(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054626
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】カルボニルフロライドの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240410BHJP
【FI】
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160965
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 景
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕太
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA27
4G146AD30
4G146BA11
4G146BA48
4G146BC08
4G146BC24
4G146BC31A
4G146BC31B
4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC38B
4G146DA03
4G146DA21
4G146DA23
4G146DA34
4G146DA48
(57)【要約】
【課題】本発明は、安全性が高く、簡易なプロセスで連続的にカルボニルフロライドを製造可能な方法および装置を提供する。
【解決手段】ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを管型反応器内で230℃以上300℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にカルボニルフロライドを合成することを特徴とするカルボニルフロライドの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを管型反応器内で230℃以上300℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にカルボニルフロライドを合成することを特徴とするカルボニルフロライドの製造方法。
【請求項2】
前記管型反応器が銅製の管型反応器である、請求項1に記載のカルボニルフロライドの製造方法。
【請求項3】
前記管型反応器の内径が10mm以下である、請求項1または2に記載のカルボニルフロライドの製造方法。
【請求項4】
前記管型反応器の加熱部において、前記ヘキサフルオロプロペンおよび前記酸素ガスの反応時間が10秒以上1000秒以下である、請求項1または2に記載のカルボニルフロライドの製造方法。
【請求項5】
ガス状のヘキサフルオロプロペンが充填された第1のタンクと、
酸素ガスが充填された第2のタンクと、
前記第1のタンクから連続的に供給されるヘキサフルオロプロペンと、前記第2のタンクから連続的に供給される酸素ガスとを230℃以上300℃以下の温度で反応させる管型反応器と、を備え、
前記管型反応器は溶媒を含んでいないことを特徴とするヘキサフルオロプロピレンオキシドの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニルフロライドの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニルフロライドは、各種高級フッ素化合物の原料、フッ素化剤、半導体製造時のクリーニングガス等として有用な化合物であり、中でも、ヘキサフルオロプロペンオキシドと反応し、パーフルオロメチルビニルエーテルを製造する際の原料として非常に有用な化合物である。
【0003】
カルボニルフロライドの製造方法として、特許文献1には、不活性ガスの存在下、気相中で一酸化炭素とフッ素ガスを直接反応させる方法が開示されている。また、特許文献2には、一酸化炭素とフッ素ガスを不活性溶媒中で反応させる方法が開示されている。しかしながら、いずれの方法も反応性の高いフッ素ガスを原料として使用するため、安全面、取り扱い面での対策が必要不可欠であり、また、反応による激しい発熱が伴うことからその徐熱対策も必要となる。さらに、これらの方法では、発熱を抑制するために、不活性ガスまたは不活性溶媒中での反応を推奨しているものの、これらを分離する工程が必要となり、プロセスの煩雑化を招き得る。
【0004】
特許文献3には、テトラフルオロエチレンガスを酸素と反応させてフッ化カルボニルを得る方法が開示されている。しかしながら、この方法は高温下で反応を実施するため、テトラフルオロエチレンの不均化反応が起きる可能性が高まる。また、反応器として高温反応用マイクロリアクタが使用されているものの、テトラフルオロエチレンは容易に自己重合し、析出物による反応管の閉塞が起こり得るため、メンテナンスの頻度が増加し、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0005】
特許文献4には、プラズマリアクター中にある金属フッ化物に一酸化炭素を供給し、反応させることでカルボニルフロライドを得る方法が開示されている。しかしながら、この技術では反応を進行させるために原料である一酸化炭素を過剰量供給する必要があり、出口ガス中に未反応の一酸化炭素が大量に含まれてしまう。そのため、未反応の原料を分離回収する工程が必要になり、プロセスの煩雑化を招き得る。また、定期的にプラズマリアクター中の金属フッ化物を交換する必要があるため、プラズマリアクターの使用は工業的生産として非常に不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-267712号公報
【特許文献2】国際公開第2006/64917号
【特許文献3】特開2013-14500号公報
【特許文献4】国際公開第96/19409号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうした背景から、本発明は、安全性が高く、簡易なプロセスで連続的にカルボニルフロライドを製造可能な方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るカルボニルフロライドの製造方法では、ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを管型反応器内で230℃以上330℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にカルボニルフロライドを合成する。
【0009】
本実施形態に係るカルボニルフロライドの製造装置は、ガス状のヘキサフルオロプロペンが充填された第1のタンクと、酸素ガスが充填された第2のタンクと、前記第1のタンクから連続的に供給されるヘキサフルオロプロペンと、前記第2のタンクから連続的に供給される酸素ガスとを230℃以上330℃以下の温度で反応させる管型反応器と、を備えており、前記管型反応器は溶媒を含んでいない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性が高く、簡易なプロセスで連続的にカルボニルフロライドを製造可能な方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るカルボニルフロライドの製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<カルボニルフロライドの製造>
本実施形態において、原料としてガス状のヘキサフルオロプロペン(以下、「HFP」ともいう)と酸素ガスを使用し、管型反応器内で溶媒を用いずにカルボニルフロライド(COF2)を連続的に合成する。すなわち、カルボニルフロライドは、ガス状のHFPと酸素ガスとの気相反応によって合成される。カルボニルフルオライドの生成反応は大きな発熱を伴うものの、単位体積当たりの伝熱面積を大きく取ることができる管型反応器を使用することで、安全かつ連続的に目的物質を得ることが可能となる。溶媒を用いてカルボニルフロライドを合成する場合、原料であるHFPを溶媒中に溶解させる工程が必要になり、また、カルボニルフロライドを含む合成ガス中に溶媒がガスやミストとして一定量同伴してしまう可能性があるため、溶媒を分離する工程が必要になる。本実施形態では、溶媒を用いずにカルボニルフロライドを合成するため、これらの工程が不要である。その結果、非常にシンプルなプロセスで目的物質であるカルボニルフロライドを連続的に得ることができる。また、管型反応器を並列に並べる(ナンバリングアップする)ことで大量生産も可能となり、技術的に難易度が高いスケールアップを実施することなく、生産量を増やすことが可能となる。さらに、原単位の良化も期待でき、その上、溶媒を廃棄物として処理する必要もないため、環境への負荷も低減できる。また、原料として使用されるHFPと酸素は安定で毒性の低い物質であるため、安全性が高く、取り扱い性にも優れている。
【0013】
図1は、本実施形態に係るカルボニルフロライドの製造装置の一例を示す。
図1に示されるように、カルボニルフロライドの製造装置10は、原料であるガス状のHFPが充填された第1のタンク(ボンベ)1と酸素ガスが充填された第2のタンク(ボンベ)2を備える。HFPと酸素との流量は下流方向にあるマスフローコントローラ3によりそれぞれ調整する。管型反応器5はオイルバス4に浸漬されており、管型反応器5における反応温度はオイルバス4にて調整し、反応圧力は背圧弁6にて調整する。第1のタンク1および第2のタンク2からHFPと酸素とをそれぞれ連続的に供給し、管型反応器の加熱部にて供給された各ガスが反応し、反応生成物7としてカルボニルフロライドが合成される。尚、反応生成物7には、目的物質であるカルボニルフロライドの他に、副生成物として、ヘキサフルオロプロペンオキシド、二酸化炭素、トリフルオロアセチルフロライド、未反応のHFP、酸素等が含まれていてもよい。副生成物として生成されるヘキサフルオロプロペンオキシドは、カルボニルフロライドよりも沸点が高く、毒性も低い物質であるため、カルボニルフロライドをヘキサフルオロプロペンオキシドから容易にかつ安全に分離させることができる。
【0014】
HFPの供給量は、特に限定されるものではなく、使用する管型反応器の体積(反応管長、反応管径)に応じて、反応時間(滞留時間)が所望とする範囲に入るように任意に設定できる。
【0015】
酸素の供給量は特に限定されるものではないが、HFPの供給量に対し0.1モル倍以上5モル倍以下であることが好ましく、経済性、安全性の観点から0.5モル倍以上1.5モル倍以下であることがより好ましく、0.9モル倍以上1.2モル倍以下であることがさらに好ましい。
【0016】
カルボニルフロライドの合成で使用する管型反応器は銅製の管型反応器であることが好ましい。銅製の管型反応器を使用することにより、銅がカルボニルフロライドの生成の触媒として機能していると考えられ、カルボニルフロライドの合成を促進させることができる。このような管型反応器は、できるだけ長い反応管をオイルバスに浸漬させるため、反応管がコイル状に巻かれた構造を有していることが好ましい。
【0017】
カルボニルフロライドの生成は非常に発熱量の大きな反応であるため、内径が細い管型反応器を使用することにより、単位体積当たりの伝熱面積を大きくすることができる。そのため、管型反応器の内径(管径)は10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。管型反応器の内径が10mm以下であることにより、熱を素早く逃がすことが可能となり、より安全にカルボニルフロライドを製造することが可能となる。また、管型反応器の長さは特に限定されるものはないが、0.5m以上100m以下であることが好ましく、1m以上50m以下であることがより好ましい。
【0018】
HFPと酸素との反応温度(オイルバスの温度)は、230℃以上300℃以下であり、230℃以上260℃以下であることが好ましい。反応温度が230℃以上であることにより、副生成物であるヘキサフルオロプロペンオキシドの生成を抑制し、カルボニルフロライドの選択率を高めることができる。また、反応温度が300℃以下であることにより、カルボニルフロライドの合成において安全性を高めることができる。
【0019】
HFPと酸素との反応圧力は、HFPの蒸気圧(40℃、1.02MPaG)以下であれば特に限定されず、任意に設定することができ、0MPaG以上1.0MPaG以下であることが好ましく、0.2MPaG以上0.8MPaG以下であることがより好ましい。
【0020】
HFPと酸素とは、オイルバスに浸漬されている管型反応器の加熱部において加熱されることで反応する。加熱部におけるHFPおよび酸素の反応時間(滞留時間)は10秒以上1000秒以下であることが好ましく、得られるカルボニルフロライドの収率の観点から100秒以上500秒以下であることがより好ましく、200秒以上400秒以下であることがさらに好ましく、210秒以上320秒以下であることが特に好ましい。特に、加熱部におけるHFPおよび酸素の反応時間が210秒以上320秒以下であることにより、HFPの転化率が著しく向上すると共に、カルボニルフロライドの選択率を高めることができる。
【0021】
以上の実施形態に基づき、本発明は以下の[1]~[5]に関するものである。
[1]ガス状のヘキサフルオロプロペンと酸素ガスとを管型反応器内で230℃以上300℃以下の温度で溶媒を用いずに反応させ、連続的にカルボニルフロライドを合成することを特徴とするカルボニルフロライドの製造方法。
[2]前記管型反応器が銅製の管型反応器である、上記[1]に記載のカルボニルフロライドの製造方法。
[3]前記管型反応器の内径が10mm以下である、上記[1]または[2]に記載のカルボニルフロライドの製造方法。
[4]前記管型反応器の加熱部において、前記ヘキサフルオロプロペンおよび前記酸素ガスの反応時間が10秒以上1000秒以下である、上記[1]乃至[3]までのいずれか1つに記載のカルボニルフロライドの製造方法。
[5]ガス状のヘキサフルオロプロペンが充填された第1のタンクと、
酸素ガスが充填された第2のタンクと、
前記第1のタンクから連続的に供給されるヘキサフルオロプロペンと、前記第2のタンクから連続的に供給される酸素ガスとを230℃以上300℃以下の温度で反応させる管型反応器と、を備え、
前記管型反応器は溶媒を含んでいないことを特徴とするカルボニルフロライドの製造装置。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0023】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
内径1.58mm、長さ10mの銅製の管型反応器を反応管として使用した。この反応管に原料であるガス状のHFPと酸素ガスとを反応管内における反応時間(滞留時間)が216秒になるように、量論比1:1で連続的にそれぞれ供給した。反応管を230℃に温度を調節したオイルバスに浸漬し、さらに背圧弁にて反応管内の圧力を0.5MPaGに調整した。その後、出口ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフ(GC)にて合成されたガス組成を確認した。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は84.2%、カルボニルフロライドの選択率は73.6%、ヘキサフルオロプロペンオキシド(HFPO)の選択率は4.5%であった。
【0025】
<実施例2>
反応管においてガス状のHFPと酸素ガスとを224秒滞留させた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は89.8%、カルボニルフロライドの選択率は82.0%、ヘキサフルオロプロペンオキシドの選択率は3.4%であった。
【0026】
<実施例3>
反応管においてガス状のHFPと酸素ガスとを320秒滞留させた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は89.7%、カルボニルフロライドの選択率は90.4%、ヘキサフルオロプロペンオキシドの選択率は3.9%であった。
【0027】
<比較例1>
反応管において、反応温度を220℃とし、かつガス状のHFPと酸素ガスとを379秒滞留させた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は98.6%、カルボニルフロライドの選択率は59.6%、ヘキサフルオロプロペンオキシドの選択率は28.4%であった。
【0028】
<比較例2>
反応管において、反応温度を220℃とし、かつガス状のHFPと酸素ガスとを292秒滞留させた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。表1に示されるように、HFPの転化率は91.5%、カルボニルフロライドの選択率は41.1%、ヘキサフルオロプロペンオキシドの選択率は21.7%であった。
【0029】
【0030】
実施例1~3および比較例1~2では、GCにて合成ガスの分析を行っており、リテンションタイムが早いガスとしてイナートが検出される。一般的に、空気(窒素、酸素、二酸化炭素等)がイナートに該当し、空気はガスのサンプリングや分析装置に導入する際に混入することがあるものの、HFPと酸素との反応で二酸化炭素が発生し、それが検出されている可能性もある。但し、今回使用したGCのカラム・条件では窒素、酸素、二酸化炭素を分離検出できないため、イナートには、副生成物として生成し得る二酸化炭素も含まれるものとする。
【0031】
実施例1~3および比較例1~2において、カルボニルフロライドの選択率が70%以上であれば、連続的にカルボニルフロライドが合成されていると評価した。表1に示されるように、実施例1~3では、ガス状のHFPと酸素ガスとの気相反応により連続的にカルボニルフロライドが合成されていることを確認できた。また、実施例1~3では溶媒を分離する工程を必要としないため、非常にシンプルなプロセスで、かつ安全に目的物質であるカルボニルフロライドを連続的に得ることができた。一方、反応温度が220℃である比較例1および2では、所望とするカルボニルフロライドの選択率を達成できなかった。
1 第1のタンク、2 第2のタンク、3 マスフローコントローラ、4 オイルバス、5 管型反応器、6 背圧弁、7 反応生成物、10 カルボニルフロライドの製造装置