(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054665
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】多孔質体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/02 20060101AFI20240410BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240410BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
A61L27/02
A61L27/38
A61L27/56
A61L27/22
A61L27/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161044
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正弘
(72)【発明者】
【氏名】ハラ サトシ エミリオ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081BA12
4C081CA292
4C081CD112
4C081CD35
4C081CF011
4C081DB03
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】所望の形状に成形することのできる、細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化された微小石灰化球とバインダーとを含む多孔質体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて微小石灰化球を作製する工程と、前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を作製する工程と、前記多孔質組成物を用いて所望の形状の多孔質体に成形する工程とを有する多孔質体の製造方法である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて微小石灰化球を作製する工程と、
前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を作製する工程と、
前記多孔質組成物を用いて所望の形状の多孔質体に成形する工程とを有することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記微小石灰化球が、前記細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化されてなるものである、請求項1に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記細胞膜関連リン脂質が、細胞又は細胞膜から選択される少なくとも1種を破砕することにより得られるものである、請求項1又は2に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記バインダーが、細胞膜関連リン脂質、タンパク質、脂質、糖質及びこれらの複合体、並びに合成高分子からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項5】
微小石灰化球を含むA材とバインダーを含むB材とからなる多孔質組成物キットであって、
前記微小石灰化球が、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて作製されるものであり、
前記A材と前記B材とを混合して多孔質組成物を作製し、当該多孔質組成物を所望の形状の多孔質体に成形するように用いられる、多孔質組成物キット。
【請求項6】
微小石灰化球とバインダーとを含む多孔質体であって、
前記微小石灰化球が、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて作製されるものであり、
前記微小石灰化球が前記バインダーを介して三次元的に積層されることにより凹凸形状の構造壁を有する、多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の実現化に向けた研究が盛んになっている。特に、骨組織は他の組織と比較して実用化が早く進んでいる組織であり、様々な手法での骨再生が提案されている。
【0003】
具体的には、以下の方法、あるいはこれらを組み合わせた方法が提案されている。
(1)ハイドロキシアパタイトなどの生体親和性材料(バイオセラミックス)を使った方法。
(2)骨髄間葉系幹細胞、骨芽細胞、iPS細胞などの細胞を使った方法。
(3)塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や骨形成タンパク質(BMP)などの増殖因子またはペプチドを使った方法。
【0004】
しかしながら、例えば、ハイドロキシアパタイトなどの生体親和性材料を用いる方法では、生体に埋入した材料が生体組織に対して能動的に働くものではないため、組織再生に時間がかかるという問題が知られている。
【0005】
また、骨髄間葉系幹細胞、骨芽細胞、iPS細胞などの細胞を使った方法では、自己細胞を増殖して使用する必要があるため、必要量の細胞数を準備するために多大な時間とコストがかかるという問題がある。しかも、細胞移植を行うにあたり、当該細胞の質を管理することは重要であるものの、これらの管理の方法の標準化だけでなく、細胞移植に関する仕組みの整備も不十分である。
【0006】
増殖因子またはペプチドを使った方法は、厚生労働省による使用の認可が進められているものの、現時点においては骨組織増生を正確に制御できないという問題がある。また、製品価格も高く、さらなる改善が必要である。
【0007】
本発明者らは、このような現状において、生体内(マウス大腿骨骨端部)における初期石灰化部位の系統的解析により、細胞膜断片が骨形成の核となることを見出し、報告した(非特許文献1参照)。すなわち、細胞膜断片が骨再生材料となり得るのではないかと考えた。また、本発明者らは、細胞膜断片を生体外で石灰化した材料が骨再生材料として使用できることを見出し、特許出願を行った(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hara ES,et al.,ACS Biomater Sci Eng,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、細胞膜断片のみを骨再生材料として使用した場合、想定していた骨再生が生じないことがあった。また、特許文献1に記載の骨再生材料は粉末であるため、欠損部位に応じた成形性を付与できない場合があり、改善が求められていた。
【0011】
本発明者らは、このような現状に鑑みて再検討を行った結果、細胞膜関連リン脂質である細胞成分を生体外で石灰化した材料とバインダーとを含む多孔質組成物を作製し、当該多孔質組成物を用いることで、所望の形状の多孔質体を成形できることを見出し、本発明を成すに至ったものである。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、所望の形状に成形することのできる、細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化された微小石灰化球とバインダーとを含む多孔質体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて微小石灰化球を作製する工程と、前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を作製する工程と、前記多孔質組成物を用いて所望の形状の多孔質体に成形する工程とを有することを特徴とする多孔質体の製造方法を提供することによって解決される。
【0014】
このとき、前記微小石灰化球が、前記細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化されてなるものであることが好適であり、前記細胞膜関連リン脂質が、細胞又は細胞膜から選択される少なくとも1種を破砕することにより得られるものであることが好適である。前記バインダーが、細胞膜関連リン脂質、タンパク質、脂質、糖質及びこれらの複合体、並びに合成高分子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好適である。
【0015】
また、上記課題は、微小石灰化球を含むA材とバインダーを含むB材とからなる多孔質組成物キットであって、前記微小石灰化球が、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて作製されるものであり、前記A材と前記B材とを混合して多孔質組成物を作製し、当該多孔質組成物を所望の形状の多孔質体に成形するように用いられる、多孔質組成物キットを提供することによっても解決される。
【0016】
さらに、上記課題は、微小石灰化球とバインダーとを含む多孔質体であって、前記微小石灰化球が、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて作製されるものであり、前記微小石灰化球が前記バインダーを介して三次元的に積層されることにより凹凸形状の構造壁を有する、多孔質体を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、所望の形状に成形することのできる、細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化された微小石灰化球とバインダーとを含む多孔質体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】細胞膜断片の作製フローと石灰化小球の作製フローを示した図である。
【
図2】実施例1で得られた細胞膜断片のSEM写真である。
【
図3】異なる塩化カルシウム濃度で得られた沈殿物の光学顕微鏡写真(A)と、沈殿物の直径を示したグラフ(B)である。
【
図4】異なる塩化カルシウム濃度で得られた沈殿物のXRDパターンを示した図である。
【
図5】異なるpHで得られた沈殿物の光学顕微鏡写真(C)と、沈殿物の直径を示したグラフ(D)である。
【
図6】実施例2で得られた微小石灰化球の光学顕微鏡写真(左)とSEM写真(右)である。
【
図7】比較例3で得られた粉末の微小石灰化球の光学顕微鏡写真(左)と実施例2で得られた多孔質体の光学顕微鏡写真(右)である。
【
図8】実施例2で得られた多孔質体のSEM写真である。
【
図9】バインダーとして細胞膜断片を用いた場合の接着強度を示したグラフである。
【
図10】バインダーとしてゼラチンを用いた場合の接着強度を示したグラフである。
【
図11】バインダーとしてコラーゲンを用いた場合の接着強度を示したグラフである。
【
図12】バインダーとしてアルギン酸ナトリウムを用いた場合の接着強度を示したグラフである。
【
図13】バインダーとしてオレイン酸ナトリウムを用いた場合の接着強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて微小石灰化球を作製する工程と、前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を作製する工程と、前記多孔質組成物を用いて所望の形状の多孔質体に成形する工程とを有する多孔質体の製造方法である。
【0020】
後述する実施例から分かるように、細胞膜関連リン脂質に対し、塩化カルシウムを加えなかった比較例1では微小石灰化球の形成が確認できず、pHを7に調整して石灰化反応させた比較例2では微小石灰化球の形成が確認できなかった。また、石灰化させていない細胞膜断片をバインダーとして使用しなかった比較例3では、多孔質体とはならず粉末の微小石灰化球となった。これに対し、細胞膜関連リン脂質に対し、カルシウム化合物の最終濃度とpHを特定の範囲に調整して石灰化反応させて微小石灰化球を作製し、前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を用いることにより、所望の形状の多孔質体に成形できることが本発明者らの検討により明らかとなった。このように、ボトムアップ作製により所望の形状の多孔質体を得ることができるため、本発明の意義は大きい。
【0021】
本発明における細胞膜関連リン脂質としては、細胞小器官由来又は細胞膜由来から選択される少なくとも1種のリン脂質が好適に使用される。細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化反応を進行させて微小石灰化球を作製する観点から、細胞膜関連リン脂質としては、細胞又は細胞膜から選択される少なくとも1種を破砕することにより得られるものであることが好適な実施態様である。
【0022】
本発明は、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて微小石灰化球を作製する工程を有するものである。本発明における微小石灰化球としては、前記細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化されてなるものであることが好適な実施態様である。
【0023】
前記カルシウム化合物の最終濃度が5mmol/L未満の場合、微小石灰化球の形成が困難となり、5mmol/L以上であることが好ましく、10mmol/L以上であることがより好ましく、20mmol/L以上であることが特に好ましい。一方、前記カルシウム化合物の最終濃度が50mmol/Lを超える場合、微小石灰化球を得ることができるがハイドロキシアパタイトの形成が困難となり、50mmol/L以下であることが好ましく、40mmol/L以下であることがより好ましく、35mmol/L以下であることがさらに好ましく、30mmol/L以下であることが特に好ましい。
【0024】
本発明で用いられるカルシウム化合物としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸二カルシウム、及びケイ酸三カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。
【0025】
本発明において、石灰化反応させる際の前記pHが7.0以下の場合、微小石灰化球の形成が困難となり、前記pHは7.5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、9以上であることが特に好ましい。一方、石灰化反応させる際の前記pHが11を超える場合、取扱性が困難であり、pHは10以下であることが好ましい。
【0026】
前記石灰化反応により微小石灰化球を作製することができる。得られる微小石灰化球の直径としては、0.2~20μmであることが好ましく、0.2~10μmであることがより好ましい。
【0027】
次いで、本発明は、前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を作製する工程を行う。本発明で用いられるバインダーとしては、前記微小石灰化球が三次元的に積層される程度に接着性を有するものであれば特に限定されず、前記細胞膜関連リン脂質、タンパク質、脂質、糖質及びこれらの複合体、並びに合成高分子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記タンパク質としては、コラーゲン、ゼラチン、牛血清アルブミン(BSA)、アルブミン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、グロブリン、エラスチン、カゼイン、及びフィブリンからなる群から選択される少なくとも1種を好適に使用することができる。前記脂質としては、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、リノレン酸、及びステアリン酸からなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸又はそれらの塩を好適に使用することができる。前記糖質としては、果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、デキストリン、ヒアルロン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、グアーガム、寒天、マンナン、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、デンプン、プルラン、及びセルロースからなる群から選択される少なくとも1種又はそれらの誘導体を好適に使用することができる。前記合成高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種又はそれらの誘導体を好適に使用することができる。
【0028】
前記微小石灰化球とバインダーを含む多孔質組成物を作製する工程は、前記微小石灰化球を含むA材とバインダーを含むB剤とを混合することにより好適に行われる。前記A材と前記B材は、それぞれ乾燥物であっても凍結乾燥物であっても水等の溶媒を含んでいてもよく、必要に応じて適宜調製することが可能である。すなわち、本発明により、前記微小石灰化球を含むA材と前記バインダーを含むB材とからなる多孔質組成物キットであって、前記A材と前記B材とを混合して多孔質組成物を作製し、当該多孔質組成物を所望の形状の多孔質体に成形するように用いられる、多孔質組成物キットを好適に提供することができる。このとき、前記微小石灰化球が、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて作製されるものであることが好適である。また、前記微小石灰化球が、前記細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化されてなるものであることも好適である。
【0029】
前記微小石灰化球を含むA材と前記バインダーを含むB材の配合割合としては、前記A材100質量部に対して、前記B材を1~80質量部配合することが好ましく、5~60質量部配合することがより好ましく、10~50質量部配合することがさらに好ましい。前記バインダーの種類や配合割合を変更することにより、得られる多孔質組成物の物性を制御することが可能である。
【0030】
次いで、本発明は、前記多孔質組成物を用いて所望の形状の多孔質体に成形する工程を有する。これにより、前記微小石灰化球が前記バインダーを介して三次元的に積層されることにより凹凸形状の構造壁を有する、多孔質体を得ることができる。すなわち、本発明により、微小石灰化球とバインダーとを含む多孔質体であって、前記微小石灰化球が前記バインダーを介して三次元的に積層されることにより凹凸形状の構造壁を有する、多孔質体を提供することができる。このとき、前記微小石灰化球が、細胞膜関連リン脂質に対し、最終濃度が5~50mmol/Lとなるようにカルシウム化合物を加え、pHを7.5~11に維持することにより石灰化反応させて作製されるものであることが好適である。また、前記微小石灰化球が、前記細胞膜関連リン脂質を起点として石灰化されてなるものであることも好適である。前記微小石灰化球が前記バインダーを介して三次元的に積層されるとは、前記微小石灰化球同士を前記バインダーにより接着されてなることを意味するものであるが、前記微小石灰化球と前記微小石灰化球との間に前記バインダーが存在しない部位が適宜あっても構わない。所望の形状の多孔質体を成形する方法としては特に限定されず、鋳型に前記多孔質組成物を充填して成形してもよいし、前記多孔質組成物を3Dプリンター等に供給することにより成形してもよい。成形する際には凍結乾燥、真空乾燥等の乾燥工程を適宜行うことが好適な実施態様である。成形する際の積層条件や乾燥条件により多孔質のサイズ、分布等を制御することが可能である。
【0031】
こうして得られる本発明の多孔質体は、人工骨、人工海綿骨、人工造血幹細胞ニッチェ、人工骨髄、細胞分化メカニズム検討用材料等の生体材料;人工珊瑚;触媒担体;電極材料;環境浄化材料等の各種用途に使用することができる。ここで、生体骨の内層に存在する骨髄は造血器官であって、血球細胞の増殖、分化に重要な組織であり、この造血を制御する部位を造血幹細胞ニッチェと呼ばれる。海綿骨はこの造血幹細胞ニッチェが存在する場所と考えられており、本発明の多孔質体は、海綿骨と同様の形態を有しているものである。したがって、人工骨、人工海綿骨、人工造血幹細胞ニッチェ、人工骨髄、細胞分化メカニズム検討用材料等の生体材料として特に好適に使用することができる。
【実施例0032】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0033】
[各種バインダーによる接着強度の測定]
2枚のアパタイトプレート(HOYA製)上に、濃度の異なる各種バインダー(細胞膜断片、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム)をそれぞれ塗布し、メカニカルテスター(島津製作所製「EZ-TEST」)により接着強度を測定した。測定は引張試験(牽引速度150 mm /分)により行った。得られた結果を
図9~13に示す。
【0034】
実施例1
[細胞膜断片の作製]
細胞膜関連リン脂質として細胞膜断片の作製を以下のとおり行った。マウス軟骨前駆細胞であるATDC5(RIKEN BRC, 東京)を10%牛胎児血清(FBS, Life Technologies, Gaithersburg, MD, USA)含有Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)/F12 (Wako Pure Chemical Industries, 大阪)でコンフルエントになるまで培養した。培養した細胞に0.25 w/v% トリプシン-1 mmol/L EDTA 4Na 溶液(フェノールレッド含有)(トリプシン, Wako Pure Chemical Industries)を加えて回収し、遠心分離(1500 rpm, 5 分)後に上清を取り除いた。回収した細胞を1.0 x 10
7 個で合計が1 mL になるように超純水を加えて細胞を浮遊させ、超音波ホモジナイザー(VP-5S, Taitec, 埼玉)を用いて10 W で3 分間細胞を破砕した。破砕後に遠心分離(15000 rpm, 20 分)を行って、残存する細胞小器官を除去した。細胞膜成分を含むこの上清を細胞膜断片とした。細胞膜断片は、オスミウムコーティングを行った後に走査型電子顕微鏡(SEM;JSM-6701F, JEOL, 東京)にて5 kV, 10 mA で観察した。細胞膜断片の作製フローと、後述する微小石灰化球の作製フローを
図1に示す。また、得られた細胞膜断片のSEM写真を
図2に示す。
【0035】
[微小石灰化球の作製]
細胞膜断片を60 mm ディッシュに移し、ATDC5 1.0x10
7 個に対して最終溶液量が2 mL になるように超純水で希釈した。この水溶液に塩化カルシウム(Wako Pure Chemical Industries)水溶液を加え、3 日反応を行って沈殿物である微小石灰化球を作製した。この際、塩化カルシウムの最終濃度を10 mMとし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9に調整した。pH は24 時間毎に確認を行い、pH の変化を認めた場合は水酸化ナトリウムを用いて調整した。3 日間の反応後の溶液を遠心分離(1500 rpm, 5分)して上清を除去し、超純水で洗浄後に再度遠心分離(1500 rpm, 5 分)して沈殿物である微小石灰化球を回収した。沈殿物は光学顕微鏡にて撮影した。得られた光学顕微鏡写真を
図3(A)に示す。また、画像解析ソフトウェア(ImageJ)にて沈殿物の個数および直径を解析した。沈殿物の直径は4.7 μmであった。沈殿物の直径を示したグラフを
図3(B)に示す。また、沈殿物を粉末X 線回折装置 RINT2500HF(Rigaku Corp., Tokyo, Japan)を用いて解析した結果、ハイドロキシアパタイトの形成が認められた。得られたXRDパターンを
図4に示す。
【0036】
[多孔質組成物及び多孔質体の作製]
得られた微小石灰化球を含む30 μL の溶液と、バインダーとして石灰化させていない細胞膜断片 5 μL とを混合し、多孔質組成物を作製した。3D プリンターを用いて作製した直方体の鋳型(4 x 2 x 2 mm)に前記多孔質組成物を充填し、-20 ℃で1 時間凍結した後、真空凍結乾燥を行った。その結果、鋳型と同じ形状の多孔質体を得ることができた。
【0037】
実施例2
実施例1の微小石灰化球の作製において、塩化カルシウムの最終濃度を20 mMとした以外は実施例1と同様にして沈殿物である微小石灰化球を得て、多孔質組成物及び多孔質体の作製を行った。得られた微小石灰化球の光学顕微鏡写真を
図6(左)に、SEM写真を
図6(右)に示す。また、得られた多孔質体の光学顕微鏡写真を
図7(右)に、SEM写真を
図8に示す。
【0038】
実施例3
実施例1の微小石灰化球の作製において、塩化カルシウムの最終濃度を20 mMとし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを8に調整した以外は実施例1と同様にして沈殿物である微小石灰化球を得て、多孔質組成物及び多孔質体の作製を行った。
【0039】
実施例4
実施例1の微小石灰化球の作製において、塩化カルシウムの最終濃度を40 mMとした以外は実施例1と同様にして沈殿物である微小石灰化球を得た。粉末X 線回折装置 RINT2500HF(Rigaku Corp., Tokyo, Japan)を用いて解析した結果、ハイドロキシアパタイトの形成は認められなかった(
図4)。
【0040】
比較例1
実施例1の微小石灰化球の作製において、塩化カルシウムを加えなかった場合では(0 mM)、微小石灰化球の形成が確認できなかった。粉末X 線回折装置 RINT2500HF(Rigaku Corp., Tokyo, Japan)を用いて解析した結果、ハイドロキシアパタイトの形成は認められなかった(
図4)。
【0041】
比較例2
実施例1の微小石灰化球の作製において、塩化カルシウムの最終濃度を20 mMとし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7に調整した場合では、微小石灰化球の形成が確認できなかった。
【0042】
比較例3
実施例1の多孔質組成物の作製において、石灰化させていない細胞膜断片を用いずに多孔質組成物を作製して凍結乾燥した場合では、多孔質体とはならず粉末の微小石灰化球が得られた。得られた粉末の微小石灰化球の光学顕微鏡写真を
図7(左)に示す。
図7(左)の比較例3と
図7(右)の実施例2との対比から明らかなように、石灰化させていない細胞膜断片がバインダーとして機能することで多孔質体が得られることが確認できた。