(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054520
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム用積層体、ガスバリア性フィルム、包装フィルム、包装容器及び包装製品
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240410BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160785
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 正貴
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD02
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(57)【要約】
【課題】熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するとともに、優れた外観を有するガスバリア性フィルムを製造することができるガスバリア性フィルム用積層体、ガスバリア性フィルム、包装フィルム、包装容器及び包装製品を提供すること。
【解決手段】酸素バリア性皮膜とともにガスバリア性フィルムを形成するガスバリア性フィルム用積層体であって、樹脂基材と、酸素バリア性皮膜が形成される無機酸化物層とを備え、無機酸化物層とステンレスとの間の動摩擦係数が0.4以下である、ガスバリア性フィルム用積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素バリア性皮膜とともにガスバリア性フィルムを形成するガスバリア性フィルム用積層体であって、
樹脂基材と、前記酸素バリア性皮膜が形成される無機酸化物層とを備え、
前記無機酸化物層とステンレスとの間の動摩擦係数が0.4以下である、ガスバリア性フィルム用積層体。
【請求項2】
前記樹脂基材は、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1に記載のガスバリア性フィルム用積層体。
【請求項3】
前記無機酸化物層の厚みが1~200nmである、請求項1に記載のガスバリア性フィルム用積層体。
【請求項4】
前記無機酸化物層が、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含む、請求項1に記載のガスバリア性フィルム用積層体。
【請求項5】
前記樹脂基材と前記無機酸化物層との間に下地層をさらに備え、
前記下地層が有機高分子を含み、
前記有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び、これらの樹脂の反応生成物の少なくとも1つを含み、
前記下地層の厚みが0.01~1μmである、請求項1に記載のガスバリア性フィルム用積層体。
【請求項6】
請求項1に記載のガスバリア性フィルム用積層体と、
前記ガスバリア性フィルム用積層体の前記無機酸化物層の上に設けられる酸素バリア性皮膜とを備える、ガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記酸素バリア性皮膜が有機無機複合膜で構成され、
前記有機無機複合膜が、金属アルコキシド及び金属アルコキシドの加水分解物の少なくとも1種と、水溶性高分子とを含む酸素バリア性皮膜形成用組成物を用いて形成される、請求項6に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記酸素バリア性皮膜形成用組成物が、シランカップリング剤及びシランカップリング剤の加水分解物の少なくとも1種をさらに含む、請求項7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記酸素バリア性皮膜が、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と多価金属化合物との反応生成物であるポリカルボン酸の多価金属塩を含むポリカルボン酸の多価金属塩皮膜で構成される、請求項6に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルムと、シーラント層とを備え、
前記シーラント層が、前記ガスバリア性フィルムの前記酸素バリア性皮膜の上に設けられている、包装フィルム。
【請求項11】
請求項10に記載の包装フィルムを用いて得られる包装容器。
【請求項12】
請求項11に記載の包装容器と、前記包装容器内に充填される内容物とを備える包装製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスバリア性フィルム用積層体、ガスバリア性フィルム、包装フィルム、包装容器及び包装製品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装袋などの包装容器においては、内容物の変質や腐敗などを抑制し、それらの機能や性質を保持するために、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断するガスバリア性が要求される。そのため、従来より、包装容器においてはガスバリア性フィルムが用いられている。
【0003】
このようなガスバリア性フィルムとして、例えば多層基材と、蒸着膜と、蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体であって、バリアコート層が、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるバリア性積層体が知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載されたガスバリア性フィルムは、レトルト処理等の熱水処理後の酸素バリア性、及び、外観の点で改善の余地を有していた。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するとともに、優れた外観を有するガスバリア性フィルムを製造することができるガスバリア性フィルム用積層体、ガスバリア性フィルム、包装フィルム、包装容器及び包装製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは上記課題が生じる原因について検討した。まず、本開示の発明者らは、樹脂基材上に無機酸化物層を形成してなるガスバリア性フィルム用積層体を、ガイドロールを経てロールtoロールで搬送する際に、ガスバリア性フィルム用積層体の無機酸化物層をガイドロールに接触させると、ガスバリア性フィルム用積層体自体にシワが生じたり、無機酸化物層の表面に擦れ跡が生じたりする場合があること、そのガスバリア性フィルム用積層体に酸素バリア性皮膜を形成してガスバリア性フィルムを製造すると、ガスバリア性フィルムにおいて外観の点で改善の余地が生じることに気付いた。また、本開示の発明者らは、ガスバリア性フィルム用積層体自体に生じるシワや無機酸化物層の表面に生じる擦れ跡が、ガイドロールと無機酸化物層との間の摩擦力が大きいことに起因するのではないかと考えた。さらに、ガスバリア性フィルム用積層体をロールtoロールで搬送する場合、ガイドロールとして、ステンレス製のロールが用いられることが多い。そこで、本開示の発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の本開示により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
本開示の概要は以下のとおりである。
[1]酸素バリア性皮膜とともにガスバリア性フィルムを形成するガスバリア性フィルム用積層体であって、樹脂基材と、前記酸素バリア性皮膜が形成される無機酸化物層とを備え、前記無機酸化物層とステンレスとの間の動摩擦係数が0.4以下である、ガスバリア性フィルム用積層体。
[2]前記樹脂基材は、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートを含む、[1]に記載のガスバリア性フィルム用積層体。
[3]前記無機酸化物層の厚みが1~200nmである、[1]又は[2]に記載のガスバリア性フィルム用積層体。
[4]前記無機酸化物層が、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム用積層体。
[5]前記樹脂基材と前記無機酸化物層との間に下地層をさらに備え、前記下地層が有機高分子を含み、前記有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び、これらの樹脂の反応生成物の少なくとも1つを含み、前記下地層の厚みが0.01~1μmである、[1]~[4]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム用積層体。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム用積層体と、前記ガスバリア性フィルム用積層体の前記無機酸化物層の上に設けられる酸素バリア性皮膜とを備える、ガスバリア性フィルム。
[7]前記酸素バリア性皮膜が有機無機複合膜で構成され、前記有機無機複合膜が、金属アルコキシド及び金属アルコキシドの加水分解物の少なくとも1種と、水溶性高分子とを含む酸素バリア性皮膜形成用組成物を用いて形成される、[6]に記載のガスバリア性フィルム。
[8]前記酸素バリア性皮膜形成用組成物が、シランカップリング剤及びシランカップリング剤の加水分解物の少なくとも1種をさらに含む、[7]又は[8]に記載のガスバリア性フィルム。
[9]前記酸素バリア性皮膜が、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と多価金属化合物との反応生成物であるポリカルボン酸の多価金属塩を含むポリカルボン酸の多価金属塩皮膜で構成される、[6]に記載のガスバリア性フィルム。
[10][6]~[9]のいずれかに記載のガスバリア性フィルムと、シーラント層とを備え、前記シーラント層が、前記ガスバリア性フィルムの前記酸素バリア性皮膜の上に設けられている、包装フィルム。
[11][10]に記載の包装フィルムを用いて得られる包装容器。
[12][11]に記載の包装容器と、前記包装容器内に充填される内容物とを備える包装製品。
【0009】
本開示のガスバリア性フィルム用積層体によれば、そのガスバリア性フィルム用積層体を、ステンレスからなるガイドロールを経てロールtoロールで搬送する際に、ガイドロールに無機酸化物層を接触させても、ガイドロールと無機酸化物層との摩擦力が十分に低減される。このため、本開示のガスバリア性フィルム用積層体によれば、ステンレスと無機酸化物層との動摩擦係数が0.4を超える場合に比べて、ガスバリア性フィルム用積層体にシワが生じたり、ガイドロールによる無機酸化物層への擦れが生じたりすることを抑制でき、無機酸化物層にダメージが生じることが抑制される。このため、こうして得られるガスバリア性フィルム用積層体の無機酸化物層の上に酸素バリア性皮膜を形成してガスバリア性フィルムを形成する場合に、レトルト処理等の熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するとともに、優れた外観を有するガスバリア性フィルムを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するガスバリア性フィルムを製造することができるガスバリア性フィルム用積層体、ガスバリア性フィルム、包装フィルム、包装容器及び包装製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示のガスバリア性フィルム用積層体の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本開示のガスバリア性フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【
図3】本開示の包装フィルムの一実施形態を示す断面図である。
【
図4】本開示の包装製品の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
<ガスバリア性フィルム用積層体>
まず、本開示のガスバリア性フィルム用積層体の一実施形態について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本開示のガスバリア性フィルム用積層体の一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、ガスバリア性フィルム用積層体10は、酸素バリア性皮膜とともにガスバリア性フィルムを形成するガスバリア性フィルム用積層体であり、樹脂基材1と、酸素バリア性皮膜が形成される無機酸化物層3とを備える。ここで、無機酸化物層3とステンレスとの間の動摩擦係数(以下「動摩擦係数A」ともいう)は0.4以下である。
ガスバリア性フィルム用積層体10は、樹脂基材1と無機酸化物層3との間に下地層2をさらに有してもよい。
【0014】
ガスバリア性フィルム用積層体10によれば、そのガスバリア性フィルム用積層体10を、ステンレスからなるガイドロールを経てロールtoロールで搬送する際に、ガイドロールに無機酸化物層3を接触させても、ガイドロールと無機酸化物層3との摩擦力が十分に低減される。このため、ガスバリア性フィルム用積層体10によれば、動摩擦係数Aが0.4を超える場合に比べて、ガスバリア性フィルム用積層体10にシワが生じたり、ガイドロールによる無機酸化物層3への擦れが生じたりすることを抑制でき、無機酸化物層3にダメージが生じることが抑制される。このため、こうして得られるガスバリア性フィルム用積層体10の無機酸化物層3の上に酸素バリア性皮膜を形成してガスバリア性フィルムを形成する場合に、レトルト処理等の熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するとともに、優れた外観を有するガスバリア性フィルムを製造することが可能となる。
【0015】
以下、樹脂基材1、下地層2及び無機酸化物層3について詳細に説明する。
【0016】
(1)樹脂基材
樹脂基材1は、無機酸化物層3の支持体となる層であり、樹脂を含む。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、及び天然高分子化合物(セルロースアセテート等)が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンなどが挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)などが挙げられる。
上記樹脂は、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。この場合、ガスバリア性フィルム用積層体10を含む包装フィルムの機械的強度をより向上させることができるとともに、ガスバリア性フィルム用積層体10を含む包装フィルムをヒートシールする際に、樹脂基材1を溶融させにくくすることができる。
【0018】
樹脂基材1は、必要に応じて、アンチブロキング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0019】
樹脂基材1は、延伸フィルムでもよいし、非延伸フィルムでもよいが、酸素バリア性の観点からは、延伸フィルムであることが好ましい。ここで、延伸フィルムとしては、一軸延伸フィルム及び二軸延伸フィルムが挙げられるが、二軸延伸フィルムが、耐熱性を向上させることから、好ましい。
【0020】
樹脂基材1の表面、すなわち樹脂基材1の無機酸化物層3側の面のステンレスに対する動摩擦係数(以下「動摩擦係数B」ともいう)は、動摩擦係数Aよりも小さいことが好ましい。この場合、動係数Aが0.4以下になりやすくなる。
動摩擦係数Bは例えば樹脂基材1中のフィラー(例えばアンチブロッキング剤など)の含有率を調整したり樹脂基材1の表面を平滑化処理したりすることによって調整することができる。
【0021】
樹脂基材1の厚みは、特に制限されないが、例えば0.1mm以下であればよい。中でも、樹脂基材1の厚みは、40μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。樹脂基材1の厚みが40μm以下であると、樹脂基材1の厚みが40μmを超える場合に比べて、ガスバリア性フィルム用積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性フィルム用積層体10の酸素ガスバリア性をより向上させることができる。但し、強度を向上させる観点からは、樹脂基材1の厚みは、10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。
【0022】
樹脂基材1は、単層であっても、複数の層の積層体であってもよい。
【0023】
(2)下地層
下地層2は、樹脂基材1と無機酸化物層3との密着性をより向上させるための層であり、樹脂基材1と無機酸化物層3との間に設けられるものである。
【0024】
下地層2を構成する材料は、有機高分子を含む。有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、又は、これらの樹脂の反応生成物のうちの少なくとも1つであってよい。
【0025】
ポリウレタン系樹脂は、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物との反応物を含んでよい。透明性の観点から、ポリオール化合物はアクリルポリオールであることが好ましい。イソシアネート化合物は、主に架橋剤又は硬化剤として機能する。
【0026】
下地層2を構成する材料中の有機高分子の割合は、50質量%以上であってよく、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上であってもよい。
【0027】
下地層2の厚みは樹脂基材1と無機酸化物層3との密着性を向上させることが可能な厚みであれば特に制限されるものではなく、0.01μm以上であってよい。この場合、下地層2の厚みが0.01μm未満である場合に比べて、樹脂基材1の表面よりも下地層2の表面の平滑性をより向上させることが可能となり、無機酸化物層3の厚みをより均一にすることが可能となるとともに、酸素バリア性をより向上させることもできる。このため、ガスバリア性フィルム用積層体10の酸素バリア性をより一層向上させることができる。下地層2の厚みは0.03μm以上、0.04μm以上又は0.05μm以上であってもよい。下地層2の厚みを大きくすることにより、延伸等の外力がかかった場合の水蒸気バリア性の低下を一層抑制することができる。下地層2の厚みは1μm以下であってよい。この場合、下地層2の厚みが1μmを超える場合に比べて、ガスバリア性フィルム用積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性フィルム用積層体10の酸素ガスバリア性をより向上させることができる。下地層2の厚みは0.3μm以下又は0.2μm以下であってもよい。
【0028】
(3)無機酸化物層
無機酸化物層3は、無機酸化物を含む層である。ガスバリア性フィルム用積層体10は、無機酸化物層3を有することにより、ガスバリア性をより向上させることができる。
【0029】
無機酸化物層3とステンレスとの間の動摩擦係数(動摩擦係数A)は0.4以下である。この場合、ガスバリア性フィルム用積層体10は、ガイドロールとの接触による擦れやシワの発生を抑制することができる。このため、動摩擦係数Aが0.4を超える場合に比べて、熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するガスバリア性フィルムを製造することができる。また、ガスバリア性フィルム用積層体10は、ガイドロールとの接触による擦れやシワの発生を抑制することができるため、無機酸化物層3の上に酸素バリア性皮膜を形成してガスバリア性フィルムを製造すると、ガスバリア性フィルムは、優れた外観を有することも可能となる。
動摩擦係数Aは、0.35以下、0.30以下又は0.25以下であってよい。この場合、ガスバリア性フィルム用積層体10を搬送する際、ガイドロールと接触しても擦れ等によるキズ又はシワが発生しにくくなり、熱水処理後の酸素バリア性がより向上する。
動摩擦係数Aは0より大きくてよく、0.10以上、0.15以上又は0.20以上であってもよい。動摩擦係数Aは0.10以上であることが好ましい。この場合、ガスバリア性フィルム用積層体10を搬送する際、ガスバリア性フィルム用積層体10が蛇行しにくくなる。
なお、動摩擦係数は、摩擦測定器(Friction TesterTR-2、株式会社東洋精機製作所製)を用い、JIS K7125に準拠して3回測定される動摩擦係数の平均値である。各回の動摩擦係数は具体的には以下のようにして測定される。すなわち、まず重さ200gのスレッド(重り)の下面にガスバリア性フィルム用積層体10を貼り付けてなる積層体付きスレッドを、水平面を有するステンレス板の上に配置し、ガスバリア性フィルム用積層体10の無機酸化物層3が縦6.3cm×横6.3cmの面積を有する面でステンレス板と接するようにする。そして、ステンレス板上で積層体付きスレッドを速度100mm/minで走行距離60mm滑らせ、このとき測定される動摩擦力に基づいて動摩擦係数が算出される。
【0030】
動摩擦係数Aは例えば樹脂基材1の動摩擦係数Bの値を調整することによって調整することができる。
【0031】
動摩擦係数Aに対する摩擦係数Bの比(以下「r」ともいう)は、1.2以下又は0.9以下であってよい。
rは、0.3以上又は0.5以上であってよい。
【0032】
無機酸化物としては、Si、Al、Mg、Sn、Ti、及びInからなる群より選択される少なくとも1種の金属の酸化物、又は、炭素若しくはリンなどの非金属を金属酸化物に添加してなる非金属添加金属酸化物が挙げられる。金属の酸化物としては、水蒸気バリア性の観点から、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素であることが好ましい。中でも、熱水処理後の酸素バリア性の観点からは、酸化アルミニウムがより好ましい。
無機酸化物層3は単層からなっていてもよく、複数層からなっていてもよい。
【0033】
無機酸化物層3の厚みは特に制限されるものではないが、1nm以上であることが好ましい。この場合、無機酸化物層3の厚みが1nm未満である場合に比べて、ガスバリア性フィルム用積層体10の酸素バリア性がより向上する。無機酸化物層3の厚みは5nm以上、8nm以上又は10nm以上であってもよい。
また、無機酸化物層3の厚みは200nm以下であることが好ましい。この場合、無機酸化物層3の厚みが200nmを超える場合に比べて、ガスバリア性フィルム用積層体10の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性フィルム用積層体10の酸素バリア性をより向上させることができる。また、熱水処理後のガスバリア性フィルム用積層体10の酸素バリア性をより向上させることもできる。無機酸化物層3の厚みは80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下又は30nm以下であってよい。
【0034】
<ガスバリア性フィルム用積層体の製造方法>
次に、ガスバリア性フィルム用積層体10の製造方法について説明する。
【0035】
まず樹脂基材1を用意する。このとき、樹脂基材1としては、樹脂基材1のうち下地層2を形成する面のステンレスに対する動摩擦係数(動摩擦係数B)が、動摩擦係数Aよりも小さくなる樹脂基材1を用いることが好ましい。
【0036】
次に、樹脂基材1の一面上に下地層2を形成し、下地層付き樹脂基材を形成する。
具体的には、樹脂基材1の一面上に、下地層2を形成する下地層形成用組成物を塗布し加熱して乾燥させることによって下地層2を形成する。このとき、加熱温度は、例えば、50~200℃であってよく、乾燥時間は、例えば、10秒~10分程度であってよい。
こうして形成された下地層付き樹脂基材はロールに巻き取られる。
【0037】
次に、ロールから繰り出された下地層付き樹脂基材の下地層2の上に無機酸化物層3を形成し、ガスバリア性フィルム用積層体10を得る。
無機酸化物層3は、例えば真空成膜法により形成することができる。真空成膜法としては、物理気相成長法及び化学気相成長法が挙げられる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法等を挙げることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法が特に好ましく用いられる。真空蒸着法としては、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法が挙げられる。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができる。
こうして得られたガスバリア性フィルム用積層体10は、ステンレスからなるガイドロールを経てロールに巻き取られる。このとき、ガスバリア性フィルム用積層体10は、無機酸化物層3をガイドロールに接触させた状態で巻き取られる。
【0038】
<ガスバリア性フィルム>
次に、本開示のガスバリア性フィルムの実施形態について
図2を参照しながら説明する。なお、
図2において、
図1と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0039】
図2は、本開示のガスバリア性フィルムの一実施形態を示す断面図である。
図2に示すように、ガスバリア性フィルム20は、ガスバリア性フィルム用積層体10と、酸素バリア性皮膜4とを備えており、酸素バリア性皮膜4は、ガスバリア性フィルム用積層体10の無機酸化物層3の上に配置されている。
【0040】
このガスバリア性フィルム20は、上記ガスバリア性フィルム用積層体10を備えるため、レトルト処理等の熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有する。
【0041】
(4)酸素バリア性皮膜
酸素バリア性皮膜4は、酸素バリア性を有する皮膜であれば特に制限されるものではなく、このような酸素バリア性皮膜4としては、有機無機複合膜、及び、ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜が挙げられる。
【0042】
有機無機複合膜は、金属アルコキシド及び金属アルコキシドの加水分解物の少なくとも1種と、水溶性高分子とを含む酸素バリア性皮膜形成用組成物を用いて形成されることが好ましい。この場合、ガスバリア性フィルム20の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を効果的に向上させることができる。
酸素バリア性皮膜形成用組成物は、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性をより十分に維持する観点から、シランカップリング剤及びその加水分解物の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0043】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール(PVA)は、ガスバリア性フィルムの酸素バリア性を向上させやすいため特に好ましい。。
【0044】
金属アルコキシドは、下記一般式(1)で表される。
M(OR1)m・・・(1)
上記一般式(1)中、R1はそれぞれ独立に炭素数1~8の1価の有機基であり、メチル基、エチル基等のアルキル基であることが好ましい。MはSi、Ti、Al、Zr等のn価の金属原子を示す。mは1~nの整数である。なお、R1が複数存在する場合、R1同士は同一でも異なっていてもよい。
【0045】
金属アルコキシドとしては、具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C3H7)3〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン及びトリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0046】
シランカップリング剤は、下記一般式(2)で表され、硬化剤として機能するものである。
(R2Si(OR3)3)n・・・(2)
【0047】
一般式(2)において、R2は1価の有機官能基を表し、R3は、アルキル基、又は、-C2H4OCH3を表す。
この場合、酸素バリア性皮膜4と無機酸化物層3との密着性を向上させることが可能となり、ガスバリア性フィルム用積層体10における層間剥離(デラミネーション)を抑制することができる。
なお、R2とR3は互いに同一でも異なってもよい。R3同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0048】
R2で示される1価の有機官能基としては、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、アミノ基、又は、イソシアネート基を含有する1価の有機官能基が挙げられる。中でも、1価の有機官能基としては、イソシアネート基を含有する1価の有機官能基が好ましい。この場合、組成物が、硬化によって、より優れた熱水耐性を有することが可能となり、ガスバリア性フィルム用積層体10に対してレトルト処理等の熱水処理後でもより大きなラミネート強度を付与することが可能となる。
【0049】
R3で表されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基などが挙げられる。中でも、メチル基が好ましい。この場合、加水分解が速く行われる。
【0050】
nは1以上の整数を表す。nが1である場合、シランカップリング剤は単量体を表すのに対し、nが2以上である場合、シランカップリング剤は多量体を表す。nは3であることが好ましい。この場合、酸素バリア性皮膜4の熱水耐性をより向上させることができ、ガスバリア性フィルム用積層体10に対してレトルト処理等の熱水処理後でもより大きなラミネート強度を付与することが可能となる。
【0051】
シランカップリング剤は、上記一般式(2)におけるR2をNCO-R4-とし、R4を炭素数が1以上の整数であるアルキレン基とし、nを3とした、三量体1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることが好ましい。この場合、酸素バリア性皮膜4の湿熱耐性が向上し、レトルト処理等の熱水処理後の、樹脂基材1に対する酸素バリア性皮膜4のラミネート強度(密着強度)が向上する。
【0052】
シランカップリング剤は、上記一般式(2)におけるR2を3-グリシドキシプロピル基とし、nを1とした、3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシランであってもよい。この場合、酸素バリア性皮膜の湿熱耐性が向上し、レトルト処理等の熱水処理後の、樹脂基材1に対する酸素バリア性皮膜4のラミネート強度(密着強度)が向上する。
【0053】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を持つシランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン等のエポキシ基を持つシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基を持つシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を持つシランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、1,3,5-トリス(3-メトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアネート基を持つシランカップリング剤が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0054】
(ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜)
ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜は、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と多価金属化合物との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む皮膜である。ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜は、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物を混合した酸素バリア性皮膜形成用を塗布し、加熱乾燥したり、ポリカルボン酸系重合体を主成分とする酸素バリア性皮膜形成用を塗布し乾燥して第1皮膜を形成した上に、多価金属化合物を主成分とする酸素バリア性皮膜形成用を塗布し乾燥して第2皮膜を形成し、第1皮膜と第2皮膜との間で架橋反応させたりすることにより形成することができる。
【0055】
ポリカルボン酸系重合体とは、分子内に複数のカルボキシ基を有する重合体である。ポリカルボン酸系重合体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体;エチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらのポリカルボン酸系重合体はそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
多価金属化合物は、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基と反応してポリカルボン酸の多価金属塩を形成する化合物であれば特に限定されず、このような多価金属化合物としては、酸化亜鉛及び酸化マグネシウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。多価金属化合物としては、酸素バリア性皮膜4の酸素バリア性の観点からは、酸化亜鉛が好ましい。
【0057】
上記酸素バリア性皮膜形成用組成物は、酸素バリア性皮膜4のガスバリア性を損なわない範囲で、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0058】
上記酸素バリア性皮膜形成用組成物は、固形分を溶解又は分散させる液体をさらに含んでいてよい。このような液体としては、通常、水性媒体が用いられる。水性媒体としては、水、親水性の有機溶剤、またはこれらの混合物が挙げられる。親水性の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;セロソルブ類;カルビトール類;アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0059】
水性媒体としては、水のみからなる水性媒体、又は、水を主成分として含む水性媒体が好ましい。水性媒体が水を主成分として含む場合、水性媒体中の水の含有率は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0060】
酸素バリア性皮膜4の厚みは特に制限されるものではないが、50nm以上であることが好ましい。
この場合、酸素バリア性皮膜4の厚みが50nm未満である場合に比べて、ガスバリア性フィルム20の酸素バリア性がより向上する。
【0061】
酸素バリア性皮膜4の厚みは、ガスバリア性を向上させる観点から、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。
一方、酸素バリア性皮膜4の厚みは700nm以下であることが好ましい。酸素バリア性皮膜4の厚みが700nmを超える場合に比べて、ガスバリア性フィルム20の柔軟性がより向上し、虐待後のガスバリア性フィルム20の酸素バリア性をより向上させることができる。また、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性フィルム20の酸素バリア性をより向上させることもできる。
【0062】
酸素バリア性皮膜4の厚みは、ガスバリア性フィルム20の柔軟性をより向上させる観点からは、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。
【0063】
<包装フィルム>
次に、本開示の包装フィルムの実施形態について
図3を参照しながら説明する。なお、
図3において、
図1又は
図2と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0064】
図3は、本開示の包装フィルムの一実施形態を示す断面図である。
図3に示すように、包装フィルム30は、ガスバリア性フィルム20と、ガスバリア性フィルム20に積層されるシーラント層21とを備えており、シーラント層21は、ガスバリア性フィルム20の酸素バリア性皮膜4上に配置されている。
図2に示すように、ガスバリア性フィルム20において、酸素バリア性皮膜4とシーラント層21とが接着剤層22によって接着されていてもよい。
【0065】
この包装フィルム30は、上記ガスバリア性フィルム20を備えており、ガスバリア性フィルム20は、レトルト処理等の熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有する。このため、包装フィルム30は、熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有することが可能となる。
【0066】
接着剤層22の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などを用いることができる。包装フィルム30をレトルト用途に使用するには、レトルト処理耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。
【0067】
(シーラント層)
シーラント層21の材質としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられるが、ポリオレフィン樹脂が一般的に使用される。具体的に、ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、又はこれらの混合物等を使用することができる。シーラント層21の材質は、上述した熱可塑性樹脂の中から、使用用途やボイル処理、レトルト処理などの温度条件によって適宜選択できる。
【0068】
シーラント層21を構成する熱可塑性樹脂は、延伸されていても延伸されていなくてもよいが、融点を低下させ、包装フィルム30のヒートシールを容易にする観点からは、延伸されていない方が好ましい。
【0069】
シーラント層21の厚みは、内容物の質量や、包装袋の形状などにより適宜定められ、特に限定されるものではないが、包装フィルム30の柔軟性及び接着性の観点から、30~150μmであることが好ましい。
【0070】
<包装製品>
次に、本開示の包装製品の実施形態について
図4を参照しながら説明する。なお、
図4は、本開示の包装製品の一実施形態を示す断面図である。
図4において、
図1~
図3と同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図4に示すように、包装製品50は、包装容器40と、包装容器40内に充填された内容物Cとを備えている。
図4に示す包装容器40は、一対の包装フィルム30を用い、シーラント層21同士を対向させた状態で包装フィルム30の周縁部をヒートシールすることによって得られたものである。なお、
図4において、包装フィルム30の接着剤層22は省略して示してある。
【0071】
この包装製品50は、包装容器40を備えており、包装容器40は、包装フィルム30を用いて形成されている。このため、包装製品50は、熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有する。
【0072】
なお、包装容器40は、1つの包装フィルム30を折り曲げ、シーラント層21同士を対向させた状態で包装フィルム30の周縁部をヒートシールすることによっても得ることができる。
【0073】
包装容器40としては、包装袋、ラミネートチューブ容器、液体紙容器などが挙げられる。
【0074】
内容物Cは、特に限定されるものではなく、内容物Cとしては、食品、液体、医薬品、電子部品などが挙げられる。
【0075】
本開示は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、包装フィルム30において、シーラント層21が、ガスバリア性フィルム20の酸素バリア性皮膜4上に配置されているが、シーラント層21は、樹脂基材1に対し酸素バリア性皮膜4と反対側に配置されていてもよい。
【実施例0076】
以下、実施例を挙げて本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<酸素バリア性皮膜用組成物の調製>
実施例又は比較例で用いられる酸素バリア性皮膜形成用組成物を調製するための液A~Fを以下のようにして調製した。
【0078】
(液A)
ポリビニルアルコール(商品名:「クラレポバール60-98」、株式会社クラレ製、以下「PVA」ともいう)を水と混合し、固形分の割合が5質量%である液Aを調製した。
【0079】
(液B)
金属アルコキシドとしてのテトラエトキシシラン(商品名:「KBE04」、固形分:100質量%、信越化学工業株式会社製、以下「TEOS」ともいう)とメタノール(関東化学株式会社製)と0.1N塩酸(関東化学株式会社製)とを、質量比が17/10/73となるように混合し、固形分の割合が5質量%である液Bを調製した。このとき、固形分の割合の計算は、TEOSをSiO2に換算して行った。
【0080】
(液C)
シランカップリング剤としての1,3,5-トリス(3-メトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(SC剤A)を、水/IPA=1/1(質量比)の混合溶媒に加え、固形分の割合が5質量%である液Cを得た。固形分の割合の計算は、シランカップリング剤を、(NCO(CH2)3Si(OH)3)3に換算して行った。
【0081】
(液D)
シランカップリング剤としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(SC剤B)のイソプロパノール(IPA)溶液に、0.1N塩酸(関東化学株式会社製)を加え、得られた溶液を30分間撹拌してSC剤Bを加水分解させた後、水/IPA=1/1(質量比)の混合溶媒に加え、固形分の割合が5質量%である液Dを得た。固形分の割合の計算は、SC剤Bを、(CH2O)CH2OC3H6Si(OH)3に換算して行った。
【0082】
(液E)
数平均分子量200,000のポリアクリル酸水溶液(東亞合成株式会社製、アロンA-10H、固形分濃度25質量%)20質量部に蒸留水58.9質量部を加えて希釈し、希釈ポリアクリル酸水溶液を得た。その後、アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS、アルドリッチ製)0.44質量部を添加して撹拌し、ポリカルボン酸系重合体を主成分とする液Eを得た。
【0083】
(液F)
酸化亜鉛微粒子水分散液(住友大阪セメント株式会社製 ZE143)100質量部と硬化剤(Liofol HAERTER UR 5889-21、Henkel製)2質量部とを混合し、多価金属化合物を主成分とする液Fを調製した。
【0084】
<下地層形成用組成物の調製>
下地層形成用組成物は以下のようにして調製した。
アクリルポリオールとしてのアクリディックCL-1000(DIC株式会社製)とイソシアネート系化合物としてのトリレンジイソシアネート(TDI)タイプ硬化剤(コロネート2030、東ソー株式会社製)とを、固形分質量比が6:4となるように配合し、固形分(アクリルポリオール及びイソシアネート系化合物の合計量)が2質量%になるよう希釈溶剤としての酢酸エチルで希釈した。こうして下地層形成用組成物を調製した。
【0085】
<ガスバリア性フィルムの作製>
(実施例1)
まず、樹脂基材として、下地層を形成する側の面の動摩擦係数Bが表1に示す値である二軸延伸ポリプロピレンフィルム(PP)を用意した。
次に、上記のようにして調製した下地層形成用組成物を、グラビアコート法を用いて樹脂基材の表面上に塗布して塗膜を形成し、100℃のオーブンに10秒間通過させ塗膜を乾燥させることで厚さ0.1μmの下地層を形成し、得られた下地層付き樹脂基材をロールに巻き取り、下地層付き樹脂基材ロールを得た。
次に、下地層付き樹脂基材ロールから下地層付き樹脂基材を繰り出し、電子線加熱方式による電子ビーム式真空蒸着法により、下地層の上に無機酸化物として酸化ケイ素を蒸着させ、厚さ25nmの無機酸化物層を形成し、ガスバリア性フィルム用積層体を得た。そして、得られたガスバリア性フィルム用積層体を、ステンレスからなるガイドロールを経てガイドしながら巻取りロールに巻き取った。このとき、ガスバリア性フィルム用積層体は、無機酸化物層をガイドロールに接触させた状態でガイドし、100N/mの張力を付与しながら600m/minの速度で巻き取った。
【0086】
その後、液A~Dを表1に示す割合(単位:質量%)で混合して混合液を調製し、この混合液を、グラビアコート法にて上記ガスバリア性フィルム用積層体の無機酸化物層の表面に塗布し、60℃、60秒の条件下で乾燥させることで、厚みが0.3μmとなるように酸素バリア性皮膜としての有機無機複合皮膜を形成した。こうして樹脂基材、下地層、無機酸化物層及び酸素バリア性皮膜がこの順で積層されたガスバリア性フィルムを得た。
【0087】
(実施例2~5及び比較例1)
樹脂基材の材質、動摩擦係数B、厚み、下地層の有無、無機酸化物層の材質、動摩擦係数A、酸素バリア性皮膜としての有機無機複合皮膜を形成する液A~Dの割合(質量%)、及び、酸素バリア性皮膜の種類を表1に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得た。
【0088】
(実施例6~7及び比較例2)
樹脂基材の材質、動摩擦係数B、厚み、下地層の有無、無機酸化物層の材質、動摩擦係数Aを表1に示すとおりとし、酸素バリア性皮膜の種類をポリカルボン酸の多価金属塩皮膜とし、ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜を以下のように形成したこと以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。
すなわち、無機酸化物層の上にグラビアコート法を用いて液Eを塗布して塗膜を形成し、100℃のオーブンに10秒間通過させ乾燥させることで厚さ0.2μmのポリカルボン酸系重合体皮膜を形成した。続いて、ポリカルボン酸系重合体皮膜の上に、グラビアコート法を用いて、液Fを塗工して多価金属化合物皮膜を形成し、100℃のオーブンに10秒間通過させ乾燥させることで厚さ0.2μmのポリカルボン酸の多価金属塩皮膜を形成した。
なお、実施例6~7及び比較例2では、液A~液Dを使用していないため、表1において、有機無機複合皮膜を形成する液A~Dの割合(質量%)については「-」と表示した。
【0089】
(実施例8及び比較例3)
樹脂基材の材質、動摩擦係数B、下地層の有無、無機酸化物層の材質、動摩擦係数A、酸素バリア性皮膜としての有機無機複合皮膜を形成する液A~Dの質量割合(質量%)、及び、酸素バリア性皮膜の種類を表1に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルムを得た。
【0090】
<包装フィルムの作製>
実施例1~8及び比較例1~3で得られたガスバリア性フィルムの酸素バリア性皮膜の表面上に、2液型の接着剤(商品名「タケラックA-525/タケネートA-52」、三井化学SKCポリウレタン株式会社製)を用いて、厚み60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(商品名「トレファン(登録商標)ZK207」、東レ株式会社製)を貼り付けることによって表面の幅が210mmである包装フィルムを作製した。
【0091】
<包装フィルムのレトルト処理後の酸素バリア性評価>
上記のようにして得られた包装フィルムについて、以下のようにしてレトルト処理前後の酸素透過度を測定して酸素バリア性を評価した。
【0092】
(1)レトルト処理前の酸素透過度
レトルト処理前の酸素透過度は、上記のようにして作製した包装フィルムについて以下のようにして測定した。
すなわち、包装フィルムについて、酸素透過度測定装置(製品名「OX-TRAN2/20」、ModernControl社製)を用い、温度30℃、相対湿度70%の条件で酸素透過度を測定した。このとき、測定は、JIS K-7126-2に準拠して行った。結果を表1に示す。
(2)レトルト処理後の酸素透過度
レトルト処理後の酸素透過度は、上記のようにして作製した包装フィルムについて以下のようにしてレトルト処理を行った後、包装フィルムについて上記のようにして測定した。結果を表1に示す。
(レトルト処理)
レトルト処理は、以下のようにして得られた試験サンプルを、貯湯式レトルト釜を用いて121℃で30分間行った。なお、レトルト処理後は、試験サンプルからA4サイズ(長辺297mm×短辺210mmの大きさ)のシートを切り出し、このシートを、酸素透過度測定用の包装フィルムとした。
(試験サンプルの作製)
試験サンプルは以下のようにして作製した。
まず、上記のようにして作製した包装フィルムからA4サイズ(長辺297mm×短辺210mmの大きさ)のシートを切り出し、このシートを、両端の短辺同士が重なるように2つ折りにし、重なり合う長辺をヒートシールすることにより、開口を有する三方パウチを作製した。そして、開口から三方パウチ内に0.6質量%のシステイン水溶液150mLを入れ、短辺同士をヒートシールした。こうして試験サンプルを作製した。
【0093】
<外観>
実施例1~8及び比較例1~3で得られたガスバリア性フィルムについて、ロールに、酸素バリア性皮膜を外側に向けて1000m分巻き取った後に外観を目視にて観察した。そして、シワ又はキズが確認されたガスバリア性フィルムについては「×」と評価し、シワ及びキズのいずれも確認されなかったガスバリア性フィルムについては「○」と評価した。結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
表1に示すように、実施例1~8のガスバリア性フィルムは、比較例1~3に比べて、レトルト処理後の酸素透過度が十分に低く、外観も良好であることが分かった。
【0096】
以上のことから、本開示のガスバリア性フィルム用積層体は、無機酸化物層とステンレスとの間の動摩擦係数(動摩擦係数A)を0.4以下とすることで、レトルト処理等の熱水処理後でも優れた酸素バリア性を有するとともに、優れた外観を有するガスバリア性フィルムを製造することができることが確認された。
1…樹脂基材、2…下地層、3…無機酸化物層、4…酸素バリア性皮膜、10…ガスバリア性フィルム用積層体、20…ガスバリア性フィルム、21…シーラント層、30…包装フィルム、40…包装容器、50…包装製品。