測量機85の位置は、トンネル99の周方向に配列された複数の光学的標的装置1を通る面(この面はトンネル99の軸の方向に対して垂直である。)からトンネル99の軸の方向にずれていてもよいし、その面に揃っていてもよい。
【0017】
トンネル99の施工工事中に、光学的標的装置1が内壁98の内側へ突き出ていると、光学的標的装置1が邪魔になる。そこで、計測以外の際には、光学的標的装置1が邪魔にならないように光学的標的装置1が工夫されており、計測以外の際には光学的標的装置1のほぼ全体が内壁98の外側の方へ引き込む。以下、
図2及び
図3を参照して、光学的標的装置1について詳細に説明する。
図2は、光学的標的装置1の分解斜視図であり、
図3は、光学的標的装置1の電動アクチュエーター50及びハーフ体21の斜視図である。
図3では、電動アクチュエーター50の一部が分解された状態で図示されている。
【0018】
[2. 光学的標的装置及びリモートコントローラー]
光学的標的装置1は、リモートコントローラー80(
図1参照)によって遠隔操作される。光学的標的装置1は、外筒10、防水フィルム18、内筒20、トップチューブ28、発光素子29、ホルダー30、電池32、再帰反射器40、キャップ45、電動アクチュエーター50及び制御盤70を備える。
【0019】
(1) 外筒、防水フィルム、内筒、トップチューブ及び発光素子
外筒10は、半円筒状の2体のハーフ体11を有する。2体のハーフ体11が互いに組み付けられることによって、外筒10が円筒状に組み立てられている。2体のハーフ体11が互いに突き当てられる部分には、シールが挟まれていてもよい。
外筒10は、その内側に中空12を有する。外筒10は、軸方向における外筒10の一方の端に開口13を有する。外筒10は、軸方向における外筒10の他方の端にエンドプレート14を有する。外筒10の他方の端はエンドプレート14によって塞がれている。なお、以下では、「軸方向」とは、外筒10の中心軸に沿う方向をいう。「周方向」とは、外筒10の中心軸の周りの方向をいう。「径方向」とは、外筒10の中心軸に対して直交する方向をいう。
【0020】
外筒10は、その外周面に複数の第1滑り止め15及び第2滑り止め16を有する。第1滑り止め15は、外筒10の外周面に凸状に形成されている。第1滑り止め15は、径方向外方から外筒10の開口13の方へ、軸方向及び径方向に対して傾斜する。第2滑り止め16は、外筒10の外周面に凸状に形成されている。第2滑り止め16は、周方向及び径方向に対して傾斜する。
【0021】
外筒10は、その外周面のうち開口13に近位の端に、フランジ17を有する。フランジ17は、周方向全体に亘って設けられている。フランジ17は、ゴム弾性を有したシールである。
防水フィルム18は、外筒10の内周面に張り付けられている。
【0022】
内筒20は、半円筒状の2体のハーフ体21を有する。2体のハーフ体21が互いに組み付けられることによって、内筒20が円筒状に組み立てられる。2体のハーフ体21が互いに突き当てられる部分には、シールが挟まれてもよい。
内筒20は、その内側に中空22を有する。内筒20は、軸方向における内筒20の一方の端に開口23を有する。内筒20は、軸方向における内筒20の他方の端にエンドプレート24を有する。内筒20の他方の端はエンドプレート24によって塞がれている。
【0023】
内筒20は外筒10に収容され、内筒20と外筒10が同軸となっている。内筒20の外周面と外筒10の内周面がこれらの間に防水フィルム18を挟み込み、内筒20が防水フィルム18によって防水されている。内筒20の開口23は、外筒10の開口13よりも外筒10の奥にある。
【0024】
トップチューブ28は、筒状に形作られている。トップチューブ28は、外筒10の開口13に嵌め込まれている。トップチューブ28と内筒20は外筒10内において軸方向に直列に並んでおり、トップチューブ28の中空と内筒20の中空は互いに連なっている。
【0025】
発光素子29は、トップチューブ28の端に取り付けられていて、外筒10の開口13の先の方へ向けられている。発光素子29は、例えばLEDである。発光素子29は、電池32から制御盤70を介して電力が供給されると、外筒10の開口13の先の方へ光を照射する。
【0026】
(2) ホルダー及び電池
ホルダー30は、内筒20に収容されているとともに、エンドプレート24に寄った位置において内筒20に固定されている。
電池32は、ホルダー30に装着されているとともに、ホルダー30と一緒に内筒20に収容されている。電池32は、ホルダー30に対して着脱可能である。電池32は、一次電池又は二次電池である。
【0027】
(3) 再帰反射器及びキャップ
再帰反射器40は、トップチューブ28に収容されている。再帰反射器40は、後述の電動アクチュエーター50によって軸方向に移動するよう駆動されることによって、トップチューブ28から外筒10の開口13の先へ出たり、トップチューブ28の内側に格納されたりする。再帰反射器40は、様々な方向から再帰反射器40に入射する光線をプリズムミラーにより再帰反射させる。再帰反射器40は、例えば少なくとも1つのプリズムを有する。
【0028】
キャップ45は、再帰反射器40に取り付けられている。キャップ45が再帰反射器40に取り付けられる部分は、再帰反射器40に関して内筒20の反対側の端である。再帰反射器40がトップチューブ28に格納された状態では、キャップ45の外周部が外筒10の開口13の周囲において外筒10の端に接し、外筒10の開口13がキャップ45によって閉塞される。再帰反射器40がトップチューブ28から外筒10の開口13の先へ出た状態では、キャップ45の外周部が外筒10の端から離れて、外筒10の開口13が開放される。なお、キャップ45のうち発光素子29と重なる部分にはノッチが形成されている。それゆえ、キャップ45が閉じられた状態であっても、発光素子29の光がノッチを通過するため、トンネル99内から発光素子29を視認することができる。
【0029】
なお、キャップ45は、制御盤70とリモートコントローラー80の間で伝播する電波を遮蔽しないように、樹脂等のような絶縁体からなる。内筒20及び外筒10は絶縁体からなってもよい。内筒20又は外筒10が金属等のような導電体からなれば、制御盤70とリモートコントローラー80の間で伝播する電波が外筒10の開口13以外では外筒10の外に漏れないため、制御盤70とリモートコントローラー80の間の通信が良好である。
【0030】
(4) 電動アクチュエーター
電動アクチュエーター50は、内筒20に収容されているとともに、ホルダー30よりも外筒10の開口13に近い位置において内筒20に固定されている。電動アクチュエーター50は、電池32の電力により動作して、再帰反射器40を軸方向に移動させるよう再帰反射器40を駆動する。
【0031】
電動アクチュエーター50は、リニアガイド51、モーター52、トルクリミッター53、リードスクリュー54、キャリッジ55、第1ストッパー56、第2ストッパー57及び固定部材58を有する。
【0032】
リニアガイド51は、内筒20の内側において内筒20に固定されている。リニアガイド51は、軸方向に延びている。モーター52は、外筒10の開口13からエンドプレート24の方へ離れた位置において、リニアガイド51に固定されている。モーター52は、例えばDCモーターである。トルクリミッター53は、モーター52の駆動軸に連結されている。リードスクリュー54は、モーター52及びトルクリミッター53よりも内筒20の開口23に近い位置において、軸方向に延びている。リードスクリュー54がトルクリミッター53に連結されることによって、リードスクリュー54とトルクリミッター53とモーター52がこれらの順に直列接続されている。リードスクリュー54からトルクリミッター53に作用する負荷トルクが所定値未満の場合、トルクリミッター53がリードスクリュー54とモーター52の接続を維持させ、リードスクリュー54からトルクリミッター53に作用する負荷トルクが所定値未満の場合、トルクリミッター53がモーター52からリードスクリュー54を切り離す。
【0033】
キャリッジ55がリニアガイド51によって軸方向に案内され、キャリッジ55の周方向の荷重がリニアガイド51に受けられる。キャリッジ55は、リードスクリュー54がねじ込まれるナットを有する。これにより、キャリッジ55は、リードスクリュー54の回転により軸方向に移動する。キャリッジ55の先端が再帰反射器40に取り付けられ、再帰反射器40がキャリッジ55と一緒に軸方向に移動する。以下では、再帰反射器40及びキャリッジ55が外筒10の開口13の外の方へ移動させるようなリードスクリュー54及びモーター52の回転を正回転といい、再帰反射器40及びキャリッジ55が外筒10の開口13の内の方へ移動させるようなリードスクリュー54及びモーター52の回転を逆回転といい。
【0034】
キャリッジ55は、キャリッジ55の表面に、その表面から径方向外側に突出する突起55aを有する。第1ストッパー56は、突起55aよりも外筒10の開口13に近位において固定部材58を介してリニアガイド51に固定されている。第2ストッパー57は、突起55aよりも外筒10の開口13から遠位において固定部材58を介してリニアガイド51に固定されている。キャリッジ55が内筒20内において外筒10の開口13に近づくと、突起55aが第1ストッパー56に当接する。そのため、第1ストッパー56は、キャリッジ55が外筒10の開口13の外の方へ移動することを規制するとともに、トルクリミッター53に作用する負荷トルクを所定値以上に高める。突起55aが第1ストッパー56に当接した状態では、再帰反射器40がトップチューブ28の内側に格納されておらず、その再帰反射器40がトップチューブ28から外筒10の開口13の先へ出ている。キャリッジ55が内筒20内において外筒10の開口13から離れると、突起55aが第2ストッパー57に当接する。そのため、第2ストッパー57は、キャリッジ55がエンドプレート24の方へ移動することを規制するとともに、トルクリミッター53に作用する負荷トルクを所定値以上に高める。突起55aが第2ストッパー57に当接した状態では、再帰反射器40がトップチューブ28の内側に格納されている。
【0035】
突起55a及びストッパー56,57は導電体からなる。突起55aの電圧レベルはストッパー56,57の電圧レベルと相違する。例えば、突起55aの電圧レベルがローレベルになるように突起55aが接地され、ストッパー56,57の電圧レベルがハイレベルになるようにストッパー56,57が抵抗を介して電池32の正極に接続されており、突起55aがストッパー56又は57に接すると、ストッパー56,57の電圧レベルがローレベルに変化する。突起55aの電圧レベルがハイレベルであり、ストッパー56,57がローレベルであってもよく、この場合、突起55aがストッパー56又は57に接すると、突起55aの電圧レベルがローレベルに変化する。
【0036】
(5) 制御盤
制御盤70は、ホルダー30に取り付けられるとともに、内筒20に収容されている。
【0037】
制御盤70は、回路基板、受信アンテナ、受信機及びモーター制御回路を有する。受信アンテナ、受信機及びモーター制御回路は回路基板に搭載されている。受信アンテナは、後述のリモートコントローラー80から電波を受信して、その電波から電流を発生させることによって電流信号を生成する。受信機は、受信アンテナから供給された電流信号をコマンド信号に復調して、コマンド信号をモーター制御回路に転送する。コマンド信号には、リモートコントローラー80から制御盤70に対する指令が含まれる。指令としては、格納指令と展開指令とがある。
【0038】
モーター制御回路は、受信機から転送されたコマンド信号に従ってモーター52を制御する。具体的には、モーター制御回路は、受信機から展開指令のコマンド信号を入力したら、モーター52を正転させる。また、モーター制御回路は、受信機から格納指令のコマンド信号を入力したら、モーター52を逆転させる。
【0039】
モーター制御回路は、突起55aとストッパー56,57のうち一方又は両方に電気的に接続されている。モーター制御回路は、モーター52の回転中に、突起55aとストッパー56,57のうち一方又は両方の電圧を監視することによって、突起55aとストッパー56,57の接触・非接触を検知する。
【0040】
(6) リモートコントローラー
リモートコントローラー80は格納スイッチ、展開スイッチ、送信機及び送信アンテナ等を備える。格納スイッチは、作業者によって押下等の操作がされることによってオンする。展開スイッチは、作業者によって押下等の操作がされることによってオンする。送信機は、格納スイッチからオン信号を入力することによって、格納指令のコマンド信号に従って電波を変調させるとともに、格納指令のコマンド信号の載った電波を送信アンテナにより送信する。送信機は、展開スイッチからオン信号を入力することによって、展開指令のコマンド信号に従って電波を変調させるとともに、展開指令のコマンド信号の載った電波を送信アンテナにより送信する。送信機及び送信アンテナによって送信された電波は、制御盤70の受信アンテナによって受信される。
【0041】
[2. 光学的標的装置の設置方法]
図1及び
図4に示すように、トンネル掘削が進捗したら、トンネル99の周方向に間隔を置いて複数の取付孔97をトンネル99の内壁に穿孔する。取付孔97の位置は切羽から離れているものの切羽の近くである。なお、
図4は、
図1に図示の領域IVの拡大図である。
【0042】
その後、外筒10のエンドプレート14を取付孔97の奥に向けて、光学的標的装置1を取付孔97にそれぞれ嵌め込み、外筒10のフランジ17を取付孔97の周囲においてトンネル99の内壁に接触させる。これにより、光学的標的装置1のほぼ全体、つまり、外筒10(但し、フランジ17を除く)、防水フィルム18、内筒20、トップチューブ28、ホルダー30、電池32、再帰反射器40、電動アクチュエーター50及び制御盤70が取付孔97に差し込まれる。また、光学的標的装置1のキャップ45は、トンネル99の内壁98に沿って設けられて、トンネル99の内側に露出している。
【0043】
光学的標的装置1が取付孔97に嵌め込まれた状態では、外筒10の外周面が取付孔97の内周面に接しており、第1滑り止め15及び第2滑り止め16が僅かに圧縮されている。取付孔97に対する外筒10の軸方向の滑りが第1滑り止め15によって防止され、取付孔97に対する外筒10の周方向の滑りが第2滑り止め16によって防止される。
【0044】
[3. 計測時以外の時の光学的標的装置の使用方法]
計測時以外の時とは、例えば、トンネル99の掘削作業の時、資材の搬入の時、資材の搬出の時、支保工を施工する時、支保工を撤去する時、覆工を施工する時、及び、吹き付け工を施工する時のことをいう。
【0045】
作業者がリモートコントローラー80の格納スイッチに対して押下等の操作をすると、格納指令のコマンド信号がリモートコントローラー80から光学的標的装置1の制御盤70に送信される。そうすると、制御盤70のモーター制御回路が電動アクチュエーター50のモーター52を逆転させるよう駆動し、これにより再帰反射器40が
図5に示すようにトップチューブ28に引き込まれるとともに、外筒10の開口13がキャップ45によって閉塞される。キャップ45の外周が外筒10の端に当たる際に、キャリッジ55の突起55aが第2ストッパー57に当たる。そのため、トルクリミッター53に作用する負荷トルクが所定値以上になるため、リードスクリュー54がトルクリミッター53によってモーター52から切り離される。また、キャリッジ55の突起55aが第2ストッパー57に当たった時、突起55a又は第2ストッパー57の電圧レベルがハイレベルからローレベルに降下するため、制御盤70のモーター制御回路は、そのような電圧降下をトリガとして、モーター52を停止させる。
【0046】
キャップ45だけがトンネル99の内側に露出するものの、光学的標的装置1の大部分、特に再帰反射器40が取付孔97の内側に収まる。そのため、光学的標的装置1がトンネル99の施工工事の邪魔にならない。とくに、切羽の発破によって生じた破片が再帰反射器40に当たらず、再帰反射器40が保護される。
【0047】
キャップ45が閉じた状態でも、作業者が発光素子29の光を視認することによって光学的標的装置1の位置を把握できる。これは、トンネル99内が暗い場合に特に有効的である。
【0048】
なお、再帰反射器40がトップチューブ28に引き込まれた状態の際に作業者が格納スイッチを操作しても、制御盤70のモーター制御回路が格納指令を無視して、モーター52を作動させない。
【0049】
[4. 計測時の光学的標的装置の使用方法]
作業者がリモートコントローラー80の展開スイッチに対して押下等の操作をすると、展開指令のコマンド信号がリモートコントローラー80から光学的標的装置1の制御盤70に送信される。そうすると、制御盤70のモーター制御回路が電動アクチュエーター50のモーター52を正転させるよう駆動し、これにより再帰反射器40が
図6に示すように取付孔97から内壁98の内側へ出されるとともに、キャップ45による外筒10の開口13及び取付孔97の閉塞が解除される。そして、キャリッジ55の突起55aが第1ストッパー56に当たるため、トルクリミッター53に作用する負荷トルクが所定値以上になる。そのため、リードスクリュー54がトルクリミッター53によってモーター52から切り離される。また、キャリッジ55の突起55aが第1ストッパー56に当たった時、突起55a又は第1ストッパー56の電圧レベルがハイレベルからローレベルに降下するため、制御盤70のモーター制御回路は、そのような電圧降下をトリガとして、モーター52を停止させる。なお、再帰反射器40がトップチューブ28から外筒10の開口13の先へ出された状態の際に作業者が格納スイッチを操作しても、制御盤70のモーター制御回路が展開指令を無視して、モーター52を作動させない。
【0050】
その後、トンネル99内に測量機85をセットする。そして、測量機85から光学的標的装置1の再帰反射器40に光線を投光すると、その光線が再帰反射器40により測量機85へ再帰反射し、反射光線を測量機85により受光する。そうすると、測量機85から再帰反射器40までの距離とチルト角とパン角とが測量機85によって計測され、再帰反射器40の三次元的な位置が距離、チルト角及びパン角に基づいて測量機85によって演算される。
【0051】
計測終了後、作業者が格納スイッチを操作すると、制御部70が電動アクチュエーター50を作動させて、再帰反射器40が電動アクチュエーター50によってトップチューブ28の内側に格納される。
【0052】
なお、以上のような計測は、定期的、例えば毎日行う。
【0053】
[5. まとめ]
計測時以外の時には、再帰反射器40が取付孔97の内側に格納されるため、再帰反射器40がトンネル工事の作業の邪魔にならない。また、切羽の発破時等の破片及び機材が再帰反射器40に当たらない。そのため、再帰反射器40及び光学的標的装置1をトンネル99の内壁98から撤去する必要がない。ひいては、計測のたびに、再帰反射器40及び光学的標的装置1の設置・撤去を行う必要もない。よって、計測時の手間及び労力を最小限に抑えることができる。また、計測のたびに高所作業を行う必要もなく、トンネル99の内壁98の計測を安全に行える。
【0054】
再帰反射器40が取付孔97及び外筒10の内側に格納された状態では、取付孔97がキャップ45によって蓋をされる。よって、再帰反射器40が保護される。
【0055】
キャップ45が絶縁体からなる。そのため、外筒10の開口13及び取付孔97がキャップ45によって蓋をされたものとしても、リモートコントローラー80から発した電波がキャップ45によって遮蔽されることなく、制御盤70まで伝播する。
【0056】
発光素子29が光学的標的装置1の端に設けられており、その発光素子29はキャップ45によって隠れることがない。作業者は、発光素子29の光を通じて光学的標的装置1の位置を認識できる。
【0057】
トルクリミッター53がリードスクリュー54とモーター52の間に取り付けられている。そのため、モーター52に対する過負荷を防止できる。
【0058】
キャリッジ55の突起55aが第1ストッパー56又は第2ストッパー57に当たることによって、モーター52がモーター制御回路によって停止される。そのため、モーター52に対する過負荷を防止できる。また、サーボ機構等のような複雑な位置制御機構を採用せずとも、再帰反射器40を所定の位置で停止できる。所定の位置とは、再帰反射器40が外筒10及び取付孔97から出た位置と、再帰反射器40が外筒10及び取付孔97の内側に格納された位置のことをいう。
【0059】
[6. 変形例]
以上、実施形態について説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態及び図示例に限定されるものではない。
前述の実施形態では、リモートコントローラー80と光学的標的装置1の制御盤70の間の通信が無線によるものであったが、有線によるものであってもよい。
【0060】
また、前述の実施形態では、キャリッジ55及びリードスクリュー54からなるリニア伝動機構が、モーター52の回転運動を再帰反射器40の直線運動に変換する。キャリッジ55及びリードスクリュー54からなるリニア伝動機構の代わりに他のリニア伝動機構、例えばピニオンラック機構又は巻き掛け伝動機構が採用されてもよい。
【0061】
また、前述の実施形態では、トンネル99は施工中のものである。それに対して、トンネル99の施工工事の完了後に測量機85及び光学的標的装置1を用いて、トンネル99の内壁98を計測することができる。
また、既設のトンネルの内壁に取付孔を加工して、その取付孔に光学的標的装置1を嵌め込んでも、測量機85及び光学的標的装置1を用いてその既設トンネルの内壁を計測することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 光学的標的装置
40 再帰反射器
45 キャップ
50 電動アクチュエーター
52 モーター
70 制御盤(制御部)
97 取付孔
98 内壁
99 トンネル