(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054659
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240410BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20240410BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240410BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/38
F16C33/58
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161037
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 晴美
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA53
3J701BA57
3J701BA69
3J701FA15
3J701FA38
3J701FA53
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】軸方向寸法を縮めることができ、又は、軸方向寸法を変えない場合にはより長い円すいころを使用することで負荷容量を向上できる、ハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】アウトボード側保持器の複数のポケット部は、複数の円すいころがアウトボード側保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有する。インボード側保持器の複数のポケット部は、複数の円すいころがインボード側保持器の径方向外側に抜け出るのを防止する形状を有する。ハブ輪の外周面は、複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられない。内輪は、複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられる。小鍔部の径方向外側に、アウトボード側保持器の小径環状部が配置される。アウトボード側保持器の小径環状部の径方向外側に、インボード側保持器の小径環状部が配置される
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有すると共に、アウトボード側に車輪を支持固定する為の回転側フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、
アウトボード側列の前記複数の円すいころを転動自在に保持するアウトボード側保持器と、
インボード側列の前記複数の円すいころを転動自在に保持するインボード側保持器と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記ハブは、
アウトボード側からインボード側に向かう順で、前記回転側フランジと、アウトボード側列の前記内輪軌道と、小径段部と、を少なくとも有するハブ輪と、
インボード側列の前記内輪軌道を有し、アウトボード側端面を前記小径段部の段差面に突き当てた状態で前記小径段部の外周面に外嵌し、前記ハブ輪に固定される内輪と、
を備え、
前記アウトボード側保持器及び前記インボード側保持器はそれぞれ、大径環状部と、小径環状部と、前記大径環状部と前記小径環状部とを軸方向に連結する複数の柱部と、前記大径環状部と前記小径環状部と周方向に隣り合う前記柱部とによって画成され、前記円すいころを保持する複数のポケット部と、を有し、
前記アウトボード側保持器の前記複数のポケット部は、前記複数の円すいころが前記アウトボード側保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記インボード側保持器の前記複数のポケット部は、前記複数の円すいころが前記インボード側保持器の径方向外側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記ハブ輪の外周面は、前記複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられず、
前記内輪は、前記複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられ、
前記小鍔部の径方向外側に、前記アウトボード側保持器の前記小径環状部が配置され、
前記アウトボード側保持器の前記小径環状部の径方向外側に、前記インボード側保持器の前記小径環状部が配置される
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記内輪の前記小鍔部と、前記アウトボード側保持器の前記小径環状部と、前記インボード側保持器の前記小径環状部と、は互いの軸方向位置が重なり合うように配置される、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記内輪の前記小鍔部は、前記複列の円すいころの尾部とそれぞれ当接可能な当接面を径方向外側の軸方向両側面に持つ、
請求項1又は2に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記複列の円すいころの尾部と、前記小鍔部の前記当接面と、の隙間は、アウトボード側列での隙間Δ2>インボード側列での隙間Δ1である、
請求項3に記載のハブユニット軸受。
【請求項5】
前記小鍔部のアウトボード側の前記当接面の傾きθaは、前記円すいころの前記尾部の端面の傾きθb以上である
請求項3に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
小型トラックや大型乗用車等、比較的重量が嵩む自動車のハブユニット軸受では、従来、転動体として円すいころを複列で備えるものが使用されている。
【0003】
また、ハブユニット軸受としては、内輪軌道をそれぞれ有する一対の内輪がハブに組み込まれる、いわゆる第一世代や第二世代のハブユニット軸受のほか、近年、部品点数を減らし、コストの低減を図ることなどを目的として、片側の内輪軌道をハブ輪の外周面に直接形成した、いわゆる第三世代と呼ばれるハブユニット軸受が使用されている。
【0004】
特許文献1には、転動体として円すいころを用いた第三世代のハブユニット軸受が開示されている。以下、第三世代のハブユニット軸受をHUB3と呼ぶことがある。特許文献1のような円すいころ軸受タイプのHUB3は、ころ軸受タイプであるため、玉軸受タイプのHUB3に比べて負荷容量が大きい割に断面高さが低いが、軸方向寸法は大きくなりやすく、ホイール軸受を設置可能な空間内に収まりにくい。
【0005】
円すいころ軸受タイプのHUB3の軸方向寸法を狭めようとする場合、列間距離を縮める必要がある。ここで、特許文献1のHUB3の場合、両列の保持器ともに、円すいころが径方向外側に抜け出るのを防止する形状を備えた内抱え保持器である。したがって、特許文献1のHUB3の軸方向寸法を狭めようとすると、両列の保持器の小径環環状部同士が干渉してしまうので、その分、軸方向寸法が狭められない。
【0006】
特許文献2には、保持器の干渉を避けるため、両列の保持器の小径側環状部を径方向にずらした例が開示されている。しかしながら、内輪に小鍔が形成されるので、当該小鍔と保持器との干渉を防ぎつつ軸方向寸法を狭めようとしても限度がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-001327号公報
【特許文献2】特開2007-333023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、軸方向寸法を縮めることができ、又は、軸方向寸法を変えない場合にはより長い円すいころを使用することで負荷容量を向上できる、ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0010】
(1) 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有すると共に、アウトボード側に車輪を支持固定する為の回転側フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、
アウトボード側列の前記複数の円すいころを転動自在に保持するアウトボード側保持器と、
インボード側列の前記複数の円すいころを転動自在に保持するインボード側保持器と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記ハブは、
アウトボード側からインボード側に向かう順で、前記回転側フランジと、アウトボード側列の前記内輪軌道と、小径段部と、を少なくとも有するハブ輪と、
インボード側列の前記内輪軌道を有し、アウトボード側端面を前記小径段部の段差面に突き当てた状態で前記小径段部の外周面に外嵌し、前記ハブ輪に固定される内輪と、
を備え、
前記アウトボード側保持器及び前記インボード側保持器はそれぞれ、大径環状部と、小径環状部と、前記大径環状部と前記小径環状部とを軸方向に連結する複数の柱部と、前記大径環状部と前記小径環状部と周方向に隣り合う前記柱部とによって画成され、前記円すいころを保持する複数のポケット部と、を有し、
前記アウトボード側保持器の前記複数のポケット部は、前記複数の円すいころが前記アウトボード側保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記インボード側保持器の前記複数のポケット部は、前記複数の円すいころが前記インボード側保持器の径方向外側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記ハブ輪の外周面は、前記複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられず、
前記内輪は、前記複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられ、
前記小鍔部の径方向外側に、前記アウトボード側保持器の前記小径環状部が配置され、
前記アウトボード側保持器の前記小径環状部の径方向外側に、前記インボード側保持器の前記小径環状部が配置される
ハブユニット軸受。
(2) 前記内輪の前記小鍔部と、前記アウトボード側保持器の前記小径環状部と、前記インボード側保持器の前記小径環状部と、は互いの軸方向位置が重なり合うように配置される、
(1)に記載のハブユニット軸受。
(3) 前記内輪の前記小鍔部は、前記複列の円すいころの尾部とそれぞれ当接可能な当接面を径方向外側の軸方向両側面に持つ、
(1)又は(2)に記載のハブユニット軸受。
(4) 前記複列の円すいころの尾部と、前記小鍔部の前記当接面と、の隙間は、アウトボード側列での隙間Δ2>インボード側列での隙間Δ1である、
(3)に記載のハブユニット軸受。
(5) 前記小鍔部のアウトボード側の前記当接面の傾きθaは、前記円すいころの前記尾部の端面の傾きθb以上である
(3)に記載のハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軸方向寸法を縮めることができ、又は、軸方向寸法を変えない場合にはより長い円すいころを使用することで負荷容量を向上できる、ハブユニット軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係るハブユニット軸受の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第二実施形態に係るハブユニット軸受の要部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、外輪と、アウトボード側列の複数の円すいころと、アウトボード側保持器と、アウトボード側の密封部材と、の組立体を、ハブ輪に対して挿入する工程を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、内輪と、インボード側列の複数の円すいころと、インボード側保持器と、の組立体を、ハブ輪に対して軸方向に挿入する工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るハブユニット軸受1の断面図である。
【0014】
なお、本明細書において、「インボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受1の車体側を表し、
図1中の右側である。「アウトボード側」とは、車体に取り付けた際のハブユニット軸受1の車輪側を表し、
図1中の左側である。「軸方向」とは、ハブユニット軸受1の回転軸Oが延びる方向を表し、
図1中の左右方向である。「径方向外側」とは、回転軸Oから遠ざかる方向を表す。「径方向内側」とは、回転軸Oに近づく方向を表す。「周方向」とは、回転軸Oを中心に旋回する方向を表す。
【0015】
本実施形態のハブユニット軸受1は、駆動輪用であり、外輪2と、ハブ3と、複数の円すいころ4,4と、一対の密封部材5,5と、を主に備える。
【0016】
外輪2は、外周面に形成された静止側フランジ7と、内周面に形成された複列(2列)の外輪軌道8a、8bと、を有している。外輪2は、使用時に、静止側フランジ7を、懸架装置のナックルに結合固定する事により、この懸架装置に支持された状態で回転しない。
【0017】
ハブ3は、ハブ輪9と内輪10とにより構成されており、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸(同芯)に配置されている。ハブ3は、複列の内輪軌道12a,12bと、複列の内輪軌道12a,12bの軸方向両側に設けられた一対の大鍔部14a、14bと、を有する。ハブ3の外周面には、より詳細には内輪10の外周面には、複列の内輪軌道12a,12bの軸方向における間において、小鍔部15が設けられる。
【0018】
ハブ輪9には、外輪2のアウトボード側の開口からアウトボード側に突出した部分に、径方向外側に延出して、車輪(駆動輪)及びディスクロータ等の制動用回転部材を支持固定するための円輪状の回転側フランジ11が設けられている。回転側フランジ11には複数の挿通孔11aが設けられ、各挿通孔11aが雌ねじの場合には、それぞれ図示しないハブボルトが螺合されており、各挿通孔11aが円筒孔の場合には、スタッドボルトがセレーション嵌合されている。
【0019】
また、ハブ輪9の外周面には、外輪2の内周面に設けられたアウトボード側列の外輪軌道8aと対向する部分に、アウトボード側列の内輪軌道12aが設けられている。さらに、ハブ輪9の外周面のうち、外輪2の内周面に設けられたインボード側列の外輪軌道8bと対向するインボード側端部には、小径段部13が設けられている。したがって、ハブ輪9は、アウトボード側からインボード側に向かう順で、回転側フランジ11と、アウトボード側列の内輪軌道12aと、小径段部13と、を少なくとも有する。
【0020】
内輪10の外周面には、インボード側列の内輪軌道12bが設けられている。内輪10は、そのアウトボード側端面10aを小径段部13の段差面13aに突き当てた状態で、ハブ輪9の小径段部13の外周面に締め代を持って圧入により外嵌され、ハブ輪9に固定されている。
【0021】
ハブ輪9の中心部には、軸方向に貫通したスプライン孔17が形成されている。スプライン孔17には、図示しないが、ハブユニット軸受を車体に組み付ける際に、等速ジョイントに結合したスプライン軸が係合され、ナットを螺合することでハブ3に固定される。その際、内輪10のインボード側端面10bには、図示しない等速ジョイントの端面、又は図示しない駆動軸の端部に形成した段部等が突き当たり、内輪10のアウトボード側端面10aが小径段部13の段差面13aと当接することで、上述したように、内輪10が、ハブ輪9に軸方向に位置決め固定される。したがって、内輪10のインボード側端面10bは、ハブ輪9のインボード側端面9bよりインボード側に位置しており、内輪10はハブ輪9に加締められていない。
【0022】
一対の密封部材5,5は、外輪2のアウトボード側端部とハブ輪9の軸方向中間部との間、及び外輪2のインボード側端部と内輪10の大鍔部14bとの間に配置された状態で、複数の円すいころ4、4が設けられた内部空間を塞いでいる。
【0023】
円すいころ4,4は、アウトボード側列の外輪軌道8aと内輪軌道12aとの間部分、及び、インボード側列の外輪軌道8bと内輪軌道12bとの間部分に、それぞれ複数ずつ、転動自在に設けられている。各列の円すいころ4,4は、これらの尾部4a,4aが軸方向に向かい合うようにして配置されている。
【0024】
アウトボード側列の複数の円すいころ4は、アウトボード側保持器20によって転動自在に保持され、インボード側列の複数の円すいころ4は、インボード側保持器30によって転動自在に保持される。
【0025】
アウトボード側保持器20及びインボード側保持器30はそれぞれ、円すいころ4の頭部4b側に配置される大径環状部21,31と、円すいころ4の尾部4a側に配置される小径環状部23,33と、大径環状部21,31と小径環状部23,33とを軸方向に連結する複数の柱部25,35と、大径環状部21,31と小径環状部23,33と周方向に隣り合う柱部25,35とによって画成され、円すいころ4を保持する複数のポケット部27,37と、を有する。
【0026】
アウトボード側保持器20は、いわゆる外抱え保持器であり、その複数のポケット部27は、複数の円すいころ4がアウトボード側保持器20の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有する。このために、各ポケット部27の周方向両側を仕切る柱部25を、円錐ころ4のピッチ円直径よりも径方向内側に位置させている。
【0027】
インボード側保持器30は、いわゆる内抱え保持器であり、その複数のポケット部37は、複数の円すいころ4がインボード側保持器30の径方向外側に抜け出るのを防止する形状を有する。このために、各ポケット部37の周方向両側を仕切る柱部35を、円錐ころ4のピッチ円直径よりも径方向外側に位置させている。
【0028】
このように、アウトボード側保持器20の柱部25や当該柱部25の軸方向両側に連結する大径環状部21及び小径環状部23は、インボード側保持器30の柱部35や当該柱部35の軸方向両側に連結する大径環状部31及び小径環状部33よりも小径であり、これらよりも径方向内側に配置される。
【0029】
ハブ輪9の外周面は、複列の内輪軌道12a,12bの軸方向における間の部分には、すなわち内輪軌道12aのインボード側には、小鍔部が設けられず、内輪軌道12aから連続する延長部9aとされる。ハブ輪9には小鍔部が設けられていない理由は、外輪2と、アウトボード側列の円すいころ4と、アウトボード側保持器20と、アウトボード側の密封部材5と、の組立体を、ハブ輪9に対して軸方向にスムーズに挿入するためである。
【0030】
図3は、外輪2と、アウトボード側列の複数の円すいころ4と、アウトボード側保持器20と、アウトボード側の密封部材5と、の組立体を、ハブ輪9に対して挿入する工程を説明するための断面図である。
図3に示すように、アウトボード側保持器20は外抱え保持器であるので、複数の円すいころ4はアウトボード側列の外輪軌道8aに保持される。この状態で、上記組立体は、ハブ輪9に対して軸方向に挿入される。
【0031】
これに対して、内輪10の外周面には、複列の内輪軌道12a,12bの軸方向における間には、すなわち内輪10の内輪軌道12bのアウトボード側には、小鍔部15が設けられる。
【0032】
図4は、内輪10と、インボード側列の複数の円すいころ4と、インボード側保持器30と、の組立体(いわゆるコーン)を、ハブ輪9に対して軸方向に挿入する工程を説明するための断面図である。
図4に示すようにインボード側保持器30は内抱え保持器であるので、円すいころ4は内輪10の内輪軌道12bに保持される。これにより、内輪10と、インボード側列の複数の円すいころ4と、インボード側保持器30と、の組立体(いわゆるコーン)が形成可能とされている。この組立体は、ハブ輪9に対して軸方向に挿入され、小径段部13に外嵌固定される。
【0033】
その後、図示しないが、インボード側の密封部材5を外輪2の内周面及び内輪19の外周面に嵌合固定することで、ハブユニット軸受1の組み立てが完了する。
【0034】
ここで、内輪10の小鍔部15と、アウトボード側保持器20の小径環状部23と、インボード側保持器30の小径環状部33と、は互いの軸方向位置が重なり合うように配置される。すなわち、これら小鍔部15と小径環状部23と小径環状部33とは、互いに径方向に対向し合うように配置されており、回転軸Oに直交する仮想平面P上に配置される。これにより、仮想平面P上には、径方向内側から小鍔部15、小径環状部33、小径環状部23の順で配置される。
【0035】
このように、小鍔部15の径方向外側にアウトボード側保持器20の小径環状部23が配置され、アウトボード側保持器20の小径環状部23の径方向外側にインボード側保持器30の小径環状部33が配置されることにより、両列の円すいころ4,4の軸方向距離を縮め、ひいてはハブユニット軸受1の軸方向寸法を縮めることができる。また、ハブユニット軸受1の軸方向寸法を変えない場合には、より軸方向寸法の長い円すいころ4を使用することができるので、負荷容量を上げることができる。特に、小鍔部15と小径環状部23と小径環状部33とが、互いの軸方向位置が重なり合うように配置されるようにすれば、上記効果をさらに高めることができる。
【0036】
[第2実施形態]
図2は、本発明の第二実施形態に係るハブユニット軸受1の要部拡大断面図である。本実施形態のハブユニット軸受1は、内輪10の小鍔部15の構成が第1実施形態と異なり、それ以外の構成は第1実施形態と同一であるので、小鍔部15以外の説明は省略又は簡略化する。
【0037】
また、
図2にも示すように、内輪10の小鍔部15は、複列の円すいころ4,4の尾部4a,4aとそれぞれ当接可能な当接面15a,15bを、径方向外側の軸方向両側面に持つ。これにより、内輪10の小鍔部15は、インボード側列の円すいころ4のみならず、アウトボード側列の円すいころ4を支持する機能を有する。
【0038】
特に、本実施形態では、アウトボード側の当接面15aの傾きθaを円すいころ4の尾部4aの端面の傾きθb以上、即ち、円すいころ4の尾部4aの端面の傾きと同じか、大きく傾斜させている(θa≧θb)。これにより、円すいころ4がスキューして小鍔部15と接触したとしても、相対速度の大きい円すいころ4の尾部4aの中心側で小鍔部15と接触することを避け、スキューを増長させたり、焼付きに発展したりすることを防止している。
【0039】
なお、潤滑性(列間グリースの軌道面への引き込み)の観点から、アウトボード側の当接面15aの傾きθaは、円すいころ4の尾部4aの端面の傾きθbに対して15°以下でより大きく傾斜させることが好ましく、8°以上、12°以下で傾斜させることがより好ましい。
【0040】
なお、アウトボード側の当接面15aは、中心線平均粗さRaが0.2μm以下の研削面であることが好ましい。
【0041】
両列の円すいころ4,4は、熱処理後に尾部4a,4aに機械加工が施されており、実質的に同じ長さに設定されている。これにより、円すいころ4,4の長さを揃えることができ、円すいころ4,4の頭部4b,4b(
図1参照)が大鍔面に接触した状態で、円すいころ4,4の尾部4a,4aと小鍔部15の当接面15a,15bの隙間Δ1、Δ2、即ち、インボード側列での隙間Δ1及びアウトボード側列での隙間Δ2を小さくしている。
【0042】
具体的に、上記隙間Δ1、Δ2を0.15~0.30mmにすれば、円すいころ4を整列させるためのなじませ回転が少なくなり、起動トルクによる予圧測定が容易になり、車両運転中の荷重負荷の変化に伴う円すいころ4の再整列にも迅速に対応でき、剛性感が向上する。
【0043】
また、円すいころ4,4の尾部4a,4aと小鍔部15の当接面15a,15bとの隙間は、アウトボード側列での隙間Δ2>インボード側列での隙間Δ1とし、アウトボード側列のモーメント荷重変化の許容度を向上することができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のハブユニット軸受1では、内輪10の小鍔部15は、複列の円すいころ4,4の尾部4a,4aとそれぞれ当接可能な当接面15a,15bを径方向外側の軸方向両側面に持ち、小鍔部15のアウトボード側の当接面15aの傾きは、円すいころ4の尾部4aの端面の傾き以上であるので、スキューが発生した場合であっても、該スキューが増長されるのを抑制して、焼付きや小鍔部の破損を防止できる。
【0045】
以上説明したように、本明細書には以下の事項が開示されている。
(1) 内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有すると共に、アウトボード側に車輪を支持固定する為の回転側フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円すいころと、
アウトボード側列の前記複数の円すいころを転動自在に保持するアウトボード側保持器と、
インボード側列の前記複数の円すいころを転動自在に保持するインボード側保持器と、
を備えるハブユニット軸受であって、
前記ハブは、
アウトボード側からインボード側に向かう順で、前記回転側フランジと、アウトボード側列の前記内輪軌道と、小径段部と、を少なくとも有するハブ輪と、
インボード側列の前記内輪軌道を有し、アウトボード側端面を前記小径段部の段差面に突き当てた状態で前記小径段部の外周面に外嵌し、前記ハブ輪に固定される内輪と、
を備え、
前記アウトボード側保持器及び前記インボード側保持器はそれぞれ、大径環状部と、小径環状部と、前記大径環状部と前記小径環状部とを軸方向に連結する複数の柱部と、前記大径環状部と前記小径環状部と周方向に隣り合う前記柱部とによって画成され、前記円すいころを保持する複数のポケット部と、を有し、
前記アウトボード側保持器の前記複数のポケット部は、前記複数の円すいころが前記アウトボード側保持器の径方向内側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記インボード側保持器の前記複数のポケット部は、前記複数の円すいころが前記インボード側保持器の径方向外側に抜け出るのを防止する形状を有し、
前記ハブ輪の外周面は、前記複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられず、
前記内輪は、前記複列の内輪軌道の軸方向における間の部分に、小鍔部が設けられ、
前記小径部の径方向外側に、前記アウトボード側保持器の前記小径環状部が配置され、
前記アウトボード側保持器の前記小径環状部の径方向外側に、前記インボード側保持器の前記小径環状部が配置される
ハブユニット軸受。
(2) 前記内輪の前記小鍔部と、前記アウトボード側保持器の前記小径環状部と、前記インボード側保持器の前記小径環状部と、は互いの軸方向位置が重なり合うように配置される、
(1)に記載のハブユニット軸受
(3) 前記内輪の前記小鍔部は、前記複列の円すいころの尾部とそれぞれ当接可能な当接面を径方向外側の軸方向両側面に持つ、
(1)又は(2)に記載のハブユニット軸受。
(4) 前記複列の円すいころの尾部と、前記小鍔部の前記当接面と、の隙間は、アウトボード側列での隙間Δ2>インボード側列での隙間Δ1である、
(3)に記載のハブユニット軸受。
(5) 前記小鍔部のアウトボード側の前記当接面の傾きθaは、前記円すいころの前記尾部の端面の傾きθb以上である
(3)又は(4)に記載のハブユニット軸受。
【符号の説明】
【0046】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4 円すいころ
4a 尾部
4b 頭部
5 密封部材
7 静止側フランジ
8a,8b 外輪軌道
9 ハブ輪
9a 延長部
9b インボード側端面
10 内輪
10a アウトボード側端面
10b インボード側端面
11 回転側フランジ
11a 挿通孔
12a,12b内輪軌道
13 小径段部
13a 段差面
14a,14b 大鍔部
15 小鍔部
15a,15b 当接面
17 スプライン孔
20 アウトボード側保持器
21 大径環状部
23 小径環状部
25 柱部
27 ポケット部
30 インボード側保持器
31 大径環状部
33 小径環状部
35 柱部
37 ポケット部
O 回転軸
P 仮想平面