(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054458
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】導電性編物
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20240410BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240410BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20240410BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20240410BHJP
D02G 3/12 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
B32B7/025
D04B1/14
D06M11/00 120
D02G3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160668
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴行
【テーマコード(参考)】
4F100
4L002
4L031
4L036
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB24
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4L036RA24
4L036UA06
(57)【要約】
【課題】
自由なパターン形状を有する導電部と該導電部を被覆する樹脂層とを備え、繰り返し伸長時の抵抗値上昇が抑制され、表面絶縁性に優れた導電性編物を提供する。
【解決手段】
複数の糸条から製編された編物を基体とし、該編物は内部空隙を有し、該編物の第一面の側から第二面の側へと連続する任意のパターン形状を有する導電部を備え、該導電部において以下の(A)~(D)の構成を全て備える導電性編物。(A)前記糸条の表面が金属皮膜で被覆されている(B)前記糸条同士の交差部において前記金属皮膜が合着していない(C)前記編物の内部空隙を満たし、前記導電部のパターン形状と概ね一致する形状の第一樹脂層を有する(D)前記編物の第一面と第二面とに、それぞれ前記導電部のパターン形状と概ね一致する形状の第二樹脂層が積層されている
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸条から製編された編物を基体とし、前記編物は内部空隙を有し、前記編物の第一面の側から前記第一面に対向する第二面の側へと連続する任意のパターン形状を有する導電部を備え、前記導電部において以下の(A)~(D)の構成を全て備えることを特徴とする導電性編物。
(A)前記糸条の表面が金属皮膜で被覆されている
(B)前記糸条同士が交差する交差部において前記金属皮膜が合着していない
(C)前記編物の前記内部空隙を満たし、前記導電部の前記パターン形状と概ね一致する形状の第一樹脂層を有する
(D)前記編物の前記第一面と前記第二面とに、それぞれ前記第一樹脂層の形状と概ね一致する形状の第二樹脂層が積層されている
【請求項2】
前記第一樹脂層と前記第二樹脂層とが熱可塑性樹脂からなり、前記第一樹脂層を形成する第一熱可塑性樹脂の融点が、前記第二樹脂層を形成する第二熱可塑性樹脂の融点よりも低いことを特徴とする、請求項1に記載の導電性編物。
【請求項3】
前記糸条が絶縁性繊維からなる糸条であり、且つ、前記金属皮膜が銀を主成分とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電性編物。
【請求項4】
前記導電部の外縁ECの位置と前記第一樹脂層の外縁ER1の位置とが一致していること、または、前記導電部の外縁ECの位置が前記第一樹脂層の外縁ER1の位置に対して前記導電部の前記パターン形状の内側方向にズレを有し、前記ズレの大きさが0.5mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電性織物。
【請求項5】
前記第二樹脂層の外縁ER2の位置と前記第一樹脂層の外縁ER1の位置とが一致していること、または、前記第二樹脂層の外縁ER2の位置が前記第一樹脂層の外縁ER1の位置に対して前記導電部の前記パターン形状の内側方向または外側方向にズレを有し、前記ズレの大きさが0.5mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電性編物。
【請求項6】
表面が金属皮膜で被覆された糸条を用いて製編され内部空隙を有する編物の第一面と前記第一面に対向する第二面とにそれぞれ、第一熱可塑性樹脂と第二熱可塑性樹脂とが積層された任意のパターン形状を有する複合樹脂層を前記第一熱可塑性樹脂の側から重畳し、前記第一熱可塑性樹脂が前記編物の前記内部空隙に侵入して前記内部空隙を満たす第一樹脂層を形成するように貼り合わせる積層工程と、前記複合樹脂層が積層された前記編物に対して前記金属皮膜を溶解させて除去するエッチング工程と、を有することを特徴とする導電性編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性編物に関する。詳しくは、パターン状の導電部を有し、繰り返し伸長時の抵抗値上昇が抑制された導電性編物に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性を有する導電回路部材としては、高分子フィルム上に金属箔による回路が形成された所謂フレキシブル回路基板が知られている。より柔軟性が求められる用途においては、繊維材料からなる布帛上に回路を形成した導電回路布帛も提案されている。更に、ある程度の伸縮性を有する導電回路部材が求められており、布帛のなかでも編物を基材とした導電回路布帛に関する提案がなされている。
【0003】
特許文献1では、導電糸で編成された複数本の細幅帯状の導電性編地領域が、ポリウレタン弾性糸からなる絶縁糸を地糸に用いて編成された絶縁性編地領域を挟んで併設されたシート状ハーネス生地が開示されている。
【0004】
出願人は特許文献2において、布帛の少なくとも一部に、導電パターン部と、該導電パターン部を被覆する絶縁性樹脂膜とを有する導電性布帛を提案している。導電パターン部を形成する手段として、所望の導電パターンとは逆となるパターンでめっきレジスト層を布帛上に形成し、次いで無電解めっき処理を行なった後レジスト層を除去する方法を開示している。この方法によって、自由度の高い導電パターンを形成できるとしている。更に、絶縁性樹脂膜による導電パターン部の被覆方法としては、電着塗装法を用いることで極めて薄く均一な樹脂膜を形成することが可能であるとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の導電性編地領域は、その形状の自由度が低く、多様なパターンからなる回路を形成するには不向きである。特許文献2に記載の導電性布帛においては、自由な形状の導電パターン部を形成することが可能である。しかし、布帛を構成した後にめっき処理による導電パターン部を形成するため、布帛を構成している糸条の交差部分がめっきによる金属皮膜で合着されてしまう。布帛を構成している糸条の交差部分が金属皮膜で合着されていると、布帛の伸長などによる変形の際にこの金属皮膜が変形に追従できず、破壊されてしまうこととなる。その結果、繰り返し伸長時に抵抗値が上昇してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-99976号公報
【特許文献2】特開2017-24185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、自由なパターン形状を有する導電部を備え、繰り返し伸長時の抵抗値上昇が抑制された導電性編物を提供することを課題とする。また、前記導電部を被覆する樹脂層を有し、表面絶縁性に優れた導電性編物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行なった結果、表面を金属皮膜で被覆された糸条からなる編物において、導電部となす部分に樹脂層を形成した後、導電部以外の部分の金属を除去することで上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、樹脂層を低融点熱可塑性樹脂と高融点熱可塑性樹脂との二成分から構成することで、表面の絶縁性を高めることを可能とした。
【0009】
すなわち、本発明の導電性編物は、複数の糸条から製編された編物を基体とし、前記編物は内部空隙を有し、前記編物の第一面の側から前記第一面に対向する第二面の側へと連続する任意のパターン形状を有する導電部を備え、前記導電部において以下の(A)~(D)の構成を全て備えることを特徴とする導電性編物である。
(A)前記糸条の表面が金属皮膜で被覆されている
(B)前記糸条同士が交差する交差部において前記金属皮膜が合着していない
(C)前記編物の前記内部空隙を満たし、前記導電部の前記パターン形状と概ね一致する形状の第一樹脂層を有する
(D)前記編物の前記第一面と前記第二面とに、それぞれ前記第一樹脂層の形状と概ね一致する形状の第二樹脂層を有する。
【0010】
これによれば、導電部に存在する糸条の交差部で金属皮膜の合着がないため、繰り返し伸長時の抵抗値上昇が抑制された導電性編物を提供することができる。また、前記導電部の表面が第二樹脂層によって被覆されているため、絶縁性にも優れた導電性編物を提供することができる。
【0011】
前記第一樹脂層と前記第二樹脂層とが熱可塑性樹脂からなり、前記第一樹脂層を形成する第一熱可塑性樹脂の融点が、前記第二樹脂層を形成する第二熱可塑性樹脂の融点よりも低いことが好ましい。これによれば、簡易な工程で前記導電性編物を製造することが可能となる。また、前記糸条が絶縁性繊維からなる糸条であり、且つ、前記金属皮膜が銀を主成分とすることが好ましい。これによれば、より柔軟性が高く導電性にも優れた導電性編物を提供することができる。
【0012】
前記導電部の外縁ECの位置と前記第一樹脂層の外縁ER1の位置とが一致していること、または、前記導電部の外縁ECの位置が前記第一樹脂層の外縁ER1の位置に対して前記導電部の前記パターン形状の内側方向にズレを有し、前記ズレの大きさが0.5mm以下であることが好ましい。
【0013】
更に、前記第二樹脂層の外縁ER2の位置と前記第一樹脂層の外縁ER1の位置とが一致していること、または、前記第二樹脂層の外縁ER2の位置が前記第一樹脂層の外縁ER1の位置に対して前記導電部の前記パターン形状の内側方向または外側方向にズレを有し、前記ズレの大きさが0.5mm以下であることが好ましい。
【0014】
また本発明の導電性編物の製造方法は、表面が金属皮膜で被覆された糸条を用いて製編され内部空隙を有する編物の第一面と前記第一面に対向する第二面とにそれぞれ、第一熱可塑性樹脂と第二熱可塑性樹脂とが積層された任意のパターン形状を有する複合樹脂層を前記第一熱可塑性樹脂の側から重畳し、前記第一熱可塑性樹脂が前記編物の前記内部空隙に侵入して前記内部空隙を満たす第一樹脂層を形成するように貼り合わせる積層工程と、前記複合樹脂層が積層された前記編物に対して前記金属皮膜を溶解させて除去するエッチング工程と、を有することを特徴とする導電性編物の製造方法である。これによれば、簡易な方法で繰り返し伸長時の抵抗値上昇が抑制され、絶縁性にも優れた導電性編物を製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自由なパターン形状の導電部を備え、繰り返し伸長時の抵抗値上昇が抑制された導電性編物を提供することができる。また、前記導電部を被覆し保護する樹脂層を有しており、絶縁性に優れた導電性編物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の導電性編物の構成を示す概略断面図である。
【
図2A】本発明の導電性編物の製造方法の工程を説明する概略断面図である。
【
図2B】本発明の導電性編物の製造方法の工程を説明する概略断面図である。
【
図3】糸条表面の金属皮膜が合着している例を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の導電性編物は、複数の糸条から製編された編物を基体としている。本発明で用いられる糸条は絶縁性繊維からなることが好ましい。絶縁性繊維としては、綿、麻などの天然繊維、キュプラ、レーヨンなどの再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維が挙げられ、特に限定されない。強度、耐薬品性の観点から合成繊維であることが好ましい。
【0018】
糸条の総繊度は10~100dtexであることが好ましい。糸条の総繊度がこの範囲内であると、軽さ、柔軟性という点で有利である。
【0019】
編物の組織としては特に限定されず、丸編み、トリコット、ラッセル、緯編みなどのいずれも使用することができる。組織に依らず、前記編物は内部空隙を有している。前記内部空隙とは、前記糸条同士の間に形成される空間のことである。また、前記糸条が複数の短繊維やフィラメントの集合体である場合、前記糸条そのものの内部にも空隙を有しており、これも含めて前記内部空隙と捉えることができる。
【0020】
本発明の導電性編物においては、前記編物の第一面の側から前記第一面に対向する第二面の側へと連続する任意のパターン形状を有する導電部を備えている。すなわち、前記編物を第一面の側から見た場合の前記導電部と、前記第二面の側から見た場合の前記導電部が概ね同一の形状で、概ね同一の位置に配置されており、前記編物の厚さ方向にも導通性を有していることを意味する。もちろん、前記導電部は前記パターン形状内においては平面方向に関しても導通性を有している。
【0021】
本発明の導電性編物に関して、前記導電部においては以下の(A)~(D)の構成を全て備えることが必須である。
(A)前記糸条の表面が金属皮膜で被覆されている
(B)前記糸条同士が交差する交差部において前記金属皮膜が合着していない
(C)前記編物の前記内部空隙を満たし、前記導電部の前記パターン形状と概ね一致する形状の第一樹脂層を有する
(D)前記編物の前記第一面と前記第二面とに、それぞれ前記導電部の前記パターン形状と概ね一致する形状の第二樹脂層が積層されている
【0022】
(A)前記糸条の表面が金属皮膜で被覆されている。金属皮膜を構成する金属としては、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、スズなどが挙げられる。導電性の観点から金、銀、銅などであることが好ましい。更に、伸長時の糸条の変形に追従しやすいという観点から銀であることが好ましい。前記糸条の表面に前記金属皮膜を形成する方法としては、蒸着法やスパッタリング法、電気めっきや無電解めっきといった湿式めっき法などが挙げられる。
【0023】
前記金属皮膜の厚さは0.1~0.5μmであることが好ましい。前記金属皮膜の厚さがこの範囲内であれば、糸の柔軟性が維持できるという効果が得られる。前記金属皮膜で被覆された前記糸条の導電性の指標となる抵抗率は200~600Ω/mであることが好ましい。抵抗率がこの範囲内であれば、優れた導電性を得ることができる。
【0024】
(B)前記糸条同士が交差する交差部において前記金属皮膜が合着していない。つまり、特許文献2に記載の導電性布帛のように、布帛を構成している糸条の交点部分がめっきによる金属皮膜で固定されていない。金属皮膜の合着について、
図3を用いて説明する。
図3は金属めっきされた繊維糸条の電子顕微鏡写真である。ここでは隣り合うモノフィラメント同士の交差部の電子顕微鏡写真を用いて合着について説明するが、編物組織中の糸条同士の交差部においても同様のことがいえる。
図3中、丸で囲んだ部分Aにおいて、隣り合う糸と糸との間に金属皮膜の合着が見られる。隣り合う糸それぞれの表面に金属めっきによって形成された金属皮膜が、糸と糸との交差部を乗り越えて、これらの糸同士を橋渡しするように繋いでいる。このような金属皮膜の合着が形成されると、糸同士が固定されてしまい、自由に動くことが抑制される。また、無理に糸を動かした場合には、金属皮膜が合着部分で割けてしまう。その結果、導通性が低下するという欠点が生じる。前記導電部における前記糸条同士の交差部で前記金属皮膜が合着していないという構成を実現する製造方法の一例としては、予め表面に金属皮膜が形成された糸条によって編物を形成した後、導電部以外の部分について前記糸条の表面に存在する前記金属皮膜をエッチング法などによって除去する方法が挙げられる。詳細については後述する。
【0025】
(C)前記編物の前記内部空隙を満たし、前記導電部の前記パターン形状と概ね一致する形状の第一樹脂層を有する。
図1に示すように、特定のパターン形状を備えた導電部3においては、前記編物2の前記内部空隙を満たすように、第一樹脂層4が形成されている。前記第一樹脂層4の形状は、前記導電部3の前記パターン形状と概ね一致することが肝要である。ここで、概ね一致するとは、前記導電部3の外縁の位置と前記第一樹脂層4の外縁の位置とが概ね同じであることを意味する。
図1の例では、導電部3の外縁E
Cは第一樹脂層4の外縁E
R1よりも幾分内側方向にズレを有して位置している。概ね一致の条件としては、前記導電部3の外縁E
Cの位置と前記第一樹脂層4の外縁E
R1の位置とのズレが0.5mm以下の範囲であることが好ましい。更に、前記導電部3の外縁E
Cの位置が、前記第一樹脂層4の外縁E
R1の位置よりも内側であることが好ましい。
【0026】
(D)前記編物の前記第一面と前記第二面とに、それぞれ前記第一樹脂層の形状と概ね一致する形状の第二樹脂層が積層されている。
図1に示すように、前記編物の第一面と第二面とには、それぞれ第二樹脂層51と第二樹脂層52が設けられる(以降、第二樹脂層51と第二樹脂層52とを区別しない場合は単に第二樹脂層5ともいう)。ここで、前記第二樹脂層5の形状は、前記第一樹脂層4の形状と概ね一致している。概ね一致とは、上述の導電部3と第一樹脂層4との場合と同様であるが、前記第一樹脂層4の外縁の位置と前記第二樹脂層5の外縁の位置とが概ね同じであることを意味する。
図1の例では、前記第二樹脂層51の外縁E
R2は前記第一樹脂層4の外縁E
R1よりも幾分内側方向にズレを有して位置している。本願における概ね一致の条件としては、前記第二樹脂層5の外縁E
R2の位置と前記第一樹脂層4の外縁E
R1の位置とのズレが0.5mm以下の範囲であることが好ましい。もちろん前記第二樹脂層5の外縁E
R2の位置と前記第一樹脂層4の外縁E
R1の位置とが完全に一致していてもよい。第二樹脂層5の外縁E
R2の位置は、前記第一樹脂層4の外縁E
R1の位置よりも内側であってもよいし、外側であってもよい。
【0027】
前記第一樹脂層4と前記第二樹脂層5とを構成する樹脂は、共に熱可塑性樹脂であることが好ましい。更に、前記第一樹脂層4を形成する第一熱可塑性樹脂の融点が、前記第二樹脂層5を形成する第二熱可塑性樹脂の融点よりも低いことが好ましい。第一熱可塑性樹脂の融点としては、50~100℃であることが好ましい。また、第二熱可塑性樹脂の融点としては、60~200℃であることが好ましい。更に、第一熱可塑性樹脂の融点と第二熱可塑性樹脂の融点との差が5~100℃であることが好ましい。
【0028】
このような条件を満たす第一熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタンなどの樹脂を例示することができる。なかでも、後述するエッチング薬液耐性という観点からポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン樹脂であることが好ましい。更に、伸縮性という観点からポリウレタン樹脂であることがより好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂の伸縮性に関しては、100%伸びにおける引張応力が10MPa以下であることが好ましい。100%伸びにおける引張応力の測定方法はJIS K6251法に準ずる。
【0030】
同様に第二熱可塑性樹脂としても、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタンなどの樹脂を例示することができる。なかでも、後述するエッチング薬液耐性という観点からポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン樹脂であることが好ましい。更に、伸縮性に優れるという観点からポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0031】
前記編物の前記第一面に設けられた第二樹脂層51または前記第二面に設けられた第二樹脂層52の厚さは、それぞれ5~150μmであることが好ましい。前記第二樹脂層5の厚さがこの範囲内であれば、柔軟性と伸縮性に優れた導電性編物を得ることができる。前記導電性編物1の前記第一面S1側の前記第二樹脂層51の厚さと、前記第二面S2側の前記第二樹脂層52の厚さとは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0032】
前記導電部の外縁ECの位置と前記第一樹脂層の外縁ER1の位置とが一致していること、または、前記導電部の外縁ECの位置が前記第一樹脂層の外縁ER1の位置に対して前記導電部の前記パターン形状の内側方向にズレを有し、前記ズレの大きさが0.5mm以下であることが好ましい。これによれば、前記導電部3が完全に保護され、絶縁性に優れた導電性編物1を得ることができる。例えば、本発明の導電性編物1が水分を含んだ状態となっても、十分な絶縁性を示すことができる。このような構成により絶縁性に特に優れた導電性編物1を提供することができる。
【0033】
更に、前記第二樹脂層の外縁ER2の位置と前記第一樹脂層の外縁ER1の位置とが一致していること、または、前記第二樹脂層の外縁ER2の位置が前記第一樹脂層の外縁ER1の位置に対して前記導電部の前記パターン形状の内側方向または外側方向にズレを有し、前記ズレの大きさが0.5mm以下であることが好ましい。これによれば、前記導電部3の表面部分も完全に被覆され、絶縁性に優れた導電性編物1を得ることができる。
【0034】
本発明の導電性編物の製造方法について図を参照しながら詳述する。
図2Aは本発明の導電性編物の製造方法の一例における最初のステップを示している。まず、表面が金属皮膜で被覆された糸条を用いて製編され内部空隙を有する編物2を用意する。前記編物2は、このステップでは全体が導電性を呈しており、換言すれば全体が導電部3であるとも言える。前記編物2とは別に、離型紙61の一方の面に第二熱可塑性樹脂を塗布して所望のパターン形状を有する第二樹脂層51を形成する。更に、前記第二樹脂層51上に第一熱可塑性樹脂を塗布し、前記第二樹脂層51と概ね同形状の第一樹脂層41を形成して所望のパターン形状を有する複合樹脂層を得る。同様に、離型紙62の一方の面にも第二樹脂層52と第一樹脂層42とを重ねて形成し、所望のパターン形状を有する複合樹脂層を得る。
【0035】
次に、前記編物2の第一面S1に対し、前記離型紙61-第二樹脂層51-第一樹脂層41の順に積層された複合樹脂層のうち前記第一樹脂層41の側を重畳する。同時に、前記編物2の第二面S2に対し、前記離型紙62-第二樹脂層52-第一樹脂層42の順に積層された複合樹脂層のうち前記第一樹脂層42の側を重畳する。そして、加熱、加圧などの手段を用いて前記第一樹脂層41と前記第一樹脂層42とが前記編物2の内部空隙に侵入し、これを満たすように貼り合わせる(積層工程)。ここで、前記第一樹脂層41、42を構成する前記第一熱可塑性樹脂の融点以上に加熱しながら加圧することにより、前記第一樹脂層41と42とが前記編物2の内部空隙に侵入しこれを満たすことを容易に達成できる。更に、前記第二樹脂層51と52を構成する前記第二熱可塑性樹脂の融点を、前記第一熱可塑性樹脂の融点よりも高くなるように形成しておけば、前記第一熱可塑性樹脂の融点よりも高く前記第二熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度となるように複合樹脂層を加熱しながら加圧することにより、前記第一樹脂層41、42のみが軟化して前記編物2の内部空隙に侵入し、前記第二樹脂層51、52は軟化せずに前記編物2の第一面S1、第二面S2上に積層されることとなる。従って
図2Bに示すように、前記第二樹脂層51、52は当初設定したパターン形状を保持したまま前記編物2の第一面S1、第二面S2上に積層される。
【0036】
上記積層工程においては、前記第一面S1側に重畳し編物2の内部空隙に侵入した前記第一樹脂層41と、前記第二面S2側に重畳し編物2の内部空隙に侵入した前記第一樹脂層42とが、前記編物2の内部空隙において連結して一体となり、一つの第一樹脂層4として形成されていることが好ましい。これを達成するためには、編物2の厚さや内部空隙率を考慮して前記第一熱可塑性樹脂の塗布量を決定すればよい。上記例の他に、第一面S1の側に前記離型紙61-第二樹脂層51-第一樹脂層41の順に積層された複合樹脂層を用意し、第二面S2の側には前記離型紙62-第二樹脂層52のみの樹脂層を用意して同様の積層工程を実施してもよい。このとき前記第一樹脂層41は、前記編物2の内部空隙を第一面S1側から第二面S2側まで全て満たすだけの厚さで形成されていることが必要である。また、一体となった前記第一樹脂層4の外縁ER1の位置と、前記編物2の第一面S1、第二面S2上に積層された前記第二樹脂層5の外縁ER2の位置とが概ね一致するように、あるいはズレの大きさが0.5mm以下となるように前記第一熱可塑性樹脂の塗布量を決定することが好ましい。
【0037】
上記積層工程の後、前記離型紙61、62が取り除かれる。そして、前記編物2のうち前記複合樹脂層が積層されていない部分の前記金属皮膜を除去するエッチング工程が実施される。これにより前記複合樹脂層が積層された部分の前記金属皮膜のみが残留し、所望のパターン形状を有する導電部3が形成される。エッチング工程は、前記複合樹脂層が部分的に積層されている前記編物2を、金属を溶解し得るエッチング液に浸漬する方法が採用される。金属皮膜が銀を主成分とする場合、エッチング液の組成は硝酸、リン酸、酢酸の混合液であることが好ましい。また浸漬条件としては10~40℃にて10~120秒間であることが好ましい。その後水洗、中和処理などを行い、乾燥処理が適宜実施されて本発明の導電性編物1が得られる。
【0038】
エッチング工程で使用されるエッチング液の組成、処理条件や前記編物2を構成する糸条の形態、編密度、編物2の目付などによっては、エッチング液が前記第一樹脂層4の外縁E
R1から幾分浸透をしてその内部の金属皮膜までをも溶解することがあり得る。その場合、
図1に示すように第一樹脂層4の外縁E
R1の位置よりも、導電部3の外縁E
Cの位置が内側方向にズレを有して配された構成となる。このズレは、上述したように0.5mm以下の範囲であることが好ましい。
【実施例0039】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、本実施例における各種物性の評価方法は以下の通りである。
【0040】
<繰り返し伸長試験時の抵抗値上昇>
20mm×90mmの試験片を準備し、伸長試験機(ユアサシステム機器株式会社製)に固定する。この時、両端の固定具間の距離を60mmとする。振幅12mm(伸長率20%)に設定し、50rpmで10万回の繰り返し伸長を行う。
【0041】
上記試験片の両端に抵抗計(日置電機株式会社製RM3545-02RESISTANCE METER)のクリップ端子をとりつけ、繰り返し伸長試験中の抵抗値を計測する。計測頻度は2秒毎で、繰り返し伸長試験が終わるまで連続的に抵抗値をモニタリングする。伸長試験開始前の抵抗値をR0、伸長試験開始後99,900~100,000回の間に計測された抵抗値の最大値をRとして、抵抗値上昇率を以下の計算式で算出する。
抵抗値上昇率(%)=(R-R0)/R0×100
【0042】
<表面絶縁性>
作製した試験片の導電パターン上に、抵抗計(Keithley Instruments社製2010MULTIMETER、最大抵抗値計測レンジ100MΩ)の+、-端子を5cmの距離で押し当てる。N3回計測し、抵抗値が表示されなければ「導通なし」と判定する。ここで、抵抗値が表示されないとは、抵抗計の測定上限100MΩを超える抵抗値を有するということであり、表面絶縁性に優れていると判定できる。また、1回でも抵抗値が表示されれば「導通あり」で表面絶縁性が低いと判定する。
【0043】
[実施例1]
導電糸として銀メッキ糸(セーレン株式会社製、銀皮膜厚さ0.2μm;抵抗値350Ω/m;芯糸ポリエステル)を用いて導電性編物を作製した。この導電糸はフィラメント数12本のマルチフィラメント糸であり、総繊度は40dtexである。製編は丸編み機を用いて天竺組織に仕立て、85コース/インチ、50ウェール/インチの筒状の導電性編物を得た。
【0044】
離型紙の一方の表面に、厚さ110μm、融点110℃、100%伸びにおける引張応力が3.2MPaであるウレタン樹脂が積層された熱可塑性エラストマーフィルム3914(BEMIS社製)を第二熱可塑性樹脂として準備した。このウレタン樹脂の表面に、厚さ30μm、融点98℃、100%伸びにおける引張応力が4.0MPaであるウレタン樹脂と離型紙とが一体となった熱可塑性エラストマーフィルムUH203(日本マタイ株式会社製)を第一熱可塑性樹脂として重畳し、株式会社ハシマ製転写プレス機;HP-4536A-12を用いて100℃、15秒、0.03MPaにて熱圧着をして貼り合わせた。その後、熱可塑性エラストマーフィルムUH203側の離型紙を剥離し、熱可塑性エラストマーフィルム3914のウレタン樹脂層と熱可塑性エラストマーフィルムUH203のウレタン樹脂層のみをCO2レーザーにて、5mm×100mmの矩形形状にカットし、残余の部分を除去して複合樹脂層を形成した。同様の矩形形状を有する複合樹脂層を有する離型紙をもう一枚形成した。
【0045】
上記2つの複合樹脂層を有する離型紙を、熱可塑性エラストマーフィルムUH203の側が前記導電性編物のオモテ面とウラ面とに当接するように積層し、0.03Mpa、145℃、30秒の条件で熱圧着した。その後離型紙を剥離し、第一樹脂層と2つの第二樹脂層とを有する導電性編物を得た。
【0046】
得られた導電性編物をエッチング液(林純薬工業株式会社製、PUREETCH AS135)に浸漬し、25℃で30秒間のエッチング処理を行なった。エッチング処理後、イオン交換水にて洗浄し、50℃にて乾燥させてパターン状の導電部を有する導電性編物を得た。得られた導電性編物について、導電部の外縁は第一樹脂層の外縁に対して内側にズレを有しており、そのズレの大きさは0.02mmであった。第一樹脂層の外縁は第二樹脂層の外縁に対して外側にズレを有しており、そのズレの大きさは0.16mmであった。導電部を電子顕微鏡で観察したところ、
図3のような糸条同士の交差部における金属皮膜の合着は確認されなかった。伸長率20%の繰り返し伸長10万回後の抵抗値上昇率は61%であった。また、表面絶縁性の結果は「導通なし」であった。
【0047】
[比較例1]
実施例1で得られた導電性編物をジメチルホルムアミドに浸漬し、第一樹脂層と第二樹脂層とを溶解させて除去した。導電部を電子顕微鏡で観察したところ、
図3のような糸条同士の交差部における金属皮膜の合着は確認されなかった。伸長率20%の繰り返し伸長10万回後の抵抗値上昇率は44%であった。第一樹脂層、第二樹脂層ともに除去されているため、表面絶縁性の試験結果は3.7Ωであり、「導通あり」であった。
【0048】
[比較例2]
総繊度33dtex、フィラメント数12本のマルチフィラメントポリエステル糸(蝶理株式会社製)を用いて、丸編み機にて天竺組織に仕立てた。得られた天竺編物の編密度は、89コース/インチ、38ウェール/インチであった。この編物を常温で30秒間、塩化パラジウム0.3g/L、塩化第一錫30g/L、36%塩酸300mL/Lを含む水溶液に浸漬後、十分に水洗をした。次いで、40℃で1分間、酸濃度0.1Nのホウ弗化水素酸に浸漬後、十分に水洗をした。次いで、40℃で15分間、塩化第二銅9g/L、37%ホルマリン9mL/L、32%水酸化ナトリウム40mL/L、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン20g/L及び安定化剤を含む溶液に浸漬し、編物上に30g/m
2で銅皮膜を形成させた。編物を十分に水洗し、50℃にて乾燥させた。以降は実施例1と同様にしてパターン状の導電部を有する導電性編物を得た。得られた導電性編物について、導電部の外縁は第一樹脂層の外縁に対して内側にズレを有しており、そのズレの大きさは0.14mmであった。第一樹脂層の外縁は第二樹脂層の外縁に対して外側にズレを有しており、そのズレの大きさは0.25mmであった。導電部を電子顕微鏡で観察したところ、
図3と同様の糸条同士の交差部における金属皮膜の合着が確認された。伸長率20%の繰り返し伸長10万回後の抵抗値上昇率は427%であった。また、表面絶縁性の結果は「導通なし」であった。
【0049】