IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日成共益株式会社の特許一覧

特開2024-54490タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物
<>
  • 特開-タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054490
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/00 20160101AFI20240410BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20240410BHJP
   A23C 21/08 20060101ALI20240410BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20240410BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240410BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240410BHJP
   A23L 2/39 20060101ALI20240410BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240410BHJP
   A23C 9/16 20060101ALI20240410BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20240410BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240410BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L2/00 J
A23C21/08
A23L33/17
A23L5/00 M
A23L2/00 F
A23L2/00 Q
A23L2/52
A23L2/38 P
A23C9/16
A23L33/19
A61K38/02
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/24
A61K9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160727
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】502324088
【氏名又は名称】日成共益株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】植松 未香
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B035
4B117
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001AC05
4B001BC01
4B001EC53
4B018MD20
4B018MD27
4B018ME02
4B018MF04
4B035LC03
4B035LC05
4B035LE03
4B035LG17
4B035LG43
4B035LG44
4B035LK13
4B035LK19
4B035LP01
4B117LC02
4B117LC04
4B117LK11
4B117LL09
4B117LP14
4C076AA33
4C076BB01
4C076DD26Q
4C076DD43Q
4C076DD59Q
4C076FF36
4C076FF70
4C084AA03
4C084BA44
4C084MA52
4C084NA03
(57)【要約】
【課題】 タンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制する技術を提供すること。
【解決手段】 本発明は、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物を提供することができる。また、本発明は、飲食品中に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための粉末状の組成物であって、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む酸成分と、タンパク質と、を含む、飲食品用の粉末状の組成物を提供することができる。これらは、さらにリン酸を含むことが好適である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む、
タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物。
【請求項2】
飲食品中に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための粉末状の組成物であって、
グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む酸成分と、タンパク質と、を含む、飲食品用の粉末状の組成物。
【請求項3】
さらにリン酸を含む、
請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物、及びタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための飲食品用の粉末状の組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、炭水化物、脂質とともに三大栄養素とも呼ばれ、筋肉や骨、皮膚などをつくる役割も果たしている。近年、タンパク質を、健康増進や筋肉増強のために積極的に摂取するアスリートや運動習慣のあるヒトがいる一方で、日本人のタンパク質摂取量が減少しているとの報告もある。このため、ヒトの嗜好性にあうようなタンパク質含有の飲食品の商品開発等が行われている。
【0003】
しかしながら、タンパク質含有の飲食品用組成物又は飲食品を製造する際に、タンパク質及びその他の原料と混合した水溶液を、原料の溶解性向上や殺菌などを目的とし通常、タンパク質が熱変性してしまうような加熱処理を施すことが多い。このような場合、この加熱処理済みの水溶液は、タンパク質のゲル化又は増粘しやすくなり、タンパク質のゲル化又は増粘が強くなると、その後の製造工程の作業性等やその後得られる飲食品用組成物又は飲食品の食感等に、好ましくない影響がでやすい。このため、次工程以降で高せん断等の物理的処理を行ったり、加熱処理する前に原料に高分子多糖等の安定化剤の配合を行ったりしている。
【0004】
例えば、特許文献1では、室温よりも高い温度での充填により製造されるタンパク質含有飲料のゲル化抑制方法の提供を課題とし、セルロース及びジェランガムを配合し、タンパク質含有飲料を調製する工程1と、前記工程1後のタンパク質含有飲料を殺菌し、40℃以上の液温で充填する工程2と、を備える方法である。タンパク質含有飲料のゲル化抑制方法は、セルロース及びジェランガムを配合し、40℃以上の液温で充填する、タンパク質含有飲料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-174722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらなる、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための技術が、種々検討されている。
そこで、本発明は、タンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制する技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、グルコン酸若しくはグルコノラクトン(以下、「グルコン酸化合物」ともいう)を用い、グルコン酸化合物及びタンパク質を含む水溶液の加熱処理を行った場合、タンパク質のゲル化又は増粘がより良好に抑制できた、液状又はゾル状の組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
本発明は、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物を提供することができる。
本発明は、飲食品中に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための粉末状組成物であって、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む酸成分と、タンパク質と、を含む、飲食品用の粉末状の組成物を提供することもできる。
前記酸成分として、さらにリン酸を含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制する技術を提供することができる。なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載された何れかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】タンパク質及びリン酸を含む水溶液(■)、タンパク質及びグルコン酸を含む水溶液(●)を用いたときの、加熱後のpH及び加熱後の粘度(mPa・s)を示す図である。縦軸はB型粘度計による加熱後の粘度(mPa・s)及び横軸は加熱後のpHである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。なお、数値範囲(~)における下限値(以上)と上限値(以下)とは、所望により、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において、「第1、第2、第3…」、「A、B、C…」、「1次、2次、3次…」などと数字やアルファベット等を付して、便宜上説明することがあるが、これにより、本発明が、順序など狭義に限定解釈されることはなく、任意に順序を変更してもよい。また、本明細書において、例えば「調整する(こと)」等の「する(こと)」を、方法、工程、手段又はステップなどとしてもよく、これら用語を適宜置き換えてもよく、例えば、工程を、「する(こと)」、方法又は手段などにしたり、方法を、工程、「する(こと)」又は手段などにしてもよい。
【0012】
1.本発明の概要
本発明の概要などの説明において、後述の「2.」~「6.」等と同じ又は重複する、グルコン酸化合物、酸成分、タンパク質、組成物、飲食品、液状又はゾル状の組成物などの各技術的特徴、各構成要件や各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「6.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0013】
本発明者は、タンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制する技術を種々鋭意検討した。本発明者は、鋭意検討した結果、後記〔実施例〕に示すように、タンパク質と水とを含む原料組成物を加熱処理する際に、酢酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸を用いた場合、得られた加熱処理後の各酸性組成物はB型粘度計で測定不可でありかつゲル化していた。リン酸を用いた場合でも、得られた加熱処理後の酸性組成物はゾル状であった。
【0014】
従来、加熱処理時に、タンパク質を含む水溶液を酸性条件下においても、タンパク質濃度に比例して、加熱処理後にタンパク質を含む組成物が増粘やゲル化を起こしてしまうため、特に高タンパク飲食品を作製しようとすると、加熱処理時に酸性条件下においても、ザラつきなどが発生し食感が悪くなっていた。そのため、タンパク質を低濃度に抑えて水を含む原料組成物に配合するか水を含む原料組成物のpHを大幅に下げることでしか、得られる飲食品の食感を良好に保つことができなかった。
【0015】
しかしながら、グルコン酸化合物を用いた場合には、得られた加熱処理後の酸性組成物が液状であり、タンパク質のゲル化又は増粘を非常に良好に抑制していた。そして、グルコン酸化合物を用いたときの加熱処理後の組成物の粘度は、リン酸を用いたときの加熱処理後の組成物の粘度と比較した場合、加熱処理後のpHが3.45付近において、約1/10以下となっていた(図1参照)。このように、本発明者は、グルコン酸化合物は、格別顕著なタンパク質のゲル化又は増粘の抑制作用効果を発揮することを見出した。すなわち、グルコン酸化合物を用いて、グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料組成物を加熱処理すると、グルコン酸化合物以外の酸成分を用いた場合と比較して、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘を格別顕著に抑制できることを見出した。そして、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘が影響を及ぼしていた食感について、ゲル化・増粘の抑制作用効果により、加熱処理済みの組成物の食感のザラつきの改善及び/又は食感の滑らかさ向上が期待できる。
【0016】
このことから、本発明者は、グルコン酸化合物を少なくとも用いる、タンパク質のゲル化又は増粘抑制方法、及び、グルコン酸化合物を少なくとも含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物を提供できることを見出した。
【0017】
さらに、本発明者は、タンパク質とグルコン酸化合物とを含有する組成物から粉末状の組成物を製造し、当該粉末状の組成物を水を含む原料組成物に調製した後に加熱処理した際に、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘がより良好に抑制できることを見出し、これにより、本発明者は、タンパク質のゲル化又は増粘の抑制用の粉末状組成物及びその製造方法を提供できることを見出した。さらに、本発明者は、当該粉末状組成物を原料として用いて製造された飲食品等の製品を提供できることも見出した。
【0018】
さらに、本発明者は、グルコン酸化合物及びリン酸を併用した場合、リン酸単独の酸成分を用いた場合と比較し、非常に優れた加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘の抑制作用を発揮すること、及び、グルコン酸化合物単独の酸成分を用いた場合と比較しても、遜色のない加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘抑制作用を発揮でき、しかも酸成分の使用量を約半分以下にすることができることも見出した。
【0019】
従って、本発明に用いる、グルコン酸化合物、グルコン酸化合物を含む酸成分、並びに、グルコン酸化合物及びリン酸の併用など(以下、「前記グルコン酸化合物類」ともいう。)は、タンパク質のゲル化抑制作用又は増粘抑制作用、加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘抑制作用、タンパク質の耐熱性付与作用、タンパク質の熱安定性向上作用、加熱処理後のタンパク質含有組成物の食感の維持又は改善作用(例えば、ザラつき食感の改善作用、滑らかな食感の向上作用など)などの作用を有し、これらから選択される1種又は2種以上を目的として使用することができる。
【0020】
そして、本発明では、前記グルコン酸化合物類は、上述したタンパク質のゲル化又は増粘の抑制などを実施することができ、前記グルコン酸化合物類を、上述したタンパク質のゲル化抑制又は増粘抑制用、酸性条件下で加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘抑制用などの酸成分又は組成物に含有させることができる。また、本発明では、上述した作用効果などを期待して、前記グルコン酸化合物類を、そのまま適用対象(例えば飲食品用組成物、飲食品など)に使用することもできる。本発明では、前記グルコン酸化合物類又はこれを含む組成物を、上述したタンパク質のゲル化抑制方法又は増粘抑制方法などに用いることができる。
【0021】
また、本発明では、前記グルコン酸化合物類を、上述した作用効果などを期待する、タンパク質のゲル化又は増粘抑制用などの各種製剤又は各種組成物を製造するために又は製造のために使用することができる。また、本発明では、上述したタンパク質のゲル化又は増粘抑制などのための又はタンパク質のゲル化又は増粘抑制などに用いるための前記グルコン酸化合物類又はこの使用を提供したり、前記グルコン酸化合物類を、上述したタンパク質のゲル化又は増粘抑制などに用いるための物質又は有効成分として使用することも可能である。
【0022】
本発明を用いることで、タンパク質のゲル化又は増粘が抑制された、飲食品、飲食品用組成物、医薬品、医薬品用組成物等の製品等から選択される1種又は2以上を提供することもできる。また、飲食品用組成物又は医薬品用組成物を、飲食品又は医薬品等の原料として使用してもよい。本実施形態の組成物若しくは剤は、公知の方法によって得ることができる。
また、本発明は、以下のような、本実施形態に関する組成物及び方法などを提供することができ、これらに限定されない。
【0023】
2.本実施形態に係るタンパク質のゲル化抑制用又は増粘抑制用の組成物
本発明におけるタンパク質のゲル化抑制用又は増粘抑制用の組成物などの例の説明において、前述の「1.」及び後述の「3.」~「6.」等と同じ又は重複する、グルコン酸化合物、酸成分、タンパク質、組成物、飲食品、液状又はゾル状の組成物などの各技術的特徴、各構成や各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「6.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0024】
本実施形態は、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物を提供することが好適であり、当該組成物又は酸成分は、さらにリン酸を含むこと(すなわち、グルコン酸若しくはグルコノラクトンとリン酸とを含むこと)が好適である。なお、「グルコン酸若しくはグルコノラクトン」を「グルコン酸化合物」ともいい、本実施形態の「タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物」を「ゲル化又は増粘抑制用の組成物」ともいう。
【0025】
2-1.グルコン酸若しくはグルコノラクトン
本実施形態では、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを、タンパク質のゲル化抑制又は増粘抑制のために用いることが好適である。
本実施形態で用いるグルコン酸及びグルコノラクトンは、市販品を用いることができ、また、公知の製造方法にて製造してもよい。また、本実施形態では、グルコン酸として、酸性条件下及び/又は加熱処理により、グルコン酸に加水分解される化合物(例えば、他の化合物とのエステル結合(カルボキシ基と水酸基とのエステル結合)等を有するグルコン酸誘導体)などを用いてもよい。
【0026】
本実施形態では、タンパク質と水とグルコン酸化合物とを混合した原料組成物(好適には酸性原料組成物)を、加熱処理したときに得られたタンパク質のゲル化又は増粘が抑制された加熱処理済みの酸性組成物を用いることで、食感が良好な飲食品を製造することができる。また、加熱処理後の酸性組成物の物性は、B型粘度計にて測定することができ、加熱処理後の酸性組成物は、ゾル状又は液状(より好適には液状)であることがより好適であり、低粘度の液状がさらに好適である。
【0027】
前記原料組成物(好適には酸性原料組成物)として、例えば、(A)グルコン酸化合物を少なくとも含む又は添加した原料組成物;(B)前記ゲル化又は増粘抑制用組成物を少なくとも含む又は添加した原料組成物;(C)前記ゲル化又は増粘抑制のための飲食品用の粉末状の組成物を少なくとも含む又は添加した原料組成物などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、リン酸を併用することがより好適である。
【0028】
前記原料組成物(好適には酸性原料組成物)の形態は、特に限定されず、水を含む液状又は水を含むペースト状が好適であり、水を含む液状又はペースト状として、原料としてタンパク質及び水を含む組成物(好適には原料を含む水溶液又は酸性水溶液)が好適である。本実施形態において、「原料を含む水溶液」の「水溶液」とは、広義での「溶媒として水を使った溶液のこと」をいい、タンパク質などの原料が、水に完全に溶解しておらず、分散状態又は懸濁状態又はペースト状の水溶液であってもよい。
【0029】
本実施形態では、グルコン酸化合物及びリン酸の組み合わせを、タンパク質のゲル化抑制又は増粘抑制のために用いることがより好適である。リン酸をグルコン酸化合物と併用することで、グルコン酸化合物単独よりもさらに酸成分の全体使用量及びグルコン酸の使用量をより低減することができ、低コスト化することができる。また、グルコン酸化合物及びリン酸の質量含有割合又は質量使用割合を調整することで、グルコン酸化合物単独とほぼ同等の物性を有する加熱処理後の酸性組成物を得ることもできる。
【0030】
前記ゲル化又増粘抑制用組成物、又は前記ゲル化又は増粘抑制用の酸成分は、少なくともグルコン酸若しくはグルコノラクトンを含むことが好適であり、さらに、リン酸を併用することが好適である。
なお、前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物又は酸成分は、グルコン酸化合物及び/又はリン酸以外の酸成分を含んでもよく、例えば、酸味料や酸性側に調整するpH調整剤などに用いられている成分を、本発明におけるゲル化抑制又は増粘抑制の効果が損なわない範囲内で、使用してもよい。これら以外の酸成分として、例えば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、酢酸などの有機酸、及び、二酸化炭素などの無機酸などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。これら以外の酸成分として、カルボキシ基を単数又は複数有する有機酸が好適であり、当該カルボキシ基の数は1~3がより好適である。
【0031】
前記グルコン酸化合物の含有量又は使用量は、特に限定されないが、組成物中又は酸成分中、グルコン酸換算にて、好適な下限値として、タンパク質のゲル化抑制又は増粘抑制の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。また、前記グルコン酸化合物の含有量又は使用量は、組成物中又は酸成分中のグルコン酸化合物の全量を低減しつつこのグルコン酸化合物単独と同等程度若しくは近い効果を期待するために他の酸成分と併用する場合には、組成物中又は酸成分中、好適な上限値としては、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下又は80質量%以下であってもよい。
【0032】
本実施形態に用いるリン酸の含有量又は使用量は、特に限定されないが、組成物中又は酸成分中、好適な下限値として、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下であり、当該好適な数値範囲は、より好ましくは5~15質量%である。
【0033】
本実施形態に用いる、グルコン酸化合物(グルコン酸換算)と、リン酸との質量含有割合又は質量使用割合は、特に限定されないが、好ましくは50~100:50~0、より好ましくは70~95:30~5、さらに好ましくは80~90:20~10である。これにより、グルコン酸化合物の使用量を低減しつつ、グルコン酸化合物単独の酸成分でのタンパク質のゲル化抑制効果又は増粘抑制効果と同等程度又は近い効果でありながら、酸成分の全量及びグルコン酸化合物の使用量をより低減することができ、これによりコストを低減することもできる。
【0034】
本実施形態に用いる酸成分又は組成物は、必要に応じて水及び/又はタンパク質などを混合することによって、タンパク質及び水を含む酸性組成物又はタンパク質を含む水溶液又は酸性水溶液などに調製することが、好適である。当該酸性組成物又は水溶液であって加熱処理前のpHは、特に限定されないが、当該pHとしては、好適な下限値として、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下であり、当該好適なpHはより好ましくは2~6である。
【0035】
また、本実施形態に用いる酸成分又は組成物は、加熱処理されたタンパク質及び水を含む組成物のpHが酸性の範囲になるように、調整することが好適である。当該加熱処理済みの組成物のpHとして、好適な下限値として、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下であり、当該好適なpHはより好ましくは2~6である。
【0036】
なお、本実施形態に用いる組成物又は酸成分の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、粉末状、顆粒状、及び固体状などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
また、本実施形態に用いる酸成分の塩形態は、特に限定されず、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)などから選択される1種又は2種以上の塩を用いてもよいが、加熱処理する際の原料組成物が酸性に調整されていることが好適である。
【0037】
また、本実施形態は、グルコン酸化合物と、リン酸とを、別々に又は同時に含有する、タンパク質のゲル化又は増粘の抑制作用の組成物を提供することができる。また、グルコン酸化合物及びリン酸を、別々の状態又は別々の製品にしておいて、使用する際に混合させて適用対象に使用することができる。例えば、グルコン酸化合物を含む第一酸成分(第一組成物)及びリン酸を含む第二酸成分(第二組成物)から少なくとも構成される二剤型組成物又は組成物キットを提供することができる。並びに、前記第一酸成分及び前記第二酸成分を使用時に混合して使用することによる、上述した加熱時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘の抑制方法等を提供することもできる。
【0038】
本実施形態に関する組成物は、上述したグルコン酸化合物、リン酸、酸成分以外の成分又は原料として、必要に応じて又は本技術の効果を損なわない範囲内で、飲食品、医薬品、飼料、添加剤等の種々組成物に通常使用されている成分又は原料を含有させる又は配合することができる。任意成分としては、例えば、タンパク質や水などの原料、防腐剤、抗酸化剤、pH調整剤、油脂、乳化剤、香料、着色料などが挙げられ、これらから1種又は2種を選択して使用することができる。また、本実施形態の組成物若しくは組成物の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、粉末状などの何れの形態でもよい。
【0039】
2-2.使用方法など
前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物は、タンパク質又はこれを含む原料組成物に対して用いることが好適であり、当該タンパク質は、好適には原料に含まれるものであり、より好適には飲食品用原料又は飲食品の製造に用いる原料に含まれることが好適である。また、本実施形態における加熱処理の対象とするタンパク質は、未ゲル化状態、未熱変性状態、又は加熱処理前の状態であることが好適である。
【0040】
前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物を用いることにより、飲食品用組成物又は飲食品の製造工程において加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができ、食感の良好な物性を有する飲食品用組成物又は飲食品を提供することができる。
【0041】
本実施形態の別の側面として、本実施形態は、グルコン酸化合物を含む酸成分と、タンパク質と、を含み、前記タンパク質及び/又はこれ以外のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる、組成物又は原料組成物を提供することが好適であり、当該組成物は、さらにリン酸を含むことが好適である。当該組成物又は原料組成物は、飲食品に用いるための又は飲食品の製造に用いるための、組成物であることがより好適である。当該組成物又は原料組成物は、さらにタンパク質及び/又は水を含んでもよい。より好適な組成物又は原料組成物の形態は、冷蔵や冷凍などを行わずに、水和によるゲル化又は増粘をより簡便に抑制でき、運搬等において軽量化できる観点から水分含量の少ない形態が好適であり、より好適には粉末状の組成物又は原料組成物である。
【0042】
本実施形態は、飲食品中に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための粉末状組成物であって、グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む酸成分と、タンパク質と、を含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための飲食品用の粉末状の組成物を提供することが好適であり、当該酸成分は、さらにリン酸を含み、グルコン酸若しくはグルコノラクトンとリン酸とを含む酸成分であることが好適である。
【0043】
上述した、タンパク質のゲル化又は増粘抑制用の組成物を、タンパク質及び/又は水などの各種原料(好適には飲食品用の原料)と混合し、これにより得られた原料組成物(好適には酸性原料組成液又は酸性原料水溶液)を加熱処理することで、加熱処理時に生じるタンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制でき、このより良好な抑制により、ザラつきのより少ない食感又はより滑らかな食感等の良好な食感を有する組成物及び飲食品を提供することができる。
【0044】
前記加熱処理前の原料組成物中のタンパク質濃度は、特に限定されないが、その好適な下限値として、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、また、上限値は特に限定されないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、好適な数値範囲として、5~20質量%である。なお、原料組成物は、酸性原料組成物が好適であり、より好適には原料酸性水溶液である。本実施形態では、原料組成物中のタンパク質濃度が高い場合でも、タンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制することができ、食感を良好に保ちながらタンパク質を高濃度で配合することができる。このため、本実施形態を用いることで、高タンパク質且つ低粘度を有する酸性飲食品を提供することも可能である。
【0045】
前記加熱処理前の原料組成物中の水含有量は、全固形分、飲料又は食品などのアプリケーションの種類によって調整するため、特に限定されないが、水以外の原料の総質量を原料組成物100質量%から引いた残分(残分量)でもよく、例えば、97~20質量%などが挙げられる。
【0046】
前記加熱処理前の原料組成物は、特に限定されないが、より好適には低粘度の液状であり、例えば、B型粘度計測定(M1、M2、M3,M4ローター、60rpm、60sec、20~25℃)における原料タンパク質水溶液の粘度は、好適には1,000mPa・s以下、より好適には100mPa・s以下、より好適には10mPa・s以下である。
【0047】
本実施形態において、加熱処理前に、前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物と、各種原料とを混合する際のそれぞれの形態は特に限定されず、例えば、液状と液状、液状と粉末状、又は粉末状と液状の何れでもよく、なお液状はペースト状であってもよく、水を含む形態であることがより好適であり、また、粉末状は固体状であってもよい。
【0048】
また、加熱処理前に、前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物と、各種原料との混合の添加順序は特に限定されず、それぞれ別々に又は同時期に混合してもよく、例えば、前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物に各種原料を配合してもよく、各種原料に前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物を配合してもよい。なお、前記ゲル化又は増粘抑制用の組成物を、前記ゲル化又は増粘抑制用の酸成分として使用してもよい。
【0049】
また、原料又は原料組成物を混合する際の温度は、特に限定されず、当該混合が加熱処理工程の前処理工程である場合には加熱処理温度にならないような温度が好ましく、例えば、タンパク質熱変性を起こしやすい60℃よりも低い温度以下が好ましく、好適な上限値として、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下であり、好適な下限値としては、種々の原料を水溶液と混合するために好ましくは4℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。なお、各種原料又は原料組成物を混合する工程は、加熱処理工程の前処理工程ではなく、加熱処理工程として混合及び加熱処理を同時期に行ってもよく、加熱処理工程については後述する。
【0050】
前記各種原料は、特に限定されず、例えば、タンパク質、水、乳化剤、甘味料、ペクチン等の安定剤、香味成分、動植物油脂、増粘多糖類、香味成分、油脂、タンパク質、アミノ酸、有機酸、ビタミン類、無機塩類などが挙げられ、これらからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。飲食品に用いることができる各種原料(例えば、さらに、肉・野菜・豆類のペーストやピューレ状物、肉類、魚類、果物、豆類、野菜など)が好適である。
【0051】
本実施形態を用いると、リン酸単独を用いる場合と比較して、タンパク質のゲル化又は増粘がより良好に抑制された、液状又はゾル状の組成物を得ることができ、これを飲食品用の組成物として又は飲食品として提供することが好適である。また、本実施形態を用いることにより、タンパク質を含む飲食品を製造する際に、高濃度のタンパク質含有の原料組成物を加熱処理した場合であっても、液状又はゾル状の飲食品用組成物又は飲食品を提供することも可能である。
【0052】
本実施形態は、一般的に飲食品など製品の製造などで行われているタンパク質の熱変性が起こりうるような加熱処理又は加熱処理工程で用いることが好適であり、より好適な態様として、タンパク質が熱変性しゲル化又は増粘するような加熱処理条件下のときに、用いることである。これにより、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができる。本実施形態で用いる加熱処理の条件は、特に限定されず、例えば、酸性、温度、期間及び圧力から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0053】
例えば、本実施形態は、飲食品又は飲食品用組成物を製造するときに用いられる一般的な加熱処理条件が好適であり、このとき、リン酸単独又はクエン酸等の酸成分を用いた場合よりも、優れたゲル化又は増粘抑制作用を発揮し得ることを期待することができる。例えば、後記〔実施例〕に示すように、加熱処理条件の強度が高まることでタンパク質の熱変性によるゲル化の可能性が高まるほど、本実施形態は、従来用いている酸成分との比較において、より優れたタンパク質のゲル化又は増粘の抑制作用効果を発揮し得る。
【0054】
加熱処理における酸性条件下として、特に限定されないが、好適にはpH2~6、さらに好適にはpH3~4である。
また、加熱処理における温度として、タンパク質が熱変性しやすい温度以上(例えば60℃以上)が好適であり、より好適には70℃又は80℃以上、さらに好適には90℃又は100℃以上であり、本実施形態では高い温度でもタンパク質のゲル化又は増粘の抑制の作用効果が発揮できることが利点であり、上限は、通常、タンパク質を含む飲食品などの製造で用いる上限の温度であり、150℃以下が好適であり、より好適には140℃以下、さらに好適には130℃以下である。
また、加熱処理における加圧条件も、特に限定されず、常圧(約1気圧)、0.5気圧から2気圧までの範囲が挙げられる。また、前記加熱処理が殺菌処理の場合には、低温加熱殺菌(40℃以上100℃以下、30分~3時間)、高温加熱殺菌(70℃以上、15秒、15分以上30分以下)、超高温加熱殺菌(120℃~150℃で1秒以上5秒以内)、高温高圧殺菌などから選択される1種又は2種以上であることが好適である。
【0055】
前記加熱処理の条件は、pHが2~6であること、及び/又は、60℃~150℃である、及び/又は、1秒以上3時間以下であること、及びこれらの組み合わせが好適である。
【0056】
本実施形態を用いて得られた加熱処理後の組成物は、特に限定されないが、タンパク質のゲル化又は増粘が良好に抑制された組成物であり、より好適には液状又はゾル状の組成物であり、さらに好適には低粘度の液状である。例えば、B型粘度計測定(M1、M2、M3、M4ローター、60rpm、60sec、20~25℃)における原料タンパク質水溶液の粘度は、好適には10,000mPa・s以下、より好適には1,000mPa・s以下、より好適には100mPa・s以下、より好適には30mPa・s以下である。
【0057】
2-3.タンパク質
本実施形態の対象として用いるタンパク質は、特に限定されないが、当該タンパク質は、動物由来、植物由来、微生物由来、及び昆虫由来等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上でもよい。本実施形態は、熱変性する又は熱変性し易い又はゲル化するタンパク質を用いることが好適であり、未ゲル化タンパク質に用いることが好適である。
本実施形態を用いることにより、加熱処理によるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができ、より好適には、タンパク質及び水を含む組成物又は組成液(好適にはタンパク質を含む水溶液)の加熱時に起こるゲル化又は増粘を抑制することができる。これにより、酸性条件下の加熱処理後であっても、ゲル化又は増粘が抑制された組成物を得ることができる。本実施形態では、タンパク質のゲル化又は増粘をより良好に抑制することができるので、ザラつきの少ない食感又は滑らかな触感などの良好な食感の飲食品用組成物又は飲食品などを提供することも可能である。
【0058】
本実施形態に用いるタンパク質の種類は、特に限定されないが、例えば、乳タンパク質、卵タンパク質、植物由来タンパク質、ゼラチン、コラーゲン等及びこれらの分解物等からなる群から選択される1種又は2種以上である。このうち、乳タンパク質、卵タンパク質が好適であり、より具体的にはホエイタンパク質、卵白が好適である。植物由来タンパク質として、例えば、大豆、アーモンド、エンドウ、そらまめ、ひよこ豆、ポテト、大麦、小麦、米、及びこれらの加工品(例えば、大豆タンパク質など)などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を使用することができ、このうち大豆タンパク質が好ましい。
また、タンパク質の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、粉末状、顆粒状、及び固体状などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。各種タンパク質は、公知の製造方法による製品又は市場で流通している製品を用いることができる。各種タンパク質の調製において、例えば、遠心分離法、限外ろ過法、乾燥法(噴霧乾燥法、凍結乾燥法など)などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。組成物を粉末状にする場合には噴霧乾燥法を用いることが好適である。
【0059】
乳タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、全乳タンパク質(TMP;Total Milk Protein)乳タンパク質濃縮物(MPC;Milk Protein Concentrate)、分離乳タンパク質(MPI;Milk Protein Isolate)、マイセラカゼイン、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、ホエイタンパク濃縮物(WPC;Whey Protein Concentrate)、ホエイタンパク分離物(WPI;Whey Protein Isolate)、ホエイペプチド、カゼイン、カゼイネート、ラクトフェリン等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0060】
この乳タンパク質のうち、ホエイタンパク質が、本実施形態の作用効果を得やすいことから、好ましく、さらにWPC及び/又はWPIが、より好ましい。WPC及びWPIの組成は、後記〔実施例〕で説明した例が挙げられるが、これらに限定されない。通常、WPCはタンパク質含量15%以上であり、好適にはタンパク質含量が80%以上である。WPIは、タンパク質含量が90%以上であることが好適である。乳タンパク質は、牛乳由来が好適である。
【0061】
ホエイタンパク質は、公知の製造方法又は調製方法を適宜採用して得ることができるし、市販品を入手することもできる。ホエイタンパク質は、例えば牛乳、脱脂乳、全粉乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイなどから選ばれるホエイタンパク質を含む乳原料から、調製(分離、酸添加、酵素添加、精製等)することなどで得ることができ、さらにホエイタンパク質濃度を高める場合には、例えば、遠心分離法、限外ろ過法、イオン交換法、噴霧乾燥法 などから選択される1種又は2種以上を用いることができ、噴霧乾燥を行うことでWPC粉末又はWPI粉末を得ることができる。
【0062】
卵タンパク質として、特に限定されないが、例えば、全卵、卵白、卵黄、脱脂卵黄、脱脂卵白などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、卵白が好ましい。
【0063】
大豆タンパク質として、特に限定されないが、例えば、豆乳、調製豆乳、豆乳飲料(豆乳類ともいう)、濃縮大豆たん白(SPC:タンパク質濃度60質量%以上)、分離大豆たん白(SPI:タンパク質濃度90質量%以上)などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。豆乳類の定義(製法及び大豆固形分など)は、「豆乳類の日本農林規格:最終確認 平成24年7月17日農林水産省告示第1679号」を参考にすることができる。
【0064】
本実施形態に用いるタンパク質は、上述したタンパク質から選択される1種又は2種以上を用いることができる。なお、タンパク質含量は、例えば、ケルダール法等の公知の方法によって定量できる。
【0065】
本実施形態に用いる、タンパク質100質量部に対する、酸成分の使用量は、目的とするpHやたんぱく質の種類によって適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、好適な下限値として、好ましくは0.5質量部以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは500質量部以下である。
【0066】
本実施形態に用いる、タンパク質100質量部に対する、グルコン酸化合物(グルコン酸換算)の使用量は、目的とするpHやたんぱく質の種類によって適宜設定することができ、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは0.5質量部以上であり、また、好適な上限値として、好ましくは500質量部以下である。
【0067】
本実施形態に用いる、タンパク質100質量部に対する、グルコン酸化合物及びリン酸の使用量は、目的とするpHやたんぱく質の種類によって適宜設定することができ、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは0.5質量部以上であり、また、好適な上限値として、より好ましくは250質量部以下である。
【0068】
3.本実施形態に係る酸成分とタンパク質とを含むタンパク質のゲル化又は増粘の抑制用の組成物
本実施形態における酸成分とタンパク質とを含むタンパク質のゲル化又は増粘の抑制用の組成物などの例の説明において、上述の記載内容(例えば「1.」「2.」等)など、及び後述の内容(例えば「4.」~「6.」等)等と同じ又は重複する、グルコン酸化合物、酸成分、タンパク質、組成物、飲食品、液状又はゾル状の組成物などの各技術的特徴、各構成や各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「6.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0069】
本実施形態は、グルコン酸化合物又は当該グルコン酸化合物を含む酸成分と、タンパク質と、を含み、飲食品中に含まれる前記タンパク質及び/又はこれ以外のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物(以下、「前記タンパク質含有のゲル化又は増粘抑制用組成物」ともいう。)を提供することができ、当該組成物は、さらにリン酸を含むこと(すなわち、グルコン酸化合物及びリン酸、又はグルコン酸化合物及びリン酸を含む酸成分)が好適である。また、飲食品は、製品(例えば、医薬品、飼料等)であってもよい。また、「前記タンパク質及び/又はこれ以外のタンパク質」における「(第一)前記タンパク質」と「(第二)これ以外のタンパク質」とは、同一又は別々のタンパク質であってもよい。
【0070】
前記タンパク質含有のゲル化又は増粘抑制用組成物は、粉末状が好適であり、より好適には、飲食品用の粉末状の組成物であり、より好適には、飲食品に用いるための又は飲食品の製造に用いるための、粉末状の飲食品である。
【0071】
また、本実施形態は、飲食品中に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための粉末状組成物であって、グルコン酸化合物を含む酸成分と、タンパク質と、を含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するための飲食品用の粉末状の組成物を提供することが好適である。当該酸成分は、さらにリン酸を含むことが好適である。また、当該粉末状の組成物は、飲食品の製造工程に用いる、タンパク質又は原料組成物に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘抑制用組成物として使用することもできる。本実施形態では、飲食品の製造工程での加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができ、食感の良好な物性を有する飲食品用組成物又は飲食品を提供することができる。
【0072】
本実施形態において、前記「グルコン酸化合物又は当該グルコン酸化合物を含む酸成分と、タンパク質と、を含む組成物」(以下、「前記酸成分及びタンパク質含有組成物」ともいう)は、グルコン酸化合物又は当該グルコン酸化合物を含む酸成分と、タンパク質とを混合して得られた組成物であることが好適であり、さらに、リン酸を併用することがより好適である。当該組成物は、タンパク質が熱変性するような加熱処理をする前の原料組成物であることが好適である。
【0073】
前記酸成分及びタンパク質含有組成物は、上記「1.」等で説明するように、タンパク質のゲル化又は増粘が抑制可能なグルコン酸化合物を少なくとも含むため、上述したグルコン酸化合物類で期待される作用又は効果を有しており、当該作用又は効果を発揮させることを目的として使用することもでき、当該作用又は効果を期待する各種製剤又は各種組成物を製造するために使用してもよい。また、前記酸成分及びタンパク質含有組成物は、当該組成物中のタンパク質及びこれ以外で、原料組成物中に含まれるタンパク質のゲル化又は増粘抑制のために用いる組成物として、使用してもよい。また、前記酸成分及びタンパク質含有組成物は、タンパク質及びグルコン酸化合物等の酸成分を含むため、飲食品用などの組成物(例えば、飲食品製造用の原料組成物など)として使用してもよい。
【0074】
前記酸成分及びタンパク質含有組成物を用いることで、タンパク質のゲル化又は増粘が抑制された、飲食品、飲食品用組成物、医薬品、医薬品用組成物等の製品等から選択される1種又は2以上を提供することもできる。また、前記酸成分及びタンパク質含有組成物は、飲食品用組成物又は医薬品用組成物を、飲食品又は医薬品等の原料として使用してもよい。
【0075】
また、前記酸成分及びタンパク質含有組成物の形態は、粉末状、液体状、ペースト状などが挙げられ、粉末状にする場合には、混合物などを乾燥(例えば、スプレードライ、フリーズドライなど)などにて粉末状にすることが好適であり、粉末状がより好適である。
【0076】
前記グルコン酸化合物の含有量又は使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、組成物中又は酸成分中、グルコン酸換算にて、より好ましくは50質量%以上である。
前記リン酸の含有量又は使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、組成物中又は酸成分中、より好ましくは5~15質量%である。
本実施形態に用いる、グルコン酸化合物(グルコン酸換算)と、リン酸との質量含有割合又は質量使用割合は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは50~100:50~0である。
前記原料組成物又は酸性水溶液であって加熱処理前のpHは、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは2~6である。
【0077】
本実施形態に用いる、原料組成物中のタンパク質濃度は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは5~20質量%である。
タンパク質100質量部に対する酸成分の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上500質量部以下である。
タンパク質100質量部に対するグルコン酸化合物(グルコン酸換算)の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上500質量部以下である。
タンパク質100質量部に対するグルコン酸化合物及びリン酸の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上250質量部以下である。
【0078】
前記加熱処理の条件は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、pHが2~6であること、及び/又は、60℃~150℃である、及び/又は、1秒以上3時間以下であること、及びこれらの組み合わせが好適である。
【0079】
本実施形態を用いて得られた加熱処理後の組成物は、タンパク質のゲル化又は増粘が良好に抑制された組成物であり、より好適には液状又はゾル状の組成物であり、さらに好適には低粘度の液状であり、上述の「2.」等の構成を適宜採用することができ、より好適には10,000mPa・s以下である。
【0080】
前記酸成分及びタンパク質含有組成物の製造方法は、特に限定されない。好適な態様として、グルコン酸化合物又は酸成分と、タンパク質と、水とを、同時期に又は別々の時期に、添加し混合して、原料(原料組成物)を得ることができる。グルコン酸化合物、リン酸、これ以外の酸成分、タンパク質などの、種類、含有量(使用量)、及び、質量含有割合(質量使用割合)などは、上述及び後述の構成等を、適宜採用することができる。
【0081】
好適な製造方法の一例として、タンパク質(好適にはタンパク質及び水を含む組成物)と、グルコン酸化合物又は酸成分と混合して得られた液状原料(スラリー状など)を、スプレードライ等の乾燥にて、タンパク質及びグルコン酸化合物が接触した状態での乾燥粉末又は粉末状の組成物を得ることができる。タンパク質、グルコン酸化合物類の原料の形態は、特に限定されず、粉末、水溶液などであってもよい。原料の混合は、溶解、分散など挙げられる。また、混合の順序は、特に限定されないが、タンパク質及び水を含む組成物に、グルコン酸化合物又は酸成分を添加して混合して得られた液状原料が好適である。
【0082】
また、乾燥により、粉末状の組成物の水分量を低水分含量(例えば10%以下など)にすることができる。粉末状を得る乾燥(例えばスプレードライ)方法は、公知の乾燥装置などを用いて製造することができる。なお、スプレードライとは、一般的に、スラリーを熱風中に噴霧して瞬時に水分を蒸発させて、乾燥粉末(顆粒)を得る方法であり、タンパク質の熱変性も少ない方法であるので、好ましい。
【0083】
前記酸成分及びタンパク質含有組成物の製造方法の好適な態様として、ホエイタンパク濃縮物(WPC)及び/又はホエイタンパク分離物(WPI)の製造工程で、粉末状のWPC及び/又はWPIを得る噴霧乾燥工程を含む場合、この噴霧乾燥工程の前に又は上流で、液状原料に対して、前記グルコン酸化合物類を配合することが好適であり、噴霧乾燥工程の1又は2つ前工程又はこれらの工程の間で、前記グルコン酸化合物類を配合することが好適である。
【0084】
前記グルコン酸化合物類、酸成分及びタンパク質などの各使用量及び質量使用割合等は、「2-1.」~「2-3.」などの上記「2.」等の構成等を適宜採用することができる。
【0085】
前記グルコン酸化合物の含有量又は使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、組成物中又は酸成分中、グルコン酸換算にて、より好ましくは50質量%以上である。
前記リン酸の含有量又は使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、組成物中又は酸成分中、より好ましくは5~15質量%である。
本実施形態に用いる、グルコン酸化合物(グルコン酸換算)と、リン酸との質量含有割合又は質量使用割合は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは50~100:50~0である。
前記酸性組成物又は酸性水溶液であって加熱処理前のpHは、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは2~6である。
【0086】
本実施形態に用いる、原料組成物中のタンパク質濃度は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは5~20質量%である。
タンパク質100質量部に対する酸成分の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上500質量部以下である。
タンパク質100質量部に対するグルコン酸化合物(グルコン酸換算)の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上500質量部以下である。
タンパク質100質量部に対するグルコン酸化合物及びリン酸の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上250質量部以下である。
【0087】
前記加熱処理の条件は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、pHが2~6であること、及び/又は、60℃~150℃である、及び/又は、1秒以上3時間以下であること、及びこれらの組み合わせが好適である。
【0088】
本実施形態を用いて得られた加熱処理後の組成物は、タンパク質のゲル化又は増粘が良好に抑制された組成物であり、より好適には液状又はゾル状の組成物であり、さらに好適には低粘度の液状であり、上述の「2.」等の構成を適宜採用することができ、より好適には10,000mPa・s以下である。
【0089】
4.本実施形態に係るタンパク質のゲル化又は増粘の抑制方法など
本実施形態におけるタンパク質のゲル化又は増粘の抑制方法などの例の説明において、上述の記載内容(例えば「1.」~「3.」等)など、及び後述の内容(例えば「5.」「6.」等)等と同じ又は重複する、グルコン酸化合物、酸成分、タンパク質、組成物、飲食品、液状又はゾル状の組成物などの各技術的特徴、各構成や各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「6.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0090】
本実施形態は、グルコン酸化合物を用いる、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法を提供することが好適であり、当該方法は、グルコン酸化合物を含む酸成分を用いてもよく、さらに当該方法又は酸成分は、さらにリン酸を用いる又は含むことが好適である。
【0091】
前記抑制方法は、液状又はゾル状の組成物、飲食品の原料として用いる組成物、飲食品製造用の組成物若しくは飲食品などの製造方法又は調製方法であってもよいし、本実施形態は、前記抑制方法を用いる、これら各種組成物又は飲食品などの製造方法又は調製方法であってもよい。また、前記抑制方法は、加熱処理時の飲食品中のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法、又は加熱処理時にゲル化又は増粘が抑制されたタンパク質を含む飲食品の製造方法であってもよい。また、本実施形態は、前記抑制方法を用いる、飲食品用組成物の製造方法、当該飲食品用組成物を使用する飲食品の製造方法、又は飲食品の製造方法であってもよい。当該抑制方法を、飲食品用組成物の製造方法、当該飲食品用組成物を使用する飲食品の製造方法、又は飲食品の製造方法に適用してもよい。
【0092】
本実施形態は、未ゲル化状態のタンパク質及び水を含む原料組成物に対して、前記グルコン酸化合物類を用いて、さらに加熱処理することを含む、方法であり、当該方法は、グルコン酸化合物を用いる、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法などを提供することが好適である。
【0093】
本実施形態は、(A)前記グルコン酸化合物類と、タンパク質及び水を含む原料組成物とを混合して得られた組成物を乾燥して、飲食品用の原料に用いる粉末状の組成物を製造すること、及び、(B)前記粉末状の組成物と水とこれ以外の原料を混合した原料組成物を加熱処理して、飲食品用組成物又は飲食品を製造すること、を含む、加熱処理時の飲食品中のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法、又は、飲食品の製造方法などを提供することが好適である。
【0094】
本実施形態は、前記タンパク質のゲル化又は増粘抑制用の粉末状の組成物と、水と、タンパク質と、これ以外の原料とを混合した原料組成物を加熱処理して飲食品用組成物又は飲食品を製造すること、を含む、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法、又は、飲食品用組成物又は飲食品の製造方法などを提供することが好適である。また、本実施形態は、加熱処理時の飲食品用組成物中の又は飲食品中のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法、又は、当該抑制方法を用いる飲食品用組成物又は飲食品の製造方法であってもよい。
【0095】
また、本実施形態は、以下の(A)~(C)などから選択される1種又は2種以上の原料組成物(好適には酸性原料組成物)を、加熱処理することを含む、液状又はゾル状の組成物の製造方法を提供することが好適であり、さらに原料組成物には、タンパク質及び/又は水を適宜含有させることが好適である。また、酸性条件下で加熱処理を行うことが好適である。当該製造方法は、飲食品用の組成物、飲食品製造用の組成物、又は飲食品の製造方法などであってもよい。
【0096】
また、本実施形態は、グルコン酸化合物、又は、グルコン酸化合物とリン酸との組み合わせを、タンパク質のゲル化又は増粘抑制のために用いることなどにより、飲食品の製造方法を提供することが好適である。当該製造方法は、前記ゲル化又は増粘抑制用組成物を用いること、又は、前記タンパク質含有のゲル化又は増粘抑制用組成物を用いること、又は、前記タンパク質のゲル化又は増粘抑制方法を用いること、又は、前記液状又はゾル状組成物を用いること、であってもよい。これにより、飲食品の製造工程における加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができ、食感の良好な物性を有する飲食品を提供することができる。
【0097】
本実施形態を用いることにより、飲食品用組成物又は飲食品の製造工程において加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができ、食感の良好な物性を有する飲食品用組成物又は飲食品を提供することができる。また、飲食品の製造工程に用いる、原料組成物又はタンパク質のゲル化又は増粘抑制用組成物を得ることができる。
【0098】
また、本実施形態は、グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料組成物を、加熱処理することを含む、液状又はゾル状の組成物を製造する方法を提供することができる。加熱処理前に、グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料を混合することが好適であり、及び、混合された原料組成物を、酸性条件下で加熱処理することが好適である。
【0099】
また、本実施形態は、グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料組成物を、水分含量10質量%以下になるように乾燥すること、を含む、食品中のタンパク質のゲル化又は増粘抑制用の乾燥組成物、又は、当該ゲル化又は増粘抑制用の乾燥組成物を用いた乾燥食品の製造方法を提供することができる。前記食品中にグルコン酸化合物及びタンパク質を含むことが好適であり、また、前記乾燥は、スプレードライが好適である。
【0100】
また、本実施形態は、グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料組成物を加熱処理して得られた液状又はゾル状の組成物と、飲食品用の各種原料とを混合すること、を含む、飲食品の製造方法を提供することができる。前記液状又はゾル状の組成物と各種原料を混合した後の原料組成物をさらに加熱処理して、タンパク質のゲル化又は増粘が抑制された飲食品を製造する方法を提供してもよい。
【0101】
本実施形態は、前記グルコン酸化合物類、酸成分及びタンパク質などの各使用量及び質量使用割合、pH、原料組成物中のタンパク質濃度は、タンパク質100質量部に対する酸成分の使用量等は、「2-1.」~「2-3.」などの上記「2.」等の技術的特徴、構成、使用量等を適宜採用することができる。
【0102】
前記グルコン酸化合物の含有量又は使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、組成物中又は酸成分中、グルコン酸換算にて、より好ましくは50質量%以上である。
前記リン酸の含有量又は使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、組成物中又は酸成分中、より好ましくは5~15質量%である。
本実施形態に用いる、グルコン酸化合物(グルコン酸換算)と、リン酸との質量含有割合又は質量使用割合は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは50~100:50~0である。
前記酸性組成物又は酸性水溶液であって加熱処理前のpHは、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは2~6である。
【0103】
本実施形態に用いる、原料組成物中のタンパク質濃度は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは5~20質量%である。
タンパク質100質量部に対する酸成分の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上500質量部以下である。
タンパク質100質量部に対するグルコン酸化合物(グルコン酸換算)の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上500質量部以下である。
タンパク質100質量部に対するグルコン酸化合物及びリン酸の使用量は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、より好ましくは0.5質量部以上250質量部以下である。
【0104】
前記加熱処理の条件は、上述の「2.」等の構成等を適宜採用することができ、pHが2~6であること、及び/又は、60℃~150℃である、及び/又は、1秒以上3時間以下であること、及びこれらの組み合わせが好適である。
【0105】
本実施形態を用いて得られた加熱処理後の組成物は、タンパク質のゲル化又は増粘が良好に抑制された組成物であり、より好適には液状又はゾル状の組成物であり、さらに好適には低粘度の液状であり、上述の「2.」等の構成を適宜採用することができ、より好適には10,000mPa・s以下である。
【0106】
これにより、飲食品用組成物又は飲食品の製造工程における加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができ、食感の良好な物性を有する飲食品を提供することができる。
【0107】
5.本実施形態に係る飲食品など
本実施形態における飲食品などの例の説明において、上述の記載内容(例えば「1.」~「4.」等)など、及び後述の内容(例えば「6.」等)等と同じ又は重複する、グルコン酸化合物、酸成分、タンパク質、組成物、飲食品、液状又はゾル状の組成物などの各技術的特徴、各構成や各処理方法、各種手段などの説明については適宜省略するが、「1.」~「6.」等の説明が、各実施形態の何れにも当てはまり、各実施形態に適宜採用することができる。
【0108】
本実施形態は、タンパク質及びグルコン酸化合物を含む、組成物を提供することができ、当該組成物は飲食品用組成物又は飲食品などが好適であり、さらにリン酸を含んでもよい。
また、本実施形態は、グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料組成物を、酸性条件下で加熱処理して得られた、液状又はゾル状の組成物若しくは飲食品、又は、当該液状又はゾル状の組成物を飲食品用組成物として配合した飲食品などを提供することもでき、さらにリン酸を含んでもよい。グルコン酸化合物及びこれを含む酸成分、グルコン酸化合物及びリン酸又はこれらを含む酸成分は、タンパク質のゲル化又は増粘抑制のために用いる物質又は組成物であってもよい。
【0109】
飲食品の形態としては、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物、ゲル状物など、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁入り飲料、野菜入り飲料、豆乳入り飲料、乳入り飲料、乳飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品;飴、グミ、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、バー形状菓子、ゼリー、ジェル、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷蔵・冷凍食品;経腸栄養食;特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品);栄養補助食品;栄養強調表示飲食品等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
【0110】
本実施形態により得られた飲食品は、特に限定されず、液状、半固形状又は固形状の何れでもよく、その具体例としては以下のものが挙げられる。本実施形態で得られたタンパク質を用いることで、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘の抑制による良好な食感を有する飲食品を得ることができる。本実施形態の好適な飲食品は、加熱処理後のタンパク質を含むゲル状の飲食品が挙げられ、例えば、ゼリー(飲料用、固形状など)、グミ、アイスクリーム、プリン、ムース、ババロア、ヨーグルト、水ようかん、杏仁豆腐、及びジャムなどから選択される1種又は2種以上であり、このうち、グミ、ゼリーが好適である。
【0111】
また、本実施形態における飲食品(より好適なゲル状の飲食品)中のタンパク質の含有量は、特に限定されないが、好適な下限値として、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、また、上限値は特に限定されないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、好適な数値範囲として、5~20質量%である。
【0112】
また、本実施形態では、良好な食感を有する高タンパク質飲食品を提供することも可能である。なお、栄養成分表示のためのガイドライン〔食品表示基準 別表第12〕(第3版 令和2年7月 消費者庁食品表示企画課)の表示を考慮した、「高タンパク」の高い旨の表示の場合、タンパク質16.2g(食品100g当たり)又は8.1g(液状の食品100ml当たり)以上であること、タンパク質が強化された旨の場合には、タンパク質8.1g(食品100g当たり)又は4.1g(液状の食品100ml当たり)以上であることが挙げられる。
【0113】
6.本技術は、以下の構成を採用することができるが、これらに限定されない。
本技術は以下の構成を採用することができる。
・〔1〕 グルコン酸若しくはグルコノラクトン(以下、「グルコン酸化合物」ともいう)を含む、又は、グルコン酸化合物を含む酸成分を含む、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる組成物。当該組成物は、さらにリン酸を含むことが好適である。
・〔2〕グルコン酸若しくはグルコノラクトンを含む酸成分と、タンパク質と、を含み、
飲食品中に含まれる前記タンパク質及び/又はこれ以外のタンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる、粉末状の組成物。好適には、飲食品用の粉末状の組成物であり、より好適には、飲食品に用いるための又は飲食品の製造に用いるための、粉末状の飲食品である。当該組成物は、さらにリン酸を含むことが好適である。
【0114】
・〔3〕 前記グルコン酸化合物と、前記リン酸との質量含有割合又は質量使用割合が、前記組成物中又は前記酸成分中、50~100:50~0である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
・〔4〕 前記グルコン酸化合物の含有量又は使用量が、前記組成物中又は前記酸成分中、50質量%以上である、前記〔1〕~〔3〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔5〕 前記リン酸の含有量又は使用量が、前記組成物中又は前記酸成分中、30質量%以下である、前記〔1〕~〔4〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔6〕 さらに、前記グルコン酸化合物及び/又は前記リン酸以外の酸成分を含む場合、当該以外の酸成分の含有量又は使用量が、前記組成物中又は前記酸成分中、好適には10質量%又は5質量%以下である、前記〔1〕~〔5〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔7〕 前記タンパク質が、乳タンパク質、卵タンパク質、植物由来タンパク質、ゼラチン、及びコラーゲン好適には乳タンパク質、卵タンパク質;より好適にはホエイタンパク質、卵白;から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔6〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔8〕 前記グルコン酸化合物及び/又は前記リン酸、又は、酸成分の使用量又は含有量は、前記タンパク質100質量部に対して、0.5~500質量部である、前記〔1〕~〔7〕の何れか1つ記載の組成物。
【0115】
・〔9〕 前記組成物が、原料タンパク質と、グルコン酸化合物及び/又はリン酸を含む酸成分との混合物であり、好適には当該混合物の形態が、乾燥製品、粉末状である、前記〔1〕~〔8〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔10〕 前記組成物が、原料タンパク質又はこれを含む水溶液に、グルコン酸化合物及び/又はリン酸を含む酸成分を、混合して得られた液状原料(好適にはペースト状)を乾燥(好適にはスプレードライ)して得られた、粉末を含む組成物である、前記〔1〕~〔9〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔11〕 加熱処理時に起こるタンパク質のゲル化又は増粘を抑制する、前記〔1〕~〔10〕の何れか1つ記載の組成物。ゲル化又は増粘を抑制する対象が、タンパク質及び水を含む組成物であることが好適である。
・〔12〕 前記〔1〕記載の組成物とさらにタンパク質とを含む組成物又は前記〔2〕に記載の組成物の加熱処理後の粘度が、20~25℃において、10,000mPa・s以下である、前記〔1〕~〔11〕の何れか1つ記載の組成物。
【0116】
・〔13〕 前記〔1〕~〔12〕の何れか1つ記載の組成物を用いる、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法。
・〔14〕 グルコン酸化合物、又は、グルコン酸化合物を含む酸成分、を用いる、タンパク質のゲル化又は増粘を抑制する方法。さらにリン酸を併用することが好適である。
・〔15〕 タンパク質と、水と、グルコン酸化合物とを少なくとも含む原料組成物を加熱処理した際に、得られた組成物のゲル化又は増粘を抑制する、前記〔13〕又は〔14〕に記載の方法。
・〔16〕 タンパク質のゲル化又は増粘抑制用の組成物を製造するための、グルコン酸化合物、或いは、グルコン酸化合物を含む酸成分、或いは、グルコン酸化合物及びタンパク質、又は、その使用。
・〔17〕 タンパク質のゲル化又は増粘を抑制するために用いる、グルコン酸化合物、或いは、グルコン酸化合物を含む酸成分、或いは、グルコン酸化合物及びタンパク質、又は、その使用。
・〔18〕 前記〔13〕~〔15〕の何れか1つ記載の方法、前記〔16〕又は〔17〕のグルコン酸化合物、或いは、グルコン酸化合物を含む酸成分、或いは、グルコン酸化合物及びタンパク質、又は、その使用は、前記〔3〕~〔8〕から選択される1種又は2種以上の構成を採用することが好適である。
【0117】
・〔19〕 グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料を混合すること、
混合された原料組成物を加熱処理すること、を含む、
液状又はゾル状の組成物を製造する方法。
・〔20〕
グルコン酸化合物とタンパク質と水とを含む原料が混合された原料組成物を、水分含量10質量%以下になるように乾燥すること、を含む、食品中のタンパク質のゲル化又は増粘抑制用の乾燥組成物又は乾燥食品の製造方法。当該乾燥組成物又は乾燥食品は、タンパク質とグルコン酸化合物を含むことが好適である。
【0118】
・〔21〕 下記の(A)~(C)の何れか1つの原料組成物を、加熱処理することを含む、液状又はゾル状の組成物を製造する方法、又は、当該組成物を含む飲食品を製造する方法。
(A)前記〔1〕~〔12〕の何れか1つ記載の組成物と、タンパク質と、水とを含む原料組成物; (B)前記〔1〕~〔12〕の何れか1つ記載の組成物と、水とを含む原料組成物; (C)前記〔1〕~〔12〕の何れか1つ記載の組成物を含む原料組成物。
【0119】
・〔22〕 前記〔19〕~〔21〕の何れか1つ記載の液状又はゾル状の組成物、又は、タンパク質を含む液状又はゾル状の組成物と、飲食品用の原料組成とを混合すること、を含む、飲食品の製造方法。当該製造方法は、混合後、適宜、加熱処理を行うことが好適である。
・〔23〕 前記飲食品が、前記〔19〕~〔22〕の何れか1つ記載の方法にて得られた、飲食品製造用の酸性原料組成物又は飲食品。
【実施例0120】
以下の実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0121】
<原材料>
ホエイタンパク濃縮物(WPC)粉末状(BMI社製:Bayolan P80 h+k:タンパク質78.6%、脂質4.2%、炭水化物9.6%、灰分3%、水分 4.6%)
ホエイタンパク分離物(WPI)粉末状(Glanbia社製:Provon190 :タンパク質90.4%、脂質0.3%、炭水化物3.1%、灰分2.6%、水分3.5%)
【0122】
下記<試験例>は、以下の<試料調製の手順>にて、原料組成物(タンパク質を含む水溶液)及び加熱処理済み組成物などを調製し、これらの粘度などの測定を行った。なお、タンパク質の種類、水溶液中のタンパク質濃度(%)、酸成分などを、所望のタンパク質、濃度、酸成分などに代えて行ってもよい。
【0123】
<試料調製の手順>
(1)ホエイタンパク濃縮物14gをイオン交換水166gに溶解し、このとき、25℃、30分間撹拌する。これにより、タンパク質を含む水溶液a(懸濁状)を得る。
(2)タンパク質を含む水溶液aに、酸成分(例えば、グルコン酸、又は、グルコン酸及びリン酸など)を添加し、所望のpHに調整し、混合した後、タンパク質及び酸成分を含む水溶液b(懸濁状)を調製する。
(3)前記水溶液が7質量%になるように、前記水溶液bにイオン交換水(水温約25℃)を添加し、所望濃度のタンパク質を含む水溶液c(懸濁状)を得、このときのpHを測定する。
(4)前記(3)の調整が完了した時点から60分を設定し、この設定時間で、タンパク質が熱変性しない温度条件下(20~30℃)にて、下記の(5)及び(6)の作業を実施する。
(5)ケーシングチューブ(クレハプラスチック社製、クレハロンフィルム シームD-84)に、前記タンパク質及び酸成分を含む水溶液cを160~170g充填して、空気が入らないように玉結びで封滅する。
(6)前記水溶液cを含むケーシングチューブを、25℃のウォーターバス内に入れて静置し、前記(3)の調整が完了した時点から60分経過後に、取り出す。
(7)25℃のウォーターバスから取り出した、前記水溶液cを含むケーシングチューブを、90℃のウォーターバス内に入れて60分間加熱し、加熱処理済み組成物を調製する。
(8)前記(7)の加熱終了後に、90℃のウォーターバスから、加熱後のケーシングチューブを、20℃のウォーターバスに入れて、60分間冷却する。
(9)前記ケーシングチューブ中の加熱処理済みの組成物を、ケーシングチューブから、円柱状ビーカー(直径4×高さ15cm)に移し入れ、当該ビーカーの上部を食品用ラップフィルムで密閉して3回上下に反転させて加熱処理済みの組成物が均一になるように混ぜて、粘度測定用の試料(加熱処理済みの組成物)を調製する。
(10)B型粘度計(東機産業株式会社製、TVB-10、ローターM3、60rpm、60秒、温度20~25℃)にて、試料(加熱処理済みの組成物)の粘度を測定する。
【0124】
<試料のpHの測定方法>
試料のpHの測定は、ポータブルpH計(堀場製作所製、pHメーターF-71)を用いて測定することができる。
【0125】
<試料の粘度(mPa・s)の測定方法>
試料の粘度(mPa・s)の測定は、B型粘度計(M1、M2、M3またはM4ローター、60rpm、60秒、20~25℃)を用いて、測定することができる。
【0126】
<ゲル強度(g/cm)の測定方法>
試料(加熱処理済みの組成物)のゲル強度は、山電クリープメータRE3305、プランジャーNo.23、ゲル厚み3cm、スピード1mm/sにて、測定する。当該試料(加熱処理済みの組成物)は、上記<試料(加熱処理済みの組成物)の粘度の測定方法>にて得られた粘度測定用の試料であり、測定不可であった試料を測定することができる。
【0127】
<加熱処理済みの組成物の未ゲル化状態の評価>
加熱処理済みの組成物について、上記<試料の粘度の測定方法>により取得した加熱処理済みの組成物の粘度値(mPa・S)を用いて、加熱処理時のタンパク質の状態を評価することができる。上記<試料調製の手順>に従って得られた加熱処理済みの組成物が、測定不可の場合には「ゲル化状態」と評価し、10,000未満(mPa・s)の場合には「未ゲル化状態(ゾル状又は液体状)」と評価した。
なお、粘度計にて測定不可の加熱処理済みの組成物を、上記<ゲル強度(g/cm)の測定方法>により、ゲル強度(g/cm)を取得したところ、ゲル強度が20以上あり、これらはゲル状態であった。
【0128】
<酸成分を用いたときのタンパク質のゲル化又は増粘の抑制に関する相対評価>
酸成分を用いたときのタンパク質のゲル化又は増粘の抑制に関する相対評価については、評価する酸成分を使用した加熱処理済みの組成物が、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘がより良好に抑制できているとの相対評価を行う場合については、他の酸成分を指標とすることができるが、リン酸単独の酸成分を指標とすることが望ましい。リン酸単独を原料に用いたときの加熱処理済みのタンパク質を含む組成物と、評価する酸成分を原料に用いたときの加熱処理済みのタンパク質を含む組成物とで、加熱後のpHが最も近似するもの(望ましくは0.05以内)をそれぞれ選択し、それぞれの粘度値(mPa・s)と比較し、リン酸を用いたときの粘度値よりも「低い」場合に、「加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘がより良好に抑制できている」と評価することができる。また、評価する酸成分を使用した加熱処理済みの組成物が、それぞれのゲル強度(g/cm)を比較し、リン酸を用いたときのゲル化よりも「低い」場合に、「加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘がより良好に抑制できている」と評価することができる。なお、相対評価に用いる加熱処理済みの組成物(試料)は、対照(基準)とする酸成分(リン酸単独)を、他の酸成分(対比する酸成分)に代える以外は同じ条件(タンパク質濃度、加熱前のpH調整、加熱処理条件など)にして、調製することができ、上記<試料調製の手順>に従って調製することが望ましい。
【0129】
<試験例1>
加熱処理前の原料組成物は、ホエイタンパク分離物(WPI、Provon 190)を配合し、WPI由来のホエイタンパク質を含む懸濁状の原料水溶液を調製し、この原料水溶液に、酸成分をpH3.500になるように添加した。最終的に、WPI(タンパク質濃度90.4%)を水溶液中7%(W/W)になるように水で微調整することで、原料水溶液中のタンパク質の最終濃度は、タンパク質濃度6.3%であった。上記<試料調製の手順>に従って、原料組成物、加熱処理済みの組成物を得た(試験例1-1~1-8)。具体的には、表1に示すそれぞれの酸成分を含む原料酸性組成液(試験例1-1~1-8)を得た。得られた各原料酸性組成液は、90℃及び60分で加熱処理を行い、それぞれの酸成分を含む加熱処理済みの酸性組成物を得た。また、酸成分ごとに、2つの加熱処理済みの組成物を作製した。これらの粘度、ゲル強度、pHの平均値を取得した。これらの結果は表1に示す。なお、フマル酸(※)は、pH4.5までフマル酸、それ以降はリン酸を使用して、加熱処理前の水溶液のpHを調整した。
【0130】
各加熱処理済みの組成物の粘度を、B型粘度計(M3ローター60rpm、60sec、温度20~25℃)にて測定した。また、各加熱処理済みの組成物のゲル強度(g/cm)を、ゲル強度測定装置にて測定した。また、各加熱処理済みの組成物のpHを、pH計にて測定した。なお、加熱前のタンパク質を含む原料水溶液を、同じ酸成分にてpH3.500に調整しても、加熱後に、加熱処理済みの組成物のpHは、同じにならなかった。
【0131】
乳酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸又はクエン酸の酸成分を配合し加熱処理し得られた、加熱処理済みの組成物は、それぞれ増粘しゲル化してしまい、組成物中にゲル化タンパク質が多く存在しザラつきの強い食感と考える。これに対し、グルコン酸及びリン酸では、それぞれ加熱処理済みの組成物はゲル化しておらず液状又はゾル状であり、ゲル化及び増粘も大幅に抑制された加熱処理済みの組成物を得ることができた。さらに、これら酸成分のうち、グルコン酸が、リン酸と比較してもゲル化及び増粘が最も優れて非常に抑制され、しかもグルコン酸を含む加熱処理済みの組成物は、40mpa・s以下の非常に低粘度の液状であり、濁りが少なく透明性も高かった。
従って、加熱処理時におけるタンパク質のゲル化又は増粘の抑制効果(耐熱性効果)は、グルコン酸>リン酸>>乳酸、リンゴ酸、フマル酸(※)>クエン酸、酒石酸の順であった。
【0132】
【表1】

【0133】
<試験例2及び試験例3>
試験例2として、酸成分としてグルコン酸を用いた以外は、試験例1と同様にしてサンプル調製及び測定を行った。また、試験例3として、酸成分としてリン酸を用いた以外は、試験例1と同様にしてサンプル調製及び測定を行った。なお、それぞれ、加熱前のタンパク質を含む原料水溶液のpHは3.700~3.500の範囲で、0.05刻みに調整した試料を調製した。グルコン酸を用いたときの結果を表2に示し、リン酸を用いたときの結果を表3に示す。
グルコン酸を用いた加熱処理済みの組成物は、粘りの少ない又はほとんどないという液状であり、目視により濁りのない透明な状態であった。リン酸を用いた加熱処理済みの組成物は、ゾル状又はやや粘りのある液状であった。
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
<試験例4~6>
酸成分として、下記表4に示すグルコン酸及びリン酸の混合酸成分を用いた以外は、試験例1と同様にしてサンプル調製及び測定を行った。それぞれ、加熱前のタンパク質を含む原料水溶液のpHは3.700~3.500の範囲で、0.05刻みに調整した試料を調製した。これらの結果を、表4に示す。
【0137】
なお、水溶液1L当たり、試験例2のグルコン酸100%のときの酸成分の使用量は75g、試験例3のグルコン酸90%+リン酸10%のときの酸成分の使用量は37g、試験例3のグルコン酸85%+15%のときの酸成分の使用量は33g、グルコン酸90%+リン酸8%+乳酸2%のときの酸成分の使用量は42gであった。グルコン酸にさらにリン酸を使用してこれらを併用することで、グルコン酸100%のときと比較し、酸成分の使用量又は加熱処理済み組成物中の酸成分含有量を大幅に減らすことができた。
【0138】
また、試験例4~6の加熱処理済みの組成物は、目視にて、すべて液状であった。
試験例4のグルコン酸及びリン酸(90:10)の併用は、加熱処理後のpH3.55付近(3.60~3.50)で見ると、試験例2のグルコン酸100%使用と比較して、タンパク質への耐熱性の付与は遜色がなく、タンパク質のゲル化又は増粘は非常に良好に抑制されていた。しかも、試験例4のグルコン酸及びリン酸(90:10)の酸成分(W/W)(MIX_A)の使用量は、試験例2のグルコン酸100%の酸成分の使用量の半分程度に削減することができた。
また、試験例5のグルコン酸:リン酸(85:15)(W/W)(MIX_B)の併用は、試験例2のグルコン酸100%使用よりも、粘性が高いものの、タンパク質への熱耐性の付与ができており、タンパク質のゲル化又は増粘はより良好に抑制されていた。試験例4の酸成分の使用量は、試験例2(グルコン酸100%)の酸成分の使用量と比較し、約55%程度を削減することができた。
また、試験例6のグルコン酸:リン酸:乳酸(90:8:2)(W/W)(MIX_D)の併用は、試験例2のグルコン酸100%使用よりも、粘性が高いものの、タンパク質への熱耐性の付与ができており、タンパク質のゲル化又は増粘は良好に抑制されていた。試験例6の酸成分の使用量は、試験例2(グルコン酸100%)の酸成分の使用量と比較し、約44%程度を削減することができた。
以上のことから、グルコン酸及びリン酸の併用することによって、加熱後のpHが同じリン酸単独使用よりも、タンパク質のゲル化又は増粘を非常に良好に抑制することができた。さらに、グルコン酸及びリン酸の併用において、グルコン酸:リン酸=80%:20%~グルコン酸100%、より好適には85%:15%~グルコン酸100%、さらに好適には90:10~グルコン酸100%において、非常に良好にタンパク質のゲル化又は増粘を抑制することができると考えた。さらに、酸成分の使用量も考慮した場合、グルコン酸:リン酸=85:15~95:5において、グルコン酸100%のときの酸成分の使用量よりも、約半分程度にまで、酸成分の使用量を大幅に低減できると考えた。
このことから、グルコン酸:リン酸の併用において、グルコン酸との作用効果及び酸成分の使用量の観点を考慮すると、グルコン酸:リン酸(85:15~95:5)の併用が非常に望ましいと考えた。
【0139】
【表4】

【0140】
<試験例7~8>
タンパク質を、WPIからWPCに代え、酸成分として、グルコン酸及びリン酸併用とリン酸を用いた以外は、試験例1と同様にしてサンプル調製及び測定を行った。それぞれ、加熱前のタンパク質を含む原料水溶液のpHは3.700~3.500の範囲で、0.05刻みに調整した試料を調製した。これらの結果を、表5に示す。ホエイタンパク濃縮物(WPC)として、Bayolan P80h+K(タンパク質78.6%)を用いて、原料水溶液中のWPC濃度を、最終濃度7%(W/W)に調整することで、加熱処理前の原料水溶液中のタンパク質濃度は5.5%に調整した。
ホエイタンパク濃縮物を原料として用いても、グルコン酸:リン酸=90%:10%(W/W)(MIX_A)を用いた場合、加熱後のpHがほぼ同じリン酸を用いた場合と比較し、約半分程度の粘度になっていることから、グルコン酸及びリン酸の併用が、タンパク質のゲル化又は増粘を非常に良好に抑制できたと考える。
<試験例1~8>によると、乳タンパク質に対して、少なくともグルコン酸を使用した場合又はグルコン酸及びリン酸を併用した場合、リン酸単独使用よりも、タンパク質のゲル化又は増粘を良好に抑制することができた。
【0141】
【表5】

【0142】
<試験例9~10>
<試験例1>のときと同様に、ホエイタンパク分離物(WPI、Provon 190)及びグルコン酸にて、WPI由来のホエイタンパク質を含む懸濁状の原料水溶液(pH3.5付近)を調製する。その後、スプレードライにより、グルコン酸とタンパク質とを含む粉末状組成物を作製する(試験例9)。試験例9のグルコン酸に代えて、<試験例4>で使用したグルコン酸及びリン酸の混合酸成分4を使用した以外は、試験例9と同様にして、グルコン酸及びリン酸とタンパク質とを含む粉末状組成物を作製する(試験例10)。
試験例9及び試験例10の各粉末状組成物を水溶液に添加し原料水溶液中のWPI濃度7%に調整し、それぞれの水溶液を<試験例1>と同様に加熱処理を行う。試験例9及び試験例10で得られた加熱処理済みの飲食品用組成物は、それぞれ目視にて液状であると考える。
【0143】
<試験例11~12>
使用するタンパク質として「ホエイタンパク分離物」を「乾燥卵白(タンパク質81.3%)」に代え、使用する酸成分として「リン酸単独」及び「グルコン酸及びリン酸(90%:10%(W/W)(MIX_A))」をそれぞれ使用した以外は、<試験例1>と同様にして、サンプル調製及び測定を行った。原料水溶液中のタンパク質の最終濃度は、タンパク質濃度5.7%であった。それぞれ、加熱前のタンパク質を含む原料水溶液のpHは3.700~3.500の範囲で、0.05刻みに調整した試料を調製した。なお、乾燥卵白は日本新薬性「乾燥卵白H」を使用し、ゲル強度測定(山電クリープメータRE3305、プランジャーNo.23、ゲル厚み3cm、スピード1mm/s)には、(90℃、60分加熱)の試料を使用した。
また、水溶液1L当たり、試験例11のグルコン酸及びリン酸(90:10)の酸成分(W/W)(MIX_A)の使用量は44gであった。
また、それぞれ、加熱前のタンパク質を含む原料水溶液のpHは3.700~3.500の範囲で、0.05刻みに調整した試料を調製した。グルコン酸及びリン酸(MIX_A)を用いたときの結果を表6に示し、リン酸を用いたときの結果を表7に示す。
卵白タンパク質に対して、グルコン酸及びリン酸を併用した場合、リン酸単独使用よりも、タンパク質のゲル化又は増粘を良好に抑制することができた。
【0144】
【表6】
【0145】
【表7】

【0146】
<試験例1~12の検討結果>
以上のように、飲食品の製造における原料組成物の加熱処理前に、グルコン酸を少なくとも含む酸成分とタンパク質とを含む粉末状組成物を調製し、当該粉末状組成物を水溶液に混合した後に加熱処理したり、他の原料と混合した後に加熱処理しても、加熱処理時のタンパク質のゲル化又は増粘の抑制効果が発揮できる。また、加熱処理後のゲル化又は増粘が抑制されたタンパク質を含む飲食品又は飲食品用組成物を製造する際に、タンパク質のゲル化又は増粘抑制用の粉末状組成物を原料として使用することも可能である。
さらに、乾燥処理工程を経て粉末状のタンパク質を製造する際に、乾燥処理工程以前又は乾燥処理を好適に行うためのタンパク質及び水を含む前処理物(調製物、例えば、限外ろ過の残余分、タンパク質高濃縮物等)に、グルコン酸又はこれを少なくとも含む酸成分を配合し、これら配合組成物を乾燥することで、本実施形態の粉末状組成物を得ることができるであろう。このため、原料に使用するタンパク質の製造において又はタンパク質のゲル化又は増粘の抑制用の組成物の製造において、作業工数の低減、簡便な作業性、作業効率の向上なども行うことができるであろう。
図1