(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054654
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】消臭剤とその応用
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20240410BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20240410BHJP
A61L 2/238 20060101ALI20240410BHJP
A61L 101/06 20060101ALN20240410BHJP
【FI】
A61L9/01 E ZAB
C02F11/00 F
A61L2/238
A61L101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161028
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】718005766
【氏名又は名称】株式会社開発コンサルティング
(72)【発明者】
【氏名】池内 茂之
(72)【発明者】
【氏名】池内 豊之
(72)【発明者】
【氏名】池内 貴之
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
4D059
【Fターム(参考)】
4C058BB07
4C058JJ05
4C180AA05
4C180BB02
4C180BB03
4C180BB06
4C180BB07
4C180BB08
4C180BB11
4C180BB12
4C180CB01
4C180EA23X
4C180EA24X
4C180EA33X
4D059AA01
4D059AA09
4D059BG00
4D059BK03
4D059DA01
4D059DA02
4D059DA21
4D059DA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単独の薬剤で、複数の悪臭原因物質に対して、消臭容量が大きく、悪臭の再放出が起きにくい消臭ができ、複数の有害物質を無害化し、水和反応阻害物質を含む処理対象を骨材としたコンクリートを製造し、かつ、コストを低く抑えることが可能な消臭剤を提供する。
【解決手段】本発明の消臭剤は、3d遷移金属のハロゲン化物とアルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土金属類のハロゲン化物を含有する水溶液からなる組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明の消臭剤は、3d遷移金属のハロゲン化物とアルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土金属類のハロゲン化物を含有する水溶液からなる組成物である。
【請求項2】
3d遷移金属のハロゲン化物とアルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土金属類のハロゲン化物の其々の群より1種類以上を含有することが好ましいが、アルカリ金属のハロゲン化物の群を含有しない場合も消臭および無害化の効果が得られ、同様に、アルカリ土金属類のハロゲン化物の群を含有しない場合も消臭および無害化の効果が得られる。
【請求項3】
3d遷移金属のハロゲン化物とアルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土金属類のハロゲン化物は電離度が高い塩化物や臭化物が好ましいが、溶液中で完全に電解する強電解質であれば消臭および無害化の効果が得られる。よって、水溶液中で電離するものであれば特に限定されるものではなく、種々のものが使用可能である。
【請求項4】
消臭および無害化やセメント固化を行うために、目的と処理対象に合わせて3d遷移金属のハロゲン化物とアルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土金属類のハロゲン化物より5種類以上を選択して適切な配合量を決定し混合することで、安価で満足できる処理結果を得られる本発明の消臭剤を製造できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭成分として知られる硫黄系(硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、ニ硫化メチルなど)、窒素系(アンモニア、トリメチルアミンなど)、低級脂肪酸(イソ吉草酸、ノルマル酪酸など)などに由来する悪臭を低減し消臭する。尚且つ、公害の原因となる有害物質である各種重金属類やエチレン類を初めとする化学物質などを無害化し、水和反応阻害物質を含む処理対象をセメント固化して無害化の効果を、より確実に恒久的にする、消臭剤の水溶液の組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消臭はそのメカニズムにより、化学的消臭法、物理的消臭法、生物的消臭法、感覚的消臭法の4種類に大別され、本発明は化学的消臭法に属する。
【0003】
化学的消臭法は、悪臭原因物質の成分を消臭剤の成分と化学反応させ、無臭の成分にしてしまう方法で、選択性の高い消臭(狙った悪臭原因物質に的を絞った消臭)が可能であり、消臭容量(吸着容量)が比較的大きく、悪臭原因物質の再放出が非常に起きにくい事が利点とされるが、一つの消臭剤で、複数の悪臭原因物質(特に極性の異なるもの)の消臭を同時に行うことが比較的困難であることが難点である。
【0004】
物理的消臭法は、悪臭原因物質の成分を抑え込んだり、包み込んだりしてしまう物質を用いる消臭法で、悪臭成分を抑え込んだり、包み込んだりして、臭いを発生させないようにする方法である。そのタイプによって吸着、包摂といった種類がある。一つの消臭剤で、複数の悪臭原因物質の消臭を同時に行うことが、比較的容易である事が利点であるとされるが、選択性の高い消臭(狙った悪臭原因物質に的を絞った消臭)が比較的困難で、消臭容量(吸着容量)が比較的小さく、悪臭原因物質の再放出が起き易いのが難点である。
【0005】
生物的消臭法は、生ゴミなどのバクテリアの繁殖による悪臭を消す方で、抗菌剤などを用いて繁殖を抑止する方法や、微生物を用いてバクテリアを分解してしまう方法などがある。主に、有機物に由来する悪臭成分を対象とする消臭に使用される。消臭容量が比較的小さいのが難点である。
【0006】
感覚的消臭法は、悪臭を芳香成分で包み込んでしまう方法や、芳香成分を強くして悪臭をごまかしてしまうマスキングという方法と、悪臭の元となる化学成分を良い香りの元となる構成成分に取り込んでしまうペアリングという方法がある。効果が高いのは後者である。有害な悪臭原因物質の除去による消臭という観点から見た場合の効果を得ることは出来ないのが難点である。
【0007】
一般的な無害化処理は有害物質(重金属や化学物質など)を含有する処理対象から有害物質を分離して回収する方法が主で、複数の有害物質を同時に分離して回収し無害化することが困難である。また、プラントなども専用の設備が必要なものも多く、イニシャルコストやランニングコストが大きいという問題がある。
【0008】
処理対象となる土砂、汚泥、焼却灰などは、セメントが固化する際の水和反応を阻害する物質を含むことが一般的に知られている。セメント固化(水和反応)の阻害物質の主なものは「ブドウ糖」「果糖」「乳糖」「グリコーゲン」「マンニット」「リグニンスルホン酸カルシウム」「タンニン酸」「フミン酸」「グリコール酸」「酒石酸」「クエン酸」「リンゴ酸」などで、自然環境に普通に存在する物質である。これら、セメント固化(水和反応)の阻害物質を含む土砂、汚泥、焼却灰などは、コンクリートの材料(骨材)として適さないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-145859号公開
【特許文献2】特開2002-85537号公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の消臭方法では、複数の悪臭原因物質に対して同時に消臭を行うこと、消臭容量が大きいこと、悪臭原因物質の再放出が起きにくいことを、単独の消臭剤で、全て満足することが困難である。
【0011】
上記の無害化処理は複数の有害物質を同時に無害化することが困難である。また、プラントなども専用の設備が必要なものも多く、イニシャルコストやランニングコストが比較的大きい。
【0012】
無害化の処理対象となる、セメント固化(水和反応)を阻害する物質を含む土砂、汚泥、焼却灰などはコンクリートを製造する材料(骨材)として適さないとされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の、消臭剤を消臭に使用する事で、複数の悪臭原因物質を同時に消臭できる。また、消臭容量が大きく、悪臭原因物質の再放出が非常に起きにくい消臭を行うことができる。
【0014】
本発明の、消臭剤を、有害物質を含む処理対象に添加し撹拌混合することで、消臭剤と有害物質の化学反応により不溶物を形成することで水中への溶出を防止し、無害化することが出来る。
【0015】
本発明の、消臭剤を、セメントが固化する際の水和反応の阻害物質を含む処理対象に添加し撹拌混合することで、消臭剤と水和反応阻害物質の化学反応により、水和反応阻害物質の働きを抑制し、コンクリートを製造する材料(骨材)として適さない処理対象を材料(骨材)にしたコンクリート製品を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
窒素系悪臭成分であるアンモニア(NH3)は3d遷移金属イオン(M2+)と反応して、アンミン錯体[M(NH3)6] 2+又は[M(NH3)6] 3+を形成することで除去され消臭される。同様にトリメチルアミン(TMA)についても3d遷移金属イオン(M2+)と反応し金属錯体[M(TMA)m(H2O)n] 2+を形成することで除去され消臭される。
【0017】
硫黄系悪臭成分である硫化水素(H2S)は3d遷移金属イオン(M2+)と反応しMSとして難溶性の硫化物を形成し安定化することで除去される。また、ポリスルフィドが金属イオン(M)と、M2
1SnまたはM2Sn(n=2~6)を形成する。あるいは、さらにこれらが最終的にH2Sにまで分解されて3d遷移金属イオンと難溶性の硫化物を形成することにより除去され消臭される。メチルメルカプタン(MMS)は金属イオン(M2+)と反応しM(SR)2として安定化することで除去され消臭される。その他の硫化メチルや二硫化メチルはメチルメルカプタンや硫化水素と同様に安定化して除去され消臭される。
【0018】
低級脂肪酸系悪臭成分であるイソ吉草酸(CH3)2CHCH2CO2Hやノルマル酪酸CH3(CH2)2COOHなどは含有金属イオンと塩または錯塩を形成しM(RCCO)2となり安定化して除去され消臭される。
【0019】
時 間 風 レベル 臭気指数
14:50 西の風2m 56 28
14:55 西の風2m 45 26
15:00 西の風2m 33 23
15:05 西の風2m 20 14
15:10 西の風2m 18 13
15:15 西の風3m 21 15
15:20 西の風3m 20 14
【0020】
上記の表は、800m2の牛舎で、本発明の消臭剤の2.5%溶液20Lを10分間、霧状に散布して敷地境界で臭気を測定した結果の一例である。この測定結果より、散布開始時の臭気指数は28だったが、15分後に臭気指数は14まで下がり、その後、消臭効果が継続していることが判る。この結果より本発明の消臭剤の消臭効果を確認することができた。
【0021】
本発明の消臭剤と有害物質が化学反応することで不溶性の化合物を形成し水中への溶出を防止することで無害化する。本発明の消臭剤は、無機系固化剤としても作用し汚水中の微粒懸濁質の界面電荷を中和し、凝集を促進すると同時に、汚水中の有機酸、多糖類などと錯塩形成し沈殿させる効果がある。併せて溶存するアンモニウムイオンや硫化イオンガスを無臭の硫化石灰として沈殿させるので消臭効果もある。同時に、汚泥中の水和反応阻害要因の除去にもつながり、これらの汚泥は比較的セメント固化しやすい特徴を有する。河川や沼などの底泥や下水道汚泥など、有害物質の含有量が比較的少ないものであっても、これらはセメントなどの固化材による物理的安定化と併せて化学的な有害重金属イオンの除去による無害化の効果が必要である。通常、セメント系固化材は水と反応(水和反応)して水和物を形成する場合にCa(OH)2は解離によって水とOH-イオンになって溶液のpHはアルカリ性を呈する。Ca(OH)2は水に対する溶解度が極めて低く常温(20℃)では純水100gに対して0.16g溶解する。この時のpH=12.6で温度が低下すると溶解度が増大する。このように溶相がアルカリ性を呈する場合には多くの金属イオン[M+]は、M++OH-→MOHの反応により、水酸化物を生成して沈殿する。水酸化イオンは一般に溶解度が低いため溶相中の金属イオン濃度は大幅に減少して無害化、または、有害化の大幅な低減となる。水酸化物となし得るpH領域 5.6~12.6で、重金属イオン(Zn2+、Cd2+、Cu2+、Mn2+、Cr2+、Fe2+、Ni2+、Pb2+、Ba2+、Hg2+、As2+)の除去効率は90%以上である。重金属化合物としてはCdCl2・21/2H2O、3CdSO4・8H2O、CdS、PbCl2、PbSO4、PbO、PbS、ZnCl2、ZnSO4・7H2O、ZnO、ZnS、CuSO4・5H2O、CrO3などが挙げられる。但し、Cr6+ の除去効率は10%~30%と低い、クロムはアルカリ領域ではCrO4
2-という錯体を形成し、陰イオンとして挙動するため、CrO4で溶出するためである。Cr3+は陽イオンとしてCr(OH)3を形成する。汚泥や低泥中のリン分(P)の固定効果も期待できる。リン酸塩類は有機無機を問わず時間の経過と共に正リン酸塩になる。正リン酸塩とアルカリ金属との化合物は、MHPO4、MH2PO4、MPO4を形成し、これらは、水に難溶性であるため低泥中で安定し固定される。底泥中に含まれるリン酸塩H2PO4
-には可溶性塩が含まれるが、カルシウムヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH)となって溶融し、団が湖水中に溶出する事はない。
【0022】
名称 溶 出 液 中 の 濃 度
原 泥(mg/kg) 処理後(mg/L)
As 20.0 0.1未満
Cr 55.3 0.05未満
Cu 327.0 1.29
Ni 35.7 0.433
Pb 71.4 0.1未満
Zn 946.0 0.05未満
Cd 10.0 0.05未満
【0023】
上記の表は、河川汚泥に本発明の消臭剤を重量比で3%添加して消臭と同時に無害化した後、セメント固化して28日間湿空養生したコンクリートと原泥に対して、環境庁告示13号に準拠した溶出試験を行い有害重金属濃度を測定した結果の一例である。この測定結果より、表に示す有害重金属の溶出が低減され基準値以下になることが確認できた。他にもMn、Hg、Feなどの重金属類を無害化できることが溶出試験により確認されている。
【0024】
一般的に知られているセメント固化(水和反応)を阻害する物質の主なものは「ブドウ糖」「果糖」「乳糖」「グリコーゲン」「マンニット」「リグニンスルホン酸カルシウム」「タンニン酸」「フミン酸」「グリコール酸」「酒石酸」「クエン酸」「リンゴ酸」などで、自然環境に普通に存在する物質である。本発明の消臭剤は、セメントが固化する際の水和反応を阻害する物質の働きを抑制することによって、水和反応阻害物質を含む土砂、汚泥、焼却灰などのコンクリートの材料として適さないとされてきた材料を骨材としたコンクリートを製造することができる。
【0025】
名称 7日圧縮強度(N/mm
2
)28日圧縮強度(N/mm
2
) 骨材:セメント:水
無処理 7.5 15.7 8:2:1
処理1 23.8 29.8 8:2:1
処理2 14.5 18.4 8:1.5:1
処理3 8.9 11.2 8:1:1
【0026】
上記の表は、河川汚泥に本発明の消臭剤を3%添加して製造したコンクリートの圧縮強度を測定した結果の一例である。この測定結果より、本発明の消臭剤を添加して、有害物質や水和反応阻害物質を含む、河川汚泥をコンクリートの材料(骨材)として製造したコンクリートは、一般的なコンクリートと同等の強度を有し、初期強度の発現が早いことが判る。同様の結果が他の圧縮強度試験でも得られていることから、コンクリートの材料として不向きとされてきた有害物質や水和反応阻害物質を含む汚泥(下水汚泥、河川汚泥など)や焼却灰、土砂(汚染土壌)をコンクリートの材料(骨材)として再利用する事が可能であり、環境汚染の対策としても有効であると考えられる。また、無害化処理を行った後に、無害化の効果を、より確実に恒久的にするためにセメント固化を行うことが好ましい。