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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054569
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】海藻類の色落ちの改善又は予防方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20240410BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
A01G33/02
A01G7/00 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160870
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】517414716
【氏名又は名称】株式会社アプロジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】内川 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】白石 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 嘉応
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭
【テーマコード(参考)】
2B022
2B026
【Fターム(参考)】
2B022AB20
2B022DA02
2B026AA01
2B026AC07
(57)【要約】
【課題】海藻類の海上又は陸上での養殖において、海藻類の色落ちの改善又はその発生の予防を効率よく行うことができる方法を提供すること。
【解決手段】海上又は陸上で養殖される海藻類の色落ちを改善又は予防する方法であって、前記海藻類に対して光を照射する明期工程と光を照射しない暗期工程とを1セットとして、24時間あたりのセットの数が2以上となるように前記明期工程及び前記暗期工程を繰り返し行い、1セットにおける明期工程の時間と前記暗期工程の時間との比率(明期:暗期)が1:10~10:1の範囲内であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上又は陸上で養殖される海藻類の色落ちを改善又は予防する方法であって、
前記海藻類に対して光を照射する明期工程と光を照射しない暗期工程とを1セットとして、24時間あたりのセットの数が2以上となるように前記明期工程及び前記暗期工程を繰り返し行い、
1セットにおける明期工程の時間と前記暗期工程の時間との比率(明期:暗期)が1:10~10:1の範囲内であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記1セットの時間が1~10時間の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記海藻類がアオサ、アオノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オオバアサクサノリ、ナラワスサビノリ、ウップルイノリ、コンブ、ワカメ、ヒジキ、アカモク、ホンダワラ、モズク、ダルス、イボノリ、ヒバマタ及びツノマタからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上又は陸上で養殖している海藻類の色落ちの改善又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻類の海上養殖においては、全国的に栄養素が不足する貧栄養化の問題が発生しており、例えば、貧栄養化による漁業生産の低下、磯焼け、藻場の減少等様々な問題が生じている。海藻類の色落ちの問題も貧栄養化が原因であり、栄養が不足した海藻類は色素を十分に作ることができず、色が薄くなって、品質を低下させる「色落ち」が生じることが知られている。この色落ちした海藻類は、味や見た目等の品質が著しく劣化して、単価が大幅に下落するという問題があった。海上養殖では、色落ちの発生を予防又は発生した色落ちを改善するため、硝安や硫安等を用いた施肥が全国的に行われている。
【0003】
そこで、養殖条件の管理がしやすい陸上養殖が知られている。この陸上養殖としては、例えば、イオン交換膜製塩において、イオン交換膜電気透析装置により生成する脱塩海水を用いて海藻陸上養殖することを特徴とする海藻養殖方法(特許文献1)、イオン交換膜製塩において、イオン交換膜電気透析装置により生成する脱塩海水を用いて海藻陸上養殖することを特徴とする海藻養殖方法(特許文献2)等が提案されている。
しかしながら、陸上養殖では、自然条件とは異なる環境であるため、栄養塩の濃度等を調整できるものの、色落ちの問題は発生しており、色落ちが発生すると栄養条件等を検討して対応している。
【0004】
養殖条件のうち光の照射条件については、太陽光線が照射される自然条件が参考にされている。例えば、特許文献1に記載の方法では明期/暗期=12時間/12時間(段落[0023])、特許文献2に記載の方法では明期/暗期=12時間/12時間(段落[0023])に調整されている。
また、光の照射条件については、光を照射する明期と前記光を照射しない暗期とを交互に繰り返す際に、各明期時間と各暗期時間の比率を(明期時間):(暗期時間)=1:1.4~1:5.0とすることを特徴とする紅藻類アマノリ属の養殖方法(特許文献3)が知られている。この特許文献3に記載の方法では、各明期時間と各暗期時間の比率を(明期時間):(暗期時間)=1:1.4~1:5.0の範囲で、24時間あたりで光照射を1回した後、光非照射を1回することを繰り返している(段落[0029]、[0031])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-13679号公報
【特許文献2】特開2010-213679号公報
【特許文献3】特開2021-36778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、海上又は陸上での養殖における海藻類の色落ちを改善又はその発生を予防するという課題について、鋭意検討したところ、24時間あたりの明期及び暗期のセット数を2セット以上にし、明期及び暗期の比率を特定の範囲に調整することで、色落ちを改善したり、その発生を予防したりすることができることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、海藻類の海上又は陸上での養殖において、海藻類の色落ちの改善又はその発生の予防を効率よく行うことができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、
[1]陸上又は海上で養殖される海藻類の色落ちを改善又は予防する方法であって、
前記海藻類に対して光を照射する明期工程と光を照射しない暗期工程とを1セットとして、24時間あたりのセットの数が2以上となるように前記明期工程及び前記暗期工程を繰り返し行い、
1セットにおける明期工程の時間と前記暗期工程の時間との比率(明期:暗期)が1:10~10:1の範囲内である
ことを特徴とする、方法、
[2]前記1セットの時間が1~10時間の範囲内である、前記[1]に記載の方法、
[3]前記海藻類がアオサ、アオノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オオバアサクサノリ、ナラワスサビノリ、ウップルイノリ、コンブ、ワカメ、ヒジキ、アカモク、ホンダワラ、モズク、ダルス、イボノリ、ヒバマタ及びツノマタからなる群より選ばれる1種以上を含む、前記[1]又は[2]に記載の方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を用いることで、海上又は陸上で養殖している海藻類の色落ちの改善又はその発生を予防して、高品質の海藻類を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法において、色落ちとは、海藻類の色素含有量が低下する現象をいう。
【0010】
本発明において、発生した色落ちの改善とは、商品レベルを超える程度まで悪化した色落ち症状を、商品化できる程度まで改善することをいう。
本発明において、色落ちの発生の予防とは、養殖中に海藻類が色落ちの発生を前もって防止することや、色素含有量の低下の程度を軽減することをいう。
本発明において、海藻類の色落ちの改善又はその発生の予防を、色落ちの改善又は予防と略する。
【0011】
本発明の方法は、海上の養殖場又は陸上にある槽内で実施する海藻類の養殖方法に関する。
【0012】
本発明において、海上の養殖場とは、人工の光を照射できる設備を備えた養殖場をいう。
例えば、海上の養殖場に、1カ所以上、照明手段が設置されている養殖場が挙げられる。
前記照明手段は、養殖場に設置されている海苔網に光が照射できるものであればよく、光源の種類、そのサイズ、光源の数、設置位置(海中又は海上、養殖場の周囲又は中央部)等については、特に限定はない。
【0013】
本発明の方法において、槽とは、陸上に設置された海藻類の養殖用槽をいう。
前記槽の形状、構造、大きさ、材質等については、養殖対象の海藻類の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定はない。
また、前記槽の設置場所については、明期、暗期の調整がしやすい屋内であっても、日光が当たる屋外であってもよい。
【0014】
前記槽内には、照明手段により光が照射される。前記照射手段については、海草類が光合成を行うことができる手段であればよい。使用する光の種類、波長、強度等については、養殖対象の海藻類の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定はない。
【0015】
本発明の方法において、例えば、室内に設置された、前記槽及び前記照明装置を備えた養殖装置を用いることができる。
【0016】
本発明の方法において、養殖対象の海藻類としては、アオサ、アオノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オオバアサクサノリ、ナラワスサビノリ、ウップルイノリ等の海苔類、コンブ、ワカメ、ヒジキ、アカモク、ホンダワラ、モズク、ダルス、イボノリ、ヒバマタ、ツノマタ等が挙げられる。これらの海藻類は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0017】
本発明の方法は、海上の養殖場又は陸上の槽内にある海藻類に対して光を照射する明期工程と光を照射しない暗期工程とを1セットとして、24時間あたりのセットの数が2以上となるように前記明期工程及び前記暗期工程を繰り返し行い、
1セットにおける明期工程の時間と前記暗期工程の時間との比率(明期:暗期)を1:10~10:1の範囲内に調整する
ことを特徴とする。
【0018】
本発明の方法では、前記明期及び前記暗期のセットの数について、24時間あたり、自然環境下であれば1セットであるのに対し、2セット以上になるようにする。
前記セットの数としては、海藻類の色落ちを改善又は予防する効果が得やすい観点から、24時間あたり、3~12セットが好ましい。
【0019】
前記1セットにおける明期工程の時間と前記暗期工程の時間との比率(明期:暗期)は、1:10~10:1の範囲に調整する。
前記明期と前記暗期との比率を前記範囲内になるように調整することで、養殖している海藻類の色落ちを改善又は予防する効果が得やすい。
前記比率は、1:5~5:1の範囲、1:2~2:1の範囲で調整してもよい。
例えば、海上養殖の場合、日の出から日の入りまでの明期と日の入りから数時間を暗期とする第1セット後に、照明手段で光を照射する明期:照射を止める暗期の比率を1:10~10:1の範囲に調整したセットを、次の日の出まで、1回以上繰り返す態様が挙げられる。
屋外での陸上養殖の場合も、前記の海上養殖の場合に準じて、前記比率を調整すればよい。
屋内での陸上養殖の場合、明期:暗期の比率を1:10~10:1の範囲に調整することや、セットの回数を調整することは適宜実施すればよい。
【0020】
前記セットの時間(セット時間ともいう)は、2~10時間の範囲内であればよい。
前記セット時間は、24時間あたりのセット回数を3回以上に調整しやすい観点から、2~7時間の範囲内が好ましい。
【0021】
本発明の方法では、繰り返す複数のセットにおいて、前記セット時間及び前記比率を同一にしてもよいし、セット毎に前記セット時間及び前記比率の一方又は両方を変更してもよい。
また、前記セット時間及び前記比率を変更する場合、ランダムに変更してもよいし、特定の条件を繰り返すようにしてもよい。
【0022】
本発明の方法において、前記のように、明期及び暗期が特定の範囲に調整されたセットを24時間あたり2回以上繰り返すことで、海藻類の色落ちが改善又は予防されるメカニズムの詳細については明らかではないが、光合成によるエネルギーの生産と細胞内組織の合成サイクルを早めることで色落ちの改善又は予防につながると考えられる。
【0023】
本発明の方法において、温度条件としては、養殖対象の海藻類の種類に応じて、その成長に好適な範囲に調整すればよく、特に限定はない。
【0024】
本発明の方法を実施する時期としては、海上又は陸上のいずれも、海藻類の育苗している最中~収穫が開始される前までに行えばよい。
【0025】
本発明の方法では、前記明期及び暗期の比率やセットの回数を調整する以外は、通常の海上養殖又は陸上養殖の手法に準じて、海藻類を養殖すればよい。
【0026】
例えば、陸上養殖において使用する養殖用水としては、天然海水、人工海水等、海藻類の陸上養殖に使用可能な海水であればよく、特に限定はない。
【0027】
前記養殖用水には、栄養成分、二酸化炭素等を添加する。
前記栄養成分としては、窒素成分、リン成分、カリ成分、有機酸類、アミノ酸類、ビタミン類、糖類、ミネラル等が挙げられる。
【0028】
前記窒素成分としては、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素等が挙げられる。
本発明の方法では、前記窒素成分を1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
前記リン成分としては、リン酸又はその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、有機リン酸(フィチン酸、グリセロリン酸、糖リン酸、重合リン酸としてメタリン酸、ポリリン酸等)又はその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。
【0030】
前記有機酸類としては、リンゴ酸、クエン酸、フマール酸、グルコン酸、マレイン酸、マロン酸、蟻酸、酒石酸、アクリル酸、クロトン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸等が挙げられる。
【0031】
前記アミノ酸類としては、グリシン、グルタミン酸、リジン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、アラニン、トリプトファン、スレオニン、ヒスチジン、アルギニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、プロリン、アスパラギン酸、タウリン等が挙げられる。
【0032】
前記ビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE等が挙げられる。
【0033】
前記糖類としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンニトール等が挙げられる。
【0034】
前記栄養成分等の濃度については、養殖対象の海藻類が好適に成長できる濃度であればよく、特に限定はない。
【0035】
前記栄養成分等を添加するタイミングとしては、特に限定はない。例えば、養殖中に適当な時間間隔で、継続的に添加してもよいし、尿素のような比較的持続性の高い窒素成分を用いる場合には、養殖開始に1度添加してくだけでもよい。
【0036】
本発明の方法における、養殖時間については、海草類の種類、状態等に応じて適宜決定すればよく、特に限定はない。
例えば、養殖は、色落ちした海藻類の葉色が所定の色まで改善するまで実施してもよいし、その海藻類が所定の重量、大きさに成長するまで実施してもよい。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
陸上養殖用の槽のかわりとして容器(商品名:マリンフラスコ、容量500mL)に、人工海水500mLを充填して、培養区水温18.0~19.0℃となるように調整した。
前記容器の上方向には、照明手段として白色LEDを配置して、照射光量70μmol、明期時間及び暗期時間をそれぞれ3時間となるように調整した(明期時間:暗期時間=1:1、セット時間6時間)。
次いで、海藻類として、海苔養殖現場で採取した色落ち海苔から半径5mmの切片を作製し、前記マリンフラスコ内に入れ、明期及び暗期を繰り返す養殖を4日間行った。
【0039】
(実施例2)
明期時間及び暗期時間を6時間(明期時間:暗期時間=1:1、セット時間:12時間)に調整した以外は、実施例1と同様にして海苔切片の養殖を行った。
【0040】
(比較例1)
明期時間及び暗期時間を12時間(明期時間:暗期時間=1:1、セット時間:24時間)に調整した以外は、実施例1と同様にして海苔切片の養殖を行った。
【0041】
(試験例1)
実施例1、2及び比較例1について、養殖開始前及び養殖終了後(3日後)に、海苔の一部をサンプリングしてSPAD値及びL値を測定した。また、その切片のサイズを養殖前後で測定して比較した。得られた結果を表1に示す。
【0042】
前記SPAD値は、海藻類の色落ちを判断する指標の一つであり、本発明ではSPAD 502(コニカミノルタ株式会社)を用いて測定した。
SPAD値が高いほど、クロロフィル量が多く、海藻類の色が良好であると判断できる。
【0043】
前記L値は、海藻類の色落ちを判断する指標の一つであり、本発明ではNF555(日本電色株式会社)を用いて測定した。
L値が低いほど明度が低く黒い海藻類であると判断できる。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の結果より、実施例1、2では、比較例1と比べて、養殖3日後のSPAD値が高く、L値は低かった。
前記葉のサイズについては、実施例1、2の場合、養殖後のサイズの成長率は、比較例1と比べて有意に大きかった。
【0046】
したがって、SPAD値及びL値の結果から、本発明の方法により、海藻類の色落ちが顕著に改善されることがわかる。
また、色落ちの症状がない海藻類に対しても、本発明の方法により、色落ちの発生を予防することができることがわかる。
また、葉のサイズの結果から、本発明の方法により、海藻類の成長を促進することもできることから、色落ちがなく、効率のよい養殖が実施でき、高品質の海藻類の生産が可能であることがわかる。