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特開2024-54472コラーゲン加工繊維、およびその製造方法
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  • 特開-コラーゲン加工繊維、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054472
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】コラーゲン加工繊維、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/15 20060101AFI20240410BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20240410BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
D06M15/15
D06M10/02 C
D06M10/02 D
D06M10/00 K
D06M10/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160699
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】堂ノ脇 靖已
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA14
4L031AA20
4L031AA21
4L031AA22
4L031AB01
4L031BA31
4L031CB05
4L031CB06
4L031CB07
4L031CB09
4L033AA05
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA08
(57)【要約】
【課題】繊維に対しても効率よくコラーゲンによる加工を行うことができる新たなコラーゲン加工繊維の製造方法等を提供する。
【解決手段】繊維をドライプロセスにより処理する工程S11と、前記ドライプロセスにより処理した前記繊維にコラーゲンを含む水溶液を接触させて、前記繊維に前記水溶液に含まれている前記コラーゲンを固着させる工程S21と、を有するコラーゲン加工繊維の製造方法。繊維がポリエステルであり、コラーゲン固着量が、57μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。繊維が、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、およびビニロンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、74μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。繊維が、ナイロン、アラミド、およびポリウレタンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、38μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維をドライプロセスにより処理する工程と、
前記ドライプロセスにより処理された前記繊維にコラーゲンを含む水溶液を接触させて、前記繊維に前記水溶液に含まれている前記コラーゲンを固着させる工程と、を有するコラーゲン加工繊維の製造方法。
【請求項2】
前記ドライプロセスが、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線処理、オゾン処理、電子線処理、および火炎処理からなる群から選択されるいずれかの処理である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記繊維が、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、ビニロン、ナイロン、アラミド、ポリウレタンからなる群から選択されるいずれかの繊維を用いたものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記繊維と前記コラーゲンとの架橋剤で、前記繊維と前記コラーゲンとを架橋させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記処理する工程が、さらに、コラーゲンをドライプロセスにより処理するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、
前記繊維がポリエステルであり、コラーゲン固着量が、57μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
【請求項7】
繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、
前記繊維が、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、およびビニロンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、74μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
【請求項8】
繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、
前記繊維が、ナイロン、アラミド、およびポリウレタンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、38μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
【請求項9】
前記繊維と、前記コラーゲンとの架橋剤を含む請求項6~8のいずれかに記載のコラーゲン加工繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコラーゲン加工繊維に関する。また、本発明はその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の繊維の構成比は、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維が70%以上を占め、化学繊維の需要は今後も増加すると予想されている。一方、化学繊維は皮膚に対する悪影響が懸念されている。快適性を向上させるために、極端なpHの変化を阻害する両性化合物で保湿性などの機能を有するタンパク質による加工が行われている。
【0003】
例えば、天然の保湿成分であるコラーゲンを一体化させた繊維で編んだ保湿性のニット製品などが知られている(特許文献1)。特許文献1は、手袋の地編糸にコラーゲンを含ませている繊維からなっていることを特徴とする美容用コラーゲン入り手袋を開示している。
【0004】
一方、非特許文献1には、特許文献1に係わるナイロン手袋のコラーゲン固着量の記載があり、最大35μg/g-fiberで、固着率は0.09%と僅かであることが記載されている。
【0005】
非特許文献2は、傷害後の組織修復のための生体適合性を得るために、直流(DC)ヘリウムプラズマ処理を行ったポリ(エチレンテレフタレート)(PET)膜に様々な量のコラーゲンおよびコラーゲン分子から形成された凝集体を固着した膜を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3154903号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】堂ノ脇「繊維に加工したコラーゲンの定量分析」福岡県工業技術センター研究報告31号1-3(2021)
【非特許文献2】AFLORI Magdalenaら「Collagen immobilization on polyethylene terephthalate surface after helium plasma treatment」Materials Science & Engineering. B. Advanced Functional Solid-State Materials, Vol.178, No.19, Page.1303-1310 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1には、特許文献1に係わるナイロン手袋のコラーゲン固着量の記載があり、最大35μg/g-fiberで、固着率は0.09%と僅かであることが記載されている。一方、非特許文献2に記載の様に、様々な量のコラーゲンおよびコラーゲン分子から形成された凝集体が傷害後の組織修復に好影響を与える可能性がある。このため、コラーゲン固着量を増加した手袋などの繊維製品が提供できれば、単なる雑貨の手袋でなく、医療用繊維製品への展開が期待できる。
【0009】
かかる状況下、本発明は、繊維に対して、コラーゲンの固着性を向上させることができる新たなコラーゲン加工繊維の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0011】
<1> 繊維をドライプロセスにより処理する工程と、
前記ドライプロセスにより処理された前記繊維にコラーゲンを含む水溶液を接触させて、前記繊維に前記水溶液に含まれている前記コラーゲンを固着させる工程と、を有するコラーゲン加工繊維の製造方法。
<2> 前記ドライプロセスが、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線処理、オゾン処理、電子線処理、および火炎処理からなる群から選択されるいずれかの処理である前記<1>に記載の製造方法。
<3> 前記繊維が、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、ビニロン、ナイロン、アラミド、ポリウレタンからなる群から選択されるいずれかの繊維を用いたものである前記<1>または<2>に記載の製造方法。
<4> 前記繊維と前記コラーゲンとの架橋剤で、前記繊維と前記コラーゲンとを架橋させる前記<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5> 前記処理する工程が、さらに、コラーゲンをドライプロセスにより処理するものである、前記<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6> 繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、前記繊維がポリエステルであり、コラーゲン固着量が、57μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
<7> 繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、前記繊維が、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、およびビニロンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、74μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
<8> 繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、前記繊維が、ナイロン、アラミド、およびポリウレタンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、38μg/g-fiber以上であるコラーゲン加工繊維。
<9> 前記繊維と、前記コラーゲンとの架橋剤を含む前記<6>~<8>のいずれかに記載のコラーゲン加工繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、コラーゲン加工繊維のコラーゲンの固着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の製造方法の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0015】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、繊維をドライプロセスにより処理する工程と、前記繊維にコラーゲンを含む水溶液を接触させて、前記繊維に前記水溶液に含まれている前記コラーゲンを固着させる工程と、を有するコラーゲン加工繊維の製造方法である。
【0016】
[本発明のコラーゲン加工繊維]
本発明のコラーゲン加工繊維は、繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、所定の種類の繊維を用いたものであり、それぞれの繊維の種類の繊維に応じて、従来よりも多い所定の量以上のコラーゲン固着量のものである。
【0017】
本発明の製造方法は、コラーゲン加工繊維の効率的な製造方法である。また、本発明のコラーゲン加工繊維は、コラーゲン固着量が多く、保湿性などに優れる。なお、本願において本発明の製造方法により本発明のコラーゲン加工繊維製品を得ることもでき、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0018】
コラーゲン加工された繊維は直接肌と接触する用途などでの利用が期待されている。しかし、従来、ナイロンなどのニット繊維製品ではコラーゲンの固着量が少ないことから、コラーゲン固着量が向上できれば、医療用繊維製品等への展開が期待できる。本発明者は、予め繊維に適切なドライプロセス処理をすることで繊維加工浴中における繊維-タンパク質相互作用が向上できると考えた。また、相互作用が改善した後に架橋反応することによって効率の良い加工を行うことができ、コラーゲンや架橋剤の仕込量を少なくできるなど低環境負荷な繊維加工技術と成りうると考えた。さらに、この効率の良い架橋反応によって、コラーゲン加工繊維の洗濯耐久性も向上できることを見出した。
【0019】
[本発明の製造フロー]
図1は、本発明の製造方法の例を示すフロー図である。本発明の製造方法は、繊維にドライプロセスによる処理を行うステップS11を有する。その後、溶液中、繊維とコラーゲンとの相互作用を改善し、処理後の繊維とコラーゲンを架橋反応させることによるコラーゲン固着のステップS21を有する。
【0020】
[ドライプロセス]
本発明の製造方法は、繊維をドライプロセスにより処理する工程を有する。このドライプロセスによる処理を行うことで、繊維へのコラーゲン固着量を高いものとすることができる。なお、この工程で、コラーゲンもドライプロセスにより処理することもできる。本発明の製造方法は、コラーゲン固着量を高くしたい場所を選択的に処理することができ、繊維の一部でもよいし、繊維の全体としてもよい。また、製品形状の繊維にドライプロセスを行うことができるため、繊維一次製品を製造するときの仕掛け糸などのコラーゲン加工糸のロス、繊維二次製品を製造するときの端切れなどのコラーゲン加工生地のロスも生じない。
【0021】
[繊維]
繊維は、糸、織物、編物、不織布などの繊維一次製品、アパレル、雑貨などの繊維二次製品のいずれも対象とすることができる。繊維は、化学繊維や天然繊維など、任意の繊維を用いたものを利用することができる。特に、化学繊維を対象とすることが好ましい。化学繊維は、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、ビニロン、ナイロン、アラミド、ポリウレタン、アセテート、およびレーヨンからなる群から選択されるいずれかの繊維を用いたものとすることができる。ポリエステルは、例えば、ポリエチレンテレフタレートや、ポリトリメチレンテレフタレートなどを対象とすることができる。また、綿や、麻、絹、羊毛などを対象としてもよい。また、化学繊維および/または天然繊維、その他の成分などを混紡したものなどを用いてもよい。
【0022】
[ドライプロセスの種類]
ドライプロセスは、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線処理、オゾン処理、電子線処理、および火炎処理からなる群から選択されるいずれかの処理とすることができる。これらの中でも、プラズマ処理や、コロナ処理、紫外線処理、オゾン処理、火炎処理などが好ましい。
【0023】
ドライプロセスは乾燥状態で繊維の性質を変化(改質)させることができ、水や薬品の添加、それらの廃棄、乾燥工程が必要ないなどの利点がある。上述のドライプロセスはいずれも水に対する濡れ性の向上が期待できる。例えば、空気中で処理すると繊維の表面電位はマイナスにシフトできる。また、ガスの種類によって繊維に置換される官能基を変えることができ、マイナスだけでなくプラス側にシフトすることが期待できる。
【0024】
プラズマ処理は、プラズマを照射することで繊維を処理するものである。標準空気(Air)、窒素(N2)、水素(H2)/N2混合ガスなどのガスを用いた低真空プラズマ処理で行うことができる。また、真空度は、10~200Pa程度や、20~100Pa程度の真空中で行うことができる。
【0025】
プラズマ処理のプラズマ照射時間は、10秒以上とすることができる。プラズマ処理時間は、30秒以上や、1分以上、5分以上としてもよい。プラズマ照射時間の上限は特に定めなくてもよいが、長時間行っても効果は飽和する場合があり、製造時間が長時間化する恐れもあるため、60分以下や、30分以下、20分以下、15分以下などの上限を設けてもよい。
【0026】
紫外線処理は、紫外線を照射することで繊維を処理するものである。紫外線処理は、オゾンを発生させることができるような紫外線を照射することが好ましく、深紫外や、UV-C(波長100~280nm)の波長の紫外線を含むものを用いることが好ましい。例えば、185nmと254nmに波長をもつ低圧水銀ランプや、172nmに波長をもつエキシマランプなどを用いることができる。
【0027】
紫外線処理を行うときの処理時間は30秒以上や、1分以上、5分以上としてもよい。紫外線照射時間の上限は特に定めなくてもよいが、長時間行っても効果が飽和したり、温度が高くなり過ぎて繊維にダメージを与える場合があるため、60分以下や、30分以下、20分以下、15分以下などの上限を設けてもよいし、時間を空けて回数を複数回行っても良い。照射強度は数mW/cm2から数十mW/cm2を目安としてもよく、高いほど改質量が大きく、改質時間が速くなり、被処理体との照射距離と共に調整することが好ましい。紫外線処理を空気中で行った場合、空気中の酸素がオゾンに変化し、オゾンが被処理体と結びつくことによって改質すると考えられる。
【0028】
上記した紫外線処理の改質メカニズムから、オゾン処理も同様なメカニズムであり、オゾン発生器を用いることで、同様な改質効果が期待できる。更に、温度が上昇しないために紫外線処理よりも繊維へのダメージを抑える効果が期待できる。
【0029】
火炎処理は、シリコーンやシリカを含んだ可燃ガスを燃焼させることによって、被処理体の表面に酸化ケイ素膜を形成して改質を行う処理である。この処理は表面が均一に処理できるよう被処理体に対してガスが平行に当たるように往復運動して行い、2往復以上や、4往復以上、16往復以上としてもよい。処理回数の上限は特に定めなくてもよいが、回数を増やしても効果が飽和したり、火炎で繊維にダメージを与える場合があるため、100往復以下や、50往復以下などの上限を設けてもよい。照射強度はガスの出力で調整可能であるが、被処理体との距離と共に調整する必要がある。
【0030】
[コラーゲン固着工程]
本発明の製造方法は、繊維にコラーゲンを含む水溶液を接触させて、繊維に水溶液に含まれているコラーゲンを固着させる工程を有する。このコラーゲンを固着させる工程を行うことで、繊維にコラーゲンが固着する。この固着は、繊維とコラーゲンの相互作用などによる固着や、繊維やコラーゲンのいずれかや双方の架橋剤による架橋を介した固着も含む。
【0031】
[コラーゲン濃度]
水溶液におけるコラーゲン濃度は、0.01%owf~30%owf(on the weight of fiber)であることが好ましい。コラーゲン濃度が少なすぎる場合、コラーゲン固着量が十分ではない場合がある。コラーゲン濃度の下限は、0.05%owf以上が好ましく、0.08%owf以上がさらに好ましい。コラーゲン濃度が高すぎると、固着されずに残存したコラーゲンが損失となる恐れがある。コラーゲン濃度の上限は、20%owf以下や、10%owf以下、5%owf以下などとすることができる。
【0032】
水溶液と繊維の接触手段や、接触温度、接触時間などは、その組み合わせやコラーゲン固着量、繊維の状態、処理装置などに応じて、適宜、コラーゲン加工した繊維に採用されている技術を採用して行うことができる。例えば、液槽などに収容した水溶液に繊維を浸漬させたり、繊維に水溶液を吹き付けるなどして塗工するような接触としてもよい。
【0033】
また、接触させるときの接触温度は、コラーゲンが溶解しやすく、繊維の損傷が生じにくく、水溶液濃度の変化などが生じにくく取り扱いやすいことなどを考慮して設定できる。この温度は、水溶液の温度を調整する事で管理することが好ましい。例えば、水溶液の温度を、常温~80℃程度や、40~70℃程度として接触させることができる。また、接触時間も、前述してきたような接触時の各種条件などに応じて、コラーゲンが固着する範囲で適宜設定できる。例えば、1分~2時間程度や、10分~1時間程度とすることができる。
【0034】
[架橋剤]
水溶液は、架橋剤を含むものとしてもよい。架橋剤は、繊維とコラーゲンとを架橋させて行う固着に利用される市販の架橋剤を用いることができ、グルタルアルデヒドや、塩化シアヌル、エポキシ系架橋剤、ブロックドイソシアネート系架橋剤などを用いることができる。例えば、エポキシ系架橋剤では、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス(株)のデナコールEX-321などがある。また、ブロックドイソシアネート系架橋剤では明成化学工業(株)のSU-315V、タナテックスケミカルジャパン(株)のBAYPRET(登録商標) USV、北広ケミカル(株)のMERSTARK372Nなどを用いることができる。
【0035】
架橋剤は、コラーゲンと繊維の架橋に寄与する任意の手段で用いることができる。例えば、固着させる工程の水溶液などに含有させて用いることができる。これは、予め水溶液にコラーゲンと架橋剤を含むものを用いてもよい。または、コラーゲンを含む水溶液と繊維とを接触させた後に、架橋剤を加えて架橋させながら固着させてもよい。または、コラーゲンを含む水溶液を固着させた予備処理後の繊維を、いったん乾燥などして、その後、架橋剤を含む水溶液に予備処理後の繊維を接触させて、架橋させながら固着させるものとしてもよい。
【0036】
架橋剤の濃度や、処理時間、処理温度は、架橋剤や、繊維、コラーゲンの種類や、固着量などに応じて適宜設定することができる。架橋剤は、それぞれの架橋剤ごとに有効成分濃度などに基づいた希釈の可否や希釈濃度などの標準的な使用条件などは、設定されており、その使用条件に準じて行うことができる。例えば、架橋剤の使用状態などによって、適宜、処理温度や処理時間も、コラーゲンを含む水溶液による固着させる条件に準じて設定できる。
【0037】
このように本発明の製造方法は、コラーゲン加工繊維の製造方法である。ドライプロセスにより繊維を処理することにより、効率よくコラーゲンを繊維に固着させることができる。これにより、固着量や固着率の向上や、耐洗濯性の向上、原料ロスの低下、処理時間の短縮、処理条件の緩和など、コラーゲンの固着を効率よく行うことによる、少なくともいずれかの利点などを得ることができる。これは任意の形状の繊維で行うことができる。このように、本発明の製造方法は、ドライプロセスを利用した繊維-タンパク質相互作用の向上、および制御による低環境負荷な加工技術である。
【0038】
[コラーゲン加工繊維]
本発明のコラーゲン加工繊維は、繊維にコラーゲンを固着させたコラーゲン加工繊維であり、所定の種類の繊維を用いたものであり、それぞれの繊維の種類の繊維に応じて、従来よりも多い所定の量以上のコラーゲン固着量のものである。コラーゲン固着量が高いことで、より保湿性などが高いものとなることが期待される。本発明のコラーゲン加工繊維におけるコラーゲン固着量は、繊維毎にその下限を設定してもよい。
【0039】
コラーゲン加工繊維における、コラーゲン固着量は、繊維を以下のような種類に分けて、それぞれの固着量を設定することができる。
(繊維種類A)ポリエステル
(繊維種類B)化学式に式(1)の構造を主鎖などに有する繊維である、ポリプロピレン(Rは、CH3)、ポリエチレン(Rは、H)、アクリルやモダクリル(Rは、CN)、およびビニロン(Rは、OH)。なお、それぞれの繊維について、式(1)におけるRの構造を併記している。また、式(1)におけるnは繊維毎に適宜設計されている繰り返し数である。
(繊維種類C)化学式に式(2)の結合構造(アミド結合)を有する繊維である、ナイロン、アラミド、およびポリウレタン。
【0040】
【化1】
【0041】
【化2】
【0042】
(繊維種類A)ポリエステル
本発明のコラーゲン加工繊維は、繊維がポリエステルであり、コラーゲン固着量が、57μg/g-fiber以上とすることができる。また、コラーゲン固着量の下限は、80μg/g-fiber以上、100μg/g-fiber以上、200μg/g-fiber以上、300μg/g-fiber以上としてもよい。コラーゲン固着量の上限は、4000μg/g-fiber以下や、3000μg/g-fiber以下としてもよい。
【0043】
以下、ポリエステル(繊維種類A)について、後述する実施例における測定例なども参照して、この固着量等について説明する。例えば、ポリエステルの場合、架橋剤を添加した場合は56μg/g-fiber(後述の表3)であるが、本発明の製造方法に係るプラズマ処理を5分行うことで、315μg/g-fiber(後述の表1)、368μg/g-fiber(後述の表3)と固着性が向上した。これは未処理ポリエステル-コラーゲン間の相互作用は良好であったが、これらの架橋反応を行う際に、コラーゲン同士の架橋反応も生じるために、水洗時に脱落したと考察される。一方、本発明のプラズマ処理ポリエステル-コラーゲン間はより強固な相互作用となったため、コラーゲン固着量が向上したと考察される。このことから本発明のコラーゲン加工ポリエステルにおけるコラーゲン固着量の下限は、架橋剤ありでは57μg/g-fiber以上とできる。なお、架橋剤なしのときも想定して、156μg/g-fiber以上としてもよい。コラーゲン固着量の上限は、プラズマ処理時間のみならず、コラーゲン仕込量、架橋剤の種類や仕込量、ポリエステルの表面積などに依存することも考えられるので、特に設けないでもよい。
【0044】
(繊維種類B)化学式に式(1)の構造を有する繊維
本発明のコラーゲン加工繊維は、繊維が、ポリプロピレン、ポリエチレン、モダクリル、およびビニロンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、74μg/g-fiber以上とすることができる。また、コラーゲン固着量の下限は、100μg/g-fiber以上や、150μg/g-fiber以上、200μg/g-fiber以上としてもよい。コラーゲン固着量の上限は、4000μg/g-fiber以下や、2000μg/g-fiber以下、1000μg/g-fiber以下としてもよい。
【0045】
以下、実施例における測定例なども参照して、この固着量等について説明する。式(1)で表される繊維の代表としてポリプロピレンの場合、未処理では0.1μg/g-fiber(後述の表1)、架橋剤を添加した場合で73μg/g-fiber(後述の表3)であるが、プラズマ処理を5分行うことで、それぞれ289μg/g-fiber(後述の表1)、274μg/g-fiber(後述の表3)と固着性が向上した。このことから本発明のコラーゲン加工ポリプロピレンにおけるコラーゲン固着量の下限は、架橋剤なしでは0.2μg/g-fiber以上、架橋剤ありでは74μg/g-fiber以上とできる。コラーゲン固着量の上限は、プラズマ処理時間のみならず、コラーゲン仕込量、架橋剤の種類や仕込量、ポリプロピレンの表面積などに依存することも考えられるので、特に設けないでもよい。
【0046】
(繊維種類C)化学式に式(2)の結合構造を有する繊維
本発明のコラーゲン加工繊維は、繊維が、ナイロン、アラミド、およびポリウレタンからなる群から選択されるいずれかであり、コラーゲン固着量が、38μg/g-fiber以上とすることができる。また、コラーゲン固着量の下限は、50μg/g-fiber以上や、80μg/g-fiber以上、100μg/g-fiber以上としてもよい。コラーゲン固着量の上限は、4000μg/g-fiber以下や、2000μg/g-fiber以下、1000μg/g-fiber以下としてもよい。
【0047】
式(2)の結合を有する繊維の代表としてナイロンの場合、未処理では5μg/g-fiber(後述の表1)、架橋剤を添加した場合は37μg/g-fiber(後述の表3)であるが、プラズマ処理を5分行うことで、それぞれ106μg/g-fiber(後述の表1)、91μg/g-fiber(後述の表3)となった。このことから本発明のコラーゲン加工ナイロンにおけるコラーゲン固着量の下限は、架橋剤なしでは6μg/g-fiber以上、架橋剤ありでは38μg/g-fiber以上とできる。コラーゲン固着量の上限は、プラズマ処理時間のみならず、コラーゲン仕込量、架橋剤の種類や仕込量、ナイロンの表面積などに依存することも考えられるので、特に設けないでもよい。
【0048】
[コラーゲン加工繊維のコラーゲン濃度の測定方法]
コラーゲン加工繊維のコラーゲン濃度の測定は、非特許文献1「堂ノ脇「繊維に加工したコラーゲンの定量分析」福岡県工業技術センター研究報告31号1-3(2021)」の方法を用いてコラーゲンの定量を行うことができる。この方法はコラーゲン特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンをクロラミンTと反応させることでピロールに変換させ、さらにエールリッヒ試薬と反応させて呈色させるものである。
【0049】
[コラーゲン加工繊維の洗濯によるコラーゲン保持率]
また、本発明のコラーゲン加工繊維は、所定の洗濯保持率を有するものとしてもよい。例えば、本発明のコラーゲン加工繊維の洗濯保持率は、JIS L0844(2011)「洗濯に対する染色堅ろう度試験方法」のA-2法(石けん5g/L、浴比1:20、50℃、30分)に基づいたものとすることができる。この洗濯保持率は、繊維の種類ごとに設定してもよい。(繊維種類A)の洗濯保持率は、60%以上や、70%以上としてもよい。(繊維種類B)の洗濯保持率は、85%以上や、90%以上、95%以上としてもよい。(繊維種類C)の洗濯保持率は、90%以上や、92%以上、95%以上としてもよい。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[繊維]化学繊維はポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)、ナイロン(Ny)を用いて行った。
・PP繊維:株式会社色染社の染色試験用の生地を用いた。
・PET繊維、Ny繊維:一般財団法人日本規格協会のJIS L 0803(2011)「染色堅ろう度試験用添付白布」に準拠した、染色堅ろう度試験用添付白布を用いた。
【0052】
ドライプロセスは、以下の「低真空プラズマ処理」、「低圧水銀ランプ」、「火炎処理」のいずれかをそれぞれの試験例で行った。
【0053】
・低真空プラズマ処理
低真空プラズマ処理は、株式会社魁半導体のガス導入型真空プラズマ装置YHS-Gを用いて、標準空気(Air)、窒素(N2)、30%水素(H2)/N2ガスを用いて50Pa真空中で表面改質を行った。
【0054】
・低圧水銀ランプ処理(紫外線処理・オゾン処理)
セン特殊光源株式会社の低圧水銀ランプ電源UVB-20を用いて同社の低圧UVランプ(20W)UVL20PH-6を発光させて空気中、常温で表面改質を行った。この低圧水銀ランプ処理は、深紫外線を照射するものであり、この照射によりオゾン処理が生じていると考えられる。
【0055】
・火炎処理
株式会社ソフト99コーポレーションのフレイムボンドを用いて、空気中、常温、最大ガス量で着火させ、手動で繊維に対して平行に動かして表面改質を行った。
【0056】
・繊維-コラーゲンの相互作用および固着
コラーゲン(1):化学繊維に固着させるタンパク質は旭陽化学工業株式会社の「フィッシュコラーゲンペプチドSVF」を用いた。
各濃度のコラーゲン水溶液に繊維を加えて60℃、60分処理し、その後、水洗、乾燥させることでコラーゲン加工繊維のサンプルを作製した。
【0057】
・架橋剤
架橋剤(1):繊維とコラーゲンとの架橋では、タナテックスケミカルジャパン(株)の「BAYPRET(登録商標) USV」を用いた。上記コラーゲン水溶液で繊維を処理した後、室温で架橋剤を添加して20分処理した後、脱水、乾燥して架橋した。
【0058】
・コラーゲン固着量の測定
繊維のコラーゲン定量は、非特許文献1「堂ノ脇「繊維に加工したコラーゲンの定量分析」福岡県工業技術センター研究報告31号1-3(2021)」の方法を用いて行った。この方法はコラーゲン特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンをクロラミンTと反応させることでピロールに変換させ、さらにエールリッヒ試薬と反応させて呈色させた。固着量の表記は、定量に用いた繊維の絶乾重量からμg/g-fiberとした。
【0059】
・耐洗濯性
洗濯試験は、JIS L0844(2011)「洗濯に対する染色堅ろう度試験方法」のA-2法(石けん5g/L、浴比1:20、50℃、30分)で行った。
【0060】
[試験例1][化学繊維のドライプロセス処理によるコラーゲン相互作用の向上]
表1は、繊維のドライプロセス処理条件とコラーゲン相互作用効果を示す表である。全ての化学繊維で未処理よりもドライプロセス処理を行った方が繊維とコラーゲン相互作用の向上が見られた。最も効果が大きかったのは、PPにおけるAir中の低真空プラズマ処理であり、未処理では0.1μg/g-fiberで、ほとんど固着できなかったが、5分処理で290μg/g-fiberで、2800倍以上のコラーゲン固着量となった。
【0061】
【表1】
【0062】
その他、表1に示した繊維の中では、Ny、PETの順にコラーゲン量の向上が見られ、繊維の種類によってドライプロセス効果が異なった。またガス種によっても繊維とコラーゲン相互作用には違いがあり、PPではAir、N2、30%H2/N2の順で、PETでもAir、N2の順でコラーゲン量の向上が見られた。更に、ドライプロセスの種類でも固着量に違いが見られ、表1に示したPETでは低真空プラズマ、低圧水銀ランプ、火炎処理の順に、PPでも低真空プラズマ、低圧水銀ランプの順にコラーゲン量が向上した。このように、化学繊維種類、ガス種、ドライプロセスの種類で繊維とコラーゲンとの相互作用の改善効果は異なることが明らかとなった。
【0063】
[試験例2][化学繊維のドライプロセス処理によるコラーゲン固着量の向上]
表2は、繊維を標準空気(Air)中で低真空プラズマ処理および架橋した後のコラーゲン固着結果を示す表である。この結果は、各種化学繊維のAirガス中低真空プラズマ処理を時間を変えて行い、繊維とコラーゲンとの相互作用を改善させた後、架橋反応を行ったものであり、コラーゲン固着量が向上した結果を示すものである。
【0064】
【表2】
【0065】
このように、ドライプロセス処理時間で繊維とコラーゲンとの固着量は向上でき、その固着量は時間で制御できることが明らかとなった。また同じ量の架橋剤を添加してもドライプロセス処理条件でその固着量は3~7倍以上に向上できることが明らかとなった。このことから繊維-コラーゲン相互作用は重要な工程であり、かつ架橋剤などが少なくて済む低環境負荷な加工方法であることが示された。
【0066】
[試験例3][化学繊維のドライプロセス処理によるコラーゲン洗濯耐久性の向上]
表3は、ドライプロセス処理した繊維とコラーゲンとを架橋した後、洗濯試験を行った後のコラーゲン固着量、およびコラーゲンの洗濯保持率を示した表である。表に示したPET、PP、Nyはコラーゲン固着量と共に、コラーゲンの洗濯保持率も向上した。このことから、本発明を用いることでコラーゲン固着量のみならず、繊維に固着させたコラーゲンの洗濯耐久性も向上できることが明らかとなった。
【0067】
【表3】
【0068】
[試験例4][コラーゲンまたは/および化学繊維のドライプロセス処理による繊維-コラーゲン相互作用向上効果]
表4は各種ガス中低真空プラズマ処理したコラーゲンとPPとのコラーゲン固着量を示す表である。未処理のPPと未処理のコラーゲンの固着量は0.11μg/g-fiberと、ほとんど固着できないが、コラーゲンをAir、N2、30%H2/N2でプラズマ処理すると繊維-コラーゲン相互作用の向上が見られた。また、これらの相互作用はPPを30%H2/N2中プラズマ処理することによって向上することが明らかとなり、化学繊維のドライプロセス処理のみでなく、コラーゲンも処理することで繊維-コラーゲン相互作用に影響を与えることが示された。
【0069】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、コラーゲン加工した繊維に関し、この繊維は、衣服などに利用することができ、産業上有用である。
図1