(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054443
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】完全閉鎖型灌流液送液系
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240410BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240410BHJP
A61K 35/14 20150101ALI20240410BHJP
A61P 7/08 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
A61K35/14 Z
A61P7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160628
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】595040205
【氏名又は名称】株式会社東海ヒット
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晴紀
【テーマコード(参考)】
4B029
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029GA08
4B029GB10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
4C087DA03
4C087NA03
4C087ZA51
(57)【要約】
【課題】血液中の赤血球等を極力潰さずに、同時に血液に接触せずに連続的な送液を、小型で安価に構築したもので実現できる完全閉鎖型灌流液送液系の提供。
【解決手段】密閉されたバッファ部17の気相部分を陰陽圧に変化させて灌流液Kを送液させている。空気Aの吸引から戻しに変わるタイミングでは、空気連通口43の近傍で、気流どうしがぶつかり合うことになり、ぶつかり合う箇所で先ず局所的に急激に大きな陽圧が発生する。しかしながらこの陽圧は放射状に拡がるので、その下側に位置する液相には局所的に急激に大きな陽圧が掛かることはない。また、空気Aの戻しから吸引に変わるタイミングでは、空気連通口43の近傍で先ず局所的に急激に大きな陰圧が発生する。しかしながらこの陰圧は放射状に拡がるので、その下側に位置する液相が局所的に急激に大きな陰圧になることはない。従って、赤血球等が潰されるのが回避される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌流液を流す送液流路に介装され、下側に液相として灌流液が貯留され、上側が気相になったバッファ部と、前記バッファ部の気相側に一端側が連通され、他端側が閉止される空気封入路と、前記空気封入路の空気封入容積を減少・復元させる容積往復変動手段を備え、
前記空気封入容積の増大・復元に追従した前記バッファ部の気相部分の陰陽圧の変化により、前記灌流液が送液されることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項2】
請求項1に記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
バッファ部の内部で、灌流液の吸引口と排出口と空気連通口は、上方視で、それぞれ三角頂点に位置するように配置されていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項3】
請求項2に記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
バッファ部の内部は、上方視で、円形になっていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項4】
請求項1または3に記載したに記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
灌流液の吸引口は気相中で開放され、排出口は液相中で開放されていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項5】
請求項4に記載したに記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
灌流液の排出口は、バッファ部に差込まれてその内底面近傍まで延びたパイプの下端縁が周方向に沿って円弧状に切り欠かれて構成されていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項6】
請求項1または3に記載したに記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
バッファ部の内部は、液相と気相との間は液面の変動圧力を受けて上下動する感圧弁により液相と気相が隔離されており、
灌流液の吸引口と排出口が液相中で開放されていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項7】
請求項1または3に記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
空気封入路は可撓性チューブを用いて構成され、容積往復変動手段は前記可撓性チューブを圧閉・復元する往復押圧機構で構成されていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項8】
請求項7に記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
往復押圧機構はローラーを1つ設けたローラーポンプで構成されていることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【請求項9】
請求項1または3に記載した完全閉鎖型灌流液送液系において、
灌流液は血液であることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞、組織、臓器、動物等の生体試料に血液を含む灌流液を流す送液系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から血液送液系で使用されている専用の送液ポンプは、臨床用途が多く、特許文献1に記載のように遠心ポンプなどどれも高精度になっているが、その一方で複雑で高価であり、実験スケールでの手軽な使用に適した小型で安価なものがない。
そのため、動物実験用には、市販の比較的小型で安価なローラーポンプやシリンジポンプが代用されている。
【0003】
近年は、細胞から組織や臓器を作製する組織工学の発展が期待されているが、生体外において立体組織に導入された血管網への血液の送液では、赤血球等が潰れてしまうことは極力回避しなければならない。而して、ローラーポンプは、可撓性チューブをローラーで圧閉する方式なので、血液中の赤血球等が潰れてしまう。シリンジポンプは、シリンジを押し出す方式のため、連続送液ができない。その他、ダイヤフラム式のポンプでも市販の比較的小型で安価なタイプがあり、このタイプでは赤血球等を潰したりせず、連続送液も可能になっているが、ダイヤフラムが血液に接触するため、これらの腐食や血液のコンタミネーションにつながるので、送液ポンプとしては実際のところ使用されていない。
【0004】
我々は、先に、特許文献2で、完全閉鎖型灌流液送液系を提案しており、この送液系では、血液に接触せずに連続的な送液を、小型で安価に構築したもので実現できてはいるが、耐溶血性能については、更なる向上要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-325750号公報
【特許文献2】特開2022-100769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、血液中の赤血球等を極力潰さずに、同時に血液に接触せずに連続的な送液を、実験スケールでの使用に適した小型で安価に構築したもので実現できる、新規且つ有用な完全閉鎖型灌流液送液系を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、灌流液を流す送液流路に介装され、下側に液相として灌流液が貯留され、上側が気相になったバッファ部と、前記バッファ部の気相側に一端側が連通され、他端側が閉止される空気封入路と、前記空気封入路の空気封入容積を減少・復元させる容積往復変動手段を備え、前記空気封入容積の増大・復元に追従した前記バッファ部の気相部分の陰陽圧の変化により、前記灌流液が送液されることを特徴とする完全閉鎖型灌流液送液系である。
【0008】
好ましくは、バッファ部の内部で、灌流液の吸引口と排出口と空気連通口は、上方視で、それぞれ三角頂点に位置するように配置されている。
より好ましくは、バッファ部の内部は、上方視で、円形になっている。
【0009】
好ましくは、灌流液の吸引口は気相中で開放され、排出口は液相中で開放されている。
より好ましくは、灌流液の排出口は、バッファ部に差込まれてその内底面近傍まで延びたパイプの下端縁が周方向に沿って円弧状に切り欠かれて構成されている。
【0010】
好ましくは、バッファ部の内部は、液相と気相との間は液面の変動圧力を受けて上下動する感圧弁により液相と気相が隔離されており、灌流液の吸引口と排出口が液相中で開放されている。
【0011】
好ましくは、空気封入路は可撓性チューブを用いて構成され、容積往復変動手段は前記可撓性チューブを圧閉・復元する往復押圧機構で構成されている。
より好ましくは、往復押圧機構はローラーを1つ設けたローラーポンプで構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の完全閉鎖型灌流液送液系によれば、灌流液が血液の場合でも、赤血球等を極力潰さずに、同時に血液に接触せずに連続的な送液を、実験スケールでの使用に適した小型で安価に構築したもので実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る完全閉鎖型灌流液送液系の斜視図である。
【
図3】
図2のバッファ部の蓋部側を下方から見た斜視図である。
【
図5】
図4の送液動作の際の切換えのタイミングの気流のイメージ図である。
【
図6】
図1の送液系の別例のバッファ部の断面図である。
【
図7】
図6のバッファ部の蓋部側を下方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る完全閉鎖型灌流液送液系について、図面にしたがって説明する。
図1~
図3に示すこの完全閉鎖型灌流液送液系1で、符号3は断面円形でシリコン製の可撓性チューブを示す。この可撓性チューブ3は、複数用いられており、連結部5を介して接続されている。連結部5からはSUS製の剛性パイプ5a、5bがそれぞれ横方向と下方向に突出しており、可撓性チューブ3の一端に剛性パイプ5aが内嵌され、別の可撓性チューブ3の一端に剛性パイプ5bが内嵌されている。前者の可撓性チューブ3は横方向に延び、その送液方向先方で後者の可撓性チューブ3は下方に延びている。後者の可撓性チューブ3の他端である下端には別の剛性パイプ7が内嵌されている。この剛性パイプ7は可撓性チューブ3の下端よりも下方に突出している。剛性パイプ7の下端縁は軸方向に直交している。送液流路9はこの可撓性チューブ3と連結部5と剛性パイプ7が上記のように連なった筒状の内部の中空部分で構成されている。
【0015】
上記の送液流路9は送液方向上流側を示しており、下流側の送液流路11も同様に構成されている。但し、下方に延びた可撓性チューブ3の他端である下端には別の剛性パイプ13が内嵌されている。この剛性パイプ13も可撓性チューブ3の下端よりも下方に突出しているが、突出度合いが剛性パイプ7よりも大きくなっている。剛性パイプ13の下端縁13aも軸方向に直交しているが、その周縁に沿って周方向にほぼ半円弧に欠落した欠落部13bが形成されている。
また、剛性パイプ13にはリングシール15が外嵌されている。このリングシール15の上端縁は可撓性チューブ3の下端縁と当たっている。
【0016】
送液流路9、11は、それぞれ一端側はバッファ部17を介して接続されて、1つの送液流路の途中にバッファ部17が介装された配置になっている。
符号19は断面円形のフラットシャーレを示し、このシャーレ19の上面開口は被せタイプの蓋部21で閉塞される。
この蓋部21の天面部21aには断面円形の貫通穴23、25、27がほぼ正三角形の頂点をなす位置に設けられている。貫通穴23、25は同じサイズで下面側には段差23a、25aが設けられてその他の部位より僅かに小さくなっている。貫通穴27はそれよりもやや大きいサイズになっている。また、天面部21aの上面にはその他の部位よりも一段下がった平面状の窪み29が形成されている。この窪み29の領域に、貫通穴23、25が形成されている。
蓋部21の側面部21bの内周面には環状の凹条31が形成されている。また、側面部21bの下端縁からは平面方向外方に向かってフランジ21c、21cが対向した状態で延びている。
【0017】
蓋部21の凹条31にOリング33が嵌合されており、シャーレ19に蓋部21を被せた状態では、Oリング33の内方に突出した部分が圧迫されて蓋部21の側面部21bの内周面とシャーレ19の側面部の外周面との間の隙間を閉塞して封止している。バッファ部17はこの封止状態のシャーレ19と蓋部21により構成されている。
【0018】
天面部21aには、上記した送液流路9、11が接続されている。
送液流路9では、剛性パイプ7が貫通穴23に上側から差し込まれており、可撓性チューブ3の下端縁が窪み29に当たり、剛性パイプ7の下端縁が段差23aに当たっている。剛性パイプ7の内径は、貫通穴23の段差23aにより小さくなった側の内径とほぼ同じになっている。剛性パイプ7の下端縁側は開口してシャーレ19内と連通しており、この剛性パイプ7で吸引口35が構成されている。
【0019】
送液流路11では、剛性パイプ13が貫通穴27に上側から差し込まれている。リングシール15の上下端側の縁は外方に突出しており、その突出端が貫通穴27の上下の穴縁に係止された状態になっている。
剛性パイプ13が貫通した状態では、リングシール15の外方に突出した部分が圧迫されて剛性パイプ13の外周面と貫通穴27の内周面との間の隙間を閉塞して封止している。
剛性パイプ13はシャーレ19内を垂下されており、その下端縁13aはシャーレ19の底面部19aの内底面の近傍に至っている。また、送液流路9側の剛性パイプ7をシャーレ19内まで仮想的に延長したときには、剛性パイプ13とシャーレ19内でも対向し、さらに剛性パイプ13側の欠落部13bはこの剛性パイプ7と対向する側に位置している。剛性パイプ13の下端縁13a側は開口し、且つ下端縁13a側と連なった欠落部13bも開口してシャーレ19内と連通しており、この剛性パイプ13で排出口37が構成されている。
【0020】
符号39はポンプユニットを示す。このポンプユニット39の筐体39aの内部では可撓性チューブ3と同じサイズ及び可撓性素材のポンプチューブがローラーを1つ備えたタイプのローラーポンプに取付けられており、ローラーポンプの動作によりローラーに間欠的にしごかれて、このポンプチューブの圧閉と復元が交互に繰り返されるようになっている。ポンプチューブの一方の接続側には、連通空気路41の一端側が接続されている。この連通空気路41は、送液流路9と同様に、可撓性チューブ3と連結部5と剛性パイプ7を組み合わせて構成されており、その他端側である剛性パイプ7はバッファ部17の貫通穴25を介してシャーレ19内と連通しており、この連通部分が下方を向いた空気連通口43になっている。ポンプチューブの他方の接続側にも可撓性チューブ3(図示省略)が接続されている。この可撓性チューブ3の先端は閉止されている。
【0021】
空気封入路は連通空気路41とポンプチューブと閉止側の可撓性チューブ3とで構成されており、ポンプユニット39で空気封入路の空気封入容積を減少・復元させる容積往復変動手段が構成されている。
バッファ部17の貫通穴23に貫入された剛性パイプ7側の吸引口35、貫通穴27に貫入された剛性パイプ13側の排出口37、貫通穴25に貫入された剛性パイプ7側の空気連通口43は、貫通穴23、25、27の位置関係から、上方視で、それぞれ三角頂点に位置している。
【0022】
バッファ部17には、灌流液Kが貯留されており、下側が灌流液Kの液相、上側が空気Aの気相になって、上下方向で接液面Lを介して二相が併存している。
吸引口35は気相中で開放され、排出口37は液相中で開放されてバッファ部17の内部と連通している。灌流液Kは送液流路9を通って吸引口35からバッファ部17の内部に吸引され、落下してバッファ部17内に貯留された灌流液Kの液相の一部となり、液相から排出口37を介して送液流路11に排出される。
また、空気連通口43は気相中で開放されてバッファ部17の内部と連通している。従って、空気封入路に封入された空気はバッファ部17の気相の空気と繋がっている。
【0023】
灌流液Kを溜めたリバーザーから、灌流液Kが、送液流路9、11を通って、培養容器側に送液されるようになっており、送液流路9、11の間に介装されたバッファ部17において、ポンプ作用を受ける。
空気封入路に封入される空気量は調整されており、後述のように封入された空気Aが圧縮・復元の弾性挙動を示すストローク範囲ではバッファ部17の内部での接液面Lは常に排出口37よりも上に位置する。
【0024】
完全閉鎖型灌流液送液系1では、設置台45が利用されており、この下段面側にバッファ部17が専用のセット穴に内嵌されてセットされ、上段面にソケット47、49が専用のセット穴に内嵌されてセットされている。このソケット47、49に送液流路9、11の他端側がそれぞれ接続されている。ソケット47、49にはダックビルタイプの逆止弁が装着されており、送液方向は、送液流路9はバッファ部17に流入する方向に規制され、送液流路11はバッファ部17から流出する方向に規制されている。
【0025】
ソケット47の送液流路9の反対側の送液流路(図示省略)にはリザーバーが接続されており、ソケット49の送液流路11と反対側の送液流路(図示省略)には培養容器に収容された臓器等の検体に接続されている。
リバーザーから検体に至る全体が閉鎖系に構成されている。
ポンプユニット39の筐体39aは、設置台45と並べて設置されており、送液流路9、11とバッファ部17と連通空気路41の上記した配置関係が確保されている。
【0026】
ポンプユニット39はチューブ式のローラーポンプ仕様になっており、モーター駆動によりローラーが公転しつつ自転することで、ポンプチューブをしごくように圧閉しながら回転する。そして、回転が進んでその圧閉状態が解除される位置まで到達すると、ポンプチューブは弾性的に復元する。更に、回転して、ポンプチューブを再びしごく。この繰り返しにより、ポンプチューブの圧閉と復元が交互に繰り返される。
ローラーが圧閉しながら回転すると、連通空気路41内は陰圧になり、バッファ部17内の気相から空気Aを吸引し、ローラーの圧閉が解除されると連通空気路41内は陽圧になり、吸引した空気Aはバッファ部17内の気相中に吐き戻される。
【0027】
図4の矢印に示すように、空気Aが吸引される際には、バッファ部17の気相も追従して陰圧になるので、灌流液Kは送液流路9側から吸引されて吸引口35からバッファ部17の内部に流入する。一方、空気Aが吐き戻される際には、バッファ部17の気相は陽圧に戻るので、液相は押し下げられて灌流液Kの一部は排出口37を介して送液流路11に排出される。
この繰り返しにより、灌流液Kが送液される。すなわち、密閉されたバッファ部17の気相部分を陰陽圧に変化させて灌流液Kを送液させている。
【0028】
図5に示すように、空気Aの吸引から戻しに切り換わるタイミングでは、連通空気路41内が気相に対して相対的に陰圧で、黒矢印に示すように、気相中に空気連通口43に向かう気流の流れが形成されている状態で、気相中には白矢印に示すように空気連通口43から吐出する方向に気流の流れが形成される。従って、空気連通口43の近傍で、気流どうしがぶつかり合うことになり、ぶつかり合う箇所で先ず局所的に急激に大きな陽圧が発生する。しかしながらこの陽圧は放射状に拡がるので、その下側に位置する液相には局所的に急激に大きな陽圧が掛かることはない。すなわち、シャーレ19の底面部19aの内底面に灌流液Kを叩きつけるような負荷は掛からない。
【0029】
また、空気Aの戻しから吸引に切り換わるタイミングでは、連通空気路41内が気相に対して相対的に陽圧で、黒矢印に示すように空気連通口43から気相中に出ていく気流の流れが形成されている状態で、気相中には白矢印に示すように空気連通口43に向かう気流の流れが形成される。従って、空気連通口43の近傍で先ず局所的に急激に大きな陰圧が発生する。しかしながらこの陰圧は放射状に拡がるので、その下側に位置する液相が局所的に急激に大きな陰圧になることはない。
【0030】
バッファ部17の内部は円形になっているので、この円形サイズ効果も有利に作用して、バッファ効果が効果的に働いており、局所的に急激に大きく発生した陰陽圧は万遍なく拡がって緩やかになっている。
排出口37の主な排出部分は欠落部13bになっており、液相部分からの流れが欠落部13bを経由する一方向になって、スムーズな排出が可能になっている。
また、灌流液Kはバッファ部17内では吸引口35から気相を介して液相部分に合流するので、流入する灌流液Kに空気が混入されていても、液相に混入させずに分離される。
【0031】
灌流液Kが血液の場合には、血液中の赤血球等を極力潰さずに送液しなければならない。而して、チューブポンプ方式では、局所的に急激に大きな陰陽圧が発生するが、この完全閉鎖型灌流液送液系1では、この陰陽圧に直接灌流液Kが晒されることはないので、耐陰圧値を超えたり、シャーレ19の内面に叩きつけられたりするのが阻止されて、溶血し難くなっている。
また、体によっては、排出口37側が狭くなるので、ポンプの十分な推進力が必要になっているが、この完全閉鎖型灌流液送液系1では、ポンプユニット39のローラーがポンプチューブをほぼ完全に圧閉して、ポンプの推進力を十分に確保できる。
【0032】
図6は、別例のバッファ部51を示す、このバッファ部51は、バッファ部17と異なり、気体と液相との間に感圧弁53が設けられており、気相と液相は直に接触はしていない。感圧弁53はシリコン製の円形プレートになっており、気相の陰陽圧の変動に追従して上下動する。
送液流路9、11に代わって送液流路55、57が設けられており、この送液流路55、57は同じ構成で、送液流路11に類似している。但し、送液流路55、57側の剛性パイプ59は、剛性パイプ13と異なり、下端縁59aには欠落部はない。その下端縁59aはシャーレ19の底面部19aの内底面の近傍よりは僅かに高い位置にある。
剛性パイプ59は感圧弁53の貫通穴に対して相対的に軸方向に摺動可能に内嵌されている。
送液流路55、57は上記のように構成されており、バッファ部17内では下側の液相中で開放されている。
【0033】
また、連通空気路41に代わって連通空気路61が設けられている。この連通空気路61は連通空気路41に類似している。但し、連通空気路61側の剛性パイプ63は、剛性パイプ7と異なり、その下端面63aはシャーレ19の底面部19aの内底面の近傍に至っている。但し、下端面63aは閉塞されており、代わりに周面に円形の丸穴63bが形成されている。この丸穴63bは、送液流路55、57の互いに並列して垂下した剛性パイプ59、59の間の丁度中間の方向を向いている。
剛性パイプ63も感圧弁53の貫通穴に対して相対的に軸方向に摺動可能に内嵌されている。丸穴63bは、剛性パイプ63のバッファ部17内に垂下した部分に形成されており、感圧弁53の上下動に伴って最大限上昇したときにも、その上方に位置している。
連通空気路61は上記のように構成されており、バッファ部17内では上側の気相中で開放されている。
【0034】
灌流液Kとして血液を使用する場合には、凝固作用のある血小板が含まれていると、気相と接触することで凝固してしまうが、このタイプでは、封止状態を維持しながら気相の陰陽圧の変化に追従して上下動する感圧弁53で隔離されており、凝固が回避される。
【0035】
各部材は小型で安価なもので構成されており、このうち、シャーレ19、蓋部21、ポンプヘッドはオートクレーブ処理可能になっており、灌流液Kに晒される逆止弁や可撓性チューブ3は使い捨て用になっている。
バッファ部17を設置台45に設置し、ポンプユニット39とソケット47、49を取付け、リザーバーと検体に配管することで完全閉鎖型灌流液送液系1が完成する。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、各部材の素材や形状、更にその配置は、空気封入容積の増大・復元に追従したバッファ部の気相部分の陰陽圧の変化により、灌流液が送液されることが実現されるのであれば、変更可能になっている。
【符号の説明】
【0037】
1…完全閉鎖型灌流液送液系
3…可撓性チューブ 5…連結部 5a、5b…剛性パイプ
7…剛性パイプ 9、11…送液流路 13…剛性パイプ
13a…下端縁 13b…欠落部 15…リングシール
17…バッファ部 19…シャーレ 19a…底面部
21…蓋部 21a…天面部 21b…側面部
21c…フランジ 23、25、27…貫通穴
23a、25a…段差 29…窪み 31…凹条
33…Oリング 35…吸引口 37…排出口
39…ポンプユニット 39a…筐体 41…連通空気路
43…空気連通口 45…設置台 47、49…ソケット
51…バッファ部 53…感圧弁 55、57…送液流路
59…剛性パイプ 59a…下端縁 61…連通空気路
63…剛性パイプ 63a…下端面 63b…丸穴
A…空気 K…灌流液 L…接液面