(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054638
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】釣合い錘および衝突緩和装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20240410BHJP
B66B 7/06 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B66B5/00 D
B66B7/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160993
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈良井 辰馬
【テーマコード(参考)】
3F304
3F305
【Fターム(参考)】
3F304BA02
3F304BA22
3F304EA01
3F304ED18
3F305BA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】釣合い錘への保守員の衝突による影響を緩和する釣合い錘および衝突緩和装置を提供する。
【解決手段】釣合い錘12は、昇降路3の内壁4に背面が対向するように昇降路3に配置される。釣合い錘12は、昇降路3において上下方向を長手方向とするガイドレール16にガイドされて走行する。釣合い錘12の衝突緩和装置20は、距離センサー24と、検知部30と、エアバッグ23と、を備える。距離センサー24は、釣合い錘12の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する。検知部30は、距離センサー24の計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、保守員が第1閾値より接近していることを検知する。エアバッグ23は、釣合い錘12の下端部に配置される。エアバッグ23は、保守員が第1閾値より接近していることを検知部30が検知するときに、下方に向けて展開する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路の内壁に背面が対向するように前記昇降路に配置され、前記昇降路において上下方向を長手方向とするガイドレールにガイドされて走行する釣合い錘であり、
釣合い錘の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する距離センサーと、
前記距離センサーの計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを検知する検知部と、
釣合い錘の下端部に配置され、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、下方に向けて展開するエアバッグと、
を備える、釣合い錘。
【請求項2】
前記エアバッグは、背面側が前面側に先行するように展開する、
請求項1に記載の釣合い錘。
【請求項3】
前記エアバッグは、展開直後の形状が、背面側の下端部が前面側の下端部より下方にある形状である、
請求項1に記載の釣合い錘。
【請求項4】
前記エアバッグは、下方の斜め前方に向けて展開する、
請求項1に記載の釣合い錘。
【請求項5】
釣合い錘に設けられた釣合い錘の走行に連動して回転する回転体の回転によって電力を発生させる発電装置と、
前記発電装置が発生させた電力を蓄積し、蓄積している電力を前記距離センサーおよび前記検知部に供給する電池と、
を備える、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の釣合い錘。
【請求項6】
前記回転体は、前記ガイドレールに接触するガイドローラである、
請求項5に記載の釣合い錘。
【請求項7】
前記回転体は、釣合い錘の荷重を支持する主ロープが巻き掛けられた釣合い錘シーブである、
請求項5に記載の釣合い錘。
【請求項8】
前記保守員に警告を行うための警告信号を出力する警告部
を備え、
前記検知部は、前記第1閾値より長い距離に予め設定された第2閾値より前記距離センサーの計測する距離が短いときに、前記保守員が前記第2閾値より接近していることを検知し、
前記警告部は、前記保守員が前記第2閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、前記警告信号を出力する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の釣合い錘。
【請求項9】
前記警告部は、前記警告信号を、当該警告信号を受け付けるときに警告音声を発する警報装置に出力する、
請求項8に記載の釣合い錘。
【請求項10】
前記警告部は、前記警告信号を、当該警告信号を受け付けるときに点灯または点滅する照明装置に出力する、
請求項8に記載の釣合い錘。
【請求項11】
前記警告信号を受け付けるときに、釣合い錘の下端部に設けられた噴出口から下方に向けて気体を噴出する噴出装置
を備え、
前記警告部は、前記警告信号を前記噴出装置に出力する、
請求項8に記載の釣合い錘。
【請求項12】
昇降路の内壁に背面が対向するように配置された前記昇降路において上下方向を長手方向とするガイドレールにガイドされて走行する釣合い錘の下端部に取り付けられ、
前記釣合い錘の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する距離センサーと、
前記距離センサーの計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを検知する検知部と、
前記保守員が前記第1閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、下方に向けて展開するエアバッグと、
を備える、衝突緩和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、釣合い錘および衝突緩和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、エレベーターの警報システムの例を開示する。当該システムにおいて、ビーコンによって釣合い錘と保守員との接近が検出される。釣合い錘と保守員との接近が検出されるときに、音声により警報が発せられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の警報システムにおいて、保守作業中の保守員は、音声による警報に気が付かない可能性がある。このとき、保守員が釣合い錘に衝突する可能性がある。
【0005】
本開示は、このような課題の解決に係るものである。本開示は、釣合い錘への保守員の衝突による影響を緩和する釣合い錘および衝突緩和装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る釣合い錘は、昇降路の内壁に背面が対向するように前記昇降路に配置され、前記昇降路において上下方向を長手方向とするガイドレールにガイドされて走行する釣合い錘であり、釣合い錘の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する距離センサーと、前記距離センサーの計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを検知する検知部と、釣合い錘の下端部に配置され、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、下方に向けて展開するエアバッグと、を備える。
【0007】
本開示に係る衝突緩和装置は、昇降路の内壁に背面が対向するように配置された前記昇降路において上下方向を長手方向とするガイドレールにガイドされて走行する釣合い錘の下端部に取り付けられ、前記釣合い錘の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する距離センサーと、前記距離センサーの計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを検知する検知部と、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、下方に向けて展開するエアバッグと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る釣合い錘または衝突緩和装置によれば、釣合い錘への保守員の衝突による影響が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係るエレベーターの構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る釣合い錘の正面図である。
【
図3】実施の形態1に係る衝突緩和装置の構成図である。
【
図4】実施の形態1に係るエアバッグの展開の例を示す図である。
【
図5】実施の形態1に係る衝突緩和装置の動作の例を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る衝突緩和装置の主要部のハードウェア構成図である。
【
図7】実施の形態1の第1の変形例に係る釣合い錘の正面図である。
【
図8】実施の形態1の第2の変形例に係る釣合い錘の側面図である。
【
図9】実施の形態2に係るエアバッグの展開の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の対象を実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示の対象は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態の任意の構成要素の変形、または実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るエレベーター1の構成図である。
【0012】
エレベーター1は、例えば複数の階床を有する建物2に適用される。建物2において、エレベーター1の昇降路3が設けられる。昇降路3は、複数の階床にわたる上下方向に長い空間である。昇降路3は、上下方向に長い内壁4に囲まれた空間である。なお、昇降路3の内壁4は、平坦でなくてもよい。昇降路3の内壁4において、エレベーター1の機器などが設けられていてもよい。各々の階床において、昇降路3に隣接する乗場5が設けられる。各々の階床の乗場5において、エレベーター1の乗場ドア6が設けられる。乗場ドア6は、乗場5および昇降路3を区画するドアである。昇降路3の下端部において、ピット7が設けられる。エレベーター1の保守の際に、例えばピット7などにおいて保守員Mによる保守作業が行われる。ピット7において、エレベーター1の保守の際などにピット7を照らすピット灯8が設けられる。ピット灯8は、照明装置の例である。
【0013】
エレベーター1は、巻上機9と、主ロープ10と、かご11と、釣合い錘12と、バッファ13と、制御盤14と、を備える。
【0014】
巻上機9は、駆動力を発生させるモーター、およびモーターが発生させる駆動力によって回転するシーブを備える。巻上機9は、例えば昇降路3の上部または下部などに配置される。あるいは、エレベーター1において例えば昇降路3の上方などに機械室が設けられる場合に、巻上機9は機械室に配置されてもよい。
【0015】
主ロープ10は、昇降路3においてかご11および釣合い錘12の荷重を支持するロープである。主ロープ10は、巻上機9のシーブに巻きかけられる。主ロープ10は、巻上機9のシーブの一方側においてかご11の荷重を支持する。主ロープ10は、巻上機9のシーブの他方側において釣合い錘12の荷重を支持する。主ロープ10は、巻上機9のシーブの回転によって、巻上機9のシーブに巻き上げられるように、または巻上機9のシーブから繰り出されるように移動する。
【0016】
かご11は、昇降路3を上下方向に走行することで、建物2の複数の階床の間で利用者などを輸送する機器である。かご11は、かごドア15を備える。かごドア15は、利用者が乗車するかご11の内部およびかご11の外部を区画するドアである。かごドア15は、かご11がいずれかの階床に停止するときに、当該階床の乗場5に設けられた乗場ドア6を連動させて開閉する。釣合い錘12は、巻上機9のシーブの両側にかかる荷重の釣合いをかご11との間でとる機器である。釣合い錘12は、背面が昇降路3の内壁4に対向するように昇降路3に配置される。エレベーター1の保守などの際に、ピット7において保守作業を行う保守員Mは、釣合い錘12より前方のスペースにおいて保守作業を行う。かご11および釣合い錘12は、巻上機9のモーターおよびシーブによって移動する主ロープ10に連動して、上下方向において昇降路3を互いに反対側に走行する。
【0017】
バッファ13は、ピット7において、かご11および釣合い錘12の各々の下方に配置される。バッファ13は、かご11または釣合い錘12が昇降路3の底部に衝突する場合の衝撃を緩和する装置である。
【0018】
制御盤14は、エレベーター1の動作を制御する機器である。制御盤14によるエレベーター1の動作の制御は、例えばかご11の走行などを含む。制御盤14は、例えば昇降路3の上部または下部などに配置される。あるいは、機械室が設けられる場合に、制御盤14は機械室に配置されてもよい。
【0019】
図2は、実施の形態1に係る釣合い錘12の正面図である。
【0020】
昇降路3において、上下方向を長手方向とする一対のガイドレール16が配置される。一対のガイドレール16は、互いに平行に配置される。各々のガイドレール16は、釣合い錘12の走行をガイドする機器である。一対のガイドレール16は、釣合い錘12の左右の両側に配置される。すなわち、釣合い錘12は、一対のガイドレール16の間に配置されている。
【0021】
釣合い錘12は、錘枠17と、錘ブロック18と、錘ガイド19と、衝突緩和装置20と、を備える。
【0022】
錘枠17は、釣合い錘12の外周をなす枠状の機器である。錘枠17の形状は、例えば、矩形状である。この例において、釣合い錘12側の主ロープ10は、錘枠17の上側の辺に取り付けられる。錘枠17は、下端部にスペーサ21を有する。スペーサ21は、釣合い錘12が昇降路3の底部に衝突する場合に、釣合い錘12の下端部のバッファ13に当たる部分である。この例において、スペーサ21は、錘枠17の下端部において水平方向の中心部に配置されている。
【0023】
錘ブロック18は、釣合い錘12の重量を調整しうるように、錘枠17に積み込まれる。
【0024】
錘ガイド19は、ガイドレール16による釣合い錘12の走行方向のガイドを受ける装置である。この例において、錘ガイド19は、錘枠17の4隅の部分の外側にそれぞれ取り付けられる。錘ガイド19は、ガイドレール16に接触することで、ガイドレール16による接触を受ける。
【0025】
衝突緩和装置20は、釣合い錘12への保守員Mの衝突による影響を緩和する装置である。衝突緩和装置20は、釣合い錘12の下端部に配置される。衝突緩和装置20は、釣合い錘12自体と一体に設けられる内部装置であってもよいし、既存の釣合い錘に外部から取り付けられる外部装置であってもよい。この例において、衝突緩和装置20は、錘枠17の下側の辺に一体に設けられている。
【0026】
図3は、実施の形態1に係る衝突緩和装置20の構成図である。
図3において、下方から見た釣合い錘12が示される。
【0027】
釣合い錘12の錘ガイド19は、ガイドローラ22を含む。ガイドローラ22は、ガイドレール16に接触するローラである。ガイドローラ22は、釣合い錘12が走行するときにガイドレール16の表面上を回転しながら移動する。この例において、各々の錘ガイド19は、ガイドレール16に3方向から接触する3つのガイドローラ22を含む。
【0028】
衝突緩和装置20は、エアバッグ23と、距離センサー24と、噴出装置25と、警報装置26と、発電装置27と、電池28と、制御装置29と、を備える。
【0029】
エアバッグ23は、展開を表す制御信号を受け付けるときに、下方に向けて膨らむように展開する装置である。展開の際に、エアバッグ23は、衝突緩和装置20に設けられた吐出口から飛び出すように膨らむ。エアバッグ23の吐出口は、下方に向けられる。エアバッグ23は、化学反応などで急激に発生させたガスによって展開するものであってもよいし、圧縮空気などによって展開するものであってもよいし、図示されないファンなどから吹き込まれる気体によって展開するものであってもよい。この例において、エアバッグ23の吐出口は、スペーサ21の左右の両側に配置される。
【0030】
距離センサー24は、外部の物体との距離を非接触で計測するセンサーである。距離センサー24は、例えばレーザ距離計などである。ここで、レーザ距離計は、例えば三角測距方式またはToF方式(ToF:Time of Flight)などのいずれの方式によって測距を行ってもよい。また、例えばToF方式のレーザ距離計は、位相差法またはパルス法のいずれの方法によってToFを計測してもよい。あるいは、距離センサー24は、超音波を用いた距離計であってもよい。また、距離センサー24は、ステレオカメラなどであってもよい。また、距離センサー24は、ToFカメラなどであってもよい。距離センサー24は、釣合い錘12の下端部より下方にいる保守員Mまでの距離を計測する。この例において、距離センサー24は、エアバッグ23の吐出口の前後の両側に配置される。距離センサー24が距離を計測する方向は、例えば、釣合い錘12の真下、または釣合い錘12の真下から前面側に傾いた方向などに向けられる。
【0031】
噴出装置25は、噴出を表す制御信号を受け付けるときに、噴出口から気体を噴出する装置である。噴出装置25の噴出口は、下方に向けられる。噴出装置25は、ファンなどによって空気を噴出するものであってもよいし、圧縮空気などを噴出するものであってもよい。この例において、噴出装置25の噴出口は、エアバッグ23の吐出口に隣接して配置される。噴出装置25の噴出口は、例えば、エアバッグ23の吐出口の左右の外側に配置される。
【0032】
警報装置26は、警報を表す警告信号を受け付けるときに、当該警報を警告音声として発する装置である。警報装置26は、例えばスピーカーを含む。警告音声は、例えば、警報の内容を表すアナウンスであってもよいし、ブザー音などであってもよい。
【0033】
発電装置27は、釣合い錘12に設けられた回転体の回転によって電力を発生させる装置である。回転体は、釣合い錘12の走行に連動して回転する。回転体は、例えば、錘ガイド19のガイドローラ22などである。発電装置27は、例えば、釣合い錘12に設けられた全部または一部のガイドローラ22の回転によって電力を発生させる。
【0034】
電池28は、電力を蓄積し、蓄積している電力を他の装置などに供給する装置である。電池28は、発電装置27が発電する電力を蓄積する。電池28は、衝突緩和装置20のエアバッグ23、距離センサー24、噴出装置25、警報装置26、発電装置27、および制御装置29の一部または全部などに電力を供給する。
【0035】
制御装置29は、衝突緩和装置20において情報処理を行う装置である。制御装置29は、検知部30と、警告部31と、を備える。
【0036】
検知部30は、距離センサー24の計測する距離などに基づいて、保守員Mの接近を検知する機能を搭載する部分である。検知部30は、距離センサー24の計測する距離が第1閾値より短いときに、保守員Mが第1閾値より接近していることを検知する。また、検知部30は、距離センサー24の計測する距離が第2閾値より短いときに、保守員Mが第1閾値より接近していることを検知する。ここで、第1閾値および第2閾値は、距離についての予め設定された閾値である。第2閾値は、第1閾値より長い距離に設定される。第1閾値は、例えば0.5mなどの距離に設定される。このとき、第2閾値は、例えば1.5mなどの距離に設定される。検知部30は、保守員Mが第1閾値より接近していることを検知するときに、展開を表す制御信号をエアバッグ23に出力する。
【0037】
なお、検知部30は、釣合い錘12の下端部より下方に保守員Mがいるとは想定されない位置に釣合い錘12がいるときに、保守員Mの接近の検出を停止してもよい。例えば釣合い錘12の下端部から昇降路3の底部までの距離が保守員Mの身長程度の長さより短くなる位置に釣合い錘12がある場合に、釣合い錘12の下方に保守員Mが誤って入りこむことは通常想定されない。このため、釣合い錘12の位置がこのような範囲にある場合に、検知部30は、距離センサー24の計測する距離によらずに、保守員Mの接近の検出を停止してもよい。例えば、釣合い錘12の下端部から昇降路3の底部までの距離が第1閾値または第2閾値より短くなる位置に釣合い錘12がある場合に、検知部30は、保守員Mの接近の検出を停止してもよい。これにより、検知部30は、距離センサー24が昇降路3の底部までの距離を計測している場合に、釣合い錘12が昇降路3の底部に接近したことを、保守員Mの接近と誤検出しにくくなる。検知部30は、有線または無線によってエレベーター1の制御盤14と通信できる場合に、制御盤14から釣合い錘12の位置を取得してもよい。検知部30は、図示されないカメラまたはその他のセンサーなどによって、釣合い錘12の位置を取得してもよい。
【0038】
警告部31は、保守員Mに警告を行うための警告信号を出力する機能を搭載する部分である。警告部31は、保守員Mが第2閾値より接近していることを検知部30が検知するときに、警告信号を出力する。警告部31は、例えば、警告信号として、噴出を表す制御信号を噴出装置25に出力する。警告部31は、例えば、警報を表す警告信号を警報装置26に出力する。警告部31は、例えば、警告信号として、点灯または点滅を行わせる制御信号をピット灯8などの照明装置に出力する。なお、衝突緩和装置20自体が図示されない照明装置を搭載している場合に、警告部31は、当該照明装置に警告信号として当該制御信号を出力してもよい。
【0039】
図4は、実施の形態1に係るエアバッグ23の展開の例を示す図である。
図4において、側方から見た釣合い錘12が示される。
【0040】
展開を表す制御信号を受け付けるときに、エアバッグ23は、釣合い錘12の下端部から下方に向けて膨らむように展開する。この例において、エアバッグ23は、下方の斜め前方に向けて展開する。すなわち、エアバッグ23は、昇降路3の内壁4から離れる方向に向けて展開する。
【0041】
釣合い錘12の下端部から下方に向けてエアバッグ23が膨らむので、釣合い錘12の下方にいる保守員Mが衝突したとしても、緩衝材として働くエアバッグ23によって衝突による影響が緩和されうる。また、エアバッグ23は、昇降路3の内壁4から離れる方向に向けて展開するので、保守員Mは、ピット7において広いスペースのある側に押し逃がされる。これにより、保守員Mの錘枠17などへの衝突が回避される。
【0042】
図5は、実施の形態1に係る衝突緩和装置20の動作の例を示すフローチャートである。
【0043】
ステップS1において、距離センサー24は、ピット7において作業している保守員Mまでの距離を計測する。その後、衝突緩和装置20の処理は、ステップS2に進む。
【0044】
ステップS2において、検知部30は、距離センサー24の計測する距離が第1閾値より短いかを判定する。判定結果がYesの場合に、衝突緩和装置20の処理は、ステップS3に進む。一方、判定結果がNoの場合に、衝突緩和装置20の処理は、ステップS4に進む。
【0045】
ステップS3において、検知部30は、展開を表す制御信号をエアバッグ23に出力する。エアバッグ23は、入力される制御信号に基づいて、下方に向けて膨らむように展開する。ここで、有線または無線によって衝突緩和装置20がエレベーター1の制御盤14と通信できる場合に、検知部30は、エレベーター1を停止させる制御信号を制御盤14に出力してもよい。当該制御信号を受け付けた制御盤14は、エレベーター1を停止させる。制御盤14は、その後、例えば保守員Mなどによる手動のリセット操作を受けるまで、エレベーター1の再起動を制限してもよい。エアバッグ23の展開などの後に、衝突緩和装置20の動作は、終了する。
【0046】
ステップS4において、検知部30は、距離センサー24の計測する距離が第2閾値より短いかを判定する。判定結果がYesの場合に、衝突緩和装置20の処理は、ステップS5に進む。一方、判定結果がNoの場合に、衝突緩和装置20の処理は、ステップS1に進む。
【0047】
ステップS5において、検知部30は、警告を表す制御信号を警告部31に出力する。警告部31は、入力される制御信号に基づいて、警告信号の出力を行う。警告部31は、例えば、警報装置26、ピット灯8、および噴出装置25に警告信号を出力する。警報装置26は、入力される警告信号に基づいて、警告音声を発することによって保守員Mへの警告を行う。ピット灯8は、入力される警告信号に基づいて、点灯または点滅などによって保守員Mへの警告を行う。噴出装置25は、入力される警告信号に基づいて、気体を噴出することによって保守員Mへの警告を行う。その後、衝突緩和装置20の処理は、ステップS1に進む。
【0048】
以上に説明したように、実施の形態1に係る釣合い錘12は、昇降路3の内壁4に背面が対向するように昇降路3に配置される。釣合い錘12は、昇降路3において上下方向を長手方向とするガイドレール16にガイドされて走行する。釣合い錘12は、衝突緩和装置20を備える。衝突緩和装置20は、距離センサー24と、検知部30と、エアバッグ23と、を備える。距離センサー24は、釣合い錘12の下端部より下方にいる保守員Mまでの距離を計測する。検知部30は、距離センサー24の計測する距離が第1閾値より短いときに、保守員Mが第1閾値より接近していることを検知する。第1閾値は、予め設定された距離の閾値である。エアバッグ23は、釣合い錘12の下端部に配置される。エアバッグ23は、保守員Mが第1閾値より接近していることを検知部30が検知するときに、下方に向けて展開する。
【0049】
このような構成により、釣合い錘12の下方に保守員Mが接近したときに釣合い錘12の下端部から下方に向けてエアバッグ23が膨らむので、保守員Mが衝突したとしても、緩衝材として働くエアバッグ23によって衝突による影響が緩和される。
【0050】
また、エアバッグ23は、下方の斜め前方に向けて展開する。
【0051】
このような構成により、エアバッグ23は、昇降路3の内壁4から離れる方向に向けて展開するので、保守員Mは、ピット7において広いスペースのある側に押し逃がされる。これにより、保守員Mの錘枠17などへの衝突が回避される。
【0052】
また、釣合い錘12は、発電装置27と、電池28と、を備える。発電装置27は、釣合い錘12に設けられた回転体の回転によって電力を発生させる。ここで、回転体は、釣合い錘12の走行に連動して回転する。回転体は、例えば、ガイドレール16に接触するガイドローラ22である。電池28は、発電装置27が発生させた電力を蓄積する。電池28は、蓄積している電力を距離センサー24および検知部30に供給する。
【0053】
このような構成により、エレベーター1の通常の運転によって、電池28に電力が蓄積される。距離センサー24および検知部30は電池28に蓄積された電力によって動作できるので、外部から電力を供給するための配線などが省略できるようになる。このため、釣合い錘12の構造が複雑になりにくい。また、衝突緩和装置20は、制御盤14などの他の機器と独立に動作できるので、制御盤14などに異常が発生した場合においてもより確実に動作できるようになる。
【0054】
また、釣合い錘12は、警告部31を備える。警告部31は、保守員Mに警告を行うための警告信号を出力する。検知部30は、距離センサー24の計測する距離が第2閾値より短いときに、保守員Mが第2閾値より接近していることを検知する。第2閾値は、第1閾値より長い距離に予め設定された、距離の閾値である。警告部31は、保守員Mが第2閾値より接近していることを検知部30が検知するときに、警告信号を出力する。
【0055】
このような構成により、エアバッグ23を展開する前に保守員Mに警告が行われるようになるので、エアバッグ23が必要以上に展開されることが抑えられる。エアバッグ23が展開した場合にはその復旧の作業が必要になるが、エアバッグ23の展開は必要以上に行われないので、保守作業の効率への影響が抑えられる。
【0056】
また、警告部31は、保守員Mが第2閾値より接近しているときの警告信号を、当該警告信号を受け付けるときに警告音声を発する警報装置26に出力する。
また、警告部31は、保守員Mが第2閾値より接近しているときの警告信号を、当該警告信号を受け付けるときに点灯または点滅する照明装置に出力する。
また、釣合い錘12は、噴出装置25を備える。噴出装置25は、警告信号を受け付けるときに、釣合い錘12の下端部に設けられた噴出口から下方に向けて気体を噴出する。警告部31は、保守員Mが第2閾値より接近しているときの警告信号を、噴出装置25に出力する。
【0057】
警告音声によって警告が行われる場合に、釣合い錘12などに目を向けていない保守員Mに対しても有効に警告が行われるようになる。また、照明装置の点灯または点滅によって警告が行われる場合に、騒音が発生している状況などにおいても有効に警告が行われるようになる。噴出装置25からの気体の噴出によって警告が行われる場合に、聴覚および視覚以外の感覚によって保守員Mに警告が行われるようになる。また、これらの警告の方法が組み合わせて行われる場合に、警告の見落としまたは聞き逃しなどが発生しにくくなる。
【0058】
なお、例えば発電装置27、電池28または制御装置29などの衝突緩和装置20の一部の配置は、釣合い錘12の下端部に限定されない。これらの装置は、例えば釣合い錘12の上部などに設けられていてもよい。
【0059】
続いて、
図6を用いて、衝突緩和装置20のハードウェア構成の例について説明する。
図6は、実施の形態1に係る衝突緩和装置20の主要部のハードウェア構成図である。
【0060】
衝突緩和装置20の各機能は、処理回路により実現し得る。処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。処理回路は、プロセッサ100aおよびメモリ100bと共に、あるいはそれらの代用として、少なくとも1つの専用ハードウェア200を備えてもよい。
【0061】
処理回路がプロセッサ100aとメモリ100bとを備える場合、衝突緩和装置20の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。そのプログラムはメモリ100bに格納される。プロセッサ100aは、メモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、衝突緩和装置20の各機能を実現する。
【0062】
プロセッサ100aは、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。メモリ100bは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROMなどの、不揮発性または揮発性の半導体メモリなどにより構成される。
【0063】
処理回路が専用ハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。
【0064】
衝突緩和装置20の各機能は、それぞれ処理回路で実現することができる。あるいは、衝突緩和装置20の各機能は、まとめて処理回路で実現することもできる。衝突緩和装置20の各機能について、一部を専用ハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。このように、処理回路は、専用ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで衝突緩和装置20の各機能を実現する。
【0065】
図7は、実施の形態1の第1の変形例に係る釣合い錘12の正面図である。
【0066】
釣合い錘12は、釣合い錘シーブ32を備える。釣合い錘シーブ32は、錘枠17の上側の辺に取り付けられる。釣合い錘12側の主ロープ10は、釣合い錘シーブ32に巻き掛けられる。この場合に、主ロープ10の巻上げまたは繰出しによって釣合い錘12が上下方向に走行するときに、釣合い錘シーブ32は回転する。このとき、衝突緩和装置20の発電装置27は、釣合い錘シーブ32の回転によって電力を発生させてもよい。
【0067】
図8は、実施の形態1の第2の変形例に係る釣合い錘12の側面図である。
【0068】
この例において、釣合い錘12の錘枠17の底面は、前方に向けて傾いている。このとき、衝突緩和装置20において、エアバッグ23の吐出口は、下方の斜め前方に向けられる。これにより、エアバッグ23は、下方の斜め前方に向けて展開しやすくなる。すなわち、衝突緩和装置20は、エアバッグ23によって、昇降路3の内壁4から離れる方向に向けて保守員Mを押し逃がしやすくなる。
【0069】
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態2で説明しない特徴については、実施の形態1で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0070】
図9は、実施の形態2に係るエアバッグ23の展開の例を示す図である。
図9において、側方から見た釣合い錘12が示される。
【0071】
図9において、エアバッグ23の展開直後の形状が示される。ここで、展開直後の形状は、エアバッグ23の展開が完了した直後の、最も膨らんだ時点の形状を表す。エアバッグ23は、展開した後に、
図9に例示される形状からしぼんでもよい。エアバッグ23の形状は、背面側の下端部が前面側の下端部より下方にある。すなわち、エアバッグ23の形状は、下端部が背面側に偏った形状である。エアバッグ23の背面側の下端部は、例えば、エアバッグ23の膨らんだ部分の重心または中心より背面側の部分における下端部などである。このとき、エアバッグ23の前面側の下端部は、例えば、エアバッグ23の膨らんだ部分の重心または中心より前面側の部分における下端部などである。エアバッグ23は、このような形状により、背面側の展開が前面側の展開に先行する。すなわち、エアバッグ23の下方に膨らむ速度は、前面側の速度より背面側の速度の方が大きい。
【0072】
以上に説明したように、実施の形態2に係る釣合い錘12の衝突緩和装置20において、エアバッグ23は、背面側が前面側に先行するように展開する。
また、エアバッグ23において、展開直後の形状は、背面側の下端部が前面側の下端部より下方にある形状である。
【0073】
このような構成により、保守員Mは、ピット7において広いスペースのある側に、より押し逃がされやすくなる。これにより、保守員Mの錘枠17などへの衝突がより効果的に回避される。
【0074】
なお、エアバッグ23は、展開中の形状が
図9のようになるものであってもよい。例えば、エアバッグ23において、展開中の形状が、背面側の下端部が前面側の下端部より下方にある形状であってもよい。この場合に、エアバッグ23は、背面側の下端部が前面側の下端部より下方にある形状まで膨らんだ後に、前面側の部分がさらに膨らむものであってもよい。
【0075】
以上の説明をまとめると、本開示に係る技術の取りうる構成は、以下に付記として示す各構成などを含む。
(付記1)
昇降路の内壁に背面が対向するように前記昇降路に配置され、前記昇降路において上下方向を長手方向とするガイドレールにガイドされて走行する釣合い錘であり、
釣合い錘の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する距離センサーと、
前記距離センサーの計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを検知する検知部と、
釣合い錘の下端部に配置され、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、下方に向けて展開するエアバッグと、
を備える、釣合い錘。
(付記2)
前記エアバッグは、背面側が前面側に先行するように展開する、
付記1に記載の釣合い錘。
(付記3)
前記エアバッグは、展開直後の形状が、背面側の下端部が前面側の下端部より下方にある形状である、
付記1に記載の釣合い錘。
(付記4)
前記エアバッグは、下方の斜め前方に向けて展開する、
付記1に記載の釣合い錘。
(付記5)
釣合い錘に設けられた釣合い錘の走行に連動して回転する回転体の回転によって電力を発生させる発電装置と、
前記発電装置が発生させた電力を蓄積し、蓄積している電力を前記距離センサーおよび前記検知部に供給する電池と、
を備える、付記1から付記4のいずれか一項に記載の釣合い錘。
(付記6)
前記回転体は、前記ガイドレールに接触するガイドローラである、
付記5に記載の釣合い錘。
(付記7)
前記回転体は、釣合い錘の荷重を支持する主ロープが巻き掛けられた釣合い錘シーブである、
付記5に記載の釣合い錘。
(付記8)
前記保守員に警告を行うための警告信号を出力する警告部
を備え、
前記検知部は、前記第1閾値より長い距離に予め設定された第2閾値より前記距離センサーの計測する距離が短いときに、前記保守員が前記第2閾値より接近していることを検知し、
前記警告部は、前記保守員が前記第2閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、前記警告信号を出力する、
付記1から付記7のいずれか一項に記載の釣合い錘。
(付記9)
前記警告部は、前記警告信号を、当該警告信号を受け付けるときに警告音声を発する警報装置に出力する、
付記8に記載の釣合い錘。
(付記10)
前記警告部は、前記警告信号を、当該警告信号を受け付けるときに点灯または点滅する照明装置に出力する、
付記8に記載の釣合い錘。
(付記11)
前記警告信号を受け付けるときに、釣合い錘の下端部に設けられた噴出口から下方に向けて気体を噴出する噴出装置
を備え、
前記警告部は、前記警告信号を前記噴出装置に出力する、
付記8に記載の釣合い錘。
(付記12)
昇降路の内壁に背面が対向するように配置された前記昇降路において上下方向を長手方向とするガイドレールにガイドされて走行する釣合い錘の下端部に取り付けられ、
前記釣合い錘の下端部より下方にいる保守員までの距離を計測する距離センサーと、
前記距離センサーの計測する距離が予め設定された第1閾値より短いときに、前記保守員が前記第1閾値より接近していることを検知する検知部と、
前記保守員が前記第1閾値より接近していることを前記検知部が検知するときに、下方に向けて展開するエアバッグと、
を備える、衝突緩和装置。
【符号の説明】
【0076】
1 エレベーター、 2 建物、 3 昇降路、 4 内壁、 5 乗場、 6 乗場ドア、 7 ピット、 8 ピット灯、 9 巻上機、 10 主ロープ、 11 かご、 12 釣合い錘、 13 バッファ、 14 制御盤、 15 かごドア、 16 ガイドレール、 17 錘枠、 18 錘ブロック、 19 錘ガイド、 20 衝突緩和装置、 21 スペーサ、 22 ガイドローラ、 23 エアバッグ、 24 距離センサー、 25 噴出装置、 26 警報装置、 27 発電装置、 28 電池、 29 制御装置、 30 検知部、 31 警告部、 32 釣合い錘シーブ、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 専用ハードウェア