(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054650
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】処理装置、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20240410BHJP
G01M 17/10 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
G01L1/00 M
G01M17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161018
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】岸野 瞬士
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 星太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】山尾 仁志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】南 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】五百旗頭 学
(57)【要約】
【課題】 物体の応力を推定するに際し、計算速度を向上させる。
【解決手段】 処理装置400は、軸箱17a、17bの加速度データを取得する。処理装置400は、軸箱17a、17bの加速度データに基づいて、台車枠16の応力に対する影響因子を算出する。処理装置400は、台車枠16の応力を目的変数として含み、台車枠16の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式に、算出した影響因子を与えることにより、台車枠16の応力を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データを含むデータを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得されたデータと、前記物体の応力を目的変数として含み、前記物体の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式と、に基づいて、前記物体の応力を算出する応力算出手段と、
を有し、
前記応力算出手段は、前記データ取得手段により取得された前記第1物理量の測定データに基づいて、前記複数の説明変数を算出する、処理装置。
【請求項2】
前記複数の説明変数は、変換前の第2物理量と、当該変換前の第2物理量に乗算される係数と、に基づいて、変換後の前記第2物理量を算出する計算式における、前記係数、または、前記変換後の第2物理量を含み、
前記第2物理量は、位置、変位、および速度のうち、少なくとも1つを含む、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記計算式は、前記物体の変位前の物理座標系の位置の座標と、当該座標に乗算される変換行列と、に基づいて、前記物体の変位後の物理座標系の位置を算出する計算式を含み、
前記複数の説明変数は、前記計算式における変換行列の成分のうち、線形変換を行うための成分を含む、請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記計算式は、物理座標系における前記物体の振動を記述する運動方程式を固有値解析することにより算出される固有ベクトルと、当該固有ベクトルに乗算されるモード座標系における前記物体の変位と、に基づいて、物理座標系における前記物体の変位を算出する計算式と、前記固有ベクトルと、モード座標系における前記物体の速度と、に基づいて、物理座標系における前記物体の速度を算出する計算式と、を含み、
前記複数の説明変数は、モード座標系における前記物体の変位および速度の少なくとも一方を含む、請求項2に記載の処理装置。
【請求項5】
前記計算式は、前記物体のモード座標系における前記物体の変位と、当該座標に乗算される変換行列と、に基づいて、当該変位が生じている時刻の次の時刻での、前記物体のモード座標系における前記物体の変位を算出する計算式を含み、
前記複数の説明変数は、前記計算式における変換行列の成分のうち、線形変換を行うための成分を含む、請求項2に記載の処理装置。
【請求項6】
前記応力算出手段は、モード座標系における前記物体の振動を表す運動方程式に基づいて構成される状態方程式と、観測変数と状態変数との関係を表す観測方程式と、前記第1物理量の測定データから算出される前記観測変数の測定値と、に基づいて、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより、前記状態変数の推定値を決定し、
前記状態変数は、モード座標系における前記物体の変位および速度の少なくとも一方を含む、請求項4または5に記載の処理装置。
【請求項7】
前記物体は、鉄道車両の台車枠を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項8】
物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データを含むデータを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程により取得されたデータと、前記物体の応力を目的変数として含み、前記物体の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式と、に基づいて、前記物体の応力を算出する応力算出工程と、
を有し、
前記応力算出工程は、前記データ取得工程により取得された前記第1物理量の測定データに基づいて、前記複数の説明変数を算出する、処理方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道台車の台車枠等、外力が作用する物体の応力を推定する技術が求められる。この種の技術として、特許文献1、2に記載の技術がある。
特許文献1には、以下の技術が開示されている。まず、変位前の位置座標と変位後の位置座標とに基づいてアフィン変換行列(変位前の位置座標に乗算される行列)を算出し、アフィン変換行列を特異値分解して特異値を対角成分として有する対角行列を算出する。そして、対角行列に基づいて主歪みを算出し、主歪みに基づいて応力を算出する。
【0003】
また、特許文献2には、以下の技術が開示されている。まず、モード座標系における状態変数の時間変化を規定するための状態方程式と、観測変数および状態変数を関連付けるための観測方程式と、観測変数の測定値と、に基づいて、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより、モード座標系における状態変数の推定値を算出する。そして、モード座標系における状態変数の推定値に基づいて、モード座標系における台車枠の変位分布を算出し、モード座標系における台車枠の変位分布を物理座標系の台車枠の変位分布に変換する。そして、物理座標系の台車枠の変位分布に基づいて、台車枠の歪み分布を算出し、台車枠の歪み分布に基づいて、台車枠の応力分布を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-193346号公報
【特許文献2】特開2022-28374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、物体の応力をリアルタイムで算出することが容易ではない。例えば、物体の応力は外力によって時々刻々と変化し得るところ、特許文献1に記載の技術では、応力の算出タイミングのそれぞれにおいて、行列の特異値分解を行う必要がある。また、特許文献2に記載の技術では、応力の算出タイミングのそれぞれにおいて、モード座標系における状態変数の推定値を導出したうえで、モード座標系における変位を物理座標系における変位に変換する必要がある。また、特許文献1、2に記載の技術では、台車枠の応力を推定する際に、台車枠の変位に基づいて、台車枠の歪みを算出し、台車枠の歪みに基づいて、台車枠の応力を算出する必要がある。以上のように、特許文献1、2に記載の技術では、物体の応力を高速に推定することができないという問題点がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、物体の応力を推定するに際し、計算速度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の処理装置は、物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データを含むデータを取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段により取得されたデータと、前記物体の応力を目的変数として含み、前記物体の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式と、に基づいて、前記物体の応力を算出する応力算出手段と、を有し、前記応力算出手段は、前記データ取得手段により取得された前記第1物理量の測定データに基づいて、前記複数の説明変数を算出する。
【0008】
本発明の処理方法は、物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データを含むデータを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程により取得されたデータと、前記物体の応力を目的変数として含み、前記物体の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式と、に基づいて、前記物体の応力を算出する応力算出工程と、を有し、前記応力算出工程は、前記データ取得工程により取得された前記第1物理量の測定データに基づいて、前記複数の説明変数を算出する。
【0009】
本発明のプログラムは、前記処理装置の各手段としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、物体の応力を推定するに際し、計算速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】台車枠およびその周辺の部品の構成の一例を示す図である。
【
図4】処理装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図5】線形回帰式の回帰係数を算出する方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図6】台車枠の応力を算出する方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図7】台車枠の最大主応力と時間との関係の一例を示す図である。
【
図8】第1実施形態の計算例を示し、台車枠の最大主応力の真値と推定値との関係を示す図である。
【
図9】第2実施形態の計算例を示し、台車枠の最大主応力の真値と推定値との関係の第1の例を示す図である。
【
図10】第2実施形態の計算例を示し、台車枠の最大主応力の真値と推定値との関係の第2の例を示す図である。
【
図11】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、台車枠の応力測定値と時間との関係の一例を示す図である。
【
図12】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、台車枠の応力の真値と推定値との関係の第1の例を示す図である。
【
図13】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、バネ帽1位の上下方向の変位の測定値と計算値との関係の一例を示す図である。
【
図14】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、バネ帽2位の上下方向の変位の測定値と計算値との関係の一例を示す図である。
【
図15】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、バネ帽3位の上下方向の変位の測定値と計算値との関係の一例を示す図である。
【
図16】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、バネ帽4位の上下方向の変位の測定値と計算値との関係の一例を示す図である。
【
図17】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、モータ座1軸の上下方向の変位の測定値と計算値との関係の一例を示す図である。
【
図18】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、モータ座2軸の上下方向の変位の測定値と計算値との関係の一例を示す図である。
【
図19】第2の実施形態の変形例の計算例を示し、台車枠の応力の真値と推定値との関係の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
なお、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0013】
以下の各実施形態の処理装置は、物体に生じる応力を算出することを含む処理を行う。外力により応力が生じる物体であれば処理装置における応力の算出対象の物体は限定されないが、以下の各実施形態では、鉄道車両の台車枠に生じる応力を処理装置が算出する場合を例示する。また、以下の各実施形態では、鉄道車両の台車枠の運動方程式を用いて、台車枠の変位を算出する場合を例示する。そこで、実施形態の説明の前に、鉄道車両の構成の一例と、台車枠の物理座標系における運動方程式の一例と、を概説する。
【0014】
(鉄道車両の概略構成)
図1は、鉄道車両の概略の一例を示す図である。
図2は、台車枠およびその周辺の部品の構成の一例を示す図である。なお、
図1および
図2において、鉄道車両は、x軸の正の方向に進むものとする(x軸は、鉄道車両の走行方向に沿う軸である)。また、z軸は、軌道20(地面)に対し垂直方向(鉄道車両の高さ方向)であるものとする。y軸は、鉄道車両の走行方向に対して垂直な水平方向(鉄道車両の走行方向と高さ方向との双方に垂直な方向)であるものとする。また、x-y-z座標は、物理座標系における座標であるものとする。なお、鉄道車両は、営業車両であっても、試験用車両であっても、検査用車両であってもよい。また、各図において、○(白丸)の中に●(黒丸)が付されている記号は、紙面の奥側から手前側に向かう矢印線を示す。
【0015】
図1および
図2に示す例では、鉄道車両は、車体11と、台車12a、12bと、輪軸13a~13dと、を有する。このように
図1および
図2では、1つの車体11に、2つの台車12a、12bと、4組の輪軸13a~13dと、が備わる鉄道車両を例示する。輪軸13a~13dは、車軸15a~15dと、その両端に設けられた車輪14a~14dと、を有する。
図1および
図2では、台車12a、12bが、ボルスタレス台車である場合を例示する。
【0016】
図1では、表記の都合上、輪軸13a~13dの一方の車輪14a~14dのみを示すが、輪軸13a~13dの他方にも車輪が配置されている(
図1に示す例では、車輪は合計8つある)。
図2において、輪軸13a、13bのy軸に沿う方向の両側には、軸箱17a、17bが配置される。軸箱17a、17bは、モノリンク18a、18bを介して台車枠16と接続される。また、軸箱17a、17bは、軸バネ19a、19bを介して台車枠16と接続される。なお、鉄道車両は、
図1および
図2に示す構成要素以外の構成要素を有する。表記および説明の都合上、
図1および
図2では、当該構成要素の図示を省略する。例えば、鉄道車両が軸ダンパを有する場合、軸箱17a、17bは、軸ダンパを介して台車枠16と接続されてもよい。
【0017】
図2では、1つの台車12aに1つの台車枠16が配置される場合を例示する。軸箱17a、17b、モノリンク18a、18b、および軸バネ19a、19bは、1つの車輪に対して1つずつ配置される。前述したように1つの台車12aには、4つの車輪が配置される。したがって、1つの台車12aには、軸箱、モノリンク、および軸バネが、それぞれ4つずつ配置される。
【0018】
図2では、台車12aの構成(台車枠16、軸箱17a、17b、モノリンク18a、18b、および軸バネ19a、19b)のみを示す。台車12bの構成(台車枠、軸箱、モノリンク、および軸バネ)も
図2に示す構成と同じ構成で実現される。なお、鉄道車両自体は公知の技術で実現できる。したがって、ここでは、鉄道車両の概要のみを説明し、その詳細な説明を省略する。また、鉄道車両は、
図1および
図2に示すものに限定されない。
以下の説明では、台車枠16と、軸箱17a、17bと、を連結する部品を、必要に応じて連結器と総称する。
【0019】
図1および
図2では、軸箱17a、17bのそれぞれに加速度センサ21a、21bが取り付けられる場合を例示する。また、
図1および
図2では、台車枠16にも加速度センサ22a、22bが取り付けられる場合を例示する。また、
図1および
図2では、加速度センサ21a、21b、22a、22bが、3次元加速度センサである場合を例示する。加速度センサ21a、21b、22a、22bで測定される加速度のデータから、加速度のx軸方向成分、y軸方向成分、z軸方向成分が得られる。また、加速度センサ21a、21b、22a、22bで測定された加速度のデータから、加速度のx軸方向成分、y軸方向成分、z軸方向成分について、時間に関する2階積分を行うことにより、加速度センサ21a、21b、22a、22bの取り付け位置での変位が算出される。加速度センサ21a、21bは、軸箱17a、17bの所定の位置に取り付けられ、加速度センサ22a、22bは、台車枠16の所定の位置に取り付けられる。
図2では、軸箱17a、17bに取り付けられる加速度センサ21a、21bの数が1であり、台車枠16に取り付けられる加速度センサ22a、22bの数が2である場合を例示する。しかしながら、軸箱17a、17bに取り付けられる加速度センサ21a、21bの数、および、台車枠16に取り付けられる加速度センサの数は、1以上であれば、幾つであってもよい。
【0020】
連結器は、台車枠16および軸箱17a、17bに接続される。したがって、軸箱17a、17bの振動と連結器の振動とは連動する。これらの振動は台車枠16に伝搬する。台車枠16に作用する外力は、連結器の振動における粘性減衰力と剛性力との和で表される。粘性減衰力は、粘性減衰係数と速度との積で表される。剛性力は、剛性と変位との積で表される。
【0021】
台車枠16に作用する外力が得られれば、台車枠16の振動(運動)を表す運動方程式を用いて、台車枠16の変位(台車枠16の各部の位置の変化量)を算出することができる。また、台車枠16の変位を空間微分(偏微分)することにより、台車枠16の各種の物理量(例えば、歪み、応力、および表面力)を算出することができる。
【0022】
(台車枠16の物理座標系における運動方程式)
台車枠16の振動を表す物理座標系における運動方程式は、例えば以下の(1)式で表される。なお、後述する第1実施形態では、(1)式で表される物理座標系における運動方程式を用いる。一方、後述する第2実施形態では、物理座標系における運動方程式に対応するモード座標系における運動方程式を用いる((51)式を参照)。
【0023】
【0024】
ここで、[M](∈R3l×3l)は、台車枠16の質量行列である。[C](∈R3l×3l)は、台車枠16の粘性行列(減衰行列ともいう)である。[K](∈R3l×3l)は、台車枠16の剛性行列である。
{u}(∈R3l)は、台車枠16の変位ベクトルである。{f}(∈R3l)は、台車枠16の外力ベクトルである。
【0025】
以下の各実施形態では、物理座標系において、台車枠16の振動には、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の3つの成分がある場合を例示する。したがって、{u}を構成する各節点の変位および{f}を構成する各節点の外力は、3つの自由度を有する。なお、(1)式において、・は、d/dt(時間の1階微分)を表し、・・は、d2/dt2(時間の2階微分)を表す(このことは、以降の式でも同じである)。
【0026】
lは、数値解析における変位の近似解の自由度に対応する。以下の各実施形態では、数値解析として、有限要素法(FEM;Finite Element Method)を用いる場合を例示する。したがって、lは、例えば、有限要素法において定められる要素の節点の数である(以下の説明では要素(小領域)を必要に応じてメッシュと称する)。この場合、台車枠16の質量行列[M]の成分、台車枠16の粘性行列[C]の成分、台車枠16の剛性行列[K]の成分には、それぞれ、各成分に対応する密度から算出される値、各成分に対応する粘性減衰係数から算出される値、各成分に対応する剛性から算出される値が与えられる。密度、粘性減衰係数、および剛性は、位置によらずに同じ値としてもよいし、異なる値としてもよい。台車枠16の質量行列[M]の成分、粘性行列[C]の成分、および剛性行列[K]の成分は、例えば、有限要素法による数値解析を行う公知のソルバーにおいて、有限要素法のメッシュと、台車枠16全体の密度、粘性減衰係数、および剛性と、を用いて算出される。なお、数値解析の手法は、有限要素法に限定されず、有限要素法以外のその他の手法(例えば、有限差分法(FDM;Finite Difference Method))であってもよい。
【0027】
(1)式の左辺第1項は、台車枠16に作用する重力を表す慣性項である。(1)式の左辺第2項は、台車枠16に作用する粘性力を表す減衰項である。(1)式の左辺第3項は、台車枠16に作用する剛性力を表す剛性項である。
【0028】
(1)式の右辺の外力ベクトル{f}は、連結器に作用する外力を算出することによって与えられる。
そこで、
図3を参照しながら、連結器に作用する外力の算出方法の一例を説明する。
図3は、連結器の一例をモデル化して示す図である。
図3(a)は、台車枠16と軸箱17aとに接続される連結器をモデル化した図の一例を示す。
図3(b)は、台車枠16と軸箱17bとに接続される連結器をモデル化した図の一例を示す。台車枠16とその他の軸箱とに接続される連結器をモデル化した図も、
図3(a)および
図3(b)と同じようにして表されるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。台車枠16と連結器との接続箇所は、台車枠16と連結器とが相互に接触する領域(の全体)としても、台車枠16と連結器とが接触する領域の代表点(例えば、重心の位置)としてもよい。
図3に示す例では、説明を簡単にするため、台車枠16と連結器との接続箇所が点であるものとする。以下の説明では、台車枠16と連結器との接続箇所を、必要に応じて、着力点と称する。
図3に示す例では、バネおよびダンパを並列に接続したモデルで、モノリンク18aおよび軸バネ19aを表す。モデル化したモノリンク18aと台車枠16とは着力点31aで接続される。また、モデル化した軸バネ19aと台車枠16とは着力点32aで接続される。また、軸箱17bについても同様に、モデル化したモノリンク18bと台車枠16とは着力点31bで接続され、モデル化した軸バネ19bと台車枠16とは着力点32bで接続される。
連結器の振動を表す物理座標系における運動方程式は、以下の(2)式で表される。
【0029】
【0030】
ここで、[Cbc]は、連結器の粘性行列である。[Kbc]は、連結器の剛性行列である。{u0}は、連結器の軸箱17aとの接続箇所における変位と、連結器の着力点における変位と、で構成される連結器の変位ベクトルである。{f0}は、連結器の軸箱17aとの接続箇所における外力と、連結器の着力点における外力と、で構成される連結器の外力ベクトルである。連結器の粘性行列[Cbc]の成分、連結器の剛性行列[Kbc]の成分には、それぞれ、各成分に対応する粘性減衰係数から算出される値、各成分に対応する剛性から算出される値が与えられる。連結器の粘性行列[C]および剛性行列[K]の成分は、例えば、連結器の軸箱17aとの接続箇所の位置と、連結器の着力点の位置と、連結器の密度と、連結器の粘性減衰係数と、連結器の剛性と、を用いて算出される。
【0031】
(2)式において、着力点におけるx軸方向、y軸方向、およびz軸方向の変位を0(零)とする。また、連結器の軸箱17aとの接続箇所における変位を軸箱17aの変位とする。以上のようにすることによって、連結器の外力ベクトル{f0}を構成する外力として、連結器の着力点に作用する外力を算出することができる。つまり、モノリンク18aの着力点31aおよび軸バネ19aの着力点32aに作用する外力は、モノリンク18aおよび軸バネ19aのそれぞれについて構成した(2)式を用いて算出される。また、軸箱17bについても同様に、軸箱17bの変位から、モノリンク18bの着力点31bおよび軸バネ19bの着力点32bに作用する外力が算出される。そして、台車枠16の着力点31a、31bに作用する外力、着力点32a、32bに作用する外力は、それぞれ、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bに作用する外力の反作用力、軸バネ19a、19aの着力点32a、32bに作用する外力の反作用力として算出される。
【0032】
(1)式の外力ベクトル{f}の成分のうち、(台車枠16の)着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力の成分には、前述の方法で算出した値を与え、その他の成分には、0(零)を与えて、台車枠16の変位ベクトル{u}を算出することにより、台車枠16の変位を算出することができる。
なお、台車枠16の運動方程式自体は公知の方程式でよく、前述した運動方程式に限定されない。また、台車枠16の運動方程式から台車枠16の変位を算出する手法自体は、公知の技術で実現され、前述した手法に限定されない。
【0033】
(第1実施形態)
次に、第1実施形態を説明する。
<処理装置400、処理方法>
図4は、処理装置400の機能的な構成の一例を示す図である。処理装置400のハードウェアは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等、一またはそれ以上の数のハードウェアプロセッサを有する。また、処理装置400のハードウェアは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等、一またはそれ以上の数のメモリを有する。処理装置400は、メモリに格納される一またはそれ以上の数のプログラムを一またはそれ以上の数のハードウェアプロセッサにより実行することで各種の演算を実行する。さらに、処理装置400のハードウェアは、入力装置、および出力装置を有する。また、処理装置400は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されてもよい。また、
図1に示すように本実施形態では、処理装置400が鉄道車両の車体11内に設置される場合を例示する。しかしながら、処理装置400は鉄道車両の外部に設置されてもよい。
【0034】
本実施形態では、処理装置400が、台車枠16の応力を目的変数として含み、台車枠16の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式を用いて、台車枠16の応力を算出する場合を例示する。したがって、本実施形態では、線形回帰式の回帰係数を算出する学習と、学習により算出された回帰係数が与えられた線形回帰式を用いて台車枠16の応力を算出する推定と、が行われる。
図5は、線形回帰式の回帰係数を算出する方法の一例を説明するフローチャートである。
図6は、台車枠16の応力を算出する方法の一例を説明するフローチャートである。
図5および
図6のフローチャートは、例えば、処理装置400のハードウェアプロセッサが、処理装置400のメモリに格納される一またはそれ以上の数のプログラムを実行することで実現される。なお、説明変数は独立変数等とも称され、目的変数は従属変数等とも称される。また、本実施形態の線形回帰式は、複数の説明変数を含むので重回帰式である。
【0035】
<<データ取得部410、ステップS501、S601>>
データ取得部410は、処理装置400における計算のために予め処理装置400が取得しておく必要がある各種の情報を取得する。以下に本実施形態のデータ取得部410が取得する情報の一例を説明する。
【0036】
データ取得部410は、加速度センサ21a、21bで測定された軸箱17a、17bの加速度のデータを取得する。以下の説明では、加速度のデータを必要に応じて加速度データと称する。また、データ取得部410は、加速度センサ22a、22bで測定された台車枠16の加速度データを取得する。
【0037】
本実施形態では、処理装置400(データ取得部410)と、加速度センサ21a、21b、22a、22bと、が有線または無線により通信可能に接続される場合を例示する。また、本実施形態では、データ取得部410が、加速度センサ21a~21b、22a~22bから、軸箱17a、17bの加速度データ、台車枠16の加速度データをそれぞれ取得する場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、処理装置400(データ取得部410)は、台車枠16の加速度データおよび軸箱17a、17bの加速度データを、加速度センサ21a、21b、22a、22bとは異なる外部装置を経由して取得してもよい。本実施形態では、台車枠16の加速度データおよび軸箱17a、17bの加速度データが、物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データである場合を例示する。
【0038】
データ取得部410は、解析モデルを取得する。前述したように本実施形態では、数値解析として、有限要素法を用いる場合を例示する。したがって本実施形態では、データ取得部410は、例えば、台車枠16および連結器を含む領域の形状を複数のメッシュで表した場合の各メッシュの情報を含む情報を、解析モデルの情報として取得する。解析モデルの作成自体は、公知の手法で実現されるので、ここでは解析モデルの詳細な説明を省略する。また、データ取得部410は、各メッシュのうち、後述する部位i、jの位置に対応するメッシュの情報を、解析モデルの情報として取得する。
【0039】
データ取得部410は、処理装置400における計算の際に定数として扱われる情報を取得する。データ取得部410は、例えば、台車枠16および連結器のそれぞれについて、密度、粘性減衰係数、および剛性を取得する。また、データ取得部410は、例えば、台車枠16のヤング率およびポアソン比を取得する。これらの情報は、例えば、解析モデル(各メッシュ)に与えられる。
【0040】
データ取得部410が、解析モデルの情報と、処理装置400における計算の際に定数として扱われる情報と、を取得する方法は限定されない。データ取得部410は、例えば、処理装置400の入力装置に対するオペレータの情報入力操作に基づいてこれらの情報を入力してもよいし、外部装置からこれらの情報を受信してもよいし、処理装置400に接続された記憶媒体からこれらの情報を読み出してもよい。
【0041】
なお、ステップS501、S601においては、データ取得部410が取得するデータの時刻が異なる。ステップS501においては、学習時刻t1におけるデータが取得される。一方、ステップS601においては、学習時刻t1よりも後の時刻である推定時刻t2におけるデータが取得される。ただし、学習時刻t1および推定時刻t2で共通するデータについては、ステップS501で取得されたデータを記憶しておき、ステップS601で読み出してもよい。
【0042】
<<回帰係数算出部420、回帰係数記憶部430、ステップS502、S503>>
回帰係数算出部420は、データ取得部410により取得されたデータを用いて、台車枠16の応力を目的変数として含み、台車枠16の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式の回帰係数を算出する。本実施形態では、台車枠16の応力(目的変数)が、台車枠16の最大主応力である場合を例示する。
【0043】
また、本実施形態では、複数の説明変数が、台車枠16の部位iの座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))をアフィン変換する際に当該座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))に乗算されるアフィン変換行列の成分のうち、線形変換を行うための成分である場合を例示する。台車枠16の部位iの座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))をアフィン変換することにより、台車枠16の部位iの座標が(x2
(i),y2
(i),z2
(i))に変化することが表される。
【0044】
ここで、線形変換を行うための成分は、平行移動を行うための成分を除く成分である。線形変換を行うための成分は、拡縮(拡大および縮小)、回転、およびせん断のうちの少なくとも1つを行うための成分である。なお、x1
(i),y1
(i),z1
(i)、x2
(i),y2
(i),z2
(i)の、1、2は、それぞれ、変換前の座標、変換後の座標であることを示す。また、各変数において上付きの(i)は、部位iの値であることを表す記号である。台車枠16の部位iは、例えば、メッシュの中から選ばれる。
【0045】
以下に本実施形態における線形回帰式の一例を説明する。
アフィン変換係数をa1~a12とする。n1個の部位i(i=1,2,・・・,n1)の座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))は、以下の(3)式のように、座標(x2
(i),y2
(i),z2
(i))にアフィン変換される。ここで、n1≧4(n1が4以上の整数であること)が必要条件である。n1=4であれば、アフィン変換係数a1~a12を算出することができる。n1の数を多くすれば、アフィン変換係数a1~a12の計算精度は高まるが計算負荷も高まる。このような観点からn1は予め設定される。また、部位iは、台車枠16の応力(本実施形態では最大主応力)の算出対象の位置に対応する部位jに応じて予め定められる。例えば、部位iは、n1個の部位iのうちの任意の4つの部位iを結ぶ線を境界線とする領域の内側に、台車枠16の応力の算出対象の位置に対応する部位jが位置するように定められてもよい。また、部位iは、例えば、台車枠16の応力の算出対象の位置に対応する部位jの近傍に(すなわち、部位i、jの距離が所定距離以下となるように)定められてもよい。
【0046】
【0047】
(3)式は、部位iにおいて弾性変形等が生じると、部位iの座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))は、座標(x2
(i),y2
(i),z2
(i))に変化することを示す。
ここで、係数行列A、変換前座標行列C1、変換後座標行列C2を、それぞれ、以下の(4)式、(5)式、(6)式のように定義する。
【0048】
【0049】
係数行列Aは、重回帰分析における教師あり学習を行うことにより算出される。ここでは、最小二乗法により係数行列Aを算出する場合を例示する。この場合、係数行列Aは、例えば、以下の(7)式により算出される。なお、(7)式は、(7)式の[]内の値が最小になるときの係数行列Aを算出することを示す数式である。また、(7)式のc1,i、c2,iは、それぞれ、以下の(8)式、(9)式で表される。
【0050】
【0051】
ここで、(7)式の[]内の値が最小になるときの係数行列Aを係数行列A^と表記する。また、係数行列A^の成分であるアフィン係数をa1^、a2^、・・・、a12^と表記する(以下の(10)式を参照)。なお、A^、a1^、a2^、・・・、a12^、は、各式において、それぞれ、A、aの上に^が付されているものに対応する。係数行列A^は、(7)式をAで偏微分した値が0(零)となるときのAの値として算出され、以下の(11)式により算出される。従って、係数行列A^は、以下の(12)式のようになる。(11)式および(12)式において、Tは、転置行列であることを示す(このことは、その他の数式でも同じである)。
【0052】
【0053】
(12)式の右辺のC1
TC1∈R3n1×3n1は、以下の(13)式で表される。
【0054】
【0055】
そこで、以下の(14)式により定義される行列Z4を用いて、(12)式の右辺のC1
TC1を以下の(15)式のように表すこととする。(15)式において、行列04は、4行4列の0行列(全ての成分が0(零)の行列)である。
【0056】
【0057】
また、(12)式の左辺の係数行列A^Tを、以下の(16)式のように3つのブロックに分割した形で表現することとする。
【0058】
【0059】
同様に、(12)式の右辺のC1
TC2を、以下の(17)式のように3つのブロックに分割した形で表現することとする。
【0060】
【0061】
そうすると、(15)式の関係から、(11)式は、以下の(18)式~(20)式に示す3つの方程式で表される。
【0062】
【0063】
(18)式~(20)式を式変形し、Σ(積算記号)を用いない形に書き直すと、以下の(21)式~(23)式が得られる。
【0064】
【0065】
ここで、部位の平行移動が行われても、当該部位には応力は作用しない。一方、部位に応力が作用すると、当該部位の線形変換(拡縮、回転、およびせん断のうちの少なくとも1つ)が行われ。そこで、本実施形態では、係数行列A^の成分のうち、応力に関係するアフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^を、以下の(24)式のように行列M∈R9×1と定義する。ここで、アフィン係数a4^、a8^、a12^は、アフィン変換行列の成分のうち、平行移動を行うための成分である。アフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^は、線形変換を行うための成分である。本実施形態では、アフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^が、物体(本実施形態では台車枠16)の応力に対する影響因子である場合を例示する。また、本実施形態では、台車枠16の部位iの座標(位置)が、第2物理量である場合を例示する。また、本実施形態では、アフィン変換前の台車枠16の部位iの座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))が、変換前の第2物理量であり、アフィン変換後の台車枠16の部位iの座標(x2
(i),y2
(i),z2
(i))が、変換後の第2物理量である場合を例示する。
【0066】
【0067】
(21)式~(23)式より、行列Mは、以下の(25)式で表される。本実施形態では、(3)式や(25)式が、変換前の第2物理量と、当該変換前の第2物理量に乗算される係数と、に基づいて、変換後の前記第2物理量を算出する計算式である場合を例示する。
【0068】
【0069】
前述したように本実施形態では、アフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^が、線形回帰式における複数の説明変数であり、台車枠16の最大主応力が線形回帰式における目的変数である場合を例示する。また、説明の都合上、台車枠16の部位jにおける最大主応力をσmax,jと表記する。また、台車枠16の部位jにおける最大主応力をσmax,jを算出するための線形回帰式の回帰係数をw0,j、w1,j、・・・、w9,jと表記する。また、台車枠16の部位jに応じて定められたn1個の部位i(i=1,2,・・・n1)の座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))、(x2
(i),y2
(i),z2
(i))に基づいて算出されるアフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^を、それぞれa1
(j)^、a2
(j)^、a3
(j)^、a5
(j)^、a6
(j)^、a7
(j)^、a9
(j)^、a10
(j)^、a11
(j)^と表記する。各変数において上付きの(j)は、部位jの値であることを表す記号である。
【0070】
本実施形態では、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jが、以下の(26)式の線形回帰式で表される場合を例示する。なお、各変数において下付きの“j”は、部位jの値であることを表す記号である。台車枠16の部位jは、例えば、メッシュの中から選ばれる。また、部位jの位置は、台車枠16の応力(本実施形態では最大主応力)の算出対象の位置に対応する。線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jを算出する際には、部位jの位置は、台車枠16の可及的に広範囲の領域に分布するようにするのが好ましい。線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jの計算精度が高まるからである。
【0071】
【0072】
なお、回帰係数算出部420により、線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jを算出した後、後述する応力算出部440により、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを推定する際には、部位jの数は、最大主応力σmax,jを算出する部位の数に応じた数になるので、1つでもよいし、複数でもよい。また、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを推定する際に用いる部位jは、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jを算出する際に用いる部位iに含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0073】
ここで、説明の都合上(目的変数および説明変数が学習時および推定時の何れにおいて用いられるものであるのかを区別するために)、教師データを識別する記号をpと表記し、教師データpに含まれる台車枠16の部位jにおける最大主応力をσmax,p,jと表記する。また、教師データpに含まれる台車枠16の部位jにおける最大主応力をσmax,p,jを、以下の(27)式のようにψp,jと表記する。また、教師データpに含まれる(26)式の右辺の説明変数の成分a1
(j)^、a2
(j)^、a3
(j)^、a5
(j)^、a6
(j)^、a7
(j)^、a9
(j)^、a10
(j)^、a11
(j)^を、それぞれ、a1
(p,j)^、a2
(p,j)^、a3
(p,j)^、a5
(p,j)^、a6
(p,j)^、a7
(p,j)^、a9
(p,j)^、a10
(p,j)^、a11
(p,j)^と表記する。また、教師データpに含まれる(26)式の右辺の説明変数行列[a1
(j)^ a2
(j)^ a3
(j)^ a5
(j)^ a6
(j)^ a7
(j)^ a9
(j)^ a10
(j)^ a11
(j)^]Tを、以下の(28)式の左辺のようにλp,jと表記する。なお、各変数において下付きの"p"は、教師データpの値であることを表す記号である。また、各変数において上付きの(p,j)は、教師データpに含まれる部位jの値であることを表す記号である。
【0074】
また、教師データpに含まれる複数の説明変数であるアフィン係数a1
(pj)^、a2
(p,j)^、a3
(p,j)^、a5
(p,j)^、a6
(p,j)^、a7
(p,j)^、a9
(p,j)^、a10
(p,j)^、a11
(p,j)^を、それぞれ、以下の(28)式のようにλp,j,1、λp,j,2、λp,j,3、λp,j,4、λp,j,5、λp,j,6、λp,j,7、λp,j,8、λp,j,9、と表記する。また、(26)式の右辺の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jを成分として含む係数行列を、以下の(29)式のようにWjと表記する。
【0075】
【0076】
係数行列Wは、重回帰分析における教師あり学習を行うことにより算出される。ここでは、最小二乗法により係数行列Wjを算出する場合を例示する。この場合、係数行列Wjは、以下の(30)式により算出される。なお、(30)式は、(30)式の[]内の値が最小になるときの係数行列Wjを算出することを示す数式である。
【0077】
【0078】
ここで、(30)式の[]内の値が最小になるときの係数行列Wjを係数行列Wj^と表記し、係数行列Wj^の成分である回帰係数をw0,j^、w1,j^、・・・、w9,j^と表記する(以下の(31)式を参照)。なお、Wj^、w0,j^、w1,j^、・・・、w9,j^は、各式において、それぞれ、W、wの上に^が付されているものに対応する。係数行列Wj^は、(30)式をWで偏微分した値が0(零)となるときのWの値として算出され、以下の(32)式の関係を満たす。ここで、n2は、教師データの数である。n2の数を多くすれば、線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jの計算精度は高まるが計算負荷も高まる。このような観点からn2は予め設定される。
【0079】
【0080】
(32)式を、n2個の数式に分けて記載すると、以下の(33)式のようになる。なお、表記の都合上、(33)式では、p=2~n2-1までの数式を示していない。
【0081】
【0082】
(33)式の行列内の演算を展開すると、以下の(34)式が得られる。なお、表記の都合上、(34)式においても、p=2~n2-1までの数式を示していない。
【0083】
【0084】
(34)式に示すn2個の数式の行列和をとると、以下の(35)式が得られる。さらに、以下の(35)式を式展開すると、以下の(36)式が得られる。
【0085】
【0086】
ここで、(36)式の右辺の1つ目の行列、2つ名の行列を、それぞれ、以下の(37)式、(38)式のように行列Ψj、Λjと表記する。そうすると、(36)式は、以下の(39)式のように表される。したがって、係数行列Wj^は、以下の(40)式または(41)式で表される。
【0087】
【0088】
本実施形態では、回帰係数算出部420が(40)式または(41)式により係数行列Wj^を算出する場合を例示する。係数行列Wj^を算出する方法の具体例を以下に説明する。
まず、回帰係数算出部420は、台車枠16の部位jとして少なくとも1つの部位jを設定する。また、回帰係数算出部420は、1つの部位jに対してそれぞれn1個の部位iを設定する。また、回帰係数算出部420は、台車枠16の各メッシュの初期座標(x0,y0,z0)を設定する。
【0089】
本実施形態では、回帰係数算出部420が、(2)式に基づいて算出される外力ベクトル{f}が与えられた場合の(1)式の運動方程式を、有限要素法により解くことで、台車枠16の解析モデルにおける各メッシュの節点の位置での変位ベクトル[u]を算出することにより、台車枠16の部位i、jの座標を算出する場合を例示する。
【0090】
具体的に回帰係数算出部420は、加速度センサ21a、21bで測定された軸箱17a、17bの加速度データを用いて、軸箱17a、17bの加速度の時間に関する1階積分、2階積分を行うことにより、(2)式の左辺の速度ベクトル{u0・}、変位ベクトル{u0}をそれぞれ算出する。u0・は、(2)式においてu0の上に・が付されているものに対応する。回帰係数算出部420は、モノリンク18a、18bの粘性減衰係数、軸バネ19a、19bの粘性減衰係数から、モノリンク18a、18bの粘性行列[Cbc]、軸バネ19a、19bの粘性行列[Cbc]をそれぞれ算出する。また、回帰係数算出部420は、モノリンク18a、18bの剛性、軸バネ19a、19bの剛性から、モノリンク18a、18bの剛性行列[Kbc]、軸バネ19a、19bの剛性行列[Kbc]をそれぞれ算出する。
【0091】
回帰係数算出部420は、このようにして得られた情報を(2)式に与えることにより、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bに作用する外力と、軸バネ19a、19bの着力点32a、32bに作用する外力とを算出する。そして、回帰係数算出部420は、台車枠16の着力点31a、31bに作用する外力、着力点32a、32bに作用する外力を、それぞれ、モノリンク18a、18bの着力点31a、31bに作用する外力の反作用力、軸バネ19a、19aの着力点32a、32bに作用する外力の反作用力として算出する。
【0092】
回帰係数算出部420は、(1)式の外力ベクトル{f}の成分のうち、着力点31a、31b、32a、32bに作用する外力の成分には、このようにして算出した値を与え、その他の成分には、0(零)を与えることにより、(1)式の外力ベクトル{f}を算出する。そして、回帰係数算出部420は、外力ベクトル{f}が与えられた(1)式の運動方程式を解くことにより、台車枠16の解析モデルにおける各メッシュの節点の位置での変位ベクトル{u]を算出する。なお、台車枠16の質量行列[M]、粘性行列[C]、および剛性行列[K]は、有限要素法による運動方程式の定式化に従って算出される。また、台車枠16の解析モデルにおける各メッシュの節点の位置での変位ベクトル{u]を算出する手法自体は公知の技術で実現され、前述した手法に限定されない。
【0093】
また、本実施形態では、回帰係数算出部420は、加速度センサ22a、22bで測定された台車枠16の加速度データを用いて、台車枠16の加速度の時間に関する2階積分を行うことにより、加速度センサ22a、22bの取り付け位置における変位ベクトル(x軸方向成分、y軸方向成分、z軸方向成分)を算出する。そして、回帰係数算出部420は、台車枠16の加速度データを用いて算出された、加速度センサ22a、22bの取り付け位置での変位ベクトルと、(1)式の運動方程式を解くことにより算出された、当該取り付け位置での変位ベクトルと、の差に基づいて、(1)式の運動方程式を解くことにより算出された各メッシュの節点の位置における変位ベクトルを補正する。例えば、回帰係数算出部420は、(1)式の運動方程式を解くことにより算出された変位ベクトルが、台車枠16の加速度データを用いて算出された変位ベクトルに一致するように、各メッシュの節点の位置での変位ベクトルに対する補正量を算出する。そして、回帰係数算出部420は、(1)式の運動方程式を解くことにより算出された変位ベクトルを、当該補正量を用いて補正する。なお、変位ベクトルの補正は行われなくてもよい。
【0094】
回帰係数算出部420は、鉄道車両が走行しているときに、台車枠16の各メッシュの節点の位置における変位ベクトル{u]を、所定の時間隔Δt1が経過するたびに算出する。そして、回帰係数算出部420は、台車枠16の各メッシュの初期座標(x0,y0,z0)および変位ベクトル{u]に基づいて、台車枠16の各メッシュの節点の位置における座標(x,y,z)を、所定の時間隔Δt1の各学習時刻t1において算出する。このようにして、台車枠16の各メッシュの節点の位置における座標(x,y,z)が各学習時刻t1において算出される。
【0095】
また、回帰係数算出部420は、台車枠16の各メッシュの節点の位置における応力(本実施形態では最大主応力)を各学習時刻t1において算出する。台車枠16の各メッシュの節点の位置における応力の算出は、特許文献1、2に記載の技術等、公知の技術を用いて行えばよいので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0096】
回帰係数算出部420は、台車枠16の各メッシュの節点の位置における座標のうち、部位jに応じて定められたn1個の部位iの座標を抽出することと、当該部位jに対応する座標における最大主応力σmax,jを抽出することと、を学習時刻t1において行う。回帰係数算出部420は、学習時刻t1-Δt1におけるn1個の部位iの座標を(x1
(i),y1
(i),z1
(i))とし、学習時刻t1におけるn1個の部位iの座標を(x2
(i),y2
(i),z2
(i))として、(25)式の計算を行うことにより、(24)式に示す行列Mを、学習時刻t1における部位jの行列Mとして算出する。以上のようにして、学習時刻t1において、部位jの最大主応力σmax,p,jと、部位jの行列Mと、が得られる。回帰係数算出部420は、このようにして得られる部位jの最大主応力σmax,p,jおよび行列Mを、学習時刻t1における部位jの教師データpとする。なお、(26)式に示すアフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^は、それぞれ、(28)式に示すa1
(p,j)^、a2
(p,j)^、a3
(p,j)^、a5
(p,j)^、a6
(p,j)^、a7
(p,j)^、a9
(p,j)^、a10
(p,j)^、a11
(p,j)^として算出される。
【0097】
回帰係数算出部420は、以上の教師データpの作成を、1つの学習時刻t1において、部位jのそれぞれに対して行う。したがって、1つの学習時刻t1において、部位jの数の教師データが算出される。また、回帰係数算出部420は、各学習時刻t1のそれぞれにおいて、以上の教師データpを算出することで、1つの部位jについて合計でn2個の教師データpを作成する。
【0098】
そして、回帰係数算出部420は、n2個の教師データpを用いて(40)式または(41)式の計算を行うことにより係数行列Wj^を算出する。回帰係数記憶部430は、以上のようにして回帰係数算出部420により算出された係数行列Wj^を記憶する。このようにして(26)式の線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jが得られる。また、台車枠16の応力の算出対象の位置に対応する部位jが複数ある場合、回帰係数算出部420は、複数の部位jのそれぞれについて、前述したようにして(26)式の線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jを算出して、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jを成分として含む係数行列Wj^を回帰係数記憶部430に記憶させる。
【0099】
なお、行列Mおよび係数行列Wj^を算出する手法は、前述した手法に限定されず、重回帰分析における教師あり学習を行うための公知の種々の手法でもよい。
【0100】
<<応力算出部440、ステップS602>>
応力算出部440は、回帰係数記憶部430により係数行列Wj^が記憶された後に起動する。応力算出部440は、データ取得部410により取得されたデータと、線形回帰式と、に基づいて、台車枠16の応力を算出する。本実施形態では、応力算出部440が、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jが与えられた(26)式の線形回帰式に基づいて、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを算出(推定)する場合を例示する。
【0101】
応力算出部440は、最大主応力σmax,jの算出対象となる部位jとして1つ以上の部位jを設定する。また、応力算出部440は、1つの部位jに対してそれぞれn1個の部位iを設定する。また、応力算出部440は、台車枠16の各メッシュの初期座標(x0,y0,z0)を設定する。
【0102】
そして、応力算出部440は、<<回帰係数算出部420、回帰係数記憶部430、ステップS502、S503>>の欄で説明した所定の時間隔Δt1の学習時刻t1を、所定の時間隔Δt2の推定時刻t2に置き替えた処理を行って、推定時刻t2における部位jの行列Mを算出する((24)式を参照)。最大主応力σmax,jの算出対象となる部位jが複数ある場合、応力算出部440は、各推定時刻t2において、各部位jの行列Mをそれぞれ算出する。
【0103】
そして、応力算出部440は、各推定時刻t2における部位jの行列Mと、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w9,jが与えられた(26)式の線形回帰式と、に基づいて、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを、各推定時刻t2において算出する。最大主応力σmax,jの算出対象となる部位jが複数ある場合、応力算出部440は、各推定時刻t2において、各部位jにおける最大主応力σmax,jを算出する。
【0104】
<<出力部450、ステップS603>>
出力部450は、応力算出部440により算出された台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを示す情報を出力する。出力部450による情報の出力形態は限定されない。例えば、出力部450による情報の出力形態として、コンピュータディスプレイへの表示と、外部装置への送信と、処理装置400の内部または外部の記憶媒体への記憶と、のうちの少なくとも1つが採用される。
【0105】
<計算例>
次に、本実施形態の計算例を説明する。
図7は、特許文献1に記載の手法で算出された台車枠16の部位jの最大主応力と時間との関係の一例を示す図である。
図7では、4/3600秒の時間隔で各時刻における最大主応力を算出した結果を示す。
図7における前半の600個の各時刻において、本実施形態で説明したようにして部位jの行列M(アフィン係数a
1
(p,j)^、a
2
(p,j)^、a
3
(p,j)^、a
5
(p,j)^、a
6
(p,j)^、a
7
(p,j)^、a
9
(p,j)^、a
10
(p,j)^、a
11
(p,j)^)を算出した。これら600個の各時刻における行列Mおよび最大主応力を教師データとして、本実施形態で説明したようにして係数行列W
j^を算出した。そして、
図7における後半の3001個の各時刻において、特許文献1に記載の手法と本実施形態の手法とのそれぞれの手法で、台車枠16の部位jの最大主応力を算出した。また、前半の600個の各時刻においても、前述したようにして算出した係数行列W
j^を用いて本実施形態の手法で台車枠16の部位jの最大主応力を算出した。なお、最大主応力の算出対象の部位jは、いずれも同じ部位である。
【0106】
図8にその結果を示す。
図8(a)および
図8(b)において、真値は、特許文献1に記載の手法で算出された台車枠16の部位jの最大主応力である。推定値は、本実施形態の手法で算出された台車枠16の当該部位jの最大主応力である。同時刻における真値および推定値を1つの点としてプロットすることにより、
図8(a)および
図8(b)が得られる。
【0107】
図8(a)は、前述した前半の600個の各時刻における、台車枠16の最大主応力の真値と推定値との関係の一例を示す図である。
図8(b)は、前述した後半の3001個の各時刻における、台車枠16の最大主応力の真値と推定値との関係の一例を示す図である。
図8(a)においては、決定係数R
2は、0.9980337294となり、
図8(b)においては、決定係数R
2は、0.9980958059となり、本実施形態の手法では、特許文献1に記載の手法と同程度の精度で、台車枠16の最大主応力を算出することができることが分かる。また、CPUの処理時間は、特許文献1に記載の手法よりも本実施形態の手法の方が、22倍以上速く、また、台車枠16の最大主応力の予測に要する時間は、特許文献1に記載の手法よりも本実施形態の手法の方が、1000倍以上速くなった。したがって、本実施形態の手法では、特許文献1に記載の手法に比べ、計算時間を大幅に短縮することができることが分かる。
【0108】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、処理装置400は、台車枠16の加速度データおよび軸箱17a、17bの加速度データを取得する。処理装置400は、台車枠16の加速度データおよび軸箱17a、17bの加速度データに基づいて、アフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^を算出する。処理装置400は、台車枠16の最大主応力σmax,jを目的変数として含み、アフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^を複数の説明変数として含む線形回帰式に、アフィン係数a1^、a2^、a3^、a5^、a6^、a7^、a9^、a10^、a11^を与えることにより、台車枠16の最大主応力σmax,jを算出する。したがって、特許文献1に記載のように、アフィン行列の特異値分解を行ったり、特許文献2に記載のように、モード座標系から物理座標系への再変換を行ったり、特許文献1、2に記載のように、変位から歪みを算出し歪みから応力を算出したりしなくても、複数の説明変数から物体(本実施形態では台車枠16)の応力を直接的に算出することができる。よって、物体の応力を推定するに際し、計算速度を向上させることができる。
【0109】
<変形例>
本実施形態では、台車枠16の振動(運動)を表す運動方程式を用いて、台車枠16の変位ベクトル[u]を算出し、台車枠16の変位ベクトル[u]に基づいて、台車枠16の各部位jの座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))、(x2
(i),y2
(i),z2
(i))を算出する場合を例示した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、台車枠16の各部位iの変位または変位を算出可能な物理量(例えば、加速度および速度)を測定するセンサ(例えば、歪みゲージおよび加速度センサ)の測定値に基づいて、当該部位iの変位を得て、当該部位iの座標(x1
(i),y1
(i),z1
(i))、(x2
(i),y2
(i),z2
(i))を算出してもよい。
【0110】
また、本実施形態では、アフィン変換行列を用いる場合を例示した。しかしながら、必ずしもアフィン変換行列を用いる必要はない。例えば、線形変換行列(アフィン変換行列から平行移動を行うための平行移動を行うための成分を除いた行列)を用いてもよい。
【0111】
また、本実施形態では、目的変数が最大主応力である場合を例示した。しかしながら、目的変数となる応力は、最大主応力に限定されない。目的変数は、例えば、中間主応力でも、最小主応力でも、せん断応力であってもよい。
【0112】
また、本実施形態では、学習を行う機能(
図5のフローチャートによる処理)と、推定を行う機能(
図6のフローチャートによる処理)とが、1つの装置(処理装置400)で実現される場合を例示した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、推定を行う機能を有する処理装置(推定装置)が、学習を行う機能を有する装置とは別の装置であってもよい。
【0113】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を説明する。第1実施形態では、複数の説明変数に、アフィン係数a
1^、a
2^、a
3^、a
5^、a
6^、a
7^、a
9^、a
10^、a
11^が含まれる場合を例示した。これに対し、本実施形態では、複数の説明変数に、モード座標系における変位および速度のうちの少なくとも一方が含まれる場合について説明する。このように本実施形態と第1実施形態とは、説明変数が異なることによる構成および処理が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1実施形態と同一の部分については、
図1~
図8に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0114】
<処理装置400、処理方法>
処理装置400のハードウェアは、例えば、第1実施形態で説明したハードウェアで実現される。また、処理装置400の機能的な構成は、例えば、第1実施形態で説明した
図4に示す各ブロック(データ取得部410、回帰係数算出部420、回帰係数記憶部430、応力算出部440、および出力部450)が有する機能の少なくとも一部が、第1実施形態で説明した機能に対し変更されたもので実現される。また、処理方法は、例えば、
図5および
図6に示す各ステップで行われる処理の少なくとも一部が、第1実施形態で説明した処理に対し変更されたもので実現される。そこで、
図4~
図6に示す符号を用いて、本実施形態の処理装置400および処理方法の一例を説明する。
【0115】
<モード座標系における変位および速度の算出>
本実施形態では、以下のようにしてモード座標系における物体の変位ベクトル{ξ}および速度ベクトル{ξ・}を算出する場合を例示する。なお、ここでは、特許文献2に記載されている事項についての詳細な説明を必要に応じて省略する。また、モード座標系における物体の変位ベクトル{ξ}(∈Rn)および速度ベクトル{ξ・}(∈Rn)の算出は、例えば、特許文献2に記載の手法を用いてもよい。
【0116】
(1)式の運動方程式に固有値解析を適用することにより、固有振動数ωおよび固有ベクトル{φ}が算出され、固有ベクトル{φ}={φ(1)}、・・・、{φ(n)}で構成されるモード行列[φ](∈R3l×n)が算出される。尚、固有ベクトルは、固有モードベクトルとも称される。ここで、n(∈N)は、モード数である。固有ベクトル{φ(1)}、・・・、{φ(n)}を基底とする変位ベクトルの座標系のことをモード座標系と称する。
【0117】
モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ](∈Rn×n)、モード座標系における台車枠16の粘性行列[Cξ](∈Rn×n)、モード座標系における台車枠16の剛性行列[Kξ](∈Rn×n)は、それぞれ、以下の(42)式、(43)式、(44)式で表される。
【0118】
【0119】
また、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]は、それぞれ、以下の(45)式、(46)式、(47)式のように、対角行列である。
【0120】
【0121】
ここで、(1)、・・・、(n)は、それぞれ、一次の固有振動モード、・・・、n次の固有振動モードに対応する成分であることを示す(このことは、以降の式でも同じである)。
モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]は、対角行列である。従って、各固有振動モードは、相互に独立したものとして扱うことができる。よって、計算時間を短くすることができる。
【0122】
物理座標系における台車枠16の変位ベクトル{u}は、以下の(48)式のように、モード座標系における変位ベクトル{ξ}(∈Rn)に変換される。また、物理座標系における台車枠16の速度ベクトル{u・}は、以下の(49)式のように、モード座標系における速度ベクトル{ξ・}(∈Rn)に変換される。また、物理座標系における台車枠16の外力ベクトル{f}は、以下の(50)式のように、モード座標系における外力ベクトル{fξ}(∈Rn)に変換される。
【0123】
【0124】
尚、u・は、(1)式および(49)式においてuの上に・が付されているものに対応する。また、ξ・は、(49)式においてξの上に・が付されているものに対応する(このことは、以降の式でも同じである)。
【0125】
本実施形態では、物理座標系における変位および速度が、変換前の第2物理量である場合を例示する。また、本実施形態では、モード座標系における変位および速度が、変換後の第2物理量、および物体(本実施形態では台車枠16)の応力に対する影響因子である場合を例示する。また、本実施形態では、(48)式および(49)式が、変換前の第2物理量と、当該変換前の第2物理量に乗算される係数と、に基づいて、変換後の前記第2物理量を算出する計算式である場合を例示する。
【0126】
台車枠16の振動を表す物理座標系における運動方程式((1)式)は、以下の(51)式のように、モード座標系における運動方程式で表現される。
【0127】
【0128】
また、状態変数Ξ(∈R2n)を以下の(52)式のように定義する。また、(51)式を以下の(53)式の状態方程式で記述する。尚、特許文献1に記載されているように、(53)式の右辺にシステムノイズが加算されてもよいが、ここでは、説明を簡単にするために、システムノイズの表記を省略する。
【0129】
【0130】
ここで、状態遷移行列S(∈R2n×2n)は、以下の(54)式で表される。
【0131】
【0132】
また、ベクトルF(∈Rn)は、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}を格納するベクトルであり、以下の(55)式で表される。
【0133】
【0134】
また、行列G(∈R2n×n)は、以下の(56)式で表される。
【0135】
【0136】
本実施形態では、(53)式を離散化した式として以下の(57)式を用いる場合を例示する。ここで、kは、離散化された時刻を識別する変数である。また、(57)式の右辺の係数B、Γは、それぞれ以下の(58)式、(59)式で表される。
【0137】
【0138】
ここで、eは、ネイピア数である。Tsは、サンプリング時間である。サンプリング時間Tsは、例えば、時刻k、k-1の時間隔をq個に等分した場合の各部分の時間である。また、初期時刻(k=0)における状態変数Ξ0には、所定値(例えば、0(零))が与えられる。したがって、例えば、kが所定値未満の状態変数Ξkを、信頼性が低いものとして採用せずに、時刻kが当該所定値以上の状態変数Ξkを採用してもよい。
【0139】
(57)式を解くことにより各時刻kにおける状態変数Ξkが算出され、モード座標系における変位ベクトル[ξ]および速度ベクトル[ξ・]が算出される。なお、モード座標系における変位ベクトル[ξ]および速度ベクトル[ξ・]は、各メッシュのそれぞれにおいて算出される。
【0140】
<<データ取得部410、ステップS501、S601>>
データ取得部410は、処理装置400における計算のために予め処理装置400が取得しておく必要がある各種の情報を取得する。本実施形態においても、ステップS501、601において、データ取得部410は、第1実施形態で説明したデータを取得する。本実施形態では、軸箱17a、17bの加速度データが、物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データである場合を例示する。
【0141】
<<回帰係数算出部420、回帰係数記憶部430、ステップS502、S503>>
回帰係数算出部420は、データ取得部410により取得されたデータを用いて、台車枠16の応力を目的変数として含み、台車枠16の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式の回帰係数を算出する。本実施形態でも第1実施形態と同様に、台車枠16の応力(目的変数)が、台車枠16の最大主応力である場合を例示する。また、本実施形態では、複数の説明変数が、状態変数Ξ(=[ξ・(1) ξ(1) ・・・ξ・(n) ξ(n)]Tである場合を例示する。
【0142】
ここで、台車枠16の応力の算出対象の位置に対応する部位jの状態変数を、Ξj(=[ξ・j
(1) ξj
(1)・・・ξ・j
(n) ξj
(n)]Tと表記する。本実施形態では、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jが、以下の(60)式の線形回帰式で表される場合を例示する。
【0143】
【0144】
説明の都合上、教師データpに含まれる(60)式の右辺の説明変数の成分ξ・j
(1)、ξj
(1)、・・・、ξ・j
(n)、ξj
(n)を、それぞれ、ξ・p,j
(1)、ξp,j
(1)、・・・、ξ・p,j
(n)、ξp,j
(n)と表記する。また、第1実施形態との重複する説明を省略するため、ここでは第1実施形態で説明した記号を用いる。
【0145】
そうすると、係数行列Wj^は、以下の(61)式で表される。また、係数行列Wj^を算出するために用いる教師データpに含まれる目的変数(台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,p,j)を成分として含む行列Ψjは、第1実施形態で説明した(37)式で表される。また、係数行列Wj^を算出するために用いる教師データpに含まれる複数の説明変数(状態変数(ξ・p,j
(1)、ξp,j
(1)、・・・、ξ・p,j
(n)、ξp,j
(n)))を成分として含む行列Λjは、以下の(62)式で表される(p=1,2,・・・,n2)。(61)式、(62)式は、それぞれ、第1実施形態で説明した(31)式、(38)式に対応する。
【0146】
【0147】
そうすると、(37)式、(62)式で表される行列Ψj、Λjを用いて、第1実施形態で説明したようにして(40)式または(41)式の計算を行うことにより、(61)式に示す係数行列Wj^が算出される。
【0148】
また、複数の説明変数は、モード座標系における変位ベクトル[ξ]および速度ベクトル[ξ・]のいずれか一方のみを含んでいてもよい。例えば、複数の説明変数が、モード座標系における変位ベクトル[ξ]を含み、速度ベクトル[ξ・]を含まない場合、(60)式に示す台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを算出するための線形回帰式は、以下の(63)式のようになる。また、(31)式で表される係数行列Wj^は、以下の(64)式のようになる。また、(62)式で表される行列Λjは、以下の(65)式のようになる。また、行列Ψjは、(37)式になる。
【0149】
【0150】
この場合、(37)式、(65)式で表される行列Ψj、Λjを用いて、(40)式または(41)式により、(64)式に示す係数行列Wj^が算出される。
本実施形態では、回帰係数算出部420が以上のようにして(40)式または(41)式の計算を行うことにより係数行列Wj^を算出して回帰係数記憶部430に記憶させる場合を例示する。
【0151】
係数行列Wj^を算出する方法の具体例を以下に説明する。
まず、回帰係数算出部420は、台車枠16の部位jとして少なくとも1つの部位jを設定する。
回帰係数算出部420は、(1)式の運動方程式に対する固有値解析を行うことにより、固有振動数ωおよび固有ベクトル{φ}を導出し、固有ベクトル{φ}で構成されるモード行列[φ]を算出する。
そして、回帰係数算出部420は、モード行列[φ]と、台車枠16の質量行列[M]と、を用いて、(42)式により、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の質量行列を、必要に応じて、モード質量行列と称する。
【0152】
また、回帰係数算出部420は、モード行列[φ]と、台車枠16の粘性行列[C]と、を用いて、(43)式により、モード座標系における台車枠16の粘性行列[Cξ]を算出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の粘性行列を、必要に応じて、モード粘性行列と称する。
【0153】
また、回帰係数算出部420は、モード行列[φ]と、台車枠16の剛性行列[K]と、を用いて、(44)式により、モード座標系における台車枠16の剛性行列[Kξ]を導出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の剛性行列を、必要に応じて、モード剛性行列と称する。
【0154】
また、回帰係数算出部420は、第1実施形態で説明したようにして加速度センサ21a、21bで測定された加速度データに基づいて、モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19bの変位ベクトル{u0}および速度ベクトル{u0・}をそれぞれ算出する。回帰係数算出部420は、モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19bの粘性減衰係数から、モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19bの粘性行列[Cbc]をそれぞれ導出する。また、外力導出部406は、モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19bの剛性から、モノリンク18a、18bおよび軸バネ19a、19bの剛性行列[Kbc]をそれぞれ導出する。
【0155】
また、回帰係数算出部420は、加速度センサ21a、21bで測定された軸箱17a、17bの加速度データを用いて、第1実施形態で説明したようにして(1)式の外力ベクトル{f}を算出する。そして、回帰係数算出部420は、台車枠16の外力ベクトル{f}と、モード行列[φ]と、を用いて、モード座標系における台車枠16の外力ベクトル{fξ}(=[φ]T{f})を算出する。以下の説明では、モード座標系における台車枠16の外力ベクトルを、必要に応じて、モード外力ベクトルと称する。
【0156】
回帰係数算出部420は、以上のようにして、時刻kにおいて、モード質量行列[Mξ]、モード粘性行列[Cξ]、モード剛性行列[Kξ]、モード外力ベクトル{fξ}を、台車枠16の解析モデルにおける各メッシュのそれぞれにおいて算出し、これらを用いて、(57)式により、学習時刻t1(時刻k)における状態変数Ξkを、台車枠16の解析モデルにおける各メッシュのそれぞれにおいて算出する。そして、回帰係数算出部420は、これら台車枠16の解析モデルにおける各メッシュの状態変数Ξkのうち、部位jに対応する状態変数状態変数Ξkを、学習時刻t1における部位jの状態変数Ξk(ξ・p,j
(1)、ξp,j
(1)、・・・、ξ・p,j
(n)、ξp,j
(n))とする。
【0157】
また、回帰係数算出部420は、台車枠16の各メッシュの節点の位置における応力(本実施形態では最大主応力)を各学習時刻t1において算出する。第1実施形態で説明したように、台車枠16の各メッシュの節点の位置における応力の算出は、特許文献1、2に記載の技術等、公知の技術を用いて行えばよいので、ここでは、その詳細な説明を省略する。そして、回帰係数算出部420は、学習時刻t1において算出した、台車枠16の各メッシュの節点の位置における最大主応力のうち、部位jに対応する座標における最大主応力を抽出し、学習時刻t1における部位jの最大主応力σmax,p,jとする。
【0158】
回帰係数算出部420は、以上のようにして学習時刻t1(時刻k)における部位jの状態変数Ξk(ξ・p,j
(1)、ξp,j
(1)、・・・、ξ・p,j
(n)、ξp,j
(n))および最大主応力σmax,p,jを、学習時刻t1における部位jの教師データpとする。
【0159】
回帰係数算出部420は、以上の教師データpの作成を、1つの学習時刻t1において、部位jのそれぞれに対して行う。したがって、1つの学習時刻t1において、部位jの数の教師データが算出される。また、回帰係数算出部420は、各学習時刻t1のそれぞれにおいて、以上の教師データpを算出することで、1つの部位jについて合計でn2個の教師データpを作成する。
【0160】
そして、回帰係数算出部420は、n2個の教師データpを用いて(40)式または(41)式の計算を行うことにより係数行列Wj^を算出する。回帰係数記憶部430は、以上のようにして回帰係数算出部420により算出された係数行列Wj^を記憶する。このようにして(60)式の線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w2n,jまたは(63)式の線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、wn,jが得られる。また、台車枠16の応力の算出対象の位置に対応する部位jが複数ある場合、回帰係数算出部420は、複数の部位jのそれぞれについて、前述したようにして(60)式の線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w2n,jまたは(63)式の線形回帰式の回帰係数w0,j、w1,j、・・・、wn,jを算出して、当該回帰係数を成分として含む係数行列Wj^を回帰係数記憶部430に記憶させる。
【0161】
なお、係数行列Wj^を算出する手法は、前述した手法に限定されず、重回帰分析における教師あり学習を行うための公知の種々の手法でもよい。
【0162】
<<応力算出部440、ステップS602>>
応力算出部440は、回帰係数記憶部430により係数行列Wj^が記憶された後に起動する。応力算出部440は、データ取得部410により取得されたデータと、線形回帰式と、に基づいて、台車枠16の応力を算出する。本実施形態では、応力算出部440が、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w2n,jが与えられた(60)式の線形回帰式、または、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、wn,jが与えられた(63)式の線形回帰式に基づいて、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを算出する場合を例示する。
【0163】
応力算出部440は、最大主応力σmax,jの算出対象となる部位jとして1つ以上の部位jを設定する。
【0164】
そして、応力算出部440は、<<回帰係数算出部420、回帰係数記憶部430、ステップS502、S503>>の欄で説明した学習時刻t1を、所定の時間隔Δt2の推定時刻t2に置き替えた処理を行って、推定時刻t2における部位jの状態変数Ξkを算出する((52)式、(57)を参照)。最大主応力σmax,jの算出対象となる部位jが複数ある場合、応力算出部440は、各推定時刻t2において、各部位jの状態変数Ξkをそれぞれ算出する。
【0165】
そして、応力算出部440は、各推定時刻t2における部位jの状態変数Ξkと、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、w2n,jが与えられた(60)式の線形回帰式、または、回帰係数w0,j、w1,j、・・・、wn,jが与えられた(63)式の線形回帰式と、に基づいて、台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを、各推定時刻t2において算出する。最大主応力σmax,jの算出対象となる部位jが複数ある場合、応力算出部440は、各推定時刻t2において、各部位jにおける最大主応力σmax,jを算出する。
【0166】
<<出力部450、ステップS603>>
出力部450は、応力算出部440により算出された台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを示す情報を出力する。出力部450による情報の出力形態は限定されない。本実施形態の出力部450は、第1実施形態の出力部450に対し、出力対象の情報が異なるだけであり、本実施形態の出力部450が有する機能自体は、第1実施形態の出力部450と同じである。
【0167】
<計算例>
次に、本実施形態の計算例を説明する。本計算例では、
図7における前半の600個の各時刻において、本実施形態で説明したようにして部位jの状態変数Ξ
k(ξ・
p,j
(1)、ξ
p,j
(1)、・・・、ξ・
p,j
(n)、ξ
p,j
(n))を算出した。これら600個の各時刻における状態変数Ξ
kおよび最大主応力を教師データとして、本実施形態で説明したようにして係数行列W
j^を算出した。そして、
図7における後半の3001個の各時刻において、特許文献1に記載の手法と本実施形態の手法とのそれぞれの手法で、台車枠16の部位jの最大主応力を算出した。本計算例では、(60)式の線形回帰式の回帰係数w
0,j、w
1,j、・・・、w
2n,jを成分として含む係数行列W
j^と、(63)式の線形回帰式の回帰係数w
0,j、w
1,j、・・・、w
n,jを成分として含む係数行列W
j^と、をそれぞれ算出し、それぞれの線形回帰式を用いて台車枠16の部位jの最大主応力をそれぞれ算出した。また、前半の600個の各時刻においても、前述したようにして算出した係数行列W
j^を用いて本実施形態の手法で台車枠16の部位jの最大主応力を算出した。なお、最大主応力の算出対象の部位jは、いずれも同じ部位である。
【0168】
図9および
図10にその結果を示す。
図9は、(60)式の線形回帰式を用いた結果を示し、
図10は、(63)式の線形回帰式を用いた結果を示す。
図9および
図10において、真値は、特許文献1に記載の手法で算出された台車枠16の部位jの最大主応力である。推定値は、本実施形態の手法で算出された台車枠16の当該部位jの最大主応力である。同時刻における真値および推定値を1つの点としてプロットすることにより、
図9(a)、
図9(b)、
図10(a)、および
図10(b)が得られる。
【0169】
図9(a)および
図10(a)は、前述した前半の600個の各時刻における、台車枠16の最大主応力の真値と推定値との関係の一例を示す図である。
図9(b)および
図10(b)は、前述した後半の3001個の各時刻における、台車枠16の最大主応力の真値と推定値との関係の一例を示す図である。
図9(a)においては、決定係数R
2は、0.9974630337となり、
図9(b)においては、決定係数R
2は、0.9989459366となり、
図10(a)においては、決定係数R
2は、0.9974040110となり、
図10(b)においては、決定係数R
2は、0.9991478462となり、本実施形態の手法では、特許文献1に記載の手法と同程度の精度で、台車枠16の最大主応力を算出することができることが分かる。また、CPUの処理時間は、特許文献1に記載の手法よりも本実施形態の手法の方が、22倍以上速く、また、台車枠16の最大主応力の算出に要する時間は、特許文献1に記載の手法よりも本実施形態の手法の方が、1000倍以上速くなった。したがって、本実施形態の手法では、特許文献1に記載の手法に比べ、計算時間を大幅に短縮することができることが分かる。
【0170】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、処理装置400は、軸箱17a、17bの加速度データを取得する。軸箱17a、17bの加速度データに基づいて、状態変数Ξ(モード座標系における変位ベクトルおよび速度ベクトルの少なくとも一方)を算出する。処理装置400は、台車枠16の最大主応力σmax,jを目的変数として含み、状態変数Ξを複数の説明変数として含む線形回帰式に、状態変数Ξを与えることにより、台車枠16の最大主応力σmax,jを算出する。したがって、第1実施形態と同様に、物体の応力を推定するに際し、計算速度を向上させることができる。
【0171】
<変形例>
本実施形態では、台車枠16の各メッシュの節点の位置における応力(本実施形態では最大主応力)を各学習時刻t1において算出し、学習時刻t1における部位jの教師データpとする場合を例示した。
しかしながら、教師データに含める目的変数は、応力の計算値ではなく、測定値であってもよい(以下の説明では、応力の測定値を、必要に応じて応力測定値と称する)。
【0172】
図11は、台車枠16の部位jの応力測定値と時間との関係の一例を示す図である。
図11では、台車枠16の部位jが横梁と心皿とのつなぎ部である場合を例示する。また、ここでは、横梁と心皿とのつなぎ部に貼付した歪みゲージを用いて、当該つなぎ部の応力測定値を得た。また、ここでは、教師データに含める目的変数が応力測定値であることから、以下の(66)式に示すように、(63)式の左辺に示すσ
max,jを、σ
obs,jに置き換えて表記する((66)式の右辺は(63)式の右辺と同じである)。
【0173】
図11における前半の1000個の各時刻kの応力測定値のデータと、当該時刻のモード座標系における変位ベクトル[ξ]と、を教師データとして用いて、本実施形態で説明した手法で(66)式の係数行列W
j^(回帰係数w
0,j、w
1,j、・・・、w
n,j)を決定した。そして、
図11における後半の3001個の各時刻における台車枠16の部位jにおける応力σ
obs,jを、学習後の(66)式を用いて計算(推定)した。
図11における後半の3001個の各時刻における計算値(推定値)と、当該各時刻における測定値との関係を
図12に示す。ここでは、モード座標系における台車枠16の質量行列[M
ξ]、粘性行列[C
ξ]、剛性行列[K
ξ]、外力ベクトル{f
ξ}を(51)式に与えて、(51)式を解くことにより、モード座標系における台車枠16の部位jの変位ベクトル{ξ}を算出する場合を例示する。
【0174】
【0175】
図12において、推定値は、学習後の(66)式を用いて算出した、
図11における後半の3001個の各時刻における台車枠16の部位jの応力σ
obs,jである。真値は、
図11における後半の3001個の各時刻における台車枠16の部位jの応力測定値である。同時刻における測定値および計算値を1つの点としてプロットすることにより、
図12が得られる。
図12に示すように、決定係数R
2は、0.599となり、教師データとして応力測定値を使っても良好な推定精度が得られることが分かる。このようにする場合、
図5のステップS510において、データ取得部410は、台車枠16の応力測定値をさらに取得する。
【0176】
ここでは、(63)式の線形回帰式を例示して、教師データに含める目的変数が応力測定値でもよいことを説明した。(60)式においても、教師データに含める目的変数を応力測定値としてもよい。
【0177】
また、特許文献2に記載のように、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}の推定精度を向上させるために、データ同化を行うフィルタを用いてもよい。すなわち、応力算出部440は、物理座標系における台車枠16の変位ベクトル[u]を観測変数yとすると共に、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル[ξ]および速度ベクトル[ξ・]を状態変数Ξとし、観測変数yの測定値と(51)式に基づく計算値との差異が小さく(最小に)なるように、未観測の変数(状態変数Ξ)の推定値を、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより算出してもよい。観測変数yの測定値(物理座標系における台車枠16の変位ベクトル[u])は、加速度センサ22a、22bで測定された台車枠16の加速度データに基づいて算出される。
【0178】
観測変数y∈R3mは、例えば、以下の(57)式のように表される。m∈Zは、観測位置の数である。また、観測方程式は、以下の(68)式で表される。
【0179】
【0180】
図2に示す例では、加速度センサ22a、22bの数は2であるので、観測位置の数mは2である。~は、測定量であることを表す。尚、測定量には、直接測定される量だけではなく、他の測定量を用いて導出される量も含まれるものとする。
(67)式において、u~1,x、u~1,y、u~1,z、・・・u~m,x、u~m,y、u~m,zのカンマ(,)の前の1、・・・、mの値をとる変数は、観測位置(
図2に示す例では、加速度センサ22a、22bの取り付け位置)を表す。また、u~1,x、u~1,y、u~1,z、・・・u~m,x、u~m,y、u~m,zのカンマ(,)の後のx、y、zは、それぞれ、x軸方向成分、y軸方向成分、z軸方向成分であることを表す。従って、例えば、u~1,xは、変数=1の観測位置に対応する加速度センサの取り付け位置における変位のx軸方向成分の測定量を表す。
なお、u~は、(67)式においてuの上に~が付されているものに対応する。また、(68)式において、Vは、観測ノイズである。
【0181】
(68)式に示す観測方程式により、観測変数yは、状態変数Ξと関連付けられる。観測行列H∈R3m×2nは、(48)式より、以下の(69)式で表される。
【0182】
【0183】
(69)式において、φ
1,x
(1)、φ
1,x
(2)、・・・、φ
1,x
(n)、φ
1,y
(1)、φ
1,y
(2)、・・・、φ
1,y
(n)、φ
1,z
(1)、φ
1,z
(2)、・・・、φ
1,z
(n)、・・・、φ
m,x
(1)、φ
m,x
(2)、・・・、φ
m,x(n)、φ
m,y
(1)、φ
m,y
(2)、・・・、φ
m,y
(n)、φ
m,z
(1)、φ
m,z
(2)、・・・、φ
m,z
(n)のカンマ(,)の前の1、・・・、mの値をとる変数は、観測位置(
図2に示す例では、加速度センサ22a、22bの取り付け位置)を表す。φ
1,x
(1)、φ
1,x
(2)、・・・、φ
1,x
(n)、φ
1,y
(1)、φ
1,y
(2)、・・・、φ
1,y
(n)、φ
1,z
(1)、φ
1,z
(2)、・・・、φ
1,z
(n)、・・・、φ
m,x
(1)、φ
m,x
(2)、・・・、φ
m,x(n)、φ
m,y
(1)、φ
m,y
(2)、・・・、φ
m,y
(n)、φ
m,z
(1)、φ
m,z
(2)、・・・、φ
m,z
(n)のカンマ(,)の後のx、y、zは、それぞれ、x軸方向成分、y軸方向成分、z軸方向成分であることを表す。従って、例えば、φ
1,x
(1)は、1次の固有振動モード、変数=1の観測位置に対応する加速度センサの取り付け位置、およびx軸方向成分に対応するモード行列[φ]の成分である。
【0184】
(52)式、(68)式、および(69)式に示すように、状態変数Ξのうち、モード座標系における台車枠16の変位ξ(1)、・・・、ξ(n)のみに、モード行列[φ]の成分が乗算される。具体的に、モード座標系における台車枠16の変位ξ(1)、・・・、ξ(n)に乗算されるモード行列[φ]の成分は、当該モード座標系における台車枠16の変位と固有振動モードの次数が同じモード行列[φ]の成分であり、且つ、当該モード座標系における台車枠16の変位が生じる観測位置と同じ観測位置に対応するモード行列[φ]の成分である。
【0185】
(53)式に示す状態方程式(ただし、(53)式の右辺にシステムノイズが加算される)と、(67)式に示す観測方程式と、加速度センサ22a、22bで測定された加速度のデータから導出された観測変数の測定値と、を用いて、データ同化を行うフィルタに基づく演算を行うことにより、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}(=[ξ(1)、・・・、ξ(n)]T)の推定値(モード座標系における台車枠16の変位の分布の推定値)が算出される。この場合、台車枠16の加速度データが、物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データの一例になる。
【0186】
データ同化を行うフィルタの一例として、線形カルマンフィルタがある。線形カルマンフィルタでは、観測変数の測定値と計算値との誤差または当該誤差の期待値が小さく(最小に)なるカルマンゲインを求め、そのときの未観測の変数(状態変数)の値を求める。線形カルマンフィルタ自体は、公知の技術で実現することができる。なお、特許文献2に記載されているように、観測変数の測定値と計算値との誤差が最小または当該誤差の期待値が最小になるように状態変数の推定値を導出するフィルタ(即ち、データ同化を行うフィルタ)として線形カルマンフィルタ以外のフィルタ(例えば、粒子フィルタ)を用いてもよい。なお、観測変数の測定値と計算値との誤差としては、例えば、観測変数の測定値と計算値との二乗誤差が挙げられる。データ同化を行うフィルタを用いる手法自体の詳細は、特許文献2に記載されているので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0187】
図13(a)、
図14(a)、
図15(a)、
図16(a)、
図17(a)、
図18(a)は、各々、台車枠16のバネ帽1位、バネ帽2位、バネ帽3位、バネ帽4位、モータ座1軸、モータ座2軸の上下方向(z軸方向)の変位の測定値1310、1410、1510、1610、1710、1810と第1計算値1320、1420、1520、1620、1720、1820との関係の一例を示す図である。第1計算値1320、1420、1520、1620、1720、1820は、モード座標系における台車枠16の質量行列[M
ξ]、粘性行列[C
ξ]、剛性行列[K
ξ]、外力ベクトル{f
ξ}を(51)式に与えて、(51)式を解くことにより算出された、モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}を物理座標系の変位ベクトル[u]に変換することにより得られた計算値である。
【0188】
不図示のバネ帽は、軸バネ19a、19bを収容する。バネ帽1位は、軸バネ19aに対して設けられるバネ帽であり、バネ帽2位は、車軸15aの両側のうち、軸バネ19aが配置されている側とは反対側の不図示の軸バネに対して設けられるバネ帽である。バネ帽3位は、、軸バネ19bに対して設けられるバネ帽であり、バネ帽2位は、車軸15bの両側のうち、軸バネ19bが配置されている側とは反対側の不図示の軸バネに対して設けられるバネ帽である。
【0189】
不図示のモータ座(モータブラケット)は、台車枠16の不図示の横梁に設けられ、モータを固定するためのものである。モータ座1軸は、輪軸17a側の横梁に対して設けられるモータ座であり、モータ座2軸は、輪軸17b側の横梁に対して設けられるモータ座である。
【0190】
図13(b)、
図14(b)、
図15(b)、
図16(b)、
図17(b)、
図18(b)は、各々、台車枠16のバネ帽1位、バネ帽2位、バネ帽3位、バネ帽4位、モータ座1軸、モータ座2軸の上下方向(z軸方向)の変位の測定値1310、1410、1510、1610、1710、1810と第2計算値1330、1430、1530、1630、1730、1830との関係の一例を示す図である。第2計算値1330、1430、1530、1630、1730、1830は、前述したように、特許文献2に記載のようにデータ同化を行うフィルタを用いて算出されたード座標系における台車枠16の変位ベクトル[ξ]を物理座標系における変位ベクトル[u]に変換することにより得られた計算値である。
【0191】
図13~
図18に示すように、第2計算値1330、1430、1530、1630、1730、1830よりも、第1計算値1320、1420、1520、1620、1720、1820の方が、測定値1310、1410、1510、1610、1710、1810に近く、各部位の変位を高精度に計算できることが分かる。尚、
図13~
図18において、測定値1310、1410、1510、1610、1710、1810をグレー(薄い濃度)で示し、第1計算値1320、1420、1520、1620、1720、1820および第2計算値1330、1430、1530、1630、1730、1830を黒(濃い濃度)で示す。このような表記により、測定値1310、1410、1510、1610、1710、1810のうち、第1計算値1320、1420、1520、1620、1720、1820および第2計算値1330、1430、1530、1630、1730、1830と同じ値の部分が第1計算値1320、1420、1520、1620、1720、1820および第2計算値1330、1430、1530、1630、1730、1830に隠れて見えなくなっている。
【0192】
データ同化を行うフィルタを用いることにより、モード座標系における変位ベクトル[ξ]は、データ同化を行うフィルタのアルゴリズムに基づいて更新され、各時刻での座標系における変位ベクトル[ξ]として算出される。
図11における前半の1000個の各時刻においてこのようにして算出された台車枠16のモード座標系における変位ベクトル[ξ]と、
図11に示す当該各時刻における応力測定値と、を教師データとして用いて、本実施形態で説明した手法で(66)式の係数行列W
j^(回帰係数(w
0,j、w
1,j、・・・、w
n,j)を決定した。
【0193】
図11における後半の3001個の各時刻における計算値(推定値)と、当該各時刻における測定値との関係を
図19に示す。
図19において、推定値は、学習後の(66)式を用いて算出した、
図11における後半の3001個の各時刻における台車枠16の部位jの応力σ
obs,jである。真値は、
図11における後半の3001個の各時刻における台車枠16の部位jの応力測定値である。同時刻における測定値および計算値を1つの点としてプロットすることにより、
図19が得られる。
図19に示すように、決定係数R
2は、0.687となり、
図12に示す結果(決定係数R
2=0.656)に比べて、データ同化を行うフィルタを用いて決定したモード座標系における変位ベクトル[ξ]を説明変数として用いることにより、台車枠16の応力の推定精度がより向上する結果が得られる。
【0194】
ここでは、教師データに含まれる目的変数が応力測定値である場合を例示して、データ同化を行うフィルタを用いて算出されたード座標系における台車枠16の変位ベクトル[ξ]を説明変数として用いる場合を例示した。しかしながら、教師データに含まれる目的変数は、本実施形態で説明したように計算値であってもよい。また、(60)式の線形回帰式においても同様の結果を得ることができる。したがって、(60)式の線形回帰式において、データ同化を行うフィルタを用いて算出されたード座標系における台車枠16の変位ベクトル[ξ]を説明変数として用いてもよい。
【0195】
また、第1実施形態では、物理座標系における座標(x,y,z)をアフィン変換する場合を例示した。しかしながら、第1実施形態において、物理座標系ではなくモード座標系においてアフィン変換を行ってもよい。このようにする場合、(3)式を、例えば、以下の(70)式に置き替えて、第1実施形態で説明した台車枠16の部位jにおける最大主応力σmax,jを表す線形回帰式を求めてもよい。
【0196】
【0197】
(70)式において、φm,x
(r)、φm,y
(r)、φm,z
(r)、ξm,t+1
(r)、ξm,t
(r)のカンマ(,)の前のmは、観測位置(第1実施形態の部位iに対応する位置)を表す。φm,x
(r)、φm,y
(r)、φm,z
(r)のカンマ(,)の後のx、y、zは、それぞれ、x軸方向成分、y軸方向成分、z軸方向成分であることを表す。ξm,t+1
(r)、ξm,t
(r)のカンマ(,)の後のt+1、tは、時刻t+1、tを表す。時刻t+1は、時刻tに時間ステップΔtを加算した次の時刻である。モード座標系における台車枠16の変位ベクトル{ξ}の推定精度を向上させるために、本変形例で示したようにデータ同化を行うフィルタを用いて算出するのが好ましい。しかしながら、モード座標系における台車枠16の質量行列[Mξ]、粘性行列[Cξ]、剛性行列[Kξ]、外力ベクトル{fξ}を(51)式に与えて、(51)式を解くことにより、モード座標系における台車枠16の部位jの変位ベクトル{ξ}を算出してもよい。
【0198】
なお、本実施形態においても、第1実施形態で説明した種々の変形例のうち、アフィン変換行列に特化した変形例を除く変形例を採用してもよい。
【0199】
(その他の実施形態)
なお、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。また、本発明の実施形態は、PLC(Programmable Logic Controller)により実現されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されてもよい。
また、以上説明した本発明の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0200】
なお、以上の実施形態の開示は、例えば以下のようになる。
(開示1)
物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データを含むデータを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得されたデータと、前記物体の応力を目的変数として含み、前記物体の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式と、に基づいて、前記物体の応力を算出する応力算出手段と、
を有し、
前記応力算出手段は、前記データ取得手段により取得された前記第1物理量の測定データに基づいて、前記複数の説明変数を算出する、処理装置。
(開示2)
前記複数の説明変数は、変換前の第2物理量と、当該変換前の第2物理量に乗算される係数と、に基づいて、変換後の前記第2物理量を算出する計算式における、前記係数、または、前記変換後の第2物理量を含み、
前記第2物理量は、位置、変位、および速度のうち、少なくとも1つを含む、開示1に記載の処理装置。
(開示3)
前記計算式は、前記物体の変位前の物理座標系の位置の座標と、当該座標に乗算される変換行列と、に基づいて、前記物体の変位後の物理座標系の位置を算出する計算式を含み、
前記複数の説明変数は、前記計算式における変換行列の成分のうち、線形変換を行うための成分を含む、開示2に記載の処理装置。
(開示4)
前記計算式は、物理座標系における前記物体の振動を記述する運動方程式を固有値解析することにより算出される固有ベクトルと、当該固有ベクトルに乗算されるモード座標系における前記物体の変位と、に基づいて、物理座標系における前記物体の変位を算出する計算式と、前記固有ベクトルと、モード座標系における前記物体の速度と、に基づいて、物理座標系における前記物体の速度を算出する計算式と、を含み、
前記複数の説明変数は、モード座標系における前記物体の変位および速度の少なくとも一方を含む、開示2に記載の処理装置。
(開示5)
前記計算式は、前記物体のモード座標系における前記物体の変位と、当該座標に乗算される変換行列と、に基づいて、当該変位が生じている時刻の次の時刻での、前記物体のモード座標系における前記物体の変位を算出する計算式を含み、
前記複数の説明変数は、前記計算式における変換行列の成分のうち、線形変換を行うための成分を含む、開示2に記載の処理装置。
(開示6)
前記応力算出手段は、モード座標系における前記物体の振動を表す運動方程式に基づいて構成される状態方程式と、観測変数と状態変数との関係を表す観測方程式と、前記第1物理量の測定データから算出される前記観測変数の測定値と、に基づいて、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより、前記状態変数の推定値を決定し、
前記状態変数は、モード座標系における前記物体の変位および速度の少なくとも一方を含む、開示4または5に記載の処理装置。
(開示7)
前記物体は、鉄道車両の台車枠を含む、開示1~6のいずれか1つに記載の処理装置。
(開示8)
物体の振動に応じて変化する第1物理量の測定データを含むデータを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程により取得されたデータと、前記物体の応力を目的変数として含み、前記物体の応力に対する影響因子を複数の説明変数として含む線形回帰式と、に基づいて、前記物体の応力を算出する応力算出工程と、
を有し、
前記応力算出工程は、前記データ取得工程により取得された前記第1物理量の測定データに基づいて、前記複数の説明変数を算出する、処理方法。
(開示9)
開示1~7のいずれか1つに記載の処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0201】
11 車体
12a、12b 台車
13a~13d 輪軸
14a~14d 車輪
15a~15d 車軸
16 台車枠
17a、17b 軸箱
18a、18b モノリンク
19a、19b 軸バネ
21a、21b 加速度センサ
22a、22b 加速度センサ
31a、31b 着力点
32a、32b 着力点
400 処理装置
410 データ取得部
420 回帰係数算出部
430 回帰係数記憶部
440 応力算出部
450 出力部