(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054574
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】転炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/34 20060101AFI20240410BHJP
C21C 1/04 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C21C5/34 A
C21C1/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160877
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼下 陽右
(72)【発明者】
【氏名】池野 鎮彦
(72)【発明者】
【氏名】内山 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】北尾 大樹
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA01
4K014AB03
4K014AC12
4K014AC14
4K014AC16
4K014BB01
4K014BC04
4K070AB02
4K070AC14
4K070BA06
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4K070BB04
4K070BB07
4K070BB08
4K070BC02
4K070BC04
4K070BD01
4K070BD02
4K070BD10
4K070BD13
4K070EA01
4K070EA03
4K070EA05
4K070EA09
(57)【要約】
【課題】酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業方法を提案する。
【解決手段】少なくとも酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業方法であって、溶銑に対し、吹錬初期に酸素ガスと50体積%超えの不活性ガスとを混合して底吹き羽口から供給する脱珪処理を含む、転炉の操業方法である。前記溶銑中のSi濃度が0.30質量%以上であること、底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量をCaOの供給速度、CaO滓化率、脱珪酸素効率、あらかじめ定めた脱珪処理時間化学量論的に溶銑中のSiを完全に酸化するのに必要な酸素量および底吹き羽口以外から供給された酸素ガスとしての供給流量から定めること、および、精錬用酸素を前記底吹き羽口からのみ供給することなどが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業方法であって、溶銑に対し、吹錬初期に酸素ガスと50体積%超えの不活性ガスとを混合して底吹き羽口から供給する脱珪処理を含む、転炉の操業方法。
【請求項2】
前記溶銑中のSi濃度が0.30質量%以上である、請求項1に記載の転炉の操業方法。
【請求項3】
前記底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量QB(O2)の上限値を、炉内に供給するCaOの供給速度S、CaO滓化率α、脱珪酸素効率βおよび底吹き羽口以外から供給する酸素ガスとしての供給流量QU(O2)から算出し、吹錬初期の脱珪処理を行う、請求項2に記載の転炉の操業方法。
【請求項4】
前記底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量QB(O2)の下限値を、あらかじめ定めた脱珪処理時間、化学量論的に溶銑中のSiを完全に酸化するのに必要な酸素量および底吹き羽口以外から供給する酸素ガスとしての供給流量QU(O2)から算出する、請求項3に記載の転炉の操業方法。
【請求項5】
精錬用酸素を前記底吹き羽口からのみ供給する、請求項1~4のいずれか1項に記載の転炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転炉において溶銑中のSiを酸化除去する脱珪処理では、転炉炉内の溶銑に造滓剤を添加しつつ、上吹きノズルや底吹き羽口から酸素供給し、必要に応じて底吹き羽口からの不活性ガス供給による溶銑撹拌を行う、そして、スラグの泡立ちによるスロッピングを抑止しながら吹錬を行っている(例えば特許文献1)。
【0003】
底吹き羽口から純酸素ガスを供給して脱珪処理を行う場合、従来は、溶銑静圧より高い底吹き内管羽口圧力を確保する底吹き内管純酸素ガス流量を吹き込んでいる。たとえば、非特許文献1には、底吹き羽口に溶鉄が侵入しない底吹きガスの下限の体積流量Q
min(Nm
3/min)を下記数式1で与えている。式中のNは底吹き羽口数であり、ρ
gは気体密度(kg/m
3)であり、ρ
lは溶鉄密度(kg/m
3)であり、Hは浴深さ(m)であり、dは羽口口径(m)である。
【数1】
それにより、吹錬初期の溶銑中Siの酸化によるSiO
2生成速度は純酸素ガス流量に依存して高くなる。そのため、造滓剤(CaO源)供給速度がSiO
2生成速度よりも遅い場合、低塩基度スラグを生成し、スロッピングが発生しやすい状況になる。一方、非特許文献1には、吹き抜けの生じない底吹きガスの上限の体積流量Q
max(Nm
3/min)を下記数式2で与えている。
【数2】
【0004】
酸素ガスに不活性ガスを混合する技術も開示されている。たとえば、特許文献2には上吹底吹き転炉の吹錬方法として、底吹き羽口から不活性ガスを供給し、上吹きランスより酸素に空気、窒素、アルゴン、水蒸気のうち少なくとも1種の希釈ガスを混合して脱炭を行う吹錬について開示されている。特許文献3には、微粒化された水滴を酸化性ガス及び/または不活性ガスと共に、溶鋼表面下の羽口から吹き込む鋼の溶製方法について開示されている。特許文献4には、脱珪脱燐処理した溶銑を上底吹き複合精錬吹錬するに際し、造滓剤を添加し、吹錬前半は事実上不活性のガスを50体積%以下で含む酸素ガスを底吹きする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04-214811号公報
【特許文献2】特開平06-033125号公報
【特許文献3】特開平06-033126号公報
【特許文献4】特開平06-158138号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】加藤嘉英、野崎努、中西 恭二、藤井徹也、江見俊彦:鉄と鋼、70(1984)3、pp380-387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に開示の技術では、溶銑脱珪処理において添加する造滓剤(CaO源)の供給速度を上げると、造滓剤原単位の増加を招き、精錬コストの増加に繋がる。そのため、SiO2生成速度を低減させることが課題となる。
【0008】
また、特許文献2や3に開示された技術は、吹錬末期の低炭素濃度領域に関する技術であり、吹錬初期の脱珪期に適用した場合の知見については、何ら開示がない。特許文献4に開示の技術は脱珪脱燐処理され、Si濃度が0.2質量%以下、P濃度が0.1質量%以下の溶銑を対象に吹錬初期の滓化促進を目的としている。Siを0.30質量%以上含む溶銑を脱珪処理する際のスロッピング抑制については、何ら開示がない。また、脱炭初期のCOガス多量発生期の二次燃焼の活用については触れられていない。
【0009】
非特許文献1に記載するように底吹き羽口から純酸素ガスを底吹きする場合、制御範囲は狭く、Qmin/Qmaxは0.58程度である。つまり、底吹きする純酸素ガスの流量を最大値の58%までしか下げることができない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、少なくとも酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業にあたりスロッピングを抑止する方法を提案することを目的とする。あわせて、脱炭初期の二次燃焼を有効活用する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる転炉の操業方法は、少なくとも酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業方法であって、溶銑に対し、吹錬初期に酸素ガスと50体積%超えの不活性ガスとを混合して底吹き羽口から供給する脱珪処理を含むことを特徴とする。
【0012】
なお、本発明にかかる転炉の操業方法は、
(a)前記溶銑中のSi濃度が0.30質量%以上であること、
(b)前記底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量QB(O2)の上限値を、炉内に供給するCaOの供給速度S、CaO滓化率α、脱珪酸素効率βおよび底吹き羽口以外から供給する酸素ガスとしての供給流量QU(O2)から算出し、吹錬初期の脱珪処理を行うこと、
(c)前記底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量QB(O2)の下限値を、あらかじめ定めた脱珪処理時間、化学量論的に溶銑中のSiを完全に酸化するのに必要な酸素量および底吹き羽口以外から供給された酸素ガスとしての供給流量QU(O2)から算出すること、
(d)精錬用酸素を前記底吹き羽口からのみ供給すること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる転炉の操業方法によれば、少なくとも酸素含有ガスを底吹きする転炉の操業にあたり、炉内溶銑静圧より高い圧力をもつ底吹き羽口ガス流量を吹き込みながら、希釈した酸素ガスを底吹きする。したがって、脱珪処理では、Siの急激な酸化を抑制し、スラグ塩基度の低下を抑止して、スロッピングの発生を抑止できる。あわせて、脱炭初期のCOの多量発生期間を延長し、炉内二次燃焼熱の有効期間を延長して、炉口地金の溶解等に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる転炉の操業方法を適用した脱珪処理の推移を示すグラフである。
【
図2】従来の転炉の操業方法にかかる脱珪処理の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
本実施形態にかかる転炉の操業方法は、酸素含有ガスを底吹きする機能を有する転炉を用いて、溶銑を脱珪処理する場合、脱珪・脱リン処理する場合、または、脱珪処理を含む脱炭精錬する場合に適用できる。上吹き酸素を吹き付ける機能を有していてもよい。
【0017】
本実施形態では、転炉への溶銑装入後底吹き羽口から酸素含有ガスを供給し、吹錬を開始する。酸素含有ガスは酸素と50体積%超えの不活性ガスとの混合ガスとする。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスやCO2ガスなど精錬に影響のないガス種が適用できる。この希釈吹錬は、たとえば、脱珪処理期に純酸素で吹錬したとき、供給した造滓剤の滓化速度よりSiO2生成速度が大きくなる場合に適用する。また、脱炭初期のCOガス多量発生期を延長して炉内二次燃焼熱の有効利用を活用するときに適用できる。ここで、脱珪処理期は、吹錬の開始から脱珪の終了、つまり、溶銑中Si濃度が0.01質量%になるまでの期間をいう。また、脱珪処理中のスラグ塩基度、つまり、質量基準でスラグ中のSiO2の濃度に対するCaOの濃度の比(以下、C/Sと略す)が2.7を下回るとスラグフォーミングによりスロッピングしやすい。また、SiO2の生成速度が大きい条件として、溶銑のSi濃度が0.30%以上の場合があげられる。
【0018】
50体積%超えの不活性ガスを混合した酸素含有ガスを底吹き羽口から供給とすることにより、上述したように、羽口内管のガス圧力を溶銑静圧以上としつつ、供給酸素流量を適切に下げることができる。
【0019】
純酸素ガスを底吹きする場合には、非特許文献1に記載の上記数式1および数式2により、最小および最大の供給酸素流量(体積流量)が求められる。発明者らは、不活性ガスにより酸素を希釈した混合ガスを底吹き羽口から供給する場合の適正なガス供給量について検討した。その結果、質量流量で整理することを見出した。底吹き羽口に吹き込むガスの質量流量をWM(kg/min)とすると、底吹き羽口1本あたり、
Qmin/N×32/22.4≦WM/N≦Qmax/N×32/22.4
の関係を見たすことが適正であると見出した。ここで、Nは底吹き羽口の本数である。
【0020】
上述の最小酸素ガス供給量Qminは、吹錬中に副原料を内管から吹き込むタイミングやガス流量を変更するタイミングでガス流量が設定値よりも上振れまたは、下振れが発生することから、下振れを考慮して設定するのが好ましい。シミュレーション結果から上述の下振れは最大2%発生している結果が得られたため、補正後の最小酸素ガス流量Q’min=Qmin×1.02として設定してもよい。
【0021】
なお、酸素含有ガス中の酸素ガスと不活性ガスとの割合の下限は、吹錬条件によって任意に設定することができる。たとえば、底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量QB(O2){Nm3/(min・t-溶銑)}を、あらかじめ定めた脱珪処理時間、化学量論的に溶銑中のSiを完全に酸化するのに必要な酸素量および底吹き羽口以外から供給する酸素ガスとしての供給流量QU(O2)から算出してもよい。
【0022】
底吹き羽口から供給する酸素ガスとしての供給流量QB(O2){Nm3/(min・t-溶銑)}は以下のようにして定めることが好ましい。造滓剤(CaO源)中のCaO滓化速度{kg/(min・t-溶銑)}を造滓剤中CaO投入速度{kg/(min・t-溶銑)}×滓化率α(%)×0.01とする。造滓剤は転炉上部から供給しても、底吹き羽口から供給しても良い。造滓剤を転炉上部から供給する場合の造滓剤中CaO投入速度は、供給した造滓剤量を、造滓剤添加からCaOの滓化率が所定の値となるまでに必要となる時間で除することで求まる。SiO2生成速度{kg/(min・t-溶銑)}を羽口内管酸素ガス流量QB(O2)×脱珪酸素効率β(%)×0.01/22.4×60とする。また、底吹き羽口以外から供給された精錬に寄与する酸素ガスとしての供給流量をQU(O2){Nm3/(min・t-溶銑)}とする。ここで、精錬に寄与するとは、炉内二次燃焼に使われる酸素を含まないことを意味する。CaOの滓化率αは、投入したCaOのうち、CaO単独の固体として残存する以外のCaOとして、スラグ分析によって決定できる。脱珪酸素効率βは、投入した酸素量のうち、SiO2の生成に寄与した酸素量の百分率である。
QB(O2)≦S×α/β×22.4/60-QU(O2) (1)
【0023】
本実施形態は、底吹き羽口からのみ酸素含有ガスを供給する場合に適用して好適である。
【実施例0024】
340t規模の酸素底吹き転炉を用い、吹錬の初期に本実施形態を適用した転炉の操業例(発明例)を
図1に示す。吹錬期間中純酸素を底吹きした例(従来例)を
図2に示す。転炉装入時の溶銑中Si濃度は0.35mass%であった。溶銑中のSi濃度が0.01mass%を下回ったときに脱珪処理が終了したと判定した。造滓剤はCaO原単位で17.0kg/t-溶銑を前置き装入し、吹錬開始3分後に2.5kg/t-溶銑を、同4分後に5.0kg/t-溶銑を、同5分後に0.4kg/t-溶銑を追加で添加した。造滓剤のCaO滓化率α=75%と置いた。脱珪酸素効率β=50%と置いた。造滓剤添加から造滓剤のCaO滓化率α=75%となるまでに必要な時間は8.3分であり、造滓剤中CaO投入速度は、吹錬開始5分後が最も高く、3.0{kg/(min・t-溶銑)}であった。式(1)から求まるQ
B(O
2)の上限値は、吹錬開始5分後が最も高く、1.68{Nm
3/(min・t-溶銑)}となる。
【0025】
発明例の希釈吹錬中には底吹き羽口から酸素供給量をQB(O2)=1.04{Nm3/(min・t-溶銑)}とし、不活性ガスとしての窒素供給量をQB(N2)=1.38{Nm3/(min・t-溶銑)}とした。従来例の吹錬中は、底吹き羽口から酸素供給量をQB(O2)=2.21{Nm3/(min・t-溶銑)}とした。底吹きガスは本底吹き転炉の場合、底吹き羽口あたりの質量流量で、45.9≦WM/N≦79.5{kg/(min・本)}が適切であった。
【0026】
図1に示す発明例では、脱珪処理期は約7分半である。吹錬初期に酸素供給量を低減することにより、SiO
2生成速度を低減することができ、スラグ塩基度の低下速度を低減できた。それに伴い、脱珪処理期におけるスラグ塩基度C/Sの推移は2.7を下回ることはなかった。したがって、吹錬初期にスロッピングが発生する懸念なく脱珪処理できる。
【0027】
図2に示す従来例では、脱珪処理期は約4分である。吹錬初期にSiO
2生成速度が速く、吹錬開始2分~3分でスラグ塩基度が2.7を下回った。そのため、スロッピングの発生が懸念される。
【0028】
本明細書中、質量の単位である「t」は103kgを表す。体積の単位に付する記号「N」は標準状態、つまり、温度0℃、圧力101325Paの状態を表す。
本発明の転炉の操業方法によれば、酸素含有ガスを底吹きするにあたり、吹錬初期に適切な酸素供給量とすることができるので、スロッピングを防止し、二次燃焼熱を有効利用できる。したがって、操業の安定性が図れ、生産性が向上するので、産業上有用である。