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特開2024-54559グリース組成物およびグリース組成物用添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054559
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】グリース組成物およびグリース組成物用添加剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20240410BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240410BHJP
   C10M 117/00 20060101ALN20240410BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240410BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240410BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M139/00 Z
C10M117/00
C10M115/08
C10M101/02
C10N10:12
C10N10:04
C10N50:10
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160853
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 伸明
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA37
4H104PA39
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】耐荷重性および耐摩耗性に優れる新たなグリース組成物、ならびに耐荷重性および耐摩耗性に優れるグリース組成物を調製するための添加剤の提供。
【解決手段】基油と、増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、前記増ちょう剤が、金属石けん、金属複合石けん(ただし、バリウム複合石けんを除く)およびウレア系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~10質量%であり、前記バリウム複合石けんの含有量が、0.2~7質量%である、グリース組成物;有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量(モリブデン換算)Aと、前記バリウム複合石けんの含有量Bとの比(質量比)A:Bが、0.6~10:0.2~7である、グリース組成物用添加剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、
前記増ちょう剤が、金属石けん、金属複合石けん(ただし、バリウム複合石けんを除く)およびウレア系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~10質量%であり、
前記バリウム複合石けんの含有量が、0.2~7質量%である、グリース組成物。
【請求項2】
前記バリウム複合石けんの含有量が、前記有機モリブデン化合物100質量部(モリブデン換算)に対し、25~100質量部である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記基油が、合成炭化水素油または鉱油である、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3000N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.47mm以下である、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項5】
有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、
前記有機モリブデン化合物の含有量(モリブデン換算)Aと、前記バリウム複合石けんの含有量Bとの比(質量比)A:Bが、0.6~10:0.2~7である、グリース組成物用添加剤。
【請求項6】
前記バリウム複合石けんの含有量が、前記有機モリブデン化合物100質量部(モリブデン換算)に対し、25~100質量部である、請求項5に記載のグリース組成物用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物およびグリース組成物用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グリース組成物は、産業機械、輸送機械および一般機械等の様々な分野において、潤滑剤として用いられている。特に、減速機ギヤ、ボールねじおよび軸受等の荷重の大きい適用箇所においては、耐荷重性に優れるグリース組成物が求められる。また、ボールねじ等の適用箇所においては、グリース組成物の粘性抵抗によってトルクが高くなりすぎないことも求められる。
【0003】
特許文献1には、基油、増ちょう剤、清浄分散剤、硫黄-リン系極圧剤、有機モリブデン化合物およびリグニン化合物を含有する等速ジョイント用グリース組成物が、耐荷重性および摩擦係数低減効果に優れることが開示されている。一方で、荷重の大きい潤滑箇所に用いられるグリース組成物は、高い耐荷重性のみならず、高い耐摩耗性をも有することが望ましい。しかしながら、粘度を過度に上昇させることなく耐荷重性および耐摩耗性を両立させることは困難であり、当該条件を満たすグリース組成物が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-189765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐荷重性および耐摩耗性に優れる新たなグリース組成物、ならびに耐荷重性および耐摩耗性に優れるグリース組成物を調製するための添加剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]基油と、増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、
前記増ちょう剤が、金属石けん、金属複合石けん(ただし、バリウム複合石けんを除く)およびウレア系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~10質量%であり、
前記バリウム複合石けんの含有量が、0.2~7質量%である、グリース組成物。
[2]前記バリウム複合石けんの含有量が、前記有機モリブデン化合物100質量部(モリブデン換算)に対し、25~100質量部である、[1]のグリース組成物。
[3]前記基油が、合成炭化水素油または鉱油である、[1]または[2]のグリース組成物。
[4]ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3000N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.47mm以下である、[1]~[3]のいずれかのグリース組成物。
[5]有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量(モリブデン換算)Aと、前記バリウム複合石けんの含有量Bとの比(質量比)A:Bが、0.6~10:0.2~7である、グリース組成物用添加剤。
[6]前記バリウム複合石けんの含有量が、前記有機モリブデン化合物100質量部(モリブデン換算)に対し、25~100質量部である、[5]のグリース組成物用添加剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐荷重性および耐摩耗性に優れる新たなグリース組成物、ならびに耐荷重性および耐摩耗性に優れるグリース組成物を調製するための添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、前記増ちょう剤が、金属石けん、金属複合石けん(ただし、バリウム複合石けんを除く)およびウレア系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~10質量%であり、前記バリウム複合石けんの含有量が、0.2~7質量%である。以下、本発明のグリース組成物について成分ごとに詳細に説明する。
【0009】
[基油]
本発明のグリース組成物に含まれる基油の種類は特に限定されないが、例えば合成油および鉱油等が挙げられる。前記合成油としては、例えば合成炭化水素油、エステル油、エーテル油、グリコール油等が挙げられる。合成油および鉱油は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。中でも、合成炭化水素油、グリコール油または鉱油が好ましく、合成炭化水素油または鉱油がより好ましい。
【0010】
前記合成炭化水素油としては、例えばポリα-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン(ポリイソブチレン)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。前記エステル油としては、例えばジエステル(ジカルボン酸とモノアルコールとのエステル)、ポリオールエステル、芳香族エステル等が挙げられる。前記エーテル油としては、アルキルジフェニルエーテル等が挙げられる。前記グリコール油としては、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
合成炭化水素油の中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ここで、ポリα-オレフィンとは、少なくとも1種のα-オレフィンを多量体化(典型的には3~8量体化)させたものを指す。また、α-オレフィンとは、3つ以上の炭素原子を有し、α位に炭素-炭素二重結合を有する直鎖アルケンを指す。α-オレフィンとしては、例えば炭素数3~30、好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数6~16のものが用いられるが、これらに限定されない。α-オレフィンの例としては、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明のグリース組成物に含まれる基油の動粘度は特に限定されないが、40℃で5~200mm/sであることが好ましく、40℃で15~100mm/sであることが好ましく、40℃で20~50mm/sであることがより好ましい。基油の動粘度が適切な範囲内であることにより、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立することができる。また、基油の動粘度が適切な範囲内であることにより、グリース組成物の粘度を適切な範囲内に調節しやすくなる。
【0013】
[増ちょう剤]
本発明のグリース組成物は、増ちょう剤を含む。前記増ちょう剤は、金属石けん、金属複合石けん(ただし、バリウム複合石けんを除く)およびウレア系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。前記金属石けんとしては、例えばリチウム石けん、バリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん等が挙げられるが、これらに限定されない。前記金属複合石けんとしては、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん等が挙げられるが、これらに限定されない。前記ウレア系化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
前記金属石けんとしては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;分子中に1個以上のヒドロキシ基を有する炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸;芳香族カルボン酸;炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸;およびそれらのエステルまたはアミド(特に、カルボン酸モノアミド)からなる群より選択される化合物を、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、または水酸化アルミニウム等の金属水酸化物と反応させることにより得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、当該反応は基油中で行ってもよい。
【0015】
前記金属複合石けんとしては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;分子中に1個以上のヒドロキシ基を有する炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸;芳香族カルボン酸;炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸;およびそれらのエステルまたはアミド(特に、カルボン酸モノアミド)からなる群より選択される少なくとも2種の化合物を、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、または水酸化アルミニウム等の金属水酸化物(ただし、水酸化バリウムを除く)と反応させることにより得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、当該反応は基油中で行ってもよい。その際、前記少なくとも2種の化合物を同時に金属水酸化物と反応させてもよく、1種ずつ金属水酸化物と反応させてもよい。また、複数の金属石けんを別々に基油に投入し、基油中で金属複合石けんとしてもよい。
【0016】
前記金属石けんまたは前記金属複合石けんの合成に用いることのできる炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸としては、例えば12-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシラウリン酸、16-ヒドロキシパルミチン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。前記金属石けんまたは前記金属複合石けんの合成に用いることのできる芳香族カルボン酸としては、例えば安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
前記金属石けんまたは前記金属複合石けんの合成に用いることのできる炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸が好ましく、アゼライン酸、セバシン酸がより好ましい。
【0018】
前記金属石けんまたは前記金属複合石けんの合成に用いることのできるカルボン酸モノアミドとしては、例えば上記脂肪族ジカルボン酸の一つのカルボキシ基がアミド化されたものが挙げられるが、これらに限定されない。中でも、アゼライン酸またはセバシン酸の一つのカルボキシ基がアミド化されたものが好ましい。アミド化に用いるアミンとしては、例えばブチルアミン、アミルアミン、へキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン;ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジラウリルアミン、モノメチルラウリルアミン、ジステアリルアミン、モノメチルステアリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン等の脂肪族第2級アミン;アリルアミン、ジアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン等の脂肪族不飽和アミン;シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン;アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、α-ナフチルアミン等の芳香族アミン等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、モノメチルラウリルアミン、モノメチルステアリルアミン、オレイルアミンが好ましい。
【0019】
前記ウレア系化合物としては、ジウレア化合物が好ましい。ジウレア化合物としては、例えば一般式RNHCONHRNHCONHR(式中、Rは炭素数6~24の一価の脂肪族炭化水素基または炭素数6~15の一価の芳香族炭化水素基を表し、Rは炭素数6~15の二価の芳香族炭化水素基を表す。なお、ここで「芳香族炭化水素基」は、複数の芳香環がアルキレン基等により接続された構造を含む基であってもよい)で示される化合物が挙げられるが、これらに限定されない。特に、ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンを反応させて得られたジウレア化合物がより好ましい。
【0020】
本発明のグリース組成物における増ちょう剤の含有量は特に限定されないが、1~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることがさらに好ましく、4~15質量%であることが特に好ましく、5~10質量%であることが最も好ましい。増ちょう剤の含有量が適切な範囲内であることにより、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立することができる。また、増ちょう剤の含有量が適切な範囲内であることにより、グリース組成物の粘度を適切な範囲内に調節しやすくなる。
【0021】
本発明のグリース組成物は、本発明の効果が奏される限り、他の増ちょう剤を含んでいてもよい。前記他の増ちょう剤としては、ベントナイト;シリカゲル;フッ素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のグリース組成物は、増ちょう剤としてバリウム複合石けんを単独で含むことはない。これは、バリウム複合石けんを用いて汎用的な硬さであるちょう度1~3号程度のグリース組成物を調製する場合、バリウム複合石けんを比較的多量に配合する必要があり、その結果、得られるグリース組成物の粘度が、同程度のちょう度の他のグリース組成物と比較して高くなりやすい傾向にあるためである。
【0022】
[有機モリブデン化合物]
本発明のグリース組成物は、上述の成分の他、有機モリブデン化合物を含む。有機モリブデン化合物としては、例えばモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)等が挙げられるが、これらに限定されない。有機モリブデン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
本発明のグリース組成物における有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で0.6~10質量%である。本発明のグリース組成物は、後述するバリウム複合石けんと有機モリブデン化合物とを共存させることにより、耐荷重性および耐摩耗性を両立することができる。なお、有機モリブデン化合物のモリブデン換算の含有量は、使用する有機モリブデン化合物の含有量に、当該有機モリブデン化合物中においてモリブデンが占める質量割合を乗ずることで算出可能である。例えば、グリース組成物が有機モリブデン化合物を5質量%含有し、当該有機モリブデン化合物中においてモリブデンが占める質量割合が10質量%である場合、グリース組成物における有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で5×(10/100)=0.5質量%である。
【0024】
本発明のグリース組成物における有機モリブデン化合物の含有量は、モリブデン換算で0.7~6質量%であることが好ましく、0.8~5質量%であることがより好ましく、0.9~4質量%であることがさらに好ましく、1~3.5質量%であることが特に好ましく、1.2~3質量%であることが最も好ましい。有機モリブデン化合物の含有量が適切な範囲内であることにより、耐荷重性および耐摩耗性をより高度に両立することができる。また、有機モリブデン化合物の含有量が適切な範囲内であることにより、モリブデンによる金属の腐食を防止することができる。
【0025】
[バリウム複合石けん]
本発明のグリース組成物は、バリウム複合石けんを含む。本発明のグリース組成物は、有機モリブデン化合物と共にバリウム複合石けんを含むことにより、特に耐摩耗性に優れたものとなる。
【0026】
前記バリウム複合石けんとしては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸;分子中に1個以上のヒドロキシ基を有する炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸;芳香族カルボン酸;炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸;およびそれらのエステルまたはアミド(特に、カルボン酸モノアミド)からなる群より選択される少なくとも2種の化合物を、水酸化バリウムと反応させることにより得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、当該反応は基油中で行ってもよい。その際、前記少なくとも2種の化合物を同時に水酸化バリウムと反応させてもよく、1種ずつ水酸化バリウムと反応させてもよい。また、複数のバリウム石けんを別々に基油に投入し、基油中でバリウム複合石けんとしてもよい。
【0027】
バリウム複合石けんの合成に用いることのできる炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸、芳香族カルボン酸、炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸およびカルボン酸モノアミドとしては、金属複合石けんの合成に用いることのできるものとして上記したものと同様のものが挙げられる。
【0028】
本発明のグリース組成物におけるバリウム複合石けんの含有量は、0.2~7質量%である。本発明のグリース組成物におけるバリウム複合石けんの含有量は、0.3~6質量%であることが好ましく、0.4~5質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることがさらに好ましく、0.6~3質量%であることが特に好ましく、0.8~2.5質量%であることが最も好ましい。バリウム複合石けんの含有量を適切な範囲内とすることにより、同一の基油を用い、同程度のちょう度とした他のグリース組成物と比較して粘度を過度に上昇させることなく、耐荷重性および耐摩耗性が両立したグリース組成物を提供することができる。
【0029】
[グリース組成物用添加剤]
有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんとは、予め混合してグリース組成物用添加剤とした上で残余の成分に添加してもよい。すなわち、有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量(モリブデン換算)Aと、前記バリウム複合石けんの含有量Bとの比(質量比)A:Bが、0.6~10:0.2~7であるグリース組成物用添加剤を、予め調製して用いてもよい。グリース組成物用添加剤における前記比A:Bが0.6~10:0.2~7であることにより、有機モリブデン化合物の含有量がモリブデン換算で0.6~10質量%であり、バリウム複合石けんの含有量が0.2~7質量%であるグリース組成物を容易に調製できる。
【0030】
前記比A:Bは、0.7~6:0.3~6であることが好ましく、0.8~5:0.4~5であることがより好ましく、0.9~4:0.5~4であることがさらに好ましく、1~3.5:0.6~3であることが特に好ましく、1.2~3:0.8~2.5であることが最も好ましい。
【0031】
本発明のグリース組成物またはグリース組成物用添加剤において、バリウム複合石けんの含有量は、有機モリブデン化合物100質量部(モリブデン換算)に対して25~100質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、70~80質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
[その他の成分]
本発明のグリース組成物は、本発明の効果が奏される限り、その他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、例えば有機モリブデン化合物を除く極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性剤、粘度指数向上剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
前記有機モリブデン化合物を除く極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン等のリン系化合物;スルフィド、ジスルフィド等の硫黄系化合物;金属ジチオホスフェート、金属ジチオカルバメート等の有機金属化合物(ただし、有機モリブデン化合物を除く)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
前記酸化防止剤としては、例えばアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられるが、これらに限定されない。前記アミン系酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
前記フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
前記リン系酸化防止剤としては、アルキルホスファイト類、アルキルアリールホスファイト類およびアリールホスファイト類が挙げられる。アリールホスファイト類としては、例えばトリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
前記防錆剤としては、例えば芳香族スルホン酸または飽和脂肪族ジカルボン酸のカルシウム塩またはナトリウム塩、脂肪酸、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシアルキルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
前記油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族エステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド、モンタンワックス、アミド系ワックス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
前記粘度指数向上剤としては、例えばポリ(メタ)アクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、水添スチレン-イソプレン共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明のグリース組成物は、以上の各成分を公知の方法により混合する方法等により製造することができる。その際、各成分の混合順は特に限定されない。同一の成分は一度に添加して混合してもよく、分割して添加した上で混合してもよい。
【0041】
本発明のグリース組成物は、ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3000N以上であり、かつ、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.47mm以下であることが好ましい。融着荷重および摩耗痕径は、四球試験により評価されるものである。なお、融着荷重および摩耗痕径は、実施例に記載の条件に従って測定することができる。
【0042】
本発明のグリース組成物は、ASTM D2596に従って測定した融着荷重が3050N以上であることがより好ましく、3500N以上であることがさらに好ましく、4000N以上であることが特に好ましく、7000N以上であることが最も好ましい。また、本発明のグリース組成物は、ASTM D2266に従って測定した摩耗痕径が0.45mm以下であることがより好ましく、0.44mm以下であることがさらに好ましく、0.42mm以下であることが特に好ましく、0.40mm以下であることが最も好ましい。
【0043】
本発明のグリース組成物は、減速機ギヤ、ボールねじおよび軸受等の荷重の大きい適用箇所の潤滑用途、特にトルクの低減が求められるボールねじ等の適用箇所の潤滑用途に好適であるが、必要に応じてその他の用途、例えば複写機、プリンター等の事務機器用部品;減速機・増速機、ギヤ、チェーン、モータ等の動力伝達装置、走行系部品、ABS等の制動系部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、ステアリング装置、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車部品;電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品;食品・薬品工業、鉄鋼、建設、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等の化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品;その他相対運動する機械部品等に広く適用することができる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0045】
[グリース組成物の調製]
(1)基油
(1a)ポリα-オレフィン1(PAO1):Synfluid PAO 6cSt(Chevron Phillips Chemical社製)、40℃動粘度30mm/s
(1b)ポリα-オレフィン2(PAO2):2種の市販ポリα-オレフィン基油の混合物、40℃動粘度100mm/s
(1c)鉱油:2種の市販鉱油の混合物、40℃動粘度84mm/s
【0046】
(2)増ちょう剤
(2a)リチウム石けん1(Li石けん1):12-ヒドロキシステアリン酸88質量%、および水酸化リチウム12質量%を基油中で反応させて得られたもの
(2b)リチウム石けん2(Li石けん2):ヒマシ硬化油90重量%、および水酸化リチウム10重量%を基油中で反応させて得られたもの
(2c)リチウム複合石けん(Li-comp):12-ヒドロキシステアリン酸63.5質量%、アゼライン酸19質量%、および水酸化リチウム17.5質量%を基油中で反応させて得られたもの
(2d)ジウレア化合物:ジフェニルメタンジイソシアネート50質量%、およびオクチルアミン50質量%を基油中で反応させて得られたもの
(2e)バリウム複合石けん(Ba-comp):セバシン酸27.5質量%、カルボン酸モノステアリルアミド41.5質量%、および水酸化バリウム31質量%を基油中で反応させて得られたもの
【0047】
(3)添加剤
(3a)モリブデンジチオカルバメート1(MoDTC1):アデカサクラルーブ(登録商標)600(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約28質量%
(3b)モリブデンジチオカルバメート2(MoDTC2):アデカサクラルーブ(登録商標)525(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約10質量%
(3c)モリブデンジチオホスフェート(MoDTP):アデカサクラルーブ(登録商標)300(株式会社ADEKA製)、モリブデン含有量約9質量%
(3d)バリウム複合石けん(Ba-comp):セバシン酸27.5質量%、カルボン酸モノステアリルアミド41.5質量%、および水酸化バリウム31質量%を基油中で反応させて得られたもの
【0048】
表1~表4の配合率となるよう、上記の基油および増ちょう剤の混合物に対して添加剤を加え、混合して均一なグリース組成物を得た(実施例1~14、比較例1~13)。なお、各表における配合量の数値は質量%であり、各表における「(Mo量)」は、有機モリブデン化合物の含有量をモリブデン換算で表した量を表す。
【0049】
[グリース組成物の評価]
得られたグリース組成物について、下記の見掛け粘度測定、融着荷重試験および摩耗痕径試験を行った。結果を表1~表4に示す。
【0050】
・見掛け粘度測定
コーンプレート型粘度計(Anton Paar社製 MCR302)を用いて見掛け粘度を測定した。その際、直径25mm、コーン角度1°のコーンプレートと、パラレルプレートとを用いた。1~360s-1のせん断速度を加え、せん断速度が300s-1のときの粘度をグリース組成物の見掛け粘度とした。
【0051】
・融着荷重試験
ASTM D2596に従い、下記の条件で四球試験により測定した。
回転数:1770rpm
時間:10秒
温度:室温
【0052】
・摩耗痕径試験
ASTM D2266に従い、下記の条件で四球試験により測定した。
回転数:1200rpm
時間:60分
温度:75℃
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
実施例1~14の結果から、基油と、増ちょう剤と、有機モリブデン化合物と、バリウム複合石けんと、を含み、前記増ちょう剤が、金属石けん、金属複合石けん(ただし、バリウム複合石けんを除く)およびウレア系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記有機モリブデン化合物の含有量が、モリブデン換算で0.6~10質量%であり、前記バリウム複合石けんの含有量が、0.2~7質量%であるグリース組成物は、耐荷重性および耐摩耗性に優れることがわかる。
【0058】
同一の基油を用い、同程度のちょう度とした実施例4と比較例7の結果を比較すると特に明確であるように、グリース組成物がバリウム複合石けんを0.2~7質量%含むことにより、見掛け粘度の上昇を許容範囲内に抑えつつ、耐摩耗性を著しく向上できる。一方で、特に比較例1~3の結果からわかるように、バリウム複合石けんが有機モリブデン化合物と併用されず、単独で添加剤として用いられた場合には、耐摩耗性の向上効果がみられない。
【0059】
なお、比較例13では、バリウム複合石けんを単独で増ちょう剤として用いている。比較例13では、2号のちょう度を得るため、バリウム複合石けんを7質量%を超えて多量に配合している。その結果、同一の基油を用い、同程度のちょう度とした実施例2、4、5、6、9、12および13と比較すると、比較例13では、見掛け粘度が著しく上昇している。一方で、比較例13のグリース組成物の耐摩耗性は、同量のMoDTC1を用いた実施例5と大差がない。以上より、バリウム複合石けんの含有量を7質量%以下とすることにより、十分な耐摩耗性を得つつ、粘度の上昇を抑制できることがわかる。したがって、本発明のグリース組成物は、高い耐荷重性および耐摩耗性に加え、グリース組成物の粘度の低さが求められる用途において特に有利である。また、バリウム複合石けんの使用量を低減できることから、本発明のグリース組成物は、コストの観点からも有利である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のグリース組成物は、減速機ギヤ、ボールねじおよび軸受等の荷重の大きい適用箇所の潤滑用途、特にトルクの低減が求められるボールねじ等の適用箇所の潤滑用途に好適に利用可能である。