(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054625
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C07D 301/08 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
C07D301/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160964
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 景
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕太
(57)【要約】
【課題】製造コストの増大を抑制しつつ、簡易なプロセスで連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造可能な方法および装置を提供する。
【解決手段】ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを銅製の管型反応器内で100℃以上220℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを合成することを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを銅製の管型反応器内で100℃以上220℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを合成することを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項2】
前記管型反応器の内径が10mm以下である、請求項1に記載のヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項3】
前記管型反応器の加熱部において、前記ヘキサフルオロプロペンおよび前記酸素ガスの反応時間が10秒以上1000秒以下である、請求項1または2に記載のヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項4】
ガス状のヘキサフルオロプロペンが充填された第1のタンクと、
酸素ガスが充填された第2のタンクと、
前記第1のタンクから連続的に供給されるヘキサフルオロプロペンと、前記第2のタンクから連続的に供給される酸素ガスとを100℃以上220℃以下の温度で反応させる銅製の管型反応器と、を備え、
前記管型反応器は溶媒を含んでいないことを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロプロピレンオキシドは含フッ素有機化合物の合成において、非常に重要な中間体として知られており、具体的には、パーフルオロアルキルビニルエーテルを合成する際の出発原料として使用される。また、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの重合物はパーフルオロポリエーテルと称され、潤滑油、熱媒体として工業的に幅広く用いられている。
【0003】
ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法として、特許文献1には、パーフルオロポリエーテル化合物を反応溶媒として用いる方法が開示されている。具体的には、オートクレーブにパーフルオロポリエーテル化合物とヘキサフルオロプロペンとを充填し、電気炉または加熱浴を用いて昇温し、そこに酸素ガスを分添する方法が記載されている。この方法では、酸化剤として安価な分子状酸素を使用しヘキサフルオロプロピレンオキシドを高収率で得ることができるものの、反応の発熱を制御するために酸素を少量ずつ分添している。そのため、単位体積当たりの伝熱面積が小さく、反応によって発生する熱の除去に時間がかかるため、総合的に反応時間が長くなってしまう。また、反応時間は反応器のサイズが大きいほど相対的に長くなるため、大量生産にも不向きである。
【0004】
特許文献2には、次亜塩素酸塩とヘキサフルオロプロペンとを相間移動触媒の存在下で連続的に反応器に供給してヘキサフルオロプロピレンオキシドを合成する方法が開示されている。この方法ではヘキサフルオロプロピレンオキシドを高収率で得ることができるものの、使用した相間移動触媒を再生することが困難であるため、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造コストが高くなってしまう。
【0005】
特許文献3には、ヘキサフルオロプロペンと、水溶性かつ非プロトン性の有機溶媒と、酸化剤水溶液とを微小空間で接触させることでヘキサフルオロプロピレンオキシドを高収率で得られることが開示されている。この方法では、酸化剤として高価な次亜ハロゲン酸塩または過酸化水素を用いていること、それらを安定して存在させるために酸化剤水溶液にアルカリを添加する必要があることから、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造コストが高くなってしまう。また、これらの酸化剤は不安定で取り扱いに熟練を要し、さらには、この方法を量産設備として利用する際に、非常に工程数が多く煩雑なプロセスが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2514384号
【特許文献2】国際公開第2008/050760号
【特許文献3】特許第5454567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうした背景から、本発明は、製造コストの増大を抑制しつつ、簡易なプロセスで連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造可能な方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法では、ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを銅製の管型反応器内で100℃以上220℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを合成する。
【0009】
本実施形態に係るヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造装置は、ガス状のヘキサフルオロプロペンが充填された第1のタンクと、酸素ガスが充填された第2のタンクと、前記第1のタンクから連続的に供給されるヘキサフルオロプロペンと、前記第2のタンクから連続的に供給される酸素ガスとを100℃以上220℃以下の温度で反応させる銅製の管型反応器と、を備えており、前記管型反応器は溶媒を含んでいない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造コストの増大を抑制しつつ、簡易なプロセスで連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造可能な方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造>
本実施形態において、原料としてガス状のヘキサフルオロプロペン(以下、「HFP」ともいう)と酸素ガスを使用し、銅製の管型反応器内で溶媒を用いずにヘキサフルオロプロピレンオキシド(以下、「HFPO」ともいう)を連続的に合成する。すなわち、HFPOは、ガス状のHFPと酸素ガスとの気相反応によって合成される。溶媒を用いてHFPOを連続的に合成する場合、原料であるHFPを溶媒中に溶解させる工程が必要になり、また、HFPOを含む合成ガス中に溶媒がガスやミストとして一定量同伴してしまう可能性があるため、溶媒を分離する工程が必要になる。本実施形態では、溶媒を用いずにHFPOを合成するため、これらの工程が不要である。その結果、従来の方法よりも工程を大幅に削減することができるため、製造コストの増大を抑制することができ、非常にシンプルなプロセスで目的物質であるHFPOを連続的に得ることができる。また、管型反応器を並列に並べる(ナンバリングアップする)ことで大量生産も可能となり、技術的に難易度が高いスケールアップを実施することなく、生産量を増やすことが可能となる。さらに、原単位の良化も期待でき、その上、溶媒を廃棄物として処理する必要もないため、環境への負荷も低減できる。
【0013】
図1は、本実施形態に係るHFPOの製造装置の一例を示す。
図1に示されるように、HFPOの製造装置10は、原料であるガス状のHFPが充填された第1のタンク(ボンベ)1と酸素ガスが充填された第2のタンク(ボンベ)2とを備える。HFPと酸素との流量は下流方向にあるマスフローコントローラ3によりそれぞれ調整する。銅製の管型反応器5はオイルバス4に浸漬されており、管型反応器5における反応温度はオイルバス4にて調整し、反応圧力は背圧弁6にて調整する。第1のタンク1および第2のタンク2からHFPと酸素2とをそれぞれ連続的に供給し、管型反応器5の加熱部にて供給された各ガスが反応し、反応生成物7としてHFPOが合成される。尚、反応生成物7には、目的物質であるHFPOの他に、副生成物としてフッ化カルボニル、二酸化炭素、トリフルオロアセチルフロライド、未反応のHFP、酸素等が含まれていてもよい。
【0014】
HFPの供給量は、特に限定されるものではなく、使用する管型反応器の体積(反応管長、反応管径)に応じて、反応時間(滞留時間)が所望とする範囲に入るように任意に設定できる。
【0015】
酸素の供給量は特に限定されるものではないが、HFPの供給量に対し0.1モル倍以上5モル倍以下であることが好ましく、経済性、安全性の観点から0.5モル倍以上1.5モル倍以下であることがより好ましく、0.8モル倍以上1.1モル倍以下であることがさらに好ましい。
【0016】
HFPOの合成で使用する管型反応器は銅製の管型反応器である。銅製の管型反応器を使用することにより、銅がHFPOの生成の触媒として機能していると考えられ、HFPOを合成させることができる。このような管型反応器は、できるだけ長い反応管をオイルバスに浸漬させるため、反応管がコイル状に巻かれた構造を有していることが好ましい。
【0017】
HFPOの生成は非常に発熱量の大きな反応であるため、内径が細い管型反応器を使用することにより、単位体積当たりの伝熱面積を大きくすることができる。そのため、管型反応器の内径(管径)は10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。管型反応器の内径が10mm以下であることにより、熱を素早く逃がすことが可能となり、プロセスの安全性を高めることが可能となる。また、管型反応器の長さは特に限定されるものはないが、0.5m以上100m以下であることが好ましく、1m以上50m以下であることがより好ましい。
【0018】
HFPと酸素との反応温度(オイルバスの温度)は、100℃以上220℃以下であり、150℃以上220℃以下であることが好ましい。HFPと酸素とは100℃以上220℃以下の範囲で気体として存在する。そのため、反応温度が100℃以上であることにより、気相反応に一定量の熱量が付加される。また、反応温度が220℃以下であることにより、副生成物であるフッ化カルボニルの生成を抑制し、HFPOの選択率を高めることができる。
【0019】
HFPと酸素との反応圧力は、HFPの蒸気圧(40℃、1.02MPaG)以下であれば特に限定されず、任意に設定することができ、0MPaG以上1MPaG以下であることが好ましく、0.2MPaG以上0.8MPaG以下であることがより好ましい。
【0020】
HFPと酸素とは、オイルバスに浸漬されている管型反応器の加熱部において加熱されることで反応する。加熱部におけるHFPおよび酸素の反応時間(滞留時間)は10秒以上1000秒以下であることが好ましく、得られるHFPOの収率の観点から100秒以上500秒以下であることがより好ましく、200秒以上400秒以下であることがさらに好ましく、290秒以上380秒以下であることが特に好ましい。特に、加熱部におけるHFPおよび酸素の反応時間が290秒以上380秒以下であることにより、HFPの転化率が著しく向上すると共に、HFPOの選択率を高めることができる。
【0021】
以上の実施形態に基づき、本発明は以下の[1]~[4]に関するものである。
[1]ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを銅製の管型反応器内で100℃以上220℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にヘキサフルオロプロピレンオキシドを合成することを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
[2]前記管型反応器の内径が10mm以下である、上記[1]に記載のヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
[3]前記管型反応器の加熱部において、前記ヘキサフルオロプロペンおよび前記酸素ガスの反応時間が10秒以上1000秒以下である、上記[1]または[2]に記載のヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
[4]ガス状のヘキサフルオロプロペンが充填された第1のタンクと、
酸素ガスが充填された第2のタンクと、
前記第1のタンクから連続的に供給されるヘキサフルオロプロペンと、前記第2のタンクから連続的に供給される酸素ガスとを100℃以上220℃以下の温度で反応させる銅製の管型反応器と、を備え、
前記管型反応器は溶媒を含んでいないことを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造装置。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0023】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
内径1.58mm、長さ10mの銅製の管型反応器を反応管として使用した。この反応管に原料であるガス状のHFPと酸素ガスとを反応管内における反応時間(滞留時間)が292秒になるように、量論比1:1で連続的にそれぞれ供給した。反応管を220℃に温度を調節したオイルバスに浸漬し、さらに背圧弁にて反応管内の圧力を0.5MPaGに調整した。その後、出口ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフ(GC)にて合成されたガス組成を確認した。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は91.5%、HFPOの選択率は21.7%、フッ化カルボニルの選択率は41.1%であった。
【0025】
<実施例2>
反応管においてガス状のHFPと酸素ガスとを379秒滞留させた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は98.6%、HFPOの選択率は28.4%、フッ化カルボニルの選択率は59.6%であった。
【0026】
<比較例1>
反応管において、反応温度を230℃とし、かつガス状のHFPと酸素ガスとを320秒滞留させた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は89.7%、HFPOの選択率は3.9%、フッ化カルボニルの選択率は90.4%であった。
【0027】
<比較例2>
内径0.5mm、長さ50mのステンレス製の管型反応器を反応管として使用した。この反応管に原料であるガス状のHFPと酸素ガスとを反応管内における滞留時間が135.5秒になるように、量論比1:1で連続的にそれぞれ供給した。反応管を200℃に温度を調節したオイルバスに浸漬し、さらに背圧弁にて反応管内の圧力を0.44MPaGに調整した。その後、出口ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフ(GC)にて合成されたガス組成を確認した。その結果を表1に示す。出口ガスをGCにより分析した結果、原料であるHFPと酸素以外のガスが検出されなかった。そのため、表1に示されるように、HFPの転化率は0%、HFPOの選択率は0%であり、反応が進行しなかった。
【0028】
<比較例3>
内容積1.2m3の撹拌機付きステンレス製オートクレーブを反応器として使用した。ここに溶媒としてのパーフルオロポリエーテル1000kgを導入し、さらにガス状のHFP326kgを溶媒に溶解させて、反応器の内温が120℃になるまで昇温した。その後、反応器内に酸素ガスを規定量(HFPに対して1.54モル当量)分添し、分添終了後にエージングを行った。エージングまで含めた反応時間は8時間であり、HFPの転化率は92.5%、HFPOの選択率は67.5%、フッ化カルボニルの選択率は7.7%であった。尚、エージングとは、供給した酸素の内、未反応の酸素を完全に消費するために温度・圧力を調節しながら撹拌を継続することをいう。
【0029】
【0030】
実施例1、2では、GCにて合成ガスの分析を行っており、リテンションタイムが早いガスとしてイナートが検出される。一般的に、空気(窒素、酸素、二酸化炭素等)がイナートに該当し、空気はガスのサンプリングや分析装置に導入する際に混入することがあるものの、HFPと酸素との反応で二酸化炭素が発生し、それが検出されている可能性もある。但し、今回使用したGCのカラム・条件では窒素、酸素、二酸化炭素を分離検出できないため、イナートには、副生成物として生成し得る二酸化炭素も含まれるものとする。
【0031】
実施例1~2および比較例1~3において、HFPOの選択率が20%以上であれば、連続的にHFPOが合成されていると評価した。表1に示されるように、実施例1、2では、ガス状のHFPと酸素ガスとの気相反応により連続的にHFPOが合成されていることを確認できた。
【0032】
反応温度が230℃である比較例1では、HFPOよりもフッ化カルボニルの合成反応が進行し、所望とするHFPOの選択率を達成できなかった。また、管型反応器の材質がステンレス(SUS)である比較例2では、反応が進行せず、HFPOを合成することができなかった。
【0033】
また、比較例3においては、HFPの高い転化率、高い選択率が達成されているものの、HFPと酸素との反応に溶媒としてパーフルオロポリエーテルを使用している。そのため、比較例3では溶媒を分離する工程が必要になるため、このような工程を必要としない実施例1、2は、比較例1の方法よりも工程を大幅に削減することができる。その結果、実施例1、2では比較例1よりも製造コストの増大を抑制することができ、非常にシンプルなプロセスで目的物質であるHFPOを連続的に得ることができることが見出せた。
1 第1のタンク、2 第2のタンク、3 マスフローコントローラ、4 オイルバス、5 管型反応器、6 背圧弁、7 反応生成物、10 ヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造装置