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特開2024-54469繊維樹脂積層複合体及びそれを含む成形体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054469
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】繊維樹脂積層複合体及びそれを含む成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20240410BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20240410BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240410BHJP
   D03D 15/573 20210101ALI20240410BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240410BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B5/28
D03D1/00 A
D03D15/573
D03D15/283
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160692
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】笹井 賢司
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4L048
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB06
4F072AB28
4F072AD28
4F072AF30
4F072AF31
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG20
4F072AH02
4F072AH24
4F072AJ22
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL08
4F072AL09
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK04
4F100AK04A
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AK46
4F100AK46A
4F100AK47
4F100AK47A
4F100AR00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA22A
4F100BA22B
4F100DG01
4F100DG01A
4F100DH02
4F100DH02B
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100GB31
4F100GB41
4F100JK04
4F100JK07
4F100JK10
4F100JK10A
4L048AA15
4L048AA19
4L048AA20
4L048AA25
4L048AA48
4L048AC09
4L048BA16
4L048CA01
4L048DA41
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】高いレベルで耐衝撃性と曲げ剛性を両立できる繊維樹脂積層複合体、及びそれを構成要素として含む成形体を提供する。
【解決手段】積層体中に、有機高強度繊維からなる布帛(ただし、一方向布帛を含まない)とマトリクス樹脂とから構成される衝撃吸収層を有する繊維樹脂積層複合体であって、前記衝撃吸収層は、少なくとも片面に、強化繊維からなる布帛とマトリクス樹脂とからなるFRP層を有しており、かつ、該衝撃吸収層に隣接するFRP層を構成する強化繊維の配向方向に対して、該衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維の配向方向から求められる層間配向角のうち、鋭角となる方の角度θが30~45度となるよう積層してなることを特徴とする繊維樹脂積層複合体。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体中に、有機高強度繊維からなる布帛(ただし、一方向布帛を含まない)とマトリクス樹脂とから構成される衝撃吸収層を有する繊維樹脂積層複合体であって、
前記衝撃吸収層は、少なくとも片面に、強化繊維からなる布帛とマトリクス樹脂とからなるFRP層を有しており、かつ、
該衝撃吸収層に隣接するFRP層を構成する強化繊維の配向方向に対して、該衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維の配向方向から求められる層間配向角のうち、鋭角となる方の角度θが30~45度となるよう積層してなることを特徴とする繊維樹脂積層複合体。
【請求項2】
前記FRP層の曲げ弾性率が、前記衝撃吸収層の曲げ弾性率と同等以上であることを特徴とする請求項1に記載の繊維樹脂積層複合体。
【請求項3】
繊維樹脂積層複合体全体の厚み(T)に対する、衝撃吸収層の厚み(t)の比(t/T)が、0.2~0.8であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維樹脂積層複合体。
【請求項4】
前記有機高強度繊維が、全芳香族ポリエステル繊維、アラミド(全芳香族ポリアミド)繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、高強力ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維のうちいずれか、もしくは2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維樹脂積層複合体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の繊維樹脂積層複合体を構成要素として有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体中に特定の衝撃吸収層を有する繊維樹脂積層複合体、及びそれを構成要素として含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維からなる布帛とマトリクス樹脂とからなる繊維樹脂積層複合体は、軽量で優れた機械特性を有することから、航空機材、車両部材、電気電子部品、家電製品の各種ハウジング等の幅広い分野に使用され、軽量、かつ、高剛性、高強度、耐摩耗性等の特性が要求される分野で好適に用いられている。
【0003】
繊維強化樹脂複合体に用いる強化繊維として、有機繊維や無機繊維等の様々な強化繊維が知られており、一般的によく用いられるものとして、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられる。その中でも、耐衝撃性が求められる用途において、靭性の高い有機繊維を用いることで高い耐衝撃性をもつ繊維樹脂複合体が得られることが知られており、様々な検討が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高強度補強繊維と熱硬化性樹脂からなるハードコンポジットと、高強度・高弾性率繊維と熱可塑性樹脂からなるソフトコンポジットとから構成される高機能コンポジットが、破壊時の材料飛散を抑え、かつ耐衝撃性にも優れることが開示されている。しかし、各コンポジットにおいては、性質の異なる樹脂を使い分ける必要があることから、製造工程が煩雑になりやすく、また樹脂同士の接着にも気を配らなければならない。
【0005】
また、特許文献2には、有機繊維からなる繊維構造体と無機繊維からなる繊維構造体が特定の構成にて積層されたものに、樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂複合体が開示されており、強度及び耐衝撃性、振動減衰特性に優れることが記されている。しかし、繊維強化樹脂複合体全体における有機繊維:無機繊維の体積比を10:90~50:50にすることで、該複合体の強度や剛性を維持していることから、十分な耐衝撃性や曲げ剛性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-283758号公報
【特許文献2】特開2012-139841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便な手段で、高いレベルで耐衝撃性と曲げ剛性を両立できる繊維樹脂積層複合体、及びそれを含む成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記目的を達成すべく誠意検討した結果、積層体中に特定の方法で衝撃吸収層を配置した繊維樹脂積層複合体とすることで、高いレベルで耐衝撃性と曲げ特性を両立できる繊維樹脂積層複合体を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、積層体中に、有機高強度繊維からなる布帛(ただし、一方向布帛を含まない)とマトリクス樹脂とから構成される衝撃吸収層を有する繊維樹脂積層複合体であって、
前記衝撃吸収層は、少なくとも片面に、強化繊維からなる布帛とマトリクス樹脂とからなるFRP層を有しており、かつ、
該衝撃吸収層に隣接するFRP層を構成する強化繊維の配向方向に対して、該衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維の配向方向から求められる層間配向角のうち、鋭角となる方の角度θが30~45度となるよう積層してなることを特徴とする繊維樹脂積層複合体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高いレベルで耐衝撃性と曲げ剛性を両立させることが可能な繊維樹脂積層複合体、及びそれを構成要素として含む成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1(a)】実施例1の繊維樹脂積層複合体の積層構成を示す図である。
図1(b)】2層目と3層目(または3層目と4層目)間の層間配向角を表した図である。
図2(a)】実施例3の繊維樹脂積層複合体の積層構成を示す図である。
図2(b)】1層目と2層目(または3層目と4層目)間の層間配向角を表した図である。
図3】パンクチャー衝撃試験で得られる、衝撃力-変位線図(実施例2、比較例4)である。
図4】実施例1の繊維樹脂積層複合体を示す説明図である。
図5】実施例2の繊維樹脂積層複合体を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
<有機高強度繊維>
本発明において、衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維は特に限定されないが、JIS L1013 8.5.1標準時試験で測定される引張強さが10cN/dtex以上である有機高強度繊維が好ましい。より好ましくは、15cN/dtex以上である。引張強さが10cN/dtex以上の有機高強度繊維を用いることにより、衝撃吸収層を含む繊維樹脂積層複合体の耐衝撃性が十分なものとなる。
【0014】
有機高強度繊維としては、例えば、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、高強力ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維等を挙げることができ、これら有機高強度繊維の中から選択される1種、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0015】
前記有機高強度繊維の中でも、引張強さに優れている点で、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維が好ましい。
【0016】
上記の全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維は、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていてもよい二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維又はアラミド繊維と称されるものであってよい。「置換されていてもよい二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していてもよい二価の芳香族基を意味する。
【0017】
アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等を挙げることができるが、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。このようなアラミド繊維は市販品として入手でき、その具体例としては、パラ系アラミド繊維として、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン社製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができる。これらのパラ系アラミド繊維の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が引張強さに優れるため、特に好ましい。
【0018】
有機高強度繊維の総繊度は特に限定されないが、通常、50~10,000dtex、好ましくは200~6,500dtex、より好ましくは750~3,500dtexのものが用いられる。総繊度の小さい有機高強度繊維を用いると比較的薄い布帛が得られやすく、総繊度の大きい有機長繊維束を用いると比較的厚い布帛が得られやすい。また、有機高強度繊維にタスラン加工やインターレース加工等を施したエアー交絡糸;加撚-熱固定-解撚糸(捲縮糸);仮撚加工糸;押込加工糸等の長繊維束も用いることができる。
【0019】
布帛としては、有機高強度繊維を公知の方法で加工したものを用いることができ、織物、ノンクリンプファブリック(NCF)、組紐、不織布等を好ましく用いることができる。
【0020】
織物としては、例えば、二方向性織物、三方向に配列させた三軸織物等が挙げられる。一方で、繊維を一方向に配列させた一方向性織物は繊維軸と直交する方向の拘束力が弱く、十分な耐衝撃性を担保できないため望ましくない。
【0021】
織物密度(タテ糸及びヨコ糸密度)は、8~40本/25.4mmが好ましく、8~30本/25.4mmがより好ましい。また、下記式(I)で示されるカバーファクター(CF)が800~2,200であることが好ましく、900~2,100がより好ましい。織物密度やカバーファクターがこの範囲にあると、十分な耐衝撃性を有する繊維樹脂積層複合体を得ることができる。一方、カバーファクターが800未満の場合は、目が粗いために衝突物を受け止めきれなくなる場合がある。
【0022】
CF=√Dp×Np+√Df×Nf ・・・ (I)
但し、Dp:経糸繊度(dtex)
Np:経糸密度(本/25.4mm)
Df:緯糸繊度(dtex)
Nf:緯糸密度(本/25.4mm)
【0023】
ノンクリンプファブリックは、複数本の連続繊維が互いを交錯させない状態で経編組織を形成する補助繊維糸により一体化されたシート状の基材であり、公知の態様を採用できる。例えば、複数本の連続繊維が一方向の層状に並列した層を1層または2層以上有する形態が挙げられる。補助繊維糸としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維糸、ポリアミド繊維糸、ポリエチレン繊維糸、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維糸等が挙げられる。
【0024】
衝撃吸収層は、強度及び耐久性に優れた繊維樹脂積層複合体を得る観点より、特定の方向に配向している織物、ノンクリンプファブリック、組紐のうち少なくとも1種を含む層を単層で、あるいは複数層を積層させたもの、又は複数種を積層させたものが好ましい。これらのいずれかに、ランダム配向の不織布の層を積層させたものとしてもよい。
【0025】
本発明の繊維樹脂積層複合体において、衝撃吸収層は、有機高強度繊維からなる布帛(ただし、一方向布帛を含まない)とマトリクス樹脂とから構成され、曲げ弾性率は、FRP層の曲げ弾性率と同等もしくはそれ以下のものを言う。曲げ弾性率(Vf=50換算値)が30GPa以下であることが好ましく、25GPa以下であることがより好ましい。
【0026】
衝撃吸収層は、その効果が著しく損なわれない範囲で、有機高強度繊維以外の繊維を含むことができ、例えば、有機高強度繊維と無機繊維(炭素繊維、ガラス繊維等)との交織布帛等を用いることもできる。
【0027】
布帛の厚さは特に限定されないが、繊維樹脂積層複合体の軽量化、低コスト化及び性能向上(曲げ弾性率の向上等)を図る観点から、0.05mm~1.00mmが好ましく、0.10~0.80mmがより好ましい。布帛の厚さは、「JIS L1096「織物及び編物の生地試験方法」8.4 厚さ」で求められる。
【0028】
布帛の目付(単位面積当りの重量)は、繊維樹脂積層複合体に十分な耐衝撃性と曲げ剛性を付与する観点より、20~1,000g/mが好ましい。より好ましくは、50~600g/mの範囲内である。また、布帛の引張強さ(JIS L1096 8.14.1 A法)は、繊維樹脂積層複合体に十分な耐衝撃性と剛性を付与する観点より、100~1,000kgf/25.4mmが好ましい。より好ましくは、200~1,000kgf/25.4mmである。
【0029】
<マトリクス樹脂>
本発明で用いるマトリクス樹脂の種類は特に限定されず、目的に応じて熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から自由に選択することができる。熱可塑性樹脂を用いた場合は、熱硬化性樹脂を用いた場合と比べて柔軟かつ耐衝撃性に優れたものが得られる一方、曲げ剛性等の機械物性が低いものが得られやすい。
【0030】
本発明の積層構成によれば、柔軟性や耐衝撃性に劣る熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂として用いた場合においても、積層設計の工夫で耐衝撃性が改善でき、曲げ剛性と耐衝撃性の両立が可能であることが特徴として挙げられる。
【0031】
本発明においては、衝撃吸収層に用いられるマトリクス樹脂と、FRP層で用いられるマトリクス樹脂の種類は同一(例えば、どちらも熱硬化性樹脂)であることが、管理や加工プロセスが簡便なものとなるため好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、シンジオタックチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。好ましい熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ系樹脂、シアネート系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂等が挙げられ、その中でも、耐熱性、力学特性およびアラミド繊維との接着性のバランスに優れている点より、エポキシ系樹脂がより好ましい。
これらの樹脂は、単独のポリマーだけでなく2種類以上をコンパウンド等でアロイ化した樹脂として使用することも可能である。
【0033】
前記マトリクス樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じ添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、核剤、可塑剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、充填剤(カーボンファイバー、ガラスファイバー、タルク等のフィラー等)、顔料及び染料等が挙げられ、これらの添加剤等から選ばれる1種又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は通常用いられる量でよい。
【0034】
<強化繊維>
本発明で用いるFRP層を構成する強化繊維としては特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維、及び、全芳香族ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維等の有機繊維から選ばれる、1種又は2種以上の強化繊維を、繊維樹脂積層複合体の要求特性によって適宜選択することができる。
【0035】
例えば、剛性が要求される用途においては、曲げ強さの低下を最小限に抑えることができる点で、炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を用いることが好ましい。その中でも炭素繊維は、軽量性と剛性が特に優れた繊維樹脂積層複合体を得ることができるため、より好ましい。
【0036】
強化繊維の総繊度は特に限定されないが、通常、50~10,000dtex、好ましくは200~6,500dtex、より好ましくは750~3,500dtexのものが用いられる。総繊度の小さい長繊維束を用いると比較的薄い布帛、総繊度の大きい長繊維束を用いると比較的厚い布帛、が得られやすい。また、長繊維にタスラン加工やインターレース加工等を施したエアー交絡糸;加撚-熱固定-解撚糸(捲縮糸);仮撚加工糸;押込加工糸等の長繊維束も用いることができる。
【0037】
布帛としては、公知の方法で加工したものを用いることができ、織物または、強化繊維を一方向に配列させたトウシート等を好ましく用いることができる。布帛の厚さは特に限定されないが、繊維樹脂積層複合体の軽量化、低コスト化及び性能向上を図る観点から、0.05mm~1.00mmが好ましく、0.10~0.80mmがより好ましい。
【0038】
織物としては、例えば、強化繊維を一方向または二方向に配列させた一方向性織物または二方向性織物、三方向に配列させた三軸織物等が挙げられる。
【0039】
織物密度(タテ糸及びヨコ糸密度)は、8~40本/25.4mmが好ましく、8~30本/25.4mmがより好ましい。上記の式(I)で示されるカバーファクター(CF)が800~2,200であることが好ましく、900~2,100がより好ましい。織物密度やカバーファクターがこの範囲にあると、十分な機械的特性を有する繊維樹脂積層複合体を得ることができる。
【0040】
布帛の目付(単位面積当りの重量)は、繊維樹脂積層複合体に十分な機械的特性を付与する観点より、20~1,000g/mが好ましく、より好ましくは50~600g/mの範囲内である。また、布帛の引張強さ(JIS L1096 8.14.1 A法)は、繊維樹脂積層複合体に十分な機械的特性付与する観点より、100~10,000kgf/25.4mmが好ましく、より好ましくは200~10,000kgf/25.4mmである。
【0041】
<繊維樹脂積層複合体>
本発明の繊維樹脂積層複合体においては、衝撃吸収層は少なくとも片面にFRP層を有しており、かつ、該衝撃吸収層に隣接するFRP層を構成する強化繊維の配向方向に対して、衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維の配向方向から求められる層間配向角のうち、鋭角となる方の角度θが30~45度であることが重要である。
【0042】
ここで言う配向方向とは、それぞれの層を構成する繊維の軸方向のことであり、例えば繊維の種類及び太さが同じ経糸・緯糸からなる二軸織物の場合、配向方向は、縦方向と横方向の2方向存在する。
【0043】
層間配向角θが前記範囲にあることで、貫通するような衝撃に対し高いエネルギー吸収性能を発揮することができる。その理由としては、推定ではあるが、繊維樹脂積層複合体が受けた衝撃に対し、FRP層を構成する強化繊維に発生する応力方向と、衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維に発生する応力方向にズレが生じることにより層間剥離が発生し、衝撃エネルギーを吸収する可能性が高いこと、併せて、衝撃吸収層を構成する有機高強度繊維自体のもつ高い靭性(高強度・高伸度)が衝撃エネルギーの吸収に有利に働くことが考えられる。
【0044】
本発明の繊維樹脂積層複合体においては、前記FRP層の曲げ弾性率が、前記衝撃吸収層の曲げ弾性率と同等以上であることが好ましい。このような構成を採ることによって、さらに曲げ剛性と耐衝撃性のバランスに優れた繊維樹脂積層複合体を得ることができる。衝撃吸収層の曲げ弾性率は、有機高強度繊維や布帛の種類、布帛の厚み、有機高強度繊維からなる布帛とマトリクス樹脂との接着性、マトリクス樹脂付着量に依存する。
【0045】
FRP層の曲げ弾性率は、衝撃吸収層の曲げ弾性率より、少なくとも2GPa以上大きくなることが好ましく、より好ましくは3GPa以上、さらに好ましく4GPa以上である。FRP層の曲げ弾性率が、衝撃吸収層の曲げ弾性率より大きくなることにより、繊維樹脂積層複合体全体の曲げ剛性を維持しつつ、繊維樹脂積層複合体が受ける衝撃を段階的に吸収することができる。
【0046】
本発明においては、繊維樹脂積層複合体全体の厚みTと、衝撃吸収層の厚みtの比(t/T)が、0.2~0.8であることが好ましい。より好ましくは、0.2~0.7である。繊維樹脂積層複合体全体の厚みTと、衝撃吸収層の厚みtの比が、上記範囲にあることで、さらに曲げ剛性と耐衝撃性のバランスに優れた繊維樹脂積層複合体を得ることができる。厚み比(t/T)が、0.2未満の場合は、後述するパンクチャー衝撃試験で求めるパンクチャーエネルギーEや延性指数DIの値が小さくなる傾向にあり、0.8を超える場合は、曲げ弾性率の低下が生じやすくなる。
【0047】
本発明の繊維樹脂積層複合体を任意の方法で成形することにより、成形体が得られる。成形方法としては特に限定はなく、例えば、フィラメントワインディング、オートクレーブ、シートワインディング、プレス成形等を挙げることができる。
【0048】
成形体の厚みとしては、0.1~3.0mmの範囲内にあることが好ましく、0.1~2.0mmの範囲内にあることがより好ましい。成形体の厚みが、0.1mm未満では高速の飛来物に対し十分な耐衝撃性能を付与できない恐れがあり、3.0mmを超えると満足する耐衝撃性能を付与できるが、成形体の重量が増す。
【0049】
本発明の成形体は、用途は特に限定されず、衝撃吸収性が求められる各種用途に用いることができ、例えば、セラミック、金属等に固定する方法としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤等を介して積層する方法等がある。好ましい用途としては、例えば、防護チョッキ、ヘルメット、防弾板(防弾チョッキへの挿入板)、車輛、艦船、航空機への付加装甲等が挙げられる。
【実施例0050】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「重量部」は「部」と略記する。なお、実施例中に記載の評価方法は以下の通りである。
【0051】
[曲げ試験]
繊維樹脂積層複合体について、JIS K7017(繊維強化プラスチック-曲げ特性の求め方)に記載の方法に従って、曲げ弾性率を測定した。測定装置はINSTRON社の5967デュアルコラム卓上型試験機を用いた。
【0052】
[耐衝撃性]
繊維樹脂積層複合体について、JIS L7211-2(プラスチック-硬質プラスチックのパンクチャー衝撃試験方法-第2部:計装化衝撃試験)に記載の方法に従って計測し、得られた衝撃力-変位線図から下記に示す値を算出し、評価に供した繊維樹脂積層複合体の単位厚み当りに換算した。
【0053】
:試験の間に起こる最大衝撃力(kN/mm)
:最大衝撃力時エネルギー(J/mm)
:パンクチャーエネルギー(J/mm)
DI:(E-E)/E で示される延性指数
【0054】
ここで、延性指数とは、破壊のモードを定量化したもので、値が小さいと荷重が急激に低下するような破壊モード(脆性破壊)を示す傾向にあり、値が大きいと塑性変形を伴った良好な破壊モード(延性破壊)を示す傾向にある。
【0055】
測定装置はIMATEC社のIM10T-20を用い、使用したストライカー径は20mm、付加エネルギーは上記EPの値の2.0倍を超えない条件を設定し、実施した。
【0056】
本発明においては、パンクチャーエネルギーE及び延性指数DIの値が大きい程、優れた耐衝撃性を有すると言える。特に延性指数の値は2.0以上が望ましく、2.5以上がより望ましい。
【0057】
[製造例1]
単糸繊度1.7dtex、単繊維本数768本である、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(R)49」;引張強度:20.8cN/dtex、比重:1.45)を用いた平織物(目付:170g/m、織物密度:17本/25.4mm(タテ・ヨコ共)、カバーファクター:1,212、引張強度:283kgf/25.4mm)に、jER828及びjER1001(ビスフェノールAグリシジルエーテル(エポキシ当量189)三菱ケミカル社製)100部(jER828:jER1001=50:50重量%)と、ジシアンジアミド5部、及び3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素5部、を均一に混合した一液硬化エポキシ樹脂組成物を含浸させ、目付:322g/m、厚み:0.21mmのプリプレグAF1を得た。
【0058】
[製造例2]
単糸繊度1.7dtex、単繊維本数267本である、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(R)49」;引張強度:20.8cN/dtex、比重:1.45)を用いた平織物(目付:75g/m、織物密度:22本/25.4mm(タテ・ヨコ共)、カバーファクター:902、引張強度:133kgf/25.4mm)に、jER828及びjER1001(ビスフェノールAグリシジルエーテル(エポキシ当量189)三菱ケミカル社製)100部(jER828:jER1001=50:50重量%)と、ジシアンジアミド5部、及び3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素5部、を均一に混合した一液硬化エポキシ樹脂組成物を含浸させ、目付:115g/m、厚み:0.11mmのプリプレグAF2を得た。
【0059】
[製造例3]
東レ社製の炭素繊維織物に未硬化の汎用エポキシ樹脂(Tg=105℃)を含浸させたプリプレグ「トレカ(R)プリプレグF6343B-05P」(目付:198g/m、厚み:0.24mm、綾織り)をプリプレグCF1として用いた。
【0060】
[試験例]
製造例1~3で得た各種プリプレグについて、曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、(0-90°)、(0-90°)、(0-90°)、(0-90°)、(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向)で積層し、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させ、得られた試験片を用いて曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例1]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、プリプレグAF1(0-90°)、AF1(0-90°)、AF1(±45°)※、AF1(0-90°)、AF1(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層した。
すなわち、図1(a)に示す順序で、1層目及び2層目に、強化繊維(2)とマトリクス樹脂(3)からなるプリプレグAF1(1)を配し、3層目に、有機高強度繊維(5)とマトリクス樹脂(6)からなるプリプレグAF1(4)を配し、4層目及び5層目に、強化繊維(2)とマトリクス樹脂(3)からなるプリプレグAF1(1)を配することで、繊維樹脂積層複合体を得た。図1(b)は、強化繊維(2)と有機高強度繊維(5)とが成す層間配向角θを示す図である。
【0063】
積層体を、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.93mm、繊維体積含有率(Vf)69%、衝撃吸収層比率(t/T)0.20、層間配向角(θ)45度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
繊維樹脂積層複合体(10)における衝撃吸収層(11)とFRP層(12)の構成例を図4に示す。
【0064】
[比較例1]
実施例1に準じて、曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、AF1(0-90°)、AF1(0-90°)、AF1(0-90°)、AF1(0-90°)、AF1(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.95mm、繊維体積含有率(Vf)68%、衝撃吸収層比率(t/T)0.00、層間配向角(θ)0度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0065】
[比較例2]
実施例1に準じて、曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、AF1(±45°)※、AF1(±45°)※、AF1(±45°)※、AF1(±45°)※、AF1(±45°)※の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.95mm、繊維体積含有率(Vf)68%、衝撃吸収層比率(t/T)1.00、層間配向角(θ)0度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0066】
[実施例2]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、AF2(0-90°)、AF1(±45°)※、AF1(±45°)※、AF2(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層した。
すなわち、図2(a)に示す順序で、1層目に、強化繊維(2)とマトリクス樹脂(3)からなるプリプレグAF2(7)を配し、2層目及び3層目に、有機高強度繊維(5)とマトリクス樹脂(6)からなるプリプレグAF1(1)を配し、4層目に、強化繊維(2)とマトリクス樹脂(3)からなるプリプレグAF2(7)を配することで、繊維樹脂積層複合体を得た。
【0067】
積層体を、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.60mm、繊維体積含有率(Vf)60%、衝撃吸収層比率(t/T)0.66、層間配向角(θ)45度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
繊維樹脂積層複合体(20)における衝撃吸収層(21)とFRP層(22)の構成例を図5に示す。
【0068】
[実施例3]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、AF2(0-90°)、AF1(30-120°)※、AF1(30-120°)※、AF2(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.61mm、繊維体積含有率(Vf)60%、衝撃吸収層比率(t/T)0.66、層間配向角(θ)30度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
すなわち、図2(a)に示す順序で、1層目に、強化繊維(2)とマトリクス樹脂(3)からなるプリプレグAF2(7)を配し、2層目と3層目に、有機高強度繊維(5)とマトリクス樹脂(6)からなるプリプレグAF1(1)を配し、4層目に、強化繊維(2)とマトリクス樹脂(3)からなるプリプレグAF2(7)を配することで、繊維樹脂積層複合体を得た。図2(b)は、強化繊維(2)と有機高強度繊維(5)とが成す層間配向角θを示す図である。
【0069】
[比較例3]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、AF2(0-90°)、AF1(20-110°)※、AF1(20-110°)※、AF2(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.61mm、繊維体積含有率(Vf)60%、衝撃吸収層比率(t/T)0.66、層間配向角(θ)20度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0070】
[比較例4]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、AF2(0-90°)、AF1(0-90°)※、AF1(0-90°)※、AF2(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.60mm、繊維体積含有率(Vf)60%、衝撃吸収層比率(t/T)0.66、層間配向角(θ)0度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0071】
[比較例5]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、CF1(0-90°)、CF1(0-90°)、CF1(0-90°)、CF1(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.80mm、繊維体積含有率(Vf)52%、衝撃吸収層比率(t/T)0.00、層間配向角(θ)0度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0072】
[比較例6]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、CF1(0-90°)、CF1(±45°)、CF1(±45°)、CF1(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.79mm、繊維体積含有率(Vf)50%、衝撃吸収層比率(t/T)0.00、層間配向角(θ)45度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0073】
[実施例4]
FRP層をアラミド繊維プリプレグAF2(上下各2枚)から、炭素繊維プリプレグCF1(上下各1枚)に変更し、衝撃吸収層をアラミド繊維プリプレグAF1(1枚)から2枚に変更した以外は、実施例1と同様にして繊維樹脂積層複合体を得た。
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、CF1(0-90°)、AF1(±45°)※、AF1(±45°)※、CF1(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.79mm、繊維体積含有率(Vf)56%、衝撃吸収層比率(t/T)0.50、層間配向角(θ)45度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0074】
[比較例7]
曲げ試験における試験片の長手方向を0°とし、CF1(0-90°)、AF1(0-90°)※、AF1(0-90°)※、CF1(0-90°)の順(カッコ内は繊維配向方向、※は衝撃吸収層を示す)で積層したものを、手動熱プレス装置(東洋精機社製「ミニテストプレス」)にて、120℃×5MPa×2時間の条件にて熱硬化させることで、厚み(T)0.81mm、繊維体積含有率(Vf)57%、衝撃吸収層比率(t/T)0.50、層間配向角(θ)0度となる繊維樹脂積層複合体を得た。
【0075】
上記の実施例1~4、比較例1~7の繊維樹脂積層複合体について得た結果を表2及び表3に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表2及び表3の結果から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させたプリプレグAF1を、層間配向角(θ)45度又は30度でAF1又はAF2と積層した、実施例1~3の繊維樹脂積層複合体、並びに、FRP層として炭素繊維プリプレグを積層した実施例4の繊維樹脂積層複合体は、高い曲げ弾性率と高い耐衝撃性(パンクチャーエネルギーが大きい)を示す両立していることが分かる。
【0079】
また、パンクチャー衝撃試験後の試験片(貫通)を観察すると、FRP層と耐衝撃吸収層の層間で剥離が生じており、付加された貫通エネルギーを層間の剥離現象によって吸収することで高い耐衝撃性を発現したものと思われる。図3をみても、比較例4と比べて実施例2は、最大衝撃力以降の荷重値の低下が緩やかであることが分かる。
【0080】
一方、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させたプリプレグAF1あるいはAF2を、層間配向角(θ)0度または90度で積層した比較例1、4の繊維樹脂積層複合体、並びに、AF1を全て層間配向角(θ)45度で積層した比較例2の繊維樹脂積層複合体、及び、層間配向角(θ)20度で積層した比較例3の繊維樹脂積層複合体は、対応する実施例1、2の繊維樹脂積層複合体に比べて、パンクチャーエネルギー(E)、及び、(E-E)/Eで示される延性指数(DI)が小さい。すなわち、比較例1、3、4は耐衝撃性に劣っており、比較例2に至っては曲げ弾性率も大幅に低下した。
【0081】
炭素繊維織物のみからなる比較例5の繊維樹脂積層複合体はもちろんのこと、炭素繊維織物からなり層間配向角を45度とした比較例6の繊維樹脂積層複合体でも耐衝撃性の改善は認められず、衝撃吸収層をパラフェニレンテレフタルアミド繊維織物とした比較例7の繊維樹脂積層複合体においても、大きな耐衝撃性の改善には至っていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の繊維樹脂積層複合体は、高い曲げ剛性を維持したまま高い耐衝撃性を付与することができることから、自動車、列車、航空機等の部品、ハウジング材、アタッシュケース、スーツケース等のカバンのボディやカバン製品の部品、インテリア材、防護材、家具、楽器、家庭用品等、各種成形品に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 プリプレグAF1
2 強化繊維
3 マトリクス樹脂
4 プリプレグAF1
5 有機高強度繊維
6 マトリクス樹脂
7 プリプレグAF2
10 繊維樹脂積層複合体
11 衝撃吸収層
12 FRP層
20 繊維樹脂積層複合体
21 衝撃吸収層
22 FRP層
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5