(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054601
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】光伝送システム、波長変換器、及び光伝送装置
(51)【国際特許分類】
H04J 14/02 20060101AFI20240410BHJP
H04B 10/291 20130101ALI20240410BHJP
H04B 10/079 20130101ALI20240410BHJP
【FI】
H04J14/02
H04B10/291
H04B10/079
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160923
(22)【出願日】2022-10-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先導研究(委託)/全光信号処理による光伝送ネットワーク大容量化技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】入江 博之
(72)【発明者】
【氏名】中島 久雄
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA01
5K102AD02
5K102AK02
5K102KA01
5K102KA15
5K102KA44
5K102LA01
5K102LA52
5K102MB09
5K102MC11
5K102MD01
5K102MD03
5K102MH01
5K102MH12
5K102MH22
5K102PA01
5K102PB01
5K102PC12
5K102PC16
5K102PC17
5K102PH11
5K102PH31
5K102PH42
5K102PH47
5K102PH48
5K102PH49
5K102RB12
5K102RB19
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】波長変換を用いた光伝送システムで、伝送性能を向上する。
【解決手段】光伝送システムは、複数の波長の光を含むWDM信号光を出力するWDM送信装置と、前記WDM信号光を異なる波長帯域の変換光に変換する波長変換器と、前記波長変換器に入射する前記WDM信号光の信号レベルを制御するプロセッサと、を備え、前記プロセッサは、前記WDM信号光の前記信号レベルが、前記波長変換器で用いられるポンプ光の波長から離れる方向に低くなるように、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長の光を含むWDM信号光を出力するWDM送信装置と、
前記WDM信号光を異なる波長帯域の変換光に変換する波長変換器と、
前記波長変換器に入射する前記WDM信号光の信号レベルを制御するプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、前記WDM信号光の前記信号レベルが、前記波長変換器で用いられるポンプ光の波長から離れる方向に低くなるように、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
光伝送システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記WDM送信装置に接続される複数の送信器の出力調整機構を制御して、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記WDM送信装置のパワー調整機構を制御して、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記WDM送信装置の波長選択スイッチのアッテネータを制御して前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項3に記載の光伝送システム。
【請求項5】
前記波長変換器は前記変換光を増幅する光アンプを有し、
前記プロセッサは、波長変換過程で生じる雑音に対する信号対雑音比と、前記光アンプの自然放出増幅雑音に対する信号対雑音比を合わせた実効信号対雑音比が前記変換光の波長全体で最も高くなるように、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項1に記載の光伝送システム。
【請求項6】
前記波長変換器は、前記WDM信号光の前記信号レベルに設定された波長方向の傾斜と逆の傾斜を前記変換光に与える補正フィルタを有する、
請求項5に記載の光伝送システム。
【請求項7】
ポンプ光を出射するポンプ光源と、
前記ポンプ光と、複数の波長を含むWDM信号光とが入射する非線形光学媒質と、
前記非線形光学媒質から出射した光から、前記ポンプ光及び前記WDM信号光の波長と異なる波長の変換光を取り出す光フィルタと、
を有し、前記非線形光学媒質に入射する前記WDM信号光の信号レベルは、前記ポンプ光の波長から遠ざかる方向で低くなるように制御されている、
波長変換器。
【請求項8】
前記光フィルタから出力される前記変換光をモニタする光モニタと、
前記光モニタのモニタ結果が入力されるプロセッサと、
前記非線形光学媒質に入射する前記WDM信号光の前記信号レベルを調整する入力パワー調整機構と、
を有し、前記プロセッサは前記光モニタのモニタ結果に基づいて前記入力パワー調整機構を制御して、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項7に記載の波長変換器。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記モニタ結果から前記変換光に含まれる波長ごとに信号対雑音比を計算し、前記WDM信号光が波長方向に前記変換光の信号対雑音比の傾斜と逆の傾斜をもつように前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項8に記載の波長変換器。
【請求項10】
複数の波長の光を含むWDM信号光を波長変換器に出力するWDM送信装置と、
前記WDM信号光のチャネル構成情報と、前記WDM信号光の信号レベルを制御する制御情報とを保存するメモリと、
前記チャネル構成情報と前記制御情報とに基づいて、前記WDM信号光の前記信号レベルが、前記波長変換器で用いられるポンプ光の波長から離れる方向で低くなるように、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御するプロセッサと、
を有する
光伝送装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記WDM送信装置に接続される複数の送信器の出力調整機構、または前記WDM送信装置のパワー調整機構を制御して、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する、
請求項10に記載の光伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光伝送システム、波長変換器、及び光伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信ネットワークの容量を増大させる技術の一つに、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)がある。WDM伝送システムでは、1550nm帯のCバンドと、1590nm帯のLバンドのそれぞれで、96チャネルの信号伝送が実用化されている。Cバンドよりも短波長側のSバンドの実用化も進められている。複数の通信バンドを用いた伝送方式をマルチバンド伝送と呼ぶ。従来のCバンドのWDM伝送システムで用いられていた送受信器をマルチバンド対応の送受信器に取り替えることは、開発の手間やコストの観点から難しい。そのため、CバンドとLバンドの間、あるいはCバンドとSバンドの間で波長を変換する波長変換器が用いられる。
【0003】
波長変換の方法として、ビットレートや変調方式に依存しない四光波混合(FWM:Four-Wave Mixing)が採用されている。2つ以上の異なる角周波数の光を非線形光学媒質に入射することで、入射した光のいずれの各周波数とも異なる新たな角周波数の光が非線形光学媒質中に発生する。新たに発生した光は、アイドラ光と呼ばれる。この非線形光学効果を利用すると、信号光とともに高エネルギーのポンプ光を非線形光学媒質に入射することで、入射信号光ともポンプ光とも波長の異なる変換光を生成することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-222917号
【特許文献2】特開2019-126487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FWMを利用した波長変換器の変換効率は、波長依存性をもつ。波長変換器に入力されるWDM信号光パワーの波長に対する特性がフラットであっても、ポンプ光に近い波長領域でアイドラ光の信号対雑音比(SNR:Signal-to-Noise Ratio)が低下し、伝送性能が制限される。一つの側面で、本発明は、波長変換を用いた光伝送システムで伝送性能を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態において、光伝送システムは、
複数の波長の光を含むWDM信号光を出力するWDM送信装置と、
前記WDM信号光を異なる波長帯域の変換光に変換する波長変換器と、
前記波長変換器に入射する前記WDM信号光の信号レベルを制御するプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、前記WDM信号光の前記信号レベルが、前記波長変換器で用いられるポンプ光の波長から離れる方向に低くなるように、前記WDM信号光の前記信号レベルを制御する。
【発明の効果】
【0007】
波長変換を用いた光伝送システムで、伝送性能が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ポンプ光波長の近傍でのアイドラ光のSNR劣化を示す図である。
【
図2】第1実施形態の光伝送システムの模式図である。
【
図4】入射WDM信号光の信号レベルの制御構成例である。
【
図5】入射WDM信号光の信号レベルの別の制御構成例である。
【
図7】波長変換器の別の変形例を示す模式図である。
【
図8】第1実施形態の入射WDM信号光の信号レベル制御のフローチャートである。
【
図9】第2実施形態の光伝送システムの模式図である。
【
図10】第2実施形態の波長変換器の模式図である。
【
図11】第2実施形態の入射WDM信号光の、信号レベル制御のフローチャートである。
【
図12】
図11のステップS21の詳細を示すフローチャートである。
【
図13】アイドラ光帯域の両側のFWM雑音光レベルの測定位置を示す図である。
【
図14】比較例として、入射WDM信号光の信号レベルに傾斜をつけないときのアイドラ光のスペクトルを示す図である。
【
図15】
図14の比較例のSNRの入力パワー依存性を示す図である。
【
図16】入力WDM信号光に設定される傾斜の例を示す図である。
【
図17A】入射WDM信号光に異なる傾斜を設定したときのFWM雑音対信号比を示す図である。
【
図17B】入射WDM信号光に異なる傾斜を設定したときの自然放射増幅(ASE:Amplified Spontaneous Emission)雑音対信号比を示す図である。
【
図17C】入射WDM信号光に異なる傾斜を設定したときの実効SNRの図である。
【
図18】実施形態で波長変換過程に関与する光のパワースペクトルの図である。
【
図19】入力WDM信号光に傾斜をつけたときの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態では、波長変換器の非線形光学媒質に入射するWDM信号光の信号レベルを制御して、波長変換を含む光伝送システムの伝送性能を改善する。具体的には、ポンプ光の波長から離れる方向にWDM信号光の信号レベルが低くなるように制御することで、アイドラ光、すなわち変換光の波長全体の平均実効SNRを高く維持する。WDM信号光の信号レベルは、WDM信号光に含まれる各チャネルの中心波長のパワーレベルである。
【0010】
図1は、発明者らが見出した課題、すなわち、ポンプ光波長の近傍でのアイドラ光のSNR劣化を示す。非線形媒質に、信号光と、十分な強度を持つポンプ光を入射すると、非線形光学媒質の内部に、入射電場に対して非線形な(2次以上の)分極が生じ、その分極の振動から、入射光と異なる周波数成分が発生する。入射するWDM信号光パワーの波長または周波数に対する特性はフラットである。これに対し、FWMにより発生したアイドラ光のうち、ポンプ光波長の近傍の波長成分でFWM雑音の割合が大きくなる。
【0011】
FWMの過程で発生する雑音には、入射したWDM信号光に含まれる各波長成分の相互作用による雑音と、WDM信号光とポンプ光の相互作用による雑音が含まれる。FWMにともなうこれらの雑音をまとめて、FWM雑音と呼ぶ。
図1では、FWM雑音を認識しやすくするために、FWM雑音がアイドラ光の周波数の間に現れるようにレイアウトを調整している。
【0012】
一般的に、非光学線形効果により生じたアイドラ光は光フィルタで取り出され、光アンプで増幅される。そのため、波長変換にはFWM雑音に加えて、自然放射増幅(ASE:Amplified Spontaneous Emission)光による雑音がともなう。ここで、波長変換器の伝送性能を評価する指標として実効SNRを導入する。実効SNRを以下のように定義する。
FWM_SNR:FWM雑音に対するアイドラ光のパワー比
ASE_SNR:光アンプで発生するASE雑音に対するアイドラ光のパワー比
実効SNR:FWM_SNRとASE_SNRの合成SNR
【0013】
図1のように、入力WDM信号光の信号レベルが波長に対してフラットな場合、ポンプ光波長の近傍のアイドラ光波長に大きなFWM雑音が発生する。FWM_SNRはポンプ光波長の近傍で低く、ポンプ光波長から離れるほど高くなる。一方、光アンプに入力されるアイドラ光の信号レベルは波長に対してフラットであるため、光アンプで発生するASE雑音はアイドラ光の波長全体にわたってほぼ同じであり、ASE_SNRは一定である。結果として、ポンプ光波長に近い波長でアイドラ光の実効SNRが低下し、伝送性能が制限される。
【0014】
実施形態では、非線形光学媒質に入射するWDM信号光の信号レベルがポンプ光波長から離れる方向に低くなるようにWDM信号光を制御して、アイドラ光全体としての実効SNRを改善する。以下の実施形態で、同じ構成要素に同じ符号をつけて、重複する説明の繰り返しを避ける場合がある。波長は周波数の逆数なので、「波長」というときは「周波数」の意味も含むものとする。
【0015】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態の光伝送システム1の模式図である。光伝送システム1は、光伝送装置10-1の光出力段に設けられる波長変換器15-1と、光伝送装置10-2の光入力段に設けられる波長変換器15-2を含む。第1実施形態では、波長変換器15-1で波長変換を受けるWDM信号光の波長帯域が既知であり、光伝送装置10-1と波長変換器15-1がリンクしている。光伝送装置10-1と波長変換器15-1の間で、必要に応じて電気制御信号の送受信が可能であり、光伝送装置10-1で波長変換器15-1に入射するWDM信号光の各波長の信号レベルを制御する。
図2で、太い破線は電気制御線を示す。点線のブロックで示すように、波長変換器15-1は光伝送装置10-1に組み込まれて、光伝送装置10-1の光出射端に配置されていてもよい。
【0016】
光伝送装置10-1はWDM送信装置12Txを有する。WDM送信装置12Txと波長変換器15-1は、光ファイバ等の光パスで接続されている。後述するように、波長変換器15-1に入射するWDM信号光の信号レベルは、プロセッサ13によって制御されている。プロセッサ13は、WDM送信装置12Txの内部に設けられていてもよいし、波長変換器15-1の内部に設けられていてもよい。波長変換器15-1が光伝送装置10-1に組み込まれている場合は、プロセッサ13-1は、光伝送装置10-1の内部で、WDM送信装置12Txと波長変換器15-1に電気的に接続されていてもよい。光伝送装置10-1に波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)が設けられていてもよい。
【0017】
光伝送装置10-1と光伝送装置10-2は、伝送路4で接続されている。伝送路4に中継アンプ、光アド・ドロップマルチプレクサ(OADM)などの伝送路ノード5が挿入されていてもよい。波長変換器15-1と15-2は同じ構成を有する。波長変換器15-1と、波長変換器15-2は、伝送路4に対して鏡面関係にある。WDM送信装置12Txから出力されたC帯のWDM信号は、波長変換器15-1によってたとえばL帯のWDM信号に一括して変換され、伝送路4に送信される。伝送路4から波長変換器15-2に入射したL帯のWDM信号は、波長変換器15-2によってC帯のWDM信号に一括して変換され、WDM受信装置12Rxで受信される。
【0018】
光伝送システム1の一つの特徴として、波長変換器15-1に入射するWDM信号光の信号レベルが、波長変換器15-1で用いられるポンプ光波長から離れる方向に低くなるように制御されている。この信号レベルの制御を、便宜上、信号レベルの「傾斜制御」と呼ぶ。WDM信号光の信号レベルの傾斜制御は、上述したように、プロセッサ13によって行われる。信号レベルの「傾斜制御」は一例であって、変換光の波長帯域にわたって実効SNRを維持できるかぎり、プロセッサ13は波長-損失特性を調整する別の制御を行ってもよい。波長変換器15-1に入射するWDM信号光の信号レベルの傾斜または波長-損失特性を制御できるかぎり、プロセッサ13の配置位置は問わない。
【0019】
図3は、波長変換器15の模式図である。波長変換器15は、ポンプ光源151、合波器152、非線形光学媒質153、光フィルタ154、及び光アンプ155を有する。ポンプ光源151から出射されたポンプ光は、信号レベルが傾斜制御されたWDM信号光と合波器152で合波され、非線形光学媒質153に入射する。合波器152は、たとえば光ファイバカプラである。
【0020】
非線形光学媒質153として、光ファイバとの整合性の高い非線形(HNL:Highly Non-Linear)ファイバを用いてもよい。光フィルタ154は、非線形光学媒質153中で生成されたアイドラ光(変換光)を通過させ、WDM信号光とポンプ光を遮断する。光アンプ155は、アイドラ光を増幅し、出力する。光アンプ155から出力される光には、非線形光学過程で生じたFWM雑音と、光アンプ155で生じたASE雑音が含まれている。実施形態では、特にポンプ光波長の近傍で、アイドラ光に含まれるFWM雑音を小さくすることで、アイドラ光全体としての実効SNRを改善する。実効SNRは、FWM雑音に対するSNRと、ASE雑音に対するSNRの合成SNRである。
【0021】
<入射WDM信号光の信号レベルの制御>
図4は、非線形光学媒質153に入射するWDM信号光の信号レベルの制御構成例を示す。
図4では、WDM送信装置12Txに接続されている送信器125a、125b、…、125n(以下、適宜「送信器125」と総称する)の出力調整機能を利用して、WDM信号光の各波長の信号レベルを調整する。送信器125の出力調整機能は、たとえばプリエンファシス機能であってもよい。送信器125aから125nは、それぞれ異なる波長の光信号を扱う複数のトランスポンダの送信部である。送信器125a、125b、…、125nの出力パワーを調整することで、合波されたWDM信号光の信号レベルを所望の波長-損失特性制御することができる。たとえば、WDM信号光のレベルに所望の傾斜をつけることができる。
【0022】
制御回路130は、プロセッサ13により実現される。プロセッサ13は、その機能ブロックとして傾斜制御部131を有する。
図4で太い破線は、電気制御線を示す。波長変換器15の構成によっては、制御回路130に出力傾斜補償部132を設けてもよい。プロセッサ13は、WDM送信装置12Txに設けられていてもよいし、波長変換器15に設けられていてもよいし、光伝送装置10Aのどこかに設けられていてもよい。制御回路130は、メモリ121に保存されたチャネル構成情報122と信号レベル制御情報123を参照して、各送信器125の出力パワーを制御して、WDM信号光の信号レベルに波長方向の傾斜をつける。メモリ121は、WDM送信装置12Txに設けられていてもよいし、プロセッサ13に内蔵されていてもよいし、光伝送装置10Aのどこかに設けられていてもよい。
【0023】
チャネル構成情報122は、各チャネルの波長帯域情報を含む。波長変換前の帯域がCバンドの場合、波長1530nmから1565nmの帯域に、たとえば50GHz間隔で設けられる各チャネルの中心波長の情報が、波長帯域情報として保存される。各中心波長と対応するトランスポンダまたは送信器125の識別情報が、チャネル構成情報122に含まれていてもよい。信号レベル制御情報123は、WDM信号光の信号レベルに設定される波長方向の傾斜に関する情報を含む。
【0024】
信号レベル制御情報123は、波長変換器15に入射するWDM信号光の信号レベルの波長方向の傾斜を変化させて、アイドラ光の波長全体で平均の実効SNRが最も高くなる場合の傾斜を計算することで決定されている。FWM_SNRとASE_SNRを足し合わせた実効SNRがアイドラ光全体で最も高くなるように、入射WDM信号光の各波長の信号レベルが設定される。
【0025】
波長変換器15に入射するWDM信号光の信号レベルを制御して、ポンプ光波長から離れる方向に信号レベルを下げると、以下の結果が生じる。
(1)ポンプ光波長に近いアイドラ光波長でFWM雑音が低減され、FWM_SNRが改善される。
(2)ポンプ光波長から遠いアイドラ光の信号レベルが低くなるため、光アンプ155から出力されるアイドラ光のASE_SNRが低下する。
上記の(1)と(2)はトレードオフの関係にある。(1)と(2)のバランスが取れた波長-損失特性が得られるように、アイドラ光全体として平均の実効SNRが最も高くなる傾斜を、入射WDM信号光の信号レベルに設定する。これにより、光伝送システム1の伝送性能が改善される。信号レベル制御情報123とチャネル構成情報122は、たとえばオペレータによってあらかじめメモリ121に入力されてもよい。
【0026】
制御回路130の傾斜制御部131は、チャネル構成情報122に含まれる各チャネルの帯域情報と、信号レベル制御情報123に含まれる各チャネルの設定信号レベルとに基づき、送信器125a、125b、…、125nのそれぞれに制御値を供給する。送信器125a、125b、…、125nは、制御値に基づいて出力する光信号のパワーを調整する。
【0027】
送信器125a、125b、…、125nから出力された各波長の光は、合波器126で合波され、WDM信号光が生成される。このWDM信号光の信号レベルは、波長方向に所定の傾斜をもつ。信号レベルが傾斜制御されたWDM信号光は、波長変換器15に導かれ、ポンプ光とともに非線形光学媒質153に入射する。
【0028】
制御回路130に出力傾斜補償部132が設けられている場合、出力傾斜補償部は、波長変換器15の光アンプ155から出力されるアイドラ光(変換光)に、入射WDM信号光に設定された傾斜と逆方向の傾斜をつける。入射WDM信号光の信号レベルに設定された傾斜により、ポンプ光から遠い波長で信号レベルが低くなり、発生するアイドラ光のパワースペクトルにも傾斜が生じる。出力傾斜補償部132は、アイドラ光に生じる波長方向のパワーの低下を補償するように波長変換器15を制御してもよい。
【0029】
図5は、非線形光学媒質153に入射するWDM信号光のスペクトル制御の別の構成例を示す。
図5では、光伝送装置10Bのパワー調整機能を用いて、波長変換器15に入射するWDM信号光の信号レベルを制御する。光伝送装置10Bのパワー調整機能は、たとえば、光アド・ドロップマルチプレクサ(図中で「OADM」と表記)14のWSS141のアッテネータ、ゲインイコライザのゲインアジャスタ、波形整形器などによって実現される。
図5の例では、WSS141のアッテネータを利用してWDM信号光の信号レベルを制御する。
図5で、太い破線は電気制御線を示す。
【0030】
複数の送信器125a、125b、…、125nから出力される各波長の光は、WSS141に入射する。制御回路130の傾斜制御部131は、メモリ121に保存されたチャネル構成情報122と信号レベル制御情報123を参照して、WSS141に制御信号を出力する。メモリ121は、WDM送信装置12Txに設けられてもよいし、プロセッサ13に内蔵されていてもよいし、光伝送装置10Bのどこかに設けられていてもよい。
【0031】
WSS141は、制御回路130からの制御信号に基づいて、WDM信号光のパワーをチャネルごとに調整する。WSS141を通過したWDM信号光は、波長方向に信号レベルが傾斜制御されたWDM信号光として、ポンプ光とともに、波長変換器15の非線形光学媒質153に入射する。
【0032】
制御回路130に出力傾斜補償部132が設けられている場合、出力傾斜補償部132は、波長変換器15の光アンプ155から出力されるアイドラ光(変換光)に、WDM信号光に設定された信号レベルの傾斜と逆方向の傾斜を設定する。これにより、アイドラ光に生じる波長方向のパワーの低下が補償される。
【0033】
<波長変換器の変形例>
図6は、波長変換器15の変形例である波長変換器15Aの模式図である。波長変換器15Aに入射するWDM信号光の信号レベルは、制御回路130によって傾斜制御されている。制御回路130は、WDM送信装置12Txの内部に設けられていてもよいし、波長変換器15Aに設けられていてもよい。信号レベルが波長方向に制御されたWDM信号光は、ポンプ光源151から出射されたポンプ光と合波器152で合波され、非線形光学媒質153に入射する。非線形光学媒質153の中で発生したアイドラ光は光フィルタ154で抽出され、光アンプ155で増幅される。
【0034】
波長変換器15Aは、光アンプ155の出力段に固定出力傾斜補正光フィルタ156を有する。固定出力傾斜補正光フィルタ156の補正値、すなわち波長-損失特性の調整値は固定であり、たとえば、アイドラ光のパワーレベルを波長方向にフラットに補正する固定の傾斜が設定されている。この構成の波長変換器15Aは、波長変換を受けるWDM信号光の波長帯域が固定されているときに用いられる。制御回路130に出力傾斜補償部132は不要である。
【0035】
図7は、波長変換器15の別の変形例である波長変換器15Bの模式図である。
図7で太い破線は電気制御線を示す。波長変換器15Bは、光アンプ155の出力段に可変出力傾斜補正光フィルタ157を有する。出力傾斜補正の補正値、すなわち波長-損失特性は、制御回路130から供給される制御信号に基づいて可変に設定される。この構成の波長変換器15Bは、波長変換を受ける信号光の帯域が固定されていない場合に用いられる。
【0036】
制御回路130の出力傾斜補償部132は、波長変換器15Bに入力されるWDM信号光の波長帯域が変わるときに、メモリ121のチャネル構成情報122と信号レベル制御情報123を参照して、出力傾斜補償に必要な波長-損失特性を可変出力傾斜補正光フィルタ157に設定する。これにより、光アンプ155から出力されるアイドラ光パワーの波長特性がフラットになる。
【0037】
<第1実施形態の制御フロー>
図8は、第1実施形態の入射WDM信号光の傾斜制御のフローチャートである。この制御フローは、プロセッサ13によって実行される。プロセッサ13は、メモリ121からチャネル構成情報122と信号レベル制御情報123を取得する(S11)。チャネル構成情報122には、WDM信号光の波長ごとの帯域情報が含まれる。信号レベル制御情報123には、WDM信号光に設定される各波長の信号レベル、またはWDM信号光の信号レベルの波長方向の傾斜情報が含まれている。プロセッサ13は、取得した信号レベル制御情報に基づいて、トランスポンダの送信器125の出力調整機構、または光伝送装置10のパワー調整機構を制御して、WDM信号光の各波長の信号レベルを制御する(S12)。光伝送装置10のパワー調整機構は、WSS141の可変アッテネータ、ゲインイコライザのゲインアジャスタ、波形整形器などである。WDM信号光の各波長の信号レベルを制御することで、WDM信号光の信号レベルに波長方向の傾斜が設定される。
【0038】
プロセッサ13は、必要に応じて用いて、波長変換器15の光アンプ155の出力段に設けられた可変出力傾斜補正光フィルタ157に、WDM信号光に設定した傾斜と逆の傾斜を設定する(S13)。これにより、波長変換器15から出力されるアイドラ光の波長全体で平均の実効SNRが高くなり、伝送性能が改善される。
【0039】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態の光伝送システム2の模式図である。第2実施形態では、波長変換器25-1、25-2は光伝送装置20-1、20-2とリンクせず、伝送路4の途中に置かれる。この構成では、波長-損失特性の制御の一例として、波長変換器25-1が非線形光学媒質に入射するWDM信号光の信号レベルを制御する。
【0040】
光伝送システム2は、伝送路4で接続される光伝送装置20-1及び20-2と、伝送路4の途中に配置される波長変換器25-1及び25-2を有する。伝送路4に中継アンプ、OADM等の伝送路ノード5が挿入されていてもよい。波長変換器25-1はプロセッサ23を有し、伝送路4から入射したWDM信号光の信号レベルを、ポンプ光波長から離れる方向に低くなるように制御する。
【0041】
図10は、第2実施形態の波長変換器25の模式図である。
図10で太い破線は電気制御線を示す。波長変換器25は、プロセッサ23の他に、ポンプ光源251、合波器252、非線形光学媒質253、光フィルタ254、分波器258、光アンプ255、光モニタ24、及び入力パワー調整機構240を有する。オプショナルで光アンプ255の出力段に可変出力傾斜補正光フィルタ257が接続されていてもよい。図中の太い破線は、電気制御線を示す。
【0042】
プロセッサ23は、制御回路230を有する。制御回路230は、その機能として傾斜制御部231と、オプショナルで出力傾斜補償部232を有する。上述のとおり、波長に対する信号レベルの傾斜は、波長-損失特性の一例である。光アンプ255の出力段に可変出力傾斜補正光フィルタ257が設けられる場合は、出力傾斜補償部232によって、可変出力傾斜補正光フィルタ257の波長-損失特性が設定される。
【0043】
入力パワー調整機構240は、可変入力傾斜補正光フィルタ241と、可変アッテネータ(図中で「ATT」と表記)242を有する。可変入力傾斜補正光フィルタ241は、伝送路4から波長変換器25に入射したWDM信号光のパワーの波長特性を調整し、入射WDM信号光の信号レベルに波長方向の傾斜をつける。可変アッテネータ242は、傾斜制御されたWDM信号光全体の光パワーを調整して、WDM信号光全体としての信号パワーを最適化する。
【0044】
入力パワー調整機構240で信号レベルの傾斜と全体のパワーが最適化されたWDM信号光は、合波器252で、ポンプ光源251から出射されたポンプ光と合波される。WDM信号光とポンプ光が非線形光学媒質253に入射すると、入射した光波間の相互作用により、非線形光学媒質253中にアイドラ光(変換光)が発生する。非線形光学媒質253から出射した光に含まれるアイドラ光は光フィルタ254で取り出され、光アンプ255で増幅されて、伝送路4に送信される。必要に応じて、可変出力傾斜補正光フィルタ257で、変換光のパワーの波長特性がフラットになるように補正される。
【0045】
光フィルタ254の出力光の一部は、分波器258によって分岐され、光モニタ24でアイドラ光に含まれる各波長のピークレベルと、FWM雑音レベルが測定される。光モニタ24として、光スペクトルアナライザ、光チャネルモニタ(OCM:Optical Channel Monitor)等を用いることができる。光モニタ24のモニタ結果は、プロセッサ23の傾斜制御部231に入力される。
【0046】
傾斜制御部231は、光モニタ24のモニタ結果から、FWM_SNRと、次段の光アンプ255で発生するASE_SNRを計算する。ASE_SNRは、光アンプ255の雑音指数NFを用いて、式(1)で計算される。
【0047】
【数1】
ここで、P
Idlerはアイドラ光のピークパワー、hはプランク定数、νはアイドラ光の振動数、Bはアイドラ光の信号帯域幅である。
【0048】
傾斜制御部231は、波長ごとにFWM_SNRとASE_SNRを合成して実効SNRの傾斜を求める。また、アイドラ光の実効SNRの傾斜と逆の傾斜を、制御情報として入力パワー調整機構240に供給する。入力パワー調整機構240は、制御情報に基づいて、伝送路4から入射したWDM信号光の信号レベルの波長方向の傾斜と、WDM信号光全体のパワーレベルを調整する。
【0049】
波長変換器25で扱われる帯域が固定の場合は、光モニタ24と制御回路230を省略してもよい。この場合、可変入力傾斜補正光フィルタ241と、可変出力傾斜補正光フィルタ257に替えて、固定の入力傾斜補正光フィルタと、固定の出力傾斜補正光フィルタを設けてもよい。
【0050】
<第2実施形態の制御フロー>
図11は、第2実施形態の入射WDM信号光の傾斜制御のフローチャートである。この制御フローは、プロセッサ23によって実行される。プロセッサ23は、光モニタ24のモニタ結果に基づいて、光アンプ255の出力光の実効SNRの傾斜を計算する(S21)。光アンプ255の出力光の実効SNRとその傾斜の具体的な計算方法は、
図12を参照して後述する。
【0051】
S21で求めた実効SNRの傾斜と逆の傾斜を入射WDM信号光のパワースペクトルにつける(S22)。次に、実効SNRの傾斜が目標値以内か否かを判断する(S23)。実効SNRの傾斜が目標値を超えて大きすぎると、ポンプ光波長から遠い波長でアイドラ光のパワーが低下し、光アンプ255の出力光のASE_SNRが低下する可能性がある。したがって、実効SNRの傾斜が目標値を超える場合は(S23でNO)、ステップS21に戻って光フィルタ254から出力されるアイドラ光の一部をモニタし、光アンプ255の出力光の実効SNRの傾斜を再計算する。入射WDM信号光の実効SNRの傾斜が目標値以内になるまで(S23でYES)、S21とS22を繰り返す。
【0052】
入射WDM信号光の実効SNRの傾斜が目標値以内になると、全チャネルの平均実効SNRを求め(S24)、平均実効SNRが極大か否かを判断する(S25)。平均実効SNRが極大でない場合(S25でNO)、アイドラ光全体として最適な実効SNRが得られていないことを意味する。この場合、ステップS26で可変アッテネータ242を制御して、入射WDM信号光全体のパワーを所定のステップサイズで増大させ、ステップS21からS25を繰り返す。
【0053】
アイドラ光の全チャネルの平均実効SNRが極大の場合は(S25でYES)、入射WDM信号光の傾斜と平均パワーが適切に設定されたことを意味する。必要に応じて、光アンプ255の出力段に接続される可変出力傾斜補正光フィルタ257の波長-損失特性を制御して、入射WDM信号光に設定した傾斜と逆の傾斜を設定してもよい(S27)。これにより、波長変換器25から出力されるアイドラ光のパワーレベルが波長方向にフラットになる。
【0054】
図12は、
図11のステップS21の詳細な処理フローである。プロセッサ23は、光モニタ24によるモニタ結果から、アイドラ光の各波長のピークレベルを取得する(S211)。上述のように、光モニタ24は光スペクトルアナライザ、OCMなど、チャネルごとにピークパワーの測定が可能なモニタデバイスである。さらに、アイドラ光帯域のすぐ外側で隣接するFWM雑音光のレベルを取得し、FWM雑音光の傾斜から、アイドラ光の各波長のFWM雑音レベルを算出する(S212)。
【0055】
図13は、アイドラ光帯域のすぐ外側のFWM雑音光の測定位置を示す。FWM雑音光の測定位置は、白の矢印で示されている。アイドラ光帯域の両端に隣接する位置でFWM雑音光のレベルを取得することで、アイドラ光帯域全体でのFWM雑音の傾斜が求められる。FWM雑音の傾斜から、アイドラ光の各波長のFWM雑音が求まる。S211で求めたアイドラ光の各波長のピークレベルと、S212で求めたアイドラ光の各波長のFWM雑音レベルから、光アンプ255に入射するWDM信号光のFWM_SNRが求まる(S213)。
【0056】
プロセッサ23はさらに、S211で求めたアイドラ光の各波長のピークレベルと、上記の式(1)で求まるASE雑音から、光アンプ255の出力光のASE_SNRをチャネルごとに計算する(S214)。S213で求めたFWM_SNRと、S214で求めたASE_SNRの合計から、光アンプ255の出力光に含まれる各波長の実効SNRを算出する(S215)。S215で求めた実効SNRの傾斜を算出して、
図22のS22へ進む。これにより、波長変換器25が光伝送装置20とリンクせずに伝送路4の途中に配置される場合に、アイドラ光全体の実効SNRの低下を抑制し伝送性能を改善できる。
【0057】
<効果検証>
図14は、比較例として、入射WDM信号光の信号レベルに波長方向の傾斜をつけないときのアイドラ光のスペクトル図を示す。ポンプ光Ppumpの波長に近いアイドラ光波長で、ピーク波長に対するFWM雑音光の割合が大きく、FWM_SNRが最小となる。
【0058】
図15は、比較例、すなわち入射WDM信号光に傾斜をつけないときの信号入力パワー依存性を示す。横軸は、チャネルあたりの平均信号入力パワーである。WDM信号光の平均信号入力パワーを変えながら、ASE_SNRとFWM_SNRから実効SNRを計算する。ASE_SNRは、
図14のピークパワーに基づき、式(1)により計算される。WDM信号光の平均入力パワーが小さいと、ASE_SNRが低下するが、FWM雑音が減少してFWM_SNRは高くなる。FWM_SNRとASE_SNRの合成である実効SNRが最大になるのは、WDM信号光のチャネルあたりの平均入力パワーが-11dBm/chのときである。そのときの実効SNRは11.3dBである。平均入力パワーを-11dBm/chから上げても、実効SNRは低下する。比較例のように入射WDM信号光に傾斜を付けない場合は、アイドラ光の実効SNRの上限が制限され、伝送性能が劣化する。
【0059】
図16は、実施例で入射WDM信号光の信号レベルに設定される傾斜の例を示す。横軸は周波数、縦軸は入力レベルである。入射WDM信号光の信号レベルに設定される傾斜が0dB/100GHzのときは、比較例と同様に、入射WDM信号光のパワーの波長(周波数)特性がフラットである。この場合、
図14に示したようにポンプ光波長に近いアイドラ光のFWM雑音割合が増大し、入射WDM信号光の平均パワーを上げても、
図15のように実効SNRが制限される。実効SNRの制限を解消し、アイドラ光の全帯域にわたって実効SNRが高く維持される最適な傾斜量を検討する。
【0060】
図17Aは、実施例で入射WDM信号光の信号レベルに異なる傾斜を設定したときのFWM_SNRを示す。
図17Bは、実施例で入射WDM信号光の信号レベルに異なる傾斜を設定したときのASE_SNRを示す。
図17Cは、実施形態の入射WDM信号光の信号レベルに異なる傾斜を設定したときの実効SNRを示す。
図17Aから
図17Cで、入射WDM信号光に与える傾斜量を、0dB/100GHz、0.32dB/100GHz、及び0.44dB/GHzと変える。
【0061】
図17Aで、入射WDM信号光の傾斜が0.44dB/100GHzのときと、0.32dB/100GHzのときで、FWM_SNRに大きな差はない。
図17Bで、傾斜が0.44dB/100GHzのときに、長波長側(低周波数側)でASE_SNRの低下が顕著になる。FWM_SNRとASE_SNRを合成すると、
図17Cの実効SNRが得られる。傾斜が0.32dB/100GHzのときに、実効SNRはアイドラ光の全帯域にわたって約13dBに維持される。実施例で入射WDM信号光の信号レベルに適切な傾斜を設定することで、
図15の最大の実効SNR(11.3dB)よりも伝送性能が改善されることが確認される。
【0062】
図18は、入力WDM信号光に所定の傾斜をつけたときの波長変換過程に関与する光の全体のスペクトルを示す。この例では、入力WDM信号光に0.32dB/100GHzの傾斜をつけ、ポンプ光波長から離れる方向に信号レベルを下げている。その結果、ポンプ光波長の近傍のアイドラ光でFWM雑音の割合が低減し、FWM_SNRが向上する。アイドラ光全体での平均実効SNRが向上し、伝送性能が改善される。
【0063】
図19は、実施形態の効果を示す図である。横軸はチャネルあたりの平均入力パワー、縦軸は最小実効SNRである。最小実効SNRは、アイドラ光全体での最小の実効SNRを表す。入射WDM信号光に傾斜をつけない比較例の最小実効SNRを白丸で示す。実施例で入射WDM信号光に所定の傾斜をあたえたときの最小実効SNRを黒丸で示す。
【0064】
波長-損失特性を制御しない場合、たとえば、入射WDM信号光に傾斜を付けない場合、平均入力パワーを上げても実効SNRを改善することができず、むしろ実効SNRが劣化する。これは、上述したように、入射WDM信号光全体のパワーを上げたことで、FWM雑音が大きくなってSWM_SNRが低下するからである。これに対し、実施形態で入射WDM信号光に所定の傾斜をつけることで、入射WDM信号光全体のパワーを上げて実効SNRを改善することができる。波長変換を用いた光伝送システムで、伝送性能が改善されることが確認される。
【0065】
以上、特定の構成例に基づいて実施形態を説明したが、本開示は上述した実施形態に限定されない。信号レベルの「傾斜制御」は一例であって、変換光(アイドラ光)の波長帯域にわたって実効SNRを維持する別の波長-損失特性制御を行ってもよい。WDM信号光のパワースペクトルの傾斜制御は、トランスポンダの送信器125のプリエンファシス機能や、WSSのアッテネーション機能に替えて、ゲインイコライザや波長整形器などのパワー調整または可変補正光フィルタ機能を用いてもよい。波長変換器は、少なくとも非線形光学媒質と、アイドラ光を取り出す光フィルタを含んでいればよく、ポンプ光源、合波器、光アンプ等を波長変換器の外部に設けてもよい。いずれの構成でも、非線形光学媒質に入射するWDM信号光の波長-損失特性を制御することで、アイドラ光全体にわたって実効SNRを高く維持し、伝送性能を改善できる。
【符号の説明】
【0066】
1、2 光伝送システム
4 伝送路
5 伝送路ノード
10A、10B、10-1、10-2、20-1、20-2 光伝送装置
12Tx、22Tx WDM送信装置
13、23 プロセッサ
14 光アド・ドロップマルチプレクサ
15、15A、15B、15-1、15-2、25、25-1、25-2 波長変換器
24 光モニタ
121 メモリ
122 チャネル構成情報
123 信号レベル制御情報
125、125a、125b、125n 送信器
126 合波器
130、230 制御回路
131、231 傾斜制御部
132、232 出力傾斜補償部
141 WSS
151、251 ポンプ光源
152、252 合波器
153、253 非線形光学媒質
154、254 光フィルタ
155、255 光アンプ
156 固定出力傾斜補正光フィルタ(補正光フィルタ)
157、257 可変出力傾斜補正光フィルタ(補正光フィルタ)
240 入力パワー調整機構