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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054585
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】シミュレーションシステム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/08 20240101AFI20240410BHJP
【FI】
G06Q10/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160898
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】種田 光佑
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA16
5L049AA16
(57)【要約】
【課題】実運用に近い環境下でシミュレーションを行うことが可能な物流シミュレーションシステムを提供する。
【解決手段】シミュレーションシステム1は、体験者Hが仮想空間R内で荷物2の取扱い作業を行う。シミュレーションシステム1は、仮想空間Rを制御するコンピュータ50を備える。コンピュータ50は、体験者Hの動作に関する動作情報を取得する取得部51と、動作情報に基づいて体験者Hの動作を仮想空間R内において再現する再現部52と、条件パラメータに基づいて動作値の許容範囲を設定する設定部53と、仮想空間R内において再現部52で再現された体験者Hの動作による取扱い作業の動作値が、設定部53で設定された許容範囲外か否かを判定する判定部54と、を有する。コンピュータ50は、判定部54の判定結果に応じて、仮想空間R内の取扱い作業を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体験者が仮想空間内で荷物の取扱い作業を行うシミュレーションシステムであって、
前記仮想空間を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記体験者の動作に関する動作情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記動作情報に基づいて、前記体験者の動作を前記仮想空間内において再現する再現部と、
前記取扱い作業の作業条件に関する条件パラメータに基づいて、前記取扱い作業の動作に関する動作値の許容範囲を設定する設定部と、
前記仮想空間内において前記再現部で再現された前記体験者の動作による前記取扱い作業の前記動作値が、前記設定部で設定された前記許容範囲外か否かを判定する判定部と、を有し、
前記判定部の判定結果に応じて、前記仮想空間内の前記取扱い作業及び前記体験者への報知の少なくとも何れかを制御する、シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記動作値は、前記荷物の移動速度、前記荷物の移動範囲、同時に取り扱う前記荷物の個数、及び、一の前記荷物において掴まれる箇所の個数の少なくとも何れかを含む、請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記判定部により前記動作値が前記許容範囲外であると判定された場合、前記仮想空間内の前記取扱い作業を失敗させる、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記仮想空間内の前記取扱い作業を失敗させる失敗確率が設定可能とされ、
前記失敗確率に基づいて、前記仮想空間内の前記取扱い作業を失敗させる、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記仮想空間内の前記体験者の視野画像を表示部に表示させる表示制御部を有し、
前記表示制御部は、前記動作値に含まれる前記荷物の移動範囲の前記許容範囲を、前記視野画像上に表示させる、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項6】
前記表示部は、ヘッドマウントディスプレイ又はプロジェクターである、請求項5に記載のシミュレーションシステム。
【請求項7】
前記条件パラメータは、作業環境の温度に関するパラメータを含む、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項8】
前記条件パラメータは、前記荷物の重量に関するパラメータ、及び、前記荷物の大きさに関するパラメータの少なくとも何れかを含む、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項9】
前記条件パラメータは、前記荷物の壊れやすさに関するパラメータを含む、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項10】
前記条件パラメータは、前記体験者の習熟度に関するパラメータ、前記取扱い作業の繰返し回数に関するパラメータ、及び、作業開始からの経過時間に関するパラメータの少なくとも何れかを含む、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項11】
前記取扱い作業は、前記荷物を取り出す作業である、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項12】
前記動作値の許容範囲は、予め取得された基準値に基づいて設定される、請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
体験者が仮想空間内で荷物の取扱い作業を行うシミュレーションシステムが知られている。例えば特許文献1には、ピッキングステーションを仮想空間内に3次元で表現する仮想空間作成部と、ヘッドマウントディスプレイを装着した作業者が仮想空間内のピッキングステーションにおいてピッキング作業(取扱い作業)にかかった時間を計測する計測部と、ピッキング作業にかかった時間に基づいてピッキングステーションの処理能力を算出する算出部と、を備えたシミュレーションシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-61305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなシミュレーションシステムでは、例えば、取扱い作業の作業環境、荷物の重さ、作業開始からの経過時間等の作業条件が十分に考慮されていないことから、作業条件によっては取扱い作業を再現できない可能性がある。例えば低温の作業環境で重い荷物を取り扱う取扱い作業の場合、実際の作業時間とシミュレーションシステム上の作業時間との間で、許容できない乖離が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、様々な作業条件での取扱い作業を再現することが可能なシミュレーションシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るシミュレーションシステムは、体験者が仮想空間内で荷物の取扱い作業を行うシミュレーションシステムであって、仮想空間を制御する制御部を備え、制御部は、体験者の動作に関する動作情報を取得する取得部と、取得部により取得された動作情報に基づいて、体験者の動作を仮想空間内において再現する再現部と、取扱い作業の作業条件に関する条件パラメータに基づいて、取扱い作業の動作に関する動作値の許容範囲を設定する設定部と、仮想空間内において再現部で再現された体験者の動作による取扱い作業の動作値が、設定部で設定された許容範囲外か否かを判定する判定部と、を有し、判定部の判定結果に応じて、仮想空間内の取扱い作業及び体験者への報知の少なくとも何れかを制御する。
【0007】
このシミュレーションシステムでは、仮想空間内において、体験者の実際の動作が再現され、再現された動作により取扱い作業が実現される。このとき、仮想空間内の当該取扱い作業の動作値が、作業条件に関する条件パラメータに基づく許容範囲外か否かが判定され、その判定結果に応じて仮想空間内の当該取扱い作業及び体験者への報知の少なくとも何れかが制御される。これにより、例えば体験者は、取扱い作業の作業条件によっては、動作に制限が生じて意図したとおりに動作できないことを体感することが可能となる。その結果、動作値が許容範囲内になるように体験者の実際の動作を促し、これにより、仮想空間内で再現する体験者の動作に取扱い作業の作業条件を反映させることが可能となる。したがって、様々な作業条件での取扱い作業を再現することが可能となる。
【0008】
(2)上記(1)に記載のシミュレーションシステムでは、動作値は、荷物の移動速度、荷物の移動範囲、同時に取り扱う荷物の個数、及び、一の荷物において掴まれる箇所の個数の少なくとも何れかを含んでいてもよい。これにより、仮想空間内で実環境に近い荷物の動きが再現可能になる。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)に記載のシミュレーションシステムでは、制御部は、判定部により動作値が許容範囲外であると判定された場合、仮想空間内の取扱い作業を失敗させてもよい。これにより、仮想空間内において取扱い作業を失敗しないように体験者の実際の動作を促すことができる。
【0010】
(4)上記(1)~(3)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、制御部は、仮想空間内の取扱い作業を失敗させる失敗確率が設定可能とされ、失敗確率に基づいて、仮想空間内の取扱い作業を失敗させてもよい。この場合、例えば取扱い作業の繰返し回数に比例して大きくなるように失敗確率を設定することで、仮想空間内において体験者の疲労による作業ミスを再現することが可能となる。
【0011】
(5)上記(1)~(4)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、制御部は、仮想空間内の体験者の視野画像を表示部に表示させる表示制御部を有し、表示制御部は、動作値に含まれる荷物の移動範囲の許容範囲を、視野画像上に表示させてもよい。この場合、視野画像上の表示を利用して、荷物の移動範囲が許容範囲内になるように体験者の実際の動作を促すことができる。
【0012】
(6)上記(5)に記載の本発明に係るシミュレーションシステムでは、表示部は、ヘッドマウントディスプレイ又はプロジェクターであってもよい。この場合、ヘッドマウントディスプレイ又はプロジェクターを利用して、仮想空間内における体験者の視野画像を表示することが可能となる。
【0013】
(7)上記(1)~(6)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、条件パラメータは、作業環境の温度に関するパラメータを含んでいてもよい。この場合、取扱い作業の作業条件を具体的に反映することが可能となる。
【0014】
(8)上記(1)~(7)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、条件パラメータは、荷物の重量に関するパラメータ、及び、荷物の大きさに関するパラメータの少なくとも何れかを含んでいてもよい。この場合、取扱い作業の作業条件を具体的に反映することが可能となる。
【0015】
(9)上記(1)~(8)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、条件パラメータは、荷物の壊れやすさに関するパラメータを含んでいてもよい。この場合、取扱い作業の作業条件を具体的に反映することが可能となる。
【0016】
(10)上記(1)~(9)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、条件パラメータは、体験者の習熟度に関するパラメータ、取扱い作業の繰返し回数に関するパラメータ、及び、作業開始からの経過時間に関するパラメータの少なくとも何れかを含んでいてもよい。この場合、取扱い作業の作業条件を具体的に反映することが可能となる。
【0017】
(11)上記(1)~(10)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、取扱い作業は、荷物を取り出す作業であってもよい。これにより、荷物を取り出す作業のシミュレートが可能となる。(12)上記(1)~(11)の何れか一項に記載のシミュレーションシステムでは、動作値の許容範囲は、予め取得された基準値に基づいて設定されてもよい。この場合、予め取得された基準値を利用して、動作値の許容範囲を具体的に設定可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、様々な作業条件での取扱い作業を再現することが可能なシミュレーションシステムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、一実施形態に係るシミュレーションシステムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1のシミュレーションシステムの使用例を示す模式図である。
図3図3は、仮想空間の表示例を示す図である。
図4図4は、条件パラメータと動作値の許容範囲との関係に関するデータテーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1図2及び図3に示されるように、シミュレーションシステム1は、VR(Virtual Reality)技術を利用した物流施設のシミュレーションシステムである。例えばシミュレーションシステム1は、物流施設の仮想空間R内において、作業者等の体験者Hが荷物2の取扱い作業を行うシステムである。取扱い作業は、例えば、荷物2を箱等から取り出すピッキング作業、荷物2を箱等へ収める収納作業、荷物2を運ぶ運搬作業、荷物2を移載する移載作業等である。取扱い作業は、特に限定されず、荷物2を取り扱う作業であればよい。仮想空間R内の体験者Hは、アバターとも称される。
【0022】
シミュレーションシステム1は、コンピュータ50、ヘッドマウントディスプレイ60及び入力デバイス70を備える。コンピュータ50は、プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(RandomAccess Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体、CPU(Central Processing Unit)、及び、無線LAN等の通信回路等を有するパーソナルコンピュータにより構成されていてもよい。
【0023】
コンピュータ50は、例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されるソフトウェアを含む。コンピュータ50は、電子回路等によるハードウェアとして構成されてもよい。コンピュータ50は、一つの装置で構成されてもよいし、複数の装置で構成されてもよい。複数の装置で構成されている場合には、これらがインターネット又はイントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つのコンピュータ50が構築される。コンピュータ50は、各種の情報を表示可能なモニターを有する。コンピュータ50は、制御部を構成する。
【0024】
コンピュータ50は、物流施設の仮想空間Rを生成する。仮想空間Rの生成手法は特に限定されず、公知の種々の手法を用いることができる。例えばコンピュータ50は、360°カメラによる物流施設の撮影画像に基づいて、仮想空間Rを生成してもよい。或いは、例えばコンピュータ50は、物流施設の3次元CADデータに基づいて、仮想空間Rを生成してもよい。仮想空間Rは、物流施設の構造物及び機器等に対応する各種の仮想オブジェクトを含む。コンピュータ50は、体験者Hを仮想空間Rに投影する。コンピュータ50は、仮想空間Rを少なくとも制御する。
【0025】
ヘッドマウントディスプレイ60は、体験者Hの眼を覆うようにして体験者Hの頭部に装着されるウェアラブル端末である。ヘッドマウントディスプレイ60は、装着している体験者Hに対して仮想空間Rを出力する。具体的には、ヘッドマウントディスプレイ60は、コンピュータ50から仮想空間Rに関する情報を受信し、当該仮想空間R内における体験者Hの視野画像65(つまり、仮想空間R内のアバターの視覚を通じて得られる状況)を表示する。ヘッドマウントディスプレイ60は、音声を出力する。ヘッドマウントディスプレイ60は特に限定されず、種々のタイプのヘッドマウントディスプレイを用いてもよい。ヘッドマウントディスプレイ60は、ゴーグル型及びメガネ型の何れであってもよい。ヘッドマウントディスプレイ60は表示部を構成する。
【0026】
ここでのヘッドマウントディスプレイ60では、インサイドアウト方式が採用されており、ヘッドマウントディスプレイ60自体に搭載されている各種センサの検知結果に基づいて、体験者Hに関する情報である体験者情報(例えば、体験者Hの姿勢、位置、動き、ジェスチャー、声、生体データ、視線及び向きの少なくとも何れかに関する情報)を取得する。すなわち、ヘッドマウントディスプレイ60は、それを装着している体験者Hからの各種の入力(体験者情報)を受け付ける機能を有する。ここでのヘッドマウントディスプレイ60は、仮想空間R内で取扱い作業を実行させる入力を、体験者Hから受付け可能である。ヘッドマウントディスプレイ60は、受け付けた入力をコンピュータ50に出力する。
【0027】
入力デバイス70は、体験者Hからの各種の入力を受け付ける端末である。入力デバイス70は、例えば、体験者Hに把持されるデバイスである。ここでの入力デバイス70は、仮想空間R内で取扱い作業を実行させる入力を、体験者Hから受付け可能である。入力デバイス70は、受け付けた入力をコンピュータ50に出力する。入力デバイス70は特に限定されず、種々のタイプのデバイスを用いてもよい。
【0028】
このようなシミュレーションシステム1を使用する場合、体験者Hは、例えば、所定の室内エリア80内において、ヘッドマウントディスプレイ60を装着すると共に、入力デバイス70を把持し、シミュレーションを開始する。コンピュータ50により、仮想空間Rが生成され、体験者Hが仮想空間R内に投影され、仮想空間R内の体験者Hの視野画像65がヘッドマウントディスプレイ60上に表示される。これにより、体験者Hは、仮想空間R内に没入し、仮想空間Rにおいて手5により荷物2を取り扱う取扱い作業を体感することができる。
【0029】
次に、本実施形態のシミュレーションシステム1の要部について説明する。
【0030】
本実施形態のコンピュータ50は、仮想空間R内における体験者Hによる荷物2の取扱い作業について、現実に即した動きが再現されるように制御する。以下、具体的に説明する。
【0031】
コンピュータ50は、取得部51、再現部52、設定部53、判定部54及び表示制御部55を有する。取得部51は、ヘッドマウントディスプレイ60及び入力デバイス70で受け付けた各種の入力に基づいて、体験者Hの動作に関する動作情報を取得する。動作情報は、例えば、体験者Hの身体の各部位の位置及び速度に関する情報を含んでいてもよい。動作情報は特に限定されず、種々の情報を含んでいてもよい。再現部52は、取得部51により取得された動作情報に基づいて、体験者Hの動作を仮想空間R内において再現する。再現部52による再現手法は、特に限定されず、公知の手法を用いることができる。
【0032】
設定部53は、取扱い作業の作業条件の条件パラメータ(以下、単に「条件パラメータ」という)に基づいて、取扱い作業の動作に関する動作値(以下、単に「動作値」という)の許容範囲を設定する。条件パラメータは、作業環境の温度に関するパラメータ、荷物2の重量に関するパラメータ、荷物2の大きさに関するパラメータ、荷物2の壊れやすさに関するパラメータ、体験者Hの習熟度に関するパラメータ、及び、取扱い作業の作業開始からの経過時間に関するパラメータを含む。許容範囲は、閾値とも称される。
【0033】
一例として、作業環境の温度に関するパラメータは、予め定められた通常温度域に作業環境の温度(例えば最低温度、最高温度又は平均温度)がある場合の「通常」と、通常温度域よりも作業環境が低い場合の「低温」と、当該低温よりも作業環境温度が低い場合の「冷凍」と、の3段階で表される。荷物2の大きさに関するパラメータは、予め定められた通常重量域に荷物2の重量がある場合の「標準」と、通常重量域よりも荷物2の重量が重いときの「重い」と、通常重量域よりも荷物2の重量が軽い場合の「軽い」と、の3段階で表される。
【0034】
荷物2の壊れやすさに関するパラメータは、荷物2の壊れやすさ(耐久性)が標準的な場合の「標準」と、当該標準よりも荷物2が壊れやすい場合の「壊れやすい」と、当該標準よりも荷物2が壊れにくい場合の「壊れにくい」と、の3段階で表される。壊れやすさは、種々の一般的な測定方法を利用して評価してもよい。体験者Hの習熟度に関するパラメータは、体験者Hの取扱い作業に関する習熟の度合いが標準的な場合の「標準」と、当該標準よりも体験者Hの習熟の度合いが高い場合の「高い」と、当該標準よりも体験者Hの習熟の度合いが低い場合の「低い」と、の3段階で表される。
【0035】
取扱い作業の作業開始からの経過時間に関するパラメータは、予め定められた通常経過時間域に当該経過時間がある場合の「通常」と、当該経過時間が通常経過時間域よりも長い場合の「長い」と、当該経過時間が通常経過時間よりも短い場合の「短い」と、の3段階で表される。取扱い作業の作業開始からの経過時間は、体験者Hの疲労度と同様に扱うことができる。取扱い作業の作業開始からの経過時間とともに疲労度が高くなり、荷物2の移動速度は遅くなる。
【0036】
このような条件パラメータは特に限定されず、その他のパラメータであってもよい。条件パラメータは、2段階又は4段階以上で表されてもよいし、数値で表されてもよい。条件パラメータは、取扱い作業の繰返し回数に関するパラメータを含んでいてもよい。取扱い作業の繰返し回数に関するパラメータは、予め定められた通常繰返し回数に当該繰返し回数がある場合の「通常」と、当該繰返し回数が通常繰返し回数よりも多い場合の「多い」と、当該繰返し回数が通常繰返し回数よりも少ない場合の「少ない」と、により表されてもよい。条件パラメータは、例えば、コンピュータ50に対するユーザ(体験者Hを含む)からの入力、記憶媒体からの入力、及び、外部からの通信等により取得してもよい。条件パラメータは、コンピュータ50に予め記憶されていてもよい。
【0037】
動作値は、荷物2の移動速度、荷物2の移動範囲、同時に取り扱う荷物2の個数、及び、一の荷物2において掴まれる箇所の個数を含む。荷物2の移動範囲は、三次元状に拡がる範囲である。一の荷物2において掴まれる箇所の個数は、例えば、1つの荷物2を1人の体験者Hが両手で持つ場合には2箇所であり、1つの荷物2を1人の体験者Hが片手で持つ場合には1箇所であり、1つの荷物2を2人の体験者Hがともに両手で持つ場合には4箇所である。一の荷物2において掴まれる箇所の個数は、支持条件に対応する。このような動作値は特に限定されず、その他のパラメータであってもよい。
【0038】
本実施形態の設定部53は、予め設定されたデータテーブルを参照し、動作値の許容範囲を条件パラメータから求めて設定する。データテーブルは、予めコンピュータ50に記憶されていてもよい。図4に示されるデータテーブルでは、各条件パラメータに対応して各動作値が設定されている。動作値の中の移動速度及び移動範囲の許容範囲は、予め取得された基準値に基づいて設定される。動作値の中の移動速度及び移動範囲の許容範囲は、基準値に対するパーセントで設定されている。基準値は、コンピュータ50に予め設定されていてもよい。基準値は、動作値の基準となる値である。例えば、基準となる実際の荷物(荷物2の重さ及び大きさと同等の実際の荷物)を用意し、当該実際の荷物に入力デバイス70を固定し、当該実際の荷物を対象に実環境においてユーザが取扱い作業を実際に行うことで、基準値を取得してもよい。
【0039】
設定部53は、各動作値について、条件パラメータ毎に得られた複数の許容範囲が異なる場合、これらのうちの最も値が小さい何れかを許容範囲に設定する。なお、設定部53は、動作値の中の移動速度及び移動範囲については、条件パラメータ毎に得られた複数の許容範囲を全て掛け合わせ、それと基準値とを更に掛け合わせることで、許容範囲を設定してもよい。図4のデータテーブルの各値は一例であり、その他の値であってもよい。
【0040】
例えば、図4のデータテーブルを用いて、動作値の一つである移動速度の許容範囲を設定する場合には、設定部53は次の処理を実行する。ここでは、条件パラメータは、例えば、作業環境温度が「低温」、荷物2の重量が「標準」、大きさが「大きい」、壊れやすさが「標準」、習熟度が「高い」、及び、経過時間が「標準」である場合の例を説明する。移動速度の基準値は、0.1m/sとする。この場合、図4のデータテーブルから複数の許容範囲として、「80%」、「80%」及び「110%」が得られる。そして、基準値である0.1m/sに、最も小さい「80%」を掛け合わせることで、移動速度の許容範囲として「0.08m/s」を得ることができる。
【0041】
判定部54は、仮想空間R内において再現部52で再現された体験者Hの動作による取扱い作業の動作値を求める。判定部54は、仮想空間R内において再現された当該動作値が、設定部53で設定された許容範囲外か否かを判定する。表示制御部55は、仮想空間R内の体験者Hの視野画像をヘッドマウントディスプレイ60に表示させる。表示制御部55は、動作値に含まれる荷物2の移動範囲の許容範囲MDを、視野画像65上に表示させる(図3参照)。
【0042】
コンピュータ50は、判定部54の判定結果に応じて、仮想空間R内の取扱い作業を制御する。コンピュータ50は、判定部54により動作値が許容範囲外であると判定された場合、仮想空間R内の取扱い作業を失敗させる。仮想空間R内の取扱い作業を失敗させる態様としては、例えば、仮想空間R内において体験者Hの手5から荷物2を落下させる態様が挙げられる。仮想空間R内の取扱い作業を失敗させる態様は、特に限定されず、その他の態様であってもよく、作業ミスと判断されるような種々の態様であってもよい。
【0043】
例えば、仮想空間R内において再現部52で再現された体験者Hの動作について、その動作値である移動速度が0.1m/sであった場合、移動速度の許容範囲が「0.08m/s」であることから、判定部54により動作値が許容範囲外と判定され、仮想空間R内において体験者Hの手5から荷物2が落下させられる(取扱い作業失敗)。一方、仮想空間R内において再現部52で再現された体験者Hの動作について、その動作値である移動速度が0.05m/sであった場合、移動速度の許容範囲が「0.08m/s」であることから、判定部54により動作値が許容範囲外と判定されず、そのまま仮想空間R内において取扱い作業が継続される。
【0044】
以上、シミュレーションシステム1では、仮想空間R内において、体験者Hの実際の動作が再現され、再現された動作により取扱い作業が実現される。このとき、仮想空間R内の当該取扱い作業の動作値が、条件パラメータに基づき設定された許容範囲外か否かが判定され、その判定結果に応じて仮想空間R内の当該取扱い作業が制御される。これにより、例えば体験者Hは、取扱い作業の作業条件によっては、動作に制限が生じて意図したとおりに動作できないことを体感することが可能となる。その結果、動作値が許容範囲内になるように体験者Hの実際の動作を促し、これにより、仮想空間R内で再現する体験者Hの動作に取扱い作業の作業条件を反映させることが可能となる。したがって、様々な作業条件での取扱い作業を再現することが可能となる。
【0045】
シミュレーションシステム1では、動作値は、荷物2の移動速度、荷物2の移動範囲、同時に取り扱う荷物2の個数、及び、一の荷物2において掴まれる箇所の個数を含む。これにより、仮想空間R内で実環境に近い荷物2の動きが再現可能になる。
【0046】
シミュレーションシステム1では、コンピュータ50は、判定部54により動作値が許容範囲外であると判定された場合、仮想空間R内の体験者Hの取扱い作業を失敗させる。これにより、仮想空間R内において取扱い作業を失敗しないように体験者Hの実際の動作を促すことができる。
【0047】
シミュレーションシステム1では、コンピュータ50は、仮想空間R内の体験者Hの視野画像をヘッドマウントディスプレイ60に表示させる表示制御部55を有する。表示制御部55は、動作値に含まれる荷物2の移動範囲の許容範囲MDを、視野画像65上に表示させる。この場合、視野画像65上の表示を利用して、荷物2の移動範囲が許容範囲内になるように体験者Hの動作を促すことができる。
【0048】
シミュレーションシステム1では、表示部は、ヘッドマウントディスプレイである。
この場合、ヘッドマウントディスプレイを利用して、仮想空間R内における体験者Hの視野画像を表示することが可能となる。
【0049】
シミュレーションシステム1では、条件パラメータは、作業環境の温度に関するパラメータ、荷物2の重量に関するパラメータ、荷物2の大きさに関するパラメータ、荷物2の壊れやすさに関するパラメータ、体験者Hの習熟度に関するパラメータ、及び、作業開始からの経過時間に関するパラメータを含む。これにより、取扱い作業の作業条件を具体的に反映することが可能となる。
【0050】
シミュレーションシステム1では、動作値の中の移動速度及び移動範囲の許容範囲は、予め取得された基準値に基づいて設定される。この場合、予め取得された基準値を利用して、移動速度及び移動範囲の許容範囲を具体的に設定可能となる。シミュレーションシステム1では、取扱い作業は、荷物2を取り出す作業であってもよい。これにより、荷物2を取り出す作業又は荷物2を収める作業のシミュレートが可能となる。
【0051】
なお、シミュレーションシステム1では、以下の効果も奏される。すなわち、仮想空間R内で感じる作業負担が少ないために作業見積もりを誤ってしまうことを防ぐ効果が期待できる。例えば、作業環境温度が「低温」で荷物2の重さが「重い」場合の取扱い作業について、実環境の作業では作業時間が50秒であるのに対して、シミュレーションシステム上では作業時間が30秒と乖離するのを回避することが可能となる。
【0052】
一般的に、作業条件をシミュレーションに考慮する場合、仮想空間R内の動作を補正すること(例えば移動速度を実環境よりも遅くすること)が考えられる。しかしこの場合、実環境と仮想空間Rとで動きが一致しなくなるおそれがある。これに対して、シミュレーションシステム1では、実環境と仮想空間Rとで動きが一致する(仮想空間R内での動作が成功する)ように、体験者Hに実際の動作を抑えてもらうことができる。
【0053】
仮想空間R内の体験者Hの動きに制限を掛けることで、想定よりも負荷が高くなることを体感でき、仮想空間R内で現実に即した動きを再現することができ、実環境により近い事前検証が可能となる。例えば、冷凍環境では、仮想空間R内での移動速度に制限をかけることができ、作業環境温度によっては思うように体を動かせなくなることを体感できる。重い荷物2を運ぶ場合には、仮想空間R内において持てる個数及び持ち上げられる高さ(移動範囲)に制限をかけることができ、荷物2の状態によって動作が制限されることを体感できる。繰返し作業を行うには、仮想空間Rにおいて段々と動作が緩慢になるように制限をかけることができ、作業時間経過(疲労)による作業効率の低下を体感できる。体験者Hに負荷を与える装置が不要で、作業環境に合わせたパラメータの検証が可能となる。シミュレーションシステム1では、条件パラメータは、取扱い作業の繰返し回数に関するパラメータを含んでいてもよい。これにより、取扱い作業の作業条件を具体的に反映することが可能となる。
【0054】
以上、実施形態について説明したが、本発明の一態様は、上記実施形態に限られない。
【0055】
上記実施形態において、許容範囲の対象となる動作値は、複数でもよいし、1つのみでもよい。例えば図4に示されるデータテーブルでは、条件パラメータの作業環境温度が「冷凍」である場合には、基準値の60%の移動速度と基準値の80%の移動範囲とを許容範囲とするが、これに限られず、基準値の60%の移動速度のみを許容範囲としてもよい。
【0056】
上記実施形態では、コンピュータ50は、判定部54の判定結果に応じて、仮想空間R内の当該取扱い作業を制御している(当該取扱い作業を失敗させている)が、これに限定されない。コンピュータ50は、判定部54の判定結果に応じて体験者Hへの報知を制御してもよい。例えばコンピュータ50は、判定部54により動作値が許容範囲外であると判定した場合に、その旨の報知(警告等を含む)をヘッドマウントディスプレイ60を介して体験者Hへ出力させてもよい。
【0057】
上記実施形態では、コンピュータ50は、仮想空間R内の取扱い作業を失敗させる失敗確率が設定可能とされ、失敗確率に基づいて仮想空間R内の体験者Hの取扱い作業を失敗させてもよい。この場合、例えば取扱い作業の繰返し回数又は経過時間に比例して大きくなるように失敗確率を設定することで、仮想空間R内において体験者Hの疲労による作業ミスを再現することが可能となる。
【0058】
上記実施形態は、仮想空間Rを出力する出力部として、ヘッドマウントディスプレイ60を備えているが、出力部は特に限定されない。出力部は、プロジェクターであってもよいし、その他の環境設置型の機器であってもよいし、スマートフォン又はタブレットを利用したハンドヘルド型の機器であってもよい。プロジェクターは、プロジェクションマッピングが可能であってもよい。
【0059】
上記実施形態では、一人の体験者Hを仮想空間Rに投影したが、これに限定されず、複数人の体験者Hを仮想空間Rに投影してもよい。すなわち、上記実施形態は、少なくとも第1体験者及び第2体験者が仮想空間R内において荷物の取扱い作業を行うシミュレーションシステムであってもよい。この場合、実運用に一層近い環境でのシミュレーションが可能になる。
【0060】
上記実施形態では、室内エリア80にその他のセンサを入力部として設置し、当該センサによって体験者情報(例えば、体験者Hの姿勢、位置、動き、ジェスチャー、声、生体データ、視線及び向きの少なくとも何れかに関する情報)を取得してもよい。上記実施形態では、入力デバイス70は無くてもよい。
【0061】
上記実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成の一部は、本発明の一態様の要旨を逸脱しない範囲で適宜に省略可能である。本発明は上記実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…シミュレーションシステム、2…荷物、50…コンピュータ(制御部)、51…取得部、52…再現部、53…設定部、54…判定部、55…表示制御部、60…ヘッドマウントディスプレイ(表示部)、70…入力デバイス(入力部)、H…体験者、MD…移動範囲の許容範囲、R…仮想空間。
図1
図2
図3
図4