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  • 特開-細胞ライブラリおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054652
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】細胞ライブラリおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240410BHJP
   C40B 40/02 20060101ALI20240410BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240410BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240410BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C40B40/02
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161024
(22)【出願日】2022-10-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】520121603
【氏名又は名称】株式会社Logomix
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】相澤 康則
(72)【発明者】
【氏名】大野 知幸
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】遺伝子改変細胞を含むライブラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】複数のアレルを有する細胞においてその1アレルの特定部位の塩基配列に豊富な種類の多様性を有する複数の改変細胞を含む細胞ライブラリーを開示する。細胞ライブラリーは、1種類の改変細胞を含む水性組成物の組合せであり得る。このライブラリーは、ゲノムの特定領域の機能性評価、ゲノムの特定領域への様々な種類の変異(例えば、SNP)導入等において有用である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞ライブラリおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新規ゲノム編集ツールとしてCRISPR/Casシステムが報告されてから、CRI
SPR/Casシステムを利用した様々な研究が行われている(例えば、特許文献1)。
CRISPR/Casシステムを利用したゲノム編集では、ガイドRNAにより標的化さ
れた標的領域がCas9ヌクレアーゼにより二本鎖切断される。二本鎖切断されたDNA
は、相同組み換え修復(Homologous Directed Repair:HD
R)又は非相同末端再結合(Non-Homologous End-Joining
Repair:NHEJ)により修復されることが知られている。HDRでは、標的領域
の周辺領域と相同な配列を有するドナーDNAをCRISPR/Casシステムと共に細
胞に導入することにより、任意の配列を標的領域に組み込むことができる。
【0003】
ゲノム改変技術を用いて、HDRにより2以上のアレルを同時に効率よく改変する技術
が開発されている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、数百kbの大規模欠失を2
以上のアレルを同時に効率よく改変することができたことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/093661号
【特許文献2】国際公開第2021/206054号
【発明の概要】
【0005】
本開示は、細胞ライブラリーおよびその製造方法を提供する。より具体的には、本開示
は、複数のアレルを有する細胞においてその1アレルの特定部位の塩基配列に豊富な種類
の多様性を有する複数の改変細胞を含む細胞ライブラリーを提供する。細胞ライブラリー
は、1種類の改変細胞を含む水性組成物の組合せであり得る。
【0006】
(1)改変細胞のライブラリーであって、
ライブラリーは、複数の水性組成物の組合せを含み、
各水性組成物はそれぞれ1種類の改変細胞を含み、
改変細胞はそれぞれ、改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを有し、
改変細胞はそれぞれ第一のアレルの同一位置に、水性組成物間で相互に異なるDNA断
片を含むカセットを有する、
ライブラリー。
(2)各改変細胞は、第二のアレルは、その一部または全部の破壊または欠失を有する、
請求項1または2に記載のライブラリー。
(3)第二のアレルは、シームレスに前記一部または全部を欠失している、上記(2)に
記載のライブラリー。
(4)改変細胞それぞれのDNA断片を含むカセット以外の配列は、改変前後で実質的に
同一である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のライブラリー。
(5)前記カセットの配列のそれぞれは、1以上の改変部分(A)と1以上の非改変部分
(B)とからなり、前記改変部分(A)はそれぞれ、配列の挿入、欠失、および置換から
なる群から選択される1以上の改変を有し、前記1以上の改変部分の改変は、改変の位置
または内容に関して各水性組成物間で異なり、前記1以上の非改変部分(B)はそれぞれ
、改変前の対応する部位の配列と同一であり、前記カセット中のセントロメア側の非改変
部分(B1)は、前記カセットのセントロメア側の隣接配列(C1)とシームレスに連結
しており、前記カセットのテロメア側の非改変部分(Bt)は、前記カセットのテロメア
側の隣接配列(C2)とシームレスに連結しており、記隣接配列(C1)および非改変部
分(B1)が連結した領域、並びに非改変部分(Bt)および上記隣接配列(C2)が連
結した領域は、改変前の対応する領域の配列と同一の配列を構成している、上記(1)~
(4)のいずれかに記載のライブラリー。
(6)前記改変細胞は、部位特異的組換え酵素の標的配列を含まない、上記(1)~(5
)のいずれかに記載のライブラリー。
(7)ライブラリーに含まれる前記水性組成物の種類は、50種類以上である、上記(1
)~(6)のいずれかに記載のライブライリー。
(8)改変細胞のライブラリーを製造する方法であって、
(α)改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細胞
において、前記第一のアレルと第二のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子と標的核酸配
列を含むカセットを有する細胞の群を提供することと、
ここで、第一のアレルが有する選択マーカー遺伝子と第二のアレルが有する選択マーカ
ー遺伝子とは区別可能に異なり、前記標的核酸配列は、ゲノム改変システムの標的であり
、ゲノム改変システムにより第一のアレルと第二のアレルとを区別可能に切断できるよう
に設計されており、各選択マーカー遺伝子はネガティブ選択に用いることができるネガテ
ィブ選択用マーカー遺伝子であり、
(β)提供された細胞の群に下記(x)及び(y)を導入する工程と、
(x)第一のアレルに含まれる前記固有の塩基配列を標的とする配列特異的核酸切断分子
、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変シス
テム、
(y)複数種類の第2の組換え用ドナーDNA{ここで、複数種類の第2の組換え用ドナ
ーDNAはそれぞれ、上記(x)の前記標的部位の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩
基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相
同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有し、前記上流ホモロジーアームと前記下
流ホモロジーアームとの間に改変塩基配列を含み、改変塩基配列は、第2の組換え用ドナ
ーDNA毎に異なり、第2の組換え用ドナーDNAそれぞれに固有である}、
(γ)前記工程(β)の後、第一のアレルに含まれる選択マーカー遺伝子を発現しない細
胞を選択する工程と、
を含み、
これにより、複数の細胞を含む改変細胞のライブラリー得ることができ、ここで、得ら
れた複数の細胞において、第一のアレルは各細胞に固有の改変塩基配列を有し、第二のア
レルは細胞間で共通の配列を有する、
方法。
(9)上記(8)に記載の方法であって、工程(α)の前に、
改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細胞にお
いて、第一のアレルおよび第二のアレルに含まれる被置換配列を選択マーカー遺伝子と標
的核酸配列を含むカセットにより置換し、これにより被置換配列を第一のアレルおよび第
二のアレルから除去することと、
をさらに含む、方法。
(10)上記(9)に記載の方法であって、
第一のアレルの改変塩基配列はそれぞれ、第一のアレルの被置換配列に対して、塩基の
付加、挿入、置換、欠失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する、
方法。
(11)上記(9)または(10)に記載の方法であって、
被改変配列は、タンパク質のコード領域であり、
第一のアレルの改変塩基配列は、第一のアレルの被置換配列に対して、塩基の付加、挿
入、置換、欠失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する、方法
(12)改変塩基配列は、被改変配列と80%以上の配列同一性を有する、上記(10)
または(11)に記載の方法。
(13)上記(8)~(12)のいずれかに記載の方法であって、工程(α)と工程(β
)の間に、
第二のアレルからカセットを除去すること
をさらに含む、方法。
(14)カセットがシームレスに除去される、上記(13)に記載の方法。
(15)上記(8)~(14)のいずれかに記載の方法により作製される、複数の改変細
胞を含む改変細胞のライブラリー。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明のライブラリー作製のスキームの一例の概要を示す。
図2図2は、本発明の第一の改変細胞のライブラリー作製のスキームの一例を示す。
図3図3は、改変細胞のライブラリーにおいて、改変塩基配列が、改変部分と非改変部分とを含む場合の当該改変部分と非改変部分の位置関係の一例を示す図である。このようにすることで、改変塩基配列内の様々な箇所に様々な変異を有する多様な改変細胞を含むライブラリーを構成することができる。
図4図4は、部位特異的組換え酵素を用いたゲノム改変方法の特徴(欠点)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[定義]
「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、相互に互換的に使用され、ヌクレオ
チドがホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチドポリマーを指す。「ポリヌク
レオチド」及び「核酸」は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとR
NAとの組み合わせから構成されてもよい。また、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は
、天然ヌクレオチドのポリマーであってもよく、天然ヌクレオチドと非天然ヌクレオチド
(天然ヌクレオチドの類似体、塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの
部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)等)とのポリマ
ーであってもよく、非天然ヌクレオチドのポリマーであってもよい。
【0009】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の塩基配列は、特に明示しない限り、一般的に認め
られている1文字コードで記載される。特に明示しない限り、塩基配列は、5’側から3
’側に向かって記載する。「ポリヌクレオチド」又は「核酸」を構成するヌクレオチド残
基は、単に、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、又はウラシル等、あるいはそれら
の1文字コードで記載される場合がある。
【0010】
「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリ
ーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。遺伝子は、エクソン及びイントロン
の両方を含み得る。
【0011】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、相互に互換的に使
用され、アミド結合によって結合したアミノ酸のポリマーを指す。「ポリペプチド」、「
ペプチド」又は「タンパク質」は、天然アミノ酸のポリマーであってもよく、天然アミノ
酸と非天然アミノ酸(天然アミノ酸の化学的類似体、修飾誘導体等)とのポリマーであっ
てもよく、非天然アミノ酸のポリマーであってもよい。特に明示しない限り、アミノ酸配
列は、N末端側からC末端側に向かって記載する。
【0012】
「アレル」という用語は、染色体ゲノム上の同一座位に存在する塩基配列のセットを指
す。ある態様では、2倍体の細胞では同一座位に2アレル存在し、3倍体の細胞では同一
座位に3アレル存在する。また、ある態様では、染色体の異常なコピーまたは当該座位の
異常な追加のコピーによって追加のアレルが形成されている場合がある。
【0013】
「ゲノム改変」又は「ゲノム編集」という用語は、相互に互換的に用いられ、ゲノム上
の所望の位置(標的領域)に変異を誘導することを指す。ゲノム改変は、標的領域DNA
を切断するように設計された配列特異的核酸切断分子の使用を含み得る。好ましい実施形
態において、ゲノム改変は、標的領域のDNAを切断するように操作されたヌクレアーゼ
の使用、を含み得る。好ましい実施形態において、ゲノム改変は、標的領域中の特定の塩
基配列を有する標的配列を切断するように操作されたヌクレアーゼ(例えば、TALEN
やZFN)の使用を含み得る。好ましい実施形態において、ゲノム改変は、標的領域中の
特定の塩基配列を有する標的配列を切断するように、メガヌクレアーゼなどのゲノムに1
つしか切断部位を有しない制限酵素(例えば、16ベースの配列特異性を有する制限酵素
(理論上は416塩基に1つの割合で存在する)、17ベースの配列特異性を有する制限酵
素(理論上は417塩基に1つの割合で存在する)、および18ベースの配列特異性を有す
る制限酵素(理論上は418塩基に1つの割合で存在する))などの配列特異的エンドヌク
レアーゼを用いることができる場合もある。典型的には、部位特異的ヌクレアーゼの使用
により、標的領域のDNAに二本鎖切断(DSB)が誘導され、その後、相同組み換え修
復(Homologous Directed Repair:HDR)及び非相同末端
再結合(Non-Homologous End-Joining Repair:NH
EJ)のような、細胞の内因性プロセスによってゲノムが修復される。NHEJは、ドナ
ーDNAを用いずに二本鎖切断された末端を連結する修復方法であり、修復の際に挿入及
び/又は欠失(indel)が高頻度で誘導される。HDRは、ドナーDNAを用いた修
復機構であり、標的領域に所望の変異を導入することも可能である。ゲノム改変技術とし
ては、例えば、CRISPR/Casシステムが好ましく例示される。メガヌクレアーゼ
としては、例えば、I-SceI、I-SceII、I-SceIII、I-SceIV
、I-SceV、I-SceVI、I-SceVII、I-CeuI、I-CeuAII
P、I-CreI、I-CrepsbIP、I-CrepsbIIP、I-Crepsb
IIIP、I-CrepsbIVP、I-TliI、I-PpoI、PI-PspI、F
-SceI、F-SceII、F-SuvI、F-TevI、F-TevII、I-Am
aI、I-AniI、I-ChuI、I-CmoeI、I-CpaI、I-CpaII、
I-CsmI、I-CvuI、I-CvuAIP、I-DdiI、I-DdiII、I-
DirI、I-DmoI、I-HmuI、I-HmuII、I-HsNIP、I-Lla
I、I-MsoI、I-NaaI、I-NanI、I-NclIP、I-NgrIP、I
-NitI、I-NjaI、I-Nsp236IP、I-PakI、I-PboIP、I
-PcuIP、I-PcuAI、I-PcuVI、I-PgrIP、I-PobIP、I
-PorI、I-PorIIP、I-PbpIP、I-SpBetaIP、I-ScaI
、I-SexIP、I-SneIP、I-SpomI、I-SpomCP、I-Spom
IP、I-SpomIIP、I-SquIP、I-Ssp68031、I-SthPhi
JP、I-SthPhiST3P、I-SthPhiSTe3bP、I-TdeIP、I
-TevI、I-TevII、I-TevIII、I-UarAP、I-UarHGPA
IP、I-UarHGPA13P、I-VinIP、I-ZbiIP、PI-Mtul、
PI-MtuHIP PI-MtuHIIP、PI-PfuI、PI-PfuII、PI
-PkoI、PI-PkoII、PI-Rma43812IP、PI-SpBetaIP
、PI-SceI、PI-TfuI、PI-TfuII、PI-ThyI、PI-Tli
I、およびPI-TliII、並びにこれらの機能的な誘導体制限酵素からなる群から選
択されるメガヌクレアーゼおよびその切断部位(または認識部位)、好ましくは、18塩
基以上の配列特異性を有する制限酵素であるメガヌクレアーゼおよびその切断部位(また
は認識部位)、特に細胞のゲノムを1箇所または複数箇所以上切断しないメガヌクレアー
ゼおよびその切断部位を用いることができる。
【0014】
「標的領域」という用語は、ゲノム改変の対象となるゲノム領域を指す。「欠失」は、
リファレンスゲノムに対する1塩基以上の欠失、および1遺伝子以上の欠失を含む。欠失
は、100bp以上の欠失、200bp以上の欠失、300bp以上の欠失、400bp
以上の欠失、500bp以上の欠失、600bp以上の欠失、700bp以上の欠失、8
00bp以上の欠失、900bp以上の欠失、1kbp以上の欠失、10kbp以上の欠
失、50kbp以上の欠失、100kbp以上の欠失、200kbp以上の欠失、300
kbp以上の欠失、400kbp以上の欠失、500kbp以上の欠失、または1Mbp
以上の欠失またはそれ以下の欠失であり得る。欠失は、1Mbp以下の欠失であり得る。
欠失は、700kbp以下の欠失であり得る。欠失は、600kbp以下の欠失であり得
る。欠失は、500kbp以下の欠失であり得る。欠失は、10kbp以上600kbp
以下の欠失であり得る。欠失は、100kbp以上600kbp以下の欠失であり得る。
欠失は、100kbp以上500kbp以下の欠失であり得る。
【0015】
「ドナーDNA」という用語は、DNAの二本鎖切断の修復に用いられるDNAであっ
て、標的領域周辺のDNAと相同組換え可能なDNAを指す。ドナーDNAは、ホモロジ
ーアームとして標的領域の上流の塩基配列および下流の塩基配列(例えば、標的領域に隣
接する塩基配列)を含む。本明細書においては、標的領域の上流側の塩基配列(例えば、
上流側に隣接する塩基配列)からなるホモロジーアームを「上流ホモロジーアーム」、標
的配列の下流側の塩基配列(例えば、下流側に隣接する塩基配列)からなるホモロジーア
ームを「下流ホモロジーアーム」と記載する場合がある。ドナーDNAは、上流ホモロジ
ーアームと下流ホモロジーアームとの間に、所望の塩基配列を含むことができる。各ホモ
ロジーアームの長さは、300bp以上が好ましく、通常500~3000bp程度であ
る。上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームの長さは、互いに同じであってもよ
く、異なっていてもよい。標的領域は、配列依存的な切断後にドナーDNAとの間で相同
組換えの誘発に成功すると、標的領域の上流の塩基配列および下流の塩基配列の間の配列
が、ドナーDNAの上流の塩基配列および下流の塩基配列に挟まれている配列と置き換わ
ることとなる。
【0016】
標的領域の「上流」とは、標的領域の2本鎖DNAにおいて、基準となるヌクレオチド
鎖の5’側に位置するDNA領域を意味する。標的領域の「下流」とは、当該基準となる
ヌクレオチド鎖の3’側に位置するDNAを意味する。2本鎖のいずれの鎖を基準となる
ヌクレオチド鎖とするかは任意である。但し、便宜的に、標的領域がタンパク質コード配
列を含む場合、基準となるヌクレオチド鎖は、通常、センス鎖である。一般的に、プロモ
ーターは、タンパク質コード配列の上流に位置する。ターミネーターは、タンパク質コー
ド配列の下流に位置する。
【0017】
「配列特異的核酸切断分子」という用語は、特定の核酸配列を認識し、前記特定の核酸
配列で核酸を切断することができる分子を指す。配列特異的核酸切断分子は、配列特異的
に核酸切断する活性(配列特異的核酸切断活性)を有する分子である。
【0018】
「標的配列」という用語は、配列特異的核酸切断分子による切断の対象となるゲノム中
のDNA配列を指す。配列特異的核酸切断分子がCasタンパク質である場合、標的配列
は、Casタンパク質による切断の対象となるゲノム中のDNA配列を指す。Casタン
パク質としてCas9タンパク質を用いる場合、標的配列は、プロトスペーサー隣接モチ
ーフ(PAM)の5’側に隣接する配列である必要がある。標的配列は、通常、PAMの
5’側直前に隣接する17~30塩基(好ましくは18~25塩基、より好ましくは19
~22塩基、さらに好ましくは20塩基)の配列が選択される。標的配列の設計には、C
RISPR DESIGN(crispr.mit.edu/)等の公知のデザインツー
ルを利用することができる。
【0019】
「Casタンパク質」という用語は、CRISPR関連(CRISPR-associ
ated)タンパク質を指す。好ましい態様において、Casタンパク質は、ガイドRN
Aと複合体を形成し、エンドヌクレアーゼ活性又はニッカーゼ活性を示す。Casタンパ
ク質としては、特に限定されないが、例えば、Cas9タンパク質、Cpf1タンパク質
、C2c1タンパク質、C2c2タンパク質、及びC2c3タンパク質等が挙げられる。
Casタンパク質は、ガイドRNAと協働してエンドヌクレアーゼ活性又はニッカーゼ活
性を示す限り、野生型Casタンパク質及びそのホモログ(パラログ及びオーソログ)、
並びにそれらの変異体を包含する。
好ましい態様において、Casタンパク質は、クラス2のCRISPR/Cas系に関
与するものであり、より好ましくはII型のCRISPR/Cas系に関与するものであ
る。Casタンパク質の好ましい例としては、Cas9タンパク質が例示される。Cas
タンパク質の好ましい例としては、Cas3タンパク質が例示される。
【0020】
「Cas9タンパク質」という用語は、II型のCRISPR/Cas系に関与するC
asタンパク質を指す。Cas9タンパク質は、ガイドRNAと複合体を形成し、ガイド
RNAと協働して標的領域のDNAを切断する活性を示す。Cas9タンパク質は、前記
の活性を有する限り、野生型Cas9タンパク質及びそのホモログ(パラログ及びオーソ
ログ)、並びにそれらの変異体を包含する。野生型Cas9タンパク質は、ヌクレアーゼ
ドメインとしてRuvCドメイン及びHNHドメインを有するが、本明細書におけるCa
s9タンパク質は、RuvCドメイン及びHNHドメインのいずれか一方が不活性化され
たものであってもよい。RuvCドメイン及びHNHドメインのいずれか一方が不活性化
されたCas9は、二本鎖DNAに対して一本鎖切断(ニック)を導入する。そのため、
RuvCドメイン及びHNHドメインのいずれか一方が不活性化されたCas9を二本鎖
DNAの切断に用いる場合には、センス鎖とアンチセンス鎖それぞれに対してCas9の
標的配列を設定し、センス鎖およびアンチセンス差のニックが十分に近い位置で生じ、そ
れにより二本鎖切断が誘発されるように、改変システムを構成することができる。
Cas9タンパク質が由来する生物種は特に限定されないが、ストレプトコッカス(S
treptococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)
属、ナイセリア(Neisseria)属、又はトレポネーマ(Treponema)属
に属する細菌等が好ましく例示される。より具体的には、S.pyogenes、S.t
hermophilus、S.aureus、N.meningitidis、又はT.
denticola等に由来するCas9タンパク質が好ましく例示される。好ましい態
様において、Cas9タンパク質は、S.pyogenes由来のCas9タンパク質で
ある。
【0021】
各種Casタンパク質のアミノ酸配列、及びそのコード配列の情報は、GenBank
、UniProt、Addgene等の各種データベース上で得ることができる。例えば
、S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、プラスミド番号422
30としてAddgeneに登録されたもの等を用いることができる。S.pyogen
esのCas9タンパク質のアミノ酸配列の一例を配列番号1に示す。
【0022】
「ガイドRNA」及び「gRNA」という用語は、相互に互換的に使用され、Casタ
ンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を標的領域に誘導することができるRNA
を指す。好ましい態様において、ガイドRNAは、CRISPR RNA(crRNA)
及びトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)を含む。crRNAは
、ゲノム上の標的領域への結合に関与し、tracrRNAは、Casタンパク質との結
合に関与する。好ましい態様において、crRNAは、スペーサー配列とリピート配列と
を含み、スペーサー配列が標的領域において標的配列の相補鎖と結合する。好ましい態様
において、tracrRNAは、アンチリピート配列と3’テイル配列とを含む。アンチ
リピート配列はcrRNAのリピート配列と相補的な配列を有し、リピート配列と塩基対
を形成し、3’テイル配列は通常3つのステムループを形成する。
ガイドRNAは、crRNAの3’末端にtracrRNAの5’末端を連結した単一
ガイドRNA(sgRNA)であってもよく、crRNA及びtracrRNAを別々の
RNA分子とし、リピート配列及びアンチリピート配列で塩基対を形成させたものであっ
てもよい。好ましい態様において、ガイドRNAはsgRNAである。
【0023】
crRNAのリピート配列及びtracrRNAの配列は、Casタンパク質の種類に
応じて適宜選択することができ、Casタンパク質と同じ細菌種に由来するものを用いる
ことができる。
例えば、S.pyogenes由来のCas9タンパク質を用いる場合、sgRNAの
長さは、50~220ヌクレオチド(nt)程度とすることができ、60~180nt程
度が好ましく、80~120nt程度がより好ましい。crRNAの長さは、スペーサー
配列を含めて約25~70塩基長とすることができ、25~50nt程度が好ましい。t
racrRNAの長さは10~130nt程度とすることができ、30~80nt程度が
好ましい。
crRNAのリピート配列は、Casタンパク質が由来する細菌種におけるものと同じ
であってもよく、3’末端の一部を削除したものであってもよい。tracrRNAは、
Casタンパク質が由来する細菌種における成熟tracrRNAと同じで配列を有して
いてもよく、当該成熟tracrRNAの5’末端及び/又は3’末端を切断した末端切
断型であってもよい。例えば、tracrRNAは、成熟tracrRNAの3’末端か
ら1~40個程度のヌクレオチド残基を除去した末端切断型であり得る。また、trac
rRNAは、成熟tracrRNAの5’末端から1~80個程度のヌクレオチド残基を
除去した末端切断型であり得る。また、tracrRNAは、例えば、5’末端から1~
20程度のヌクレオチド残基を除去し、かつ3’末端から1~40個程度のヌクレオチド
残基を除去した末端切断型であり得る。
sgRNA設計のためのcrRNAリピート配列及びtracrRNAの配列は、種々
提案されており、当業者は、公知技術に基づいてsgRNAを設計することができる(例
えば、Jinek et al. (2012) Science, 337, 816
-21; Mali et al. (2013) Science, 339: 61
21, 823-6; Cong et al. (2013) Science, 3
39: 6121, 819-23; Hwang et al. (2013) Na
t. Biotechnol. 31: 3, 227-9; Jinek et al
. (2013) eLife, 2, e00471)。
【0024】
「プロトスペーサー隣接モチーフ」及び「PAM」という用語は、相互に互換的に使用
され、Casタンパク質によるDNA切断の際に、Casタンパク質に認識される配列を
指す。PAMの配列及び位置は、Casタンパク質の種類によって異なる。例えば、Ca
s9タンパク質の場合、PAMは標的配列の3’側直後に隣接する必要がある。Cas9
タンパク質に対応するPAMの配列は、Cas9タンパク質が由来する細菌種によって異
なっている。例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質に対応するPAMは「
NGG」であり、S.thermophilusのCas9タンパク質に対応するPAM
は「NNAGAA」であり、S.aureusのCas9タンパク質に対応するPAMは
「NNGRRT」又は「NNGRR(N)」であり、N.meningitidisのC
as9タンパク質に対応するPAMは「NNNNGATT」であり、T.dentico
laのCas9タンパク質に対応する「NAAAAC」である(「R」はA又はG;「N
」は、A、T、G又はC)。
【0025】
「スペーサー配列」及び「ガイド配列」という用語は、相互に互換的に使用され、ガイ
ドRNAに含まれる配列であって、標的配列の相補鎖と結合し得る配列を指す。通常、ス
ペーサー配列は、標的配列と同一の配列である(但し、標的配列中のTは、スペーサー配
列ではUとなる)。本発明の実施態様において、スペーサー配列は、標的配列に対して1
塩基又は複数塩基のミスマッチを含むことができる。複数塩基のミスマッチを含む場合、
隣接した位置にミスマッチを有していてもよく、離れた位置にミスマッチを有していても
よい。好ましい態様において、スペーサー配列は、標的配列に対して1~5塩基のミスマ
ッチを含み得る。特に好ましい態様において、スペーサー配列は、標的配列に対して1塩
基のミスマッチを含み得る。
ガイドRNAにおいて、スペーサー配列は、crRNAの5’側に配置される。
【0026】
ポリヌクレオチドに関して用いる「機能的に連結」という用語は、第一の塩基配列が第
二の塩基配列に十分に近くに配置され、第一の塩基配列が第二の塩基配列又は第二の塩基
配列の制御下の領域に影響を及ぼしうることを意味する。例えば、ポリヌクレオチドがプ
ロモーターに機能的に連結するとは、当該ポリヌクレオチドが、当該プロモーターの制御
下で発現するように連結されていることを意味する。
【0027】
「発現可能な状態」という用語は、ポリヌクレオチドが導入された細胞内で、該ポリヌ
クレオチドが転写され得る状態にあることを指す。
「発現ベクター」という用語は、対象ポリヌクレオチドを含むベクターであって、該ベ
クターを導入した細胞内で、対象ポリヌクレオチドを発現可能な状態にするシステムを備
えたベクターを指す。例えば、「Casタンパク質の発現ベクター」とは、該ベクターを
導入した細胞内で、Casタンパク質を発現可能なベクターを意味する。また、例えば、
「ガイドRNAの発現ベクター」とは、該ベクターを導入した細胞内で、ガイドRNAを
発現可能なベクターを意味する。
【0028】
本明細明細書において、塩基配列どうし又はアミノ酸配列どうしの配列同一性(又は相
同性)は、2つの塩基配列又はアミノ酸配列を、対応する塩基又はアミノ酸が最も多く一
致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラ
インメント中のギャップを除く、塩基配列全体又はアミノ酸配列全体に対する一致した塩
基又はアミノ酸の割合として求められる。塩基配列又はアミノ酸配列どうしの配列同一性
は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。塩
基配列の配列同一性の値(Identity値)は、特に限定されないが例えば、公知の
相同性検索ソフトウェアUCSC Genome Browserに搭載されているBL
AT検索により得ることができる。
【0029】
本明細書では、便宜的にヒトゲノムの位置を参照するときに、リファレンスゲノムとし
てhg38ゲノム配列における位置を用いる。hg38は、カリフォルニア大学サンタク
ルーズ校(UCSC)により2013年12月にリリースされたリファレンスゲノムであ
る。リファレンスゲノムは、様々なゲノムを組み合わせて作成された参照用のゲノムであ
り、このゲノムを有するヒトが存在するというわけではない。しかし、ヒト個体のゲノム
DNAから解読された断片的な配列情報をリファレンスゲノムに照らすことによって解読
された断片的な配列情報を連結してコンピュータ上で一つながりの配列を構築し、これに
より当該ヒト個体のゲノムDNAの配列を推定することができる。このようにして、リフ
ァレンスゲノムにヒト個体のゲノムDNAの配列を対応付けることによって、ヒト個体等
の個体のゲノムDNAを解読することが通常なされている。そして、hg38ゲノム配列
の特定位置または特定領域に対応する位置または領域とは、具体的な配列の異なる別個体
のゲノムにおいて、当該特定位置または特定領域に紐付けられる位置または領域を意味す
る。具体的には、配列の同一性に基づき、当該位置または領域に特徴的な配列を有する位
置または領域が、hg38ゲノム配列の特定位置または特定領域に対応する位置または領
域である。対応する位置は、2つのゲノムDNAの部分配列のアラインメントにより決定
することができる。具体的な配列に相違がある場合であっても、オーソログの関係を有し
ていたり、配列同一性を有していてアラインメントをすることによって、2つのゲノムD
NAの対応関係を決定することができる。遺伝子重複により生じたパラログが豊富な領域
では、単純な個別の配列に基づく配列の対応関係を決定するだけでは、2つのゲノム間の
真の対応関係を決定するには十分でない場合がある。このことが類似配列が集積した領域
の配列解読の難易度を増加させる。対応する配列の決定に際して、高い配列同一性を求め
ることで2つのゲノム間の対応関係を明らかにすることができる。また、特定領域が、複
数遺伝子を含む大きな領域である場合には、シンテニーを考慮することができる。シンテ
ニーとは、ゲノム上でのオーソログの物理的位置的関係が保存されていることをいう。個
人間および生物間でシンテニーを有し得る。したがって、シンテニーを考慮して特定領域
を決定することができる。
【0030】
[ライブラリの作製方法]
ライブラリの作製方法は、細胞を用意することを含み得る。用意する細胞は、本開示の
改変前の細胞であり、改変後の細胞と比較する際の参照となり得ることから「リファレン
ス細胞」ということがある。細胞は、好ましくは、クローン化された細胞、株化された細
胞、または不死化細胞であり得る。ある好ましい態様では、細胞は、単一種類を含み得る
。本開示のライブラリーでは、特定遺伝子座の特定領域のみが目的配列に置き換わった細
胞のライブラリーが提供される。目的配列以外の配列を統一すると目的配列に置き換わる
ことの技術的意義を明らかにできるという観点で、細胞は単一種類の細胞からなることが
好ましい。単一種類の細胞は、クローン化された細胞である。
【0031】
第一の作製形態の概要
概要は、図1に示される。
ライブラリの作製方法は、細胞対して下記ゲノム改変方法を用いて、第一の中間体細胞
を得ることを含み得る。第一の中間体細胞は、改変対象である遺伝子座に第一のアレルと
第二のアレルを含むゲノムを有する細胞において、前記第一のアレルと第二のアレルそれ
ぞれに選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットを有する細胞である。第一の中
間体細胞では、第一のアレルが有する選択マーカー遺伝子と第二のアレルが有する選択マ
ーカー遺伝子とは区別可能に異なり、前記標的核酸配列は、ゲノム改変システムの標的で
あり、ゲノム改変システムにより第一のアレルと第二のアレルとを区別可能に切断できる
ように設計されており、各選択マーカー遺伝子はネガティブ選択に用いることができるネ
ガティブ選択用マーカー遺伝子である。ネガティブ選択用マーカー遺伝子は、ポジティブ
選択用にも用いることができるもの(例えば、可視化マーカー遺伝子等)であってよい。
ライブラリの作製方法は、第一の中間体細胞から、改変細胞のライブラリー(「第一の改
変細胞のライブラリー」または単に「第一のライブラリー」ということがある)を得るこ
とを含み得る。第一のライブラリーに含まれる改変細胞を「第一の改変細胞」ということ
がある。
第一の中間体細胞は、当業者であれば適宜得ることができる。特に限定されないが、以
下に説明するゲノム改変方法を用いることにより、簡便に作製することができる。中間体
細胞からの改変細胞の取得は、改変塩基配列導入用ドナーDNAの存在下で、第一のカセ
ット内またはその近傍を切断することにより達成され得る。
【0032】
第二の作製形態の概要
概要は、図1に示される。
ライブラリの作製方法は、細胞に対して下記ゲノム改変方法を用いて、第一の中間体細
胞を得ることを含み得る。ライブラリの作製方法は、第一の中間体細胞から第二の中間体
細胞を得ることを含みうる。ライブラリの作製方法は、第二の中間体細胞からライブラリ
を得ることを含みうる。ここで、第一の中間体細胞は、上述の通りである。第二の中間体
細胞は、改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細
胞において、前記第一のアレルに選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットを有
し、第二のアレルには当該カセットを含まない、細胞である。第二の中間体細胞は、第一
の中間体細胞の第二のアレルから前記カセットを除去することにより作製することができ
る。カセットの除去は、ゲノム改変方法により当業者でれあれば適宜実施することができ
る。具体的には、切断時にカセットの上流と相同組換え可能な上流ホモロジーアームと当
該カセットの下流と相同組換え可能な下流ホモロジーアームとを有するドナーDNAの存
在下で、第二のアレルに含まれる標的配列を切断することができるゲノム改変システムを
第一の中間体細胞に適用することにより、第一の中間体細胞から第二の中間体細胞を得る
ことができる。ライブラリの作製方法は、第二の中間体細胞から、改変細胞のライブラリ
ー(「第二の改変細胞のライブラリー」または単に「第二のライブラリー」ということが
ある)を得ることを含み得る。第二のライブラリーに含まれる改変細胞を「第二の改変細
胞」ということがある。第一の中間体細胞からの第二の中間体細胞の取得は、カセット除
去用ドナーDNAの存在下で、第二のカセット内またはその近傍の配列を切断することに
よって達成され得る。第二の中間体細胞からの改変細胞の取得は、改変塩基配列導入用ド
ナーDNAの存在下で、第一のカセットを切断することにより達成され得る。
【0033】
第二の作製形態の変形例
第二の作製形態では、第二の中間体細胞を第一の中間体細胞の第二のアレルから前記カ
セットを除去することにより作製した。第二の作製形態の変形例では、第一の中間体細胞
の第二のアレルにおけるカセットを除去して、第二のアレルを改変前の配列に戻す操作を
行い、前記第一のアレルに選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットを有し、第
二のアレルは、改変前の配列を有する第三の中間体細胞を得る。第二の作製形態の変形例
では、その後、第三の中間体細胞の第一のアレルに対してライブラリ作製用ドナーDNA
を適用して改変細胞のライブラリーを得る。この態様では、改変細胞のライブラリーに含
まれる改変細胞は、第一のアレルに改変塩基配列を含み、第二のアレルは改変前の配列を
有する。第一の中間体細胞の第二のアレルを改変前の配列に戻す操作は、第二のカセット
の上流と相同組換え可能な上流ホモロジーアームと当該カセットの下流と相同組換え可能
な下流ホモロジーアームとからなるドナーDNAの存在下で、第二のカセット内またはそ
の近傍を切断することにより達成され得る。
【0034】
本開示では、第一の中間体細胞、第二の中間体細胞、これらの中間体細胞を含む組成物
、第一の改変細胞、第一のライブラリー、第二の改変細胞、および第二のライブラリーが
提供される。
【0035】
一般的に、ゲノム編集においては、標的領域を有するゲノムに対して、標的領域の上流
と相同組換え可能な上流ホモロジーアーム(例えば、相補的配列を有する)と当該標的領
域の下流と相同組換え可能な下流ホモロジーアーム(例えば、相補的配列を有する)を有
するドナーDNAの存在下で、典型的には当該標的領域内に切断を生じさせることにより
、標的領域がドナーDNA中の上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームで挟まれた
配列に置き換わる。上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームで挟まれた配列が存在
しない場合には、標的領域が欠失する(またはシームレスに欠失する)。ゲノム編集にお
いては、標的領域内に複数箇所の切断を生じさせてもよい。典型的には、上流ホモロジー
アームに近接した標的領域内と下流ホモロジーアームに近接した標的領域内のそれぞれに
切断を生じさせることが有益である。
【0036】
ある好ましい態様では、第一の中間体細胞においては、第一のアレルおよび第二のアレ
ルは、標的領域のカセットによる置換がそれぞれなされ、第一のアレルおよび第二のアレ
ルは、当該標的領域の欠失を有していてもよい。また、ある好ましい態様では、第一のア
レルおよび第二のアレルは、標的領域へのカセットの挿入がなされ、第一のアレルおよび
第二のアレルは、当該標的領域の欠失を有しなくてもよい。ある好ましい態様では、標的
領域のカセットの挿入は、機能を有しない標的領域中になされ、したがって、当該標的領
域の破壊に伴う機能低下または欠損を伴わない。
【0037】
本実施形態のゲノム改変方法に用いる細胞は、特に限定されず、1倍体または2倍体以
上の染色体ゲノムを有する細胞であればよい。細胞は、2倍体であってもよく、3倍体で
あってもよく、4倍体以上であってもよい。細胞としては、特に限定されないが、真核生
物の細胞が挙げられる。細胞は、植物細胞であってもよく、動物細胞であってもよく、真
菌細胞であってもよい。動物細胞は、特に限定されないが、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(
例えば、サルなどの非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラマ、齧歯
類などの非ヒト哺乳類)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、その他の脊椎動物のいずれの細
胞であってもよい。
【0038】
前記細胞としては、例えば、多能性細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞)および誘導
多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞)、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄細
胞、脾臓細胞、骨髄系共通前駆細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、N
KT細胞、マクロファージ、単球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球、巨核球、心臓
細胞、心筋細胞、心臓線維芽細胞、膵β細胞、角膜細胞(例えば、角膜上皮細胞、および
角膜内皮細胞)、表皮細胞、真皮細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、破骨細胞、骨芽細
胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来、骨髄由来、胎盤由来および臍帯由来)、歯髄細胞
、腱細胞、靭帯細胞、神経細胞(例えば、錐体細胞、星状細胞、および顆粒細胞)、グリ
ア細胞、プルキンエ細胞、網膜神経節細胞、網膜細胞、視神経細胞、および神経幹細胞が
挙げられる。ある好ましい態様では、細胞は初代細胞であり得る。ある好ましい態様では
、細胞は不死化された細胞、または細胞株であり得る。ある好ましい態様では、細胞はヒ
トの細胞である。
【0039】
ある態様では、細胞は、単離された細胞、クローン化された細胞、または細胞株であり
得る。細胞は不死化された細胞であってもよい。ある好ましい態様では、細胞は、クロー
ン化された細胞である。ある好ましい態様では、細胞は、細胞株である。ある好ましい態
様では、細胞は不死化された細胞である。ある態様では、細胞は、初代体細胞である。細
胞は、その使用目的に応じて適宜選択されることを当業者は理解する。
【0040】
ある態様では、細胞(またはライブラリー)は、細胞凍結保護液中で凍結されうる。あ
る態様では、前記細胞を含む細胞凍結保護液は、非凍結状態または好ましくは凍結状態で
提供され得る。凍結状態の前記細胞を含む細胞凍結保護液(「フリーズストック」ともい
う)は、リサーチセルバンク(RCB)、マスターセルバンク(MCB)、またはワーキ
ングセルバンク(WCB)として用いることができる。したがって、本発明では、上記フ
リーズストックを含む、リサーチセルバンク(RCB)、マスターセルバンク(MCB)
、またはワーキングセルバンク(WCB)が提供される。
【0041】
[ゲノム改変方法]
以下に記載する方法(例えば、UKiS;国際公開第2021/206054号参照)
は、上記細胞の作製に好ましく用いることができる。この方法は、特に図1に示される工
程S1において、細胞から第一の中間体細胞を作製する際に好ましく用いられる。
【0042】
1実施態様において、本発明では、第一の中間体細胞の作製に、以下(a)及び(b)
を含む方法を用いることができる。
(a)下記(i)及び(ii)を、2つ以上のアレルを含む細胞に導入して、前記2つ以
上のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子を導入する工程と、
(i)前記染色体ゲノムの2つ以上のアレル中の標的領域を標的とし、当該標的領域を切
断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコード
するポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、それぞれが前記標的領域の上
流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的
領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとを
有し、かつ、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子
の塩基配列を含み、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に区別可能に異
なる選択マーカー遺伝子をそれぞれ有し、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ド
ナーDNAの種類毎に固有であり、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム
改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーD
NA、
(b)前記工程(a)の後、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ド
ナーDNAがそれぞれ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区
別可能に異なる固有の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる
選択マーカー遺伝子のすべてを発現する細胞を選択する工程(ポジティブ選択のための工
程)と、
を含む、方法であり得る。
【0043】
(工程(a))
工程(a)では、前記(i)及び(ii)を、染色体を含む細胞に導入する。
【0044】
<(i)ゲノム改変システム>
「ゲノム改変システム」とは、所望の標的領域を改変することが可能な分子機構を意味
する。ゲノム改変システムは、染色体ゲノムの標的領域を標的とする配列特異的核酸切断
分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含む。より具体
的には、ゲノム改変システムは、標的領域中あるいは近傍の少なくとも1つ、好ましくは
2つを切断することができる。
【0045】
ゲノム改変の対象となる標的領域は、1以上のアレルを有するゲノム上の任意の領域と
することができる。標的領域のサイズは、特に限定されない。本実施形態のゲノム改変方
法では、従来よりも大きなサイズの領域を改変することができる。標的領域は、例えば、
10kbp以上であってもよい。標的領域は、例えば、100bp以上、200bp以上
、400bp以上、800bp以上、1kbp以上、2kbp以上、3kbp以上、4k
bp以上、5kbp以上、8kbp以上、10kbp以上、20kbp以上、40kbp
以上、80kbp以上、100kbp以上、200kbp以上、300kbp、400k
bp以上、500kbp以上、600kbp以上、700kbp以上、800kbp以上
、900kbp以上、もしくは1Mbp以上、または上記のいずれかの数値以下であって
もよい。ある態様では、改変された細胞において、上記標的領域が欠失している。
【0046】
配列特異的核酸切断分子は、配列特異的核酸切断活性を有する分子であれば、特に限定
されず、合成有機化合物であってもよく、タンパク質等の生体高分子化合物であってもよ
い。配列特異的部位切断活性を有するタンパク質としては、例えば、配列特異的エンドヌ
クレアーゼが挙げられる。
【0047】
配列特異的エンドヌクレアーゼは、所定の配列で核酸を切断することができる酵素であ
る。配列特異的エンドヌクレアーゼは、所定の配列で、2本鎖DNAを切断することがで
きる。配列特異的エンドヌクレアーゼとしては、特に限定されないが、例えば、ジンクフ
ィンガーヌクレアーゼ(Zinc finger nuclease(ZFN))、TA
LEN(Transcription activator-like effecto
r nuclease)、Casタンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
ZFNは、ジンクフィンガーアレイを含む結合ドメインにコンジュゲートした核酸切断
ドメインを含む人工ヌクレアーゼである。切断ドメインとしては、II型制限酵素Fok
Iの切断ドメインが挙げられる。標的配列を切断可能なジンクフィンガーヌクレアーゼの
設計は、公知の方法で行うことができる。
【0049】
TALENは、DNA切断ドメイン(例えば、FokIドメイン)に加えて転写活性化
因子様(TAL)エフェクターのDNA結合ドメインを含む人工ヌクレアーゼである。標
的配列を切断可能なTALE構築物の設計は、公知の方法で行うことができる(例えば、
Zhang, Feng et. al. (2011) Nature Biotec
hnology 29 (2))。
【0050】
配列特異的核酸切断分子として、Casタンパク質を用いる場合、ゲノム改変システム
は、CRISPR/Casシステムを含む。すなわち、ゲノム改変システムは、Casタ
ンパク質と、標的領域内の塩基配列に相同な塩基配列を有するガイドRNAを含むことが
好ましい。ガイドRNAは、スペーサー配列として、標的領域内の配列(標的配列)と相
同な配列を含んでいればよい。ガイドRNAは、標的領域内のDNAに結合できるもので
ればよく、標的配列と完全に同一の配列を有している必要はない。この結合は、細胞核内
の生理的条件下で形成されればよい。ガイドRNAは、例えば、標的配列に対して、例え
ば、0~3塩基のミスマッチを含むことができる。前記ミスマッチの数は、0~2塩基が
好ましく、0~1がより好ましく、ミスマッチを有しないことがさらに好ましい。ガイド
RNAの設計は、公知の方法に基づいて行うことができる。ゲノム改変システムは、CR
ISPR/Casシステムであることが好ましく、Casタンパク質とガイドRNAを含
むことが好ましい。Casタンパク質は、Cas9タンパク質であることが好ましい。
【0051】
配列特異的エンドヌクレアーゼは、タンパク質として細胞に導入してもよく、配列特異
的エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとして細胞に導入してもよい。例え
ば、配列特異的エンドヌクレアーゼのmRNAを導入してもよく、配列特異的エンドヌク
レアーゼの発現ベクターを導入してもよい。発現ベクターにおいて、配列特異的エンドヌ
クレアーゼのコード配列(配列特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子)は、プロモーターに機
能的に連結されている。プロモーターは、特に限定されず、例えば、pol II系プロ
モーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限
されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター(EF1αプロモーター)
、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチン
プロモーター、CAGプロモーター、CBhプロモーター等が挙げられる。
【0052】
プロモーターは、誘導性プロモーターであってもよい。誘導性プロモーターは、プロモ
ーターを駆動する誘導因子の存在下でのみ、当該プロモーターに機能的に連結されたポリ
ヌクレオチドの発現を誘導することができるプロモーターである。誘導性プロモーターと
しては、ヒートショックプロモーターなどの加熱により遺伝子発現を誘導するプロモータ
ーが挙げられる。また、誘導性プロモーターには、プロモーターを駆動する誘導因子が薬
剤であるプロモーターが挙げられる。このような薬剤誘導性プロモーターとしては、例え
ば、Cumateオペレーター配列、λオペレーター配列(例えば、12×λOp)、テ
トラサイクリン系誘導性プロモーター等が挙げられる。テトラサイクリン系誘導性プロモ
ーターとしては、例えば、テトラサイクリンもしくはその誘導体(例えば、ドキシサイク
リン)、またはリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)の存在
下で遺伝子発現を駆動するプロモーターが挙げられる。テトラサイクリン系誘導性プロモ
ーターとしては、例えば、TRE3Gプロモーターが挙げられる。
【0053】
発現ベクターは、公知のものを特に制限なく用いることができる。発現ベクターとして
は、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターが挙げられる。配列特異的エンドヌ
クレアーゼがCasタンパク質である場合、発現ベクターは、Casタンパク質のコード
配列(Casタンパク質遺伝子)に加えて、ガイドRNAコード配列(ガイドRNA遺伝
子)及びを含んでいてもよい。この場合、ガイドRNAコード配列(ガイドRNA遺伝子
)は、pol III系プロモーターに機能的にされていることが好ましい。pol I
II系プロモーターとしては、例えば、マウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター
、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター
等が挙げられる。
【0054】
<(ii)選択マーカー用ドナーDNA>
選択マーカー用ドナーDNAは、選択マーカーを標的領域にノックインするためのドナ
ーDNAである。選択マーカー用ドナーDNAは、標的領域の上流側に隣接する塩基配列
と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、標的領域の下流側に隣接する塩基配
列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、1以上の選択マーカー遺伝
子の塩基配列を含む。
【0055】
選択マーカー用ドナーDNAは、特に限定されないが、例えば、1kb以上、2kb以
上、3kb以上、4kb以上、5kb以上、6kb以上、7kb以上、8kb以上、9k
b以上、9.5kb以上、または10kb以上の長さを有し得る。選択マーカー用ドナー
DNAは、特に限定されないが、例えば、50kb以下、45kb以下、40kb以下、
35kb以下、30kb以下、25kb以下、20kb以下、15kb以下、14kb以
下、13kb以下、12kb以下、11kb以下、10kb以下、9kb以下、8kb以
下、7kb以下、6kb以下、5kb以下、または4kb以下の長さを有し得る。
【0056】
「選択マーカー」とは、その発現の有無に基づいて、細胞を選択することができるタン
パク質を意味する。選択マーカー遺伝子は、選択マーカーをコードする遺伝子である。選
択マーカー発現細胞及び非発現細胞が混在する細胞集団において、選択マーカー発現細胞
を選択する場合、当該選択マーカーを「ポジティブ選択マーカー」または「ポジティブ選
択用の選択マーカー」という。選択マーカー発現細胞及び非発現細胞が混在する細胞集団
において、選択マーカー非発現細胞を選択する場合、当該選択マーカーを「ネガティブ選
択マーカー」または「ネガティブ選択用の選択マーカー」という。選択マーカーが相互に
異なるとは、相互に区別できること(例えば、区別可能に異なること)を意味し、例えば
、選択マーカーが導入された細胞に付与する薬剤耐性の性質などの生理学的性質またはそ
の他の物理化学的性質において少なくとも相互に区別できることを意味する。すなわち、
選択マーカーが相互に異なるとは、異なる複数の選択マーカーが他の選択マーカーと区別
可能に検出できること、または他の選択マーカーとは区別可能に薬剤選択できることを意
味する。また、前記選択マーカー遺伝子が選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有で
あるとは、選択マーカー用ドナーDNAの1種が有する選択マーカー遺伝子が、上記以外
の種類の選択マーカー用ドナーDNAには含まれないこと、または、複数種類のドナーD
NAに含まれている場合には、同時に2種類以上のドナーDNAから発現しないように構
成されていることを意味する。このとき、2種類以上のドナーDNAは、選択マーカー以
外は同一であってもよく、選択マーカー以外の配列および/または構成において相違があ
ってもよい。
【0057】
ポジティブ選択マーカーは、それを発現する細胞を選択可能なものであれば、特に限定
されない。ポジティブ選択マーカー遺伝子としては、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タン
パク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる。
【0058】
ネガティブ選択マーカーは、それを発現しない細胞を選択可能なものであれば、特に限
定されない。ネガティブ選択マーカー遺伝子としては、例えば、自殺遺伝子(チミジンカ
イネース等)、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる
。ネガティブ選択マーカー遺伝子が、細胞の生存に負の影響を与える遺伝子(例えば、自
殺遺伝子)である場合、当該ネガティブ選択マーカー遺伝子は、誘導性プロモーターに機
能的に連結され得る。誘導性プロモーターに機能的に連結することで、ネガティブ選択マ
ーカー遺伝子を有する細胞を除去したいときにのみ、ネガティブ選択マーカー遺伝子を発
現させることができる。ネガティブ選択マーカー遺伝子が、蛍光、発光、および発色等の
光学的に検出可能なマーカー遺伝子(可視化マーカー遺伝子;visible mark
er gene)である場合など、細胞の生存に負の影響が少ない場合には、恒常的に発
現させてもよい。
【0059】
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラスティサイディ
ン耐性遺伝子、ジェネティシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン
耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝
子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、黄色
蛍光タンパク質(YFP)遺伝子、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子等が挙げられる
が、これらに限定されない。
発光酵素遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられるが、これら
に限定されない。
発色酵素遺伝子としては、例えば、βガラクトシターゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺
伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
自殺遺伝子としては、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-T
K)、誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)等が挙げられる
が、これらに限定されない。
【0060】
選択マーカー用ドナーDNAが有する選択マーカー遺伝子は、ポジティブ選択マーカー
遺伝子であることが好ましい。すなわち、選択マーカーを発現する細胞を、選択マーカー
遺伝子がノックインされた細胞として、選択することができる。
【0061】
上流ホモロジーアームは、改変対象のゲノムにおいて、標的領域の上流側の塩基配列と
相同組換え可能な塩基配列を有し、例えば、標的配列の上流側に隣接する塩基配列と相同
な塩基配列を有する。下流ホモロジーアームは、改変対象のゲノムにおいて、標的領域の
下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有し、例えば、標的配列の下流側に隣接
する塩基配列と相同な塩基配列を有する。上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアー
ムは、標的領域の周辺領域と相同組換可能であれば、その長さ及び配列は特に限定されな
い。上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームは、相同組換え可能な限り、標的領
域の上流側配列若しくは下流側配列と必ずしも完全一致する必要はない。例えば、上流ホ
モロジーアームは、標的領域の上流側に隣接する塩基配列と90%以上の配列同一性(相
同性)を有する配列であることができ、92%以上、93%以上、94%以上、95%以
上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有することが
好ましい。例えば、下流ホモロジーアームは、標的領域の下流側に隣接する塩基配列と9
0%以上の配列同一性(相同性)を有する配列であることができ、92%以上、93%以
上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の
配列同一性を有することが好ましい。また、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアー
ムとは、少なくともそのいずれかが標的領域中の切断箇所により近いとアレルの改変効率
をより高め得る。ここで、「近い」とは、2つの配列の距離が100bp以下、50bp
以下、40bp以下、30bp以下、20bp以下、または10bp以下であることを意
味し得る。
【0062】
選択マーカー用ドナーDNAにおいて、選択マーカー遺伝子は、上流ホモロジーアーム
と下流ホモロジーアームとの間に位置する。これにより、上記(i)のゲノム改変システ
ムと共に選択マーカー用ドナーDNAを細胞に導入した場合に、HDRにより、選択マー
カー遺伝子が標的領域に導入される(これにより遺伝子が破壊される場合、遺伝子ノック
アウトといい、これにより所望の遺伝子が導入される場合、遺伝子ノックインという、遺
伝子をノックアウトしつつ、別の遺伝子をノックインすることもできる)。
【0063】
選択マーカー遺伝子は、適切なプロモーターの制御下で発現されるように、プロモータ
ーに機能的に連結されていることが好ましい。プロモーターは、ドナーDNAを導入する
細胞の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えば、SRα
プロモーター、SV40初期プロモーター、レトロウイルスのLTR、CMV(サイトメ
ガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、HSV-T
K(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、EF1αプロモーター、メ
タロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。選択マーカ
ー用ドナーDNAは、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の任意の制
御配列等を有していてもよい。
【0064】
選択マーカー用ドナーDNAは、インスレーター配列を有していてもよい。「インスレ
ーター」とは、隣接する染色体環境の影響を遮断または緩和し、その領域に挟まれたDN
Aの転写調節の独立性を保証するまたは高める配列をいう。インスレーターは、エンハン
サー遮断効果(エンハンサーとプロモーターの間に挿入することにより、エンハンサーに
よるプロモーター活性への影響を遮断する効果)、及び位置効果の抑制作用(導入遺伝子
の両側をインスレーターで挟むことにより、導入遺伝子の発現を挿入されたゲノム上の位
置に影響されないようにする作用)により定義される。選択マーカー用ドナーDNAは、
上流アームと選択マーカー遺伝子との間(又は上流アームと選択マーカー遺伝子を制御す
るプロモーターとの間)に、インスレーター配列を有していてもよい。選択マーカー用ド
ナーDNAは、下流アームと選択マーカー遺伝子との間に、インスレーター配列を有して
いてもよい。
【0065】
選択マーカー用ドナーDNAは、直鎖状であってもよく、環状であってもよいが、環状
であることが好ましい。好ましくは、選択マーカー用ドナーDNAは、プラスミドである
。選択マーカー用ドナーDNAは、上記の配列に加えて、任意の配列を含み得る。例えば
、上流ホモロジーアーム、インスレーター、選択マーカー遺伝子、及び下流ホモロジーア
ームの各配列間の全て又は一部に、スペーサー配列を含んでいてもよい。
【0066】
工程(a)では、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数以上の種類の選択マーカー
用ドナーDNAを細胞に導入する。異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に
異なる(区別可能な)種類の選択マーカー遺伝子を有する。ある態様では、異なる種類の
選択マーカー用ドナーDNAは、完全に同一の選択マーカー遺伝子またはそのセットを有
しない。つまり、第1の種類の選択マーカー用ドナーDNAは、第1の種類の選択マーカ
ー遺伝子を有し、第2の種類の選択マーカー用ドナーDNAは、第2の種類の選択マーカ
ー遺伝子を有する。第3の種類の選択マーカー用ドナーDNAは、第3の種類の選択マー
カー遺伝子を有し、それ以降の種類の選択マーカー用ドナーDNAについても同様である
。ゲノム改変の対象とするアレルが2個である場合、選択マーカー用ドナーDNAの種類
は2種類以上である。ゲノム改変の対象とするアレルが3個である場合、選択マーカー用
ドナーDNAの種類は3種類以上である。ある態様では、1つの選択マーカー用ドナーD
NAが、2種類以上の相互に異なる(区別可能な)選択マーカーを有していてもよい(こ
の場合であっても、異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる(区別可
能な)種類(例えば、固有)の選択マーカー遺伝子を有していなければならない)。ある
態様では、選択マーカー用ドナーDNAは、部位特異的組換え酵素の組換え配列(例えば
、Creリコンビナーゼにより組換えられるloxP配列およびその変種)を有しない。
また、ある態様では、本発明の方法は、部位特異的組換え酵素及びその組換え配列(例え
ば、Creリコンビナーゼにより組換えられるloxP配列およびその変種)を用いない
。部位特異的組換え酵素を用いると、通常は、編集後のゲノムに部位特異的組換え酵素の
組換え配列が1つ残存する。これに対して、ある態様では、本発明の方法で得られる細胞
の改変ゲノムは、部位特異的組換え酵素の組換え配列(外来である)を有しない。
【0067】
選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数以
上であればよく、上限は特に限定されない。ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数以
上の種類の選択マーカー用ドナーDNAを用いることで、2つ以上のアレルを安定的に改
変することができる。選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、後述の工程(b)での選
択操作の観点から、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数又は1~2多い程度が好ま
しく、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数であることがより好ましい。
【0068】
上記(i)と(ii)を細胞に導入する方法は特に限定されず、公知の方法を特に制限
なく用いることができる。(i)及び(ii)を細胞に導入する方法としては、例えば、
ウイルス感染法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、カルシウムリン酸
法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポーレーション法、パーティクルガン法等が
挙げられるが、これらに限定されない。上記(i)と(ii)とを細胞に導入することに
より、上記(i)の配列特異的核酸切断分子により、標的領域のDNAが切断された後、
HDRにより(ii)の選択マーカー用ドナーDNA中の選択マーカーが標的領域にノッ
クインされる。この際、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、それぞれの上流ホモ
ロジーアームおよび下流ホモロジーアームが同一である場合には、ランダムに標的領域の
2つ以上のアレルにノックインされ得る。但し、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA
は、2以上のアレルそれぞれの標的領域の上流配列および下流配列と相同組換え可能な塩
基配列をホモロジーアームの塩基配列をそれぞれ有している限り2以上のアレルそれぞれ
を改変できるので、完全に同一のホモロジーアームの塩基配列を有する必要はない。ある
態様では、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAにおいては、その上流および下流ホモ
ロジーアームの塩基配列が、それぞれのアレルの標的領域の上流配列および下流配列とよ
り同一性の高い塩基配列を有していてもよい(例えば、そのように最適化されていてもよ
い)。
【0069】
選択マーカー用ドナーDNAは、ある態様では、上流ホモロジーアームおよび下流ホモ
ロジーアームを有し、上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームの間に、選択マ
ーカー遺伝子を有し、好ましくは、メガヌクレアーゼの切断部位などのエンドヌクレアー
ゼ(塩基配列特異的核酸切断分子)の標的配列をさらに有し得る。この態様において、あ
る好ましい態様では、選択マーカーは、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子およびネ
ガティブ選択用のマーカー遺伝子を含む。別の好ましい態様では、選択マーカーは、ポジ
ティブ選択用の選択マーカーを含むが、これとは別にネガティブ選択マーカー遺伝子を含
まなくてもよい。ある好ましい態様では、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子は、ネ
ガティブ選択用にも用いられ得、そのようなマーカー遺伝子としては、可視化マーカー遺
伝子が挙げられる。
2以上の選択マーカー用ドナーDNAのセットは、上記の選択マーカー用ドナーDNA
の組合せであり、かつ、それぞれが互いに区別可能なポジティブ選択用の選択マーカー遺
伝子を有している。上記セットにおいては、メガヌクレアーゼの切断部位などのエンドヌ
クレアーゼ(塩基配列特異的核酸切断分子)の標的配列をさらに有し得、当該標的配列は
互いに異なっていてもよいが、同一である(または同一の塩基配列特異的核酸切断分子で
切断できる)ことが好ましい。選択マーカー用ドナーDNAの長さは上記の通りであるが
、例えば、5kbp以上、8kbp以上、または10kbp以上であり得る。
【0070】
(工程(b))
前記工程(a)の後、工程(b)を行う。工程(b)では、2以上のアレルにそれぞれ
区別可能に異なる選択マーカー遺伝子またはその組合せが導入された細胞を、当該区別可
能に異なる選択マーカー遺伝子の発現に基づいて、選択する。より具体的には、工程(b
)では、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞ
れ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる固有
の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子
のすべてを発現する細胞を選択する。ある態様では、工程(b)では、前記2種以上の選
択マーカー用ドナーDNAが有する選択マーカー遺伝子であって染色体ゲノムに組込まれ
たすべての選択マーカー遺伝子の発現に基づいて、異なる選択マーカー用ドナーDNAが
導入されたことによりそれぞれのアレルが改変された細胞を選択する。ある態様では、工
程(b)では、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAが有する全ての選択マーカー
遺伝子に基づいて、細胞を選択する。ある態様では、工程(b)では、前記2種以上の選
択マーカー用ドナーDNAが有する選択マーカー遺伝子であって染色体ゲノムに組込まれ
たすべての選択マーカー遺伝子(ポジティブ選択用のマーカー遺伝子)の発現に基づいて
、区別可能な選択マーカー用ドナーDNAが導入されたことによりそれぞれのアレルが改
変された細胞を選択する。ある態様では、工程(b)で得られる細胞は、各アレルが異な
るポジティブ選択用のマーカー遺伝子を有する。ある態様では、工程(b)で得られる細
胞は、各アレルが、共通したポジティブ選択用のマーカー遺伝子をここで、ある態様では
、工程(b)では、単一細胞クローニングを行わない{但し、工程(b)で2つ以上のア
レルが改変された細胞を選択した後に単一細胞クローニングを行うことを含んでいても、
含まなくてもよい}。ある態様では、工程(b)では、細胞の選択は、各アレルに導入さ
れた区別可能なポジティブ選択用のマーカー遺伝子の複数の発現に基づいて行われる。あ
る態様では、工程(b)は、単一の選択マーカー遺伝子の発現強度(例えば、蛍光タンパ
ク質の発現強度または蛍光強度)に基づいて改変アレル数の多さを推定する方式では行わ
れない。単一の選択マーカー遺伝子の発現強度の強弱に基づいて改変アレル数の多さを推
定する方式で細胞を選択する場合、細胞毎の遺伝子発現量に変動が生じ、2以上のアレル
が改変された細胞を1つのアレルが改変された細胞から完全に分離することが困難となり
、したがって、工程(b)において単一細胞クローニングが必要となるためである。
【0071】
工程(b)は、工程(a)で用いた選択マーカー遺伝子の種類に応じて、適宜、細胞の
選択を行えばよい。この際、工程(a)で用いた選択マーカー遺伝子の全ての発現に基づ
いて細胞を選択する。
【0072】
例えば、選択マーカー遺伝子がポジティブ選択マーカー遺伝子である場合、改変対象の
染色体ゲノムに組込まれる(または組込まれた)すべての選択マーカー遺伝子を発現する
細胞を選択することができ、例えば、改変対象のアレルの数と同数のポジティブ選択マー
カーを発現する細胞を選択することができる。ポジティブ選択マーカー遺伝子が薬剤耐性
遺伝子である場合、当該薬剤を含む培地で細胞を培養することにより、前記ポジティブ選
択マーカーを発現する細胞を選択することができる。ポジティブ選択マーカー遺伝子が蛍
光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、又は発色酵素遺伝子である場合、蛍光タンパク質
、発光酵素、又は発色酵素による蛍光、発光、又は発色を呈する細胞を選択することによ
り、前記ポジティブ選択マーカーを発現する細胞を選択することができる。本工程では、
改変されるべきアレルの数と同数の選択マーカー用ドナーDNAがゲノムに取り込まれた
場合、当該数のアレルが改変されている。n倍体の細胞においては、改変されるべきアレ
ルの数はnまたはそれ以下であり、当該数以上n以下の種類の選択マーカー用ドナーDN
Aがゲノムに取り込まれた場合には、少なくとも改変されるべきアレル(2以上のアレル
である)が改変されている。ある態様では、改変されるべきアレルの数がnであり、当該
数の種類の選択マーカー用ドナーDNAが染色体ゲノムに取り込まれ、すべてのアレルが
改変されている。ある態様では、本工程では、改変対象とするアレルの数と同数以上の種
類の選択マーカー用ドナーDNAを用いているため、細胞が発現するポジティブ選択マー
カーの数は、当該数のアレルが確実に改変されていることを意味する。工程(b)におけ
る細胞の選択効率を高める観点では、改変対象とするアレルの数は、選択マーカー用ドナ
ーDNAの種類数と同一であることが好ましい。
【0073】
上記の通り、本実施形態のゲノム改変方法では、n倍体の細胞においてn個のアレルを
改変するためにn種類の選択マーカー用ドナーDNAを用いてHDRを誘発させることに
よって、細胞が有する全てのアレルが改変された細胞を効率よく取得することができる。
また、全てのアレルが改変された細胞を確実に取得することができるため、標的領域が大
きいサイズ(例えば、10kbp以上)であっても、標的領域が改変された細胞を効率よ
く取得することができる。そのため、大規模なゲノム改変も可能となる。
【0074】
ある好ましい態様では、選択マーカー用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流
ホモロジーアームとの間にポジティブ選択用マーカー遺伝子の他にネガティブ選択用マー
カー遺伝子を含んでいてもよい。ある好ましい態様では、選択マーカー用ドナーDNAに
おいては、前記ポジティブ選択用マーカー遺伝子は、ネガティブ選択用にも兼用できるマ
ーカー遺伝子(ポジティブ選択およびネガティブ選択に兼用可能なマーカー遺伝子)であ
ってもよい。ある好ましい態様では、ポジティブ選択用マーカー遺伝子は、薬剤耐性遺伝
子であり得る。ある好ましい態様では、ポジティブ選択用マーカー遺伝子は、ネガティブ
選択用にも兼用できる可視化マーカー遺伝子等であり得る。
【0075】
選択マーカー用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間
にポジティブ選択用マーカー遺伝子の他にネガティブ選択用マーカー遺伝子を含むが、標
的核酸配列をさらに含んでいてもよい。標的核酸配列は、上記ゲノム改変システムにより
切断可能な配列である。標的核酸配列は、アレル特異的な配列であることが好ましく、こ
れにより、第一のアレルのカセット(または第一のカセット)および第二のアレルのカセ
ット(第二のカセット)のうち、第一のアレルのみを切断すること、または第二のアレル
のみを切断することができる。このように、切断をアレル特異的に誘発させることにより
、片アレルのみの選択的な編集が可能である。ある好ましい態様では、選択マーカー用ド
ナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に1つの標的核酸配
列を含む。ある好ましい態様では、選択マーカー用ドナーDNAは、上流ホモロジーアー
ムと下流ホモロジーアームとの間に第一の標的核酸配列と第二の標的核酸配列を含み、第
一の標的核酸配列と第二の標的核酸配列の間に選択マーカー遺伝子を含む。別の選択マー
カー用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に第三の標
的核酸配列と第四の標的核酸配列を含み、第三の標的核酸配列と第四の標的核酸配列の間
に選択マーカー遺伝子を含む。第一の標的核酸配列と第二の標的核酸配列は、同一配列で
も異なっていてもよく、第三の標的核酸配列と第四の標的核酸配列は、同一配列でも異な
っていてもよい。例えば、第一の標的核酸配列と第二の標的核酸配列を切断するときに、
第三の標的核酸配列と第四の標的核酸配列が切断されないように設計され、および/また
は、第三の標的核酸配列と第四の標的核酸配列を切断するときに、第一の標的核酸配列と
第二の標的核酸配列が切断されないように設計されていれば、第一のカセットおよび第二
のカセットのいずれかのみを特異的に切断し、当該カセットのうちの一方の編集を選択的
に行うことができる。第一のカセットと第二のカセットを同時に編集する場合には、第一
~第四の標的核酸配列は同一でもよいことは明らかであろう。
【0076】
ある態様では、工程(b)では、工程(a)によって得られた細胞を含むプールから、
細胞をクローニングすることなく、改変された細胞を選択することができる。クローニン
グの工程を省くことによって工程に必要な時間が短縮され得る。
【0077】
第一の中間体細胞は、改変前細胞から上記工程(a)および(b)によって得ることが
できる(図1の工程S1参照)。工程(a)においては、選択マーカー用ドナーDNAと
して、標的配列に対する上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間にポジティ
ブ選択用マーカー遺伝子とネガティブ選択用マーカー遺伝子、またはポジティブ選択用お
よびネガティブ選択用の両方に兼用可能なマーカー遺伝子を含む。選択マーカー用ドナー
DNAは好ましくは、標的配列に対する上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームと
の間に2つの標的核酸配列を含む。そして、ポジティブ選択用マーカー遺伝子とネガティ
ブ選択用マーカー遺伝子、またはポジティブ選択用およびネガティブ選択用の両方に兼用
可能なマーカー遺伝子は、好ましくは、当該2つの標的核酸配列の間に存在する。このよ
うにすることで、ポジティブ選択により第一の中間体細胞を得ることができる。
【0078】
第一の中間体細胞は、改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲ
ノムを有する細胞において、前記第一のアレルと第二のアレルそれぞれに選択マーカー遺
伝子と標的核酸配列を含むカセットを有する細胞である。ある好ましい態様では、第一の
中間体細胞では、第一のアレルが有する選択マーカー遺伝子と第二のアレルが有する選択
マーカー遺伝子とは区別可能に異なる。ある好ましい態様では、第一の中間体細胞では、
前記標的核酸配列は、ゲノム改変システムの標的であり、ゲノム改変システムにより第一
のアレルと第二のアレルとを区別可能に切断できるように設計されている。ある好ましい
態様では、第一の中間体細胞では、各選択マーカー遺伝子はネガティブ選択に用いること
ができるネガティブ選択用マーカー遺伝子である。第一の中間体細胞を取得する際にはポ
ジティブ選択用マーカー遺伝子が有用であるが、第一の中間体細胞を得た後の工程におい
ては、ポジティブ選択用マーカー遺伝子は必要ではない。したがって、ポジティブ選択用
マーカー遺伝子は、除去されてもよい。除去は、例えば、ゲノム編集技術というにより実
施することができる。このように、第一の中間体細胞は、ポジティブ選択用を有していな
くてもよい。
【0079】
第一の中間体細胞からは、第二の中間体細胞を得てもよい(参考:図1の工程S3)。
第二の中間体細胞は、第一の中間体細胞の第二のカセットを除去して作製することができ
る。カセットの除去は、好ましくは前記第二のカセットの上流と相同組換え可能な上流ホ
モロジーアームと前記カセットの下流と相同組換え可能な下流ホモロジーアームを含むド
ナーDNA(カセット除去用ドナーDNA)存在下で、第二のカセット内部の標的核酸配
列を特異的に切断することにより行うことができる。前記カセットの上流と相同組換え可
能な上流ホモロジーアームと前記カセットの下流と相同組換え可能な下流ホモロジーアー
ムからなるドナーDNA存在下で標的核酸配列を切断することでカセットの除去の際にカ
セットの上流と下流をシームレスに連結することもできる。このようにして得られる第二
の中間体細胞は、第一のアレルには、選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセット
を有するが、第二のカセットを含まない。
【0080】
第一の中間体細胞および第二の中間体細胞から本開示のライブラリーを作製することが
できる(参考:図1の工程S2およびS4)。第一の中間体細胞および第二の中間体細胞
(合わせて「中間体細胞」という)は、第一のアレルに、選択マーカー遺伝子と標的核酸
配列を含むカセットを有する。ライブラリ作製工程においては、第一のカセットを除去し
、代わりに改変塩基配列を導入することができる。すなわち、第一のカセットを改変塩基
配列で置き換えることができる。この置き換えは、ゲノム改変システムにより実施するこ
とができる。第一のカセットの上流と相同組換え可能な上流ホモロジーアームと前記カセ
ットの下流と相同組換え可能な下流ホモロジーアームを含む改変塩基配列導入用ドナーD
NA(またはライブラリ作製用ドナーDNA)存在下で、第一のカセット内部の標的核酸
配列を特異的に切断することにより行うことができる。ライブラリ作製用ドナーDNAは
、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に改変塩基配列を有する。基本的
には、ライブラリ作製用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの
間に挟まれた配列へと、ゲノム上の上流ホモロジーアームが相同組換えする領域と下流ホ
モロジーアームが相同組換えする領域に挟まれた領域が置き換わるので、置き換え後の配
列を上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に有するライブラリ作製用ドナー
DNAが好ましく用いられ得る。したがって、上記操作により、カセットを改変塩基配列
に置き換えることができる。ライブラリ作製用ドナーDNAは、種々の改変塩基配列を含
むDNA群であり得る。このようにすることで、上記操作により、各中間体細胞のカセッ
トそれぞれを様々な改変塩基配列に置き換えることができる。カセットが置き換えられる
と、カセット内のネガティブ選択用マーカー遺伝子が除去されることとなるので、ネガテ
ィブ選択用マーカー遺伝子が発現しないことを指標としてカセットが改変塩基配列に置き
換わった細胞を取得することができる。ある態様では、ライブラリ作製用ドナーDNAは
、線状である(環状ではない)。このようにすることで、ライブラリ作製用ドナーDNA
の調整の簡便性において利点を有し得る(例えば、図4の欠点2参照)。カセットの改変
塩基配列の置き換えは、当業者であれは周知慣用技術により確認でき、例えば、制限酵素
による切断の有無、PCRの増幅の有無(例えば、ジャンクションPCR)やシークエン
シングにより確認することができる。改変塩基配列は、0塩基長、すなわち存在しないで
もよいが、好ましくは、1塩基長以上であり得る。改変塩基配列は、特に限定されないが
例えば、1~100万塩基長、1~50万塩基長、1~10万塩基長、1~2万塩基長、
1~1.5万塩基長、または1~1万塩基長であり得る。改変塩基配列は、特に限定され
ないが例えば、3塩基長以上、10塩基長以上、30塩基長以上、50塩基長以上、10
0塩基長以上の長さを有し得る。各ライブラリ作製用ドナーDNAの改変塩基配列は、同
じでも異なっていてもよい。各ライブラリ作製用ドナーDNAの改変塩基配列は、それぞ
れ独立して上記の長さのいずれかを有し得る。
【0081】
中間体細胞が、標的領域において3以上のアレルを有する場合には、少なくとも第一の
アレルが区別可能な固有のネガティブマーカー遺伝子をあればよい。そのようにすること
で、第一のアレル以外のカセットを除去することができる、または、第一のアレル以外の
カセットを維持したまま、第一のアレルのカセットを改変塩基配列に置き換える操作を行
うことができる。したがって、中間体細胞として、第一のアレルのみが少なくとも第一の
アレルが区別可能な固有のネガティブマーカー遺伝子を有する細胞であり、中間体細胞と
してはそのような細胞を選択して用いることができる。
【0082】
本開示の方法は、図4に示される欠点1~3のいずれも解決しなくてもよいが、好まし
くは、図4に示される欠点1~3のいずれか1以上を解決し得る。具体的には、本開示の
方法では、GateweyTM法、およびLoxP/Cre法と比較して、標的ゲノムへ
の外来遺伝子の組換え効率が高い。本開示のある好ましい態様では、改変塩基配列導入用
ドナーDNAは、線状であり、環状ではない。本開示の好ましい態様では、改変細胞は、
部位特異的組換え酵素の認識部位を有しない。本開示の方法のある好ましい態様では、G
ateweyTM法、およびLoxP/Cre法と比較して、標的ゲノムへの外来遺伝子
の組換え効率が高く、改変塩基配列導入用ドナーDNAは、線状であり、改変細胞は、部
位特異的組換え酵素の認識部位を有しない。部位特異的組換え酵素の認識部位を有しない
という特徴は、例えば、導入カセットとゲノムとをシームレスに連結する際に有益である
【0083】
本開示のライブラリーは、
複数の水性組成物の組合せを含み、
各水性組成物はそれぞれ1種類の改変細胞を含み、
改変細胞はそれぞれ、改変対象である遺伝子座(標的遺伝子座または目的遺伝子座)に
第一のアレルと第二のアレルを有し、
改変細胞はそれぞれ第一のアレルの同一位置に、水性組成物間で相互に異なるDNA断
片を含むカセットを有する。このようなライブラリーは、以下のようにして得ることがで
きる。例えば、様々な改変塩基配列を含むライブラリー作製用ドナーDNAの存在下で前
記中間体細胞の第一のカセットの標的核酸配列を切断する。そうすると細胞に備わったD
NA損傷の修復機構により、中間体細胞の第一のカセットが改変塩基配列に置き換わる。
改変塩基配列を有する細胞をシングルセルクローニングに供することができる。シングル
セルクローニングは、細胞1つを含む液滴または水性組成物を多数形成し、培養に供して
、液滴または水性組成物中で、1つの細胞に由来する細胞クローンを作製することを含み
得る。このようにすると細胞クローンを含む水性組成物が複数(または多数)得られるこ
ととなる。このような複数(または多数)の水性組成物の組合せを改変細胞のライブラリ
ーとして用いることができる。
【0084】
中間体細胞または改変細胞のある態様では、第一のアレルは、(当初ゲノム上の)標的
領域の一部又は全体を欠失している。中間体細胞または改変細胞のある態様では、第二の
アレルは、標的領域の一部又は全部を欠失している。中間体細胞または改変細胞のある好
ましい態様では、第一のアレルおよび第二のアレルは、標的領域の一部又は全体、より好
ましくは全部を欠失している。
【0085】
第一の中間体細胞のある態様では、第一のアレルでは、標的領域の全体が第一のカセッ
トにより置換されている。第一の中間体細胞のある態様では、第二のアレルでは、標的領
域の全体が第二のカセットにより置換されている。第一の中間体細胞のある好ましい態様
では、第一のアレルおよび第二のアレルは、標的領域の全体がそれぞれ第一のカセットお
よび第二のカセットにより置換されている。
【0086】
第二の中間体細胞では、第二のカセットは除去されている。ある好ましい態様では、第
二の中間体細胞では、(当初ゲノム上の)第二のアレルの標的領域の上流と下流とがシー
ムレスに連結している。シームレスに連結しているとは、新しい塩基の追加なく、上流と
下流とが連結していることを意味する。上流と下流のシームレスな連結においては、塩基
の追加の脱落なく、上流と下流とが連結していることが好ましい。
【0087】
改変細胞のある態様では、第一のアレルは、改変塩基配列を含み、改変塩基配列は、(
当初ゲノム上の)標的領域(被置換配列ともいう)に対して塩基の付加、挿入、置換、欠
失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する。改変細胞は、当初の細
胞(リファレンス細胞または参照細胞)と比較をし、変異の影響を評価することに有利に
用いることができる。また、ライブラリーが、変異において異なる様々な細胞を含むこと
により、細胞間の比較により、標的領域のそれぞれの変異部位の機能を評価することに有
利である。
【0088】
第一の改変細胞のある態様では、第二のアレルは、選択マーカーを含むカセットを含む
。選択マーカーは、ポジティブ選択用マーカー遺伝子を含み得る。第二の改変細胞のある
態様では、第二のアレルは、被置換配列の上流と下流とがシームレスに連結している。改
変細胞の好ましいある態様では、第一のアレルの被置換配列と第二のアレルの被置換配列
とは、対応する配列を有する。対応する配列を有するとは、配列の起点および終点がゲノ
ム上の同一位置に存在することを意味する。対応する配列は、典型的には、高い同一性(
例えば、80%以上、90%以上、または95%以上)を有し、同一の長さを有する。
【0089】
ある態様において、改変細胞におけるカセットの配列のそれぞれは、1以上の改変部分
(A)と1以上の非改変部分(B)とからなっている(例えば、図3参照)。前記改変部
分(A)はそれぞれ、配列の挿入、欠失、および置換からなる群から選択される1以上の
改変を有し、前記1以上の改変部分の改変(A)は、改変の位置または内容に関して各水
性組成物間で異なる。前記1以上の非改変部分(B)はそれぞれ、改変前の対応する部位
の配列と同一である。ここで、挿入カセットで置換される改変前の配列と、挿入カセット
内の配列とをアラインメントしたときに、同じ位置に整列される場合に、2つの核酸配列
は対応する部位の配列となる。前記カセット中のセントロメア側の非改変部分(B1)は
、前記カセットのセントロメア側の隣接配列(C1)とシームレスに連結しており、前記
カセットのテロメア側の非改変部分(Bt)は、前記カセットのテロメア側の隣接配列(
C2)とシームレスに連結しており、記隣接配列(C1)および非改変部分(B1)が連
結した領域、並びに非改変部分(Bt)および上記隣接配列(C2)が連結した領域は、
改変前の対応する領域の配列と同一の配列を構成していてもよい。このようなカセットを
DNAに組込むには、上記カセットの構造を上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアー
ムの間に有するライブラリ作製用ドナーDNAを用いて中間体細胞を改変すればよい。あ
る好ましい態様では、改変部分(A)の長さの合計は、挿入カセットの長さの90%以下
、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%
以下、10%以下、または5%以下であり得る。この態様の改変細胞を含むライブラリー
は、同一領域内の異なる位置に異なる変異を有するライブラリーであり得、例えば、どの
位置のどの変異が細胞活性を変化させるかを調べることや、所望の特性を有する細胞のス
クリーニングなどに好ましく用いられ得る。改変塩基配列導入用ドナーDNAは、上流ホ
モロジーアームと下流ホモロジーアームの間に上記カセットの構造を有し得る。改変塩基
配列導入用ドナーDNAは、異なるカセットの構造を有する改変塩基配列導入用ドナーD
NAのライブラリーに含まれ得る。
【0090】
ある態様において、改変細胞における改変塩基配列は、その全体が変異からなる。
【0091】
ある態様において、挿入カセットの内部または外部(近辺)に部位特異的組換え酵素の
組換え配列(認識部位)は存在しない。ある態様において、挿入カセット以外は、改変が
なされていない、または、改変前の細胞と同一の塩基配列を有する。このようにすること
で、目的の改変以外の改変を含まない改変細胞を得ることができ、目的の改変以外の改変
の予期せぬ影響を除去することができる(例えば、図4の欠点3参照)。
【0092】
ライブラリーは、特に限定されないが好ましくは、4種類以上、5種類以上、6種類以
上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、11種類以上、12種類以上
、13種類以上、14種類以上、15種類以上、16種類以上、17種類以上、18種類
以上、19種類以上、20種類以上、25種類以上、30種類以上、35種類以上、40
種類以上、45種類以上、50種類以上、60種類以上、70種類以上、80種類以上、
90種類以上、100種類以上、150種類以上、200種類以上、300種類以上、4
00種類以上、500種類以上、600種類以上、700種類以上、800種類以上、9
00種類以上、1000種類以上、2000種類以上、3000種類以上、4000種類
以上、5000種類以上、6000種類以上、7000種類以上、8000種類以上、9
000種類以上、または10000種類以上の改変細胞(又は改変細胞を含む水性組成物
)を含んでいてもよい。
【0093】
ライブラリーは、典型的には、複数の水性組成物の組合せを含む。各水性組成物は、1
種類の細胞を含む。ある態様では、ライブラリーは、複数の水性組成物の組合せを別々に
含む。ある態様では、ライブラリーは、目的によっては、複数の水性組成物の組合せを混
合物として含んでいてもよい。例えば、細胞の増殖力や生存力の高い細胞をスクリーニン
グする場合には、ライブラリーは、複数の水性組成物の組合せを混合物として含んでいて
もよく、このような場合であっても、培養後の細胞を分析することにより、もっとも増殖
力や生存力の高い細胞が富化され、増殖力や生存力の高い細胞を取得することができる。
【0094】
ある態様では、1つのライブラリーにおいて、当該ライブラリーに含まれる改変細胞そ
れぞれの改変塩基配列(またはDNA断片)以外のゲノム配列は、同一となるように設計
されている。ある態様では、1つのライブラリーにおいて、当該ライブラリーに含まれる
改変細胞それぞれの改変塩基配列(またはDNA断片)以外のゲノム配列は、実質的に同
一である。実質的に同一であるとは、細胞培養に適した環境下(通常の環境下)で、クロ
ーニングされた細胞を単に10回継代した後に細胞間に生じ得る変異に基づく相違の存在
を許容する。
【0095】
改変塩基配列以外が共通していることにより、例えば、改変塩基配列の影響を評価する
ことに適する。第二のアレルにおけるカセットが除去されることで、カセットによる影響
の可能性を最小に抑えることができる。第二のアレルにおけるカセットがシームレスに除
去されることで、追加の新しい塩基が第二のアレルに導入されることによる影響の可能性
を最小に抑えることができる。
【0096】
別のある態様では、中間体細胞における第二のアレルにおけるカセット(第二のカセッ
ト)も、第二の改変塩基配列により置き換えられていてもよい。第二の改変配列は、改変
細胞に共通した配列(つまり、改変細胞にわたって同一配列)であってもよいし、水性組
成物毎に異なる配列であってもよい。場合によっては、第二の改変配列は、同一水性組成
物中においてさえ細胞毎に異なっていてもよい。また、第二の改変配列は、第一のアレル
における改変塩基配列(第一の改変塩基配列)と同一であってもよいし、異なっていても
よい。第二の改変塩基配列については、第一のアレルにおける改変塩基配列と同様に設計
し、第一のアレルへの改変塩基配列の導入と同様に導入することができる。第二のカセッ
トの第二の改変塩基配列への置換は、第二のライブラリ作製用ドナーDNAの存在下で、
第二のカセット付近(好ましくは、第二のカセット内の標的核酸配列)を特異的に切断す
ればよい。本明細書では、第二の改変塩基配列の内容やその導入方法については、第一の
改変塩基配列の説明と同様であるので、この説明を参照し、ここでは説明を省略する。
【0097】
応用例1
応用例1は、ゲノムの特定領域の解析への応用例である。本開示によれば、ゲノムの特
定領域の塩基配列に様々な変異をそれぞれ導入して、変異による当該特定領域の機能の獲
得または喪失を観察することによって、当該ゲノムの特定領域における重要塩基を特定す
ることが可能である。特定領域の例としては、機能が不明な領域、プロモーター領域、エ
ンハンサー領域、イントロンに該当する領域、5’非翻訳領域(UTR)に該当する領域
、3’非翻訳領域(UTR)に該当する領域、ノンコーディングRNAをコードする領域
などが挙げられる。
【0098】
応用例2
応用例2は、タンパク質またはRNAの発現レベルの調節への応用例である。この応用
例では、タンパク質またはRNAの転写制御領域(転写制御に関与していると疑われる領
域を含む)、および前記タンパク質の翻訳制御領域(翻訳制御に関与していると疑われる
領域を含む)等の前記タンパク質またはRNAの発現レベルの制御に関与する領域または
関与すると疑われる領域を改変し、当該タンパク質の発現レベルを調節する。これにより
、応用例2では、タンパク質またはRNAの発現量が調節された改変細胞を得ることがで
きる。調節は、発現量の増加または減少であり得る。RNAは、mRNA、tRNA、r
RNA、その他のノンコーディングRNA(例えば、マイクロRNA)であり得る。
【0099】
応用例3
応用例3は、タンパク質またはRNAのコード領域への応用例である。本開示によれば
、タンパク質またはRNAをコードする領域に様々な変異をそれぞれ導入して、変異によ
るタンパク質またはRNAの機能改変(例えば、機能の獲得または喪失)を観察すること
によって、当該タンパク質またはRNAの機能における重要アミノ酸または重要配列を特
定することが可能である。また、例えば、変異によるタンパク質またはRNAの機能の獲
得または喪失を観察することにより、向上もしくは低減した機能または新しい機能を有す
る変異タンパク質またはRNAおよび当該変異タンパク質またはRNAを発現する改変細
胞を取得することができる。タンパク質またはRNAの一部または全部に対して多様な改
変をする場合には、改変された部位を含む一部または全部をタンパク質またはRNAをコ
ードする領域にインフレームでシームレスに連結することが望ましい。RNAは、mRN
A、tRNA、rRNA、その他のノンコーディングRNA(例えば、マイクロRNA)
であり得る。応用例3によれば、上記応用例2と組み合わせて、当該変異タンパク質また
はRNAを発現する改変細胞であって、その発現レベルが調節された改変細胞を得ること
もできる。
【0100】
応用例4
応用例5は、増殖力または生存力の高い細胞のスクリーニングへの応用である。本開示
によれば、細胞の増殖力または生存力に関与する可能性のあるゲノム領域について、異な
る変異を有する多様な改変細胞を含むライブラリーを得ることができる。そのようなライ
ブラリーは、各種細胞を含む水性組成物を別々に含むものであってもよいが、各種細胞を
含む水性組成物の混合物であってもよい。混合物中では、それぞれの改変細胞が同等量含
まれていることが好ましい。混合物を、細胞の培養に適した環境下または細胞への淘汰圧
存在下で培養することによって、増殖力または生存力の高い細胞は相対濃度を高め、増殖
力または生存力の低い細胞は相対濃度を低める。したがって、培養後、増殖力または生存
力の高い細胞が濃縮され、これらの細胞を取得できることに有利である。スクリーニング
は、特定の選択圧を負荷した条件下で行うこともできる。このようにすることで、当該特
定の選択圧に対して増殖力または生存力の高い細胞をスクリーニングすることができる。
選択圧としては、特に限定されないが例えば、貧栄養、高塩濃度、低塩濃度、高温、低温
、低酸素、薬物(例えば、毒物、抗生物質等の生理活性物質)の存在などが挙げられる。
ゲノム上の既存の遺伝子の改変は、当該遺伝子の改変遺伝子への置き換えにより行うこと
ができる。あるいは、セーフハーバー領域(例えば、AAVS1遺伝子座、ROSA26
遺伝子座、CLBYL遺伝子座、CXCR4遺伝子座、およびCCR5遺伝子座など)な
どに、単純に改変塩基配列を挿入することもできる。
【0101】
1実施形態において、本発明は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞で
あって、当該2つ以上のアレルそれぞれにおいて相互に異なる(区別可能な)選択マーカ
ー遺伝子を有する、細胞を提供する。ある態様では、細胞は、単細胞生物の細胞であり得
る。ある態様では、細胞は、単離された細胞であり得る。ある態様では、細胞は、多能性
細胞、および多能性幹細胞(胚性幹細胞および誘導多能性幹細胞など)からなる群から選
択される細胞であり得る。ある態様では、細胞は、組織幹細胞であり得る。ある態様では
、細胞は、体細胞であり得る。ある態様では、細胞は、生殖系列細胞(例えば、生殖細胞
)であり得る。ある態様では、細胞は、細胞株であり得る。ある態様では、細胞は不死化
細胞であり得る。ある態様では、細胞はがん細胞であり得る。ある態様では、細胞は、非
がん細胞であり得る。ある態様では、細胞は、疾患患者の細胞であり得る。ある態様では
、細胞は健常者の細胞であり得る。ある態様では、細胞は、動物細胞(例えば、ヒト細胞
)、例えば、昆虫細胞(例えば、カイコ細胞)、HEK293細胞、HEK293T細胞
、Expi293F(商標)細胞、FreeStyle(商標)293F細胞、チャイニ
ーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、CHO-S細胞、CHO-K1細胞、およびE
xpiCHO細胞、ならびにこれらの細胞からの派生細胞からなる群から選択される細胞
であり得る。ある好ましい態様では、上記細胞においては、染色体ゲノムの標的領域のす
べてのアレルが改変され、改変後の領域は、それぞれ相互に異なる(区別可能な)選択マ
ーカー遺伝子を有する。
【0102】
1実施形態において、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞であって、当
該2つ以上のアレルそれぞれにおいて相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を
有する、細胞の培養方法が提供される。選択マーカー遺伝子が、薬剤耐性マーカー遺伝子
である場合には、培養はそれぞれの薬剤耐性マーカー遺伝子に対する薬剤の存在下で培養
され得る。培養は、細胞の維持または増殖に適した条件下で行われ得る。
【0103】
1実施形態において、本発明は、2つ以上のアレルが改変された染色体ゲノムを有する
非ヒト生物であって、当該2つ以上のアレルそれぞれにおいて相互に異なる(区別可能な
)選択マーカー遺伝子を有する、非ヒト生物が提供される。ある態様では、細胞は、単細
胞生物の細胞であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、酵母(例えば、分裂酵母または
出芽酵母、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cer
evisiae)、サッカロミセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyce
s carlsbergensis)、サッカロミセス・フラギリス(Saccharo
myces fragilis)、サッカロミセス・ルーキシー(Saccharomy
ces rouxii)などのサッカロミセス属、キャンディダ・ユーティリス(Can
dida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropi
calis)などのキャンディダ属、ピキア(Pichia)属、クリベロマイセス(K
luyveromyces)属、ヤロイワ(Yarrowia)属、ハンゼニュラ(Ha
nsenula)属、エンドマイセス(Endomyces)属などの酵母からなる群か
ら選択される生物であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、糸状菌(例えば、Aspe
rgillus,Trichoderma,Humicola,Acremonium,
Fusarium,及びPenicillium種)であり得る。ある態様では、非ヒト
生物は、は、多細胞生物であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、非ヒト動物であり得
る。ある態様では、非ヒト生物は、植物であり得る。ある好ましい態様では、上記非ヒト
生物では、染色体ゲノムの標的領域のすべてのアレルが改変され、改変後の領域は、それ
ぞれ相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を有する。
【0104】
上記細胞では、細胞の生存や増殖に必要な遺伝子などの所望の遺伝子の1以上が、染色
体ゲノムの他の領域に含まれ、または集められていてもよい。他の領域は、例えば、セー
フハーバー領域(例えば、AAVS1遺伝子座、ROSA26遺伝子座、CLBYL遺伝
子座、CXCR4遺伝子座、およびCCR5遺伝子座など)であり得る。他の領域は、例
えば、欠失を有する上記(ii)の領域であり得る。
【実施例0105】
図1に示されるように、改変前細胞(リファレンス細胞という)から第一の中間体細胞
を得る。改変前細胞から第一の中間体細胞を得る工程を工程S1と呼ぶ。第一の中間体細
胞から第一の改変細胞のライブラリー(以下単に「第一のライブラリー」という)を作製
することができる。第一の中間体細胞から第一のライブラリーを得る工程を工程S2と呼
ぶ。第一の中間体細胞から第二の中間体細胞を得ることができる。第一の中間体細胞から
第二の中間体細胞を得る工程を工程S3と呼ぶ。第二の中間体細胞から第二の改変細胞の
ライブラリー(以下単に「第二のライブラリー」という)を作製することができる。第二
の中間体細胞から第二のライブラリーを得る工程を工程S4と呼ぶ。
【0106】
リファレンス細胞を用意する。リファレンス細胞は、ライブラリー化したい細胞である
。リファレンス細胞は、例えば、真核細胞であり、本開示のライブラリーの作製に用いる
ことができる。リファレンス細胞は、天然の細胞であってもよいが、改変を有する細胞で
あってもよい。リファレンス細胞は、典型的には2倍体であるが、3倍体以上であっても
よい。
【0107】
例えば、図2に示されるように第一の中間体細胞を作製することができる。具体的には
、リファレンス細胞のゲノム上の標的領域を、選択マーカー遺伝子を含むカセットで置換
する。図2中では、2種類のドナーDNAと標的領域とを相同組換えに供する。ドナーD
NAは、それぞれ区別可能に異なる薬剤選択マーカー遺伝子(ポジティブ選択用)と区別
可能に異なる可視化マーカー遺伝子(ネガティブ選択用)を含み、それぞれ両端にCRI
SPR/Cas9による標的配列(gRNA1~4)を有する。相同組換え後、2種類の
ドナーDNAに由来する断片がそれぞれ父由来および母由来の染色体上の標的配列を置き
換わった細胞を選択するために、2種類の薬剤により薬剤選択を行う(図2の工程(1)
参照)。選択後生存する細胞は、2アレルの標的領域にそれぞれ区別可能に異なる薬剤耐
性遺伝子を有する細胞(第一の中間体細胞)である。第一の中間体細胞は、シングルセル
クローニングに供することができる。目的の位置に選択マーカー遺伝子を含むカセットが
挿入されているかを確認しておくことができる。
【0108】
次に、父由来または母由来のカセットいずれか一方を除去する。例えば、図2に示され
るように、父由来の標的領域を置き換えたカセットの両端に位置する標的配列(gRNA
1およびgRNA2)を、カセット除去用ドナーDNAの存在下で、CRISPR/Ca
s9システムにより切断することができる。カセット除去用ドナーDNAは、父由来アレ
ル上の標的領域の上流と相同組換え可能な上流ホモロジーアームと当該標的領域の下流と
組換え可能な下流ホモロジーアームからなる。その後、GFPシグナルが消失した細胞を
セルソーターで選別することで、父由来アレルにおいて標的領域の上流と下流とがシーム
レスに連結した(すなわち、標的領域の全体が脱落した)ゲノムを有する第二の中間体細
胞を得ることができる。
【0109】
第二の中間体細胞から第二の改変細胞のライブラリー(第二のライブラリー)を作製す
ることができる。第二の中間体細胞の母由来カセットの両端に位置する標的配列(gRN
A3およびgRNA4)を、改変塩基配列導入用ドナーDNA(ライブラリー作製用ドナ
ーDNA)の存在下で、CRISPR/Cas9システムにより切断することができる。
改変塩基配列導入用ドナーDNAは、母由来アレル上の標的領域の上流と相同組換え可能
な上流ホモロジーアームと当該標的領域の下流と組換え可能な下流ホモロジーアームを有
し、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、改変塩基配列を含む。このよ
うにすることで、母由来アレルにおいて、標的配列の上流と下流との間に改変塩基配列を
含むゲノムを有する改変細胞が得られる。異なる改変塩基配列を有する改変塩基配列導入
用ドナーDNAを用意しておくことで、異なる改変塩基配列を有する改変細胞を得ること
ができ、これにより第二のライブラリーを得ることができる。
【0110】
改変塩基配列導入用ドナーDNAは、上述のように1以上の改変部分(A)と1以上の
非改変部分(B)とからなっており、改変部分(A)以外は、改変前のゲノムの当該領域
の配列と同じ配列を有していることができる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変細胞のライブラリーであって、
ライブラリーは、複数の水性組成物の組合せを含み、
各水性組成物はそれぞれ1種類の改変細胞を含み、
改変細胞はそれぞれ、改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを有し、
改変細胞はそれぞれ第一のアレルの同一位置に、水性組成物間で相互に異なるDNA断片を含むカセットを有する、
ライブラリー。
【請求項2】
各改変細胞は、第二のアレルは、その一部または全部の破壊または欠失を有する、請求項1または2に記載のライブラリー。
【請求項3】
第二のアレルは、シームレスに前記一部または全部を欠失している、請求項2に記載のライブラリー。
【請求項4】
改変細胞それぞれのDNA断片を含むカセット以外の配列は、改変前後で実質的に同一である、請求項1に記載のライブラリー。
【請求項5】
前記カセットの配列のそれぞれは、1以上の改変部分(A)と1以上の非改変部分(B)とからなり、前記改変部分(A)はそれぞれ、配列の挿入、欠失、および置換からなる群から選択される1以上の改変を有し、前記1以上の改変部分の改変は、改変の位置または内容に関して各水性組成物間で異なり、前記1以上の非改変部分(B)はそれぞれ、改変前の対応する部位の配列と同一であり、前記カセット中のセントロメア側の非改変部分(B1)は、前記カセットのセントロメア側の隣接配列(C1)とシームレスに連結しており、前記カセットのテロメア側の非改変部分(Bt)は、前記カセットのテロメア側の隣接配列(C2)とシームレスに連結しており、記隣接配列(C1)および非改変部分(B1)が連結した領域、並びに非改変部分(Bt)および上記隣接配列(C2)が連結した領域は、改変前の対応する領域の配列と同一の配列を構成している、上記請求項1に記載のライブラリー。
【請求項6】
前記改変細胞は、部位特異的組換え酵素の標的配列を含まない、請求項1に記載のライブライリー。
【請求項7】
ライブラリーに含まれる前記水性組成物の種類は、50種類以上である、請求項1に記載のライブライリー。
【請求項8】
改変細胞のライブラリーを製造する方法であって、
(α)改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細胞において、前記第一のアレルと第二のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットを有する細胞の群を提供することと、
ここで、第一のアレルが有する選択マーカー遺伝子と第二のアレルが有する選択マーカー遺伝子とは区別可能に異なり、前記標的核酸配列は、ゲノム改変システムの標的であり、ゲノム改変システムにより第一のアレルと第二のアレルとを区別可能に切断できるように設計されており、各選択マーカー遺伝子はネガティブ選択に用いることができるネガティブ選択用マーカー遺伝子であり、
(β)提供された細胞の群に下記(x)及び(y)を導入する工程と、
(x)第一のアレルに含まれる前記固有の塩基配列を標的とする配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(y)複数種類の第2の組換え用ドナーDNA{ここで、複数種類の第2の組換え用ドナーDNAはそれぞれ、上記(x)の前記標的部位の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有し、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームとの間に改変塩基配列を含み、改変塩基配列は、第2の組換え用ドナーDNA毎に異なり、第2の組換え用ドナーDNAそれぞれに固有である}、
(γ)前記工程(β)の後、第一のアレルに含まれる選択マーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程と、
を含み、
これにより、複数の細胞を含む改変細胞のライブラリー得ることができ、ここで、得られた複数の細胞において、第一のアレルは各細胞に固有の改変塩基配列を有し、第二のアレルは細胞間で共通の配列を有する、
方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、工程(α)の前に、
改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細胞において、第一のアレルおよび第二のアレルに含まれる被置換配列を選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットにより置換し、これにより被置換配列を第一のアレルおよび第二のアレルから除去することと、
をさらに含む、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
第一のアレルの改変塩基配列はそれぞれ、第一のアレルの被置換配列に対して、塩基の付加、挿入、置換、欠失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する、方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、
被改変配列は、タンパク質のコード領域であり、
第一のアレルの改変塩基配列は、第一のアレルの被置換配列に対して、塩基の付加、挿入、置換、欠失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する、方法。
【請求項12】
改変塩基配列は、被改変配列と80%以上の配列同一性を有する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項8に記載の方法であって、工程(α)と工程(β)の間に、
第二のアレルからカセットを除去すること
をさらに含む、方法。
【請求項14】
カセットがシームレスに除去される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項8に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変細胞のライブラリーであって、
ライブラリーは、複数の水性組成物の組合せを含み、
各水性組成物はそれぞれ1種類の改変細胞を含み、
改変細胞はそれぞれ、改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを有し、
改変細胞はそれぞれ第一のアレルの同一位置に、水性組成物間で相互に異なるDNA断片を含むカセットを有するが、改変細胞の前記遺伝子座は部位特異的組換え酵素の認識部位または組換え配列を含まない、
ライブラリー。
【請求項2】
各改変細胞は、第二のアレルは、標的領域の一部または全部の破壊または欠失を有する、請求項1に記載のライブラリー。
【請求項3】
第二のアレルは、シームレスに前記一部または全部を欠失している、請求項2に記載のライブラリー。
【請求項4】
改変細胞それぞれのDNA断片を含むカセット以外の配列は、改変前後で実質的に同一である、請求項1に記載のライブラリー。
【請求項5】
前記カセットの配列のそれぞれは、1以上の改変部分(A)と1以上の非改変部分(B)とからなり、前記改変部分(A)はそれぞれ、配列の挿入、欠失、および置換からなる群から選択される1以上の改変を有し、前記1以上の改変部分の改変は、改変の位置または内容に関して各水性組成物間で異なり、前記1以上の非改変部分(B)はそれぞれ、改変前の対応する部位の配列と同一であり、前記カセット中のセントロメア側の非改変部分(B1)は、前記カセットのセントロメア側の隣接配列(C1)とシームレスに連結しており、前記カセットのテロメア側の非改変部分(Bt)は、前記カセットのテロメア側の隣接配列(C2)とシームレスに連結しており、記隣接配列(C1)および非改変部分(B1)が連結した領域、並びに非改変部分(Bt)および上記隣接配列(C2)が連結した領域は、改変前の対応する領域の配列と同一の配列を構成している、上記請求項1に記載のライブラリー。
【請求項6】
ライブラリーに含まれる前記水性組成物の種類は、50種類以上である、請求項1に記載のライブラリー。
【請求項7】
改変細胞のライブラリーを製造する方法であって、
(α)改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細胞において、前記第一のアレルと第二のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットを有する細胞の群を提供することと、
ここで、第一のアレルが有する選択マーカー遺伝子と第二のアレルが有する選択マーカー遺伝子とは区別可能に異なり、前記標的核酸配列は、ゲノム改変システムの標的であり、ゲノム改変システムにより第一のアレルと第二のアレルとを区別可能に切断できるように設計されており、各選択マーカー遺伝子はネガティブ選択に用いることができるネガティブ選択用マーカー遺伝子であり、
(β)提供された細胞の群に下記(x)及び(y)を導入する工程と、
(x)第一のアレルに含まれる前記固有の塩基配列を標的とする配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(y)複数種類の第2の組換え用ドナーDNA{ここで、複数種類の第2の組換え用ドナーDNAはそれぞれ、上記(x)の前記標的部位の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有し、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームとの間に改変塩基配列を含み、改変塩基配列は、第2の組換え用ドナーDNA毎に異なり、第2の組換え用ドナーDNAそれぞれに固有である}、
(γ)前記工程(β)の後、第一のアレルに含まれる選択マーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程と、
を含み、
これにより、複数の細胞を含む改変細胞のライブラリー得ることができ、ここで、得られた複数の細胞において、第一のアレルは各細胞に固有の改変塩基配列を有し、第二のアレルは細胞間で共通の配列を有する、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、工程(α)の前に、
改変対象である遺伝子座に第一のアレルと第二のアレルを含むゲノムを有する細胞において、第一のアレルおよび第二のアレルに含まれる被置換配列を選択マーカー遺伝子と標的核酸配列を含むカセットにより置換し、これにより被置換配列を第一のアレルおよび第二のアレルから除去することと、
をさらに含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
第一のアレルの改変塩基配列はそれぞれ、第一のアレルの被置換配列に対して、塩基の付加、挿入、置換、欠失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する、
方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、
被改変配列は、タンパク質のコード領域であり、
第一のアレルの改変塩基配列は、第一のアレルの被置換配列に対して、塩基の付加、挿入、置換、欠失、および削除からなる群から選択される1以上の変異を有する、方法。
【請求項11】
改変塩基配列は、被改変配列と80%以上の配列同一性を有する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法であって、工程(α)と工程(β)の間に、
第二のアレルからカセットを除去すること
をさらに含む、方法。
【請求項13】
カセットがシームレスに除去される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項7に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【請求項15】
請求項8に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【請求項16】
請求項9に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【請求項17】
請求項10に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【請求項18】
請求項11に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【請求項19】
請求項12に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。
【請求項20】
請求項13に記載の方法により作製される、複数の改変細胞を含む改変細胞のライブラリー。