(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054464
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】温室効果ガス削減量試算方法、温室効果ガス削減量試算装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240410BHJP
【FI】
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160682
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】太田 望
(72)【発明者】
【氏名】村上 宏次
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文人
(72)【発明者】
【氏名】菊本 悦司
(72)【発明者】
【氏名】熊野 直人
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】複数の物件を有する企業の将来の全体の物件の温室効果ガス削減量を容易に試算できる。
【解決手段】複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングする工程と、前記施設群の中から代表物件を選定する工程と、前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算する工程とを含む。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングする工程と、
前記施設群の中から代表物件を選定する工程と、
前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算する工程と
を含む温室効果ガス削減量試算方法。
【請求項2】
前記クラスタリングは、延床面積と築年数とを指標にして行うようにした請求項1に記載の温室効果ガス削減量試算方法。
【請求項3】
前記代表物件は、当該代表物件が属する施設群の中で、前記延床面積及び築年数が最も平均に近いものを選定するようにした請求項2に記載の温室効果ガス削減量試算方法。
【請求項4】
前記代表物件は、当該代表物件が属する施設群における延床面積の平均値との標準化差分と築年数の平均値との標準化差分とを重み付け加算した値を評価値とし、当該評価値が最も小さいものを選定するようにした請求項2に記載の温室効果ガス削減量試算方法。
【請求項5】
複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングするクラスタリング処理部と、
前記施設群の中から代表物件を選定する代表物件選定部と、
前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算する排出量試算部と
を備える温室効果ガス削減量試算装置。
【請求項6】
複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングするステップと、
前記施設群の中から代表物件を選定するステップと、
前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算するステップと
を含むコンピュータにより実行可能なプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室効果ガス削減量試算方法、温室効果ガス削減量試算装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
2020年のカーボンニュートラル宣言により、2050年に実質的に温室効果ガス排出量をゼロにするという目標が設定された。この目標を達成するために、省エネ機器の導入や建物の省エネルギー改修等の対策が検討されている。また、近年の空調機器では、温室効果ガスの削減のために、各種の省エネ技術が導入されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物(施設、物件とも称する)の温室効果ガス排出量の削減を図るためには、現状の物件の規模や空調機器の設備の情報を把握し、また、物件の改修の有無、将来の改修計画等の情報から、将来の温室効果ガスの排出量を試算して、定めた目標達成に向けた対策を検討していく必要がある。
【0005】
また、カーボンニュートラルのための特別な対策とは別に、物件の老朽化とともに、空調機器や照明機器の更新が必要になる。特許文献1に記載されているように、新規の空調機器や照明機器には、様々な省エネ技術が導入されていることから、老朽化設備の現在の製品への単純更新(以下、「単純更新」と称する)により、温室効果ガスの排出量は削減される。したがって、将来(例えば、2030年や2050年)の温室効果ガスの排出量と目標排出量との誤差(エミッションギャップ)を把握するためには、老朽化設備の単純更新による将来の温室効果ガスの削減量を試算する必要がある。
【0006】
物件単体については、現状の物件の規模や空調機器情報や機器の更新履歴から、現状の物件のエネルギー消費量を試算し、物件の改修計画等から、老朽化設備の単純更新によるエネルギー削減量を試算することができる。このような試算に基づいて、老朽化設備の単純更新による温室効果ガスの排出量と目標排出量とのエミッションギャップを把握することができる。ところが、銀行や生命保険会社のように、本店、支店、出張所のような多くの施設(多棟施設)を保有する企業では、全ての施設について建築仕様や設備仕様、機器の更新履歴、物件の改修計画等の情報を取得することは容易ではない。このため、現状では、保有する物件全体でのエミッションギャップを検討、実施しようとすることは非常に大きな負荷がかかる。
【0007】
上述の課題を鑑み、本発明は、複数の施設を有する所有者の将来の全体の施設の温室効果ガス削減量を容易に試算できる温室効果ガス削減量試算方法、温室効果ガス削減量試算装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる温室効果ガス削減量試算方法は、複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングする工程と、前記施設群の中から代表物件を選定する工程と、前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算する工程とを含む。
【0009】
本発明の一態様にかかる温室効果ガス削減量試算装置は、複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングするクラスタリング処理部と、前記施設群の中から代表物件を選定する代表物件選定部と、前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算する排出量試算部とを備える。
【0010】
本発明の一態様にかかるプログラムは、複数の物件をエネルギー消費環境の類似する施設群にクラスタリングするステップと、前記施設群の中から代表物件を選定するステップと、前記代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量を試算し、当該代表物件とされた物件の温室効果ガス削減量の試算値に基づいて、当該代表物件と同じ施設群に属する物件についての温室効果ガス削減量を試算するステップとを含むコンピュータにより実行可能なプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、代表物件として選定された物件を対象として温室効果ガス削減量を試算しているので、複数の物件の全体の温室効果ガス削減量を容易に試算できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態にかかる温室効果ガス削減量試算システムの概要の説明図である。
【
図2】本発明の実施形態にかかる温室効果ガス削減量試算システムにおける計算端末の構成を示すブロック図である。
【
図3】延床面積-棟数の評価を行ったヒストグラムの一例のグラフである。
【
図4】規模別評価を行ったヒストグラムの一例のグラフである。
【
図5】延床面積上位順の累計延床面積の一例のグラフである。
【
図6】一次エネルギー消費量の上位順の累計の一例のグラフである。
【
図7】延床面積とエネルギー消費量とからなる平面上に各物件をプロットしたグラフである。
【
図8】本発明の実施形態におけるクラスタリングの説明図である。
【
図9】本発明の実施形態におけるクラスタリングの説明図である。
【
図10】本発明の実施形態における代表物件の選定の説明図である。
【
図11】本発明の実施形態における代表物件の選定の説明図である。
【
図12】本発明の実施形態にかかる温室効果ガス削減量試算システムにおける計算端末の機能に基づくブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる温室効果ガス削減量試算システム1の概要を示す。
図1に示すように、本実施形態にかかる温室効果ガス削減量試算システム1は、データ提供部10と計算端末20とから構成される。
【0014】
データ提供部10は、物件11a、11b、11c、…の温室効果ガス削減量の算出に関する各種の情報を提供する。データ提供部10の提供する情報としては、各物件11a、11b、11c、…の名称、建物用途、竣工年、規模(延床面積)、エネルギー消費量、施設(以下、物件とも称する)の改修履歴(改修内容、年度)、物件の改修予定等の情報(以下、物件データと称する)と、各物件11a、11b、11c、…で各月で消費する電力、ガス、油類、水道等の情報(以下、エネルギーデータと称する)である。
【0015】
ここで、物件11a、11b、11c、…は、例えば銀行や生命保険会社のように多くの物件施設を保有する所有者(企業)の物件であり、本社ビルのように、建物全体を示す場合もあれば、出張所のように、建物の一部の階層や部屋のような場合もあり、建物用途は様々である。このように、複数の物件11a、11b、11c、…からなる施設は、多棟物件と称する。なお、本実施形態では、データ提供部10は、物件データやエネルギーデータを全て提供する必要はなく、各物件11a、11b、11c、…の規模(延床面積)、竣工年の情報、建物用途を提供している。物件データには設備仕様や改修の有無については、記載されていないケースもあるため、主に規模(延床面積)、竣工年の情報(築年数)、建物用途を用いることで、把握可能な情報を基に、後述する分析を行うことができる。
【0016】
データ提供部10は、物件11a、11b、11c、…を保有する保有者が管理している。物件の保有者は、管理している情報から物件データやエネルギーデータを抽出し、汎用の記録媒体に記録して、データ提供部10として計算端末20に提供している。また、物件の保有者は、物件データやエネルギーデータをサーバに記録し、このサーバの情報をデータ提供部10として計算端末20に提供してもよい。更に、物件データやエネルギーデータは、紙上の資料をデータ提供部10として提供し、手作業で計算端末20に入力してもよい。
【0017】
計算端末20は、データ提供部10から各物件11a、11b、11c、…の物件データとエネルギーデータとを取得し、将来の温室効果ガス削減量やエミッションギャップを試算する。本実施形態では、計算端末20は、各物件11a、11b、11c、…を複数の施設群にクラスタリングし、各施設群の中から代表物件を選出し、この代表物件の情報を用いて、物件11a、11b、11c、…全体の将来の老朽化設備の単純更新による温室効果ガス削減量やエミッションギャップを試算している。
【0018】
図2は、計算端末20の構成を示すブロック図である。この計算端末20は、例えばパーソナルコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)21と、ROM(Read Only Memory)22と、RAM(Random Access Memory)23と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等のストレージデバイス24と、表示部25と、操作受付部26と、通信部27と、インターフェース部28とを備える。また、各ブロック間における各信号のやりとりは、バス29を介して行われる。
【0019】
CPU21は、各種制御プログラムに基づいて、計算端末20の各部を制御する。ROM22は、読み出し専用のメモリであり、各種制御プログラム等を記憶する。RAM23は、CPU21のメインメモリ(主記憶装置)に用いられるメモリであり、CPU21において実行されるプログラムの作業領域等を記憶する。ストレージデバイス24は、各種アプリケーションプログラム等が格納されている。ストレージデバイス24には、本実施形態にかかるアプリケーションプログラム200がインストールされている。
【0020】
表示部25は、CPU21の制御に基づいて各種情報を表示する。表示部25としては、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等のディスプレイを用いることができる。操作受付部26は、各種入力キーからなるキーボードやマウス(ポインティングデバイス)を備え、これらのマウス等から操作入力を受け付けると、受け付けた操作入力の内容をCPU21に出力する。通信部27は、CPU21の制御に基づいて、データ提供部10との間で各種情報の送受信を実行する。インターフェース部28は、各種外付け機器を接続するインターフェースである。外部の記憶媒体からの情報は、インターフェース部28を介して、入出力できる。
【0021】
次に、計算端末20による温室効果ガス削減量の試算について説明する。CO2のような温室効果ガスの排出量は、冷暖房等に使用される空調機器のエネルギー消費量と関連している。このようなエネルギー消費量は、物件の延床面積に依存して、増大すると考えられる。このことから、温室効果ガスの排出量の傾向は、物件の延床面積(規模)により評価できると考えられる。まず、物件の延床面積(規模)について考察する。
【0022】
図3は、延床面積-棟数の評価を行ったヒストグラムの一例である。
図3において、横軸は延床面積の範囲を示し、縦軸はその範囲に属する物件の棟数を示している。すなわち、
図3は、物件データから各物件11a、11b、11c、…の延床面積の情報を取得し、延床面積順にソートし、各延床面積の範囲に属する物件の棟数をヒストグラムで表示したものである。この例では、物件11a、11b、11c、…の中で、延床面積が1000m
2以下の物件の棟数は132棟であり、延床面積が1000m
2から2000m
2の物件の棟数は24棟である。以下、延床面積の範囲毎に、その範囲に属する物件の棟数が示されている。延床面積が最大の物件は、36000m
2から37000m
2であり、その棟数は1棟である。このヒストグラムから、殆どの物件は2000m2以下であるが、それ以上の延床面積となる物件が2000m
2から37000m
2の間に分散していることがわかる。このような延床面積の分散から、大規模、中規模、小規模をどのような延床面積で分類するかを把握できる。
【0023】
図4は、延床面積の分散から大規模、中規模、小規模を分類し、規模別評価を行ったヒストグラムの一例である。
図4において、横軸は規模を示し、縦軸は各規模に属する物件の棟数を示している。この例では、
図3に示したヒストグラムを基に、延床面積が300m
2以下を小規模、300m
2から2000m
2を中規模、2000m
2以上を大規模としている。この例では、物件11a、11b、11c、…の中で、小規模となる物件の棟数は10棟であり、中規模となる物件の棟数は146棟であり、大規模となる物件の棟数は18棟である。
【0024】
図5は、延床面積上位順の累計延床面積の一例である。
図5において、横軸は上位順に累積した物件の棟数を示し、縦軸は累積値を示している。すなわち、
図5は、各物件11a、11b、11c、…の延床面積を上位順にソートし、累積したものである。累積した物件11a、11b、11c、…の棟数は、全部で174棟である。
図5に示すように、上位から順に11棟の累積値は、全体の累積値の50%となり、物件11a、11b、11c、…の全延床面積の中で、上位の物件の占める割合が大きいことが分かる。
図3から
図5のグラフから、複数の物件11a、11b、11c、…の規模による傾向が分かる。次に、エネルギー消費について考察する。
【0025】
図6は、一次エネルギー消費量の上位順の累計の一例である。
図6において、横軸は上位順に累積した物件の棟数を示し、縦軸は一次エネルギーの年間の消費量の累積値を示している。累積した物件11a、11b、11c、…の棟数は、全部で174棟である。
図6に示すように、上位から順に2棟の累積値は、全体の累積値の50%となり、物件11a、11b、11c、…の全延床面積の中で、上位の物件の占める割合が大きいことが分かる。上位から56棟の延床面積の累積値は、全体の累積値の80%となる。
【0026】
図7は、各物件11a、11b、11c、…を、延床面積とエネルギー消費量とからなる平面上にプロットしたものである。
図7において、横軸は延床面積を示し、縦軸は年間の延床面積当たりの一次エネルギー消費量を示している。
図7における破線は、エネルギー消費量が等しくなる部分を結んだものである。
図7において、近接した位置にプロットされている施設は、エネルギー消費量に関して類似しているといえる。
【0027】
以上の考察を基に、本実施形態では、複数の物件11a、11b、11c、…の中で、エネルギー消費環境が類似しているものを施設群としてクラスタリングしている。クラスタリングは、建物用途と、延床面積と、築年数を指標として用いて行っている。
【0028】
つまり、エネルギー消費環境に大きく影響を及ぼすものは、建物用途と、延床面積と、空調方式や空調機器等である。しかしながら、全ての物件11a、11b,11c、…について、空調方式や空調機器の情報を取得することは難しい。そこで、本実施形態では、空調方式や空調機器の情報を、築年数や延床面積の情報で代用している。
【0029】
すなわち、空調機器のエネルギー効率は、メーカーの努力により年々向上している。特に、性能が飛躍的に向上したと感じる期間は、設置された空調機器が10年程度以上経過した段階において機器の交換を行った場合に、性能が向上したと評価されやすい。例えばビル用マルチエアコンの場合、エネルギー効率に関する性能が年間数パーセントの向上があったとすると、10年間では20パーセントから30パーセントの性能向上がされると考えられる。また、主な建築設備の更新年数は、15年から20年程度に実施するものが多い。また、空調方式としては、個別方式やセントラル方式等がある。どのような空調方式を採用するかは延床面積に依存している。このことから、空調方式や空調機器の情報が直接取得できなくても、延床面積から空調方式を推定することができ、築年数から空調方式や空調機器を推定することができる。すなわち、空調方式や空調機器の情報を直接的に取得できない場合であっても、延床面積と築年数を用いることで、空調方式や空調機器の情報として代用することができる。
【0030】
図8は、物件の規模と築年数とを用いてクラスタリングを行い、物件11a、11b、11c、…を複数の施設群にグルーピングしたものである。
図8に示すように、クラスタリングにより、各物件11a、11b、11c、…は、6つの施設群G1~G6にグルーピングされる。
【0031】
図9は、全ての物件11a、11b、11c、…をグルーピングした結果を示す。グループG1は、大規模で築年数が古いグループに属する施設群である。グループG2は、中規模で築年数が古いグループに属する施設群である。グループG3は、小規模で築年数が古いグループに属する施設群である。グループG4は、大規模で築年数が新しいグループに属する施設群である。グループG5は、中規模で築年数が新しいグループに属する施設群である。グループG6は、小規模で築年数が新しいグループに属する施設群である。
【0032】
なお、クラスタリングは、物件の延床面積や築年数の他、設備仕様、改修の有無などを用いて行っても良い。ただし、設備仕様や改修の有無などに関しては、物件データに記載されていることが少ないため、主に建物用途、延床面積、築年数にて分析を行う。建物用途で分ける事で、利用状況などが同じ形態の施設群に分けられるので、エネルギー消費を主目的とする場合は、効果的である。
【0033】
複数の物件11a、11b、11c、…が施設群G1~G6にグルーピングされたら、各施設群G1~G6に属する物件の中から、代表物件が選出される。代表物件は、各施設群の中で最も平均に近いものを選定する。より具体的には、代表物件は、延床面積の平均値との標準化差分と築年数の平均値との標準化差分とを重み付け加算した値を評価値とし、当該評価値が最も小さいものを選定する。すなわち、代表物件は、以下のような処理により選定される。
【0034】
(a)各施設群において、平均延床面積Aaveと平均築年数Yaveを算出する。
(b)各施設群において、その施設群に属する各施設n(nは取得された施設を識別する番号 n=1,2,3,…)の延床面積Anを取得する。
(c)各施設群において、最大延床面積をAmax、最小延床面積をAminとすると、取得された施設nの延床面積Anと平均延床面積との標準化差分Aerrを以下のように算出する(
図10参照)。
Aerr=|An-Aave|/(Amax-Amin) … (1)
(d)各施設群において、その施設群に属する各施設n(nは取得された施設を識別する番号 n=1,2,3,…)の築年数Ynを取得する。
(e)最古築年数をYmax、最浅築年数をYminとすると、取得された施設nの築年数Ynと平均築年数との標準化差分Yerrを以下のように算出する(
図11参照)。
Yerr=|Yn-Yave|/(Ymax-Ymin) … (2)
(f)重み係数をk1及びk2とすると、代表物件を求めるための評価値Rnを、以下のように算出する。
Rn=k1*Aser+k2*Yser … (3)
【0035】
(3)式において、評価値Rnが最小となる物件がその施設群の中で平均値に最も近い物件であり、その物件が代表物件として選定される。ここで、重み係数k1及びk2は、物件用途別に特性を考慮して決めることができる。例えば、前述した竣工年数とエネルギー消費原単位の文献データであれば、築年数が20年以上の場合エネルギー消費量に影響を与えにくいことが分かっている場合、重み係数を調整することができる。
【0036】
代表物件の選定を行う目的は、クラスタリングにより分けられた施設群G1~G6ごとの温室効果ガス削減量の総量を想定するためである。クラスタリング時のポイントとしては、誤差を小さく、かつ、サンプル数を少なくすることである。通常は、母数が大きい場合、サンプル数を多くとることで、ばらつき具合を解消し、誤差を小さくする。しかしながら、サンプル数が多いと、その数分試算を行うため、手間と時間が掛かってしまう。施設群G1~G6での試算時の誤差を少なくすることと、施設群G1~G6の母数に対するサンプリング数を減らす事は相反する事になるが、代表物件選出の目的に合致した選出を行なえれば、少ないサンプル数でも比較的、誤差を減らすことができる。
【0037】
代表物件が選出されたら、代表物件のデータを用いて、各施設群G1~G6ごとに、老朽化設備の単純更新を行った場合の温室効果ガス削減量が求められる。すなわち、各施設群G1~G6において、代表物件の物件について、空調機器の交換を行ったり、照明機器のLED(Light-Emitting Diode)化を行ったりした場合の温室効果ガス削減量をシミュレーションすることで、老朽化設備の単純更新を行った場合の温室効果ガス削減量が試算できる。施設群G1~G6の代表物件での温室効果ガス削減量が試算できれば、各施設群G1~G6ごとの温室効果ガス削減量が試算でき、温室効果ガス削減量の試算値と目標値とを比較することで、各施設ごとのエミッションギャップが試算できる。これら各施設群G1~G6ごとの温室効果ガス削減量を合計すれば、老朽化設備の単純更新を行った場合の保有物件全体の温室効果ガス削減量の総量が試算できる。この老朽化設備の単純更新を行った場合の保有物件全体の温室効果ガス削減量の試算値と、目標排出量とから、老朽化設備の単純更新を行った場合の物件全体でのエミッションギャップが試算できる。
【0038】
図12は、計算端末20の機能に基づくブロック図である。
図12に示すように、アプリケーションプログラム200を実行することで、計算端末20は、物件データ処理部210と、エネルギーデータ処理部220と、クラスタリング処理部230と、代表物件選定部240と、排出量試算部250とを実現する。なお、アプリケーションプログラム200は、単独のプログラムで構成しても良いし、他のアプリケーションプログラムと連携させたり、他のアプリケーションプログラムのマクロとして実現させたりしても良い。
【0039】
図12において、物件データ処理部210は、物件データを加工し、物件11a、11b、11c、…の延床面積や規模に関する全体の傾向を視覚的に提示する。具体的には、物件データ処理部210は、延床面積-棟数の評価(
図3参照)と、面積規模別の評価(
図4参照)と、延床面積上位順の累計延床面積(
図5参照)をグラフ化して提示する。
【0040】
エネルギーデータ処理部220は、エネルギーデータを加工し、物件11a、11b、11c、…のエネルギー消費に関する傾向を視覚的に提示する。具体的には、エネルギーデータ処理部220は、各物件11a、11b、11c、…の一次エネルギー消費量から、リストを作成し、エネルギー消費量上位順の累計(
図6参照)を提示する。また、エネルギーデータ処理部220は、延床面積-エネルギー消費量の評価(
図7参照)をグラフ化して提示する。
【0041】
クラスタリング処理部230は、各物件11a、11b、11c、…を、エネルギー消費環境の類似する複数の施設群にグルーピングする。具体的には、クラスタリング処理部230は、物件の規模と築年数とを用いて、これら物件の規模と築年数の類似度に基づいて物件11a、11b、11c、…を複数の施設群に分類することでグルーピングする。
【0042】
代表物件選定部240は、施設群の中で最も平均に近いものを代表物件として選定する。代表物件選定部240は、施設群が複数あるため、施設群毎に、その施設群の中で最も平均に近いものを代表物件として選定する。これにより、例えば、施設群として6つのグループに分類された場合には、グループ毎に、そのグループに属する複数の物件の中から1つの代表物件を選定する。例えば、6つのグループがある場合には、それぞれのグループについて1つずつ、代表物件が選定される。
代表物件を選定する手法は任意であるが、例えば代表物件選定部240は、延床面積の平均値との標準化差分と築年数の平均値との標準化差分とを重み付け加算した値を評価値とし、当該評価値が最も小さいものを代表物件として選定する。
【0043】
排出量試算部250は、各施設群で選定された代表物件を用いて、その施設群に属する施設のそれぞれについて、老朽化設備の単純更新を行った場合の温室効果ガス削減量を試算する。例えば、各施設群で選定された代表物件についての温室効果ガス削減量を求め、得られた温室ガス排出量を、当該施設群で選定された代表物件以外の物件について割り当てることで、代表物件以外の物件について、代表物件と同等の温室ガス排出量であると見なすことができる。そして、施設群に属する各物件についての温室ガス排出量を合計することで、その施設群における全体の温室ガス排出量を求めることができる。排出量試算部250は、このような温室ガス排出量の算出を、施設群のそれぞれについて行う。
そして、排出量試算部250は、施設群ごとの温室効果ガス削減量を合計することで、老朽化設備の単純更新を行った場合の保有物件全体の温室効果ガス削減量を試算し、目標排出量とのエミッションギャップを試算する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、複数の物件をクラスタリングし、各施設群から代表物件を選定し、この代表物件を用いて温室効果ガス削減量を試算している。例えば物件が200棟あったとしても、代表物件として選定された6~8棟程度の物件を対象として温室効果ガス削減量を試算すれば、全体の温室効果ガス削減量を試算できる。また、本実施形態では、延床面積と築年数とによりクラスタリングを行っている。このため、全ての物件について、建築仕様や設備仕様、機器の更新履歴、物件の改修計画等の情報を取得する必要がない。
なお、クラスタリング処理部230は、延べ床面積と築年数とに基づいてクラスタリングを行う場合について説明したが、建物の用途と延べ床面積と築年数とに基づいてクラスタリングをするようにしてもよい。
【0045】
上述した実施形態における温室効果ガス削減量試算システム1の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0046】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0047】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。
本実施形態に係る温室効果ガス削減量試算方法、温室効果ガス削減量試算装置、及びプログラムは、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0048】
10…データ提供部、20…計算端末、210…物件データ処理部、220…エネルギーデータ処理部、230…クラスタリング処理部、240…代表物件選定部、250…排出量試算部